以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下では、特許文献1及び特許文献2に示される画像形成装置及び画像形成時のステアリング制御に関する一般的な事項については、図示を省略して説明を省略する。
<画像形成装置>
まず、画像形成装置について図1を用いて説明する。図1は、画像形成装置の構成を示す概略図である。図1に示す画像形成装置1は、装置本体内に4色の画像形成部1Y、1M、1C、1Kを中間転写ベルト20に対向させて配置した、中間転写タンデム方式のカラー画像形成装置である。
画像形成装置1の記録材の搬送プロセスについて概要を説明する。記録材Sは、装置本体に挿抜可能な用紙カセット8内に積載される形で収納され、給紙ローラ10により画像形成タイミングに合わせて給紙される。用紙カセット8からの給紙は、例えば摩擦分離方式などが用いられる。給紙ローラ10により送り出された記録材Sは、搬送パス70の途中に配置されたレジストローラ11へと搬送される。そして、レジストローラ11において記録材Sの斜行補正やタイミング補正を行った後、記録材Sは二次転写部T2へと送られる。二次転写部T2は、対向する駆動ローラ17及び二次転写外ローラ12により形成される転写ニップ部であり、所定の加圧力と静電的負荷バイアスを与えることで記録材S上にトナー像を吸着させる。
上述した二次転写部T2までの記録材Sの搬送プロセスに対して、同様のタイミングで二次転写部T2まで送られて来る画像の形成プロセスについて説明する。まず、画像形成部1Y〜1Kについて説明する。画像形成部1Y〜1Kは、現像装置5Y〜5Kで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外は、ほぼ同一に構成される。以下では、画像形成部1Yについて説明し、他の画像形成部1M、1C、1Kについては、説明中の符号末尾のYを、M、C、Kに読み替えて説明されるものとする。
画像形成部1Yは、感光ドラム2Yを中心にして、一次帯電装置3Y、露光装置4Y、現像装置5Y、一次転写ローラ6Y、およびドラムクリーニング装置7Yが配置されている。感光ドラム2Yは外周面に感光層が形成され、所定のプロセススピードで矢印M方向に回転する。回転駆動される感光ドラム2Yの表面は、一次帯電装置3Yにより予め表面を一様に帯電され、その後、画像情報の信号に基づいて駆動される露光装置4Yによって静電潜像が形成される。露光装置4Yは、各色の分解色画像を展開した走査線画像データをON−OFF変調したレーザービームを回転ミラーで走査して、帯電した感光ドラム2Yの表面に画像の静電潜像を書き込む。
感光ドラム2Yの表面に形成された静電潜像は、現像装置5Yによるトナー現像を経て可視像化される。その後、感光ドラム2Yと中間転写ベルト20を挟んで対向配置される一次転写ローラ6Yにより所定の加圧力および静電的負荷バイアスが与えられ、感光ドラム2Y上に形成されたトナー像は中間転写ベルト20上に一次転写される。ドラムクリーニング装置7Yは、一次転写後に感光ドラム2Y上に残った一次転写残トナーを除去する。
中間転写ベルト20は感光ドラム2Yに当接して回転する無端ベルトであり、図中矢印R2方向に回転する。中間転写ベルト20は樹脂材料を用いて無端状に形成されて、その内周側に駆動ローラ17、従動ローラ18、テンションローラ19が当接するようにして設けられている。中間転写ベルト20は、これら駆動ローラ17、従動ローラ18、テンションローラ19に張力一定に張架される。例えば、バネのような弾性部材9によって中間転写ベルト20を裏面から表面へと押す力がテンションローラ19に加えられ、中間転写ベルト20は所定の張力で張架される。詳しくは後述するが、中間転写ベルト20は、駆動ローラ17がベルト駆動装置(後述の図2参照)により回転駆動されることに応じて回転する。
画像形成部1Y〜1Kにより並列処理される各色の作像プロセスは、中間転写ベルト20上に一次転写された上流の色のトナー像上に順次重ね合わせるタイミングで行われる。その結果、最終的にはフルカラーのトナー像が中間転写ベルト20上に形成され、二次転写部T2へと搬送される。以上、それぞれ説明した搬送プロセスおよび作像プロセスを以って、二次転写部T2において記録材Sとフルカラートナー像のタイミングが一致し、二次転写が行われる。二次転写された記録材Sは定着装置13へと搬送され、所定の圧力と熱量によって記録材S上にトナー像が溶融固着される。画像定着された記録材Sは、排紙ローラ14の回転に従い排紙トレイ15上に排出される。なお、二次転写部T2を通過した後つまりは二次転写後に中間転写ベルト20上に残った二次転写残トナーは、ベルトクリーニング装置16によって除去される。
一般的に、中間転写ベルト20のような無端ベルトを複数のローラで支持して回転させるベルト駆動装置では、回転中の無端ベルトが幅方向(ベルト回転方向と直交する方向)に移動する蛇行現象が発生し得る。これは、無端ベルトを支持するローラや無端ベルトの形状誤差、例えばローラの表面形状や無端ベルトの幅方向、周方向の精度のばらつきなど、あるいはローラの配置位置のずれなどを原因として生じ得る。図1に示した画像形成装置では、無端ベルトの蛇行現象が生ずると、中間転写ベルト20上に各色のトナー像を転写して重ね合せる際に、各色のトナー像の相対的な位置ずれ、ひいては定着画像の色ずれや色むらの原因となる。あるいは、無端ベルトがローラによる張架可能な範囲を超え、無端ベルトが他の部品などに接触して破れるなどの原因にもなる。それ故、無端ベルトの蛇行現象を抑制する必要がある。
無端ベルトの蛇行を収束させるための代表的な技術の一つとして、ステアリング方式が知られている。ステアリング方式では、無端ベルトを支持する複数のローラのうち1つ又は2つをステアリングローラとして傾動し、無端ベルトを幅方向に移動させることにより、無端ベルトの蛇行現象を抑制する。こうしたステアリング方式は、無端ベルトの蛇行をリブやガイド等によって物理的に抑えて収束させる方式に比べて無端ベルトに加わる力が小さく、高い信頼性と長寿命が得られる利点を有している。
<ベルト駆動装置>
そこで、ステアリング方式に基づいて中間転写ベルト20の蛇行を抑制可能なステアリング機構を有するベルト駆動装置について、図2を用いて説明する。ここでは、ステアリングローラとしてテンションローラ19を傾動可能なベルト駆動装置を例に説明する。なお、図2では弾性部材9や従動ローラ18等の図示を省略している。
図2に示すように、ベルト駆動装置は、駆動ローラ17、テンションローラ19(ステアリングローラ)、中間転写ベルト20、駆動モータ21、及びステアリング機構37を有する。駆動モータ21が駆動ローラ17を回転させることで、中間転写ベルト20は駆動ローラ17の回転に従って回転される。ステアリング機構37は、ステアリングアーム23、偏芯カム24、ステアリングモータ25を有する。ステアリングアーム23は、テンションローラ19を回転可能に軸支する。ステアリングアーム23は長尺状に形成され、テンションローラ19を軸支した一端と反対側の他端の側面には偏芯カム24が当接されている。偏芯カム24は、ステアリングモータ25によって回転される。ステアリングアーム23は、偏芯カム24の回転に従ってテンションローラ19を軸支した側が大きく揺動し得るように装置本体(不図示)などに支持されている。即ち、ステアリングモータ25を駆動することによって、テンションローラ19の駆動ローラ17に対する配設角度を無段階に変化させることができる。これにより、テンションローラ19のアライメント(平行度)が調整され、中間転写ベルト20は回転方向に直交する幅方向に移動し得る。
なお、ステアリング機構37はテンションローラ19に設けられることが多い。これは、テンションローラ19では、アライメント調整に伴い生じ得る中間転写ベルト20のたるみや歪みなどを、弾性部材9(図1参照)の弾性力の調節によって解消し得るからである。仮に駆動ローラ17にステアリング機構37を設けた場合、ステアリング機構37による駆動ローラ17のアライメント調整に応じて中間転写ベルト20の回転方向の送り量が影響を受ける。そうすると、駆動モータ21による中間転写ベルト20の回転方向の送り量の制御が難しくなる。そのため、ステアリング機構37を設けるのに駆動ローラ17は適していない。
<エッジセンサ>
図2に示すように、ベルト駆動装置には、中間転写ベルト20の回転経路の一箇所に中間転写ベルト20の端部の幅方向位置を検出するためのエッジセンサ26が設けられている。このエッジセンサ26の検出信号に基づいて回転中の中間転写ベルト20の端部の幅方向位置(以下、単に幅方向位置と記す)が検出されて、かかる検出結果に基づいて上述したようなテンションローラ19のアライメントの調整が行われる。検出手段としてのエッジセンサ26の一例を、図3及び図4に示す。
図3は、光透過型のエッジセンサ26を示す。図3に示すエッジセンサ26は、対向配置された発光部27と受光部28との間に中間転写ベルト20の端部が挿入されるようにして設けられる。発光部27は受光部28に向けて光を発し、受光部28は発光部27から発せられる光を受光する。このエッジセンサ26では、発光部27から発せられた光38の一部が中間転写ベルト20によって遮られることから、受光部28によって受光された光量の大小に基づき幅方向位置が検出される。即ち、エッジセンサ26への中間転写ベルト20の挿入量に応じて変化する受光部28に到達した光38の光量を検出し、これに基づいて幅方向位置は決められる。
図4は、機械接触型のエッジセンサ26を示す。図4に示すエッジセンサ26は、バネ33によって弾性的に付勢されたアーム部30に中間転写ベルト20の端部が当接可能に設けられている。このエッジセンサ26は、センサ本体部26aにアーム部30、バネ33、距離センサ34が設けられている。バネ33は、中間転写ベルト20の端部が当接する面の反対面に設けられる。アーム部30は長尺状に形成され、その一端側は支持部31によってセンサ本体部26aに揺動自在に支持され、他端側にはセンサ本体部26aまでの間隔を検出する距離センサ34が設けられている。中間転写ベルト20がアーム部30に近づく向きに変位した場合、中間転写ベルト20によってアーム部30が押され、アーム部30はバネ33の弾性力に反して揺動する。一方、アーム部30を押した状態の中間転写ベルト20がアーム部30から離れる向きに変位した場合には、アーム部30がバネ33の弾性力によって押し戻されて中間転写ベルト20側に揺動する。こうしたアーム部30の揺動に伴ってセンサ本体部26aまでの間隔が変化することから、距離センサ34によってアーム部30の変位量が検出される。アーム部30の変位量は中間転写ベルト20の幅方向位置の変位を反映することから、これに基づいて幅方向位置が決まる。
<回転位置センサ>
ところで、中間転写ベルト20の端部を真直に成形することは難しいことから、上述したエッジセンサ26の検出値には中間転写ベルト20の成形誤差が含まれる。そのため、エッジセンサ26の検出値が一定となるようにテンションローラ19(ステアリングローラ)を制御したのでは、却って中間転写ベルト20が蛇行してしまい得る。従って、中間転写ベルト20を安定して回転させるためには、エッジセンサ26の検出値を中間転写ベルト20の一回転毎に比較する必要がある。そこで、中間転写ベルト20の回転経路には、該中間転写ベルト20が所定の回転位置に到達したことを検出する回転位置センサ36が設けられている(図2参照)。
図2に示した回転位置センサ36は、中間転写ベルト20上の一箇所に付された回転基準マーク35を検出し、かかる中間転写ベルト20の一回転毎に回転基準信号を出力する。例えば、回転位置センサ36は、中間転写ベルト20から反射される光量を検出可能な反射型センサである。回転位置センサ36は、回転基準マーク35が付された箇所を通過した場合とそれ以外の箇所を通過した場合とで受光量が異なる。この受光量の変化により、中間転写ベルト20の回転方向の位置を検出することができる。
<ステアリング制御系>
図5は、エッジセンサ26の検出値に基づいてテンションローラ19(ステアリングローラ)のアライメントを調整可能な、本画像形成装置1のステアリング制御系を示す制御ブロック図である。中間転写ベルト20が回転開始されると、エッジセンサ26から検出信号が出力される。エッジセンサ26の検出信号はベルト側縁部検出回路51に入力され、ここで所定の閾値との比較によって中間転写ベルト20の幅方向位置を示すベルト位置検出信号が生成される。生成されたベルト位置検出信号は、ステアリング制御部100に順次読み込まれる。また、回転位置センサ36は、中間転写ベルト20に付された回転基準マーク35(図2参照)の検出に伴い回転基準信号をステアリング制御部100に出力する。制御手段としてのステアリング制御部100は、ベルト蛇行量算出回路52、ステアリング量算出回路53、ステアリングモータ25のモータドライバ54、ベルト形状記憶メモリ55を有する。
ベルト蛇行量算出回路52は、中間転写ベルト20の一回転毎に得られた多数のベルト位置検出信号を前回転のそれと比較して中間転写ベルト20の蛇行量を算出する。ステアリング量算出回路53は算出された中間転写ベルト20の蛇行量に基づき、テンションローラ19の配設角度をどの程度変更したら中間転写ベルト20の蛇行が収まるかを算出する。そして、算出された配設角度の変更量に応じた駆動信号をステアリングモータ25のモータドライバ54に対して出力する。これにより、ステアリングモータ25は偏芯カム24(図2参照)を回転させるので、テンションローラ19の配設角度が変わる。こうして、エッジセンサ26の検出信号に基づいてテンションローラ19の配設角度を適宜変更してテンションローラ19を傾動させれば、中間転写ベルト20の蛇行を徐々に収束させることができる。その結果として、中間転写ベルト20は蛇行を生じることなく安定して回転するようになる。
中間転写ベルト20を安定して回転させた場合、ベルト側縁部検出回路51のベルト位置検出信号には中間転写ベルト20の蛇行量が含まれない。即ち、ベルト位置検出信号は中間転写ベルト20の端部の正しい形状を表すことになる。そこで、かかる幅方向位置を示すベルト位置検出信号は、中間転写ベルト20の一周の幅方向位置を示す端部形状データとしてベルト形状記憶メモリ55に記憶される。そして、以降は記憶された端部形状データに基づき、中間転写ベルト20に蛇行が発生しているか否かの判定が行われる。
このようにして、中間転写ベルト20が蛇行せず安定して回転している時に取得されるベルト位置検出信号に基づいて、ベルト端部プロファイルなどと呼ばれる端部形状データがベルト形状記憶メモリ55に記憶される。そして、画像形成装置1は画像形成モード時に、ベルト形状記憶メモリ55から記憶済みの端部形状データを読み出し、これに基づき中間転写ベルト20の蛇行を抑制する第1のステアリング制御を実行する。画像形成モードは、画像形成ジョブが実行され画像形成が行われるモードである。ここで、画像形成ジョブとは、記録材に画像形成するプリント信号に基づいて、画像形成開始してから画像形成動作が完了するまでの一連の動作のことである。具体的には、プリント信号を受けた(画像形成ジョブの入力)後の前回転時(画像形成前の準備動作)から、後回転(画像形成後の動作)までのことを指し、画像形成期間、紙間を含む。
上述したように、端部形状データは、画像形成モードの開始前に先だって作成されてベルト形状記憶メモリ55に予め記憶される必要がある。しかしながら、既に述べたように、従来では中間転写ベルト20の蛇行をほぼ収束させてから端部形状データを作成していたので、時間がかかっていた。そこで、本発明では上記点に鑑み、端部形状データの作成を行うデータ作成モード時には、画像形成モード時と異なる第2のステアリング制御を行い、中間転写ベルト20の蛇行が収束するのを待たずして端部形状データを作成できるようにした。以下、説明する。
図6は、実施形態に係るステアリング制御部100のブロック線図である。図6に示すように、本実施形態に係るステアリング制御部100はフィードバック制御系(閉ループ制御系)で構成され、上述したステアリング制御系(図5参照)の一部機能を実現する。演算部80は、駆動部90つまり制御対象のステアリング機構37(図2参照)を駆動するための制御入力信号を生成する。演算部80としては、例えばPI制御器やPID制御器などが用いられる。なお、演算部80としてPID制御器を用いる場合、微分ゲインを0として以下に説明するPI制御器と同様の処理を行えばよいことから、ここではPID制御器の説明を省略する。
演算部80は、目標値信号としての中間転写ベルト20の基準位置と、エッジセンサ26のベルト位置検出信号つまり実測された中間転写ベルト20の幅方向位置との差分である位置ずれ量が差分信号として入力され、これらに基づいてPI演算を行う。これにより、その時点でステアリング機構37(図2参照)を制御するための制御入力信号が求められ、その制御入力信号に従ってステアリングモータ25は駆動される。つまり、駆動部90では、制御入力信号に従ってステアリングモータ25が駆動され、これに応じてテンションローラ19(ステアリングローラ)が傾動される。
演算部80は、画像形成用コントローラ81とデータ作成用コントローラ82とを有する。ただし、演算部80を1つのPI制御器で構成した場合には、画像形成モード時とデータ作成モード時でその都度、PIパラメータが所定の異なる値に設定変更されることによって、画像形成用コントローラ81とデータ作成用コントローラ82とを実現する。勿論、これに限らず、例えば予め異なるPIパラメータの設定された2つのPI制御器を用いて、一方を画像形成用コントローラ81、他方をデータ作成用コントローラ82として、モードに応じてこれらを切り替え可能にしてもよい。
画像形成用コントローラ81は画像形成モード時に第1のステアリング制御を行うもので、位置ずれ量に対して高いゲイン(利得)で信号制御を行って、ステアリングモータ25を駆動させる。他方、データ作成用コントローラ82はデータ作成モード時に第2のステアリング制御を行うもので、位相ずれ量に対して画像形成用コントローラ81よりも低いゲインで信号制御を行って、ステアリングモータ25を駆動させる。
図7に、実施形態に係るステアリング制御部100の周波数特性を表すボード線図を示す。これに対し、ステアリング制御部100(図5参照)を開ループ制御系で構成した場合の周波数特性を表すボード線図を図8に示す。図7では、画像形成用コントローラ81を用いた場合を点線で、データ作成用コントローラ82を用いた場合を実線で示した。なお、入力は制御入力信号であり、出力はベルト位置検出信号である。また、本明細書において、中間転写ベルト20の回転1周期とは画像形成時の中間転写ベルト20の回転の1周期のことを言う。
図7から理解できるように、データ作成用コントローラ82は画像形成用コントローラ81に比べると、中間転写ベルト20の回転1周期に相当する周波数より高い周波数のゲインを低減する特性を有している。言い換えれば、中間転写ベルト20の回転の1周期以下の周期成分の信号を低減する特性を有している。エッジセンサ26のベルト位置検出信号には、中間転写ベルト20の端部の成形誤差に応じた周波数成分が含まれる。この成形誤差に応じた周波数成分は、ベルトの回転1周期に相当する周波数よりも高い。この高周波成分を含むベルト位置検出信号をフィードバックしてステアリング制御を行う場合、その高周波成分が位置ずれ量ひいては制御入力信号に反映されてしまい、中間転写ベルト20の蛇行を収束するのに時間がかかる原因となる。そこで、データ作成用コントローラ82では高周波ゲインを低減し、ステアリング機構37に対し高周波成分の影響を低減した制御入力信号を出力可能にしている。
画像形成用コントローラ81では、ベルトの回転1周期に相当する周波数のゲインがほぼ最大ゲインの0dBに近く、さらに周波数が高くなるにつれてゲインが漸次に低下している。この場合、ベルトの回転1周期に相当する周波数(例えば0.2Hz程度)はゲインの高い周波数帯域に含まれる。この画像形成用コントローラ81をデータ形成モード時に用いると、中間転写ベルト20の端部の成形誤差に応じた高周波成分が増幅されやすいが故に、ベルトの回転1周期に相当する周波数より高い周波数成分を含む制御入力信号が生成されやすい。
これに対し、データ作成用コントローラ82では、ベルトの回転1周期に相当する周波数のゲインが−30dB以下つまり画像形成用コントローラ81に比べて相当に低く、また周波数が高くなるにつれてゲインが漸次に低下している。言い換えれば、画像形成用コントローラ81のゲイン曲線が低周波側にシフトされたゲイン曲線を有する。そのため、データ形成モード時のステアリング制御では、中間転写ベルト20の端部の成形誤差によって生じ得る高周波成分が増幅され難い。従って、データ作成用コントローラ82では、ベルトの回転1周期より高い周波数成分を含んだ制御入力信号が生成され難い。
図9に、データ作成用コントローラ82を用いた場合の制御入力信号とベルト位置検出信号を示す。図9(a)は演算部80からステアリング機構37に出力される制御入力信号の時間変化を示し、図9(b)は演算部80にフィードバックされるベルト位置検出信号の時間変化を示す。
図9(a)に示すように、制御入力信号にはベルトの回転1周期に相当する周波数より高い周波数成分が含まれていない。これは、上述のように、データ作成用コントローラ82ではベルトの回転1周期に相当する周波数より高い周波数成分を含む制御入力信号が生成され難いからである。この制御入力信号の場合には、図9(b)に示すように、ベルト位置検出信号に中間転写ベルト20の端部の成形誤差によって生じ得る高周波成分が含まれる。そして、中間転写ベルト20はベルトの回転1周期よりも長い周期で蛇行するのがわかる。
演算部80として1つのPI制御器を用いる場合、画像形成用コントローラ81とデータ作成用コントローラ82とをどのようにして実現するかについて述べる。データ作成用コントローラ82では、比例ゲインが画像形成用コントローラ81に比べて例えば1/100以下に設定される。特に中間転写ベルト20の端部の成形誤差が細かく小さいような場合には、比例ゲインが「0」に設定されてよい。積分ゲインは、画像形成用コントローラ81に比べて例えば1/10以下に設定される。
データ作成用コントローラ82では画像形成用コントローラ81に比べ、ベルトの回転1周期に相当する周波数のゲインが少なくとも20dB以上小さくなるPIパラメータに設定されればよい。中間転写ベルト20の蛇行が発散せずに収まる限り、ベルトの回転1周期に相当する周波数のゲインは小さければ小さいほどよい。ゲインを小さくできれば、中間転写ベルト20の蛇行が収束するまでにかかる時間をより短縮できるので望ましい。なお、PIパラメータは、不図示のCPU等により画像形成モード時やデータ作成モード時に上述したパラメータ値に設定される。これにより、PI制御器は、画像形成用コントローラ81又はデータ作成用コントローラ82のいずれかとして機能する。
ここで、画像形成用コントローラ81とデータ作成用コントローラ82とを実現可能なPIパラメータについて、具体例を用いて説明する。ここでは、開ループ制御系での伝達関数が(−0.05*s2+0.0887*s+0.00234)/(s2+0.022*s)で与えられる場合を例に説明する。この場合のボード線図は、図8に示したとおりである。なお、ベルトの回転1周期に相当する周波数は0.2Hzとする。
例えば、0.1秒のサンプリング周期でPI制御器にステアリング制御を行わせる場合、画像形成モード時には、PIパラメータの比例ゲインを3に、積分ゲインを0.015に設定して画像形成用コントローラ81とする。この場合のボード線図は、図7に点線で示したとおりである。図7に示すように、ベルトの回転1周期に相当する周波数(0.2Hz)は、ゲインがほぼ0dBの周波数帯域つまりはゲインの高い制御帯域に含まれている。これは、ベルトの回転1周期に相当する周波数が十分に制御帯域内にあることを示している。
他方、データ作成モード時には、PIパラメータの比例ゲインを0.03、微分ゲインを0.0005に設定してデータ作成用コントローラ82とする。つまり、画像形成モード時に比べて比例ゲインを1/100に、微分ゲインを1/30にする。この場合のボード線図は、図7に実線で示したとおりである。図7に示すように、ベルトの回転1周期に相当する周波数(0.2Hz)において、ゲインは−35dB程度にまで低減される。これは、画像形成用コントローラ81に比べると、信号がおおよそ1/50以下になることを示す。即ち、データ作成用コントローラ82の場合には、ステアリング制御に伴う中間転写ベルト20の蛇行量が画像形成用コントローラ81に比べて1/50以下になってベルト位置検出信号に反映される。そうすると、中間転写ベルト20はベルトの回転1周期より長い周期で蛇行することになる(図9(b)参照)。
図10に、データ作成モード時に検出されるベルト位置検出信号を示す。端部形状データを作成する場合、中間転写ベルト20を数周期に渡って搬送させる必要があることから、図10には、中間転写ベルト20を数周期に渡って回転させたときのベルト位置検出信号を示した。
図10に示すように、ベルト位置検出信号には、ベルトの回転1周期毎にほぼ同じように一定の変動成分が含まれる。中間転写ベルト20がベルトの回転1周期より長い周期で蛇行している場合、ベルト位置検出信号は中間転写ベルト20の幅方向位置をほぼ正しく反映する。これは、中間転写ベルト20をベルトの回転1周期より長い周期で蛇行させることで、中間転写ベルト20が数周期回転する間に蛇行していても、その間では中間転写ベルト20の幅方向位置が従来に比べてあまり変位し得ないからである。こうして中間転写ベルト20を数周期に渡って回転させたときに取得されるベルト位置検出信号を、従来と同様に平均化し且つ傾きを除去することによって端部形状データを作成することができる。
図11に、データ作成用コントローラ82のステアリング制御系により得られる端部形状データを示す。比較のため、画像形成用コントローラ81のステアリング制御系、つまりは従来のステアリング制御系で得られる端部形状データを図中に点線で示している。図11から理解できるように、データ作成用コントローラ82のステアリング制御系で得られる端部形状データと、画像形成用コントローラ81のステアリング制御系で得られる端部形状データとは、波形形状が大きく異なる。この両者の差が、従来、中間転写ベルト20を収束させるのに時間がかかる原因となっていたベルト位置検知信号の誤差分に相当する。即ち、従来のステアリング制御系では、この誤差分だけ余計に中間転写ベルト20を動かしているため、その結果として中間転写ベルト20を収束させるのに時間がかかっていた。
図12に、画像形成モード時に図11に示した各端部形状データが用いられた場合に検出されるベルト位置検出信号を示す。上段は画像形成用コントローラ81のステアリング制御系で得られる端部形状データを用いた場合であり、下段はデータ作成用コントローラ82のステアリング制御系で得られる端部形状データを用いた場合である。図12では、PIパラメータの比例ゲインを3に、積分ゲインを0.015に設定して画像形成用コントローラ81とし、端部形状データだけを変えてステアリング制御した場合に検出されるベルト位置検出信号を示した。図12から理解できるように、データ作成用コントローラ82のステアリング制御系で得られる端部形状データを用いた場合には、従来のステアリング制御系で得られる端部形状データを用いた場合に比べて、中間転写ベルト20の蛇行量が抑えられている。即ち、データ作成用コントローラ82のステアリング制御系で得られる端部形状データは、従来のステアリング制御系で得られる端部形状データに比べて、中間転写ベルト20の端部の成形誤差を正しく反映したデータである。
以上のようにして、データ作成モード時には、画像形成用コントローラ81とは異なるステアリング制御を行うデータ作成用コントローラ82によって、中間転写ベルト20をベルトの回転1周期よりも長い周期で蛇行させる。中間転写ベルト20をベルトの回転1周期よりも長い周期で蛇行させれば、中間転写ベルト20が数周期回転する間の中間転写ベルト20の幅方向位置は従来に比べあまり変位しない。そのため、幅方向位置をほぼ正しく示すベルト位置検出信号がベルトの回転1周期にわたって得られる。従って、データ作成モード時には、中間転写ベルト20の蛇行が収束するのを待たずとも、中間転写ベルト20を数周期に渡って回転させるだけの短時間内に、中間転写ベルト20の端部の成形誤差を正しく反映した端部形状データを作成することができる。
<他の実施形態>
上述した実施形態では、データ作成用コントローラ82にPI制御器やPID制御器を用いたがこれに限られない。例えば、データ作成用コントローラ82には、図7に示したボード線図を実現し得る伝達関数のローパスフィルタを用いてもよい。図13は、ローパスフィルタを用いた場合のステアリング制御系を示すブロック線図である。
図13(a)は、上述したPI制御器の代わりにローパスフィルタ85及びアンプ86を用いた場合である。この場合、フィルタ部としてのローパスフィルタ85は、上述したデータ作成用コントローラ82(図6参照)と同様の高周波成分の低減機能を有する。アンプ86は信号増幅器であり、ローパスフィルタ85から出力される信号を幅広い周波数に渡って一律に増幅し、これを制御入力信号として駆動部90に出力する。ただし、この場合、PI制御器やPID制御器を用いたステアリング制御系と、ローパスフィルタを用いたステアリング制御系とを、モードに応じて切り替えできるようにする必要がある。即ち、画像形成モード時にはローパスフィルタ85にベルト検出信号を入力しない一方で、データ作成モード時にはローパスフィルタ85にベルト検出信号を入力する必要がある。
図13(b)は、ベルト検知信号を帰還させる途中にローパスフィルタ85を配置した場合である。この場合でも、フィルタ部としてのローパスフィルタ85は、上述したデータ作成用コントローラ82(図6参照)と同様の高周波成分の低減機能を有する。アンプ86は信号増幅器であり、ローパスフィルタ85から出力される信号と目標値信号との差分である差分信号を幅広い周波数に渡って一律に増幅し、これを制御入力信号として駆動部90に出力する。
このようにしても、データ作成モード時に、中間転写ベルト20の蛇行が収束するのを待たずとも、中間転写ベルト20の端部の成形誤差を正しく反映した端部形状データを作成することができる。
さらに、中間転写ベルト20をベルトの回転1周期よりも長い周期で蛇行させるという観点からすれば、中間転写ベルト20をベルトの回転1周期よりも長い周期で蛇行させる所定の制御入力信号によってステアリング機構37を制御することが考えられる。この場合、中間転写ベルト20の幅方向位置がステアリングローラの端部から所定範囲の領域内に侵入した場合に、中間転写ベルト20をステアリングローラの中央側に移動させるようにステアリング機構37を制御すればよい。そして、中間転写ベルト20がステアリングローラの中央側に移動している最中に検出したベルト位置検出信号に基づき、端部形状データを作成すればよい。ただし、この場合は画像形成モード時とデータ作成モード時とで制御態様が大きく異なることから、上述したようなPI制御器やPID制御器を用いたステアリング制御系であるのが簡便であり望ましい。
本発明は、画像形成モード時と異なるステアリング制御を行うデータ作成モードが実行される限りにおいて、実施形態の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。即ち、ステアリング制御される無端ベルトを搭載した画像形成装置であれば、タンデム型/1ドラム型、中間転写型/記録材搬送型/転写ベルト型の区別無く実施できる。感光ベルト、転写ベルト、定着ベルト等の無端ベルトを備えた画像形成装置でも実施できる。また、本実施形態では、トナー像の形成/転写に係る主要部のみを説明したが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途で実施できる。