以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置を詳細に説明する。
始めに、図4を用いて、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置が組み込まれた産業用ロボットの全体構成から説明する。図4は、当該産業用ロボットの全体概略を示す模式図である。
この産業用ロボットR1は、床面19上に基台10を有し、この基台10から第1〜第6関節J1〜J6と第1〜第6アーム11〜16が交互に連結されている。第1〜第6アーム11〜16は、第1〜第6関節J1〜J6を介して駆動モータおよび減速装置(図4では図示略)によって駆動される。第6アーム16の先端には、所定の作業を行うための溶接ツール、保持ツール、塗装ツール等のさまざまなツール18が取付けられる。
ツール18が取付けられた第6アーム16は、6つの自由度を有し、3次元方向に自由に移動しつつ、被作業物に対して任意の位置、姿勢で接触、吸着、あるいは吹き付け等の作業をすることができる。産業用ロボットR1による作業は、反復作業が殆どであり、減速装置は、正回転、逆回転を繰り返すことになる。そして、特定の作業位置に戻ってきたときの位置決め精度が重要な要素となる。そのためロストモーション(後述)が小さいことが要求される。ロストモーションは、部品の摩耗により増大してゆく傾向があるため、部品の摩耗によるロストモーションの増大(性能劣化)を抑制することも重要な課題となる。本実施形態は、このような背景の下で使用される偏心揺動型の減速装置に本発明を適用している。
図1は、本実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置G1の全体断面図、図2は、図1の入力軸近傍の部分拡大断面図、図3は、図1の内歯歯車近傍の部分拡大断面図である。この減速装置G1は、産業用ロボットR1の手首部分に相当する前記第4アーム14に組み込まれている。なお、産業用ロボットR1の他の部位に設けられている減速装置に対しても、同様に適用することができる。
減速装置G1は、内歯歯車30と該内歯歯車30に内接噛合する外歯歯車21〜23とを有する偏心揺動型の減速装置である。減速装置G1は、図示せぬモータからプーリ等を介して動力を受ける入力軸40を備える。入力軸40には偏心体41〜43が一体化されている。偏心体41〜43の外周面は、入力軸40の軸心C40に対して所定の偏心量だけ偏心している。偏心体41〜43の外周面41A〜43Aには偏心体ころ51〜53が転動可能に組み込まれている。後述するように、この偏心体ころ51〜53の転動は、より正確には「摺動」を伴っている。
偏心体ころ51〜53は、3枚の外歯歯車21〜23の中央貫通孔21A〜23Aと係合している。すなわち、外歯歯車21〜23は、偏心体41〜43に偏心体ころ51〜53を介して組み込まれ、揺動回転しながら内歯歯車30に内接噛合している。外歯歯車21〜23を3枚並列に設けているのは、容量の増大および回転バランスの向上を意図したためである。3枚の外歯歯車21〜23の偏心位相差は120度である。
偏心体ころ51〜53は、樹脂製のリテーナ61〜63によって軸方向および周方向の位置が規制されている。リテーナ61〜63、およびその近傍の構成については、後に詳述する。
この実施形態では、内歯歯車30は、軸直角断面が円弧状のピン溝31Aを有する内歯歯車本体31と、該円弧状のピン溝31Aに回転・摺動自在に配置され、内歯歯車30の内歯を構成する外ピン32とを有している。内歯歯車本体31は、ケーシング60と一体化されている。外歯歯車21〜23の歯数は、内歯歯車30の歯数(外ピン32の数)よりも僅かだけ(この例では1だけ)少ない。
外歯歯車21〜23には、該外歯歯車21〜23の軸心からオフセットした位置に形成されたオフセット貫通孔21B〜23Bが形成されている。オフセット貫通孔21B〜23Bは、周方向に等間隔に複数形成されている。
各オフセット貫通孔21B〜23Bを、内ピン70が軸方向に貫通している。内ピン70の外周面70Aには摺動促進部材として円筒状の内ローラ74が外嵌されている。内ローラ74とオフセット貫通孔21B〜23Bとの間には、前記偏心体41〜43の偏心量の2倍に相当する隙間が確保されている。内ローラ74は、外周面74Aが外歯歯車21〜23のオフセット貫通孔21B〜23Bと摺動可能に当接すると共に、内周面74Bが内ピン70の外周面70Aと摺動可能に当接している。
外歯歯車21〜23の軸方向反負荷側には第1キャリヤ71、負荷側には第2キャリヤ72がそれぞれ配置されている。前記内ピン70は、この実施形態では、負荷側に配置された第2キャリヤ72から一体的に突出形成されている(圧入による結合であってもよい)。第2キャリヤ72は、反負荷側に配置された第1キャリヤ71とボルト76を介して連結されている。
なお、この実施形態では、入力軸40は、入力軸受81、82を介して第1、第2キャリヤ71、72に回転自在に支持されている。また、第1、第2キャリヤ71、72は、主軸受91、92を介して、ケーシング60に回転自在に支持されている。入力軸受81、82、および主軸受91、92の構成についても後に詳述する。
この偏心揺動型の減速装置G1は、ケーシング60が産業用ロボットR1の第4アーム14にボルト(ボルト孔60Aのみ図示)を介して連結されると共に、第2キャリヤ72が図示せぬタップを介して第5アーム15に連結されている。第2キャリヤ72がケーシング60に対して相対的に回転することにより、第5アーム15を第4アーム14に対し、相対的に回転させることができる。
ここで、本実施形態の特に摺動に関係する構成および作用の理解を容易とするために、この偏心揺動型の減速装置G1の動力伝達に係る作用を説明しておく。
入力軸40が回転すると該入力軸40と一体化されている偏心体41〜43が回転する。偏心体41〜43の回転により、該偏心体41〜43の外周面41A〜43Aを偏心体ころ51〜53が転動(摺動)する。これにより、該偏心体ころ51〜53の転動(摺動)を介して、外歯歯車21〜23が揺動回転する。外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cは、内歯歯車30の内歯に相当する外ピン32の外周面32Aと噛合(摺動)している。この結果、内歯歯車30(の外ピン32)に対する外歯歯車21〜23の噛合位置が順次ずれてゆく現象が発生する。なお、外ピン32は、内歯歯車本体31のピン溝31A内において、回転(摺動)しながら外歯歯車21〜23の歯面と噛合(摺動)している。
外歯歯車21〜23の歯数は、内歯歯車30の歯数よりも1だけ少ないため、外歯歯車21〜23は、入力軸40が1回回転するごとに、1歯分だけ内歯歯車30に対して位相がずれる(自転する)ことになる。この自転成分が、外歯歯車21〜23のオフセット貫通孔21B〜23Bと内ローラ74の外周面74Aとの摺動、および内ローラ74の内周面74Bと内ピン70の外周面70Aとの摺動を介して内ピン70に伝達される。内ピン70は第2キャリヤ72と一体化されているため、第2キャリヤ72がケーシング60に対して相対的に回転する。これにより、産業用ロボットR1の第5アーム15を第4アーム14に対し、相対的に回転させることができる。なお、外歯歯車21〜23の揺動成分は、内ローラ74と外歯歯車21〜23のオフセット貫通孔21B〜23Bとの間に確保された隙間によって吸収される。
次に、本実施形態の偏心揺動型の減速装置G1の構成を、各部材の「摺動」に着目してより詳細に説明する。
本減速装置G1には、摺動部位として、当該減速装置G1の動力伝達に直接関係する第1摺動部位と、当該減速装置G1の動力伝達に直接関係しない第2摺動部位がある。
ここで、「減速装置の動力伝達に直接関係する第1摺動部位」とは、「当該摺動部位での摺動によって減速装置としての動力伝達が行われる摺動部位」を指している。別言するならば、「当該摺動部位が当接していないと、減速装置としての動力伝達が成立しない摺動部位」、あるいは、「動力伝達が行われているときに、相手側摺動部位と常に接触している部位」のことである。
また、「減速装置の動力伝達に直接関係しない第2摺動部位」とは、「減速装置としての動力伝達には関与していない摺動部位」を指している。別言するならば、「当該摺動部位が当接していなくても、減速装置としての動力伝達が成立し得る摺動部位」、あるいは、「相手側摺動部位と接触しない瞬間があるが、動力伝達は成立する部位」のことである。
先ず、減速装置G1の動力伝達に直接関係する第1摺動部位について説明する。
本減速装置G1において、減速装置の動力伝達に直接関係する第1摺動部位に相当する摺動部位としては、例えば、以下の摺動部位がある。
<偏心体41〜43&偏心体ころ51〜53>
本減速装置G1において動力伝達を行うには、先ず、偏心体41〜43の回転により偏心体ころ51〜53を介して外歯歯車21〜23が揺動回転しなければならない。偏心体ころ51〜53は、偏心体41〜43の外周面41A〜43Aおよび外歯歯車21〜23の中央貫通孔21A〜23Aに挟まれて「転動」しているが、前述したように、この転動は、実際には摺動を伴っている。
偏心体41〜43の外周面41A〜43Aと偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53Aの摺動は、共に、偏心体41〜43の回転を偏心体ころ51〜53を介して外歯歯車21〜23に伝達するための摺動であり、減速装置G1の動力伝達に直接関係する摺動である。よって、「偏心体41〜43の外周面41A〜43A」および「偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53A」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している(つまり、偏心体41〜43の外周面41A〜43Aから見ると偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53Aが相手側摺動部位、偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53Aから見ると偏心体41〜43の外周面41A〜43Aが相手側摺動部位をそれぞれ構成している)。
<偏心体ころ51〜53&外歯歯車21〜23の中央貫通孔21A〜23A>
次に、偏心体ころ51〜53は、外歯歯車21〜23の中央貫通孔21A〜23Aと、摺動を伴って転動している。この摺動(転動)は、偏心体ころ51〜53を介して偏心体41〜43の回転を外歯歯車21〜23に伝達するための摺動であり、減速装置G1の動力伝達に直接関係する摺動である。したがって、「偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53A」および「外歯歯車21〜23の中央貫通孔21A〜23A」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。
<外歯歯車21〜23&内歯歯車30の外ピン32>
外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cは、内歯歯車30の外ピン32の外周面(内歯歯車30の歯面)32Aと、摺動を伴って噛合している。この摺動(噛合)は、外歯歯車21〜23が揺動する際に、該外歯歯車21〜23に内歯歯車30との歯数差に相当する自転を行わせるための摺動であり、減速装置G1の動力伝達に直接関係する摺動である。したがって、「外歯歯車21〜23の歯面21C〜23C」および「内歯歯車30の外ピン32の外周面32A」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。
<内歯歯車30の外ピン32&内歯歯車本体31のピン溝31A>
内歯歯車30の外ピン32の外周面32Aは、内歯歯車本体31のピン溝31Aに回転自在に配置され、該ピン溝31Aと摺動している。この摺動は、外歯歯車21〜23が内歯歯車30との噛合によって自転するときに、外歯歯車21〜23に対して内歯歯車本体31から反力を提供するための摺動であり、減速装置G1の動力伝達に直接関係する摺動である。したがって、「内歯歯車30の外ピン32の外周面32A」および「内歯歯車本体31のピン溝31A」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。
<外歯歯車21〜23&内ローラ74>
外歯歯車21〜23のオフセット貫通孔21B〜23Bは、内ローラ74の外周面74Aと摺動している。この摺動は、外歯歯車21〜23の自転成分(内歯歯車30に対する相対回転成分)を、内ローラ74を介して内ピン70に伝達するための摺動であり、減速装置G1の動力伝達に直接関係する摺動である。したがって、「外歯歯車21〜23のオフセット貫通孔21B〜23B」および「内ローラ74の外周面74A」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。
<内ローラ74&内ピン70>
内ローラ74の内周面74Bは、内ピン70の外周面70Aと摺動している。この摺動は、内ローラ74を介して外歯歯車21〜23の自転成分を内ピン70に伝達するための摺動であり、減速装置G1の動力伝達に直接関係する摺動である。したがって、「内ローラ74の内周面74B」および「内ピン70の外周面70A」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。
<入力軸受81、82>
入力軸受81、82は、この実施形態では玉軸受によって構成され、それぞれ内輪81A、82A、外輪81B、82Bを有している。入力軸受81、82の転動体81C、82Cは、入力軸受81、82の内輪81A、82Aの転走面81A1、82A1と、外輪81B、82Bの転走面81B1、82B1との間に配置され、それぞれの転走面81A1、82A1、81B1、82B1と転動している。この転動は、実際には摺動を伴っている。
この摺動(転動)、つまり、入力軸受81、82の転動体81C、82Cと、各転走面81A1、82A1、81B1、82B1との摺動は、入力軸40を支持するための摺動である。換言するならば、入力軸40に設けられた偏心体41〜43が、偏心体ころ51〜53に偏心荷重を与えるときにその反力を入力軸40が受ける際の、該入力軸40を支持するためのものである。入力軸受81、82のこれらの摺動部位が摺動していないと、偏心体41〜43は、偏心体ころ51〜53に対して偏心荷重を与えることができない。すなわち、減速装置G1としての動力伝達が成立しない。
したがって、「入力軸受81、82の転動体81C、82C」および「入力軸受81、82の内輪81A、82Aの転走面81A1、82A1」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。また、「入力軸受81、82の転動体81C、82C」および「入力軸受81、82の外輪81B、82Bの転走面81B1、82B1」も、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。
<主軸受91、92>
主軸受91、92は、この実施形態では、背面合わせで組み込まれたアンギュラ玉軸受によって構成されている。主軸受91、92は、専用の内輪を有しておらず、第1キャリヤ71および第2キャリヤ72に、主軸受91、92の転走面71A、72Aが形成されている。主軸受91、92は、外輪91B、92Bを有している。
主軸受91、92の転動体(玉)91C、92Cは、第1、第2キャリヤ71、72の転走面71A、72Aおよび外輪91B、92Bの転走面91B1、92B1と転動している、この転動は、実際には摺動を伴っている。
この摺動(転動)、つまり、主軸受91、92の転動体(玉)91C、92Cと、各転走面71A、72A、91B1、92B1との摺動は、第1、第2キャリヤ71、72を支持するための摺動である。すなわち、第1、第2キャリヤ71、72は、減速装置G1の出力を第5アーム15に伝達する際の反力を受ける。主軸受91、92の摺動は、該反力を、第1、第2キャリヤ71、72がケーシング60から受けるために必須のものである。主軸受91、92のこれらの摺動部位が摺動していないと、第1、第2キャリヤ71、72は、減速装置G1の動力を出力することができない。つまり、減速装置G1としての動力伝達が成立しない。したがって、「主軸受91、92の転動体91C、92C」および「該主軸受91、92の(第1、第2キャリヤ71、72に形成した)転走面71A、72A」は、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。また、「主軸受91、92の転動体91C、92C」および「該主軸受91、92の外輪91B、92Bの転走面91B1、92B1」も、共に第1摺動部位に相当し、相互に相手側摺動部位を構成している。
次に、減速装置G1の動力伝達に直接関係しない第2摺動部位について説明する。
本減速装置G1において、減速装置G1の動力伝達に直接関係しない第2摺動部位に相当する摺動部位としては、例えば、以下の摺動部位がある。
<偏心体ころ51〜53&リテーナ61〜63&押さえ板65、66>
偏心体ころ51〜53は、リテーナ61〜63によって位置規制されている。
この実施形態に係るリテーナ61〜63は、リング部61B〜63B、61C〜63Cと、該一対のリング部61B〜63B、61C〜63Cを連結する連結部(破線で一部のみ図示)61A〜63Aと、を有している。
偏心体ころ51〜53の軸方向端面51B〜53B、51C〜53Cと、リテーナ61〜63のリング部61B〜63B、61C〜63Cの軸方向ころ側端面61B1〜63B1、61C1〜63C1と、がそれぞれ摺動している。
また、リング部61Cとリング部62Bの互いに対向する軸方向端面61C2、62B2同士が摺動すると共に、リング部62Cとリング部63Bの互いに対向する軸方向端面62C2、63B2同士が摺動している。
また、偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53Aと、リング部61B〜63B、61C〜63Cを連結する連結部61A〜63Aが摺動している。
さらに、全リング部61B〜63B、61C〜63Cのうち、軸方向両端部に位置するリング部61B、63Cの反外歯歯車側の軸方向端面61B2、63C2は、押さえ板65、66の押さえ面65A、66Aと摺動している。
しかし、これらの摺動は、該偏心体ころ51〜53の軸方向あるいは周方向の位置を規制するためのものである。つまり、減速装置G1の動力伝達に直接関係する摺動ではない。これらの摺動部位が当接していなくても、減速装置G1としての動力伝達は成立し得る。
つまり、(a)「偏心体ころ51〜53の軸方向端面51B〜53B、51C〜53C」と「リテーナ61〜63のリング部61B〜63B、61C〜63Cの軸方向ころ側端面61B1〜63B1、61C1〜63C1」との摺動部位、(b)「リング部61Cとリング部62Bの互いに対向する軸方向端面61C2、62B2同士」の摺動部位、(c)「リング部62Cとリング部63Bの互いに対向する軸方向端面62C2、63B2同士」の摺動部位(d)「偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53A」と、「リング部61B〜63B、61C〜63Cを連結する連結部61A〜63A」との摺動部位、、(e)「各リテーナ61〜63のリング部61B〜63B、61C〜63Cのうち、軸方向両端部に位置するリング部61B、63Cの反外歯歯車側の軸方向端面61B2、63C2」と「押さえ板65、66の押さえ面65A、66A」との摺動部位は、いずれも減速装置の動力伝達に直接関係しない第2摺動部位に相当している。
<外歯歯車21〜23、外ピン32、内ローラ74、第1、第2キャリヤ71、72、および主軸受91、92の各軸方向端面&これらの相手側摺動部位>
主に図3を参照して、同様に、(f)3枚ある外歯歯車21〜23のうち、「軸方向両端部に位置する外歯歯車21、23の主軸受側端面21D、23E」と「主軸受91、92の外輪91B、92Bの外歯歯車側端面91B2、92B2」との摺動部位、(g)「外歯歯車21〜23の軸方向端面同士」の摺動部位(この例では、外歯歯車21の軸方向端面21Eと外歯歯車22の軸方向端面22Dとの摺動部位、および外歯歯車22の軸方向端面22Eと外歯歯車23の軸方向端面23Dとの摺動部位)、(h)「外ピン32の軸方向端面32B、32C」と「主軸受91、92の外輪91B、92Bの外歯歯車側端面91B2、92B2」との摺動部位、(i)「内ローラ74の軸方向端面74C、74D」と「第1、第2キャリヤ71、72の内ローラ対向面71E、71F」との摺動部位は、いずれも、外歯歯車21〜23、外ピン32、あるいは内ローラ74の軸方向の移動を規制するためのもので、減速装置G1の動力伝達には直接関係していない。すなわち、これらの摺動部位が当接していなくても、減速装置G1の動力伝達は成立している。したがって、これらの摺動部位は、いずれも、第2摺動部位に相当している。
<オイルシール95のリップ面95A&第2キャリヤ72のリップ当接面72B>
本実施形態に係る減速装置G1においては、ケーシング60と第2キャリヤ72との間にオイルシール95が配置されている。オイルシール95のリップ面95Aは、第2キャリヤ72の外周に形成されたリップ当接面72Bと摺動している。しかし、この摺動は、減速装置G1内の潤滑剤を封止するためのもので、減速装置G1の動力伝達には何ら関与していない。つまり、オイルシール95のリップ面95Aと第2キャリヤ72のリップ当接面72Bとが当接していなくても、減速装置G1の動力伝達は成立している。
したがって、「オイルシール95のリップ面95A」および「第2キャリヤ72の外周に形成されたリップ当接面72B」も、共に第2摺動部位に相当している。
このように、本減速装置G1には、減速装置G1の動力伝達に直接関係する第1摺動部位と、直接関係しない第2摺動部位が存在する。
本実施形態では、第1摺動部位に、該第1摺動部位の基材よりも摩擦係数が低く、かつ該基材よりも硬度が高い第1被膜WC/C(タングステン含有のDLC)を施すようにしている。また、第2摺動部位には、該第2摺動部位の基材よりも摩擦係数が低く、かつ第1被膜WC/Cよりも硬度が低い第2被膜PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が施される。
ただし、必ずしも全ての第1摺動部位に第1被膜を施す必要はなく、また、全ての第2摺動部位に第2被膜を施す必要もない。
本実施形態では、具体的には、上記第1摺動部位のうち、偏心体41〜43の外周面41A〜43A、偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53A、内歯歯車30の外ピン32の外周面32A、内ローラ74の外周面74A、および内ピン70の外周面70Aに、第1被膜WC/Cを施すようにしている。この理由は、後に触れる。
第1被膜としては、本実施形態で採用している硬質炭素被膜系のWC/Cのほか、例えば、Cr系被膜として、CrN(窒化クロム)、Ti系被膜として、TiN(窒化チタン)などが採用できる。また、硬質炭素被膜として、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)なども採用できる。また、これらに他の金属原子を含有したものや、他の被膜との多層膜、あるいは複合膜を採用することもできる。
また、本実施形態では、上記第2摺動部位のうち、第2被膜PTFEをリテーナ61〜63、および押さえ板65、66の押さえ面65A、66Aに施すようにしている。
第2被膜としては、本実施形態で採用しているフッ素樹脂被膜の一種であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のほか、例えば、モリブデン被膜として、MoS2(二硫化モリブデン)、グラファイト系被膜としてグラファイト、リン酸塩被膜としてリン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸マンガンなどを採用することができる。
第1被膜WC/Cの摩擦係数は、潤滑剤を塗布した状態で0.10程度である。偏心体41〜43の外周面41A〜43A、偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53A、内歯歯車30の外ピン32の外周面32A、内ローラ74の外周面74Aの摩擦係数は、部品の形状により変化するが、各部品に使われている鋼材としての摩擦係数は、0.12程度である。
また、本実施形態では、偏心体41〜43、偏心体ころ51〜53、内ピン70、内歯歯車30の外ピン32、内ローラ74の基材は、いずれも焼き入れ鋼であり、ビッカース硬度HVは、いずれも600〜850程度である。
これに対し、本実施形態において採用した第1被膜WC/Cのビッカース硬度HVは、1000〜1500程度である。
要するならば、この第1被膜WC/Cは、該第1被膜WC/Cが施されている第1摺動部位の基材(偏心体41〜43、偏心体ころ51〜53、内歯歯車30の外ピン32、内ローラ74、あるいは内ピン70の各外周面)の摩擦係数よりも摩擦係数が低く、かつ当該第1摺動部位の基材よりも硬度が高い。
一方、第2被膜PTFEの硬度は、ロックウェルRスケールでR20程度である(軟らかすぎてビッカース硬度では評価できない)。つまり、第2被膜PTFEの硬度は、第1被膜WC/Cのビッカース硬度(HV1000〜1500程度)よりも低い。
また、本実施形態において、偏心体ころ51〜53のリテーナ61〜63は、樹脂製である。リテーナ61〜63の摩擦係数は、0.11程度であり、第2被膜PTFEの摩擦係数は、0.06程度である。よって、第2被膜PTFEの摩擦係数は、基材であるリテーナ61〜63の摩擦係数よりも低い。
また、リテーナ61〜63の硬度は、ロックウェルRスケールでR120程度である。一方、第2被膜PTFEの硬度は、ロックウェルRスケールでR20程度である。つまり、第2被膜PTFEの硬度は、当該第2摺動部位の基材(リテーナ61〜63:樹脂)の硬度(ロックウェルRスケールでR120程度)よりも低い。さらに、リテーナ61〜63の軸方向端面に施された第2被膜PTFEの硬度は、相手側摺動部位である押さえ板65、66の硬度(ビッカース硬度で、120程度)よりも低い。なお、硬度は、鋼≫樹脂であるため、鋼と樹脂は同一の指標では比較できない。
次に、本実施形態の「被膜」に関係する作用を説明する。
第1摺動部位での摺動は、減速装置G1の動力伝達を行うための必須の摺動であり、大きな動力伝達トルクが掛かっていて、面圧も大きい。したがって、第1摺動部位は摩耗し易い。第1摺動部位が摩耗すると、各部材の「がた」が大きくなり、ロストモーションが増大する傾向となる。ロストモーションとは、ここでは、「高速軸(入力軸40)を固定して低速軸(第2キャリヤ72)側より定格トルクまで、ゆっくり負荷を掛けて除荷するまでの負荷と低速軸の変位(ねじれ角)を測定したときに描かれる図6に示すような剛性のヒステリシスカーブにおいて、定格トルクの±3%点におけるねじれ角」のことを指している。
ロストモーションは、位置決めの精度に関わる指標の一つであり、部品の摩耗によってロストモーションが大きくなるのは、産業用ロボットR1のように第1〜第6アーム11〜16の第1〜第6関節J1〜J6を駆動して、同一の位置で同一の作業を繰り返して行うような用途においては、大きなデメリットとなる。
本実施形態においては、第1摺動部位に、基材より硬質の(硬度の高い)第1被膜WC/Cが施されている。そのため、より摩耗しにくく、小さなロストモーションを長期に亘って維持することができる。
また、第1摺動部位では、大きな動力伝達トルクが掛かっていることと相まって、摺動抵抗が大きくなり易い。そのため、動力損失が大きくなって動力伝達効率が低くなるだけでなく、潤滑剤の温度が過度に上昇するという問題も生じ易くなる。潤滑剤の温度が上昇すると、摺動部位に油膜が形成されにくくなるため、それだけ耐久性が低下する要因となる。したがって、第1摺動部位では、摩擦係数が低いことが重要である。
しかし、本実施形態において第1摺動部位に施されている第1被膜WC/Cは、摩擦係数が(基材より)低いため、動力損失が小さい。発明者らの試験によれば、本実施形態の条件によって第1摺動部位に第1被膜WC/Cを施したところ、第2キャリヤ72の回転速度が10rpm以上の領域で、明確な動力伝達効率の向上が認められた。特に、第2キャリヤ72の回転速度が30rpm以上では、数%程度の著しい動力伝達効率の向上が認められている(第2キャリヤ72の回転速度が83rpmまで試験し、動力伝達効率の向上が確認できている)。
一方、第2摺動部位では、減速装置G1の動力伝達には直接関係しない摺動が行われているに過ぎないため、もともと大きな荷重は掛かっていない。また、多少摩耗してもロストモーションが大きくなる等の産業用ロボットR1本来の機能に大きな問題が生じるわけではない。逆に、硬過ぎる被膜は、「割れ」が発生して、いわゆる「欠け落ち」がより生じ易くなるという問題がある。特に、本実施形態では、リテーナ61〜63は、軟質な樹脂で形成されており、弾性変形し易い。基材が弾性変形すると、被膜も追随して変形することから、硬質過ぎる被膜は、割れや欠け落ちが発生し易い傾向となる。この事情は、押さえ板65、66についても同様である(押さえ板は、熱処理しておらず、比較的軟質である)。
更には、もし、被膜の割れや欠け落ちが発生すると、欠け落ちた被膜が他の摺動部位に付着して(あるいは挟み込まれて)、当該摺動部位を傷つけるという問題が発生し易くなる。そして、付着が発生したとき、付着した被膜が硬質の被膜であった場合、該摺動部位をより大きく傷つけてしまう。
しかし、本実施形態において第2摺動部位に施される第2被膜PTFEは、第2摺動部位の基材よりも摩擦係数が低く、かつ第1被膜WC/Cよりも硬度が低い。そのため、第2被膜PTFEが施されることで、当該第2摺動部位の摩擦係数は、確実に基材より低くなり、かつ、第1被膜WC/Cと比較して、割れや欠け落ちが生じるのをより抑制することができる。したがって欠け落ちた被膜が原因でロストモーションが増大したり、第1あるいは第2摺動部位が傷ついたりするのを効果的に抑制することができる。
特に、本実施形態では、偏心体ころ51〜53の位置規制をしているリテーナ61〜63に第2被膜PTFEが施されるため、上記メリットを十分に享受することができる。また、リテーナ61〜63に施された第2被膜PTFEの硬度は、(相手側摺動部位である)押さえ板65、66の硬度よりも低いため、押さえ板65、66の摩耗も低減できる。
そして、本実施形態では、特に、第1摺動部位の全てに第1被膜WC/Cを施すのではなく、第1摺動部位のうち、偏心体41〜43の外周面41A〜43A、偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53A、内歯歯車30の外ピン32の外周面32A、内ローラ74の外周面74A、および内ピン70の外周面70Aにのみ、第1被膜WC/Cを施すようにしている。
逆に言うならば、偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53Aには第1被膜WC/Cが施されているが、その相手側摺動部位である外歯歯車21〜23の中央貫通孔21A〜23Aには、該第1被膜WC/Cは施されていない。また、内歯歯車30の内歯を構成している外ピン32の外周面32Aの相手側摺動部位である内歯歯車30の内歯歯車本体31のピン溝31Aにも第1被膜WC/Cは施されていない。同様に、内ローラ74の外周面74Aの相手側摺動部位である外歯歯車21〜23のオフセット貫通孔21B〜23Bにも、第1被膜WC/Cは施されていない。さらには、内ピン70の外周面70Aの相手側摺動部位である内ローラ74の内周面74Bにも第1被膜WC/Cは施されていない。
要するならば、軸直角断面で「凹面」と「凸面」が摺動する第1摺動部位にあっては、凸面の側にのみ第1被膜WC/Cを施し、凹面の側には第1被膜WC/Cを施さないようにしている。「凸面の側」とは、上記例では、偏心体ころ51〜53の外周面51A〜53A、内歯歯車30の内歯を構成している外ピン32の外周面32A、内ローラ74の外周面74A、および内ピン70の外周面70Aである。「凹面の側」とは、上記例では、外歯歯車21〜23の中央貫通孔21A〜23A、内歯歯車本体31のピン溝31A、外歯歯車21〜23のオフセット貫通孔21B〜23B、および内ローラ74の内周面74Bである。
この理由、およびこれによって得られる作用効果は以下の通りである。
先ず、もちろん、凹面の側に第1被膜WC/Cを施すこと自体が悪い訳ではない。したがって、凸面および凹面の双方に第1被膜WC/Cを施してもよい。 しかし、一方で、凹面の側に第1被膜WC/Cを施すというのは、現実には、被膜厚さを均一に形成するのが難しいという事情がある。被膜を施す部位が第1摺動部位である場合には、(被膜厚さが不均一になると)ロストモーションが増大してしまう要因となる。
さらに、特に第1摺動部位の被膜の厚さが不均一になると、厚く形成されてしまった部分の第1被膜WC/Cが、早期に摩耗して多くの摩耗粉が出たり、欠け落ちたりする状況となり易い。多量の第1被膜WC/Cが早期に摩耗して潤滑剤に混じると潤滑剤の潤滑性能がそれだけ早期に低下する要因となる。また、欠け落ちた被膜が別の摺動部位に付着すると該摺動部位が傷ついたり、ロストモーションが増大したりする虞が生じることは既に述べた通りである。第1摺動部位の第1被膜WC/Cは、硬質なため、特にこの影響を受け易い。
しかし、本実施形態では、凹面の側には、第1被膜WC/Cは施さないようにしているため、これらの不具合が発生するのを効果的に防止でき、結果として、ロストモーションの増大をより抑制できる場合がある。また、これにより、当然、その分のコストダウンも図れる。
さらに、本実施形態では、内歯歯車30の内歯を構成している外ピン32の外周面32Aとその相手側摺動部位である外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cとの第1摺動部位において、外ピン32の外周面32Aには、第1被膜WC/Cを施すが、外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cの側には、該第1被膜WC/Cを施さないようにしている。この構成によっても、結果としてロストモーションの増大をより抑制できる場合がある。
すなわち、外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cには、凹面と凸面が交互にあるため、やはり被膜厚さを均一に施すことが難しい。加えて、外歯歯車21〜23の場合は、該外歯歯車21〜23の「1歯1歯」の微視的な被膜厚さの不均一が生じる場合だけでなく、外歯歯車21〜23の周方向において、ある特定の周方向領域(範囲)に被膜厚さのばらつきが生じる場合も考えられる。ある特定の周方向領域に被膜厚さのばらつきが生じると、ロストモーションが外歯歯車21〜23の回転角に依存して大きくなったり小さくなったりする現象が発生してしまう。
しかし、本実施形態では、外ピン32の外周面32Aの側にのみ第1被膜WC/Cを施し、外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cの側には、第1被膜WC/Cを施さないようにしている。そのため、外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cの第1被膜WC/Cの被膜厚さの不均一や、外歯歯車21〜23の周方向における特定の周方向領域の被膜厚さのばらつきによる悪影響を受けることがなく、結果としてロストモーションの増大をより効果的に防止できる。また、外歯歯車21〜23の歯面21C〜23Cに第1被膜WC/Cを施さない分、当然に、よりコストダウンも図れる。
図5に本発明の他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置を示す。
この減速装置G2は、いわゆる振り分けタイプと称される偏心揺動型の減速装置である。減速装置G2は、内歯歯車112と、該内歯歯車112に内接噛合する外歯歯車114、116と、を備えるとともに、該内歯歯車112の軸心C112からR118だけオフセットした位置に、外歯歯車114、116を揺動させるための複数(この例では3本)のクランク軸118(118A〜118C:図5では118Aのみ図示)を備えている。
この実施形態に係る減速装置G2では、モータ(図示略)の動力は、継軸(入力軸)126を介して入力される。継軸126の先端部には、入力歯車132が直切り形成されている。
入力歯車132は、複数(この例では3個)の振り分け歯車130(130A〜130C:図5では130Aのみ図示)と同時に噛合している。各振り分け歯車130は、それぞれクランク軸118に連結されている。
各クランク軸118には、それぞれの軸方向同位置に偏心体120、122が一体に形成されている。各クランク軸118の偏心体120同士および偏心体122同士は、偏心位相が揃えられている。偏心体120と偏心体122の偏心位相差は180度である(互いに離反する方向に偏心している)。
各クランク軸118の偏心体120の外周には、偏心体ころ134、136を介して外歯歯車114、116が組み込まれている。これにより、3本のクランク軸118上の偏心体120が同期して回転することで外歯歯車114を揺動させ、同様に、3本のクランク軸118上の偏心体122が同期して回転することで外歯歯車116を揺動させることができる。偏心体ころ134、136は、リテーナ170、172および押さえ板174、176によって周方向および軸方向の位置規制が行われている。リテーナ170、172は、樹脂製である。
外歯歯車114、116の軸方向両側には、キャリヤ138、140が配置されており、各クランク軸118は、一対の円錐ころ軸受(クランク軸118を支持する軸受)144、146を介してキャリヤ138、140に支持されている。キャリヤ138、140は、アンギュラ玉軸受で構成された一対の主軸受148、150を介してケーシング152に支持されている。なお、キャリヤ138、140は、負荷側のキャリヤ138から一体的に突出され、外歯歯車114、116を貫通するキャリヤピン138Pを介してボルト153等により連結・一体化されている。
外歯歯車114、116は、内歯歯車112に内接噛合している。内歯歯車112は、この実施形態ではケーシング152と一体化され、ピン溝113Aを有する内歯歯車本体113と、該内歯歯車本体113のピン溝113Aに回転自在に配置され、該内歯歯車112の内歯を構成する外ピン115とで構成されている。内歯歯車112の歯数(外ピン115の本数)は、第1、第2外歯歯車114、116の歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
本実施形態では、ケーシング152にはボルト(ボルト孔152Aのみ図示)を介して産業用ロボット(R1)の第4アーム(14)が連結され、キャリヤ138には、ボルト(図示略)を介して産業用ロボット(R1)の第5アーム(15)がそれぞれ連結される。なお、この減速装置G2の内部には潤滑剤が封入されている。符号161は、オイルシールである。
この偏心揺動型の減速装置G2では、図示せぬモータが回転すると、継軸126の先端に形成された入力歯車132が回転する。入力歯車132は、3個の振り分け歯車130と同時に噛合しているため、該入力歯車132と振り分け歯車130の噛合により、3本のクランク軸118が入力歯車132と振り分け歯車130との歯数比に減速された状態で同一の方向に同一の回転速度で回転する。
各振り分け歯車130は、それぞれクランク軸118と連結されている。そのため、各クランク軸118の軸方向同位置にそれぞれ形成された3個の偏心体120が同期して回転して外歯歯車114を揺動させると共に、クランク軸118の軸方向同位置にそれぞれ形成された3個の偏心体122が同期して回転して外歯歯車116を揺動させる。
外歯歯車114、116は、それぞれ内歯歯車112に内接噛合しているため、外歯歯車114、116が1回揺動する毎に、該外歯歯車114、116は、内歯歯車112に対して歯数差分(この実施形態では1歯分)円周方向の位相がずれる(自転する)。この自転成分は、各クランク軸118の内歯歯車112の軸心C112周りの公転としてキャリヤ138、140に伝達される。キャリヤ138、140はキャリヤ138と一体化されたキャリヤピン138Pおよびボルト153等を介して互いに連結されているため、結局、継軸126の回転によって、ケーシング152(第4アーム14)に対して、第1キャリヤ138に連結された第5アーム(15)を相対的に回転させることができる。
この実施形態に係る減速装置G2においては、第1摺動部位、すなわち減速装置G2の動力伝達に直接関係する摺動部位としては、例えば、入力歯車132、振り分け歯車130の歯面、円錐ころ軸受(クランク軸118の軸受)144、146の内輪144A、146Aおよび外輪144B、146Bの転走面、円錐ころ軸受144、146の転動体(テーパころ)144C、146Cの外周面、クランク軸118の偏心体120、122の外周面、偏心体ころ134、136の外周面、外歯歯車114、116のオフセット貫通孔114B、116B、外歯歯車114、116の歯面、および内歯歯車112の外ピン115の外周面、内歯歯車本体113のピン溝113Aがある。
また、主軸受148、150のキャリヤ138、140側の転走面138A、140A、主軸受148、150の外輪148B、150Bの転走面、および主軸受148、150の転動体(玉)148C、150Cの外周面も、第1摺動部位を構成している。
また、第2摺動部位、すなわち減速装置G2の動力伝達に直接関係しない摺動部位としては、例えば、偏心体ころ134、136の軸方向端面、偏心体ころ134、136のリテーナ170、172の軸方向側面、偏心体ころ134、136の押さえ板174、176の軸方向側面、円錐ころ軸受144、146の転動体144C、146Cの軸方向内部側の端面144C1、146C1がある。これらの摺動部位は、いずれも、偏心体ころ134、136の軸方向の移動を規制しているに過ぎず、減速装置G2の動力伝達には、直接関係していない。すなわち、これらの摺動部位が当接していなくても、減速装置G2としての動力伝達は成立している。
したがって、偏心体ころ134、136の軸方向端面、偏心体ころ134、136のリテーナ170、172、偏心体ころ134、136の押さえ板174、176は、いずれも、第2摺動部位を構成している。
また、外歯歯車114、116、内歯歯車112の外ピン115、キャリヤ138、140、および主軸受148、150の各軸方向端面、円錐ころ軸受144、146の転動体144C、146Cの外歯歯車側の軸方向端面(内輪146Aの突部との摺動面)144C1、146C1も各部材の軸方向位置を規制するために摺動している部位であるから、いずれも第2摺動部位を構成している。
更に、オイルシール161のリップ面161A、該リップ面161Aのリップ当接面138Cも第2摺動部位を構成している。
したがって、この実施形態に係る減速装置G1についても、先の実施形態と同様に、第1摺動部位の一部または全部に、該第1摺動部位の基材よりも摩擦係数が低く、かつ基材よりも硬度が高い第1被膜を施すようにするとよい。また、第2摺動部位の一部または全部に、該第2摺動部位の基材よりも摩擦係数が低く、かつ第1被膜よりも硬度が低い第2被膜を施すようにするとよい。
第1、第2被膜には、先の実施形態で既に説明した被膜と同様の組成の被膜を用いることができる。本実施形態では、第1被膜として、WC/C、第2被膜としてPTFEを採用している。
そして、具体的には、この実施形態においては、第1摺動部位のうち、入力歯車132の歯面、偏心体120、122の外周、偏心体ころ134、136の外周面、内歯歯車112の外ピン115の外周面に、第1被膜WC/Cを施すようにしている。また、本実施形態では、第2摺動部位のうち、偏心体ころ134、136のリテーナ170、172の軸方向端面に第2被膜PTFEを施している。
この実施形態においても、第1被膜WC/Cは、基材(入力歯車132、偏心体120、122、偏心体ころ134、136、内歯歯車112の外ピン115)の摩擦係数よりも摩擦係数が低く、かつ基材の硬度よりも硬度が高い。また、偏心体ころ134、136のリテーナ170、172は、樹脂製であり、該リテーナ170、172の軸方向端面に施された第2被膜PTFEは、当該第2摺動部位の基材(リテーナ170、172)の摩擦係数よりも低い。さらに、第2被膜PTFEの硬度は、第1被膜WC/Cの硬度よりも低く、また基材(リテーナ170、172)の硬度よりも低い。
また、第2被膜PTFEの硬度は、相手側摺動部位である押さえ板174、176の硬度よりも低い。また、内歯歯車112の外ピン115と外歯歯車114、116の歯面との摺動部位について、該外ピン115に第1被膜WC/Cを施し、かつ、外歯歯車114、116の歯面には、該第1被膜WC/Cを施さないようにしている。
したがって、先の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、上記実施形態においては、第1摺動部位および第2摺動部位の一部のみに対して第1被膜WC/C、あるいは第2被膜PTFEを施すようにしていたが、本発明においては、第1摺動部位、あるいは第2摺動部位のどの部位に第1被膜、あるいは第2被膜を施すかについては、特に限定されない。例えば、全ての第1摺動部位、あるいは全ての第2摺動部位に対して第1被膜、あるいは第2被膜を施すようにしてもよい。また、第1摺動部位、あるいは第2摺動部位に対して選択的に第1被膜、あるいは第2被膜を施す場合であっても、被膜を施す対象は、上記例に限定されない(変更してもよい)。
また、第1被膜および第2被膜の種類(組成)についても、要は、第1被膜が、第1摺動部位の基材よりも摩擦係数が低くて、かつ基材よりも硬度が高く、第2被膜が、第2摺動部位の基材よりも摩擦係数が低くて、かつ第1被膜よりも硬度が低いという特性が満たされる限り、特に上記例に限定されない。
減速装置の具体的構成についても、偏心揺動型の減速装置であれば、上記2つの減速装置G1、G2の構造に限定されない。例えば、外歯歯車に対して内歯歯車が揺動するタイプの偏心揺動型の減速装置であってもよい。