以下に本発明の実施例について、図面と共に説明する。
図1に示す本実施例の画像形成システム1は、インクジェットプリンタとして構成される。この画像形成システム1は、メインユニット10と、通信インタフェース20と、ユーザインタフェース30と、印字制御ユニット40と、搬送制御ユニット50と、を備える。
画像形成システム1は、キャリッジ搬送ユニット70と、記録ヘッド80と、切換レバー90と、搬送モータ100と、駆動回路110と、用紙搬送機構120と、ロータリエンコーダ130と、検出回路140と、伝達機構150と、第一給紙ユニット160と、第二給紙ユニット170と、反転ユニット180と、メンテナンスユニット190と、を更に備える。
メインユニット10は、CPU11と、ROM13と、RAM15と、NVRAM17と、を備える。ROM13は、各種プログラムを記憶する。CPU11は、これらプログラムに従う処理を実行する。RAM15は、CPU11による処理実行時に、作業領域として使用される。NVRAM17は、電気的にデータ書き換え可能な不揮発性メモリであり、画像形成システム1の電源オフ後にも保持する必要のあるデータを記憶する。
CPU11は、ROM13が記憶するプログラムに従う処理を実行することにより、装置内各部を統括制御し、インクジェットプリンタとして必要な機能を実現する。以下では、CPU11が実行する処理を、メインユニット10を動作主体として説明する。通信インタフェース20は、パーソナルコンピュータ等の外部装置5と双方向通信可能に構成される。通信インタフェース20としては、USBインタフェース及びLANインタフェースを一例に挙げることができる。
メインユニット10は、通信インタフェース20を通じて外部装置5から印刷対象の画像データを受信すると、受信した画像データに基づく画像を用紙Qに形成するために、印字制御ユニット40及び搬送制御ユニット50に対して指令を入力する。また、エラーが発生すると、メインユニット10は、ユーザインタフェース30にてエラーメッセージが表示されるように、又は、警告音が出力されるように、ユーザインタフェース30を制御する。
ユーザインタフェース30は、液晶ディスプレイ等に代表される表示ユニット、スピーカ、及び、ユーザ操作可能な入力ユニットを備える。入力ユニットとしては、タッチパネル及びキースイッチを一例に挙げることができる。
印字制御ユニット40は、メインユニット10からの指令に従って、記録ヘッド80を搭載するキャリッジ71(図2参照)の搬送を制御する機能、及び、記録ヘッド80によるインク液滴の吐出動作を制御する機能を有する。印字制御ユニット40は、キャリッジ搬送ユニット70を制御することにより、キャリッジ71の主走査方向への移動を制御する。主走査方向は、用紙Qの搬送方向である副走査方向に直交する。
図2に示すように、キャリッジ搬送ユニット70は、キャリッジ71と、モータ73と、ベルト機構75と、ガイドレール77,79と、を備える。キャリッジ搬送ユニット70は、図示しないリニアエンコーダを更に備える。モータ73は、印字制御ユニット40により制御される。リニアエンコーダは、印字制御ユニット40がキャリッジ71の主走査方向における位置を検出できるように構成される。
印字制御ユニット40は、リニアエンコーダからの出力に基づき、モータ73を制御することにより、キャリッジ71の主走査方向への搬送を制御する。また、印字制御ユニット40は、用紙Q上の目的の位置にインク液滴が着弾するように、キャリッジ71の移動に合わせて、記録ヘッド80によるインク液滴の吐出動作を制御する。
ベルト機構75は、主走査方向に配列された駆動プーリ751及び従動プーリ753と、駆動プーリ751と従動プーリ753との間に巻回されたベルト755と、を備える。ベルト755には、キャリッジ71が固定される。ベルト機構75では、駆動プーリ751がモータ73からの動力を受けて回転し、ベルト755及び従動プーリ753が、駆動プーリ751の回転に伴って、従動回転する。
ガイドレール77,79は、それぞれ主走査方向に沿って延設され、互いに副走査方向に離れた位置に配置される。ガイドレール79には、孔HLが形成される。この孔HLを通じて、切換レバー90が、ガイドレール79の下方から上方(キャリッジ71の搬送経路上)に突出している。切換レバー90の詳細については、図3を用いて後述する。
ベルト機構75は、ガイドレール77に配置される。ガイドレール77,79には、例えば主走査方向に延びる突条(図示せず)がキャリッジ71の移動方向を主走査方向に規制するために形成される。キャリッジ71は、例えば、下面の溝に突条が配置されるようにガイドレール77,79上に載置されて、ガイドレール77,79に支持される。この状態で、キャリッジ71は、ベルト755の回転に連動して、ガイドレール77,79上を主走査方向に沿って移動する。記録ヘッド80は、キャリッジ71の移動に伴って、主走査方向に搬送される。
搬送制御ユニット50(図1参照)は、メインユニット10からの指令に従って、搬送モータ100を制御する。この搬送制御ユニット50は、PWM指令値Uを駆動回路110に入力する。駆動回路110は、PWM指令値Uに対応するデューティー比で搬送モータ100をPWM駆動することにより、PWM指令値Uに対応する駆動電流を搬送モータ100に印加し、搬送モータ100を駆動する。PWM指令値Uにより搬送モータ100への印加電流は制御される。搬送モータ100は、直流モータにより構成される。搬送モータ100は、用紙搬送機構120が備える搬送ローラ121に接続され、搬送ローラ121を回転駆動する。
搬送ローラ121は、その一端部にて搬送モータ100からの動力を受けて回転する。図示しないが、搬送ローラ121に対しては、これに対向するピンチローラを配置することができる。即ち、用紙搬送機構120は、搬送ローラ121とピンチローラとの間に用紙Qを挟持した状態で、搬送ローラ121を回転させることにより、用紙Qを副走査方向に搬送する。
ロータリエンコーダ130(図1参照)は、搬送ローラ121の回転と同期したエンコーダ信号を出力する。検出回路140は、ロータリエンコーダ130から入力されるエンコーダ信号に基づき、搬送ローラ121の回転量X及び回転速度Vを検出する。
搬送制御ユニット50は、検出回路140により検出された搬送ローラ121の回転量X及び回転速度Vに基づいて、搬送モータ100を制御する。これにより、搬送制御ユニット50は、搬送ローラ121の回転、ひいては、用紙搬送機構120による用紙Qの搬送動作を制御する。例えば、回転量Xは、位置制御に用いられ、回転速度Vは、速度制御に用いられる。
伝達機構150は、搬送ローラ121の上記一端部とは反対側の他端部に配置される。この伝達機構150は、搬送モータ100からの動力を、搬送ローラ121を介して受けて、これを駆動対象の機械的装置に伝達する。具体的に、伝達機構150は、搬送ローラ121からの動力を、切換レバー90の位置に応じて、駆動対象の機械的装置としての、第一給紙ユニット160、第二給紙ユニット170、反転ユニット180、及び、メンテナンスユニット190のいずれかに伝達する。
第一給紙ユニット160は、給紙ローラを備える。この給紙ローラは、搬送ローラ121及び伝達機構150を介して伝達されてくる搬送モータ100からの動力を受けて回転する。第一給紙ユニット160は、給紙ローラの回転により、第一の給紙トレイに支持される用紙Qを搬送ローラ121に向けて供給する。
第二給紙ユニット170も、搬送モータ100からの動力を搬送ローラ121及び伝達機構150を介して受けて回転する給紙ローラを備える。第二給紙ユニット170は、第一給紙ユニット160と同様に、給紙ローラの回転により、第二の給紙トレイに載置された用紙Qを、搬送ローラ121に向けて供給する。
反転ユニット180は、用紙Qの両面印刷時に駆動される機械的装置である。反転ユニット180は、搬送モータ100からの動力を、搬送ローラ121及び伝達機構150を介して受けて動作する。反転ユニット180は、記録ヘッド80による印字位置(インク液滴の吐出位置)の下流側に通過した用紙Qを、その表裏を反転して記録ヘッド80による印字位置の上流側に再供給する。
メンテナンスユニット190は、記録ヘッド80のメンテナンスを行うための機械的装置である。メンテナンスユニット190は、図示しないが、記録ヘッド80のノズル面に装着されるキャップ、キャップの昇降機構、及び、キャップに接続されてインク液滴の吸引を行うポンプを備える。
キャップの昇降機構は、キャリッジ71がメンテナンス領域G(図2参照)に進入する過程で、キャリッジ71からの力の作用を受けて、キャップを徐々に上昇させる構成にされる。更に、キャップ昇降機構は、キャリッジ71がメンテナンス領域Gに配置されたときには、キャップを記録ヘッド80のノズル面に装着する構成にされる。
ポンプは、搬送モータ100からの動力を、搬送ローラ121及び伝達機構150を介して受けて動作し、インク液滴の吸引を行う構成にされる。メンテナンスユニット190(特にポンプ)は、キャリッジ71がメンテナンス領域Gに位置するときに駆動される。
続いて、伝達機構150の詳細構成を説明する。図3の領域(B)に示すように伝達機構150は、駆動ギヤ210と、移動ギヤ220と、上述した機械的装置160,170,180,190の夫々に対応する接続ギヤ230A,230B,230C,230Dと、を備える。駆動ギヤ210、移動ギヤ220、及び、接続ギヤ230A−Dの夫々は、平歯車としての形態を有する。接続ギヤ230A−Dとの記載は、接続ギヤ230A,230B,230C,230Dを表す。以下における接続ギヤ230との記載は、接続ギヤ230A,230B,230C,230Dの内の特定されない一つを示すときに用いられる。
駆動ギヤ210は、その回転軸が搬送ローラ121の回転軸に一致するようにして、搬送ローラ121の上記他端部に固定される。これにより、駆動ギヤ210は、搬送ローラ121と一体に回転する。駆動ギヤ210は、移動ギヤ220の移動範囲において常時移動ギヤ220と噛合うような軸方向の寸法を有する。
移動ギヤ220は、駆動ギヤ210と常時噛合い、且つ移動ギヤ220の回転軸が駆動ギヤ210の回転軸と平行となるように配置される。移動ギヤ220の回転軸に沿っては、軸部材225が移動ギヤ220の回転中心の孔を貫くように配置される。これにより、移動ギヤ220は、軸部材225に対して回転可能且つ軸方向にスライド移動可能に配置される。
移動ギヤ220は、軸部材225に案内されて接続ギヤ230A−D間を移動する。接続ギヤ230A−Dは、回転軸に垂直な側面が互いに対向するようにして、移動ギヤ220の回転軸(軸部材225)に対して平行に整列配置される。移動ギヤ220は、これら接続ギヤ230A−Dの夫々と個別に噛合可能な軸方向の寸法を有する。
軸部材225は、端部90Eがスライド移動可能であるように切換レバー90を支持する。切換レバー90の端部90Eは、主走査方向において、移動ギヤ220に隣接して、移動ギヤ220よりも搬送ローラ121の遠方側に配置される。
更に、軸部材225には、移動ギヤ220及び切換レバー90を挟むように二つのバネ部材227,228が配置される。バネ部材228による付勢力は、バネ部材227による付勢力よりも大きい。従って、切換レバー90は、その移動範囲全体に亘って、接続ギヤ230Dから接続ギヤ230Aに向かう方向への付勢力を受ける。移動ギヤ220は、バネ部材227から付勢力を受けているため、切換レバー90が接続ギヤ230Aから接続ギヤ230D側に移動するとき、切換レバー90に追従するように移動する。
例えば、切換レバー90は、キャリッジ71が搬送経路における端側に移動するときに、キャリッジ71と当接し、キャリッジ71からの押圧力を受けて、図4左領域に示すように、接続ギヤ230A側から接続ギヤ230D側に移動する。このとき、移動ギヤ220は、バネ部材227からの力の作用を受けて、図4右領域に示すように、切換レバー90に追従するように移動する。本実施例によれば、移動ギヤ220は、このようにしてバネ部材227からの力の作用により、切換レバー90の位置に応じた位置に移動する。
切換レバー90は、図3の領域(A)に示すように、上述した孔HLを形成するレバー保持部材240内に配置される。図2に示す孔HLは、抽象化された矩形状で表されるが、この孔HLは、詳細には、図3の領域(A)に示す形状にされる。図3の領域(A)には、ガイドレール79の上面から見たときの孔HLの具体的形状が示される。レバー保持部材240は、ガイドレール79に形成される孔に固定される。
レバー保持部材240は、レバー配置領域241A,241B,241C,241Dを備える。以下におけるレバー配置領域241との記載はレバー配置領域241A,241B,241C,241Dの内の特定されない一つを示すときに用いられる。切換レバー90は、レバー配置領域241Aにて、孔HLの縁に当接されることにより、バネ部材227,228の力の作用によっても、ここより搬送ローラ121側には移動しないように保持される。レバー配置領域241Aに切換レバー90があるとき、移動ギヤ220は、接続ギヤ230Aと噛合う位置に配置される。
切換レバー90の端部90Eと移動ギヤ220とが接触している状態では、切換レバー90がレバー配置領域241Bにあるとき、移動ギヤ220は、接続ギヤ230Bと噛合う位置に配置される。同様に、切換レバー90がレバー配置領域241C,241Dに配置されるとき、移動ギヤ220は、夫々、接続ギヤ230C,230Dと噛合う位置に配置される。
切換レバー90は、その端部90Eにおいて、バネ部材228の捩れによる力(軸部材225の周方向に沿う力)の作用を受けている。即ち、切換レバー90は、図3の領域(A)において、図面左下方向に向かう力の作用を受けるように配置されている。
従って、切換レバー90は、レバー配置領域241A側からレバー配置領域241D側に移動する過程において、図3の領域(A)における孔HLの図面下方の縁に沿って移動する。このため、切換レバー90は、レバー配置領域241A側からレバー配置領域241D側に移動する過程では、レバー配置領域241B,241Cに形成される切欠きによって、その途中でキャリッジ71が後退しても、バネ部材227,228の力の作用によってレバー配置領域241A側に戻らないように、レバー配置領域241B,241Cに保持される。
切換レバー90は、レバー配置領域241Dに配置された後、キャリッジ71が後退し始めると、バネ部材228からの力の作用を受けて、案内部材242に案内されながらレバー配置領域241Aまで戻る。案内部材242には、下方に伸びるレール243が形成される。切換レバー90は、このレール243に摺接しながらレバー配置領域241Aに戻る。このとき、移動ギヤ220は、切換レバー90の端部90Eから押圧力を受けて、切換レバー90と共に接続ギヤ230A側に移動する。
接続ギヤ230A−Dは、移動ギヤ220の回転軸と平行な共通の軸部材235に回転可能に支持される。接続ギヤ230A−Dの回転軸は、この軸部材235に一致する。接続ギヤ230A−Dの夫々は、移動ギヤ220の移動範囲内に配置される。
接続ギヤ230Aは、第一給紙ユニット160に接続される。即ち、接続ギヤ230Aは、移動ギヤ220と噛合っている状態で、搬送ローラ121からの動力を、駆動ギヤ210及び移動ギヤ220を介して受けて、この動力を第一給紙ユニット160に伝達する。これにより、第一給紙ユニット160は駆動される。
接続ギヤ230Bは、第二給紙ユニット170に接続される。即ち、接続ギヤ230Bは、移動ギヤ220と噛合っている状態で、搬送ローラ121からの動力を、駆動ギヤ210及び移動ギヤ220を介して受けて、この動力を第二給紙ユニット170に伝達する。これにより、第二給紙ユニット170は駆動される。
接続ギヤ230Cは、反転ユニット180に接続される。即ち、接続ギヤ230Cは、移動ギヤ220と噛合っている状態で、搬送ローラ121からの動力を、駆動ギヤ210及び移動ギヤ220を介して受けて、この動力を反転ユニット180に伝達する。これにより、反転ユニット180は駆動される。
接続ギヤ230Dは、メンテナンスユニット190に接続される。即ち、接続ギヤ230Dは、移動ギヤ220と噛合っている状態で、搬送ローラ121からの動力を、駆動ギヤ210及び移動ギヤ220を介して受けて、この動力をメンテナンスユニット190に伝達する。これにより、メンテナンスユニット190(ポンプ)は駆動される。
続いて、移動ギヤ220を、噛合っている接続ギヤ230から隣接する接続ギヤ230まで移動させて、移動ギヤ220を当該隣接する接続ギヤ230に噛合わせるために、メインユニット10が実行する切換制御処理を、図5を用いて説明する。以下では、移動ギヤ220を噛合わせる対象の上記隣接する接続ギヤ230のことを隣接接続ギヤとも表現する。
メインユニット10は、切換制御処理において、移動ギヤ220を所定量L1正回転方向に回転させる正回転手順、及び、移動ギヤ220をL1より少ない所定量L2逆回転方向に回転させる逆回転手順を交互に所定回数M実行する(図5の例ではM=4)。この動作により、移動ギヤ220を隣接接続ギヤに噛合わせる。以下では、正回転手順及び逆回転手順の1セットを回転制御処理と表現する。即ち、切換制御処理では、M回の回転制御処理が実行される。
回数Mは、M回の回転制御処理により実現される移動ギヤ220の正回転方向への回転量Le=M×(L1−L2)が、以下に説明する条件を満足するように定められる。切換制御処理は、移動ギヤ220を隣接接続ギヤまで移動させて隣接接続ギヤに噛合わせることを目的として実行される。移動ギヤ220は、切換レバー90が接続ギヤ230Aから接続ギヤ230D側に移動するとき、バネ部材227からの付勢力を受け、切換レバー90に追従して隣接接続ギヤ側に移動しようとする。
しかしながら、移動ギヤ220の歯221と、隣接接続ギヤの歯231とが移動ギヤ220の移動方向において重なっている場合、移動ギヤ220は、隣接接続ギヤの歯231に阻害されて移動できず、隣接接続ギヤと噛合うことができない。このため、本実施例では、回転制御処理をM回実行することにより、段階的に移動ギヤ220の位相を変化させ、移動ギヤ220の歯221が、隣接接続ギヤの歯231と移動方向において重ならない状態を作る。
回転制御処理のM回の実行過程で、この状態を作るには、移動ギヤ220の歯221が隣接接続ギヤの歯231に重なる位置から重ならない位置まで回転するのに必要な移動ギヤ220の最大回転量以上に、上記回転量Leを定めればよい。この最大回転量は、図6(A)に示すように、移動ギヤ220の歯221の幅W1に、隣接接続ギヤの歯231の幅W2を加算した長さ(W1+W2)に一致する。
図6(A)に示す破線は、移動ギヤ220の歯221が僅かに隣接接続ギヤの歯231と重なっている状態を示す。この状態から長さ(W1+W2)だけ移動ギヤ220の歯221が移動すると、移動ギヤ220の歯221は、太実線で示すように、隣接接続ギヤの歯231と重ならない位置に移動する。従って、上記回転量Leが値(W1+W2)以上となるように回数Mを定めれば、回転制御処理のM回の実行過程で、移動ギヤ220の歯221が隣接接続ギヤの歯231と重ならない状態を作ることができる。
上記回転量Leの適値は、隣接接続ギヤの歯231の幅W2に応じて変化する。このため、本実施例では、接続ギヤ230毎に上記回数Mを定めて、対応する制御パラメータをメインユニット10のNVRAM17に記憶させている。例えば、上記回数Mは、上記回転量Leが値(W1+W2)より大きくなる回転制御処理の最小実行回数に定められる。
また、回転制御処理の1回の実行による移動ギヤ220の正回転方向への回転量Lp=(L1−L2)は、移動ギヤ220の歯221が、隣接接続ギヤの歯231に重ならない状態で回転可能な移動ギヤ220の回転量の最大値Lx以下に定められる。最大値Lxは、図6(B)より、隣接接続ギヤの歯溝232の幅W3から、移動ギヤ220の歯221の幅W1を減算した値(W3−W1)に一致する。
図6(B)に示す破線も、図6(A)と同様に、移動ギヤ220の歯221が僅かに隣接接続ギヤの歯231と重なっている状態を示す。この状態から回転量(W3−W1)だけ移動ギヤ220が回転すると、移動ギヤ220の歯221は、その太実線で示すように、その端縁が隣接接続ギヤの歯溝232を通り越してしまう直前の位置に配置される。
回転制御処理の1回の実行で、移動ギヤ220の歯221が最大値Lxより多い量移動すると、移動ギヤ220の歯221は、回転制御処理の実行毎に、隣接接続ギヤの歯231と重なる位置で停止する可能性がある。
移動ギヤ220が搬送モータ100からの動力を、駆動ギヤ210を介して受けて、接続ギヤ230を駆動するように回転する過程では、移動ギヤ220の歯221と、それに噛合う駆動ギヤ210及び接続ギヤ230の歯211,231とが高い押圧力で強固に接触する。このような接触状態にあるときには、移動ギヤ220の歯221と隣接接続ギヤの歯231とが重ならない時期が存在しても、移動ギヤ220は、接触面で生じる摩擦力が大きいことが原因で、隣接接続ギヤに移動することができない。
そこで、本実施例では、回転制御処理の1回の実行で、移動ギヤ220の歯221が隣接接続ギヤの歯溝232を飛び越えてしまわないように、上記回転量Lp=(L1−L2)を、値Lx=(W3−W1)以下に定めている。
上記回転量Lpの適値は、隣接接続ギヤの歯溝232の幅W3に応じて変化する。このため、本実施例では、接続ギヤ230毎に、上記回転量Lpを、値Lx=(W3−W1)より僅かに小さい値に定めて、対応する制御パラメータをメインユニット10のNVRAM17に記憶させている。
更に、本実施例では、逆回転手順における移動ギヤ220の逆回転方向への回転量L2を、移動ギヤ220とそれに噛合う接続ギヤ230との間において歯221,231の接触による変形を解消するのに必要な回転量以上に定めている。
変形を解消するのに必要な回転量は、図7に示すように、歯221,231の接触による最大変形量δに対応する。この最大変形量δは、接続ギヤ230の最大静止摩擦力Fsに、この接続ギヤ230の歯231の弾性係数Kを除算して得られる。正回転手順を終了した状態で、移動ギヤ220と、それに噛合う接続ギヤ230とが互いに静止しているとき、図7上段に示すように、接続ギヤ230に対して歯231の変形により作用する力K・δは、接続ギヤ230に作用する最大静止摩擦力Fs以下である。このため、最大変形量δは、δ=Fs/Kと表すことができる。
上記回転量L2の適値は、移動ギヤ220に噛合う接続ギヤ230の材質によって異なる。このため、本実施例では、接続ギヤ230毎に、上記回転量L2を、最大変形量δより僅かに大きい値に定めて、対応する制御パラメータをメインユニット10のNVRAM17に記憶させている。本実施例では、このように回転量L2を定めることにより、逆回転手順によって移動ギヤ220の歯221と、接続ギヤ230の歯231とを非接触の状態にすることができるようにし、移動ギヤ220を、隣接接続ギヤに移動可能な状態にすることができるようにしている。上記回転量Lp,L2を接続ギヤ230毎に定めることで、回転量L1は、移動ギヤ220に噛合う接続ギヤ230及び隣接接続ギヤの組合せ毎に定められる。
付言すると、上記回転量L1及び回転量L2の情報は、夫々、この回転量L1,L2だけ移動ギヤ220を回転させるのに必要な駆動ギヤ210の回転量又は搬送ローラ121の回転量を表す制御パラメータに置き換えられて、NVRAM17に記憶される。
また、互いに噛合う駆動ギヤ210と移動ギヤ220との間には、バックラッシュと呼ばれる隙間が存在する。従って、図8に示すように、正回転から逆回転への駆動ギヤ210の回転方向の切換時には、駆動ギヤ210がバックラッシュD分回転するまで、移動ギヤ220の歯221が駆動ギヤ210の歯211と接触せずに回転駆動されない。
そこで、回転方向の切換時には、移動ギヤ220の回転量L1,L2に相当する駆動ギヤ210の回転量に、バックラッシュD分加算した回転量、駆動ギヤ210を回転させるように、搬送モータ100を制御する。駆動ギヤ210の回転量と、搬送ローラ121の回転量との間には比例関係が成立する。例えばある第一の時点からある第二の時点までの搬送ローラ121の回転量は、第一の時点で検出回路140から入力される回転量X=X1と、第二の時点で検出回路140から入力される回転量X=X2との差分(X2−X1)を算出することにより特定可能である。
続いて、メインユニット10が実行するギヤ切換処理の詳細を説明する。メインユニット10は、移動ギヤ220を現時点で噛合う接続ギヤ230とは異なる接続ギヤ230に噛合わせる必要のあるイベントが生じると、図9(A)に示すギヤ切換処理を実行する。ギヤ切換処理の開始時には、メインユニット10から印字制御ユニット40に指令入力がなされる。この指令に従って、印字制御ユニット40は、キャリッジ71の搬送制御を実行し、切換レバー90を移動ギヤ220の移動先に対応するレバー配置領域241に移動させる。切換レバー90が移動することにより、移動ギヤ220は、バネ部材227,228を通じて移動先の接続ギヤ230に向かう力の作用を受けた状態にされる。
ギヤ切換処理を開始すると、メインユニット10は、接続ギヤ230A−Dの内、現時点で移動ギヤ220と噛合う接続ギヤ230である移動元接続ギヤを特定する。更に、この移動元接続ギヤに代えて、移動ギヤ220を噛合わせる目的の接続ギヤ230である移動先接続ギヤを特定する(S110)。
その後、メインユニット10は、S120に移行し、移動ギヤ220を、移動元接続ギヤから移動先接続ギヤまで移動させて、移動ギヤ220を移動先接続ギヤに噛合わせるために実行すべきN回の切換制御処理の夫々で用いる制御パラメータ群を決定する。値Nは、移動元接続ギヤから移動先接続ギヤまでの接続ギヤ230の個数に対応する。例えば、移動元接続ギヤが接続ギヤ230Bであり移動先接続ギヤが接続ギヤ230Cである場合、N=1である。移動元接続ギヤが接続ギヤ230Aであり移動先接続ギヤが接続ギヤ230Dである場合、N=3である。
各回の切換制御処理で用いられる制御パラメータ群には、その切換制御処理において回転制御処理を実行すべき回数M、各回の回転制御処理の正回転手順及び逆回転手順で実現されるべき駆動ギヤ210(又は搬送ローラ121)のそれぞれの回転量を表す制御パラメータ群が含まれる。
その後、メインユニット10は、変数n=1に設定し(S130)、S120での決定内容に従って、第n回目の切換制御処理を実行する(S140)。第n回目の切換制御処理は、移動元接続ギヤから移動先接続ギヤまでの接続ギヤ230の一群の内、移動元接続ギヤから移動方向にn番目の接続ギヤ230に噛合う移動ギヤ220を、(n+1)番目の接続ギヤ230に移動させて、(n+1)番目の接続ギヤ230に噛合わせるための処理である。ここで言う1番目の接続ギヤ230は、移動元接続ギヤである。
図5を用いて説明した上述の切換制御処理は、具体的に、図9(B)に示すフローチャートに従って実行される。メインユニット10は、切換制御処理を実行すると、変数m=1に設定する(S210)。その後、S120で決定した制御パラメータ群から、この切換制御処理における第m回目の正回転手順で用いるべき制御パラメータ群を抽出し、これを搬送制御ユニット50に設定する(S220)。
ここで設定される制御パラメータ群には、回転方向が正回転方向であることを表す制御パラメータ、及び、駆動ギヤ210(又は搬送ローラ121)の回転量を表す制御パラメータが含まれる。本明細書では、搬送モータ100を正回転させるときの駆動ギヤ210、移動ギヤ220、及び接続ギヤ230の回転方向を、正回転方向と表現する。
更に、メインユニット10は、搬送制御ユニット50に対して、上記設定された制御パラメータ群に従う搬送モータ100の制御を開始するように指令する(S230)。この指令を受けて、搬送制御ユニット50は、図10に示すように、設定された制御パラメータ群に従う搬送モータ100の制御を実行する。まず、搬送制御ユニット50は、搬送モータ100を制御して、駆動ギヤ210(又は搬送ローラ121)を、制御パラメータ群で指定された方向に指定量だけ回転させる(S310)。
具体的に、搬送制御ユニット50は、検出回路140から入力される搬送ローラ121の回転量Xに基づくフィードバック制御により、駆動ギヤ210(又は搬送ローラ121)を、制御パラメータ群で指定された方向に指定量だけ回転させる。この制御が完了すると、搬送制御ユニット50は、メインユニット10に完了通知を入力する(S320)。S230で入力される指令を受けて、図10に示す処理を実行する場合、搬送制御ユニット50は、移動ギヤ220が正回転方向に回転量L1だけ進んで停止するように、搬送モータ100を制御する(S310)。
メインユニット10は、完了通知を受けると(S240でYes)、この切換制御処理における第m回目の逆回転手順に対して決定された制御パラメータ群を、搬送制御ユニット50に設定する(S250)。ここで設定される制御パラメータ群には、回転方向が逆回転方向であることを表す制御パラメータ、及び、駆動ギヤ210(又は搬送ローラ121)の回転量を表す制御パラメータが含まれる。
メインユニット10は、搬送制御ユニット50に対して、この制御パラメータ群に従う搬送モータ100の制御を開始するように指令する(S260)。この指令を受けて、搬送制御ユニット50は、搬送モータ100の制御を実行する(S310)。S260で入力される指令を受けて、図10に示す処理を実行する場合、搬送制御ユニット50は、移動ギヤ220が逆回転方向に回転量L2だけ進んで停止するように、搬送モータ100を制御する(S310)。
正回転手順の後に行われる逆回転手順によれば、駆動ギヤ210がバックラッシュD分回転して、移動ギヤ220の歯221と接触した状態になってから、移動ギヤ220の回転が始まる。このため、駆動ギヤ210は、移動ギヤ220の回転量L2に相当する回転量よりもバックラッシュD分多く回転させられる。
S260での指令入力後、完了通知を受けると(S270でYes)、メインユニット10は、この切換制御処理において、回転制御処理が実行されるべき回数M実行されたか否かを判断する(S280)。具体的にはm≧Mであるか否かを判断する。回転制御処理は、S220〜S270により実現される。正回転手順は、S220,S230により実現され、逆回転手順は、S250,S260により実現される。S280で否定判断すると、メインユニット10は、変数mを1加算した値に更新し(S290)、S220に移行する。
逆回転手順(S250,S260)の後に行われる第2回目以降の正回転手順(S220,S230)によれば、駆動ギヤ210がバックラッシュD分回転して、移動ギヤ220の歯221と接触した状態になってから、移動ギヤ220の回転が始まる。このため、S220で設定される制御パラメータ群に基づいて、駆動ギヤ210は、移動ギヤ220の回転量L1に相当する回転量よりもバックラッシュD分多く回転させられる。
このようにしてM回の回転制御処理を実行すると、メインユニット10は、S280で肯定判断して、切換制御処理を終了する。M回の回転制御処理が実行されると、上述した原理に基づき、移動ギヤ220は、基本的に、切換制御処理の開始前に噛合っていた接続ギヤ230から、移動方向に隣接する接続ギヤ230(上記隣接接続ギヤ)まで移動し、この隣接する接続ギヤ230と噛合った状態にされる。
メインユニット10は、上記切換制御処理(S140)を終了すると、切換制御処理が実行されるべき回数N実行されたか否かを判断する。具体的にはn≧Nであるか否かを判断する(S150)。S150で否定判断すると、変数nを1加算した値に更新し(S160)、S140に移行する。
このようにして、N回の切換制御処理を実行すると、メインユニット10は、S150で肯定判断して、当該ギヤ切換処理を終了する。N回の切換制御処理が完了するまでの過程で、移動ギヤ220は、基本的に移動元接続ギヤから移動先接続ギヤまでの移動を完了する。
以上、本実施例の画像形成システム1の構成について説明したが、本実施例によれば、メインユニット10が、複数の接続ギヤ230A−Dの一つに噛合う移動ギヤ220を、隣接接続ギヤに噛合わせるために、回転制御処理(S220〜S270)を繰返し実行する。回転制御処理は、上述したように、移動ギヤ220を正回転方向に回転量L1だけ回転させるステップ、及び、これに続くステップであって、回転量L1より少ない回転量L2だけ、移動ギヤ220を逆回転方向に回転させるステップを含む。
メインユニット10は、この回転制御処理を、移動ギヤ220が正回転方向に回転量(W1+W2)以上の規定量M×(L1−L2)回転するまで繰返し実行する。本実施例によれば、この回転制御処理の繰返し実行により、移動ギヤ220の位相を段階的に、移動ギヤ220の歯221が隣接接続ギヤの歯231と重ならない位置に合わせる。更に、移動ギヤ220の逆回転を行うことで、移動ギヤ220と、これに噛合う駆動ギヤ210及び接続ギヤ230との間の強い接触状態を緩和する。
移動ギヤ220の歯221が上記重ならない位置に存在していても、移動ギヤ220が駆動ギヤ210及び接続ギヤ230との間で強固な接触状態にあるときには、その接触面で生じる摩擦力が大きいことに起因して、移動ギヤ220が隣接接続ギヤに移動しない可能性がある。
これに対し、本実施例によれば、正回転方向に段階的に移動ギヤ220の位相をずらしては、逆回転により上記強固な接触状態を解く。従って、移動ギヤ220の歯221が隣接接続ギヤの歯231と重ならない位置にあるとき、移動ギヤ220を確実に隣接接続ギヤに移動させることができる。結果、本実施例によれば、従来技術のように偶然を期待して繰返し切換ギヤ(移動ギヤ220)を正回転方向及び逆回転方向に同量ずつ交互に回転させる手法よりも、ギヤ切換を効率よく行うことができる。
本実施例によれば特に、上記回転制御処理の1回の実行による移動ギヤ220の正回転方向への回転量Lp=L1−L2が、移動ギヤ220の歯221が隣接接続ギヤの歯231に重ならない状態で回転可能な移動ギヤ220の回転量の最大値(W3−W1)以下に設定される。従って、一度の回転制御処理の実行で、移動ギヤ220が隣接接続ギヤに移動可能な位相範囲を跨いで位相変化してしまうのを抑えることができ、一層効率的にギヤの切換を行うことができる。
更に本実施例では、回転量Leが(W1+W2)より大きくなる回転制御処理の最小実行回数を上記回数Mに定める。このように回数Mを定めれば、移動ギヤ220が隣接する接続ギヤ230に移動するのに、およそ必要十分な量だけ回転制御処理を実行して終了することができる。従って、本実施例によれば、回転制御処理の不要な繰返し実行を抑えることができる。
このように本実施例によれば、ギヤ切換を効率よく行うことができるので、インクジェットプリンタに搭載される機械的装置160,170,180,190を、単一駆動源(搬送モータ100)を用いて効率よく駆動することができる。
[他の実施形態]
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採り得る。例えば、本発明は、インクジェットプリンタへの適用に限定されるものではなく、種々の装置に適用可能である。例えば、本発明は、シート搬送機能を備えたインクジェットプリンタ以外の画像形成システム、及び、スキャナ装置に適用され得る。
上記実施例では、駆動対象の機械的装置として、第一給紙ユニット160、第二給紙ユニット170、反転ユニット180及びメンテナンスユニット190を一例に挙げたが、駆動対象の機械的装置もまた、これらに限定されるものではない。更に言えば、単一駆動源により駆動される複数の機械的装置の夫々は、互いに他の機械的装置から独立したものである必要はなく、他の機械的装置と共有した機械要素を備えてもよい。即ち、機械的装置の夫々は、互いに異なる接続ギヤ230に接続される点で、他の機械的装置と区別されるものであり、他の機械的装置から独立したものであるとは限らない。
上記実施例では、複数の接続ギヤ230A−Dの夫々に対し、回転量L1(回転量Lp)及び回転量L2を定めて、これに対応する制御パラメータ群をNVRAM17に記憶させたが、回転量L1(回転量Lp)及び回転量L2は、接続ギヤ230A−Dの内、ギヤ形状が同一のグループ(ギヤの種類)毎に定められれば十分である。このように回転量L1(回転量Lp)及び回転量L2を定めることによっても、ギヤ切換を上記回転制御処理の実行により適切に行うことができる。
[対応関係]
最後に用語間の対応関係を説明する。搬送モータ100は、駆動源の一例に対応し、メインユニット10は、コントローラの一例に対応する。切換レバー90及びバネ部材227,228は、付与機構の一例に対応する。