JP6380916B2 - エンジン - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンに係わり、特に、吸気を筒内に導入するための吸気弁及び排気を筒内から排出するための排気弁が設けられた気筒を備えるエンジンに関する。
従来から、気筒に設けられた排気弁や吸気弁の開閉時期及び/又はリフト量を変化させる可変動弁機構(換言すると可変バルブ機構)が知られている。例えば、特許文献1には、排気弁の開閉時期を変化させる可変動弁機構を備えるエンジンシステムに関して、エンジン回転数が低いほど、可変動弁機構によって排気弁の開弁時期を遅角させることで、低回転時において排気通路へ供給した空気が筒内へ逆流することを抑制する技術が記載されている。
特開2010−185301号公報
ところで、エンジンの高回転時には、可変動弁機構によって排気弁の開弁時期を排気下死点に対して進角させると、所謂ポンピングロスを低減することができるものと考えられる。一方で、エンジンの低回転時には、可変動弁機構によって排気弁の開弁時期を排気下死点付近まで遅角させると、筒内の膨張比を向上させることができるものと考えられる。
ここで、従来から、排気弁の開弁時期を遅角させていくと、開弁期間においてクランク角度に応じて変化する排気弁のリフト量を積分した値であるリフト量積分値(排気弁を通って流れるガス量は、このリフト量積分値に応じた量となる)が小さくなるような特性を有する可変動弁機構が知られている。そのような可変動弁機構を排気弁に適用した場合、エンジンの低回転時に膨張比を向上させるために排気弁の開弁時期を遅角させ過ぎると、所望のリフト量積分値が確保できずに、筒内から排気をスムーズに排出できなくなる。その結果、排気に因る損失(ポンピングロス)が発生してしまう。また、一般的に気筒ごとに2つの排気弁が設けられているが、これら2つの排気弁の両方に上記の可変動弁機構を適用すると、エンジンの始動時などにおいて所望のカムプロフィールにて排気弁を動作させることができない場合がある。
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、低回転時には筒内から排気をスムーズに排出しつつ膨張比を適切に向上させることができ、高回転時にはポンピングロスを適切に低減することができる、エンジンを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明は吸気を筒内に導入するための吸気弁及び排気を筒内から排出するための第1排気弁及び第2排気弁を有する排気弁が設けられた気筒を備えるエンジンであって、エンジンの負荷が所定値以下である第1の運転領域において、燃料を含む混合気を圧縮自己着火させてエンジンの圧縮自己着火運転を実行させると共に、第1の運転領域よりも負荷が高い第2の運転領域において、燃料を含む混合気を強制点火させてエンジンの強制点火運転を実行させるエンジン制御手段と、第1排気弁の開閉時期を変化させて、排気行程中および/または吸気行程中に第1排気弁を動作させる可変動弁機構と、第2排気弁を一定の開閉時期及びクランク角に応じた一定のリフト量の変化形態にて動作させるメカニカル動弁機構と、エンジン回転数が高くなるほど、第1排気弁の開弁時期を進角させるように、可変動弁機構を制御する制御手段と、を有し、制御手段は、第1排気弁の開弁時期を所定の基準時期から遅角させていくと、開弁期間においてクランク角度に応じて変化する上記第1排気弁のリフト量を積分した値であるリフト量積分値が小さくなるよう可変動弁機構を制御し、かつ、第1排気弁の開弁時期を最大に遅角させる開弁時期が上記メカニカル動弁機構による第2排気弁の開弁時期と同一になるよう可変動弁機構を制御し、制御手段は、エンジンの圧縮自己着火運転領域において、第1排気弁を排気行程中に開弁させて排気を筒内から排出すると共に吸気行程中に開弁させて排気を内部EGRガスとして筒内に導入するよう可変動弁機構を制御し、かつ、エンジンの強制点火運転領域において、第1排気弁を排気行程中に開弁させて排気を筒内から排出するよう可変動弁機構を制御し、メカニカル動弁機構は、エンジンの圧縮自己着火運転領域および強制点火運転領域において、第2排気弁を排気行程中に開弁させて排気を筒内から排出するよう構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、エンジンの低回転時において、可変動弁機構によって第1排気弁の開弁時期を遅角させることで、第1排気弁のリフト量積分値が小さくなっても、メカニカル動弁機構が適用された第2排気弁のリフト量積分値によって補うことができ、つまり第1及び第2排気弁を合わせた全体としてのリフト量積分値を確保することができ、筒内からスムーズに排気を排出することができる。したがって、エンジンの低回転時に、排気に因る損失(ポンピングロス)を抑制しつつ、膨張比を適切に向上させることが可能となる。
この場合、本発明によれば、メカニカル動弁機構による第2排気弁の開弁時期を、可変動弁機構による第1排気弁の最大遅角時期と同一に設定しているので、エンジンの低回転時において、第1排気弁の開弁時期を遅角側に変化させることによる膨張比の制御性と、第2排気弁による筒内からのスムーズな排気の排出との両方を適切に確保することができる。加えて、本発明によれば、エンジンの高回転時において、可変動弁機構によって第1排気弁の開弁時期を進角させることで、ポンピングロスを適切に低減することができる。
以上より、本発明によれば、エンジンの低回転領域から高回転領域に渡って、適切なカムプロフィールにて排気弁を動作させることができ、燃費を向上させることができる。
本発明において、好ましくは、メカニカル動弁機構による第2排気弁のリフト量積分値は、制御手段が第可変動弁機構によって第1排気弁の開閉時期を制御したときの最大のリフト量積分値と最小のリフト量積分値との間の値に設定されている。
このように構成された本発明によれば、第2排気弁のリフト量積分値を第1排気弁の最小のリフト量積分値よりも大きくするので、第2排気弁のリフト量積分値を十分に確保して、筒内から排気をよりスムーズに排出することができ、また、第2排気弁のリフト量積分値を第1排気弁の最大リフト量積分値よりも小さくするので、第1排気弁の開弁時期を制御することによる膨張比の制御性を効果的に向上させることができる。
本発明において、好ましくは、可変動弁機構は、クランクシャフトの回転に同期して回転するカムと、内部にエンジンオイルが充填され、カムの動作によってエンジンオイルの油圧が変化する圧力室と、圧力室に接続されており、開閉することにより第1排気弁に作用させる油圧を制御する油圧バルブと、を有し、制御手段は、カムが圧力室内の油圧を上昇させるよう動作しているときに、油圧バルブの開閉を切り替える制御を行って、圧力室内の油圧を第1排気弁に作用させて第1排気弁を開弁させる。
このように構成された本発明によれば、クランクシャフトの回転に同期して回転するカムを用いて圧力室内のエンジンオイルの油圧を変化させ、油圧バルブの制御によって圧力室内の油圧を第1排気弁に作用させて、第1排気弁を開弁させるよう構成された可変動弁機構を適用するので、簡易な構成にて第1排気弁の開閉時期を変化させることが可能となる。
本発明において、好ましくは、可変動弁機構のカムは、排気行程中に第1排気弁を開弁させるための第1のカム山および吸気行程中に第1排気弁を開弁させるための第2のカム山を備え、制御手段は、エンジンの圧縮自己着火運転領域において、カムの第1のカム山および第2のカム山が、それぞれ、圧力室内の油圧を上昇させるよう動作しているときに、油圧バルブの開閉を切り替える制御を行って、圧力室内の油圧を第1排気弁に作用させて第1排気弁を開弁させ、かつ、エンジンの強制点火運転領域において、カムの第1のカム山が圧力室内の油圧を上昇させるよう動作しているときに、油圧バルブの開閉を切り替える制御を行って、圧力室内の油圧を第1排気弁に作用させて第1排気弁を開弁させる。
本発明のエンジンによれば、低回転時には筒内から排気をスムーズに排出しつつ膨張比を適切に向上させることができ、高回転時にはポンピングロスを適切に低減することができ、それにより、エンジンの低回転域から高回転域に渡って燃費を向上させることが可能となる。
本発明の実施形態によるエンジンの概略構成図である。 本発明の実施形態によるエンジンの1つの気筒を下方から見た概略平面図である。 本発明の実施形態によるエンジンにおける一方の排気弁に適用される排気側可変動弁機構の概略側面図である。 本発明の実施形態によるエンジンにおける他方の排気弁に適用されるメカニカル動弁機構の概略側面図である。 本発明の実施形態によるエンジンの制御ブロック図である。 本発明の実施形態によるエンジンの運転領域の説明図である。 本発明の実施形態による第1の運転領域での吸気弁及び排気弁の基本動作の説明図である。 本発明の実施形態による排気側可変動弁機構の特性についての説明図である。 本発明の実施形態による2つの排気弁の動作についての説明図である。 本発明の実施形態におけるメカニカル動弁機構による排気弁の開弁時期(排気側可変動弁機構による排気弁の最大遅角時期)の決定手法についての説明図である。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンについて説明する。
[エンジンの構成]
まず、図1乃至図5を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態によるエンジンの概略構成図であり、図2は、本発明の実施形態によるエンジンの1つの気筒を下方から見た概略平面図であり、図3は、本発明の実施形態によるエンジンにおける一方の排気弁に適用される排気側可変動弁機構の概略側面図(部分的に断面図を示している)であり、図4は、本発明の実施形態によるエンジンにおける他方の排気弁に適用されるメカニカル動弁機構の概略側面図であり、図5は、本発明の実施形態によるエンジンの制御ブロック図である。
図1に示すように、エンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンである。エンジン1は、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11(なお、図1では、1つの気筒のみを図示するが、例えば4つの気筒が直列に設けられる)と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ67に相対する。シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室19を画定する。なお、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。なお、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。具体的には、図2に示すように、気筒18毎に、2つの吸気ポート16が形成され、これら吸気ポート16のそれぞれに吸気弁21(21a、21b)が配設されると共に、2つの排気ポート17が形成され、これら排気ポート17のそれぞれに排気弁22(22a、22b)が配設される。
排気弁22においては、一方の排気弁22aに排気側可変動弁機構72が取り付けられており(図3、図5参照)、この排気側可変動弁機構72は、少なくとも排気弁22aの開閉時期を変化させて、排気弁22aを動作させる。また、他方の排気弁22bには、メカニカル動弁機構73が取り付けられており(図4参照)、このメカニカル動弁機構73は、排気弁22bを一定の開閉時期及びクランク角に応じた一定のリフト量の変化形態にて動作させる。他方で、吸気弁21a、21bの一方又は両方には、吸気側可変動弁機構71が取り付けられており(図5参照)、この吸気側可変動弁機構71は、吸気弁21a、21bの一方又は両方の開閉時期及び/又はリフト量を変化させる。なお、吸気弁21a、21bの一方にのみ吸気側可変動弁機構71を適用した場合には、吸気弁21a、21bの他方には例えばメカニカル動弁機構などを適用すればよい。
図3に示すように、排気弁22aに適用される排気側可変動弁機構72は、外部から供給されたエンジンオイルが通過するオイル供給路72aと、オイル供給路72a上に設けられた三方弁としてのソレノイドバルブ72b(油圧バルブに相当する)と、オイル供給路72aからソレノイドバルブ72bを介して供給されたエンジンオイルが充填される圧力室72cと、を有する。この場合、ソレノイドバルブ72bが開弁しているときに、オイル供給路72aと圧力室72cとが流体連通されて、オイル供給路72aから圧力室72cへとエンジンオイルが供給される(図3中の矢印A11参照)。ソレノイドバルブ72bは、通電されていない状態では開弁しており、通電されると閉弁する。より詳しくは、ソレノイドバルブ72bは、通電され続けることにより、閉弁状態が維持される。なお、ソレノイドバルブ72bの上流側のオイル供給路72a上には、図示しない逆止弁などが設けられている。
また、排気側可変動弁機構72は、タイミングベルトなどを介してクランクシャフト15の回転が伝達される排気カムシャフト23上に設けられたカム72dと、カム72dから伝達された力により揺動するローラーフィンガーフォロア72eと、圧力室72cに連結されており、ローラーフィンガーフォロア72eによって動作されて、圧力室72c内のエンジンオイルの圧力(油圧)を上昇させるポンプユニット72fと、を有する。加えて、排気側可変動弁機構72は、ソレノイドバルブ72bを介して圧力室72cに連結され、圧力室72c内の油圧によって排気弁22aを開弁させるように動作するブレーキユニット72gと、ブレーキユニット72gが動作していないときに排気弁22aの閉状態を維持するための力を付与するバルブスプリング72hと、を有する。この場合、ソレノイドバルブ72bが閉弁しているときに、オイル供給路72aと圧力室72cとの流体連通が遮断されて、圧力室72cとブレーキユニット72gとが流体連通されることで、圧力室72c内の油圧がブレーキユニット72gに作用する(図3中の矢印A12参照)。
排気側可変動弁機構72が排気弁22aを開弁させる動作について具体的に説明する。カム72dが排気カムシャフト23と同期して回転している最中において、カム72dに形成されたカム山(換言するとカムロブ)がローラーフィンガーフォロア72eに接触すると、このカム山がローラーフィンガーフォロア72eを押し込む。これにより、ローラーフィンガーフォロア72eがポンプユニット72fを付勢して、ポンプユニット72fが圧力室72c内のエンジンオイルを圧縮するよう動作する。このときに、ソレノイドバルブ72bを閉弁すると、オイル供給路72aと圧力室72cとの流体連通が遮断されて、圧力室72cとブレーキユニット72gとが流体連通されることで、圧力室72cとブレーキユニット72gとによってほぼ密閉空間が形成されて、この空間内のエンジンオイルの油圧がポンプユニット72fの動作によって上昇する。そして、上昇された油圧によってブレーキユニット72gが動作して排気弁22aを付勢することで、排気弁22aがリフトする、つまり排気弁22aが開弁する。他方で、上記のような状況においてソレノイドバルブ72bを開状態に維持した場合には、オイル供給路72aと圧力室72cとが流体連通しているので、ポンプユニット72fの動作によって圧力室72c内のエンジンオイルがオイル供給路72aへと押し出される(当然、ソレノイドバルブ72bが閉弁しているときには、圧力室72cとブレーキユニット72gとの流体連通が遮断されているため、圧力室72c内の油圧はブレーキユニット72gに作用しない)。
基本的には、カム72dに形成されたカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用している間の何処かのタイミングでソレノイドバルブ72bを閉弁すると、排気弁22aを開弁させることができる。したがって、ソレノイドバルブ72bを開状態から閉状態に切り替えるタイミングを変えることで、排気弁22aの開弁時期を変化させることができる。本実施形態では、排気行程において排気弁22aを開弁できるように、カム72d上の所定位置にカム山が形成されていると共に、排気行程に加えて吸気行程においても排気弁22aを開弁できるように、つまり排気の二度開きが行えるように、別のカム山がカム72d上の所定位置に形成されている。本実施形態では、このような2つのカム山のそれぞれがローラーフィンガーフォロア72eに作用している間に、ソレノイドバルブ72bの開閉を切り替える制御を行って、排気弁22aの開閉時期を変化させるようにする。また、排気の二度開きは、排気ポート17から燃焼室19へ既燃ガス(内部EGRガス)を逆流させて再導入する場合に実行される。
他方で、図4に示すように、メカニカル動弁機構73は、排気カムシャフト23上に設けられたカム73aと、カム73aから伝達された力により揺動し、排気弁22bをリフトさせるように動作するロッカーアーム73bと、ロッカーアーム73bが排気弁22bをリフトさせるように動作していないときに排気弁22bの閉状態を維持するための力を付与するバルブスプリング73cと、を有する。このようなメカニカル動弁機構73は、排気カムシャフト23を介してクランクシャフト15の回転に同期して動作し、一定の開閉時期及びクランク角に応じた一定のリフト量の変化形態(つまり一定のリフト量積分値)にて排気弁22bを動作させる。具体的には、メカニカル動弁機構73は、排気行程にのみ排気弁22bを開弁させるように動作する。換言すると、メカニカル動弁機構73においては、排気行程にのみ排気弁22bが開弁するように、カム73a上の所定位置に1つのカム山が形成されている。
なお、図4に示したようにメカニカル動弁機構73を構成することに限定はされず、これ以外にも種々の構成をメカニカル動弁機構73に適用可能である。
図1を再度参照すると、シリンダヘッド12には、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射する(直噴)インジェクタ67が取り付けられている。インジェクタ67は、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されている。インジェクタ67は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室19内に直接噴射する。この例において、インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、インジェクタ67は、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に広がるように、燃料を噴射する。ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている、と言い換えることが可能である。この多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くすると共に、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。なお、インジェクタ67は、多噴口型のインジェクタに限定されず、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
図外の燃料タンクとインジェクタ67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含みかつ、インジェクタ67に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料がインジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、インジェクタ67に供給することを可能にする。燃料圧力は、最高で120MPa程度に設定してもよい。インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更される。なお、燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
シリンダヘッド12にはまた、燃焼室19内の混合気に強制点火(具体的には火花点火)する点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して配置されている。点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んで配置される。
エンジン1の一側面には、図1に示すように、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設され、その下流側には、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
排気通路40の上流側の部分は、気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設されている。
エンジン1は、制御手段としてのパワートレイン・コントロール・モジュール(以下では「PCM」と呼ぶ。)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
PCM10には、図1及び図5に示すように、各種のセンサSW1、SW2、SW4〜SW18の検出信号が入力される。具体的には、PCM10には、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1の検出信号と、新気の温度を検出する吸気温度センサSW2の検出信号と、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4の検出信号と、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5の検出信号と、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6の検出信号と、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8の検出信号と、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9の検出信号と、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10の検出信号と、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11の検出信号と、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12の検出信号と、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13の検出信号と、吸気側及び排気側のカム角センサSW14、SW15の検出信号と、燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16の検出信号と、エンジン1の油圧を検出する油圧センサSW17の検出信号と、エンジン1の油温を検出する油温センサSW18の検出信号と、が入力される。
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて、(直噴)インジェクタ67、点火プラグ25、吸気側可変動弁機構71、排気側可変動弁機構72、燃料供給システム62、及び、各種の弁(スロットル弁36、EGR弁511)のアクチュエータに対して制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。特に、本実施形態では、PCM10は、排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bに対して制御信号を出力して(詳しくはソレノイドバルブ72bに対して電圧又は電流を供給する)、ソレノイドバルブ72bの開閉を切り替えることで、排気弁22aの開閉時期を変化させる制御を実行する。
[運転領域]
次に、図6を参照して、本発明の実施形態によるエンジン1の運転領域について説明する。図6は、エンジン1の運転制御マップの一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域である第1の運転領域R11では、点火プラグ25による点火を行わずに、圧縮自己着火による圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、この圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、燃焼騒音が発生したり、着火時期の制御が困難になったりする(失火などが発生する傾向にある)。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域である第2の運転領域R12では、圧縮着火燃焼の代わりに、点火プラグ25を利用した強制点火燃焼(ここでは火花点火燃焼)を行うようにする。このように、このエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、圧縮着火燃焼による運転を実行するCI(Compression Ignition)運転と、火花点火燃焼による運転を実行するSI(Spark Ignition)運転とを切り替えるように構成されている。
ここで、図7を参照して、CI運転を行う第1の運転領域R11での吸気弁21及び排気弁22(特に排気側可変動弁機構72が適用された排気弁22a)の基本動作について説明する。図7は、横軸にクランク角を示し、縦軸に弁のリフト量を示している。また、実線のグラフG11は、クランク角に応じた排気弁22aの動作を示し、破線のグラフG12は、クランク角に応じた吸気弁21の動作を示している。図7に示すように、CI運転を行う第1の運転領域R11においては、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを排気行程中に開弁させると共に吸気行程中にも開弁させる排気の二度開きを実行して、相対的に温度の高い内部EGRガスを気筒18内に導入する。こうすることで、CI運転時に、気筒18内の圧縮端温度を高めて、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を高めるようにしている。なお、他方の排気弁22bは、メカニカル動弁機構73によって排気行程にのみ開弁される(この排気弁22bの動作については図7には図示していない)。
[排気弁の動作]
次に、本発明の実施形態による排気弁22の動作について具体的に説明する。
まず、図8を参照して、排気弁22aを動作させる排気側可変動弁機構72の特性について説明する。ここでは、説明を簡単にするために、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを1回だけ開弁させる場合を例に挙げる(実際には排気弁22aは二度開きする)。
図8(a)の上には、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを比較的早い時期t11にて開弁させたときの排気弁22aの動作(リフトカーブ)を示しており、図8(a)の下には、このように排気弁22aを動作させたときの排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bの開閉状態を示している。例えば、開弁時期t11は、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を最大に進角させたときの開弁時期(以下では適宜「最大進角時期」と呼ぶ。)である。一方、図8(b)の上には、比較的遅い時期t12に、具体的には図8(a)に示した開弁時期t11から遅角させた時期t12に(矢印A21参照)、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを開弁させたときの排気弁22aの動作(リフトカーブ)を示しており、図8(b)の下には、このように排気弁22aを動作させたときの排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bの開閉状態を示している。また、図8(b)の上には、比較のために、図8(a)の上に示したリフトカーブを破線にて重ねて示してある。
図8(a)と図8(b)とを比較すると、排気弁22aの開弁時期を遅角させると、排気弁22aのリフト量が小さくなることがわかる(矢印A22参照)。また、符号Ar2で示す面積に対応する、排気弁22aのリフト量積分値(開弁期間においてクランク角度に応じて変化する排気弁22aのリフト量を積分した値であり、排気弁22aを通って流れるガス量は、高回転では概ねこのリフト量積分値に応じた量となり、低回転では同じ通過ガス量に対してポンプ損失がリフト量積分値低下に伴い概ね増加する)が、符号Ar1で示す面積に対応する、排気弁22aのリフト量積分値よりも小さいことがわかる。このように排気弁22aの開弁時期を遅角させるとリフト量及びリフト量積分値が小さくなる理由は、以下の通りである。
上述したように、排気側可変動弁機構72においては、カム72dに形成されたカム山がローラーフィンガーフォロア72eに接触しているときに、このカム山がローラーフィンガーフォロア72eを押し込むことで、ポンプユニット72fが圧力室72c内のエンジンオイルを圧縮するよう動作する。このときに、ソレノイドバルブ72bを閉弁すると、圧力室72cとブレーキユニット72gとによってほぼ密閉空間が形成されて、この空間内のエンジンオイルの油圧が上昇して、上昇された油圧によってブレーキユニット72gが動作して排気弁22aを付勢することで、排気弁22aが開弁する。
ここで、圧力室72c内の油圧は、カム72dのカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用し始めると上昇していくが、ある程度まで上昇した後に低下していく。したがって、カム72dのカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用し始めた初期の所定のタイミングにおいてソレノイドバルブ72bを閉弁すると、相対的に早い時期から高圧室の圧力は上昇するため、排気弁22aの開弁は早くなり、その後もカム山によって押し込まれるポンプユニット72fの動きに合わせてリフトするため、リフト量及びリフト量積分値は大きくなる(図8(a)参照)。この場合、排気弁22aのリフト量及びリフト量積分値が最も大きくなるような排気弁22aの開弁時期が、排気弁22aの最大進角時期として規定される。他方で、そのような最大進角時期からソレノイドバルブ72bの閉弁時期を遅角させていくと、高圧室の圧力上昇は相対的に遅くなり、排気弁22aの開弁は遅くなるため、その後カム山によって押し込まれるポンプユニット72fの動きに合わせてリフトするリフト量およびリフト量積分値も小さくなるのである(図8(b)参照)。
なお、上述してきた通り、排気側可変動弁機構72は排気弁22aの開閉時期を変化させることができるが、図8に示したように、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開閉時期を変化させると排気弁22aのリフト量も変化するので、このことから、排気側可変動弁機構72は排気弁22aの開閉時期に加えてリフト量も変化させることができると言える。
ところで、エンジン1の高回転時には、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を排気下死点(TDC)に対して進角させると、ポンピングロスを低減することができるものと考えられる。例えば、排気弁22aの開弁時期を最大進角時期に設定すると、ポンピングロスを効果的に低減することができる。一方で、エンジン1の低回転時には、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を排気下死点付近まで遅角させると、膨張比を向上させることができるものと考えられる。そのため、本実施形態では、PCM10は、エンジン回転数に応じて、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を変化させる。具体的には、PCM10は、ポンピングロスの観点から、エンジン回転数が高いほど、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を進角させ(詳しくは最大進角時期を限度にして排気弁22aの開弁時期を進角させる)、また、膨張比の観点から、エンジン回転数が低いほど、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を遅角させる。
しかしながら、上記したような排気側可変動弁機構72の特性から(図8(b)参照)、エンジン1の低回転時に膨張比を向上させるために排気弁22aの開弁時期を遅角させ過ぎると、所望のリフト量積分値が確保できずに、筒内から排気をスムーズに排出できなくなる。その結果、排気に因る損失(ポンピングロス)が発生してしまう。
このような問題を解決すべく、本実施形態では、2つの排気弁22a、22bの両方に排気側可変動弁機構72を適用せずに、一方の排気弁22aにのみ排気側可変動弁機構72を適用し、他方の排気弁22bにはメカニカル動弁機構73を適用し、更に、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を、PCM10が排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を最大に遅角させる開弁時期(以下では適宜「最大遅角時期」と呼ぶ。)と同一に設定した。これにより、エンジン1の低回転時において、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を遅角させることで、一方の排気弁22aのリフト量積分値が小さくなっても、メカニカル動弁機構73が適用された他方の排気弁22bのリフト量積分値によって補うことができ、つまり排気弁22a、22bを合わせた全体としてのリフト量積分値を確保することができ、筒内からスムーズに排気を排出できるようになる。
この場合、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期よりも進角側に設定すると、排気弁22aを最大遅角時期にて開弁させたとしても、この排気弁22aの開弁前に排気弁22bが既に開弁しており、排気弁22bから排気が排出されて、膨張比を適切に向上させることができなくなる。他方で、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期よりも遅角側に設定すると、排気弁22aを最大遅角時期にて開弁させたときに、この排気弁22aの開弁時に排気弁22bが開弁しておらず、リフト量積分値が適切に確保できなくなる。このような問題を生じさせないようにするために、本実施形態では、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期と同一に設定している。こうすることで、エンジン1の低回転時において、メカニカル動弁機構73が適用された排気弁22bによって筒内からのスムーズな排気の排出を確保しつつ、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの開弁時期の制御によって膨張比を適切に制御できるようになる、つまり膨張比の制御性を適切に確保できるようになる。
次に、図9を参照して、本発明の実施形態による排気弁22a、22bの動作について具体的に説明する。図9は、横軸にクランク角を示しており、縦軸に排気弁22a、22bのリフト量を示している。また、実線のグラフG21は、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを最大遅角時期RTにて開弁させたときのクランク角に応じた排気弁22aの動作(リフトカーブ)を示し、一点鎖線のグラフG22は、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを最大進角時期ADにて開弁させたときのクランク角に応じた排気弁22aの動作(リフトカーブ)を示し、破線のグラフG23は、メカニカル動弁機構73によるクランク角に応じた排気弁22bの動作(リフトカーブ)を示している。グラフG21、G22に示すように、排気弁22aは排気側可変動弁機構72によって排気行程及び吸気行程に渡って2回開弁され(二度開きされ)、一方で、グラフG23に示すように、排気弁22bはメカニカル動弁機構73によって排気行程にのみ開弁される。
図9に示すように、本実施形態では、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期RTと同一に設定している(グラフG21、G23参照)。換言すると、本実施形態では、PCM10は、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を限度に、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を遅角させる制御を行う。より具体的には、PCM10は、エンジン回転数に応じて、最大遅角時期RTと最大進角時期ADとの間で、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を変化させる。つまり、PCM10は、エンジン回転数が高くなるほど、最大進角時期ADを限度に排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を進角させ、エンジン回転数が低くなるほど、最大遅角時期RTを限度に排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を遅角させる。
また、本実施形態では、図9に示すように、メカニカル動弁機構73による排気弁22bのリフト量積分値を、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを最大遅角時期RTにて開弁させたときの排気行程における排気弁22aのリフト量積分値(最小リフト量積分値となる)と、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aを最大進角時期ADにて開弁させたときの排気行程における排気弁22aのリフト量積分値(最大リフト量積分値となる)との間の値に設定する。メカニカル動弁機構73による排気弁22bのリフト量積分値を、排気弁22aの最小リフト量積分値よりも大きくするのは、排気弁22aを最大遅角時期RTにて開弁させるときに、メカニカル動弁機構73による排気弁22bのリフト量積分値を十分に確保して、筒内から排気をスムーズに排出できるようにするためである。他方で、メカニカル動弁機構73による排気弁22bのリフト量積分値を、排気弁22aの最大リフト量積分値よりも小さくするのは、排気弁22aの開弁時期を制御することで変化させることができる排気弁22aのリフト量積分値の範囲(可変範囲)を、固定値となる排気弁22bのリフト量積分値よりも広い範囲にまで拡張することで、排気弁22aの開弁時期を制御することによる膨張比の制御性を高めるようにするためである。つまり、エンジン1の高回転時には、排気弁22bよりも排気弁22aを先に開弁させることとなるが、そのように先に開弁させるほうの排気弁22aのリフト量積分値の可変範囲を広く確保して、膨張比の制御性を向上させるためである。
次に、図10を参照して、本発明の実施形態において、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を決定するための手法(換言すると排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期RTを決定するための手法)について説明する。図10は、横軸に、排気行程における排気弁22aの開弁時期を示しており、縦軸に、ポンピングロスの改善度合い(換言すると悪化度合い)を示している。このポンピングロスの改善度合いは、一義的に燃費の改善度合いに相当する。また、実線のグラフG31は、エンジン1の低回転時における排気弁22aの開弁時期と燃費の改善度合いとの関係を示し、破線のグラフG32は、エンジン1の高回転時における排気弁22aの開弁時期とポンピングロスの改善度合いとの関係を示している。グラフG31に示すように、エンジン1の低回転時には、排気弁22aの開弁時期を遅角させると、膨張比が向上して燃費が改善する傾向にある。他方で、グラフG32に示すように、エンジン1の高回転時には、排気弁22aの開弁時期を進角させると、ポンピングロスが改善する傾向にある。
本実施形態では、エンジン1の低回転時及び高回転時の両方において燃費がバランスよく改善するように、つまり、低回転時及び高回転時の一方の燃費のみが改善し、低回転時及び高回転時の他方の燃費が悪化するといったことがないように、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期RT及びメカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期の両方に適用すべき、適当な開弁時期を決定する。この場合、一方の排気弁22aに排気側可変動弁機構72を適用し、他方の排気弁22bにメカニカル動弁機構73を適用した構成において、低回転時及び高回転時の両方の燃費をバランスよく改善させるために排気弁22bの固定の開弁時期として適用すべき開弁時期を決定し、当該開弁時期を排気弁22aの最大遅角時期RTに適用するようにする。例えば、図10中の符号R2で示すような範囲内の開弁時期を、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期及び排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期RTとして適用する。
[作用効果]
次に、本発明の実施形態によるエンジンの作用効果について述べる。
本実施形態では、一方の排気弁22a(第1排気弁)に対して排気側可変動弁機構72を適用すると共に、他方の排気弁22b(第2排気弁)に対してメカニカル動弁機構73を適用し、エンジン回転数が高くなるほど、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を進角させ(換言すると、エンジン回転数が低くなるほど、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を遅角させる)、また、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期RTと同一に設定している。
このような本実施形態によれば、エンジン1の低回転時において、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を遅角させることで、一方の排気弁22aのリフト量積分値が小さくなっても、メカニカル動弁機構73が適用された他方の排気弁22bのリフト量積分値によって補うことができ、つまり排気弁22a、22bを合わせた全体としてのリフト量積分値を確保することができ、筒内からスムーズに排気を排出することができる。したがって、エンジン1の低回転時に、排気に因る損失(ポンピングロス)を抑制しつつ、膨張比を適切に向上させることが可能となる。
この場合、本実施形態によれば、メカニカル動弁機構73による排気弁22bの開弁時期を、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大遅角時期RTと同一に設定しているので、エンジン1の低回転時において、排気弁22aの開弁時期を遅角側に変化させることによる膨張比の制御性と、排気弁22bによる筒内からのスムーズな排気の排出との両方を適切に確保することができる。加えて、本実施形態によれば、エンジン1の高回転時において、排気側可変動弁機構72によって排気弁22aの開弁時期を進角させることで、ポンピングロスを適切に低減することができる。
以上より、本実施形態によれば、エンジン1の低回転領域から高回転領域に渡って、適切なカムプロフィールにて排気弁22を動作させることができ、燃費を向上させることができる。
更に、本実施形態では、メカニカル動弁機構73による排気弁22bのリフト量積分値を、排気側可変動弁機構72による排気弁22aの最大リフト量積分値と最小リフト量積分値との間の値に設定している。このような本実施形態によれば、排気弁22bのリフト量積分値を排気弁22aの最小リフト量積分値よりも大きくするので、排気弁22bのリフト量積分値を十分に確保して、筒内から排気をよりスムーズに排出することができ、また、排気弁22bのリフト量積分値を排気弁22aの最大リフト量積分値よりも小さくするので、排気弁22aの開弁時期を制御することによる膨張比の制御性を効果的に向上させることができる。
[変形例]
上記した実施形態では、本発明をCI運転とSI運転とを切り替えて運転するガソリンエンジンに対して適用した例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。本発明は、通常のガソリンエンジン(つまりSI運転のみを実行するエンジン)や、ディーゼルエンジンにも適用可能である。
1 エンジン
10 PCM
18 気筒
21(21a、21b) 吸気弁
22(22a、22b) 排気弁
25 点火プラグ
67 インジェクタ
71 吸気側可変動弁機構
72 排気側可変動弁機構
72b ソレノイドバルブ
72c 圧力室
72d カム
73 メカニカル動弁機構

Claims (4)

  1. 吸気を筒内に導入するための吸気弁及び排気を筒内から排出するための第1排気弁及び第2排気弁を有する排気弁が設けられた気筒を備えるエンジンであって、
    エンジンの負荷が所定値以下である第1の運転領域において、燃料を含む混合気を圧縮自己着火させてエンジンの圧縮自己着火運転を実行させると共に、上記第1の運転領域よりも負荷が高い第2の運転領域において、燃料を含む混合気を強制点火させてエンジンの強制点火運転を実行させるエンジン制御手段と、
    上記第1排気弁の開閉時期を変化させて、排気行程中および/または吸気行程中に上記第1排気弁を動作させる可変動弁機構と、
    上記第2排気弁を一定の開閉時期及びクランク角に応じた一定のリフト量の変化形態にて動作させるメカニカル動弁機構と、
    エンジン回転数が高くなるほど、上記第1排気弁の開弁時期を進角させるように、上記可変動弁機構を制御する制御手段と、
    を有し、
    上記制御手段は、上記第1排気弁の開弁時期を所定の基準時期から遅角させていくと、開弁期間においてクランク角度に応じて変化する上記第1排気弁のリフト量を積分した値であるリフト量積分値が小さくなるよう上記可変動弁機構を制御し、かつ、上記第1排気弁の開弁時期を最大に遅角させる開弁時期が上記メカニカル動弁機構による上記第2排気弁の開弁時期と同一になるよう上記可変動弁機構を制御し、
    上記制御手段は、上記エンジンの圧縮自己着火運転領域において、上記第1排気弁を排気行程中に開弁させて排気を筒内から排出すると共に吸気行程中に開弁させて排気を内部EGRガスとして筒内に導入するよう上記可変動弁機構を制御し、かつ、上記エンジンの強制点火運転領域において、上記第1排気弁を排気行程中に開弁させて排気を筒内から排出するよう上記可変動弁機構を制御し、
    上記メカニカル動弁機構は、上記エンジンの圧縮自己着火運転領域および強制点火運転領域において、上記第2排気弁を排気行程中に開弁させて排気を筒内から排出するよう構成されている、ことを特徴とするエンジン。
  2. 上記メカニカル動弁機構による上記第2排気弁のリフト量積分値は、上記制御手段が上記第可変動弁機構によって上記第1排気弁の開閉時期を制御したときの最大のリフト量積分値と最小のリフト量積分値との間の値に設定されている、請求項1に記載のエンジン。
  3. 上記可変動弁機構は、
    クランクシャフトの回転に同期して回転するカムと、
    内部にエンジンオイルが充填され、上記カムの動作によってエンジンオイルの油圧が変化する圧力室と、
    上記圧力室に接続されており、開閉することにより上記第1排気弁に作用させる油圧を制御する油圧バルブと、
    を有し、
    上記制御手段は、上記カムが上記圧力室内の油圧を上昇させるよう動作しているときに、上記油圧バルブの開閉を切り替える制御を行って、上記圧力室内の油圧を上記第1排気弁に作用させて上記第1排気弁を開弁させる、請求項1又は2に記載のエンジン。
  4. 上記可変動弁機構の上記カムは、排気行程中に上記第1排気弁を開弁させるための第1のカム山および吸気行程中に上記第1排気弁を開弁させるための第2のカム山を備え、
    上記制御手段は、上記エンジンの圧縮自己着火運転領域において、上記カムの第1のカム山および第2のカム山が、それぞれ、上記圧力室内の油圧を上昇させるよう動作しているときに、上記油圧バルブの開閉を切り替える制御を行って、上記圧力室内の油圧を上記第1排気弁に作用させて上記第1排気弁を開弁させ、かつ、上記エンジンの強制点火運転領域において、上記カムの第1のカム山が上記圧力室内の油圧を上昇させるよう動作しているときに、上記油圧バルブの開閉を切り替える制御を行って、上記圧力室内の油圧を上記第1排気弁に作用させて上記第1排気弁を開弁させる、請求項3に記載のエンジン。
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