<前提技術>
本発明の実施の形態のスイッチング素子駆動回路について説明する前に、本発明の前提技術のスイッチング素子駆動回路について説明する。図13は、前提技術のスイッチング素子駆動回路81を含むパワーデバイス回路80の構成を示す図である。パワーデバイス回路80は、電圧制御形のスイッチング素子であるパワーデバイスQ33と、パワーデバイスQ33を駆動するスイッチング素子駆動回路81(以下、単に「駆動回路」という場合がある)とを備える。
前提技術において、駆動回路81は、電圧制御形のスイッチング素子であるパワーデバイスQ33のゲートを駆動する駆動回路であり、パワーデバイスQ33は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor;略称:IGBT)である。以下の説明では、パワーデバイスQ33を、「IGBT Q33」という場合がある。
駆動回路81は、バッファアンプ82、電源VCC、NPNバイポーラトランジスタ(以下、単に「NPNトランジスタ」という)Q31、PNPバイポーラトランジスタ(以下、単に「PNPトランジスタ」という)Q32、第1のゲート抵抗R31、および第2のゲート抵抗R32を備える。NPNトランジスタQ31およびPNPトランジスタQ32は、ゲート駆動素子に相当する。
バッファアンプ82の入力端子には、ゲート駆動信号GDSが入力される。バッファアンプ82は、駆動回路81の電源VCCおよびグランドに接続されている。バッファアンプ82の出力端子は、NPNトランジスタQ31のベース、およびPNPトランジスタQ32のベースにそれぞれ接続されている。NPNトランジスタQ31およびPNPトランジスタQ32のベースは、共通に接続される。
NPNトランジスタQ31のコレクタは、駆動回路81の電源VCCに接続されている。NPNトランジスタQ31のエミッタは、第1のゲート抵抗R31を介して、IGBT Q33のゲートに接続されている。PNPトランジスタQ32のエミッタは、第2のゲート抵抗R2を介して、IGBT Q33のゲートに接続されている。PNPトランジスタQ32のコレクタは、グランドに接続されている。
IGBT Q33のコレクタは、出力端子に接続されている。IGBT Q33のコレクタは、出力端子から出力信号OPTを出力する。IGBT Q33のエミッタは、グランドに接続されている。
駆動回路81によって、IGBT Q33のスイッチングが行われる。駆動回路81は、ターンオン時には駆動回路81の電源VCCの電圧を出力し、ターンオフ時には0Vまたは負電圧を出力する。
第1および第2のゲート抵抗R31,R32の抵抗値が増加すると、IGBT Q33のゲート電圧の立上りおよび立下りの速度が低下し、IGBT Q33のスイッチング速度が低下する。また、第1および第2のゲート抵抗R31,R32の抵抗値が低下すると、IGBT Q33のゲート電圧の立上りおよび立下りの速度が増加し、IGBT Q33のスイッチング速度が増加する。したがって、IGBT Q33のスイッチング速度は、第1および第2のゲート抵抗R31,R32によって制御することができる。
駆動回路81において、NPNトランジスタQ31は、IGBT Q33のターンオン動作を行い、PNPトランジスタQ32は、IGBT Q33のターンオフ動作を行う。
駆動回路81は、IGBT Q33をターンオンするときには、NPNトランジスタQ31をオン状態にするとともにPNPトランジスタQ32をオフ状態にして、第1のゲート抵抗R31を介して電源VCCの電圧を与え、IGBT Q33のゲート電圧を定常状態の電圧まで上昇させる。
また、IGBT Q33をターンオフするときには、駆動回路81は、NPNトランジスタQ31をオフ状態にするとともにPNPトランジスタQ32をオン状態にして、第2のゲート抵抗R32を介してIGBT Q33のゲート電圧を接地電位まで低下させる。
図14は、図13のパワーデバイス回路80の動作を示すタイミングチャートである。図14の横軸は、時間である。
時刻t41において、ゲート駆動信号GDSがオフ(OFF)信号からオン(ON)信号に切り替わると、ゲート駆動素子であるNPNトランジスタQ31およびPNPトランジスタQ32に入力される電圧(以下「ゲート駆動素子入力電圧GDIV」という)の信号レベルが、ロー(L)レベルからハイ(H)レベル、具体的には電源VCCの電圧値(図14では「VCC」と表記する)に切り替わる。
これによって、NPNトランジスタQ31がオン状態になるとともにPNPトランジスタQ32がオフ状態になり、第1のゲート抵抗R31を介して電源VCCの電圧がIGBT Q33に与えられるので、時刻t41において、IGBT Q33のゲート電圧VGEが上昇を開始する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、一旦第1のゲート電圧値GV11になるまで上昇する。時刻t42において、IGBT Q33のゲート電圧VGEが第1のゲート電圧値GV11に到達すると、IGBT Q33のゲート電圧VGEは、時刻t42から時刻t43までのミラー期間MP11の間、第1のゲート電圧値GV11を保持する。
その後、IGBT Q33のミラー期間MP11が終了する時刻t43において、IGBT Q33のゲート電圧VGEが、再度上昇を開始する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、第2のゲート電圧値GV12である電源VCCの電圧値になるまで上昇する。
時刻t44において、IGBT Q33のゲート電圧VGEが第2のゲート電圧値GV12に到達する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、オン状態の期間である時刻t44から時刻t45までの間、第2のゲート電圧値GV12を保持する。
時刻t45において、ゲート駆動信号GDSがオン信号からオフ信号に切り替わると、ゲート駆動素子入力電圧GDIVの信号レベルが、HレベルからLレベル、具体的には接地電位(0V)に切り替わる。これによって、NPNトランジスタQ31がオフ状態になるとともにPNPトランジスタQ32がオン状態になり、IGBT Q33のゲート電圧VGEが、第2のゲート抵抗R32を介して低下を開始する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、一旦第1のゲート電圧値GV11になるまで低下する。
時刻t46において、IGBT Q33のゲート電圧VGEは、第1のゲート電圧値GV11に到達する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、時刻t46から時刻t47までのミラー期間MP12の間、第1のゲート電圧値GV11を保持する。その後、ミラー期間MP12が終了する時刻t47において、IGBT Q33のゲート電圧VGEは、再度低下を開始する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、接地電位になるまで、すなわちゼロ(0)Vになるまで低下する。
時刻t48において、IGBT Q33のゲート電圧VGEのゲート電圧値は、0Vに到達する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、オフ状態の期間である時刻t48から時刻t49までの間、0Vに保持される。
時刻t49において、再度、ゲート駆動信号GDSがオフ信号からオン信号に切り替わると、ゲート駆動素子入力電圧GDIVの信号レベルが、LレベルからHレベルに切り替わり、IGBT Q33のゲート電圧VGEが上昇を開始する。IGBT Q33のゲート電圧VGEは、時刻t50において第1のゲート電圧値GV11になるまで上昇した後、時刻t50から時刻t51までのミラー期間MP11の間、第1のゲート電圧値GV11を保持する。
ミラー期間MP11が終了する時刻t51において、IGBT Q33のゲート電圧VGEは、再度上昇を開始し、時刻t52において第2のゲート電圧値GV12になるまで上昇する。このようにして、時刻t49以降は、時刻t41から時刻t49までの動作が繰り返し行われる。
ここで、ミラー期間MP11,MP12について説明する。スイッチング素子のターンオン直後、およびターンオフ直後においては、ゲート電圧VGEが一定値になるミラー期間MP11,MP12が存在する。このミラー期間MP11,MP12においては、コレクタ電圧の低下に伴い、コレクタとエミッタとの間の帰還容量が変化し、この変化による変位電流が、ゲートから帰還容量側に流れる。したがって、図13に示す駆動回路81では、ミラー期間MP11,MP12中には、駆動回路81からIGBT Q33のゲートに流れるゲート電流とゲート電圧とがほぼ一定となる。
ミラー期間MP11,MP12の長さは数μs程度である。また、ミラー期間MP11,MP12の長さは、駆動回路81の出力電圧と、ゲート抵抗R31,R32の抵抗値とによって、ある程度変更することが可能である。具体的には、ターンオン時には、駆動回路81の出力電圧を増加するか、ゲート抵抗R31の抵抗値を下げてゲート電流を増加させると、ミラー期間MP11は短くなる。逆に、駆動回路81の出力電圧を低減するか、ゲート抵抗R31の抵抗値を上げてゲート電流を低減させると、ミラー期間MP11は長くなる。
IGBT Q33のエミッタ−コレクタ間を流れるコレクタ電流ICは、ターンオン期間のうちゲート電圧VGEが0VからGV11まで遷移する期間(t41〜t42)において、ゲート電圧VGEの上昇に伴い、大きく増大するので、コレクタ電流ICの変化に伴うサージ電圧および放射ノイズは、主に時刻t41から時刻t42までの期間で発生する。
したがって、サージ電圧および放射ノイズを抑制するためには、時刻t41から時刻t42までの期間におけるゲート電圧VGEの上昇速度を緩やかにする必要がある。
前提技術の駆動回路81におけるゲート抵抗R31を大きくすることで、時刻t41から時刻t42までの期間におけるゲート電圧VGEを遅く上昇させることができる。しかし、時刻t42から時刻t43までのミラー期間MP11、および時刻t43から時刻t44までの期間も長くなってしまうので、時刻t41から時刻t44までのターンオン期間が長くなり、ターンオン損失も増大してしまう。
前提技術の駆動回路81では、IGBT Q33のターンオン動作時に、ゲート駆動素子であるNPNトランジスタQ31をオンして、ゲート抵抗R31を介して、IGBT Q33のゲート電圧を電源VCCの電圧値まで上昇させ、IGBT Q33をオン状態とする。
このとき、ゲート抵抗R31が小さければ、IGBT Q33のゲート電圧が0VからGV11に上昇する期間(t41〜t42)、IGBT Q33のミラー期間MP11(t42〜t43)、およびIGBT Q33のゲート電圧がGV11からGV12に上昇する期間(t43〜t44)のいずれの期間も短くなり、IGBT Q33がオフ状態からオン状態になるターンオン時間(t41〜t44)も短くなる。しかし、この場合には、サージ電圧および放射ノイズを抑制できなくなる。
そこで、前述の特許文献2〜7に開示される駆動回路は、パワーデバイスのスイッチング特性の改善および短絡電流の抑制などを目的として、ゲート抵抗またはゲート電圧を切り替えるために、複数のゲート駆動素子を備える。
しかし、ゲート駆動素子は、パワーデバイスのゲートに充放電するための電流を供給することができるように、数アンペア程度の駆動能力が必要とされるので、駆動能力に応じたダイ・サイズ、すなわちチップ面積を有することになる。したがって、前述の特許文献2〜7に開示される駆動回路のように複数のゲート駆動素子が1つのICに集積された場合には、ICのチップサイズ、発熱および製造コストなどが大きくなるという問題がある。
この問題を回避するために、複数のゲート駆動素子が用いられる場合には、ICに集積されていない個別(ディスクリート(discrete))のトランジスタなどの半導体素子が、ゲート駆動素子として用いられる。しかし、ディスクリートの半導体素子がゲート駆動素子として用いられると、ディスクリートの半導体素子の個数が増えるほど駆動回路の実装面積が大きくなり、駆動回路を搭載するプリント基板に収まらなくなってしまうという問題がある。
そこで、本発明のスイッチング素子駆動回路では、以下に示す各実施の形態の構成を採用している。
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態のスイッチング素子駆動回路である駆動回路1を含むパワーデバイス回路10の構成を示す図である。
パワーデバイス回路10は、駆動回路1と、電圧制御形パワーデバイスであるIGBT Q3とを備える。電圧制御形パワーデバイスであるIGBT Q3は、電圧制御形のスイッチング素子である。IGBT Q3は、制御電極に相当するゲートに、ゲート閾値電圧以上の電圧が印加されることによってオフ状態からオン状態に切替えられる。
駆動回路1は、電圧切替部11、電源VCC、NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2、第1のゲート抵抗R1、および第2のゲート抵抗R2を備える。NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2は、ゲート駆動素子である。NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2、第1のゲート抵抗R1および第2のゲート抵抗R2は、電圧出力部13として機能する。
電圧出力部(以下「ゲート駆動回路」という場合がある)13は、NPNトランジスタQ1とPNPトランジスタQ2とがエミッタフォロワとして構成された増幅回路である。増幅回路であるゲート駆動回路13の電圧増幅率は1である。すなわち、電圧出力部13は、電圧切替部11からの出力と同じ電圧を、IGBT Q3に出力する。ゲート駆動回路13は、IGBT Q3のゲート電圧を制御して、IGBT Q3をオンまたはオフする。
電圧切替部11は、制御論理(Control Logic)回路12、第1の電圧源VD1、第2の電圧源VD2および切替回路S1を備える。制御論理回路12は、切替回路S1を制御する。
制御論理回路12は、入力端子INと、2つの出力端子OUT0,OUT1とを含む。IGBT Q3を駆動するためのゲート駆動信号GDSは、制御論理回路12の入力端子INに入力される。制御論理回路12の出力端子OUT0,OUT1から出力される出力信号は、2本の信号線からなるバス14を介して、切替回路S1に与えられる。
制御論理回路12は、2つの論理回路、すなわち第1の論理回路15および第2の論理回路18と、2つのタイマ、すなわち第1のタイマTM1 16および第2のタイマTM2 17とを内蔵する。第1のタイマTM1 16は、ターンオン用タイマに相当し、第2のタイマTM2 17は、ターンオフ用タイマに相当する。
切替回路S1は、4つのアナログスイッチを備える。切替回路S1の4つのアナログスイッチの一端は、駆動回路1の電源VCC、第1の電圧源VD1、第2の電圧源VD2およびグランドにそれぞれ接続されている。また、切替回路S1の4つのアナログスイッチの他端は、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースに接続されている。切替回路S1の4つのアナログスイッチは、制御論理回路12の出力端子OUT0,1から出力される出力信号に基づいて、いずれか1つのアナログスイッチがオンとなり、それ以外はオフとなるように切り替えられる。
NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースは、共通に接続される。NPNトランジスタQ1のコレクタは、駆動回路1の電源VCCに接続されている。NPNトランジスタQ1のエミッタは、第1のゲート抵抗R1を介して、IGBT Q3のゲートに接続されている。PNPトランジスタQ2のエミッタは、第2のゲート抵抗R2を介して、IGBT Q3のゲートに接続されている。PNPトランジスタQ2のコレクタは、グランドに接続されている。IGBT Q3のコレクタは、出力端子に接続されている。IGBT Q3のエミッタは、グランドに接続されている。
図1に示す本実施の形態の駆動回路1のゲート駆動回路13の動作を説明する。NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースに、IGBT Q3のゲート電圧VGEよりも高い電圧が印加されると、NPNトランジスタQ1のベースが順方向にバイアスされてベース電流が流れ、NPNトランジスタQ1がオンする。このとき、PNPトランジスタQ2のベースは逆バイアスされているので、オフ状態を保つ。
IGBT Q3のゲート電圧VGEが増加し、NPNトランジスタQ1のベース電圧に近づくと、NPNトランジスタQ1のベース電流が流れなくなり、NPNトランジスタQ1はオフ状態となる。
一般的なバイポーラトランジスタは、ベースのバイアス電圧がベース順バイアス電圧VBEになると、ベース電流が流れる。したがって、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースに、IGBT Q3のゲート電圧VGEよりも高い電圧が印加されると、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベース電圧よりもベース順バイアス電圧VBEの分だけ低い電圧まで増加する。一般的なバイポーラトランジスタでは、ベース順バイアス電圧VBEは0.6V程度である。
次に、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースに、IGBT Q3のゲート電圧VGEよりも低い電圧が印加されると、NPNトランジスタQ1のベースは逆バイアスとなるので、NPNトランジスタQ1はオフ状態となる。PNPトランジスタQ2は、ベースが順バイアスされ、ベース電流が流れてオンする。IGBT Q3のゲート電圧VGEが、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベース電圧よりもベース順バイアス電圧VBEの分だけ高い電圧まで低下すると、PNPトランジスタQ2のベース電流が流れなくなり、PNPトランジスタQ2はオフする。
NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースに印加される電圧であるベース電圧の振幅に対して、IGBT Q3のゲート電圧VGEの振幅は、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベース順バイアス電圧VBEの分だけ狭い範囲で振幅する。
たとえば、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2に印加されるベース電圧の振幅がVLからVHであり、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベース順バイアス電圧VBEの値が「VBE」であれば、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、「VL+VBE」から「VH−VBE」までの範囲で振幅する。
NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2に印加されるベース電圧、たとえば最大15Vに対して、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベース順バイアス電圧VBEが十分に小さい場合には、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2に印加されるベース電圧にIGBT Q3のゲート電圧VGEが追従するように動作する。つまり、NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2、第1のゲート抵抗R1、および第2のゲート抵抗R2を備える電圧出力部13は、電圧増幅率が1である増幅回路として動作する。
これによって、NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2、第1のゲート抵抗R1、および第2のゲート抵抗R2を備える電圧出力部13に、駆動回路1の電源VCCの電圧V0、第1の電圧源VD1の電圧V1または第2の電圧源VD2の電圧V2のいずれかが入力されると、電圧出力部13の出力電圧が駆動回路1の電源VCCの電圧V0、第1の電圧源VD1の電圧V1または第2の電圧源VD2の電圧V2となり、IGBT Q3のゲートに印加される。
IGBT Q3のゲートとエミッタとの間の電圧(以下「ゲート電圧」という場合がある)VGEが、予め定める閾値(以下「ゲート閾値電圧」という場合がある)Vthを超えると、IGBT Q3がターンオンする。
本実施の形態では、NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースにオン信号として供給されるHレベルの信号は、駆動回路1の電源VCCの電圧V0、第1の電圧源VD1の電圧V1または第2の電圧源VD2の電圧V2である。NPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2のベースにオフ信号として供給されるLレベルの信号は、グランドの電位、すなわち接地電位である0Vである。
本実施の形態において、ゲート駆動回路13によって、IGBT Q3のゲートに電圧を印加または出力しても、IGBT Q3のゲート電圧VGEが、ゲート駆動回路13からの印加電圧(以下「出力電圧」という場合がある)に即時に追随して印加電圧と同じ電圧になるとは限らない。
たとえば、IGBT Q3のターンオン時のミラー期間においては、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、印加電圧と異なる電圧値にしばらく留まる現象が見られる。
図2は、図1のパワーデバイス回路10の動作を示すタイミングチャートである。図2の横軸は、時間である。図2では、理解を容易にするために、駆動回路1などの各部から出力される信号の遅延が無いものとして記載する。
ゲート駆動信号GDSは、たとえば時刻t1において立上り、オフ(OFF)信号からオン(ON)信号に切り替わる。このゲート駆動信号GDSの立上りに応答して、第1のタイマTM1 16の信号レベルが、ロー(L)レベルからハイ(H)レベルとなる。ここで、立上りとは、信号レベルがLレベルからHレベルに上がることをいう。
第1のタイマTM1 16の信号レベルは、予め定める第1の保持期間TV1の経過後の時刻t3に、HレベルからLレベルとなる。第1の保持期間TV1は、ターンオン用電圧保持期間に相当する。
また、ゲート駆動信号GDSは、たとえば時刻t5において立下り、オフ信号からオン信号に切り替わる。このゲート駆動信号GDSの立下りに応答して、第2のタイマTM2 17の信号レベルが、LレベルからHレベルとなる。ここで、立下りとは、信号レベルがHレベルからLレベルに下がることをいう。第2のタイマTM2 17の信号レベルは、予め定める第2の保持期間TV2の経過後の時刻t7に立下り、HレベルからLレベルとなる。第2の保持期間TV2は、ターンオフ用電圧保持期間に相当する。
制御論理回路12の2つの出力端子のうちの一方の出力端子(以下「第1の出力端子」という場合がある)OUT0からの出力信号は、初期値の信号レベルがLレベルであり、第1および第2のタイマTM1 16,TM2 17の信号の立上りおよび立下りに応答して、信号レベルが反転する。
たとえば、時刻t3および時刻t9では、制御論理回路12の第1の出力端子OUT0からの出力信号は、第1のタイマTM1 16の信号の立上りに応答して、信号レベルがLレベルからHレベルとなる。時刻t3および時刻t11では、制御論理回路12の第1の出力端子OUT0からの出力信号は、第1のタイマTM1 16の信号の立下りに応答して、信号レベルがHレベルからLレベルとなる。
また、時刻t5では、制御論理回路12の第1の出力端子OUT0からの出力信号は、第2のタイマTM2 17の信号の立上りに応答して、信号レベルがLレベルからHレベルとなる。時刻t7では、制御論理回路12の第1の出力端子OUT0からの出力信号は、第2のタイマTM2 17の信号の立下りに応答して、信号レベルがHレベルからLレベルとなる。
制御論理回路12の2つの出力端子のうちの他方の出力端子(以下「第2の出力端子」という場合がある)OUT1からの出力信号は、初期値の信号レベルがLレベルであり、第1および第2のタイマTM1 16,TM2 17の信号の立下りに応答して、信号レベルが反転する。
たとえば、時刻t1および時刻t11では、制御論理回路12の第2の出力端子OUT1からの出力信号は、第1のタイマTM1 16の信号の立下りに応答して、信号レベルがLレベルからHレベルとなる。時刻t7では、第2のタイマTM2 17の信号の立下りに応答して、信号レベルがHレベルからLレベルとなる。
切替回路S1に入力される電圧の値は、0<V2<Vth<V1<V0とする。ここで、V0は、駆動回路1の電源VCCの電圧値である。V1は、第1の電圧源VD1の電圧値である。V2は、第2の電圧源VD2の電圧値である。Vthは、IGBT Q3のゲート閾値電圧である。第1の電圧源VD1の電圧は、ターンオン用電圧に相当し、第1の電圧源VD1の電圧値V1は、ターンオン用電圧の値に相当する。第2の電圧源VD2の電圧は、ターンオフ用電圧に相当し、第2の電圧源VD2の電圧値V2は、ターンオフ用電圧の値に相当する。
制御論理回路12の第1および第2の出力端子OUT0,OUT1から出力される信号の信号レベルと、切替回路S1の出力電圧ASOVとの関係を表1に示す。切替回路S1を構成する4つのアナログスイッチは、制御論理回路12の第1および第2の出力端子OUT0,1から出力される出力信号に応じて切り替えられる。切替回路S1は、アナログスイッチの接続状態に応じて、表1に示すように、出力電圧ASOVとして、接地電位である0V、電源VCCの電圧値V0、第1の電圧源VD1の電圧値V1、および第2の電圧源VD2の電圧値V2のうちのいずれかの電圧値を出力する。
第2の出力端子OUT1からの出力信号の信号レベルがLレベルであり、第1の出力端子OUT0からの出力信号の信号レベルがLレベルである場合は、切替回路S1の出力電圧ASOVは、接地電位である0Vとなる。この場合、図2の時刻t7〜時刻t9の期間のように、IGBT Q3のゲート電圧VGEが0Vまで低下し、IGBT Q3がオフになる。
第2の出力端子OUT1からの出力信号の信号レベルがLレベルであり、第1の出力端子OUT0からの出力信号の信号レベルがHレベルである場合は、切替回路S1の出力電圧ASOVは、第1の電圧源VD1の電圧値V1となる。なお、各電圧値の間には、0<Vth<GV1<V1の関係がある。ただし、図2の時刻t1〜時刻t3の期間および時刻t9〜時刻t11の期間のように、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、即座に第1の電圧源VD1の電圧値V1まで上昇するのではなく、時刻t2から時刻t3aまでのターンオン時のミラー期間における第1のゲート電圧値GV1まで上昇する。
第2の出力端子OUT1からの出力信号の信号レベルがHレベルであり、第1の出力端子OUT0からの出力信号の信号レベルがLレベルである場合は、切替回路S1の出力電圧ASOVは、電源VCCの電圧値V0となる。この場合、図2の時刻t3〜時刻t5の期間のように、IGBT Q3のゲート電圧VGEが、ゲート閾値電圧Vthよりも大きく、かつ第1のゲート電圧値GV1より大きい第2のゲート電圧値GV2まで上昇し、IGBT Q3がオンになる。第2のゲート電圧値GV2は、電源VCCの電圧値V0とほぼ等しい。
第2の出力端子OUT1からの出力信号の信号レベルがHレベルであり、第1の出力端子OUT0からの出力信号の信号レベルがHレベルである場合は、切替回路S1の出力電圧ASOVは、第2の電圧源VD2の電圧値V2となる。なお、各電圧値の間には、0<V2<Vth<GV1の関係がある。ただし、図2の時刻t5〜時刻t7の期間のように、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、即座に0Vまで低下するのではなく、時刻t6から時刻t7aまでのターンオフ時のミラー期間における第1のゲート電圧値GV1まで低下する。
図1に示すパワーデバイス回路10の動作について、図2に示すタイミングチャートに沿って説明する。時刻t1において、ゲート駆動信号GDSが立上り、オフ信号からオン信号に切り替わると、制御論理回路12は、切替回路S1の出力電圧ASOVを、0Vから第1の電圧源VD1の電圧値V1にする。具体的には、制御論理回路12の第1の論理回路15は、時刻t1におけるゲート駆動信号GDSの立上りに応答して、第1のタイマTM1 16を起動して、第1のタイマTM1 16の信号レベルをLレベルからHレベルにし、第1のタイマTM1 16の信号を立上げる。
この第1のタイマTM1 16の信号の立上りに応答して、制御論理回路12の第2の論理回路18は、第1の出力端子OUT0からの出力信号の信号レベルをLレベルからHレベルにし、第1の出力端子OUT0からの出力信号を立上げる。この第1の出力端子OUT0からの出力信号の立上りに応答して、切替回路S1は、グランドと接続された状態から、第1の電圧源VD1と接続された状態に切替える。これによって、切替回路S1から出力される出力電圧ASOVが、接地電位であるゼロ(0)Vから、第1の電圧源VD1の電圧値V1に切替わる。
時刻t1において切替回路S1の出力電圧ASOVが第1の電圧源VD1の電圧値V1になると、IGBT Q3のゲート電圧VGEが上昇を開始する。IGBT Q3のゲート電圧VGEは上昇し、時刻t2において、第1のゲート電圧値GV1に到達する。時刻t1から時刻t2までのIGBT Q3のゲート電圧VGEの変化の傾きは、第1のゲート抵抗R1が大きいほど緩やかになる。
制御論理回路12は、時刻t1から第1の保持期間TV1が経過する時刻t3までの間、切替回路S1の出力電圧ASOVを、第1の電圧源VD1の電圧値V1に保持する。具体的には、制御論理回路12は、第1のタイマTM1 16によって第1の保持期間TV1を計時し、第1の保持期間TV1の計時が完了するまでの間、すなわちゲート駆動信号GDSがオフからオンに立上ってから第1の保持期間TV1が経過するまでの間、第1および第2の出力端子OUT0,OUT1からの出力信号の信号レベルを保持する。
具体的に述べると、第1のタイマTM1 16による第1の保持期間TV1の計時が完了するまでの間、第1のタイマTM1 16の信号レベルはHレベルに保持され、第2のタイマTM2 17の信号レベルはLレベルに保持される。これによって、制御論理回路12は、第1の出力端子OUT0からの出力信号の信号レベルをHレベルに保持するとともに、第2の出力端子OUT1からの出力信号の信号レベルをLレベルに保持する。
ここで、時刻t1に開始する第1の保持期間TV1の終わりは、IGBT Q3がミラー期間に入る時刻t2よりも後であり、かつ切替回路S1の出力電圧ASOVを第1の電圧源VD1の電圧値V1のままとしたと仮定した場合に、ミラー期間が終了する時刻t3aよりも前となるように設定する。
制御論理回路12は、時刻t1から第1の保持期間TV1が経過した時刻t3において、すなわちIGBT Q3がミラー期間にある状態において、切替回路S1の出力電圧ASOVを、第1の電圧源VD1の電圧値V1から駆動回路1の電源VCCの電圧値V0にする。これによって、駆動回路1は、IGBT Q3のゲート電圧VGEを第1のゲート電圧値GV1から第2のゲート電圧値GV2(V0)まで速く引き上げることができる。
具体的には、制御論理回路12の第1のタイマTM1 16は、時刻t1から第1の保持期間TV1が経過した時刻t3において、第1の保持期間TV1の計時が完了すると、出力する出力信号の信号レベルをHレベルからLレベルにする。すなわち、時刻t3において、第1のタイマTM1 16から出力される出力信号の信号レベルがHレベルからLレベルに立下がる。
この第1のタイマTM1 16の出力信号の立下りに応答し、第2の論理回路18は、第2の出力端子OUT1から出力する出力信号の信号レベルをLレベルからHレベルにし、第2の出力端子OUT1からの出力信号を立上げるとともに、第1の出力端子OUT0から出力する出力信号の信号レベルをHレベルからLレベルにし、第1の出力端子OUT0からの出力信号を立下げる。
第1の出力端子OUT0からの出力信号の立下り、および第2の出力端子OUT1からの出力信号の立上りに応答して、切替回路S1は、第1の電圧源VD1と接続された状態から、駆動回路1の電源VCCと接続された状態に切替える。これによって、切替回路S1から出力される出力電圧ASOVが、第1の電圧源VD1の電圧値VD1から、第1の電圧源VD1の電圧値VD1よりも大きい駆動回路1の電源VCCの電圧値V0に切替わる。
IGBT Q3のゲート電圧VGEは、時刻t2から時刻t3までの間は、第1のゲート電圧値GV1である。時刻t3において切替回路S1の出力電圧ASOVが駆動回路1の電源VCCの電圧値V0になると、遅れ時間(時刻t3から時刻t3aまでの期間)が経過した後の時刻t3aにおいて、IGBT Q3のゲート電圧VGEが再び上昇を開始する。IGBT Q3のゲート電圧VGEは、時刻t4において、第1のゲート電圧値GV1よりも大きい第2のゲート電圧値GV2に到達する。第2のゲート電圧値GV2は、電源VCCの電圧値V0と等しい。
以上のようにして、時刻t1から時刻t4までの期間で、IGBT Q3がターンオンする、すなわちオフ状態からオン状態に切替わる。時刻t1から時刻t4までの期間を「ターンオン期間」という。図2では、ターンオン期間を「Ton」で示している。
制御論理回路12は、時刻t3から、ゲート駆動信号GDSがオン信号からオフ信号に切り替わる時刻t5までの間、切替回路S1の出力電圧ASOVを、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0に保持する。具体的には、制御論理回路12は、第1のタイマTM1 16の信号をLレベルに保持するとともに、第2のタイマTM2 17の信号をLレベルに保持する。また制御論理回路12は、第1の出力端子OUT0からの出力信号をLレベルに保持するとともに、第2の出力端子OUT1からの出力信号をHレベルに保持する。
時刻t5において、ゲート駆動信号GDSが立下り、オン信号からオフ信号に切り替わると、制御論理回路12は、切替回路S1の出力電圧ASOVを、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0から、第2の電圧源VD2の電圧値V2にする。
具体的には、論理制御回路12の第1の論理回路15は、時刻t5におけるゲート駆動信号GDSの立下りに応答して、第2のタイマTM2 17を起動して、第2のタイマTM2 17の信号レベルをLレベルからHレベルにし、第2のタイマTM2 17の信号を立上げる。
この第2のタイマTM2 17の信号の立上りに応答して、制御論理回路12の第2の論理回路18は、第1の出力端子OUT0から出力する出力信号の信号レベルをLレベルからHレベルにし、第1の出力端子OUT0からの出力信号を立上げる。第2の論理回路18は、第2の出力端子OUT1からの出力信号の信号レベルはHレベルのまま保持する。
この第1の出力端子OUT0からの出力信号の立上りに応答して、切替回路S1は、駆動回路1の電源VCCと接続された状態から、第2の電圧源VD2と接続された状態に切替える。これによって、切替回路S1から出力される電圧ASOVが、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0から、第2の電圧源VD2の電圧値V2に切替わる。
切替回路S1の出力電圧ASOVが第2の電圧源VD2の電圧値V2になると、第2の電圧源VD2の電圧値V2は、ゲート閾値電圧Vthよりも低いので、IGBT Q3のゲート電圧VGEが低下を開始する。IGBT Q3のゲート電圧VGEは、低下し、時刻t6において、第1のゲート電圧値GV1に到達する。ここで、IGBT Q3のターンオフ時のミラー期間におけるゲート電圧値は、ターンオン時のミラー期間におけるゲート電圧値と等しく、第1のゲート電圧値GV1である。時刻t5から時刻t6までのIGBT Q3のゲート電圧VGEの変化は、第2のゲート抵抗R2が小さいほど緩やかになる。
制御論理回路12は、時刻t5から第2の保持期間TV2が経過する時刻t7までの間、切替回路S1の出力電圧ASOVを、第2の電圧源VD2の電圧値V2に保持する。時刻t5に開始する第2の保持期間TV2の終わりは、IGBT Q3がミラー期間に入る時刻t6よりも後であり、かつ、切替回路S1の出力電圧ASOVを第2の電圧源VD2の電圧値V2のままとしたと仮定した場合にミラー期間が終了する時刻t7aよりも前となるように設定する。
すなわち、IGBT Q3のターンオフ時のミラー期間中の時刻t7において、制御論理回路12は、切替回路S1の出力電圧ASOVを、第2の電圧源VD2の電圧値V2から0Vにする。これによって、駆動回路1は、IGBT Q3のゲート電圧VGEを第1のゲート電圧値GV1から0Vまで速く引き下げることができる。
具体的には、時刻t7において、制御論理回路12の第2のタイマTM2 17による第2の保持期間TV2の計時が完了すると、第2のタイマTM2 17は、出力する出力信号の信号レベルをHレベルからLレベルにする。すなわち、時刻t7において、第2のタイマTM2 17の出力信号の信号レベルがHレベルからLレベルとなり、第2のタイマTM2 17の出力信号が立下る。
この第2のタイマTM2 17の信号の立下りに応答して、制御論理回路12の第2の論理回路18は、第2の出力端子OUT1から出力される出力信号の信号レベルをHレベルからLレベルにし、第2の出力端子OUT1からの出力信号を立下る。また、制御論理回路12は、第1の出力端子OUT0から出力される出力信号の信号レベルをHレベルからLレベルにし、第1の出力端子OUT0からの出力信号を立下る。
第1の出力端子OUT0からの出力信号の立下り、および第2の出力端子OUT1からの出力信号の立下りに応答して、切替回路S1は、第2の電圧源VD2と接続された状態から、グランドと接続された状態に切替える。これによって、切替回路S1から出力される電圧ASOVが、第2の電圧源VD2の電圧値V2から、ゼロ(0)Vに切替わる。
IGBT Q3のゲート電圧VGEは、時刻t6から時刻t7までの間は、第1のゲート電圧値GV1を保持する。時刻t7において切替回路S1の出力電圧ASOVが0Vになると、遅れ時間(時刻t7から時刻t7aまでの期間)が経過した後の時刻t7aにおいて、IGBT Q3のゲート電圧VGEが再び第1のゲート電圧値GV1から低下を開始する。なお、ターンオフの期間中は、第2のゲート抵抗R2を通して、IGBT Q3のゲートの電荷が引き抜かれ、ゲート電圧VGEが引き下げられる。時刻t8において、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、接地電位であるゼロ(0)Vに到達する。
以上のようにして、時刻t5から時刻t8までの期間で、IGBT Q3がターンオフする、すなわちオン状態からオフ状態に切替わる。時刻t5から時刻t8までの期間を「ターンオフ期間」という。図2では、ターンオフ期間を「Toff」で示している。
制御論理回路12は、時刻t7から、次にゲート駆動信号GDSがオフ信号からオン信号に切り替わる時刻t9までの間、切替回路S1の出力電圧ASOVを0Vに保持する。したがって、時刻t8から時刻t9までの間は、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、接地電位であるゼロ(0)Vを保持する。
時刻t9以降は、時刻t1から時刻t9までの前述と同様の動作が繰り返される。たとえば時刻t9では時刻t1と同様の動作が行われ、時刻t10では時刻t2と同様の動作が行われ、時刻t11では時刻t3と同様の動作が行われる。
以上に述べた本実施の形態によれば、以下に示す効果が得られる。まず、IGBT Q3のターンオン時の効果を以下に示す。
ゲート駆動信号GDSがオフ信号からオン信号に切り替わると、制御論理回路12は、切替回路S1の出力電圧ASOVを、接地電位である0Vから第1の電圧源VD1の電圧値V1にする。第1の電圧源VD1の電圧値V1と、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0との大小関係は、V1<V0である。これに対し、前述の前提技術では、IGBT Q33のターンオン時の最初から、駆動回路81の電源VCCの電圧値V0を出力する。
したがって、本実施の形態の第1のゲート抵抗R1の抵抗値と、図13に示す前提技術の第1のゲート抵抗R31の抵抗値とを同じ値とし、IGBT Q3,Q33、NPNトランジスタQ1,Q31がそれぞれ同じ特性を持っている場合、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、図2に参照符号「20」で示されるように、時刻t1から時刻t2までの期間は、前提技術よりも緩やかに増加する。
よって、本実施の形態において、IGBT Q3のゲート電圧VGEが0Vから第1のゲート電圧値GV1に達するまでの期間におけるゲート電圧VGEの増加のスピードを前提技術と同等にする場合には、IGBT Q3をオンにするときに使用するオン側回路を構成する第1のゲート抵抗R1の抵抗値を、前提技術のオン側回路を構成する第1のゲート抵抗R31の抵抗値よりも小さくすればよい。
制御論理回路12は、ゲート駆動信号GDSがオフ信号からオン信号に切り替えられてから予め定める第1の保持期間TV1が経過した後に、切替回路S1の出力電圧ASOVを、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0に切り替えて、IGBT Q3のゲート電圧VGEを駆動回路1の電源VCCの電圧値V0まで引き上げる。第2のゲート電圧値GV2は、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0と等しい。
前述のように、本実施の形態において、IGBT Q3のゲート電圧VGEが0Vから第1のゲート電圧値GV1に達するまでの期間におけるゲート電圧VGEの増加のスピードを前提技術と同等にする場合には、第1のゲート抵抗R1の抵抗値を、前提技術のオン側回路を構成する第1のゲート抵抗R31の抵抗値よりも小さくする。
この場合に、切替回路S1の出力電圧ASOVが、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0に切り替わると、引き上げる電圧値が同じ(V0)で、本実施の形態においてゲート抵抗の抵抗値が低く、IGBT Q3のゲートへ供給される電流値が大きいので、IGBT Q3のミラー期間は、前提技術の場合よりも短くなる。また、ゲート電圧VGEがミラー期間における第1のゲート電圧値GV1から第2のゲート電圧値GV2に到達するのに要する時間が短くなる。
したがって、ゲート電圧VGEが0Vから第1のゲート電圧値GV1に増大する時間と同じであっても、ミラー期間とゲート電圧VGEが第1のゲート電圧値GV1から第2のゲート電圧値GV2に増大する時間とが本実施の形態では短縮されるので、IGBT Q3がオフ状態からオン状態に切り替わるのに要するスイッチング時間が短くなる。これによって、ターンオンにおいてIGBT Q3のコレクタ−エミッタ間電圧がより速く低下するので、ターンオン時のスイッチング損失を、前提技術に比べて低減させることができる。
次に、IGBT Q3のターンオフ時の効果を以下に示す。ゲート駆動信号GDSがオン信号からオフ信号に切り替わると、制御論理回路12は、切替回路S1の出力電圧ASOVを、駆動回路1の電源VCCの電圧値V0から第2の電圧源VD2の電圧値V2にする。第2の電圧源VD2の電圧値V2は正(0<V2)である。これに対し、前述の前提技術では、IGBT Q3のターンオフ時の最初から、0Vの電圧を出力する。
したがって、本実施の形態の第2のゲート抵抗R2の抵抗値と、図13に示す前提技術の第2のゲート抵抗R32の抵抗値とを同じ値とし、IGBT Q3,Q33、PNPトランジスタQ2,Q32がそれぞれ同じ特性を持っている場合、IGBT Q3のゲート電圧VGEは、図2に参照符号「21」で示されるように、時刻t5から時刻t6までの期間は、前提技術よりも緩やかに低減する。
よって、本実施の形態において、IGBT Q3のゲート電圧VGEが第2のゲート電圧値GV2から第1のゲート電圧値GV1に達するまでの期間におけるゲート電圧VGEの減少のスピードを前提技術と同等にする場合には、IGBT Q3をターンオフにするときに使用するオフ側回路を構成する第2のゲート抵抗R2の抵抗値を、前提技術のオフ側回路を構成する第2のゲート抵抗R32の抵抗値よりも小さくすればよい。
制御論理回路12は、ゲート駆動信号GDSがオン信号からオフ信号に切り替えられてから予め定める第2の保持期間TV2が経過した後に、切替回路S1の出力電圧ASOVを、0Vに切り替えて、IGBT Q3のゲート電圧VGEを0Vまで引き下げる。
前述のように、本実施の形態において、前提技術と同等の第1のゲート電圧値GV1〜0Vの期間の上昇速度にする場合には、第2のゲート抵抗R2の抵抗値を、前提技術のオフ側回路を構成する第2のゲート抵抗R32の抵抗値よりも小さくする。これによって、IGBT Q3のターンオフの期間中に、IGBT Q3のゲートから電流の吸い込み(シンク(sink))を行い、IGBT Q3のゲート電圧を0Vにする能力(以下「シンクする能力」という場合がある)は、前提技術よりも大きくなる。
たとえば、2つのIGBTをブリッジ接続し、一方のIGBTをオフ状態とし、他方のIGBTをオン状態またはオフ状態にすると、オフ状態の前記一方のIGBTの出力電圧が増減する。IGBTの出力電圧が増減すると、IGBTの出力端子とゲート端子との間の帰還容量を介して、ゲート電圧が増加する。
IGBTがオフ状態のときに、IGBTのゲート電圧を0Vにシンクする能力が低いと、前記帰還容量によるゲート電圧の増加を抑えることができない。帰還容量の影響によって、ゲート電圧が増加して閾値電圧を超えると、オフ状態であるべきIGBTが誤ってオンするという不具合が生じる。
本実施の形態では、前述のように、ターンオフのスイッチング速度を、前提技術と同等にすることによって、IGBT Q3のゲート電圧を0Vにシンクする能力を大きくすることができる。これによって、帰還容量の影響によってIGBT Q3が誤ってオンすることを防止することができる。
ターンオン時の効果について、さらに具体的に説明する。図3は、前提技術のスイッチング素子駆動回路81におけるターンオン時の実測波形を示す図である。図4は、本発明の第1の実施の形態のスイッチング素子駆動回路1におけるターンオン時の実測波形を示す図である。図3および図4において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧または電流を示す。図3および図4では、IGBT Q3のゲート電圧VGEを、符号「VGE」で示される実線で示す。
図3に示す前提技術の波形では、IGBT Q3のゲート電圧VGEが平坦になるミラー期間MP0の長さは、約0.90μsとなっている。ミラー期間MP0において、オン状態におけるコレクタ−エミッタ間の電圧(以下「オン電圧」という)VCEは、参照符号「25」で示されるように、漸減する。オン側回路を構成する第1のゲート抵抗R31の抵抗値を大きくすると、緩やかになるが、コレクタ−エミッタ間電圧が生じて、すなわちIGBT Q3のコレクタ−エミッタ間の抵抗が無視できない大きさになって、このミラー期間MP0の長さが長くなり、スイッチング損失が増加する。
図4では、前述のように、IGBT Q3のスイッチング速度が、前提技術と同等となるように、本実施の形態における第1の電圧源VD1の電圧値とオン側回路を構成する第1のゲート抵抗R1の抵抗値とを調整する場合を示している。図4に示す本実施の形態の波形では、参照符号「27」で示される位置において、切替回路S1の出力電圧ASOVが駆動回路1の電源VCCの電圧値V0に切り替わり、ミラー期間MP1が終了する。
本実施の形態のミラー期間MP1の長さは、約0.56μsであり、前提技術のミラー期間MP0の長さに比べて低減している。またミラー期間MP1において、オン電圧VCEは、参照符号「26」で示されるように、図3に示す前提技術のオン電圧VCEに比べて早く低減し、ミラー期間MP1の終了とともにオン電圧VCEは、ほぼゼロとなる。
ミラー期間MP0,MP1の長さは、ミラー期間中に、駆動回路1からIGBT Q3に供給されるゲート電流によって変動する。ゲート電流が増加すると、ミラー期間MP0,MP1の長さが短縮され、ゲート電流が減少すると、ミラー期間MP0,MP1の長さが伸長する。
切替回路S1の出力電圧ASOVが同じ場合、オン側回路を構成するゲート抵抗R1,R31の抵抗値が低減すると、ゲート電流が増加して、ミラー期間MP0,MP1の長さが短縮する。また、オン側回路を構成するゲート抵抗R1,R31の抵抗値が増加すると、ゲート電流が減少して、ミラー期間MP0,MP1の長さが伸長する。
図3および図4に示すように、ミラー期間MP0,MP1では、オン電圧VCEが漸減する。したがって、ミラー期間MP0,MP1では、ミラー期間MP0,MP1の後よりも、スイッチング損失の損失、すなわちオン電圧VCEと出力電流であるコレクタ電流ICとの積が大きい。本実施の形態では、前述のようにミラー期間MP1の長さを前提技術のミラー期間MP0の長さよりも短縮することによって、ターンオン時の損失を低減している。
前提技術では、駆動回路81の出力電圧が一定であるので、オン側回路を構成する第1のゲート抵抗R31の抵抗値を増減させると、スイッチング速度も変化する。したがって、ミラー期間MP0の長さとスイッチング速度とを独立して調整することはできない。
これに対し、本実施の形態では、前述のように駆動回路1の出力電圧を変化させるので、スイッチング速度を変えずに、ミラー期間MP1の長さを前提技術のミラー期間MP0の長さよりも短縮することができる。したがって、本実施の形態では、スイッチング損失のみを低減することができる。
図5は、アーム短絡を示す図である。図5では、前述のIGBT Q3に対応するIGBT Q4a,Q4bを、それぞれHigh側およびLow側のスイッチング素子としてブリッジ接続した回路図を示している。図5に示すパワーデバイス回路100は、第1および第2のゲート駆動回路2a,2b、第1および第2のIGBT Q4a,Q4b、内部抵抗R12および内部インダクタンスL12を備える。
第1および第2のゲート駆動回路2a,2bは、前述のゲート駆動回路13に対応する回路であり、第1および第2のIGBT Q4a,Q4bをそれぞれ駆動する。第1のIGBT Q4aは、パワーデバイス回路100の内部抵抗R12を介して電源101と接続されている。第2のIGBT Q4bは、パワーデバイス回路100の内部インダクタンスL12を介して電源101と接続されている。
ここで、電源101には、交流電圧を全波整流した電圧を出力する電源が用いられている。電源101が出力する全波整流波形の電圧を平滑化するために、図5に示す回路では、DC−Linkキャパシタ102が電源101と接続されている。
DC−Linkキャパシタ102は、キャパシタC11と、キャパシタC11の内部インダクタンスL11と、キャパシタC11の内部抵抗R11とを直列接続した等価回路で表される。DC−Linkキャパシタ102は、電気自動車などのバッテリを電源とする自動車において、バッテリの内部抵抗、バッテリとスイッチング素子を含む回路との間の配線インピーダンスによる電圧変動を抑制するために用いられる。
このように構成された図5に示される回路において、IGBT Q4a,Q4bが同時かつ瞬間的にオン状態となるアーム短絡と呼ばれる短時間の短絡が発生した場合には、以下の式(1)に示されるような短絡電流ISCが、ブリッジを構成する第1および第2のIGBT Q4a,Q4bに流れる。
ここで、たとえば、短絡電流ISCが流れる経路の抵抗成分の総和Rを34mΩとし、当該経路の寄生インダクタンスの総和Lを25nHとし、電源101の電圧Vpを400Vとした場合には、短絡発生から1μs後の短絡電流ISCは、前記式(1)を用いて計算すると8745Aとなる。このことは、短絡時間が短くても、短絡電流ISCは非常に大きくなることを意味する。
このような比較的大きい短絡電流ISCが、第1および第2のIGBT Q4a,Q4bの出力電流として発生している場合に、第1および第2のゲート駆動回路2a,2bによって、通常のスイッチング速度でIGBT Q4a,Q4bをオン状態からオフ状態に遷移させると、サージ電圧が発生して、第1および第2のIGBT Q4a,Q4bに悪影響が生じる。
そこで、前述の図1に示すような駆動回路1を用いる構成においては、アーム短絡が発生する状態と、通常のスイッチング速度でIGBT Q4a,Q4bをオン状態からオフ状態に遷移させる状態とが重ならないようにするために、上位システムなどによって適切に制御されたゲート駆動信号GDSが駆動回路1に入力される。しかしながら、以下に説明するように、ゲート駆動信号GDSにノイズが発生する場合には、アーム短絡が発生する状態と、通常のスイッチング速度でスイッチング素子をオン状態からオフ状態に遷移させる状態とがたまたま重なってしまうことがある。
ここで、ゲート駆動信号GDSを駆動回路1に入力する配線(以下「ゲート駆動信号配線GDSL」という)において、ノイズが誘導されるメカニズムについて説明する。図6は、ゲート駆動信号にノイズが発生するメカニズムを説明するための図である。図7は、ノイズが重畳されたゲート駆動信号の電圧波形の一例を示す図である。
図6に示すインバータ回路70は、電源71と、負荷72と、4つのIGBT Q21,Q22,Q23,Q24と、4つのダイオードD1,D2,D3,D4とを備える。インバータ回路70は、4つのIGBT Q21,Q22,Q23,Q24および各ダイオードD1〜D4が2段縦列に接続されて、H型のブリッジ回路(以下「Hブリッジ回路」という場合がある)を構成している。各IGBT Q21,Q22,Q23,Q24のそれぞれには、ダイオードD1,D2,D3,D4が接続されている。ダイオードD1〜D4は、フライバックダイオードである。図6では、Hブリッジ回路の動作に起因して、ゲート駆動信号配線GDSLにノイズが誘導されるメカニズムを示している。
インバータ回路70のうち、4つのIGBT Q21,Q22,Q23,Q24は、図1の駆動回路1によって、駆動される。負荷72は、たとえばモータによって構成される。
IGBT Q21,Q22,Q23,Q24は、図1に示すIGBT Q3または外部のスイッチング素子に対応する。IGBT Q21,Q22,Q23,Q24がスイッチング動作した場合には、図6に示すように、ゲート駆動信号配線GDSLとHブリッジ回路との間の浮遊キャパシタC12を介した静電結合による誘導電圧であるノイズVNSと、相互インダクタンスMを介した電磁結合による誘導電圧であるノイズVNIとが、ゲート駆動信号GDSに重畳する。静電結合によるノイズVNSは、以下の式(2)のように示される。高周波数時の静電結合によるノイズVNSは、以下の式(3)のように示される。電磁結合によるノイズVNIは、以下の式(4)のように示される。
図7には、ノイズVNS,VNIが重畳されたゲート駆動信号GDSの電圧波形の一例が示されている。IGBT Q21〜Q24のスイッチング速度が増加し、電圧および電流の変動が短時間になると、ノイズVNS,VNIの電圧波形の振幅は大きくなり、かつ、その発生時間は短くなる。つまり、IGBT Q21〜Q24のスイッチング速度が増加すると、ゲート駆動信号GDSにノイズが重畳しやすくなり、そのノイズのパルス幅は短くなる。
インバータ装置でのスイッチング素子のスイッチング時間は、たとえば1μs以下であり、それに伴って、ノイズのパルス幅も1μs以下と短くなっている。したがって、駆動回路1の応答時間よりも短い、すなわち小さいパルス幅を有する、図7に示したようなノイズが、ゲート駆動信号GDSに重畳された状態で駆動回路1に入力されることがある。
このようなノイズが入力された場合には、たとえば後述する図9に示す駆動回路35と同様に駆動回路1にソフト遮断回路42を設けても、駆動回路1のソフト遮断機能による保護動作が間に合わず、ゲート駆動回路13による通常のターンオフが行われることになる。
この結果、駆動回路1においては、上記ノイズに起因してIGBT Q3を通常のスイッチング速度でオン状態からオフ状態に遷移させる状態と、アーム短絡が生じる状態とがたまたま重なる場合がある。この場合には、大きなサージ電圧が発生して、IGBT Q3などに悪影響が生じてしまうことがある。
IGBT Q3のターンオンの直後にアーム短絡または負荷短絡が生じると、過大な短絡電流が流れる。この短絡電流によって、パワーデバイス回路の出力端子の電圧(以下「出力端子電圧」という)が増加する。本実施の形態のようにパワーデバイスがIGBTである場合は、コレクタ電圧が増加する。このように、IGBT Q3のコレクタ電圧が増加すると、IGBT Q3の出力端子とゲート端子との間の帰還容量を介して、ゲート電圧が増加する。ゲート電圧が増加すると、更に短絡電流が増加する。
本実施の形態では、IGBT Q3のターンオンの直後に、ゲート駆動素子であるNPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2への入力電圧が、第1の電圧源VD1の電圧値V1となる。ターンオンの直後に発生する短絡によって、IGBT Q3のゲート電圧が第1の電圧源VD1の電圧値V1を超えると、ゲート駆動素子であるPNPトランジスタQ2がオンする。これによって、IGBT Q3のゲート電圧が第1の電圧源VD1の電圧値V1になるまでシンクするので、ゲート電圧の増加を抑制することができる。
これに対し、前提技術の場合は、ターンオンの直後からゲート駆動素子であるNPNトランジスタQ31およびPNPトランジスタQ32に入力される電圧は、駆動回路81の電源VCCの電圧値となる。IGBT Q33のゲート電圧が、駆動回路81の電源VCCの電圧値を超えるまで、ゲート駆動素子であるPNPトランジスタQ32はオンしない。
図8は、IGBT Q3の出力特性の一例を示すグラフである。図8の横軸は、IGBT Q3のオン電圧VCE[V]を示し、縦軸はコレクタ電流IC[A]を示す。
IGBT Q3に十分に高いゲート電圧が与えられると、図8の飽和領域SRで動作する飽和状態となる(曲線34)。飽和状態では、比較的低い電圧降下VCEで、定格値以上の電流を流すことができる。また、IGBT Q3に与えられるゲート電圧が比較的低い場合(曲線32)には、図8の活性領域ARで動作する活性状態となる。活性状態では、コレクタ電圧を増加させても、コレクタ電流ICは、ある一定の値以上は流れなくなる。
前提技術の駆動回路81では、ターンオン時に、NPNトランジスタQ31とPNPトランジスタQ32のベースに高い電圧、たとえば電源VCCの電圧が与えられ、IGBT Q33のゲートにも十分に高い電圧が与えられているので、ターンオン時にアーム短絡が生じると、過大な電流が流れる。
これに対し、本実施の形態の駆動回路1では、ターンオン開始の直後に短絡が発生した場合に、IGBT Q3のゲート電圧を、前提技術に比べて低い第1の電圧源VD1の電圧値V1に保つことができる。したがって、前提技術よりも短絡電流を低減し、短絡電流に起因するIGBT Q3の劣化および破壊を防止することができる。
以上のように本実施の形態によれば、IGBT Q3をオフ状態からオン状態にさせる、すなわちターンオンさせるターンオン動作を行うときには、電圧出力部13を構成するNPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2に第1の電圧源VD1の電圧が与えられる。その後、第1の保持期間TV1が経過すると、電圧出力部13を構成するNPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2に与えられる電圧が、電圧切替部11によって駆動回路1の電源VCCの電圧に切替えられる。
これによって、IGBT Q3をターンオンさせるときに、IGBT Q3に一時的に第1の電圧源VD1の電圧を出力した後、駆動回路1の電源VCCの電圧を出力することができる。
第1の電圧源VD1の電圧値V1は、IGBT Q3のゲート閾値電圧Vthよりも大きく、かつ駆動回路1の電源VCCの電圧値V0よりも小さいので、第1の電圧源VD1の電圧によって、IGBT Q3のスイッチング速度を制御することができる。したがって、前提技術のようにゲート抵抗R1,R2および電圧0V,V0によってIGBT Q3のスイッチング速度を制御する場合に比べて、スイッチング時の損失を低減することができる。
また、複数のIGBTをブリッジ接続した場合に、アーム短絡発生時の短絡電流を低く抑えることが可能となる。これによって、以下の効果が得られる。
従来の技術では、アーム短絡発生時の短絡電流を制限するために、IGBTなどのスイッチング素子の最大通電能力に制限を加える必要がある。IGBTなどのスイッチング素子は、最大通電能力に制限を加えると、オン電圧が増加し、通電時の電力損失が増加する。
これに対し、本実施の形態では、IGBT Q3などのスイッチング素子の最大通電能力に制限を加えなくても、ターンオン時に電圧出力部13に電源VCCの電圧値V0よりも低く、ゲート閾値電圧Vthよりも高い電圧を与える期間において、ノイズなどの影響により誤ってIGBT Q3などのスイッチング素子がオンしたとしても、アーム短絡発生時の短絡電流を低く抑えることが可能である。したがって、スイッチング素子の最大通電能力に制限を加えるためにオン抵抗の大きなIGBTを使用したり、IGBTのコレクタおよびエミッタと直列に抵抗を追加したりする必要がないので、オン電圧の増加を抑制し、通電時の電力損失の増加を抑制することができる。
また電圧切替部11は、容易に集積することができる。したがって、電圧切替部11は、従来の複数の電圧出力部を備える構成に比べて、実装する回路の小型化が可能である。
また電圧出力部13の電圧増幅率は1であるので、電圧出力部13は、比較的少ない数の回路部品で構成することができる。具体的には、電圧出力部13は、オン側、オフ側それぞれ、トランジスタ1石のエミッタフォロワで構成することができるので、回路構成を簡略化し、部品点数を削減することができる。
本実施の形態とは異なるが、電圧出力部13を、バイポーラトランジスタに代えて、MOSFETを用いて構成する場合にも同様の効果が得られる。この場合、電圧出力部13は、オン側、オフ側それぞれ、トランジスタ1石のソースフォロワで構成することができるので、回路構成を簡略化し、部品点数を削減することができる。したがって、比較的小さい実装面積で、IGBT Q3のスイッチング特性および短絡電流の抑制を実現することができる。
また本実施の形態では、スイッチング素子として働くパワーデバイスとしてIGBTを用いたが、パワーデバイスとして珪素(Si)で形成されるMOSFET、または炭化珪素(SiC)で形成されるSiC−MOSFETを用いてもよい。SiC−MOSFETでは、ターンオン時間が短いため、サージ電圧が高くなる傾向にある。したがって、本実施の形態を適用すれば、サージ電圧を効率的に抑制し、スイッチング素子を保護することが可能となる。
また本実施の形態では、IGBT Q3をオン状態からオフ状態にさせる、すなわちターンオフさせるターンオフ動作を行うときには、電圧出力部13を構成するNPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2に第2の電圧源VD2の電圧が与えられる。その後、第2の保持期間TV2が経過すると、電圧出力部13を構成するNPNトランジスタQ1およびPNPトランジスタQ2に与えられる電圧が、電圧切替部11によって接地電位、具体的には0Vまたは負電圧に切替えられる。これによって、IGBT Q3をターンオフさせるときに、IGBT Q3に一時的に第2の電圧源VD2の電圧を出力した後、0Vまたは負電圧を出力することができる。
第2の電圧源VD2の電圧値V2は、IGBT Q3のゲート閾値電圧Vthよりも小さいので、第2の電圧源VD2の電圧によって、IGBT Q3のスイッチング速度を制御することができる。したがって、前提技術のようにゲート抵抗R1,R2によってIGBT Q3のスイッチング速度を制御する場合に比べて、スイッチング時の損失を低減することができる。
本実施の形態では、前述のようにアーム短絡発生時の短絡電流を低く抑えることが可能であるので、スイッチング素子の最大通電能力に制限を加えるためにオン抵抗の大きなIGBTを使用したり、IGBTのコレクタおよびエミッタと直列に抵抗を追加したりする必要がない。したがって、オン電圧の増加を抑制し、通電時の電力損失の増加を抑制することができる。
また本実施の形態では、前述のようにサージ電圧を効率的に抑制することができるので、比較的大きなサージ電圧が発生した場合でも、スイッチング素子であるIGBT Q3を保護することが可能である。
以上に述べたように、本実施の形態では、電圧切替部11は、切替回路S1と制御論理回路12とを備えて構成される。制御論理回路12は、第1および第2のタイマTM1,TM2 17,18の動作に応じて接続先を切替えるように切替回路S1を制御する。このようにタイマ17,18を用いて、電圧切替部11を構成することによって、ターンオン時に、第1の電圧源VD1の電圧V1を電圧出力部13に与えた後、第1の電圧保持期間の経過後に、電圧出力部13に与える電圧を、駆動回路1の電源VCCの電圧V0に切替える電圧切替部11を、簡単な構成で実現することができる。また、ターンオフ時に、第2の電圧源VD2の電圧V2を電圧出力部13に与えた後、第2の電圧保持期間の経過後に、電圧出力部13に与える電圧を、接地電位である0Vに切替える電圧切替部11を、簡単な構成で実現することができる。
以上に述べた本実施の形態では、制御論理回路12の出力端子OUT0,1からの出力と切替回路S1の切替え動作とについて具体的な例を挙げて説明したが、切替回路S1の構成は、これに限定されない。切替回路S1は、複数種類の電圧を切替えて、電圧出力部13に出力できる構成であればよい。
<第2の実施の形態>
図9は、本発明の第2の実施の形態のスイッチング素子駆動回路である駆動回路35を含むパワーデバイス回路40の構成を示す図である。パワーデバイス回路40は、電圧制御形のスイッチング素子であるパワーデバイス44と、駆動回路35とを備える。駆動回路35は、第1の実施の形態のスイッチング素子駆動回路である駆動回路1に相当する。本実施の形態では、駆動回路35は、パワーデバイス44を駆動および保護する機能を有しており、パワーデバイス44を駆動するゲート駆動回路43と、パワーデバイス44を保護する保護回路とを備える。本実施の形態のパワーデバイス44は、IGBT Q14である。
駆動回路35は、電圧切替部41、ソフト遮断回路42、ゲート駆動回路43、ローパスフィルタ(Low Pass Filter;略称:LPF)45、過電流検出部46およびセンス抵抗Rsを備えて構成される。電圧切替部41は、制御論理(Control Logic)回路90、第1の電圧源VD1、第2の電圧源VD2および切替回路S11を備える。
制御論理回路90は、駆動回路35を構成するソフト遮断回路42、ゲート駆動回路43、LPF45、過電流検出部46およびセンス抵抗Rsを統括的に制御する。制御論理回路90は、ゲート駆動信号入力端子INと、コンパレータ信号入力端子SCと、ソフト信号出力端子SOFTと、3つの出力端子OUT0,1,2とを含む。IGBT Q14を駆動するためのゲート駆動信号GDSは、ゲート駆動信号入力端子INに入力される。制御論理回路90の出力端子OUT0,1,2から出力される出力信号は、3本の信号線からなるバス95を介して、切替回路S11に与えられる。
制御論理回路90は、2つの論理回路、すなわち第1の論理回路91および第2の論理回路94と、2つのタイマ、すなわち第1のタイマTM1 92および第2のタイマTM2 93とを内蔵する。第1のタイマTM1 92は、ターンオン用タイマに相当し、第2のタイマTM2 93は、ターンオフ用タイマに相当する。
図9に示す駆動回路35のうち、電圧出力部であるゲート駆動回路43以外の制御論理回路90、ソフト遮断回路42、LPF45、過電流検出部46およびセンス抵抗Rsが、パワーデバイス44であるIGBT Q14を保護する保護回路として機能する。保護回路は、過負荷または負荷短絡などの異常によってパワーデバイス44の出力電流が過大となったときに、ソフト遮断を行うことによって、サージ電圧を低減する。ここで、「ソフト遮断」とは、パワーデバイス44を比較的低速でターンオフすることをいう。保護回路は、パワーデバイス44の出力電流を検出する手段として、過電流検出部46およびセンス抵抗Rsを備える。
ソフト遮断回路42は、NPNトランジスタQ11と、ソフト遮断用ゲート抵抗RGsoftとを備える。NPNトランジスタQ11のベースは、制御論理回路90のソフト信号出力端子SOFTと接続される。NPNトランジスタQ11のコレクタは、ソフト遮断用ゲート抵抗RGsoftの一端と接続される。NPNトランジスタQ11のエミッタは、グランドに接続される。
パワーデバイス44の出力電流が過大であること(以下「過電流」という場合がある)が検出されていない場合、駆動回路35は、制御論理回路90の制御によって、NPNトランジスタQ11をオフする。これによって、ソフト遮断回路42の出力は、IGBT Q14および駆動回路35の他の構成要素に影響を与えないハイインピーダンス(HiZ)状態となる。
他方、過電流が検出された場合には、駆動回路35は、制御論理回路90の制御によって、NPNトランジスタQ11をオンする。同時に制御論理回路90は、切替回路S11を切替え、切替回路S11の出力が電源VCC,第1の電圧源VD1,第2の電圧源VD2,グランドのいずれにも電気的に接続されていないハイインピーダンス(HiZ)状態とする。このとき、ゲート駆動回路43のNPNトランジスタQ12およびPNPトランジスタQ13にはベース電流が供給されず、NPNトランジスタQ12およびPNPトランジスタQ13はオフ状態となる。これによって、ソフト遮断回路42は、抵抗RGsoftを通してIGBT Q14のゲート電圧を引き下げ、IGBT Q14をオン状態からオフ状態に遷移させて、保護する。
本実施の形態では、ソフト遮断回路42のソフト遮断用ゲート抵抗RGsoftの抵抗値は、ゲート駆動回路43のゲート抵抗RGの抵抗値よりも大きくしている。これによって、ソフト遮断回路42を用いてIGBT Q14をオン状態からオフ状態に遷移させる場合のゲート電圧の単位時間当たりの低下度合を、ゲート駆動回路43を用いてIGBT Q14をオン状態からオフ状態に遷移させる場合よりも緩やかにすることができる。
このように駆動回路35は、ゲート駆動信号GDSがオン信号であっても、過電流が検出された場合には、ソフト遮断回路42を動作させ、ゲート駆動回路43よりも遅いスイッチング速度でIGBT Q14をオン状態からオフ状態に遷移させるソフト遮断を行うように構成されている。
ゲート駆動回路43は、電源VCC、NPNトランジスタQ12、PNPトランジスタQ13およびゲート抵抗RGを備える。ゲート駆動回路43は、前述の第1の実施の形態におけるゲート駆動回路13と同様に、電圧出力部に相当し、電圧増幅率が1の増幅回路を構成する。
電圧切替部41は、第1の実施の形態における電圧切替部11と同様の構成を有し、制御論理回路90、第1の電圧源VD1、第2の電圧源VD2および切替回路S11を備える。制御論理回路90は、電源VCC、第1の電圧源VD1、第2の電圧源VD2およびグランドに接続された切替回路S11を、出力端子OUT0,1,2からの出力によって、電源VCCの電圧値V0、第1の電圧源VD1の電圧値V1、第2の電圧源VD2の電圧値V2、グランドの電位である0V、およびハイインピーダンス(HiZ)状態のいずれかの出力状態となるように切替える。
NPNトランジスタQ12のベースは、切替回路S11の出力端子と接続されている。NPNトランジスタQ12のエミッタは、ゲート駆動回路43の電源VCCに接続されている。
PNPトランジスタQ13のベースは、制御論理回路90の切替回路S11の出力と接続されている。PNPトランジスタQ13のコレクタは、グランドに接続されている。NPNトランジスタQ12のエミッタおよびPNPトランジスタQ13のエミッタは、共通に接続される。
NPNトランジスタQ12のエミッタとPNPトランジスタQ13のエミッタとの接続点は、ゲート抵抗RGの一端に接続されている。ゲート抵抗RGの他端は、ソフト遮断回路42のソフト遮断用ゲート抵抗RGsoftの他端に接続されている。ゲート抵抗RGの他端と、ソフト遮断回路42のソフト遮断用ゲート抵抗RGsoftの他端との接続点は、パワーデバイス44であるIGBT Q14のゲートに接続されている。
前述の第1の実施の形態においては、図1に示すように、第1のゲート抵抗R1の一端と第2のゲート抵抗R2の一端とをそれぞれ、NPNトランジスタQ1のエミッタとPNPトランジスタQ2のエミッタとに接続している。
これに対し、本実施の形態では、1つのゲート抵抗RGの一端を、NPNトランジスタQ12のエミッタとPNPトランジスタQ13のエミッタとに共通に接続している。したがって、本実施の形態では、IGBTのターンオン時間とターンオフ時間とをそれぞれ独立して設定することはできない。しかし、1つのゲート抵抗RGの抵抗値で適切なターンオン時間とターンオフ時間とが得られる場合には、本実施の形態の電圧出力部13のように、1つのゲート抵抗RGを用いることで、電圧出力部13の簡略化および小型化を図ることができる。
過電流が検出されていない場合、制御論理回路90は、ゲート駆動信号GDSに応答して、出力端子OUT0,1,2から切替回路S11を切替える信号を出力する。具体的には、制御論理回路90は、図2のタイミングチャートに示される第1の実施の形態の電圧切替部11の出力電圧ASOVと同様に、第1のタイマTM1 92と第2のタイマTM2 93の動作に合わせて、切替回路S11の出力電圧を切り替える。
他方、過電流が検出された場合には、ゲート駆動回路43の出力は、切替回路S11の出力をハイインピーダンス(HiZ)状態にすることで、NPNトランジスタQ12およびPNPトランジスタQ13がオフされ、IGBT Q14および駆動回路35の他の構成要素に影響を与えないハイインピーダンス(HiZ)状態となる。
切替回路S11の出力状態は、電源VCCの電圧値V0、第1の電圧源VD1の電圧値V1、第2の電圧源VD2の電圧値V2、グランドの電位である0V、およびハイインピーダンス(HiZ)状態の合計5通りある。したがって、本実施の形態では、3つの出力端子OUT0,1,2にそれぞれ接続される3本の信号線からなるバス95によって、切替回路S11を切替えている。
IGBT Q14のエミッタ端子Eは、グランドに接続されている。IGBT Q14の電流センス端子Sは、センス抵抗Rsの一端に接続されている。センス抵抗Rsの他端は、グランドに接続されている。
センス抵抗Rsは、IGBT Q14の電流センス端子Sに接続されている。電流センス端子Sには、IGBT Q14のエミッタ端子Eに流れる電流の数千分の一から数万分の一のセンス電流が流れる。駆動回路35は、このセンス電流を用いて、IGBT Q14の出力電流が過大か否かを判断し、出力電流が過大となった場合に、ソフト遮断回路42によって緩やかに遮断し、遮断動作時のサージ電圧を抑制して、IGBT Q14の破壊を防止する。本実施の形態では、センス抵抗Rsによって、センス電流をセンス電圧Vsに変換する。
本実施の形態では、IGBT Q14が電流センス端子Sを備える構成について説明したが、IGBT Q14が電流センス端子Sを備えない構成にしてもよい。IGBT Q14が電流センス端子Sを備えない構成にする場合には、たとえば、グランドとエミッタ端子Eとの間に、電流検出用のシャント抵抗を接続して、エミッタ電流をセンス電圧に変換するようにすればよい。
センス抵抗Rsまたはシャント抵抗の抵抗値は、IGBT Q14の出力電流ICが定格値を超えたときに、センス抵抗Rsまたはシャント抵抗の電圧降下が基準電圧源REFの基準電圧VREFと等しくなるように設定されていればよい。
LPF45は、フィルタ用抵抗47と、フィルタ用コンデンサ48とを備える。フィルタ用抵抗47の一端は、フィルタ用コンデンサ48の一方の電極に接続されている。フィルタ用抵抗47の他端は、IGBT Q14の電流センス端子Sとセンス抵抗Rsの一端との接続点に接続されている。フィルタ用コンデンサ48の他方の電極は、グランドに接続されている。LPF45は、センス抵抗Rsで変換されたセンス電圧Vsに重畳するノイズ成分を除去し、除去後のセンス電圧Vsを、過電流検出部46のコンパレータ49に出力する。
過電流検出部46は、基準電圧源REFと、コンパレータ49とを備える。過電流検出部46は、IGBT Q14の出力電流ICが過大か否かを検出する。コンパレータ49の非反転入力端子は、LPF45のフィルタ用抵抗47の一端とフィルタ用コンデンサ48の一方の電極との接続点と接続されている。コンパレータ49の反転入力端子は、基準電圧源VREFの正極端子に接続されている。基準電圧源VREFの負極端子は、グランドに接続されている。コンパレータ49の出力端子は、制御論理回路90のコンパレータ信号入力端子SCに接続されている。
コンパレータ49は、LPF45からのセンス電圧Vsと、基準電圧源REFの基準電圧VREFとの大小を比較し、その比較結果に応じた信号(以下「コンパレータ信号」という場合がある)を、制御論理回路90のコンパレータ信号入力端子SCに出力する。
本実施の形態では、センス電圧Vsが基準電圧VREF以下である場合、コンパレータ49は、Lレベルのコンパレータ信号を制御論理回路90のコンパレータ信号入力端子SCに出力する。また、センス電圧Vsが基準電圧VREFを超える場合、コンパレータ49は、Hレベルのコンパレータ信号を制御論理回路90のコンパレータ信号入力端子SCに出力する。
ここでは、センス抵抗Rsまたはシャント抵抗による電圧降下が、IGBT Q14の動作に影響しないように、基準電圧VREFは、たとえば1V以下に設定される。
制御論理回路90は、ゲート駆動信号入力端子INに入力されるゲート駆動信号GDSと、コンパレータ信号入力端子SCに入力されるコンパレータ信号とに基づいて、ソフト遮断回路42およびゲート駆動回路43を制御する。
具体的には、制御論理回路90は、コンパレータ信号入力端子SCに入力されるコンパレータ信号の信号レベルがLレベルである場合、換言すれば、IGBT Q14の出力電流ICが過大ではなく、センス電圧Vsが基準電圧VREF以下である場合には、ゲート駆動信号GDSであるオン信号およびオフ信号に応じて、ゲート駆動回路43を用いてIGBT Q14をオンおよびオフする動作を行う。
他方、制御論理回路90は、コンパレータ信号入力端子SCに入力されるコンパレータ信号の信号レベルがHレベルである場合、換言すれば、IGBT Q14の出力電流ICが過大であり、センス電圧Vsが基準電圧VREFを超える場合には、ゲート駆動信号GDSがオン信号であっても、ソフト遮断回路42を用いて、ゲート駆動回路43よりも遅いスイッチング速度で、IGBT Q14をオン状態からオフ状態に遷移させる。
すなわち、駆動回路35は、過電流検出部46によって過電流が検出されたときに、ソフト遮断回路42を動作させる。このような駆動回路35を備えるパワーデバイス回路40によれば、サージ電圧を抑制することが可能となる。
駆動回路35は、制御論理回路90の制御によって、ソフト遮断回路42を動作させるときには、制御論理回路90の出力端子OUTをハイインピーダンス(HiZ)状態にすることで、ゲート駆動回路43のNPNトランジスタQ12およびPNPトランジスタQ13をオフにし、ゲート駆動回路43の出力をハイインピーダンス(HiZ)状態にして、ソフト遮断回路42の動作を妨げないようにする。
また、駆動回路35は、論理制御回路41の制御によって、ゲート駆動回路43を動作させるときには、ソフト遮断回路42のNPNトランジスタQ11をオフにし、ソフト遮断回路42の出力SBCOをハイインピーダンス(HiZ)状態にして、ゲート駆動回路43によるIGBT Q14の駆動を妨げないようにする。
以上のようにして、駆動回路35は、ソフト遮断回路42およびゲート駆動回路43の動作が互いに影響することを抑制している。
表2に、制御論理回路90のゲート駆動信号入力端子INおよびコンパレータ信号入力端子SCに入力される信号の信号レベルと、制御論理回路90内部の第1のタイマTM1 92および第2のタイマTM2 93の出力状態と、制御論理回路90のソフト信号出力端子SOFTの出力状態と、制御論理回路90の出力端子(以下「信号出力端子」という場合がある)OUT0,1,2からの出力信号によって切替えられる切替回路S11の出力電圧ASOVと、NPNトランジスタQ11の状態と、ゲート駆動回路43の出力と、IGBT Q14の状態との関係を示す。
ゲート駆動信号入力端子INに入力されるゲート駆動信号GDSがLレベルであり、コンパレータ信号入力端子SCに入力されるコンパレータ信号がLレベルである場合、ソフト信号出力端子SOFTから出力される信号はLレベルとなり、信号出力端子OUT0,1,2から出力される信号によって、切替回路S11の出力電圧ASOVは、0Vとなる。これによって、NPNトランジスタQ11はオフとなって、ソフト遮断回路42の出力SBCOはハイインピーダンス(HiZ)状態となり、ゲート駆動回路43の出力電圧が0Vとなるので、IGBT Q14はオフとなる。
ゲート駆動信号入力端子INに入力されるゲート駆動信号GDSがHレベルであり、コンパレータ信号入力端子SCに入力されるコンパレータ信号がLレベルとなった場合、第1のタイマTM1 92が起動されて第1のタイマTM1 92の出力がHレベルとなり、ソフト信号出力端子SOFTから出力される信号はLレベルとなり、信号出力端子OUT0,1,2から出力される信号によって、切替回路S11の出力電圧ASOVは、第1の電圧源VD1の電圧値V1となる。これによって、NPNトランジスタQ11がオフとなって、ソフト遮断回路42の出力SBCOはハイインピーダンス(HiZ)状態となり、ゲート駆動回路43の出力電圧が第1の電圧源VD1の電圧値V1となるので、IGBT Q14はターンオン動作に入る。
第1の保持期間が経過して、第1のタイマTM1 92の出力がLレベルになると、信号出力端子OUT0,1,2から出力される信号によって切替えられる切替回路S11の出力電圧ASOVは、電源VCCの電圧値V0となる。これによって、IGBT Q14はオン状態となる。
ゲート駆動信号入力端子INに入力されるゲート駆動信号GDSがHレベルであり、コンパレータ信号入力端子SCに入力されるコンパレータ信号がHレベルである場合、ソフト信号出力端子SOFTから出力される信号がHレベルとなるので、ソフト遮断回路42のNPNトランジスタQ11がオンとなり、ソフト遮断(soft cutoff;略称:SC)動作を行う。
また信号出力端子OUT0,1,2から出力される信号によって、切替回路S11の出力ASOVは、電源VCC、第1の電圧源VD1、第2の電圧源VD2およびグランドのいずれにも電気的に接続されていないハイインピーダンス(HiZ)状態となり、ゲート駆動回路43の出力もハイインピーダンス(HiZ)状態となり、IGBT Q14はターンオフ動作をする。
ゲート駆動信号入力端子INに入力されるゲート駆動信号GDSがLレベルであり、コンパレータ信号入力端子SCに入力されるコンパレータ信号がHレベルである場合、ソフト信号出力端子SOFTから出力される信号はLレベルとなり、信号出力端子OUT0,1,2から出力される信号によって切替えられる切替回路S11の出力電圧ASOVは、0Vとなる。これによって、ソフト遮断回路42のNPNトランジスタQ11がオフとなり、ゲート駆動回路43の出力も0Vとなるので、IGBT Q14はオフとなる。第1のタイマTM1 92の第1の保持期間と、第2のタイマTM2 93の第2の保持期間とはそれぞれ、第1の実施の形態と同様に設定することができる。
図10は、図9のパワーデバイス回路40の動作を示すタイミングチャートである。図10の横軸は、時間である。図10においては、ターンオン時においてIGBT Q14に過電流が流れた場合について説明している。また、図10では、各回路および素子の遅延時間についても示している。
時刻t21において、ゲート駆動信号GDSがオフ信号からオン信号に切り替わる。時刻t21から、ゲート駆動出力遅延時間T1が経過した時刻t22において、制御論理回路90の出力端子OUT0,1,2から出力される信号によって、切替回路S11の出力電圧が、0VからV1となる。時刻t22において、パワーデバイス44であるIGBT Q14のゲート電圧VGEは上昇を開始する。
時刻t22からパワーデバイス44であるIGBT Q14のターンオン遅延時間T2が経過した時刻t23において、IGBT Q14のゲート電圧VGEは、IGBT Q14のミラー期間における第1のゲート電圧値GV1に達する。IGBT Q14のゲート電圧VGEは、時刻t23から時刻t30までの間、第1のゲート電圧値GV1のままである。
また、時刻t23において、パワーデバイス44であるIGBT Q14の出力電流ICが上昇を開始する。また、センス電圧SVおよび、コンパレータ49に入力されるコンパレータ入力電圧CIが上昇を開始する。
時刻t23から出力電流立上り時間T3が経過した時刻t24において、センス電圧SVが基準電圧VREFと等しくなる。この時刻t24からLPF遅延時間T4が経過した時刻t25において、コンパレータ入力電圧CIが基準電圧VREFに達する。
時刻t25からコンパレータ出力遅延時間T5が経過した時刻t26において、コンパレータ49から出力されるコンパレータ出力電圧COの信号レベルが、LレベルからHレベルとなる。
時刻t26から制御論理回路出力遅延時間T6が経過した時刻t28において、制御論理回路90のソフト信号出力端子SOFTから出力される信号がHレベルとなり、信号出力端子OUT0,1,2から出力される信号によって、切替回路S11の出力状態がハイインピーダンス(HiZ)状態となる。これによって、ソフト遮断回路42がハイインピーダンス(HiZ)状態から動作状態に移行するとともに、ゲート駆動回路43が動作状態からハイインピーダンス(HiZ)状態に移行する。
ソフト遮断回路42の動作によって、時刻t30において、IGBT Q14のゲート電圧VGEおよびIGBT Q14の出力電流ICは下降を開始する。
時刻t28において、第1のタイマTM1 92は、第1のタイマTM1 92の起動時点から第1の保持期間TV1が経過する以前であるので、切替回路S11の出力電圧ASOVは、V0よりも低いV1のままである。
ソフト遮断回路42が働き始めた(シンクを開始した)時刻t28から遅れ時間が経過してゲート電圧VGEが第1のゲート電圧値GV1から下がり始めた時刻t30において、IGBT Q14の出力電流ICとセンス電圧SVとは下降を開始する。コンパレータ入力電圧CIは、時刻t29において一定値となり、時刻t31において下降を開始する。
時刻t33において、IGBT Q14の出力電流ICは0となる。時刻t33において、センス電圧SVは0となる。時刻t32において、コンパレータ入力電圧CIはVREFとなり、そこからコンパレータ出力遅延時間T7が経過した時刻t33において、コンパレータ出力電圧COの信号レベルが、HレベルからLレベルとなる。時刻t34において、IGBT Q14のゲート電圧VGEは0となる。時刻t35において、コンパレータ入力電圧CIは0となる。
時刻t36において、ゲート駆動信号GDSがオン信号からオフ信号に切り替わる。これによって、ゲート駆動回路43がハイインピーダンス(HiZ)状態から動作状態に移行するとともに、ソフト遮断回路42が動作状態からハイインピーダンス(HiZ)状態に移行する。
制御論理回路90は、IGBTオフ、IGBTオン、IGBTターンオン、IGBTターンオフ、ソフト遮断開始、ソフト遮断の6つの状態を有する。正常動作時(SC=L)は、ゲート駆動回路43を用いた駆動が行われ、IGBTオフ状態と、IGBTオン状態とを交互に切り替える。IGBTオン状態で、コンパレータ49の出力、すなわちコンパレータ信号入力端子SCに入力される信号の信号レベルがHレベルになると、制御論理回路90は、IGBTオン状態からソフト遮断開始状態に遷移する。
ソフト遮断開始状態に遷移すると、制御論理回路90は、切替回路S11によって、ゲート駆動回路43のNPNトランジスタQ12およびPNPトランジスタQ13をオフにし、かつソフト遮断回路42のNPNトランジスタQ11をオンにする。これによって、ソフト遮断回路42が動作して、IGBT Q14が低速のスイッチング速度でオン状態からオフ状態に遷移される。そして、制御論理回路90は、ソフト遮断開始状態からソフト遮断状態に遷移する。
ソフト遮断状態に遷移すると、制御論理回路90は、ゲート駆動信号GDSがオン信号からオフ信号に切り替わるまで、ソフト遮断状態を維持する。そして、ゲート駆動信号GDSがオン信号からオフ信号に切り替わると、制御論理回路90は、IGBTオフ状態に遷移する。
図9に示すパワーデバイス回路40において、IGBT Q14のターンオン時に短絡が発生する場合、図10に示すように、ゲート駆動信号GDSがオフ信号からオン信号に切り替わってから、ソフト遮断動作するまで、各遅延時間T1〜T6の総和で表される遅延が生じる。
本実施の形態において、制御論理回路90に内蔵する第1のタイマTM1 92の第1の保持期間TV1を、ソフト遮断動作するまでの遅延時間T1〜T6の総和と同じか、または遅延時間T1〜T6の総和よりも長い時間に設定している。これによって、図9に示す保護回路が動作するまでの短絡電流値を、前提技術の駆動回路81よりも低く抑えることができ、IGBTの破壊をより確実に防止することができる。
本実施の形態では、さらに第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。以上においては、IGBTがターンオンする場合に短絡が発生し、保護回路が働くまでの短絡電流を抑制する回路の動作を主に説明した。短絡は、ゲート駆動信号GDSがオフ状態のときに、外来ノイズによって、誤ってIGBTがターンオンされるときに発生することが多い。したがって、第1のタイマTM1 92の第1の保持期間TV1を遅延時間T1〜T6の総和以上にしておき、外来ノイズによって誤ってIGBTがターンオンされる場合にソフト遮断動作可能にすることが、スイッチング素子の保護のためなどに有用である。
ターンオフ時においても、第2のタイマTM2 93によって、ゲート電圧を、第2のゲート電圧値V2および接地電位0Vの2段階で駆動することが有用である。これによって、ターンオフ時間を短くすることができるので、同じアームを構成する駆動回路以外の他の回路を保護するという効果も得られる。
<第3の実施の形態>
図11は、本発明の第3の実施の形態のスイッチング素子駆動回路である駆動回路61を含むパワーデバイス回路50の構成を示す図である。本実施の形態のパワーデバイス回路50は、前述の第1の実施の形態のパワーデバイス回路10と構成が類似しているので、異なる部分について説明し、同一の構成については同一の参照符号を付して、共通する説明を省略する。本実施の形態の駆動回路61は、第1の実施の形態のスイッチング素子駆動回路1に相当する。
パワーデバイス回路50は、駆動回路61と、電圧制御形パワーデバイスであるIGBT Q3とを備える。駆動回路61は、電圧切替部51、電源VCC、NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2、第1のゲート抵抗R1、第2のゲート抵抗R2および温度センサ53を備える。NPNトランジスタQ1、PNPトランジスタQ2は、ゲート駆動素子である。温度センサ53は、温度検出部に相当する。
電圧切替部51は、電圧制御部52、制御論理(Control Logic)回路12、第1の可変電圧源VD11、第2の可変電圧源VD12および切替回路S1を備える。制御論理回路12は、切替回路S1を制御する。制御論理回路12は、入力端子INと、2つの出力端子OUT0,OUT1とを含む。図11では、2つの出力端子OUT0,OUT1をまとめて「OUT」と記載している。出力端子OUTと切替回路S1とは、2本の信号線からなるバス14で接続されている。
温度センサ53は、電圧制御部52と接続されている。温度センサ53は、IGBT Q3に近接して設けられる。温度センサ53は、IGBT Q3のジャンクション温度を検出する。温度センサ53は、検出したIGBT Q3のジャンクション温度を表す温度情報を電圧制御部52に与える。
電圧制御部52は、温度センサ54から与えられる温度情報が表すIGBT Q3のジャンクション温度に応じて、ターンオン時またはターンオフ時に一時的に出力する電圧、すなわち第1の可変電圧源VD11から出力する第1の可変電圧の値V11、および第2の可変電圧源VD12から出力する第2の可変電圧の値V12を制御し、調整する。具体的には、電圧制御部52は、第1の可変電圧源VD11または第2の可変電圧源VD12に、各可変電圧源VD11,VD12の電圧値V11,V12を切替回路S1に出力するように指示する。
第1および第2の可変電圧源VD11,VD12の電圧値V11,V12が固定値である場合、IGBT Q3のジャンクション温度が変化すると、IGBT Q3のゲート閾値電圧Vthも変化するので、IGBT Q3のスイッチング速度が変化する。
本実施の形態の駆動回路61は、電圧制御部52によって、第1および第2の可変電圧源VD11,VD12の電圧値V11,V12を、温度センサ53によって検出されるIGBT Q3のジャンクション温度に応じて調整する。これによって、スイッチング速度を一定に保つことが可能となる。
スイッチング速度が速くなると、放射ノイズおよびサージ電圧が増加し、スイッチング損失が減少する。スイッチング速度が遅くなると、放射ノイズおよびサージ電圧が減少し、スイッチング損失が増加する。放射ノイズおよびサージ電圧と、スイッチング損失とは、トレードオフの関係にある。
したがって、前提技術のようにゲート抵抗によってスイッチング速度を制御する構成において、放射ノイズおよびサージ電圧とスイッチング損失などとの各要件を満足するように、ゲート抵抗を切り替える場合、ゲート抵抗と同数のゲート駆動素子が必要となる。
これに対して、本実施の形態の駆動回路61は、第1および第2の可変電圧源VD11,VD12の電圧値V11,V12を、温度センサ53によって検出されるIGBT Q3のジャンクション温度に応じて調整するように構成されている。したがって、ICへの集積が容易であり、かつ実装する回路の小型化が可能である。
第1および第2の可変電圧源VD11,VD12の電圧値V11,V12は、たとえば以下のように調整すればよい。パワーデバイスであるIGBTおよびFETのゲート閾値は、温度が高くなるほど小さくなるという負の温度特性を有している。したがって、駆動回路61は、パワーデバイスの負の温度特性に合わせて、温度上昇に伴い、第1および第2の可変電圧源VD11,VD12の電圧値V11,V12を下げるようにすればよい。
以上に述べた各実施の形態では、スイッチング素子駆動回路1,35,61およびそれを備えるパワーデバイス回路10,40,50について説明したが、パワーデバイス回路10,40,50をモジュール化して、パワーデバイス回路10,40,50を備えるパワーモジュールとしてもよい。このようなパワーモジュールにおいても、前述の各実施の形態と同様の効果を得ることができる。
<第4の実施の形態>
図12は、本発明の第4の実施の形態である、駆動回路61を備える自動車60を示す図である。自動車60は、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車、またはスタータジェネレータを備える自動車である。自動車60は、駆動回路61、電子制御ユニット(Electronic Control Unit;略称:ECU)62、低電圧電源63、高電圧電源64、インバータ装置65、モータ66およびエンジン67を備えて構成される。
駆動回路61は、前述の第3の実施の形態の駆動回路35と同様に、スイッチング素子駆動回路に相当し、ゲート駆動回路と、制御論理回路、ソフト遮断回路、LPF、過電流検出部およびセンス抵抗を含む保護回路とを備えて構成される。駆動回路61は、インバータ装置65に含まれるパワーデバイスを駆動および保護する。さらに具体的には、駆動回路61のゲート駆動回路によって、パワーデバイスを駆動し、駆動回路61の保護回路によって、パワーデバイスを保護する。
ECU62は、マイクロコンピュータによって実現される。ECU62は、駆動回路61を制御する。低電圧電源63は、駆動回路61の電源として用いられる。低電圧電源63は、たとえば12Vのバッテリによって実現される。
高電圧電源64は、電力を充放電可能に構成される。具体的には、高電圧電源64は、充放電可能な直流電源であり、たとえば、ニッケル水素電池またはリチウムイオン電池などの二次電池によって実現される。高電圧電源64には、インバータ装置65から直流電力が与えられる。これによって、高電圧電源64が充電される。高電圧電源64は、たとえば36Vのバッテリによって実現される。
インバータ装置65は、駆動回路61によって駆動および保護されるパワーデバイスを含む。インバータ装置65は、モータ66を駆動する。インバータ装置65は、高電圧電源64から放電される直流電力を、モータ66を駆動するための交流電力に変換する。またインバータ装置65は、モータ66によって発電された交流電力を、高電圧電源64に充電可能な直流電力に変換する。
モータ66は、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車、またはスタータジェネレータを備える自動車に用いられ、1kW以上の出力が可能である。モータ66は、たとえば回生用モータによって実現される。モータ66は、交流電力を発電する。モータ66は、発電した交流電力をインバータ装置65に与える。
自動車60では、力行と回生とを交互に繰り返し、モータ66の負荷変動が大きい状態が頻繁に生じるだけでなく、力行も回生も行わない惰行状態も頻繁に生じる。このような惰行状態では、モータ66を駆動するインバータ装置65は無負荷運転に近く、その出力電流は全く流れないか、または定格電流の数十分の一から数百分の一程度のわずかな値となる。
前述のような無負荷運転に近い状態では、図12のインバータ装置65に含まれるIGBTのスイッチング速度が、通常の力行および回生を行うときに比べて速くなる。その結果、図6および図7に示すようなメカニズムによって、ゲート駆動回路に入力されるゲート駆動信号GDSに、高周波電流に起因する電磁結合によるノイズ電圧が重畳し、誤動作を引き起こすおそれがある。
高周波電流に起因する電磁結合によるノイズ電圧を防止するためには、磁気シールドが有効であるが、磁気シールドに使用するシールド材は、比較的高価で、かつ重量が嵩むなどの問題があるので、従来においては、十分な磁気シールドが実施されていない。
また、これらのノイズ電圧に起因して、図12のインバータ装置65に含まれるIGBTがアーム短絡を引き起こすと、ノイズ電圧のパルス幅がIGBTの駆動回路35の応答時間よりも短いので、駆動回路35が働かない。
これに対し、本実施の形態では、比較的小さいパルス幅を有するノイズ電圧が重畳されたゲート駆動信号GDSがゲート駆動回路に入力された場合でも、前提技術に比べて、短絡電流を小さくすることができる。したがって、図12のインバータ装置65に含まれるIGBTの破壊を防止することが可能となる。
本実施の形態の自動車60は、以上に述べたようにIGBTの破壊を防止することが可能な駆動回路61とインバータ装置65とを備える。したがって、比較的小さいパルス幅を有するノイズ電圧が重畳されたゲート駆動信号GDSがゲート駆動回路に入力された場合でも、インバータ装置65に含まれるIGBTの破壊を防止し、インバータ装置65の故障を防止することができる自動車60を実現することができる。
本発明は、その発明の範囲内において、前述の各実施の形態を自由に組み合わせることが可能である。また、各実施の形態の任意の構成要素を適宜、変形または省略することが可能である。
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。