本実施形態の非接触給電装置は、負荷に対し非接触で給電を行う。非接触給電装置は、非接触給電装置に設けられた一次側コイルと負荷に設けられた二次側コイルとが電磁界結合(電界結合と磁界結合との少なくとも一方)された状態で、一次側コイルから二次側コイルへ電力の伝達を行うことにより、負荷への給電を行う。この種の非接触給電装置は、負荷に備わっている非接触受電装置と共に非接触電力伝送システムを構成する。
<非接触電力伝送システムの概要>
まず、非接触電力伝送システムの概要について、図1を参照して説明する。
非接触電力伝送システム1は、一次側コイルL1を有する非接触給電装置2と、二次側コイルL2を有する非接触受電装置3とを備えている。非接触受電装置3は、非接触給電装置2から非接触で出力電力が供給されるように構成されている。ここでいう出力電力は、非接触給電装置2から出力される電力であって、一次側コイルL1に交流電圧が印加されることにより一次側コイルL1から二次側コイルL2に非接触で供給される電力である。
本実施形態では、負荷としての電動車両に非接触受電装置3が搭載されている場合を例に説明する。電動車両は、蓄電池4を備え、蓄電池4に蓄積された電気エネルギーを用いて走行する車両である。電動車両に搭載された非接触受電装置3は、蓄電池4の充電装置として用いられる。なお、ここでは電動機で生じる駆動力によって走行する電気自動車を電動車両の例として説明するが、電動車両は電気自動車に限らず、たとえば二輪車(電動バイク)、電動自転車などであってもよい。
非接触給電装置2は、商用電源(系統電源)や、太陽光発電設備等の発電設備から供給される電力を、非接触受電装置3に供給することで、電動車両の蓄電池4を充電する。非接触給電装置2に供給される電力は、交流電力と直流電力とのいずれであってもよいが、本実施形態では、非接触給電装置2が直流電源5に電気的に接続され、非接触給電装置2に直流電力が供給される場合を例に説明する。なお、非接触給電装置2に交流電力が供給される場合、非接触給電装置2には交流を直流に変換するAC/DCコンバータが設けられる。
非接触給電装置2は、たとえば商業施設や公共施設、あるいは集合住宅などの駐車場に設置される。非接触給電装置2は、少なくとも一次側コイルL1が床あるいは地面に設置されており、一次側コイルL1上に駐車された電動車両の非接触受電装置3に対して非接触で電力を供給する。このとき、非接触受電装置3の二次側コイルL2は、一次側コイルL1の上方に位置することで、一次側コイルL1と電磁界結合(電界結合と磁界結合との少なくとも一方)されている。そのため、一次側コイルL1からの出力電力が二次側コイルL2へ伝達(送電)されることになる。なお、一次側コイルL1は、床あるいは地面から露出するように設置される構成に限らず、床あるいは地面に埋め込まれるように設置されていてもよい。
非接触受電装置3は、二次側コイルL2と、一対の二次側コンデンサC21,C22と、整流回路31と、平滑コンデンサC2とを有している。整流回路31は、一対の交流入力点と、一対の直流出力点とを有するダイオードブリッジからなる。二次側コイルL2の一端は、第1の二次側コンデンサC21を介して整流回路31の一方の交流入力点に電気的に接続され、二次側コイルL2の他端は、第2の二次側コンデンサC22を介して整流回路31の他方の交流入力点に電気的に接続されている。平滑コンデンサC2は、整流回路31の一対の直流出力点間に電気的に接続されている。さらに、平滑コンデンサC2の両端は一対の出力端子T21,T22に電気的に接続されている。一対の出力端子T21,T22には、蓄電池4が電気的に接続されている。
これにより、非接触受電装置3は、非接触給電装置2の一次側コイルL1からの出力電力を二次側コイルL2で受けることで二次側コイルL2の両端間に発生する交流電圧を、整流回路31にて整流し、さらに平滑コンデンサC2にて平滑して直流電圧を得る。非接触受電装置3は、このようにして得られる直流電圧を、一対の出力端子T21,T22から蓄電池4に出力(印加)する。
ここで、本実施形態においては、非接触給電装置2は、一次側コイルL1と共に共振回路(以下、「一次側共振回路」という)を構成する可変容量回路22、および一対の一次側コンデンサC11,C12を備えている。また、非接触受電装置3では、二次側コイルL2は一対の二次側コンデンサC21,C22と共に共振回路(以下、「二次側共振回路」という)を構成している。そして、本実施形態の非接触電力伝送システム1は、一次側共振回路と二次側共振回路とを共鳴させることにより電力の伝送を行う磁界共鳴方式(磁気共鳴方式)を採用している。すなわち、非接触電力伝送システム1は、一次側共振回路と二次側共振回路とで共振周波数を一致させることにより、一次側コイルL1と二次側コイルL2とが比較的離れた状態でも、非接触給電装置2の出力電力を高効率で伝送可能である。
<非接触給電装置の概要>
次に、非接触給電装置の概要について、図1を参照して説明する。
本実施形態の非接触給電装置2は、一次側コイルL1に加えて、インバータ回路21と、可変容量回路22と、制御回路23とをさらに備えている。
インバータ回路21は、一対の入力点211,212と一対の出力点213,214との間に電気的に接続された複数(ここでは4つ)の変換用スイッチ素子Q1〜Q4を有している。インバータ回路21は、複数の変換用スイッチ素子Q1〜Q4のスイッチングにより、一対の入力点211,212に印加される直流電圧を交流電圧に変換して一対の出力点213,214から出力する。
一次側コイルL1は、一対の出力点213,214間に電気的に接続され、交流電圧が印加されることにより二次側コイルL2に非接触で出力電力を供給する。
可変容量回路22は、一対の出力点213,214と一次側コイルL1との間に電気的に接続され、調整用コンデンサC1および複数(ここでは4つ)の調整用スイッチ素子Q5〜Q8を有している。可変容量回路22は、複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8のスイッチングにより、一対の出力点213,214と一次側コイルL1との間における容量成分の大きさを調整する。
制御回路23は、第1駆動信号にて複数の変換用スイッチ素子Q1〜Q4を制御し、第2駆動信号にて複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8を制御する。制御回路23は、第1駆動信号に対する第2駆動信号の位相の遅れである位相差を規定範囲内の設定値に調節することにより、出力電力の大きさを調節するように構成されている。制御回路23は、推定部231と、設定部232とを有している。推定部231は、可変容量回路22を動作させた状態で、可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モードである初期モードが進相モードと遅相モードとのいずれであるかを推定する。設定部232は、推定部231で推定された初期モードに応じて規定範囲を設定する。
ここでいう「位相差」は、第1駆動信号G1,G4に対する第2駆動信号G6,G7の位相の遅れ、あるいは第1駆動信号G2,G3に対する第2駆動信号G5,G8の位相の遅れである。この点については、後に「基本動作」の「(2)可変容量回路あり」の欄で詳しく説明する。また、ここでいう「進相モード」は、電圧位相に対して電流位相が進み位相(進相)になるモードである。一方、「遅相モード」は、電圧位相に対して電流位相が遅れ位相(遅相)になるモードである。
上記構成により、本実施形態の非接触給電装置2は、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化しても、必要な電力を確保しやすい、という利点がある。すなわち、非接触給電装置2は、第1駆動信号G1,G4(G2,G3)に対する第2駆動信号G6,G7(G5,G8)の位相の遅れである位相差を規定範囲内の設定値に調節することにより、出力電力の大きさを調節することができる。したがって、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化して、一次側コイルL1と二次側コイルL2との間の結合係数が変化したとしても、非接触給電装置2は、位相差の調節により必要な電力を確保しやすくなる。しかも、位相差は、規定範囲内の設定値に調節されるので、規定範囲が所定の条件を満たしていればインバータ回路21は遅相モードで動作することが可能である。ただし、インバータ回路21が遅相モードで動作するための所定の条件は、不変的ではなく、初期モード(可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モード)に応じて変化する。ここでは、制御回路23は、可変容量回路22を動作させた状態で推定部231にて初期モードが進相モードと遅相モードとのいずれであるかを推定し、推定された初期モードに応じて設定部232にて規定範囲を設定する。したがって、本実施形態の非接触給電装置2は、初期モードに応じた適切な範囲に規定範囲を設定して、インバータ回路21を遅相モードで動作させることが可能である。
なお、本実施形態でいう「入力点」や「出力点」は、電線等を接続するための部品(端子)として実体を有しなくてもよく、たとえば電子部品のリードや、回路基板に含まれる導体の一部であってもよい。
<回路構成>
次に、本実施形態の非接触給電装置2の具体的な回路構成について、図1を参照して説明する。
本実施形態の非接触給電装置2は、一対の入力端子T11,T12を備えている。一対の入力端子T11,T12には、直流電源5が電気的に接続されている。
インバータ回路21は、4つの変換用スイッチ素子Q1〜Q4がフルブリッジ接続されたフルブリッジインバータ回路である。つまり、インバータ回路21は、一対の入力点211,212間に電気的に並列に接続された第1アームと第2アームとを有し、これら第1アームおよび第2アームが4つの変換用スイッチ素子Q1〜Q4にて構成されている。第1アームは(第1の)変換用スイッチ素子Q1と(第2の)変換用スイッチ素子Q2との直列回路からなり、第2アームは(第3の)変換用スイッチ素子Q3と(第4の)変換用スイッチ素子Q4との直列回路からなる。第1アームの中点(変換用スイッチ素子Q1,Q2の接続点)および第2アームの中点(変換用スイッチ素子Q3,Q4の接続点)は、一対の出力点213,214となる。本実施形態では、4つの変換用スイッチ素子Q1〜Q4は、それぞれnチャネルのデプレション型MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。
さらに詳しく説明すると、一対の入力点211,212は、第1の入力点211が直流電源5の正極側となり、第2の入力点212が直流電源5の負極側となるように、一対の入力端子T11,T12に電気的に接続されている。第1の入力点211には、変換用スイッチ素子Q1,Q3のドレインが電気的に接続されている。また、第2の入力点212には、変換用スイッチ素子Q2,Q4のソースが電気的に接続されている。そして、変換用スイッチ素子Q1のソースと変換用スイッチ素子Q2のドレインとの接続点が、インバータ回路21の第1の出力点213となる。また、変換用スイッチ素子Q3のソースと変換用スイッチ素子Q4のドレインとの接続点が、インバータ回路21の第2の出力点214となる。
4つの変換用スイッチ素子Q1〜Q4の各々のドレインおよびソース間には、4つのダイオードD1〜D4が4つの変換用スイッチ素子Q1〜Q4と一対一に対応するように電気的に接続されている。各ダイオードD1〜D4は、各変換用スイッチ素子Q1〜Q4のドレイン側をカソードとする向きで接続されている。ここでは、各ダイオードD1〜D4は各変換用スイッチ素子Q1〜Q4の寄生ダイオードである。
可変容量回路22は、調整用コンデンサC1と、4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8とを有している。この可変容量回路22は、インバータ回路21の一対の出力点213,214間において電気的に並列に接続された第3アームと第4アームとを有し、これら第3アームおよび第4アームが4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8にて構成されている。第3アームは(第1の)調整用スイッチ素子Q5と(第3の)調整用スイッチ素子Q7との直列回路からなり、第4アームは(第2の)調整用スイッチ素子Q6と(第4の)調整用スイッチ素子Q8との直列回路からなる。第3アームの中点(調整用スイッチ素子Q5,Q7の接続点)と、第4アームの中点(調整用スイッチ素子Q6,Q8の接続点)との間には、調整用コンデンサC1が電気的に接続されている。本実施形態では、4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8は、それぞれnチャネルのデプレション型MOSFETである。
さらに詳しく説明すると、インバータ回路21の第1の出力点213には、第1の一次側コンデンサC11を介して、調整用スイッチ素子Q5のソースおよび調整用スイッチ素子Q6のドレインが電気的に接続されている。また、第2の出力点214には、第2の一次側コンデンサC12および一次側コイルL1を介して、調整用スイッチ素子Q7のソースおよび調整用スイッチ素子Q8のドレインが電気的に接続されている。そして、調整用コンデンサC1の一端は、調整用スイッチ素子Q5のドレインと調整用スイッチ素子Q7のドレインとの接続点に電気的に接続されている。調整用コンデンサC1の他端は、調整用スイッチ素子Q6のソースと調整用スイッチ素子Q8のソースとの接続点に電気的に接続されている。
4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8の各々のドレインおよびソース間には、4つのダイオードD5〜D8が4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8と一対一に対応するように電気的に接続されている。各ダイオードD5〜D8は、各調整用スイッチ素子Q5〜Q8のドレイン側をカソードとする向きで接続されている。ここでは、各ダイオードD5〜D8は各調整用スイッチ素子Q5〜Q8の寄生ダイオードである。
制御回路23は、たとえばマイコン(マイクロコンピュータ)を主構成として備えている。マイコンは、マイコンのメモリに記録されているプログラムをCPU(Central Processing Unit)で実行することにより、制御回路(制御部)23としての機能を実現する。プログラムは、予めマイコンのメモリに記録されていてもよいし、メモリカードのような記録媒体に記録されて提供されたり、電気通信回線を通して提供されたりしてもよい。本実施形態では、制御回路23は、推定部231および設定部232に加えて、制御部233を有している。言い換えれば、上記プログラムは、非接触給電装置2に用いられるコンピュータ(ここではマイコン)を、制御部233、推定部231、設定部232として機能させるためのプログラムである。
制御部233は、インバータ回路21の各変換用スイッチ素子Q1〜Q4のオンオフを切り替えるための第1駆動信号G1〜G4を出力する。4つの第1駆動信号G1〜G4は、4つの変換用スイッチ素子Q1〜Q4に一対一に対応する。ここでは、制御部233は、第1駆動信号G1〜G4を、それぞれ対応する変換用スイッチ素子Q1〜Q4のゲートに出力することで、対応する変換用スイッチ素子Q1〜Q4の制御を行っている。
また、制御部233は、可変容量回路22の4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8の各々のオンオフを切り替えるための第2駆動信号G5〜G8を出力する。4つの第2駆動信号G5〜G8は、4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8に一対一に対応する。ここでは、制御部233は、第2駆動信号G5〜G8を、それぞれ対応する調整用スイッチ素子Q5〜Q8のゲートに出力することで、対応する調整用スイッチ素子Q5〜Q8の制御を行っている。
なお、本実施形態では、制御回路23の制御部233が、変換用スイッチ素子Q1〜Q4および調整用スイッチ素子Q5〜Q8の各々のゲートに対し、第1駆動信号G1〜G4および第2駆動信号G5〜G8を直接出力しているが、この構成に限らない。たとえば、非接触給電装置2は駆動回路をさらに備え、駆動回路が、制御回路23の制御部233からの第1駆動信号G1〜G4および第2駆動信号G5〜G8を受けて、変換用スイッチ素子Q1〜Q4および調整用スイッチ素子Q5〜Q8を駆動してもよい。
一次側コイルL1は、インバータ回路21の一対の出力点213,214において、一対の一次側コンデンサC11,C12および可変容量回路22と電気的に直列に接続されている。一次側コイルL1の一端は、可変容量回路22および第1の一次側コンデンサC11を介して、インバータ回路21の第1の出力点213に電気的に接続されている。一次側コイルL1の他端は、第2の一次側コンデンサC12を介して、インバータ回路21の第2の出力点214に電気的に接続されている。
本実施形態の非接触給電装置2は、一次側コイルL1に流れる電流の大きさを計測値として計測する計測部24をさらに備えている。一次側コイルL1と第2の一次側コンデンサC12との間には、たとえば変流器からなる電流センサ25が設けられている。計測部24は、電流センサ25の出力を受けて、一次側コイルL1に流れる電流の大きさを、計測値として計測する。計測部24は、計測値を制御回路23に出力するように構成されている。制御回路23は、計測部24で計測された計測値を用いて、一次側コイルL1から出力される出力電力の大きさを監視する。
<基本動作>
次に、本実施形態の非接触給電装置2の基本動作について、図1および図2を参照して説明する。図2では、横軸を時間軸として、上から順に第1駆動信号「G1,G4」、「G2,G3」、第2駆動信号「G5,G8」、「G6,G7」の信号波形を表している。なお、図2中の「オン」、「オフ」は、対応するスイッチ素子(変換用スイッチ素子、調整用スイッチ素子)のオン、オフを表している。
(1)可変容量回路なし
ここではまず、可変容量回路22がない場合、つまり一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1および一対の一次側コンデンサC11,C12のみが電気的に接続されている場合を想定し、非接触給電装置2の動作を説明する。この場合の非接触給電装置2の動作は、図1の回路構成において、可変容量回路22が動作を停止している場合、つまり可変容量回路22の全ての調整用スイッチ素子Q5〜Q8がオンに固定されている場合の非接触給電装置2の動作と等価である。
制御回路23の制御部233は、図2に示すように、変換用スイッチ素子Q1,Q4に対応する第1駆動信号G1,G4と、変換用スイッチ素子Q2,Q3に対応する第1駆動信号G2,G3として、互いに逆位相(位相差180度)の信号を発生する。これにより、インバータ回路21においては、第1の変換用スイッチ素子Q1および第4の変換用スイッチ素子Q4のペアと、第2の変換用スイッチ素子Q2および第3の変換用スイッチ素子Q3のペアとが交互にオンするように制御される。
その結果、インバータ回路21の一対の出力点213,214間には、周期的に極性(正・負)が反転する電圧(交流電圧)が発生する。要するに、インバータ回路21は、複数の変換用スイッチ素子Q1〜Q4のスイッチングにより、一対の入力点211,212に印加される直流電圧を交流電圧に変換して一対の出力点213,214から出力する。以下では、インバータ回路21の出力電圧について、一対の出力点213,214のうちの第1の出力点213が高電位となる電圧を「正極性」といい、第2の出力点214が高電位となる電圧を「負極性」という。つまり、インバータ回路21の出力電圧は、変換用スイッチ素子Q1,Q4がオンの状態で正極性となり、変換用スイッチ素子Q2,Q3がオンの状態で負極性となる。
このように、インバータ回路21が一対の出力点213,214から交流電圧を出力することで、一対の出力点213,214間に電気的に接続された一次側コイルL1に交流電流が流れ、一次側コイルL1が磁界を発生する。これにより、非接触給電装置2は、非接触受電装置3の二次側コイルL2に対し、一次側コイルL1から非接触で出力電力を供給することができる。
ところで、可変容量回路22がない場合、本実施形態の非接触給電装置2では、一次側コイルL1は一対の一次側コンデンサC11,C12と共に一次側共振回路を構成する。そのため、一次側コイルL1から出力される出力電力の大きさは、インバータ回路21の動作周波数(つまり第1駆動信号Q1〜Q4の周波数)に応じて変化し、インバータ回路21の動作周波数が一次側共振回路の共振周波数に一致するときにピークに達する。
ここにおいて、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化して、一次側コイルL1と二次側コイルL2との間の結合係数が変化すると、非接触給電装置2の出力電力の周波数特性(以下、「共振特性」という)が変化する。図3は、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化した場合の、非接触給電装置2の共振特性の変化を示している。なお、図3では、横軸を周波数(インバータ回路21の動作周波数)、縦軸を非接触給電装置2の出力電力として、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が異なる場合の非接触給電装置2の共振特性を「X1」、「X2」で示している。
ここで、図3に示すように、インバータ回路21の動作周波数として使用可能な周波数帯域(以下、「許可周波数帯F1」という)が制限されていると仮定する。許可周波数帯F1は、たとえば電波法などの法律により規定される。この場合、許可周波数帯F1の下限値fmin未満、および上限値fmaxを超えるような周波数については、インバータ回路21の動作周波数として使用することはできない。こうした場合において、非接触給電装置2の共振特性が、たとえば図3に「X1」で示すような状態にあれば、インバータ回路21の動作周波数をどう調整しても、非接触給電装置2の出力電力が必要な大きさ(以下、「目標値」という)とならない可能性がある。
たとえば図4Aに示すように、一次側共振回路の共振周波数frが許可周波数帯F1から外れていると、非接触給電装置2の出力電力の大きさがピークに届かず、結果的に、目標値P1に対して出力電力が不足する可能性がある。また、たとえば図4Bに示すように、一次側共振回路の共振周波数frが許可周波数帯F1内にある場合でも、非接触給電装置2の出力電力のピークが目標値P1に届かず、結果的に、目標値P1に対して出力電力が不足する可能性がある。つまり、図4Aや図4Bの例では、ハッチング(斜線)部分の電力が目標値P1に対して不足することになる。
そこで、本実施形態の非接触給電装置2は、可変容量回路22を備えることにより、非接触給電装置2の共振特性を可変とし、目標値P1を満たすように出力電力の大きさを補正する機能を有している。
(2)可変容量回路あり
次に、図1に示すように可変容量回路22がある場合、つまり一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1、一対の一次側コンデンサC11,C12、および可変容量回路22が電気的に接続されている場合における、非接触給電装置2の動作を説明する。
制御回路23の制御部233は、図2に示すように、調整用スイッチ素子Q6,Q7に対応する第2駆動信号G6,G7と、調整用スイッチ素子Q5,Q8に対応する第2駆動信号G5,G8として、互いに逆位相(位相差180度)の信号を発生する。これにより、可変容量回路22においては、第2の調整用スイッチ素子Q6および第3の調整用スイッチ素子Q7のペアと、第1の調整用スイッチ素子Q5および第4の調整用スイッチ素子Q8のペアとが交互にオンするように制御される。本実施形態では、制御回路23の制御部233は、第1駆動信号G1〜G4と、第2駆動信号G5〜G8との周波数を同一周波数としている。
そして、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオン、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオフの期間において、インバータ回路21の出力電圧が正極性であると、調整用スイッチ素子Q5,Q8を介して調整用コンデンサC1に電圧が印加される。つまり、インバータ回路21の一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介して電気的に接続された状態(以下、「第1の状態」ともいう)となる。
一方、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオン、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオフの期間において、インバータ回路21の出力電圧が負極性であると、ダイオードD7および調整用スイッチ素子Q5を通して電流が流れる。つまり、インバータ回路21の一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介さずに電気的に接続された状態(以下、「第2の状態」ともいう)となる。言い換えれば、調整用コンデンサC1の両端間がダイオードD7および調整用スイッチ素子Q5にてバイパスされた状態となる。
また、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオン、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオフの期間においては、インバータ回路21の出力電圧が正極性であると、調整用スイッチ素子Q6およびダイオードD8を通して電流が流れる。つまり、インバータ回路21の一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介さずに電気的に接続された状態(以下、「第3の状態」ともいう)となる。言い換えれば、調整用コンデンサC1の両端間が調整用スイッチ素子Q6およびダイオードD8にてバイパスされた状態となる。
一方、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオン、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオフの期間において、インバータ回路21の出力電圧が負極性であると、調整用スイッチ素子Q6,Q7を介して調整用コンデンサC1に電圧が印加される。つまり、インバータ回路21の一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介して電気的に接続された状態となる(以下、「第4の状態」ともいう)。なお、調整用コンデンサC1に印加される電圧の極性は、第1の状態と第4の状態とで逆極性になる。
このように、可変容量回路22は、一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介して電気的に接続された状態と、調整用コンデンサC1を介さず電気的に接続された状態とを切り替えている。これにより、一対の出力点213,214と一次側コイルL1との間の容量成分の大きさが、見かけ上、変化することになる。ここで、可変容量回路22がいずれの状態となるかは、複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8のオンオフ、およびインバータ回路21の出力電圧の極性によって決まる。要するに、可変容量回路22は、複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8のスイッチングにより、一対の出力点213,214と一次側コイルL1との間の容量成分の大きさを調整する。
したがって、本実施形態の非接触給電装置2は、一対の出力点213,214と一次側コイルL1との間の容量成分の大きさを可変容量回路22にて調整することで、非接触給電装置2の共振特性を変化させることが可能である。その結果、上述したように非接触給電装置2の出力電力が目標値P1に対して不足するような場合、可変容量回路22にて、目標値P1を満たすように出力電力の大きさを補正することが可能である。
ところで、本実施形態では、上述したように、変換用スイッチ素子Q1,Q4に対応する第1駆動信号G1,G4と、変換用スイッチ素子Q2,Q3に対応する第1駆動信号G2,G3とは互いに逆位相(位相差180度)の信号になる。同様に、調整用スイッチ素子Q6,Q7に対応する第2駆動信号G6,G7と、調整用スイッチ素子Q5,Q8に対応する第2駆動信号G5,G8とは互いに逆位相(位相差180度)の信号になる。
ここにおいて、本実施形態でいう第1駆動信号と第2駆動信号との位相差θは、第1駆動信号G1,G4に対する第2駆動信号G6,G7の位相の遅れ、あるいは第1駆動信号G2,G3に対する第2駆動信号G5,G8の位相の遅れである(図2参照)。すなわち、第1駆動信号G1,G4に対する第2駆動信号G6,G7の位相の遅れと、第1駆動信号G1,G4に対する第2駆動信号G5,G8の位相の遅れとでは180度の開きがあるため、いずれの位相の遅れを位相差θとするかで位相差θの値が異なる。そこで、本実施形態では、第1駆動信号G1,G4に対する第2駆動信号G6,G7の位相の遅れ、あるいは第1駆動信号G2,G3に対する第2駆動信号G5,G8の位相の遅れを位相差θと定義する。
ここで、第1駆動信号G1,G4および第2駆動信号G6,G7がいずれも「オン」であれば、可変容量回路22においては、一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介さずに電気的に接続された第3の状態となる。また、第1駆動信号G2,G3および第2駆動信号G5,G8がいずれも「オン」であれば、可変容量回路22においては、一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介さずに電気的に接続された第2の状態となる。つまり、本実施形態では、一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1が調整用コンデンサC1を介さずに電気的に接続された状態となるような、第1駆動信号と第2駆動信号との組み合わせについての位相の差を位相差θと定義している。
<進相モード・遅相モード>
次に、進相モードおよび遅相モードについて説明する。
(1)可変容量回路なし
ここではまず、上記「基本動作」の欄と同様に、可変容量回路22がない場合、つまり一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1および一対の一次側コンデンサC11,C12のみが電気的に接続されている場合について説明する。
この場合、インバータ回路21は、たとえばインバータ回路21の動作周波数と一次側共振回路の共振周波数との関係に応じて、遅相モードと進相モードとのいずれかの動作モードで動作する。
進相モードは、インバータ回路21の出力電流(一次側コイルL1を流れる電流)の位相が、インバータ回路21の出力電圧の位相よりも進んだ状態で、インバータ回路21が動作するモードである。つまり、進相モードでは、電圧位相に対して電流位相が進み位相(進相)になる。進相モードでは、インバータ回路21のスイッチング動作はハードスイッチングになる。したがって、進相モードでは、変換用スイッチ素子Q1〜Q4のスイッチング損失が増大しやすく、また、変換用スイッチ素子Q1〜Q4にストレスが加わりやすい。
一方、遅相モードは、インバータ回路21の出力電流(一次側コイルL1を流れる電流)の位相が、インバータ回路21の出力電圧の位相よりも遅れた状態で、インバータ回路21が動作するモードである。つまり、遅相モードでは、電圧位相に対して電流位相が遅れ位相(遅相)になる。遅相モードでは、インバータ回路21のスイッチング動作はソフトスイッチングになる。したがって、遅相モードでは、変換用スイッチ素子Q1〜Q4のスイッチング損失を低減でき、また、変換用スイッチ素子Q1〜Q4にストレスが加わりにくい。そのため、インバータ回路21は、進相モードよりも遅相モードで動作することが好ましい。
(2)可変容量回路あり
次に、可変容量回路22がある場合、つまり一対の出力点213,214間に、一次側コイルL1、一対の一次側コンデンサC11,C12、および可変容量回路22が電気的に接続されている場合について説明する。
この場合、可変容量回路22についても、インバータ回路21と同様に、進相モードと遅相モードとのいずれかの動作モードで動作する。可変容量回路22においても、進相モードでなく遅相モードで動作することが好ましい。
また、可変容量回路22がある場合には、インバータ回路21および可変容量回路22の動作モード(遅相モード、進相モード)は、第1駆動信号G1〜G4と第2駆動信号G5〜G8との位相差θに応じて変化することが確認されている。さらに、インバータ回路21の動作モードと位相差θとの関係は、可変容量回路22がない状態、つまり上記「(1)可変容量回路なし」で説明した条件下における、インバータ回路21の動作モード(初期モード)によって変化する。言い換えれば、インバータ回路21の動作周波数と一次側共振回路の共振周波数との関係で決まるインバータ回路21の動作モードである初期モードが遅相モードか進相モードかによって、インバータ回路21の動作モードと位相差θとの関係は変化する。
図5Aおよび図5Bは、それぞれ可変容量回路22がない状態でインバータ回路21が進相モードにある場合、遅相モードにある場合の、非接触給電装置2の出力電力の位相差θに対する特性(位相差特性)を示している。つまり、図5Aは初期モードが進相モードである場合の出力電力の位相差θに対する特性を示し、図5Bは初期モードが遅相モードにある場合の出力電力の位相差θに対する特性を示している。図5Aおよび図5Bでは、横軸を第1駆動信号G1〜G4と第2駆動信号G5〜G8との位相差θ、縦軸を非接触給電装置2の出力電力とする。
すなわち、可変容量回路22がない状態でインバータ回路21が進相モードにある場合、つまり初期モードが進相モードである場合(以下、「初期進相」という)においては、非接触給電装置2の出力電力は、たとえば図5Aに示すように位相差θに応じて変化する。図5Aの例では、非接触給電装置2の出力電力は、位相差θが90度のときに極大かつ最大となり、位相差θが180度のときに極小かつ最小となるように位相差θによって変化する。非接触給電装置2の出力電力が位相差θによって変化する原理については、下記「(2)位相差制御による出力電力制御の原理」の欄で説明する。ここで、位相差θ(0度〜360度)を4つの区分に分け、0度〜90度を第1区分Z1、90度〜180度を第2区分Z2、180度〜270度を第3区分Z3、270度〜360度を第4区分Z4とする。そうすると、初期モードが進相モードとなる「初期進相」の場合においては、インバータ回路21の動作モード(遅相モード、進相モード)と位相差θの各区分との関係は表1のようになる。
要するに、「初期進相」の場合にあっては、インバータ回路21が遅相モードで動作するのは、第1区分Z1〜第4区分Z4のうち、位相差θが90度〜180度となる第2区分Z2のみである。
一方、可変容量回路22がない状態でインバータ回路21が遅相モードにある場合、つまり初期モードが遅相モードである場合(以下、「初期遅相」という)においては、非接触給電装置2の出力電力は、たとえば図5Bに示すように位相差θに応じて変化する。図5Bの例では、非接触給電装置2の出力電力は、位相差θが270度のときに極大かつ最大となり、位相差θが180度のときに極小かつ最小となるように位相差θによって変化する。そのため、初期モードが遅相モードとなる「初期遅相」の場合においては、インバータ回路21および可変容量回路22のそれぞれの動作モード(遅相モード、進相モード)と位相差θの各区分との関係は表2のようになる。
要するに、「初期遅相」の場合にあっては、インバータ回路21が遅相モードで動作するのは、第1区分Z1〜第4区分Z4のうち、位相差θが0度〜180度、270度〜360度となる第1区分Z1、第2区分Z2、および第4区分Z4の3区分である。また、「初期遅相」の場合において、可変容量回路22が遅相モードで動作するのは、第1区分Z1〜第4区分Z4のうち、位相差θが0度〜90度、180度〜360度となる第1区分Z1、第3区分Z3、および第4区分Z4の3区分である。つまり、「初期遅相」の場合に、インバータ回路21と可変容量回路22とのいずれもが遅相モードで動作するのは、第1区分Z1〜第4区分Z4のうち、位相差θが0度〜90度、270度〜360度となる第1区分Z1、および第4区分Z4の2区分である。
<出力電力制御>
次に、本実施形態の非接触給電装置2において、出力電力の大きさを調節する「出力電力制御」の動作について説明する。
(1)周波数制御および位相差制御
本実施形態では、制御回路23の制御部233は、第1駆動信号G1〜G4および第2駆動信号G5〜G8の周波数を調節する「周波数制御」と、位相差θを調節する「位相差制御」との2つの方法で、出力電力の大きさを調節するように構成されている。
本実施形態では、制御回路23の制御部233は、まず位相差θを調節することにより出力電力の大きさを調節する位相差制御を行う。
位相差制御では、制御部233が第1駆動信号G1,G4(G2,G3)に対する第2駆動信号G6,G7(G5,G8)の位相の遅れである位相差θを規定範囲内の設定値に調節することにより、非接触給電装置2の出力電力の大きさを調節する。ここで、規定範囲は、位相差制御の開始時点においてはデフォルトの範囲に設定されており、位相差制御の開始後、推定部231で推定される初期モードに応じて設定部232で設定される。ここで、制御回路23は、制御部233にて可変容量回路22を動作させた状態で、初期モード(可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モード)が進相モードと遅相モードとのいずれであるかを推定する。すなわち、推定部231は、実際に可変容量回路22を無効にすることなく、制御部233からの第2駆動信号G5〜G8にて可変容量回路22を動作させたままの状態で、初期モードの推定を行う。推定部231での初期モードの推定方法については、下記「初期モードの推定」の欄で詳しく説明する。
本実施形態では一例として、デフォルト(位相差制御の開始時点)の規定範囲は90度〜180度の範囲である。さらに、位相差制御の開始時点での位相差θ、つまり位相差θの初期値は、デフォルトの規定範囲内の値であって、本実施形態では一例として180度である。
要するに、位相差制御の開始後、制御部233は、まずデフォルトの規定範囲(ここでは90度〜180度)内で位相差θを調節することにより、非接触給電装置2の出力電力の大きさを調節する。
すなわち、図5Aおよび図5Bから明らかなように、非接触給電装置2の出力電力は位相差θに応じて変化するので、制御部233が位相差θを設定値に調節することで出力電力の大きさの調節が可能である。ただし、第1駆動信号G1〜G4と第2駆動信号G5〜G8との位相差θは、上述したようにインバータ回路21の動作モード(遅相モード、進相モード)にも影響する。さらに、可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モードである初期モードが遅相モードか進相モードかによって、インバータ回路21の動作モードと位相差θとの関係は変化する。そのため、インバータ回路21を遅相モードで動作させるには、位相差θを調節可能な範囲(規定範囲)が、初期モードに応じて動的に設定されている必要がある。
そこで、本実施形態の非接触給電装置2においては、上述したように位相差制御の開始後、推定部231で推定された初期モードに応じて、規定範囲が設定部232にて設定される。つまり、位相差制御において、規定範囲は、不変的ではなく、初期モード(可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モード)に応じて変化する。言い換えれば、設定部232は推定部231の推定結果に応じて規定範囲を動的に設定する。この点について、以下に詳しく説明する。
まず、推定部231で推定された初期モードが進相モードである場合、つまり「初期進相」の場合について、図5Aを参照して説明する。この場合、上述したようにインバータ回路21が遅相モードで動作するのは、第1区分Z1〜第4区分Z4のうち、位相差θが90度〜180度となる第2区分Z2のみである。そこで、本実施形態においては、推定部231で推定された初期モードが進相モードであれば(つまり「初期進相」の場合)、設定部232は規定範囲を90度〜180度の範囲に設定するように構成されている。本実施形態では、デフォルト(位相差制御の開始時点)の規定範囲が90度〜180度の範囲であるので、推定部231で推定された初期モードが進相モードであれば、設定部232は規定範囲をデフォルトのままとする。これにより、制御回路23が、位相差θを規定範囲内の設定値に調節して非接触給電装置2の出力電力の大きさを調節したときに、インバータ回路21は遅相モードで動作することができる。
次に、推定部231で推定された初期モードが遅相モードである場合、つまり「初期遅相」の場合について、図5Bを参照して説明する。この場合、上述したようにインバータ回路21が遅相モードで動作するのは、第1区分Z1、第2区分Z2、および第4区分Z4の3区分である。ただし、位相差θが0度〜90度となる第1区分Z1においては、位相差θが変化しても出力電力の大きさには殆ど変化がない。そこで、位相差θの調節により出力電力の大きさを調節するためには、位相差θが90度〜180度となる第2区分Z2、および位相差θが270度〜360度となる第4区分Z4の2区分内で位相差θを調節する必要がある。そのため、本実施形態においては、推定部231で推定された初期モードが遅相モードであれば(つまり「初期遅相」の場合)、設定部232は規定範囲を90度〜180度と270度〜360度との両方を含む範囲に設定するように構成されている。本実施形態では、デフォルト(位相差制御の開始時点)の規定範囲が90度〜180度の範囲であるので、推定部231で推定された初期モードが遅相モードであれば、設定部232は規定範囲をデフォルトの範囲から拡大することになる。たとえば規定範囲が270度〜360度および90度〜180度の範囲であれば、制御回路23が、位相差θを規定範囲内の設定値に調節して非接触給電装置2の出力電力の大きさを調節したときに、インバータ回路21は遅相モードで動作することができる。
また、「初期進相」か「初期遅相」かにかかわらず、インバータ回路21が遅相モードで動作する区分(第2区分Z2と第4区分Z4との少なくとも一方)においては、図5Aおよび図5Bに示すように、位相差θが小さくなるに従って出力電力は大きくなる。そこで、本実施形態においては、たとえば規定範囲が第2区分(90度〜180度)Z2であれば、規定範囲の上限値(180度)から下限値(90度)にかけて位相差θが徐々に小さくなるように、制御回路23は、設定値を規定範囲内で徐々に小さくする。同様に、規定範囲が第4区分(270度〜360度)Z4であれば、規定範囲の上限値(360度)から下限値(270度)にかけて位相差θが徐々に小さくなるように、制御回路23は、設定値を規定範囲内で徐々に小さくすることが好ましい。これにより、制御回路23が規定範囲内で設定値を徐々に変化させる(小さくする)のに伴って、非接触給電装置2の出力電力が徐々に大きくなる。
ところで、本実施形態では、「初期遅相」の場合において、制御回路23は、位相差θを90度〜180度の範囲内で調節する第1処理と、位相差θを270度〜360度の範囲内で調節する第2処理とを択一的に選択可能である。ここで、制御回路23は、第1処理後の出力電力の大きさが所定の目標値未満であれば第2処理に移行するように構成されている。要するに、「初期遅相」の場合、制御部233は、まずは第1処理を選択して、規定範囲のうちの90度〜180度の範囲内で位相差θを調節する。そして、第1処理では出力電力の大きさが目標値に達しなかった場合に、制御部233は、第2処理を選択して、規定範囲のうちの270度〜360度の範囲内で位相差θを調節する。言い換えれば、「初期遅相」の場合には、規定範囲は90度〜180度と270度〜360度との両方を含む範囲に設定されるが、制御部233は、第1処理で出力電力が目標値に達しなかった場合にのみ、270度〜360度の範囲内で位相差θを調節する。
ここで、制御回路23は、第1処理から第2処理へ移行する際、90度から0度にかけて位相差θを徐々に小さくするように構成されている。すなわち、推定部231で推定された初期モードが遅相モードであれば(つまり「初期遅相」の場合)、位相差θが0度〜90度となる第1区分Z1においても、上述したようにインバータ回路21は遅相モードで動作する。そこで、本実施形態では、「初期遅相」の場合、設定部232は0度〜90度の範囲も規定範囲に含めることにより、0度〜180度および270度〜360度の範囲を規定範囲とする。位相差θにおいて0度と360とは等しいため、位相差θが0度であることと、位相差θが360度であることは同義である。そのため、0度〜180度および270度〜360度の範囲からなる規定範囲は、上限値を180度、下限値を270度とする、270度〜180度の連続した範囲とみなすことができる。
具体的に説明すると、制御部233は、まずは第1処理として、位相差θを規定範囲の上限値である180度から90度にかけて位相差θを徐々に小さくする。この間に出力電力の大きさが目標値に達すれば、制御部233は、出力電力の大きさが目標値に達した時点の値に位相差θを固定して位相差制御を終了する。一方、第1処理では出力電力の大きさが目標値に達しない場合、制御部233は、90度から0度にかけて位相差θを徐々に小さくする。この間には、位相差θが変化しても出力電力の大きさには殆ど変化がない。そして、位相差θが0度(=360度)に達すると、制御部233は、第2処理として、位相差θを360度(0度)から規定範囲の下限値である270度にかけて位相差θを徐々に小さくする。この間に出力電力の大きさが目標値に達すれば、制御部233は、出力電力の大きさが目標値に達した時点の値に位相差θを固定して位相差制御を終了する。このように、本実施形態では、制御回路23は、第1処理から第2処理へ移行する際、90度から0度(=360度)に位相差θを瞬間的に切り替えるのではなく、90度から0度(=360度)にかけて位相差θを連続的に変化させる。
なお、「初期遅相」の場合において、インバータ回路21だけでなく可変容量回路22も遅相モードで動作するのは、上述したように位相差θが0度〜90度、270度〜360度となる第1区分Z1、および第4区分Z4の2区分である。上述したように第1区分Z1においては位相差θが変化しても出力電力の大きさには殆ど変化がないため、第1区分Z1および第4区分Z4の2区分のうち、位相差θの調節により出力電力の大きさが調節可能であるのは第4区分Z4のみである。そのため、「初期遅相」の場合においては、位相差制御により出力電力が調整された後の最終的な位相差θは、270度〜360度の範囲内であることがより好ましい。これにより、制御回路23が、位相差θを規定範囲内の設定値に調節して非接触給電装置2の出力電力の大きさを調節したときに、インバータ回路21および可変容量回路22の両方が遅相モードで動作することができる。
そして、上述したような位相差制御にて調節後の出力電力の大きさが所定の目標値未満である場合に、制御回路23の制御部233は以下に説明する周波数制御を行う。つまり、位相差制御だけでは目標値に対して出力電力が不足する場合には、制御部233は周波数制御で不足分を補う。
周波数制御では、制御部233は、第1駆動信号G1〜G4および第2駆動信号G5〜G8の周波数を調節することにより出力電力の大きさを調節する。つまり、上記「基本動作」の「(1)可変容量回路なし」の欄で説明したように、一次側コイルL1から出力される出力電力の大きさは、インバータ回路21の動作周波数(つまり第1駆動信号Q1〜Q4の周波数)に応じて変化する(図3参照)。そのため、周波数制御では、制御回路23の制御部233は、第1駆動信号G1〜G4および第2駆動信号G5〜G8の周波数を調節することで、インバータ回路21の動作周波数を調節し、出力電圧の大きさを調節する。
ここで、インバータ回路21の動作周波数として使用可能な周波数帯域(許可周波数帯F1)が制限されている場合には、周波数制御で調節可能な周波数は、この許可周波数帯F1内に限定される。なお、本実施形態において周波数制御時における位相差θは、位相差制御にて調節後の位相差θと同値である。要するに、周波数制御を行っている間、制御部233は位相差θを、位相差制御で調節された最終的な位相差θ(「初期進相」の場合は90度、「初期遅相」の場合は270度)に固定している。
(2)位相差制御による出力電力制御の原理
以下、制御回路23が位相差制御にて位相差θを規定範囲内の設定値に調節することにより、非接触給電装置2の出力電力の大きさが調節される原理について、図6A〜図8を参照して説明する。
非接触給電装置2の出力電力は、一次側共振回路の一次側コイルL1に印加される電圧によって変化する。一次側コイルL1に印加される電圧は、インバータ回路21の出力電圧と、可変容量回路22の両端電圧(調整用スイッチ素子Q5のドレイン、および調整用スイッチ素子Q7のドレイン間の電圧)との合成電圧である。そのため、インバータ回路21の出力電圧と、可変容量回路22の両端電圧とが同極性であり、互いに強め合う場合に、一次側コイルL1に印加される電圧が大きくなり、非接触給電装置2の出力電力は大きくなる。この場合において、調整用コンデンサC1の両端電圧が大きくなるほど、可変容量回路22の両端電圧が大きくなって、一次側コイルL1に印加される電圧が大きくなるので、非接触給電装置2の出力電力は大きくなる。そこで、位相差制御では、制御回路23は、位相差θを調節することにより、調整用コンデンサC1の充電と放電とのバランスを変化させ、調整用コンデンサC1の両端電圧を変化させて、非接触給電装置2の出力電力を変化させる。
ここにおいて、調整用コンデンサC1が充電されるか放電されるかは、複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8のオンオフ、およびインバータ回路21の出力電流の向きによって決まる。インバータ回路21の出力電流は、一次側コイルL1を流れる電流であるから、以下「一次側電流I1」ともいう。第1の出力点213から、一次側コンデンサC11、可変容量回路22、一次側コイルL1、および一次側コンデンサC11を通って第2の出力点214に流れる一次側電流I1の向き、つまり図1に矢印で示す一次側電流I1の向きを、「正方向」という。第2の出力点214から、一次側コンデンサC12、一次側コイルL1、可変容量回路22、および一次側コンデンサC11を通って第1の出力点213に流れる一次側電流I1の向き、つまり図1に矢印で示す一次側電流I1とは逆の向きを、「負方向」という。
図6A〜6Dは、複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8のオンオフと、一次側電流I1の向きとの組み合わせパターンを示している。図6A〜6D中、太線矢印は電流経路を表し、点線の丸印が付された調整用スイッチ素子はオン状態の素子を表している。
図6Aは、可変容量回路22の状態として、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオン、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオフであって、負方向の一次側電流I1が流れている状態(以下、「第1充電モード」という)を表している。図6Bは、可変容量回路22の状態として、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオン、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオフであって、正方向の一次側電流I1が流れている状態(以下、「第1放電モード」という)を表している。図6Cは、可変容量回路22の状態として、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオン、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオフであって、正方向の一次側電流I1が流れている状態(以下、「第2充電モード」という)を表している。図6Dは、可変容量回路22の状態として、調整用スイッチ素子Q5,Q8がオン、調整用スイッチ素子Q6,Q7がオフであって、負方向の一次側電流I1が流れている状態(以下、「第2放電モード」という)を表している。図6Aに示す第1充電モード、および図6Cに示す第2充電モードにおいて、調整用コンデンサC1は充電される。一方、図6Bに示す第1放電モード、および図6Dに示す第2放電モードで、調整用コンデンサC1は放電される。
次に、図7および図8を参照して、位相差θと、調整用コンデンサC1の充電および放電のバランスとの関係について説明する。図7および図8ではいずれも、横軸を時間軸として、上から順に第1駆動信号「G1,G4」、一次側電流「I1」、2種類の第2駆動信号「G6,G7」の波形を表している。ここでいう2種類の第2駆動信号は互いに位相差θが異なっている。なお、図7および図8中の「オン」、「オフ」は、対応するスイッチ素子(変換用スイッチ素子、調整用スイッチ素子)のオン、オフを表している。
図7は、「初期遅相」の場合であって、インバータ回路21の出力電圧に対する一次側電流I1の位相の遅れ(以下、「電圧電流位相差」という)Φが90度である場合を例示している。図7では、2種類の第2駆動信号「G6,G7」の波形として、上から順に位相差θが360度のときの波形、位相差θが320度のときの波形を表している。さらに、図7では、位相差θが360度の場合について、第1充電モードの期間を「Tca1」、第1放電モードの期間を「Tda1」、第2充電モードの期間を「Tca2」、第2放電モードの期間を「Tda2」で表している。同様に、位相差θが320度の場合について、第1充電モードの期間を「Tcb1」、第1放電モードの期間を「Tdb1」、第2充電モードの期間を「Tcb2」、第2放電モードの期間を「Tdb2」で表している。
図7から明らかなように、位相差θが360度であれば、第2駆動信号の1周期において、調整用コンデンサC1が充電される時間(以下、「充電時間」という)と、調整用コンデンサC1が放電される時間(以下、「放電時間」という)とは略均衡する。つまり、位相差θが360度であれば、「Tca1」および「Tca2」の合計と、「Tda1」および「Tda2」の合計とは、略同じ長さになる。一方、位相差θが320度であれば、第2駆動信号の1周期において、充電時間が放電時間を上回る。つまり、位相差θが320度であれば、「Tcb1」および「Tcb2」の合計は、「Tdb1」および「Tdb2」の合計よりも、長くなる。
上記より、位相差θが360度から270度に近づくように変化すると、第2駆動信号の1周期において、充電時間と放電時間との均衡が破れ、徐々に、充電時間の占める割合が大きくなる。充電時間が放電時間に対して長くなるほど、調整用コンデンサC1の両端電圧が大きくなるので、結果的に、位相差θが360度から270度に近づくにつれて、非接触給電装置2の出力電力が、徐々に大きくなる。
また、図8は、「初期遅相」の場合であって、電圧電流位相差Φが45度である場合を例示している。図8では、2種類の第2駆動信号「G6,G7」の波形として、上から順に位相差θが315度のときの波形、位相差θが290度のときの波形を表している。さらに、図8では、位相差θが315度の場合について、第1充電モードの期間を「Tca1」、第1放電モードの期間を「Tda1」、第2充電モードの期間を「Tca2」、第2放電モードの期間を「Tda2」で表している。同様に、位相差θが290度の場合について、第1充電モードの期間を「Tcb1」、第1放電モードの期間を「Tdb1」、第2充電モードの期間を「Tcb2」、第2放電モードの期間を「Tdb2」で表している。
電圧電流位相差Φが45度であれば、図8から明らかなように、位相差θが315度であっても、第2駆動信号の1周期において、充電時間と放電時間とは略均衡する。つまり、位相差θが315度であっても、「Tca1」および「Tca2」の合計と、「Tda1」および「Tda2」の合計とは、略同じ長さになる。一方、位相差θが290度であれば、第2駆動信号の1周期において、充電時間が放電時間を上回る。つまり、位相差θが290度であれば、「Tcb1」および「Tcb2」の合計は、「Tdb1」および「Tdb2」の合計よりも、長くなる。
上記より、電圧電流位相差Φが90度の場合に限らず、「初期遅相」の場合には、位相差θが360度から270度に近づくように変化すると、第2駆動信号の1周期において、充電時間と放電時間との均衡が破れ、徐々に、充電時間の占める割合が大きくなる。ただし、電圧電流位相差Φが90度の場合は、位相差θが320度のときには充電時間が放電時間を上回るのに対し、電圧電流位相差Φが45度の場合は、位相差θが315度のときでも充電時間と放電時間とは均衡する。このように、位相差θを360度から徐々に小さくした場合に、充電時間と放電時間との均衡が破れて調整用コンデンサC1の両端電圧が上昇し始める変曲点に相当する位相差θ(以下、「変化開始点」という)は、電圧電流位相差Φによって異なる。変化開始点は、電圧電流位相差Φが90度のときよりも45度のときの方が、つまり電圧電流位相差Φが小さいほど、270度に近づく向きにシフトする。
すなわち、「初期遅相」の場合、電圧電流位相差Φによる違いはあるとしても、規定範囲(たとえば270度〜360度)内に変化開始点が存在する。そのため、制御回路23が、規定範囲の上限値(360度)から下限値(270度)にかけて位相差θを徐々に小さくすれば、位相差θが変化開始点に達した以降は、非接触給電装置2の出力電力は徐々に大きくなる。
また、図7および図8では「初期遅相」の場合を例示したが、「初期進相」の場合は、「初期遅相」の例を基準にして一次側電流I1の位相を180度ずらした場合と等価である。つまり、図7および図8の例において、一次側電流I1の位相を180度ずらせば、「初期進相」の例となる。したがって、「初期進相」の場合でも、電圧電流位相差Φによる違いはあるとしても、規定範囲(180度〜90度)内に変化開始点が存在する。そのため、制御回路23が、規定範囲の上限値(180度)から下限値(90度)にかけて位相差θを徐々に小さくすれば、位相差θが変化開始点に達した以降は、非接触給電装置2の出力電力は徐々に大きくなる。
以上説明したような原理で、「初期遅相」および「初期進相」のいずれの場合でも、制御回路23が位相差制御にて位相差θを規定範囲内の設定値に調節することにより、非接触給電装置2の出力電力の大きさが調節される。
(3)出力電力制御の全体的な流れ
以下、本実施形態の「出力電力制御」の全体的な流れについて、制御回路23の処理を表す図9のフローチャートを参照して説明する。
出力電力制御が開始すると、制御回路23は、まず所定の目標値と出力電力の大きさとを比較する(S1)。出力電力が目標値の許容誤差範囲(±数%)内にあれば(S1:定格)、出力電力制御を終了する。
一方、出力電力が目標値の許容誤差範囲の下限を下回っていれば(S1:不足)、制御回路23は、まず位相差制御にて出力電力の調節を行う。具体的には、制御回路23は位相差θと規定範囲の下限値とを比較する(S11)。ここで、規定範囲が270度〜360度の範囲であれば、位相差θの初期値は360(度)、規定範囲の下限値は270(度)となる。規定範囲が90度〜180度の範囲であれば、位相差θの初期値は180(度)、規定範囲の下限値は90(度)となる。本実施形態では、デフォルトの規定範囲は90度〜180度の範囲であるので、位相差制御の開始直後には、位相差θの初期値は180(度)、規定範囲の下限値は90(度)となる。位相差θが下限値以上であれば(S11:No)、制御回路23は位相差θをデクリメント(θ−1)して(S12)、処理S1の動作に戻る。これらの処理(S11,S12)を繰り返すことにより、制御回路23は、位相差θを徐々に小さくして、出力電力を徐々に大きく、つまり目標値に近づけることができる。
一方、位相差制御において位相差θが下限値未満になると(S11:Yes)、制御回路23は、推定部231にて初期モードの推定を行い(S13)、推定された初期モードに応じて設定部232にて規定範囲を設定する(S14)。それから、制御回路23は、位相差θと、新たに設定された規定範囲の下限値とを比較する(S15)。たとえば、位相差制御の開始直後でデフォルトの規定範囲が設定されている状態において、推定部231で推定された初期モードが遅相モードであれば、設定部232は規定範囲をデフォルトの範囲から拡大することになる。この場合、新たに設定された(拡大後の)規定範囲は、上限値を180度、下限値を270度とする270度〜180度の範囲(0度〜180度および270度〜360度の範囲)である。そして、位相差θが下限値以上であれば(S15:No)、制御回路23は処理S12の動作に移行し、位相差θをデクリメント(θ−1)して(S12)、処理S1の動作に戻る。その後、処理S11,S12を繰り返すことにより、制御回路23は、位相差θを徐々に小さくして、出力電力を徐々に大きく、つまり目標値に近づけることができる。
位相差θと、新たに設定された規定範囲の下限値との比較結果において、位相差θが下限値未満になると(S15:Yes)、次に制御回路23は周波数制御にて出力電力の調節を行う。具体的には、制御回路23はインバータの動作周波数(つまり第1駆動信号G1〜G4の周波数)f1と、許可周波数帯F1の下限値fminとを比較する(S16)。動作周波数f1が下限値fminより高ければ(S16:Yes)、制御回路23はインバータの動作周波数f1を所定値Δfだけ低くして(S17)、処理S1の動作に戻る。これらの処理(S16,S17)を繰り返すことにより、制御回路23は、動作周波数f1を徐々に低下させて、出力電力を徐々に大きく、つまり目標値に近づけることができる。なお、動作周波数f1の初期値は、たとえば許可周波数帯F1の上限値fmaxである。
なお、周波数制御において動作周波数f1が下限値fmin以下になると(S16:No)、制御回路23は、エラーと判断して(S18)、出力電力制御を終了する。
また、出力電力が目標値の許容誤差範囲の上限を上回っていれば(S1:超過)、制御回路23は、まず周波数制御にて出力電力の調節を行う。具体的には、制御回路23はインバータの動作周波数(つまり第1駆動信号G1〜G4の周波数)f1と、許可周波数帯F1の上限値fmaxとを比較する(S21)。動作周波数f1が上限値fmaxより低ければ(S21:Yes)、制御回路23はインバータの動作周波数f1を所定値Δfだけ高くして(S22)、処理S1の動作に戻る。これらの処理(S21,S22)を繰り返すことにより、制御回路23は、動作周波数f1を徐々に上昇させて、出力電力を徐々に小さく、つまり目標値に近づけることができる。
周波数制御において動作周波数f1が上限値fmax以上になると(S21:No)、次に制御回路23は位相差制御にて出力電力の調節を行う。具体的には、制御回路23は位相差θと規定範囲の上限値とを比較する(S23)。ここで、規定範囲が270度〜360度の範囲であれば規定範囲の上限値は360(度)、規定範囲が90度〜180度の範囲であれば規定範囲の上限値は180(度)となる。位相差θが上限値以下であれば(S23:No)、制御回路23は位相差θをインクリメント(θ+1)して(S24)、処理S1の動作に戻る。これらの処理(S23,S24)を繰り返すことにより、制御回路23は、位相差θを徐々に大きくして、出力電力を徐々に小さく、つまり目標値に近づけることができる。
なお、位相差制御において位相差θが上限値を超えると(S23:Yes)、制御回路23は、エラーと判断して(S25)、出力電力制御を終了する。
また、制御回路23が位相差制御にて出力電力の調節を行う際、規定範囲の上限値を初期値として、位相差θを初期値(規定範囲の上限値)から徐々に小さくすることは、非接触給電装置2に必須の構成ではない。たとえば、規定範囲が270度〜360度の範囲である場合、制御回路23は、規定範囲の上限値を超える値(たとえば370度)を初期値として、位相差θをこの初期値から徐々に小さくしてもよい。または、規定範囲が270度〜360度の範囲である場合、制御回路23は、規定範囲の上限値よりも小さな値(たとえば315度)を初期値として、位相差θをこの初期値から徐々に小さくしてもよい。いずれの場合でも、規定範囲内に存在する変化開始点と規定範囲の下限値との間の領域では、位相差θの変化に応じて非接触給電装置2の出力電力が変化する。
<初期モードの推定>
次に、推定部231での初期モードの推定方法について説明する。ここでは、2通りの推定方法を例示する。
第1の初期モードの推定方法として、推定部231は、インバータ回路21の電圧位相と電流位相との差(電圧電流位相差)に基づいて、初期モードを推定する。つまり、推定部231は、インバータ回路21の出力電流(一次側コイルL1を流れる電流)の位相(電流位相)と、インバータ回路21の出力電圧の位相(電圧位相)との位相差である電圧電流位相差から、初期モードを推定する。ここで、電圧電流位相差は、電圧位相に対する電流位相の遅れである。
具体的には、推定部231は、たとえば図10に示すようなフローチャートに従って動作し、初期モードが進相モードか遅相モードかの推定を行う。図10の例では、推定部231は、位相差θを90度〜180度の範囲内で変化させたときに、インバータ回路21の出力電圧に対する出力電流の位相差を算出し、電圧電流位相差を取得する(S101)。ここで、推定部231が電圧電流位相差を取得するのは、位相差θがデフォルトの規定範囲の下限値(90度)付近にあるタイミングであることが好ましい。たとえば、位相差θが100度から90度の間にあるときに、推定部231が電圧電流位相差を取得する。
その後、推定部231は、取得した電圧電流位相差と所定の閾値(第1閾値)とを比較する(S102)。電圧電流位相差が第1閾値以下であれば(S102:Yes)、推定部231は、初期モードが進相モードである、つまり「初期進相」であると推定する(S103)。一方、電圧電流位相差が第1閾値より大きければ(S102:No)、推定部231は、初期モードが遅相モードである、つまり「初期遅相」であると推定する(S104)。
電圧電流位相差から初期モードが推定される原理について、図11を参照して簡単に説明する。図11は、電圧電流位相差と位相差θとの関係を示している。図11では、横軸を第1駆動信号G1〜G4と第2駆動信号G5〜G8との位相差θ、縦軸を電圧電流位相差として、「初期進相」の場合の電圧電流位相差を「X1」、「初期遅相」の場合の電圧電流位相差を「X2」で示している。図11において、電圧電流位相差が正の値(0度〜90度)となる領域は、電圧位相に対して電流位相が遅れ位相となる領域、つまりインバータ回路21が遅相モードで動作する領域である。一方、電圧電流位相差が負の値(0度〜−90度)となる領域(ハッチング部分)は、電圧位相に対して電流位相が進み位相となる領域、つまりインバータ回路21が進相モードで動作する領域である。
位相差θが第2区分(90度〜180度の範囲)Z2内にあれば、初期モードが進相モードか遅相モードかによらず、インバータ回路21は遅相モードで動作する。そのため、第2区分Z2においては、「初期進相」と「初期遅相」とのいずれの場合でも、電圧電流位相差X1,X2は正の値となる。一方、位相差θが第1区分(0度〜90度の範囲)Z1内にあるとき、初期モードが進相モードの場合に、インバータ回路21は進相モードで動作し、初期モードが遅相モードの場合に、インバータ回路21は遅相モードで動作する。そのため、第1区分Z1においては、「初期進相」の場合の電圧電流位相差X1は負の値となり、「初期遅相」の場合の電圧電流位相差X2は正の値となる。
したがって、位相差θが、第2区分Z2内で変化し第1区分Z1との境界(90度)に近づくほどに、「初期進相」の電圧電流位相差X1は小さくなり、「初期遅相」の電圧電流位相差X2との差(X2−X1)が大きくなる。図11の例では、第2区分Z2における第1区分Z1との境界付近(たとえば90度〜100度)において、「初期進相」の場合の電圧電流位相差X1が0度付近まで低下するのに対し、「初期遅相」の場合の電圧電流位相差X2は60度以上である。そのため、推定部231は、このときの電圧電流位相差を取得し、第1閾値(たとえば30度)と比較することにより、「初期進相」か「初期遅相」かを推定可能となる。
なお、「初期進相」の場合と「初期遅相」の場合とでは、第2区分Z2における第1区分Z1との境界付近(たとえば90度〜100度)で位相差θが変化するときの、電圧電流位相差の変化量も異なる。つまり、位相差θが90度〜100度の範囲内で変化するときの電圧電流位相差の変化量は、「初期進相」の場合(X1)に、「初期遅相」の場合(X2)より大きくなる。したがって、推定部231は、電圧電流位相差の変化量に基づいて、初期モードを推定することも可能である。
第2の初期モードの推定方法として、推定部231は、位相差θを90度〜180度の範囲内で変化させたときの、出力電力の変化に基づいて、初期モードを推定する。つまり、推定部231は、非接触給電装置2の出力電力の変化から、初期モードを推定する。
具体的には、推定部231は、たとえば図12に示すようなフローチャートに従って動作し、初期モードが進相モードか遅相モードかの推定を行う。図12の例では、推定部231は、位相差θを90度〜180度の範囲内で変化させたときに、出力電力の変化量(以下、「電力変化量」という)を取得する(S201)。ここで、推定部231が電力変化量を取得するのは、位相差θがデフォルトの規定範囲の下限値(90度)付近にあるタイミングであることが好ましい。たとえば、位相差θが100度から90度の間にあるときに、推定部231が電力変化量を取得する。
その後、推定部231は、取得した電力変化量と所定の閾値(第2閾値)とを比較する(S202)。電力変化量が第2閾値以上であれば(S202:Yes)、推定部231は、初期モードが進相モードである、つまり「初期進相」であると推定する(S203)。一方、電力変化量が第2閾値未満であれば(S202:No)、推定部231は、初期モードが遅相モードである、つまり「初期遅相」であると推定する(S204)。
すなわち、「初期進相」の場合には、図5Aに示したように第2区分Z2における第1区分Z1との境界付近(たとえば90度〜100度)において、出力電力の変化量は大きくなる。一方、「初期遅相」の場合には、図5Bに示したように第2区分Z2における第1区分Z1との境界付近(たとえば90度〜100度)において、出力電力の変化量は小さくなる。そのため、推定部231では、この変化量の違いから、「初期進相」か「初期遅相」かを推定可能となる。
<起動処理>
本実施形態の非接触給電装置2は、インバータ回路21および可変容量回路22が動作を開始する起動時において、以下に説明するようにインバータ回路21をソフトスタートさせる。
制御回路23は、インバータ回路21の起動時、変換用スイッチ素子Q1〜Q4を制御するための第1駆動信号G1〜G4のデューティ比を、0(ゼロ)から所定値(たとえば0.5)まで徐々に上げることで、インバータ回路21のソフトスタートを実現する。これにより、非接触給電装置2に入力される電圧や電流の急変が抑制され、回路素子に加わるストレスを低減できる。以下では、このように制御回路23が第1駆動信号G1〜G4のデューティ比を変化させてインバータ回路21をソフトスタートさせる処理を、「起動処理」という。
本実施形態の非接触給電装置2は、制御回路23が起動処理を行っている間、可変容量回路22に関しては全ての調整用スイッチ素子Q5〜Q8をオンに固定し、可変容量回路22の機能を無効にする。これにより、非接触給電装置2は、「(1)可変容量回路なし」(上記「基本動作」の欄参照)と等価の状態となる。
制御回路23は、起動処理が終了すると、つまり第1駆動信号G1〜G4のデューティ比が所定値(たとえば0.5)に達すると、可変容量回路22についても動作を開始させる。要するに、制御回路23は、起動処理の終了後、第2駆動信号G5〜G8にて調整用スイッチ素子Q5〜Q8の制御を開始する。これにより、非接触給電装置2は、「(2)可変容量回路あり」(上記「基本動作」の欄参照)と等価の状態となる。このとき、規定範囲はデフォルトの範囲となり、制御回路23は、初期値である180(度)に位相差θを設定し、可変容量回路22の動作を開始させる。
ところで、上述のような起動処理を行う場合、制御回路23は、起動処理の終了後、可変容量回路22の動作を開始させる前に、周波数制御にて出力電力の調節を行うように構成されていてもよい。すなわち、制御回路23は、起動処理の終了後、可変容量回路22の動作開始前に、周波数制御にて出力電力の調節を行い、周波数制御にて調節後の出力電力の大きさが所定の目標値未満である場合に、可変容量回路22の動作を開始させてもよい。この場合、制御回路23は、可変容量回路22の動作を開始後に、位相差制御にて出力電力の調節を行う。この構成によれば、周波数制御のみで出力電力の大きさが目標値に達する場合には、制御回路23は、可変容量回路22を動作させないので、可変容量回路22による効率(電力変換効率)の低下を避けることができる。
<サーチモード>
本実施形態においては、制御回路23は、上述したような出力電力制御を行う通常モード(起動処理を含む)の他に、一次側コイルL1と二次側コイルL2との間の結合係数を推定するサーチモードを有している。サーチモードにおいては、制御回路23は、位相差θを規定範囲内で徐々に変化させ、位相差θの変化に伴う計測値(計測部24の計測値)の変化に基づいて、結合係数を推定するように構成されている。ここでいう計測値は、一次側コイルL1を流れる電流(以下、「コイル電流」ともいう)の大きさであって、計測部24で計測される。以下、サーチモードについて詳しく説明する。
図13Aおよび図13Bに示すように、第1駆動信号G1〜G4に対する第2駆動信号G5〜G8の位相差θと、コイル電流との関係は、一次側コイルL1と二次側コイルL2との間の結合係数によって変わることが確認されている。図13Aおよび図13Bでは、横軸を第1駆動信号G1〜G4と第2駆動信号G5〜G8との位相差θ、縦軸をコイル電流(一次側コイルL1を流れる電流)とする。図13Aおよび図13Bにおいて、「Y1」〜「Y5」は、それぞれ結合係数が異なる場合における位相差θとコイル電流との関係を表している。図13Bは、図13Aの領域A1の拡大図である。
ここで、図13Aおよび図13B中の「Y1」〜「Y5」は、結合係数が大きい側から順に並べるとY5,Y4,Y3,Y2,Y1となる。図13Bから明らかなように、位相差θを規定範囲の上限値(ここでは360度)から徐々に小さくした場合に、コイル電流が増加に転じる変曲点に相当する位相差θが、結合係数によって異なっている。一次側コイルL1と二次側コイルL2との間の結合係数が大きくなるほど、コイル電流が増加に転じる位相差θは小さくなる。したがって、図13Aおよび図13Bに示すような位相差θとコイル電流との関係を用いれば、制御回路23は、位相差θの変化に伴う計測値(コイル電流の大きさ)の変化から、結合係数を推定することが可能である。
具体的には、制御回路23は、図13Aおよび図13Bに示すような位相差θとコイル電流との関係を特性データとして、たとえばテーブル形式でマイコンのメモリに予め記録しておくことにより、特性データを用いて結合係数の推定が可能である。このような特性データは、負荷が電動車両の場合、たとえば車種によって異なるため、複数の車種の特性データが記録されていることが好ましい。なお、非接触給電装置2は、非接触受電装置3との間で通信を行うことにより、非接触受電装置3から特性データを取得してもよい。
制御回路23は、結合係数から、上記「基本動作」の「(1)可変容量回路あり」の欄で説明したような共振特性(つまりインバータ回路21の動作周波数と、非接触給電装置2の出力電力との関係)をさらに推定することができる。その結果、制御回路23では、たとえばインバータ回路21の動作周波数f1について、インバータ回路21が遅相モードで動作する(つまり進相モードにならない)周波数範囲を推定できる。そこで、制御回路23は、上述したサーチモードでの動作を、通常モードでの動作を開始する前に行うことが好ましい。これにより、制御回路23は、通常モードでの動作を開始する際の動作周波数f1の初期値を、インバータ回路21が遅相モードで動作する周波数範囲内に設定することができる。なお、この場合、上述した周波数制御における動作周波数f1の下限値は、インバータ回路21が遅相モードで動作する周波数範囲の下限値と、許可周波数帯F1の下限値fminとの大きい方とされる。
以下、本実施形態の「サーチモード」の全体的な流れについて、制御回路23の処理を表す図14のフローチャートを参照して説明する。なお、図14に示す処理は、図9のフローチャートにおける処理S1の前であって、起動処理よりも前に行われる。
サーチモードが開始すると、制御回路23は、まず位相差θを初期値(ここでは360度)に設定する(S31)。次に、制御回路23は位相差θをデクリメント(θ−1)して(S32)、計測部24からコイル電流の計測値を取得する(S33)。次に、制御回路23は、最新のコイル電流の計測値と、前回のコイル電流の計測値との差分をコイル電流の増加量として求め、コイル電流の増加量と閾値との比較を行う(S34)。このとき、コイル電流の増加量が閾値未満であれば(S34:No)、制御回路23の動作は処理S32に戻る。
一方、コイル電流の増加量が閾値以上であれば(S34:Yes)、制御回路23は、現在の位相差θを特性テーブル(テーブル形式の特性データ)と比較する(S35)。その結果、制御回路23は、結合係数を推定することができ、さらに結合係数から共振特性までも推定することができる。次に、制御回路23は、位相差θを初期値(ここでは360度)に戻し(S36)、サーチモードを終了する。
<効果>
以上説明したように、本実施形態の非接触給電装置2は、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化しても、必要な電力を確保しやすい、という利点がある。すなわち、非接触給電装置2は、第1駆動信号G1,G4(G2,G3)に対する第2駆動信号G6,G7(G5,G8)の位相の遅れである位相差θを規定範囲内の設定値に調節することにより、出力電力の大きさを調節することができる。したがって、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化して、一次側コイルL1と二次側コイルL2との間の結合係数が変化したとしても、非接触給電装置2は、位相差θの調節により必要な電力を確保しやすくなる。また、位相差θの調節によって出力電力を調節するため、たとえばインバータ回路21の動作周波数f1として使用可能な周波数帯域(許可周波数帯F1)が制限されている場合には、とくに有用である。
しかも、位相差θは、規定範囲内の設定値に調節されるので、規定範囲が所定の条件を満たしていればインバータ回路21は遅相モードで動作することが可能である。インバータ回路21が遅相モードで動作するための所定の条件は、不変的ではなく、初期モード(可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モード)に応じて変化する。そこで、本実施形態では、制御回路23は、可変容量回路22を動作させた状態で推定部231にて初期モードが進相モードと遅相モードとのいずれであるかを推定し、推定された初期モードに応じて設定部232にて規定範囲を設定する。したがって、本実施形態の非接触給電装置2は、初期モードに応じた適切な範囲に規定範囲を設定して、インバータ回路21を遅相モードで動作させることが可能である。所定の条件においては、「初期遅相」の場合の規定範囲は90度〜180度と270度〜360度とのいずれでもよく、「初期進相」の場合の規定範囲は90度〜180度のみに制限される。
また、本実施形態のように、設定部232は、推定部231で推定された初期モードが進相モードであれば、規定範囲を90度〜180度の範囲に設定することが好ましい。この場合、設定部232は、推定部231で推定された初期モードが遅相モードであれば、規定範囲を90度〜180度と270度〜360度との両方を含む範囲に設定する。この構成によれば、「初期進相」、「初期遅相」のいずれの場合においても、制御回路23が、位相差θを規定範囲内の設定値に調節して非接触給電装置2の出力電力の大きさを調節したときに、インバータ回路21を遅相モードで動作させることができる。
また、本実施形態のように、推定部231で推定された初期モードが前記遅相モードである場合において、制御回路23は、第1処理と、第2処理とを択一的に選択可能であることが好ましい。第1処理は、位相差θを90度〜180度の範囲内で調節する処理であって、第2処理は、位相差θを270度〜360度の範囲内で調節する処理である。この場合、制御回路23は、第1処理後の出力電力の大きさが所定の目標値未満であれば第2処理に移行するように構成されており、第1処理から第2処理へ移行する際、90度から0度にかけて位相差θを徐々に小さくするように構成されていることが好ましい。この構成によれば、制御回路23は、第1処理から第2処理へ移行する際、90度から0度(=360度)にかけて位相差θを連続的に変化させることができる。しかも、位相差θが0度〜90度の範囲内にある間も、インバータ回路21は遅相モードで動作することができる。
また、本実施形態のように、推定部231は、インバータ回路21の電圧位相と電流位相との差である電圧電流位相差に基づいて、初期モードを推定するように構成されていることが好ましい。この構成によれば、可変容量回路22の動作を実際に停止することなく、推定部231は、比較的簡単な演算処理で初期モード(可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モード)を推定することが可能である。
あるいは、推定部231は、位相差θを90度〜180度の範囲内で変化させたときの、出力電力の変化に基づいて、初期モードを推定するように構成されていてもよい。この構成によれば、可変容量回路22の動作を実際に停止することなく、推定部231は、比較的簡単な演算処理で初期モード(可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モード)を推定することが可能である。
また、制御回路23がマイコンを主構成とする場合、マイコンのメモリに記録されるプログラムは、非接触給電装置2に用いられるコンピュータ(マイコン)を、制御部233、推定部231、設定部232として機能させるためのプログラムである。ここでいう非接触給電装置2は、インバータ回路21と、一次側コイルL1と、可変容量回路22とを備えている。制御部233は、第1駆動信号G1〜G4にて複数の変換用スイッチ素子Q1〜Q4を制御し、第2駆動信号G5〜G8にて複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8を制御する。制御部233は、位相差θを規定範囲内の設定値に調節することにより、出力電力の大きさを調節する。推定部231は、可変容量回路22を動作させた状態で、可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モードである初期モードが進相モードと遅相モードとのいずれであるかを推定する。設定部232は、推定部231で推定された初期モードに応じて規定範囲を設定する。
このプログラムによれば、専用の制御回路23を用いなくても本実施形態の非接触給電装置2と同等の機能を実現でき、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化しても、必要な電力を確保しやすい、という利点がある。
また、インバータ回路21と、一次側コイルL1と、可変容量回路22とを備えた非接触給電装置2を、以下の制御方法により制御することで、専用の制御回路23を用いなくても本実施形態の非接触給電装置2と同等の機能を実現できる。
つまり、非接触給電装置2の制御方法は、第1駆動信号G1〜G4にて複数の変換用スイッチ素子Q1〜Q4を制御し、第2駆動信号G5〜G8にて複数の調整用スイッチ素子Q5〜Q8を制御する方法である。この制御方法は、位相差θを規定範囲内の設定値に調節することにより、出力電力の大きさを調節する制御過程に加え、推定過程と、設定過程とを有する。推定過程は、可変容量回路22を動作させた状態で、可変容量回路22を無効とした場合のインバータ回路21の動作モードである初期モードが進相モードと遅相モードとのいずれであるかを推定する過程である。設定過程は、推定過程で推定された初期モードに応じて規定範囲を設定する過程である。
この非接触給電装置2の制御方法によれば、専用の制御回路23を用いなくても本実施形態の非接触給電装置2と同等の機能を実現でき、一次側コイルL1と二次側コイルL2との相対的な位置関係が変化しても、必要な電力を確保しやすい、という利点がある。
<一次側コイル、二次側コイルについて>
ところで、本実施形態における一次側コイルL1および二次側コイルL2は、コアに対して導線が螺旋状に巻き付けられたソレノイド型のコイルであってもよいが、平面上において導線が渦巻き状に巻かれたスパイラル型のコイルであることが好ましい。スパイラル型のコイルは、ソレノイド型のコイルに比べて、不要輻射ノイズが生じにくい、という利点がある。また、スパイラル型のコイルが用いられることで、不要輻射ノイズが低減される結果、インバータ回路21において使用可能な動作周波数の範囲が拡大される、という利点もある。以下、この点について詳述する。
すなわち、非接触電力伝送システム1における共振特性は、上述したように一次側コイルL1と二次側コイルL2との結合係数に応じて変化し、ある条件下では、図15に示すように出力に2つの極大値が生じる、いわゆる双峰特性を示す。この共振特性(双峰特性)においては、図15に示すように、第1周波数fr1と第3周波数fr3とのそれぞれで出力が極大となる2つの“山”が生じる。これら2つの“山”の間には、第2周波数fr2で出力が極小となる“谷”が生じる。ここで、第1周波数fr1と第2周波数fr2と第3周波数fr3とは、fr1<fr2<fr3の関係にある。以下では、第2周波数fr2を基準に、第2周波数fr2より低い周波数領域を「低周波領域」といい、第2周波数fr2より高い周波数領域を「高周波領域」という。
このような共振特性にあっては、低周波領域の“山”(第1周波数fr1で極大となる山)と、高周波領域の“山”(第3周波数fr3で極大となる山)とのそれぞれに、インバータ回路21が遅相モードで動作する領域(以下、「遅相領域」という)が生じる。そのため、インバータ回路21は、動作周波数f1が2つの“山”のいずれにある場合でも、遅相モードで動作可能である。
ここで、インバータ回路21の動作周波数f1が低周波領域の“山”にある場合と、高周波領域の“山”にある場合とを比較すると、低周波領域の“山”にある場合の方が、不要輻射ノイズは小さくなる。つまり、高周波領域の“山”においては、一次側コイルL1を流れる電流と、二次側コイルL2を流れる電流とは同位相になる。これに対して、低周波領域の“山”においては、一次側コイルL1を流れる電流と、二次側コイルL2を流れる電流とは逆位相になる。そのため、低周波領域の“山”においては、一次側コイルL1で生じる不要輻射ノイズと、二次側コイルL2で生じる不要輻射ノイズとが、互いに相殺されることになり、非接触電力伝送システム1全体でみれば不要輻射ノイズは低減される。
したがって、ソレノイド型のコイルが採用される場合でも、インバータ回路21の動作周波数f1が低周波領域の“山”の遅相領域(fr1〜fr2)にあれば、インバータ回路21が遅相モードで動作し、かつ不要輻射ノイズも低減されることになる。しかし、低周波領域の“山”の遅相領域は、一次側コイルL1と二次側コイルL2との結合係数に応じて変化するため、このような不確定な遅相領域にインバータ回路21の動作周波数f1を収める制御が必要になる。
これに対して、スパイラル型のコイルであれば、たとえインバータ回路21の動作周波数f1が高周波領域の“山”の遅相領域(fr3より高周波側)にあっても、ソレノイド型のコイルに比べれば不要輻射ノイズは大幅に低減される。つまり、スパイラル型のコイルが用いられることで、インバータ回路21の動作周波数f1は低周波領域の“山”の遅相領域に制限されず、インバータ回路21において使用可能な動作周波数f1の範囲が拡大されることになる。なお、高周波領域の“山”の遅相領域も不確定な領域ではあるが、インバータ回路21の動作周波数f1を十分に高い周波数から低周波側にスイープさせれば動作周波数f1は高周波領域の“山”の遅相領域を通るので、複雑な制御は不要である。
<変形例>
可変容量回路22は、本実施形態のように4つの調整用スイッチ素子Q5〜Q8を用いた構成に限らず、たとえば図16に示すように、2つの調整用スイッチ素子Q9,Q10を用いて構成されていてもよい。図16に示す可変容量回路22において、各調整用スイッチ素子Q9,Q10は、ゲートを2つ有するダブルゲート構造の半導体スイッチ素子である。また、第1の調整用スイッチ素子Q9は、調整用コンデンサC1と電気的に直列に接続されている。第2の調整用スイッチ素子Q10は、調整用スイッチ素子Q9および調整用コンデンサC1の直列回路に対して、電気的に並列に接続されている。調整用スイッチ素子Q9の2つのゲートには、それぞれ第2駆動信号G7及び第2駆動信号G8が入力される。また、調整用スイッチ素子Q10の2つのゲートには、それぞれ第2駆動信号G5および第2駆動信号G6が入力される。図16に示す可変容量回路22は、第2駆動信号G5〜G8によって2つの調整用スイッチ素子Q9,Q10が制御され、図1に示す可変容量回路22と等価に機能する。
また、非接触給電装置2から非接触で出力電力が供給される(つまり給電される)負荷は、電動車両に限らず、たとえば携帯電話機やスマートフォンなどの蓄電池を備えた電気機器、あるいは蓄電池を備えない照明器具などの電気機器であってもよい。
また、非接触給電装置2から非接触受電装置3への出力電力の伝送方式は、上述した磁界共鳴方式に限らず、たとえば電磁誘導方式、マイクロ波伝送方式などであってもよい。
また、各変換用スイッチ素子Q1〜Q4や各調整用スイッチ素子Q5〜Q8は、バイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の他の半導体スイッチング素子で構成されていてもよい。
また、各ダイオードD1〜D4は、各変換用スイッチ素子Q1〜Q4の寄生ダイオードに限らず、各変換用スイッチ素子Q1〜Q4に外付けされていてもよい。同様に、各ダイオードD5〜D8は、各調整用スイッチ素子Q5〜Q8の寄生ダイオードに限らず、各調整用スイッチ素子Q5〜Q8に外付けされていてもよい。
また、計測部24は、制御回路23と別に設けられる構成に限らず、制御回路23と一体に設けられていてもよい。さらに、計測部24は一次側コイルL1に流れる電流の大きさを計測できればよいので、電流センサ25は、一次側コイルL1と第2の一次側コンデンサC12との間に限らず、一次側コイルL1に流れる電流の経路上にあればよい。
また、制御回路23の制御部233は、周波数制御を行うことは必須ではなく、位相差制御のみで出力電力の大きさを調節するように構成されていてもよい。
また、1つの制御回路23に推定部231と設定部232と制御部233とが設けられていることは必須ではなく、たとえば推定部231と設定部232との少なくとも一方が制御部233とは別に設けられていてもよい。
また、制御部233は、デフォルトの規定範囲(90度〜180度の範囲)内で位相差制御を行った後、継続的に、初期モードに応じて設定された規定範囲内で位相差制御を行うことは必須ではない。たとえば「初期遅相」の場合において、制御部233は、デフォルトの規定範囲(90度〜180度の範囲)内で位相差制御を行った後、周波数制御を行ってもよい。この場合、周波数制御にて調節後の出力電力の大きさが所定の目標値未満であれば、その後に、制御部233は、初期モードに応じて設定(拡大)された規定範囲(270度〜360度の範囲)について位相差制御を行うことになる。
また、インバータ回路21は、直流電圧を交流電圧に変換して出力可能な電圧形インバータであればよく、4つの変換用スイッチ素子Q1〜Q4がフルブリッジ接続されたフルブリッジインバータ回路に限らない。インバータ回路21は、たとえばハーフブリッジインバータ回路であってもよい。