JP6403114B2 - 鳥糞易除去部材及び鳥糞の除去方法 - Google Patents

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Description

本発明は鳥糞易除去部材及び鳥糞の除去方法に関し、更に詳しくは、表面に水を流すだけで表面に付着した鳥糞の大部分を容易に除去することができる鳥糞易除去部材と、その鳥糞の除去方法に関する。
カーポートや屋根材などのエクステリア向けの材料は、防汚性(耐汚染性)を有するものが好ましく、その中でも、汚れが落ちにくい鳥糞を雨水などで容易に除去できる材料の開発が望まれている。
ところで、防汚性(耐汚染性)を有する樹脂組成物として、例えば、臨界表面張力が40dyne/cm以下の樹脂の中から選ばれた少なくとも1種の樹脂の中に、シリコーン樹脂と抗菌剤を分散させたものが既に提案されている(特許文献1)。
この樹脂組成物は、臨界表面張力が40dyne/cm以下の樹脂とシリコーン樹脂との相乗作用で表面自由エネルギーを低下させることにより、良好な撥水、防汚効果を発揮できるようにしたものである。
特開平6−287477号公報
しかしながら、防汚性が高いといわれる表面自由エネルギーの低い撥水性材料であっても、付着させた疑似鳥糞を水で除去する試験を行うと、疑似鳥糞を除去し易いものと除去し難いものとがあり、疑似鳥糞に対する防汚性に大きな差異が見られた。このことから、鳥糞に対する良好な防汚性を備えた材料を得るためには、単純に材料の表面自由エネルギーを低下させるだけでは足りないことが判った。
本発明は上記事情の下になされたものであって、その目的とするところは、表面に水を流すだけで表面に付着した鳥糞の大部分を容易に除去できる鳥糞易除去部材と、その鳥糞の除去方法を提供することにある。
本発明者らは、鳥糞の付着性は鳥糞に含まれる蛋白質(例えば、アルブミン)の電気的吸着性と関係し、このアルブミンの電気的吸着性は、鳥糞が付着する固体の表面自由エネルギーのうちの極性項(極性成分)と大いに関連すると考えて、表面自由エネルギーの極性項と鳥糞(疑似鳥糞)に対する防汚性との関係を鋭意研究した結果、表面自由エネルギーの極性項と鳥糞に対する防汚性との間には相関性があり、極性項が一定値以下であって且つ表面自由エネルギーに占める極性項の比率が一定値以下であれば、鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)が確実に向上し、付着した鳥糞の大部分を水で流して容易に除去できるという事実を見出して、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の鳥糞易除去部材は、合成樹脂基材とその表面に形成された鳥糞易除去層とを有する鳥糞易除去部材であって、鳥糞易除去層の表面自由エネルギーの極性項の値が5.0mJ/m以下であり、表面自由エネルギーに占める極性項の比率が8.0%以下であり、前記鳥糞易除去層が、ポリカーボネートとSi原子を有するモノマー若しくはポリマーとの共重合体、又は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン樹脂若しくはポリクロロトリフルオロエチレン樹脂を含むことを特徴とするものである。
本明細書における表面自由エネルギーの値、極性項の値、分散項の値は、2種類の液体を用いて鳥糞易除去層の表面に対する接触角を測定し、拡張Fowkes式(Owens and Wendt法)に代入して求められる値である。
本発明の鳥糞易除去部材は紫外線吸収剤を含有することが望ましい。
また、本発明の鳥糞の除去方法は、上記の鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層の表面に水を流し、水を流す前に鳥糞易除去層の表面に付着した鳥糞の大部分を除去することを特徴とするものである。ここで、「鳥糞易除去層の表面に水を流す」とは、水を鳥糞易除去層の表面に静かに流す場合のみならず、鳥糞易除去層の表面に散水して流したり、雨水を降りかけて流したり、水を勢い良く当てて流したりする場合も包含する。
鳥糞に含まれる蛋白質、例えばアルブミンは、分子内のいたるところで正・負に帯電しており、これが被付着体に対し電気的に吸着して鳥糞の付着性を発現させると考えられるが、被付着体が本発明の鳥糞易除去部材のように、鳥糞易除去層の表面自由エネルギーの極性項の値が5.0mJ/m以下であり、且つ、表面自由エネルギーに占める極性項の比率が8.0%以下であると、アルブミンの電気的吸着による鳥糞の付着性が低下するため、鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)が向上して、後述の実施例のデータに示されるように水を流すことで鳥糞の大部分を容易に除去することが可能となり、洗浄率が大幅に向上する。
特に、鳥糞易除去層がポリカーボネートとSi原子を有するモノマー又はポリマーとの共重合体を含むものであると、これよりも表面自由エネルギーの値が低い例えばフッ素系樹脂を含んだ鳥糞易除去層を有する部材と殆ど変わらない洗浄率の高い鳥糞易除去部材を得ることができ、しかも、フッ素系樹脂を含んだ鳥糞易除去層に比べて、環境負荷が小さく、コストの低減も可能となる。
更に、鳥糞易除去層に紫外線吸収剤を含有させたものは、後述の実施例のデータに示されるように、紫外線吸収剤を含まないものよりも、表面自由エネルギーの極性項の値、及び、極性項の占める比率が低下して、鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)が一層向上し、鳥糞の除去が更に容易になって洗浄率が向上するという利点がある。
また、本発明の鳥糞の除去方法は、上記の鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層の表面に水を流し、水を流す前に鳥糞易除去層の表面に付着した鳥糞の大部分を除去するものであるから、例えば、雨水が鳥糞易除去層に降りかかるだけでも、付着した鳥糞の大部分を自然に除去することが可能となり、清掃の手間を省くことができる。
本発明に係る鳥糞易除去部材の一実施例を示す断面図である。
図1に示す鳥糞易除去部材は、合成樹脂基材1の表面に鳥糞易除去層2を形成したものであり、合成樹脂基材1としては、公知の熱可塑性合成樹脂、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂などからなる、フィルム、シート、プレートなどの平面的形状を有する基材や、ブロック状、柱状、管状、異形状などの種々の立体的形状を有する基材が用いられる。これらの合成樹脂基材1の中では、ポリカーボネート樹脂、好ましくは粘度平均分子量が1万〜5万のポリカーボネート樹脂であって、予め適量の紫外線吸収剤を含有させて耐候性を改善した透光性を有するポリカーボネート樹脂からなる基材や、ポリカーボネート樹脂に顔料、熱線吸収剤、熱線反射剤を含有した熱線遮蔽機能を有する基材を用いても良い。また、公知の熱硬化性樹脂からなる基材も使用される。さらに合成樹脂基材1には、酸化防止剤、顔料、難燃剤、熱線遮蔽剤、帯電防止剤など様々な添加剤を含有してもよい。
合成樹脂基材1は着色のもの(例えば乳半色の基材)でもよく、全光線透過率が80%以上、ヘイズが10%以下の透光性のある合成樹脂基材を選択使用してもよい。
また、合成樹脂基材1は、種類が異なる合成樹脂層を複数積層した積層体からなる基材であってもよい。
一方、鳥糞易除去層2は、鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)を高めて表面に水を流すだけで鳥糞の大部分を容易に除去できるようにするために合成樹脂基材1の表面に形成された層であって、この鳥糞易除去層2の表面自由エネルギーγは、Fowkesによれば、下記[数1]の式に示すように分散項γsd(分散成分)と極性項γsp(極性成分)の和となる。分散項γsdと極性項γspの値は、下記[数2]の拡張Fowkes式(Owens and Wendt法)と、下記[数3]のYoungの式から、下記[数4]の式を求め、液体の表面自由エネルギーの成分値(γld、γlp)が既知の2種類の液体で接触角θを測定して、それぞれの接触角を下記[数4]の式に代入し、連立方程式を解くことで求められる。そして、これらの分散項γsdと極性項γspの値を下記[数1]の式に代入すれば表面自由エネルギーγが求められる。
(数1)
γ=γsd+γsp
(数2)
γ+γ−γsL=2(γsp・γLp)1/2+2(γsd・γLd)1/2
(数3)
γ=γSL+γcosθ
(数4)
γ(1+cosθ)/2γLd=γsp 1/2(γLp/γLd)1/2+γsd 1/2
γ :固体(鳥糞易除去層)の表面自由エネルギー
γsd :固体の分散項(分散成分)
γsp :固体の極性項(極性成分)
γ :液体の表面自由エネルギー
γsL :固体と液体の界面の自由エネルギー
γLd :液体の分散項
γLp :液体の極性項
θ :接触角
鳥糞易除去層2の表面自由エネルギーγ、分散項γsd、極性項γspの具体的な値は上記の方法で求められるものであり、本発明の実施例では、後述するように、水とヘキサデカンのそれぞれの接触角を測定して求めている。
この鳥糞易除去層2は、表面自由エネルギーγの値が60mJ/m以下、好ましくは35mJ/m以下と低く、良好な防汚性を発現する撥水性の層であり、特に、鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)を確実に向上させるために、表面自由エネルギーγの極性項γspの値が5.0mJ/m以下となるように、且つ、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率が8.0%以下となるように、鳥糞易除去層2の構成材料や組成を選択して形成した層である。
上記の条件を満たす鳥糞易除去層2の構成材料としては、例えば、ポリカーボネートとSi原子を有するモノマー又はポリマーとの共重合体や、フッ素系樹脂等が挙げられる。上記共重合体の一方の成分であるSi原子を有するモノマー又はポリマーの具体例としては、シロキサン(例えば、有機モノシロキサンや有機ポリシロキサン等)が挙げられる。
ポリカーボネートとSi原子を有するモノマー又はポリマーとの共重合体の具体例としては、下記一般式(I)で表される構成単位からなるポリカーボネートブロック及び下記一般式(II)で表される構成単位からなるポリオルガノシロキサンブロックからなるポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体や下記一般式(I)で表されるポリカーボネートブロックと下記一般式(III)で表されるポリジオルガノシロキサンブロックからなるポリカーボネート−ポリジオルガノシロキサン共重合体等が挙げられる。



[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基、Xは単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基、−S−、−SO−、−SO−、−O−又は−CO−、a及びbは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。]



[式中、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基もしくは炭素数6〜12のアリール基を示す。]

[式中、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、各々独立に水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R11及びR12は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは100未満の自然数である。Xは炭素数2〜8の二価脂肪族基である。]
また、上記フッ素系樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
鳥糞易除去層2はこれらの構成材料のみで形成する必要は必ずしもなく、他の樹脂と混合して形成してもよい。例えば、構成材料が上記のポリカーボネートとSi原子を有するモノマー又はポリマーとの共重合体である場合、これに混合する他の樹脂としては相溶性の良好なポリカーボネート樹脂などが好適である。上記の共重合体とポリカーボネート樹脂との混合比は特に限定されないが、重量比で、10〜100:90〜0とするのが適当であり、この範囲の重量比で混合すると、鳥糞易除去層2の構成樹脂100重量部に占めるポリカーボネート樹脂の割合が90重量部まで増大しても、後述の実施例1のデータに示すように、疑似鳥糞の洗浄率(除去率)が84%と高い鳥糞易除去層2を形成することができる。従って、上記の共重合体よりも安価なポリカーボネート樹脂の混合量を増大し、高価な上記の共重合体の混合量を低減できるので、コスト削減効果が得られる。
上記の構成材料のみからなる鳥糞易除去層2、又は、上記の構成材料を含む鳥糞易除去層2を形成すると、後述の実施例のデータに示すように、その表面自由エネルギーγの値が35mJ/m以下、極性項γspの値が5.0mJ/m以下、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率が8.0%以下となり、目的とする鳥糞に対する良好な防汚性(耐鳥糞汚染性)を充分に発揮させることができる。
上記のフッ素系樹脂で鳥糞易除去層2を形成すると、目的とする良好な耐鳥糞汚染性を発現させることはできるが、ハロゲン物質を含むため、環境負荷が大きく、コストが高いという不都合が生じる。これに対し、上記のポリカーボネートとSi原子を有するモノマー又はポリマーとの共重合体を用いて鳥糞易除去層2を合成樹脂基材1の表面に形成すると、目的とする良好な耐鳥糞汚染性を発現させることができる上に、脱ハロゲン部材の為、環境負荷か小さく、また、フッ素系樹脂よりも良好な透光性を有する鳥糞易除去層2を備えた透光性のある鳥糞易除去部材を得ることが可能となり、視認性を必要とする用途にも用いる事ができる。しかも、ポリカーボネートとSi原子を有するモノマー又はポリマーとの共重合体は一般にフッ素系樹脂よりも安価であるため、コストダウンを図ることも可能となる。
なお、フッ素系樹脂であっても、例えばポリビニリデンフルオライド樹脂やポリフッ化ビニル樹脂などで鳥糞易除去層2を形成すると、後述の比較例2,4のデータに示すように、極性項γspの比率が8%を超えて満足な耐鳥糞汚染性を発揮し難くなるので好ましくない。
また、この鳥糞易除去層2には紫外線吸収剤を含有させることが望ましい。紫外線吸収剤を含有させると、耐候性が向上する為、鳥糞易除去層2における、鳥糞に対する防汚性が持続する効果がある。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、或いは、シアノアクリレート系が利用できる。また、後述する実施例のデータに示すように、紫外線吸収剤を含まないものよりも、表面自由エネルギーの極性項の値、及び、極性項の占める比率が低下して、鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)が一層向上し、鳥糞の除去が更に容易になるという利点がある。上記効果を有する紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、或いは、ベンゾフェノン系のものが挙げられる。
この紫外線吸収剤の含有量は特に限定されないが、1〜15重量%含有させるのが適当である。1重量%未満では耐鳥糞汚染性の向上が殆ど見られず、15重量%より多量に含有しても、それに見合うだけの耐鳥糞汚染性の更なる向上効果が得られないので材料の無駄使いになる。
鳥糞易除去層2の厚さは特に限定されないが、10〜300μm程度の厚さとするのが適当である。この程度の厚さの鳥糞易除去層2を形成すれば、短期間で摩耗することなく、長期に亘って良好な耐鳥糞汚染性を発揮することができる。
以上のような構成の鳥糞易除去部材は、溶融させた合成樹脂基材1の構成樹脂と溶融させた鳥糞易除去層2の構成樹脂を重ねて共押出成形するか、合成樹脂基材1を溶融押出成形しながらその表面に鳥糞易除去層2形成用のフィルム又はシートを重ねて圧着するか、鳥糞易除去層2形成用のフィルム又はシートを合成樹脂基材1の表面にラミネートや転写をするか、合成樹脂基材1の表面に鳥糞易除去層2形成用のフィルム又はシートを接着剤で貼り合わせるか、鳥糞易除去層2を合成樹脂基材1へ塗布するか、などの方法を採用して簡単に製造することができる。また、鳥糞易除去層2にエンボス加工等の処理をしてもよい。
このようにして製造される本発明の鳥糞易除去部材は、鳥糞易除去層2の表面自由エネルギーγの極性項γspの値が5.0mJ/m以下であり、且つ、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率が8.0%以下であるため、鳥糞に含まれるアルブミンの電気的吸着による鳥糞の付着性が低下して、後述の実施例のデータに示すように鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)が向上し、鳥糞易除去層2の表面に雨水や水道水を流すだけで、付着した鳥糞の大部分を容易に除去できるようになる。従って、本発明の鳥糞易除去部材は、屋根材、家屋の外壁材、高速道路の防音壁材、その他のエクステリアの用途に好適に用いられる。
本発明の鳥糞の除去方法は、上述した鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層2の表面に水を流し、水を流す前に鳥糞易除去層2の表面に付着した鳥糞を除去するものである。
水の流し方は特に限定されるものではなく、例えば、ホースの先から水道水や貯溜雨水を鳥糞易除去層2の表面に静かに流してもよいし、ホースの先から水道水や貯溜雨水を鳥糞易除去層2の表面に勢い良く当てて流してもよいし、ジョウロに入れた水道水や貯溜雨水を鳥糞易除去層2の表面に散水して流してもよいし、鳥糞易除去層2の表面に自然に降りかかる雨水を流すだけでもよい。
また、流した水がスムーズに流下するように、鳥糞易除去部材を傾斜させて、或いは、起立させて設置することが望ましい。
流す水の量は特に限定されないが、少なくとも、自然に降りかかる雨水の量と同量か、又は、それ以上の量とすることが望ましい。
本発明の鳥糞の除去方法を採用すれば、例えば、鳥糞易除去層2に自然に降りかかって流れる雨水によって、付着した鳥糞の大部分が自然に除去されるため、あえて鳥糞易除去部材の表面を清掃しなくても、鳥糞の汚れが残って美観や透光性や採光性が低下することが抑えられ、清掃の手間を省くことができる。
次に、本発明に係る鳥糞易除去部材の実施例と比較例について説明する。
[実施例1]
後記[表2]に示すように、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)[帝人(株)製SS1230]9.4重量%と、ポリカーボネート樹脂84.9重量%と、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤5.7重量%を含んだ鳥糞易除去層形成用の樹脂組成物を調製した。
加熱溶融させた合成樹脂基材形成用の紫外線吸収剤を含んだポリカーボネート樹脂と、加熱溶融させた鳥糞易除去層形成用の上記樹脂組成物を、上下に重ねて共押出成形することにより、厚さ1.9mmのプレート状の樹脂基材の表面に厚さ50μmの鳥糞易除去層を有する透光性の鳥糞易除去部材を作製した。
この実施例1の鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層の表面に少量の水とヘキサデカンを滴下し、それぞれの接触角を測定したところ、後記[表2]に示すように、対水接触角は101.0°、対ヘキサデカン接触角は32.2°であった。
そこで、後記[表1]に記載の水とヘキサデカンの液体の表面自由エネルギー(γ、γLd、γLp)と上記の接触角の数値を前記[数4]の式に代入し、鳥糞易除去層2の表面自由エネルギーγ、分散項γsd、極性項γspの値を算出したところ、後記[表2]に示すように表面自由エネルギーγは24.4mJ/m、分散項γsdは23.5mJ/m、極性項γspは0.92mJ/mであり、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率は3.7%であった。
(表1)水とヘキサデカンの液体の表面自由エネルギー(単位:mJ/m
┌────────┬────────┬────────┬────────┐
│ γ γLd γLp
├────────┼────────┼────────┼────────┤
水 72.8 21.8 51 │
├────────┼────────┼────────┼────────┤
ヘキサデカン 27.6 27.6 0 │
└────────┴────────┴────────┴────────┘
この実施例1の鳥糞易除去部材について、以下の要領で、鳥糞に対する防汚性(耐鳥糞汚染性)の試験を行った。
まず、1gのアルブミン[和光純薬工業(株)製、アルブミン、卵由来]を9gの蒸留水に溶解して10重量%濃度のアルブミン水溶液を造り、このアルブミン水溶液5gに尿酸[和光純薬工業(株)製、尿酸(和光特級)]0.5gを混合して液状の疑似鳥糞を調製した。そして、この疑似鳥糞をマイクロピペットで0.5mL採取し、実施例1の鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層の表面に滴下して24時間自然乾燥することにより、疑似鳥糞を付着させた。
次いで、疑似鳥糞が付着した鳥糞易除去層の表面に水道水をホースの先から毎分3.6Lの水量で1秒の流水を5回行い、疑似鳥糞の洗浄率(除去率)を以下の要領で求めた。即ち、水を流す前と流した後の鳥糞易除去層の写真をとり、ソフトウエア[Image J(パブリックドメイン)]を用いて、水を流す前の疑似鳥糞が付着した面積と、水を流した後の鳥糞易除去層に残っている疑似鳥糞の面積を測定し、双方の面積から水を流した後の疑似鳥糞の洗浄率(除去率)を求めて、耐鳥糞汚染性を評価した。
その結果、実施例1の鳥糞易除去部材の疑似鳥糞の洗浄率は、後記[表2]に示すように84%であり、耐鳥糞汚染性の評価は「〇」(良)であった。なお、耐鳥糞汚染性の評価は、洗浄率が60%以上のものを「〇」(良)とし、洗浄率が60%未満のものを「×」(不良)として評価した。
また、実施例1の鳥糞易除去部材について透光性の良否を目視で評価し、後記[表2]に記載した。この透光性の評価は、光を良く通し明瞭に透視できるものを「〇」とし、光の通りが良くなく透視はできるが不明瞭なものを「△」とし、透視困難又は光を殆ど通さないものを「×」として評価した。
[実施例2−13及び参考例
実施例1の鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層に代えて、後記[表2]に示すように、実施例2では、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)28.3重量%と、ポリカーボネート樹脂66重量%と、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤[BASF(株)製TINUVINE P]5.7重量%からなる鳥糞易除去層、実施例3では、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)47.2重量%と、ポリカーボネート樹脂47.2重量%と、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤5.7重量%からなる鳥糞易除去層、実施例4では、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)46.3重量%と、ポリカーボネート樹脂46.3重量%と、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤7.4重量%からなる鳥糞易除去層、実施例5では、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)66重量%と、ポリカーボネート樹脂28.3重量%と、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤5.7重量%からなる鳥糞易除去層、実施例6では、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)48.1重量%と、ポリカーボネート樹脂48.1重量%と、トリアジン系の紫外線吸収剤[BASF(株)製 TINUVINE 1577]3.8重量%からなる鳥糞易除去層、実施例7では、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)からなる鳥糞易除去層、実施例8では、ポリカーボネート・シロキサン共重合体(1)94.3重量%と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤5.7重量%からなる鳥糞易除去層、実施例9ではポリカーボネート・シロキサン共重合体(2)[帝人(株)製SS2525]からなる鳥糞易除去層、実施例10ではテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなる鳥糞易除去層、実施例11ではテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる鳥糞易除去層、実施例12ではポリテトラフルオロエチレン樹脂からなる鳥糞易除去層、参考例ではテトラフルオロエチレン樹脂からなる鳥糞易除去層、実施例13ではポリクロロトリフルオロエチレン樹脂からなる鳥糞易除去層、をそれぞれ形成した以外は実施例1と同様にして、厚さ1.9mmのプレート状の合成樹脂基材の表面に厚さ50μmの鳥糞易除去層を有する実施例2−13及び参考例の鳥糞易除去部材を作製した。
これら実施例2−13及び参考例の鳥糞易除去部材について、実施例1と同様にして、対水接触角と対ヘキサデカン接触角を測定し、鳥糞易除去層の表面自由エネルギーγ、分散項γsd、極性項γspの値と、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率を算出した。その結果を後記[表2]に示す。
更に、実施例2−13及び参考例の鳥糞易除去部材について、実施例1と同様にして、鳥糞易除去層の表面に付着させた疑似鳥糞の洗浄率(除去率)を求め、耐鳥糞汚染性を評価した。その結果を後記[表2]に示す。
また、実施例2−13及び参考例の鳥糞易除去部材について、実施例1と同様に透光性の良否を目視で評価し、その結果を後記[表2]に示した。
[比較例1−7]
実施例1の鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層に代えて、後記[表2]に示すように、比較例1では、ポリカーボネート樹脂からなる鳥糞易除去層、比較例2では、ポリビニリデンフルオライド樹脂からなる鳥糞易除去層、比較例3では、フッ素系塗料[DIC(株)製ディフェンサ FH−700]の塗膜からなる鳥糞易除去層、比較例4では、ポリフッ化ビニル樹脂からなる鳥糞易除去層、比較例5では、ポリプロピレン樹脂からなる鳥糞易除去層、比較例6では、ポリメタクリル酸メチル樹脂からなる鳥糞除去層、比較例7では、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる鳥糞易除去層、をそれぞれ形成した以外は実施例1と同様にして、厚さ2mmのプレート状の合成樹脂基材の表面に厚さ50μmの鳥糞易除去層を有する比較例1−7の鳥糞易除去部材を作製した。
これら比較例1−7の鳥糞易除去部材について、実施例1と同様にして、対水接触角と対ヘキサデカン接触角を測定し、鳥糞易除去層の表面自由エネルギーγ、分散項γsd、極性項γspの値と、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率を算出した。その結果を後記[表3]に示す。
更に、比較例1−7の鳥糞易除去部材について、実施例1と同様にして、鳥糞易除去層の表面に付着させた疑似鳥糞の洗浄率(除去率)を求め、耐鳥糞汚染性を評価した。その結果を後記[表3]に示す。
なお、比較例1−7の鳥糞易除去部材については、目視による透光性の評価を省略した。
なお、上記[表2]においてPCはポリカーボネート、UVAは紫外線吸収剤を表す。
前記[表2]から、鳥糞易除去層の表面自由エネルギーγの極性項γspの値が5.0mJ/m以下であり、且つ、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率が8.0%以下である実施例1−14の鳥糞易除去部材は、いずれも疑似鳥糞の洗浄率(除去率)が60%以上で、良好な耐疑似鳥糞性(耐鳥糞汚染性)を発現できることが判る。
これに対し、前記[表3]に示すように、鳥糞易除去層の表面自由エネルギーγの極性項γspの値が5.0mJ/mよりも大きく、且つ、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率が8.0%よりも大きい比較例3−7の鳥糞易除去部材や、極性項γspの値が5.0mJ/m以下であっても、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率が8.0%よりも大きい比較例1−2の鳥糞易除去部材は、いずれも疑似鳥糞の洗浄率(除去率)が60%未満又は0%であり、良好な耐疑似鳥糞性(耐鳥糞汚染性)を発現できないことが判る。
また、前記[表2]に示すように、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂で鳥糞易除去層を形成した実施例10−12の鳥糞易除去部材は、疑似鳥糞の洗浄率が90%以上と極めて高く優れた耐疑似鳥糞性を発現し、また、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂で鳥糞易除去層を形成した実施例13−14の鳥糞易除去部材も、疑似鳥糞の洗浄率が60%以上で良好な耐疑似鳥糞性を発現するが、これらのフッ素系樹脂で鳥糞易除去層を形成した実施例10−14の鳥糞易除去部材はいずれも透光性に劣っている。
これに対し、ポリカーボネートとSi原子を有するシロキサンとの共重合体を含んだ鳥糞易除去層が形成された実施例1−9の鳥糞易除去部材は、疑似鳥糞の洗浄率が80%以上と高く、良好な耐疑似鳥糞性を発現することに加えて、良好な透光性も発現することから、視認性が必要な用途にも使用することが出来るため、総合評価が高いものである。
これより、鳥糞易除去層2の構成樹脂として、ポリカーボネートとSi原子を有するモノマー又はポリマーとの共重合体が最適であることが判る。
さらに、実施例1から実施例6のように、ポリカーボネート・シロキサン共重合体とポリカーボネート樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂が鳥糞易除去層2の構成樹脂100重量部に対して30〜90重量部を占める鳥糞易除去層(ポリカーボネート樹脂が鳥糞易除去層2の28〜85重量%を占める鳥糞易除去層)を形成した鳥糞易除去部材は、ポリカーボネート樹脂の占める割合が大きくても、疑似鳥糞の洗浄率(除去率)が84%以上と高く、優れた耐疑似鳥糞性を発現する。従って、ポリカーボネート・シロキサン共重合体よりも安価なポリカーボネート樹脂を混合することで、高価なポリカーボネート・シロキサン共重合体の使用量を抑えることができるので、コスト削減効果がある。
また、実施例7,8を対比すると、鳥糞易除去層の構成樹脂はいずれもポリカーボネート・シロキサン共重合体であるが、鳥糞易除去層に紫外線吸収剤を含有させた実施例8の鳥糞易除去部材は、紫外線吸収剤を含まない実施例7の鳥糞易除去部材に比べて、表面自由エネルギーγの極性項γspの値、及び、表面自由エネルギーγに占める極性項γspの比率が低下し、疑似鳥糞の洗浄率が高くなって、耐疑似鳥糞性が向上している。
このことから、鳥糞易除去層に紫外線吸収剤を含有させることは、耐疑似鳥糞性を更に向上させる上で極めて有効であることが判る。さらに耐候性を向上することによる、鳥糞の防汚性が持続する効果も有する。
1 合成樹脂基材
2 鳥糞易除去層

Claims (3)

  1. 合成樹脂基材とその表面に形成された鳥糞易除去層とを有する鳥糞易除去部材であって、
    前記鳥糞易除去層の表面自由エネルギーの極性項の値が5.0mJ/m以下であり、表面自由エネルギーに占める極性項の比率が8.0%以下であり、
    前記鳥糞易除去層が、ポリカーボネートとSi原子を有するモノマー若しくはポリマーとの共重合体、又は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン樹脂若しくはポリクロロトリフルオロエチレン樹脂を含むこと
    を特徴とする鳥糞易除去部材。
  2. 鳥糞易除去層が紫外線吸収剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の鳥糞易除去部材。
  3. 請求項1又は請求項に記載の鳥糞易除去部材の鳥糞易除去層の表面に水を流し、水を流す前に鳥糞易除去層の表面に付着した鳥糞の大部分を除去することを特徴とする鳥糞の除去方法。
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