図1乃至図3を参照しながら本発明の実施例1を説明する。実施例1の理解を容易にするために、まず、図1を参照しながら、ラドル給湯装置による従来の計量方法を説明する。図1は、ラドル給湯装置による従来の計量方法を説明する、計量工程におけるラドルの概略断面図である。図1(a)が傾動角度α(アルファ)1の状態のラドル、図1(b)が図1(a)の状態のラドルを、溶湯から離間させる途中の状態を示す。図1(c)が傾動角度α2の状態のラドル、図1(d)が図1(c)の状態のラドルを、溶湯から離間させる途中の状態を示す。図1(e)が傾動角度α3の状態のラドル、図1(f)が図1(e)の状態に至る途中のラドルの回転動作中の状態を示す。尚、図中のラドルは、見易くするために形状を単純化している。
図1(a)は、ラドル1を略垂直(>α1)になるまで下方に回転させた状態(図示せず)で、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さhになるようにラドル1を溶湯中に進入させた後(図示せず)、その位置において、回転軸X周りにラドル1を上方に回転させて傾動角度α1とした状態である。この状態において、ラドル1の開口面はその大部分が溶湯中にあり、回転軸Xと直交し、回転軸Xから離間する方向のラドル1の端部上端の内周面側の点Yも溶湯中にある。また、ラドル1内には、図1(b)に示す、本来計量されるべき給湯量V1に加えて、オーバーフローさせるオーバーフロー量V1’が導入されている。
図1(a)の状態から、ラドル1を上方に移動させる。図1(b)はその上方への移動中、点Yが湯面に到達し、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さh1になった状態を示す。図1(a)から図1(b)の状態へラドル1を上昇させる間、オーバーフロー量V1’がラドル1の開口面の点Yからオーバーフローする。これは、ラドル1の上昇により、ラドル内に導入された溶湯の湯面が、炉の汲み出し部の湯面よりもh1’高くなるため、この湯面の高さの差異h1’の位置エネルギが、オーバーフロー量V1’の運動エネルギとなり、ラドル1内からオーバーフローするものである。図1(b)に示す2点鎖線は、図1(a)に示す状態におけるラドル1内の湯面を参考用に示したものである。ラドル1の上方への移動速度にも依るが、図1(b)の状態以降も、ラドル1の点Yからの溶湯のオーバーフローは継続する。
そのため、図示はしていないが、ラドル1を湯面から完全に離間させた停止位置(計量位置等と呼称される)で、所定時間(計量タイマー等と呼称される)、ラドル1を傾動角度α1の状態で停止させ、ラドル1の点Yからのオーバーフローを継続させる。計量の精度を鑑みれば、オーバーフローが停止するまでこの状態を維持させる方が望ましい。しかしながら、ラドル1内の溶湯の温度低下を鑑みれば、この状態を維持させるには限度がある。そのため、実際には、計量精度と溶湯の温度低下との両方の兼合いからこの所定時間が計量タイマーで設定され、ラドル1の点Yからのオーバーフローが完全に停止する前にラドル1を上方へ回転させ、水平方向へ移動させるための搬送用姿勢となす。
このように、従来の計量方法においては、ラドル1の傾動角度だけではなく、ラドル1の計量位置、計量位置までのラドルの上方へ移動に関する、移動開始加速度、移動速度及び減速加速度、及び、計量位置における停止時間(計量タイマー)等も計量精度に直結する重要な設定項目であり、給湯量や鋳造サイクルに準じて適宜設定する必要がある。逆から言えば、これら多様な設定項目自体が、従来の計量方法における給湯量のバラつきの要因と成り得る可能性があり、ラドル1の点Yからのオーバーフローが完了する前に次の動作に移行せざるを得ない点も、従来の計量方法における給湯量のバラつきの要因の1つと考えられている。
ラドル1の点Yからのオーバーフローの状態に依らず、予め設定された停止時間が経過した後、ラドル1を、水平方向へ移動させるための搬送用姿勢となすように上方へ回転させた後、ラドル1を指定位置(射出スリーブの給湯口)まで搬送させる。指定位置までの搬送動作や、指定位置における注湯動作等は、本発明の説明には直接関係ないため、それら動作の説明は割愛する。
次に、図1(c)は、ラドル1を略垂直になるまで下方に回転させた状態で、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さhになるようにラドル1を溶湯中に進入させた後、その位置において、回転軸X周りにラドル1を上方に回転させて傾動角度α2とした状態である。傾動角度α2は先の傾動角度α1よりも小さい。この状態において点Yは溶湯中にあり、ラドル1内には、図1(d)に示す、計量されるべき給湯量V2に加えて、オーバーフローさせるオーバーフロー量V2’が導入されている。図1(d)はその上方への移動中、点Yが湯面に到達し、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さh2になった状態を示す。
傾動角度α2が、傾動角度α1より小さいため、給湯量V2は給湯量V1よりも多く、オーバーフロー量V2’はオーバーフロー量V1’よりも少ない。また、オーバーフロー量V2’をオーバーフローさせる、湯面の高さの差異h2’は、傾動角度α1における差異h1’よりも少ない。尚、図1(d)に示す2点鎖線は、図1(c)に示す状態におけるラドル1内の湯面を参考用に示したものである。
次に、図1(e)は、ラドル1の傾動角度を傾動角度α3とした状態である。傾動角度α3は先の傾動角度α2よりも更に小さい。この状態において点Yは溶湯から既に高さh’だけ離間しているため、計量されるべき給湯量V2の汲み出しが完了している。すなわち、ラドル1を略垂直になるまで下方に回転させた状態で、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さhになるようにラドル1を溶湯中に進入させた後、その位置において、回転軸X周りにラドル1を上方に回転させて傾動角度α3とする途中の傾動角度α3’(>α3)の状態において、図1(f)に示すように、点Yが湯面に到達している。そのため、図1(f)に示す傾動角度α3’から図1(e)に示す傾動角度α3までラドル1を上方へ回転させる間、点Yが上方へ移動するため、ラドル1からのオーバーフローはほとんどない。このように、ラドル1の傾動角度の大きさに依っては、溶湯中で所望する傾動角度に到達した時点で既に計量が完了し、以降のラドル1の移動において、ラドル1からのオーバーフローがほとんどない状態も有り得る。尚、図1(e)に示す2点鎖線は、図1(f)に示す状態におけるラドル1内の湯面を参考用に示したものである。
このように、従来の計量方法においては、図1(e)(図1(f))に示すような、使用するラドルに対して給湯量が多い場合を除き、ラドル内に導入された溶湯の湯面が、炉の汲み出し部の湯面よりも高くなることに起因する、ラドルの後端側からの溶湯のオーバーフローを回避することは困難である。そして、使用するラドルに対して傾動角度が大きい(給湯量が少ない)程、ラドル内の溶湯をオーバーフローさせる、ラドル内と汲み出し部との湯面の高さの差異が大きいため、オーバーフローは激しく、量も多い。このように、自由落下流であるラドルからの溶湯のオーバーフローに依らざるを得ない従来の計量方法においては、傾動角度他、関連設定が全く同じ計量動作であっても、ラドル内にオーバーフローの結果として留まる溶湯の量(給湯量)のバラつきを生じる。オーバーフローが激しく、量も多い、ラドルに対して少ない給湯量の計量になる程、給湯量のバラつきも多くならざるを得ない。
また、使用するラドルに対して給湯量が少ない場合、図1(a)に示すように、ラドルの内面の多くが溶湯と接触するため、ラドル内面に接触した溶湯が凝固物(凝固膜)となる。この凝固物は、特許文献2で説明したように、それ以降の給湯工程において、ラドル内面への付着状態においてラドルの内容積を減少させ、ラドル内面からの不定期な剥離により、ラドルの内容積を増加(元に戻す)させたり、剥離した凝固物(膜)がオーバーフローによりラドル後端のオーバーフロー用切欠部近傍に滞留し、オーバーフローの障害となったりして、これらも給湯量のバラつきの要因となる。更に、剥離した酸化物が汲み出した溶湯内に混入すると、汲み出す溶湯の品質は低下し、製品不良の要因となる。
一方、図1(e)(図1(f))に示すように、使用するラドルに対して給湯量が多くなるような、所望する給湯量に対して、容量が比較的小さいラドルを選定して、計量中のラドルからの溶湯のオーバーフローを抑制する方法も考えられる。ここで、溶湯の品質を鑑みた場合、炉から指定位置までの溶湯の搬送時間は短時間であることが好ましい。また、鋳造サイクルの短縮化を鑑みた場合、給湯工程における溶湯の搬送時間も短時間である方が好ましい。すなわち、ラドルの水平方向の移動速度(搬送速度)は早い方が好ましいため、移動開始時の加速度や移動停止時の減速加速度の適切な設定を鑑みたとしても、使用するラドルに対して給湯量を比較的少なく抑え、移動開始時や移動停止時のラドルからの湯こぼれを防止することが一般的である。このような観点から、図1(e)(図1(f))に示すような、使用するラドルに対して給湯量が多くなるようなラドルを選定するケースは特殊なケースに限定される。
また、従来の計量方法においては、給湯量、すなわち、ラドルの傾動角度に依ってラドルからの溶湯のオーバーフロー(激しさや量)が異なる点も問題である。これは、同じラドルを使用してラドルの傾動角度に依って給湯量を変更させる場合において、給湯量を変更させれば、計量時の溶湯のオーバーフローが変化し、給湯精度が異なってしまうことを意味する。このような問題に対して、先に説明したような、計量時におけるラドルの計量位置、計量位置までのラドルの上方への移動に関する諸設定、及び、計量位置における停止時間(計量タイマー)等の、傾動角度以外の関連する設定変更で対応する方法も考えられる。しかしながら、給湯量の変更に際して、ラドルの傾動角度以外の様々な設定を変更する必要が生じれば設定変更が複雑になる。それだけでなく、給湯量の変更を、ラドルの傾動角度ではなくサイズ変更に依り行う場合も鑑みれば、それら複数種類のラドルに対する給湯量の設定変更は更に複雑にならざるを得ない。
次に、図2を参照しながら、本発明の実施例1に係る、ラドル給湯装置による計量方法を説明する。図2は、本発明の実施例1に係る、ラドル給湯装置による計量方法を説明する、計量工程におけるラドルの概略断面図である。図2(a)が、ラドル1の回転軸Xが湯面からの高さH1の状態のラドル、図2(b)が、ラドル1の回転軸Xが湯面からの高さH2の状態のラドル、図2(c)が、ラドル1の回転軸Xが湯面からの高さH3の状態のラドルを示す。尚、図1と同様に、図中のラドルは、見易くするために形状を単純化している。
図2(a)の左端は、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さH1になるようにラドル1を溶湯中に進入させた状態(進入工程)である。この時のラドル1の姿勢を計量姿勢とする。本実施例1においては、計量姿勢が、ラドル1の回転軸Xと直交し、回転軸から離間する方向のラドル1の端部上端が、湯面に対して下端となっている。具体的には、ラドル1を略垂直になるまで下方に回転させた状態である。図示はしていないが、炉の汲み出し部の湯面の上方において、ラドル1をこの計量姿勢となし(計量準備工程)、この計量準備工程の後、計量姿勢を維持させたまま、ラドル1をその回転軸Xの湯面からの高さがH1となるまで溶湯中に進入させる。尚、図1と同様に、回転軸Xと直交し、回転軸Xから離間する方向のラドル1の端部上端の内周面側の点を点Yとする。
この計量姿勢での溶湯中へのラドル進入により、ラドル1の端部上端が溶湯中に進入した直後から、ラドル1が溶湯から受ける浮力を抑制しつつ、ラドル1内に、溶湯を大きく波立たせることなく静かに導入させることができ、溶湯の波立ち等により、汲み出す溶湯に酸化物や空気が混入することを抑制し、汲み出す溶湯の品質を向上させることができることは先に説明したとおりである。
また、進入工程完了後、ラドル1の開口面はその大部分が溶湯中にあり、点Yも溶湯中にある。一方、ラドル1内には、図2(a)中央に示す、本来計量されるべき給湯量v1以外に、不要量v1’が導入されている。本発明に係る計量方法においては、進入工程後、その位置において、ラドル1を上方に回転させ、計量姿勢から、図2(a)の中央に示す、点Yが湯面に到達する状態(回転速度切替姿勢)を経て、図2(a)の右端に示す搬送姿勢となす。図2(a)の中央に示す状態の2点鎖線は、図2(a)の右端に示す、ラドル1の搬送姿勢におけるラドル1の湯面を参考用に示したものである。
先に説明したように、図2(a)の左端及び中央に示す、ラドル1の開口面が溶湯から離間するまで、すなわち、点Yが溶湯中から湯面に到達するまでのラドルの回転動作の間、ラドル内に導入された溶湯の湯面が、炉の汲み出し部の湯面よりも高くなる状態が生じない。そのため、この湯面の高さの差異の位置エネルギが溶湯の運動エネルギとなり、ラドル1の開口面(後端側/点Y)から溶湯がオーバーフローする従来の計量方法とは異なり、本発明に係る計量方法においては、ラドル1内の溶湯は、ラドル1内からオーバーフローすることなく、汲み出し部の溶湯に対して、連続的に、且つ、静的に、計量されるべき給湯量v1として計量される。
また、ラドル1の開口面が溶湯から離間した後、すなわち、点Yが湯面から離間した後も、ラドル1を搬送姿勢となすまでラドル1の上方への回転動作が継続される。この回転動作の継続により、ラドル1から溶湯が最もオーバーフローし易いラドルの後端側の点Yを上昇させ、ラドルからの溶湯のオーバーフローが抑制される。その結果、ラドル1を計量姿勢から搬送姿勢まで上方に回転させる計量工程の間、ラドル1からの溶湯のオーバーフローをほぼ抑制することができ、従来の計量方法に対して、計量精度を向上させることができる。
一方、図2(a)の左端に示す状態(計量姿勢)から中央に示す状態(回転速度切替姿勢)までのラドル1の回転速度を第1ラドル回転速度とし、図2(a)の中央に示す状態から右端に示す状態(搬送姿勢)までのラドル1の回転速度を第2ラドル回転速度とする。この時、第1ラドル回転速度を第2ラドル回転速度より遅く設定しても良い。すなわち、第1ラドル回転速度域においては、計量精度及び溶湯の品質向上を目的として、ラドル1が溶湯から受ける浮力を抑制しつつ、炉の汲み出し部の湯面を波立たせず、ラドル1内に進入した溶湯の湯面が、炉の汲み出し部の湯面よりも高くなる状態が生じないように、ラドル1の回転動作を低速で行わせる。そして、第2ラドル回転速度域においては、点Yからの溶湯のオーバーフローを確実に抑制することを目的として、ラドル1の点Yをできるだけ早く上方へ移動させるように、ラドル1の回転動作を高速で行わせる。このように、同じラドル1の回転動作であっても、その目的が異なる領域で、それぞれ好適な回転速度でラドル1を回転させることにより、計量精度及び溶湯の品質の向上と、計量時間の短縮とを両立させることができる。
図2(a)の右端に示すように、ラドル1を搬送姿勢となした後、図示はしていないが、ラドル1を指定位置へと搬送させる。指定位置までの搬送動作や、指定位置における注湯動作等は、本発明の説明には直接関係ないため、それら動作の説明は割愛する。図2(a)の右端に示すラドル1の搬送姿勢は、ラドル1が略水平の状態であるが、ラドル1の搬送を開始させる際の加速度により、ラドル1内の溶湯が点Yからこぼれないように、図2(a)の右端に示す状態よりも点Yが少し上方になるように、ラドル1を上方へ回転させた姿勢を搬送姿勢としたり、ラドル1の開口面がラドル1の長手方向に一様に平行でなく、点Y側を少し高くした形状にしたりしても良い(図3参照)。
次に、図2(b)の左端は、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さH2になるようにラドル1を溶湯中に進入させた状態である。この図2(b)の左端に示す計量姿勢そのものは、図2(a)の左端と同じであるが、H2は先のH1よりも大きい。進入工程完了後、ラドル1の開口面はその大部分が溶湯中にあり、点Yも溶湯中にある。一方、ラドル1内には、図2(b)中央に示す、本来計量されるべき給湯量v2以外に、不要量v2’が導入されている。
H2がH1より大きいため、給湯量v2は給湯量v1よりも少なく、不要量v2’は不要量v1’よりも少ない。図2(b)の中央に示す状態の2点鎖線は、図2(b)の右端に示す、ラドル1の搬送姿勢におけるラドル1の湯面を参考用に示したものである。図2(b)に示す計量工程においても、図2(a)に示す計量工程で説明したように、ラドル1を計量姿勢から搬送姿勢まで上方に回転させる計量工程の間、ラドル1からの溶湯のオーバーフローをほぼ抑制することができ、従来の計量方法に対して、計量精度を向上させることができる点は同様であるため、詳細な説明は割愛する。
次に、図2(c)の左端は、ラドル1の回転軸Xが、湯面から高さH3になるようにラドル1を溶湯中に進入させた状態である。この図2(c)の左端に示す計量姿勢そのものも、図2(a)の左端と同じであるが、H3は先のH2よりも更に大きい。進入工程完了後、ラドル1の開口面はその一部分が溶湯中にあり、点Yも溶湯中にある。しかしながら、先の図2(a)及び図2(b)に示す状態と異なり、ラドル1内には、本来計量されるべき給湯量v3のみが導入されている。図2(c)に示す計量工程においても、ラドル1を計量姿勢から搬送姿勢まで上方に回転させる計量工程の間、ラドル1からの溶湯のオーバーフローをほぼ抑制することができ、従来の計量方法に対して、計量精度を向上させることができることは言うまでもない。
これまで説明したように、本発明に係る、ラドル給湯装置による計量方法は、汲み出す給湯量をラドルの傾動角度で計量させるのではなく、一定の計量姿勢のラドルの回転軸を所望する給湯量に対応する湯面からの高さに到達させた後、その位置においてラドルを回転させて計量させると共に、そのまま、ラドルを計量姿勢から搬送姿勢まで上方に回転させるため、ラドルの開口面が溶湯から離間する際の、ラドルからの溶湯のオーバーフローを大幅に抑制することができる。その結果、計量精度を向上させることができる。
また、図2に示すように、所望する給湯量に準じた深さだけラドルを溶湯中に進入させるため、従来の計量方法に対して、計量工程において、ラドル内面に溶湯が接触して形成される凝固物を少なくすることができる。特に、給湯量が少ない場合のその差異は顕著であり、その差異は、従来の計量方法を説明する図1(a)と、本発明に係る計量方法を説明する図2(特に図2(c)左端)とを比較すれば明白である。このように、本発明に係る計量方法は、凝固物(膜)の形成の抑制による、給湯量のバラつきや製品不良を減少させる効果も期待できる。
更に、本発明に係る計量方法においては、従来の計量方法に対して、先に説明したような、ラドルを湯面から完全に離間させた停止位置(計量位置)で、ラドルからの溶湯のオーバーフローが弱まるまで、所定時間(計量タイマー)、ラドルを傾動角度の状態で停止させる必要がなく、進入工程及び計量工程の後、すぐに、ラドルを指定位置に搬送することができる。そのため、溶湯を計量するための、ラドルの計量位置、計量位置までのラドルの上方への移動に関する、移動開始加速度、移動速度及び減速加速度、及び、計量位置における停止時間(計量タイマー)等を、回転軸の湯面からの高さ(給湯量)や、ラドルのサイズや、鋳造サイクルに準じて適宜設定する必要がなく、給湯工程に関する諸設定が容易であると共に、給湯工程に要する時間を短縮して、鋳造サイクルを短縮することができる。給湯工程に要する時間の短縮は、給湯する溶湯の品質の向上にも寄与する。
尚、本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく色々な方法で実施できる。実施例1において、進入工程におけるラドル1の計量姿勢を、ラドル1の回転軸Xと直交し、回転軸Xから離間する方向のラドルの1端部上端が、湯面に対して下端となる状態、具体的には、ラドルを略垂直になるまで下方に回転させた状態としたが、図3(a)に示すようなラドル1’の計量姿勢も、ラドル1’の回転軸Xと直交し、回転軸Xから離間する方向のラドル1’の端部上端が、湯面に対して下端となる状態に含まれる。図3は、本発明の実施例1に係る、ラドル給湯装置による計量方法において、ラドルの形状が異なる場合を説明する、ラドルの概略断面図である。図3(a)が計量準備工程、図3(b)が進入工程、図3(c)が計量工程の途中で、ラドルが略垂直の状態、図3(d)が計量工程の途中で、点Yが溶解中から湯面に到達した状態を示す。
図3(a)に示すラドル1’は、実施例1のラドル1と異なり、ラドルの開口面がラドルの長手方向に一様に平行でなく、ラドル後端側(図2における点Y側)を少し高くした形状を有している。ラドル1及びラドル1’のいずれの形状であっても、図3(a)に示すように、計量準備工程において、ラドルを下方へ回転させて、ラドルの開口面が湯面となす角度β(ベータ)が鋭角(<90度)となる計量姿勢となした場合、図3(b)に示すような、この姿勢でのラドル1’の溶湯への進入(進入工程)は、ラドル1が受ける浮力を減少させ、ラドル1’内に溶湯を大きく波立たせることなく静かに溶湯を導入させるために更に好適である。すなわち、図3(a)のような、ラドルを略垂直よりさらに回転させて、ラドルの開口面が湯面となす角度が鋭角となる計量姿勢を、実施例1の図2における計量姿勢(ラドルを略垂直なるまで下方に回転させた計量姿勢)の代わりに採用しても、同様の効果を奏することができる。
進入工程後の計量工程においては、図3(c)に示すように、本来計量されるべき給湯量v4以外に、不要量v4’が導入される状態もある。しかしながら、図3(d)に示すように、計量工程が進行して、ラドル1’の開口面が溶湯から離間する状態、すなわち、点Yが湯面から離間する図3(d)に示す状態に至っては、ラドル1’内の溶湯は、ラドル1’内からオーバーフローすることなく、汲み出し部の溶湯に対して、連続的に、且つ、静的に、計量されるべき給湯量v4として計量されることは先に説明したとおりである。計量工程は、ラドル1’を、図3(d)中に2点鎖線で示す搬送姿勢まで上方に回転させて完了する。
また、本発明に係る計量方法は、給湯量の補正における補正精度をも向上させることができる。図3を参照しながら簡単に説明する。ある鋳造サイクルにおいて、給湯量の過不足が検出され、それらの制御装置等から給湯量補正指令が発せられるとする。先に説明したように、ラドル給湯装置では、給湯量のバラつきが一般的な問題である。そのため、これらのバラつきそのものを抑制して給湯量精度を向上させる方法と並んで、給湯サイクル毎にこれらのバラつきによる給湯量の過不足分を検出して、ラドルの傾動角度等の諸設定値を自動的に変更させ、それら給湯量の過不足分を次の給湯サイクルにおいて補正することにより給湯量精度を向上させる方法が開示されている。
例えば、特許文献2のように、ラドル給湯装置において給湯量の過不足分を検出する方法もあれば、ダイカストマシンの射出装置の、実射出圧力及びその変移点等のモニタリングにより検出する方法や、製品取出装置において、鋳造後の鋳造品重量やビスケット(分流子)厚さ等のモニタリングにより検出する方法等もある。
本発明においては、ラドル給湯装置やダイカストマシンの制御装置には、ラドル1’についての給湯量と湯面からの高さとの関係が予めデータとして入力・記憶されている。同データに基づき、補正すべき給湯量に対応する、進入工程における回転軸Xの湯面からの高さH4に対して、高さ方向に加減する補正量h4(もしくは進入工程における回転軸Xの湯面からの補正高さH4’)が算出される。そして、次の鋳造サイクルの給湯工程において、この補正量h4がフィードバックされた湯面からの高さH4±h4(=湯面からの補正高さH4’)に基づき、進入工程が行われる。
従来の計量方法においては、このような給湯量補正指令に、一般的にはラドルの回転角度(傾動角度)を変更することにより対応する。しかしながら、ラドルの回転動作や回転角度の保持は、ラドルが受ける浮力により、チェーンや歯車等の駆動手段のバックラッシの影響を受けやすいことは先に説明したとおりである。すなわち、微少量の補正を行うため、サーボモータ等の駆動源側回転軸において、いくら高精度で微少回転角度を制御できたとしても、この微少回転動作が伝達される、ラドルの回転軸Xを支持するアームやリンク構造の先端部において、伝達されたラドルの微少回転角度を制御し維持することは難しい。これに対して、本発明に係る計量方法においては、ラドルの回転軸の湯面からの高さを変更することにより給湯量補正指令に対応するため、チェーンや歯車等の駆動手段のバックラッシの影響を受けにくく、微少量の補正にも精度よく対応することができる。
また、図示はしていないが、本発明に係る計量方法の計量準備工程後、ラドルが溶湯に進入するまでの間の所定のタイミングで、炉の汲み出し部の、ラドルを溶湯に進入させる領域の湯面上の酸化物を除去する酸化物除去手段を適宜、作動させても良い。炉によっては、開口している汲み出し部に、湯面に接触させた平板状の部材を、湯面上に平行に移動させて、湯面に形成される酸化物(膜)を除去する酸化物除去手段が配置されたものがある。
図3(a)に示す計量準備工程から、図3(b)に示す進入工程の開始前、そのような酸化物除去手段の作動速度等を鑑みたタイミングで、ラドル給湯装置やダイカストマシンの制御装置から、酸化物除去手段の制御部に、酸化物除去指令を発信させれば、その表面に酸化物(膜)がほとんど形成されていない湯面にラドルを進入させて、進入工程から計量工程において、ラドル内に導入される溶湯に含まれる酸化物の量を減らすことができ、汲み出す溶湯の品質を向上させることができる。炉にこのような酸化物除去手段が配置されていない場合でも、図3(a)に示す計量準備工程において、ラドルの回転軸Xを支持するアームやリンク構造の先端部に、微風でエアブローできるようなエアブロー手段のノズル等を配置させ、このエアブローによりラドルが進入する領域の湯面の酸化物を同領域外へ移動させても良い。このようなエアブローに使用する気体は、溶湯の酸化を促進しないように、窒素ガスのような不活性ガスであることが望ましい。
更に、本発明に係る計量方法は、炉の溶湯を横型ダイカストマシンの射出スリーブの給湯口に搬送・注湯させる、アームやリンク構造を有するラドル給湯装置による計量方法として説明したが、これに限定されるものではない。ダイカストマシンの射出スリーブの給湯口ではなく、炉から汲み出した溶融状態の金属を搬送し、金型や砂型のキャビティの給湯口に直接注湯するラドル給湯装置や、アームやリンク構造ではなく、多軸式の産業用ロボットのアームの先端に、ラドルを回転支持する回転軸を増設した形態のラドル給湯装置にも適用することができる。
ここで、一般的には、実施例1のように、計量工程におけるラドルの回転軸Xは、指定位置での注湯工程におけるラドルの回転軸と同一である。しかしながら、上記のような、多軸式の産業用ロボットをラドル給湯装置の本体として採用した場合、図4に示すように、計量工程におけるラドルの回転軸Xと、注湯工程におけるラドルの回転軸とを別にする形態が可能である。
図4は、ラドル給湯装置による計量方法において、本発明の実施例1とは異なる回転軸周りにラドルを回転させて計量を行わせる例を説明するラドルの概略図である。図4(a)がラドル1”の平面図、図4(b)が図4(a)におけるA−A矢視断面図、図4(c)がA−A矢視断面図による計量工程の説明図である。
図4のラドル1”自体は、実施例1のラドル1やラドル1’と何ら変わることのないラドルである。しかしながら、実施例1における計量工程でのラドル1の回転軸Xに相当する回転軸が、ラドル1”の長手方向と平行な回転軸Zとして、産業用ロボットのアームのエンドエフェクター(関節先端部)に機械的に構成され、実施例1の図2と対比させれば、図4(b)のような状態で、ラドル1”がアームのエンドエフェクターに取り付けられているものとする。
図4(c)は、ラドル1”の回転軸Zが、湯面から高さHになるようにラドル1”を溶湯中に進入させた状態(進入工程)である。この図4の形態においても、計量姿勢が、ラドル1”の回転軸Zと直交し、回転軸から離間する方向のラドル1”の端部上端が、湯面に対して下端となっている。尚、図2と同様に、回転軸Zと直交し、回転軸Zから離間する方向のラドル1”の端部上端の内周面側の点を点Y’とする。この状態でラドル1”内に導入された溶湯は、ラドル1”を上方に回転させ、計量姿勢から、同図に2点鎖線で示す、点Y’が湯面に到達する状態において、計量されるべき給湯量v1が計量される。
この形態における計量工程も、実施例1と基本的に変わらないため、詳細な説明は割愛する。図4のように、回転軸Xと回転軸Yとが直交する形態に限定されず、ラドル給湯装置の本体が多軸の産業ロボットであれば、注湯工程におけるラドルの回転軸とは異なる回転軸周りにラドルを回転させて計量を行わせることができる。この形態であれば、溶湯保持部の深さが比較的浅い、小型の炉や特殊な炉からの溶湯の汲み出しや、特殊な形状のラドルによる汲み出しにおいても、本発明に係る計量方法を実施することができる。指定位置における注湯工程においては、ラドル1”の注湯方向と直交する回転軸Xを仮想回転軸として、産業ロボットの複数の関節の連動動作によりラドル1”を回転軸X周りに回転させて注湯を行わせれば良い。
尚、説明及び図面を簡単にするため、実施例1において、ラドル1及びラドル1’の回転軸Xの、湯面からの高さを検出する湯面高さ検出手段については、説明及び図示を省略している。このような湯面高さ検出手段については、公知のものが適宜採用されれば良く、湯面高さ検出手段が相違しても、湯面高さ検出手段の検出精度や検出特性を除けば、本発明の奏する効果は基本的には同じである。
湯面高さ検出手段としては湯面検知棒が一般的である。具体的には、湯面到達タイミングが異なるように、湯面側の突出長さが異なる複数の電極を、ラドルの回転軸Xを支持するアームやリンク構造の先端部に配置させる。そして、突出長さが異なる少なくとも2本の電極が溶湯に浸漬されることにより、2本の電極間が通電し、湯面到達を検知するものである。湯面検知棒には、湯面側の突出長さが異なる電極を3本以上配置させ、湯面検知後の、意図しない、炉の汲み出し部の湯面上昇を検知して、回転軸が溶湯に没することを回避するものや、炉の汲み出し部の湯面の波立ちや電極間への酸化物の付着による、湯面の誤検知を防止するものもある。
本発明に係る計量方法において、湯面高さ検出手段として、上記のような湯面検知棒が採用される場合、同じラドルで給湯量を変更する際には、ラドルの回転軸Xを、該給湯量に対応する湯面からの高さに到達させるように、湯面検知棒の電極の突出長さを調整すれば良い。
また、湯面検知棒に、電極の突出長さを任意で変更できる伸縮機構を加えれば、同じラドルで給湯量を変更する際や、給湯量補正指令に対応する際の、湯面検知棒の電極の突出長さの調整を自動で行わせることができる。一方、他の湯面高さ検出手段としては、レーザーや赤外線を使用する非接触の距離検出センサや変位センサがある。これらの非接触式センサであれば、ラドル給湯装置の、アームやリンク構造の先端部への配置が容易であると共に、同じラドルで給湯量を変更する際や、給湯量補正指令に対応する際に、ラドルの回転軸Xの湯面からの高さの変更を自動で行わせることができる。
更に、炉の汲み出し部の外部で、炉の熱影響の少ない位置から、ラドルの溶湯中への進入工程をビデオカメラ等で撮影し、画像処理ソフトや画像認識ソフトに撮影動画を取り込んで、ラドルの回転軸Xの湯面からの高さを検出させる方法もある。このような様々な公知の湯面高さ検出手段の中から、給湯量の変更頻度や、給湯量補正の有無等を鑑み、好適な湯面高さ検出手段が適宜採用されれば良い。