電子機器における配線層や電極等の形成には、樹脂型ペーストや焼成型ペーストのような、銀粉や銅粉等の金属フィラーを使用したペーストが多く用いられている。銀や銅の金属フィラーペーストは、電子機器の各種基材上に塗布又は印刷され、加熱硬化や加熱焼成の処理を受けて、配線層や電極等となる導電膜を形成する。
例えば、樹脂型導電性ペーストは、金属フィラーと、樹脂、硬化剤、溶剤等からなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷され、100℃〜200℃で加熱硬化されて導電膜となり、配線や電極を形成する。樹脂型導電性ペーストは、熱によって熱硬化型樹脂が硬化収縮するために金属フィラーが圧着され相互に接触することで金属フィラー同士が重なり、その結果電気的に接続した電流パスが形成される。この樹脂型導電性ペーストは、硬化温度が200℃以下で処理されることから、プリント配線板等の熱に弱い材料を使用している基板に使用されていることが多い。
一方、焼成型導電性ペーストは、金属フィラーと、ガラス、溶剤等からなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷され、600℃〜800℃で加熱焼成されて導電膜となり、配線や電極を形成する。焼成型導電性ペーストは、高い温度によって処理することで、金属フィラー同士が焼結して導通性が確保されるものである。この焼成型導電性ペーストは、このように高い焼成温度で処理されるため、樹脂材料を使用するようなプリント配線基板には使用できない点があるが、金属フィラーは焼結によって接続するので低抵抗が得られやすいという特長がある。このような焼成型導電性ペーストは、例えば、積層セラミックコンデンサの外部電極等に使用されている。
さて、これらの樹脂型導電性ペーストや焼成型導電性ペーストに使用される金属フィラーとしては、従来から銀の粉末が多く用いられてきた。しかしながら、近年では、貴金属価格が高騰し、低コスト化のためにも銀粉より安価な銅粉の使用が好まれている。
ここで、金属フィラーとして用いられる銅や銀の粉末としては、上述したように、粒子同士が接続して導電するために、粒状や樹枝状、平板状等の形状が多く用いられてきた。
特に、粒子を縦・横・厚さの3方向のサイズから評価としたとき、厚さが薄い平板状の形状である場合、厚さが減少することによる配線材の薄型化に貢献するとともに、一定の厚さがある立方体や球状の粒子よりも粒同士が接触する面積を大きく確保でき、それだけ低抵抗、すなわち高導電率が達成できるという利点がある。このため、特に、導電性を維持したい導電塗料や導電性ペーストの用途に適している。なお、導電性ペーストを薄く塗布して用いる場合、銅粉に含まれる不純物の影響も無視できなくなる。
このような平板状の銅粉を作製するために、例えば特許文献1では、導電性ペーストのフィラーに適したフレーク状銅粉を得る方法が開示されている。具体的には、平均粒径0.5μm〜10μmの球状銅粉を原料に、ボールミルや振動ミルを用いて、ミル内に装填したメディアの機械的エネルギーにより機械的に平板状に加工するものである。
また、例えば特許文献2では、導電性ペースト用銅粉末、詳しくはスルーホール用及び外部電極用の銅ペーストとして高性能が得られる円盤状銅粉末及びその製造方法に関する技術が開示されている。具体的には、粒状アトマイズ銅粉末を媒体撹拌ミルに投入し、粉砕媒体として1/8インチ〜1/4インチ径のスチールボールを使用して、銅粉末に対して脂肪酸を重量で0.5%〜1%添加し、空気中あるいは不活性雰囲気中で粉砕することによって平板状に加工するものである。
さらに、例えば特許文献3では、電解銅粉の樹枝を必要以上に発達させることなく、従来の電解銅粉よりも成形性が向上した、高い強度に成形できる電解銅粉を得る方法が開示されている。具体的には、電解銅粉自体の強度を増して高い強度に成形できる電解銅粉を析出させるために、電解銅粉を構成する結晶子のサイズを微細化させることを目的として、電解液である硫酸銅水溶液中にタングステン酸塩、モリブデン酸塩、及び硫黄含有有機化合物から選択される1種又は2種以上を添加して、電解銅粉を析出させるものである。
これらの特許文献に開示された方法は、いずれも得られた粒状の銅粉をボール等の媒体を使用して機械的に変形(加工)させることによって平板状としており、加工してできた平板状の銅粉の大きさは、特許文献1の技術では平均粒径が1μm〜30μmであり、特許文献3での技術は平均粒径が7μm〜12μmの大きさとしている。
一方、デンドライト状と呼ばれる樹枝状に析出した電解銅粉が知られており、形状が樹枝状になっていることから、表面積が大きく、成形性や焼結性が優れており、粉末冶金用途として含油軸受けや機械部品等の原料として使用されている。特に、含油軸受け等では、小型化が進み、それに伴って多孔質化や薄肉化、並びに複雑な形状が要求されるようになっている。それらの要求を満足するために、例えば特許文献4では、複雑3次元形状で寸法精度の高い金属粉末射出成形用銅粉末とそれを用いた射出成形品の製造方法が開示されている。具体的には、樹枝状の形状をより発達させることで、圧縮成形時に隣接する電解銅粉の樹枝が互いに絡み合って強固に連結するようになるため、高い強度に成形できることが示されている。さらに、導電性ペーストや電磁波シールド用の金属フィラーとして利用する場合には、樹枝状の形状であることから、球状と比べて接点を多くできることを利用することができるとしている。
しかしながら、上述のような樹枝状の銅粉を導電性ペーストや電磁波シールド用樹脂等の金属フィラーとして利用する場合、樹脂中の金属フィラーが樹枝状に発達した形状であると、樹枝状の銅粉同士が絡み合って凝集が発生してしまい、樹脂中に均一に分散しないという問題や、凝集によりペーストの粘度が上昇して印刷による配線形成に問題が生じる。このような問題は、例えば特許文献3でも指摘されている。
このように、樹枝状の銅粉を導電性ペースト等の金属フィラーとして用いるのは容易でなく、ペーストの導電性の改善がなかなか進まない原因ともなっていた。なお、導電性を確保するためには、樹枝状の方が粒状よりも接点を確保しやすく、導電性ペーストや電磁波シールドとして高い導電性を確保することができる。
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書にて、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
≪1.樹枝状銅粉≫
本実施の形態の銅粉は、枝状に成長し、主幹とその主幹から分かれた複数の枝とを有する樹枝状の形状をなし、その主幹及び枝は、特定の断面平均厚さを有する鱗片状の銅粒子が集合して構成されている。
図1は、本実施の形態に係る銅粉の具体的な形状の一例を示した模式図である。この図1の模式図に示すように、本実施の形態に係る銅粉1は、2次元又は3次元の形態である樹枝状の形状をもつ銅粉(以下、本実施の形態に係る銅粉を「樹枝状銅粉」ともいう)である。より具体的に、樹枝状銅粉1は、枝状に成長した主幹3と、その主幹3から分かれた複数の枝4を有する樹枝状の形状の銅粉である。その主幹3及び分岐した枝4は、鱗片状の形状をした銅粒子2より構成され、この銅粒子2は断面平均厚さが0.01μm〜0.2μmの平板の形状を有している。また、この鱗片状の形状をした銅粒子2が密集して主幹3やその主幹3から分岐した枝4を構成するように集合することで樹枝状の形状となる。なお、銅粉1における枝4は、主幹3から分岐した枝4a、4bだけでなく、その枝4a、4bからさらに分岐した枝の両方を意味する。
本実施の形態に係る樹枝状銅粉1は、詳しくは後述するが、例えば、銅イオンを含む硫酸酸性の電解液に陽極と陰極を浸漬し、直流電流を流して電気分解することにより陰極上に析出させて得ることができる。
図2〜図4は、本実施の形態に係る樹枝状銅粉1について走査電子顕微鏡(SEM)により観察したときの観察像の一例を示す写真図である。なお、図2は樹枝状銅粉1を倍率1,000倍で観察したもので、図3は樹枝状銅粉1を倍率5,000倍で観察したもので、図4は樹枝状銅粉1を倍率10,000倍で観察したものである。
図2の観察像に示されるように、樹枝状銅粉1は、主幹3とその主幹3から分岐した枝4(4a,4b)とを有する、2次元又は3次元の樹枝状の析出状態を呈している。また、図3及び図4の観察像に示されるように、非常に薄い鱗片状の銅粒子2が密集して枝状に成長することで、樹枝状の形状を有する樹枝状銅粉1となっている。
ここで、樹枝状銅粉1を構成し、主幹3及び枝4を構成する非常に薄い鱗片状の銅粒子2は、その断面平均厚さが0.01μm〜0.2μmである。鱗片状の銅粒子2の断面平均厚さは、より薄い方が平板としての効果が発揮されることになる。すなわち、断面平均厚さが0.2μm以下の鱗片状の銅粒子2が集合して主幹3及び枝4が構成されることで、その銅粒子2同士、また樹枝状銅粉1同士が接触する面積を大きく確保することができ、その接触面積が大きくなることで、低抵抗、すなわち高導電率を実現することができる。このことにより、より導電性に優れ、またその導電性を良好に維持することができ、導電塗料や導電性ペーストの用途に好適に用いることができる。
なお、鱗片状の銅粒子2の断面平均厚さの下限としては、特に限定されないが、後述する銅イオンを含む硫酸酸性の電解液から電気分解することにより陰極上に析出させる方法では、0.01μm以上の断面平均厚さを有する鱗片状の銅粒子2が集合した樹枝状銅粉1が得られる。
また、樹枝状銅粉1においては、その平均粒子径(D50)が2.0μm〜50μmである。平均粒子径は、後述する電解条件を変更することで制御可能である。また、必要に応じて、ジェットミル、サンプルミル、サイクロンミル、ビーズミル等の機械的な粉砕を付加することによって、所望とする大きさにさらに調整することが可能である。なお、平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定することができる。
ここで、例えば特許文献1でも指摘されているように、樹枝状銅粉の問題点としては、導電性ペーストや電磁波シールド用の樹脂等の金属フィラーとして利用する場合に、樹脂中の金属フィラーが樹枝状に発達した形状であると、樹枝状の銅粉同士が絡み合って凝集が発生し、樹脂中に均一に分散しないことがある。また、その凝集により、ペーストの粘度が上昇して印刷による配線形成に問題が生じる。このことは、樹枝状銅粉の形状が大きいために発生するものであり、樹枝状の形状を有効に活かしながらこの問題を解決するためには、樹枝状銅粉の形状を小さくすることが必要となる。しかしながら、小さくし過ぎると、樹枝状の形状を確保することができなくなる。そのため、樹枝状形状であることの効果、すなわち3次元的形状であることにより表面積が大きく成形性や焼結性に優れ、また枝状の箇所を介して強固に連結されて高い強度に成形できるという効果を確保するには、樹枝状銅粉が所定以上の大きさであることが必要となる。
この点において、本実施の形態では、樹枝状銅粉1の平均粒子径が2.0μm〜50μmであることにより、表面積が大きくなり、良好な成形性や焼結性を確保することができる。そして、樹枝状銅粉1では、このように樹枝状形状であることに加えて、その主幹3及び枝4が鱗片状の銅粒子2の集合体からなっているため、樹枝状であることの3次元的効果と、その樹枝形状を構成する銅粒子2が鱗片状であることの効果により、銅粉同士の接点をより多く確保することができる。
また、特許文献1や特許文献2のような機械的な方法で鱗片状にする場合は、機械的加工時に銅の酸化を防止する必要があるため、脂肪酸を添加し、空気中あるいは不活性雰囲気中で粉砕することによって鱗片状に加工していた。しかしながら、完全に酸化を防止することができないことや、加工時に添加している脂肪酸がペースト化するときに分散性に影響を及ぼす場合があるため、加工終了後に脂肪酸を除去することが必要となる。ところが、機械加工時の圧力で銅表面に強固に脂肪酸が固着する場合があり、その脂肪酸を完全に除去できないという問題が発生する。そのため、導電性ペーストや電磁波シールド用の樹脂等の金属フィラーとして利用する場合の金属フィラー同士の接点を確保しようとすると、機械的に鱗片状にした銅粉は表面が平滑で反った状態となり、このことから接点の確保が難しくなり、利用時に鱗片状の銅粉だけでなく、粒状の銅粉を混ぜ合わせる等の方法によって、金属フィラー同士の接点を確保している。
これに対して、本実施の形態に係る樹枝状銅粉1においては、鱗片状の銅粒子2が集合して樹枝状の形状をしているため、樹枝状の銅粉表面に微細な凹凸が形成された形状となる。そのことにより、従来のように機械的に加工して得られた平板状銅粉に比べて、金属フィラー同士の接点を容易に確保できるという特徴がある。
また、鱗片状の銅粒子の厚さが0.01μm〜0.2μmと非常に薄い形状であるため、銅粉同士が接触した際に変形が容易に発生し、より多くの接点を確保できるという特徴がある。つまり、本実施の形態に係る樹枝状銅粉1では、鱗片状の銅粒子2が集合して樹枝状の形状をしているため、導電性ペーストや電磁波シールド用の樹脂等の金属フィラーとして利用する場合において容易に接点を確保することができ、さらに、機械的な加工を行うことなく直接、樹枝状銅粉1の形状に成長させて作製するため、機械加工で問題となる酸化の発生や脂肪酸の除去は必要ない。そのため、電気導電性としては極めて良好な状態とすることができる。
また、樹枝状銅粉1の嵩密度としては、特に限定されないが、0.5g/cm3〜5.0g/cm3の範囲であることが好ましい。嵩密度が0.5g/cm3未満であると、銅粉同士の接点を十分に確保することができない可能性がある。一方で、嵩密度が5.0g/cm3を超えると、樹枝状銅粉1の平均粒子径も大きくなってしまい、すると表面積が小さくなって成形性や焼結性が悪化することがある。
また、樹枝状銅粉1は、特に限定されないが、そのBET比表面積の値が0.5m2/g〜5.0m2/gであることが好ましい。BET比表面積値が0.5m2/g未満であると、樹枝状銅粉1を構成する銅粒子2が、上述したような所望の鱗片状の形状とはならないことがあり、高い導電性が得られないことがある。一方で、BET比表面積値が5.0m2/gを超えると、凝集が生じやすくなってペースト化に際して樹脂中に均一に分散させることが困難となる。なお、BET比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠して測定することができる。
なお、電子顕微鏡で観察したときに、得られた銅粉のうちに、上述したような形状の樹枝状銅粉1が所定の割合で占められていれば、それ以外の形状の銅粉が混じっていても、その樹枝状銅粉1のみからなる銅粉と同様の効果を得ることができる。具体的には、電子顕微鏡(例えば500倍〜20,000倍)で観察したときに、上述した形状の樹枝状銅粉1が全銅粉のうちの80個数%以上、好ましくは90個数%以上の割合を占めていれば、その他の形状の銅粉が含まれていてもよい。
≪2.樹枝状銅粉の製造方法≫
本実施の形態に係る樹枝状銅粉1は、例えば、銅イオンを含有する硫酸酸性溶液を電解液として用いて所定の電解法により製造することができる。
電解に際しては、例えば、金属銅を陽極(アノード)とし、ステンレス板やチタン板等を陰極(カソード)として設置した電解槽中に、上述した銅イオンを含有する硫酸酸性の電解液を収容し、その電解液に所定の電流密度で直流電流を通電することによって電解処理を施す。これにより、通電に伴って陰極上に樹枝状銅粉1を析出(電析)させることができる。特に、本実施の形態においては、電解により得られた粒状等の銅粉をボール等の媒体を用いて機械的に変形加工等することなく、その電解のみによって、平板状の微細銅粒子が集合して樹枝状を形成した樹枝状銅粉1を陰極表面に析出させることができる。
より具体的に、電解液としては、例えば、水溶性銅塩と、硫酸と、アミン化合物等の添加剤と、塩化物イオンとを含有するものを用いることができる。
水溶性銅塩は、銅イオンを供給する銅イオン源であり、例えば硫酸銅五水和物等の硫酸銅、塩化銅、硝酸銅等が挙げられるが特に限定されない。また、電解液中での銅イオン濃度としては、1g/L〜20g/L程度、好ましくは5g/L〜10g/L程度とすることができる。
硫酸は、硫酸酸性の電解液とするためのものである。電解液中の硫酸の濃度としては、遊離硫酸濃度として20g/L〜300g/L程度、好ましくは50g/L〜150g/L程度とすることができる。この硫酸濃度は、電解液の電導度に影響するため、カソード上に得られる銅粉の均一性に影響する。
添加剤としては、例えばアミン化合物を用いることができる。このアミン化合物が、後述する塩化物イオンと共に、析出する銅粉の形状制御に寄与すし、陰極表面に析出させる銅粉を、所定の断面厚さの鱗片状の銅粒子2から構成される、主幹3とその主幹3から分岐した枝4とを有する樹枝状銅粉1とすることができる。
アミン化合物としては、特に限定されないが、例えばチオフラビンT(分子式:C17H19ClN2S、CAS番号:2390−54−7)等を用いることができる。なお、アミン化合物としては、1種単独で添加してもよく、2種類以上を併用して添加してもよい。また、アミン化合物類の添加量としては、電解液中における濃度が0.1mg/L〜500mg/L程度の範囲となる量とすることが好ましい。
塩化物イオンとしては、塩酸、塩化ナトリウム等の塩化物イオンを供給する化合物(塩化物イオン源)を電解液中に添加することによって含有させることができる。塩化物イオンは、上述したアミン化合物等の添加剤と共に、析出する銅粉の形状制御に寄与する。電解液中の塩化物イオン濃度としては、特に限定されないが、200mg/L〜1000mg/L程度、好ましくは250mg/L〜800mg/L程度とすることができる。
本実施の形態に係る樹枝状銅粉1の製造方法においては、例えば、上述したような組成の電解液を用いて電解することによって陰極上に銅粉を析出生成させて製造する。電解方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、電流密度としては、硫酸酸性の電解液を用いて電解するにあたっては5A/dm2〜40A/dm2の範囲とすることが好ましく、電解液を撹拌しながら通電させる。また、電解液の液温(浴温)としては、例えば20℃〜60℃程度とすることができる。
≪3.導電性ペースト、導電塗料等の用途≫
本実施の形態に係る樹枝状銅粉1は、上述したように、主幹3とその主幹3から分岐した複数の枝4を有する樹枝状の銅粉であり、その主幹3及び枝4は、断面厚さが0.01μm〜0.2μmの鱗片状の銅粒子2が集合した樹枝状銅粉1からなる。そして、当該銅粉の平均粒子径(D50)は2.0μm〜50μmである。このような樹枝状銅粉1では、樹枝状の形状であることにより表面積が大きくなり、また、非常に薄い鱗片状の銅粒子2が集合した樹枝状銅粉1であることから、成形性や焼結性に優れたものとなる。さらに、その主幹3及び枝4の表面は、鱗片状の銅粒子2が集合しているため、無数の凹凸状態となっており、接点の数を多く確保することができ、優れた導電性を発揮する。
また、このような所定の構造を有する樹枝状銅粉1によれば、銅ペースト等とした場合であっても、凝集を抑制することができ、樹脂中に均一に分散させることが可能となり、またペーストの粘度上昇等による印刷性不良等の発生を抑制することができる。したがって、樹枝状銅粉1は、導電性ペーストや導電塗料等の用途に好適に用いることができる。
例えば導電性ペースト(銅ペースト)としては、金属フィラー(銅粉)を、バインダ樹脂、溶剤、さらに必要に応じて酸化防止剤やカップリング剤等の添加剤と混練することによって作製することができる。
本実施の形態においては、金属フィラー中に、上述した樹枝状銅粉1が20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上の量の割合となるように構成する。このような構成とすれば、例えばこの金属フィラーを銅ペーストに用いた場合、樹脂中に均一に分散させることができ、またペーストの粘度が過度に上昇して印刷性不良が生じることを防ぐことができる。また、鱗片状の銅粒子2の集合体からなる樹枝状銅粉1であることで、導電性ペーストとして優れた導電性を発揮させることができる。
金属フィラーとしては、上述したように樹枝状銅粉1が20質量%以上の量の割合となるように含んでいればよく、その他は、例えば1μm〜10μm程度の球状銅粉等、他の形状の銅粉や銀コート銅粉、さらにニッケルや錫等の導電性を有する金属粉を混ぜ合わせてもよい。このように、樹枝状銅粉1に加えて、他の形状の銅粉等を金属フィラーとして混合させることで、樹枝状銅粉の隙間に他の形状の銅粉等が充填されるようになり、導電性を確保するための接点をより多く確保することができる。また、その結果として、樹枝状銅粉1と他の形状の銅粉等のトータルの投入量、つまり導電性ペースト中の金属フィラーの量を少なくすることも可能となる。
なお、金属フィラー中の樹枝状銅粉が20質量%未満であると、その樹枝状銅粉1同士の接点が減少し、他の形状の銅粉等と混合させることによる接点の増加を加味しても、金属フィラーとしては導電性が低下してしまう。
具体的に、バインダ樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を用いることができる。また、溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ターピネオール等の有機溶剤を用いることができる。また、その有機溶剤の添加量としては、特に限定されないが、スクリーン印刷やディスペンサー等の導電膜形成方法に適した粘度となるように、樹枝状銅粉1の粒度を考慮して添加量を調整することができる。
さらに、粘度調整のために他の樹脂成分を添加することもできる。例えば、エチルセルロースに代表されるセルロース系樹脂等が挙げられ、ターピネオール等の有機溶剤に溶解した有機ビヒクルとして添加される。なお、その樹脂成分の添加量としては、焼結性を阻害しない程度に抑える必要があり、好ましくは全体の5重量%以下とする。
また、添加剤としては、焼成後の導電性を改善するために酸化防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えばヒドロキシカルボン酸等を挙げることができる。より具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸が好ましく、銅への吸着力が高いクエン酸又はリンゴ酸が特に好ましい。酸化防止剤の添加量としては、酸化防止効果やペーストの粘度等を考慮して、例えば1質量〜15質量%程度とすることができる。
また、硬化剤についても、従来使用されている2−エチル−4−メチルイミダゾール等を使用することができる。さらに、腐食抑制剤についても、従来使用されているベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール等を使用することができる。
上述した金属フィラーを利用して作製した導電性ペーストを用い、各種の電気回路を形成することができる。この場合においても、特に限定された条件で使用するものではなく、従来行われている回路パターン形成法等を利用することができる。例えば、その金属フィラーを利用して作製した導電性ペーストを、焼成基板あるいは未焼成基板に塗布又は印刷し、加熱した後に、必要に応じて加圧して硬化して焼き付けることで、プリント配線板や各種電子部品の電気回路や外部電極等を形成することができる。
また、電磁波シールド用材料として、上述した金属フィラーを利用する場合においても、特に限定された条件での使用に限られず、一般的な方法、例えばその金属フィラーを樹脂と混合して使用することができる。
例えば、上述した金属フィラーを利用して電磁波シールド用導電性塗料とする場合においては、一般的な方法、例えばその金属フィラーを樹脂及び溶剤と混合し、さらに必要に応じて酸化防止剤、増粘剤、沈降防止剤等と混合して混練することで導電性塗料として利用することができる。
このときに使用するバインダ樹脂及び溶剤としては、特に限定されるものではなく、従来用いられているものを使用することができる。例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂やフェノール樹脂等を使用することができる。また、溶剤についても、従来使用されているイソプロパノール等のアルコール類、トルエン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル等のエステル類、メチルエチルケトン等のケトン類等を使用することができる。また、酸化防止剤についても、従来使用されている脂肪酸アミド、高級脂肪酸アミン、フェニレンジアミン誘導体、チタネート系カップリング剤等を使用することができる。
また、上述した金属フィラーを利用して電磁波シールド用導電性シートとする場合においても、電磁波シールド用導電性シートの電磁波シールド層を形成するために使用される樹脂としては特に限定されるものではなく、従来使用されているものを使用することができる。例えば、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂等の各種重合体及び共重合体からなる熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化型樹脂等を適宜使用することができる。
電磁波シールド材の製造方法として、特に限定されないが、例えば、金属フィラーと樹脂とを溶媒に分散又は溶解した塗料を、基材上に塗布又は印刷することによって電磁波シールド層を形成し、表面が固化する程度に乾燥させることによって製造することができる。また、導電性シートの導電性接着剤層において、本実施の形態に係る樹枝状銅粉1を含有する金属フィラーを利用することもできる。
以下、本発明の実施例を比較例と共に示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
≪評価方法≫
下記実施例及び比較例にて得られた銅粉について、以下の方法により、形状の観察、平均粒子径の測定、結晶子径の測定を行った。
(形状の観察)
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製,JSM−7100F型)により、倍率1,000倍の視野で任意に20視野を観察し、その視野内に含まれる銅粉を観察した。
(平均粒子径の測定)
得られた銅粉の平均粒子径(D50)については、レーザー回折・散乱法粒度分布測定器(日機装株式会社製,HRA9320 X−100)を用いて測定した。
(BET比表面積)
BET比表面積については、比表面積・細孔分布測定装置(カンタクローム社製,QUADRASORB SI)を用いて測定した。
(比抵抗値測定)
被膜の比抵抗値については、低抵抗率計(三菱化学株式会社製,Loresta−GP MCP−T600)を用いて四端子法によりシート抵抗値を測定し、一方で表面粗さ形状測定器(東京精密株式会社製,SURFCO M130A)により被膜の膜厚を測定して、シート抵抗値を膜厚で除することによって求めた。
(電磁波シールド特性)
電磁波シールド特性の評価は、各実施例及び比較例にて得られた試料について、周波数1GHzの電磁波を用いて、その減衰率を測定することによって評価した。具体的には、樹枝状銅粉を使用していない比較例3の場合のレベルを『△』として、その比較例3のレベルよりも悪い場合を『×』とし、その比較例3のレベルよりも良好な場合を『○』とし、さらに優れている場合を『◎』として評価した。
また、電磁波シールドの可撓性についても評価するために、作製した電磁波シールドを折り曲げて電磁波シールド特性が変化するか否かを確認した。
≪実施例、比較例≫
[実施例1]
<樹枝状銅粉の製造>
容量が100Lの電解槽に、電極面積が200mm×200mmのチタン製の電極板を陰極とし、電極面積が200mm×200mmの銅製の板を陽極として用いて、その電解槽中に電解液を装入し、これに直流電流を通電して銅粉を陰極板に析出させた。
このとき、電解液としては、銅イオン濃度が10g/L、硫酸濃度が100g/Lの組成のものを用いた。また、この電解液に、添加剤としてチオフラビンT(和光純薬工業株式会社製)を電解液中の濃度として130mg/Lとなるように添加し、さらに塩酸溶液(和光純薬工業株式会社製)を電解液中の塩化物イオン(塩素イオン)濃度として60mg/Lとなるように添加した。
そして、上述したような濃度に調整した電解液を、ポンプを用いて15L/minの流量で循環しながら、温度を25℃に維持し、陰極の電流密度が15A/dm2になるように通電して陰極板上に銅粉を析出させた。
陰極板上に析出した電解銅粉を、スクレーパーを用いて機械的に電解槽の槽底に掻き落として回収し、回収した銅粉を純水で洗浄した後、減圧乾燥器に入れて乾燥した。
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、析出した銅粉において、少なくとも90個数%以上の銅粉は、鱗片状の銅粒子が密集して枝状に集合し、それが2次元又は3次元の樹枝状の形状に成長した樹枝状の形状を呈した銅粉であった。また、その鱗片状の銅粒子は、断面厚さ(断面平均厚さ)が0.05μmであった。また、樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)は32.1μmであった。また、得られた樹枝状銅粉の嵩密度は1.3g/cm3であった。また、BET比表面積は1.7m2/gであった。
[実施例2]
<樹枝状銅粉の製造>
電解液として、銅イオン濃度が15g/L、硫酸濃度が100g/Lの組成のものを用い、その電解液に、添加剤としてチオフラビンTを電解液中の濃度として150mg/Lとなるように添加し、さらに塩酸溶液を電解液中の塩素イオン濃度として100mg/Lとなるように添加した。
そして、上述したような濃度に調整した電解液を、ポンプを用いて20L/minの流量で循環しながら、温度を30℃に維持し、陰極の電流密度が20A/dm2になるように通電して陰極板上に銅粉を析出させた。
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、析出した銅粉において、少なくとも90個数%以上の銅粉は、鱗片状の銅粒子が密集して枝状に集合し、それが2次元又は3次元の樹枝状の形状に成長した樹枝状の形状を呈した銅粉であった。また、その鱗片状の銅粒子は、断面平均厚さが0.03μmであった。また、樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)は17.2μmであった。また、得られた樹枝状銅粉の嵩密度は3.3g/cm3であった。また、BET比表面積は1.1m2/gであった。
[実施例3]
<樹枝状銅粉の製造>
電解液として、銅イオン濃度が10g/L、硫酸濃度が150g/Lの組成のものを用い、その電解液に、添加剤としてチオフラビンTを電解液中の濃度として200mg/Lとなるように添加し、さらに塩酸溶液を電解液中の塩素イオン濃度として150mg/Lとなるように添加した。
そして、上述したような濃度に調整した電解液を、ポンプを用いて25L/minの流量で循環しながら、温度を35℃に維持し、陰極の電流密度が25A/dm2になるように通電して陰極板上に銅粉を析出させた。
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、析出した銅粉において、少なくとも90個数%以上の銅粉は、鱗片状の銅粒子が密集して枝状に集合し、それが2次元又は3次元の樹枝状の形状に成長した樹枝状の形状を呈した銅粉であった。また、その鱗片状の銅粒子は、断面平均厚さが0.02μmであった。また、樹枝状銅粉の平均粒子径(D50)は8.5μmであった。また、得られた樹枝状銅粉の嵩密度は3.6g/cm3であった。また、BET比表面積は0.8m2/gであった。
[実施例4]
<導電性ペースト化>
実施例2で得られた樹枝状銅粉60重量部に、フェノール樹脂(群栄化学株式会社製,PL−2211)15重量部、ブチルセロソルブ(関東化学株式会社製,鹿特級)10重量部を混合し、小型ニーダー(株式会社日本精機製作所製,ノンバブリングニーダーNBK−1)を用い、1200rpm、3分間の混錬を3回繰り返すことでペースト化した。得られた導電ペーストを金属スキージでガラス上に印刷し、窒素雰囲気中にて150℃、200℃でそれぞれ30分間硬化させた。
硬化により得られた被膜の比抵抗値は、それぞれ9.5×10−5Ω・cm(硬化温度150℃)、4.3×10−5Ω・cm(硬化温度200℃)であった。
[実施例5]
<導電性ペースト化>
実施例3で得られた樹枝状銅粉60重量部に、フェノール樹脂(群栄化学株式会社製,PL−2211)15重量部、ブチルセロソルブ(関東化学株式会社製,鹿特級)10重量部を混合し、小型ニーダー(株式会社日本精機製作所製,ノンバブリングニーダーNBK−1)を用い、1200rpm、3分間の混錬を3回繰り返すことでペースト化した。得られた導電ペーストを金属スキージでガラス上に印刷し、窒素雰囲気中にて150℃、200℃でそれぞれ30分間硬化させた。
硬化により得られた被膜の比抵抗値は、それぞれ1.0×10−4Ω・cm(硬化温度150℃)、5.2×10−5Ω・cm(硬化温度200℃)であった。
[実施例6]
<電磁波シールド用の導電性シート>
実施例3にて作製した樹枝状銅粉を樹脂に分散して電磁波シールド材とした。
すなわち、作製した樹枝状銅粉60gに対して、塩化ビニル樹脂100gと、メチルエチルケトン200gとをそれぞれ混合し、小型ニーダーを用いて、1200rpm、3分間の混錬を3回繰り返すことによってペースト化した。ペースト化に際しては、銅粉が凝集することなく、樹脂中に均一に分散した。これを100μmの厚さの透明ポリエチレンテレフタレートシートからなる基材の上にメイヤーバーを用いて塗布・乾燥し、厚さ25μmの電磁波シールド層を形成した。
電磁波シールド特性については、周波数1GHzの電磁波を用いて、その減衰率を測定することによって評価した。表1に結果を示す。
[比較例1]
<樹枝状銅粉の製造>
電解液に、添加剤としてのチオフラビンTと、塩素イオンとを添加しない条件としたこと以外は、実施例1と同じ条件で銅粉を陰極板上に析出させた。
得られた電解銅粉の形状を、上述した走査型電子顕微鏡(SEM)による方法で観察した結果、得られた銅粉は樹枝状の形状を呈していたものの、粒状の銅粒子が集合したものであった。なお、図5は、この比較例1にて得られた銅粉のSEM観察像である。また、得られた銅粉の平均粒子径(D50)は40μm以上にもなる非常に大きな樹枝状銅粉であることが確認された。
[比較例2]
<銅粉の製造>
実施例で得られた樹枝状銅粉と従来の銅粉との比較を行うため、機械的に扁平化して作製した平板状銅粉を用いて評価を行った。
平板状銅粉の作製は、平均粒子径5.4μmの粒状アトマイズ銅粉(メイキンメタルパウダーズ社製)500gにステアリン酸5gを添加し、ボールミルで扁平化処理を行った。ボールミルには、3mmのジルコニアビーズを5kg投入し、500rpmの回転速度で90分間回転させた。このようにして作製した平板状銅粉についてレーザー回折・散乱法粒度分布測定器で測定した結果、平均粒子径は12.6μmであった。また、走査型電子顕微鏡で観察した結果、断面平均厚さは0.5μmであった。
<導電性ペースト化>
得られた平板状銅粉を実施例4と同様に、平板状銅粉60重量部に、フェノール樹脂(群栄化学株式会社製,PL−2211)15重量部、ブチルセロソルブ(関東化学ka株式会社製,鹿特級)10重量部を混合し、小型ニーダー(株式会社日本精機製作所製,ノンバブリングニーダーNBK−1)を用い、1200rpm、3分間の混錬を3回繰り返すことでペースト化した。得られた導電ペーストを金属スキージでガラス上に印刷し、窒素雰囲気中にて150℃、200℃でそれぞれ30分間硬化させた。
硬化により得られた被膜の比抵抗値は、それぞれ5.1×10−4Ω・cm(硬化温度150℃)、7.9×10−5Ω・cm(硬化温度200℃)であった。
[比較例3]
<電磁波シールド用の導電性シート>
比較例2にて作製した平板状銅粉を樹脂に分散して電磁波シールド材とした。
すなわち、作製した平板状銅粉60gに対して、塩化ビニル樹脂100gと、メチルエチルケトン200gとをそれぞれ混合し、小型ニーダーを用いて、1200rpm、3分間の混錬を3回繰り返すことによってペースト化した。ペースト化に際しては、銅粉が凝集することなく、樹脂中に均一に分散した。これを100μmの厚さの透明ポリエチレンテレフタレートシートからなる基材の上にメイヤーバーを用いて塗布・乾燥し、厚さ25μmの電磁波シールド層を形成した。
電磁波シールド特性については、周波数1GHzの電磁波を用いて、その減衰率を測定することによって評価した。表1に結果を示す。