JP6341337B1 - アルミニウム合金塑性加工材及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、低ヤング率でありながら、耐力にも優れるアルミニウム合金塑性加工材及びその効率的な製造方法を提供する。本発明に係るアルミニウム合金塑性加工材は、5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl4Ca相を体積率で25%以上有する。また、Al4Ca相は、正方晶のAl4Ca相と単斜晶のAl4Ca相からなり、X線回折測定によって得られる正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)との強度比(I1/I2)が1以下である。
Description
本発明は、低ヤング率でありながら優れた耐力を有するアルミニウム合金塑性加工材及びその製造方法に関するものである。
アルミニウムは、耐食性、導電性、熱伝導性、軽量性、光輝性、被削性等、多くの優れた特性を有するために、様々な用途に活用されている。また、塑性変形抵抗が小さいことから、種々の形状を付与することができ、曲げ加工等の塑性加工が施される部材にも多く使用されている。
ここで、アルミニウム合金の剛性が高い場合、曲げ加工等の塑性加工を行った際にスプリングバック量が大きくなり、寸法精度が得られ難いという問題が存在する。このような状況下、低ヤング率のアルミニウム合金材が切望されており、アルミニウム合金材のヤング率を低下させる方法が検討されている。
例えば、特許文献1(特開2011−105982号公報)では、Al相と、Al4Ca相とを含むアルミニウム合金であって、当該Al4Ca相がAl4Ca晶出物を含み、当該Al4Ca晶出物の長辺の平均値が50μm以下であること、を特徴とするアルミニウム合金が提案されている。
上記特許文献1に開示されているアルミニウム合金においては、マトリックス中におけるAl4Ca晶出物の転位を伴う移動が容易となるので、アルミニウム合金の圧延加工性を顕著に向上させることができる、としている。
しかしながら、例えば電気機器の端子等に代表されるように、アルミニウム合金を用いた製品の寸法精度に対する要求は年々厳しくなっており、耐力は維持しつつ、より剛性の低いアルミニウム合金が求められるようになっている。このような背景において、上記特許文献1のアルミニウム合金では当該要求を十分に満足することができないのが現状である。
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、より低いヤング率でありながら、耐力にも優れるアルミニウム合金塑性加工材及びその効率的な製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、アルミニウム合金塑性加工材及びその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、分散相としてAl4Ca相を用い、当該Al4Ca相の結晶構造を適当に制御すること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、
5.0〜10.0wt%のCaを含み、
残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、
分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であり、
前記Al4Ca相は正方晶のAl4Ca相と単斜晶のAl4Ca相からなり、
X線回折測定によって得られる前記正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、前記単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)が1以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金塑性加工材を提供する。
5.0〜10.0wt%のCaを含み、
残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、
分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であり、
前記Al4Ca相は正方晶のAl4Ca相と単斜晶のAl4Ca相からなり、
X線回折測定によって得られる前記正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、前記単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)が1以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金塑性加工材を提供する。
Caを添加することでAl4Caの化合物が形成し、アルミニウム合金のヤング率を低下させる作用を有する。当該効果はCaの含有量が5.0%以上で顕著となり、逆に10.0%を超えて添加されると鋳造性が低下し、特にDC鋳造等の連続鋳造による鋳造が困難となることから、粉末冶金法等の製造コストの高い方法で製造する必要性が生じる。粉末冶金方法で製造する場合、合金粉末表面に形成された酸化物が製品の中に混入してしまい、耐力を低下させる虞がある。
本発明のアルミニウム合金塑性加工物においては、分散相として用いるAl4Ca相の結晶構造は基本的に正方晶であるが、本願発明者が鋭意研究を行ったところ、Al4Ca相に結晶構造が単斜晶であるものが存在すると耐力があまり低下せず、一方でヤング率は大きく低下することが明らかとなった。ここで、Al4Ca相の体積率を25%以上とし、X線回折測定によって得られる前記正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、前記単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)が1以下である場合に、耐力を維持しつつヤング率を大きく低下させることができる。
また、本発明のアルミニウム合金塑性加工材においては、更に、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、が好ましい。
アルミニウム合金にFeを含有させることにより、凝固温度範囲(固液共存領域)が広がることで鋳造性が向上し、鋳塊の鋳肌が改善される。また、Feの分散晶出物により共晶組織を均一にさせる作用もある。当該効果は、Feの含有量が0.05wt%以上で顕著となり、逆に1.0wt%を超えて含有されると共晶組織が粗くなり、耐力を低下させる虞がある。
Tiは、鋳造組織の微細化材として作用し、鋳造性、押出性、圧延性を向上させる作用を呈する。当該効果は、Tiの含有量が0.005wt%以上で顕著となり、逆に0.05wt%を超えて添加しても鋳造組織の微細化の効果の増加は期待できず、逆に破壊の起点となる粗大な金属間化合物が生成される虞がある。Tiは鋳造の際に、ロッドハードナー(Al−Ti−B合金)を用いて添加することが好ましい。なお、この際にロッドハードナーとしてTiとともに添加されるBは許容される。
更に、本発明のアルミニウム合金塑性加工物においては、前記Al4Ca相の平均結晶粒径が1.5μm以下であること、が好ましい。Al4Ca相の平均粒径が大きくなり過ぎるとアルミニウム合金の耐力が低下してしまうが、平均粒径を1.5μm以下とすることで、当該耐力の低下を抑制することができる。
また、本発明は、
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程と、
100〜300℃の温度範囲で熱処理を施す第二工程と、を有すること、
を特徴とするアルミニウム合金塑性加工材の製造方法も提供する。
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程と、
100〜300℃の温度範囲で熱処理を施す第二工程と、を有すること、
を特徴とするアルミニウム合金塑性加工材の製造方法も提供する。
5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程の後に100〜300℃の温度範囲で熱処理(第二工程)を施すことで、結晶構造が正方晶であるAl4Ca相の一部を単斜晶に変化させることができる。
第二工程における保持温度を100℃未満とすると正方晶から単斜晶への変化が生じ難く、保持温度を300℃以上とするとアルミニウム母材の再結晶が生じ、耐力が低下する虞がある。なお、熱処理のより好ましい温度範囲は160〜240℃である。また、適切な熱処理時間はアルミニウム合金材の大きさ及び形状等によって異なるが、少なくともアルミニウム合金材自体の温度が保持温度に1時間以上保持されることが好ましい。
また、本発明のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法においては、前記アルミニウム合金鋳塊が、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、が好ましい。
アルミニウム合金にFeを含有させることにより、凝固温度範囲(固液共存領域)が広がることで鋳造性が向上し、鋳塊の鋳肌が改善される。また、Feの分散晶出物により共晶組織を均一にさせる作用もある。当該効果は、Feの含有量が0.05wt%以上で顕著となり、逆に1.0wt%を超えて含有されると共晶組織が粗くなり、耐力を低下させる虞がある。
Tiは、鋳造組織の微細化材として作用し、鋳造性、押出性、圧延性を向上させる作用を呈する。当該効果は、Tiの含有量が0.005wt%以上で顕著となり、逆に0.05wt%を超えて添加しても鋳造組織の微細化の効果の増加は期待できず、逆に破壊の起点となる粗大な金属間化合物が生成される虞がある。Tiは鋳造の際に、ロッドハードナー(Al−Ti−B合金)を用いて添加することが好ましい。なお、この際にロッドハードナーとしてTiとともに添加されるBは許容される。
更に、本発明のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法においては、前記第一工程の前に、400℃以上の温度に保持する熱処理を行わないこと、が好ましい。
一般的に、アルミニウム合金を製造する場合、鋳塊を塑性加工する前に400〜600℃の間に保持する均質化処理を行うが、当該均質化処理を行うとアルミニウム合金に含まれるAl4Ca相が大きくになりやすく、平均粒径が1.5μmより大きくなってしまう。当該平均粒径の増大により耐力が低下するため、保持温度が400℃以上となる均質化処理は行わないことが好ましい。
本発明によれば、優れた耐力と低いヤング率を兼ね備えたアルミニウム合金塑性加工材及びその効率的な製造方法を提供することができる。
以下、図面を参照しながら本発明のアルミニウム合金塑性加工材及びその製造方法について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
1.アルミニウム合金塑性加工材
(1)組成
本発明のアルミニウム合金塑性加工材は、5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなる。また、更に、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、が好ましい。
以下、各成分元素についてそれぞれ説明する。
(1)組成
本発明のアルミニウム合金塑性加工材は、5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなる。また、更に、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、が好ましい。
以下、各成分元素についてそれぞれ説明する。
Ca:5.0 〜 10.0wt%(好ましくは6.0〜8.0wt%)
CaはAl4Caの化合物を形成し、アルミニウム合金のヤング率を低下させる作用を有する。当該効果は5.0%以上で顕著となり、逆に10.0%を超えて添加されると鋳造性が低下し、特にDC鋳造等の連続鋳造による鋳造が困難となることから、粉末冶金法等の製造コストの高い方法を用いる必要性が生じる。粉末冶金方法で製造する場合、合金粉末表面に形成された酸化物が製品の中に混入し、耐力を低下させる虞がある。
CaはAl4Caの化合物を形成し、アルミニウム合金のヤング率を低下させる作用を有する。当該効果は5.0%以上で顕著となり、逆に10.0%を超えて添加されると鋳造性が低下し、特にDC鋳造等の連続鋳造による鋳造が困難となることから、粉末冶金法等の製造コストの高い方法を用いる必要性が生じる。粉末冶金方法で製造する場合、合金粉末表面に形成された酸化物が製品の中に混入し、耐力を低下させる虞がある。
Fe:0.05〜1.0wt%
Feを含有させることにより、凝固温度範囲(固液共存領域)が広がり、鋳造性が向上し、鋳塊の鋳肌が改善される。また、Feの分散晶出物により共晶組織を均一にさせる作用もある。当該効果は、0.05wt%以上で顕著となり、逆に1.0wt%を超えて含有されると共晶組織が粗くなり、耐力を低下させる虞がある。
Feを含有させることにより、凝固温度範囲(固液共存領域)が広がり、鋳造性が向上し、鋳塊の鋳肌が改善される。また、Feの分散晶出物により共晶組織を均一にさせる作用もある。当該効果は、0.05wt%以上で顕著となり、逆に1.0wt%を超えて含有されると共晶組織が粗くなり、耐力を低下させる虞がある。
Ti:0.005〜0.05wt%
Tiは鋳造組織の微細化材として作用し、鋳造性、押出性、圧延性を向上させる作用を呈する。当該効果は、0.005wt%以上で顕著となり、逆に0.05wt%を超えて添加しても鋳造組織の微細化の効果の増加は期待できず、逆に破壊の起点となる粗大な金属間化合物が生成される虞がある。Tiは、鋳造の際にロッドハードナー(Al−Ti−B合金)を用いて添加することが好ましい。なお、この際にロッドハードナーとしてTiとともに添加されるBは許容される。
Tiは鋳造組織の微細化材として作用し、鋳造性、押出性、圧延性を向上させる作用を呈する。当該効果は、0.005wt%以上で顕著となり、逆に0.05wt%を超えて添加しても鋳造組織の微細化の効果の増加は期待できず、逆に破壊の起点となる粗大な金属間化合物が生成される虞がある。Tiは、鋳造の際にロッドハードナー(Al−Ti−B合金)を用いて添加することが好ましい。なお、この際にロッドハードナーとしてTiとともに添加されるBは許容される。
その他の成分元素
その他の元素を不可避的不純物として含有することが許容される。
その他の元素を不可避的不純物として含有することが許容される。
(2)組織
本発明のアルミニウム合金塑性加工材は、分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であり、Al4Ca相は正方晶のAl4Ca相と単斜晶のAl4Ca相からなり、X線回折測定によって得られる正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)が1以下である。
本発明のアルミニウム合金塑性加工材は、分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であり、Al4Ca相は正方晶のAl4Ca相と単斜晶のAl4Ca相からなり、X線回折測定によって得られる正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)が1以下である。
分散相であるAl4Ca相には正方晶のAl4Ca相と単斜晶のAl4Ca相が存在するが、これらを合わせたAl4Ca相の体積率が25%以上となっている。Al4Ca相の体積率を25%以上とすることで、アルミニウム合金塑性加工材に優れた耐力を付与することができる。
また、結晶構造に依らず、Al4Ca相の平均結晶粒径は1.5μm以下であることが好ましい。当該平均粒径が1.5μmを超えると、アルミニウム合金塑性加工材の耐力が低下してしまう虞がある。
Al4Ca相の結晶構造は通常正方晶であるが、本願発明者が鋭意研究を行ったところ、Al4Ca相の中に結晶構造が単斜晶であるものが存在する場合、耐力は殆ど低下しないが、ヤング率は大きく低下することを見出した。なお、すべてのAl4Ca相の結晶構造が単斜晶である必要はなく、正方晶のものと混在する状態でよい。結晶構造が単斜晶であるAl4Ca相の存在は、例えば、X線回析法を用いて回折ピークを測定することにより特定することができる。
Al4Ca相に関し、正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)は、Cu−Kα線源を用いた一般的なX線回折測定によって得ることができる。なお、正方晶Al4Caの格子定数はa=0.4354、c=1.118であり、斜方晶Al4Caの格子定数はa=0.6158、b=0.6175、c=1.118、β=88.9°である。
2.アルミニウム合金塑性加工材の製造方法
本発明のアルミニウム合金塑性加工材の工程図を図1に示す。本発明のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法は、アルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程(S01)と、熱処理を施す第二工程(S02)と、を有している。以下、各工程等について説明する。
本発明のアルミニウム合金塑性加工材の工程図を図1に示す。本発明のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法は、アルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程(S01)と、熱処理を施す第二工程(S02)と、を有している。以下、各工程等について説明する。
(1)鋳造
上述の本発明のアルミニウム合金塑性加工材の組成を有するアルミニウム合金溶湯に、従来公知の脱滓処理、脱ガス処理、ろ過処理等の溶湯清浄化処理を施した後、所定の形状に鋳込むことで、鋳塊を得ることができる。
上述の本発明のアルミニウム合金塑性加工材の組成を有するアルミニウム合金溶湯に、従来公知の脱滓処理、脱ガス処理、ろ過処理等の溶湯清浄化処理を施した後、所定の形状に鋳込むことで、鋳塊を得ることができる。
鋳造方法については特に限定されず、従来公知の種々の鋳造方法を用いることができるが、例えば、DC鋳造等の連続鋳造法を用い、第一工程(S01)の塑性加工(押出、圧延、鍛造等)を行いやすい形状に鋳造することが好ましい。なお、鋳造の際にロッドハードナー(Al−Ti−B)を添加し、鋳造性を向上させてもよい。
一般的にアルミニウム合金を製造する場合、鋳塊を塑性加工する前に400〜600℃に保持する均質化処理を行うが、均質化処理を行うとAl4Ca相が大きく(平均粒径1.5μmより大きく)なりやすく、アルミニウム合金の耐力が低下するため、本発明のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法においては当該均質化処理を行わないことが好ましい。
(2)第一工程(S01)
第一工程(S01)は、(1)で得られたアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施し、目的の形状とする工程である。
第一工程(S01)は、(1)で得られたアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施し、目的の形状とする工程である。
押出、圧延、鍛造等の塑性加工は熱間加工と冷間加工のどちらを用いてもよく、またそれらを複数組み合わせてもよい。当該塑性加工を行うことにより、アルミニウム合金が加工組織となり、耐力が向上する。なお、塑性加工を行った段階では、アルミニウム合金に含まれる殆どのAl4Ca相は結晶構造が正方晶である。
(3)第二工程(S02)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で得られたアルミニウム合金塑性加工材に熱処理を施す工程である。
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で得られたアルミニウム合金塑性加工材に熱処理を施す工程である。
第一工程(S01)で塑性加工を施した後のアルミニウム合金塑性加工材を100〜300℃に保持する熱処理を行うことで、結晶構造が正方晶であるAl4Ca相の一部を単斜晶とすることができる。当該正方晶から単斜晶への変化は、保持温度が100℃未満では生じ難い。一方で、保持温度が300℃以上となるとアルミニウム母材の再結晶が生じて耐力が低下する虞があることから、熱処理の保持温度は100〜300℃とすることが好ましく、160〜240℃とすることがより好ましい。
また、最適な熱処理時間は、処理対象となるアルミニウム合金塑性加工材の大きさや形状等により異なるが、少なくともアルミニウム合金塑性加工材の温度が前記保持温度に1時間以上保持されることが好ましい。
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
≪実施例≫
表1に示す組成を有するアルミニウム合金をDC鋳造法により、φ8インチの鋳塊(ビレット)に鋳造した後、均質化処理すること無く、押出温度500℃で横幅180mm×厚さ8mmの平板状に塑性加工した。その後、厚さ5mmまで冷間圧延した後、200℃で、4hr保持する熱処理を行い、実施アルミニウム合金塑性加工材を得た。
表1に示す組成を有するアルミニウム合金をDC鋳造法により、φ8インチの鋳塊(ビレット)に鋳造した後、均質化処理すること無く、押出温度500℃で横幅180mm×厚さ8mmの平板状に塑性加工した。その後、厚さ5mmまで冷間圧延した後、200℃で、4hr保持する熱処理を行い、実施アルミニウム合金塑性加工材を得た。
得られた実施アルミニウム合金塑性加工材3にX線回析を施し、Al4Ca相のピーク位置を測定した。なお、X線回折法は板状のアルミニウム合金塑性加工材から20mm×20mmの試料を切り出し、表層部約500μmを削った後、Cu−Kα線源でθ−2θの測定を行った。得られた結果を図2に示す。なお、正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)を求めたところ、0.956であった。
また、実施アルミニウム合金塑性加工材1〜5からJIS−14B号試験片を切り出し、引張試験によってヤング率と耐力を測定した。得られた結果を表2に示す。加えて、光学顕微鏡による組織観察結果より算出した分散相(Al4Ca相)の体積率も表2に示す。
熱処理の温度を100℃、160℃、240℃及び300℃のいずれかとした以外は実施アルミニウム合金塑性加工材3の場合と同様にして、実施アルミニウム合金塑性加工材6〜9を得た。また、実施アルミニウム合金塑性加工材1〜5の場合と同様に、引張試験によってヤング率と耐力を測定した。得られた結果を表3に示す。
≪比較例≫
表1に示す組成を有するアルミニウム合金をDC鋳造法により、φ8インチの鋳塊(ビレット)に鋳造した後、均質化処理すること無く、押出温度500℃で横幅180mm×厚さ8mmの平板状に塑性加工した。その後、厚さ5mmまで冷間圧延して比較アルミニウム合金塑性加工材1〜5を得た(熱処理なし)。
表1に示す組成を有するアルミニウム合金をDC鋳造法により、φ8インチの鋳塊(ビレット)に鋳造した後、均質化処理すること無く、押出温度500℃で横幅180mm×厚さ8mmの平板状に塑性加工した。その後、厚さ5mmまで冷間圧延して比較アルミニウム合金塑性加工材1〜5を得た(熱処理なし)。
得られた比較アルミニウム合金塑性加工材3にX線回析を施し、Al4Ca相のピーク位置を測定した。なお、X線回折法は板状のアルミニウム合金塑性加工材から20mm×20mmの試料を切り出し、表層部約500μmを削った後、Cu−Kα線源でθ−2θの測定を行った。得られた結果を図2に示す。なお、正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)を求めたところ、1.375であった。
また、比較アルミニウム合金塑性加工材1〜5からJIS−14B号試験片を切り出し、引張試験によってヤング率と耐力を測定した。得られた結果を表2に示す。
熱処理の温度を90℃又は310℃のいずれかとした以外は実施アルミニウム合金塑性加工材3の場合と同様にして、比較アルミニウム合金塑性加工材6及び7を得た。また、比較アルミニウム合金塑性加工材1〜5の場合と同様に、引張試験によってヤング率と耐力を測定した。得られた結果を表3に示す。
鋳塊(ビレット)に鋳造した後、550℃に保持する均質化処理を行ったこと以外は実施アルミニウム合金塑性加工材3と同様にして、比較アルミニウム合金塑性加工材8を得た。また、比較アルミニウム合金塑性加工材8からJIS−14B号試験片を切り出し、引張試験によってヤング率と耐力を測定した。得られた結果を表4に示す。なお、比較データとして、均質化処理の有無のみが異なる実施アルミニウム合金塑性加工材3のヤング率及び耐力も表4に示す。
表2の結果より、同じ組成を有する実施アルミニウム合金塑性加工材と比較アルミニウム合金塑性加工材とを比較すると、本発明のアルミニウム合金塑性加工材(実施アルミニウム合金塑性加工材1〜5)のヤング率は、熱処理を施していない比較アルミニウム合金塑性加工材1〜5のヤング率と比較して大きく低下している。一方で、実施アルミニウム合金塑性加工材1〜5の耐力及び引張強度は、比較アルミニウム合金塑性加工材1〜5と比較して大きく低下していない。なお、本発明のアルミニウム合金塑性加工材における分散相(Al4Ca相)の体積率は25%以上であることが分かる。
表3の結果より、熱処理の保持温度が90℃の場合(比較アルミニウム合金塑性加工材6)はヤング率が高い値を示している(殆ど低下していない)。また、熱処理の保持温度が310℃の場合(比較アルミニウム合金塑性加工材7)は、ヤング率の低下は認められるが、同時に耐力及び引張強度も低下している。当該結果より、熱処理の保持温度が310℃の場合は塑性加工組織の再結晶化が進んだものと思われる。
実施アルミニウム合金塑性加工材3及び比較アルミニウム合金塑性加工材8の光学顕微鏡による組織写真を図3及び図4にそれぞれ示す。当該組織写真において、黒色領域がAl4Ca相であり、画像解析によってAl4Ca相の平均結晶粒径を測定した。得られた結果を表4に示す。
表4の結果より、550℃に保持する均質化処理を施した場合(比較アルミニウム合金塑性加工材8)は、耐力及び引張強度の低下が認められる。ここで、均質化処理によってAl4Ca相の平均結晶粒径が増加し、1.56μmとなっている。当該平均結晶粒径の増加により、耐力及び引張強度が低下したものと考えられる。
Claims (4)
- 5.0〜10.0wt%のCaを含み、
残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、
分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であり、
前記Al 4 Ca相の平均結晶粒径が1.5μm以下であり、
前記Al4Ca相は正方晶のAl4Ca相と単斜晶のAl4Ca相からなり、
X線回折測定によって得られる前記正方晶に起因する最大回折ピーク(I1)と、前記単斜晶に起因する最大回折ピーク(I2)と、の強度比(I1/I2)が1以下であり、
ヤング率及び耐力がそれぞれ54GPa以下及び161MPa以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金塑性加工材。 - 更に、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、
を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金塑性加工材。 - 5.0〜10.0wt%のCaを含み、残部がアルミニウムと不可避的不純物からなり、分散相であるAl4Ca相の体積率が25%以上であるアルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施す第一工程と、
100〜300℃の温度範囲で熱処理を施し、結晶構造が正方晶である前記Al 4 Ca相の一部を単斜晶に変化させる第二工程と、を有し、
前記第一工程の前に、400℃以上の温度に保持する熱処理を行わないこと、
を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法。 - 前記アルミニウム合金鋳塊が、Fe:0.05〜1.0wt%、Ti:0.005〜0.05wt%のうちのいずれか1種類以上を含むこと、
を特徴とする請求項3に記載のアルミニウム合金塑性加工材の製造方法。
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