複数の遊星ギアとクラッチやブレーキの締結要素を用いた多段変速装置にとって最も重要なことは変速比であり、シンプルでコンパクトという観点が強すぎるとよい変速比がとれなくなる。但し、FF仕様の乗用車やRR仕様のバスでは軸方向のコンパクトさが必須となり、変速機が原動機に片持ちに懸架されるFR仕様の商用車では径方向より軸方向が制限を受け、変速機後部がキャビン下に挿入されるFR仕様の乗用車では軸方向より径方向が制限を受ける。更に、遊星ギアの噛み合い損失と摩擦部材の連れ回り損失を極力抑える必要がある。したがって、総合的な見地でギアトレンを構築しなければならない。因みに、最も重要となる変速比は、最低速段から次段へのギア比のステップ値が1.60前後、次段から最高速段へのギア比のステップ値が1.15前後と高速段に移行するに従って徐々にステップ値が小さくなる特性が望まれる。
ATの歴史を振り返ると、1960年代に乗用車用に普及した前進3速後進1速の3ATは、遊星ギアが2列で締結要素が4個(クラッチ2個、ブレーキ2個)であったが、牽引特性向上のため1980年代に締結要素を1個(クラッチ)増やした4ATが普及した。しかしながら、前進3速から4速段へのステップ値が大きく、また、4ATでは牽引特性が不十分だったため、3ATに遊星ギアと締結要素をそれぞれ1個増やした5、6ATが商品化された。開発順に、特開昭52−149562によるGM(Allison)の6AT(Aタイプ)と、特開平4−219553によるLepelletierの6AT(Bタイプ)と、US5,435,791によるMercedes−Benzの5AT(Cタイプ)であり、ギア比が適切にとれるため3ATに次ぐ完成形のATということができる。なお、商用車のATでは3ATでも発進段以外はほとんどトルクコンバータをロックアップして用いているが、乗用車では5ATを超える多段速ATでもロックアップの頻度が少ないため遊星ギアの噛み合い効率はあまり重要視されていない。これは燃費よりもユーザクレームとなりやすい車両の静粛性やスムースな走りを重んじる供給側の根強い考え方によるもので、近年普及してきた燃費のよいDCT(Dual Clutch automated mechanical Transmission)に対抗するには、トルクコンバータのロックアップの頻度を増やすばかりではなく、DCTと同じく、伝達効率の悪いトルクコンバータを廃止し、摩擦部材を滑らせて発進デバイスとすることも視野に入れなければならない。
A、B、Cタイプのいずれも前進の減速段において、主変速機構の2個の遊星ギア列からなる4個の構成要素の主動側(駆動側)となる構成要素に入力軸の回転、あるいは、前置変速機構の1個の遊星ギア列から得られる入力軸の減速回転を選択的に入力する同じ方式であるが、入力する回転と変速方式に違いがあり、それにより特性に異なりが生じる。前進の減速段において、主変速機構の主動側となる構成要素に入力する回転を、Aタイプは入力軸の回転とし、Bタイプは入力軸の減速回転とし、Cタイプは入力軸の回転、及び入力軸の減速回転としたもので、A、Bタイプは主動側を固定し、受動側(制動側)を変えて変速を行う従来の3、4ATと同じ方式であるのに対し、Cタイプは受動側を固定し、主動側を変えて変速を行う方式である。
A、Bタイプは変速方式が同類でありギア比のステップ値も似ているが、Aタイプ6ATは主変速機構の主動側を減速しないため低速段のギア比が小さくなる傾向にあり、Bタイプ6ATは主動側を減速するためギア比が大きく6ATとして適切にとれる。更に、入力軸の回転、及び入力軸の減速回転を主動側に入力するCタイプ5ATは理想的なギア比を得ることができる。ここで、前進の減速段において、Cタイプ5ATは前進1速段のみに限られるが、Bタイプ6ATは全ての減速段で動力の100%が前置変速機構を通過するのに対し、Aタイプ6ATは前進3速段で動力の20〜30%しか前置変速機構を通過しない。遊星ギアの噛み合い損失は通過する動力の大きさに比例することにより、前置変速機構を通過する割合から、Bタイプ6AT>Cタイプ5AT>Aタイプ6ATの順に遊星ギアの噛み合い損失が大きくなる。加えて、減速トルクは制動トルクと入力トルクの和となることより、最も大きな制動トルクは前進1速段におけるブレーキトルクとなり、前進1速段で大きなギア比がとれるB、CタイプのブレーキトルクがAタイプより大きくなる傾向にある。したがって、この前進1速段で締結するブレーキの摩擦部材が空転するとき、最も大きな摩擦部材の連れ回り損失が発生する。A、Bタイプは前進1速段以外の前進段でこの前進1速段で締結するブレーキが空転するが、Cタイプ5ATでは前進の減速段では空転しない。したがって、Bタイプ6AT>Aタイプ6AT>Cタイプ5ATの順に摩擦部材の連れ回り損失が大きくなる傾向にある。ここでは、Bタイプ6ATが遊星ギアの噛み合い損失と摩擦部材の連れ回り損失の両損失とも最も大きくなるが、依然としてトルクコンバータをロックアップする頻度が低くギア比が適切なこともあり、広く商品化されている。
一般的に、乗用車のエンジンではアクセルペタル開度に比例したトルク制御が行われ、低開度では摩擦部材の連れ回り損失の方が遊星ギアの噛み合い損失より燃費に対する影響度が大きくなり、中、高開度ではその逆となる。一方、商用車のエンジンではアクセルペタル開度に関係なくフルトルクのでるオールスピードガバナ制御が行われるため、遊星ギアの噛み合い損失の方が摩擦部材の連れ回り損失より燃費に対する影響度が大きくなる。
ところで、遊星ギアを用いた多段変速装置では、マニュアルトランスミッション(MT)のように動力が入力軸からカウンター軸を通過して出力軸にギアを介して直列に流れるわけではなく、直列に流れる場合もあるが、遊星ギア間の2個の構成要素が連結されるため、分散したり、循環したり、変速段により様々な流れ方をする。この動力の流れを掴まないと遊星ギアの噛み合い効率は評価できないが、出願人がジヤトコ株式会社となる8ATとしての特開2011−69396〜69399等では遊星ギアの噛み合い回数で効率を評価し、出願人がアイシン・エイ・ダブリュ株式会社とトヨタ自動車株式会社となる10ATとしての特開2014−35056〜35059ではシングルピニオンギアとなるかダブルピニオンギアとなるかだけの一面的な見方で遊星ギアの噛み合い効率を評価している。何れもギアトレンの抽出性は悪くはないがクラッチの配置が構造全体を複雑化しておりギア比もあまりよくなく、日本を代表するような遊星ギア式多段変速装置を設計製造している会社が、動力の流れを無視した誤った効率評価をしているのが現実である。本願では、動力を伝達する互いに噛み合うギア間の伝達トルクと相対回転速度を求め、各々の噛み合い損失を計算合計してギア効率(GEAR EFF)として変速段毎に正確な表記をした。なお、遊星ギア式多段変速装置では動力が分散することや、リングギア(内歯)とピニオンギア(外歯)の噛み合い損失がピニオンギア(外歯)とサンギア(外歯)の噛み合い損失の半分にも満たないことで、噛み合い効率が99%を超える変速段があり、MTよりギアの噛み合い効率がよくなる変速段が多く存在する。
また、摩擦部材の連れ回り損失は、空転状態における摩擦部材間を流れる潤滑油に最も大きく影響され、制動側で遠心力が働かない油の抜けがわるいブレーキの方がクラッチより不利で、クラッチの遠心力もその回転速度に影響される。加えて、摩擦部材の相対回転速度が損失に比例するわけではなく、ある回転速度以上では損失が低下するなど、噛み合い損失の計算ような正確な損失計算は難しくなる。単純に各変速段の空転状態となる摩擦部材のトルク伝達容量を合計し、有利、不利の評価はできるが、すべらせる面圧を考慮し摩擦部材の押し付け荷重を上げて連れ回り損失を減らす対処ができる場合もあり、ここではもっと大雑把な減速比の大きさで有利、不利の評価に留めた。なお、前述した特開2011−69396〜69399や特開2014−35056〜35059でも同じであるが、空転状態の締結要素の数で摩擦部材の連れ回り損失を評価している特許案件が多くみられる。しかしながら、摩擦部材の連れ回り損失は締結要素の数ではなくてトルク伝達容量でなければならなく、間違った評価がなされている。
この5、6ATよりさらに多段化したものが実用化されている。Cタイプ5ATをベースとした特開2000−266138に記載されたDaimlerのCタイプ7ATと、Bタイプ6ATをベースとした特開2001−182785(アイシン精機)に記載されたToyotaのBタイプ8ATと、特表2008−527267に記載されたZFのDタイプ8ATである。Dタイプとは、3個以上の遊星ギア列の互いの構成要素2箇所を連結し、連結部にクラッチを配して連結を変え変速する方式である。Cタイプ7ATはCタイプ5ATに遊星ギアと締結要素(ブレーキ)を各々1個追加し、4個の遊星ギアと6個の締結要素(クラッチ3個、ブレーキ3個)からなり、Bタイプ8ATはBタイプ6ATに締結要素(クラッチ)を1個追加し、3個の遊星ギアと6個の締結要素(クラッチ4個、ブレーキ2個)からなり、Dタイプ8ATは4個の遊星ギアと5個の締結要素(クラッチ3個、ブレーキ2個)からなる。遊星ギアと締結要素の数でシンプルさを比較すると、Bタイプ8AT>Dタイプ8AT>Cタイプ7ATとなるが、Bタイプ8ATとDタイプ8ATはギア比のステップ値が悪く、加えて、最低速段の変速比を最高速段の変速比で除した変速比巾(Gear Range)も悪く、Bタイプ8ATが6.7、Dタイプ8ATが7.3と多少勝るが、8ATとして相応しい9程度よりかなり小さくなる。Cタイプ7ATはギア比のステップ値はよいが、クロスになり過ぎており、Gear Rangeが6と、7ATとして相応しい値にはなっていない。なお、遊星ギアの構成要素間にクラッチを配するB、Dタイプ8ATは、入力軸と遊星ギアの構成要素間にクラッチを配するタイプより作動油の供給通路が複雑になる。Bタイプ8ATは遊星ギアの各1個の構成要素を連結している連結部にクラッチを配しているので、構造はそれほど複雑にはならないが、Dタイプ8ATは遊星ギアの各2個の構成要素を連結しているどちらか一方の連結部にクラッチを配しており、クラッチのみならず遊星ギア列も含めて複雑な構造配置となる。スケルトン図(模式図)ではわかり難いが、シンプル・コンパクトさは単に遊星ギアや締結要素の数だけではなく、クラッチやブレーキの配置、及び遊星ギアを含めた容量に影響される。因みに、スケルトン図ではクラッチは遊星ギアより小さく見えるが実際の構造では遊星ギアより大きなスペースを必要とし、このクラッチの配置がシンプル・コンパクトさを左右する。したがって、クラッチが1個多い4個を用いたトヨタのBタイプ8ATもスケルトン図より実際の構造は複雑になる。これらB、Dタイプ8ATの他に、3個の遊星ギアと6個の締結要素からなる8ATや、4個の遊星ギアと5個の締結要素からなる8ATが数多く特許として提案され、GMは昨今4個の遊星ギアと5個の締結要素からなる8ATを実用化したが、全て8ATとして相応しいギア比が得られていなく、クラッチの配置が構造全体を複雑化する場合が多い。つまり、これらの7、8ATは完成形となる多段速ATにはなっていないということができる。
ここで浮上したのが、前進の減速段で最も大きな容量のブレーキを締結したまま変速を行う、摩擦部材の連れ回り損失が有利となるCタイプである。今までのCタイプを更に多段化させたATが個人(川名氏)から特許文献1で提案された。それは4個の遊星ギア列と6個の締結要素(クラッチ4個、ブレーキ2個)の9ATである。但し、4個の遊星ギア列と6個の締結要素を限定し、Gear Rangeも9ATに相応しい10程度ではなく8程度で、遊星ギアの効率や構造もあまりよくない提案であった。次に、動力伝達形態が特許文献1と同じ特性となる4個の遊星ギア列と6個の締結要素(クラッチ3個、ブレーキ3個)の9ATが、ZFから特許文献2で遊星ギア列を限定して発案された。更に、本願出願人が遊星ギア列も構造も限定した特許文献3をCタイプ9ATとして提案した。この動力伝達形態の特性は、Gear Rangeが9ATに相応しい10程度にとることができ、ギア比が高速側に振れる懸念点はあるが、ステップ値も適切で、遊星ギアの噛み合い損失と摩擦部材の連れ回り損失も小さくすることができ、6ATの次に完成形となる多段速ATに成り得るものである。この特許文献1、2、3の形態をC1タイプ9ATとし、本願出願人が提案した特許文献3によるFRの乗用車に適用するC1タイプ9ATの模式図と構造図を本願の図7と図8に表す。なお、C1タイプ9ATは特許文献3の図1、図5に示すように、4ATや6ATと変わらぬコンパクトさでFFに適用することができる。
C1タイプ9ATは、主変速機構(MAIN GEAR)の2個の遊星ギア列からなる共通の速度線図上に第1から第4まで番号順に並べた4個の構成要素の第1構成要素に、2個の遊星ギア列からなる4個の構成要素と4個の締結要素を有した前置変速機構(FRONT GEAR)から5種類の回転速度を選択的に入力し、第4構成要素をブレーキで制動することにより第1構成要素を主動側(駆動側)として作用させて出力となる第3構成要素を低速側に変速し、第2構成要素を主動側(駆動側)として入力軸の回転をクラッチで入力することにより第1構成要素を受動側(制動側)として作用させて出力となる第3構成要素を高速側に変速させたものである。なお、動力の伝達経路は同じであるが、構成要素間の連結をクラッチで行うことにより動力が流れない状態における構成要素の回転速度を変えることもでき、特許文献1ではブレーキの代わりにクラッチを用いている。本願の図7と図8に示したFRの乗用車用としてコンセプトしたC1タイプ9ATは、前置変速機構を従来の遊星ギアが2列で締結要素が4個(クラッチ2個、ブレーキ2個)の最もシンプルでギア効率がよいとされるシンプソン型3ATとし、主変速機構の2個の遊星ギア列もシンプソン型を用いたもので、クラッチの摩擦部材を遊星ギアの径方向外周に配することで、前進1⇔2速、4⇔5速を制御するワンウェイクラッチを回転損失の小さな内周側に2個配しても既存の8ATと同等以下のシンプル、コンパクトさが保てるよう実現したものである。
このC1タイプ9ATと同じ形態であるが、前置変速機構を変えた9ATがDaimlerから特許文献4で提案され実用化された。Daimlerから発表されたギア比とカット断面写真に基づき本願出願人が想定した模式図を本願の図6に表す。C1タイプ9ATと区別するためこの方式をC3タイプ9ATとする。C1タイプ9ATの前置変速機構から選択的に出力される5種類の回転速度は、入力軸回転、入力軸の減速回転2種、0回転、入力軸の逆回転であるのに対し、C3タイプ9ATは、入力軸回転、入力軸の減速回転、入力軸の増速回転、0回転、入力軸の逆回転の5種類である。そして、C1タイプ9ATを示す図7とC3タイプ9AT示す図6の主変速機構(MAIN GEAR)の速度線図を比較すれば明らかなように、主変速機構の変速形態はC1タイプ9ATと全く同一であるが、減速度をC1タイプより大きくなるようC1タイプ9ATの2個の遊星ギア列からなる共通の速度線図上に第1から第4まで番号順に並べた4個の構成要素の配列を、逆の順に並び変えたものである。つまり、C3タイプ9ATは、前置変速機構(FRONT GEAR)の高速段を増速させてC1タイプ9ATより高速側に振らせ、主変速機構を大きく減速側に振らせたものである。
C3タイプ9ATの増速段を含んだ前置変速機構は、C1タイプ9ATの従来の3ATのように多くは存在せず、主変速機構も遊星ギアの噛み合い効率を考えればDaimlerの特許文献4に限られる。したがって、ジヤトコ株式会社から特許文献4と同じ遊星ギアを用いた特許提案が特開2013−199957、特開2013−199958、特開2013−199959でなされている。これらは特許文献1の如く、特許文献4のブレーキの代わりに構成要素間の連結をクラッチで行うことにより動力が流れない状態における構成要素の回転速度を変えたり、クラッチの配置を変えたりしただけの容易に考えられるものであるが、動力が流れる伝達経路は全く特許文献4と同じで、ブレーキをクラッチに変えたり、クラッチの配置を変えたりした構造では複雑になるばかりでメリットはない。当然、摩擦部材を用いたクラッチはブレーキより倍近くコスト高となるのに加え、ブレーキは遊星ギアやクラッチの外周に配することができて軸方向幅を大きくとる必要はないが、クラッチは軸方向も遊星ギア列と同じ長さが必要で変速装置そのものを複雑にして長くする。
ここで、図7のC1タイプ9ATと図6のC3タイプ9AT(BENZ 9AT)を比較する。前置変速機構を高速側に振らせ、主変速機構を大きく減速側に振らせた結果、C3タイプ9ATは入力軸の減速段が5段、増速段が3段となり、C1タイプ9ATの減速段が4段、増速段が4段よりバランスがとれる。つまり、アクスルの終減速比を従来と変える必要も無く、場合により、終減速比を大きくすることも考えなければならないC1タイプ9ATより有利となる。加えて、遊星ギアの噛み合い効率もC1タイプ9ATより若干よくなり、最も効率のよいZFのDタイプ8ATと同レベルとなる。また、前置変速機構をC1タイプ9ATより高速側に振らせたことで前置変速機構の発進段となるブレーキB2の容量が今までのATでは得られないほど低容量となり、このブレーキをDCTに対抗するため本願出願人が特開2009−236234で提案した発進デバイスに用いる場合、極めて有利となる。但し、主変速機構のブレーキB3の容量は大きくなり、総合的な摩擦部材の連れ回り損失はC1タイプ9ATより大きくなる。また、前置変速機構の出力が主変速機構を構成する遊星ギアのサンギアS2に入力するため、入力がリングギアR2となるC1タイプ9ATより半径比分だけ歯面荷重が大きくなり、主変速機構の遊星ギア巾(S2、P2、R2)を大きくしなければならない。加えて、ギア比の関係上、最後尾の遊星ギアのリングギア(R1)の径を大きくしなければならず、乗用車用として最後尾にクラッチC3を配する場合、摩擦部材を遊星ギアの径方向外周側に配することができず、C1タイプ9ATのようにコンパクトにはできない。但し、商用車用としては変速装置の径が大きくできるため、クラッチC3の摩擦部材を遊星ギアの径方向外周側にコンパクトに配することができる。また、C1タイプ9ATの前置変速機構が、例えば本願の図7、図8に示した如く、従来の3ATに用いたシンプソン遊星ギア列のようにリングギアR4入力で遊星ギアの歯面荷重が小さく幅狭くでき、入力軸の回転を伝達する2個のクラッチC1、C2と2個のブレーキB1、B2の摩擦部材も遊星ギアの径方向外周側にコンパクトに配することができるのに対し、図6のC3タイプ9ATでは、サンギアS3入力となるため遊星ギアの歯面荷重が大きく幅広となり、C1タイプ9ATより容量を大きくしなければならないクラッチC2も遊星ギアの2個の構成要素の連結部の一方に配さなければならず、クラッチC1、C2の配置構造が限定されるため複雑で軸長が長くなる。特にクラッチC2に関しては、ハウジングから入力軸を通って遊星ギアの構成要素に設けた油圧室に作動油を供給しなければならなく、管路抵抗が大きくなると共にクラッチの構造全体が複雑になる。加えて、変速ショックやシフトダウン(コンピュータの誤作動による)によるエンジンのオーバランを防止するワンウェイクラッチOWC1も前進1速段の作動用として装着できない。つまり、変速性能や構造も含め、C3タイプ9ATはC1タイプ9ATより不利となる。当然、C1タイプ9ATのようにFFやRRの車両に適用するのは不利となる。このようにC3タイプ9ATはC1タイプ9ATと比べ多くの欠点があるが、変速装置にとり最も重要となるギア比と遊星ギアの噛み合い効率のよさをもっており、C1タイプ9ATと並んで完成形となる多段速ATに成り得る価値のあるもので、本願はこのC3タイプ9ATを含め、更に多段化を模索する提案である。
近年提案された多くの多段変速装置のAT分野ではGM(Allison)の6AT(Aタイプ)を除いて全て乗用車用であったが、多段変速装置は車体重量に比して原動機のパワーが小さい商用車ほど必要とし、特に近年研究されている自動運転に関しては、重大事故が多い高速道路走行の商用車にその技術の一部が必須となる。自動運転技術に用いる多段変速装置は自動化が必要となり、AMT(Automated Mechanical Transmission)としてのSCT(Single Clutch automated mechanical Transmission)が必須となるが、DCT(Dual Clutch automated mechanical Transmission)の方がよく、更に、乗用車より負荷頻度が10倍厳しく、耐久寿命も10倍必要な商用車では、カウンターギアより変速特性や強度的にも有利となる遊星ギアを用いたAT(Automatic Transmission)の方が適切となる。
従来、商用車用MT(Manual Transmission)としては前進12速段や16速段を有するものまで実用化されている。これらは主に大きな牽引力を必要とする重車両としてのHeavy Duty Truckや建設用車輌に用いられ、最低速段の変速比を最高速段の変速比で除した変速比巾(Gear Range)が15程度となっている。その構造は、エンジンに片持ちに懸架される変速機の懸架方式による強度上の問題のため、カウンターギア方式の主変速機構の前後にHi−Lo機構を付加して軸長を抑えたスプリット型変速機となり、2(Hi−Lo)×3(主変速)×2(Hi−Lo)=12速段と、2(Hi−Lo)×4(主変速)×2(Hi−Lo)=16速段である。この12,16MTは、主変速機構とHi−Lo機構の両方を変速しなければならない変速性の複雑さに加え、変速比が等比級数となり、良い変速比が取れない構造となっている。
商用車用ATに関しては、発進停止が多くMTのクラッチ寿命が1年と短いことや安全性重視のため、欧米ではシティバスの100%がATとなっており、3、4,5、6ATが使われている。更に、インターシティバスや観光バスにもATが使われている。その多くは安全のためブレーキのフェードを防ぐリターダが装着されており、大型トラクターヘッド、軍用車、特装車、建設用車両とATの用途は広い。しかしながら多段化は7ATまでのため、本願出願人がC1タイプ9ATも含めC1タイプ9ATと互換性を持たせたC1タイプ11、12ATを特願2013−102748で提案している。その中にはRRのバス用として極めてコンパクトなATも含まれている。商用車ATの多段化を進める一環として、遊星ギアの噛み合い効率が優れている商用車向きのC3タイプの可能性も検討しなければならない。
本発明は、段落「0011」、「0012」に記載したように、前置変速機構から選択的に出力される、入力軸回転、入力軸の減速回転、入力軸の増速回転、0回転、入力軸の逆回転の少なくとも5種類の回転速度を、主変速機構の2個の遊星ギア列からなる共通の速度線図上に第1から第4まで番号順に並べた4個の構成要素の第1構成要素に入力し、第4構成要素をブレーキで制動することにより第1構成要素を主動側(駆動側)として作用させ、出力となる第3構成要素を低速側に変速し、第2構成要素を主動側として入力軸の回転をクラッチで入力することにより第1構成要素を受動側(制動側)として作用させ、出力となる第3構成要素を高速側に変速させた、あるいは、第2構成要素を主動側として入力軸の回転を入力することにより第1構成要素を受動側として作用させ、出力となる第3構成要素を高速側に変速してクラッチで出力させた多段変速装置に関するもので、前進9速後進1速をC3タイプ9ATとして、その基本的な変速形態と構造を図1、図2に示し、前進15速後進1速をC3タイプ15ATとして、図3、図4に示すものである。また、図5はこれらC3タイプ9、15ATに用いることのできる発進段で締結する前置変速機構のブレーキ構造を示す。
図6から図8は、本発明と対比させるための従来技術として記載した多段変速装置の参考図で、本願の段落「0010」から「0014」にその背景と概要、及び一部詳細を説明した。図6は実際にDaimlerから発表され実用化されたC3タイプ9ATの仕様であり、特許文献4を参考に本願出願人が作成したもので、本願発明の対象となる多段変速装置である。 図7、図8は特許文献4に先行して出願された特許文献1と同じ変速形態の本件出願人が提案した特許文献3に基づくC1タイプ9ATの仕様と構造図で、本発明の図1、図2と搭載対象車両が同じであるため、比較対照になる参考資料である。図6から図8の詳細説明は省略するが、本発明の図1、図2の説明で対比させる。
図1、図3、図6、図7の模式図と速度線図、及び変速比と歯車の噛み合い効率を示す表におけるGEAR EFF(遊星ギアの噛み合い効率)は、動力を伝える遊星ギアの噛み合い損失を合計したもので、遊星ギア列の優位性を比較するためのものである。遊星ギアの噛み合い損失は主に歯面のころがりとすべり損失であり通過動力に比例するため、噛み合う箇所一個一個の相対速度と伝達トルクを求め損失を計算して合計し効率としたものである。なお、遊星ピニオンギアとリングギアの噛み合い損失は、インボリュート曲線部の歯面が同方向の形状で噛み合うため、面圧が低くすべりも少なくなり、インボリュート曲線部の歯面が対抗して噛み合う遊星ピニオンギアとサンギアの40%程度とした。したがって、これらの図に表記したGEAR EFFは同じ方式で計算したものであり、正確に比較できる値である。
本発明の請求項1は、図1、図3の速度線図に示した主変速機構(MAIN GEAR)と前置変速機構(FRONT GEAR)の変速形態における、入力軸と同じ回転速度と、ゼロの回転速度と、1種の入力軸の逆回転速度と、少なくとも1種の入力軸の減速回転速度、及び増速回転速度との、少なくとも5種の回転速度を選択的に得ることができる前置変速機構の遊星ギア列の特徴を示すもので、前置変速機構が、主変速機構に少なくとも上記5種の回転速度を選択的に出力する主前置変速機構と、主前置変速機構に入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能とする1個の締結要素と1個の遊星ギア列からなる副前置変速機構と、で構成されるギアトレンを示したものである。
但し、請求項1の主前置変速機構に入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能とする1個の締結要素と1個の遊星ギア列からなる副前置変速機構を、図1、図3のスケルトン図と速度線図では、1個の締結要素を第1ブレーキ(B1)、1個の遊星ギア列をシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)とし、第3リングギア(R3)に入力軸を連結して第3サンギア(S3)を第1ブレーキ(B1)で制動可能とし、第3遊星キャリア(P3)を減速回転として主前置変速機構に入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能としたが、第3サンギア(S3)を固定し、第3リングギア(R3)と入力軸をクラッチを介して連結してもよいし、第3遊星ギア列(30)をダブル遊星ギアにしてもよい。その他、入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能とする1個の締結要素と1個の遊星ギア列は色々な組み合わせが可能であり、請求項1はその全てを含んでいる。
本発明の請求項2は、C3タイプ9ATのギアトレンを示すもので、請求項1の主前置変速機構に入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能とする1個の締結要素と1個の遊星ギア列からなる副前置変速機構を、図1のスケルトン図と速度線図に限定したものであり、主前置変速機構と主変速機構も、図1のスケルトン図と速度線図に限定したものである。
本発明の請求項3は、図1の2個のスケルトン図に示した2個のクラッチの構造に関するもので、左図が第1、第3クラッチ(C1、C3)を径方向に2段に重ねた入力軸に連結する共通のクラッチカバーを有する2連クラッチの構造を示し、右図が第1、第2クラッチ(C1、C2)を径方向に2段に重ねた第4遊星キャリア(P4)に連結する共通のクラッチカバーを有する2連クラッチの構造を示したものである。なお、図2は図1の左図のスケルトン図の具体的な構造を表したもので、入力軸に連結する共通のクラッチカバーを有する第1、第3クラッチ(C1、C3)の詳細構造が理解できる。
本発明の請求項4は、C3タイプ15ATのギアトレンを示すもので、請求項1の主前置変速機構に入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能とする1個の締結要素と1個の遊星ギア列からなる副前置変速機構を、図3のスケルトン図と速度線図に限定したものであり、主前置変速機構と主変速機構も、図3のスケルトン図と速度線図に限定したものである。
本発明の請求項5は、C3タイプ15ATの前置変速機構の主前置変速機構を構成する2個の遊星ギア列の構造を示すもので、図3のスケルトン図とその具体的な構造を表した図4で詳細構造が理解できる。
本発明の請求項6は、本願出願人が提案した発進デバイスとしてのトルクコンバータに変わるブレーキ構造を示した特開2009−236234に基づくもので、図5にその構造を示す。
<C3タイプ9AT>
図1は、C3タイプ9ATの2種の模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図1の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、FRONT GEAR(前置変速機構)は主前置変速機構と副前置変速機構に分かれている。MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7構成要素(A、B、C)が配置され、主前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第8、9、10構成要素(D、E、F)が配置され、第6構成要素(B)と第8構成要素(D)が第2連結部材(8)で連結され、第1構成要素と第10構成要素(F)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。
図1の2種の模式図は、左図が乗用車(Pssenger Car)に適したギアトレンで、右図が商用車(Truck Bus)に適したギアトレンである。図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータを介して動力が変速装置の入力軸に入力される。変速装置には左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)、第4遊星ギア列(40)、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3及び第4遊星ギア列(30、40)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。また、第3遊星ギア列(30)がFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成し、第4遊星ギア列(40)が主前置変速機構を構成する。第1、第2、第3、第4遊星ギア列(10、20、30、40)は、第1、第2、第3、第4サンギア(S1、S2、S3、S4)と、第1、第2、第3、第4遊星キャリア(P1、P2、P3、P4)と、第1、第2、第3、第4リングギア(R1、R2、R3、R4)とで構成される。
図1の2種の模式図と速度線図において、MAIN GEAR(主変速機構)を構成する第1及び第2遊星ギア列(10、20)の第1及び第2サンギア(S1、S2)を第1構成要素とし、第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とし、第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、第2リングギア(R2)を第4構成要素とし、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)、第3遊星キャリア(P3)、第3リングギア(R3)を第5、第6、第7構成要素(A、B、C)とし、主前置変速機構を構成する第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)、第4遊星キャリア(P4)、第4サンギア(S4)を第8、第9、第10構成要素(D、E、F)とする。
ここで、第1構成要素を構成する第1及び第2サンギア(S1、S2)は連結されており、入力軸の回転は、第1クラッチ(C1)を介してFRONT GEAR(前置変速機構)の第9構成要素(E)に入力可能で、第3クラッチ(C3)を介してMAIN GEAR(主変速機構)の第2構成要素に入力可能となり、第4サンギア(S4)と第4遊星キャリア(P4)は第2クラッチ(C2)で締結可能となり、FRONT GEAR(前置変速機構)の第5、第9構成要素(A、E)が、第1、第2ブレーキ(B1、B2)で制動可能で、MAIN GEAR(主変速機構)の第4構成要素が、第3ブレーキ(B3)で制動可能となっている。このとき、第3構成要素を構成する第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)は出力軸と連結される。あるいは、MAIN GEAR(主変速機構)の第2構成要素に入力軸の回転を入力可能な第3クラッチ(C3)に変えて、入力軸を第2構成要素を構成する第1遊星ギア列(10)の第1遊星キャリア(P1)に連結し、第3構成要素を構成する第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3クラッチ(C3)で連結可能とし、第2遊星キャリア(P2)は出力軸と連結される。
図1の左図の乗用車に適した模式図において、第1ブレーキ(B1)は第3遊星ギア列(30)の径方向外周部に配され、第1、第3クラッチ(C1、C3)は第1クラッチ(C1)を径方向外周とした径方向に2重に重ねた入力軸を共通のクラッチカバーとする2連クラッチとして第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の間の配され、第2クラッチ(C2)はクラッチカバーの外周部に第2ブレーキ(B2)が配されると共に第4遊星ギア列(40)と第2遊星ギア列(20)の間の配され、第3ブレーキ(B3)は第2遊星ギア列(20)の径方向外周部に配される。図6のBENZ 9ATと図1は、同じ乗用車を対象として比較できる模式図であり、図6の入力軸と連結し動力を伝えるFRONT GEARの第3遊星ギア列S3、P3、R3はクラッチC1とブレーキB1の2個の締結要素で制御されており、本発明の「請求項1」に記載した「入力軸の1種の変速回転速度のみを選択的に入力可能とする1個の締結要素と1個の遊星ギア列からなる」構造とは基本的に異なる。したがって、図6のFRONT GEARの第3遊星ギア列S3、P3、R3のP3と第4遊星ギア列S4、P4、R4のR4が第1連結部材(7)に出力するのに対し、本発明の図1では、第3遊星ギア列(S3、P3、R3)のP3が第2連結部材(8)を通して第4遊星ギア列(S4、P4、R4)のR4に出力し、第4遊星ギア列(S4、P4、R4)のS4が第1連結部材(7)に出力する方式で、動力の流れ方が異なる。また、図6のBENZ 9ATは入力軸とサンギアS3が連結されており、「荷重=トルク/半径」のため、図1の入力軸と第3リングギア(R3)を連結する構造より半径比分だけ歯面荷重が大きくなりギア幅を増やさなければならない。また、FRONT GEARのもう1個の第4遊星ギア列も、図6では逆方向に減速された動力が遊星キャリアP4に入力する構造で、図1の減速された動力が第4リングギア(R4)に入力する構造より半径比分だけ歯面荷重が大きくなりギア幅を増やさなければならない。加えて、図1は第1、第3クラッチ(C1、C3)を径方向に重ねた2連クラッチとしているため、構造がシンプルでコンパクトになる。
図1の右図の商用車に適した模式図は、左図の乗用車に適した模式図の、第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)が出力軸と連結され、第1遊星キャリア(P1)が第3クラッチ(C3)を介して入力軸と連結される構造を、図6のBENZ 9ATと同じく、第1遊星キャリア(P1)を入力軸と連結し、出力軸に連結した第2遊星キャリア(P2)を第3クラッチ(C3)を介して第1リングギア(R1)と連結したものである。但し、第1、第2クラッチ(C1、C2)の配置が図6とは異なり、図1の右図の模式図において、第1、第2クラッチ(C1、C2)は第1クラッチ(C1)を径方向外周とした径方向に2重に重ねた第4遊星キャリア(P4)に連結する共通のクラッチカバーを有する2連クラッチとして第3遊星ギア列(30)と第4遊星ギア列(40)の間の配したので、コンパクトになる。また、乗用車では変速装置後部の径が大きくできず、図6のように遊星ギアS1、P1、R1のR1の径が大きくなるためクラッチC3の摩擦部材を第1遊星ギア列(10)の後部に配さなければならないのに比べ、商用車では変速装置後部の径を大きくでき、第3クラッチ(C3)の摩擦部材を第1遊星ギア列(10)の径方向外周に配することができる。したがって、図1の右図の商用車に適した模式図は図1の左図の乗用車に適した模式図より軸方向がコンパクトになり、実際の構造もコンパクトになる。なお、第3クラッチ(C3)の最大トルク容量は、左図がトルク循環のため入力軸トルクの1.6倍の容量となり、右図の減速トルクによる入力軸トルクの1.2倍の容量より大きくなる。
変速装置の出力となるMAIN GEAR(主変速機構)の第3構成要素の回転は、第1、第2、及び第4構成要素の2個の構成要素の回転を規制することで決まり、第1構成要素と第1連結部材(7)で連結されるFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構の第10構成要素(F)の回転は、第8構成要素(D)と第2連結部材(8)で連結される副前置変速機構の第5構成要素(A)の回転と主前置変速機構の第9構成要素(E)の回転を規制することで決まる。図1の速度線図と各変速段の締結要素を示す表について、変速の動作を説明する。
<前進1速(1st)>(C2、B1、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結されて第5構成要素(A)が固定され、第7構成要素(C)が入力軸と連結されているため第6構成要素(B)が減速されて第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、主前置変速機構の第2クラッチ(C2)が締結され主前置変速機構の第8、第9、第10構成要素(D、E、F)は一体回転をし、第6構成要素(B)の減速回転はそのまま第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1ブレーキ(B1)と第2クラッチ(C2)の締結で入力軸の減速回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転はさらに減速される。このとき、主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進2速(2nd)>(C1、C2、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第1、第2クラッチ(C1、C2)が締結され、入力軸が直接第2連結部材(8)に連結され、MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)の締結で入力軸の回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転は減速される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)と第4遊星ギア列(S4、P4、R4)、及び主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進3速(3rd)>(C1、B1、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結されて第5構成要素(A)が固定され、第7構成要素(C)が入力軸と連結されているため第6構成要素(B)が減速されて第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、入力軸と第9構成要素(E)が第1クラッチ(C1)で連結されるため、10構成要素(F)は増速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1ブレーキ(B1)と第1クラッチ(C1)の締結で入力軸の増速回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転は減速される。このとき、主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進4速(4th)>(C3、B3)
MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は第3クラッチ(C3)を介して、あるいは、直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結する。第3ブレーキ(B3)で第4構成要素第2リングギア(R2)が制動されるため、第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)から第1構成要素の連結された第1、第2サンギア(S1、S2)を通って、出力となる第3構成要素の連結された第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)、あるいは、第3クラッチ(C3)で連結された第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)の回転は減速される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)と第4遊星ギア列(S4、P4、R4)は動力を伝達しない。
<前進5速(5th)>(C1,B1,C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結され、入力軸と連結されている第7構成要素(C)が減速され第6構成要素(B)から第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、入力軸と第9構成要素(E)が第1クラッチ(C1)で連結されるため、10構成要素(F)は増速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1ブレーキ(B1)と第1クラッチ(C1)の締結で入力軸の増速回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は第3クラッチ(C3)を介して、あるいは、直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結し、出力となる第3構成要素の第1リングギア(R1)、あるいは、第3クラッチ(C3)で連結された第1リングギア(R1)の回転は減速される。このとき、主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R2)は動力を伝達しない。
<前進6速(6th)>(C1,C2,C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第1、第2クラッチ(C1、C2)が締結され、入力軸が直接第2連結部材(8)に連結され、MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1クラッチ(C1)と第2クラッチ(C2)の締結で入力軸の回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は第3クラッチ(C3)を介して、あるいは、直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結し、出力となる第3構成要素の第1リングギア(R1)、あるいは、第3クラッチ(C3)で連結された第1リングギア(R1)は入力軸と一体となり回転する。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)と第4遊星ギア列(S4、P4、R4)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R2)は動力を伝達しない。
<前進7速(7th)>(C2,B1,C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結されて第5構成要素(A)が固定され、第7構成要素(C)が入力軸と連結されているため第6構成要素(B)が減速されて第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、主前置変速機構の第2クラッチ(C2)が締結され主前置変速機構の第8、第9、第10構成要素(D、E、F)は一体回転をし、第6構成要素(B)の減速回転はそのまま第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1ブレーキ(B1)と第2クラッチ(C2)の締結で入力軸の減速回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は第3クラッチ(C3)を介して、あるいは、直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結し、出力となる第3構成要素の第1リングギア(R1)、あるいは、第3クラッチ(C3)で連結された第1リングギア(R1)の回転は増速される。このとき、主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R2)は動力を伝達しない。
<前進8速(8th)>(C2,B2,C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2ブレーキ(B2)と第2クラッチ(C2)が締結され第1連結部材(7)は固定(0回転)され、MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)も固定(0回転)される。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第2ブレーキ(B2)と第2クラッチ(C2)の締結で0回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は第3クラッチ(C3)を介して、あるいは、直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結し、出力となる第3構成要素の第1リングギア(R1)、あるいは、第3クラッチ(C3)で連結された第1リングギア(R1)の回転は増速される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)と第4遊星ギア列(S4、P4、R4)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R2)は動力を伝達しない。
<前進9速(9th)>(B1,B2,C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結され、入力軸と連結されている第7構成要素(C)が減速され第6構成要素(B)から第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第9構成要素(E)が第2ブレーキ(B2)で固定されるため、10構成要素(F)は逆回転に減速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1ブレーキ(B1)と第2ブレーキ(B2)の締結で入力軸の逆回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は第3クラッチ(C3)を介して、あるいは、直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結し、出力となる第3構成要素の第1リングギア(R1)、あるいは、第3クラッチ(C3)で連結された第1リングギア(R1)の回転は増速される。このとき、主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R2)は動力を伝達しない。
<後進(Rev1)>(B1,B2,B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結され、入力軸と連結されている第7構成要素(C)が減速され第6構成要素(B)から第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第9構成要素(E)が第2ブレーキ(B2)で固定されるため、10構成要素(F)は逆回転に減速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。つまり、FRONT GEAR(前置変速機構)は第1ブレーキ(B1)と第2ブレーキ(B2)の締結で入力軸の逆回転を出力する。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転はさらに減速される。このとき、主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
図1の速度線図おける各構成要素の位置は、4個の遊星ギア列のリングギアをサンギアの歯数で割った歯数比(PLANET GEAR TOOTH RATIO)で決定される。ここで、特に第4遊星ギア列の歯数比がZR4/ZS4=1.350と小さくなるので、第4リングギア(R4)の径を大きくしなければ成立しなく、詳細は次の図2の構造図で説明する。図1の表は各変速段における締結要素(SHIFT)と変速比(RATIO)を表したもので、変速比の幅(RANGE)が9.86と9ATに相応しい値になり、変速比のステップ値(STEP)もほぼ適切となる。ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)も前進1速(1st)98.4%と前進3速(3rd)98.2%を除いて99%を超える噛み合い効率の高さを示している。なお、前進1速(1st)ではギアの噛み合い箇所は4箇所でギアの噛み合い効率が98.4%となり、前進5速(5th)ではギアの噛み合い箇所は6箇所と前進1速(1st)より2箇所多くなるがギアの噛み合い効率が99.2%と逆に良くなる。つまり、ギアの噛み合い箇所の数とギアの噛み合い効率が比例しないことをこの表が示しており、段落「0007」に記載した、ジヤトコ株式会社の特開2011−69396〜69399等での遊星ギアの噛み合い回数で効率を評価する手法が間違っていることがわかる。
段落「0049」、「0050」で、同じC3タイプ9ATである本発明の図1とBENZ 9ATを示す図6の構造を比較したが、ここでは性能を比較する。変速比は本発明の方が変速比幅を大きくとったが、BENZ 9ATも主変速機構の第1、第2遊星ギア列の歯数を変えれば本発明と同じような変速比となり、大差はない。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は、本発明が前進1速(1st)で98.4%、前進7速(7th)で99.7%となり、BENZ 9ATの前進1速(1st)で98.1%、前進7速(7th)で99.4%となる効率より本発明の方がより少し勝っているのに対し、本発明が前進3速(3rd)で98.2%、前進5速(5th)で99.2%となり、BENZ 9ATの前進3速(3rd)で98.6%、前進5速(5th)で99.4%の方が少し勝っている。増速段では全体的に本発明の方が僅かに勝っていることもあり、本発明はBENZ 9ATと遊星ギアの噛み合い効率は同等以上と言ってよいだろう。
次に、C1タイプ9ATを示す図7と本発明の図1に於ける性能の比較を行う。変速比幅はC1タイプ9ATを示す図7の方が9.19と小さくとったが、主変速機構の第1、第2遊星ギア列の歯数を変えれば本発明と同じような変速比となり、大差はない。但し、変速比に関して、C1タイプ9ATは減速段が4段で増速段が4段と、本発明の減速段が5段で増速段が3段より高速側に振れ、バランスはよくない。遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は、C1タイプ9ATは前進1速(1st)で98.4%、前進2速(2nd)で98.4%、前進3速(3rd)で98.3%、前進9速(9th)で98.9%となり、その他は99%以上と決して悪くはないが、C3タイプ9ATと比べると少し悪い。言い換えれば、C3タイプ9ATの遊星ギアの噛み合い効率は最高レベルと言うことができる。なお、C1タイプ9ATのFRONT GEAR(前置変速機構)の、入力軸回転、入力軸の減速回転2種、0回転、入力軸の逆回転の5種類の回転速度を出力する機構は、従来の3ATと同じ機構であるのに対し、C3タイプ9ATの、入力軸回転、入力軸の減速回転、入力軸の増速回転、0回転、入力軸の逆回転の5種類の回転速度を出力する機構は、従来の3ATより高速側に振れた3ATとみなすことができる。
図2は図1の左図の乗用車に適した模式図をコンセプト設計した構造図である。図2において、変速機の左前方には図示しない原動機が配され、トルクコンバータ200aを介して動力が変速機に入力される。変速機ケース1(メインケース1)は一体として配され、前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、保持部材2aにはトルクコンバータ200aのホィールステータを固定し入力軸3aを軸支するとともに第1、第3クラッチ(C1、C3)の作動油の通路となる保持部材2bがボルトで締結される。変速機ケース1の軸方向中央部には断面がT字型に似た形状の隔壁100aが脱着可能に配され、内周側に配された第1連結部材(7)近くまで延材された側壁で前方のFRONT GEAR(前置変速機構)と後方のMAIN GEAR(主変速機構)を隔てる。FRONT GEAR(前置変速機構)は、保持部材2a側から軸方向順に前置変速機構の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)と、第1クラッチ(C1)を径方向外周に配し第3クラッチ(C3)を内周に配した入力軸を共通のクラッチカバーとする2連クラッチと、前置変速機構の主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)と、第2クラッチ(C2)が配され、第3遊星ギア列(30)の外周に第1ブレーキ(B1)が配され、第2クラッチ(C2)の外周に第2ブレーキ(B2)が配される。MAIN GEAR(主変速機構)は、隔壁100a側から軸方向順に第2遊星ギア列(20)と第1遊星ギア列(10)が配され、第2遊星ギア列(20)の外周に第3ブレーキ(B3)が配される。
トルクコンバータ200aの出力部に連結された入力軸3aは、変速機ケース1前方の筒状の保持部材2bに配されたブシュ4aとニードルローラコロ軸受け4bで軸支され、出力軸3cは変速機ケース1後方でニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支される。入力軸3aと出力軸3cの間には、入力軸3aに配されたニードルローラコロ軸受け4cと出力軸3cに配されたニードルローラコロ軸受け4dで軸支された中間軸3bが回転自在に配される。中間軸3bの外周にはニードルローラコロ軸受け4gで筒状の第1連結部材(7)が回転自在に配される。ここで、第1連結部材(7)、あるいは、中間軸3bは前方のFRONT GEAR(前置変速機構)と後方のMAIN GEAR(主変速機構)を結ぶ中継軸になる。
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)は、入力軸3aの回転を減速して主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)に選択的に伝達する。保持部材2bの円筒部外周前方には第3遊星ギア列(30)が配され、第3遊星キャリア(P3)は右側サイド部材の内周に筒状に延材された内径に圧入されたブシュ4hで保持部材2bの外周に回転自在に保持され、更に、第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュ4iで第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の内周に筒状に延材された外周に回転自在に保持される。第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材は第3遊星ギア列(30)の外周を通り変速機ケース1の内側に沿って第2連結部材(8)として後方に延材される。第3遊星ギア列(30)の後方には第1、第3クラッチ(C1、C3)共通のクラッチカバーが配置され、共通のクラッチカバーの側壁の外周部と第3リングギア(R3)がスプラインで連結される。
第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)を制動可能とする。第3サンギア(S3)の前方側に溶着された薄板状のブレーキハブが第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材は変速機ケース1の前方に成形されたスプラインに係止され、変速機ケース1の前方にボルトで固定された保持部材2aの油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。発進段となる前進1速(1st)と後進(Rev1)に於ける第1ブレーキ(B1)のトルク容量は入力軸トルクの0.68倍であり、極めて低容量となる。したがって、図2では、変速機ケース1のスプライン端のエンドプレートに摩擦部材を冷却するための油(OIL)通路が形成され、摩擦部材の円周方向中央に形成された油溝に冷却油を導く構造となっている。これは後述する図5で詳細を説明するが、トルクコンバータを用いず原動機と入力軸を回転変動吸収ダンパで直結し、第1ブレーキ(B1)を滑らせて車両のクリープやスムースな発進を行うための発進デバイスであり、例えばDCTに用いる発進デバイスとしての入力軸と同じトルク容量が必要となるクラッチより、発熱量が小さく冷却効果に優れたシンプルな構造となる。
第1クラッチ(C1)は、入力軸3aと第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を連結可能とし、第3クラッチ(C3)は入力軸3aと第1遊星ギア列(10)の第1遊星キャリア(P1)を連結可能とする。また、第1、第3クラッチ(C1、C3)を共有するクラッチカバーは入力軸3aと連結されており、入力軸3aと第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)を連結する。第1、第3クラッチ(C1、C3)は、摩擦部材を径方向に重ねて配された2連クラッチであり、共有するクラッチカバーは筒状の保持部材2bの外周に沿って配され、保持部材2bの外周に設けられたシールリングで密閉された油路から第1、第3クラッチ(C1、C3)の各油圧室への作動油と各油圧室の遠心力をキャンセルするキャンセル油の供給を受け、保持部材2bの後方で入力軸3aとスプライン連結される。共有するクラッチカバーは逆コの字型をしたドラム形状をしており、外周ドラムの内径側と外径側にスプライン加工がなされ、内径側で第3クラッチ(C3)の摩擦部材を係止し外径側で第1クラッチ(C1)の摩擦部材を係止する。2連クラッチのドラムの内周側には第3クラッチ(C3)のもう一方の摩擦部材を係止するクラッチハブが中間軸3bにスプライン連結され、外周側には第1クラッチ(C1)のもう一方の摩擦部材を係止するドラムが第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材に溶着される。逆コの字型をしたクラッチドラムの右開口部側には第3クラッチ(C3)のピストンと、ピストンの作動油圧室の遠心力をキャンセルするキャンセラープレートと、ピストンを押し戻すリターンスプリングが装着され、第3クラッチ(C3)の油圧サーボを形成する。逆コの字型をしたドラムの左側前方には内周に側壁が溶着され、側壁の外周部は第3リングギア(R3)とスプライン連結されると共に第1クラッチ(C1)のピストンが保持されて、このピストンと逆コの字型をしたドラムの間が油圧キャンセラー室を形成するとともに第1クラッチ(C1)のピストンのリターンスプリングが装着され、第1クラッチ(C1)の油圧サーボを形成する。なお、逆コの字型をしたドラムと第1クラッチ(C1)のピストンを保持する側壁の間には、第1クラッチ(C1)のピストンの作動油圧室と油圧キャンセラー室に油を導くための隔壁が設けられており、この隔壁構造を用いることで2連クラッチがコンパクトになる。
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第4遊星ギア列(40)は、5種類の回転を主変速機構となる第1、第2遊星ギア列(10、20)に選択的に伝達する。図1に示すように第4遊星ギア列(40)の歯数比は、適切な変速比をとるため「ZR4/ZS4=1.350」と一般的な比率「1.6〜3.5」より極端に小さく設定している。プラネットギアを軸支するには強度上一定の大きさが必要で、歯数比を1.350とするにはサンギアとリングギアの径を極めて大きくしなければプラネットギアを軸支することはできない。このことにより径に制限を受ける乗用車用の変速装置では第4遊星ギア列(40)の外周側にはブレーキやクラッチの摩擦部材を配することができなくなる。加えて、ATに用いられる一般的な遊星ギア列の使い方では、歯数比を1.350にすると遊星ピニオンギアの自転が高速になり過ぎる欠点があり、用いるには回転限度やトルク、及び遊星ギアの噛み合い効率を見極める必要がある。図1のC3タイプ9ATでは、第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)が出力となり、入力軸と同回転、0回転、及び減速回転を出力する場合は遊星ピニオンギアが回転せず、増速回転と逆回転を出力する場合は第4リングギアが減速回転となり増速回転や逆回転の度合いも小さいため、遊星ピニオンギアの自転が高速になることはない。しかも、遊星ピニオンギアが回転して第4サンギア(S4)が出力する前進3速段での増速回転トルクは0.647となり、前進9速段での逆回転制動トルクは0.208と両変速段共に負荷トルクが小さいため、図2のように第4遊星ギア列(40)のギア巾を小さくできる。この相対回転や負荷トルクが小さいことが遊星ギアの噛み合い効率を向上させており、歯数比を1.350とする遊星ギアを用いることに何ら問題は生じない。
第4遊星ギア列(40)の第4リングギア(R4)は、第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材の変速機ケース1の内側に沿って第2連結部材(8)として延材された後方の最大径部でスプライン連結される。第4リングギア(R4)と噛み合う遊星ピニオンギアを支持する第4遊星キャリア(P4)は左側サイド部材が内周方向に延材され、中間軸3bにスプライン連結された第3クラッチ(C3)のクラッチハブの外周に幅広のブシュ4jで回転自在に軸支される。第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材は大径部が後方に延材される。遊星ピニオンギアと噛み合うもう一方の径の大きな第4サンギア(S4)は内周方向に延材され第1連結部材(7)に溶着される。
第2クラッチ(C2)は、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)と第4サンギア(S4)を連結可能とし、第4遊星ギア列(40)を一体化する。大径部が後方に延材された第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材の延材部内径にはスプラインが形成され第2クラッチ(C2)の摩擦部材が係止されると共に、クラッチカバーがスプライン部に嵌合されリティニングリングで軸方向が固定される。第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材の延材部の内周側にはもう一方の摩擦部材をスプライン部で係止するクラッチハブが 第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)に溶着される。第2クラッチ(C2)のクラッチカバーの後方には変速機ケース1にT字型に似た形状の隔壁100aが脱着可能に固定され、内周方向に第1連結部材(7)近くまで延材され、内周部がコの字型に前方に突き出ている。第2クラッチ(C2)のクラッチカバーはこの突出部にブシュ4kで軸支され、隔壁100aの油路を通って突出部外周に設けられたシールリングで密閉された油路から第2クラッチ(C2)の油圧室へ作動油と油圧室の遠心力をキャンセルするキャンセル油が供給される。クラッチカバーの左開口部側には第2クラッチ(C2)のピストンと、ピストンの作動油圧室の遠心力をキャンセルするキャンセラープレートと、ピストンを押し戻すリターンスプリングが装着され、第2クラッチ(C2)の油圧サーボを形成する。
第2ブレーキ(B2)は、第4遊星ギア列(40)の第4遊星キャリア(P4)を制動可能とする。大径部が後方に延材された第4遊星キャリア(P4)の右側サイド部材の延材部外径にはスプラインが形成され第2ブレーキ(B2)の摩擦部材が係止される。変速機ケース1に固定された隔壁100aの外周に設けられた前方突出部の内径にはスプラインが形成され第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、隔壁100aの外周左側に設けられた油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第2ブレーキ(B2)の油圧サーボが形成される。
隔壁100aの後方に配される第2遊星ギア列(20)は、前進1速(1st)から前進4速(4th)、及び後進(Rev1)に於いて、第1連結部材(7)と中間軸3bから入力される回転を減速して出力する。第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)は、内周側で第1連結部材(7)にスプライン連結されると共に、第1遊星ギア列(10)の第1サンギア(S1)と一体成形されてニードルローラコロ軸受け4gで中間軸3bの外周に回転自在に配される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、右側サイド部材が出力軸3cに溶着された出力ハブ9にスプライン連結される第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)の左端歯部にスプラインとして連結する。また、遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)は、左端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが隔壁100aの内周に延材されスラストニードルベアリングで隔壁100aにより軸方向が規制されて回転自在に配される。
第2遊星ギア列(20)の後方に配される第1遊星ギア列(10)は、前進4速(4th)から前進9速(9th)に於いて、第1連結部材(7)と中間軸3bから入力される回転を第1サンギア(S1)と第1遊星キャリア(P1)に入力し、第1リングギア(R1)より出力する。第2サンギア(S2)と一体成形される第1サンギア(S1)と噛み合う遊星ピニオンギアは第1遊星キャリア(P1)に支持され、右側サイド部材が中間軸3bと一体になっている。遊星ピニオンギアと噛み合う第1リングギア(R1)は左端歯部に第2遊星キャリア(P2)の右側サイド部材がスプライン連結されると共に、外周部で出力軸3cに溶着された出力ハブ9がスプライン連結される。
第3ブレーキ(B3)は、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動可能とする。第2リングギア(R2)は外周部にスプラインが成形され第3ブレーキ(B3)の摩擦部材を係止する。変速機ケース1に固定された隔壁100aの外周に設けられた後方突出部の内径にはスプラインが形成され第3ブレーキ(B3)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、隔壁100aの外周右側に設けられた油圧室にピストンとリターンスプリングが保持され、第3ブレーキ(B2)の油圧サーボが形成される。
変速機ケース1後方でニードルローラコロ軸受け4fと深溝玉軸受け4eで軸支される出力軸3cは、前方で外周方向に延材されたパーキングギア6aが形成されると共に、MAIN GEAR(主変速機構)から出力される第1リングギア(R1)とスプライン連結する出力ハブ9が溶着される。
ここで、図2のC3タイプ9ATである本発明のFRの乗用車を対象とした構造図と、C1タイプ9ATである図8の同じ容量のFRの乗用車を対象とした構造図を比較する。結論的には、図8のC1タイプ9ATはワンウェイクラッチを内径側に2個使っているにもかかわらず、軸方向長さが本発明の図2のC3タイプ9ATと同じということになり、それだけ構造がシンプルになる。その主な原因は5種類の回転を出力するFRONT GEAR(前置変速機構)の構造にある。図8のC1タイプ9ATのFRONT GEAR(前置変速機構)は図7の模式図が示す如く、2個の遊星ギア列からなるA、B、C、D4個の構成要素のAとDに入力軸の回転をクラッチC1、C2で入力可能とし、CとDをブレーキB1、B2で制動可能とする今まで用いられてきた3ATの方式であり、図7は最も効率がよくシンプルとなるシンプソン遊星ギア列を用い、しかもクラッチC1、C2をクラッチカバーを共有する2連クラッチとして摩擦部材を遊星ギア列の外周に配したのでシンプル・コンパクトとなる。これに対し、本発明の図2のC3タイプ9ATのFRONT GEAR(前置変速機構)は、2個の遊星ギア列からなる固定された4個の構成要素と4個の締結要素から入力軸回転、入力軸の減速回転、入力軸の増速回転、0回転、入力軸の逆回転の5種類の回転を出力することはできず、遊星ギアの構成要素間を第2クラッチ(C2)で連結しなければならない。2個の遊星ギア列のギア巾は図7と同じく入力軸の動力がリングギア入力となるため小さくできるが、遊星ギアの構成要素間を第2クラッチ(C2)で連結しなければならない構造が前置変速機構を複雑にし軸方向を長くする。そこで、図2では「請求項3」で請求したように、入力軸の回転を伝達可能にするMAIN GEAR(主変速機構)に配する第3クラッチ(C3)とFRONT GEAR(前置変速機構)の第1クラッチ(C1)を径方向に2段に重ねた2連クラッチとすることで、変速装置全体の軸方向が長くなる構造を極力抑えた。なお、図2のC3タイプ9ATでは、前進1速(1st)で入力軸3aの1.68倍のトルクが径の小さな第2サンギア(S2)に入力されると共に、前進4速(4th)までこの第2サンギア(S2)に動力が入力され、負荷頻度が大きくなるため第2遊星ギア列(20)は耐久性が必要となり、ギア巾を広くしなければならない。このことも図7のワンウェイクラッチを2個用いたC1タイプ9ATと軸方向が変わらなくなる原因である。但し、第1、第3クラッチ(C1、C3)を径方向に2段に重ねた2連クラッチとすることで、従来のトヨタやZFの8ATとほぼ同じ長さに抑えることができる。
同じC3タイプ9ATである図6のBENZのFRの乗用車を対象とした模式図と、図2のC3タイプ9ATの構造図を比較する。FRONT GEAR(前置変速機構)の2個の遊星ギア列は、リングギアとサンギアの径の割合だけ本発明の図2の方が幅を小さくできる。但し、本発明は隔壁100aを用いるので隔壁100aを含めたFRONT GEAR(前置変速機構)の軸方向長さはほぼ同じとなる。しかし、BENZ9ATはMAIN GEAR(主変速機構)に配する第3クラッチ(C3)の摩擦部材を図8のC1タイプ9ATのように遊星ギアの外周部に配することができず、本発明の第3クラッチ(C3)をFRONT GEAR(前置変速機構)に含めた構造より10%は軸方向が長くなる。また、BENZ9ATは構成要素間を連結するクラッチC2への作動油の供給が入力軸の中に設けた油通路を通って供給するため、本発明の隔壁100aを通す構造と異なり、クラッチC2、及び油路が複雑で管路抵抗が増え制御が不利となる。因みに、クラッチC2を締結する変速段はN(ニュートラル)→D(1st)、3rd→2nd、5th→6thで応答性が悪くなる。3rd→2ndの場合はキックダウンも含め、クラッチC2の応答性が悪くてもあまり問題とはならないが、車両停車時に於いて、Rev1と1stのどちらにでも迅速にシフトしなければならないN(ニュートラル)時からD(1st)レンジのシフトは応答性が悪いと問題がでる。また、5th→6thは管路抵抗が大きいとコントロールバルブの制御がそれだけ高い圧力でピストンを押さなければならず、ピストンが摩擦部材に当たった瞬間に変速ショックがでやすい。
<C3タイプ15AT>
図3は、C3タイプ15ATの模式図と変速形態を表した速度線図と各変速段における締結要素(SHIFT)、及び変速比(RATIO)と遊星ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)を示したものである。図3の速度線図において、速度線図はMAIN GEAR(主変速機構)とFRONT GEAR(前置変速機構)に分かれており、FRONT GEAR(前置変速機構)は主前置変速機構と副前置変速機構に分かれている。MAIN GEAR(主変速機構)の速度線図は、図の右から順に第1、2、3、4構成要素が配置され、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第5、6、7構成要素(A、B、C)が配置され、主前置変速機構の速度線図は、図の右から順に第8、9、10、11構成要素(D、E、F、G)が配置され、第6構成要素(B)と第8構成要素(D)が第2連結部材(8)で連結され、第1構成要素と第10構成要素(F)が第1連結部材(7)で連結され、第3構成要素が変速装置の出力となる。速度線図の上下方向が速度を表し、1と記入された値が入力軸の回転速度を示し、0と記入された値が速度ゼロを示す。図1のC3タイプ9ATと比較すると、図3は図1に第11構成要素(G)を増やしただけであり、第1、第2連結部材(7、8)の連結構成要素も全く同じで、同じ変速形態といえる。
図3の模式図は、商用車(Truck Bus)を対称としたギアトレンである。図示しない左前方に原動機があり、トルクコンバータ(T/C)、フルードカップリング(F/C)、またはハイドロダンパ(H/D)を介して動力が変速装置の入力軸に入力される。変速装置には左前方から軸方向順にシンプル遊星ギアからなる第3遊星ギア列(30)、2階建ての第4遊星ギア列(40)と第5遊星ギア列(50)、第2遊星ギア列(20)、第1遊星ギア列(10)が配され、第1及び第2遊星ギア列(10、20)がMAIN GEAR(主変速機構)を構成し、第3、第4及び第5遊星ギア列(30、40、50)がFRONT GEAR(前置変速機構)を構成する。また、第3遊星ギア列(30)がFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成し、第4、第5遊星ギア列(40、50)が主前置変速機構を構成する。第1、第2、第3、第4、第5遊星ギア列(10、20、30、40、50)は、第1、第2、第3、第4、第5サンギア(S1、S2、S3、S4、S5)と、第1、第2、第3、第4、第5遊星キャリア(P1、P2、P3、P4、P5)と、第1、第2、第3、第4、第5リングギア(R1、R2、R3、R4、R5)とで構成される。図1のC3タイプ9ATと比較すると、図3は図1に第5遊星ギア列(50)を増やしただけである。
図3の模式図と速度線図において、MAIN GEAR(主変速機構)を構成する第1及び第2遊星ギア列(10、20)の第1及び第2サンギア(S1、S2)を第1構成要素とし、第1遊星キャリア(P1)を第2構成要素とし、第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)を第3構成要素とし、第2リングギア(R2)を第4構成要素とし、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)、第3遊星キャリア(P3)、第3リングギア(R3)を第5、第6、第7構成要素(A、B、C)とし、主前置変速機構を構成する第4、第5遊星ギア列(40、50)の第4サンギア(S4)と第5リングギア(R5)、第4遊星キャリア(P4)と第5遊星キャリア(P5)、第4リングギア(R4)、第5サンギアを第8、第9、第10、第11構成要素(D、E、F、G)とする。
ここで、入力軸の回転は、第1、第2クラッチ(C1)を介してFRONT GEAR(前置変速機構)の第9、第11構成要素(E、G)に入力可能で、第5、第8、第9構成要素(A、D、E)が、第1、第4、第2ブレーキ(B1、B4、B2)で制動可能で、MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素を構成する第1及び第2サンギア(S1、S2)は連結されており、第2構成要素を構成する第1遊星キャリア(P1)を入力軸と連結し、第3構成要素を構成する出力軸に連結した第2遊星キャリア(P2)を第3クラッチ(C3)を介して第1リングギア(R1)と連結し、第4構成要素が、第3ブレーキ(B3)で制動可能となっている。図1のC3タイプ9ATの締結要素と比較すると、FRONT GEAR(前置変速機構)の第8構成要素(D)を制動する、第4ブレーキ(B4)を増やしただけであるが、図1の第4サンギア(S4)と第4遊星キャリア(P4)の構成要素間を連結する第2クラッチ(C2)を、図3では入力軸と第5サンギア(S5)を連結するようにしたので、後述する図4の構造図で説明するが、このクラッチの配置が構造をシンプル・コンパクトにする。
図3の模式図において、第1ブレーキ(B1)は第3遊星ギア列(30)の径方向外周部に配され、第1、第2クラッチ(C1、C2)は第1クラッチ(C1)を径方向外周とした径方向に2重に重ねた入力軸を共通のクラッチカバーとする2連クラッチとして第3遊星ギア列(30)と2階建ての第4、第5遊星ギア列(40、50)の間に配され、第2、第4ブレーキ(B2、B4)は第3遊星ギア列(30)と2階建ての第4、第5遊星ギア列(40、50)の間の径方向外周部に配され、第3クラッチ(C3)は第1遊星ギア列(10)の径方向外周部に配され、第3ブレーキ(B3)は第3遊星ギア列(30)の径方向外周部に配される。図1のC3タイプ9ATと比較すると、前述した如く、MAIN GEAR(主変速機構)は全く同じで、FRONT GEAR(前置変速機構)の第5遊星ギア列(50)と第4ブレーキ(B4)を増やしたギアトレンである。
変速装置の出力となるMAIN GEAR(主変速機構)の第3構成要素の回転は、第1、第2、及び第4構成要素の2個の構成要素の回転を規制することで決まり、第1構成要素と第1連結部材(7)で連結されるFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構の第10構成要素(F)の回転は、第8、第9、及び第11構成要素(D、E、G)の2個の構成要素の回転を規制することで決まり、第8構成要素(D)の回転は、第8構成要素(D)と第2連結部材(8)で連結される副前置変速機構の第5構成要素(A)の回転を規制することで決まる。図3の速度線図と各変速段の締結要素を示す表について、変速の動作を説明する。
<前進1速(1st)>(C2、B2、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2クラッチ(C2)と第2ブレーキ(B2)が締結され、入力軸が第11構成要素(G)に連結され、第9構成要素(E)が固定されて第10構成要素(F)が大きく減速され第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転はさらに減速される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)、及び主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進2速(2nd)>(C2、B4、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2クラッチ(C2)と第4ブレーキ(B4)が締結され、入力軸が第11構成要素(G)に連結され、第8構成要素(D)が固定されて第10構成要素(F)が減速され第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転はさらに減速される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)、及び主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進3速(3rd)>(C2、B1、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結されて第5構成要素(A)が固定され、第7構成要素(C)が入力軸と連結されているため第6構成要素(B)が減速されて第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2クラッチ(C2)と締結されて入力軸が第11構成要素(G)に連結され、第8構成要素(D)が減速されるため第10構成要素(F)が小さく減速され、第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転はさらに減速される。このとき、主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進4速(4th)>(C1、C2、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第1、第2クラッチ(C1、C2)が締結されて第4、第5遊星ギア列(40、50)が一体となり入力軸の回転が第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転は減速される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)、及び主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進5速(5th)>(C1、B1、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結されて第5構成要素(A)が固定され、第7構成要素(C)が入力軸と連結されているため第6構成要素(B)が減速されて第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、入力軸と第9構成要素(E)が第1クラッチ(C1)で連結されるため、10構成要素(F)は小さく増速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転は減速される。このとき、前置変速機構の第5遊星ギア列(S5、P5、R5)、及び主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進6速(6th)>(C1、B4、B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第1クラッチ(C1)と第4ブレーキ(B4)が締結されて第8構成要素(D)が固定され第9構成要素(E)が入力軸と連結されるため、10構成要素(F)は大きく増速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転は減速される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)と第5遊星ギア列(S5、P5、R5)、及び主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
<前進7速(7th)>(C3、B3)
MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結する。第3ブレーキ(B3)で第4構成要素第2リングギア(R2)が制動されるため、入力軸の回転は第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)から第1構成要素の連結された第1、第2サンギア(S1、S2)を通って、出力となる第3構成要素の第3クラッチ(C3)で連結された第1リングギア(R1)と第2遊星キャリア(P2)に減速されて伝達される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)と第4遊星ギア列(S4、P4、R4)と第5遊星ギア列(S5、P5、R5)は動力を伝達しない。
<前進8速(8th)>(C1、B4、C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第1クラッチ(C1)と第4ブレーキ(B4)が締結されて第8構成要素(D)が固定され第9構成要素(E)が入力軸と連結されるため、10構成要素(F)は大きく増速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸が直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星リングギア(R1)は減速されて第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)と第5遊星ギア列(S5、P5、R5)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<前進9速(9th)>(C1、B1、C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結されて第5構成要素(A)が固定され、第7構成要素(C)が入力軸と連結されているため第6構成要素(B)が減速されて第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、入力軸と第9構成要素(E)が第1クラッチ(C1)で連結されるため、10構成要素(F)は小さく増速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸が直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星リングギア(R1)は減速されて第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、前置変速機構の第5遊星ギア列(S5、P5、R5)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<前進10速(10th)>(C1、C2、C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第1、第2クラッチ(C1、C2)が締結されて第4、第5遊星ギア列(40、50)が一体となり入力軸の回転が第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸が直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星ギア列は一体となりは第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<前進11速(11th)>(C2、B1、C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結されて第5構成要素(A)が固定され、第7構成要素(C)が入力軸と連結されているため第6構成要素(B)が減速されて第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2クラッチ(C2)が締結されて入力軸が第11構成要素(G)に連結され、第8構成要素(D)が減速されるため第10構成要素(F)が小さく減速され、第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸が直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星リングギア(R1)は小さく増速されて第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<前進12速(12th)>(C2、B4、C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2クラッチ(C2)と第4ブレーキ(B4)が締結され、入力軸が第11構成要素(G)に連結され、第8構成要素(D)が固定されて第10構成要素(F)が減速され第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸が直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星リングギア(R1)は増速されて第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<前進13速(13th)>(C2、B2、C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2クラッチ(C2)と第2ブレーキ(B2)が締結され、入力軸が第11構成要素(G)に連結され、第9構成要素(E)が固定されて第10構成要素(F)が大きく減速され第10構成要素(F)から第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸が直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星リングギア(R1)は増速されて第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<前進14速(14th)>(B4、B2、C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第2、第4ブレーキ(B2、B4)が締結され、第4、第5遊星ギア列(40、50)が一体で固定されて第10構成要素(F)が固定され、第10構成要素(F)と第1連結部材(7)で連結されるMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)も固定される。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸が直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星リングギア(R1)は大きく増速されて第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、前置変速機構の第3遊星ギア列(S3、P3、R3)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<前進15速(15th)>(B1,B2,C3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結され、入力軸と連結されている第7構成要素(C)が減速され第6構成要素(B)から第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第9構成要素(E)が第2ブレーキ(B2)で固定されるため、10構成要素(F)は逆回転に減速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第1サンギア(S1)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、入力軸は直接第2構成要素の第1遊星キャリア(P1)に連結されているため、第1遊星リングギア(R1)は更に大きく増速されて第3クラッチ(C3)を通って出力される。このとき、前置変速機構の第5遊星ギア列(S5、P5、R5)、及び主変速機構の第2遊星ギア列(S2、P2、R3)は動力を伝達しない。
<後進(Rev)>(B1,B2,B3)
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を示す速度線図において、第1ブレーキ(B1)が締結され、入力軸と連結されている第7構成要素(C)が減速され第6構成要素(B)から第2連結部材(8)を通って主前置変速機構の第8構成要素(D)に伝わる。FRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構を示す速度線図において、第9構成要素(E)が第2ブレーキ(B2)で固定されるため、10構成要素(F)は逆回転に減速され第1連結部材(7)を通ってMAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素の第2サンギア(S2)に伝わる。MAIN GEAR(主変速機構)を示す速度線図において、第3ブレーキ(B3)で第4構成要素の第2リングギア(R2)が制動されるため、出力となる第3構成要素の第2遊星キャリア(P2)の回転はさらに減速される。このとき、前置変速機構の第5遊星ギア列(S5、P5、R5)、及び主変速機構の第1遊星ギア列(S1、P1、R1)は動力を伝達しない。
図3の速度線図おける各構成要素の位置は、4個の遊星ギア列のリングギアをサンギアの歯数で割った歯数比(PLANET GEAR TOOTH RATIO)で決定される。ここで、特に2階建てとなる第4、第5遊星ギア列は、第4遊星ギア列の歯数比がZR4/ZS4=1.350と小さくなり、第5遊星ギア列の歯数比がZR5/ZS5=2.024となるので、第4リングギア(R4)の径を大きくしなければ成立しなく、次の図4の構造図で説明する。図3の表は各変速段に於ける締結要素(SHIFT)と変速比(RATIO)を表したもので、変速比のステップ値(STEP)は一部不揃いとなるが変速比の幅(RANGE)は19.21と大きな値になり、重車両用の変速装置として十分な牽引力が得られる。ギアの噛み合い効率(GEAR EFF)は変速比が極端に大きくなる低速段では前進1速(1st)96.2%、前進2速(2nd)97.4%と悪くなるが、前進3速(3rd)から前進8速(8th)までは98.4%で、前進4速(4th)と前進9速(9th)から前進15速(15th)までは99%を超える噛み合い効率の高さを示している。つまり、前進15速(15th)のような特殊な多段速の変速装置では最高の噛み合い効率となる。
ここで、C3タイプ15ATのFRONT GEAR(前置変速機構)は、入力軸回転、入力軸の減速回転3種、入力軸の増速回転2種、0回転、入力軸の逆回転の8種類の回転速度を出力するが、この機構は段落「0004」、「0005」に記載した変速比が高速側に振れる遊星ギアの噛み合い効率のよいAタイプ6ATであり、Cタイプ9ATの高速側に振れる3ATと類似している。C3タイプ15ATのFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する第3遊星ギア列(30)を通過する前進段における動力は、前進3速(3rd)で30%、前進5速(5th)で33%、前進9速(9th)で25%、前進11速(11th)で12%、前進15速(15th)で13%と小さい。この第3遊星ギア列(30)はシンプル遊星ギアを用いているが、ダブル遊星ギアを用いると変速比はよくなるのでダブル遊星ギアを用いてもよい。しかし、特に強度的に厳しい商用車にはダブル遊星ギアを用いると強度面で不利になるので、シンプル遊星ギアを用いた。ダブル遊星ギアを用いるとシンプル遊星ギアを用いた場合に比べ、遊星ギアの噛み合い効率が悪くなるが、この場合は動力の通過量が小さいので全体の噛み合い効率に及ぼす影響は0.1〜0.3%で、前進9速(9th)、前進11速(11th)、前進15速(15th)では依然として遊星ギアの噛み合い効率が99%を超え、大きな弊害とはならない。ところが、段落「0007」に記載したように、アイシン・エイ・ダブリュ株式会社とトヨタ自動車株式会社は特開2014−35056〜35059で、Aタイプ7(6)ATのFRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構を構成する遊星ギア列にダブル遊星ギアを用いた機構を遊星ギアの噛み合い効率が悪いと誤った評価をしている。
図4は図3の模式図をコンセプト設計した構造図である。図4において、変速機の左前方には図示しない原動機が配され、継ぎ手を介して動力が変速機に入力される。変速機ケースはメインケース1aとリアケース1bに二体化され、ボルトで一体的に締結されている。前方の原動機との取り付けはSAEで規格化された1000Nm以上のトルクを出力する場合に用いられているSAE No1 Housingの取り付け寸法となっている。この継ぎ手には、一般的にトルクコンバータが用いられるが、トルク増幅作用のないフルードカップリングやトルク変動を吸収するハイドロダンパ、あるいは、HEV用にモータジェネレータ等を用いてもよい。メインケース1aの前部には、変速機を油圧制御するためのチャージングポンプを保持する保持部材2aがボルトで締結され、チャージングポンプの左前方には乾式となる継ぎ手側と湿式となる変速機側を隔てる隔壁5aがメインケース1aに締結される。チャージングポンプは原動機から継ぎ手を介して直接ギアにより駆動され、このギアは図示しないPTO(Power Take Off)用のギアを駆動する。PTOは特装車には必須の作業用装置であり、原動機で直接駆動され、このような変速機にはPTO装置を装着可能としなければならない。保持部材2aには筒状の保持部材2bが締結されており、ニードルローラコロ軸受け4aを保持し原動機から継ぎ手を介して動力が入力する入力軸3aを軸支する。またリアケース1bにはテーパコロ軸受け4c、4dが背面合わせで装着されており、出力軸3cを軸支する。変速機の回転中心部には、入力軸3aが配され、筒状の保持部材2bの後端で2連クラッチとなる第1、第2クラッチ(C1、C2)の共通のクラッチカバー(ドラム)にスプライン連結されるとともに、入力軸3aの後端で第1遊星ギア列(10)の第1遊星キャリア(P1)の右側サイド部材にスプライン連結され、出力軸3cにニードルローラコロ軸受け4bで軸支される。
保持部材2aの後方に配されたFRONT GEAR(前置変速装置)部は、保持部材2aから軸方向順に、第3遊星ギア列(30)と、摩擦部材を径方向に重ねて配された2連クラッチとなる第1、第2クラッチ(C1、C2)と、同じく径方向に重ねて配された第4、第5遊星ギア列(40、50)が配され、第3遊星ギア列(30)と第1、第2クラッチ(C1、C2)と第4、第5遊星ギア列(40、50)の外周には保持部材2aから軸方向順に、第1、第4、第2ブレーキ(B1、B4、B2)が配される。
FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構となる第3遊星ギア列(30)は、入力軸3aの回転を減速して主前置変速機構となる第4、第5遊星ギア列(40、50)に選択的に伝達する。保持部材2aの円筒部外周前方に配された第3遊星ギア列(30)の第3遊星キャリア(P3)は右側サイド部材の内周に筒状に延材された内径に圧入されたブシュ4iで保持部材2aの外周に回転自在に保持され、更に、第3サンギア(S3)は内周に圧入されたブシュ4jで第3遊星キャリア(P3)の右側サイド部材の内周に筒状に延材された外周に回転自在に保持される。第3遊星キャリア(P3)の左側サイド部材は第3遊星ギア列(30)の外周を通り変速機ケース1の内側に沿って第2連結部材(8)として後方に延材される。第3遊星ギア列(30)の後方には第1、第2クラッチ(C1、C2)共通のクラッチカバーが配置され、共通のクラッチカバーの側壁の外周部と第3リングギア(R3)がスプラインで連結される。
第1ブレーキ(B1)は、第3遊星ギア列(30)の第3サンギア(S3)を制動可能とする。第3サンギア(S3)の前方側に溶着された薄板状のブレーキハブが第3遊星ギア列(30)の外周まで延材され、外周に成形されたスプラインに第1ブレーキ(B1)の一方の摩擦部材が係止される。第1ブレーキ(B1)のもう一方の摩擦部材はメインケース1aの前方に成形されたスプラインに係止され、メインケース1aの前方にボルトで固定された保持部材2aの油圧室にピストンが保持され、メインケース1aの前方に成形されたスプライン部に保持されたリターンスプリングと共に第1ブレーキ(B1)の油圧サーボが形成される。
第1クラッチ(C1)は、入力軸3aと第4、第5遊星ギア列(40、50)の連結された第4、第5遊星キャリア(P4、P5)を連結可能とし、第2クラッチ(C2)は入力軸3aと第5遊星ギア列(50)の第5サンギア(S5)を連結可能とする。また、第1、第2クラッチ(C1、C2)の共有するクラッチカバーは入力軸3aと第3遊星ギア列(30)の第3リングギア(R3)を連結する。第1、第2クラッチ(C1、C2)は、摩擦部材を径方向に重ねて配された2連クラッチであり、共有するクラッチカバーは筒状の保持部材2aの外周に沿って配され、保持部材Aaの外周に設けられたシールリングで密閉された油路から第1、第2クラッチ(C1、C2)の各油圧室への作動油と各油圧室の遠心力をキャンセルするキャンセル油の供給を受け、保持部材2aの後方で入力軸3aとスプライン連結される。共有するクラッチカバーは逆コの字型をしたドラム形状をしており、外周ドラムの内径側と外径側にスプライン加工がなされ、内径側で第2クラッチ(C2)の摩擦部材を係止し外径側で第1クラッチ(C1)の摩擦部材を係止する。2連クラッチのドラムの内周側には第2クラッチ(C2)のもう一方の摩擦部材を係止するクラッチハブが第5遊星ギア列(50)の第5サンギア(S5)に溶着され、外周側には第1クラッチ(C1)のもう一方の摩擦部材を係止するドラムが第5遊星ギア列(50)の第5遊星キャリア(P5)の左側サイド部材に溶着される。逆コの字型をしたクラッチドラムの右開口部側には第2クラッチ(C2)のピストンと、ピストンの作動油圧室の遠心力をキャンセルするキャンセラープレートと、ピストンを押し戻すリターンスプリングが装着され、第2クラッチ(C2)の油圧サーボを形成する。逆コの字型をしたドラムの左側前方には内周に側壁が溶着され、側壁の外周部は第3リングギア(R3)とスプライン連結されると共に第1クラッチ(C1)のピストンが保持されて、このピストンと逆コの字型をしたドラムの間が油圧キャンセラー室を形成するとともに第1クラッチ(C1)のピストンのリターンスプリングが装着され、第1クラッチ(C1)の油圧サーボを形成する。なお、逆コの字型をしたドラムと第1クラッチ(C1)のピストンを保持する側壁の間には、第1クラッチ(C1)のピストンの作動油圧室と油圧キャンセラー室に油を導くための隔壁が設けられており、この隔壁構造を用いることで2連クラッチがコンパクトになる。この2連クラッチの構造は図2のC3タイプ9ATの構造図に示した第1、第3クラッチ(C1、C3)と同じである。
第1、第2クラッチ(C1、C2)の後方に配されるFRONT GEAR(前置変速機構)の主前置変速機構となる第4、第5遊星ギア列(40、50)は、第5遊星ギア列(50)が1階部で第4遊星ギア列(40)が2階部となる2階建て構造をしており、第5遊星ギア列(50)の第5リングギア(R5)の外周に第4遊星ギア列(40)の第4サンギア(S4)が一体形成され、各々内周側と外周側で連結された共通の第4、第5遊星キャリア(P4、P5)に保持される遊星ピニオンギアと噛み合っており、さらに各々の遊星ピニオンギアは第5サンギア(S5)と第4リングギア(R4)と噛み合っている。一体形成された第5リングギア(R5)と第4サンギア(S4)の第4サンギア(S4)の左前方の歯部と、FRONT GEAR(前置変速機構)の副前置変速機構の出力構成要素となる第3遊星キャリア(P3)の第2連結部材(8)の間を連結ハブがスプライン連結する。第4、第5遊星ギア列(40、50)の遊星ピニオンギアは右側後方で一体となる第4.第5遊星キャリア(P4、P5)の右側サイド部材と、右側サイド部材と各々の左側サイド部材に挿入固定された軸で回転自在に軸支され、連結された第4.第5遊星キャリア(P4、P5)は第5遊星キャリア(P5)の右側サイド部材の内周に配されたニードルローラコロ軸受け(4h)で、入力軸3a上に回転自在に軸支されると共に、第5遊星キャリア(P5)の第1クラッチ(C1)の外周ドラムが溶着する左側サイド部材の内周に配されたブシュ(4g)で第5サンギア(S5)の左前側に延材した円筒部に回転自在に軸支される。また、第2クラッチ(C2)のクラッチハブが溶着する第5サンギア(S5)はニードルローラコロ軸受け(4e)で入力軸3a上に回転自在に軸支され、第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材は第4、第5遊星ギア列(40、50)の径方向外周部に延材され第2ブレーキ(B2)の摩擦部材を係止する。FRONT GEAR(前置変速機構)の出力構成要素となる第4リングギア(R4)は右後方で MAIN GEAR(主変速機構)の第1構成要素と連結する第1連結部材7にスプライン連結する。
第1、第2クラッチ(C1、C2)の径方向外周のメインケース1aには前方に開口された第4ブレーキ(B4)の油圧室と後方に開口された第2ブレーキ(B2)の油圧室が対称に配される。第4ブレーキ(B4)は、第4、第5遊星ギア列(40、50)の一体形成された第5リングギア(R5)と第4サンギア(S4)を制動可能とする。一体形成された第5リングギア(R5)と第4サンギア(S4)と連結ハブを介してスプライン連結する変速機ケース1の内側に沿って配された第2連結部材(8)の外周スプライン部に、第4ブレーキ(B4)の一方の摩擦部材が係止され、第4ブレーキ(B4)のもう一方の摩擦部材は、第1ブレーキ(B1)と共通のエンドプレートを挟んだメインケース1aの前方に成形されたスプラインに係止される。メインケース1aの前方に開口された油圧室にはピストンが保持され、メインケース1aに成形されたスプライン部に保持されたリターンスプリングと共に第4ブレーキ(B4)の油圧サーボが形成される。
第2ブレーキ(B2)は、第4、第5遊星ギア列(40、50)の連結された第5遊星キャリア(P5)と第4遊星キャリア(P4)を制動可能とする。第4遊星キャリア(P4)の左側サイド部材は第4、第5遊星ギア列(40、50)の径方向外周部に延材されて第2ブレーキの摩擦部材が係止され、第2ブレーキ(B2)のもう一方の摩擦部材は、メインケース1aの後方に成形されたスプラインに係止される。メインケース1aの後方に開口された油圧室にはピストンが保持され、メインケース1aに成形されたスプライン部に保持されたリターンスプリングと共に第2ブレーキ(B2)の油圧サーボが形成される。発進段となる前進1速(1st)に於ける第2ブレーキ(B2)のトルク容量は入力軸トルクの1.8倍であり、低容量となる。但し、後進(Rev1)では4倍となる。したがって、図4ではエンドプレートに摩擦部材を冷却するための油(OIL)通路が形成され、摩擦部材の円周方向中央に形成された油溝に冷却油を導く構造となっている。これは後述する図5で詳細を説明するが、トルクコンバータを用いず原動機と入力軸を回転変動吸収ダンパで直結し、第2ブレーキ(B2)を滑らせて車両のクリープやスムースな発進を行うための発進デバイスである。
第4、第5遊星ギア列(40、50)の後方に配される第2遊星ギア列(20)は、前進1速(1st)から前進7速(7th)、及び後進(Rev1)に於いて、第1連結部材(7)と中間軸3bから入力される回転を減速して出力する。第2遊星ギア列(20)の第2サンギア(S2)は、左前方で第1連結部材7に溶着されると共に、第1遊星ギア列(10)の第1サンギア(S1)と一体成形されてニードルローラコロ軸受け4fで入力軸3aの外周に回転自在に配される。第2サンギア(S2)と噛み合う遊星ピニオンギアは第2遊星キャリア(P2)に支持され、右側サイド部材が出力軸3cと連結する第3連結部材(9)にスプライン連結される。また、遊星ピニオンギアと噛み合う第2リングギア(R2)の左端歯部にリティニングリングで軸方向が固定されスプライン連結されたプレートが第1連結部材(7)と第2遊星キャリア(P2)の左側サイド部材の間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配される。
第2遊星ギア列(20)の後方に配される第1遊星ギア列(10)は、前進7速(7th)から前進15速(15th)に於いて、第1連結部材(7)と入力軸3aから入力される回転を第1サンギア(S1)と第1遊星キャリア(P1)に入力し、第1リングギア(R1)より出力する。第1連結部材(7)が溶着された第2サンギア(S2)と一体成形される第1サンギア(S1)と噛み合う遊星ピニオンギアは第1遊星キャリア(P1)に支持され、右側サイド部材が入力軸3aにスプライン連結される。遊星ピニオンギアと噛み合う第1リングギア(R1)は右端に溶着されたプレートが第2遊星キャリア(P2)の右側サイド部材と出力軸(3c)の間でスラストニードルベアリングにより軸方向が規制されて回転自在に配され、外周部に成形されたスプラインには第3クラッチ(C3)の摩擦部材が係止される。
第3ブレーキ(B3)は、第2遊星ギア列(20)の第2リングギア(R2)を制動可能とする。第2リングギア(R2)は外周部にスプラインが成形され第3ブレーキ(B3)の摩擦部材が係止される。メインケース1aの後方開口部の内径にはスプラインが形成され第3ブレーキ(B3)のもう一方の摩擦部材が係止される。また、メインケース1aの後方開口部には出力軸3cを軸支するリアケース1bがボルトで締結され、リアケース1bの側面に逆Eの字型に設けられた円周方向に2段となり前方に開口された第3ブレーキ(B3)の油圧室には、円筒部材を装着したピストンが保持され、メインケース1aの後方開口部のスプラインに保持されるリターンスプリングと共に第3ブレーキ(B2)の油圧サーボが形成される。第3ブレーキ(B3)の摩擦部材を押圧するピストンの油圧室を2段としたのは、第3ブレーキ(B3)の制動トルクが前進1速(1st)では入力トルクの8.4倍必要となるが、前進7速(7th)では1倍となり、トルク容量が変速段で大きく変化するためで、摩擦部材の押圧力を調整するため押圧部を2重にした。
第3クラッチ(C3)は、第2遊星キャリア(P2)と出力軸3cを連結する第3連結部材(9)と、第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)を連結可能とする。第1遊星ギア列(10)の第1リングギア(R1)の外周部に成形されたスプラインには第3クラッチ(C3)の摩擦部材が係止される。第2遊星キャリア(P2)と出力軸3cをスプライン連結する第3連結部材(9)のスプラインには第3クラッチ(C3)のもう一方の摩擦部材が係止される。出力軸3cの第3連結部材(9)とスプライン連結する円周方向に延材された側壁部にコの字型に設けられた左開口部側には第3クラッチ(C3)のピストンと、ピストンの作動油圧室の遠心力をキャンセルするキャンセラープレートと、ピストンを押し戻すリターンスプリングが装着され、第3クラッチ(C3)の油圧サーボを形成する。第3クラッチ(C3)の作動油は、リアケース1bに配されたテーパコロ軸受け4c、4dの間に設けられたスリーブ5bから出力軸3cに設けられた油路を通り出力軸3cの作動油圧室に供給される。
出力軸3cはリアケース1bに背面合わせに配されたテーパコロ軸受け4c、4dで軸支される。この変速機を「Off Road、Rough Terrain」仕様とする場合、リアケース1bの後部を閉じ、テーパコロ軸受け4c、4dの間の出力軸3cにカウンターギアを設けて図示しない下部のカウンターギアと噛み合わせ、さらにもう1個のカウンターギアと噛み合わせてディファレンシャルギアを介して前後に出力する形態となる。また、リターダやモータジェネレータを装着する場合、それに合ったリアケースと出力軸に変更すれば装着が可能となる。重車両には流体式や電磁式のリターダが用いられる場合も多く、回生作用のあるモータジェネレータや4WD等のオプション設定を可能とする変速装置にしなければならない。
図5はC3タイプ9ATの第1ブレーキ(B1)やC3タイプ15ATの第2ブレーキ(B2)を対象とした、発進段となる前進1速(1st)と後進(Rev1)で締結するブレーキの摩擦部材に関する構造で、トルクコンバータを用いず原動機と入力軸を回転変動吸収ダンパで直結し、ブレーキを滑らせて車両のクリープやスムースな発進を行うための発進デバイスとして摩擦部材を冷却するための構造である。C3タイプ9ATや15ATでは、発進段で締結するブレーキがFRONT GEAR(前置変速機構)とMAIN GEAR(主変速機構)の両方に存在し、MAIN GEAR(主変速機構)の第3ブレーキ(B3)が大きなトルク容量を必要とするのに対し、FRONT GEAR(前置変速機構)の第1ブレーキ(B1)や第2ブレーキ(B2)は低トルク容量で済むので、FRONT GEAR(前置変速機構)を発進デバイスとして用いれば特開2009−236234に記載した特徴を生かすことができる。
図5に於いて、摩擦部材は複数のドライブプレート51とドリブンプレート52からなり、ドライブプレート51とドリブンプレート52は交互に配されるとともにピストン側にはディッシュプレートを保持するL字型のフロントプレート54が配される。ドライブプレート51は金属板の両面に摩擦部材が貼られ径方向中央に位置する同一径円周部の摩擦面に摩擦部材と金属板を貫通する複数の貫通穴Xが設けられており、摩擦部材の摩擦面には貫通穴Xを含有する円周溝Vと円周溝Vから外周に連通する溝Wが形成され、遊星歯車列の発進段の制動構成要素となる回転部材のスプライン部に回り止めされるとともに軸方向に移動可能に係止され、ドリブンプレート52は金属板で貫通穴Xと同一径円周部の摩擦面に貫通穴Yが設けられており、変速機ケースのスプライン部に回り止めされるとともに軸方向に移動可能に係止される。貫通穴X、Yは円周方向の長穴であり、エンドプレート53の円周溝に通じ、図示しないコントロールバルブから供給される冷却油がエンドプレート53の外周から円周溝を通り、ドライブプレート51とドリブンプレート52の貫通穴X、Yを通過し、ドライブプレート51の摩擦面に設けられた円周溝Vと円周溝Vから外周に連通する溝Wから排出される。この時、エンドプレート53に設けられた円周溝とドリブンプレート52の間は密着されるため、この間で冷却油が排出される量は極めて少なく冷却油には排出圧が発生し、複数のドライブプレート51の摩擦面は全域に亘り隈なく冷却油により冷却される。