希土類元素を用いた希土類磁石は永久磁石とも称され、その用途は、ハードディスクやMRIを構成するモータのほか、ハイブリッド車や電気自動車等の駆動用モータなどに用いられている。
この希土類磁石の磁石性能の指標として残留磁化(残留磁束密度)と保磁力を挙げることができるが、モータの小型化や高電流密度化による発熱量の増大に対し、使用される希土類磁石にも耐熱性に対する要求は一層高まっており、高温使用下で磁石の保磁力を如何に保持できるかが当該技術分野での重要な研究課題の一つとなっている。車両駆動用モータに多用される希土類磁石の一つであるNd-Fe-B系磁石を取り挙げると、結晶粒の微細化を図ることやNd量の多い組成合金を用いること、保磁力性能の高いDy、Tbといった重希土類元素を添加することなどによってその保磁力を増大させる試みがおこなわれている。
希土類磁石としては、組織を構成する結晶粒のスケールが3〜5μm程度の一般的な焼結磁石のほか、結晶粒を50nm〜300nm程度のナノスケールに微細化したナノ結晶磁石がある。
このような希土類磁石の磁気特性の中でも保磁力を高めるべく、遷移金属元素と軽希土類元素からなる改質合金として、たとえばNd-Cu合金、Nd-Al合金等を粒界相に拡散浸透させて粒界相を改質する方法が特許文献1に開示されている。
このような遷移金属元素と軽希土類元素からなる改質合金は、Dy等の重希土類元素を含まないことから融点が低く、せいぜい700℃程度で溶融し、粒界相に拡散浸透させることができる。そのため、300nm程度かそれ以下の結晶粒径のナノ結晶磁石の場合には、結晶粒の粗大化を抑制しながら粒界相の改質をおこない、保磁力性能を向上できることから好適な処理方法と言える。
ところで、Nd-Cu合金等を粒界相に拡散浸透させることで希土類磁石の保磁力が向上する一方で、本発明者等によれば、改質合金を拡散浸透させる希土類磁石前駆体の有する保磁力が小さい場合に、改質合金の拡散浸透後にできる希土類磁石の保磁力が十分に高められ難いこと、言い換えれば希土類磁石の保磁力が高くなり難いことが特定されている。
まず、希土類磁石前駆体の保磁力が小さくなる理由としては、磁石の液相量が不十分であることが考えられる。また、液相が少ないことによって主相(結晶粒)同士が接触する可能性が高くなるが、このことによって見かけの結晶粒サイズが大きなものとなってしまう。結晶粒のサイズが大きくなることで保磁力は小さくなる傾向にある。
また、希土類磁石前駆体の保磁力が小さい場合に、最終的に得られる希土類磁石の保磁力が小さくなることに加えて、改質合金による拡散浸透によっても保磁力の向上代が小さくなることが特定されている。この理由は、粒界相のFe濃度が高いことが考えられる。磁石を製造する過程で800℃から常温まで冷却する工程があるが、この工程の冷却速度が速いと、800℃の組織状態が凍結される。その際の主相率の割合が常温における状態図よりも高い場合に、Feは主相に採られてしまう結果、粒界相のFe濃度が低下することになる。しかしながら、その後の改質合金の拡散浸透の際に熱処理されることにより、高主相率で凍結されていた組織が600℃の状態図に変態してしまう。この変態は粒界相にFeを放出することを意味しており、結晶粒同士が磁気的結合を起こし易い環境を作り出してしまうことで保磁力の減少に繋がるというものである。
このように、本発明者等は、保磁力の高い希土類磁石を製造するに当たり、改質合金が拡散浸透される希土類磁石前駆体の具備する保磁力性能に着目し、本発明に至っている。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、保磁力性能に優れた希土類磁石を製造することのできる希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく、本発明による希土類磁石の製造方法は、希土類磁石材料となる磁性粉末を焼結して焼結体を製造し、該焼結体に磁気的異方性を付与する熱間塑性加工を施して希土類磁石前駆体を製造し、該希土類磁石前駆体に改質合金を拡散浸透させて希土類磁石を製造する希土類磁石の製造方法において、前記希土類磁石前駆体の特性を、Kronmullerの式であるHc=αHa−NMs(Hc:保磁力、α:主相(ナノ結晶粒)間の分断性が寄与する因子、Ha:結晶磁気異方性(主相材料に固有)、N:主相の粒径が寄与する因子、Ms:飽和磁化(主相材料に固有))で表した際に、α≧0.440、N≦1.10を満たす希土類磁石前駆体を使用するものである。
本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類磁石前駆体の保磁力性能をKronmullerの式で表した際に、当該Kronmullerの式を構成するα:主相(ナノ結晶粒)間の分断性が寄与する因子とN:主相の粒径が寄与する因子の各因子を数値限定にて規定したものであり、本発明者等の検証によれば、α≧0.440、N≦1.10を満たす希土類磁石前駆体を使用することで高保磁力の希土類磁石が得られることが特定されている。
一般に知られているKronmullerの式(Hc=αHa−NMs、Hc:保磁力、α:主相(ナノ結晶粒)間の分断性が寄与する因子、Ha:結晶磁気異方性(主相材料に固有)、N:主相の粒径が寄与する因子、Ms:飽和磁化(主相材料に固有))を用いて希土類磁石や希土類磁石前駆体の保磁力を整理することができる。
ところで、Nd-Cu合金等の改質合金を拡散浸透する前の希土類磁石前駆体の組織が健全であればあるほど、すなわち、希土類磁石前駆体の組織の分断性が十分であればあるほど、拡散浸透される改質合金は粒界相内を万遍なく浸透することができる。したがって、拡散浸透される改質合金を可及的にKronmullerの式のαの増加のみに使用することが可能となり、言い換えれば、可及的に少ない量の改質合金で大きなαの増加が得られることになる。
逆に、希土類磁石前駆体の組織が健全でない場合は、改質合金が健全箇所のαの増加に使用されるだけでなく、不健全箇所におけるKronmullerの式のNの減少に使用されることになる。すなわち、不健全箇所においては、結晶粒同士の接触により、磁気的観点から見かけ上大きな結晶粒を分断するのに改質合金が使用されることになり、この使用量が改質合金量の増加に繋がってしまい、結果として改質合金の利用効率の悪化に直結する。
ここで、本発明の製造方法が製造対象とする希土類磁石には、組織を構成する主相(結晶)の粒径が300nm以下程度のナノ結晶磁石は勿論のこと、粒径が300nmを超えるもの、さらには粒径が1μm以上の焼結磁石などが包含される。
希土類磁石の製造方法をより詳細に説明すると、主相と粒界相からなる組織を有する磁粉を製作する。たとえば、液体急冷にて微細な結晶粒である急冷薄帯(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕等して希土類磁石用の磁粉を製作する。
この磁粉をたとえばダイス内に充填してパンチで加圧しながら焼結してバルク化を図ることにより、等方性の焼結体が得られる。この焼結体は、たとえばナノ結晶組織のRE-Fe-B系の主相(RE:Nd、Prの少なくとも一種で、より具体的にはNd、Pr、Nd-Prのいずれか一種もしくは二種以上)と、該主相の周りにあるRE-X合金(X:金属元素)の粒界相からなる金属組織を有しており、粒界相には、Nd等の他にGa、Al、Cu、Coの少なくとも1種類以上が含まれているとともに、(RlRh)1.1T4B4相、たとえば、Nd1.1Fe4B4を50質量%以下の範囲で含まれている。粒界相がNd1.1Fe4B4を50質量%以下の範囲で含んでいること、すなわち、粒界相中にB量が所定量包含されていることで時効処理の際の主相の低減が抑制され、もって磁化低減の抑制に繋がることが本発明者等によって特定されている。
次に、等方性の焼結体に対して磁気的異方性を付与するべく、熱間塑性加工が実施される。この熱間塑性加工には、据え込み鍛造加工、押出し鍛造加工(前方押出し法、後方押出し法)などがあり、これらのうちの1種、もしくは2種以上を組み合わせて焼結体内部に加工歪みを導入し、たとえば加工率が60〜80%程度の強加工を実施することにより、高い配向を有して磁化性能に優れた希土類磁石前駆体が製造される。
この希土類磁石前駆体は、既述するように、その保磁力性能をKronmullerの式で表した際に、当該Kronmullerの式を構成するα:主相(ナノ結晶粒)間の分断性が寄与する因子とN:主相の粒径が寄与する因子の各因子が、α≧0.440、N≦1.10を満たすものとなっている。たとえば、鍛造等による熱間塑性加工後にたとえば450〜700℃の温度雰囲気下で時効処理をおこなうことで、α≧0.440、N≦1.10となるように組織制御が実行される。
熱間塑性加工後の希土類磁石前駆体を構成する粒界相において、Nd等の他にGa、Al、Cu、Coの少なくとも1種類以上が含まれていることにより、450〜700℃の低い温度範囲でも粒界相の溶融や流動を可能とでき、Nd等とGa、Al、Cu、Co等の合金化を図ることができる。すなわち、予め粒界相中に含まれていた遷移金属元素と軽希土類元素が合金化することで、改質合金を拡散浸透させた場合と同様の改質作用が奏され、α≧0.440、N≦1.10となるような組織制御が可能になる。
上記する希土類磁石前駆体に対し、改質合金が拡散浸透されて希土類磁石が製造される。
ここで使用される改質合金としては、遷移金属元素と軽希土類元素からなる改質合金を使用するのが融点もしくは共晶温度が低いことから好ましい。このような遷移金属元素と軽希土類元素からなる改質合金としては、450〜700℃の温度範囲に融点もしくは共晶温度を有するものとして、Nd、Prのいずれかの軽希土類元素と、Cu、Mn、In、Zn、Al、Ag、Ga、Feなどの遷移金属元素からなる合金を挙げることができる。より具体的には、Nd-Cu合金(共晶点520℃)、Pr-Cu合金(共晶点480℃)、Nd-Pr-Cu合金、Nd-Al合金(共晶点640℃)、Pr-Al合金(650℃)、Nd-Pr-Al合金などを挙げることができる。
なお、改質合金の拡散浸透においては、短時間の浸透ではNが変わらずにαが大きくなるだけである一方、30分以上の長時間の浸透によってはじめて、Nが小さく、かつαが大きくなることができ、保磁力が効果的に増大することから、拡散浸透時間を30分以上に設定するのがよい。
また、上記する低温雰囲気下にてNd-Cu合金やNd-Al合金といった改質合金を拡散浸透させることで希土類磁石の保磁力が増加することになるが、浸透させる前の希土類磁石前駆体の質量に対して改質合金が5質量%(程度)で保磁力曲線がその変曲点を向かえ、さらに、15質量%(程度)で保磁力曲線がほぼ最大の保磁力にサチュレートすることが特定されている。一般に保磁力が高くなるにつれて磁化が低下する傾向にあることを踏まえ、最大エネルギー積BHmaxの観点で言えば、改質合金が10質量%(程度)かそれ以下が好ましいことも特定されており、したがって、保磁力性能を重視した場合の15質量%(程度)を改質合金の上限値とし、適度な保磁力性能と最大磁気エネルギー積BHmaxの双方を重視した場合の5質量%(程度)を改質合金の下限値とするのが好ましい。
本発明の製造方法では、α≧0.440、N≦1.10を具備する希土類磁石前駆体を使用することで、改質合金が5質量%、10質量%の際に、改質合金の拡散浸透にて製造された希土類磁石の有するαが希土類磁石前駆体のαに対して高い伸び率で伸びること、言い換えれば高い保磁力の向上が得られることが特定されている。
以上の説明から理解できるように、本発明の希土類磁石の製造方法によれば、Kronmullerの式におけるα、Nに関し、α≧0.440、N≦1.10を満たす希土類磁石前駆体を使用することにより、この希土類磁石前駆体に改質合金を拡散浸透させることで高保磁力の希土類磁石を製造することができる。
以下、図面を参照して本発明の希土類磁石の製造方法の実施の形態を説明する。
(希土類磁石の製造方法の実施の形態)
まず、図1で示すように、たとえば50kPa以下に減圧したArガス雰囲気の不図示の炉中で、単ロールによるメルトスピニング法により、合金インゴットを高周波溶解し、希土類磁石を与える組成の溶湯を銅ロールRに噴射して急冷薄帯B(急冷リボン)を製作し、これを粗粉砕して磁性粉末MFを製作する。
製作された磁気粉末MFを、図2で示すように超硬ダイスDとこの中空内を摺動する超硬パンチPで画成されたキャビティ内に充填し、超硬パンチPで加圧しながら(Z方向)加圧方向に電流を流して通電加熱することにより、(Rl)x(Rh)yTzBsMt(RlはYを含む1種以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbの少なくとも1種からなる重希土類元素、TはFe、Ni、Coの少なくとも1種以上を含む遷移金属、Bはホウ素、MはGa、Al、Cu、Coの少なくとも1種類以上で、27≦x≦44、 0≦y≦10、z=100-x-y-s-t、 0.75≦s≦3.4、0≦t≦3で、いずれも質量%)の組成式で表され、主相と粒界相からなる組織を有し、主相が50nm〜300nm程度の結晶粒径を有している焼結体Sを製造する。
焼結体Sを構成する粒界相にはNd等と、Ga、Al、Cu、Coの少なくとも1種類以上が含まれており、Ndリッチな状態となっている。また、粒界相は、Nd相と、Nd1.1T4B4相から主として構成されており、Nd1.1T4B4相の含有量が0より大きく50質量%以下の範囲に調整されている。
図4aで示すように、焼結体Sはナノ結晶粒MP(主相)間を粒界相BPが充満する等方性の結晶組織を呈している。そこで、この焼結体Sに磁気的異方性を与えるべく、図3で示すように焼結体Sの長手方向(図2右図では水平方向が長手方向)の端面に超硬パンチPを当接させ、超硬パンチPで加圧しながら(Z方向)熱間塑性加工を施すことにより、図4bで示すように異方性のナノ結晶粒MPを有する結晶組織の希土類磁石前駆体Cが製造される。
なお、熱間塑性加工による加工度(圧縮率)が大きい場合、たとえば圧縮率が10%程度以上の場合を、熱間強加工もしくは単に強加工と称することができるが、60〜80%程度の圧縮率で強加工するのがよい。
図4bで示す希土類磁石前駆体Cの結晶組織において、ナノ結晶粒MPは扁平形状をなし、異方軸とほぼ平行な界面は湾曲したり屈曲しており、特定の面で構成されていない。
次に、図5で示すように、高温炉H内に希土類磁石前駆体Cを収容し、450〜700℃の温度雰囲気下で時効処理をおこない、希土類磁石前駆体Cの組織制御をおこなう。
具体的には、希土類磁石前駆体Cに関し、一般に知られている以下で示すKronmullerの式におけるα、Nの各要素を所定の数値範囲となるように時効処理をおこなう。
[数1]
Hc=αHa−NMs
ここで、Hc:保磁力、α:主相(ナノ結晶粒)間の分断性が寄与する因子、Ha:結晶磁気異方性(主相材料に固有)、N:主相の粒径が寄与する因子、Ms:飽和磁化(主相材料に固有)
結晶粒の微細化と磁気的分断性の向上にともない、N値が減少し、次いでα値が増加しながら保磁力が向上することになる。また、α値が大きく、N値が小さいほど、希土類磁石の耐熱性が向上することも特定されている。
図示する製造方法では、α≧0.440、N≦1.10を満たすように時効処理をおこなう。
希土類磁石前駆体Cを構成する粒界相において、Nd等の他にGa、Al、Cu、Coの少なくとも1種類以上が含まれていることにより、450〜700℃の低い温度範囲でも粒界相BPの溶融や流動を可能とでき、Nd等とGa、Al、Cu、Co等の合金化を図ることができる。
さらに、粒界相BPがNd1.1Fe4B4を50質量%以下の範囲で含んでいること、すなわち、粒界相BP中にホウ素量(B量)が所定量包含されていることにより、時効処理の際の主相の低減が抑制され、もって磁化の低減が抑制される。
このような時効処理により、α≧0.440、N≦1.10を満たす希土類磁石前駆体Cが製造される。α≧0.440、N≦1.10を満たす希土類磁石前駆体Cは、その組織の分断性が十分であり、そのために拡散浸透される改質合金は粒界相内を万遍なく浸透することができる。したがって、拡散浸透される改質合金を可及的にKronmullerの式のαの増加のみに使用することが可能となり、言い換えれば、可及的に少ない量の改質合金で大きなαの増加が得られることになる。
次に、図6で示すように、時効処理後の希土類磁石前駆体Cの表面に改質合金板SLを載置して高温炉H内に収容し、450〜700℃の温度雰囲気下で改質合金SLの拡散浸透処理をおこなうことにより、希土類磁石が製造される。
なお、この改質合金板SLの使用のほかにも、改質合金粉末のスラリーを製作して希土類磁石前駆体Cの表面に塗布してもよい。
ここで、改質合金板SLは遷移金属元素と軽希土類元素からなり、合金の共焦点が450℃〜700℃と低温の改質合金を使用するものとし、たとえば、Nd-Cu合金(共晶点520℃)、Pr-Cu合金(共晶点480℃)、Nd-Pr-Cu合金、Nd-Al合金(共晶点640℃)、Pr-Al合金(650℃)、Nd-Pr-Al合金、Nd-Co合金(共晶点566℃)、Pr-Co合金(共晶点540℃)、Nd-Pr-Co合金のいずれか一種を適用するのがよく、中でも580℃以下と低温のNd-Cu合金(共晶点520℃)、Pr-Cu合金(共晶点480℃)、Nd-Co合金(共晶点566℃)、Pr-Co合金(共晶点540℃)の適用がより好ましい。
改質合金SLの拡散浸透前の希土類磁石前駆体Cが時効処理にて組織制御されていることにより、改質合金SLが希土類磁石前駆体C全域の粒界相内に浸透し、図7で示す結晶組織を呈し、高い保磁力を有する希土類磁石RMが製造される。すなわち、図4bで示す希土類磁石前駆体Cの結晶組織が組織変化して、図7で示すように結晶粒MPの界面が明りょうになり、結晶粒MP,MP間の磁気分断が進行して保磁力が向上された希土類磁石RMが製造される。なお、図6で示す改質合金SLによる組織改質の途中段階においては、異方軸とほぼ平行な界面は形成されない(特定の面で構成されない)が、改質合金SLによる改質が十分に進んだ段階では、異方軸とほぼ平行な界面(特定の面)が形成され、異方軸に直交する方向から見た際の結晶粒MPの形状は長方形やそれに近似した形状を呈した希土類磁石RMが形成される。
(希土類磁石前駆体のα、Nの各因子が希土類磁石の対応因子に与える影響を検証する実験とその結果)
本発明者等は、希土類磁石前駆体のα、Nの各因子が最終的に得られる希土類磁石の対応因子に与える影響を検証する実験をおこなった。
(実施例および比較例)
希土類磁石原料(合金組成は質量%で、Nd29.2Pr0.4FebalB1.0Ga0.4Al0.1Cu0.1)を所定量配合し、Arガス雰囲気中で溶解させた後、その溶湯をオリフィスからCrめっきを施したCu製の回転ロールに射出し、急冷して磁性粉末を製作した。7.2×23.3×60mmの容積のインコネルの型内に潤滑剤(カーボン)を塗布し、製作した磁性粉末30gを型内に収容し、大気雰囲気中、23℃で荷重100MPaをかけて焼結体前駆体を製作した。得られた焼結体前駆体を7.2×23.3×60mmの容積の別途のインコネルの型内に収容し、大気雰囲気中、700℃で荷重200MPaをかけて60sec保持する熱間加工をおこなって焼結体を製作した。製作された焼結体を鍛造型に収容し、加熱温度800℃、加工率75%、歪速度1.0/secで熱間塑性加工をおこない、希土類磁石前駆体を製作した。この希土類磁石前駆体を4.0×4.0×2.0mmサイズのサンプルに切り出し、時効処理、改質合金の拡散浸透処理に用いる試料とした。
改質合金として、組成が70Nd-30Cuの板を作成し、希土類磁石前駆体の試料の上に厚みが0〜0.2mmの改質合金板をのせ、減圧雰囲気もしくは不活性ガス雰囲気にて温度550〜700℃で30〜165分で時効処理および拡散浸透処理をおこなった。
より具体的には、比較例としては時効処理をおこなわず、希土類磁石前駆体に対して直接改質合金の拡散浸透処理をおこない、実施例は希土類磁石前駆体に対してまず時効処理をおこない、次いで改質合金の拡散浸透処理をおこなった。
実施例および比較例の各試料に関し、パルス磁気測定機、振動型磁力測定機を用いてそれらの磁気特性を評価した。
実施例1にかかる試料は、鍛造後に時効処理をおこない、さらに改質合金の拡散浸透処理をおこなうものにおいて、Nd-Cu合金の拡散浸透量が5%であり、拡散浸透処理の際の温度が550℃、650℃、700℃の3種でおこなったものであり、比較例1は鍛造後に時効処理をおこなわない試料である。実施例1は拡散浸透処理前の組織がα=0.440、N=1.10の試料を使用し、Nd-Cu合金板厚は0.1mm(5%)とした。一方、時効処理をおこなわない比較例1は拡散浸透処理前の組織がα=0.4、N=1.0の試料とした。時効処理の際の熱処理温度は575℃で120分維持した。実験結果をそれぞれ、図8a,b,cに示す。
また、実施例2にかかる試料は、鍛造後に時効処理をおこない、さらに改質合金の拡散浸透処理をおこなうものにおいて、Nd-Cu合金の拡散浸透量が10%であり、拡散浸透処理の際の温度が550℃、650℃、700℃の3種でおこなったものであり、比較例2は鍛造後に時効処理をおこなわない試料である。実施例2は拡散浸透処理前の組織がα=0.440、N=1.10の試料を使用し、Nd-Cu合金板厚は0.2mm(10%)とした。一方、時効処理をおこなわない比較例1は拡散浸透処理前の組織がα=0.4、N=1.0の試料とした。時効処理の際の熱処理温度は575℃で120分維持した。実験結果をそれぞれ、図9a,b,cに示す。
また、実施例3にかかる試料は、鍛造後に時効処理をおこない、さらに改質合金の拡散浸透処理をおこなうものにおいて、改質合金の拡散浸透前の段階におけるα、Nがそれぞれ、α=0.440、N=1.10の試料、α=0.455、N=1.01の試料、α=0.465、N=1.00の試料である。実験結果をそれぞれ、図10a,b,cに示す。
図8a,b,cより、時効処理後に改質合金5%を拡散浸透させた実施例1では拡散浸透温度に関わらず、α=0.50、N=1.0程度まで性能が高められることが実証されている。一方、時効処理をおこなわない比較例1では、改質合金5%を拡散浸透させてもα=0.42、N=0.85までしか性能向上を図ることができていない。
この結果は、改質合金の拡散浸透前の段階における希土類磁石前駆体の組織の分断性が十分か否かによることに起因していると考えられる。
一方、図9a,b,cにおいても、図8と同様に、時効処理後に改質合金10%を拡散浸透させた実施例2では拡散浸透温度に関わらず、α=0.50、N=1.0程度まで性能が高められることが実証されている。一方、時効処理をおこなわない比較例2では、改質合金10%を拡散浸透させてもα=0.46、N=0.90までしか性能向上を図ることができていない。
また、図10a,b,cより、α=0.440以上、N=1.10以下の場合に、改質合金の拡散浸透後にα、Nの高い伸びが得られることが実証されている。
これらの実験結果より、改質合金の拡散浸透前の希土類磁石前駆体に関し、α≧0.440、N≦1.10を満たす希土類磁石前駆体を使用して希土類磁石を製造することにより、保磁力性能に優れた希土類磁石が得れることが分かる。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。