以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態における燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
燃料電池システム1は、例えば、3相交流の駆動モータ6で車両を駆動する電気自動車に搭載される電源システムである。
燃料電池システム1は、燃料電池スタック2と、強電バッテリ3と、PM(Power Management)回路4と、補機モータ5と、コントローラ7と、を備える。また、燃料電池システム1は、スタック遮断器21と、バッテリ遮断器31と、補機インバータ51と、駆動インバータ61と、ガス給排装置200と、セル電圧測定装置300と、を備える。
燃料電池スタック2は、補機モータ5及び駆動モータ6の電源である。燃料電池スタック2は、補機モータ及び駆動モータ6などの負荷に応じて発電する。燃料電池スタック2は、複数枚の電池セルの燃料電池を積層したものである。
燃料電池は、電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とで挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)と、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)とを外部から供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応(発電反応)は以下の通りである。
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
この電極反応(1)及び(2)によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
燃料電池を自動車の動力源として使用する場合には、アクセルペダルの踏込み量が大きくなるほど、駆動モータ6を駆動するのに必要な電力が大きくなるため、数百枚の燃料電池を積層させる必要がある。
燃料電池スタック2に積層された燃料電池のそれぞれは互いに直列に接続されているため、各燃料電池に生じるセル電圧の総和が、燃料電池スタック2の出力電圧となる。燃料電池スタック2は、スタック遮断器21を介して駆動インバータ61及びPM回路4の電圧端子4aのそれぞれに接続される。
スタック遮断器21は、燃料電池スタック2を駆動インバータ61及びPM回路4から機械的に遮断する接点式の切替器である。スタック遮断器21によって、緊急停止時などにおいて、燃料電池スタック2を、駆動インバータ61及びPM回路4から完全に切り離すことができるようになる。スタック遮断器21は、コントローラ7によって制御される。
スタック遮断器21は、燃料電池スタック2の起動時に、コントローラ7によって燃料電池スタック2を、駆動インバータ61及びPM回路4に接続する。すなわち、スタック遮断器21は、燃料電池スタック2を起動するときに、燃料電池スタック2とPM回路4との間を遮断状態から接続状態に切り替える。
スタック遮断器21は、燃料電池スタック2の正極端子(+)をPM回路4の正極側の電圧端子4aに接続するとともに、燃料電池スタック2の負極端子(−)をPM回路4の負極側の電圧端子4aに接続する。
強電バッテリ3は、バッテリ遮断器31を介して補機インバータ51及びPM回路4に接続される。強電バッテリ3は、例えば300V(ボルト)のリチウムイオンバッテリである。強電バッテリ3は、PM回路4によって駆動モータ6で生成される回生電力を蓄える。強電バッテリ3は、バッテリ遮断器31によって補機インバータ51及びPM回路4の電圧端子4bのそれぞれに接続される。
バッテリ遮断器31は、強電バッテリ3を補機インバータ51及びPM回路4から機械的に遮断する接点式の切替器である。バッテリ遮断器31は、コントローラ7によって制御される。バッテリ遮断器31は、例えば、燃料電池システム1の停止時に、強電バッテリ3を補機インバータ51及びPM回路4から遮断し、起動時に強電バッテリ3を、補機インバータ51及びPM回路4に接続する。
バッテリ遮断器31は、強電バッテリ3の正極端子(+)をPM回路4の正極側の電圧端子4bに接続するとともに、強電バッテリ3の負極端子(−)をPM回路4の負極側の電圧端子4bに接続する。
PM回路4は、燃料電池スタック2側の電圧と強電バッテリ3側の電圧とのうち少なくとも一方を昇圧するコンバータである。PM回路4は、いわゆる双方向昇降圧回路である。
PM回路4は、リアクトル41と、スタック側キャパシタ42と、バッテリ側キャパシタ43と、スイッチング素子44a〜44dと、を備える。スイッチング素子44a〜44dのそれぞれは、ダイオードが並列に接続されている。ダイオードについては、スイッチング素子44a〜44dに電流が流れる向きとダイオードの順方向とが逆向きになるように配置される。
スイッチング素子44a〜44dは、コントローラ7によってオンオフ制御される。スイッチング素子44a〜44dのオンオフ制御によって、スタック側キャパシタ42に生じる電圧を昇降圧させる。また、スイッチング素子44a〜44dのオンオフ制御によって、バッテリ側キャパシタ43の電圧を昇降圧させることも可能である。
補機モータ5は、PM回路4の電圧端子4bとバッテリ遮断器31との間に並列に接続される。本実施形態では補機モータ5は、燃料電池スタック2にカソードガスを供給するコンプレッサ212を駆動する。
補機インバータ51は、PM回路4によって燃料電池スタック2から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、その交流電圧を補機モータ5に供給する。
駆動インバータ61は、スタック遮断器21とPM回路4の電圧端子4aとの間に並列に接続される。駆動インバータ61は、PM回路4によって燃料電池スタック2から供給される電圧を交流電圧に変換し、その交流電圧を駆動モータ6に供給する。
ガス給排装置200は、燃料電池スタック2にアノードガス及びカソードガスを供給すると共に、燃料電池スタック2から排出されるアノードオフガスをカソードオフガスで希釈して排出する装置である。
ガス給排装置200は、カソードガス供給通路211と、コンプレッサ212と、排出通路213と、調圧弁214と、アノードガス供給通路221と、高圧タンク222と、調圧弁223と、排出通路224と、パージ弁225と、を備える。
カソードガス供給通路211は、燃料電池スタック2に供給されるカソードガスが流れる通路である。カソードガス供給通路211は、一端が外気と連通し、他端が燃料電池スタック2のカソードガス入口孔に接続される。
コンプレッサ212は、カソードガス供給通路211に設けられる。コンプレッサ212は、カソードガスとしての空気(外気)をカソードガス供給通路211に取り込み、その空気を燃料電池スタック2に供給する。
排出通路213は、燃料電池スタック2から排出されるカソードオフガスが流れる通路である。排出通路213の一端は燃料電池スタック2のカソードガス出口孔に接続され、他端は開口端となっている。排出通路213には、調圧弁214が設けられている。
アノードガス供給通路221は、高圧タンク222からアノードガスを燃料電池スタック2に供給するための通路である。アノードガス供給通路221の一端は高圧タンク222に接続され、他端が燃料電池スタック2のアノードガス入口孔に接続される。高圧タンク222にはアノードガスが高圧状態に保って貯蔵されている。
調圧弁223は、アノードガス供給通路221に設けられる。調圧弁223は、高圧タンク222から排出されたアノードガスを所望の圧力に調節して燃料電池スタック2に供給する。調圧弁223は、連続的又は段階的に開度を調節することができる電磁弁であり、その開度はコントローラ7によって制御される。
排出通路224は、燃料電池スタック2から排出されるアノードオフガスが流れる通路である。排出通路224の一端は燃料電池スタック2のアノードガス出口孔に接続され、他端がカソードガスの排出通路213と合流する。
排出通路224には、電極反応に使用されなかった余剰のアノードガスと、燃料電池スタック2内のカソードガス流路からアノードガス流路にクロスリークしてきた不純ガスと、の混合ガス(以下「アノードオフガス」という。)が排出される。不純物ガスは、空気に含まれる窒素や、発電に伴う水蒸気などである。
パージ弁225よりも上流の排出通路224にはバッファタンクが形成され、燃料電池スタック2から流れてきたアノードオフガスがバッファタンクで一旦蓄えられる。そしてアノードオフガス中の水蒸気の一部は、バッファタンクで凝縮して液水となり、アノードオフガスから分離される。
パージ弁225は、排出通路224に設けられる。パージ弁225は、連続的又は段階的に開度を調節することができる電磁弁であり、その開度はコントローラ7によって制御される。パージ弁225の開度を調節することで、バッファタンクから排出されるアノードオフガスの流量を調節し、バッファタンクのアノードガス濃度を一定以下に保つことができる。
電圧測定装置300は、燃料電池スタック2に積層された各電池セルのセル電圧を測定する。電圧測定装置300には、各電池セルの正極端子に接続された複数の電圧線がそれぞれ接続されている。電圧測定装置300は、各電池セルのセル電圧と、各電池セルの総和の総電圧とを測定し、これらの測定結果をコントローラ7に供給する。
このようにガス給排装置200は、アノードガス及びカソードガスを燃料電池スタック2に供給して燃料電池スタック2を発電させる。
コントローラ7は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
コントローラ7には、燃料電池システム1の状態を検出する各種センサから信号が入力される。各種センサとしては、始動キーのオンオフ切替えに基づいて燃料電池システム1の始動要求及び停止要求を検出するキーセンサ71、燃料電池スタック2から取り出される出力電流を検出する電流センサ72や、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルストロークセンサ73などがある。
コントローラ7は、燃料電池スタック2に接続される補機モータ5や駆動モータ6などの負荷に基づいて、燃料電池スタック2から取り出す電流の目標値(以下「目標電流」という。)を演算する。
例えば、コントローラ7は、アクセルペダルの踏み込み量が大きくなるほど、駆動モータ6の駆動に必要な要求電力は大きくなるので、大きな値の目標電流を算出する。
コントローラ7は、目標電流に基づいてアノードガス圧力及びカソードガス圧力の目標値を演算し、その演算結果に基づいてガス給排装置200を制御する。これと共にコントローラ7は、燃料電池スタック2の基準特性を参照して目標電流に対応する目標電圧を特定し、スタック側キャパシタ42の電圧が目標電圧となるようにPWM(pulse width modulation)信号を生成してスイッチング素子44a〜44dに供給する。このようにコントローラ7によって燃料電池スタック2の運転が実施される。そしてコントローラ7は、燃料電池システム1に対する停止要求を受け付けると、燃料電池スタック2の運転を停止する。
また、コントローラ7は、燃料電池システム1に対する始動要求を受け付けると、燃料電池スタック2の起動処理を実行し、PM回路4を制御して燃料電池スタック2の発電電力を補機モータ5に供給する。ここで一般的な燃料電池システム1の起動処理方法について簡単に説明する。
図2は、一般的な燃料電池システム1の起動処理を示すタイミングチャートである。
まず、時刻t0よりも前に停止要求によって燃料電池スタック2の運転が停止される。停止処理では、ガス給排装置200によるアノードガス及びカソードガスの供給が停止され、スタック遮断器21及びバッテリ遮断器31のそれぞれが接続状態から遮断状態に切り替えられる。これにより、スタック側キャパシタ42の電圧が0Vまで低下する。
時刻t0において燃料電池システム1が起動されると、強電バッテリ3の起動処理が行われる。強電バッテリ3の起動処理では、強電バッテリ3が正常であることを確認するために、例えば、強電バッテリ3の電圧や温度などの状態が所定の閾値を超えているか否かが判断される。そして、強電バッテリ3の状態が所定の閾値を超えていると判断されたときにバッテリ遮断器31が遮断状態から接続状態に切り替えられる。
時刻t1では、PM回路4においてスイッチング素子44a〜44dのオンオフ制御が実行されることにより、図2(a)に示すように、スタック側キャパシタ42の電圧が、強電バッテリ3の電圧によって上限電圧値まで昇圧される。上限電圧値は、駆動インバータ61の耐圧限界値によって定められる。
スタック側キャパシタ42の電圧を上限電圧値に設定することによって、燃料電池スタック2の電圧が上限電圧値に制限されるので、駆動インバータ61を過大電圧から保護することができる。また、スタック側キャパシタ42の電圧を上限電圧値まで上昇させることで、燃料電池スタック2からスタック遮断器21を介してPM回路4へ流れる電流を抑制し、スタック遮断器21の接続時にアーク放電が発生することを防止する。
時刻t2では、スタック側キャパシタ42の電圧が上限電圧値まで上昇すると、図2(b)に示すように、スタック遮断器21の設定が遮断状態から接続状態に切り替えられる。
そして図2(c)に示すように、スタック遮断器21が遮断状態から接続状態に切り替えられるまで待機した後、時刻t3においてガス給排装置200の調圧弁223を開くことにより、アノードガスが燃料電池スタック2に供給される。
燃料電池スタック2へのアノードガスの供給に伴って、燃料電池スタック2で上述の電極反応(1)及び(2)が起こり、図2(d)に示すように、燃料電池スタック2の電圧が上昇する。上昇した電圧は、過渡的にスタック側キャパシタ42の電圧よりも上昇してから上限電圧値に制限される。これにより、駆動インバータ61が過大電圧から保護される。
その後アノードガスの供給圧力の上昇によって、図2(e)に示すように、燃料電池スタック2から取り出される電流がPM回路4を介して補機インバータ51に出力される。
時刻t4では、図2(c)に示すようにアノードガスの供給圧力が目標値まで上昇し、これに伴い燃料電池スタック2の出力電流は、補機モータ5の駆動に必要な電流値まで上昇する。このようにして燃料電池スタック2に対するアノードガスの供給が完了する。
このように、燃料電池システム1の一般的な起動処理では、燃料電池スタック2にアノードガスを供給する前に、PM回路4のスタック側キャパシタ42の電圧を上限電圧値まで上昇させる。その後時刻t2でスタック遮断器21を接続状態に切り替え、時刻t3でアノードガスのガス供給を開始して燃料電池スタック2を起動するようにしている。
スタック遮断器21を接続状態にした後にガス供給を開始する理由は、スタック遮断器21を接続状態にする前からガス供給を開始すると、スタック遮断器21の接続時には燃料電池スタック2の電圧がPM回路4の電圧よりも上昇していることが懸念されるからである。
燃料電池スタック2の電圧が、PM回路4のスタック側キャパシタ42の電圧よりも高い状態でスタック遮断器21が接続状態に切り替えられると、スタック遮断器21の接点でアーク放電が発生してしまう。この対策として、燃料電池スタック2の電圧がスタック側キャパシタ42の電圧よりも高くならないように、スタック遮断器21が接続状態に切り替えられるまで、アノードガスの供給を待っているのである。
しかしながら、このような起動処理では、PM回路4でスタック側キャパシタ42の電圧の昇圧を開始してから、スタック遮断器21が接続状態に切り替えられるまでの間、燃料電池スタック2へのガス供給を待たなければならない。その結果、燃料電池システム1を起動してから燃料電池スタック2の電圧を立ち上げるまでの時間が遅くなり、燃料電池スタック2の起動が遅くなってしまう。
そこで本実施形態では、スタック遮断器21でのアーク放電を回避しつつ、燃料電池スタック2を迅速に起動させるために、燃料電池スタック2とPM回路4との間を接続する接続ライン20に、逆阻止型スイッチ素子22が設けられる。
逆阻止型スイッチ素子22は、スタック遮断器21とPM回路4の電圧端子4aとの間に接続される。逆阻止型スイッチ素子22は、PM回路4及び駆動インバータ61のいずれか一方から燃料電池スタック2へ流れる電流を阻止するとともに、PM回路4と燃料電池スタック2とを切断状態から接続状態に切り替える半導体式のスイッチ素子である。
逆阻止型スイッチ素子22は、コントローラ7の制御信号に応じて、燃料電池スタック2からスタック遮断器21へ流れる順方向の電流を遮断する。
さらに逆阻止型スイッチ素子22は、逆流防止ダイオードとしての役割も果たす。例えば、強電バッテリ3から取り出された電流がPM回路4を介して駆動インバータ61に供給されるときに、逆阻止型スイッチ素子22によってPM回路4から燃料電池スタック2へ逆流する電流が阻止される。
あるいは、逆阻止型スイッチ素子22によって、車両の制動時に駆動モータ6で回生された電流がPM回路4を介して強電バッテリ3に供給されるときに、駆動インバータ61から燃料電池スタック2へ逆流する電流が阻止される。
本実施形態では、逆阻止型スイッチ素子22は、逆阻止IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。逆阻止型スイッチ素子22では、接続ライン20においてエミッタ端子がスタック遮断器21に接続されると共にコレクタ端子がPM回路4の電圧端子4aに接続され、ゲート(制御)端子はコントローラ7に接続される。
コントローラ7は、例えば、H(High)レベルの制御信号を逆阻止型スイッチ素子22のゲート端子に供給することにより、エミッタ端子とコレクタ端子との端子間の内部抵抗値を大きくして端子間を非導通状態(遮断状態)にする。コントローラ7は、L(Low)レベルの制御信号をゲート端子に供給することにより、エミッタ端子とコレクタ端子との端子間の内部抵抗値を小さくして端子間を導通状態(接続状態)にする。
本実施形態ではコントローラ7は、燃料電池システム1の起動処理において、キーセンサ71から起動要求を受けると、スタック遮断器21を接続状態に設定し、その後に逆阻止型スイッチ素子22を遮断状態から接続状態に切り替える。
図3は、本実施形態におけるコントローラ7による起動処理の一例を示すタイミングチャートである。
図3(a)は、逆阻止型スイッチ素子22の切替状態を示す図である。図3(b)は、PM回路4のスタック側キャパシタ42の電圧の変化を示す図である。図3(c)は、スタック遮断器21の切替状態を示す図である。図3(d)は、調圧弁223から燃料電池スタック2に供給されるアノードガスの圧力の変化を示す図である。
図3(e)は、燃料電池スタック2から取り出される出力電圧の変化を示す図である。図3(f)は、燃料電池スタック2の出力電流の変化を示す図である。図3(a)から図3(e)までの各図面の横軸は、互いに共通する時間軸である。
まず、時刻t10よりも前において、停止要求によって燃料電池システム1の停止処理が行われている。
停止処理では、コントローラ7は、ガス給排装置200を制御してアノードガス及びカソードガスの供給を停止する。具体的にはコントローラ7は、調圧弁223及びパージ弁225のそれぞれを閉弁すると共に、コンプレッサ212の駆動を停止する。またコントローラ7は、スタック遮断器21及びバッテリ遮断器31の、それぞれを接続状態から遮断状態に切り替える。これに伴ってスタック側キャパシタ42の電圧が0Vまで低下する。さらにコントローラ7は、逆阻止型スイッチ素子22を接続状態(ON)から遮断状態(OFF)に切り替える。
時刻t10では、コントローラ7は、キーセンサ71から燃料電池システム1の始動要求を受けると、燃料電池システム1の起動処理を開始する。起動処理では、コントローラ7は、強電バッテリ3が正常であることを確認してバッテリ遮断器31の設定を遮断状態から接続状態に切り替える。これにより、図3(b)に示すように、強電バッテリ3の電圧がPM回路4に供給され、強電バッテリ3の起動処理が完了する。
また、燃料電池システム1の起動処理が開始されると、コントローラ7は、図3(c)に示すように、スタック遮断器21の設定を遮断状態から接続状態に切り替えると共に調圧弁223を開ける。調圧弁223を開けることにより、図3(d)に示すようにアノードガスの供給圧力が上昇する。なお、スタック遮断器21の設定を接続状態に切り替えてから、実際にスタック遮断器21が接続状態になるまでの所定時間経過後に、調圧弁223を開けるようにしてもよい。
アノードガスの供給圧力の上昇に伴って燃料電池スタック2で電極反応が起こり、図3(e)に示すように燃料電池スタック2の電圧が、スタック側キャパシタ42の電圧よりも高くなる。このような状況であっても、逆阻止型スイッチ素子22が遮断状態であるため、燃料電池スタック2からスタック側キャパシタ42へ流れる順方向の電流が遮断される。このため、燃料電池スタック2は無負荷状態であるため、燃料電池スタック2の開放電圧は、最大値MAXまで上昇する。
時刻t11では、コントローラ7は、スタック側キャパシタ42の電圧を上限電圧値まで上昇させるためのPWM信号をスイッチング素子44a〜44dに供給してスイッチング素子44a〜44dをオンオフ制御する。強電バッテリ3からバッテリ側キャパシタ43に供給される電流が、スイッチング素子44a〜44dのオンオフ制御によってスタック側キャパシタ42に蓄積されるので、図3(b)に示すように、スタック側キャパシタ42の電圧が上昇する。
時刻t12の直前では、図3(b)及び図3(e)に示すように、燃料電池スタック2の開放電圧がスタック側キャパシタ42の電圧よりも高い状態である。
時刻t12では、コントローラ7は、図3(a)に示すように、逆阻止型スイッチ素子22をOFFからONに切り替える。これにより、燃料電池スタック2は、スタック遮断器21を介してスタック側キャパシタ42と接続され、図3(f)に示すように、燃料電池スタック2からスタック側キャパシタ42へ大きな電流(電荷)が供給(蓄積)される。
逆阻止型スイッチ素子22がONに切り替えられた時点t12では、スタック遮断器21は既に接続状態になっているため、スタック遮断器21の接点ではアーク放電は発生しない。また、逆阻止型スイッチ素子22は半導体素子であるため、逆阻止型スイッチ素子22がONに設定された時に逆阻止型スイッチ素子22自体でアーク放電が発生することもない。
また燃料電池スタック2からスタック側キャパシタ42に電荷が蓄積されることにより、図3(b)に示すように、スタック側キャパシタ42の電圧が急激に上昇する。そしてスイッチング素子44a〜44dのオンオフ制御によって、スタック側キャパシタ42の電圧が駆動インバータ61保護のための上限電圧値に制限される。
また、逆阻止型スイッチ素子22がONに切り替えられたことにより、燃料電池スタック2がスタック側キャパシタ42と接続されるため、図3(e)に示すように、燃料電池スタック2の電圧が上限電圧値まで低下する。これに伴い、燃料電池スタック2の出力電流は、PM回路4を介して補機インバータ51に供給される。
時刻t13では、燃料電池スタック2の出力電流は、PM回路4を介して補機インバータ51に供給されるため、図3(f)に示すように、補機モータ5の駆動に必要な電流値、すなわち目標値まで上昇する。これにより、コンプレッサ212から燃料電池スタック2にカソードガスが供給され、燃料電池スタック2の起動処理が完了する。なお、アノードガスの供給完了前に強電バッテリ3から補機モータ5に電力を供給してコンプレッサ212からカソードガスを燃料電池スタック2に供給しても良い。
このようにコントローラ7は、燃料電池システム1の起動処理を開始して直ぐにスタック遮断器21を接続状態にし、ガス給排装置200によってアノードガスを燃料電池スタック2に供給する。その後コントローラ7は、逆阻止型スイッチ素子22をONに切り替える。時刻t12では、アノードガスの供給に伴い燃料電池スタック2の出力電圧が、PM回路4のスタック側電圧よりも高い状態であるが、スタック遮断器21は既に接続状態であるため、スタック遮断器21の接点に電流が流れてもアーク放電は発生しない。
したがって、燃料電池システム1の起動直後にスタック遮断器21を接続状態にして燃料電池スタック2に燃料であるアノードガスを供給しても、アーク放電を発生させることなく燃料電池スタック2をスタック側キャパシタ42に接続できる。
次に逆阻止型スイッチ素子22の切替え方法の詳細について説明する。
図4は、コントローラ7による燃料電池システム1の起動処理方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS901においてコントローラ7は、キーセンサ71から始動要求を受けると、逆阻止型スイッチ素子22をOFFに設定する。
これにより、燃料電池スタック2は、PM回路4及び駆動インバータ61と遮断されるので、燃料電池スタック2からスタック遮断器21への電流が遮断される。
また、燃料電池スタック2にアノードガスの供給を開始しても、燃料電池スタック2から強制的に電流が取り出されることがないので、アノードガスが欠乏し電解質膜が劣化することを防止できる。さらに前回の停止時に逆阻止型スイッチ素子22がOFFに切り替えられずにONのままであっても、起動時には逆阻止型スイッチ素子22を確実にOFFにすることができる。
ステップS902においてコントローラ7は、図3(c)の時刻t10に示したように、スタック遮断器21の設定を遮断状態から接続状態に設定する。
ステップS903においてコントローラ7は、調圧弁223を開き、図3(d)の時刻t10に示したように、燃料電池スタック2にアノードガスを供給する。これにより、図3(e)の時刻t10に示したように、燃料電池スタック2で発電が開始される。
また、ステップS904においてコントローラ7は、PM回路4のスタック側キャパシタ42の電圧を駆動インバータ61の上限電圧値まで上昇させる。なお、ステップS904の処理は、ステップS902及びS903の処理と並列にしても良く、または、ステップS904の処理は、ステップS902及びS903の処理よりも先にしてもよい。
次にステップS905及びS906において燃料電池スタック2にアノードガスの供給が完了した否かを判断する。
ステップS905においてコントローラ7は、燃料電池スタック2の総電圧が所定のスタック閾値を超えているか否を判断する。総電圧とは、燃料電池スタック2に積層された各燃料電池に生じるセル電圧の積算値のことである。また、スタック閾値としては、通常運転時の燃料電池スタック2のIV特性によって定められた基準特性に対して例えばIV特性が90%まで回復したときの燃料電池スタック2の電圧値が用いられる。
コントローラ7は、燃料電池スタック2の総電圧がスタック閾値を超えるまでステップS905の処理を繰り返す。
ステップS906においてコントローラ7は、燃料電池スタック2の総電圧がスタック閾値を超えると、燃料電池スタック2に積層された各燃料電池のセル電圧のばらつき度合いが小さいか否かを判断する。そしてコントローラ7は、各セル電圧のばらつき度合いが小さいと判定した場合には、ステップS907に進み、一方、各セル電圧のばらつき度合いが大きいと判定した場合には、ステップS905に戻る。
ここで、ばらつき度合いの判定手法について簡単に説明する。アノードガスを燃料電池スタック2に供給した直後は、全ての燃料電池に均等にアノードガスが分配されない場合があり、アノードガスの濃度が低い燃料電池が存在してしまう。アノードガスの濃度が低い燃料電池のセル電圧は、他の燃料電池のセル電圧よりも低くなる。このため、各燃料電池のセル電圧のばらつき度合いを求めることにより、燃料電池スタック2内の各燃料電池にアノードガスが均等に供給されているか否かを判定することが可能となる。
例えばコントローラ7は、各セル電圧の最大値、最小値及び平均値を算出し、最大値から平均値を減算した差分、及び、平均値から最小値を減算した差分のいずれもが所定値未満である場合には、ばらつき度合いが小さいと判定する。あるいはコントローラ7は、各セル電圧の偏差値を算出し、偏差値が所定範囲内である場合には、ばらつき度合いが小さいと判定する。
このようにコントローラ7は、燃料電池スタック2の総電圧がスタック閾値よりも大きく、かつ、燃料電池スタック2内の各燃料電池のセル電圧のばらつき度合いが小さい場合には、アノードガスの供給が完了したと判定する。
ステップS907においてコントローラ7は、アノードガスの供給が完了したと判定されると、図3(a)の時刻t12に示したように、逆阻止型スイッチ素子22をOFFからONに切り替える。
これにより、図3(f)に示したように、燃料電池スタック2から取り出された出力電流が、PM回路4を介して補機インバータ51に供給される。そして補機インバータ51からの電流によって補機モータ5が駆動してコンプレッサ212からカソードガスが燃料電池スタック2へ供給される。
また、アノードガスの供給が完了した直後に燃料電池スタック2から電流が取り出されると、燃料電池スタック2では、アノードガスが消費されることに伴ってアノードガスの水素濃度が局所的に不足して電解質膜が劣化する場合がある。この対策としてステップS908及びS909において、コントローラ7は、逆阻止型スイッチ素子22をONに設定してから、燃料電池スタック2内のアノードガスの供給状態を監視する。
ステップS908においてコントローラ7は、ステップS905と同様に、燃料電池スタック2の総電圧がスタック閾値を超えているか否かを判断する。
ステップS909においてコントローラ7は、総電圧がスタック閾値以下に低下していない場合には、ステップS906と同様に、セル電圧のばらつき度合いが小さいか否かを判断する。
コントローラ7は、総電圧がスタック閾値以下に低下しておらず、かつ、セル電圧のばらつき度合いが大きくなっていない場合には、ステップS910に進む。
一方、ステップS911においてコントローラ7は、総電圧がスタック閾値以下に下がっている場合、又は、セル電圧のばらつき度合いが大きくなっている場合には、逆阻止型スイッチ素子22をOFFに切り替えてステップS905に戻る。そして燃料電池スタック2でアノードガスが不足している状態が解消されるまで、逆阻止型スイッチ素子22をOFFにしてアノードガスの消費を抑制する。これにより、アノードガスの欠乏に伴う燃料電池の劣化を防止できる。
ステップS910においてコントローラ7は、逆阻止型スイッチ素子22をONにしてから所定時間が経過しか否かを判断し、所定時間経過していない場合には、ステップS908に戻って一連の処理を繰り返す。そしてコントローラ7は、所定時間経過した場合には、燃料電池システム1の起動処理方法を終了する。
本発明の実施形態によれば、一方の電圧端子4aが燃料電池スタック2と接続されると共に、他方の電圧端子4bが強電バッテリ3と接続されるPM回路4によって、電圧端子4a及び4bのうち少なくとも一方が昇圧される。また、スタック遮断器21によって、燃料電池スタック2の起動時にPM回路4と燃料電池スタック2との間の接続ライン20が遮断状態から接続状態に切り替えられる。
これらのPM回路4及びスタック遮断器21を備える燃料電池システム1において、PM回路4と燃料電池スタック2との間の接続ライン20に逆阻止型スイッチ素子22が接続される。逆阻止型スイッチ素子22は、PM回路4から燃料電池スタック2へ逆流する電流を阻止するとともに、PM回路4と燃料電池スタック2との接続ライン20を遮断する。
これにより、例えば燃料電池システム1の起動後直ぐにスタック遮断器21を接続状態に切り替えても、逆阻止型スイッチ素子22によって、スタック遮断器21に流れる順方向の電流を事前に遮断しておくことが可能である。このため、スタック遮断器21を接続状態にしても、アーク放電が発生することを回避できる。
そしてスタック遮断器21が接続状態のときに逆阻止型スイッチ素子22をONに切り替えても、スタック遮断器21は接続状態であるため、スタック遮断器21の接点でアーク放電が発生することはない。また、逆阻止型スイッチ素子22は半導体素子であるため、逆阻止型スイッチ素子22をONに切り替えた時に、逆阻止型スイッチ素子22自体でもアーク放電が発生することはない。
故に、逆阻止型スイッチ素子22によって、アーク放電を発生させることなく、起動後直ぐにスタック遮断器21を接続状態に切り替えることが可能となるため、起動してから直ぐにアノードガスの供給を開始することができる。
したがって、燃料電池システム1では、簡易な回路構成でアーク放電を回避しつつ、迅速に燃料電池スタック2を起動することができる。本実施形態では、逆阻止型スイッチ素子22は、スタック遮断器21とPM回路4の電圧端子4aとの間の接続ライン20に接続されたが、燃料電池スタック2とスタック遮断器21との間の接続ライン20に接続しても、同様の効果が得られる。
また本実施形態では、コントローラ7は、図3(c)に示したように、燃料電池システム1の起動時にスタック遮断器21を接続状態にした直後に逆阻止型スイッチ素子22の設定を遮断状態から接続状態に切り替える。
これにより、燃料電池システム1の起動と同時に燃料電池スタック2にアノードガスを供給できるので、燃料電池スタック2の起動が完了する時期をさらに早めることができる。
またコントローラ7は、燃料電池システム1を起動するときには、逆阻止型スイッチ素子22をOFFに設定してからスタック遮断器21を接続状態に切り替える。
例えば、燃料電池システム1の停止後、燃料電池スタック2の出力電圧が0V近傍まで低下する前に、燃料電池スタック2が再起動されることも考えられる。この場合に、燃料電池システム1の起動直後にスタック遮断器21を接続状態にすると、燃料電池スタック2からスタック遮断器21に電流が流れてアーク放電が発生する可能性がある。この対策として、スタック遮断器21を接続状態に切り替える前に逆阻止型スイッチ素子22をOFFに設定する。
また、システム構成部品に何等かの異常(例えば、燃料電池スタック2の電圧がフェイル閾値よりも低下する、等)が発生した場合には、システム保護のために緊急停止される。緊急停止時には、通常の停止処理で実行される燃料電池スタック2の出力電圧を低下させる放電処理が実施されないことが多い。
そのため、燃料電池システム1の緊急停止後は、燃料電池スタック2の出力電圧が低下する前に燃料電池スタック2が再起動される場合があり、この場合にも燃料電池スタック2の出力電圧がスタック側キャパシタ42の電圧よりも高くなっていることがある。そのため、コントローラ7は、燃料電池システム1を緊急停止した後に再起動するときにも、逆阻止型スイッチ素子22をOFFに設定してからスタック遮断器21を接続状態に切り替える。
これにより、緊急停止などで逆阻止型スイッチ素子22がONのまま燃料電池システム1が再起動されても、逆阻止型スイッチ素子22をOFFにしてからスタック遮断器21を接続状態にするので、アーク放電の発生を防止できる。
また本実施形態では、コントローラ7は、逆阻止型スイッチ素子22をOFFに設定した後、燃料電池スタック2を起動するためにガス給排装置200によって燃料電池スタック2にアノードガスを供給する。これと共にコントローラ7は、駆動インバータ61を保護するためにPM回路4を制御して燃料電池スタック2側の電圧端子4aの電圧を、所定の上限電圧値まで上昇させるようにしてもよい。
このように燃料電池スタック2の起動処理と、PM回路4の電圧端子4aの昇圧制御とを並列に実行することによって、逆阻止型スイッチ素子22をONに切り替えるタイミングを早めることができる。したがって、燃料電池スタック2の起動処理をより早く完了させることができる。
また本実施形態では、コントローラ7は、燃料電池スタック2の総電圧が、所定のスタック閾値を超えていると判断した場合には、逆阻止型スイッチ素子22を接続状態に設定する。スタック閾値は、例えば、燃料電池スタック2にアノードガスを十分に供給したときの燃料電池スタック2の電圧値に基づいて定められる。
これにより、燃料電池スタック2から補機モータ5に電流が供給されることに伴い、燃料電池スタック2での電極反応によってアノードガスが欠乏することを防止でき、アノードガスの欠乏による電解質膜の劣化を抑制できる。
また本実施形態では、コントローラ7は、燃料電池スタック2の総電圧がスタック閾値よりも大きく、かつ、各燃料電池のセル電圧のばらつき度合いが所定値よりも小さい場合に、逆阻止型スイッチ素子22を接続状態に設定する。
このように、燃料電池スタック2の総電圧を確認することに加えて、セル電圧のばらつき度合いを確認することにより、燃料電池スタック2の一部の燃料電池でアノードガスが欠乏して電解質膜が劣化することを回避できる。
また本実施形態では、コントローラ7は、逆阻止型スイッチ素子22をONにしてから所定期間経過するまで、燃料電池スタック2の総電圧又は各セル電圧のばらつき度合いが所定の閾値よりも低下したか否かを確認する。そしてコントローラ7は、総電圧及び各セル電圧のばらつき度合いのいずれか一方が、所定の閾値よりも低下した場合には、逆阻止型スイッチ素子22をOFFに切り替える。
これにより、逆阻止型スイッチ素子22をONにした後にアノードガスが欠乏しやすい状態になっても、燃料電池スタック2でのアノードガスの消費が抑制されるため、アノードガスの欠乏による電解質膜の劣化を防止することができる。なお、逆阻止型スイッチ素子22をOFFに戻すための閾値は、上述の逆阻止型スイッチ素子22をONに切り替えるための条件と同一でも良く、違う値に設定してもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
例えば、本実施形態では、PM回路4は4個のスイッチング素子で構成されているが、これに限定されるものではない。例えば5個以上のスイッチング素子で構成されるPM回路を使用しても良い。
また本実施形態では、逆阻止型スイッチ素子22として、逆阻止IGBTを利用する例について説明したが、例えば、逆流防止ダイオードとFETとを並列接続した半導体素子を用いても良い。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。