詳細な説明
本明細書および特許請求の範囲中で使用される、単数形「a」、「and」、および「the」は、文脈によって明らかに他の様式が要求されない限り、複数の指示対象を含む。ゆえに、例えば、「a cell」への言及には、複数の該細胞が含まれ、「the vector」への言及には、1種以上のベクターへの言及が含まれる、などである。
特に規定されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般に理解される意義と同一の意義を有する。本明細書中に記載のものと類似または等価の任意の方法および試薬を、開示される方法および組成物の実施に使用できるが、典型的な方法および材料をここに記載する。
また、「または」の使用は、特に指定されない限り、「および/または」を意味する。同様に、「comprise」、「comprises」、「comprising」「include」、「includes」、および「including」は交換可能であり、限定的でないものとする。
種々の実施形態の説明が用語「含む(comprising)」を使用する場合、一部の具体的事例で、ある実施形態が、その代わりに、用語「から本質的に構成される(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」を使用して説明できると当業者であれば理解することがさらに理解されるものとする。
本明細書中に記載のすべての刊行物は、方法論を説明しかつ開示するために、参照により全体がここに組み入れられ、該方法論は該刊行物中に記載されるものであり、それは本明細書中の説明と一緒に使用されるかもしれない。上で考察される刊行物およびテキストの全体を通して考察される刊行物は、本出願の出願日前のその開示内容に関してのみ提供される。本明細書中のいかなるものも、発明者らが、以前の開示内容に基づいてそのような開示内容に先行する権利がないことの承認として解釈されないものとする。
本明細書中で使用される用語「RCR」は複製可能レトロウイルス(RCR)を意味するものとする。複製可能ウイルスは宿主細胞中で単独で複製する能力を有するウイルス粒子である。
本明細書中で使用される用語「RCRプラスミドベクター」は、5'および3'レトロウイルス長末端反復(long-term repeat) (LTR)配列、パッケージングシグナル(Ψ)を含むレトロウイルスゲノムの全体または部分を含み、かつ目的のタンパク質(群)またはポリペプチド(群)、例えば治療物質または選択マーカーをコードする1以上のポリヌクレオチドを含んでよいプラスミドを意味する。用語「治療薬」は総称的な意味で使用され、治療物質、予防物質、および代替物質が含まれる。
本明細書中で使用される用語「トランスフェクト(transfecting)」または「トランスフェクション」は、少なくとも1つの外因性核酸の細胞中への移動を意味するものとする。該核酸は、RNA、DNAまたは両者の組み合わせであってよい。外因性核酸とは、宿主細胞分裂または宿主細胞増殖の結果として見出されない核酸を表す。
本明細書中で使用される用語「ウイルス」は、物理的なウイルス(physical virus)またはレトロウイルス粒子を意味するものとする。
本明細書中で使用される用語「セルライン」とは、2回以上継代(分裂)することができる培養細胞を表す。本開示は、3回以上、200回まで、またはそれ以上継代することができるセルラインに関し、該回数には、それらの間の任意の整数が含まれる。
本明細書中で使用される表現「安定な発現」および「安定に発現する」は、安定に発現されている遺伝物質および/または遺伝物質が宿主細胞のゲノムに恒久的かつ安定に組み込まれ、ゆえに宿主細胞のネイティブの遺伝物質と同一の経時的な発現可能性に有することを意味するものとする。
本明細書中で使用される表現「一過性発現」および「一過性発現する」は、遺伝物質の一時的発現期間および/または遺伝物質が宿主細胞のゲノムに恒久的かつ安定に組み込まれておらず、ゆえに宿主細胞のネイティブの遺伝物質と同一の経時的な発現可能性を有さないことを意味するものとする。
本明細書中で使用される用語「異種」核酸配列または導入遺伝子とは、(i) 野生型レトロウイルスに通常存在しない配列、(ii) 外来種に由来する配列、または(iii) 同種由来である場合、その元の形式から実質的に改変されていてよいこと、を表す。あるいは、細胞で通常発現されない不変の核酸配列は異種核酸配列である。
本明細書中で使用される用語「治療的」とは、天然の疾患過程、またはその症状を予防するか、逆転させるか、または減速させる作用を表す。治療的作用は、予防的、治療的または単に対症的であってよく、罹患したヒトまたは動物患者が該疾患に起因して死なないことを意味しない。
一実施形態では、本開示の産生セルラインは懸濁状態または無血清培地中で増殖可能である。産生セルラインは無血清培地中でかつ同時に懸濁状態で増殖可能でもある。無血清培地および懸濁状態での増殖能は典型的条件であるが、特定の目的を達成するために本開示の細胞(例えば293T細胞)を通常の血清添加培地で付着様式で培養することができる。そのような目的は、例えば、細胞のトランスフェクションを容易にするため、または細胞クローンの選択のためであってよい。
レトロウイルスを作製するために使用される産生細胞のタイプ(以下でさらに完全に説明される)は、遺伝子送達および遺伝子治療のための複製可能ウイルス粒子の生産に有用である。
本開示は、産生セルラインの製造方法であって、本開示のRCRプラスミドベクターで第1の哺乳類細胞タイプを形質転換またはトランスフェクトするステップ、第1の細胞タイプを培養してレトロウイルス粒子を生産するステップ、レトロウイルス粒子を生産する第1の細胞タイプから無細胞培地を取得し、ここで無細胞培地がレトロウイルス粒子を含むステップ、第2の哺乳類細胞タイプを培地と接触させて第2の細胞タイプを感染させるステップおよび第2の細胞タイプを培養して、哺乳類細胞の形質転換での使用のための複製可能レトロウイルスベクターを生産する産生セルラインを得るステップを含む方法を提供する。第1の細胞タイプは、トランスフェクション後にウイルスを生産可能なほとんど任意の哺乳類細胞タイプであってよく、HeLa、COS、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、およびHT1080細胞が含まれ、トランスフェクションはリン酸カルシウムまたはトランスフェクションに有用であると当業者に知られている他の物質、例えば脂質製剤を用いるものであってよい。
一実施形態では、第1の細胞タイプはヒト胚性腎細胞である。別の実施形態では、ヒト胚性腎細胞は293細胞(HEK 293細胞、293細胞、または不正確にHEK細胞と称されることもよくある)であり、それは、組織培養物中で培養されたヒト胚性腎細胞から元々得られたセルラインである。HEK 293細胞は正常ヒト胚性腎細胞の培養物をせん断アデノウイルス5 DNAで形質転換することによって作製された。HEK 293細胞は非常に容易に培養およびトランスフェクトすることができ、細胞生物学研究で長年広く使用されている。またバイオテクノロジー産業はそれらを使用して治療タンパク質および遺伝子治療のためのウイルスを生産する。
別の実施形態では、第1の細胞タイプはSV40ラージT抗原で形質転換された哺乳類細胞である。特定の実施形態では、293T HEK細胞を使用する。このセルラインの重要な変異体は、SV40複製開始点を含むトランスフェクトされたプラスミドのエピソーム複製を可能にするSV40ラージT抗原を含む293Tセルラインである。これにより、トランスフェクトされたプラスミドの増幅および所望の遺伝子産物の一時的発現の延長が可能になる。
本明細書中で使用される用語「ヒト293細胞」には、HEK 293Tセルライン、ヒト293セルライン(ATCC No. CRL 1573) (Graham, et al., J. Gen. Virol., Vol. 36, pgs. 59-72 (1977))、または種々のgag、pol、およびenvタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む1以上の発現ビヒクル(例えばプラスミドベクター)で293細胞をトランスフェクトすることによって形成されたセルラインが含まれる。エンベロープは、両種指向性(amphotropic)エンベロープ、同種指向性(ecotropic)エンベロープ、異種指向性(xenotropic)エンベロープ、GALVエンベロープ、RD114エンベロープ、FeLVエンベロープまたは他のレトロウイルスエンベロープであってよい。エンベロープは異種供給源由来のエンベロープ、例えばアルファウイルスエンベロープであってもよい。そのような細胞はまた、他のポリヌクレオチド、例えば選択マーカーをコードするポリヌクレオチドを含んでよい。そのようなセルラインの例には、非限定的に、293T/17 (ATCC No. CCRL 11268); Anjou 65 (ATCC No. CCRL 11269); Bosc 23 (CCRL 11270); およびCAK8 (Bingセルラインとしても知られる) (ATCC No. CCRL 11554)が含まれる。
第1の細胞タイプ(例えばHEK 293T細胞)は、リン酸カルシウムなどを含む任意の数の手段によって本開示のRCRプラスミドベクターで形質転換することができる。哺乳類細胞、特にヒト293細胞の典型的培養条件は当技術分野で公知である。
形質転換後、ウイルス粒子の生産のための条件下で第1の細胞タイプを培養する。そのような条件には、典型的に、適切な培地、CO2、および湿度での細胞のリフィーディングが含まれる。培養条件は、抗生物質、抗真菌剤、成長因子などの添加を含んでもよい。典型的に、リフィーディングされた培地を24、48、72、または96時間後に回収する。そのような手順は一過性発現トランスフェクション手順として知られる。
上記培養細胞から得られた培地を、さらなる培養に直接使用することができる。あるいは、当技術分野で公知の任意の数の技術を使用して、培養細胞の培地中のウイルス粒子を単離することができ、該技術には、遠心分離、サイズ排除技術、アニオン交換クロマトグラフィーなどが含まれる。
培地を直接使用する場合、第2の細胞タイプの培養に使用される培地に該培地を加えることができる。ウイルス粒子を最初に実質的に精製する場合、適切なバッファーまたは培地中でまたは感染力に関する特定の濃度で粒子を洗浄するかまたは再懸濁した後、第2の細胞タイプを加えて、安定な発現産生セルラインの作製を導く。
一実施形態では、第2の細胞タイプはヒト線維肉腫(fibroscarcoma)セルラインである。特定の実施形態では、セルラインはHT1080セルラインまたはその誘導体である。HT1080ヒト線維肉腫セルライン(ATCC, Catalog# CCL-121)は直接American Type Culture Collection (P.O. Box 1549, Manassas, VA)から取得することができる。該方法は、HT1080細胞に本開示のRCRを感染させて安定にトランスフェクトされた宿主細胞を提供するステップを含む。安定にトランスフェクトされた宿主細胞を培養して、遺伝子治療または遺伝子送達での使用のためのウイルス粒子を得るか、または該宿主細胞を後の使用のために「バンク」にし、それはトランスフェクトされた細胞、またはクローニングされたセルラインのプールであってよい。当技術分野で公知の技術を使用してバンクの細胞を凍結保存することができる。
典型的には、無血清培地中で細胞を培養する。一実施形態では、ヒトへの送達のための生物学的物質の製造に使用される無動物質培地(animal free media)または限定培地中で細胞を培養する。
予想外に、上記プロセスによって、一過性発現手順によって生産されたウイルス粒子と比較して増加した安定性を有する遺伝子治療のためのウイルス粒子が安定な発現産生セルラインから得られる。
RCRウイルス粒子(例えばAC3-yCD2 (V))をHT1080+T5.002細胞の培地から実質的に精製することができる。精製されたベクターを適切な製薬的に許容される担体中で洗浄、希釈および再懸濁することができる。あるいは、精製されたベクターを凍結または凍結乾燥によって(by freezing of lypholization)保存してよい。
一実施形態では、AC3-yCD2 (V)を溶液中のレトロウイルス粒子として投与する。最終充填ベクター製剤はToca 511と称され、以下の製剤賦形剤(mg/mL単位): スクロース10.0、マンニトール10.0、NaCl 5.3、ヒト血清アルブミン(HSA, Baxter) 1.0、およびアスコルビン酸0.10を含む水性滅菌溶液として供給される。
さらに本明細書中で記載されるように、本明細書中に記載の産生セルラインおよび方法とともに本開示の任意の数のレトロウイルスベクターを使用することができる。
本明細書中で提供される具体的な実施例では、TOCA 511を使用して本発明の方法および組成物を実証する。本明細書中に記載のように、TOCA 511は、pAC3-yCD2 (T5.0002としても知られる)と指定されるプラスミド中にコードされる複製可能レトロウイルスベクターを表す。該ウイルスベクターは、ウイルス複製に必要とされるすべてのレトロウイルス成分(gag、polおよびenv)をコードし、元の同種指向性エンベロープが4070Aウイルス由来の両種指向性エンベロープで置換されているマウス白血病ウイルス(MLV)由来の複製可能レトロウイルスからなる。
TOCA 511ベクターは酵母シトシンデアミナーゼ(CD)遺伝子をコードする。この遺伝子配列は、以下の図5に示されるようにウイルスenv遺伝子の下流に挿入された脳心筋炎ウイルス(EMCV)由来の内部リボソーム進入部位(IRES)の下流に挿入されている。TOCA 511ベクター中の該遺伝子は改変酵母シトシンデアミナーゼ遺伝子である。改変CD遺伝子を使用するための理論的根拠は、経口プロドラッグフルシトシン(5-FC)から活性な細胞傷害性物質フルオロウラシル(5-FU)への、より効率的なin vivo変換を可能にすることである。
本開示の方法および組成物は他のベクターおよび組み換えレトロウイルスベクターに適用可能である。本開示は、本開示のセルラインおよび方法によって生産することができる種々の改変および組み換えベクターを記載する。
本開示の方法およびセルラインには、目的の異種核酸(例えば配列番号1〜13に記載のポリヌクレオチドおよびポリペプチドなどのシトシンデアミナーゼ)ガンマインターフェロン遺伝子または任意のいくつかの治療遺伝子、例えば特許出願公開WO2010036986で開示されるものをコードする1以上の核酸配列を含む組み換え構築物が含まれる。一実施形態では、該ウイルスベクターはレトロウイルスベクターである。
用語「ベクター」、「ベクター構築物」および「発現ベクター」とは、DNAまたはRNA配列(例えば外来遺伝子)を宿主細胞内に導入して、該宿主を形質転換し、導入配列の発現(例えば転写および翻訳)を促進するようにできるビヒクルを意味する。ベクターは、典型的に、制限酵素テクノロジーによってタンパク質をコードする外来DNAが挿入される伝達可能な物質(transmissible agent)のDNAを含む。一般的なタイプのベクターは「プラスミド」であり、プラスミドは、概して、追加の(外来) DNAを容易に受容しかつ好適な宿主細胞に容易に導入できる二本鎖DNAの自給式分子である。プラスミドおよび真菌ベクターを含む多数のベクターが、種々の真核生物および原核生物宿主での複製および/または発現に関して報告されている。非限定的な例には、pKKプラスミド(Clonetech)、pUCプラスミド、pETプラスミド(Novagen, Inc., Madison, Wis.)、pRSETまたはpREPプラスミド(Invitrogen, San Diego, Calif.)、またはpMALプラスミド(New England Biolabs, Beverly, Mass.)、および、本明細書中で開示されるかもしくは引用されるかまたは他の様式で関連技術分野の当業者に公知である方法を使用する、多数の適切な宿主細胞が含まれる。組み換えクローニングベクターは、クローニングまたは発現のための1以上の複製系、宿主での選択のための1以上のマーカー、例えば抗生物質耐性、および1以上の発現カセットを含むことがよくある。
用語「発現する」および「発現」とは、遺伝子またはDNA配列中の情報が現れること、例えば対応する遺伝子またはDNA配列の転写および翻訳に関与する細胞機能を活性化することによるタンパク質の生産、を可能にするかまたはそれを引き起こすことを意味する。DNA配列は、細胞中でまたは細胞によって発現されて、タンパク質などの「発現産物」を形成する。発現産物自体、例えば得られたタンパク質が、該細胞によって「発現された」と言ってもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、例えば、外来性宿主細胞中で外来性もしくはネイティブプロモーターの制御下で、またはネイティブ宿主細胞中で外来性プロモーターの制御下で発現または生産された場合に、組み換え的に発現される。
一実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。さらなる実施形態では、ウイルスベクターは、複製中の哺乳類細胞にのみ感染可能な複製可能レトロウイルスベクターである。レトロウイルスは種々の方法で分類されているが、命名法は過去10年間で標準化されてきた(ICTVdB - The Universal Virus Database, v 4 on the World Wide Web (www) at ncbi.nlm.nih.gov/ICTVdb/ICTVdB/ および教科書"Retroviruses," Eds. Coffin, Hughs and Varmus, Cold Spring Harbor Press 1997を参照のこと; 該文献の開示内容は参照によりここに組み入れられる)。複製可能レトロウイルスベクターはレトロウイルス科ファミリーのウイルス由来であり、オルソレトロウイルス亜科サブファミリーのメンバーを含むことができ、またはより典型的には、ガンマレトロウイルス属のレトロウイルスを含む。一実施形態では、複製可能レトロウイルスベクターは、シトシンデアミナーゼをコードするポリヌクレオチドの5’側の内部リボソーム進入部位(IRES)を含む。一実施形態では、シトシンデアミナーゼをコードするポリヌクレオチドはレトロウイルスベクターのenvポリヌクレオチドの3'側である。
本開示は改変レトロウイルスベクターを提供する。改変レトロウイルスベクターはレトロウイルス科ファミリーのメンバー由来であってよい。このファミリーの分類は最近10〜15年で数回変化している。現在、レトロウイルス科ファミリーは以下の2つのサブファミリー、スプーマレトロウイルス亜科(単一の属、スプーマウイルス(またはフォーミーウイルス)、例えばヒトおよびサルフォーミーウイルス(HFV)を有する)およびオルソレトロウイルス亜科サブファミリー(ベータレトロウイルス(例えばMMTV)、ガンマレトロウイルス(例えばMLV)、アルファレトロウイルス(例えばALV) デルタレトロウイルス(例えばBLVおよびHTLV-1) レンチウイルス(例えばHIV 1)およびイプシロンレトロウイルス(例えばウォールアイ皮膚肉腫ウイルス)の6つの属を有する)からなる。これらの分類は、共通の分子的特徴、例えばgag、polおよびenvの相対リーディングフレーム、ポリタンパク質のプロセシング、逆転写の開始に使用される個別のtRNA、およびLTR構造の性質に基づいて行われる。レトロウイルスの分類の原法は、ウイルス成熟時に電子顕微鏡下で観察される粒子形態に基づいてA、B、CおよびD群に分類された。A型粒子は、感染細胞の細胞質で観察されるBおよびD型ウイルスの未成熟な粒子である。これらの粒子は感染性ではない。B型粒子は、細胞質内A型粒子を包むことによって原形質膜から成熟ビリオンとして発芽する。それらは膜に75 nmのトロイダルコアを有し、該トロイダルコアから、長い糖タンパク質スパイクが突き出る。発芽後、B型粒子は、偏在する高電子密度コアを含む。ベータレトロウイルスであるマウス乳癌ウイルス(MMTV)はB型形態を有するが、ベータレトロウイルスはD型構造を有することもできる。D型粒子はそれらが、細胞表面から発芽した、感染細胞の細胞質中の環様構造として見える点でB型粒子と似ているが、そのビリオンは短い表面糖タンパク質スパイクを含む。高電子密度コアはまた、粒子内で偏在する。メーソンファイザーモンキーウイルス(MPMV)もベータレトロウイルスであるが、それは原型D型ウイルスである。C型ウイルスに感染した細胞では細胞質内粒子は観察することができない。その代わり、成熟粒子は、三日月「C」型の凝縮(condensation)
によって細胞表面から直接発芽し、それは次いで自らを閉じ込め、原形質膜によって囲まれる。エンベロープ糖タンパク質スパイクは均一に高電子密度のコアとともに可視である。発芽は表面原形質膜から生じるか、または直接細胞内空胞内に生じる。アルファレトロウイルス、ガンマレトロウイルス、デルタレトロウイルスおよびイプシロンレトロウイルスはすべてC型構造の外観を有する。
レトロウイルスは、それらが自身の遺伝物質を複製する方法によって定義される。複製時にRNAはDNAに変換される。細胞への感染後、逆転写として知られる分子的プロセスによって、ウイルス粒子中で運搬される2分子のRNAから二本鎖DNA分子が作製される。DNAフォームは、プロウイルスとして宿主細胞ゲノムに共有結合によって組み込まれ、細胞および/またはウイルス因子を活用してプロウイルスからウイルスRNAが発現される。発現されたウイルスRNAは粒子内にパッケージされ、感染性ビリオンとして放出される。
レトロウイルス粒子は2つの同一のRNA分子からなる。各野生型ゲノムはプラスセンス一本鎖RNA分子を有し、5'末端でキャップされ、3'尾部でポリアデニル化されている。二倍体ウイルス粒子は、gagタンパク質の「コア」構造内でgagタンパク質、ウイルス酵素(pol遺伝子産物)および宿主tRNA分子と複合体形成している2つのRNA鎖を有する。このカプシドの周囲および保護は脂質二重層であり、それは宿主細胞膜由来であり、ウイルスエンベロープ(env)タンパク質を含む。envタンパク質は細胞のウイルス受容体に結合し、粒子は、典型的に、受容体を介するエンドサイトーシスおよび/または膜融合によって宿主細胞に入る。
外被(outer envelope)を脱いだ後、ウイルスRNAは逆転写によってDNAにコピーされる。これは、pol領域によってコードされる逆転写酵素によって触媒され、ビリオン内にパッケージされた宿主細胞tRNAをDNA合成のプライマーとして使用する。このように、RNAゲノムは、より複雑なDNAゲノムに変換される。
逆転写によって生産された二本鎖線状DNAは、核中で環化される必要があるかもしれないし、ないかもしれない。プロウイルスは今や、片側に2つの同一の反復を有し、それは長末端反復配列(LTR)として知られる。2つのLTR配列の末端は、pol産物--インテグラーゼタンパク質--によって認識される部位を生じさせ、インテグラーゼタンパク質は、プロウイルスが常にLTRの末端から2塩基対(bp)の宿主DNAに結合するように組み込みを触媒する。細胞の配列の重複が両LTRの末端に観察され、転移性遺伝因子の組み込みパターンを連想させる。組み込みは標的細胞ゲノム内で本質的にランダムに生じると考えられる。しかし、長末端反復を改変することによって、レトロウイルスゲノムの組み込みをコントロールすることが可能である。
組み込まれたウイルスDNAの転写、RNAスプライシングおよび翻訳は宿主細胞タンパク質によって媒介される。さまざまにスプライシングされた転写物が生成する。ヒトレトロウイルスの場合、遺伝子発現を調節するためにHIV-1/2およびHTLV-I/IIウイルスタンパク質も使用される。細胞とウイルス因子との間の相互作用は、ウイルス潜伏のコントロールおよびウイルス遺伝子が発現される時間的順序の要因である。
レトロウイルスは水平および垂直に伝達することができる。レトロウイルスの効率的感染伝達は、ウイルスエンベロープタンパク質を特異的に認識する受容体の、標的細胞上での発現を必要とするが、ウイルスは、受容体非依存的、非特異的侵入経路を低い効率で使用することができる。さらに、標的細胞タイプは、ウイルスが結合および侵入した後に複製サイクルのすべての段階を支持することができなければならない。垂直感染は、ウイルスゲノムが宿主の生殖系列中に組み込まれた場合に生じる。そしてプロウイルスは、細胞の遺伝子であるかのように、世代から世代へ継代する。ゆえに内因性プロウイルスは確立されて潜伏していることが多いが、宿主が適切な物質に曝露されると活性化される。
上記のように、組み込まれたDNA中間体はプロウイルスと称される。先の遺伝子治療または遺伝子送達系では、混入ヘルパーウイルスの同時生産を伴わない、適切なヘルパーウイルスの存在下またはカプシド形成を可能にする適切な配列を含むセルライン中で、プロウイルスの転写および感染性ウイルスへの組み立てを必要とする方法およびレトロウイルスを使用する。下記のように、ヘルパーウイルスは、本開示の組み換えレトロウイルスの生産に必要とされない。その理由は、カプシド形成のための配列がゲノム中で提供され、ゆえに遺伝子送達または治療のための複製可能レトロウイルスベクターを提供するからである。
本開示のレトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、少なくとも3つの遺伝子:gag、pol、およびenvを有し、これらの遺伝子には1または2つの末端(LTR)反復配列が隣接するか、またはプロウイルス中では、2つの長末端反復配列(LTR)およびシス作用配列、例えばpsiを含む配列が隣接している。gag遺伝子は内部構造(基質、カプシド、およびヌクレオカプシド)タンパク質をコードし; pol遺伝子は、RNA特異的DNAポリメラーゼ(RNA-directed DNA polymerase) (逆転写酵素)、プロテアーゼおよびインテグラーゼをコードし; およびenv遺伝子はウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5'および/または3' LTRはビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進するために役立つ。該LTRはウイルス複製に必要なすべての他のシス作用配列を含む。レンチウイルスは追加の遺伝子を有し、それには、vif、vpr、tat、rev、vpu、nef、およびvpx (HIV-1、HIV-2および/またはSIV中)が含まれる。
5' LTRに隣接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)およびウイルスRNAから粒子への効率的カプシド形成に必要な配列(Psi部位)がある。カプシド形成(または感染性ビリオンへのレトロウイルスRNAのパッケージング)に必要な配列がウイルスゲノムから失われていると、結果はシス欠損であり、それはゲノムウイルスRNAのカプシド形成を妨げる。このタイプの改変ベクターは、以前の遺伝子送達系(すなわち、ビリオンのカプシド形成に必要とされる要素を欠く系)で典型的に使用されているものである。
第1の実施形態では、本開示は、非分裂細胞、分裂細胞、または細胞増殖性障害を有する細胞に感染可能な組み換えレトロウイルスを提供する。本開示の組み換え複製可能レトロウイルスは、ビリオン内にカプセル化(enpasulated)された、ウイルスGAG、ウイルスPOL、ウイルスENVをコードするポリヌクレオチド配列、およびウイルスベクターが標的細胞に感染した後に発現される異種ポリヌクレオチドを含む。
一実施形態では、異種核酸配列はプロモーターに先行され、プロモーターに作動可能に連結されている。
別の実施形態では、異種核酸配列は内部リボソーム進入部位(IRES)に先行され、IRESに作動可能に連結されている。
内部リボソーム進入部位(「IRES」)とは、通常IRESの3'側のコード配列の翻訳時のリボソームの進入または保持を促進する、核酸のセグメントを表す。一部の実施形態では、IRESはスプライスアクセプター/ドナー部位を含んでよいが、好ましいIRESはスプライスアクセプター/ドナー部位を欠く。通常、メッセンジャーRNAへのリボソームの進入は、すべての真核生物mRNAの5'末端に位置するキャップを介して生じる。しかし、この汎用ルールには例外が存在する。一部のウイルスmRNAでキャップが存在しないことは、これらのRNAの内部部位でのリボソームの進入を可能にする代替構造の存在を示唆する。現在までに、その機能によってIRESと称されるいくつかの前記構造が、特に、ポリオウイルス(Pelletier et al., 1988, Mol. Cell. Biol., 8, 1103-1112)およびEMCVウイルス(脳心筋炎ウイルス(Jang et al., J. Virol., 1988, 62, 2636-2643)などのピコルナウイルスのものなどの、キャップされていない(uncapped)ウイルスmRNAの5'非翻訳領域で特定されている。本開示は、複製可能レトロウイルスベクターの関連でのIRESの使用を提供する。
本開示のレトロウイルスベクターの意図される使用に応じて、任意の数の異種ポリヌクレオチドまたは核酸配列をレトロウイルスベクターに挿入してよい。WO2010/036986にいくつかの実施例が記載される。例えば、in vitro研究では、一般に使用されるマーカー遺伝子またはレポーター遺伝子を使用してよく、それには抗生物質耐性および蛍光分子(例えばGFP)が含まれる。任意の所望のポリペプチド配列をコードする追加のポリヌクレオチド配列を本開示のベクターに挿入してもよい。異種核酸配列のin vivo送達が要求される場合、治療的および非治療的配列の両者を使用してよい。例えば、異種配列は、細胞増殖性障害に関連する特定の遺伝子を標的にするアンチセンス分子またはリボザイムを含む治療分子をコードすることができ、異種配列は自殺遺伝子(例えば、HSV-tkまたはPNPまたはシトシンデアミナーゼ)、低分子干渉RNAまたはマイクロRNA、成長因子または治療タンパク質(例えばFactor IX)であってよい。本開示に適用可能な他の治療タンパク質は当技術分野で容易に特定される。
一実施形態では、該ベクター内の異種ポリヌクレオチドは、ヒト細胞での発現に最適化されているシトシンデアミナーゼを含む。さらなる実施形態では、該シトシンデアミナーゼは、ヒトコドン最適化されていて、かつ、野生型シトシンデアミナーゼと比較して、シトシンデアミナーゼの安定性を増加(例えば分解の減少または熱安定性の増加)させる突然変異を含む配列を含む。さらに別の実施形態では、該異種ポリヌクレオチドは、UPRTまたはOPRT活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたシトシンデアミナーゼ(ヒトコドン最適化型または非最適化型、突然変異型または非突然変異型)を含む融合構築物をコードする。別の実施形態では、該異種ポリヌクレオチドは、本開示のCDポリヌクレオチド(例えば、配列番号3、5、11、13、15、または17)を含む。
別の実施形態では、複製可能レトロウイルスベクターは、シトシンデアミナーゼを含むポリペプチドをコードする異種(heterologus)ポリヌクレオチド(本明細書中に記載される)を含むことができ、かつ細胞タイプまたは組織特異的プロモーターに連結されたmiRNAまたはsiRNA分子を含むポリヌクレオチドをさらに含んでよい。
本明細書中で使用される用語「RNA干渉」(RNAi)とは、低分子干渉核酸(siRNA)によって媒介される配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを表す。用語「RNA干渉を媒介可能な物質」とは、siRNAならびに、細胞内で転写された場合にsiRNAをコードするDNAおよびRNAベクターを表す。本明細書中で使用される用語「siNA」とは、低分子干渉核酸を表す。該用語は、配列特異的RNA干渉を媒介可能な任意の核酸分子を包含するものとし、例えば低分子干渉RNA (siRNA)、二本鎖RNA (dsRNA)、マイクロRNA (miRNA)、低分子ヘアピンRNA (shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉改変オリゴヌクレオチド、化学改変siRNA、転写後遺伝子サイレンシングRNA (ptgsRNA)、などである。
ヘアピン二重鎖の基部の長さの設計に好適な範囲には、20〜30ヌクレオチド、30〜50ヌクレオチド、50〜100ヌクレオチド、100〜150ヌクレオチド、150〜200ヌクレオチド、200〜300ヌクレオチド、300〜400ヌクレオチド、400〜500ヌクレオチド、500〜600ヌクレオチド、および600〜700ヌクレオチドの基部の長さが含まれる。ヘアピン二重鎖のループ長の設計に好適な範囲には、4〜25ヌクレオチド、25〜50ヌクレオチド、または、ヘア二重鎖の基部の長さが十分であれば、それ以上の長さのループ長が含まれる。特定の状況では、21ヌクレオチドより長い二重鎖領域を有するヘアピン構造は、ループ配列および長さにかかわらず、siRNAによって導かれる有効なサイレンシングを促進する。
本開示の複製性レトロウイルスを使用して、腫瘍細胞を含む罹患細胞の増殖または生存を支配する重要な遺伝子の発現をオフにするかまたは低下させる、操作されたsiRNAまたはmiRNA (Dennis, Nature, 418: 122 2002)を発現させることによって疾患を改変することもできる。そのような標的には、DNA修復の中心的酵素であるRad 51などの遺伝子が含まれ、それがないと細胞増殖は劇的に制限される。他の標的には、細胞増殖をコントロールする多数のシグナル伝達経路分子が含まれる(Marquez & McCaffrey Hum Gene Ther. 19:27 2008)。ベクターは腫瘍経由で複製し、増殖阻害が生じる前に、ウイルスはまず宿主ゲノムに組み込まれ、該細胞の増殖が阻害された後にウイルスの作製を継続する。機能的miRNAまたはsiRNA配列の選択方法は当技術分野で公知である。一般に、有効なsiRNAまたはmiRNA配列の設計において重要な特徴は、通常、「的外れ」の効果を回避することである。しかし、本開示のベクターなどの腫瘍細胞に非常に特異的な複製ベクターの使用では、これらの副作用はあまり重要ではない。細胞が最終的に死滅することが予測されるからである。本開示のベクターは、対応するタンパク質があまり標的にされない他の種由来の細胞を使用して作製される。そのような細胞には、イヌセルラインまたはニワトリセルラインが含まれる。あるいは、ヒト293派生細胞または効率的な一過性トランスフェクションを可能にする他のセルラインでの一過性トランスフェクションによってウイルスを作製する。この用途では、ウイルスはIRESを発現する必要がなく、ウイルスゲノムの好都合な部位にsiRNAまたはmiRNA配列を単純に挿入することができる。この部位には、複製性レトロウイルスのエンベロープの下流でかつ3'LTRの上流の領域が含まれる。あるいは、polIII転写単位を、好ましくは3'エンベロープ遺伝子の下流に、適切なsiRNAまたはmiRNAとともにウイルスゲノムに挿入することができる。標的遺伝子の効率的下方制御または2以上の遺伝子の下方制御を確保するためにいくつかの異なるsiRNAまたはmiRNA配列を挿入することができる。好適な配列および標的は当業者に公知の供給元から取得することができる。例えば:
・MIT/ICBP siRNA Database http:(//)web.mit.edu/sirna/ - "MIT [マサチューセッツ工科大学]/ICBP [統合癌生物学プログラム(Integrative Cancer Biology Program)] siRNAデータベースは、これらの実験的に確認された試薬のカタログを作成し、かつMITコミュニティの内部および外部で他の研究者に該情報を利用可能にする大学全体の取り組みである。(マサチューセッツ工科大学)。
・RNAi Central - http:(//)katahdin.cshl.org:9331/RNAi_web/scripts/main2.pl siRNAおよびshRNA設計ツールを含むRNAiリソース。(Hannon Lab, Cold Spring Harbor Laboratory)。
・RNAi Web - http:(//)www.rnaiweb.com/ 一般的リソース。
・siDIRECT - http:(//)genomics.jp/sidirect/ 哺乳類RNA干渉のオンライン標的特異的siRNA設計プログラム。(University of Tokyo, Japan)。
・siRNA Database - 種々の生物にわたるすべての既知のmRNA配列に対するsiRNA標的を含む包括的siRNAデータベース。(Part of the Protein Lounge systems biology Web site)。
・siRNA Database and Resources for RNA Interference Studies http:(//)www.rnainterference.org/。
・siRNA Selector - http:(//)bioinfo.wistar.upenn.edu/siRNA/siRNA.htm。熱力学パラメータ(Khvorova et al., 2003, Schwarz et al., 2003)およびDharmaconによって開発された配列関連決定要因(Reynolds et al., 2004)に基づいてsiRNA機能性を評価するために一連のルールを使用した。UniGeneデータベースに対してBLASTを使用して特異性を決定する。(Wistar Institute)。
・siRNA Target Finder http:(//)www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html (Ambion)。
本開示の複製性レトロウイルスは、発現が特定の細胞タイプに制限される天然に存在するsiRNAの標的を発現して、該細胞タイプではベクターの複製が顕著に阻害されるようにすることもできる。抗腫瘍目的では、ある程度のレベルで天然に複製する体内の正常細胞は、造血細胞、腸の内膜の細胞、および一部の内皮細胞である。そして、これらは循環中のウイルスが増殖的に感染する部位の候補である。一般にこれは望ましくない。前記のような細胞の任意の迷入感染は、天然に存在するsiRNAまたはsiRNAの組み合わせの標的をこれらの細胞タイプに含ませるによって阻害することができる。免疫応答を抑制するためにsiRNA標的を使用するいくつかの可能性がすでに示されている。(Brown et al. Nat Biotechnol. 2007 25:1457-67)。これらの標的は、天然に存在するsiRNA配列に対する相同的適合性を有する小さいRNA配列である。これらの配列は、本発明のベクターの任意の好都合な部位に挿入することができ、一般に、所望のタイプの細胞中以外で、ベクター生存度に大きく有害な結果を伴わない。以前に記載されるようにベクターを作製し使用することができる。siRNA標的は、導入遺伝子の3'側で3'LTRの前に挿入するか、またはIRESの上流でエンベロープの3'末端の後ろに挿入することができる。一般に、タンパク質コード配列内に標的を挿入しない。
さらに別の実施形態では、異種ポリヌクレオチドは、サイトカイン、例えばインターロイキン、インターフェロンガンマなどを含んでよい。
一般に、本開示の組み換えウイルスは核酸配列を標的細胞内に伝達可能である。
用語「核酸調節ドメイン」とは、レシピエント細胞でのコード配列の複製、転写および翻訳を包括的に提供する、プロモーター配列(例えばpol IIプロモーター配列)、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製開始点、エンハンサーなどを包括的に表す。選択されたコード配列が適切な宿主細胞中で複製、転写、および翻訳可能である限り、これらの制御配列のすべてが常に存在する必要はない。当業者は公的データベースおよび材料から調節性核酸配列を容易に特定することができる。さらにまた、当業者は、例えば、in vivo、ex vivo、またはin vitroで目的の用途に適用可能な調節配列を特定することができる。
用語「プロモーター領域」は、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を表すために、その通常の意義で本明細書中で使用され、該調節配列は、RNAポリメラーゼと結合しかつ下流(3'方向)のコード配列の転写を開始させることが可能な遺伝子由来である。該調節配列は所望の遺伝子配列と同種または異種であってよい。例えば、広範囲のプロモーターを利用することができ、それには、上記のようなウイルスプロモーターまたは哺乳類プロモーターが含まれる。
異種核酸配列は、典型的に、ウイルスLTRプロモーター・エンハンサーシグナルまたは内部プロモーターの制御下であり、レトロウイルスLTR内の保持されたシグナルは宿主細胞ゲノムへのベクターの効率的組み込みを依然として生じさせることができる。したがって、本開示の組み換えレトロウイルスベクター、所望の配列、遺伝子および/または遺伝子断片を数個の部位で異なる調節配列の下で挿入することができる。例えば、挿入部位は、ウイルスエンハンサー/プロモーター近接部位(すなわち5' LTRによって駆動される遺伝子座)であってよい。あるいは、所望の配列を調節配列の遠位部位(例えば、env遺伝子の3'側のIRES配列)に挿入することができ、または2以上の異種配列が存在する場合、1異種配列は第1の調節領域の制御下であり、かつ第2の異種配列は第2の調節領域の制御下であってよい。他の遠位部位には、ウイルスプロモーター配列が含まれ、所望の配列または配列群の発現がプロモーター近接シストロンのスプライシングによるものである場合、SV40またはCMVなどの内部異種プロモーター、または内部リボソーム進入部位(IRES)を使用することができる。
一実施形態では、本開示のレトロウイルスゲノムは、所望のポリヌクレオチド配列の挿入のためのクローニング部位を含むIRESを含む。一実施形態では、該IRESはレトロウイルスベクター中のenv遺伝子の3'側であるが、所望の異種核酸の5'側に位置する。状況に応じて、所望のポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド配列はIRESに作動可能に連結することができる。
別の実施形態では、ターゲティングポリヌクレオチド配列が、本開示の組み換えレトロウイルスベクターの部分として含まれる。該ターゲティングポリヌクレオチド配列は、ターゲティングリガンド(例えば、ペプチドホルモン、例えばヘレグリン、単鎖抗体、受容体または受容体リガンド)、組織特異的または細胞タイプ特異的調節要素(例えば、組織特異的または細胞タイプ特異的プロモーターまたはエンハンサー)、またはターゲティングリガンドと組織特異的/細胞タイプ特異的調節要素の組み合わせである。好ましくは、ターゲティングリガンドは該レトロウイルスのenvタンパク質に作動可能に連結されて、キメラレトロウイルスenvタンパク質を創出する。ウイルスGAG、ウイルスPOLおよびウイルスENVタンパク質は、任意の好適なレトロウイルス由来(例えば、MLVまたはレンチウイルス由来)であってよい。別の実施形態では、ウイルスENVタンパク質は非レトロウイルス由来(例えば、アルファウイルス、CMVまたはVSV)である。
本開示の組み換えレトロウイルスは、したがって、該ウイルスが特定の細胞タイプ(例えば、平滑筋細胞、肝細胞、腎細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、間葉系幹細胞、骨髄細胞、軟骨細胞、上皮細胞、腸細胞、新生物細胞、神経膠腫細胞、神経細胞および当技術分野で公知の他のもの)に向けられ、該核酸ゲノムが標的非分裂、標的分裂細胞、または細胞増殖性障害を有する標的細胞に送達されるように遺伝子改変される。ターゲティングは2つの方法で達成することができる。第1の方法は、ある分子を細胞の外面に有する細胞への結合によってレトロウイルスを標的細胞に導く。レトロウイルスをターゲティングするこの方法は、レトロウイルスの表面のターゲティングリガンドと相互作用する受容体または結合分子を有する細胞または組織へのウイルスのターゲティングを支援するためにレトロウイルスの被膜上のターゲティングリガンドの発現を利用する。ウイルスによる細胞への感染後、ウイルスはその核酸を細胞内に注入し、レトロウイルス遺伝物質が宿主細胞ゲノムに組み込まれる。第2のターゲティング方法は、以下でより完全に記載されるように、細胞特異的または組織特異的調節要素を使用して、該調節要素を活発に利用する標的にされた細胞中のウイルスゲノムの発現および転写を促進する。導入されたレトロウイルス遺伝物質は該宿主細胞内で転写され、タンパク質に翻訳される。該ターゲティング調節要素は、典型的に5'および/または3' LTRに連結され、キメラLTRを創出する。
例えば特定の標的細胞上の受容体のリガンドをコードする別の遺伝子とともに、目的の異種核酸配列を本開示のウイルスベクターに挿入することによって、該ベクターは標的特異的になる。ウイルスベクターは、例えば、糖、糖脂質、またはタンパク質を取り付けることによって標的特異的にすることができる。ターゲティングは、抗体を使用してウイルスベクターをターゲティングすることによって達成することができる。目的の核酸配列を含むウイルスベクターの標的特異的送達を可能にするためにウイルスゲノムに挿入できる特定のポリヌクレオチド配列またはウイルスエンベロープに取り付けることができるタンパク質を当業者は承知しているか、または容易に突きとめることができる。
ゆえに、本開示は、一実施形態では、ターゲティングポリペプチドに作動可能に連結されたレトロウイルスenvタンパク質を含むキメラenvタンパク質を含む。該ターゲティングポリペプチドは、細胞特異的受容体分子、細胞特異的受容体のリガンド、細胞特異的抗原性エピトープに対する抗体もしくは抗体断片または、当技術分野で容易に特定できる、標的細胞と結合または相互作用可能な任意の他のリガンドであってよい。ターゲティングポリペプチドまたは分子の例には、ビオチン-ストレプトアビジンをリンカーとして使用する二価抗体(Etienne-Julan et al., J. Of General Virol., 73, 3251-3255 (1992); Roux et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 86, 9079-9083 (1989))、ハプテンに対する単鎖抗体可変領域をコードする配列を、そのエンベロープ中に含む組み換えウイルス(Russell et al., Nucleic Acids Research, 21, 1081-1085 (1993))、レトロウイルスエンベロープへのペプチドホルモンリガンドのクローニング(Kasahara et al., Science, 266, 1373-1376 (1994))、キメラEPO/env構築物(Kasahara et al., 1994)、LDL受容体を発現するHeLa細胞の特異的感染を生じさせる、同種指向性MLVエンベロープ中の低密度リポタンパク質(LDL)受容体に対する単鎖抗体(Somia et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 92, 7570-7574 (1995))が含まれ、同様に、ALVの宿主クラスを、インテグリンリガンドを組み入れることによって改変して、該ウイルスが種を横断し、ラットグリア芽細胞腫細胞に特異的に感染することを可能にすることができ(Valsesia-Wittmann et al., J. Virol. 68, 4609-4619 (1994))、ならびに、Dornberg and co-workers (Chu and Dornburg, J. Virol 69, 2659-2663 (1995))は、腫瘍マーカーを標的にする単鎖抗体を含むエンベロープを使用する、トリレトロウイルスである脾臓壊死ウイルス(SNV)の組織特異的ターゲティングを報告している。
本開示は、標的細胞に感染可能な組み換えレトロウイルスの製造方法であって、以下のもの: ウイルスgag、ウイルスpolおよびウイルスenvをコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターで好適な宿主細胞をトランスフェクトするステップ、ここで該ベクターは、調節性核酸配列に作動可能に連結された、異種遺伝子の導入のためのクローニング部位を含み、および組み換えウイルスを回収するステップを含む、方法を提供する。
本開示のレトロウイルスおよび方法は、増殖しかつビリオンを生産するためにヘルパーウイルスまたは追加の核酸配列またはタンパク質を必要としない複製可能レトロウイルスを提供する。例えば、本開示のレトロウイルスの核酸配列は、例えば、上で考察されるように、群特異的抗原および逆転写酵素、(およびインテグラーゼおよびプロテアーゼ-成熟および逆転写に必要な酵素)をそれぞれコードする。ウイルスgagおよびpolは、レンチウイルス、例えばHIVまたはガンマレトロウイルス、例えばMoMLV由来であってよい。さらに、本開示のレトロウイルスの核酸ゲノムは、ウイルスエンベロープ(ENV)タンパク質をコードする配列を含む。env遺伝子は任意のレトロウイルス由来であってよい。envは、ヒトおよび他の種の細胞の形質導入を可能にする両種指向性エンベロープタンパク質、マウスおよびラット細胞のみに形質導入することができる同種指向性エンベロープタンパク質、異種指向性エンベロープ、GALVエンベロープ、RD114エンベロープ、FeLVエンベロープまたは他のレトロウイルスエンベロープであってよい。エンベロープは、異種供給源、例えばアルファウイルス、CMVまたはVSV由来のエンベロープであってもよい。さらに、エンベロープタンパク質と抗体または、特定の細胞タイプの受容体へのターゲティングのための特定のリガンドとを連結することによって、組み換えウイルスをターゲティングにすることが望ましい。上記のように、レトロウイルスベクターは、例えば、糖脂質、またはタンパク質を挿入することによって標的特異的にすることができる。ターゲティングは、抗体を使用して、レトロウイルスベクターを特定の細胞タイプ(例えば、特定の組織で見出される細胞タイプ、または癌細胞タイプ)上の抗原に向けることによって達成されることがよくある。特定の標的へのレトロウイルスベクターの送達を達成するための具体的方法を当業者は承知しているか、または過度の実験を行うことなく容易に突きとめることができる。一実施形態では、env遺伝子は非レトロウイルス(例えば、アルファウイルス、CMVまたはVSV)由来である。レトロウイルス由来env遺伝子の例には、非限定的に: モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)が含まれる。他のenv遺伝子、例えば水疱性口炎ウイルス(VSV) (プロテインG)、サイトメガロウイルスエンベロープ(CMV)、またはインフルエンザウイルス赤血球凝集素(HA)を使用することもできる。
一実施形態では、レトロウイルスゲノムはガンマレトロウイルス由来であり、より具体的には、哺乳類ガンマレトロウイルス由来である。「由来」とは、親ポリヌクレオチド配列が、天然に存在する配列の挿入または除去(例えば、IRESの挿入、目的のポリペプチドまたは阻害性核酸をコードする異種ポリヌクレオチドの挿入、野生型プロモーターに取って代わる異なるレトロウイルスまたはウイルス由来の、より有効なプロモーターのシャフリングなど)によって改変されている野生型ガンマレトロウイルス(gammaretrocvirus)であることを意味する。
欠損していて感染性ベクター粒子を生産するために補助を必要とする、当技術分野の標準的方法によって生産された組み換えレトロウイルスと異なり、本開示は複製可能なレトロウイルスを提供する。
別の実施形態では、本開示は、調節配列を使用して標的化されたレトロウイルスベクターを提供する。細胞特異的または組織特異的調節配列(例えばプロモーター)を利用して、特定の細胞集団での遺伝子配列の発現を標的化することができる。本開示に好適な哺乳類プロモーターおよびウイルスプロモーターは本明細書中の他の箇所で記載される。したがって、一実施形態では、本開示は、レトロウイルスゲノムの5'末端に組織特異的プロモーター要素を有するレトロウイルスを提供する。好ましくは、該組織特異的調節要素/配列は、レトロウイルスゲノムのLTRのU3領域中であり、例えば新生物細胞に対する細胞特異的または組織特異的プロモーターおよびエンハンサー(例えば、腫瘍細胞特異的エンハンサーおよびプロモーター)、および誘導性プロモーター(例えばテトラサイクリン)を含む。
本開示の転写制御配列には、スーパー抗原、サイトカインまたはケモカインをコードする遺伝子と天然に関連している天然に存在する転写制御配列も含まれる。
一部の状況では、発現を調節することが望ましい。例えば、所望の発現レベルに応じて、種々の強度の活性を有する異なるウイルスプロモーターを利用することができる。哺乳類細胞では、CMV前初期プロモーターを使用して強力な転写活性化を提供することがよくある。あまり強力でないCMVプロモーターの改変バージョンも、導入遺伝子の低レベルの発現が所望である場合に使用されている。造血細胞での導入遺伝子の発現が所望である場合、レトロウイルスプロモーター、例えばMLVまたはMMTV由来のLTRを使用することができる。使用できる他のウイルスプロモーターには、SV40、RSV LTR、HIV-1およびHIV-2 LTR、アデノウイルスプロモーター、例えばE1A、E2A、またはMLP領域由来のプロモーター、AAV LTR、カリフラワーモザイクウイルス、HSV-TK、およびトリ肉腫ウイルスが含まれる。
同様に、組織特異的または選択的プロモーターを使用して、非標的組織に対する潜在的な毒性または望ましくない影響を減少させるために、特定の組織または細胞で転写を達成することができる。例えば、PSA、プロバシン、前立腺酸性ホスファターゼまたは前立腺特異的腺性カリクレイン(hK2)などのプロモーターを使用して、前立腺での遺伝子発現を標的化することができる。使用できる他のプロモーター/調節ドメインは表1に記載される。
特定の適応では、遺伝子治療ベクターの投与後の特定の時点で転写を活性化することが望ましい。これは、ホルモンまたはサイトカイン調節可能なプロモーターなどのプロモーターを用いて行うことができる。例えば、適応が、特定のステロイドが生産されるかまたは送られる生殖腺組織である治療適用では、アンドロゲンまたはエストロゲン調節プロモーターの使用が有益である。そのようなホルモン調節可能なプロモーターには、MMTV、MT-1、エクジソンおよびRuBiscoが含まれる。甲状腺、下垂体および副腎ホルモンに応答するプロモーターなどの他のホルモン調節プロモーターを使用してもよい。使用できるサイトカインおよび炎症性タンパク質応答性プロモーターには、KおよびTキニノゲン(Kageyama et al., 1987)、c-fos、TNF-アルファ、C-反応性タンパク質(Arcone et al., 1988)、ハプトグロビン(Oliviero et al., 1987)、血清アミロイドA2、C/EBPアルファ、IL-1、IL-6 (Poli and Cortese, 1989)、補体C3 (Wilson et al., 1990)、IL-8、アルファ-1酸糖タンパク質(Prowse and Baumann, 1988)、アルファ-1アンチチプシン(alpha-1 antitypsin)、リポタンパク質リパーゼ(Zechner et al., 1988)、アンギオテンシノゲン(Ron et al., 1990)、フィブリノーゲン、c-jun (ホルボールエステル、TNF-アルファ、UV照射、レチノイン酸、および過酸化水素によって誘導可能)、コラゲナーゼ(ホルボールエステルおよびレチノイン酸によって誘導される)、メタロチオネイン(重金属および糖質コルチコイド誘導性)、ストロメライシン(ホルボールエステル、インターロイキン-1およびEGFによって誘導可能)、アルファ-2マクログロブリンおよびアルファ-1アンチキモトリプシンが含まれる。腫瘍特異的プロモーター、例えばオステオカルシン、低酸素応答要素(HRE)、MAGE-4、CEA、アルファ-フェトプロテイン、GRP78/BiPおよびチロシナーゼを使用して、腫瘍細胞での遺伝子発現を調節してもよい。
さらに、このプロモーターのリストは、網羅的または限定的であると解釈されるべきではなく、本明細書中で開示されるプロモーターおよび方法とともに使用してよい他のプロモーターを当業者は承知している。
表1 組織特異的プロモーター
組織 プロモーター
膵臓 インスリン エラスチン アミラーゼ
pdr-1 pdx-1グルコキナーゼ
肝臓 アルブミン PEPCK HBVエンハンサー
αフェトプロテイン アポリポプロテインC α-1
アンチトリプシン ビテロゲニン、NF-AB
トランスチレチン
骨格筋 ミオシンH鎖 筋クレアチンキナーゼ
ジストロフィン カルパインp94 骨格
アルファ-アクチン 速筋型トロポニン1
皮膚 ケラチンK6 ケラチンK1
肺 CFTR ヒトサイトケラチン18 (K18)
肺サーファクタントタンパク質A、B
およびC CC-10 P1
平滑筋 sm22 αSM-アルファ-アクチン
内皮 エンドセリン-1 E-セレクチン フォン
ウィルブランド因子TIE (Korhonen et
al., 1995) KDR/flk-1 メラノサイト
チロシナーゼ
脂肪組織 リポタンパク質リパーゼ(Zechner et al., 1988)
アジプシン(Spiegelman et al., 1989) アセチル-
CoAカルボキシラーゼ(Pape and Kim, 1989)
グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ(Dani et
al., 1989) 脂肪細胞P2 (Hunt et al.,
1986)
血液 β-グロビン
神経膠腫 GFAP、ネスチン、Msi 1 (J. Huang et al. Acta
Biochim Biophys Sin 2010, 42: 274-280)。
「組織特異的調節要素」は、1組織において遺伝子の転写を駆動可能であり、他の組織タイプではほとんど「サイレント」のままである調節要素(例えばプロモーター)である。しかし、組織特異的プロモーターは、それらがサイレントである組織において検出可能な量の「バックグラウンド」または「基底」活性を有することが理解される。プロモーターが標的組織で選択的に活性化される程度は、選択比(標的組織での活性/コントロール組織での活性)として表記することができる。この関連で、本開示の実施で有用な組織特異的プロモーターは、典型的に、約5より大きい選択比を有する。好ましくは、該選択比は約15より大きい。
さらに、単一組織タイプに活性が制限されない特定のプロモーターは、それにもかかわらず、それらが1群の組織で活性であり、かつ別の群であまり活性でないかまたはサイレントである点で選択性を示すことが理解される。そのようなプロモーターもまた、「組織特異的」と称され、本開示とともに使用することが想定される。例えば、種々の中枢神経系(CNS)ニューロンで活性なプロモーターは、脳の任意の多数の異なる領域に影響する(effect)、卒中に起因する損傷からの保護において治療的に有用である。したがって、本開示で使用される組織特異的調節要素は、異種タンパク質の調節への適用可能性ならびに本レトロウイルスベクター中のターゲティングポリヌクレオチド配列としての適用可能性を有する。
本開示のレトロウイルスベクターおよびCDポリヌクレオチドおよびポリペプチドを使用して、多数の細胞増殖性疾患および障害を含む広範囲の疾患および障害を治療することができる(例えば米国特許番号4,405,712および4,650,764; Friedmann, 1989, Science, 244:1275-1281; Mulligan, 1993, Science, 260:926-932, R. Crystal, 1995, Science 270:404-410 (各文献は参照によりその全体がここに組み入れられる)を参照のこと; さらにThe Development of Human Gene Therapy, Theodore Friedmann, Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1999. ISBN 0-87969-528-5 (該文献は参照によりその全体がここに組み入れられる)を参照のこと)。
フレーズ「非分裂」細胞とは、有糸分裂を経由しない細胞を表す。非分裂細胞は、細胞が活発に分裂していない限り、細胞周期の任意の時点(例えば、G0/G1、G1/S、G2/M)でブロックされる。ex vivo感染では、照射、アフィドコリン(aphidocolin)処理、血清飢餓、および接触阻害を含む、当業者によって使用される標準的技術によって分裂細胞を処理して、細胞分裂をブロックすることができる。しかし、ex vivo感染は、多数の細胞がすでに静止している(例えば幹細胞)ために、細胞をブロックすることなく実施されることがよくあることが理解されるべきである。例えば、組み換えレンチウイルスベクターは、細胞分裂をブロックするために使用される機構または細胞がブロックされる細胞周期の時点にかかわらず、多数の非分裂細胞に感染可能である。身体中の既存の非分裂細胞の例には、神経、筋肉、肝臓、皮膚、心臓、肺、および骨髄細胞、およびそれらの誘導体が含まれる。分裂細胞では、ガンマレトロウイルスベクターを使用することができる。それらが分裂中の細胞にのみ感染可能であるからである。
「分裂」細胞とは、活発な有糸分裂、または減数分裂を受ける細胞を意味する。そのような分裂細胞には、幹細胞、皮膚細胞(例えば、線維芽細胞およびケラチノサイト)、配偶子、および当技術分野で公知の他の分裂細胞が含まれる。細胞増殖性障害を有する細胞、例えば新生物細胞は特に興味深く、分裂細胞という用語に包含される。用語「細胞増殖性障害」とは、異常な数の細胞によって特徴付けられる状態を表す。該状態には、肥大性(組織内の細胞集団の過成長を生じさせる絶え間のない細胞増殖)および発育不全性(hypotrophic)(組織内の細胞の欠乏または欠損)細胞増殖の両者または、ある身体領域への過剰の細胞流入または遊走が含まれる。該細胞集団は、必ずしも、形質転換、腫瘍化または悪性細胞ではなく、正常細胞も同様に含まれる。細胞増殖性障害には、種々の線維性状態、例えば強皮症、関節炎および肝硬変などの結合組織の過成長に関連する障害が含まれる。細胞増殖性障害には、新生物障害、例えば頭部および頸部の癌腫が含まれる。頭部および頸部の癌腫には、例えば、口、食道、咽頭、喉頭、甲状腺、舌、唇、唾液腺、鼻、副鼻腔、上咽頭の癌腫、上鼻蓋(superior nasal vault)および洞の腫瘍、鼻腔神経芽細胞腫、扁平上皮癌(squamous call cancer)、悪性黒色腫、副鼻腔未分化癌(SNUC)、脳(グリア芽細胞腫を含む)または血液異常増殖が含まれる。また、頸部リンパ節、喉頭前リンパ節、肺食道傍リンパ節および顎下リンパ節を含む局所のリンパ節の癌腫が含まれる(Harrison's Principles of Internal Medicine (eds., Isselbacher, et al., McGraw-Hill, Inc., 13th Edition, ppl850-1853, 1994)。他の癌タイプには、非限定的に、肺癌、結腸-直腸癌、乳癌、前立腺癌、尿路癌、子宮癌リンパ腫、口腔癌、膵癌、白血病、黒色腫、胃癌、皮膚癌および卵巣癌が含まれる。
本開示はまた、細胞増殖性障害の治療のための遺伝子治療を提供する。そのような治療は、適切な治療用ポリヌクレオチド配列(例えば、アンチセンス、リボザイム、自殺遺伝子、siRNA)を、増殖性障害を有する被験体の細胞に導入することによってその治療効果を達成する。ポリヌクレオチド構築物の送達は、特にMLVに基づくものである場合に本開示の組み換えレトロウイルスベクターを使用して達成することができ、それは分裂細胞にのみ感染可能であり、細胞が分裂を停止した後でさえ、感染細胞中で作製され続ける。
さらに、本明細書中に記載の治療方法(例えば、遺伝子治療または遺伝子送達方法)はin vivoまたはex vivoで実施することができる。遺伝子治療の前に、例えば外科手術または放射線によって大多数の腫瘍を除去することが好ましい。外科手術または放射線を遺伝子治療後に使用することもできる。一部の態様では、レトロウイルス療法の前またはその後に化学療法を実施する。
ゆえに、本開示は、非分裂細胞、分裂細胞または新生物細胞に感染可能な組み換えレトロウイルスであって、ウイルスGAG; ウイルスPOL; ウイルスENV; IRESまたは内部プロモーターに作動可能に連結された異種核酸; およびパッケージング、逆転写および組み込みに必要なシス作用性核酸配列を含む、組み換えレトロウイルスを提供する。該組み換えレトロウイルスはHIVなどのレンチウイルスであるか、またはガンマレトロウイルスであってよい。組み換えレトロウイルスの製造方法に関して上記のように、本開示の組み換えレトロウイルスは、さらに、VPR、VIF、NEF、VPX、TAT、REV、およびVPUタンパク質の少なくとも1つを含んでよい。特定の理論によって拘束されることを望まないが、1種以上のこれらの遺伝子/タンパク質産物は、生産される組み換えレトロウイルスのウイルス力価を増加させるために重要である(例えばNEF)か、または高レベルのウイルス制限要素を有する細胞でのビリオンの感染およびパッケージングに好都合である(例えば、活性なAPOBEC3Gまたは等価物を有する細胞に対するVIF)と考えられる。
本開示はまた、特定の核酸(例えば異種配列)の発現を提供するための標的細胞への核酸導入方法を提供する。したがって、別の実施形態では、本開示は、標的細胞での異種核酸の導入および発現のための方法であって、本開示の組み換えウイルスを標的細胞に感染させるステップおよび標的細胞で異種核酸を発現させるステップを含む、方法を提供する。上記のように、該標的細胞は、それらにレトロウイルスが感染可能である限り、分裂、非分裂、新生物、不死化、改変および、当業者によって認識される他の細胞タイプを含む任意の細胞タイプであってよい。
本開示の方法による核酸配列(例えば異種核酸配列)の導入によって細胞中の遺伝子の発現をモジュレートすることが望ましく、ここで核酸配列は、例えば、アンチセンスまたはリボザイム分子を生じさせる。用語「モジュレート」とは、過剰に発現された場合の遺伝子の発現の抑制または不十分に発現された場合の発現の増大を想定する。細胞増殖性障害が遺伝子の発現と関連する場合、翻訳レベルで遺伝子の発現を妨げる核酸配列を使用できる。このアプローチは、例えば、アンチセンス核酸、リボザイム、または三重鎖化剤(triplex agents)を利用して、アンチセンス核酸または三重鎖化剤で該mRNAをマスクするかまたはリボザイムでそれを切断することによって特定のmRNAの転写または翻訳をブロックする。
アンチセンス核酸は、特定のmRNA分子の少なくとも一部分に相補的なDNAまたはRNA分子である(Weintraub, Scientific American, 262:40, 1990)。細胞では、アンチセンス核酸は、対応するmRNAにハイブリダイズし、二本鎖分子を形成する。アンチセンス核酸はmRNAの翻訳を妨げる。その理由は、細胞が二本鎖のmRNAを翻訳しないからである。約15ヌクレオチドのアンチセンスオリゴマーが好ましい。その理由は、それらが容易に合成でき、かつ標的細胞に導入された場合に問題を引き起こす可能性が、大きい分子より低いからである。遺伝子のin vitro翻訳を阻害するためのアンチセンス法の使用は当技術分野で周知である(Marcus-Sakura, Anal. Biochem., 172:289, 1988)。
アンチセンス核酸を使用して、突然変異体タンパク質または顕著に活性な遺伝子産物、例えばアルツハイマー病で蓄積するアミロイド前駆体タンパク質の発現をブロックすることができる。そのような方法はまた、ハンチントン病、遺伝性パーキンソン症、および他の疾患の治療に有用である。特に興味深いのは、細胞増殖性障害に関連する遺伝子のブロックである。アンチセンス核酸はまた、毒性を伴うタンパク質の発現の阻害に有用である。
転写を止めるためのオリゴヌクレオチドの使用は三重鎖化ストラテジーとして知られる。その理由は、オリゴマーが二重らせんDNAに巻きつき、三本鎖らせんを形成するからである。したがって、これらの三重鎖化化合物は選択遺伝子の特有の部位を認識するように設計することができる(Maher, et al., Antisense Res. and Dev., 1(3):227, 1991; Helene, C., Anticancer Drug Design, 6(6):569, 1991)。
リボザイムは、DNA制限エンドヌクレアーゼと類似の様式で他の一本鎖RNAを特異的に切断する能力を有するRNA分子である。これらのRNAをコードするヌクレオチド配列の改変によって、RNA分子中の特定のヌクレオチド配列を認識してそれを切断する分子を操作することが可能である(Cech, J. Amer. Med. Assn., 260:3030, 1988)。このアプローチの主な利点は、それらが配列特異的であるため、特定の配列を有するmRNAのみが不活化されることである。
生物学的応答調節因子(例えばサイトカイン)をコードする核酸を導入することが望ましい。このカテゴリーに含まれるのは、「インターロイキン」として分類されるいくつかのサイトカインをコードする核酸を含む免疫増強物質である。これらには、例えば、インターロイキン1〜15が含まれる。必ずしも同一の機構にしたがって作用するわけではないが、インターフェロン、および特にガンマインターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF)および顆粒球-マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)もこのカテゴリーに含まれる。他のポリペプチドには、例えば、血管新生因子および抗血管新生因子が含まれる。そのような核酸を骨髄細胞またはマクロファージに送達して酵素欠損または免疫欠損を治療することが望ましい。成長因子、毒性ペプチド、リガンド、受容体、または他の生理的に重要なタンパク質をコードする核酸を特定の標的細胞に導入することもできる。
例えば、EGF受容体ファミリーのメンバーであるHER2 (例えば配列番号23および24を参照のこと)は薬物トラスツズマブ(Herceptin TM, Genentech)の結合の標的である。トラスツズマブは抗体依存性細胞障害(ADCC)のメディエーターである。1+および非発現細胞より免疫組織化学によって2+および3+レベルの過剰発現を伴うHER2発現細胞に活性が優先的に向けられる(Herceptin処方情報、Crommelin 2002)。低HER2腫瘍でのHER2または切断型HER2 (細胞外および膜貫通ドメインのみを発現する)を発現するベクターの導入によるHER2の発現の増強は、ADCCの最適な誘発を促進し、臨床使用で観察されるすぐに生じるHER2耐性を克服する。
HER2の細胞内ドメインをyCD2で置換すると、HER2の細胞表面発現およびyCD2のサイトゾル局在化が可能になる。HER2細胞外ドメイン(ECD)および膜貫通ドメイン(TM) (約175〜2200位の約2026 bp)をPCRによって増幅する(Yamamoto et al., Nature 319:230-234, 1986; Chen et al., Canc. Res., 58:1965-1971, 1998)か、または化学合成(BioBasic Inc., Markham, Ontario, Canada)し、配列番号19のベクターpAC3-yCD2中のIRESとyCD2遺伝子との間に挿入することができる。あるいは(Althernatively)、yCD遺伝子を切り取り、HER2ポリペプチドまたはその断片をコードするポリヌクレオチドで置換することができる。ECDおよびTMドメインのHerceptin結合ドメインIV (1910〜2200位の約290 bp)のみを有するさらなる切断型HER2を増幅するか、または化学合成し、上記のように使用することができる(Landgraf 2007; Garrett et al., J. of Immunol., 178:7120-7131, 2007)。ネイティブのシグナルペプチド(175〜237位の約69 bp)がドメインIVおよびTMに融合されているこの切断型のさらなる改変体を化学合成し、上記のように使用することができる。得られたウイルスを使用して、トラスツズマブまたはトラスツズマブおよび5-FCと組み合わせて被験体の細胞増殖性障害を治療することができる。
あるいは、異なるENV遺伝子または他の適切な表面タンパク質を含む別個のベクター中でHER2および上記改変体を発現させることができる。このベクターは複製可能である(Logg et al. J.Mol Biol. 369:1214 2007)か、またはエンベロープおよび目的の遺伝子をコードする非複製「第1世代」レトロウイルスベクター(Emi et al. J.Virol 65:1202 1991)であってよい。後者の場合、既存のウイルス感染は、任意の以前に感染した細胞からの「非複製」ベクターの感染性伝播を可能にするための相補的gagおよびpolを提供する。代替ENVおよび糖タンパク質には、ヒト細胞に感染可能な異種指向性および多種指向性(polytropic) ENVおよび糖タンパク質、例えばMLVのNZB系統由来のENV配列およびMCF、VSV、GALVおよび他のウイルス由来の糖タンパク質が含まれる(Palu 2000, Baum et al., Mol. Therapy, 13(6):1050-1063, 2006)。例えば、ポリヌクレオチドは、GAGおよびPOLおよび配列番号19のyCD2遺伝子が欠失し、ENVがNZB MLVまたはVSV-gの異種指向性ENVドメインに対応し、かつIRESまたはプロモーター、例えばRSVがHER2、HER2 ECDTM、HER2 ECDIVTM、またはHER2 SECDIVTMに作動可能に直接連結されている配列を含むことができる。
VSVGシュードタイプ化ウイルスおよび両種指向性レトロウイルスによる細胞の混合感染は、他方のエンベロープタンパク質によってカプシド形成された一方のウイルスのゲノムを有する子孫ビリオンの生産を生じさせる[Emi 1991]。レトロウイルス粒子のシュードタイプである他のエンベロープもまた同じである。例えば、上記のように得られたレトロウイルスによる感染は、感染細胞中でyCD2およびHER2 (または変異体)をコードすることが可能な子孫ビリオンの生産を生じさせる。得られたウイルスを使用して、トラスツズマブまたはトラスツズマブおよび5-FCと組み合わせて被験体の細胞増殖性障害を治療することができる。
トラスツズマブに対する耐性の発生についての別の態様は、トラスツズマブの活性に必要とされる細胞内シグナル伝達の妨害に関する。耐性細胞はPTENの損失およびp27kip1の低い発現を示す[Fujita, Brit J. Cancer, 94:247, 2006; Lu et al., Journal of the National Cancer Institute, 93(24): 1852-1857, 2001; Kute et al., Cytometry Part A 57A:86-93, 2004)。
例えば、PTENをコードするポリヌクレオチド(配列番号25)を化学合成し(BioBasic Inc., Markham, Canada)、配列番号19または22のベクターpAC3-yCD2中のyCD2遺伝子の直後に、または以前に記載されるリンカー配列を用いて、またはyCD2の代替として、作動可能に挿入することができる。さらなる例では、PTENをコードするポリヌクレオチドを上記のように合成し、IRESとyCD2配列との間に、または以前に記載されるリンカーを用いて挿入することができる。
あるいは、異なるENV遺伝子または他の適切な表面タンパク質を含む別個のベクター中でPTENを発現させることができる。このベクターは複製可能である(Logg et al. J.Mol Biol. 369:1214 2007)か、またはエンベロープおよび目的の遺伝子をコードする非複製「第1世代」レトロウイルスベクター(Emi et al., J.Virol 65:1202 1991)であってよい。後者の場合、既存のウイルス感染は、任意の以前に感染した細胞からの「非複製」ベクターの感染性伝播を可能にするための相補的gagおよびpolを提供する。代替ENVおよび糖タンパク質には、ヒト細胞に感染可能な異種指向性および多種指向性ENVおよび糖タンパク質、例えばMLVのNZB系統由来のENV配列およびMCF、VSV、GALVおよび他のウイルス由来の糖タンパク質が含まれる(Palu, Rev Med Virol. 2000, Baum, Mol. Ther. 13(6):1050-1063, 2006)。例えば、ポリヌクレオチドは、gagおよびpolおよび配列番号19のyCD2遺伝子が欠失し、ENVがNZB MLVまたはVSV-gの異種指向性ENVドメインに対応し、かつIRESまたはプロモーター、例えばRSVがPTENに作動可能に直接連結されている配列を含むことができる。
VSVGシュードタイプ化ウイルスおよび両種指向性レトロウイルスによる細胞の混合感染は、他方のエンベロープタンパク質によってカプシド形成された一方のウイルスのゲノムを有する子孫ビリオンの生産を生じさせる[Emi 1991]。レトロウイルス粒子のシュードタイプである他のエンベロープもまた同じである。例えば、上記のように得られたレトロウイルスによる感染は、感染細胞中でyCD2およびPTEN (または変異体)またはPTENのみをコードすることが可能な子孫ビリオンの生産を生じさせる。得られたウイルスを使用して、トラスツズマブまたはトラスツズマブおよび5-FCと組み合わせて被験体の細胞増殖性障害を治療することができる。
同様に、p27kip1をコードするポリヌクレオチド(配列番号27および28)を化学合成し(BioBasic Inc., Markham, Canada)、配列番号19のベクターpAC3-yCD2中のyCD2遺伝子の直後に、またはリンカー配列を用いて、作動可能に挿入することができる。さらなる例では、p27kip1をコードするポリヌクレオチドを上記のように合成し、IRESとyCD2配列との間に、または以前に記載されるリンカーを用いて、またはyCD2遺伝子の代わりに挿入することができる。
あるいは、異なるenv遺伝子または他の適切な表面タンパク質を含む別個のベクター中でp27kip1を発現させることができる。このベクターは複製可能であるか、またはエンベロープおよび目的の遺伝子をコードする非複製「第1世代」レトロウイルスベクター(Emi et al. J.Virol 65:1202 1991)であってよい。後者の場合、既存のウイルス感染は、任意の以前に感染した細胞からの「非複製」ベクターの感染性伝播を可能にするための相補的gagおよびpolを提供する。代替ENVおよび糖タンパク質には、ヒト細胞に感染可能な異種指向性および多種指向性ENVおよび糖タンパク質、例えば、MLVのNZB系統由来のENV配列およびMCF、VSV、GALVおよび他のウイルス由来の糖タンパク質が含まれる(Palu 2000, Baum 2006, 上記)。例えば、ポリヌクレオチドは、gagおよびpolおよび配列番号19のyCD2遺伝子が欠失し、ENVがNZB MLVまたはVSV-gの異種指向性ENVドメインに対応し、かつIRESまたはプロモーター、例えばRSVがp27kip1に作動可能に直接連結されている配列を含むことができる。
VSVGシュードタイプ化ウイルスおよび両種指向性レトロウイルスによる細胞の混合感染は、他方のエンベロープタンパク質によってカプシド形成された一方のウイルスのゲノムを有する子孫ビリオンの生産を生じさせる[Emi 1991]。レトロウイルス粒子のシュードタイプである他のエンベロープもまた同じである。例えば、配列番号19およびTTの両者から上記のように得られたレトロウイルスによる感染は、感染細胞中でyCD2およびp27kip1 (または変異体)をコードすることが可能な子孫ビリオンの生産を生じさせる。得られたウイルスを使用して、トラスツズマブまたはトラスツズマブおよび5-FCと組み合わせて被験体の細胞増殖性障害を治療することができる。
別の例では、CD20は薬物リツキシマブ(RituxanTM, Genentech)の結合の標的である。リツキシマブは補体依存性細胞傷害(CDC)およびADCCのメディエーターである。フローサイトメトリーによって高い平均蛍光強度を有する細胞はリツキシマブに高い感受性を示す(van Meerten et al., Clin Cancer Res 2006; 12(13):4027-4035, 2006)。低CD20 B細胞でのCD20を発現するベクターの導入によるCD20の発現の増強はADCCの最適な誘発を促進する。
例えば、CD20をコードするポリヌクレオチド(配列番号29および30)を化学合成し(BioBasic Inc., Markham, Canada)、配列番号19または22のベクターpAC3-yCD2(-2)中のyCD2遺伝子の直後に以前に記載されるリンカー配列を用いて、またはyCD2遺伝子の代替として、作動可能に挿入することができる。さらなる例では、CD20をコードするポリヌクレオチドを上記のように合成し、IRESとyCD2配列との間に、または以前に記載されるリンカーを用いて挿入することができる。さらなる代替法として、Psi1およびNot1消化によるCD遺伝子の切り取り後にpAC3-yCD2ベクターにCD20配列を挿入することができる。
さらに別の例では、CD20をコードするポリヌクレオチド(配列番号29および30)を化学合成し(BioBasic Inc., Markham, Canada)、非両種指向性env遺伝子または他の適切な表面タンパク質を含むベクターに挿入することができる(Tedder et al., PNAS, 85:208-212, 1988)。代替ENVおよび糖タンパク質には、ヒト細胞に感染可能な異種指向性および多種指向性ENVおよび糖タンパク質、例えばMLVのNZB系統由来のENV配列およびMCF、VSV、GALVおよび他のウイルス由来の糖タンパク質が含まれる[Palu 2000, Baum 2006]。例えば、ポリヌクレオチドは、gagおよびpolおよび配列番号19のyCD2遺伝子が欠失し、ENVがNZB MLVまたはVSV-gの異種指向性ENVドメインに対応し、かつIRESまたはプロモーター、例えばRSVがCD20に作動可能に直接連結されている配列を含むことができる。
VSVGシュードタイプ化ウイルスおよび両種指向性レトロウイルスによる細胞の混合感染は、他方のエンベロープタンパク質によってカプシド形成された一方のウイルスのゲノムを有する子孫ビリオンの生産を生じさせる[Emi 1991]。レトロウイルス粒子のシュードタイプである他のエンベロープもまた同じである。例えば、配列番号19または22の両者から上記のように得られたレトロウイルスによる感染は、感染細胞中でyCD2およびCD20をコードすることが可能な子孫ビリオンの生産を生じさせる。得られたウイルスを使用して、Rituxanおよび/または5-FCとともに被験体の細胞増殖性障害を治療することができる。同様に、CD20マーカーのみをコードするベクターを腫瘍に感染させると、腫瘍がリツキサン(Rituxan)の使用によって治療可能になる。
ピリミジン同化に関与する酵素および補助因子のレベルは限定的でありうる。OPRT、チミジンキナーゼ(TK)、ウリジン一リン酸キナーゼ、およびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ発現は、感受性系統と比較して5-FU耐性癌細胞で低い(Wang et al., Cancer Res., 64:8167-8176, 2004)。大集団分析では、酵素レベルと疾患転帰との相関が示される(Fukui et al., Int'l. J. OF Mol. Med., 22:709-716, 2008)。CDおよび他のピリミジン同化酵素(PAE)の共発現を利用して、フルオロピリミジン薬物の活性および、したがって治療係数を増加させることができる。
yCD2/PAE含有ベクターの遺伝的安定性(例えば図5を参照のこと)をさらに高めるために、配列全体のランダム突然変異を用いて該酵素をコードする遺伝子を化学合成することができる。これらの突然変異は本質的にランダムであるか、または各アミノ酸のゆらぎ位置での突然変異のみからなってよい。配列番号11および13に関して以前に記載されたように突然変異配列のライブラリーをyCD2遺伝子の下流に挿入してプラスミドのライブラリーを創出する。該ライブラリーは、293T細胞または等価物の一過性トランスフェクションによる感染性粒子のライブラリーの作製に使用できる。融合ポリペプチドをコードするレトロウイルスを感受性細胞に感染させ、適切な化学物質での選択に付することができる。例えば、ランダムに突然変異誘発されたヘルペスチミジンキナーゼ(TK)を化学合成する(Bio Basic Inc, Markham, Canada)。合成配列を配列番号19のyCD2配列の3'に挿入するか、またはCD2遺伝子の切り取り後に単独でpAC3-yCD2ベクター主鎖に挿入する。以前に記載されるようにレトロウイルスベクター混合物をパッケージングする。マウス線維芽細胞LMTK-細胞にベクターを感染させ、HAT培地中でTK活性に関して選択する(Hiller et al., Mol. Cell Biol. 8(8):3298-3302, 1988)。耐性細胞の上清をHAT培地中で再度選択された新鮮なLMTK-細胞に連続継代すると、TKを発現する安定なベクターが選択される。TK+耐性細胞を単離し、突然変異解析のために標準的なPCRに基づく技術によってTK配列を救出することができる(Cowell et al., CDNA Library Protocols, Published by Humana Press, 1996)。この様式では、機能的タンパク質の発現およびレトロウイルスベクター構築物のゲノム安定性の両者に関して配列を選択する。UPRT (配列番号11、13)、OPRT (配列番号15、17) (Olah et al., Cancer Res. 40:2869-2875, 1980; およびSuttle, Somatic Cell & Mol. Genet., 15(5):435-443, 1989)および他の目的の遺伝子に、類似のストラテジーを用いることができる。
あるいは、異なるENV遺伝子または他の適切な表面糖タンパク質を含む別個のベクター中でOPRT、UPRT、TKまたは他のPAEを発現させることができる。このベクターは複製可能である(Logg et al. J.Mol Biol. 369:1214 2007)か、またはエンベロープおよび目的の遺伝子をコードする非複製「第1世代」レトロウイルスベクター(Emi et al. J.Virol 65:1202 1991)であってよい。後者の場合、既存のウイルス感染は、任意の以前に感染した細胞からの「非複製」ベクターの感染性伝播を可能にするための相補的gagおよびpolを提供する。代替ENVおよび糖タンパク質には、ヒト細胞に感染可能な異種指向性および多種指向性ENVおよび糖タンパク質、例えばMLVのNZB系統由来のENV配列およびMCF、VSV、GALVおよび他のウイルス由来の糖タンパク質が含まれる[Palu 2000, Baum 2006, 上記]。例えば、ポリヌクレオチドは、GAGおよびPOL遺伝子が欠失し、ENVがNZB MLVまたはVSV-g由来の異種指向性ENVドメインに対応し、かつIRESまたはプロモーター、例えばRSVがOPRT、UPRT、TK、または他のPAE遺伝子に作動可能に直接連結されている配列を含むことができる。
VSV-gシュードタイプ化ウイルスおよび両種指向性レトロウイルスによる細胞の混合感染は、他方のエンベロープタンパク質によってカプシド形成された一方のウイルスのゲノムを有する子孫ビリオンの生産を生じさせる(Emi et al., J. Virol. 65:1202, 1991)。レトロウイルス粒子のシュードタイプである他のエンベロープもまた同じである。例えば、配列番号19および20の両者から上記のように得られたレトロウイルスによる感染は、感染細胞中でYCD2およびOPRTをコードすることが可能な子孫ビリオンの生産を生じさせる。得られたウイルスを使用して、5-FCとともに被験体の細胞増殖性障害を治療することができる。
本開示の組み換えレトロウイルスをニューロンの障害の治療に使用することができ、例えば、場合により、外因性遺伝子、例えば、受容体をコードする遺伝子またはリガンドをコードする遺伝子を含んでよい。そのような受容体には、上記のように、ドーパミン、GABA、アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン、グルタミン酸化合物、アセチルコリンおよび他の神経ペプチドに反応する受容体が含まれる。ニューロンの障害において治療効果を提供するリガンドの例には、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、ガンマ-アミノ酪酸およびセロトニンが含まれる。感染ドナー細胞による分泌後の必要なリガンドの拡散および取り込みは、被験体の神経細胞の、そのような遺伝子産物の生産が欠損している障害に有益である。神経栄養因子、例えば神経成長因子、(NGF)を分泌するよう遺伝子改変された細胞を使用して、さもなければ治療なしで死滅するコリン作動性ニューロンの変性を妨げることができるかもしれない。
あるいは、基底核の障害、例えばパーキンソン病を有する被験体に移植される細胞を、ドーパミンの前駆体であるL-DOPAをコードする外因性遺伝子を含むように改変することができる。パーキンソン病は中脳の黒質のドーパミンニューロンの損失を特徴とし、ドーパミンニューロンはその主要な標的器官である基底核を有する。
本開示の方法によって同様に治療できる他のニューロンの障害には、アルツハイマー病、ハンチントン病、卒中に起因するニューロンの損傷、および脊髄の損傷が含まれる。アルツハイマー病は前脳基底部のコリン作動性ニューロンの変性を特徴とする。これらのニューロンの神経伝達物質はアセチルコリンであり、それはニューロンの生存に必要である。これらのニューロンの生存を促進する因子の外因性遺伝子を含む本開示の組み換えレトロウイルスで感染させたコリン作動性細胞の移植を、上記のように、本開示の方法によって達成することができる。卒中後、海馬のCA1の細胞の選択的損失ならびに皮質細胞の損失があり、それはこれらの患者での認知機能および記憶の損失の基礎をなす。特定されれば、本開示の方法によってCA1細胞死に関与する分子を阻害することができる。例えば、アンチセンス配列、またはアンタゴニストをコードする遺伝子を神経細胞に導入して、脳の海馬領域に移植することができる。
タンパク質産物の不足に起因する疾患では、遺伝子導入によって補充療法のために罹患組織に正常な遺伝子を導入することができ、ならびにアンチセンス突然変異を使用して疾患の動物モデルを創出することができる。例えば、筋肉または肝細胞の感染のためにレトロウイルスに因子IXをコードする核酸を挿入することが望ましい。
本開示はまた、細胞増殖性または免疫障害の治療のための遺伝子治療を提供する。そのような治療は、増殖性障害を有する細胞へのアンチセンス、siRNAまたはドミナントネガティブなコードポリヌクレオチドの導入によってその治療効果を達成する。該ポリヌクレオチドは、細胞増殖性障害に関連する遺伝子に結合して、その翻訳または発現を妨げる。細胞増殖性障害の治療またはモジュレートに有用な異種核酸(例えばアンチセンスまたはsiRNAポリヌクレオチド)の送達は、本開示の組み換えレトロウイルスベクターを使用して達成することができる。別の実施形態では、本開示のCDポリヌクレオチドを導入し、ポリヌクレオチドを発現させてシトシンデアミナーゼ活性を含むポリペプチドを生産させ、かつ細胞傷害量の5-FUを生産するための量および期間で5-フルオロシトシンと細胞を接触させることによって細胞増殖性障害を治療する。
さらに、本開示は、本開示の組み換えレトロウイルスベクターをコードするポリヌクレオチド配列を提供する。該ポリヌクレオチド配列を種々のウイルス粒子に組み入れることができる。例えば、遺伝子治療に利用できる種々のウイルスベクターには、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニア、または、好ましくは、RNAウイルス、例えばレトロウイルスおよび、さらに具体的には、哺乳類ガンマレトロウイルスが含まれる。レトロウイルスベクターはマウス、サルまたはヒトレトロウイルスの誘導体であってよい。外来遺伝子(例えば異種ポリヌクレオチド配列)を挿入できるレトロウイルスベクターの例には、非限定的に、マウス白血病ウイルス(MLV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、テナガザル白血病ウイルス(GALV)、ヒヒ内在性ウイルス(BEV)、およびネコウイルスRD114の誘導体が含まれる。すべてのこれらのベクターは、選択マーカー遺伝子を導入するかまたは組み入れて、形質導入された細胞が特定および作製できるようにすることができる。例えば、特定の標的細胞上の受容体のリガンドをコードする別の遺伝子とともに、目的の異種配列をウイルスベクターに挿入することによって、該ベクターは標的特異的になる。レトロウイルスベクターは、例えば、糖、糖脂質、またはタンパク質に結合させることによって標的特異的にすることができる。レトロウイルスベクターを標的とする抗体またはリガンドを使用することによってターゲティングを達成する。当業者は、異種ポリヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの標的特異的送達を可能にするためにレトロウイルスゲノムに挿入するかまたはウイルスエンベロープに取り付けることができる特定のポリヌクレオチド配列を承知しているかまたは過度の実験を行うことなく容易に突き止めることができる。さらに、レトロウイルスゲノムのLTRに含まれる細胞特異的または組織特異的調節要素を利用することによってレトロウイルスベクターを細胞に向けることができる。好ましくは細胞特異的または組織特異的調節要素はLTRのU3領域中である。このようにして、細胞への組み込み後、レトロウイルスゲノムは細胞特異的または組織特異的プロモーターが活性な細胞でのみ発現される。
さらに別の実施形態では、本開示は、組み換えレトロウイルス派生構築物を含むプラスミドを提供する。該プラスミドは、標的細胞または細胞培養物、例えばNIH 3T3または他の組織培養細胞に直接導入することができる。得られた細胞はレトロウイルスベクターを培養培地中に放出する。
本開示は、5'から3'に向かって、転写の開始に有用なプロモーターまたは調節領域; psiパッケージングシグナル; gagコード核酸配列、polコード核酸配列; envコード核酸配列; 内部リボソーム進入部位核酸配列; マーカー、治療用または診断用ポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチド; およびLTR核酸配列を含むポリヌクレオチド構築物を提供する。本明細書中の他の箇所で記載されかつ以下のように、本開示のポリヌクレオチド構築物(例えば組み換え複製可能レトロウイルスポリヌクレオチド)の種々のセグメントを、所望の宿主細胞、発現タイミングまたは量、および該異種ポリヌクレオチドに部分的に応じて操作する。本開示の複製可能レトロウイルス構築物はいくつかのドメインに分けることができ、該ドメインを当業者は個別に改変することができる。
例えば、該プロモーターは、配列番号19、20または22のヌクレオチド1〜ヌクレオチド約582に記載の配列を有するCMVプロモーターを含んでよく、改変されたプロモーターが転写を導きかつ開始させることが可能である限り、1以上(例えば、2〜5、5〜10、10〜20、20〜30、30〜50、50〜100またはそれ以上の核酸塩基)に対する改変を含んでよい。一実施形態では、該プロモーターまたは調節領域はCMV-R-U5ドメインポリヌクレオチドを含む。CMV-R-U5ドメインは、MLV R-U5領域に対して、ヒトサイトメガロウイルス由来の前初期プロモーターを含む。一実施形態では、CMV-R-U5ドメインポリヌクレオチドは、配列番号19、20または22のヌクレオチド約1〜ヌクレオチド約1202に記載の配列または、配列番号19、20、または22に記載の配列と少なくとも95%同一の配列を含み、ここで該ポリヌクレオチドはそれに作動可能に連結された核酸分子の転写を促進する。該ポリヌクレオチドのgagドメインは任意の数のレトロウイルス由来であってよいが、典型的に、ガンマレトロウイルス由来であり、さらに具体的には、哺乳類ガンマレトロウイルス由来である。一実施形態では、該gagドメインはヌクレオチド番号約1203〜ヌクレオチド約2819の配列または、それに対して少なくとも95%、98%、99%または99.8% (最も近い10thに端数を丸めている)の同一性を有する配列を含む。該ポリヌクレオチドのpolドメインは任意の数のレトロウイルス由来であってよいが、典型的に、ガンマレトロウイルス由来であり、さらに具体的には、哺乳類ガンマレトロウイルス由来である。一実施形態では、該polドメインはヌクレオチド番号約2820〜ヌクレオチド約6358の配列または、それに対して少なくとも95%、98%、99%または99.9% (最も近い10thに端数を丸めている)の同一性を有する配列を含む。該ポリヌクレオチドのenvドメインは任意の数のレトロウイルス由来であってよいが、典型的に、ガンマレトロウイルスまたはガンマ-レトロウイルス(gammaretrovirus or gamma-retrovirus)由来であり、さらに具体的には、哺乳類ガンマレトロウイルスまたはガンマ-レトロウイルス由来である。一部の実施形態では、
該envコードドメインは両種指向性envドメインを含む。一実施形態では、該envドメインはヌクレオチド番号約6359〜ヌクレオチド約8323の配列または、それに対して少なくとも95%、98%、99%または99.8% (最も近い10thに端数を丸めている)の同一性を有する配列を含む。該ポリヌクレオチドのIRESドメインは、任意の数の内部リボソーム進入部位から取得することができる。一実施形態では、IRESは脳心筋炎ウイルス由来である。一実施形態では、該IRESドメインは、ドメインがリボソームの進入を可能にする限り、ヌクレオチド番号約8327〜ヌクレオチド約8876の配列または、それに対して少なくとも95%、98%、または99% (最も近い10thに端数を丸めている)の同一性を有する配列を含む。該異種ドメインは本開示のシトシンデアミナーゼを含んでよい。一実施形態では、該CDポリヌクレオチドはヒトコドン最適化配列を含む。さらに別の実施形態では、該CDポリヌクレオチドは、シトシンデアミナーゼを有する突然変異体ポリペプチドをコードし、ここで該突然変異は、広い温度範囲にわたって持続した動態活性を可能にする、融解温度(Tm)を10℃高める熱安定化の増加およびタンパク質の蓄積レベルの増加を付与する。一実施形態では、該シトシンデアミナーゼは、配列番号19または22のヌクレオチド番号約8877〜約9353に記載の配列を含む。ポリプリンリッチドメインが該異種ドメインに続いてもよい。3' LTRは、任意の数のレトロウイルス、典型的にガンマレトロウイルスおよび好ましくは哺乳類ガンマレトロウイルス由来であってよい。一実施形態では、該3' LTRはU3-R-U5ドメインを含む。さらに別の実施形態では、該LTRは、配列番号19または22のヌクレオチド約9405〜約9998に記載の配列または、それに対して少なくとも95%、98%または99.5% (最も近い10thに端数を丸めている)同一の配列を含む。
本開示はまた、5'から3'に向かって、CMV-R-U5、ヒトサイトメガロウイルス由来の前初期プロモーターとMLV R-U5領域との融合物; PBS、逆転写酵素のためのプライマー結合部位; 5'スプライス部位; Ψパッケージングシグナル; gag、MLV群特異的抗原のORF; pol、MLVポリメラーゼポリタンパク質のORF; 3'スプライス部位; 4070A env、MLV 4070A系統のエンベロープタンパク質のORF; IRES、脳心筋炎ウイルスの内部リボソーム進入部位; 改変されたシトシンデアミナーゼ(熱安定化およびコドン最適化); PPT、ポリプリントラクト; およびU3-R-U5、MLV長末端反復配列を含む組み換えレトロウイルスベクターを提供する。この構造を図3にさらに示す。
本開示はまた、配列番号19、20または22に記載の配列を含むレトロウイルスベクターを提供する。
完全寛解から一時的寛解および再発が予期される生存の延長までの種々の程度の成功を有する多数の化学療法剤が現在市場で販売されている。市場で販売されている一部の癌治療物質は腫瘍の血管の血管新生特性を標的にする。組成物は腫瘍の血管新生を標的にし、腫瘍または癌への血液供給および栄養分を減少させ、それにより腫瘍を縮小させて被験体の生存を延長しようとする。VEGFは、腫瘍増殖に役割を果たすことが知られる血管新生因子である。ゆえに、VEGFのアンタゴニストが抗癌剤として開発されている。
ヒトVEGFは正常および悪性血管系で血管新生を媒介する; それはほとんどの悪性腫瘍で過剰発現され、高いレベルが、多くの場合、転移の高い危険性および不十分な予後と結び付けられている。血管新生のin vitroモデルでVEGFがその受容体と相互作用すると、内皮細胞増殖および新規血管形成が生じる。動物モデルでは、VEGFは、血管内皮細胞増殖/遊走を誘発し、新たに形成された血管の生存を持続させ、かつ血管透過性を高めることが示されている。
VEGFアンタゴニスト物質は、VEGFシグナル伝達経路を標的にするかまたは負に調節するものである。その例には、VEGFインヒビター(例えばVEGFを直接阻害する物質(例えばVEGF-A、-B、-C、または-D)、例えばVEGFに結合することによるもの(例えば抗VEGF抗体、例えばベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))またはラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))、または他のインヒビター、例えばペガプタニブ、NEOVASTAT(登録商標)、AE-941、VEGF Trap、およびPI-88))、VEGF発現のモジュレーター(例えばINGN-241、経口テトラチオモリブダート、2-メトキシエストラジオール、2-メトキシエストラジオールナノ結晶分散、ベバシラニブナトリウム(bevasiranib sodium)、PTC-299、Veglin)、VEGF受容体のインヒビター(例えばKDRまたはVEGF受容体III (Flt4)、例えば抗KDR抗体、VEGFR2抗体、例えばCDP-791、IMC-1121B、VEGFR2ブロッカー、例えばCT-322)、VEGFR発現のモジュレーター(例えばVEGFR1発現モジュレーターSirna-027)またはVEGF受容体下流シグナル伝達のインヒビターが含まれる。本明細書中に記載の一部の態様では、VEGFアンタゴニスト物質は、ベバシズマブ、ペガプタニブ、ラニビズマブ、ソラフェニブ、スニチニブ、AE-941、VEGF Trap、パゾパニブ、バンデタニブ、バタラニブ、セジラニブ、フェンレチニド、スクアラミン、INGN-241、経口テトラチオモリブダート、テトラチオモリブダート、Panzem NCD、2-メトキシエストラジオール、AEE-788、AG-013958、ベバシラニブナトリウム、AMG-706、アクシチニブ、BIBF-1120、CDP-791、CP-547632、PI-88、SU-14813、SU-6668、XL-647、XL-999、IMC-1121B、ABT-869、BAY-57-9352、BAY-73-4506、BMS-582664、CEP-7055、CHIR-265、CT-322、CX-3542、E-7080、ENMD-1198、OSI-930、PTC-299、Sirna-027、TKI-258、Veglin、XL-184、またはZK-304709である。
ベバシズマブ(AVASTATIN(登録商標)) (rhuMAb-VEGF)(抗VEGFモノクローナル抗体)は、血管内皮増殖因子(VEGF)を標的にする組み換えヒト/マウスキメラモノクローナル抗体である)。それは、マウス抗VEGFモノクローナル抗体のVEGF結合残基を操作して、ヒト免疫グロブリン-1 (IgG1)のフレームワーク領域内に入れることによって作製される(Prod Info Avastin, 2004)。7%のアミノ酸配列のみがマウス抗体由来であり、93%はIgG1由来である。ベバシズマブは、2つのヒトVEGF受容体タイプ(flt-1およびflk-1)の結合部位の認識によって、すべてのヒトVEGFフォームに結合し、それを中和する。動物モデルでは、該抗体は、VEGFによって誘発される血管新生を阻害することによって、確立されている腫瘍を安定化するかまたは腫瘍増殖を抑制ことが示されている。
0.3 mg/kg以上の投与後のベバシズマブの薬物動態は線形である(Anon, 2002)。進行した癌患者(n=25)での90分の0.3、1、3、および10 mg/kgの静脈内注入後、ベバシズマブのピーク血清濃度は、それぞれ、5〜9 mcg/mL、21〜39 mcg/mL、52〜92 mcg/mL、および186〜294 mcg/mLの範囲であった; 反復投与(毎週)に伴ってわずかな蓄積が観察されたが、これは有意ではなく、薬物動態は線形のままであった。ベバシズマブの定常状態レベルは、毎週、2週間毎、または3週間毎の1〜20 mg/kgの後の100日間で得られた。
ベバシズマブの推奨用量は、疾患進行が減少するまで、2週間毎に30分間で静脈内注入される5ミリグラム/キログラムである。ベバシズマブは化学療法後に実施するべきである。単一物質ベバシズマブの効力は確立されていない。約1 mg/kg〜約15 mg/kg、好ましくは約5 mg/kgのベバシズマブ(ゲムシタビンおよびドセタキセルと共投与するか、または化学療法前後の1週間以内)を静脈内投与する。
本開示の方法および組成物は、ベバシズマブでの療法を含む併用療法において有用である。本明細書中で記載されるように、治療物質(例えば細胞傷害性遺伝子)を含む本開示の複製可能レトロウイルス(RCR)は細胞増殖性障害の治療に有用である。本開示のRCRの利点には、複製細胞癌細胞に感染するその能力が含まれる。ベクターの導入遺伝子が細胞傷害性遺伝子(例えば非細胞傷害性物質を細胞傷害性物質に変換するポリペプチドをコードする遺伝子)を含む場合、癌細胞を死滅させる能力を提供する。
本開示は、細胞増殖性障害、例えば癌および新生物の治療方法であって、HT1080+T5.0002細胞または、他の異種遺伝子をコードするベクターを生産する類似のHT1080派生細胞によって生産された本開示のRCRベクターを投与するステップ、およびその後の化学療法剤または抗癌剤での治療のステップを含む方法を提供する。一実施形態では、RCRが感染し、複製することを可能にする化学療法剤または抗癌剤の投与前の期間、RCRベクターを被験体に投与する。次いで増殖を減少させるかまたは癌細胞を死滅させる期間および用量の化学療法剤または抗癌剤で被験体を処置する。一態様では、化学療法剤または抗癌剤での処置が癌/腫瘍を縮小させるが死滅させない場合(例えば部分的寛解または一時的寛解)、RCR由来の細胞傷害性遺伝子(例えばシトシンデアミナーゼ)を発現する細胞において有毒な治療物質に変換される無毒の治療物質(例えば5-FC)で被験体を処置することができる。そのような方法を使用して、腫瘍細胞の複製プロセス中に本開示のRCXRベクターを伝播させ、抗癌剤または化学療法剤での処置によりそのような細胞を死滅させることができ、本明細書中に記載のRCR治療法を使用してさらに死滅させることができる。
本開示のさらに別の実施形態では、異種遺伝子は標的抗原(例えば癌抗原)のコード配列を含むことができる。この実施形態では、細胞増殖性障害を含む細胞に、標的抗原をコードする異種ポリヌクレオチドを含むRCRを感染させて、標的抗原の発現(例えば癌抗原の過剰発現)を提供する。そして、標的抗原と特異的に相互作用するターゲティング同族部分(targeting cognate moiety)を含む抗癌剤を被験体に投与する。ターゲティング同族部分は細胞傷害性物質に作動可能に連結するか、またはそれ自体が抗癌剤であってよい。ゆえに、ターゲティング抗原コード配列を含むRCRを感染させた癌細胞は癌細胞上の標的の発現を増加させ、その結果、細胞傷害性ターゲティングの効率/効力が増加する。
免疫系の細胞間の相互作用のブロックは、活性化または抑制の、顕著な免疫学的効果を有することが示されている(Waldmann Annu Rev Med. 57:65 2006)。例えば、T細胞の活性化をモジュレートするCTLA-4 (CD 152)とB7.1 (CD80)との相互作用の遮断は、おそらくこの抑制的相互作用をブロックすることによって免疫刺激を生じさせることが示されている(Peggs et al. Curr. Opin. Immunol. 18:206, 2006)。この遮断は、潜在的に、CTLA-4に対する抗体または可溶性B7.1によって達成することができる。これらのタイプの分子の全身投与は、少なくとも有害な副作用またはあるC28アゴニストの場合には死さえ生じさせうる、望ましくない全体的な影響を有しうる(Suntharalingam et al. NEJM 355 1018 2006)。Pfizerは、そのような1つの抗CTLA-4遮断抗体(CP-675,206)を抗癌試薬として開発中であるが、最近、重大な副作用のせいで開発を中止した。細胞外間隙中に放出される前記分子をコードする複製可能ベクターの感染後の腫瘍から局所環境中に放出される遮断分子の局所送達は免疫モジュレーションを局所的に提供し、かつ前記の重大な副作用を回避する。遮断分子は、抗体、単鎖抗体、可溶型の天然リガンドまたはそのような抗体に結合する他のペプチドである。
ゆえに、さらに別の実施形態では、本開示のRCRは、同族抗原またはリガンドと特異的に相互作用する結合ドメイン(例えば、抗体、抗体フラグメント、抗体ドメインまたは受容体リガンド)を含むコード配列を含むことができる。そして結合ドメインのコード配列を含むRCRを使用して、癌細胞または新生物細胞などの細胞増殖性障害を含む被験体中の細胞を感染させることができる。次いで感染細胞は結合ドメインまたは抗体を発現する。次いで、細胞傷害性物質に作動可能に連結されているかまたはそれ自体が細胞傷害性である抗原または同族体(cognate)を被験体に投与することができる。そして細胞傷害性同族体は、結合ドメインを発現する感染細胞を選択的に死滅させる。あるいは、結合ドメイン自体が抗癌剤であってよい。
本明細書中で使用される用語「抗体」とは、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメインまたは免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むタンパク質を表す。例えば、抗体は、重(H)鎖可変領域(本明細書中でVHと略される)、および軽(L)鎖可変領域(本明細書中でVLと略される)を含むことができる。別の例では、抗体は2つの重(H)鎖可変領域および2つの軽(L)鎖可変領域を含む。用語「抗体」は、抗体の抗原結合性フラグメント(例えば、単鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab').sub.2、Fdフラグメント、Fvフラグメント、およびdAbフラグメント)ならびに完全抗体を包含する。
VHおよびVL領域は、「フレームワーク領域」(FR)と称される、より保存された領域が点在している「相補性決定領域」(CDR)と称される超可変領域にさらに細分することができる。フレームワーク領域およびCDRの範囲は正確に定義されている(Kabat, E. A., et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242, およびChothia, C. et al. (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917を参照のこと)。本明細書中ではKabat定義を使用する。各VHおよびVLは典型的に3つのCDRおよび4つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端で以下の順序: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。
「免疫グロブリンドメイン」とは、免疫グロブリン分子の可変または定常ドメイン由来のドメインを表す。免疫グロブリンドメインは、典型的に、約7つの.ベータ.-ストランド、および保存されたジスルフィド結合から構成される2つの.ベータ.-シートを含む(例えばA. F. Williams and A. N. Barclay 1988 Ann. Rev Immunol. 6:381-405を参照のこと)。免疫グロブリン可変領域の超可変ループの標準的な構造は、Chothia et al. (1992) J. Mol. Biol. 227:799-817; Tomlinson et al. (1992) J. Mol. Biol. 227:776-798); およびTomlinson et al. (1995) EMBO J. 14(18):4628-38に記載のように、その配列から推測することができる。
本明細書中で使用される「免疫グロブリン可変ドメイン配列」とは、免疫グロブリン可変ドメインの構造を形成できるアミノ酸配列を表す。例えば、該配列には、天然に存在する可変ドメインのアミノ酸配列の全体または部分が含まれる。例えば、該配列は、1、2またはそれ以上のNまたはC末端アミノ酸、内部アミノ酸を省略するか、1以上の挿入または追加の末端アミノ酸を含むか、または他の変化を含んでよい。一実施形態では、免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むポリペプチドは別の免疫グロブリン可変ドメイン配列と結び付いて、標的結合構造(または「抗原結合部位」)、例えばTie1と相互作用し、例えばTie1と結合するかまたはTie1を阻害する構造を形成することができる。
抗体のVHまたはVL鎖は、重鎖または軽鎖定常領域の全体または部分をさらに含み、それにより、それぞれ、免疫グロブリン重鎖または軽鎖を形成することができる。一実施形態では、抗体は2つの免疫グロブリン重鎖および2つの免疫グロブリン軽鎖の四量体であり、ここで免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、例えばジスルフィド結合によって鎖間連結される。重鎖定常領域は3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。軽鎖定常領域はCLドメインを含む。重鎖および軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、典型的に、免疫系の種々の細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(Clq)を含む宿主組織または因子への抗体の結合を媒介する。用語「抗体」には、タイプIgA、IgG、IgE、IgD、IgM (ならびにそれらのサブタイプ)のインタクトの免疫グロブリンが含まれる。免疫グロブリンの軽鎖はカッパまたはラムダタイプの軽鎖であってよい。一実施形態では、抗体はグリコシル化される。抗体は、抗体依存性細胞傷害および/または補体媒介性細胞傷害に関して機能的であってよい。
用語「単一特異性抗体」とは、特定の標的、例えばエピトープへの単一の結合特異性および親和性を示す抗体を表す。この用語は、例えば均質の単離された細胞集団から単一の分子種として生産される抗体を表す「モノクローナル抗体」を含む。「モノクローナル抗体組成物」とは、抗体の単一分子種を含む組成物中の抗体またはそのフラグメントの調製物を表す。一実施形態では、モノクローナル抗体は哺乳類細胞によって生産される。1以上のモノクローナル抗体種を組み合わせることができる。
抗体の1以上の領域はヒト領域または実質的にヒト領域であってよい。例えば、1以上の可変領域はヒト領域または実質的にヒト領域であってよい。例えば、1以上のCDRはヒト領域であってよく、例えば、HC CDR1、HC CDR2、HC CDR3、LC CDR1、LC CDR2、およびLC CDR3であってよい。各軽鎖CDRはヒトCDRであってよい。HC CDR3はヒトHC CDR3であってよい。1以上のフレームワーク領域はヒト領域であってよく、例えば、HCまたはLCのFR1、FR2、FR3、およびFR4であってよい。一実施形態では、すべてのフレームワーク領域はヒト領域であり、例えばヒト体細胞、例えば免疫グロブリンを生産する造血細胞または非造血細胞由来である。一実施形態では、ヒト配列は、例えば生殖細胞系核酸によってコードされる、生殖細胞系配列である。1以上の定常領域はヒト領域または実質的にヒト領域であってよい。別の実施形態では、フレームワーク領域(例えば包括的にFR1、FR2、およびFR3または包括的にFR1、FR2、FR3、およびFR4)または抗体全体の少なくとも70、75、80、85、90、92、95、または98%がヒト領域または実質的にヒト領域であってよい。例えば、包括的にFR1、FR2、およびFR3は、軽鎖または重鎖配列をコードする遺伝子座のヒト生殖細胞系Vセグメントによってコードされるヒト配列に少なくとも70、75、80、85、90、92、95、98、または99%同一であってよい。
抗体の全体または部分は免疫グロブリン遺伝子またはそのセグメントによってコードされうる。典型的なヒト免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ(IgA1およびIgA2)、ガンマ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、デルタ、イプシロンおよびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。全長免疫グロブリン軽鎖(約25 Kdまたは214アミノ酸)は、NH2-末端の可変領域遺伝子(約110アミノ酸)およびCOOH--末端のカッパまたはラムダ定常領域遺伝子によってコードされる。全長免疫グロブリン重鎖(約50 Kdまたは446アミノ酸)も同様に、可変領域遺伝子(約116アミノ酸)および他の上記定常領域遺伝子の1つ、例えばガンマ(約330アミノ酸をコードする)によってコードされる。軽鎖とは、軽鎖可変ドメインを含む任意のポリペプチドを表す。重鎖とは、重鎖可変ドメインを含む任意のポリペプチドを表す。
本開示は、細胞増殖性障害を有する被験体の治療方法を提供する。該被験体は任意の哺乳類であってよく、好ましくはヒトである。該被験体を、本開示の組み換え複製可能レトロウイルスベクターと接触させる。該接触はin vivoまたはex vivoであってよい。本開示のレトロウイルスベクターを投与する方法は当技術分野で公知であり、それには、例えば、全身投与、局所投与、腹腔内投与、筋肉内投与、頭蓋内、脳脊髄、ならびに腫瘍または細胞増殖性障害の部位での直接投与が含まれる。他の投与経路は当技術分野で公知である。
ゆえに、本開示は、細胞増殖性障害を治療するために有用な種々の医薬組成物を含む。本開示の医薬組成物は、担体、賦形剤および添加物または補助物質を使用して、本開示に基づく細胞増殖性障害の治療またはモジュレートに有用な異種ポリヌクレオチド配列を含むレトロウイルスベクターを、被験体への投与に好適な形式にすることによって製造される。頻繁に使用される担体または補助物質には、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトールおよび他の糖、タルク、乳タンパク質、ゼラチン、デンプン、ビタミン、セルロースおよびその誘導体、動物油および植物油、ポリエチレングリコールおよび溶媒、例えば滅菌水、アルコール、グリセロールおよび多価アルコールが含まれる。静脈内ビヒクルには、液体および栄養分補充液(nutrient replenishers)が含まれる。保存剤には、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスが含まれる。他の製薬的に許容される担体には、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, 15th ed. Easton: Mack Publishing Co., 1405-1412, 1461-1487 (1975)およびThe National Formulary XIV., 14th ed. Washington: American Pharmaceutical Association (1975) (該文献の内容は参照によりここに組み入れられる)に記載のように、水性溶液、無毒の賦形剤、例えば、塩、保存剤、バッファーなどが含まれる。医薬組成物のpHおよび種々の成分の正確な濃度は、当技術分野の慣用的技術にしたがって調節される。Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis for Therapeutics (7th ed.)を参照のこと。
例えば、限定目的でなく、細胞増殖性障害の治療に有用なレトロウイルスベクターは、両種指向性ENVタンパク質、GAG、およびPOLタンパク質、U3領域レトロウイルスゲノム中のプロモーター配列、およびレトロウイルスゲノムの複製、パッケージングおよび標的細胞への組み込みに必要なすべてのシス作用配列を含む。
上記のように、本開示は、本明細書中で提供されるベクターで形質導入(形質転換またはトランスフェクト)された宿主細胞(例えば293細胞またはHT1080細胞)を提供する。該ベクターは、例えば、プラスミド(例えば293T細胞とともに使用される)、ウイルス粒子(HT1080細胞とともに使用される)、ファージ、などであってよい。該宿主細胞は、プロモーターの活性化、形質転換体の選択、またはコードポリヌクレオチドの増幅のために必要に応じて改変された慣用の栄養培地で培養することができる。培養条件、例えば温度、pHなどは、発現のために選択された宿主細胞とともに以前に使用された培養条件であり、それは当業者には明らかであり、本明細書中で引用される参考文献、例えばSambrook、AusubelおよびBerger、ならびに例えばFreshney (1994) Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 3rd ed. (Wiley-Liss, New York)および該文献中で引用される参考文献中で明らかである。
本開示の一実施形態では、産生細胞は、慣用の一過性トランスフェクション技術によって作製されたレトロウイルスベクターと比較して高い安定性を有する複製可能レトロウイルスベクターを生産する。生産、感染および複製中のそのような高い安定性は細胞増殖性障害の治療のために重要である。形質導入効率、導入遺伝子の安定性および標的選択性の組み合わせが複製可能レトロウイルスによって提供される。該組成物および方法は挿入安定性を提供し、導入遺伝子の転写活性およびコード対象のポリペプチドの翻訳生存性を維持する。
以下の実施例は本発明をさらに説明するためのものであり、上記の広い開示を制限するためのものではない。
実施例
American Type Culture Collection (P.O. Box 1549, Manassas, VA)から直接入手したHT1080ヒト線維肉腫セルライン(ATCC, カタログ番号CCL-121)由来のHT1080+T5.0002産生系統からAC3-yCD2 (「V」ウイルス粒子)を製造した。
セルラインHT1080+T5.0002を増殖させてプレバンクおよびその後のマスターセルバンク(MCB)を創出した。MCBを使用して臨床ロットを生産した。プレバンクおよびマスターセルバンク作製の流れ図を図1に示す。
Toca511ウイルスベクターは、11,893ヌクレオチド塩基対からなるプラスミド(pAC3-yCD2; T5.0002としても知られる)によってコードされる。下記図解1は、特定の遺伝要素の配列位置とともに、pAC3-yCD2プラスミドの構築物全体の制限酵素地図を提供する。
複製可能ベクターAC3-yCD2(V)を生産する安定な発現産生セルラインを作製するための一般的スキーム
トランスフェクションによって293T細胞中で一過性生産されたAC3-yCD2ウイルスでナイーブHT1080細胞に形質導入することによってベクター産生セルライン「HT1080+T5.0002」を生産した(図1を参照のこと)。AC3-yCD2 (ウイルス粒子)の生産に使用された一過性トランスフェクションは、GLPが配列決定した「正規プラスミドストック」(GLP sequenced "qualified plasmid stock")を使用して実施した。より具体的には、一過性生産されたAC3-yCD2ベクターをトランスフェクションの48時間後に回収し、0.45 umフィルターに通してろ過し、0.8 mLのろ過上清を使用して、培地15 mLを含むHT1080細胞の75%集密培養物に形質導入した。この感染量を、細胞あたり約0.1形質導入単位(TU)の概算形質導入量に変換した。9日間かけて形質導入が培養物全体に拡がるようにし、2〜4日毎に細胞を再培地供給または継代した後、凍結して、それぞれ約5 x106細胞/バイアルを含む12バイアルからなる初期プレバンクストックにした。凍結媒体は、10% DMSO、USP (Cryoserv, Bioniche Pharma USA, LLC, Lake Forest, IL)および90% ガンマ線照射ウシ胎児血清(Hyclone Laboratories. Inc, Logan Utah)を含んだ。-80℃のフリーザーで細胞を凍結し、翌日、気相条件下で液体窒素フリーザーに移した。ベクターを生産するためのHT1080+T5.0002細胞の培養に使用された培地は、限定DMEM培地、GlutaMax (L-グルタミン代替物)、非必須アミノ酸(NEAA)、および規定ウシ胎児血清(FBS)を含む。
HEK (Human Embryonic Kidney) 293細胞から293Tセルラインを開発した。293Tセルラインは1987年に最初に報告された(Dubridge 1987)。温度感受性SV40 T抗原突然変異体、tsA1609 (Dubridge 1987)をHEK 293細胞(Graham 1977)中にトランスフェクトすることによってそのセルラインを開発した。293T細胞は元のHEK 293セルラインよりトランスフェクションを受けやすい。その高いトランスフェクション能のせいで、293T細胞は一過性トランスフェクションによる高力価ベクターの生産に一般に使用されている(Yang et al. Hum. Gene Ther.10:123-132 1999)。
実施例2: ウシ胎児血清を含む付着系統としてのHT1080+T5.0002安定発現産生系統からのベクターの製造
使い捨て多層細胞培養容器(Cell Stack, Corning)でHT1080+T5.0002細胞を培養する。それぞれ約1.2 Lの馴化培地を含む複数のセルスタック(Cell Stack)を使用する手動流加培養法(manual fed batch process)を使用して2〜4回の回収サイクルにわたって10〜24時間毎に回収されたHT1080+T5.0002細胞の集密培養物から馴化培地を回収することによって粗Toca 511レトロウイルスベクターの生産を実施する。粗TOCA 511レトロウイルスベクターを10〜20Lプロセスバッグ中に直接回収し、約40Lの材料が回収されるまで2〜8℃で保存する。粗プール回収物をまとめ、そのサンプルをPTCマイクロプラズマ(PTC mycloplasma)、in vitroウイルス検査、生物汚染度、インフォメーショナルPCR力価測定およびリテンション(informational PCR titering and retentions)に使用する。
粗ベクター材料を0.45ミクロンフィルターカートリッジに通して清澄化し、ベンゾナーゼ(Benzonase)で処理して宿主細胞ゲノムDNAを消化する。アニオン交換(AEX)クロマトグラフィーを使用して、清澄化されてDNA消化されたTOCA 511ベクターを捕捉し濃縮する。溶出した濃縮バルク産物をサイズ排除(SEC)クロマトグラフィーを使用するバッファー交換および精製ステップに付する。製剤バッファーは、塩化ナトリウム、スクロース、マンニトール、アスコルバート、アスコルビン酸およびヒト血清アルブミンを含むTrisベースの製剤バッファーを含む。製剤化バルクを0.2 umろ過して滅菌性を確実にし、検査のためにサンプリングし、-65℃未満(< -65℃)で凍結保存されたバルク材料として複数の容器に分ける。
HT1080+T5.0002細胞から生産されたベクターを、試験に応じてナイーブPC3 (ヒト前立腺癌)またはU-87細胞(ヒトグリア芽細胞腫-星細胞腫)で試験した。これらの試験は、(1) ウエスタン解析によるCD (シトシンデアミナーゼ)タンパク質発現のトランスファー、(2) HPLC分析による、5-FCを5-FUに変換するCDタンパク質の機能的CD活性、ならびに(3) 5-FCがAC3-yCD2 (V)で形質導入されたU-87細胞を死滅させる能力の測定(MTSアッセイ)のステップを含んだ。
実施例3: シトシンデアミナーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、マウスガンマインターフェロン(IFN)および他のタンパク質または核酸をコードするベクターの構築
WO 2010/036986に以前に記載されるように前記複製性レトロウイルスベクターを構築した。いくつかのこれらのベクターの性質を記載する表1を以下に挙げる。
本出願に記載のセルラインおよび方法を使用して生産可能な他のベクターもまた、WO 2010/036986に記載される。これらには、pol IIIプロモーターの制御下の単鎖抗体、IL-2、miRNAおよびsiRNA、ならびにsiRNA標的配列をコードするベクターが含まれる。
実施例4: 定量的PCR力価測定アッセイ
機能的ベクター濃度、すなわち力価を、定量的PCRに基づく(qPCR)方法を使用して測定する。この方法では、形質導入可能な宿主セルライン(例えばPC-3ヒト前立腺癌細胞、ATCC Cat# CRL-1435)に標準量のベクターを感染させ、形質導入後に該宿主細胞内に存在するプロウイルスの生成量を測定することによってベクターの力価を測定する。標準培養条件(37℃、5% CO2)下で24時間、細胞とベクターをインキュベートして完全に感染させた後、抗レトロウイルスAZTを加えてベクター複製を停止させる。次いで、培養皿から細胞を回収し、Invitrogen Purelink gDNA精製キットを使用してゲノムDNA (gDNA)を精製し、RNアーゼ-/DNアーゼ-フリーの滅菌水で精製カラムから溶出させる。分光光度計でA260/A280吸光度比を測定して、サンプルの濃度および相対純度を決定する。追加のRNアーゼ-/DNアーゼ-フリーの水でgDNA濃度を任意の所定のgDNA調製物セットの最低濃度に標準化して、qPCRの入力DNAがすべての分析サンプルで一定であるようにする。臭化エチジウム染色された0.8%アガロースゲルでの各サンプルのアリコートの電気泳動によってゲノムDNA純度をさらに評価する。サンプルが1.8〜2.0のA260/A280吸光度範囲を通過し、かつ単一バンドのgDNAを示せば、該サンプルはベクターのプロウイルスコピー数についてのqPCR分析の準備が整っている。プロウイルス(逆転写されたベクターDNAおよび宿主gDNAに組み込まれているベクターDNA)のLTR領域を呼び出す(interrogate)プライマーを使用してqPCRを実施し、既知の数の細胞に形質導入するために既知の量のベクターが使用された場合に生じた形質導入イベントの総数を評価する。107コピーから10コピーへと連続希釈されかつサンプルと同一のqPCR条件下で測定された既知のコピー数の標的保持プラスミドを利用する標準曲線から反応あたりの形質導入イベントの数を算出する。各qPCR反応に使用されたゲノム等価物の数(あらかじめ測定された濃度から)および反応あたりに生じた形質導入イベントの数を知って、形質導入の時点で存在した細胞の総数に基づいて生じた形質導入イベントの総数を決定する。この値は、初期形質導入中の細胞を
含む培地中への希釈後のベクターの力価である。補正後の力価の値を算出するために、培養物の量と力価測定の量を力価測定の量で除算した値をすべて乗算する(multiplying through by the volume of culture and the volume of titer divided by the volume of titer)ことによって希釈を補正する。複製培養物でこれらの実験を実施し、各条件に関して3回の測定を使用するqPCRによって分析して、平均力価を、その関連する標準偏差および変動係数とともに決定する。
実施例5: シトシンデアミナーゼをコードするベクターの効力アッセイ
本アッセイは、形質導入の4日後の細胞サンプルのシトシンデアミナーゼ活性を評価し、ベクターの複製能力および対応するシトシンデアミナーゼ活性をともに測定する。U-87細胞を96ウェルプレートで培養し、ウイルスの希釈系列(ハーフログ間隔で12希釈まで)で形質導入した。5-フルオロシトシンを細胞に1時間加え、10%トリクロロ酢酸を加えて反応を停止させ、生産された5-フルオロウラシルを測定することによって、得られたろ過混合物のシトシンデアミナーゼ活性をHPLCによって分析した。フォトアレイ検出器(photoarray detector)およびオートインジェクターと連続して連結されたShimadzu LC20ATユニットでHPLCアッセイを実施した。このHPLC法では、95%バッファーA: リン酸でpHが2.1に調節されている、0.1%過塩素酸テトラ-n-ブチルアンモニウムを含む50mMリン酸アンモニウムおよび5%溶媒B: 100%メタノールで1 mL/分で均一濃度で稼動されるHypersil BDS C18カラムを使用した。稼働時間は6分であった。フォトダイオード検出器アレイは、5-フルオロウラシルの264 nmの吸光度を表示するために選択されたクロマトグラムを用いて190〜350nmをスキャンする。ブラウザ機能を使用してバルクレポートでデータを転送し、5-フルオロウラシル保持時間および264 nmでの面積および5-フルオロシトシン保持時間および285 nmでの面積を報告する。次いで入力希釈に対してピーク面積をプロットして4パラメータのカーブフィッティングを作製し、試験サンプルのEC50値を社内の参照ベクターと比較する(これらのプロットの例に関する図10および図11を参照のこと)。
実施例6: ベクター精製および濃度
本開示のベクターを、293T細胞での一過性トランスフェクションによって、または産生細胞プールから、またはクローニングされた産生セルラインから製造した。培地は血清を含むかまたは血清を含まなくてよく、付着細胞としてまたは懸濁状態で、通常は潅流様式で細胞を培養することができる。培地を回収し、安定な産生セルラインから作製する場合、摂氏2〜8度で2週間まで保存した。安定なセルライン由来のベクターは2〜8℃で7日より長い半減期を有したが、一過性トランスフェクションから作製された材料はそうではない。次いでこのバルク回収物を0.45ミクロンフィルターカートリッジに通してろ過し、ベンゾナーゼ(L.Shastry et al Hum Gene Ther 15:221 2004)およびさらなるクロマトグラフィーカラムステップで処理した。(例えばUS5792643; T. Rodriguez et al. J Gene Med 9:233 2007; P.Sheridan et al Mol.Ther. 2:262-275 2000を参照のこと)。ベクター調製物をアニオン交換カラムに積載し、ベクターをNaCl勾配で溶出させた。PCRアッセイ(実施例4)を使用し、次いでA260によって、ベクターを含むフラクションを最初に特定し、陽性フラクションを回収してプールした。次いで調製物をサイズ排除カラム(SEC)に積載し、塩および他の残留混入物を除去した。SECを製剤バッファーで溶出させ、SECカラム上のベクターフラクションを空隙容量から回収し、バルク材料として力価を試験した。次いで0.2ミクロンフィルターに通してそれをろ過し、0.8〜3mlをバイアルに等分した。標準検査、例えば滅菌性、マイコプラズマおよび内毒素、加えて生成物特有の効力(実施例5、図10および11)、強度(実施例4)、および同一性検査に基づいて臨床材料を公開する。標的細胞の組み込みウイルスベクターDNAのPCR定量によって形質導入単位(TU)として力価を測定する(実施例4)。最終産物は、等張Tris緩衝スクロース溶液中で滅菌注射液として製剤化されて109 TU/mlまでの力価を有することを目標にする。
一般に、ベクターロットの強度を精密かつ正確に決定するために、定量的PCRに基づく力価アッセイが開発されている(実施例4に概括的に記載される)。アッセイ手順の詳細は以下のステップからなる。
形質導入。安定なヒト前立腺癌派生PC-3セルラインを使用して12ウェルプレート形式で形質導入を実施する。各試験サンプルで、未力価測定ベクター調製物の3つの希釈物を使用して3通りのウェルでPC-3細胞に形質導入する。形質導入の24時間後にアジドチミジン(AZT)でウイルス複製を停止させる。細胞をさらに24〜64時間維持した後、回収し、ゲノムDNAを精製する。
実施例8: 感染HT1080細胞の非クローンプールのクローニング
希釈物の播種。プレートおよびウェルの位置に基づいてクローンを特定するために、あらかじめ温めた培地および複数の96ウェル細胞培養プレートを標識し、HT1080の単細胞懸濁液を含むあらかじめ温めた培地をウェルに充填した。トリプシン処理および600マイクロLあたり1細胞からなる単細胞懸濁液の作製によって継代早期の100%感染HT1080細胞を回収した。96ウェルプレートの各ウェルに200マイクロLを送達して、ウェルあたり約0.3細胞を播種した。この手順の実施では、大多数のウェルはウェルあたり0、1または2細胞を収容した。細胞を約4時間付着させておき、各ウェルを調査して、ウェルあたり2細胞以上を収容したウェルまたは空のウェルを排除した。
クローン増殖。すべてのウェルで3〜4日毎に培地の1/2 (約100μL)を新鮮な100マイクロLに取り替えることによって、初期にウェルあたり1細胞を含んだウェルを培養した。培地交換時に各ウェルのへの供給に使用されたチップを取り替えることによって、あるウェルから別のウェルへの細胞の偶発的移動を回避した。細胞がウェル中で集密に近づき始めたら、全培地交換を必要とした。細胞が集密に達したら、各クローン候補を48ウェルプレートのウェルに継代して増殖を継続した。各クローンを増殖させ、細胞が集密に達するたびに、6ウェルプレートのウェル、次いでT-25フラスコ、次いでT-75フラスコに継代した。T-75フラスコ中でクローン細胞が集密に達したら、バイアルあたり1〜2x106細胞を含む少なくとも2〜3バイアルの冷凍保存細胞を調製した。
性能に基づくクローン選択。クローン候補を凍結(frozen down)したら、細胞培養実験を実施し、力価生産性能および理想の細胞培養属性に基づいて最良の性能のクローンを特定し、クローンをバックアップした。最良のクローンは、(1) 毎日培地を取り替えながら、最も高い力価をその後の2〜4日にわたって持続してもたらすクローンの能力[以下の図12および表2を参照のこと]; (2) 目的の所望の遺伝子の発現をナイーブ細胞に導入する、生産されたウイルスの能力(図10および11を参照のこと); (3) 18〜30時間の範囲の倍加時間を有して適度に分裂するクローンの能力および集密に達する際に最小の細胞剥離しか有さない、均一層(uniform lawn)の細胞として100%集密に達する能力、に基づいて選択された。
実施例9: 非クローンプールおよびその後のクローンベクター産生セルライン候補を作製するためのD-17およびCf2-Thセルラインの感染
MLV複製可能レトロウイルスベクターを発現するD-17 (イヌ骨肉腫; ATCC # CCL-183)およびCf2-Th (イヌ胸腺; ATCC # CRL-1430)セルラインベクター産生プールおよび希釈クローンを製造するために、HT-1080細胞に関して上で記載される方法と正確に同じ方法を使用してD-17およびCf2-Thセルラインを作製した。結果を以下の表2に示す。
実施例10: T5.0006 (GFP発現複製可能ベクター)で感染させたCf2-Th細胞で生産された複製可能レトロウイルスベクターの感染力および発現の導入の試験
緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子をコードする複製可能レトロウイルスベクター、T5.0006(V)を用いて評価を実施し、イヌ由来腫瘍セルラインで感染および増殖するベクターの能力を評価した。本研究のために、Dr. Peter Dickinsonの研究室(University of California, Davis; Vet Med Surgery and Radiological Sciences)から3つのイヌグリア芽細胞腫セルライン、J3T-bg、SDT-3GおよびG06-Aを受け取った。すべての3つのこれらのセルラインは元々、自然発症の神経膠腫外植片由来であり、元の単離体の8〜14継代以内であった。ウイルス感染力を検査するために、0.1 mLの0.45ミクロンフィルターに通したT5.0006(V)ウイルス上清を、6ウェル培養プレート中で各腫瘍タイプの4.4 x105細胞を含む3通りの2 mL培養物に入れた。SDT-3Gは例外であり、1.9 x104細胞であった。3通りのプレートを作製し、各時点につき1プレートとした。感染力を追跡するために、3通りの感染、および未感染対照ウェルを含む1プレートを1、3および6日目に回収し、GFP蛍光の存在に関するFACs分析を実施して、感染後のそれぞれの日の感染細胞のパーセンテージを測定した。接種用T5.0006ウイルス上清は、上記のように作製されたCf2-Th安定産生細胞の内部感染培養物由来であり、生産されたウイルスの力価に関してそれを特徴付けた。
Cf2-Th+T5.0006産生系統およびT5.0006(V)ウイルス: 標準リン酸カルシウムトランスフェクション手順を使用してプラスミドpAC3-emd (pT5.0006としても知られる)を293T細胞にトランスフェクトすることによって作製された一過性生産T5.0006(V)ウイルスでCf2-Th細胞の培養物をあらかじめ感染させた。数回の継代後でかつ3つのイヌ神経膠腫腫瘍セルラインの感染日に、感染Cf2-Thの集密培養物から新鮮なウイルス上清を回収し、0.45ミクロンシリンジフィルターに通してすべての生存可能感染Cf2-Th細胞を除去した。
3つのイヌグリア芽細胞腫セルラインおよび陽性対照HT-1080セルラインの感染: Dr. Peter Dickinsonの研究室、University of California, Davis; Vet Med Surgery and Radiological Sciencesから3つのイヌグリア芽細胞腫セルライン、J3Tbg、SDT-3GおよびG06-Aを凍結保存細胞として2008年11月20日に受け取った。凍結バイアルの受領書に添付されている文書に記載されるように、すべての3つのこれらのセルラインは元々、自然発症の神経膠腫由来であり、元の単離体の8〜14継代以内であった。HT1080陽性対照セルラインは、元々ATCC (CCL-121; Lot 6805248)から供給された社内凍結ストック由来であった。
各セルラインについての1バイアルを解凍し、10%ウシ胎児血清および200 mM Glutamaxを補充したDMEM培地中で数回継代培養し、5% CO2条件下で37℃でインキュベートした。細胞を感染させる1日前に、2 mLの新鮮な完全DMEM培地中で各腫瘍セルラインに関して5E4細胞/cm2 (4.4E5細胞/ウェル)を1つの6ウェルプレートに播種した。SDT-3Gプレートは例外であり、1.9E4細胞/ウェルで作製した。腫瘍セルラインウイルス感染の同日にウイルス添加の3.5時間前に陽性対照HT1080培養物を播種した。0.1 mLのろ過されたT5.0006(V)を各6ウェルプレートのうち3ウェルに加えることによってウイルス感染を実施した。FACS分析の陰性対照として役割を果たすために3つの非感染ウェルを残した。感染後、プレートを37℃インキュベーターに戻した。各セルラインに関して3通りのプレートを作製した。
感染後1、3および6日の時点で、trypzean試薬(Sigma-Aldrich)を使用して各感染および非感染セルライン由来の3通りのウェルを回収し、完全培地中で洗浄し、次いで、2% FBSおよび0.09%アジ化ナトリウムを含むPBS中の1%パラホルムアルデヒドで固定し、FACS分析に付されるまで暗所で冷蔵して、または氷上で保存した。留意すべきは、3日目の回収時点後の残留培養物を3日目に継代したことである。
FACS分析: すべてのパラホルムアルデヒド固定細胞を、Sidney Kimmel Cancer CenterにあるBD LSRII FACS装置(SN H47200068)で分析し、BD FACS Diva Software Version 5.0.1を使用して分析した。HT1080および以前の感染由来のHT1080 100% GFP感染細胞を使用して、ゲート開閉をセットした。各サンプルを1回読み取った。
表3は、感染1、3および6日後の感染細胞パーセントの3通り読み取りの平均の結果を示す。図13はデータのグラフ表示を示す。データは、T5.0006(V)で感染させた各イヌ腫瘍系統がバックグラウンド陰性対照を超えるいくらかのレベルのGFP発現を示したが、異なる腫瘍セルライン間でウイルス伝播動態の差異が観察されたことを示唆する。G06-A腫瘍系統は感染6日後に94.5%のGFP陽性を示し、次いでJ3T-bgおよびSDT-3Gは同回収時点でそれぞれ81.2%および30.9%のGFP陽性を示した。すべての対照は妥当であり、非感染対照はわずかなバックグラウンドレベルのGFP発現しか示さず、許容状態の陽性対照セルラインであるHT1080は感染3日後までに73.4%のGFP陽性を示した(6日目のサンプルは失われた)。同様の過去の実験では、同一条件を使用して、ヒトU87神経膠腫系統は80〜90%のGFP陽性になる。
実施例11: HT-1080複製可能MLVウイルスベクター産生セルラインの、血清および付着依存性から無血清懸濁培養への適合化
HT-1080複製可能ベクター産生セルラインの好適な希釈クローンのスクリーニングおよび同定後に無血清適合化プロセスを実施した。非クローンベクター産生HT1080セルラインを用いて無血清適合化プロセスを実施することもできる。10 mLの5%血清含有馴化培地および10 mLの選択無血清培地を含み、その結果、血清濃度が2.5%に減少した125 mLシェーカーフラスコに約2x107細胞を播種することによって適合化プロセスを開始した。この場合、無血清培地はInvitrogen Corp, Carlsbad, CAによって販売されるFreeStyle 293 Expression Mediaであった。培養物を、組織培養インキュベーター中の振とうプラットフォームに置き、温度およびCO2ガスをともにコントロールした。振とうプラットフォームを好ましい80 RPMにセットした。インキュベーターを好ましい37℃および好ましい5% CO2条件にセットする。3〜7日毎に、懸濁状態の細胞を回収することによって培養物を再培地供給し、10 mLの同初期馴化培地および10 mLの新鮮な無血清培地を含む新規シェーカーフラスコ中に再播種し、約2.5%の血清レベルを維持した。各再培地供給イベント時に培養物を調査し、細胞増殖をチェックするために必要に応じて生存細胞カウントを実施した。細胞倍加またはグルコース消費に基づいて細胞が増殖の証拠を示したら、馴化培地および新鮮な無血清培地の容量を調節することによって血清濃度1.67%を目標にした。培養物を再び調査し、3〜7日毎に再培地供給した。細胞が増殖の証拠を示したら、馴化培地および新鮮な無血清培地の容量を再調節することによって血清濃度1.25%を目標にした。このプロセスを継続し、細胞が100%無血清条件になるまで、その後の血清条件1.0%、0.9%、0.83%の血清条件を目標にした。この適合化プロセス中、1,000 mL振とうフラスコ中で約200 mL容量に細胞培養物を増殖させ、約0.5〜1.0 x106細胞/mLの最小生存培養物を目標にした。細胞が100%無血清条件に達したら、無血清条件下で細胞を連続的に継代し、撹拌することなく短時間で重い凝集細胞を沈ませることによって単一の懸濁細胞を単離した。培養物が一貫して単細胞懸濁液の約95%集団で構成されるようになったら、標準の哺乳類細胞凍結条件を使用して10% DMSOおよび90%無血清培地からなる凍結保存媒体中で培養物を凍結することができる。
実施例12: 安定な産生セルラインから作製されたベクターは、長期保存において、一過性トランスフェクションによって作製されたベクターより安定である
一過性トランスフェクションによるベクター生産。シトシンデアミナーゼの遺伝子または緑色蛍光タンパク質の遺伝子をコードする複製可能MLVウイルスを含む粗上清を2つの一過性トランスフェクション法によって生産した。第1の方法では、Yang 1999によって最初に報告された高力価ベクターを生産するために一般に使用されている293T細胞を使用して、Graham and van der Ebによって報告された標準リン酸カルシウムトランスフェクション手順を使用した。第2のトランスフェクション法では、Promega (Madison, WI)によって販売される市販の専売のトランスフェクト試薬(Fugene)を使用した。トランスフェクションの48時間後、0.2または0.45ミクロンフィルターを使用してウイルス上清をろ過し、一定分量を凍結し、-65℃以下の温度で保存した。凍結された清澄化上清の力価を定量的qPCR法によって測定し、感染力価の初濃度を確立した。その後、種々の日付で力価を検査すると、ウイルス調製物が安定ではなく、同定量的qPCR法によって検査した場合にほんの14日で少なくとも1対数の力価を失ったことが明らかになった(表4を参照のこと)。
安定系統からのベクター生産。安定に感染したHT-1080細胞から生産された複製可能MLVウイルスとこの安定性プロファイルを比較するために、以前の実施例に記載されるようにT5.0002ウイルス調製物を生産し、次いで精製し、10 mg/mLのスクロースおよび1 mg/mLのヒト血清アルブミンを含むTris塩化ナトリウム等張バッファー中で製剤化した。この安定性研究で使用された具体的T5.0002ロットはロットT003-002-40L、M100-09、M101-09およびM102-09であり、後ろ3つのロットは優良製造規範(good manufacturing practices) (GMP)の下で生産されたものである。ウイルスの安定性を評価するために、(1) 感染力価; および(2) ナイーブ細胞中の発現の導入を処理する手順を使用した。
保存。ロットT003-002-40LのT5.0002の無希釈および1/100希釈用量をともに、-65℃以下の長期保存条件から引き抜き、次いでバイアル作製後3、6および12か月の時点でバイアルを解凍し、以下のアッセイ: 強度、効力、およびTCID50の範囲内で検査した。
HT1080+T5.0002安定産生セルラインからGMP生産ロットM100-09、M101-09およびM102-09を製造し、精製し、製造後-65℃以下で保存した。バイアル作製後3、および6か月の時点でバイアルを抜き出して解凍し、以下のアッセイ: 強度、効力、TCID50、pH、重量オスモル濃度および外観の範囲内で検査した。
定量的qPCRに基づく感染力価。安定に感染したHT-1080セルラインから生産された精製ウイルスベクターでは、検査されたすべてのロットで-65℃以下で12か月まで保存された場合に力価の低下は観察されない。表5および6はロットT003-002-40L (表5)およびGMPロット(表6)の測定力価を示す。図14は、検査されたすべてのロットの12か月にわたる生成力価傾向を示す。
-65℃以下で保存されたウイルスベクターの安定性を評価するための細胞培養およびHPLC分析を使用する生物学的発現アッセイの導入。種々の希釈条件下でナイーブ細胞タイプに感染するベクターの能力を測定することによってベクターの安定性を評価し、ウイルスベクターからナイーブ感染細胞へのシトシンデアミナーゼ遺伝子の導入に起因する、5-フルオロシトシン(5-flurocytisine) (5-FC)を5-フルオロウラシル(5-flurouracil) (5-FU)に変換する能力を試験する。5-FCから5-FUへの変換をHPLCによって定量し、変換された希釈値の非線形回帰を利用して生データをプロセシングする。ロットT003-002-40L由来の両用量(無希釈および1/100希釈サンプル)は、-65℃以下で12か月まで保存された場合に、発現能力の導入の低下を示さない。T003-002-40L (無希釈)およびM100-09はともに、現在の参照ベクターに匹敵する用量曲線を生成した。M101-09は無希釈ベクター(M100-09)の1/10の予測曲線を生成した。T003-002-40L (1/100)およびM102-09は、それぞれ、それらの無希釈ベクターの1/100の予測曲線を生成した。図10および11は、最後の検査時点でのロットT003-002-40L (図10)およびGMPロット(図11)の5-FC変換用量応答を示す。
ベクターロットに対するTCID50アッセイ。組織培養条件下で50%の細胞が感染する感染用量(TCID50)を算出することによってナイーブ細胞タイプに感染するベクターの能力を測定することにより、ベクターの安定性を評価した。細胞が感染したかどうかを判定するために使用される方法はPCR検出によって決定した。この評価で、すべての試験ロットに関して-65℃以下で12か月まで保存された場合にTCID50に基づく実際の感染力低下は観察されず、現在のアッセイのばらつきの範囲内であった(8アッセイにわたる参照ベクターの%CVは45%であった)。表13および14はロットT003-002-40L (表7)およびGMPロット(表8)のTCID50/mL測定値を示す。
上記安定性データに基づいて、安定に感染したHT-1080細胞から生産された精製複製可能MLVウイルスベクターは、-65℃以下の温度で保存された場合、一過性トランスフェクションによって生産された同一のベクターより安定である。
実施例13: マウス腫瘍モデルにおいて、HT1080クローンから作製されかつ懸濁無血清培養物から生産されたT5.0002ベクターは、ウシ胎児血清を含む培地中で付着性HT1080+T5.0002系統から作製されたベクターと同程度に強力である
無血清懸濁クローンの1つからおよびHT1080+T5.0002セルラインからベクターを作製し、実施例6に記載のように精製および処理した。
別々の実験で、これらのベクター調製物を使用してマウス神経膠腫腫瘍モデル- B6C3F1マウスのTu2449 (H M. Smilowitz J Neurosurg 106:652-659, 2007)を処置した。マウスに腫瘍を頭蓋内移植し、4日後、増加用量のベクター(104, 105 Tu/脳g)を両ベクター調製物に対して10動物個体のコホートに投与した。13日目に、4日間の1日2回のip注射(500mg/kg BID)によって5-FC投与を実施し、次いで10日オフ4日オンのスケジュールで5-FC処置を実施した。Kaplan-Meyerプロットでは、クローン系統由来の材料の場合の生存がHT1080+T5.0002系統由来の材料の生存と少なくとも同程度に良好であったことが示された。両者は、100日目を過ぎて105 Tu群で80〜90生存を示し、一方、対照群は約30日の生存期間の中央値を有した。
実施例14: 同系マウス癌モデルでの治療としてのマウスガンマインターフェロンをコードする精製ベクターの使用
本研究の目的は、免疫応答性BALB/cマウスのマウスS91皮下(subQ)腫瘍での新規のMLVに基づくレトロウイルスベクターの伝播を評価することによってS91/BALB/cモデルにおいてToca 511 (yCD2をコードする)およびToca 621 (マウスガンマインターフェロンをコードする)の有効性を評価することであった。(1) HT108+T5.0002 (Toca 511) (それは、最適化されたシトシンデアミナーゼ遺伝子を保持する複製可能レトロウイルスベクターの調製物である); (2) インターフェロンガンマ遺伝子を保持する複製可能レトロウイルスベクターであるToca 621の安定な産生系統であるHT1080+mIFN; および(3) HT1080+T5.0006 (GFPベクター) mからベクターを作製し、それぞれ腫瘍内注射(IT)によって送達した。
マウス。雌性BALB/cマウス(約8週齢)をJackson Laboratoriesから購入した。到着後7日間マウスを慣れさせた。
腫瘍細胞。メラニン産生セルラインであるクローンM-3由来のS91 Cloudman細胞(ATCC, Manassas VA)を、(C X DBA) F1雄性マウスでのCloudman S91黒色腫からのY. Yasumura、A.H. TashjianおよびG. Satoによる細胞培養に適合化させた。10%ウシ胎児血清、ピルビン酸ナトリウム、およびGlutamaxを含むダルベッコ変法イーグル培地(Hyclone, Logan UT, およびInvitrogen, San Diego CA)中で細胞を培養した。移植のために細胞をPBS (Hyclone, Logan UT)に再懸濁した。200μL IV中の1E5および100μL SQ中の1E5でS91を注射した。
4群の雌性BALB/cマウス(65マウス、約8週齢)の右側腹部にS91腫瘍細胞をsubQ移植した。約50〜125mm
3に達するまで腫瘍を増殖させた後、15〜19日目の間に3匹のマウスにPBSをIT投与し(群1)、10匹のマウスにToca 511 4.7E8/mlをIT注射し(群2)、5匹のマウスにToca 621 2.8E8/mlをIT注射し(群3)、6匹のマウスにGFPをIT注射した(群4)。
ベクター。インスリンシリンジを使用してToca 511およびToca 621 (50μL)を腫瘍内にゆっくり注射した。
群2の全動物にToca 511(yCD2シトシンデアミナーゼ遺伝子をコードする)ロットナンバーT511019-FNLを使用し、群3の全動物にToca 621 (マウスインターフェロンガンマをコードする)ロットナンバーT621006 SECを使用した。臨床試験材料に使用された方法と同じ方法を使用してこの材料を製造したが、それはcGMPにしたがっては作製されなかった。
Toca 511ロットナンバーT511019-FNLは4.7E8 TU/mLの力価を有する。
Toca 621ロットナンバーT621006 SECは2.8E8 TU/mLの力価を有する。
MLV-GFP (T5.0006)はロットナンバーTGFP004-FNLであり、9.0E7 TU/mLの力価を有する。
Toca 621を注射された腫瘍は、Toca 511を注射された腫瘍と比較して腫瘍増殖の(p=0.0016)減少を示した(図15)。Toca 621注射由来の1動物個体は腫瘍を排除した。さらなる分析では、注射の24日後まで一部のToca 511およびToca 621腫瘍でゲノムが検出されることが示された。Toca 621を注射された腫瘍由来の2つの外植片のうちの1つは、ELISAによって検出可能なIFNy (18.8pg/mL)の分泌を有した。
実施例15 安定な産生系統由来のGFPベクターを使用する、ヌードマウスのU-87皮下異種移植モデルでのGFPウイルス伝播の割合
ヌードマウスの腫瘍の皮下モデルで、種々の時点でGFP発現細胞のパーセンテージを測定することによる、確立したU-87異種移植片へのベクター3e5/100μLの単回投与に基づくウイルス伝播の割合を決定するための試験を行った。
研究の説明: トータル5匹のマウス(ID# 71〜#75)は、0日目にS.Q投与された2e6 U-87細胞の右および左の背側の側腹部移植を受けた。13日目に、上記のように構築されかつ実施例YYYに記載のように精製されたHT1080産生プールから作製された精製T50006 (GFPベクター) 3x105 TU/100μLを各マウスの右背側の腫瘍に注射した。同日に、動物ID# 71を犠牲にした; 動物ID#72、ID#73、ID# 74およびID# 75を、それぞれ、ベクター接種後5、9、12および26日目に犠牲にした。腫瘍を取り出し、GFPのFACS分析のために処理した。結果を図16に示す。該結果は、経時的な% GFP陽性細胞の安定した増加を示し、それはこのモデルでのベクター伝播を示す。