以下、過給機付エンジンの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、実施形態に係るエンジン1を示す。このエンジン1のエンジン本体10は、車両に搭載されるとともに、軽油を主成分とした燃料が供給されるディーゼルエンジンであって、複数の気筒30a(図2において1つのみ図示している)が設けられたシリンダブロック30と、このシリンダブロック30上に配設されたシリンダヘッド31と、シリンダブロック30の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン39とを有している。このエンジン1の各気筒30a内には、ピストン32(図2参照)が往復摺動可能にそれぞれ嵌挿されていて、このピストン32と、シリンダブロック30と、シリンダヘッド31とによって燃焼室33(図2参照)が区画されている。ピストン32の頂面には、図2に拡大して示すように、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ32aが形成されている。キャビティ32aは、ピストン32が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ38に相対する。また、ピストン32は、シリンダブロック30内においてコンロッドを介してクランクシャフトと連結されている。尚、燃焼室33の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ32aの形状、ピストン32の頂面形状、及び、燃焼室33の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
図2に示すように、シリンダヘッド31には、気筒30a毎に、吸気ポート34及び排気ポート35が形成されているとともに、これら吸気ポート34及び排気ポート35には、燃焼室33側の開口を開閉する吸気弁36及び排気弁37がそれぞれ配設されている。
各吸気弁36は吸気側カム40によって開閉され,各排気弁37は排気側カム41によって開閉される。吸気側カム40及び排気側カム41は、上記クランクシャフトの回転と連動してそれぞれ回転駆動される。図示は省略するが、吸気弁36及び排気弁37のそれぞれの開閉タイミングや開閉期間を調整するための、例えば油圧作動式の弁可変機構が設けられている。
シリンダヘッド31にはまた、気筒30a毎に、気筒30a内に燃料を直接噴射するインジェクタ38が取り付けられている。インジェクタ38は、図2に示すように、その噴口が燃焼室33の天井面の中央部分から、その燃焼室33内に臨むように配設されている。インジェクタ38は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室33内に直接噴射する。
図1に示すように、エンジン本体10の一側面には、各気筒30aの吸気ポート34に連通する様に吸気通路50が接続されている。一方、エンジン本体10の他側面には、各気筒30aからの既燃ガス(つまり、排気ガス)を排出する排気通路60が接続されている。詳しくは後述するが、吸気通路50及び排気通路60には、吸気の過給を行うターボ過給機56が設けられている。
吸気通路50の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ54が配設されている。一方、吸気通路50における下流側近傍には、サージタンク51が配設されている。このサージタンク51よりも下流側の吸気通路50は、気筒30a毎に分岐する独立吸気通路とされ、これら各独立吸気通路の下流端が各気筒30aの吸気ポート34にそれぞれ接続されている。
吸気通路50におけるエアクリーナ54とサージタンク51との間には、上流側から下流側へ向かって順に、ターボ過給機56のコンプレッサ56aと、電動式過給機18と、スロットル弁55と、熱交換器としての水冷式のインタークーラ57とが配設されている。スロットル弁55は基本的には全開状態とされるが、エンジン1の停止時には、ショックが生じないように全閉状態とされる。インタークーラ57は、例えば吸気マニホールド内に設けられる。
吸気通路50には、電動式過給機18をバイパスする吸気側バイパス通路53が設けられている。吸気側バイパス通路53は、その上流端が、吸気通路50におけるコンプレッサ56aと電動式過給機18との間に接続される一方、下流端が、吸気通路50における電動式過給機18とスロットル弁55との間に接続されている。吸気側バイパス通路53には、吸気側バイパス通路53へ流れる空気量を調整するための吸気側バイパス弁58が配設されている。この吸気側バイパス弁58の開度を調整することによって、電動式過給機18で過給される吸気量と、吸気側バイパス通路53を通る吸気量との割合を段階的に又は連続的に変更することができるようになる。
電動式過給機18は、吸気通路50内に設けられたコンプレッサホイール18aと、このコンプレッサホイール18aを駆動する電動モータ18bとから構成されている。電動モータ18bを駆動することによって、コンプレッサホイール18aが回転駆動されて、吸気の過給が行われる。つまり、電動式過給機18は、排気エネルギーを利用しない過給機である。電動式過給機18の過給圧能力(つまり、電動式過給機18による過給圧)は、電動モータ18bの駆動力を変更することで変更される。詳しくは後述するが、電動式過給機18は、エンジン1の作動中はパーシャル状態で作動されるようになっている。
電動モータ18bは、上記車両に搭載されたバッテリ19に蓄積された電力によって駆動される。電動モータ18bの駆動力の大きさは、該電動モータ18bに供給される電力の大きさによって変更される。バッテリ19には、例えば、車両に搭載されたオルタネータ(図示省略)によって発電された電力が蓄積される。バッテリ19は、例えば48Vバッテリとしてもよい。電動モータ18bは、48V電流が供給されて駆動してもよい。
上記インタークーラ57は、水冷式であって、ラジエータ90に対して、供給経路91及びリターン経路92を介して接続されている。供給経路91には、ウォータポンプ93が接続されている。ウォータポンプ93によって、供給経路91に吐出された冷媒としての冷却水は、供給経路91、インタークーラ57、リターン経路92及びラジエータ90を通って、再びウォータポンプ93に戻り、再度供給経路91に吐出されて、インタークーラ57へ供給される。そして、冷却水がインタークーラ57を通過するときに、該冷却水と吸気との間で熱交換されて、吸気が冷却される。インタークーラ57で温度が上昇した冷却水は、ラジエータ90で例えば大気と熱交換されて冷却される。
上記排気通路60の上流側の部分は、気筒30a毎に分岐して排気ポート35の外側端に接続された独立排気通路と該各独立排気通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。
この排気通路60における上記排気マニホールドよりも下流側には、上流側から順に、ターボ過給機56のタービン56bと、酸化触媒61と、ディーゼルパティキュレートフィルタ62(以下、DPF62という)と、排気シャッター弁64とが配設されている。
ターボ過給機56は、排気ガスのエネルギー(つまり、排気エネルギー)を受けて回転駆動されるものである。具体的には、ターボ過給機56のタービン56bが排気エネルギーを受けて回転駆動されると、連結シャフト56cを介してコンプレッサ56aが回転駆動されて、吸気の過給が行われる。排気通路60には、ターボ過給機56をバイパスするための排気側バイパス通路63が設けられている。この排気側バイパス通路63には、該排気側バイパス通路63へ流れる排気ガスの流量を調整するためのウエストゲートバルブ65が配設されている。ターボ過給機56はタービンケース(図示省略)内に収容されている。
ターボ過給機56は、タービンケース内に可動ベーンが配設された可変容量式のターボ過給機としてもよい。可動ベーンの開度を調整することによって、タービン56bを実質的にバイパスして排気ガスを流すことができるのであれば、排気側バイパス通路63及びウエストゲートバルブ65を省略することもできる。
酸化触媒61は、排気ガス中のCO及びHCが酸化されてCO2及びH2Oが生成される反応を促すものである。また、DPF62は、エンジン1の排気ガス中に含まれるスート等の微粒子を捕集するものである。
排気シャッター弁64は、その開度を調整することで、排気通路60内の排気圧を調整することが可能な弁である。この排気シャッター弁64は、例えば、後述する低圧EGR通路70によって、排気通路60を流れる排気ガスの一部を吸気通路50に還流させる際に、排気通路60内の排気圧を高めるために利用される場合がある。
このエンジン1は、NOxを浄化するための触媒を備えていない。但し、ここに開示する技術は、NOxを浄化するための触媒を備えたエンジンに適用することを排除しない。
本実施形態では、吸気通路50と排気通路60とに接続され、排気通路60を流れる排気ガスの一部を吸気通路50に還流可能な高圧EGR通路80及び低圧EGR通路70が設けられている。
高圧EGR通路80は、吸気通路50におけるインタークーラ57とサージタンク51との間の部分(つまり、電動式過給機18よりも下流側の部分)と、排気通路60における上記排気マニホールドとターボ過給機56のタービン56bとの間の部分(つまり、ターボ過給機56のタービン56bよりも上流側の部分)とに接続されている。高圧EGR通路80内には、該高圧EGR通路80を通って吸気通路50に還流される排気ガス(以下、高圧EGRガスという)の流量を調整する電磁式の高圧EGR弁82が設けられている。該高圧EGR弁82は、その開度を調整することによって、高圧EGRガスの流量を調整するように構成されている。以下、高圧EGR通路80を含むシステムを、高圧EGRシステム8と呼ぶ。
一方で、低圧EGR通路70は、吸気通路50におけるエアクリーナ54とターボ過給機56のコンプレッサ56aとの間の部分(つまり、ターボ過給機56のコンプレッサ56aよりも上流側の部分)と、排気通路60におけるDPF62と排気シャッター弁64との間の部分(つまり、ターボ過給機56のタービン56bよりも下流側の部分)とに接続されている。低圧EGR通路70には、該低圧EGR通路70を通って吸気通路50に還流される排気ガス(以下、低圧EGRガスという)を冷却するEGRクーラ71と、低圧EGRガスの流量を調整する電磁式の低圧EGR弁72とが設けられている。該低圧EGR弁72は、高圧EGR弁82と同様に、その開度を調整することによって、低圧EGRガスの流量を調整するように構成されている。以下、低圧EGR通路70を含むシステムを、低圧EGRシステム7と呼ぶ。
上述のように構成されたエンジン1は、図3に示すように、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)100によって制御される。PCM100は、CPU101、メモリ102、カウンタタイマ群103、インターフェース104及びこれらのユニットを接続するバス105を有するマイクロプロセッサで構成されている。PCM100は、制御部の一例である。PCM100には、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW1、過給圧を検出する過給圧センサSW2、吸入空気温度を検出する吸気温度センサSW3、排気温度を検出する排気温度センサSW4、上記クランクシャフトの回転角を検出するクランク角センサSW5、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW6、車両の車速を検出する車速センサSW7、及び、ターボ過給機56のタービン56bの回転数を検出するタービン回転数センサSW8からの検出信号が入力される。
PCM100は、クランク角センサSW5の検出結果からエンジン1のエンジン回転数を算出し、アクセル開度センサSW6の検出結果からエンジン負荷を算出する。また、PCM100は、水温センサSW1の検出温度が所定温度Tcよりも低いときに、気筒30a内の温度が低い、エンジン1の冷間状態であると判定し、アクセル開度センサSW4で検出されたアクセル開度に基づいて、車両の運転者の加速要求の有無を判定する。
PCM100は、入力された検出信号に基づいて、インジェクタ38、電動モータ18b、各種の弁55,58,64,65,72,82のアクチュエータへ制御信号を出力する。PCM100は、また吸気弁36及び排気弁37の弁可変機構にも制御信号を出力する。
PCM100にはまた、図示は省略するが、エンジン本体10のクランク軸に連結されると共に、エンジン本体10の出力を変速する、自動又は手動の変速機106が、電気的に接続されている。変速機106は、変速段に関する信号をPCM100に出力する。
上記エンジン1は、その幾何学的圧縮比を12以上16以下とした、比較的低圧縮比となるように構成されており、これによってエミッション性能の向上及び燃焼効率の向上を図るようにしている。このエンジン1では、ターボ過給機56及び電動式過給機18による新気量の調整と、低圧EGRガス及び高圧EGRガスの調整と、によって、幾何学的圧縮比の低圧縮比化を補っている。
(電動式過給機の制御の概要)
次に、PCM100による電動式過給機18の制御について説明する。図4には、電動式過給機18の制御の態様を示す。PCM100は、基本的には、エンジン本体10の運転中は電動式過給機18を常時回転させるようにしているが、変速機106の変速段と、クランク角センサSW5によって検出されるエンジン1の回転数とに基づいて、電動式過給機18の回転数(すなわち過給圧)を制御している。具体的には、変速段が一速ないしエンジン低回転の領域が、電動式過給機18の回転数が最も高く、そこから、変速段が高くなるに連れて又はエンジン高回転となるに連れて、回転数を減少させるように制御する。
また、本実施形態では、変速機106の変速段が高速段になるか、又は、エンジン回転数がr1を超えることによって、ターボ過給機56のコンプレッサ56aの圧力比が1.2以上になるような領域においては、電動式過給機18をアイドル回転状態にするとともに、吸気側バイパス弁58を全開にして、該電動式過給機18による過給が、実質的に行われないようにする。「高速段」は、変速機106の最高変速段を二等分したときの高速側の変速段としてもよい。このようにすれば、変速機106が高速段になるか又は上記圧力比が1.2以上になるエンジン回転の領域において、電動式過給機18の回転を止めることなく、ターボ過給機56によってのみ過給を行うようにすることができる。
例えば前進6速の変速機106においては、1速、2速及び3速を低速段、4速、5速及び6速を高速段としてもよい。図4においては、エンジンの回転数が低いときにおいて、変速段が1速であれば、電動式過給機18は高回転数で回転し、変速段が2速であれば、電動式過給機18は中回転数で回転し、変速段が3速であれば、電動式過給機18は低回転数で回転するとし、変速段が4速、5速、6速であれば、電動式過給機18はアイドル回転状態にするとしてもよい。
上記のように、電動式過給機18を常時回転させることによって、後述するように、電動式過給機18による過給圧を上昇させる際に、電動式過給機18を一時的に停止させて、必要な場面で駆動させるようなオン−オフの制御を行うよりも、電動式過給機18(厳密には、電動式過給機18を作動させるための電動モータ18b)を効率的に作動させることができる。また、変速機106の変速段に応じて、電動式過給機18の回転数を変更することによって、後述するように、電動式過給機18による過給圧を上昇させる際に、速やかに過給圧を上昇させることができるようになる一方で、電力消費をできるだけ少なくすることが可能になる。
図5には、電動式過給機18の特性を表す性能曲線を示している。図5の上図は電動式過給機18のコンプレッサホイール18aの特性を示す性能曲線グラフであり、縦軸は電動式過給機18の圧力比(つまり、下流側の圧力に対する上流側の圧力の比)、横軸は吐出流量である。図5の上図において、曲線LLは回転限界ライン、直線SLはサージライン、直線CLはチョークラインを表している。これらのラインで囲まれた領域が電動式過給機18の運転可能領域である。この領域の中央側に位置するほど電動式過給機18の運転効率が高くなる。
電動式過給機18は、ターボ過給機56を補助すると共に、気筒30a内に導入する新気量の調整を目的として使用するため、図5の上図にメッシュで示すような、回転限界ラインから離れた領域内において、エンジン冷却水の水温とエンジン回転数とに応じて、適切な回転数でもって作動される。つまり、電動式過給機18は限界回転数から大きく離れたパーシャル状態で運転される。
図5の下図は、電動式過給機18の電動モータ18bの特性を例示しており、縦軸は電動モータ18bのトルク、横軸は電動モータ18bの回転数である。図5の下図の一点鎖線は、等消費電力となる線を示しており、図の右上になるほど消費電力が高く、左下になるほど消費電力が低い。電動式過給機18は、図5の上図におけるメッシュで示す領域内において作動されるが、このとき電動モータ18bは、図5の下図におけるメッシュで示す領域内において作動する。電動モータ18bの消費電力は比較的低くかつ、電動モータ18bの効率は比較的高い。電動モータ18bが最高トルクよりも低いトルクで作動している状態を、電動式過給機18のパーシャル状態で運転していると呼んでもよい。前述したように、電動式過給機18は、エンジン本体10の運転中は常時回転しているものの、電動式過給機18をパーシャル状態で運転することによって、消費電力を少なくすることが可能である。
尚、図4に示すアイドル回転領域においては、電動式過給機18を停止させるようにしてもよい。
(エンジンの燃焼制御)
上記PCM100によるエンジン1の基本的な制御は、主にアクセル開度に基づいて要求駆動力を決定し、これに対応する燃焼状態が実現するように、気筒30a内に導入する新気量、高圧EGRガス量、及び、低圧EGRガス量を調整すると共に、燃料の噴射量や噴射時期等をインジェクタ38の作動制御によって実現するものである。
図6は、エンジン1のφ−Tマップを例示している。φ−Tマップは、燃焼温度(T)と、混合気の当量比(φ)とからなる平面において、未燃成分であるCO/HC、スート及びNOxが発生する領域を示すマップである。燃焼温度が高いとNOxの領域に入ってしまうと共に、当量比が高いとスートの領域に入ってしまう。また、燃焼温度が低すぎると、CO/HCの領域に入ってしまう。エンジン1は、新気量、高圧EGRガス量、及び、低圧EGRガス量を調整すると共に、燃料の噴射量や噴射時期等を調整することにより、φ−Tマップにおける、CO/HC、スート及びNOxが発生する領域に入らないような燃焼を実現する。
具体的に、エンジン1は、部分負荷運転(つまり、全開負荷を除く負荷における運転)時には、ターボ過給機56による過給圧によって、燃料供給量に対応する量の新気を気筒30a内に導入することにより、混合気の当量比が高くなり過ぎないよう調整すると共に、気筒30a内にEGRガスを導入することにより、燃焼速度及び燃焼温度が高くなり過ぎることを回避して、RawNOxの発生を抑制する。気筒30a内に導入するEGRガスは、エンジン1の温間時には、主に、低温の低圧EGRガスであり、必要に応じて高温の高圧EGRガスを気筒30a内に導入してもよい。
また、RawNOxの生成を抑制するために、エンジン1は、図9に例示するように、部分負荷運転時において、圧縮上死点(TDC)よりも前に少なくとも1回の燃料噴射を行う前段噴射と、該前段噴射よりも後に、該前段噴射よりも燃料噴射量の多いメイン噴射とを実行する。図9の噴射例では、圧縮上死点(TDC)前の圧縮行程中において2回の前段噴射を実行し、圧縮上死点付近で、前段噴射よりも燃料噴射量の多いメイン噴射を1回実行し、さらにメイン噴射の後、プレ噴射と同等の燃料噴射量でアフタ噴射を1回実行している。以下、この噴射形態を予混合燃焼制御という。
この予混合燃焼制御で実行される2回の前段噴射のうち、相対的に噴射時期の早い1回目の燃料噴射はパイロット噴射であり、2回目の燃料噴射はプレ噴射である。圧縮上死点よりも前にパイロット噴射及びプレ噴射を行うことにより、空気と燃料とのミキシング性が高くなって、圧縮行程中に混合気の化学反応が進行する。これにより、筒内温度が比較的低くても燃焼が可能となって、図9の熱発生履歴に示すように、圧縮上死点前に、前段噴射で噴射された燃料による前段燃焼が発生する。
上記予混合燃焼制御による前段燃焼によって、圧縮端温度及び圧縮端圧力を高めることができる。これにより、メイン噴射開始時点における気筒内の温度及び圧力を最適にすることができ、メイン噴射における着火性及び燃焼性を向上させることができる。この結果、圧縮上死点付近で、安定してメイン燃焼を発生させることができるため、エンジン1の仕事量を大きくすることができ、ひいては燃費の向上を図ることができる。また、着火性が向上されることにより、スートの発生を抑制することができるとともに、メイン燃焼での熱発生の急上昇、すなわち燃焼期間が極端に短くなることを防止することができ、NOxの発生を抑制することができる。
また、筒内圧力が低下する膨張行程期間内にアフタ噴射を行うことによって、スートを燃焼させることができ、燃焼室33からのスートの排出を抑制することができる。
(車両加速時のエンジン制御)
ここで、エンジン1が部分負荷運転をしている状態で、車両の運転者がアクセルペダルを踏んで加速要求を行ったときに、燃料量が増加することに対応して気筒30a内に導入する新気量を増やそうとしても、部分負荷運転時は排気エネルギーが比較的低いため、ターボ過給機56の過給圧が上がりにくく、気筒30a内に導入する新気量が不足してしまう。新気量の不足は、スートの発生を招いてしまうため、新気量が増えることを待って燃料量を増やすと、加速フィーリングが低下してしまう。
特に、エンジン1に接続されている変速機106が低速段であるときには、高速段であるときよりも、車両の加速時に、エンジン1の、単位時間当たりの回転数上昇(Δrpm/Δt)が、大幅に高くなる。Δrpm/Δtが高くなるとエンジン1の冷却損失が増えるため、ターボ過給機56のタービン56bに供給される排気エネルギーが増えにくくなる。その結果、その結果、ターボ過給機56の過給圧は、ますます上がりにくくなる。図7は、車両の加速時におけるPmaxの変化の一例を示しているが、図7に破線で例示するように、車両の加速時にターボ過給機56のみによって過給圧を高めようとすると、Pmaxが上昇し難くなって、加速フィーリングが低下してしまう。
ここで、エンジン1の単位時間当たりの回転数上昇(Δrpm/Δt)について説明をする。一速から六速までの変速段を有する前進六速の変速機106において、アクセルペダルの踏み込み量及び踏み込み速度を同じと仮定したときの、単位時間当たりの回転数上昇は、例えば次のような関係を有する場合がある。すなわち、Δrpm/Δtは、一速のときが最も大きく、二速及び三速の順に小さくなる。また、Δrpm/Δtは、四速のときは、三速のときに比べて大きく低下し、五速及び六速の順に小さくなる。この構成例では、車両の加速時におけるエンジン1のΔrpm/Δtの値に関して、前進六速の変速機106の一速、二速、及び三速は、Δrpm/Δtの値が比較的大きくなる低速段であり、四速、五速、及び六速は、Δrpm/Δtの値が比較的小さくなる高速段である。
このエンジン1は、加速時におけるエミッション性能の低下を防止しながら、加速フィーリングを向上させるために、電動式過給機18を利用する。具体的には、運転者がアクセルペダルを踏んで加速要求を行ったときに、PCM100は、電動式過給機18の駆動が必要か否かを判断し、必要であると判断したときに、電動式過給機18を駆動して過給圧を高める。これにより、気筒30a内に導入する新気量を増やすことができるから、燃料噴射量を増やすことができて、スートの発生を回避しながら、加速フィーリングを向上させることができる。
図8は、変速機106の一速から六速の各変速段について、車速とエンジン回転数との関係を例示する図である。同図に一点鎖線で囲む領域は、ターボ過給機56によって過給圧が上昇し得る領域を示している。ターボ過給機56は、変速機106が高速段であって、相対的に高車速のエンジン1の高回転時に有効である。
これに対し、電動式過給機18は、図8に二点鎖線で囲む領域において作動させる。つまり、ターボ過給機56が有効でない領域、つまり、変速機106が低速段であって、相対的に低車速のエンジン1の低回転時に、電動式過給機18を駆動して過給圧を高める。
車両の加速時に、気筒30a内に導入する新気量だけを増やすと、燃焼速度及び燃焼温度が高くなり過ぎて、RawNOxの生成を招いてしまう。そのため、電動式過給機18を駆動して過給圧を高めるときに、低圧EGR弁72を開けておく。電動式過給機18の駆動に伴い、排気シャッター弁64を閉じなくても、低圧EGR通路70を通じて低温の低圧EGRガスを吸気通路50に吸い出すことが可能になる。その結果、新気と共に、気筒30a内に導入するEGRガス量が増えるから、燃焼速度及び燃焼温度が高くなることを防止して、RawNOxの生成を抑制することができる。また、排気シャッター弁64を閉じないから、燃費の向上に有利になる。
こうして、車両の加速時にエミッション性能の低下を防止しながら、図7に実線で示すように、Pmaxを速やかに高めることができ、加速フィーリングを向上させることができる。Pmaxが高まると、排気エネルギーが上がるから、ターボ過給機56による過給圧が上昇する。Pmaxが高まった加速後期においては、ターボ過給機56によって目標過給圧を満たすことができるようになるから、図7に例示するように、電動式過給機18による過給圧を低下させる。電動式過給機18を停止してもよいし、電動式過給機18をアイドル回転状態にしてもよい。このことにより、電動式過給機18の消費電力を少なくすることができる。電動式過給機18の過給圧を低下させるタイミングは、適宜のタイミングに設定すればよい。例えばPmaxの変化履歴に基づいて、電動式過給機18の過給圧を低下させるタイミングを設定してもよい。
ここで、車両の加速時に、前述した電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることに加えて、図10に例示するように、燃料の噴射開始時期を、車両の加速前に比べて遅角させてもよい。
具体的には、前段噴射におけるパイロット噴射を停止させかつアフタ噴射を停止させるとともに、プレ噴射及びメイン噴射の噴射時期を遅角させる。また、図10の例では、メイン噴射を2回に分けて行う。以下、この噴射形態をリタード燃焼制御という。尚、2回のメイン噴射の燃料噴射量の合計値は、リタード燃焼制御での前段噴射(プレ噴射)よりも多い。尚、ここで示す燃料の噴射形態は一例であって、リタード燃焼制御時のプレ噴射及びメイン噴射の噴射時期及び燃料の噴射量は、車両の要求駆動力に基づいて適宜変更される。
パイロット噴射を停止させかつプレ噴射を遅角させると、空気と燃料とのミキシング性自体は低下するため、図10の上図に示すように、圧縮上死点前に前段燃焼が発生しなくなる。電動式過給機18によって過給を行うことで、吸気密度を高くして、気筒30a内に出来る限り多くの新気を導入することによって、気筒30a内のガスの比熱比が上がって、圧縮端温度は十分に高くなるから、圧縮上死点よりも後に、前段燃焼及びメイン燃焼が発生する。
上記リタード燃焼制御によって、圧縮比が低くても安定したメイン燃焼が可能となるため、燃焼温度が過剰に高くなることを防止することができ、NOxの発生を抑制することができる。また、新気量が多くなれば、吸気温度が低下するため、これによっても燃焼温度の上昇を抑えて、NOxの発生を抑制することができる。リタード燃焼制御においては、燃焼後期においても、図9に示す予混合燃焼制御時よりも燃焼温度が高く、アフタ噴射を行わなくても、スートを燃焼させることができる。アフタ噴射を省略することによって、燃費性能の向上に有利になる。
車両の加速時に、電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることに加えて、リタード燃焼制御を行うことによって、Pmaxを、より速やかに高めることができる。そこで、車両の加速時には、Pmaxの変化履歴に基づいて、具体的には、Pmaxの立ち上がりの傾きが小さいときには、電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることに加えて、リタード燃焼制御を行うことによって、Pmaxを、より速やかに高める一方、Pmaxの立ち上がりの傾きが小さいときには、電動式過給機18を駆動して過給圧を高めることを行う一方、リタード燃焼制御は行わないようにしてもよい。
次に、PCM100によるエンジン制御の処理動作を、図11のフローチャートに基づいて説明する。尚、図11に示すフローチャートは、エンジン本体10が、温間時でかつ、部分負荷領域において運転しているときのフローチャートである。
最初のステップS101で、PCM100は、各種センサからの信号を読み込みエンジン1の運転状態を判定する。次のステップS102で、PCM100は、図4に例示するマップに従って、電動式過給機18を、アイドル回転状態にするか否かを判定する。ステップS102の判定がNOのときには、制御プロセスはステップS103に進む。ステップS103において、PCM100は、電動式過給機18を駆動する。PCM100は、変速機106の変速段と、エンジン回転数とに応じて、電動式過給機18の回転数を、高回転数、中回転数、又は、低回転数とする。
ステップS102の判定がYESのときには、制御プロセスはステップS104に進む。電動式過給機18は、アイドル回転状態になる。
ステップS104でPCM100は、運転者の加速要求があったか否かを判定する。PCM100は、運転者の加速要求の有無を、アクセル開度センサSW6の検出値に基づいて判定する。加速要求があったときには、制御プロセスはステップS105に進み、加速要求がないときには、制御プロセスはステップS114に進む。
次のステップS105でPCM100は、エンジン1の要求駆動力(アクセル開度等に基づくに駆動力)を算出する。ステップS106では、PCM100は、上記ステップS105で算出された要求駆動力を実現するための、燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定すし、ステップS107では、PCM100は、上記ステップS105で算出された要求駆動力を実現するための、目標EGR率を算出し、ステップS108では、上記ステップS105で算出された要求駆動力を実現するための、目標過給圧を算出する。
続くステップS109では、PCM100は、エンジン1の、単位時間当たりの回転数上昇(Δrpm/Δt)を算出し、ステップS110では、PCM100は、目標過給圧と実過給圧との差を算出する。
そして、ステップS111において、PCM100は、ステップS109において算出したΔrpm/Δtと、ステップS110において算出した目標過給圧と実過給圧との差に基づいて、電動式過給機18の駆動が必要か否かを判定する。具体的には、Δrpm/Δtが所定よりも大きいときには、エンジン1の冷却損失が増えるため、車両の加速時に、ターボ過給機56のタービン56bに供給される排気エネルギーが増えにくくなる。そこで、制御プロセスは、ステップS113に進み、PCM100は、前述したように、電動式過給機18を駆動することによって過給圧を高める。
一方、ステップS111において、PCM100が、電動式過給機18の駆動が不要と判断したときには、制御プロセスは、ステップS113に進まずに、ステップS112に進む。
ステップS112においてPCM100は、ステップS107において算出した目標EGR率を実現するように低圧EGR弁72及び高圧EGR弁82の開度を調整して、気筒30a内のガス組成を所望の状態にした上で、ステップS106において決定した燃料噴射量及び燃料噴射時期に従って、インジェクタ38に燃料噴射を実行させる。
制御プロセスはその後、ステップS101に戻る。車両の加速後期において、電動式過給機18の駆動が不要になれば、ステップS111の判定がNOになって、電動式過給機18による過給圧は低下する。
一方、加速要求がないため移行をしたステップS114において、PCM100は、ステップS105と同様に、エンジン1の要求駆動力を算出し、続くステップS115において、PCM100は、ステップS106と同様に、上記ステップS114で算出された要求駆動力を実現するための、燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定する。
ステップS116において、PCM100は、ステップS107と同様に、上記ステップS114で算出された要求駆動力を実現するための、目標EGR率を算出し、ステップS117では、ステップS108と同様に、PCM100は、上記ステップS105で算出された要求駆動力を実現するための、目標過給圧を算出する。
そして、ステップS118で、PCM100は、ステップS116において算出した目標EGR率を実現するように低圧EGR弁72及び高圧EGR弁82の開度を調整して、気筒30a内のガス組成を所望の状態にした上で、ステップS115において決定した燃料噴射量及び燃料噴射時期に従って、インジェクタ38に燃料噴射を実行させる。
したがって、PCM100は、車両の加速時に、エンジン1の単位時間当たりの回転数上昇(Δrpm/Δt)が高いときには、電動式過給機18によって過給圧を高めるから、エンジン1の排気エネルギーの大小に関わらず、過給圧を速やかに高めることができる。その結果、気筒30a内に導入される新気を速やかに増やすことができるから、スートの発生を抑制しながら、エンジン本体10のPmaxを速やかに高めて、加速フィーリングを向上させることができる。
また、電動式過給機18の駆動に伴い、低圧EGR通路70から低圧EGRガスを吸気通路50に吸い出して、気筒30a内に導入されるEGRガスも増やすことができるから、燃焼速度及び燃焼温度が高くなり過ぎることを抑制して、RawNOxの生成を抑制することができる。
よって、このエンジン1は、加速時におけるエミッション性能の低下を防止しながら、加速フィーリングを向上させることができる。
また、加速開始時に電動式過給機18によって過給圧を速やかに高めて、エンジン本体10のPmaxを速やかに高めることにより、排気エネルギーが上がるから、ターボ過給機56による過給圧も、速やかに上昇させることができる。加速後期において、ターボ過給機56によって目標過給圧を満たすことができるようになれば、電動式過給機18の過給圧を低下させることにより、エミッション性能の低下を防止すると共に、消費電力を少なくすることができる。
また、電動式過給機18は、加速要求の有無にかかわらず、図4及び図5に示すように、パーシャル状態で作動するため、電動式過給機18により過給圧を上昇させる際の電力消費を抑えることができる。
さらに、電動式過給機18は、加速要求がないときに、図4に示すように、変速機の変速段が低いときには、変速段が高いときよりも高回転で作動する。車両の加速時に、エンジン本体のΔrpm/Δtが大きくなりやすい変速段(一速、二速又は三速)においては、電動式過給機18が、予め、相対的に高回転で作動しているため、過給圧を速やかに高めることができ、エミッション性能の低下を抑制しながら、加速フィーリングを向上させることができる。逆に、車両の加速時に、エンジン本体のΔrpm/Δtが小さくなりやすい変速段(四速、五速又は六速)においては、ターボ過給機56によって過給圧を速やかに高めることができる可能性が高いから、電動式過給機18を、相対的に低い回転数で作動させる(例えばアイドル回転状態にする)ことにより、電力消費を少なくすることができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えばここに開示する技術は、ディーゼルエンジンに適用することに限定されず、ガソリンや、ナフサを含む燃料を用いるエンジンに、適用することも可能である。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。