以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るナット締付装置を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態に係るナット締付装置は、組立作業等を行う産業用ロボットに適用され、ワークを締結するためにボルトにナットを自動で締め付ける自動機である。このナット締付装置は、ロボットアームでナットランナを締付開始位置に移動させる。そして、ナットランナでソケットを回転させてナットをボルトに締め付ける。特に、このナット締付装置は、軸部に回り止め穴(回り止め受け部に相当)が形成されたボルトを用いた供回り防止機能を有しており、回り止め穴に回り止め部材を挿入(嵌合)させた状態で締め付けを行う。本実施形態には、回り止め部材の位置を検出する構成が異なる2つの実施形態がある。
なお、本実施形態では、ボルトの軸方向が上下方向であり、締付時にはナットの移動方向が上下方向の場合に適用する。このボルトの軸方向及びナットの移動方向については左右方向、斜め方向等の他の方向の場合にも適用できる。
図1及び図2を参照して、第1実施形態に係るナット締付装置1について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るナット締付装置の全体構成を模式的に示す図である。図2は、第1実施形態に係るナットランナ及びソケットの構成を模式的に示す図である。
ナット締付装置1について説明する前に、ボルトBとナットNについて説明しておく。ボルトBは、頭部Baと軸部Bbからなる。軸部Bbの外周面には、雄ねじが切られている。軸部Bbの中心部には、軸方向に沿って回り止め穴Bcが形成されている。回り止め穴Bcは、締付時に回り止め部材が挿入(嵌合)され、ボルトBの供回り防止用の穴である。回り止め穴Bcは、断面が正六角形の穴である。ナットNは、六角ナットである。ナットNの内周面には、雌ねじが切られている。例えば、図1に示すように、ワークである2個の被締結部材P1,P2の各穴にボルトBの軸部Bbが通された状態で、ナット締付装置1によって軸部BbにナットNが締め付けられることにより2個の被締結部材P1,P2が締結される。
ナット締付装置1は、締付開始前に、ボルトBの回り止め穴Bcに回り止め部材が正常に挿入(嵌合)されているか否かを検知する。そのために、ナット締付装置1は、リミットスイッチを用いて回り止め部材の軸方向における位置を検出する。
ナット締付装置1は、ロボットアーム10、ナットランナ21、ソケット30、制御器41、警報器50を備えている。この実施形態では、ロボットアーム10が特許請求の範囲に記載のマニピュレータに相当し、ソケット30が特許請求の範囲に記載のソケットに相当する。
ロボットアーム10について説明する。ロボットアーム10は、ナットランナ21の位置移動、角度(姿勢)調整等を行うマニピュレータである。ロボットアーム10は、ロボットアーム基台10aを備えている。ロボットアーム基台10aは、安定した平坦面に設置されている。ロボットアーム10は、複数の関節10bと複数のアーム10cを備えており、ロボットアーム基台10aから関節10bとアーム10cとが順次接続されている。各関節10bは、アクチュエータを有しており、アクチュエータの作動に応じてアーム10cを所定の回転方向に動作させる。各関節10bのアクチュエータは、制御器41による制御指令に応じて作動する。ロボットアーム10の先端部には、ナットランナ21が取り付けられている。ロボットアーム10は、各関節10bによる各アーム10cの動作によって複数の自由度を持つ。例えば、ナットランナ21(ひいては、ナットNが嵌入されたソケット30)の三次元での位置移動及び締付時の上下移動を行うためには、6自由度を持つロボットアーム10とする。また、ロボットアーム10の先端部にリニアスライダを介してナットランナ21を取り付けた場合、リニアスライダで締付時の上下移動を行うので、3自由度を持つロボットアーム10とする。
ナットランナ21について説明する。ナットランナ21は、ソケット30を回転させてナットNをボルトBに締め付ける装置である。ナットランナ21は、モータ21aを備えている。モータ21aは、制御器41による制御指令に応じて回転駆動する。モータ21aの回転軸21bには、減速ギヤ21cが取り付けられている。減速ギヤ21cには、減速ギヤ21dが噛み合っている。この減速ギヤ21cと減速ギヤ21dとよって減速機構が構成され、この減速機構によりモータ21aの回転を減速させるとともに回転トルクを増大させる。この減速機構は一例であり、回転を伝達する機構(伝達機構)は、特に減速機構に限定されない。モータ21aの回転をソケット30に伝達するとともに、モータ21aの回転軸(回転中心)と、ソケット30の回転軸(回転中心)をオフセットできればよい。減速ギヤ21dの一端面には、ソケット装着部材21eが取り付けられている。ソケット装着部材21eは、ソケット30を装着させる部材であり、ナットランナ21の一端面(締付時に下端面になる面)に配置される。なお、第1実施形態では、モータ21a及び減速ギヤ21cと減速ギヤ21dとからなる減速機構が特許請求の範囲に記載の回転駆動部に相当する。
ナットランナ21は、回り止め部材21fを一方向(締付時に下方向)に付勢しつつ回り止め部材21fを一方向(締付時には上下方向)にのみスライドさせる機構を有している。回り止め部材21fは、締付時にボルトBの回り止め穴Bcに挿入(嵌合)され、ボルトBの供回りを防止するための部材である。回り止め部材21fは、回り止め穴Bcに嵌合する部材である。回り止め部材21fは、断面が正六角形であり、正六角柱の棒状である。なお、回り止め穴Bc及び回り止め部材21fの断面形状を正六角形としたが、他の形状でもよく、例えば、正方形である。
回り止め部材21fは、スライド部材21iによって一方向にのみ移動可能である。スライド部材21iは、回り止め部材21fの移動方向を一方向に規制しかつ回り止め部材21fをその方向にスライド可能な状態で保持する部材であり、例えば、複数本のレール部材で構成される。回り止め部材21fは、ばね21jによって一方向(締付時にはボルトB側の下方向)に付勢される。ばね21jは、回り止め部材21fの一端面21g(締付時には上端面)と固定部材21kの固定面21lとの間に配置される。固定部材21kは、ナットランナ21内で固定されている部材であり、その部材の一面が固定面21lである。回り止め部材21fは、回り止め部材21fの中心軸とソケット装着部材21eに取り付けられたソケット30(ナットN)の中心軸とが一致する位置に配置される。回り止め部材21fは、減速ギヤ21d、ソケット装着部材21e及びソケット30(ナットN)を貫通し、先端部がボルトBの回り止め穴Bcに挿入される十分な長さを有している。減速ギヤ21d及びソケット装着部材21eは、回り止め部材21fが貫通できるように、中心部が中空である。回り止め部材21fは、減速ギヤ21d等を貫通しているので、モータ21aが回転駆動しても回転せず、ソケット30の回転方向に不動である。したがって、締付時にソケット30(ナットN)が回転しても、回り止め部材21fは回転せず、上下方向の移動のみが可能である。なお、第1実施形態では、ばね21jが特許請求の範囲に記載の付勢部材に相当する。
締付開始時に回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されている場合、その挿入量(ボルトBの軸部Bbの先端面Bdから回り止め部材21fの他端面21hまでの距離)は、回り止め部材21fの長さ、ばね21jの弾性力等により、決まった量となる。この正常時挿入量よりも実際の挿入量が少ない場合、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入されていない。正常に挿入されていない状態としては、ボルトBの位置に対してナットNの位置がずれていて、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに全く挿入されていない場合(挿入量が0の場合)と、摩擦等により回り止め部材21fの先端部が回り止め穴Bc内で引っ掛かり、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されている場合(挿入量が正常時挿入量より少ない場合)がある。何れの場合も回り止め部材21fの一端面21gの位置は正常時の位置よりも固定面21l側に位置し(例えば、図2の破線で示す一端面21g’の位置)、全く挿入されていない場合のほうが途中まで挿入されている場合よりも固定面21l側に位置することになる。第1実施形態では、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入されている否かを検知するために、回り止め部材21fの一端面21gの位置が正常時の位置よりも固定面21l側に設定された異常判定位置より固定面21l側に位置しているか否かを検出する。この異常判定位置は、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されている状態も検出できる位置であり、正常時の位置よりも所定量だけ固定面21l側の位置が設定される。この所定量は、正常時挿入量よりも大幅に小さい量であり、例えば、ナット締付装置1を用いた実験等によって決めればよい。
ナットランナ21は、回り止め部材21fの一端面21gの位置が異常判定位置より固定面21l側に位置しているか否かを検出するために、リミットスイッチ21mを備えている。リミットスイッチ21mは、可動部21nを備えており、可動部21nの可動に応じてON/OFFするスイッチである。可動部21nは、回り止め部材21fの一端面21gが異常判定位置まで固定面21l側(上方)に移動した場合に先端部が一端面21gが接触する位置に配置され、先端部に一端面21gが接触すると可動する。リミットスイッチ21mでは、可動部21nが可動していない場合(一端面21gの位置が正常時の位置の場合)にはOFF信号となり、可動部21nが可動した場合(一端面21gの位置が異常判定位置よりも固定面21l側の位置の場合)にはON信号となる。リミットスイッチ21mは、このON信号又はOFF信号を制御器41に送信する。なお、第1実施形態では、リミットスイッチ21mが特許請求の範囲に記載の検出部に相当する。
なお、リミットスイッチ21mの代わりに、リミットスイッチ21mと同様の検出が可能な他のセンサを用いてよく、例えば、近接センサ、フォトインタラプタでもよい。近接センサの場合、回り止め部材21fの一端面21gの位置が異常判定位置よりも近づいたか否かによりON/OFFするようにするとよい。フォトインタラプタの場合、回り止め部材21fの一端面21gが異常判定位置になった場合に遮光するように構成し、遮光したか否かによりON/OFFするとよい。
ソケット30について説明する。ソケット30は、ナットNに嵌合する中空部30aが形成されており、締付時にナットNを保持するソケットである。ソケット30は、筒状であり、その中空部30aの断面がナットNの正六角形状に嵌合する正六角形である。ソケット30の一端面は、ナットランナ21のソケット装着部材21eに装着される。ソケット30のソケット装着部材21eに装着される側は、上記したように中心部が中空である。ソケット30は、中空部30a内にナットNを吸着して保持できるように、磁石等の吸着手段を備えている。
制御器41について説明する。制御器41は、ナット締付装置1を制御するための電子制御装置であり、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]及びRAM[Random AccessMemory]等のメモリ、入出力回路等からなる。制御器41は、ROMに格納されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することにより、ロボットアーム制御部41a、ナットランナ制御部41b、警報制御部41c、異常検知部41dが構成される。制御器41は、リミットスイッチ21mからのON/OFF信号を受信する。そして、制御器41では、各部41a〜41dの処理を行い、ロボットアーム10、ナットランナ21、警報器50に各制御指令を送信する。
ロボットアーム制御部41aについて説明する。ロボットアーム制御部41aでは、所定の場所に置かれているナットNの上方にソケット30が位置するようにナットランナ21を移動させるための制御指令をロボットアーム10に送信する。ソケット30がナットNを吸着保持すると、ロボットアーム制御部41aでは、ソケット30(ナットN)がボルトBの上方に位置するようにナットランナ21を移動させるための制御指令をロボットアーム10に送信する。続いて、ロボットアーム制御部41aでは、ソケット30(ナットN)が締付開始位置になるまでナットランナ21を下降させるための制御指令をロボットアーム10に送信する。締付開始位置は、ソケット30(ナットN)の中心軸とボルトBとの中心軸とが一致しかつナットNの下端面NaがボルトBの上端面(先端面Bd)に接触する位置である。異常検知部41dで回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されていると検知した場合、ロボットアーム制御部41aでは、ナットNがボルトBに締め付けられていくのに従ってソケット30(ナットN)が装着されるナットランナ21を下降させるための制御指令をロボットアーム10に送信する。締付が終了すると、ロボットアーム制御部41aでは、ソケット30が装着されるナットランナ21を上昇させるための制御指令をロボットアーム10に送信する。ロボットアーム制御部41aでは以上の処理を繰り返し行う。上記の各制御指令は、ロボットアーム10の複数の関節10bのうちの全部又は一部の関節のアクチュエータを作動させるための制御指令である。
ナットランナ制御部41bについて説明する。ナットランナ制御部41bでは、異常検知部41dで回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されていると検知した場合、モータ21aを回転駆動するための制御指令をナットランナ21に送信する。締付トルクが所定値以上になった場合、ナットランナ制御部41bでは、モータ21aを停止するための制御指令をナットランナ21に送信する。なお、制御指令を送信するのでなく、モータ21aを回転駆動するための電流をナットランナ21に供給/供給停止してもよい。
警報制御部41cについて説明する。警報制御部41cでは、異常検知部41dで回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されていないと検知した場合、警報を出力させる制御指令を警報器50に送信する。
異常検知部41dについて説明する。異常検知部41dでは、ソケット30(ナットN)が締付開始位置に配置されたときのリミットスイッチ21mからの信号がOFF信号の場合には回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されていると検知する。また、異常検知部41dでは、リミットスイッチ21mからの信号がON信号の場合には回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されていないと検知する。この場合、回り止め部材21の一端面21gの位置が正常時の位置よりも固定面21l側に位置しており、回り止め部材21fの回り止め穴Bcへの挿入量が正常時挿入量よりも少ない。そのため、回り止め部材21fと回り止め穴Bcによる供回り防止機能が十分発揮されないかあるいは全く発揮されない。
警報器50について説明する。警報器50は、ナット締付装置1に何らかの異常があった場合には警報を出力する装置である。異常としては、例えば、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されていない場合である。警報の出力としては、例えば、警報ランプの点灯又は点滅、警報ブザーの発生、警報内容を示す音声出力がある。警報器50では、制御器41から制御指令を受信すると、警報を出力する。なお、警報器50は、制御器41内に設けられてもよいし、制御器41とは別体で設けられてもよい。
上記構成のナット締付装置1の動作を説明する。ここでは、制御器41の制御指令に応じてロボットアーム10がナットランナ21を移動させ、ナットランナ21に装着されるソケット30を締付開始位置に配置させた以降の動作について説明する。ロボットアーム10によってソケット30(ナットN)を締付開始位置に移動させると、リミットスイッチ21mでは、可動部21nが可動していない場合にはOFF信号を制御器41に送信し、可動部21nが可動している場合にはON信号を制御器41に送信する。可動部21nが可動していない場合(図2の実線の可動部21nで示す状態)、回り止め部材21fはボルトBの回り止め穴Bcに正常に挿入されている。一方、可動部21nが可動している場合(図2の破線の可動部21n’で示す状態)、回り止め部材21fは回り止め穴Bcの途中まで挿入されているかあるいは全く挿入されていない。
制御器41では、リミットスイッチ21mからOFF信号を受信した場合、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入されていると検知し、ナットNをボルトBに締め付けるための各制御指令をロボットアーム10及びナットランナ21に送信する。この制御指令を受信すると、ナットランナ21では、モータ21aが回転駆動し、この回転駆動力を減速ギヤ21c,21d及びソケット装着部材21eを介してソケット30に付加する。ソケット30の回転に伴ってナットNが回転し、ナットNの雌ねじとボルトBの軸部Bbの雄ねじとが噛み合い、ボルトBにナットNを締め付けいく。この際、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入されているので、締付トルクが大きくなってもナットNの回転に伴ってボルトBが回転するようなことはない。これによって、ボルトBの供回りを確実に防止できる。また、制御指令を受信すると、ロボットアーム10では、その締め付けに応じてナットランナ21(ソケット30)を下降させる。締付トルクが所定値以上になると、制御器41では、締め付けを終了するための各制御指令をロボットアーム10及びナットランナ21に送信する。この制御指令を受信すると、ナットランナ21では、モータ21aを停止させる。また、制御指令を受信すると、ロボットアーム10では、ナットランナ21(ソケット30)を上昇させる。
制御器41では、リミットスイッチ21mからON信号を受信した場合、ロボットアーム10及びナットランナ21の動作を一旦停止させるために、次のステップに移行するための制御指令を送信しない。この場合、ナット締付装置1は停止状態となり、ソケット30の回転は不可状態である。そして、制御器41では、警報する出力する制御指令を警報器50に送信する。この制御指令を受信すると、警報器50では、警報を出力する。この警報により、作業者がその異常発生箇所に向かう。そして、作業者が、異常を解消するための処置を行う。この処置としては、例えば、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに全く挿入されていない場合には制御器41に設定されている締付開始位置の再設定を行い、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されている場合にはソケット30(ナットN)とボルトBの少なくとも一方を少し動かして、回り止め部材21fを回り止め穴Bcに正常に挿入させる。この処置後、ナット締付装置1の動作を再開させる。
このナット締付装置1によれば、ソケット30が締付開始位置に配置されたときにリミットスイッチ21mによって回り止め部材21fの軸方向の位置を検出することにより、締付開始前に回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されているか否かの検知を精度良く行うことができる。締付開始前に正常に挿入されていないことを検知できれば、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入させてから締付を開始させることができ、ボルトBの供回りによるワークの不良品の発生を防止できる。
また、ナット締付装置1によれば、回り止め部材21fの位置の検出に安価なリミットスイッチ21mを用いているので、正常/異常の検知を低コストで実現できる。また、ナット締付装置1によれば、回り止め部材21fが回り止め穴Bcに正常に挿入されていないことを検知した場合には警報を出力することにより、作業者に異常時の処置を促すことができる。また、ナット締付装置1によれば、ロボットアーム10を備えているので、ロボットアーム10によってソケット30の位置移動等を高精度に行うことができる。
図1に加えて図3及び図4を参照して、第2実施形態に係るナット締付装置2について説明する。図3は、第2実施形態に係るナットランナ及びソケットの構成を模式的に示す図である。図4は、ボルトの回り止め穴に回り止め部材が挿入された状態を示す図であり、(a)が正常に挿入された状態であり、(b)が途中まで挿入された状態であり、(c)が全く挿入されていない状態である。
ナット締付装置2は、第1実施形態に係るナット締付装置1と比較すると、回り止め部材の位置を検出する構成とその位置検出に伴う制御が異なる。ナット締付装置2は、レーザセンサを用いて回り止め部材の軸方向における位置を検出する。
ナット締付装置2は、ロボットアーム10、ナットランナ22、ソケット30、制御器42、警報器50を備えている。ロボットアーム10、ソケット30、警報器50については、第1実施形態で説明したものと同様のものなので、説明を省略する。
ナットランナ22について説明する。ナットランナ22は、第1実施形態に係るナットランナ21と比較すると、回り止め部材22fの一端面22gの位置を検出するセンサだけが異なる。ナットランナ22のモータ22a(回転軸22b)、減速ギヤ22c,22d、ソケット装着部材22e、回り止め部材22f(一端面22g、他端面22h)、スライド部材22i、ばね22j、固定部材22k(固定面22l)については、第1実施形態で説明したものと同様のものなので、説明を省略する。なお、第2実施形態では、モータ22a及び減速ギヤ22cと減速ギヤ22dとからなる減速機構が特許請求の範囲に記載の回転駆動部に相当し、ばね22jが特許請求の範囲に記載の付勢部材に相当する。
第2実施形態では、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されている否かを検知するために、固定面22lを基準面とし、固定面22lから回り止め部材22fの一端面22gまでの距離dを回り止め部材22fの一端面22gの位置として検出する。第2実施形態では、この回り止め部材22fの一端面22gの位置(距離d)を用いて、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されている場合と、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されている場合と、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに全く挿入されていない場合とを判別する。
ナットランナ22は、固定面22lから一端面22gまでの距離dを検出するために、レーザセンサ22mを備えている。レーザセンサ22mは、レーザ光を利用して、レーザ光を発光してから受光するまでの時間から距離を検出するセンサである。レーザセンサ22mは、固定面22lから一端面22gに向けてレーザ光を発光できように配置される。レーザセンサ22mでは、固定面22lからレーザ光を発光すると一端面22gで反射したレーザ光を受光し、その発光から受光までの時間を計測する。レーザセンサ22mでは、この計測した時間にレーザ光の速度を乗算し、その乗算値を2で除算して固定面22lから一端面22gまでの距離dを求める。そして、レーザセンサ22mでは、その距離d(回り止め部材22fの一端面22gの位置)を制御器42に送信する。
なお、レーザセンサ22mの代わりに、レーザセンサ22mと同様の検出が可能な他のセンサを用いてよく、例えば、レーザ光の代わりにミリ波等を用いたセンサ、力センサでもよい。力センサの場合、ばね22jにかかっている力を検出し、その力からばね22jの縮み量を計算し、その縮み量から距離dを取得する。
制御器42について説明する。制御器42は、ナット締付装置2を制御するための電子制御装置であり、CPU、ROM及びRAM等のメモリ、入出力回路等からなる。制御器42は、ROMに格納されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することにより、ロボットアーム制御部42a、ナットランナ制御部42b、警報制御部42c、異常検知部42dが構成される。制御器42は、レーザセンサ22mからの距離dを受信する。そして、制御器42では、各部42a〜42dの処理を行い、ロボットアーム10、ナットランナ22、警報器50に各制御指令を送信する。第2実施形態では、異常検知部42dが特許請求の範囲に記載の判定部に相当する。なお、ナットランナ制御部42bでの処理については、第1実施形態に係るナットランナ制御部41bでの処理と同様の処理なので、説明を省略する。
ロボットアーム制御部42aについて説明する。ロボットアーム制御部42aでのソケット30を締付開始位置に位置させるまでの処理及び異常検知部42dで回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されていると検知した場合の処理については、第1実施形態に係るロボットアーム制御部41aでの処理と同様の処理なので、説明を省略する。異常検知部42dで回り止め部材22fが回り止め穴Bcの途中まで挿入されていると検知した場合、ロボットアーム制御部42aでは、ナットランナ22(ソケット30)に対する修正動作を行うための制御指令をロボットアーム10に送信する。修正動作とは、途中まで挿入されている回り止め部材22fを回り止め穴Bcに正常に挿入させるために、ナットランナ22を少し動かしてソケット30(ナットN)の位置、角度等を少し修正する動作である。修正動作のための制御指令は、予め設定されており、例えば、再挿入するためにソケット30の位置を上下移動させるための制御指令、途中で引っかかった状態の回り止め部材22fを押し込むためにソケット30の角度及び/又は位置を微動させるための制御指令がある。
警報制御部42cについて説明する。警報制御部42cでは、異常検知部42dで回り止め部材21fが回り止め穴Bcに全く挿入されていないと検知した場合、警報を出力させる制御指令を警報器50に送信する。
異常検知部42dについて説明する。異常検知部42dでは、ソケット30(ナットN)が締付開始位置に配置されたときにレーザセンサ22mで検出した距離d(回り止め部材22fの一端面22gの位置)が第1判定閾値d_th1以上か否かを判定する。第1判定閾値d_th1は、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されているかを判定するための閾値である。第1判定閾値d_th1は、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常時挿入量挿入されている場合の距離dの最大距離(正常時距離)から極短い距離を差し引いた距離が設定される。この極短い距離は、例えば、ナット締付装置2を用いた実験によって決めてもよいし、レーザセンサ22mの検出誤差等を考慮して決めてもよい。図4(a)に示すように距離dが第1判定閾値d_th1以上の場合、異常検知部42dでは、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されていると検知する。
距離dが第1判定閾値d_th1未満と判定した場合、異常検知部42dでは、距離dが第2判定閾値d_th2以上か否かを判定する。第2判定閾値d_th2(<第1判定閾値d_th1)は、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されているか(回り止め部材22fが回り止め穴Bcに全く挿入されていないか)を判定するための閾値である。第2判定閾値d_th2は、距離dの最大距離から所定距離を差し引いた距離が設定される。この所定距離は、例えば、正常時挿入量に基づいて決めればよく、正常時挿入量の二分の一の距離、正常時挿入量の三分の二の距離とする。図4(b)に示すように距離dが第1判定閾値d_th1未満かつ第2判定閾値d_th2以上の場合、異常検知部42dでは、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されていると検知する。この場合、回り止め部材22fの一端面22gの位置が正常時の位置よりも少し固定面22l側に位置しており、回り止め部材22fの回り止め穴Bcへの挿入量が正常時挿入量よりも少ない。そのため、回り止め部材22fと回り止め穴Bcによる供回り防止機能が十分に発揮されない可能性があるので、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されるように上記の修正動作を行う。
図4(c)に示すように距離dが第2判定閾値d_th2未満の場合、異常検知部42dでは、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに全く挿入されていないと検知する。この場合、ナットNの中心軸がボルトBの中心軸に対してずれているため、回り止め部材22fの中心軸も回り止め穴Bcの中心軸に対してずれている。そのため、回り止め部材22fの他端面22hがボルトBの先端面Bdに接触しており、回り止め部材22fの回り止め穴Bcへの挿入量は0である。この場合、回り止め部材21fと回り止め穴Bcによる供回り防止機能が全く発揮されない。
上記構成のナット締付装置2の動作を説明する。ここでは、第1実施形態と同様にナットランナ22に装着されるソケット30(ナットN)を締付開始位置に配置させた以降の動作について説明する。この動作説明では、図5のフローチャートに沿って説明する。図5は、第2実施形態に係るナット締付装置の動作の流れを示すフローチャートである。
ロボットアーム10によってソケット30(ナットN)を締付開始位置に移動させると(S10)、レーザセンサ22mでは、固定面22lから回り止め部材22fの一端面22gまでの距離dを検出し、この距離dを制御器42に送信する(S11)。
制御器42では、レーザセンサ22mから受信した距離dが第1判定閾値d_th1以上か否かを判定する(S12)。S12にて距離dが第1判定閾値d_th1以上と判定した場合、制御器42では、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されていると検知し、ナットNをボルトBに締め付けるための各制御指令をロボットアーム10及びナットランナ22に送信する。この場合、第1実施形態と同様の動作により、ナットランナ22でソケット30(ナットN)を回転させるとともにロボットアーム10ではナットランナ22(ソケット30)を下降させ、ボルトBにナットNを締め付ける(S13)。
S12にて距離dが第1判定閾値d_th1未満と判定した場合、制御器42では、距離dが第1判定閾値d_th1未満かつ第2判定閾値d_th2以上か否かを判定する(S14)。S14にて距離dが第1判定閾値d_th1未満かつ第2判定閾値d_以上と判定した場合、制御器42では、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されていると検知し、ナットランナ22に対する修正動作を行うための制御指令をロボットアーム10に送信する(S15)。この制御指令を受信すると、ロボットアーム10で制御指令に従ってナットランナ22を動作させ、ソケット30の位置等を微動させる(S15)。これによりソケット30(ナットN)の位置等が修正され、ソケット30に装着保持されているナットNとボルトBとの位置関係が僅かに変動する。その結果、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されるようになる。この際、ソケット30の回転は不可状態である。S15の修正動作が終了すると、S12の判定に戻る。修正動作によって回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入されると、S12にて距離dが第1判定閾値d_th1以上と判定され、S13での締付動作が行われる。なお、S15での修正動作で回り止め部材22fが途中に止まったままの場合、S15の修正動作が再度繰り返されることになる。この際、前回とは異なる修正動作を行ってもよい。
S14にて距離dが第2判定閾値d_未満と判定した場合、制御器42では、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに全く挿入されていないと検知し、次のステップに移行するための制御指令を送信しない(S16)。この場合、ナット締付装置2は停止状態となり、ソケット30の回転は不可状態である。そして、制御器42では、警報する出力する制御指令を警報器50に送信する(S17)。この制御指令を受信すると、警報器50では、警報を出力する(S17)。この警報により、作業者がその異常発生箇所に向かう。そして、作業者が、異常を解消するための処置として、例えば、制御器42に設定されている締付開始位置の再設定を行う。この処置後、ナット締付装置2の動作を再開させる。
このナット締付装置2によれば、ソケット30が締付開始位置に配置されたときにレーザセンサ22mによって回り止め部材22fの軸方向の位置を検出することにより、締付開始前に回り止め部材22fが回り止め穴Bcに正常に挿入(嵌合)されているか否かの検知を精度良く行うことができる。
また、ナット締付装置2によれば、回り止め部材22fの位置として固定面22lから回り止め部材22fの一端面22gまでの距離dを検出できるレーザセンサ22mを用いることにより、距離dに応じた段階的な制御が可能である。特に、ナット締付装置2では、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに途中まで挿入されている状態を検知できるので、この場合には修正動作を行って回り止め部材22fを回り止め穴Bcに正常に挿入させることができる。これによって、ナット締付装置2の動作を継続させることができ、ナット締付装置2の動作停止による生産性の低下を抑制できる。ナット締付装置2では、修正動作の際にロボットアーム10によってソケット30の位置等を高精度に修正できる。また、ナット締付装置2では、回り止め部材22fが回り止め穴Bcに全く挿入されていない状態を検知できるので、この場合には警報出力を行って作業者に異常時の処置を促すことができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、上記実施形態ではロボットアームでナットランナ(ソケット)を移動させる機能も有するナット締付装置に適用したが、人が手で持つナットランナ等にも適用できる。手で持つナットランナの場合、第1実施形態のようにリミットスイッチ等で回り止め部材の位置をON/OFFで検出し、このON/OFFに応じて締付不可/締付許可するようにすればよい。これにより、ナットランナでも正常/異常の検知を低コストで実現できる。また、上記実施形態ではロボットアームでナットランナを三次元の位置移動させる構成としたが、二次元又は一次元の位置移動させるものでもよい。
また、上記実施形態では回り止め部材の位置の検出としてリミットスイッチによって回り止め部材の一端面の位置が異常判定置よりも固定面側かボルト側かを検出する構成、レーザセンサによって固定面から回り止め部材の一端面までの距離を回り止め部材の位置として検出する構成を示したが、回り止め部材の位置の検出として他の構成でもよい。例えば、回り止め部材の側面に軸方向に沿って目盛等を付し、その目盛をエンコーダ等で読み取ることにより回り止め部材の軸方向における位置を検出する構成でもよい。また、基準位置からの回り止め部材の軸方向の移動量を検出し、この移動量から回り止め部材の軸方向における位置を検出する構成でもよい。このような構成で検出する場合も、第2実施形態と同様に回り止め部材の位置に応じた段階的な制御が可能となる。
また、上記実施形態ではボルトの回り止め受け部を回り止め穴(穴形状)としたが、この形状に限定されるものではない。例えば、回り止め受け部を、ボルト先端より軸方向に延びるスリット(溝)形状とし、回り止め部材を、前述のスリットに嵌合する細長い板形状としてもよい。また、回り止め部材を付勢するばねの配置も、回り止め部材の一端に限定されるものではない。例えば、ばねを、回り止め部材の外周外側に配置し、ばねの両端を、スライド部材の先端と回り止め部材の外周の一点とに、各々固定してもよい。