JP6345296B2 - アルミニウム製クラッド管及びその製造方法 - Google Patents

アルミニウム製クラッド管及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ルームエアコンの配管、自動車用熱交換器の配管、自動車及び各種産業用機器の配管に用いられ、耐食性に優れたアルミニウム製クラッド管に関する。
従来のアルミニウム製クラッド管としては、3000系の母材にZn溶射により犠牲防食層を付与する方法(特許文献1)、或いは、Al−Zn合金クラッドにより犠牲防食層を付与する方法等(特許文献2)によって、Znにより耐食性を向上させたものが提案されている。
しかしながら、これら先行技術において用いられるZnは、腐食速度を速めるために早期に犠牲防食層が消費されてしまい、目標とする寿命が得られない問題があった。また、Znは将来的に枯渇するとされており、Znを用いない防食手法の確立が求められている。
特開2011−85290号公報 特開平10−46312号公報
本発明は上記問題等に鑑みてなされたものであり、Znを用いずに耐食性に優れたアルミニウム製クラッド管を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明者等は、犠牲陽極材層中におけるMg−Si系晶出物の面密度に注目し、これを所定以下とすることにより十分な防食効果が発揮できることを見出した。更に、本発明者等は、犠牲陽極材層中においてマトリックスより電位の卑な金属間化合物である微細なMg−Si系析出物に着目した。具体的には、Znが存在しない状態においても、この所定の大きさの析出物の体積密度を所定範囲とすることによる防食効果によって十分な耐食性が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は請求項1において、アルミニウム管の心材と、当該心材の内面及び外面の少なくとも一方にクラッドされた犠性陽極材層を備えるアルミニウム製クラッド管において、前記犠性陽極材層が、Si:0.10〜1.50mass%、Mg:0.10〜2.00mass%を含有し、Zn:0.05mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠性陽極材層に存在する円相当直径1.0〜10μmのMg−Si系晶出物が30000個/mm以下であり、175℃で5時間の増感処理後に、前記犠牲陽極材層表面から5μmまでの深さの領域において観察され、当該犠牲陽極材のマトリックスより電位が卑な長さ10〜1000nmのMg−Si系析出物が1000〜50000個/μmであることを特徴とするアルミニウム製クラッド管とした。
本発明は請求項2では請求項1において、前記犠牲陽極材層のアルミニウム合金が、Fe:0.05〜1.00mass%、Ni:0.05〜1.00mass%、Cu:0.05〜1.00mass%、Mn:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種以上を更に含有するものとした。
本発明は請求項3では請求項1又は2において、前記アルミニウム管の心材の内面及び外面の一方に犠性陽極材層がクラッドされており、他方にろう材層がクラッドされているものとした。
また本発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム製クラッド管の製造方法であって、前記犠牲陽極材層用のアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と;犠牲陽極材層用の鋳塊をアルミニウム管の心材の内面及び外面の少なくとも一方に組み合わせてビレットとする組み合わせ工程と;前記ビレットを押出成形する押出成形工程と;を備え、前記半連続鋳造工程における鋳塊表面の冷却速度を1℃/秒以上とし、前記押出成形工程前にビレットを450〜570℃に加熱する加熱工程と;前記押出成形工程後にクラッド押出管を0.1〜1000℃/秒の速度で冷却する冷却工程と;を更に備えることを特徴とするアルミニウム製クラッド管の製造方法とした。
更に本発明は上記アルミニウム製クラッド管の製造方法において、前記冷却工程後に、クラッド押出管を100〜300℃で5分間以上熱処理する熱処理工程を更に備えるものとした。
本発明に係るアルミニウム製クラッド管は、ルームエアコンの配管、自動車用熱交換器の配管、自動車及び各種産業用機器の配管として、大気環境、塩害環境、海水環境、酸性やアルカリ性の特殊環境等においても良好な耐食性を発揮することができる。
1.アルミニウム製クラッド管
1−1.構造
本発明に係るアルミニウム製クラッド管は、ルームエアコンの配管、自動車用熱交換器の配管、自動車及び各種産業用機器の配管などに好適に用いられる。このような配管は、アルミニウム管の心材の内面及び外面のいずれか一方に犠牲陽極材層をクラッドした二層クラッド管として構成される。例えば、犠牲陽極材層側が外部環境に曝される配管外面となるように管状に成形される。管内部が、フロンなどの冷媒の流路となる。
これに代わって、犠牲陽極材層側が配管内面になるように成形してもよい。また、犠牲陽極材層/心材/ろう材層の三クラッド管(犠牲陽極材層が配管の内面又は外面のいずれでもよい)、或いは、犠牲陽極材層/心材/犠牲陽極材層の三層クラッド管を用いて配管を構成してもよい。
アルミニウム合金製クラッド管の犠牲陽極材層の厚さは特に限定されるものではないが、10〜300μmとするのが好ましい。犠牲陽極材層の片面クラッド率は、5〜30%とするのが好ましい。また、犠牲陽極材層/心材/ろう材層の三層クラッド管において、ろう材層の厚さは特に限定されるものではないが、10〜300μmとするのが好ましい。ろう材の片面クラッド率は、5〜30%とするのが好ましい。
1−2.合金組成
次に、本発明に係るアルミニウム製クラッド管における各構成材の組成について説明する。
(a)犠牲陽極材層
犠牲陽極材層は、Si:0.10〜1.50mass%(以下、単に「%」と記す)、Mg:0.10〜2.00%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。すなわち、これらSi及びMgを必須元素とする。Si及びMgは、犠牲陽極材層中にMgとSiを主成分とする微細なMg−Si系析出物を形成する。このMg−Si系析出物は、ろう付後の冷却中や室温においても析出する。
このMg−Si系析出物は、針状のβ’’相(MgSi)であり、Cuが添加されている場合は同一形状のQ’’相(Al−Mg−Si−Cu)である。Mg−Si系析出物は、マトリックスよりも孔食電位が卑であるために優先的に溶解するので、Znを用いることなく犠牲防食効果を発現できる。また、Mg−Si系析出物には、その溶解時にMgが優先的に溶出して表面にSi濃縮層を形成する働きもあり、これによって耐食性が更に向上する。
Si含有量とMg含有量の少なくともいずれか一方が0.10%未満の場合には、強度が低下し、クラッド管製造時に犠牲陽極材層の不均一な伸びが発生し、犠牲陽極材層のクラッド率が不均一となる。Si含有量が1.50%を超えると融点が低下するため、ろう付加熱時に犠牲陽極材層の一部又は全体が溶融してしまう。Mg含有量が2.00%を超えると犠牲陽極材層表面の酸化膜厚さが厚くなり、心材との良好なクラッド板を得るのが困難となる。以上により、犠牲陽極材層のSi含有量を0.10〜1.50%、Mg含有量を0.10〜2.00%と規定する。好ましいSi含有量は0.20〜1.00%であり、好ましいMg含有量は0.30〜1.00%である。
犠牲陽極材層のアルミニウム合金は選択的添加元素として、Fe:0.05〜1.00mass%、Ni:0.05〜1.00mass%、Cu:0.05〜1.00mass%、Mn:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%、V:0.05〜0.30mass%から選択される1種以上を更に含有するのが好ましい。
FeとNiは、耐食性の向上に寄与する。これらの元素はAlの腐食速度を増大させる作用があるが、Fe系化合物やNi系化合物を均一に分布させると腐食が分散し、結果として貫通寿命が向上する。FeとNiの含有量が0.05%未満では、貫通寿命の向上効果が不十分となる。一方、FeとNiの含有量が1.00%を超えると、腐食速度の増大が著しくなる。以上により、FeとNiの含有量は、0.05〜1.00%とするのが好ましく、0.1〜0.5%とするのが更に好ましい。
Cuが含有されることによって、上記Mg−Si系析出物がQ’’相(Al−Mg−Si−Cu)となり、この析出物をより微細に分散させることができる。そのためには、Cu含有量を0.05%以上とするのが好ましい。但し、Cu含有量が1.00%を超えると、腐食速度の増大が著しくなる。以上により、Cu量の含有量は、0.05〜1.00%とするのが好ましく、0.1〜0.5%とするのが更に好ましい。
MnはAl−Mn系金属間化合物として晶出又は析出して、強度の向上に寄与する。また、Al−Mn系金属間化合物はFeを取り込むために、不可避的不純物としてのFe及び耐食性を向上させる目的で添加するFeによる腐食速度増大作用を抑制する働きを有する。これらの効果を得るためには、Mn含有量を0.05%以上とするのが好ましい。但し、Mn含有量が1.50%を超えると、巨大な金属間化合物が晶出して製造性を阻害する場合がある。以上により、Mn量の含有量は、0.05〜1.50%とするのが好ましく、0.1〜1.0%とするのが更に好ましい。
Ti、Zr、Cr及びVは、耐食性、特に耐孔食性の向上に寄与する。アルミニウム合金中に添加されたTi、Zr、Cr、Vは、その濃度の高い領域と濃度の低い領域とに分かれ、それらが犠牲陽極材層の板厚方向に沿って交互に積層状に分布する。ここで、濃度の低い領域は、濃度の高い領域よりも優先的に腐食することにより腐食形態が層状となる。その結果、犠牲陽極材層の板厚方向に沿った腐食に部分的に遅速が生じ、全体として腐食の進行が抑制されて耐孔食性が向上する。このような耐孔食性向上の効果を十分に得るためには、Ti、Zr、Cr、Vの含有量を0.05%以上とするのが好ましい。一方、Ti、Zr、Cr、Vの含有量が0.30%を超えると、鋳造時に粗大な化合物が生成されて製造性を阻害する場合がある。以上により、Ti、Zr、Cr、Vの含有量は0.05〜0.30%とするのが好ましく、0.1〜0.2%とするのが更に好ましい。
以上述べた必須元素及び選択的添加元素の他に不可避的不純物として、Fe、Zn、Na、Ca、Sr等を単独で0.05%以下、合計で0.15%以下含有していても、犠牲陽極材層の作用を損なうことはない。なお、不可避的不純物としてのFeは、選択的添加元素として積極的に含有させない場合に、地金に不純物として存在するものである。
(b)心材
本発明に係るアルミニウム製クラッド管の心材の材質は、アルミニウム材であれば特に限定されるものではない。ここで、アルミニウム材とは、純アルミニウムとアルミニウム合金をいう。純アルミニウムとは、純度99%以上のアルミニウムであって、例えば1000系のアルミニウム材が挙げられる。アルミニウム合金としては、例えばAl−Cu系(2000系)、Al−Mn系(3000系)、Al−Si系(4000系)、Al−Mg系(5000系)、Al−Mg−Si系(6000系)、Al−Mg−Zn系(7000系)等のアルミニウム材が好適に用いられる。
(b)ろう材層
ろう材層に用いられるアルミニウム材は特に限定されるものではないが、通常のろう付において用いられるAl−Si系合金ろう材が好適に用いられる。例えば、JIS4343、4045、4047の各アルミニウム合金(Al−7〜13%Si)を用いるのが好ましい。
1−3.犠牲陽極材層中に存在するMg−Si系晶出物の面密度
本発明に係るアルミニウム製クラッド板の犠牲陽極材層には、円相当直径1.0〜10μmのMg−Si系晶出物が面密度として30000個/mm以下存在する。Mg−Si系晶出物とは、基本的にMgとSiが原子個数比2対1で構成されるものである。この晶出物には、犠牲陽極材層に選択的添加元素としてFeやCuが含有される場合には、MgSiの他にMg−Si−Fe、Mg−Si−Cuの3元組成や、Mg−Si−Fe−Cuの4元組成も含まれる。
粗大なMg−Si系晶出物は、腐食の集中を招き、耐食性を低下させる。この粗大なMg−Si系晶出物は、熱間押出し以降の工程では再固溶できない場合がある。そのため、熱間押出し工程までに晶出物を減少させておく必要がある。
本発明者らが種々検討したところ、犠牲陽極材層中に存在する粗大Mg−Si系晶出物の面密度を所定範囲に規定することにより、上述の犠牲防食層としての機能低下を防止できることを見出した。通常、犠牲陽極材層中に存在するMg−Si系晶出物の大きさは、円相当直径として0.1〜10μmであるが、犠牲防食機能を低下させる粗大なMg−Si系晶出物の大きさは、円相当直径として1.0〜10μmであることが判明した。円相当直径が1.0μm未満のMg−Si系晶出物は、犠牲防食機能を低下させるものではない。また、円相当直径が10μmを超えるMg−Si系晶出物は、均質化処理などの熱処理によって再固溶するため殆ど存在しない。詳細な検討の結果、このような円相当直径1.0〜10μmの粗大Mg−Si系晶出物の面密度が30000個/mmを超えると、腐食が晶出物に集中して犠牲防食機能を大きく低下させることが判明した。なお、この面密度は小さい程好ましく、0個/mmが最も好ましい。
上記Mg−Si系晶出物の面密度は、犠牲陽極材層の任意の部分を顕微鏡観察することによって測定される。例えば、厚さ方向に沿った断面や板材表面と平行な断面を観察するものである。簡便性の観点から、厚さ方向に沿った断面について測定するのが好ましい。なお、面密度は、複数個所の測定値の算術平均値として規定される。
1−4.犠牲陽極材層中のMg−Si系析出物の体積密度
本発明に係るアルミニウム製クラッド管では、犠牲陽極材層表面から所定の深さ領域に存在する微細なMg−Si系析出物の体積密度を所定範囲に規定する。本発明者らは、本発明に係るアルミニウム製クラッド管の犠牲陽極材層がZnを含有しないにも拘わらず犠牲防食効果を発揮することを見出した。これは、犠牲陽極材層に、母材よりも卑な相や生成物が存在することを示唆するものである。検討の結果、顕微鏡観察では視認するのが難しい極めて微細なMg−Si系析出物が、犠牲防食効果発現の要因であることが判明した。このようなMg−Si系析出物はTEMなどの顕微鏡観察では視認するのが難しいが、175℃で5時間の増感処理を施すことにより顕微鏡観察が容易なサイズの針状のMg−Si系析出物が観察された。このことは、元々存在する極めて微細なMg−Si系析出物が増感処理により大きく成長したものと考えられる。本発明者らの更なる検討により、上記の増感処理後において、犠牲陽極材表面から5μmまでの深さの領域で観察される10〜1000nmの長さを示す針状のMg−Si系析出物の体積密度と犠牲防食効果との間に相関関係があることが判明した。なお、本発明者らの分析によれば、このような微細なMg−Si系析出物の増感処理前の元々の長さは、数nm〜50nmであるものと推定される。
そこで、更に検討を重ねたところ、上記増感処理後において長さ10〜1000nmの針状のMg−Si系析出物の体積密度が1000〜50000個/μmの場合に、良好な犠牲防食効果が得られることが判明した。体積密度が1000個/μm未満では、Mg−Si系析出物の析出量が少な過ぎるため犠牲防食効果が不十分であった。一方、体積密度が50000個/μmを超えると、Mg−Si系析出物の析出量が多過ぎるために腐食速度が速くなり過ぎて十分な耐食寿命が得られなかった。
ここで、上記増感処理後に犠牲陽極材表面から5μmまでの深さの領域において観察されるMg−Si系析出物が10nm未満のものについては、増感処理後においても存在を明確に確認できないために対象としなかった。一方、1000nmを超えるものについては、腐食が集中して腐食速度が増大し、耐食性が悪化することが判明した。
Mg−Si系析出物の上記体積密度は、FIB(Focused Ion Beam)で作製した厚さ100〜200nm程度の試験片の100面における50万倍程度のTEM像を任意に複数箇所(5〜10箇所)撮影し、表面から5μmまでの深さの領域において100方向に沿って3方向に析出している長さ10〜1000nmの針状析出物の数を画像処理により測定し、測定体積で割ることで各測定箇所の密度を求めた。そして、複数個所の算術平均値をもって試料の密度分布とした。
2.アルミニウム製クラッド管の製造方法
次に、本発明に係るアルミニウム製クラッド管の製造方法について説明する。この製造方法では、犠性陽極材層用のアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と;犠性陽極材層用の鋳塊をアルミニウム管の心材の内面及び外面の少なくとも一方に組み合わせてビレットとする組み合わせ工程と;ビレットを押出成形する押出成形工程と;を備え、半連続鋳造工程における鋳塊表面の冷却速度を1℃/秒以上とすることを特徴とする。そして、押出成形工程前にビレットを450〜570℃に加熱する加熱工程と;押出成形工程後にクラッド押出管を0.1〜1000℃/秒の速度で冷却する冷却工程と;を更に備えることが好ましい。また、この冷却工程後に、クラッド押出管を100〜300℃で5〜600分間熱処理する熱処理工程を更に備えるのが更に好ましい。
2−1.犠牲陽極材層用鋳塊の半連続鋳造工程における鋳塊表面の冷却速度
犠牲陽極材層用鋳塊は、半連続鋳造工程により製造される。この半連続鋳造工程において、犠性陽極材層用のアルミニウム合金の鋳塊表面の冷却速度を1℃/秒以上とする。冷却速度が1℃/秒未満の場合は、犠牲陽極材中に粗大なMg−Si系晶出物が生成し、Mg−Si系晶出物の適切分布が得られない。冷却速度は鋳塊組織を観察し、デンドライトアームスペーシングから算出することができる(軽金属学会研委員会著 「アルミニウムとデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定法」)。ここで鋳塊表面とは、最表面から30mmまでの範囲を言うものとする。
2−2.心材
アルミニウム材の心材は、常法に従ってDC鋳造法等によって鋳造される。心材の鋳塊は、必要に応じて均質化処理と面削を施してその所定の板厚とするか、或いは、熱間圧延や冷間圧延を更に施して所定の板厚とする。
2−3.ろう材層
ろう材は、常法に従って連続鋳造法等によって鋳造される。ろう材の鋳塊は、必要に応じて面削、熱間圧延、冷間圧延を施して所定の板厚の圧延板とする。
2−4.組み合わせ工程
2層クラッド管の場合には心材鋳塊の内面又は外面の一方に犠牲陽極材用鋳塊を配し、3層クラッド管の場合は他方に犠牲陽極材用鋳塊又はろう材用鋳塊を更に配して組み合わせてビレットとする。
2−6.押出成形工程前の加熱工程
次いで、上記ビレットを、押出成形工程前に450〜570℃に加熱される加熱工程にかけるのが好ましい。この加熱工程により、金属組織を均一にする均質化効果が得られるとともに、粗大なMg−Si系晶出物を再固溶させる。この効果を得るためには、熱処理温度が450℃とするのが好ましい。一方、熱処理温度が570℃を超えると、犠牲陽極材層が溶融するおそれがある。上記効果を得るためには、熱処理工程の保持時間は5分間以上とするのが好ましい。5分間未満では、十分な金属組織均一効果と粗大Mg−Si系晶出物の再固溶効果が得られない場合がある。生産性や経済性の観点から、この保持時間は20時間以下とするのが好ましい。
2−7.押出成形工程
次いで、間接押出機によってビレットを押出してクラッド押出管を得る。押出成形には、通常の間接押出機を使用した押出成形法を用いることができる。
2−8.押出成形工程後の冷却工程
押出成形されたクラッド押出管を、0.1〜1000℃/秒の速度で冷却する冷却工程にかけるのが好ましい。Mg−Si系析出物は冷却中や室温において析出するが、冷却速度が0.1℃/秒未満ではこの析出物が粗大化する場合があり、1000℃/秒を超えると析出が微細になり過ぎる場合がある。なお、この冷却速度は、1〜100℃/秒が更に好ましい。
2−9.冷却工程後の熱処理工程
上記冷却工程後に、クラッド押出管を100〜300℃で5分間以上熱処理する熱処理工程を更に備えるのが好ましい。この熱処理工程により、Mg−Si系析出物の析出を促進させることができる。熱処理温度が100℃未満の場合や熱処理時間が5分未満の場合には、Mg−Si系析出物の析出促進効果が不十分となる場合がある。一方、熱処理温度が300℃を超える場合には、Mg−Si系析出物が再固溶してしまう場合がある。熱処理時間が600分を超えることは、経済的な観点などから好ましくない。150〜250℃で10分間以上熱処理するのが更に好ましい。
2−10.抽伸加工工程
以上のようにして得られるクラッド押出管を、所定の外径と肉厚になるように抽伸加工にかけるのが好ましい。この抽伸加工には、生産性の高いドローブロック式連続抽伸機を使用するのが望ましい。
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
本発明例1〜36、41〜47及び比較例1〜13、37〜40
犠牲陽極材層には、表1に示す組成の合金を用いた。これらの合金を表1に示す鋳塊表面冷却速度で半連続鋳造法により鋳造し面削を施した。心材には、表2に示す組成の合金を用いた。これら心材用合金を半連続鋳造法により鋳造した。心材用鋳塊は、520℃で6時間の均質化処理を行い、所定の厚さに面削した。なお、犠牲陽極材層用鋳塊の板厚及び面削後の心材用鋳塊の厚さは、犠牲陽極材層の片面クラッド率が10%となるように調整した。
Figure 0006345296
Figure 0006345296
次に、心材用鋳塊の片面に犠牲陽極材層用鋳塊を重ねて表3、4に示すように組み合わせてビレットを作製した。表3、4に示す条件で、これらのビレットを押出成形工程前の加熱工程にかけた。次いで、加熱処理したビレットを用いて、間接押出機によって外径47mm、肉厚3.5mmのクラッド押出管を成形した。得られたクラッド押出管を、表3、4に示す条件で押出成形工程後の冷却工程にかけた。更に、冷却したクラッド押出管を表3、4に示す冷却工程後の熱処理工程にかけた。最後に、クラッド押出管をドローブロック式連続抽伸機により抽伸加工を施し、外径10mm、肉厚0.8mm、クラッド率10%の2層クラッド押出管試料を作製した。
Figure 0006345296
Figure 0006345296
以上のようにして作製した2層クラッド押出管試料の特性を、以下のようにして評価した。
(a)犠牲陽極材層中のMg−Si系晶出物の面密度
2層クラッド板試料の犠牲陽極材層からミクロ組織観察用試験片を切出し、厚さ方向の断面におけるMg−Si系の晶出物分布を測定した。SEM(Scanning Electron Microscope)を用い、2500倍の組成像を観察し、5視野選択し、黒く観察されるMg−Si系の晶出物を画像処理により抽出して円相当直径1.0〜10μmの面密度を測定し、5視野の算術平均値を求めた。
(b)犠牲陽極材層中のMg−Si系析出物の体積密度
2層クラッド板試料を、175℃で5時間熱処理した。次いで、犠牲陽極材表面からFIB(Focused Ion Beam)で厚さ100〜200nm程度の試験片を作製した。試料片の表面から5μmまでの深さの領域において、アルミニウムマトリックスの100面に沿って3方向に析出する針状の析出物を、50万倍の倍率で透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて任意に5箇所観察した。各箇所の画像中において、長さ10〜1000nmを有する針状のMg−Si系析出物数を計測した。更に、この針状析出物と直行する点状析出物(針状のものを正面から観察するので点状に見える)のうち100nm以下のものの数も計測し、これらを針状析出物の数と合計したものを、測定体積で割って各観察箇所におけるMg−Si系析出物の体積密度とした。最後に、各観察箇所における体積密度の算術平均値を算出して、試料におけるMg−Si系析出物の体積密度とした。ここで、点状析出物(針状のものを正面から観察するので点状に見える)の数も合計している理由は以下である。すなわち、針状のMg−Si系析出物はアルミニウムマトリックス中の100面に沿って3方向に同様に析出しており、点状に見える析出物も直角方向から見れば長さ10〜1000nmを満たす可能性がある。長さ10nm未満のMg−Si系析出物は透過型電子顕微鏡(TEM)では観察が難しく正面から見ても明確には点として認識・計測できない。長さが1000nmを超える針状のMg−Si系析出物は正面から見た場合、太さが100nmを超えるのでそれは計測から除外した。また、Mg−Si系晶出物が点として見える場合にも直径が200nm以上なのでそれも計測から除外した。
(c)SWAAT試験
2層クラッド板試料を用いて、大気曝露環境を模擬したASTM G85に準じたSWAATを1500時間行った。SWAAT試験後において、試験片の表面の腐食生成物を除去し腐食深さを測定した。測定箇所は10箇所とし、それらの最大値をもって腐食深さとした。腐蝕深さが80μm未満の場合を優良とし、80μm以上の場合と貫通の場合を不良とした。
(d)循環サイクル試験
更なる耐食性の評価として、水系冷媒環境を模擬した循環サイクル試験を行った。Cl:195ppm、SO 2−:60ppm、Cu2+:1ppm、Fe2+:30ppmを含有し温度88℃の水溶液を、上記熱処理した試料片の試験面に対して比液量6mL/cm、流速2m/秒で8時間流通し、その後、試料片を16時間放置した。このような加熱流通と放置からなるサイクルを3ヶ月間行った。循環サイクル試験後において、試験片の表面の腐食生成物を除去し腐食深さを測定した。測定箇所は10箇所とし、それらの最大値をもって腐食深さとした。腐蝕深さが78μm未満の場合を優良とし、78μm以上の場合と貫通の場合を不良とした。なお、心材表面にはマスキングを施し、試験水溶液に触れないようにした。
以上の(a)〜(d)の各評価結果を、表5、6に示す。
Figure 0006345296
Figure 0006345296
表5に示すように、本発明例1〜36では、Mg−Si系晶出物の面密度及びMg−Si系析出物の体積密度が規定範囲内であり、SWAAAT後及び循環サイクル試験による腐食深さが80μm未満で、犠牲陽極材層を貫通するものではなかった。
比較例37〜40では、Mg−Si系晶出物の面密度は規定範囲内であるが、Mg−Si系析出物の体積密度が規定範囲外であるため、SWAAAT後及び循環サイクル試験による腐食深さが80μm程度となって、耐食性が不良であった。
本発明例41〜46では、押出成形後の冷却工程を経たクラッド押出管を熱処理することにより、Si系析出物の体積密度が増大しており、SWAAAT後及び循環サイクル試験による耐食性に更に優れていた。
本発明例47では、熱処理時間が短いために、Si系析出物の体積密度の増大効果が低く、SWAAAT後及び循環サイクル試験による耐食性は未熱処理品と同等であった。
これに対して、表6に示すように比較例1では、犠牲陽極材層用鋳塊の半連続鋳造工程において鋳塊表面の冷却速度が遅かったため、Mg−Si系晶出物の面密度が多かった。その結果、SWAAAT後及び循環サイクル試験による腐食深さが80μmを大きく超え、犠牲陽極材層を貫通して心材の一部まで腐食した。
比較例2では、犠牲陽極材層のSi含有量が少なかったため、犠牲陽極材層の強度が不足し、クラッド管製造時に犠牲陽極材層の不均一な伸びが発生し、犠牲陽極材層のクラッド率が不均一となり、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例3では、犠牲陽極材層のSi含有量が多かったため、押出成形工程後に犠牲陽極材層が溶融した。その結果、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例4では、犠牲陽極材層のMg含有量が少なかったため、犠牲陽極材層の強度が不足し、クラッド管製造時に犠牲陽極材層の不均一な伸びが発生し、犠牲陽極材層のクラッド率が不均一となり、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例5では、犠牲陽極材層のMg含有量が多かったため、押出成形工程において犠牲陽極材層と心材が一部接合されなかった。その結果、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例6では、犠牲陽極材層のFe含有量が多かった。その結果、腐食速度が増大し、SWAAAT後及び循環サイクル試験による腐食深さが80μmを大きく超え、犠牲陽極材層を貫通して心材の一部まで腐食した。
比較例7では、犠牲陽極材層のCu含有量が多かった。その結果、腐食速度が増大し、SWAAAT後及び循環サイクル試験による腐食深さが80μmを大きく超え、犠牲陽極材層を貫通して心材の一部まで腐食した。
比較例8では、犠牲陽極材層のMn含有量が多かったため、鋳造時に割れが発生した。その結果、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例9では、犠牲陽極材層のTi含有量が多かったため、鋳造時に割れが発生した。その結果、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例10では、犠牲陽極材層のZr含有量が多かったため、鋳造時に割れが発生した。その結果、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例11では、犠牲陽極材層のCr含有量が多かったため、鋳造時に割れが発生した。その結果、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
比較例12では、犠牲陽極材層のNi含有量が多かった。その結果、腐食速度が増大し、SWAAAT後及び循環サイクル試験による腐食深さが80μmを大きく超え、犠牲陽極材層を貫通して心材の一部まで腐食した。
比較例13では、犠牲陽極材層のV含有量が多かったため、鋳造時に割れが発生した。その結果、(a)〜(d)の各評価を行なうことができなかった。
本発明により、ルームエアコンの配管、自動車用熱交換器の配管、自動車及び各種産業用機器の配管として、大気環境、塩害環境、海水環境、酸性やアルカリ性の特殊環境等においても良好な耐食性を発揮するアルミニウム製クラッド管が提供される。

Claims (3)

  1. アルミニウム管の心材と、当該心材の内面及び外面の少なくとも一方にクラッドされた犠性陽極材層を備えるアルミニウム製クラッド管において、前記犠性陽極材層が、Si:0.10〜1.50mass%、Mg:0.10〜2.00mass%を含有し、Zn:0.05mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、前記犠性陽極材層に存在する円相当直径1.0〜10μmのMg−Si系晶出物が30000個/mm以下であり、175℃で5時間の増感処理後に、前記犠牲陽極材層表面から5μmまでの深さの領域において観察され、当該犠牲陽極材のマトリックスより電位が卑な長さ10〜1000nmのMg−Si系析出物が1000〜50000個/μmであることを特徴とするアルミニウム製クラッド管。
  2. 前記犠牲陽極材層のアルミニウム合金が、Fe:0.05〜1.00mass%、Ni:0.05〜1.00mass%、Cu:0.05〜1.00mass%、Mn:0.05〜1.50mass%、Ti:0.05〜0.30mass%、Zr:0.05〜0.30mass%、Cr:0.05〜0.30mass%及びV:0.05〜0.30mass%から選択される1種以上を更に含有する、請求項1に記載のアルミニウム製クラッド管。
  3. 前記アルミニウム管の心材の内面及び外面の一方に犠性陽極材層がクラッドされており、他方にろう材層がクラッドされている、請求項1又は2に記載のアルミニウム製クラッド管。
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