JP6337375B2 - 空洞充填によるトンネルの補修方法 - Google Patents
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トンネルの形状は背面の全周から荷重を受けると覆工材料に圧縮応力のみが生じるように設計されており,圧縮に強く引張に弱いコンクリートの材料特性を活かすように配慮されている。しかしトンネル天端背面の空洞は荷重状態を乱して引張応力を発生させるため、これを放置するとトンネルの機能低下を招き、トンネルの内面の剥落やクラックの発生などの変状が生じ、大きな問題となる。
このような水路トンネルについては、農業用開水路のフルームのような補修・補強のための手引き書が未整備であるため、現在参考にされているのが、「土地改良事業計画設計基準・設計「水路トンネル」基準書・技術書」(農林水産省構造改善局 平成8年10月)であり、この基準書では、補強工法として例えば、鋼板内張工法や既製管挿入工法が例示されている。
また、特許文献2に開示されたトンネルなどの地中構造物の上方に発生した空隙に発泡ウレタンを充填する際の施工管理方法では、発泡ウレタンの充填状態を感知するため、熱電対を空隙上部に位置させておき、充填材の発泡時の発熱を感知することで、空隙の上部まで発泡ウレタンが充填されたことを確認するようにしている。
そして、これらの工法では、いずれも空隙を完全に発泡ウレタンで満たすことで、補修が完了したとしている。
また、トンネル天端背面の空洞を、充填材を用いて裏込め補修する方法では、裏込め注入における注入圧の標準は0.2MPaとされ、この注入圧によって空洞を完全に埋めることが可能としているが、側壁にひび割れが生じるなどの変状の程度によってはこの注入圧が過大となりさらなるひび割れの発生を助長するなどトンネルの安定性を取り戻すことができないという問題がある。
すなわち、トンネルの設計理論では、覆工に外周から均一な垂直荷重(全周等分布荷重)が作用することを前提とし、覆工内に引張応力が発生しない状態であるとしているのに対し、図1に示すように、トンネル1の天端背面の空洞2によって、覆工の側壁3,3に両側から側圧Pが加わる状態となり、側壁3,3の内面に引張応力が作用して側壁3,3のある一定高さにひび割れ4,4が発生することが分かり、室内模型実験でも確認された。
また、空洞を充填材で裏込めするだけでは、覆工の両側から側壁に加わる圧力(側圧)がそのまま残った状態となる一方、空洞を充填し、トンネル覆工に作用する圧力を全周等分布荷重状態にすることで、トンネル覆工が設計時に想定された応力状態に近づき、トンネルの安定性を取り戻すことができることが分かり、本発明を完成したものである。
これにより、トンネル覆工を全周等分布荷重状態に近づけたり戻すことができ、設計時に想定された荷重状態に近づけトンネルの安定性を取り戻すことができる。
これにより、発泡圧のかけすぎによる新たなひび割れが発生することもなく、構築時に近い状態まで回復させトンネルの安定性を取り戻すことができる。
本発明の空洞充填によるトンネルの補修方法は、トンネル天端背面の空洞に硬質ウレタンフォームを充填して補修する際に、空洞を空洞充填用発泡ウレタンで満たして発泡硬化させ、この空洞充填用ウレタンを介して加圧用発泡ウレタンを注入してトンネル覆工に発泡圧を作用させることで、トンネル覆工の側壁にひび割れを生じさせた引張応力を減少させ、あるいは除去し、これにより、トンネル覆工を全周等分布荷重状態に近づけたり戻すようにして、設計時に想定された荷重状態に近づけトンネルの安定性を取り戻すようにするものである。
また、空洞充填用発泡ウレタンAとしては、フォーム密度が30kg/m3以上のものが良く、次工程で注入する加圧用発泡ウレタンBによる発泡圧を有効に覆工に作用させることができるようにする。フォーム密度が30kg/m3より小さい場合には、発泡硬化した空洞充填用発泡ウレタンAの間に加圧用発泡ウレタンBが入り込んで発泡圧を作用させることができなくなる場合がある。
このような空洞充填用発泡ウレタンAとしては、上記のゲルタイムやフォーム密度のほか、例えばイソシアネート液Iとポリオール液Rとの混合比が重量比で、100:74±3、クリームタイムが9〜19秒の範囲のものが用いられる。
この模型実験では、図2に示すように、鋼材を用いてトンネル1の上部の空洞2を模擬した内径が半径1250mmの地山壁5と半径1000mmの覆工壁6とを備えた2重構造のライナープレートによる側壁を備えた模型水路トンネル7を用意した。なお、トンネルの軸方向の長さ(延長)は1500mmである。
また、加圧用発泡ウレタンBにより加わる圧力を模型水路トンネルの内側の表面に圧力センサを設置して圧力を計測することで行った。なお、圧力センサを発泡熱から保護するため油粘土で表面を覆うようにした。
加圧用発泡ウレタンBの注入は、図3に示すように、模型水路トンネル7の空洞2に対し充填位置の異なる3つのケースで実験を行い、発泡硬化した空洞充填用発泡ウレタンAの上側に注入するケース1(図3(a)参照)、両脇に注入し発泡硬化した空洞充填用発泡ウレタンAの中央部に注入するケース2(図3(b)参照)、発泡硬化した空洞充填用発泡ウレタンAの下側に注入するケース3(図3(c)参照)について実験を行った。
なお、空洞充填用発泡ウレタンAを天端両脇に注入後、中央部に加圧用発泡ウレタンBを注入するケース2の場合には、空洞充填用発泡ウレタンAを空洞部全体に注入後、解体により中央部の空洞充填用発泡ウレタンAを取り除いた後、加圧用発泡ウレタンBを注入した。
ケース1〜3のいずれも空洞充填用発泡ウレタンAは、トンネルの延長方向中心部の注入口から注入することで、トンネル天端の空洞部に十分充填できることが熱電対による温度計測および解体後の目視で確認できた。
これにより、1つの注入口から注入範囲は、半径1500mmとすることが可能であると考えられる。
次に、ケース1〜3の加圧用発泡ウレタンBの注入結果から空洞充填用発泡ウレタンAの発泡硬化後に加圧用発泡ウレタンBを注入充填できることが分かった。
さらに、加圧用発泡ウレタンBの充填位置によってトンネル覆工に相当する内側のライナープレートに及ぼす圧力が異なり、図4(a)〜(c)に示すように、ケース1の空洞充填用発泡ウレタンAの上側またはケース3の下側に注入充填することが有効であり、最も発泡圧を有効に作用させることができるのは、ケース1の空洞充填用発泡ウレタンAの上側に注入充填する場合であることが分かった。
なお、ケース2の中央部に加圧用発泡ウレタンBを注入充填する場合には、トンネル覆工に相当する内側のライナープレートへの圧力の作用はわずかであり、これは両側の空洞充填用発泡ウレタンAに発泡圧が作用したものと考えられる。
また、加圧用発泡ウレタンBとしては、フォーム密度が空洞充填用発泡ウレタンAと略同一のものであれば良く、フォーム密度が30kg/m3以上のものが用いられる。これにより、発泡硬化した空洞充填用発泡ウレタンAの間に加圧用発泡ウレタンBが入り込んで発泡圧を作用させることができなくなることもなく、発泡圧を有効に作用させることができる。
このような加圧用発泡ウレタンBとしては、上記のゲルタイムやフォーム密度のほか、例えばイソシアネート液Iとポリオール液Rとの混合比が重量比で、100:100±3、クリームタイムが9〜19秒の範囲のものが用いられる。
以上の模型水路トンネルを用いた実験により空洞充填用発泡ウレタンAを注入して空洞を埋めた後、発泡硬化した空洞充填用発泡ウレタンAを介して加圧用発泡ウレタンBを注入して発泡圧をトンネル覆工に作用させることができることが確認できた。
この現地調査では、1)−1.トンネルと地山との空洞量、1)−2.トンネル躯体の断面形状(巻厚や内空断面)、1)−3,4.躯体コンクリートの状態(強度やひび割れ)などの調査のほか、必要に応じて測量などを行う。
空洞量についての調査は、例えばレーダー探査を行うことで、連続的かつ迅速に把握することが可能である。計測は、例えば天端位置に加え、中心角度左右30度よび60度に設定した軸方向の5測線に対して行い、躯体コンクリートの巻厚をコア抜きなどにより確認し、キャリブレーションを行うことで、計測精度の向上を図る。巻厚の調査では,軸方向の調査に加えて横断面方向のレーダー探査を行うことが有効である。
また、空洞および巻厚に対する追加調査としてCCDカメラを用いることができる。躯体コンクリートに直径20mm程度の孔を削孔し、CCDカメラによる目視をあわせて行う。
レーダー探査による空洞の調査結果の一例を図6,7に示した。図6は縦断面方向の空洞の3測線における調査結果であり、図7は横断面方向の空洞の2箇所における調査結果である。
このレーザー式内空断面計測器による計測結果の一例を標準断面とともに、図8に示した。
さらに、側面クラックについても調査し、その位置やクラック幅について計測する。側面クラック計測の結果の一例を左側面および右側面について図9に示した。
なお、現地調査にともなうコア抜き部分、CCDカメラ用の削孔部分、圧縮試験などの供試体の穿孔部分は無収縮モルタルなどの充填で補修する。
次いで、現況背面圧力の推定値を基に、有限要素法による数値解析による加圧用発泡ウレタンBの限界注入圧力の設定を行う。
(1)躯体条件 :覆工巻厚、躯体コンクリートの圧縮強度
(2)地山条件 :躯体天端の空洞の位置と大きさ
(3)底版支持条件:計算上の仮定で代替(調査極めて困難)
(1)空洞を背面圧力が作用しない領域として表現する。
(2)躯体底版の支持条件をP1:完全固定(基礎が実際より強固)
P2:単純支承(基礎が実際より弱い)と仮定
(3)現場の躯体と同様のひび割れが生じる背面圧力L1と、現場の状況を超えるひび割れにいたる背面圧力L2を、それぞれの底版支持条件に対し計算し、4つの値、L1(P1),L2(P1),L1(P2),L2(P2)を求める。
(1)上記の支持条件および荷重条件の4つの組合せに基づいて、躯体に新たなひび割れを生じさせてしまう4つの充填圧力UPを有限要素法による数値解析で求める。
(2)得られた4つの充填圧力UP1(L1P1),UP2(L2P1),UP3(L1P2),UP4(L2P2)のうち、最小のものを限界注入圧力UPとする。
なお、想定荷重は等方等圧(塑性圧に近い岩圧)とし、破壊の定義として解析が収束しなくなった荷重を破壊荷重とした。
また、解析プログラムとしてコンクリート構造物の破壊解析が可能なATENAを使用した。
底版固定(P1)での解析結果
スプリングライン内側にひび割れ:0.63MPa(L1(P1))
天端内側の圧壊 :1.16MPa(L2(P1))
覆工破壊 :1.30MPa(破壊モード:アーチと側壁の曲げ破壊)
よって、スプリングライン内側にひび割れが生じており、かつ天端内側に圧壊がみられない現状から判断して.岩圧は0.63MPaから1.16MPaの間にあると推定される。
単純支承での解析結果(P2)
スプリングライン内側にひび割れ:0.128MPa(L1(P2))
覆工破壊 :0.129MPa(破壊モード:インバートの曲げ破壊)
よって、岩圧は0.128MPa程度であると推定される。
想定岩圧0.63MPaの破壊充填圧 :2.00MPa以上(U1(L1P1))
想定岩圧1.16MPaの破壊充填圧 :0.60MPa(U2(L2P1))
想定岩圧0.128MPaの破壊充填圧:0.62MPa(U3(L1P2))
よって、最小の破壊充填圧から限界注入圧力を0.60MPaと設定することができる。
なお、以上の有限要素法による数値解析では、全ての解析条件において、充填圧力0.20MPaでは、破壊に至らないとの結果が得られた。
この加圧用発泡ウレタンBの充填施工の管理と、施工中の安全性の確保のため、トンネルの挙動を、例えば、次の3つの方法で計測する。
(1)レーザー変位計を施工対象トンネルのバレルの上流端から7.5mの位置に設置し、天端、左右スプリングラインの3測点で躯体変位を計測。
(2)パイ型変位計をバレルの上流端から4mと6mの位置に設置し、左右側壁のひび割れ幅の変動を計測。
(3)コンタクトゲージにより、施工前後のひび割れ幅の計測(右側壁8測点、左側壁7測点、合計15測点)。
5)−1.トンネル覆工の天端背面の空洞の調査結果に基づき、注入孔を削孔し、注入管を設置する。
5)−2,3.空洞充填用発泡ウレタンAを発砲注入するため発泡設備を用意し、イソシアネート液I、ポリオール液R、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を所定のフォーム密度やゲルタイムなどの特性となるように混合し、予備発泡を行いキャリブレーションにより2液の配合比率と流量計の精度の確認を行なうとともに、発泡状態の確認を行なう。
5)−4.発泡設備のミキシングヘッドと注入管を注入ホースで接続し、空洞充填用発泡ウレタンAを空洞に注入する。空洞への注入は、注入量と注入圧力を管理する。
なお、空洞内に設けた温度センサや圧力センサによる圧力測定で隙間なく充填されたことを確認するようにすることもできる。
6)−1.このため、発泡硬化させた空洞充填用発泡ウレタンAの上側に注入するための注入孔を削孔し、注入ノズルを取り付ける。
6)−2.加圧用発泡ウレタンBを発砲注入するため発泡設備を用意し、イソシアネート液I、ポリオール液R、触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤を所定のフォーム密度やゲルタイムなどの特性となるように混合し、予備発泡を行いキャリブレーションにより2液の配合比率と流量計の精度の確認を行なうとともに、発泡状態の確認を行なう。
6)−3.発泡設備のミキシングヘッドと注入ノズルを接続し、加圧用発泡ウレタンBを注入する。この加圧用発泡ウレタンBの注入は、注入圧力を0.2MPaとし、目視によりコンクリート覆工の変形、ひび割れの監視を行うとともに、トンネルの挙動を監理する3つの計測器で計測する。
6)−4.そして、例えば、目視によりトンネル覆工の側壁のひび割れが減少するまで注入充填する。また、3つの計測による計測値から側壁のひび割れが減少し、あるいはひび割れが密着したことを確認するようにしても良い。
注入中のトンネル躯体の変位の計測結果から加圧用発泡ウレタンBの充填にともない、天端は覆工内面方向へ変位し、左右スプリングラインは覆工外面方向に変位した。
注入中における最大圧力は0.78MPaとなり、注入終了時におけるトンネル躯体の変位量は、天端で0.068mm、左スプリングラインで0.012mm、右スプリングラインで0.016mmとなった。
注入中のひび割れ幅の変動の計測結果から加圧用発泡ウレタンBの充填にともないひび割れ幅が減少した。施工終了時のひび割れ幅は、右側壁で0.012mm、左側壁で0.003mm減少が見られた。
このようなトンネル躯体の変位およびひび割れ幅の減少は、加圧用発泡ウレタンBを注入充填したことによって、発泡圧が作用したためだと考えられる。
また、トンネル躯体の変位およびひび割れ幅の変位開始は、圧力の上昇より遅れているが、これは加圧用発泡ウレタンBを注入してから発泡するまでに時間を要するためであると考えられる。
さらに、右側壁におけるひび割れ幅の変位量は、施工後におけるひび割れ幅が施工前と比較して減少した。ひび割れ幅は最大で0.048mm減少しており、平均して0.016mmの現象が見られた。これは、左側壁においても同じ傾向が見られた。
施工終了後にレーダーを用いた調査を行ったところ、覆工天端背面に空洞は確認されず、空洞は十分に発泡ウレタンA,Bで充填されていた。
さらに、空洞充填用発泡ウレタンAのゲルタイムを長くし、加圧用発泡ウレタンBのゲルタイムを短くしたので、空洞全体に隙間なく発泡ウレタンAを充填することができるとともに、加圧用発泡ウレタンBで効率よく短時間に発泡圧を作用させることができ、効率的にひび割れたトンネル覆工を補修することができる。
2 空洞
3 側壁
4 ひび割れ
5 地山壁
6 覆工壁
7 模型水路トンネル
A 空洞充填用発泡ウレタン
B 加圧用発泡ウレタン
P 側圧
Claims (5)
- トンネル天端背面の空洞に硬質ウレタンフォームを充填して補修するに際し、
前記空洞を満たす空洞充填用発泡ウレタン液を当該空洞内に注入して発泡硬化させて空洞充填用発泡ウレタンとしたのち、
この空洞充填用発泡ウレタンで埋められた空洞上部と地山との隙間に、前記空洞充填用発泡ウレタンを介してトンネル覆工に発泡圧を作用させトンネル覆工の側壁に生じた引張応力を減少させあるいは除去する加圧用発泡ウレタン液を注入して発泡硬化させて加圧用発泡ウレタンとするようにしたことを特徴とする空洞充填によるトンネルの補修方法。 - 前記空洞充填用発泡ウレタンは前記加圧用発泡ウレタンよりゲルタイムを長くする一方、フォーム密度を略同一とするようにしたことを特徴とする請求項1記載の空洞充填によるトンネルの補修方法。
- 前記空洞充填用発泡ウレタンのゲルタイムを50〜70秒とし、前記加圧用発泡ウレタンのゲルタイムを5〜25秒とする一方、前記空洞充填用発泡ウレタンと前記加圧用発泡ウレタンのフォーム密度は30kg/m3以上とするようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の空洞充填によるトンネルの補修方法。
- トンネル覆工の側壁の引張応力を減少させあるいは除去するための限界加圧力を、予めトンネルの設計条件と空洞の発生状態および側壁のひび割れの発生状態の実測結果とから有限要素法による数値解析で求めておき、得られた限界加圧力から前記加圧用発泡ウレタンにより加える発泡圧を設定して注入するようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空洞充填によるトンネルの補修方法。
- 限界加圧力より低い発泡圧で前記加圧用発泡ウレタンを、トンネル覆工の側壁のひび割れが減少するまで注入充填するようにしたことを特徴とする請求項4記載の空洞充填によるトンネルの補修方法。
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