JP6386489B2 - 機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法及び燃料温度推定装置及びポンプ制御装置 - Google Patents
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Description
すなわち、筒内噴射式の内燃機関では、気筒内に燃料を噴射するために高圧燃料の供給が必要となる。そのため、この種の内燃機関では、フィードポンプによって燃料タンクから汲み出した燃料を加圧室で加圧する高圧ポンプ等を備えている。
以下、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の制御装置が適用される車載用の内燃機関の燃料系は、燃料タンク10内に設置された電動式のフィードポンプ12や、内燃機関のシリンダヘッドカバーに設置された高圧ポンプ18などを備えている。
電子制御ユニット33は、低圧燃料噴射弁19及び高圧燃料噴射弁31による燃料の噴き分けを実施して噴射態様を変化させる。例えば、低回転低負荷領域では低圧燃料噴射弁19によるポート噴射のみを行い、中負荷中回転領域では低圧燃料噴射弁19及び高圧燃料噴射弁31の双方を用いたポート噴射及び筒内噴射を行う。そして、高負荷高回転領域では高圧燃料噴射弁31による筒内噴射のみを行う。こうした燃料の噴き分けは、機関運転状態に基づいて設定される燃料噴射量Qのうちで低圧燃料噴射弁19から噴射させる燃料量の割合を示すポート噴射割合Rpを種々変更することにより実行される。
上述したような噴き分けなどにより、高圧燃料噴射弁31による燃料噴射が停止されて、高圧ポンプ18の加圧動作の頻度が低減されると、高圧ポンプ18の燃料はほとんど入れ替わらなくなる。高圧ポンプ18は、内燃機関の運転中に高温となるカム室内に設置されているため、燃料の入れ替わりがないと、高圧ポンプ18内の燃料が高温化してベーパが発生することがある。
電子制御ユニット33のフィード圧制御部33Bは、高圧ポンプ18内の燃料温度が高いときほどフィードポンプ12のフィード圧が高くなるようにフィードポンプ12の作動を制御する。
電子制御ユニット33の上記燃温推定部33Aは、上記フィード圧制御を行うために上記燃温推定値Tfを、以下に説明する高圧ポンプ18での熱授受を示す式に基づき、所定周期毎(例えば数ms毎)に算出する。
また、高圧ポンプ18に流入した燃料によって高圧ポンプ18は冷却されるため、高圧ポンプ18の温度が低下する。こうした高圧ポンプ18内に流入する燃料の熱量と高圧ポンプ18内から流出した燃料の熱量との差を熱量差Qf[J/s]とする。
そして、高圧ポンプ18内に存在する燃料の温度は高圧ポンプ18の温度とほぼ等しくなることから、高圧ポンプ18での熱授受は、上記の各熱伝達量、熱量差、発熱量、及び燃温推定値Tf等を使った次式(1)に示すモデル式で表すことができる。
Qo+Qa+Qf+Qhp=Mhp・Chp・(Tf−Tfold) …(1)
Mhp:高圧ポンプの質量[g]
Chp:高圧ポンプの比熱[J/g・K]
Tf:現在の高圧ポンプ内の燃温推定値[K]
Tfold:前回推定された高圧ポンプ内の燃温推定値[K]
潤滑油から高圧ポンプ18に伝わる熱伝達量Qoは、次式(2)で表すことができる。なお、式(2)から分かるように、潤滑油の温度が燃料温度よりも高いときには、熱伝達量Qoは正の値になる。
Qo=Koil・Sp1・(THO−Tfold) …(2)
Koil: 潤滑油と高圧ポンプとの間の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sp1:潤滑油と高圧ポンプとが接触する部分の表面積[m2]
THO:油温[K]
高圧ポンプ18から周囲の空気に伝わる熱伝達量Qaは、次式(3)で表すことができる。
Qa=Kair・Sp2・(Tahp−Tfold) …(3)
Kair:高圧ポンプと空気との間の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sp2:高圧ポンプと空気とが接触する部分の表面積[m2]
Tahp:雰囲気温度(高圧ポンプ周りの空気の温度)[K]
なお、式(3)から分かるように、燃料温度が雰囲気温度Tahpよりも高いときには、熱伝達量Qaは負の値になる。また、内燃機関が搭載された車両が走行しているときには、高圧ポンプ18の周囲に存在する空気の流速が車速に変化に合わせて変化する。そのため、高圧ポンプ18と空気との間の熱伝達係数Kairは、車速に応じて変化させることが好ましい。
Tahp=(1−Khp)・THA+Khp・THW …(4)
Khp:重み付け係数
THA:吸気温度[K]
THW:冷却水温[K]
Qa=Kair・Sp2・{((1−Khp)・THA+Khp・THW)−Tfold} …(5)
上記熱量差Qfは、高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinと前回推定された高圧ポンプ18内の燃料の温度(燃温推定値Tfold)との差、及び高圧ポンプ18に流入する燃料の流量Fhpに相関するため、次式(6)で表すことができる。
Qf=Cfu・(Tfin−Tfold)・Fhp …(6)
Cfu:燃料の定圧比熱[J/g・K]
Tfin:高圧ポンプに流入する燃料の温度[K]
Fhp: 高圧ポンプに流入する燃料の流量[g/s]
(*高圧燃料噴射弁の単位時間(秒)当たりの燃料噴射量[g/s]で代用)
なお、通常は、前回推定された高圧ポンプ18内の燃温推定値Tfold、つまり高圧ポンプ18から流出した燃料の温度よりも、高圧ポンプ18に対して新たに流入してくる燃料の温度Tfinの方が低い。そのため、式(6)から分かるように、熱量差Qfは基本的に負の値になる。
Qf=Cfu・(THA−Tfold)・Fhp …(7)
Cfu:燃料の定圧比熱[J/g・K]
THA:吸気温度[K]
Fhp: 高圧ポンプに流入する燃料の流量[g/s]
(*高圧燃料噴射弁の単位時間(秒)当たりの燃料噴射量[g/s]で代用)
高圧ポンプ18での発熱量Qhpは、次のようにして求めることができる。
Qhp=Kh・NE^Kn …(8)
Kh:適合係数
NE:機関回転速度[r.p.m]
Kn:適合係数(例えば「1」など)
ここで、上記式(8)に示されるように、発熱量Qhpは機関回転速度NEに相関する関数になっている。そこで、内燃機関の機関回転速度NEを許容最高回転速度NEMAXにまで上昇させた状態での高圧ポンプ18での単位時間当たりの発熱量を予めの実験等を通じて計測しておき、その計測値を、高圧ポンプ18で発生する単位時間当たりの最大発熱量QhpMAXとして設定する。そして、許容最高回転速度NEMAXに対する現状の機関回転速度NEの比率(NE/NEMAX)を算出し、その算出された比率を上記最大発熱量QhpMAXに乗算する。
Qhp=Kpfhp・QhpMAX・(NE/NEMAX)^Kn …(9)
Kpfhp:適合係数
QhpMAX:許容最高回転速度NEMAXにおいて
高圧ポンプで発生する単位時間当たりの最大発熱量[J/s]
NE:機関回転速度[r.p.m]
NEMAX:内燃機関の許容最高回転速度[r.p.m]
Kn:適合係数(本実施形態では「1」に設定)
そして、上記式(1)に上記式(2)、上記式(5)、上記式(7)、上記式(9)を代入する。また、適合係数Kohp、Kahp、Kfhp、Kpfhpを、「Kohp=(Koil・Sp1)/(Mhp・Chp)」、「Kahp=(Kair・Sp2)/(Mhp・Chp)」、「Kfhp=Cfu/(Mhp・Chp)」、「Kpfhp=Kpfhp1/(Mhp・Chp)」と定義する。そうすることで、式(1)は次式(10)に変形することができる。
Tf=(1−Kahp−Kfhp・Fhp−Kohp)・Tfold+Kahp・Khp・THW+Kohp・THO+Kahp・(1−Khp)・THA+{Kpfhp・QhpMAX・(NE/NEMAX)^Kn}+Kfhp・Fhp・THA …(10)
この式(10)を用いて、電子制御ユニット33の上記燃温推定部33Aは燃温推定値Tfを算出する。すなわち、前回の推定周期で推定された高圧ポンプ18内の燃温推定値Tfoldと、今回の推定周期において取得した値であって燃料温度に相関して種々変化する各種パラメータ、すなわち冷却水温THW、油温THO、吸気温度THA、機関回転速度NE、及び高圧ポンプ18に流入する燃料の流量Fhpを上記式(10)に代入して、今回の推定周期における燃温推定値Tf(現在の高圧ポンプ18内の燃料温度の推定値)を算出する。
ところで、上記式(10)による燃温推定値Tfの算出を行うためには、適合試験を行って適合係数Kohp、適合係数Kahp、適合係数Kfhp、適合係数Kpfhp、及び適合係数Knを設定する必要がある。そこで、本実施形態では、以下のような適合試験を行うことでそれら各適合係数を適合させている。なお、以下では、燃温推定値Tfの算出を行うための適合係数Kohp及び適合係数Kahp及び適合係数Kfhp及び適合係数Kpfhp及び適合係数Knをまとめて適合係数群KGという。
適合ユニット100と電子制御ユニット33とは接続ケーブルを介して相互にデータ通信を行う。また、適合ユニット100には、高圧ポンプ18内の燃料温度を計測する燃温センサ130が接続されており、この燃温センサ130によって高圧ポンプ18内の燃料温度の実値である燃温計測値TfRが検出される。
より詳細には、燃温推定値Tfから燃温計測値TfRを減算することによって誤差ERを算出する(ER=Tf−TfR)。以下では、こうして算出される誤差ERのことをプラス誤差ERPという。また、適合部100Aは、上記誤差ER(=プラス誤差ERP)を算出すると、その算出した誤差ERに「−1」を乗じた値、つまり「−ER」も同時に算出する。この誤差ERに「−1」を乗じた値(−ER)のことを、以下ではマイナス誤差ERMという。
第1設定部110Aは、上述したサンプリング周期毎に、そのサンプリングタイミングt(i)[i=1〜n]における燃温計測値TfR(i)、冷却水温THW(i)、油温THO(i)、吸気温度THA(i)、機関回転速度NE(i)、及び燃料の流量Fhp(i)を取得して記憶する処理を所定期間TDの間実行する。これにより、燃温計測値TfR、冷却水温THW、油温THO、吸気温度THA、機関回転速度NE、及び燃料の流量Fhpが所定の値になっているときの燃料温度の実測値が記憶される。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
誤差範囲ガード値ERRAは、燃温推定値Tfと燃温計測値TfRとの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数群KGを設定するための値である。より詳細には、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が予め定められた上記誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGを設定するための値である。なお、誤差範囲ガード値ERRAの値は、プラス誤差最大値ξ1やマイナス誤差最大値ξ2の大きさに対する適合要求に応じて任意に設定することができる。例えば、誤差範囲ガード値ERRAの値を実現可能な範囲内においてできる限り小さくすることにより、燃温推定値Tfの推定誤差の範囲を極力最小化することができる。
(第2実施形態)
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第2実施形態について、図6を参照して説明する。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
ξ1=ξ2 …(12)
本実施形態では、上記式(12)の適合条件が追加されている。そのため、図6に示すように、プラス誤差最大値ξ1とマイナス誤差最大値ξ2とが同じになるようにしつつ、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が予め定められた上記誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第3実施形態について、図7を参照して説明する。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数
w2:第2の重み付け係数
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
w2>w1 …(13)
つまり、本実施形態では、第2の重み付け係数w2を第1の重み付け係数w1よりも大きい値に設定した状態で、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が、誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第4実施形態について、図8を参照して説明する。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
ξ1=FIX1 …(14)
FIX1:固定値[K]
上記固定値FIX1は、プラス誤差最大値ξ1について予め設定されている固定値であって、例えばプラス誤差最大値ξ1として許容することが可能な最大値などを設定することができる。
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第5実施形態について、図9を参照して説明する。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数
w2:第2の重み付け係数
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
w1>w2 …(15)
つまり、本実施形態では、第1の重み付け係数w1を第2の重み付け係数w2よりも大きい値に設定した状態で、プラス誤差最大値ξ1に第1の重み付け係数w1を乗算した値とマイナス誤差最大値ξ2に第2の重み付け係数w2を乗算した値との和が、誤差範囲ガード値ERRA以下となるように適合係数群KGが設定される。
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第6実施形態について、図10を参照して説明する。
ERRA≧w1・ξ1+w2・ξ2 …(11)
ERRA:誤差範囲ガード値[K](ERRA≧0)
w1:第1の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
w2:第2の重み付け係数(本実施形態では「1」に設定)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
ξ2=FIX2 …(16)
FIX2:固定値[K]
上記固定値FIX2は、マイナス誤差最大値ξ2について予め設定されている固定値であって、例えばマイナス誤差最大値ξ2として許容することが可能な最大値などを設定することができる。
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第7実施形態について、図11を参照して説明する。
ERPG≧ξ1 …(17)
ERPG:プラス誤差ガード値[K](ERPG≧0)
ξ1:プラス誤差最大値[K]
上記プラス誤差ガード値ERPGは、燃温推定値Tfと燃温計測値TfRとの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数群KGを設定するための値である。より詳細には、プラス誤差最大値ξ1が予め定められた上記プラス誤差ガード値ERPG以下となるように適合係数群KGを設定するための値である。なお、プラス誤差ガード値ERPGの値は、プラス誤差最大値ξ1の大きさに対する適合要求に応じて任意に設定することができる。例えば、プラス誤差ガード値ERPGの値を実現可能な範囲内においてできる限り小さくすることにより、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも高くなるときの誤差の範囲を極力最小化することができる。
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第8実施形態について、図12を参照して説明する。
ERMG≧ξ2 …(18)
ERMG:マイナス誤差ガード値[K](ERMG≧0)
ξ2:マイナス誤差最大値[K]
上記マイナス誤差ガード値ERMGは、燃温推定値Tfと燃温計測値TfRとの誤差ERが予め定められた範囲内に収まるように適合係数群KGを設定するための値である。より詳細には、マイナス誤差最大値ξ2が予め定められた上記マイナス誤差ガード値ERMG以下となるように適合係数群KGを設定するための値である。なお、マイナス誤差ガード値ERMGの値は、マイナス誤差最大値ξ2の大きさに対する適合要求に応じて任意に設定することができる。例えば、マイナス誤差ガード値ERMGの値を実現可能な範囲内においてできる限り小さくすることにより、燃温推定値Tfが燃料温度の実値よりも低くなるときの誤差の範囲を極力最小化することができる。
次に、機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法、燃料温度推定装置、及びポンプ制御装置の第9実施形態について、図13〜図15を参照して説明する。
すなわち、上述したような噴き分けなどにより、低圧燃料噴射弁19による燃料噴射が停止されると、低圧燃料配管11及び低圧側デリバリパイプ17などで構成される低圧系の燃料配管内の燃料はほとんど入れ替わらなくなる。特に、低圧系の燃料配管において最下流に位置する低圧側デリバリパイプ17は、内燃機関の運転中において高温となるシリンダヘッド近傍に配設されているため、燃料の入れ替わりがないと、低圧側デリバリパイプ17内の燃料が高温化してベーパが発生しやすい。低圧側デリバリパイプ17内の燃料にベーパが発生すると、低圧燃料噴射弁19から噴射される燃料が少なくなるため、噴射精度が悪化し、例えば空燃比制御や機関出力などに悪影響を与える。そこで、本実施形態では、上記燃温推定部33Aにて、低圧系の燃料配管内における各部の燃料温度を推定することにより低圧側デリバリパイプ17内の燃料温度を推定する。そして、低圧側デリバリパイプ17内の燃料温度の推定値に基づき、上記フィード圧制御部33Bは上述したフィード圧制御を実行することにより、低圧側デリバリパイプ17内でのベーパの発生を抑えている。
本実施形態では、低圧燃料系内の燃料温度の推定値である燃温推定値TfLを算出するに際して、図13に示すように、低圧燃料配管11及び低圧側デリバリパイプ17で構成される低圧系の燃料配管を燃料の流れ方向に連なる複数の領域(本実施形態では5つの領域)に分割し、各領域毎に燃料温度を推定するようにしている。具体的には、燃料の流れ方向にあって上流側から順次、領域A、領域B、領域C、領域D、領域Eといった燃料温度推定領域を設定するようにしている。領域B〜領域Eはエンジンルーム内の燃料配管における領域とし、特に領域Eは低圧側デリバリパイプ17及び低圧燃料噴射弁19に相当する領域として設定されている。なお、本実施形態では、燃料配管を5つの領域に分割しているがこれは一例であり、そうした分割数は適宜変更することができる。
[低圧燃料噴射弁のボディにおける熱授受モデル式]
Mi・Ci・Tiold+ΔQ1−ΔQ2−ΔQ3=Mi・Ci・Ti …(19)
Mi:低圧燃料噴射弁のボディの質量[g]
Ci:低圧燃料噴射弁のボディの比熱[J/g・K]
Tiold:前回推定された低圧燃料噴射弁のボディ温度[K]
Ti:現在の低圧燃料噴射弁のボディ温度[K]
なお、各熱伝達量ΔQ1、ΔQ2、ΔQ3は次式(20)〜次式(22)にてそれぞれ表すことができる。
ΔQ1=hi1・Si1・(THW−Tiold) …(20)
hi1:低圧燃料噴射弁のボディ及びシリンダヘッドの熱伝達係数[J/m2・K・s]
Si1:シリンダヘッドと冷却水とが接触する部分の表面積[m2]
THW:冷却水温[K]
ΔQ2=hi2・Si2・(Tiold−TfLEold) …(21)
hi2:燃料の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Si2:低圧料噴射弁のボディと燃料とが接触する部分の表面積[m2]
TfLEold:前回推定された領域Eの燃温推定値[K]
ΔQ3=hi3・Si3・(Tiold−Tiround) …(22)
hi3:大気の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Si3:低圧燃料噴射弁のボディ及びシリンダヘッドと大気とが
接触する部分の表面積[m2]
Tiround:低圧燃料噴射弁周りの空気の温度(ボディ雰囲気温度)[K]
ここで、ボディ雰囲気温度Tiroundと前回推定された低圧燃料噴射弁19のボディ温度Tioldとはほぼ等しいと考えることができるため、上記熱伝達量ΔQ3は「ΔQ3=0」になる。
Ti=(1−K1−K2)・Tiold+K2・TfLEold+K1・THW …(23)
この式(23)を用いて低圧燃料噴射弁19のボディ温度Tiを推定することができる。すなわち低圧燃料噴射弁19内の燃料の温度に相当する領域Eの燃温推定値TfLEと、低圧燃料噴射弁19が取り付けられた部位の温度を推定することのできる冷却水温THWとをパラメータとして低圧燃料噴射弁19のボディ温度Tiは推定することができる。なお、領域Eの燃温推定値TfLEの算出については後述する。
[燃料配管内の燃料における熱授受]
Mf・Cf・TfLxold−Q・Cf・TfLxold+Q・Cf・TfL(x-1)old+ΔQ4x=Mf・Cf・TfLx …(24)
Mf:領域Xにおける燃料の質量[g]
Cf:燃料の定圧比熱[J/g・K]
TfLxold:前回推定された領域Xの燃料温度(燃温推定値)[K]
Q:単位時間(秒)当たりの低圧燃料噴射弁の燃料噴射量[g/s]
TfL(x-1)old:領域Xに対して1つ上流側の領域(X−1)における
燃料温度であって前回推定された温度[K]
ΔQ4x:領域Xにおいて燃料配管から同配管の燃料へ移動する熱伝達量[J/s]
TfLx:現在の領域Xにおける燃温推定値[K]
なお、燃料噴射量Qが増大すると燃料配管内の燃料の流量は増大する。すなわち燃料流量と燃料噴射量Qとは相関関係にあるため、本実施形態では燃料の流量を示すパラメータとして、機関負荷と機関回転速度等から算出される燃料噴射量Qを利用するようにしているが、もちろん、燃料噴射量Qに代えて燃料の流量そのものを用いるようにしてもよい。
[燃料配管における熱授受]
Md・Cd・TfLxold+ΔQ5x−ΔQ4x=Md・Cd・TfLx …(25)
Md:領域Xにおける燃料配管の質量[g]
Cd:燃料配管の比熱[J/g・K]
ΔQ5x:領域Xにおいて燃料配管の周囲の空気から
同燃料配管へ移動する熱伝達量[J/s]
また、各熱伝達量ΔQ4x、ΔQ5xは次式(26)、次式(27)にてそれぞれ表すことができる。
ΔQ4x=hf・Sfx・(Tdx−TfLx) …(26)
hf:燃料の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sfx:領域Xにおいて燃料配管と燃料とが接触する部分の表面積[m2]
Tdx:領域Xにおける燃料配管の温度[K]
ΔQ5x=hdx・Sdx・(Tpround−Tdx) …(27)
hdx:領域Xにおける燃料配管の熱伝達係数[J/m2・K・s]
Sdx:領域Xにおいて燃料配管と周囲の空気とが接触する部分の表面積[m2]
Tpround:領域Xにおける燃料配管周りの空気の温度(配管雰囲気温度)[K]
なお、配管雰囲気温度Tproundは次式(28)にて推定することができる。
Tpround=Kx・Tiold+(1−Kx)・THA …(28)
THA:吸気温度[K]
適合定数Kx:領域Xにおいて、配管雰囲気温度Tproundに対する
ボディ温度Tiからの受熱影響度合
そして、上記式(24)及び上記式(25)に示した各式の両辺を加算した式に、上記式(26)及び上記式(27)を代入するとともに、適合係数K3、K4を、「K3=(hdx・Sdx)/(Md・Cd+Mf・Cf)」、「K4=Cf/(Md・Cd+Mf・Cf)」と定義すると、次式(29)が得られる。そしてこの式(29)で示される式を用いて各領域における燃温推定値TfLxを算出することができる。すなわち吸気温度THAと燃料噴射量Qとをパラメータとして各領域における燃温推定値TfLxを算出することができる。
TfLx=(1−K3−Q・K4・)・TfLxold+Q・K4・TfL(x-1)old
+K3・{Kx・Tiold+(1−Kx)・THA} …(29)
そして、各領域B〜Eの燃料温度の推定値は、上記式(29)で示されるモデル式に基づき、次式(30)〜次式(33)にて示される各式によって算出することができる。また、上述したように、領域Eの燃温推定値TfLEを低圧燃料噴射弁19の先端温度TiPとして設定しているため、式(33)で算出される領域Eの燃温推定値TfLEが、低圧燃料噴射弁19の先端温度TiPの推定値として利用される。また、領域Eの燃温推定値TfLEが低圧側デリバリパイプ17内の燃料温度として利用される。
領域Bの燃温推定値TfLB=(1−K3−Q・K4・)・TfLBold+Q・K4・TfLAold
+K3・{KB・Tiold+(1−KB)・THA} …(30)
領域Cの燃温推定値TfLC=(1−K3−Q・K4・)・TfLCold+Q・K4・TfLBold
+K3・{KC・Tiold+(1−KC)・THA} …(31)
領域Dの燃温推定値TfLD=(1−K3−Q・K4・)・TfLDold+Q・K4・TfLCold
+K3・{KD・Tiold+(1−KD)・THA} …(32)
領域Eの燃温推定値TfLE=(1−K3−Q・K4・)・TfLEold+Q・K4・TfLDold
+K3・{KE・Tiold+(1−KE)・THA} …(33)
また、本実施形態において、各領域毎では配管温度と燃料温度とがほぼ等しいものと仮定している。そして、領域Aの燃料配管の温度は、領域Aの雰囲気温度と略等しくなっている。そのため、領域Aの燃温推定値TfLAは、上記式(28)で示される式を領域Aについて適用した次式(34)で示される式に基づき算出することができる。
領域Aの燃温推定値TfLA=KA・Tiold+(1−KA)・THA …(34)
このように本実施形態では、燃料配管の上流側から下流側にかけて連続した複数の燃料温度推定領域が設定されており、上記式(29)に示されるように、上流側の燃料温度推定領域において推定された燃料温度がその直後の下流側の燃料温度推定領域における燃料温度の推定に順次反映されていく。従って、燃料配管の全長方向における温度分布に対応させて各領域の燃料温度を精度よく推定することができ、ひいては低圧燃料噴射弁19内に流入する燃料温度もより精度よく推定される。また、燃料配管の雰囲気温度と同燃料配管の温度とが略等しい部位を最も上流側の燃料温度推定領域、すなわち領域Aに設定するようにしている。そのため、この燃料温度推定領域の燃料温度は容易に、かつ精度よく推定され、ひいては順次推定される下流側の各燃料温度推定領域における燃料温度も精度よく推定される。
[機関始動直前における各領域の燃料温度の推定]
まず、機関始動直前では、「領域Xの現在の燃温推定値TfLx=領域Xの前回の燃温推定値TfLxold」であると仮定することができる。また、燃料噴射が実施される前であるため、「燃料噴射量Q=0」である。従って、上記式(29)に示した式に「TfLx=TfLxold」及び「Q=0」を代入するとともに、機関始動直前のボディ温度Tiを始動時ボディ温度Tistartとして「Tiold」に代入し、TfLxについて解くと次式(35)に示す式が得られる。
TfLx=Kx・Tistart+(1−Kx)・THA …(35)
そして、上記式(35)にて示される式において、機関始動直前の各領域Xの燃温推定値TfLxを始動時燃温推定値TfLxstartとすると、各領域A〜Eの始動時燃温推定値TfLxstartは、次式(36)〜次式(40)に示す各式に基づいて算出することができる。
領域Aの始動時燃温推定値TfLAstart=KA・Tistart+(1−KA)・THA …(36)
領域Bの始動時燃温推定値TfLBstart=KB・Tistart+(1−KB)・THA …(37)
領域Cの始動時燃温推定値TfLCstart=KC・Tistart+(1−KC)・THA …(38)
領域Dの始動時燃温推定値TfLDstart=KD・Tistart+(1−KD)・THA …(39)
領域Eの始動時燃温推定値TfLEstart=KE・Tistart+(1−KE)・THA …(40)
[機関始動直前における始動時ボディ温度の推定]
まず、機関始動直前では、「現在のボディ温度Ti=前回のボディ温度Tiold」であると仮定することができる。また、上記式(23)に示した式の「TfLEold」は上記「TfLEstart」に等しい。従って、式(23)に示した式に対して「Ti=Tistart」、「Tiold=Tistart」を代入するとともに、「TfLEold」には上述した領域Eの始動時燃温推定値TfLEstartの算出式を代入する。そして、こうした各値や式が代入された式(23)の式を、機関始動直前における始動時ボディ温度Tistartについて解くと、次式(41)で示す式が得られる。
Tistart=[(1−KD)・K2/{K1+(1−KD)・K2}]・THA
+[K1/{K1+(1−KD)・K2}]・THW …(41)
そして、この式(41)に示される式に基づいて始動時ボディ温度Tistartは推定することができる。
・フィードポンプ12のフィード圧制御では、フィード圧を3段階に変更するようにしたが、2段階に変更したり、4段階以上に変更したりしてもよい。また、燃温推定値Tfの上昇に合わせてフィード圧を連続的に増大させるようにしてもよい。
・高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinを吸気温度THAで代用した。この他、燃料配管での燃料の熱授受をモデル化した式を構築し、その構築した式を使って高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinを推定することにより、同温度Tfinの精度を高めるようにしてもよい。また、温度センサを使って実際に高圧ポンプ18に流入する燃料の温度Tfinを検出してもよい。なお、これら変形例の場合には、熱量差Qfの算出式が上記式(7)ではなく、上記式(6)になる。そのため、上記式(10)に示した「Kfhp・Fhp・THA」の数式は、「Kfhp・Fhp・Tfin」に変わることになる。
・低圧系の燃料配管内の燃料温度を上記態様とは異なる態様で推定してもよい。
・低圧燃料噴射弁19の先端温度を上記態様とは異なる態様で推定してもよい。
Claims (6)
- 機関燃料系における燃料温度の推定に用いる適合係数を設定するための適合方法であって、
前記燃料温度の推定値と前記燃料温度の実値との誤差が予め定められた範囲内に収まるように前記適合係数を設定する適合工程を有しており、
前記推定値が前記実値よりも高い温度になっているときの前記誤差の最大値をプラス誤差最大値とし、前記推定値が前記実値よりも低い温度になっているときの前記誤差の最大値をマイナス誤差最大値としたときに、
前記適合工程は、
前記プラス誤差最大値に第1の重み付け係数を乗算した値と前記マイナス誤差最大値に第2の重み付け係数を乗算した値との和が、予め定められた誤差範囲ガード値以下となるように前記適合係数を設定する工程を含む
ことを特徴とする機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法。 - 前記プラス誤差最大値と前記マイナス誤差最大値とが等しい状態にて、前記和が前記誤差範囲ガード値以下となるように前記適合係数を設定する
請求項1に記載の機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法。 - 前記第1の重み付け係数を前記第2の重み付け係数よりも大きい値に設定した状態で、前記和が前記誤差範囲ガード値以下となるように前記適合係数を設定する
請求項1に記載の機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法。 - 前記第2の重み付け係数を前記第1の重み付け係数よりも大きい値に設定した状態で、前記和が前記誤差範囲ガード値以下となるように前記適合係数を設定する
請求項1に記載の機関燃料系の燃料温度の推定に用いる適合係数の適合方法。 - 機関燃料系における燃料温度を推定する燃料温度推定装置であって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の適合方法によって求められた前記適合係数を用いて前記燃料温度を推定する燃温推定部を有する
ことを特徴とする燃料温度推定装置。 - シリンダと、前記シリンダ内を往復移動するプランジャと、前記シリンダ及び前記プランジャによって区画される加圧室と、フィードポンプによって燃料タンクから汲み出された低圧燃料を前記加圧室に供給する低圧燃料通路と、前記加圧室で加圧された高圧燃料が吐出される高圧燃料通路とを備える高圧ポンプ及び前記フィードポンプを制御するポンプ制御装置であって、
請求項5に記載の燃料温度推定装置を備えており、前記燃温推定部にて前記高圧ポンプ内の燃料温度を推定するとともに、
前記燃温推定部で推定された前記高圧ポンプ内の燃料温度が高いときほど前記フィードポンプの吐出圧を増大させるフィード圧制御部を備える
ことを特徴とするポンプ制御装置。
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