以下、添付図面を参照して、零磁束制御型電流センサ、およびこの零磁束制御型電流センサに対する零調整方法の実施の形態について説明する。
最初に、零磁束制御型電流センサの一例としての図1に示す零磁束制御型電流センサ1(以下、「電流センサ1」ともいう)の構成について説明する。電流センサ1は、一例として、磁気コア2、磁電変換素子3、バイアス電源4、スイッチ5、負帰還コイル6(以下、コイル6ともいう)、負帰還電流生成部7、電流電圧変換部8、D/A変換部9、切替スイッチ10、A/D変換部11および処理部12を備え、零磁束制御型(ゼロフラックス方式)の電流センサとして構成されて、磁気コア2に挿通された測定対象としての測定電路100に流れる被測定電流I1を検出して、被測定電流I1の電流値に電圧値が比例して変化する検出電圧V2をセンサ出力として出力する。
磁気コア2は、一例として、全体形状が環状であって、基端部(図1中の下端部)を中心として開閉可能な分割型で形成されて、活線状態の測定電路100をクランプ可能(内部に測定電路100を挿通可能)に構成されている。なお、磁気コア2については、分割型に限定されず、貫通型(非分割型)とすることもできる。
磁電変換素子3は、本例では一例としてホール素子(以下、「ホール素子3」ともいう)で構成されて、磁気コア2に形成されているギャップ内(またはギャップの近傍)に配設されている。ホール素子3は、バイアス電流Ibが供給されている作動状態において、磁気コア2の内部に発生する磁束を検出して、磁束密度に応じた(具体的には、比例、またはほぼ比例した)電圧値の出力電圧V1を出力する。この場合、磁気コア2の内部に発生する磁束とは、磁気コア2に挿通された測定電路100に被測定電流I1が流れることによって発生する磁束φ1と、コイル6に後述する負帰還電流I2が流れることによって発生する磁束φ2との差分(φ1−φ2)の磁束である。なお、磁電変換素子3には、ホール素子以外に、フラックスゲート型磁気検出素子などを使用することができる。
バイアス電源4は、ホール素子3を動作させるためのバイアス電流Ibを出力する。スイッチ5は、一例として2極単投形のスイッチで構成されると共に、ホール素子3とバイアス電源4との間に配設されて、そのオン・オフ状態が処理部12によって制御されることにより、バイアス電源4からホール素子3へのバイアス電流Ibの供給・供給停止を実行する。
コイル6は、磁気コア2に線材が巻回されることによって形成されている。また、コイル6は、その一端6aが負帰還電流生成部7の出力端子7dに接続され、その他端6bが電流電圧変換部8に接続されている。
負帰還電流生成部7は、ホール素子3からの出力電圧V1を一対の入力端子7a,7bから入力すると共にD/A変換部9から出力される調整用電圧Vadを調整用端子7cから入力し、この出力電圧V1および調整用電圧Vadに基づいて負帰還電流I2を生成して、出力端子7dからコイル6の一端6aに出力する。この場合、負帰還電流生成部7は、出力電圧V1がゼロボルトになるように、つまり、ホール素子3において検出される磁気コア2の内部に発生している磁束(φ1−φ2)の磁束密度がゼロになるように(言い換えれば、磁束φ2で磁束φ1を相殺するように)、負帰還電流I2の電流値を制御する。
本例では一例として、負帰還電流生成部7は、図1に示すように、差動アンプ(計装アンプ)21、加算回路22および電流生成回路23を備えて構成されて、差動アンプ21がホール素子3からの出力電圧V1を入力すると共に増幅して加算回路22に出力する。また、加算回路22は、差動アンプ21から出力される電圧信号と調整用電圧Vadとを加算して電流生成回路23に出力する。また、電流生成回路23は、加算回路22から入力した電圧信号(つまり、出力電圧V1および調整用電圧Vadの加算電圧)を負帰還電流I2に変換して出力する。
電流電圧変換部8は、本例では一例として、コイル6の他端6bとグランド(零ボルトの基準電位)Gとの間に接続された終端抵抗で構成されている(以下、「終端抵抗8」ともいう)。この構成により、終端抵抗8は、コイル6に流れる負帰還電流I2を検出電圧V2に変換してセンサ出力として出力する。
D/A変換部9は、処理部12から出力される調整用データD1を入力すると共に、アナログ信号としての調整用電圧Vadに変換して出力する。この場合、D/A変換部9は、調整用電圧Vadを調整用データD1のデータ値で示される電圧値で出力する。
切替スイッチ10は、一例として1極双投形のスイッチで構成されると共に、終端抵抗8とA/D変換部11との間に配設されて、その接点状態が処理部12によって制御されることにより、終端抵抗8から出力される検出電圧V2とグランドGの電位のいずれか任意の一方を選択的にモニタ電圧VmとしてA/D変換部11に出力する。A/D変換部11は、モニタ電圧Vmを入力すると共に、モニタ電圧Vmの電圧値を示す電圧データ(出力データ)D2に変換して出力する。
処理部12は、CPUおよびメモリ(いずれも図示せず)を備えて構成されて、図2に示す零調整処理50を実行する。この零調整処理50では、処理部12は、後述するように、電流センサ1の負帰還ループを構成するホール素子3および負帰還電流生成部7のオフセットをキャンセルするための負帰還電流生成部7に出力する調整用電圧Vadの電圧値(この電圧値を示す調整用データD1)を特定すると共に磁気コア2に対する消磁を実行することにより、被測定電流I1が零アンペアのときに電流センサ1から出力される検出電圧V2の電圧値が正確に零ボルトになるように調整する(零調整する)。
次に、電流センサ1の動作と併せて電流センサ1に対する零調整方法について図面を参照して説明する。
この電流センサ1では、磁気コア2の内部に測定電路100が挿通されていない状態において、処理部12が、図2に示す零調整処理50を実行することで、零調整方法を実施する。
この零調整処理50では、処理部12は、最初に、零ボルト値検出処理を実行する(ステップ51)。この零ボルト値検出処理では、処理部12は、まず、切替スイッチ10に対する制御を実行して、グランドGの電圧(零ボルト)をモニタ電圧VmとしてA/D変換部11に出力させる。A/D変換部11は、このモニタ電圧Vmを電圧データD2に変換して処理部12に出力する。この場合、処理部12は、A/D変換部11から入力した零ボルトを示す電圧データD2のデータ値を第0ADデータ値AD0(零ボルト値を示すデータ値)として取得してメモリに記憶する。次に、処理部12は、切替スイッチ10に対する制御を実行して、検出電圧V2がモニタ電圧VmとしてA/D変換部11に出力されるように切替スイッチ10を切り換える。これにより、零ボルト値検出処理が完了する。なお、この零ボルト値検出処理において取得する第0ADデータ値AD0は、後述するように、停止時零調整処理の1次粗調整および作動時零調整処理の2次粗調整において使用されるデータ値である。このため、この零ボルト値検出処理は、本例のように零調整処理50の開始後直ちに実行する構成に限定されるものではなく、停止時零調整処理の実行前までのいずれかのタイミングで実行すればよい。
次いで、処理部12は、スイッチ5に対する制御を実行してオフ状態に移行させて、バイアス電源4から磁電変換素子3へのバイアス電流Ibの供給を停止させることにより、ホール素子3の駆動を停止する第1停止処理を実行する(ステップ52)。このホール素子3の作動状態から停止状態への移行に伴い、ホール素子3から出力されている出力電圧V1が変化し、この出力電圧V1の変化に起因して負帰還電流生成部7から出力されている負帰還電流I2の電流値も変化することがある。したがって、磁気コア2には、元々存在していた帯磁分に加えて、ホール素子3が停止することに起因して発生する負帰還電流I2の変化による帯磁が発生する。
次いで、処理部12は、停止時零調整処理を実行する。この停止時零調整処理では、処理部12は、まず、負帰還電流生成部7の1次粗調整を実行する(ステップ53)。この1次粗調整では、処理部12は、最初に、ホール素子3の停止状態において、負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2によって終端抵抗8に発生する検出電圧V2が零ボルトになる調整用電圧Vadを停止時零調整電圧値Vad1として特定する処理、つまり、検出電圧V2が零ボルトになる停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧VadをD/A変換部9から出力させるための調整用データD1のデータ値(零出力データ値)を特定する零出力データ特定処理を実行する。本例では、処理部12は、D/A変換部9が停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧Vadを出力するための調整用データD1のデータ値(1次の第0DAデータ値)DA01を零出力データ値として特定する。
具体的には、処理部12は、D/A変換部9に出力している調整用データD1のデータ値を第1DAデータ値DA1としたときにA/D変換部11から出力される電圧データD2(この場合、検出電圧V2を示す電圧データ)を第1ADデータ値AD1として取得してメモリに記憶する。また、処理部12は、調整用データD1のデータ値を第2DAデータ値DA2としたときにA/D変換部11から出力される電圧データD2(この場合も、検出電圧V2を示す電圧データ)を第2ADデータ値AD2として取得してメモリに記憶する。
この場合、ホール素子3は停止状態のため、ホール素子3から出力される出力電圧V1は零ボルトであることから、負帰還電流生成部7は、実質的にD/A変換部9から出力される調整用電圧Vadのみを負帰還電流I2に変換して出力する。このため、終端抵抗8がこの負帰還電流I2を変換して出力する検出電圧V2は、調整用電圧Vadのみによって変化する電圧である。したがって、A/D変換部11から出力されるこの検出電圧V2を示す電圧データD2のデータ値は、処理部12がD/A変換部9に出力する調整用データD1のみによって変化するデータ値となっている。
本例の電流センサ1では、D/A変換部9は、入力される調整用データD1をリニアに調整用電圧Vadに変換し、負帰還電流生成部7は、差動アンプ21で増幅された出力電圧V1および調整用電圧Vadの加算電圧をリニアに負帰還電流I2に変換し、終端抵抗8は、負帰還電流I2をリニアに検出電圧V2に変換し、かつA/D変換部11は、モニタ電圧Vm(検出電圧V2またはグランドGの電位)をリニアに電圧データD2に変換する。このため、ホール素子3が停止状態にあるこの電流センサ1では、図3において一点鎖線で示すグラフ(横軸を調整用データD1とし、縦軸を電圧データD2とする直交座標系のグラフ)のように、D/A変換部9に出力される調整用データD1とA/D変換部11から出力される電圧データD2とは、電圧データD2が調整用データD1のデータ値に応じてリニアに変化する関係になっている。
したがって、図3に示すグラフ上に、上記の第1DAデータ値DA1、および第1ADデータ値AD1で規定される点P1、並びに、第2DAデータ値DA2、および第2ADデータ値AD2で規定される点P2をプロットする。また、A/D変換部11に入力されるモニタ電圧VmをグランドGの電位(零ボルト)にしたときにA/D変換部11から出力される電圧データD2のデータ値である第0ADデータ値AD0と、検出電圧V2を零ボルトにするための調整用データD1のデータ値である第0DAデータ値DA01とで規定される点P0についてもグラフ上にプロットすると、各データ値間には、以下の関係式(1)が成り立つ。
(AD2−AD0):(AD2−AD1)
=(DA2−DA01):(DA2−DA1) ・・・(1)
また、この関係式(1)から下記式(2)に示される第0DAデータ値DA01が特定(算出)される。
DA01=DA2×(AD0−AD1)/(AD2−AD1)
+DA1×(AD2−AD0)/(AD2−AD1) ・・・(2)
なお、点P1を規定する第1DAデータ値DA1、および点P2を規定する第2DAデータ値DA2のうちの一方を零として、点P1,P2のいずれか一方(例えば、第1DAデータ値DA1を零として点P1)をグラフと縦軸との交点Px上に規定したときには、このグラフは下記式(3)で表される。
D2=D1×(AD2−AD1)/DA2+AD1 ・・・(3)
このため、この式(3)から下記式(4)に示される第0DAデータ値DA01が特定(算出)される。
DA01=DA2×(AD0−AD1)/(AD2−AD1) ・・・(4)
この停止時零調整処理における負帰還電流生成部7の1次粗調整では、処理部12は、図3において符号Aで示すように、調整用データD1のデータ値を、第0DAデータ値DA01を基準として正側(データ値が大きい側)および負側(データ値が小さい側)に交互に周期的に変動させつつ徐々に変動幅を減衰させながら、第0DAデータ値DA01に収束させる。これにより、負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2も調整用データD1のデータ値の変化に同期して零アンペアを基準として正側および負側に交互に周期的に変動しながら徐々に変動幅(電流値)が減衰して零アンペアに収束する。また、この結果、終端抵抗8から出力される検出電圧V2も零ボルトを基準として正側および負側に交互に周期的に変動しながら徐々に変動幅が減衰して零ボルトに収束する。これにより、A/D変換部11から出力される電圧データD2も、図3において符号Bで示すように、第0ADデータ値AD0を基準として正側および負側に交互に周期的に変動しつつ徐々に変動幅を減衰させながら、第0ADデータ値AD0に収束する。これにより、負帰還電流生成部7の1次粗調整が完了する。この場合、負帰還電流生成部7(具体的には、その電流生成回路23)が飽和したときには、検出電圧V2が正側および負側で非対称になり、消磁が不完全になるおそれがあることから、検出電圧V2の変動幅の最大値は、負帰還電流生成部7が飽和しないレベルに規定する。
この1次粗調整のように、特定した第0DAデータ値DA01を調整用データD1としてD/A変換部9に直ちに出力する方法(調整用データD1をステップ的に第0DAデータ値DA01にする方法)ではなく、調整用データD1のデータ値を第0DAデータ値DA01を基準として正側および負側に交互に周期的に変動させながら徐々に変動幅(電流値)を減衰させて第0DAデータ値DA01に移行させる方法を採用することにより、1次粗調整中での磁気コア2の帯磁を大幅に低減させることが可能になっている。なお、特定した第0DAデータ値DA01を調整用データD1としてD/A変換部9に直ちに出力する方法を採用したとしても、磁気コア2の帯磁が殆ど発生しないか、または帯磁が発生したとしても無視できるレベルである場合には、この方法を採用してもよいのは勿論である。
なお、上記のようにして求めた第0DAデータ値DA01は、D/A変換部9、負帰還電流生成部7、終端抵抗8およびA/D変換部11がすべて理想的なリニア状態で動作すると仮定したときの値であり、実際には、これらの各構成要素はほぼリニアな状態で動作するという程度であることから、理想的な値(検出電圧V2を正確にゼロボルトにし得る値)からは若干ずれた値となっている。
次いで、処理部12は、停止時零調整処理において、負帰還電流生成部7の1次微調整を実行する(ステップ54)。この1次微調整では、処理部12は、A/D変換部11から出力される電圧データD2をモニタしつつ、D/A変換部9に出力する調整用データD1のデータ値を微調整することにより、電圧データD2で示される検出電圧V2が零ボルトになる調整用データD1のデータ値を特定し、この特定したデータ値を停止時零調整電圧データ値Dad1として記憶する(停止時零調整電圧データ値Dad1に対応する調整用電圧Vadの停止時零調整電圧値Vad1を記憶してもよい)。これにより、ホール素子3の停止状態(開ループ状態)において負帰還電流I2を零アンペアにし得る停止時零調整電圧データ値Dad1(停止時零調整電圧値Vad1)を求める停止時零調整処理が完了する。
続いて、処理部12は、第1消磁処理を実行する(ステップ55)。この第1消磁処理では、処理部12は、停止時零調整処理の1次微調整において特定した停止時零調整電圧データ値Dad1を基準として正側および負側に交互に周期的に変化させつつ徐々に停止時零調整電圧データ値Dad1に収束させることで、D/A変換部9から負帰還電流生成部7に出力される調整用電圧Vadの電圧値を停止時零調整電圧値Vad1を基準として正側および負側に交互に周期的に変動させつつ徐々に変動幅を減衰させて停止時零調整電圧値Vad1に収束させる。これにより、負帰還電流生成部7は負帰還電流I2の電流値を零アンペアを中心として正側および負側に交互に周期的に変化させつつ徐々に零アンペアに収束させるため、磁気コア2は、このような負帰還電流I2がコイル6を流れることによって磁気コア2内に発生する磁束φ2(向きが交互に反転しつつ大きさが徐々に減衰して最終的に零になる磁束)によって消磁される。
この場合、この第1消磁処理がホール素子3の停止状態において実行されるため、ホール素子3の作動状態において第1消磁処理を実行する場合と比較して、負帰還電流生成部7の出力端子7dに出力される電圧の振幅がより小さい状態でも、消磁に十分な負帰還電流I2をコイル6に供給することができ、これにより、磁気コア2をより完全に近い状態で消磁することが可能になっている。
次いで、処理部12は、第1作動処理を実行する(ステップ56)。この第1作動処理では、処理部12は、スイッチ5に対する制御を実行してオン状態に移行させて、バイアス電源4から磁電変換素子3へのバイアス電流Ibの供給を開始させることにより、ホール素子3の駆動を開始する。また、処理部12は、ホール素子3の駆動を開始してから極めて短い時間内に(閉ループ状態になったら直ちに)に、停止時零調整電圧データ値Dad1の調整用データD1をD/A変換部9に出力して、D/A変換部9から負帰還電流生成部7に対して停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧Vadの出力を開始させる(ステップ57)。なお、ステップ57では、処理部12は、D/A変換部9に出力する調整用データD1の初期値として、停止時零調整電圧データ値Dad1を用いているが、D/A変換部9に使用しているD/A変換器が調整用電圧Vadとして零ボルトを出力するカタログ値を用いることもできる。
この場合、ホール素子3は、バイアス電流Ibの供給を受けて作動を開始し、出力電圧V1の出力を開始する。これにより、電流センサ1の負帰還ループが閉状態に移行する(閉ループ状態になる)。このときの出力電圧V1は、磁気コア2の内部には測定電路100が挿通されていない状態であり、また磁気コア2が帯磁していない状態であるものの、ホール素子3のオフセット分を含むことから、正確な零ボルトではないが、零ボルトに近い電圧値になっている。
また、負帰還電流生成部7には、閉ループ状態のときに負帰還電流I2の電流値を零アンペアにし得る調整用電圧Vadとは若干異なるものの、ホール素子3の停止状態のとき(つまり、出力電圧V1が零ボルトで、かつ電流センサ1の負帰還ループが開状態(開ループ状態)のとき)に負帰還電流I2の電流値を零アンペアにする停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧VadがD/A変換部9から出力されている。
このため、ホール素子3を停止状態から作動状態に移行させたときの負帰還電流生成部7から出力されている負帰還電流I2の電流値の変化量は小さく、この負帰還電流I2がコイル6を流れることによって磁気コア2内に発生する磁束φ2の変化量も小さいことから、ホール素子3を停止状態から作動状態に移行させること(閉ループ状態に移行すること)による磁気コア2の帯磁は生じるが、その帯磁量は小さいものとなっている。
続いて、処理部12は、作動時零調整処理を実行する。この作動時零調整処理では、処理部12は、まず、負帰還電流生成部7の2次粗調整を実行する(ステップ58)。この2次粗調整では、処理部12は、最初に、ホール素子3の作動状態において、負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2によって終端抵抗8に発生する検出電圧V2が零ボルトになる調整用電圧Vadを作動時零調整電圧値Vad2として特定する処理、つまり、検出電圧V2が零ボルトになる作動時零調整電圧値Vad2の調整用電圧VadをD/A変換部9から出力させるための調整用データD1のデータ値(零出力データ値)を特定する零出力データ特定処理を実行する。本例では、処理部12は、D/A変換部9が作動時零調整電圧値Vad2の調整用電圧Vadを出力するための調整用データD1のデータ値(2次の第0DAデータ値)DA02を零出力データ値として特定する。
具体的には、処理部12は、ステップ53のときと同様にして、D/A変換部9に出力している調整用データD1のデータ値を第1DAデータ値DA1(ステップ53でのデータ値と同じでもよいし、異なっていてもよい)としたときにA/D変換部11から出力される電圧データD2を第1ADデータ値AD1として取得してメモリに記憶する。また、処理部12は、調整用データD1のデータ値を第2DAデータ値DA2(ステップ53でのデータ値と同じでもよいし、異なっていてもよい)としたときにA/D変換部11から出力される電圧データD2を第2ADデータ値AD2として取得してメモリに記憶する。
この場合、磁気コア2の内部に測定電路100が挿通されていない状態であるが、ホール素子3のオフセットやホール素子3が作動状態に移行したときの磁気コア2の帯磁などに起因して、作動状態のホール素子3は、零ボルトに近い電圧値ではあるものの正確な零ボルトではない出力電圧V1を出力する。負帰還電流生成部7は、この出力電圧V1とD/A変換部9から出力される調整用電圧Vadとの加算電圧を負帰還電流I2に変換して出力する。なお、負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2には出力電圧V1の分の電流が重畳されてはいるが、磁気コア2の内部に測定電路100が挿通されていない状態では出力電圧V1は一定である。このため、負帰還電流I2、ひいては終端抵抗8がこの負帰還電流I2を変換して出力する検出電圧V2は、調整用電圧Vadのみによって変化する電圧である。これにより、A/D変換部11から出力されるこの検出電圧V2を示す電圧データD2のデータ値は、処理部12がD/A変換部9に出力する調整用データD1のみによって変化するデータ値となっている。
したがって、ステップ53のときと同様にして、図3に示すグラフ上に、上記の第1DAデータ値DA1および第1ADデータ値AD1で規定される点P1、および第2DAデータ値DA2および第2ADデータ値AD2で規定される点P2をプロットする。また、A/D変換部11に入力されるモニタ電圧VmをグランドGの電位(零ボルト)にしたときにA/D変換部11から出力される電圧データD2のデータ値である第0ADデータ値AD0と、検出電圧V2を零ボルトにするための調整用データD1のデータ値である2次の第0DAデータ値DA02とで規定される点P0についてもグラフ上にプロットすると、以下の関係式(5)が成り立つ。
(AD2−AD0):(AD2−AD1)
=(DA2−DA02):(DA2−DA1) ・・・(5)
また、この関係式(5)から下記式(6)に示される第0DAデータ値DA02が特定(算出)される。
DA02=DA2×(AD0−AD1)/(AD2−AD1)
+DA1×(AD2−AD0)/(AD2−AD1) ・・・(6)
なお、点P1を規定する第1DAデータ値DA1、および点P2を規定する第2DAデータ値DA2のうちの一方を零として、点P1,P2のいずれか一方(例えば、第1DAデータ値DA1を零として点P1)をグラフと縦軸との交点Px上に規定したときには、このグラフは下記式(7)で表される。
D2=D1×(AD2−AD1)/DA2+AD1 ・・・(7)
このため、この式(7)から下記式(8)に示される第0DAデータ値DA02が特定(算出)される。
DA02=DA2×(AD0−AD1)/(AD2−AD1) ・・・(8)
この作動時零調整処理における負帰還電流生成部7の2次粗調整では、処理部12は、図3において符号Aで示すように、調整用データD1のデータ値を、第0DAデータ値DA02を基準として正側(データ値が大きい側)および負側(データ値が小さい側)に交互に周期的に変動させつつ徐々に変動幅を減衰させながら、第0DAデータ値DA02に移行させる。これにより、負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2も調整用データD1のデータ値の変化に同期して零アンペアを基準として正側および負側に交互に周期的に変動しながら徐々に変動幅(電流値)が減衰して零アンペアに移行する。また、この結果、終端抵抗8から出力される検出電圧V2も零ボルトを基準として正側および負側に交互に周期的に変動しながら徐々に変動幅が減衰して零ボルトに移行する。これにより、A/D変換部11から出力される電圧データD2も、図3において符号Bで示すように、第0ADデータ値AD0を基準として正側および負側に交互に周期的に変動しつつ徐々に変動幅を減衰させながら、第0ADデータ値AD0に移行する。これにより、作動時零調整処理における負帰還電流生成部7の2次粗調整が完了する。この場合、負帰還電流生成部7(具体的には、その電流生成回路23)が飽和したときには、検出電圧V2が正側および負側で非対称になり、消磁が不完全になるおそれがあることから、検出電圧V2の変動幅の最大値は、負帰還電流生成部7が飽和しないレベルに規定する。
この2次粗調整においても、上記した1次粗調整のときと同様にして、特定した第0DAデータ値DA02を調整用データD1としてD/A変換部9に直ちに出力する方法ではなく、調整用データD1のデータ値を第0DAデータ値DA02を基準として正側および負側に交互に周期的に変動させながら徐々に変動幅を減衰させて第0DAデータ値DA02に移行させる方法を採用することにより、2次粗調整中での磁気コア2の帯磁を大幅に低減させることが可能になっている。なお、特定した第0DAデータ値DA02を調整用データD1としてD/A変換部9に直ちに出力する方法を採用したとしても、磁気コア2の帯磁が殆ど発生しないか、または帯磁が発生したとしても無視できるレベルである場合には、この方法を採用してもよいのは勿論である。
なお、上記のようにして求めた第0DAデータ値DA02は、D/A変換部9、負帰還電流生成部7、終端抵抗8およびA/D変換部11がすべて理想的なリニア状態で動作すると仮定したときの値であり、実際には、これらの各構成要素はほぼリニアな状態で動作するという程度であることから、理想的な値(検出電圧V2を正確にゼロボルトにし得る値)からは若干ずれた値となっている。
次いで、処理部12は、作動時零調整処理において、負帰還電流生成部7の2次微調整を実行する(ステップ59)。この2次微調整では、処理部12は、A/D変換部11から出力される電圧データD2をモニタしつつ、D/A変換部9に出力する調整用データD1のデータ値を微調整することにより、電圧データD2で示される検出電圧V2が正確に零ボルトになる調整用データD1のデータ値を特定し、この特定したデータ値を作動時零調整電圧データ値Dad2として記憶する(作動時零調整電圧データ値Dad2に対応する調整用電圧Vadの作動時零調整電圧値Vad2を記憶してもよい)。これにより、ホール素子3の作動状態(閉ループ)において負帰還電流I2を零アンペアにし得る作動時零調整電圧データ値Dad2(作動時零調整電圧値Vad2)を求める作動時零調整処理が完了する。また、これにより、上記した停止時零調整電圧データ値Dad1(開ループ状態のときに検出電圧V2を零ボルトに近い電圧値にし得るD/A変換部9への調整用データD1のデータ値)、および作動時零調整電圧データ値Dad2(閉ループ状態のときに検出電圧V2を零ボルトにし得るD/A変換部9への調整用データD1のデータ値)を求めるための処理(仮零調整処理)が完了する。
この仮零調整処理では、ステップ56においてホール素子3の駆動を開始した(閉ループ状態にした)後のステップ57において、閉ループ状態のときに負帰還電流I2の電流値を零アンペアにし得る調整用電圧Vadの電圧値とは若干異なる停止時零調整電圧値Vad1(ホール素子3の停止状態(開ループ状態)のときに負帰還電流I2の電流値を零アンペアにする停止時零調整電圧値Vad1)の調整用電圧Vadを負帰還電流生成部7に出力する。このため、上記したように、磁気コア2には、ホール素子3を作動状態にしたときに、帯磁量は少ないものの帯磁が発生している。
続いて、処理部12は、本零調整処理を実行する。この本零調整処理では、処理部12は、最初に、ホール素子3の駆動を停止させる第2停止処理を実行する。この第2停止処理では、処理部12は、まず、停止時零調整電圧データ値Dad1をD/A変換部9に出力して、D/A変換部9に対して停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧Vadの負帰還電流生成部7への出力を開始させる(ステップ60)。また、処理部12は、この停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧Vadの出力状態において(具体的には、停止時零調整電圧値Vad1の出力を開始させてから極めて短い時間内に)、スイッチ5に対する制御を実行してオフ状態に移行させて、バイアス電源4からホール素子3へのバイアス電流Ibの供給を停止させることにより、ホール素子3の駆動を停止させる第2停止処理を実行する(ステップ61)。
このホール素子3の作動状態から停止状態への移行時に、ホール素子3から出力されている出力電圧V1の電圧値が若干変動することがあるが、ホール素子3の停止状態のとき(つまり、電流センサ1の負帰還ループが開状態(開ループ)のとき)に負帰還電流I2の電流値をほぼ零アンペアにし得る停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧VadがD/A変換部9から負帰還電流生成部7に出力されている。このため、ホール素子3を作動状態から停止状態に移行させたときに負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2の電流値の変化量を大幅に少なくできることから、コイル6を流れる負帰還電流I2の電流値の変動によって磁気コア2内に発生する磁束φ2の変化も大幅に小さくすることができ、この結果として、ホール素子3を作動状態から停止状態に移行させたとき(開ループに移行したとき)の磁気コア2の帯磁量を極めて少なくすることが可能になっている。
次いで、処理部12は、第2消磁処理を実行する(ステップ62)。この第2消磁処理では、処理部12は、第1消磁処理のときと同様にして、D/A変換部9への調整用データD1を、停止時零調整電圧データ値Dad1を基準として正側および負側に交互に周期的に変化させつつ徐々に停止時零調整電圧データ値Dad1に収束させることで、D/A変換部9から負帰還電流生成部7に出力される調整用電圧Vadの電圧値を停止時零調整電圧値Vad1を基準として正側および負側に交互に周期的に変動させつつ徐々に変動幅を減衰させて停止時零調整電圧値Vad1に収束させる。これにより、負帰還電流I2の電流値を零アンペアを基準(中心)として正側および負側に交互に周期的に変化させつつ徐々に零アンペアに収束させて、磁気コア2を消磁する。
この場合、この第2消磁処理がホール素子3の停止状態において実行されるため、ホール素子3の作動状態において第2消磁処理を実行する場合と比較して、負帰還電流生成部7の出力端子7dに出力される電圧の振幅がより小さい状態でも、消磁に十分な負帰還電流I2をコイル6に供給することができ、これにより、磁気コア2をより完全に近い状態で消磁することが可能になっている。
次いで、処理部12は、第2作動処理を実行する(ステップ63)。この第2作動処理では、処理部12は、スイッチ5に対する制御を実行してオン状態に移行させて、バイアス電源4から磁電変換素子3へのバイアス電流Ibの供給を開始させることにより、ホール素子3の駆動を開始する。また、処理部12は、ホール素子3の駆動を開始してから極めて短い時間内に、電圧出力処理を実行する(ステップ64)。この電圧出力処理では、処理部12は、作動時零調整電圧データ値Dad2をD/A変換部9に出力して、D/A変換部9から負帰還電流生成部7に対して作動時零調整電圧値Vad2の調整用電圧Vadの出力を開始させる。
この場合、ホール素子3は、バイアス電流Ibの供給を受けて作動を開始し、出力電圧V1の出力を開始する。これにより、電流センサ1は閉ループ状態に移行する。このときの出力電圧V1は、磁気コア2の内部には測定電路100が挿通されていない状態であり、また磁気コア2が帯磁していない状態であるものの、ホール素子3のオフセット分を含むことから、正確な零ボルトではないが、零ボルトに近い電圧値になっている。
また、負帰還電流生成部7には、このような出力電圧V1がホール素子3から出力されて電流センサ1が閉ループ状態となっている状態において、出力する負帰還電流I2を零アンペア(つまり、終端抵抗8から出力される検出電圧V2を零ボルト)にし得る作動時零調整電圧値Vad2の調整用電圧VadがD/A変換部9から出力されている。
このため、電流センサ1は、ホール素子3が停止状態から作動状態に移行することによって磁気コア2(第2消磁処理によって帯磁の極めて少ない状態に消磁された磁気コア2)に生じる新たな帯磁を極めて少ない状態に抑えた状態で、閉ループ状態に移行する。
続いて、処理部12は、2次作動時零調整処理を実行する(ステップ65)。この2次作動時零調整処理を実行しようとする状態では、上記したように、ホール素子3から出力される出力電圧V1がほぼ零ボルトであり、かつD/A変換部9から負帰還電流生成部7に対して負帰還電流I2を零アンペアにし得る作動時零調整電圧値Vad2の調整用電圧Vadが出力されているため、終端抵抗8がこの負帰還電流I2を変換して出力する検出電圧V2も零ボルトに極めて近い電圧値になっている。また、磁気コア2の帯磁も極めて少ない状態(零に極めて近い状態)になっている。このため、この2次作動時零調整処理では、処理部12は、上記した停止時零調整処理や作動時零調整処理とは異なり、粗調整を省いて微調整(負帰還電流生成部7の3次微調整)のみを実行する。
具体的には、処理部12は、3次微調整では、A/D変換部11から出力される電圧データD2をモニタしながら、D/A変換部9に出力する調整用データD1のデータ値を作動時零調整電圧データ値Dad2を起点として微調整して調整用電圧Vadの電圧値を作動時零調整電圧値Vad2を起点として調整しつつ、電圧データD2で示される検出電圧V2が正確に零ボルトになるようにする。これにより、2次作動時零調整処理が完了すると共に、電流センサ1に対する零調整処理50が完了する。なお、上記したように、この2次作動時零調整処理の実行前の状態は、検出電圧V2も零ボルトに極めて近い電圧値になっており、かつ磁気コア2の帯磁も極めて少ない状態(零に極めて近い状態)になっていることから、この状態で十分な場合には、2次作動時零調整処理を省略することもできる。
この零調整処理50の完了後においては、電流センサ1は、磁気コア2が帯磁が極めて少ない状態に消磁され、かつ処理部12からD/A変換部9に出力されている調整用データD1によって閉ループの構成要素(ホール素子3および負帰還電流生成部7)のオフセットが完全にキャンセルされた状態になっているため、電流センサ1は正確に零調整された状態になっている。したがって、電流センサ1は、この状態において測定電路100に流れる被測定電流I1を正確に検出して、被測定電流I1の電流値に電圧値が比例して変化する検出電圧V2をセンサ出力として出力することが可能な状態となっている。
このように、この電流センサ1および零磁束制御型電流センサに対する零調整方法では、本零調整処理においてホール素子3を停止状態から作動状態に移行させる際に、仮零調整処理の作動時零調整処理において特定した作動時零調整電圧データ値Dad2をD/A変換部9に出力して作動時零調整電圧値Vad2の調整用電圧Vadを負帰還電流生成部7に出力させる。
したがって、この電流センサ1および零磁束制御型電流センサに対する零調整方法によれば、磁気コア2の内部に測定対象100が挿通されていない状態において、ホール素子3を停止状態から作動状態に移行させる際に負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2を強制的に零アンペアにすることができるため、ホール素子3を作動状態に移行させる際に不要な負帰還電流I2がコイル6に供給されて磁気コア2が帯磁するという事態の発生を回避することができる。これにより、ホール素子3を停止させた状態において第2消磁処理を実行することによって磁気コア2を完全に消磁し、かつホール素子3を作動状態に移行させる際の磁気コア2の新たな帯磁を回避しながら、電流センサ1を測定可能な状態に移行させることができる。
また、この電流センサ1および零磁束制御型電流センサに対する零調整方法では、本零調整処理においてホール素子3を作動状態から停止状態に移行させる際に、仮零調整処理の停止時零調整処理において特定した停止時零調整電圧データ値Dad1をD/A変換部9に出力して停止時零調整電圧値Vad1の調整用電圧Vadを負帰還電流生成部7に出力させる。
したがって、この電流センサ1および零磁束制御型電流センサに対する零調整方法によれば、磁気コア2の内部に測定対象100が挿通されていない状態において、ホール素子3を作動状態から停止状態に移行させる際に負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2を強制的に零アンペアにすることができるため、ホール素子3を停止状態に移行させる際に不要な負帰還電流I2がコイル6に供給されて磁気コア2が帯磁するという事態の発生を回避することができる。これにより、ホール素子3を停止させた状態において第2消磁処理を実行する際に、より帯磁の少ない状態から磁気コア2を消磁することができるため、磁気コア2を帯磁の極めて少ない状態に消磁することができる。
また、この電流センサ1および電流センサ1に対する零調整方法では、停止時零調整処理の1次粗調整、および作動時零調整処理の2次粗調整において、負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2が零アンペアに近い電流値になる(つまり、負帰還電流I2に基づいて終端抵抗8が出力する検出電圧V2が零ボルトに近い電圧値になる)負帰還電流生成部7への調整用電圧Vadの電圧値(1次粗調整では停止時零調整電圧値Vad1、2次粗調整では作動時零調整電圧値Vad2)を基準として、正側および負側に交互に周期的に変動させつつ徐々に変動幅を減衰させてこの電圧値(1次粗調整では停止時零調整電圧値Vad1、2次粗調整では作動時零調整電圧値Vad2)に収束させることで、停止状態および作動状態のときの電流センサ1のセンサ出力である検出電圧V2をほぼ零ボルトにそれぞれ調整する。
したがって、この電流センサ1および電流センサ1に対する零調整方法によれば、負帰還電流生成部7への調整用電圧Vadの電圧値を直ちに(ステップ的に)に上記の電圧値(1次粗調整では停止時零調整電圧値Vad1、2次粗調整では作動時零調整電圧値Vad2)に変更する構成および方法とは異なり、コイル6に負帰還電流I2が流れることによって磁気コア2内に生じる磁束φ2を、その向きを交互に反転させつつその大きさを徐々に零に減衰させることができるため、調整用電圧Vadの電圧値を変更することによる磁気コア2に生じる帯磁を大幅に低減することができる。
なお、調整用電圧Vadの電圧値を直ちに上記の電圧値(1次粗調整では停止時零調整電圧値Vad1、2次粗調整では作動時零調整電圧値Vad2)に変更する方法を採用したとしても、磁気コア2の帯磁が殆ど発生しないか、または帯磁が発生したとしても無視できるレベルである場合には、停止時零調整処理の1次粗調整および作動時零調整処理の2次粗調整のいずれか一方において上記の方法(調整用電圧Vadの電圧値を直ちに変更する方法)を採用することもできるし、また停止時零調整処理の1次粗調整および作動時零調整処理の2次粗調整の双方でこの方法を採用することもできる。
また、図4に示すように、ステップ61の実行後であって、第2消磁処理(ステップ62)の実行前に、停止時零調整処理、作動時零調整処理および2次作動時零調整処理とは別の2次停止時零調整処理(負帰還電流生成部7の粗調整(ステップ61a)および負帰還電流生成部7の微調整(ステップ61b))を実行する構成を採用することもできる。なお、この構成における負帰還電流生成部7の粗調整および微調整は、ステップ53での負帰還電流生成部7に対する1次粗調整およびステップ54での1次微調整とほぼ同じであるため、相違点についてのみ説明する。
この相違点は、処理部12は、ステップ61aでの粗調整において、D/A変換部9から負帰還電流生成部7に出力する調整用電圧Vadを停止時零調整電圧値Vad1を基準として正側および負側に交互に周期的に変化させつつ徐々に停止時零調整電圧値Vad1に収束させ、ステップ61bでの微調整において、A/D変換部11から出力される電圧データD2をモニタしつつ、D/A変換部9に出力する調整用データD1のデータ値を微調整することにより、電圧データD2で示される検出電圧V2が零ボルトになる調整用電圧Vadの電圧値(2次停止時零調整電圧値Vad3)を特定し(具体的には、D/A変換部9から2次停止時零調整電圧値Vad3を出力させるための調整用データD1のデータ値を特定し)、この特定したデータ値を2次停止時零調整電圧データ値Dad3として記憶する点にある。
これにより、2次停止時零調整処理後の第2消磁処理(ステップ62)では、ステップ61bの微調整において特定した2次停止時零調整電圧値Vad3を基準として、調整用電圧Vadを正側および負側に交互に周期的に変動させつつ徐々に変動幅を減衰させてこの2次停止時零調整電圧値Vad3に収束させる。
この2次停止時零調整処理を図2に示す零調整処理50の第2消磁処理(ステップ62)の直前に追加して実行することにより、第2消磁処理で交互に変動させる調整用電圧Vadの基準となる電圧値を、ステップ54で特定した停止時零調整電圧値Vad1よりも、負帰還電流I2の電流値が零アンペアにより近くなる2次停止時零調整電圧値Vad3にすることができる。このため、第2消磁処理において、より帯磁の少ない状態から磁気コア2を消磁することができる結果、磁気コア2をより帯磁の少ない状態(帯磁が極めて零に近い状態)に消磁することができる。
また、図5に示す電流センサ1Aのように、負帰還電流生成部7の電流生成回路23が、加算回路22から出力される電圧とは別の調整用端子7eから入力される別の調整用電圧(電流値調整用の電圧)Viadとを加算して出力する加算回路23aと、加算回路23aから出力される電圧を電流に変換して出力する電流変換回路23bとを含んで構成されているときには、負帰還電流生成部7については、差動アンプ21および加算回路22までの回路と、電流生成回路23とを分離して、各回路のそれぞれで零調整を実行することが可能である。
具体的には、上記の調整用端子7eと共に、加算回路22から出力される電圧をモニタするためのモニタ端子7fを帰還電流生成部7に設ける。また、電流センサ1Aには、処理部12から出力される調整用データD3に基づいて調整用電圧Viadを出力する他のD/A変換部13と、モニタ端子7fから出力される加算回路22からの電圧(加算電圧)Vaddを他の電圧データD4に変換して処理部12に出力する他のA/D変換部14とを設ける。なお、電流センサ1と同様の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
この電流センサ1Aでは、処理部12は、上記した零調整処理50の停止時零調整処理や作動時零調整処理において、負帰還電流生成部7のモニタ端子7fから出力される電圧Vaddを示す電圧データD4をモニタしつつ、調整用データD1のデータ値を調整することにより、差動アンプ21および加算回路22で構成される回路についての粗調整(上記した1次粗調整や2次粗調整で行った調整と同じ方法での調整)を実行する。次いで、処理部12は、電圧データD4をモニタしつつ、調整用データD1のデータ値を微調整することにより、差動アンプ21および加算回路22で構成される回路について、電圧Vaddが零ボルトになる調整用データD1を正確に求める微調整を実行する。
また、処理部12は、差動アンプ21および加算回路22で構成される回路について求めた電圧Vaddが零ボルトになる調整用データD1をD/A変換部9に出力した状態において、A/D変換部11から出力される電圧データD2をモニタしつつ、他の調整用データD3のデータ値を調整することにより、電流生成回路23(加算回路23aおよび電流変換回路23b)についての粗調整(上記した1次粗調整や2次粗調整で行った調整と同じ方法での調整)を実行する。次いで、処理部12は、電圧データD2をモニタしつつ、調整用データD3のデータ値を微調整することにより、電流生成回路23について、負帰還電流I2が零アンペアになる(終端抵抗8から出力される検出電圧V2が零ボルトになる)調整用データD3を正確に求める微調整を実行する。
これにより、この電流センサ1A、および電流センサ1Aに対する零調整方法においても、電流センサ1および電流センサ1に対する零調整方法と同様にして、零調整処理50の本零調整処理においてホール素子3を停止状態から作動状態に移行させる際に、仮零調整処理の作動時零調整処理において(ホール素子3の作動状態において)微調整を行った電圧値で調整用電圧Vadを負帰還電流生成部7に出力すると共に、この作動時零調整処理において(ホール素子3の作動状態において)微調整を行った電圧値で別の調整用電圧Viadを負帰還電流生成部7に出力することにより、ホール素子3を停止状態から作動状態に移行させる際に負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2を強制的に零アンペアにして、ホール素子3を作動状態に移行させる際に不要な負帰還電流I2がコイル6に供給されて磁気コア2が帯磁するという事態の発生を回避できる。これにより、ホール素子3を停止させた状態において第2消磁処理を実行することによって磁気コア2を完全に消磁し、かつホール素子3を作動状態に移行させる際の磁気コア2の新たな帯磁を回避しながら、電流センサ1を測定可能な状態に移行させることができる。
また、この電流センサ1A、および電流センサ1Aに対する零調整方法においても、電流センサ1および電流センサ1に対する零調整方法と同様にして、零調整処理50の本零調整処理においてホール素子3を作動状態から停止状態に移行させる際に、仮零調整処理の停止時零調整処理において(ホール素子3の停止状態において)微調整を行った電圧値で調整用電圧Vadを負帰還電流生成部7に出力すると共に、この停止時零調整処理において(ホール素子3の停止状態において)微調整を行った電圧値で別の調整用電圧Viadを負帰還電流生成部7に出力することにより、ホール素子3を作動状態から停止状態に移行させる際に負帰還電流生成部7から出力される負帰還電流I2を強制的に零アンペアにして、ホール素子3を停止状態に移行させる際に不要な負帰還電流I2がコイル6に供給されて磁気コア2が帯磁するという事態の発生を回避することができる。これにより、ホール素子3を停止させた状態において第2消磁処理を実行する際に、より帯磁の少ない状態から磁気コア2を消磁することができるため、磁気コア2を帯磁の極めて少ない状態に消磁することができる。
また、この電流センサ1Aおよび電流センサ1Aに対する零調整方法によれば、本零調整処理において、ホール素子3を作動状態に移行させるときに、ホール素子3の作動状態において微調整を行った電圧値で調整用電圧Vadを負帰還電流生成部7に出力すると共に、ホール素子3の作動状態において微調整を行った電圧値で別の調整用電圧Viadを負帰還電流生成部7に出力し、2次作動時零調整処理を実行するときには、調整用電圧Vadおよび調整用電圧Viadのうちのいずれか一方の電圧値を上記したホール素子3の停止状態において微調整を行った電圧値に固定した状態において、他方の電圧値をこの他方の電圧値についての上記したホール素子3の停止状態において微調整を行った電圧値を起点として調整しつつ検出電圧V2を零ボルトにすることにより、ホール素子3および負帰還電流生成部7のオフセットをキャンセルし得ると共に検出電圧V2を零ボルトにし得るように調整用電圧Vadを調整することができる。
また、電流センサ1Aによれば、電流センサ1とは異なり、負帰還電流生成部7について、これを構成する差動アンプ21および加算回路22までの回路と、電流生成回路23とを分離して(独立して)、各回路のそれぞれで零調整を実行することが可能であることから、各回路のオフセットを個別にキャンセルすることができ、これにより、各回路が有するダイナミックレンジを無駄なく利用することができる。