JP6355098B2 - 熱伝導性に優れた高成形用アルミニウム合金板材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献1に記載のアルミニウム合金板材は、Al−Fe系を主成分としてTiもしくはBを特定量含有し、不可避不純物中のSiとCuを特定量以下に規制することで引張強さが90N/mm2以上、耐力が45N/mm2以上であり、伸び40%、局部伸び10%以上を有する、高成形性のアルミニウム合金板として知られている。
また、アルミニウム合金の持つ高い熱伝導性を利用して成形を伴う放熱部材に適用できるアルミニウム合金板の提供が望まれている。
本発明は、質量%で、Si:0.15%以下、Fe:1.00〜1.60%、Ti:0.005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.03%を含有し、残部アルミニウムと不可避不純物の組成を有し、平均結晶粒径25μm以下である熱伝導性に優れた高成形用アルミニウム合金板材に関する。
本発明の熱伝導性に優れた高成形用アルミニウム合金板材の製造方法は、質量%で、Si:0.15%以下、Fe:1.00〜1.60%、Ti:0.005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.03%、Mn:0.01〜0.50%を含有し、残部アルミニウムと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金鋳塊に均質化処理と熱間圧延と冷間圧延を施し、冷間圧延後に中間焼鈍を施すことなく連続焼鈍により焼鈍後に板材の平均結晶粒径を25μm以下とすることを特徴とする。
本発明の製造方法において、前記熱間圧延により圧延後の板材を板厚6mm以下、270℃以下の条件で巻き取ることを特徴とする。
含有成分のうち、Zrは均質化処理中の結晶粒粗大化を抑制し、高温の連続焼鈍条件と組み合わせて熱伝導性を低下させることなく結晶粒の微細化効果を奏する。
Si、Fe、Ti、Zrの含有量を好ましい範囲としていることで冷間圧延後に施す連続焼鈍により平均結晶粒径を25μm以下に制御することができる。
また、Mnを添加することでより高い強度を得ることができる。
連続焼鈍は100℃/秒以上の急速昇温後、450℃以上に10秒以上保持し、100℃/秒以上の冷却速度で急冷する連続焼鈍とすることにより、焼鈍後の板材の平均結晶粒径を25μm以下に確実に調整することができる。
本実施形態のアルミニウム合金板材は、質量%で、Si:0.15%以下、Fe:1.00〜1.60%、Ti:0.005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.03%、必要に応じてMn:0.01〜0.50%を含有し、残部アルミニウムと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金板材である。なお、本明細書において組成範囲の上限と下限を1.00〜1.60%のように〜を用いて表記した場合、特に明記しない限り下限と上限を含むことを意味する。例えば、1.00〜1.60%は、1.00%以上、1.60%以下の範囲を意味する。
また、本実施形態のアルミニウム合金板材は、平均結晶粒径25μm以下である熱伝導性に優れた高成形用アルミニウム合金板材であり、この平均結晶粒径は、前記組成のアルミニウム合金鋳塊から、熱間圧延、冷間圧延により所定厚の板材とした後、中間焼鈍を施すことなく、高温の連続焼鈍を施した後の平均結晶粒径である。
「Si≦0.15質量%」
Siはアルミニウム合金中の不可避不純物として必然的に含まれる元素であるが、成形性を改善するためにSi≦0.15質量%の範囲とする。Si含有量が0.15質量%を超えるとアルミニウム合金材料の成形性が低下して深絞り成形に適したアルミニウム合金板材を得ることが困難となる。
「Fe:1.00〜1.60質量%」
アルミニウム合金中にFeを添加すると、Al−Fe、Al−Fe−Si系晶出物を形成するが、この範囲のFeの添加によって塑性変形中の加工ひずみ蓄積が緩和されるため、成形用板材の加工限界を向上させることができる。また、この晶出物は焼鈍時に再結晶核となるため、連続焼鈍と組み合わせて結晶粒微細化にも寄与する。その効果は、1.00〜1.60%程度の範囲が最も効果的であり、Fe含有量1.00%未満ではその効果が小さく成形時の破断限界を向上させる効果が小さい。一方、Fe含有量1.60%を超えると、熱伝導性および成形性が低下するため、Feの含有量は1.00〜1.60質量%の範囲とした。
Tiは、若干の強度向上とAl−Tiハードナーとして、および、Ti−Bを含むロッドを合金鋳塊の結晶粒微細化目的で添加する。しかし、添加量が多くなると、アルミニウム合金板材の熱伝導性が大きく低下するため、Ti:0.005〜0.02質量%に規制する。
「Zr:0.0005〜0.03質量%」
上述のように、高い熱伝導性を得る目的でTi添加量を制限した場合、合金鋳塊の組織が粗大化する。結晶組織が粗大化した鋳塊は、変形抵抗の増加など熱間圧延性が顕著に低下するためZrを添加する。Zrは高温の均質化処理によって、Al3Zr化合物が分散析出し、熱伝導性を低下させること無く均質化処理中の結晶粒粗大化を抑制する。Zrを0.0005質量%以上添加することでこの効果を得ることができる一方で、Zrを0.03%以上添加すると鋳造中に初晶の巨大化合物を形成する懸念があるため、添加量は0.0005〜0.03質量%の範囲とした。
「Mn:0.01〜0.50質量%」
より高い強度を得る目的で、必要に応じて0.01〜0.50質量%の範囲でMnを添加することができる。Mnは、Al−Mn系、Al−(Mn、Fe)−Si系化合物を形成し、均質化処理によって微細に分散析出するため、引張強さ、耐力値を増大させる効果がある。一方で、0.50質量%以上の添加は熱伝導性を低下させる。
上述のアルミニウム合金板材は、前述の組成のアルミニウム合金鋳塊に対し、均質化処理を施した後、熱間圧延、冷間圧延を行い、冷間圧延後に中間焼鈍を施すことなく、連続焼鈍炉を用い、100℃/秒以上の急速昇温を行い、450℃以上で10秒以上保持後、100℃/秒以上の冷却速度で急速冷却する連続焼鈍(O材処理)を実施して得ることができる。このように得たアルミニウム合金板材の平均結晶粒径は、25μm以下となる。
均質化処理は、550〜610℃の温度で4〜10hrの範囲で実施することが好ましい。550℃以上の温度で熱処理することで溶質元素の拡散が進み、Al−Zr系、Al−Mn系分散粒子が高密度に析出するため、合金鋳塊の結晶粒微細化と熱伝導性向上に寄与できる。
均質化処理温度を610℃以上にすると、アルミニウム合金鋳塊の一部が溶解するおそれがあるなどの問題を生じる。
熱間圧延の終了板厚を6mm未満(6mmは含まない)として仕上げる。熱間圧延後の板厚を6mm未満とするためには、その前パスがその板厚以上で実施される。常法では合金鋳塊を熱間圧延して270℃以下で確実に仕上げるためには、6mm未満とすることが望ましい。さらに、熱間圧延を300℃以下(望ましくは270℃以下)の温度で終了させることで、コイル巻き上げ後のアルミニウム合金板材の1次再結晶は完了せず、板材内部に充分なひずみが残存する。熱間圧延を低温で終了させたことによるこのひずみと、冷間圧延に伴う加工ひずみを導入することで、以下に説明する連続焼鈍でO材処理としたアルミニウム合金材料の結晶粒微細化を図ることができる。
本実施形態のアルミニウム合金板の連続焼鈍(O材処理)は、連続焼鈍炉を利用する。100℃/秒以上の冷却速度と450℃以上で10秒以上保持後、100℃/秒以上の冷却速度で急冷することで再結晶後に微細粒を得て目的の高成形アルミニウム合金板材とすることができる。
連続焼鈍を行う場合、本発明ではZrを添加しているため、粒子の分散状態によっては再結晶が遅延する(再結晶温度が通常よりも高温になる)場合がある。よって、450℃以上で保持することがより好ましい。この連続焼鈍を行う場合の焼鈍温度の上限は、550℃であることが好ましい。この理由は、550℃を超える温度では、再結晶粒が粗大化する場合があることや生産上のエネルギーロスが大きいこと)の問題が生じるためである。
また、先に説明した製造方法によれば、Si、Fe、Ti、Zrの含有量を好ましい範囲としたアルミニウム合金鋳塊に均質化処理と熱間圧延と冷間圧延を施し、冷間圧延後に連続焼鈍を施すことにより、焼鈍後の板材の平均結晶粒径を25μm以下にすることができる。これにより、伸びの値が高く、高成形性に優れるとともに、必要な引張強さと耐力を備え、熱伝導性にも優れたアルミニウム合金板材を製造することができる。
また、熱間圧延後の板材を6mm未満の板厚とし、270℃以下の条件でコイル状に巻き取ることにより、コイル巻き上げ後の1次再結晶を完了させることなく、板材内部にひずみを残留させることができる。この残留させたひずみと冷間加工に伴う加工ひずみの導入により、連続焼鈍後の板材の結晶粒微細化を図ることができる。
続いて、厚さ0.8mmまで冷間圧延したアルミニウム合金板材に、100℃/秒以上の急速昇温、450℃以上で10秒以上保持した後、100℃/秒以上の冷却速度で急速冷却する連続焼鈍(O材処理)を実施し、アルミニウム合金板材を得た。
○:深絞り成形、張出し成形 何れも問題なく成形できた場合
△:張出し成形はできたが、深絞り成形で肌荒れや微小クラックの発生があった場合
×:深絞り成形の工程中に割れが発生して成形できなかった場合
板材断面の結晶粒組織を撮影後、全長500μmを切断法にて測定し、平均結晶粒径を測定した。結晶粒サイズが小さいほど、成形性に優れかつ成形品の肌荒れを生じ難い状態となる。表1に示す実施例1のアルミニウム合金板材の結晶組織写真を図1に示し、比較例1のアルミニウム合金板材の結晶組織写真を図2に示す。
「引張試験」
各アルミニウム合金板材から、JIS Z2241に準じて5号試験片を作製して室温で引張試験を行い、引張強さが100MPa、伸び40%以上のものを合格とした。
「熱伝導率」
熱定数測定装置を用いて、フラッシュ法で熱伝導率を測定した。熱伝導率は高いほど放熱部材として適しており200W/(m・K)であって、表面のブラスト処理や、黒アルマイト処理を行った板材は放熱用部材として好ましい特性を持つ。
以上の測定結果および製造条件をまとめて以下の表1、表2に記載する。
比較例2の試料は、Si含有量の多い試料であるが、伸びが不足し、深絞り成形中に割れが生じた。
比較例4はFe含有量の多い試料であるが、熱伝導率が低下し、成形性も問題を生じた。
比較例5はTi含有量の少ない試料であるが、平均結晶粒径が大きくなり、成形性が低下した。
比較例7はZr含有量の多い試料であるが、熱伝導率が低下した。
比較例8はMn含有量の多い試料であるが、伸びが不足し、成形性に問題を生じるとともに、熱伝導率も低下した。
比較例10の試料は合金1を用いたが、O材処理の保持時間を短くした例であるが、平均結晶粒径が大きく、引張強さと伸びが低下し、成形性にも問題を生じた。
比較例11の試料は合金1を用いたが、O材処理をバッチ処理で実施し、昇温速度を遅く、保持温度を低く、冷却速度も遅くした例であるが、平均結晶粒径が大きく、成形性にも問題を生じた。
Claims (6)
- 質量%で、Si:0.15%以下、Fe:1.00〜1.60%、Ti:0.005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.03%を含有し、残部アルミニウムと不可避不純物の組成を有し、平均結晶粒径25μm以下である熱伝導性に優れた高成形用アルミニウム合金板材。
- 質量%で、Si:0.15%以下、Fe:1.00〜1.60%、Ti:0.005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.03%、Mn:0.01〜0.50%を含有し、残部アルミニウムと不可避不純物の組成を有し、平均結晶粒径25μm以下である熱伝導性に優れた高成形用アルミニウム合金板材。
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- 質量%で、Si:0.15%以下、Fe:1.00〜1.60%、Ti:0.005〜0.02%、Zr:0.0005〜0.03%、Mn:0.01〜0.50%を含有し、残部アルミニウムと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金鋳塊に均質化処理と熱間圧延と冷間圧延を施し、冷間圧延後に中間焼鈍を施すことなく連続焼鈍により焼鈍後に板材の平均結晶粒径を25μm以下とすることを特徴とするアルミニウム合金板材の製造方法。
- 前記連続焼鈍を100℃/秒以上の急速昇温後、450℃以上に10秒以上保持し、その後100℃/秒以上の冷却速度で急冷する焼鈍とすることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のアルミニウム合金板材の製造方法。
- 前記熱間圧延により圧延後の板材を板厚6mm未満、270℃以下の条件で巻き取ることを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金板材の製造方法。
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