本発明の濾過材は、前述した繊度並びに繊維長の繊維を含んだ厚さが0.5mm以上の嵩高繊維シート層を有するため、剛性を有するものであるとともに、濾過材の搬送時、加工時、或いは使用時に、嵩高繊維シート層が変形(特に、厚さ方向に変形)することによって、嵩高繊維シート層に進入している摩擦帯電不織布層の構成繊維同士が摩擦によって帯電しやすいため、帯電量が減少しにくく、捕集効率の低下しにくい濾過材である。
このように、剛性及び変形性に優れているように、嵩高繊維シート層は厚さが0.5mm以上であるが、厚さが厚い程、前記効果に優れているため、1mm以上であるのが好ましく、1.5mm以上であるのがより好ましく、2mm以上であるのが更に好ましく、2.5mm以上であるのが更に好ましい。一方で、厚さが100mmを超えると、形態安定性が悪くなりやすく、また、厚過ぎて汎用性に劣るため100mm以下であるのが好ましく、50mm以下であるのがより好ましく、30mm以下であるのが更に好ましく、20mm以下であるのが更に好ましく、10mm以下であるのが更に好ましく、5mm以下であるのが更に好ましい。本発明における「厚さ」は、圧縮弾性試験機を用いて測定した、1.96kPa荷重時の厚さを意味する。
このような嵩高繊維シート層は、ある程度の剛性と変形性に優れるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、繊維融着、ニードルパンチ、水流絡合、バインダボンドなどの結合手段を1つ、又は2つ以上適用した不織布を挙げることができる。これらの中でも繊維融着不織布又はバインダボンド不織布は剛性と変形性に優れているため好適であり、特に繊維融着不織布は繊維表面全体を濾過に関与させることができるため、より好適である。
この嵩高繊維シート層を構成する繊維は特に限定するものではないが、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維などの合成繊維、レーヨン繊維などの再生繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、ガラス繊維などの無機繊維、綿や麻などの植物繊維、羊毛などの動物繊維、などを挙げることができる。これらの中でも、合成繊維であると、後述の摩擦帯電不織布層の構成繊維と摩擦することによって、摩擦帯電不織布層の帯電量を維持、向上させやすいため好適である。これら合成繊維の中でも、ポリエステル繊維は剛性に優れているため好適である。
なお、前述の通り、嵩高繊維シート層は繊維融着不織布からなるのが好ましいが、このような繊維融着不織布とする場合には、融着可能な樹脂を繊維表面に有する融着繊維を含み、融着繊維が融着しているのが好ましい。このような融着繊維としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を繊維表面に有する融着繊維を挙げることができる。前述の通り、剛性に優れるポリエステル繊維が好ましいため、融着繊維はポリエステル系樹脂を繊維表面に有する融着繊維が好ましい。
この融着繊維は前述のような樹脂を繊維表面に有していれば良く、1種類の樹脂から構成されていても良いが、融着しても繊維形態を維持し、剛性の優れる繊維融着不織布、つまり嵩高繊維シート層であることができるように、融着に関与する繊維表面の樹脂に加えて、融着に関与しない樹脂の2種類以上の樹脂からなる融着繊維であるのが好ましい。例えば、2種類の樹脂から構成されている場合、高融点の樹脂を低融点の樹脂で被覆した芯鞘型融着繊維、高融点の樹脂と低融点の樹脂とを貼り合せたサイドバイサイド型融着繊維、を挙げることができる。特に、芯鞘型融着繊維であると、剛性の優れる嵩高繊維シート層であることができるため好適である。
前述の通り、融着繊維として、ポリエステル系樹脂を繊維表面に有する融着繊維が好適であるため、樹脂の組合せが、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレートの組合せからなるのが好ましく、特に、前記樹脂の組合せが芯成分/鞘成分であるのが好ましい。
なお、嵩高繊維シート層を構成する繊維の繊度は特に限定するものではないが、嵩高繊維シート層によって濾過材の剛性に優れているように、繊度15dtex以上の繊維を含んでいるのが好ましく、繊度18dtex以上の繊維を含んでいるのがより好ましく、繊度20dtex以上の繊維を含んでいるのが更に好ましい。一方で、繊度が大き過ぎると、メカニカルな捕集効率が減少する傾向があるため、50dtex以下であるのが好ましい。このような繊度15dtex以上の繊維が多ければ多い程、濾過材の剛性を高めることができるため、嵩高繊維シート層中、30mass%以上含まれているのが好ましく、45mass%以上含まれているのがより好ましく、65mass%以上含まれているのが更に好ましい。一方で、メカニカルな捕集効率を向上させる観点から、15dtex未満の繊維も含んでいるのが好ましく、12dtex以下の繊維も含んでいるのがより好ましく、10dtex以下の繊維を含んでいるのが更に好ましい。
なお、本発明における「繊度」はJIS L 1015:2010、8.5.1(正量繊度)に規定されているA法により得られる値を意味する。
また、嵩高繊維シート層を構成する繊維の繊維長は特に限定するものではないが、嵩高繊維シート層によって濾過材の剛性に優れているように、30mm以上であるのが好ましく、40mm以上であるのがより好ましく、50mm以上であるのが更に好ましい。一方で、繊維長が長すぎると、繊維が均一に分散することが困難になる傾向があり、結果として、捕集効率が悪くなる傾向があるため、150mm以下であるのが好ましい。本発明における「繊維長」は、JIS L 1015:2010、8.4.1[補正ステープルダイヤグラム法(B法)]により得られる値を意味する。
嵩高繊維シート層の目付は、厚さが0.5mm以上である限り、特に限定するものではないが、剛性があるように、40〜200g/m2であるのが好ましく、70〜150g/m2であるのがより好ましく、90〜110g/m2であるのが更に好ましい。
また、嵩高繊維シート層の見掛密度は、厚さ0.5mm以上である限り、特に限定するものではないが、変形しやすいように、0.02〜0.1g/cm3であるのが好ましく、0.04〜0.08g/cm3であるのがより好ましく、0.05〜0.07g/cm3であるのが更に好ましい。なお、本発明における「見掛密度」は、目付を厚さで除した計算値である。
本発明の濾過材は前述のような嵩高繊維シート層に加えて、構成樹脂の異なる2種類以上の繊維が混在した摩擦帯電不織布層を有しており、摩擦帯電不織布層の構成繊維が嵩高繊維シート層に進入しているため、帯電量が減少しにくく、捕集効率の低下しにくい濾過材である。つまり、本発明の濾過材は、搬送時、加工時、或いは使用時に嵩高繊維シート層が変形しやすく、変形した際に、進入した摩擦帯電不織布層の構成繊維同士が摩擦によって帯電しやすいため、帯電量が減少しにくく、捕集効率の低下しにくい濾過材である。
本発明の摩擦帯電不織布層は構成樹脂の異なる2種類以上の繊維が混在し、摩擦によって帯電した不織布からなるが、この構成繊維は構成樹脂が異なれば、摩擦帯電するが、十分な帯電量であるように、帯電列の離れた樹脂から構成された繊維が混在しているのが好ましい。例えば、ポリオレフィン系繊維とアクリル系繊維の組合せ;フッ素系繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;ウレタン繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;塩化ビニル繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;ポリオレフィン系繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;アクリル繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;ビニロン繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;ポリエステル繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;アセテート繊維とポリアミド繊維、羊毛、ガラス繊維、絹又はレーヨン繊維の組合せ;などを挙げることができる。これらの中でも、ポリオレフィン系繊維とアクリル系繊維の組合せは帯電量が多いため好適な組合せである。
なお、「構成樹脂が異なる」とは、繊維表面(両端部を除く)を構成する構成樹脂が異なることを意味し、仮に、繊維内部を構成する樹脂が他の繊維の構成樹脂と同じであったとしても、繊維表面(両端部を除く)を構成する構成樹脂が異なっていれば、構成樹脂の異なる繊維であるとみなす。
前述の通り、摩擦帯電不織布層の構成繊維はポリオレフィン系繊維とアクリル系繊維の組合せが好ましいが、ポリオレフィン系繊維構成樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、又は、これら樹脂の一部をシアノ基やハロゲンで置換した樹脂などを挙げることができ、ポリオレフィン系繊維はこれら構成樹脂1種類、又は2種類以上からなる複合繊維であることができる。例えば、芯鞘型複合繊維であり、鞘成分がポリオレフィン系樹脂からなるポリオレフィン系繊維であっても良い。
また、好適であるポリオレフィン系繊維の場合、リン系添加剤とイオウ系添加剤を含有しているのが好ましい。リン系添加剤とイオウ系添加剤を含有していることによって、初期捕集効率が向上するためである。なお、リン系添加剤とイオウ系添加剤に加えて、更に、フェノール系、アミン系などの他の添加剤が含まれていても良い。
このリン系添加剤はポリオレフィン系繊維中、0.01mass%以上含有しているのが好ましく、0.2mass%以上含有しているのがより好ましく、0.3mass%以上含有しているのが更に好ましく、0.6mass%以上含有しているのが更に好ましい。
このリン系添加剤としては、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6,ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト、ビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、ビス(ビス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェノキシ)ホスフィノ)などのリン系酸化防止剤を挙げることができる。
イオウ系添加剤としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスなどのイオウ系酸化防止剤などが好適に使用できる。このイオウ系添加剤はポリオレフィン系繊維中、0.01mass%以上含まれているのが好ましく、0.1mass%以上含まれているのがより好ましい。
なお、リン系添加剤とイオウ系添加剤の合計量が多くなると、紡糸性が悪くなる傾向があるため、リン系添加剤とイオウ系添加剤の合計量がポリオレフィン系繊維の5mass%以下であるのが好ましく、2mass%以下であるのがより好ましく、1mass%以下であるのが更に好ましい。
一方、アクリル繊維としては、アクリロニトリルを主成分(85%以上)とするポリアクリロニトリル系と、アクリロニトリルを35%以上85%未満含むモダクリル系のいずれであっても使用することができる。また、ポリアクリロニトリル系繊維は有機系溶媒を用いて紡糸したものと、無機系溶媒を用いて紡糸したものの2種類があるが、いずれのポリアクリロニトリル系繊維であっても良い。
なお、摩擦帯電不織布層の構成繊維として融着繊維を含み、融着繊維が融着していると、剛性の優れる濾過材であることができ、また、繊維が毛羽立ちにくく、繊維の脱落も生じにくいため、摩擦帯電不織布層の構成繊維として融着繊維を含んでいるのが好ましい。
このような融着繊維は嵩高繊維シート層を構成できる融着繊維と同様の融着繊維であることができる。つまり、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を繊維表面に有する融着繊維を挙げることができ、剛性の優れるポリエステル系樹脂を繊維表面に有する融着繊維が好ましい。
また、摩擦帯電不織布層を構成する融着繊維は前述のような樹脂を繊維表面に有していれば良く、1種類の樹脂から構成されていても良いが、剛性の優れる摩擦帯電不織布層であるように、融着に関与する繊維表面の樹脂に加えて、融着に関与しない樹脂の2種類以上の樹脂からなる融着繊維であるのが好ましい。例えば、2種類の樹脂から構成されている場合、高融点の樹脂を低融点の樹脂で被覆した芯鞘型融着繊維、高融点の樹脂と低融点の樹脂とを貼り合せたサイドバイサイド型融着繊維、を挙げることができる。特に、芯鞘型融着繊維であると、剛性の優れる摩擦帯電不織布層であることができるため好適である。
前述の通り、融着繊維として、ポリエステル系樹脂を繊維表面に有する融着繊維が好適であるため、樹脂の組合せが、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレートの組合せからなるのが好ましく、特に、前記樹脂の組合せが芯成分/鞘成分であるのが好ましい。
なお、嵩高繊維シート層が融着繊維を含んでいる場合、摩擦帯電不織布層を構成する融着繊維は嵩高繊維シート層を構成する融着繊維と同じであっても良いし、異なっていても良いが、同じであると、嵩高繊維シート層と摩擦帯電不織布層とが強固に融着しており、層間剥離しにくい濾過材であることができるため好適である。
また、本発明においては、前述の通り、ポリオレフィン系繊維とアクリル繊維とを含んでいるのが好ましいが、融着繊維を含んでいる場合、ポリオレフィン系繊維とアクリル繊維に加えて融着繊維を含んでいても良いし、アクリル繊維に替えて融着繊維を使用し、融着繊維とポリオレフィン系繊維とを含んでいても良い。
なお、摩擦帯電不織布層を構成する繊維の繊度は特に限定するものではないが、繊維の表面積が広いと、繊維同士が擦れやすく、帯電量が多くなって、帯電による捕集効率の向上が望めるため、10dtex以下であるのが好ましく、7dtex以下であるのがより好ましく、5dtex以下であるのが更に好ましく、3dtex以下であるのが更に好ましい。一方で、繊維が細くなり過ぎると、圧力損失が上昇しやすくなる傾向があるため、0.1dtex以上であるのが好ましく、0.5dtex以上であるのがより好ましく、1dtex以上であるのが更に好ましい。
また、摩擦帯電不織布層を構成する繊維の繊維長は特に限定するものではないが、嵩高繊維シート層に進入し、嵩高繊維シート層変形時に摩擦帯電しやすいように、20mm以上であるのが好ましく、35mm以上であるのがより好ましく、50mm以上であるのが更に好ましい。一方で、繊維長が長すぎると、繊維が均一に分散することが困難になる傾向があり、結果として、捕集効率が悪くなる傾向があるため、150mm以下であるのが好ましい。
本発明の摩擦帯電不織布層は、構成樹脂の異なる2種類以上の繊維が混在した層であるが、構成樹脂の異なる繊維の混合比率は効率的に摩擦帯電する比率であれば良く、繊維の組合せによって異なるため、特に限定するものではないが、繊維同士の摩擦によって帯電しやすいように、正に帯電する繊維本数と、負に帯電する繊維本数との比率が、1:0.5〜2であるのが好ましく、1:0.75〜1.5であるのがより好ましく、1:0.8〜1.2であるのが更に好ましい。例えば、好適であるポリオレフィン系繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、密度:0.9g/cm3)と、アクリル系繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、密度:1.14g/cm3)とが混在する場合、ポリオレフィン系繊維とアクリル系繊維は質量比で、およそ39:61〜72:28であるのが好ましく、およそ46:54〜63:37であるのがより好ましく、およそ51:49〜62:38であるのが更に好ましい。
なお、摩擦帯電不織布層が融着繊維を含んでいる場合であっても、繊維同士の摩擦によって帯電しやすいように、正に帯電する繊維本数と、負に帯電する繊維本数との比率が前記比率であるように、融着繊維が混在しているのが好ましい。一般的に、摩擦帯電不織布層の剛性と毛羽立ちを抑えるには、摩擦帯電不織布層の15mass%以上を融着繊維が占めているのが好ましく、20mass%以上を融着繊維が占めているのがより好ましい。一方で、融着繊維量が多くなると、摩擦帯電に関与する繊維量が少なくなり、充分に帯電できない傾向があるため、融着繊維は摩擦帯電不織布層の60mass%以下であるのが好ましく、50mass%以下であるのがより好ましく、40mass%以下であるのが更に好ましい。
本発明の摩擦帯電不織布層の目付は特に限定するものではないが、帯電量が多いように、ある程度の繊維量があるのが好ましいため、20g/m2以上であるのが好ましく、30g/m2以上であるのがより好ましく、40g/m2以上であるのが更に好ましい。一方で、目付が高過ぎると、圧力損失が上昇しにくいように、200g/m2以下であるのが好ましく、180g/m2以下であるのがより好ましく、150g/m2以下であるのが更に好ましい。特に、帯電量が多いように、摩擦帯電不織布層における、摩擦帯電に関与する繊維量は20g/m2以上であるのが好ましく、30g/m2以上であるのがより好ましく、35g/m2以上であるのが更に好ましく、40g/m2以上であるのが更に好ましく、45g/m2以上であるのが更に好ましい。一方、摩擦帯電不織布層における、摩擦帯電に関与する繊維量は圧力損失が上昇しにくいように、200g/m2以下であるのが好ましく、180g/m2以下であるのがより好ましく、150g/m2以下であるのが更に好ましい。
また、摩擦帯電不織布層の厚さも特に限定するものではないが、嵩高繊維シート層だけではなく、摩擦帯電不織布層自体も厚さ方向に変形することによって、嵩高繊維シート層に進入していない摩擦帯電不織布層の構成繊維同士も摩擦して帯電し、帯電量が多くなりやすいように、0.5mm以上であるのが好ましく、1mm以上であるのがより好ましく、1.5mm以上であるのが更に好ましく、2mm以上であるのが更に好ましい。一方で、形態安定性に優れ、汎用性に優れる濾過材であるように、3mm以下であるのが好ましい。
更に、摩擦帯電不織布層の見掛密度は特に限定するものではないが、ある程度の繊維が存在しており、また、繊維同士の摩擦によって帯電する融通性を有するように、0.02〜0.2g/cm3であるのが好ましく、0.05〜0.1g/cm3であるのがより好ましい。
このような摩擦帯電不織布層を構成する繊維は嵩高繊維シート層に進入しており、嵩高繊維シート層変形時(特に厚さ方向変形時)に、摩擦帯電するため、帯電量が減少しにくく、捕集効率の低下しにくい濾過材である。つまり、摩擦帯電不織布層と嵩高繊維シート層とを単に積層した場合のように、摩擦帯電不織布層を構成する繊維が嵩高繊維シート層に進入していない場合には、嵩高繊維シート層が変形したとしても、摩擦帯電不織布層を構成する繊維同士が摩擦により帯電しにくいのに対して、摩擦帯電不織布層を構成する繊維が嵩高繊維シート層に進入しているということは、摩擦帯電不織布層を構成する繊維が濾過材の厚さ方向に配向しているため、嵩高繊維シート層変形時に、摩擦帯電不織布層を構成する繊維同士が摩擦により帯電しやすい。
なお、摩擦帯電不織布層を構成する繊維が嵩高繊維シート層に進入し、摩擦帯電不織布層の構成繊維が嵩高繊維シート層構成繊維と絡合していると、摩擦帯電不織布層と嵩高繊維シート層とが剥離しにくいため好適な態様である。
本発明の濾過材は、前述のような嵩高繊維シート層と摩擦帯電不織布層とを有するものであるが、嵩高繊維シート層の変形による摩擦帯電不織布層の摩擦帯電を阻害しない、嵩高繊維シート層の外側、及び/又は摩擦帯電不織布層の外側に、別の層を有することができる。例えば、ネット、スパンボンド不織布などを積層することによって、濾過材の剛性を更に高めることができ、メルトブロー不織布、湿式不織布、静電紡糸不織布などを積層することによって、濾過性能を高めることができる。更に、摩擦帯電不織布層の外側に別の嵩高繊維シート層を有する、摩擦帯電不織布層を嵩高繊維シート層で挟み込んだ構造であると、更に剛性の優れた濾過材である。
また、本発明の濾過材の目付は特に限定するものではないが、60〜310g/m2であるのが好ましく、100〜230g/m2であるのがより好ましく、130〜170g/m2であるのが更に好ましい。
更に、濾過材の厚さも特に限定するものではないが、厚さ方向に変形しやすく、帯電量が多くなりやすいように、0.5〜103mmであるのが好ましく、1.5〜50mmであるのがより好ましく、2〜30mmであるのが更に好ましく、2.5〜20mmであるのが更に好ましく、3〜10mmであるのが更に好ましく、3〜5mmであるのが更に好ましい。
また、本発明の濾過材は、濾過面積が広く、圧力損失の上昇を抑制できるように、襞折りした状態であるのが好ましいため、嵩高繊維シート層を含み、ある程度の剛性を有しているのが好ましい。より具体的には、JIS L 1913:2010の6.7.4に規定するガーレ法によって測定した剛軟度が1mN以上であるのが好ましく、2.5mN以上であるのがより好ましく、4mN以上であるのが更に好ましい。なお、試験片は、30mm×40mmの大きさの長方形とし、摩擦帯電不織布層側が振り子Bと当接するように、30mmの辺をチャックに固定して測定する。
本発明のフィルタエレメントは前述のような濾過材を襞折りした状態で備えたものである。そのため、剛性を有するとともに、摩擦帯電不織布層の構成繊維同士が摩擦によって帯電しやすいため、帯電量が減少しにくく、捕集効率の低下しにくいフィルタエレメントである。なお、本発明の濾過材は剛性のあるものであるため、良好に襞折り加工を実施して製造できるフィルタエレメントである。
本発明のフィルタエレメントは上述のような濾過材を使用していること以外は、従来のフィルタエレメントと全く同様であることができる。
例えば、襞折り加工は、ジグザグ形状に折って、襞を形成できる限り限定されず、例えば、レシプロ式やロータリー式などのプリーツ加工機、ジグザグ形状に成形された押型でプレスする方法により実施することができる。
また、襞折りした濾過材の外枠による固定は、例えば、ポリ酢酸ビニルなどのホットメルト樹脂を外枠と濾過材との間に介在させることにより行うことができる。なお、外枠としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、各種樹脂、紙、或いは不織布(例えば、本発明の濾過材)からなる外枠を使用することができる。
本発明の濾過材は、前述したとおり、例えば、次の方法により製造することができる。(1)所定の繊度並びに繊維長を有する厚さ0.5mm以上の繊維融着不織布からなる嵩高繊維シートと、構成樹脂の異なる2種類以上の繊維が混在した繊維ウエブ(以下、単に「混在繊維ウエブ」と表記することがある)に由来する不織布層とを積層して積層シートを形成する工程、(2)前記混在繊維ウエブの構成繊維を嵩高繊維シートに進入させ、嵩高繊維シート層と不織布層とを有する一体化シートを形成した後に融着する工程、(3)前記一体化シートを洗浄し、油剤を取り除いた洗浄シートを形成する工程、及び(4)前記洗浄シートを厚さ方向に変形させ、摩擦によって前記不織布層を帯電させ、嵩高繊維シート層と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材を形成する工程、により製造することができる。このような製造方法は、一体化シートを形成した後に、油剤を取り除き、摩擦帯電しやすい状態とした後に、厚さ方向に変形させ、摩擦によって帯電させる方法であり、嵩高繊維シート層と摩擦帯電不織布層とを一体化させる際の熱や水分の影響を受けることなく製造することができ、しかも、搬送時等に厚さ方向に変形させることによって、帯電させることができるため、帯電量が減少しにくく、捕集効率の低下しにくい濾過材を製造することができる。また、嵩高繊維シートを使用しているため、剛性のある濾過材を製造することができる。
より具体的には、まず、(1)厚さ0.5mm以上の嵩高繊維シートと、構成樹脂の異なる2種類以上の繊維が混在した混在繊維ウエブとを積層して積層シートを形成する工程を実施する。厚さ0.5mm以上の嵩高繊維シートは、例えば、前述のような繊維を使用して、カード法、エアレイ法などの乾式法により嵩高繊維シートを形成することができる。なお、本発明の濾過材を構成する嵩高繊維シート層は、繊維融着不織布からなるのが好ましいため、嵩高繊維シートは融着繊維を含む繊維ウエブ(以下、「嵩高用繊維ウエブ」と表記することがある)であるのが好ましい。
一方で、構成樹脂の異なる2種類以上の繊維が混在した混在繊維ウエブは、例えば、前述のような繊維を使用して、カード法、エアレイ法などの乾式法により形成することができる。なお、本発明の濾過材を構成する摩擦帯電不織布層は、前述のような繊維から構成することができるが、摩擦によって帯電しやすいように、ポリオレフィン系繊維とアクリル繊維とを含んでいるのが好ましいため、混在繊維ウエブ中に、ポリオレフィン系繊維とアクリル繊維とを含んでいるのが好ましい。また、摩擦帯電不織布層は剛性や毛羽立ち防止性に優れているように、融着繊維(以下、「帯電層用融着繊維」ということがある)を含んでいるのが好ましいため、ポリオレフィン系繊維又はアクリル繊維に替えて、又はポリオレフィン系繊維とアクリル繊維に加えて、帯電層用融着繊維を含んでいるのが好ましい。
なお、嵩高繊維シートと混在繊維ウエブとを、1層ずつ積層して積層シートとしても良いが、嵩高繊維シートの両面に混在繊維ウエブを積層したり、混在繊維ウエブの両面に嵩高繊維シートを積層するなど、嵩高繊維シート1層と混在繊維ウエブ2層以上、混在繊維ウエブ1層と嵩高繊維シート2層以上、又は、嵩高繊維シート2層以上と混在繊維ウエブ2層以上とを積層して、積層シートとすることができる。
次いで、(2)前記積層シートの混在繊維ウエブ構成繊維を嵩高繊維シートに進入させ、嵩高繊維シート層と不織布層とを有する一体化シートを形成する工程を実施する。この混在繊維ウエブ構成繊維を嵩高繊維シートに進入させる方法は特に限定するものではないが、例えば、積層繊維シートの混在繊維ウエブ側からニードルを作用させる方法、積層繊維シートの混在繊維ウエブ側から水流を作用させる方法、を挙げることができる。これらの中でも、ニードルを作用させる方法であると、混在繊維ウエブ構成繊維が摩擦帯電しやすい厚さ方向に、確実に配向させることができるとともに、嵩高繊維シートの嵩高さを損ないにくいため好適である。また、ニードルを作用させることによって、混在繊維ウエブ構成繊維と嵩高繊維シート構成繊維とが絡合し、嵩高繊維シート層と摩擦帯電不織布層とが層間剥離しにくい濾過材を製造することができる、という特長もある。
この好適であるニードル条件は特に限定するものではないが、混在繊維ウエブ構成繊維が嵩高繊維シートに進入し、厚さ方向に配向するように、針密度30本/cm2以上で作用させるのが好ましく、40本/cm2以上で作用させるのがより好ましい。一方で、針密度が高すぎると、剛性が低下する傾向があるため、100本/cm2以下で作用させるのが好ましい。
このように、積層繊維シートの混在繊維ウエブ側からニードル、水流等を作用させることによって、嵩高繊維シート層と不織布層とを有する一体化シートを形成することができ、混在繊維ウエブ自体もニードルや水流等の作用によって絡合するなど、繊維同士が結合している場合が多いため、一体化後の一体化シートにおける、混在繊維ウエブに由来する層を不織布層と表現している。
続いて、(3)前記一体化シートを洗浄し、油剤を取り除いた洗浄シートを形成する工程を実施する。この工程を実施することにより、後述の洗浄シートの厚さ方向への変形によって、効率良く、摩擦帯電させることができる。このように、一体化シートを形成した後に油剤を取り除いているため、油剤の付着した繊維を使用して混在繊維ウエブを形成できることから、油剤を取り除いた繊維を使用して混在繊維ウエブを形成する場合と比較して、繊維の開繊性に優れているため生産安定性に寄与するとともに、開繊機に対して除電器等の設置の必要がなくなるなど、装置構成を簡潔にできるという効果を奏する。
この一体化シートの洗浄方法は特に限定するものではなく、例えば、アルカリ性水溶液、アルコール、水(温水又は熱水を含む)、又はこれらの混合溶媒で一体化シートを洗浄することによって、油剤を取り除いて、洗浄シートとすることができる。なお、これら溶媒を用いて、2回以上洗浄しても良い。その場合には、同じ溶媒であっても良いし、異なる溶媒であっても良い。
そして、(4)前記洗浄シートを厚さ方向に変形させ、摩擦によって前記不織布層を帯電させることにより、嵩高繊維シート層と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材を形成する工程を実施して、本発明の濾過材を製造することができる。つまり、洗浄シートは嵩高繊維シート層を有しており、この嵩高繊維シート層は嵩高であるが故に、厚さ方向に変形しやすいため、洗浄シートを厚さ方向に変形させると、嵩高繊維シート層が変形するが、この嵩高繊維シート層には、不織布層を構成する構成樹脂の異なる2種類以上の繊維が進入しており、嵩高繊維シート層が変形する際に、進入した不織布構成繊維同士が摩擦帯電して、摩擦帯電不織布層と嵩高繊維シート層とを有する濾過材を製造することができる。
この洗浄シートを厚さ方向に変形させる方法は、不織布層構成繊維が摩擦帯電する限り、特に限定するものではないが、例えば、洗浄シートの厚さよりも狭い間隙を通過させる方法、洗浄シートの搬送方向を急激に変化させる方法、などを挙げることができる。
より具体的には、洗浄シートの厚さよりも狭い間隙を通過させる方法として、図1に模式的断面図を示すように、洗浄シートSの厚さよりも狭い間隙を有するように、若しくは間隙がない(ゲージ:0)ように配置された、一対のローラR1、R2間を通過させる方法、図2に模式的断面図を示すように、洗浄シートSの厚さよりも狭い間隙を有するように、若しくは間隙がないように配置された、一対のプレートP1、P2間を通過させる方法、図3に模式的断面図を示すように、洗浄シートSの厚さよりも狭い間隙を有するように、若しくは間隙がないように配置された、プレートP1とローラR2との間を通過させる方法、図4に模式的断面図を示すように、洗浄シートSの厚さよりも狭い間隙を有するように、若しくは間隙がないように配置された、ローラR1、R2間、及びローラR2、R3間を通過させる方法、などを挙げることができる。これらの中でも図1、4に示すようなローラのみを使用する方法であると、洗浄シートを損傷しにくいため好適である。
なお、これらローラR1〜R2等によって形成される間隙は、洗浄シートの厚さよりも狭ければ良く、特に限定するものではないが、0.1mm以下であるのが好ましい。
また、ローラR1〜R3の表面、プレートP1〜P2の表面は、洗浄シートにおける嵩高繊維シート層全体を厚さ方向に変形させることができるように、凹凸のない平滑面であるのが好ましい。また、不織布層側のローラとして、表面に多数の針を有するローラを用いると、嵩高繊維シート層を厚さ方向へ変形させることができることに加えて、針が不織布層に進入し、不織布層構成繊維を効率的に動かし、繊維同士を擦らせることによって、帯電量の多い摩擦帯電不織布層を形成しやすいため好適である。
更に、このような洗浄シートを厚さ方向に変形させることのできる装置は一組である必要はなく、更に帯電量を多くするために、二組以上を利用して、摩擦帯電させるのが好ましい。なお、二組以上の摩擦帯電装置を有する場合、同じ装置である必要はない。また、二組以上の摩擦帯電装置を有する場合、搬送方向の下流側に位置する摩擦帯電装置ほど、狭い間隙を有する装置とすると、より摩擦帯電量を多くすることができるため好適である。
更に、ローラR1〜R3及び/又はプレートP1〜P2を体積固有抵抗値が1012以上であるような絶縁体から構成すると、ローラR1〜R3及び/又はプレートP1〜P2と洗浄シートとの摩擦によっても帯電するため、ローラR1〜R3及び/又はプレートP1〜P2は前記のような絶縁体から構成されているのが好ましい。
他方、洗浄シートの搬送方向を急激に変化させる方法として、図5に模式的断面図を示すように、ローラR1に沿って、洗浄シートの搬送方向を90°変化させることによって、洗浄シートの厚さ方向に変形させる方法、図示していないが、図5のローラR1に替えてプレートを使用し、プレートに沿って、洗浄シートの搬送方向を90°変化させることによって、洗浄シートの厚さ方向に変形させる方法を挙げることができる。
図5においては、洗浄シートの搬送方向を90°変化させることによって、摩擦帯電させているが、摩擦帯電する限り、90°の変化である必要はないが、搬送方向を変化させることによって、搬送方向変化前の洗浄シートの見掛け上の厚さ(無荷重下における厚さ)の50%以下の厚さに洗浄シートを変形させて、摩擦帯電させることのできる変化であるのが好ましい。
このように搬送方向を変化させる支点として作用するローラ等の表面は、洗浄シートにおける嵩高繊維シート層全体を厚さ方向に変形させることができるように、凹凸のない平滑面であるのが好ましい。また、支点として作用するローラ等として、表面に多数の針を有するローラを用い、洗浄シートの不織布層と当接させると、嵩高繊維シート層を厚さ方向へ変形させることができることに加えて、針が不織布層に進入し、不織布層構成繊維を効率的に動かし、繊維同士を擦らせることによって、帯電量の多い摩擦帯電不織布層を形成しやすいため好適である。
また、搬送方向を急激に変化させて洗浄シートを厚さ方向に変形させることのできる装置は一組である必要はなく、更に帯電量を多くするために、二組以上を利用して、摩擦帯電させるのが好ましい。なお、二組以上の摩擦帯電装置を有する場合、二組とも搬送方向を急激に変化させる装置である必要はなく、前述のような、洗浄シートの厚さよりも狭い間隙を通過させる装置と併用することもできる。また、二組以上の搬送方向を急激に変化させる装置を有する場合、搬送方向の下流側に位置する摩擦帯電装置ほど、厚さ方向における変形量を大きくすると、より摩擦帯電量を多くすることができるため好適である。
更に、搬送方向を変化させる支点として作用するローラ等を、体積固有抵抗値が1012以上であるような絶縁体から構成すると、ローラ等と洗浄シートとの摩擦によっても帯電するため、支点として作用するローラ等は前記のような絶縁体から構成されているのが好ましい。
以上は、本発明の濾過材の基本的な製造方法であるが、前述の通り、嵩高繊維シート層が繊維融着不織布層からなる濾過材であるのが好ましいため、嵩高繊維シートとして融着繊維(以下、「嵩高用融着繊維」ということがある)を含む繊維ウエブ(嵩高用繊維ウエブ)を使用し、一体化シートを形成した後、かつ摩擦により不織布層を帯電させて摩擦帯電不織布層とする前に、前記嵩高用融着繊維を融着させて、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)を形成するのが好ましい。つまり、一体化シートを形成する前に嵩高用融着繊維を融着させてしまうと、混在繊維ウエブ構成繊維を嵩高繊維シートに進入させた際の、混在繊維ウエブ構成繊維と嵩高繊維シート構成繊維との絡みが弱く、洗浄シートを変形させた際に帯電しにくくなる傾向があるとともに、不織布層と嵩高繊維シート層との剥離が生じやすくなる傾向があるためである。一方で、摩擦により不織布層を帯電させて摩擦帯電不織布層とした後に嵩高用融着繊維を融着させてしまうと、融着させる際の熱によって帯電量が少なくなる傾向があるためである。特に、洗浄する前の一体化シートの段階で嵩高用融着繊維を融着させると、一体化シートを洗浄した場合に、洗浄による負荷に耐え、形態を維持しやすいため好適である。
なお、嵩高用融着繊維を融着させて繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)とする方法は、嵩高用融着繊維が融着し、厚さ0.5mm以上の繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)を形成できれば良く、融着条件は嵩高用融着繊維によって、その条件は異なるため、特に限定するものではない。この条件は嵩高用融着繊維に応じて、実験的に適宜設定できる。なお、加熱手段は、例えば、熱風ドライヤー、赤外線ランプ、加熱ロールなどで実施することができるが、熱風ドライヤー、赤外線ランプなどの、固体による圧力が作用しない加熱手段であると、繊維融着不織布層の嵩高性を損なわないため好適である。
なお、前述の通り、剛性に優れ、また、毛羽立ちにくいように、摩擦帯電不織布層の構成繊維として帯電層用融着繊維を含み、融着しているのが好ましいため、帯電層用融着繊維を含む混在繊維ウエブを使用して一体化シートを形成した後、かつ摩擦により不織布層を帯電させて摩擦帯電不織布層とする前に、前記帯電層用融着繊維を融着させて、不織布層を形成するのが好ましい。つまり、一体化シートを形成する前に帯電層用融着繊維を融着させてしまうと、帯電層繊維と嵩高層繊維との一体化シートを形成する際に、帯電層用融着繊維の融着が破壊されてしまい、前記効果が半減してしまう傾向があるためである。一方で、摩擦により不織布層を帯電させて摩擦帯電不織布層とした後に帯電層用融着繊維を融着させてしまうと、融着させる際の熱によって帯電量が少なくなる傾向があるためである。特に、洗浄する前の一体化シートの段階で帯電層用融着繊維を融着させると、一体化シートを洗浄した場合に、洗浄による負荷に耐え、形態を維持しやすいため好適である。
なお、帯電層用融着繊維を融着させて不織布層とする方法は、帯電層用融着繊維が融着すれば良く、融着条件は帯電層用融着繊維によって、その条件は異なるため、特に限定するものではない。この条件は帯電層用融着繊維に応じて、実験的に適宜設定できる。なお、加熱手段は、例えば、熱風ドライヤー、赤外線ランプ、加熱ロールなどで実施することができるが、熱風ドライヤー、赤外線ランプなどの、固体による圧力が作用しない加熱手段であると、不織布層の嵩高性を損なわず、結果的に、嵩高な摩擦帯電不織布層を形成することができ、摩擦帯電不織布層の変形による帯電も利用しやすいため、好適である。
以上のように、嵩高用繊維ウエブが嵩高用融着繊維を含んでいる場合と、混在繊維ウエブが帯電層用融着繊維を含んでいる場合のいずれの場合であっても、一体化シートを形成した後で、摩擦により不織布層を帯電させる前に、嵩高用融着繊維及び/又は帯電層用融着繊維を融着させるのが好ましいため、嵩高用融着繊維と帯電層用融着繊維の両方を含んでいる場合には、同時に融着させるのが、濾過材の製造工程上、好適である。そのため、嵩高用融着繊維と帯電層用融着繊維とが同じであると、温度設定が容易であるため好適である。しかしながら、嵩高用融着繊維と帯電層用融着繊維とが同じである必要はない。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は次の実施例に限定されるものではない。
(芯鞘型融着繊維A)
ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、共重合ポリエステル(融点:110℃)を鞘成分とする芯鞘型融着繊維A(繊度:22dtex、繊維長:64mm、ユニチカエステルT−4080)を用意した。
(芯鞘型融着繊維B)
ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、共重合ポリエステル(融点:110℃)を鞘成分とする芯鞘型融着繊維B(繊度:6.6dtex、繊維長:51mm、ユニチカエステルT−4080)を用意した。
(芯鞘型融着繊維C)
ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、共重合ポリエステル(融点:110℃)を鞘成分とする芯鞘型融着繊維C(繊度:17dtex、繊維長:51mm、HUVIS社製、商品名:LMF)を用意した。
(芯鞘型融着繊維D)
ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、共重合ポリエステル(融点:110℃)を鞘成分とする芯鞘型融着繊維C(繊度:6dtex、繊維長:51mm、HUVIS社製、商品名:LMF)を用意した。
(アクリル繊維)
アクリル繊維として、有機溶媒に溶解させた紡糸液を湿式紡糸したポリアクリロニトリル系アクリル繊維[ボンネル(登録商標)H815、繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、三菱レイヨン製、密度:1.15g/cm3]を用意した。
(ポリプロピレン繊維)
ポリプロピレン繊維として、ウベニットウPP−NM(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、宇部日東化成株式会社製、密度:0.89g/cm3)を用意した。
(スパンボンド不織布)
スパンボンド不織布として、ポリエステルスパンボンド不織布であるマリックス(登録商標、ユニチカ製、目付:20g/m2、厚さ:0.14mm)を用意した。
(実施例1)
(1)芯鞘型融着繊維A(嵩高用融着繊維)65mass%と芯鞘型融着繊維B(嵩高用融着繊維)35mass%とを混綿し、カード機により開繊して、嵩高用繊維ウエブ(目付:100g/m2、厚さ:2.0mm)を形成した。
また、アクリル繊維60mass%とポリプロピレン繊維40mass%とを混綿し(アクリル繊維本数:ポリプロピレン繊維本数=1.16:1)、カード機により開繊して、混在繊維ウエブ(目付:50g/m2、厚さ:1mm)を形成した後、前記嵩高用繊維ウエブを混在繊維ウエブの片面に積層し、積層シートを形成した。
(2)前記積層シートの混在繊維ウエブ側から針密度40本/cm2でニードルを作用させることにより、混在繊維ウエブを構成するアクリル繊維とポリプロピレン繊維の一部を嵩高用繊維ウエブへ進入させるとともに絡合し、嵩高用繊維ウエブ層と混在不織布層とを有する一体化シートを形成した。
(2’)前記一体化シートを温度150℃に設定した熱風ドライヤで熱処理し、嵩高用繊維ウエブ層を構成する芯鞘型融着繊維A及びBの鞘成分のみを融着させ、繊維融着不織布層と混在不織布層とを有する融着一体化シートを形成した。
(3)前記融着一体化シートを温度70℃の温水で6秒洗浄した後、自然乾燥して、油剤を取り除いた洗浄シートを形成した。
(4)前記洗浄シートを搬送しながら、ゲージ0の平滑なゴムロール間を通過させ、厚さ方向に変形させることにより、摩擦によって混在不織布層を帯電させ、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:150g/m2、厚さ:3mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維は繊維融着不織布層に進入)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(実施例2)
(1)芯鞘型融着繊維C(嵩高用融着繊維)65mass%と芯鞘型融着繊維D(嵩高用融着繊維)35mass%とを混綿し、カード機により開繊して、嵩高用繊維ウエブ(目付:100g/m2、厚さ:2.0mm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:150g/m2、厚さ:3mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維は繊維融着不織布層に進入)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(実施例3)
(1)目付150g/m2の嵩高用繊維ウエブ(厚さ:3mm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:200g/m2、厚さ:4mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維は繊維融着不織布層に進入)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(実施例4)
(1)目付50g/m2の嵩高用繊維ウエブ(厚さ:1mm)を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:100g/m2、厚さ:2mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維は繊維融着不織布層に進入)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(実施例5)
(1)実施例1と同様にして、嵩高用繊維ウエブ(目付:100g/m2、厚さ:2mm)を形成した。
また、アクリル繊維45mass%、ポリプロピレン繊維30mass%、及び芯鞘型融着繊維B(帯電層用融着繊維)25mass%とを混綿し(アクリル繊維本数:ポリプロピレン繊維本数=1.16:1)、カード機により開繊して、混在繊維ウエブ(目付:50g/m2、厚さ:1mm)を形成した後、前記嵩高用繊維ウエブを混在繊維ウエブの片面に積層し、積層シートを形成した。
(2)前記積層シートの混在繊維ウエブ側から針密度40本/cm2でニードルを作用させることにより、混在繊維ウエブを構成するアクリル繊維、ポリプロピレン繊維、及び芯鞘型融着繊維Bの一部を嵩高用繊維ウエブへ進入させるとともに絡合し、嵩高用繊維ウエブ層と混在不織布層とを有する一体化シートを形成した。
(2’)前記一体化シートを温度150℃に設定した熱風ドライヤで熱処理し、嵩高用繊維ウエブ層を構成する芯鞘型融着繊維A及びBの鞘成分、及び混在不織布層を構成する芯鞘型融着繊維Bの鞘成分のみを融着させ、繊維融着不織布層と混在不織布層とを有する融着一体化シートを形成した。
(3)前記融着一体化シートを温度70℃の温水で3秒間洗浄し、油剤を取り除いた洗浄シートを形成した。
(4)前記洗浄シートを搬送しながら、ゲージ0の平滑なゴムロール間を通過させ、厚さ方向に変形させることにより、摩擦によって混在不織布層を帯電させ、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:150g/m2、厚さ:3mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維は繊維融着不織布層に進入)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(実施例6)
アクリル繊維30mass%、ポリプロピレン繊維20mass%、及び芯鞘型融着繊維B(帯電層用融着繊維)50mass%とを混綿した(アクリル繊維本数:ポリプロピレン繊維本数=1.16:1)、混在繊維ウエブを使用したこと以外は、実施例5と同様にして、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:150g/m2、厚さ:3mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維は繊維融着不織布層に進入)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(比較例1)
(1)実施例1と同様にして、混在繊維ウエブ(目付:50g/m2、厚さ:1mm)を形成した後、混在繊維ウエブの片面にスパンボンド不織布を積層し、積層シートを形成した。
(2)前記積層シートの混在繊維ウエブ側から針密度40本/cm2でニードルを作用させることにより、混在繊維ウエブを構成するアクリル繊維及びポリプロピレン繊維の一部をスパンボンド不織布へ進入させるとともに絡合し、スパンボンド不織布層と混在不織布層とを有する一体化シートを形成した。
(3)前記一体化シートを温度70℃の温水で3秒間洗浄し、油剤を取り除いた洗浄シートを形成した。
(4)前記洗浄シートを搬送しながら、ゲージ0の平滑なゴムロール間を通過させ、厚さ方向に変形させることにより、摩擦によって混在不織布層を帯電させ、スパンボンド不織布層と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:70g/m2、厚さ:1mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維はスパンボンド不織布層に進入)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(比較例2)
(2)積層シートの混在繊維ウエブ側からニードルを作用させることなく、単に積層した状態のまま、温度150℃に設定した熱風ドライヤで熱処理し、嵩高用繊維ウエブ層を構成する芯鞘型融着繊維A及びB(嵩高用融着繊維)の鞘成分、及び混在不織布層を構成する芯鞘型融着繊維B(帯電層用融着繊維)の鞘成分のみを融着させ、繊維融着不織布層と混在不織布層とを有し、これら層間も融着により接合した、融着一体化シートを形成したこと以外は、実施例5と同様にして、繊維融着不織布層(嵩高繊維シート層)と摩擦帯電不織布層とを有する濾過材(目付:150g/m2、厚さ:3mm、摩擦帯電不織布層の構成繊維は繊維融着不織布層に進入していない)を形成した。この濾過材の物性は表1に示す通りであった。
(濾過材の評価)
(1)捕集効率の測定;
平板状の濾過材を有効間口面積0.04m2のホルダーにセットした後、粒径0.3〜0.5μmの大気塵(大気塵数:U)を濾過材の上流側に供給し、面風速10cm/sec.で空気を通過させた場合における、下流側における大気塵数(D)をパーティクルカウンタ(RION社製:形式KC−01C)で測定し、次式より算出した値を捕集効率とした。この結果は表1に示す通りであった。
捕集効率(%)=[1−(D/U)]×100
(2)剛性の測定;
JIS L 1913:2010の6.7.4に規定するガーレ法によって、剛性を測定した。なお、試験片は30mm×40mmの大きさの長方形とし、摩擦帯電不織布層側が振り子Bと当接するように、30mmの辺をチャックに固定して測定した。この結果は表1に示す通りであった。
(3)毛羽立ちの評価;
JIS L 0849:2013の9.2[摩擦試験機II形(学振形)法]の乾燥試験に則り、試験片の中央部100mm間を、毎分30回の往復速度で、10回摩擦した。その後、目視により、次の基準にしたがって、毛羽立ちの程度を評価した。この結果は表1に示す通りであった。
(評価基準)
○:毛羽立った繊維がほとんど発生しておらず、毛羽立った繊維の絡んだ毛玉は発生していない
△:引張ると脱離する毛羽立った繊維が発生しており、毛羽立った繊維の絡んだ毛玉が少し発生している
×:引張ると容易に脱離する毛羽立った繊維が発生しており、毛羽立った繊維の絡んだ毛玉が多く発生している
実施例4と比較例1との比較から、嵩高繊維シート層の厚さが0.5mm以上であると、捕集効率が高いことがわかった。これは、嵩高繊維シート層が変形しやすいことによって、摩擦帯電不織布層の帯電量が多くなったためであると考えられた。また、嵩高繊維シート層の厚さが0.5mm以上であることによって、剛性も高く、加工性に優れることもわかった。
また、実施例5と比較例2との比較から、摩擦帯電不織布層を構成する繊維が嵩高繊維シート層に進入していると、捕集効率が高いことがわかった。これは、摩擦帯電不織布層を構成する繊維が嵩高繊維シート層に進入していることによって、進入している繊維同士が擦れ合いやすく、摩擦帯電不織布層の帯電量が多くなったためであると考えられた。
また、実施例5と実施例6との比較から、摩擦帯電不織布層を構成する繊維として、摩擦帯電に関与する繊維(実施例5、6の場合には、ポリプロピレン繊維とアクリル繊維)の総量が多い方が、もしくは摩擦帯電不織布層における、摩擦帯電に関与する繊維の比率が高い方が、捕集効率が優れていることがわかった。これは、摩擦帯電しやすいためであると考えられた。