JP6313137B2 - ポリシロキサン化合物、その製造方法及びポリシロキサン含有無機組成物 - Google Patents
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Description
本発明はまた、上記籠状ポリシロキサン化合物と、ラダー状構造のポリシロキサン骨格を有し、かつ側鎖に疎水基含有アミド構造を有するラダー状ポリシロキサン化合物とを含むポリシロキサン混合物でもある。
本発明は更に、層状無機化合物と、上記籠状ポリシロキサン化合物又はポリシロキサン混合物とを含むポリシロキサン含有無機組成物でもある。
本発明はそして、上記籠状ポリシロキサン化合物を製造する方法であって、該製造方法は、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物と疎水性酸塩化物との反応工程と、加水分解・縮合工程とを含む籠状ポリシロキサン化合物の製造方法でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態である。
本発明の籠状ポリシロキサン化合物は、籠状構造のポリシロキサン骨格を有する。
籠状構造のポリシロキサン骨格とは、シロキサン結合(Si−O結合)からなるシロキサン鎖が立体的に結合された骨格を意味し、例えば、〔RaSiO1.5〕n(nは2の倍数であり、かつ4以上の整数である。Raは後述する。)で表すことができる。
なお、本明細書中、籠状構造は、不完全型籠状構造も含むものとする。
本発明では、ポリシロキサン骨格が籠状構造をとることにより、耐熱性や低吸湿性に特に優れたポリシロキサン化合物となるとともに、これを含む組成物の粘度を低減することができる。
また各ポリシロキサン化合物の構造は、例えば、1H−NMR、13C−NMR、MALDI−TOF−MS、FT−IRを測定して同定することができる。
本発明のポリシロキサン混合物は、上述した籠状ポリシロキサン化合物に加え、ラダー状構造のポリシロキサン骨格を有し、かつ側鎖に疎水基含有アミド構造を有するラダー状ポリシロキサン化合物を含む。
ラダー状構造のポリシロキサン骨格とは、シロキサン結合(Si−O結合)からなる直鎖状のシロキサン鎖を2つ有し、一の直鎖状のシロキサン鎖を構成するケイ素原子と他の直鎖状のシロキサン鎖を構成するケイ素原子とが1つの酸素原子を介して結合することにより、当該2つの直鎖状のシロキサン鎖が、平行に位置している骨格を意味する。ラダー状ポリシロキサン化合物は、耐熱性や分散性等に優れるものである。
上記籠状ポリシロキサン化合物及びラダー状ポリシロキサン化合物(両者を「ポリシロキサン化合物」とも総称する。)は、いずれも、側鎖に疎水基含有アミド構造を有する。
疎水基含有アミド構造とは、疎水基とアミド結合(−N(H)−C(=O)−)とを含むものであれば、その他の部位の構造は特に限定されない。中でも、疎水基含有アミド構造は、−N(H)−C(=O)−R(Rは、疎水基を表す。)で表される基を含むことが好ましい。
なお、上記疎水基は、置換基を有していてもよい。置換基としては特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基等が挙げられる。
有機骨格としては、例えば、(1)炭素数1〜6の(ポリ)アルキレン基を有する構造、(2)2級アミノ基を有する構造、又は、(3)3級アミノ基を有する構造、のいずれか1以上の構造が好ましく、上記疎水基含有アミド構造は、これらのいずれか1以上の構造の末端に、アミド結合を介して疎水基を有する構造であることがより好ましい。中でも、ポリシロキサン化合物の熱的安定性がより高まる点で、炭素数1〜6の(ポリ)アルキレン基の末端に、アミド結合を介して疎水基を有する構造が更に好ましい。
なお、上記籠状ポリシロキサン化合物は、有機骨格層がシェル部分、無機骨格層がコア部分となる形態であることが特に好ましい。
[Si−OH結合モル数〕/[Si−O結合モル数〕 (α)
これにより、上記ポリシロキサン化合物やそれを含む組成物が著しく低粘度化し、また、これら化合物、組成物や、その硬化物が耐吸湿性(低吸湿性)に極めて優れたものとなる。上記計算式(α)で求められるシラノール基量として、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.01以下である。特に好ましくは、上記ポリシロキサン化合物が残存シラノール基を有さないことである。
ここで、[Si−OH結合モル数〕とは、SiとOHとの結合数をモル数で表す。例えば、1モルのSi原子のそれぞれに2つのOH基が結合している場合には、[Si−OH結合モル数〕は2モルとなる。Si−O結合モル数についても同様に数えるものとする。
その他の基としては特に制限されないが、例えば、水素原子;水酸基;ハロゲン原子;ORb基;アルキル基;アリール基、アラルキル基等の芳香族残基;不飽和脂肪族残基;等が挙げられる。これらは置換基を有していてもよい。好ましくは、置換基を有していてもよい、炭素数1〜8のアルキル基、又は、アリール基、アラルキル基等の芳香族残基である。Rbは、同一若しくは異なって、アルキル基、アシル基、アリール基又は不飽和脂肪族残基である。
本発明のポリシロキサン混合物は、上述した籠状ポリシロキサン化合物とラダー状ポリシロキサン化合物とを含むが、好ましくは、上記籠状ポリシロキサン化合物と、当該ラダー状ポリシロキサン化合物とからなる形態である。
上記質量比は、例えば、分子量分布を示すGPC曲線の面積比から算出することができる。また、GPC曲線の分子量ピークから、籠状ポリシロキサン化合物とラダー状ポリシロキサン化合物とを区別することができる。それぞれの分子量ピークは、上述した各ポリシロキサン化合物の好ましい重量平均分子量の範囲内にあることが好ましい。
本発明の籠状ポリシロキサン化合物を得るための方法は特に制限されないが、本発明の製造方法、すなわちアミノ基を有するアルコキシシラン化合物と疎水性酸塩化物との反応工程と、加水分解・縮合工程とを含む製造方法を採用することが好適である。
この製造方法により、上述した本発明のポリシロキサン混合物を得ることもできる。すなわち上記ポリシロキサン混合物を製造する方法であって、該製造方法は、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物と疎水性酸塩化物との反応工程と、加水分解・縮合工程とを含む、ポリシロキサン混合物の製造方法もまた、本発明者による発明の1つである。
−アミノ基を有するアルコキシシラン化合物−
上記反応工程で使用されるアミノ基を有するアルコキシシラン化合物は、アミノ基及びアルコキシシリル基を有する限り特に限定されないが、例えば、ケイ素原子に、(1)炭素数1〜6のアルキレン基を有する構造、(2)2級アミノ基を有する構造、又は、(3)3級アミノ基を有する構造、のいずれかの構造が結合し、該構造の、ケイ素原子とは反対側の末端に、アミノ基が結合した構造を有するものが好ましい。上記(1)〜(3)の中でも、(1)炭素数1〜6のアルキレン基を有する構造がより好ましい。
上記反応工程において、疎水性酸塩化物としては、疎水基(R)を有する酸塩化物であれば特に限定されず、酸塩化物としては、例えば、スルホン酸塩化物、カルボン酸塩化物等が挙げられる。中でも、疎水性酸塩化物は、R−C(=O)−Cl(Rは、疎水基を表す)で表される疎水性カルボン酸塩化物であることが好ましい。なお、Rで表される疎水基については、上述したとおりである。
溶媒としては、有機溶媒を1種又は2種以上を用いることが好適である。具体的には、例えば、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒等が挙げられるが、この中でも、エーテル系溶媒が好ましい。これらエーテル系溶媒は、後の加水分解工程で水に溶けるため、製造工程がシンプルとなって好ましい。
エーテル系溶媒としては、ジグライム、テトラヒドロフラン(THF)、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられ、中でもジグライムがより好ましい。
上記加水分解・縮合工程は、上記反応工程で得られた生成物中のアルコキシシリル基を加水分解反応させ、その後、縮合反応させる工程であることが好ましい。加水分解反応により得られたシラノール基(Si(OH)3)の縮合反応により、本発明の籠状ポリシロキサン化合物を得ることができる。
加水分解・縮合反応の一例として、上記式(5)で得た生成物を例にして下記式(6)に示す。
上記水の使用形態は、上記反応工程の生成物に滴下する形態でもよいし、一括投入する形態でもよい。
触媒としては、亜鉛化合物を少なくとも使用することが好適である。亜鉛化合物としては亜鉛カルボン酸塩が好ましく、飽和脂肪族カルボン酸の亜鉛カルボン酸塩がより好ましい。飽和脂肪族カルボン酸の炭素数は1〜20が好ましく、より好ましくは2〜10、更に好ましくは6〜8である。これらの中でも、水に可溶性の化合物が特に好ましく、最も好ましくは、2−エチルヘキサン酸亜鉛を用いることである。
上記製造方法はまた、ろ過工程及び洗浄工程を行うことが好適である。例えば、上記反応工程で得られた生成物に対してろ過及び洗浄工程を行った後、加水分解・縮合工程に供することが好ましい。
洗浄工程では、水や、有機溶媒等の1種又は2種以上を使用して、1回又は2回以上洗浄を行うことが好ましい。有機溶媒は特に限定されず、例えば、アセトン、メタノール、ジエチルエーテル、トルエン等の通常の洗浄工程で使用される溶媒を用いればよい。
また上記加水分解・縮合工程の後に、各工程等で用いた溶媒を除去する工程を行うことが好適である。
本発明のポリシロキサン含有無機組成物は、層状無機化合物と、上述した本発明の籠状ポリシロキサン化合物又はポリシロキサン混合物とを含むが、必要に応じてその他の成分を更に含んでいてもよい。各含有成分は、それぞれ1種又は2種以上であってもよい。
層状無機化合物とは、結晶格子が一定距離ごとに層を形成している構造を有する無機化合物を意味するが、膨潤可能な化合物であることが好適である。具体的には、層状シリケート、層状アルミネート、これらの混合物等を用いることができる。中でも、上記層状無機化合物は、層状シリケートを含むことが好適である。この場合、層状無機化合物の総量100質量%中、層状シリケートが占める割合が50〜100質量%であることが好ましい。より好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%、特に好ましくは100質量%である。
上記ポリシロキサン含有無機組成物においては、求められる物性等を考慮して、ポリシロキサン化合物が含む疎水基を適宜選択することが好適である。例えば、耐熱性が特に求められる場合には、籠状又はラダー状ポリシロキサン化合物が含む疎水基(R)は、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましい。これにより、耐熱性が極めて高く、かつ層状無機化合物が充分に分散されたポリシロキサン含有無機組成物を得ることができる。中でも特に、籠状ポリシロキサン化合物が含む疎水基(R)が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であることが好ましい。芳香族炭化水素基として好ましくは、フェニル基である。
上記ポリシロキサン含有無機組成物はまた、溶媒を更に含むことが好ましい。通常、層状無機化合物は、溶媒(特に有機溶媒)への溶解性又は分散性が充分ではないが、本発明の籠状ポリシロキサン化合物又はポリシロキサン混合物を層状無機化合物と併用することで、層状無機化合物を溶媒中に充分に分散することができる。
mアルキレングリコールnアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1−メトキシプロパノール)等が挙げられる。
なお、末端に水酸基を有するエーテル類(すなわちエーテル結合を有するアルコール類)は、その末端水酸基に起因してアルコール系溶媒としての性能を有するため、エーテル系溶媒ではなくアルコール系溶媒に該当するものとする。
上記ポリシロキサン含有無機組成物はまた、必要に応じ、求められる物性等に応じてその他の成分を1又は2以上含んでいてもよい。
本発明の籠状ポリシロキサン化合物及びポリシロキサン混合物はまた、有機ポリマーとの相溶性にも優れるものである。したがって、有機ポリマーと、上述した本発明の籠状ポリシロキサン化合物又はポリシロキサン混合物とを含むポリシロキサン含有樹脂組成物とすれば、極めて透明性が高い硬化物を与えることができ、また、有機無機ハイブリッド(複合)材料用途にも特に好適なものとなる。このように有機ポリマーと、上記籠状ポリシロキサン化合物又はポリシロキサン混合物とを含むポリシロキサン含有樹脂組成物もまた、本発明者による発明の1つである。
上記有機ポリマー(有機樹脂とも称す)としては特に限定されず、意図される用途(例えば、屈折率の調整に用いる光学フィルム用途等)等によって適宜選択すればよい。例えば、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれもが好適に用いられる。具体的には、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)等のアクリル樹脂や、ポリスチレン(PSt)等が好ましい。また、グリシジル基及び/又はエポキシ基を少なくとも1つ有する化合物、多価フェノール化合物、マレイミド化合物も好ましく使用できる。これら化合物は、特許第5193207号公報に記載のものと同様のものが好適である。その他、特許第5193207号公報〔0131〕に記載の種々の有機樹脂も好ましく使用できる。
上記ポリシロキサン含有樹脂組成物においては、有機ポリマーとの相溶性を考慮して、籠状又はラダー状ポリシロキサン化合物が含む疎水基を適宜選択することが好適である。
例えば、有機ポリマーとしてPMMAを用いる場合、ポリシロキサン化合物が含む疎水基(R)は、直鎖状アルキル基であることが好ましく、中でも、炭素数3〜20の直鎖状アルキル基であることがより好ましい。更に好ましくは、炭素数6〜11の直鎖状アルキル基である。これにより、PMMAとの相溶性がより向上され、透明性に優れる硬化物が得られるため、光学フィルム用途に特に好適なものとなる。また、有機ポリマーとしてPStを用いる場合、疎水基(R)は、芳香族炭化水素基であることが好ましく、中でも、フェニル基であることがより好ましい。これにより、PStとの相溶性がより向上され、透明性に優れる硬化物が得られるため、光学フィルム用途に特に好適なものとなる。
上記ポリシロキサン含有樹脂組成物はまた、必要に応じ、求められる物性等に応じてその他の成分を1又は2以上含んでいてもよい。
その他の成分としては特に限定されず、例えば、溶媒、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、マット剤等が挙げられる。中でも、溶媒を少なくとも含むことが好適である。溶媒としては特に限定されないが、例えば、クロロホルム、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N’−ジメチルホルマミド等の非極性溶媒である。より好ましくはクロロホルムである。
なお、下記の合成例において、分子量は、以下のGPC測定条件の下で求めた。
計測機器:東ソー社製「HLC−8220GPC」
カラム:Shodex GF−7MHQを2本、
展開液:10mMol/L LiBr添加N,N’−ジメチルホルムアミド
流速:0.6mL/分
温度:40℃
検量線:ポリスチレン標準サンプル(東ソー社製)を用いて作成。
合成例1
籠型構造含有型ポリ〔3−(ベンズアミド)プロピル〕シルセスキオキサンの合成
窒素導入管、温度センサ、撹拌翼、コンデンサーを取り付けた200mLの4つ口フラスコに3−アミノプロピルトリエトキシシラン33.21g、トリエチルアミン15.18g及びジグライム50gを投入して撹拌しながら均一な溶液にし、オイルバスに浸けて室温に保持した。次に、ガラス製バイアルにベンゾイルクロリド21.09gとジグライム26gを投入して均一な溶液にしたのち、4つ口フラスコ中に撹拌を続けながら10分間かけて滴下投入した。フラスコ内部は滴下投入開始直後から白濁し始め、内温も60℃まで上昇した。滴下終了後、オイルバスで加熱しながら内温を80℃まで昇温し6時間保持したのち室温まで冷却した。
フラスコ内容物はスラリー状になっており、ろ過することにより白色沈殿物を除去し、白色沈殿物を更にトルエン10gで洗浄及びろ過する工程を2回繰り返し、濾液を回収した。濾液を再び4つ口フラスコに戻してイオン交換水27.03g及び2−エチルヘキサン酸亜鉛0.264gを加え、オイルバスで加熱しながら撹拌を続けた。87℃に到達したところで副生エタノールと水による還流が開始し、そのまま2時間保持したのちオイルバスで更に加熱を加えて副生エタノール、過剰水及びトルエンをコンデンサーを通じて回収しながら6時間かけて160℃に到達、更に3時間保持した。得られた反応液を真空オーブンで乾燥させてジグライムを除去して化合物Aを得た。
収率は93.2%で外観は白色固体であり、FT−IR、NMRによる分析結果からポリ〔3−(ベンズアミド)プロピル〕シルセスキオキサンであることを確認した。
GPC測定では、数平均分子量Mnは3810、重量平均分子量Mwは7020、分子量分布Mw/Mnは1.85であった。
籠型構造含有型ポリ〔3−(2−ナフトアミド)プロピル〕シルセスキオキサンの合成
合成例1のベンゾイルクロリド21.09gの代わりに2−ナフトイルクロリド28.59gを用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物Bを得た。
収率は91.8%で外観は白色固体であり、FT−IR、NMRによる分析結果からポリ〔3−(2−ナフトアミド)プロピル〕シルセスキオキサンであることを確認した。
GPC測定では、数平均分子量Mnは4590、重量平均分子量Mwは8670、分子量分布Mw/Mnは1.89であった。
籠型構造含有型ポリ〔3−(4−フェニルベンズアミド)プロピル〕シルセスキオキサンの合成
合成例1のベンゾイルクロリド21.09gの代わりに2−ナフトイルクロリド32.50gを用いる以外は合成例1と同様の操作を行い、化合物Cを得た。
収率は91.8%で外観は白色固体であり、FT−IR、NMRによる分析結果からポリ〔3−(4−フェニルベンズアミド)プロピル〕シルセスキオキサンであることを確認した。
GPC測定では、数平均分子量Mnは5160、重量平均分子量Mwは9514、分子量分布Mw/Mnは1.84であった。
ラダー状ポリ〔3−(ベンズアミド)プロピル〕シルセスキオキサンの合成
300mLのビーカー中に3−アミノプロピルトリメトキシシラン8.695gと0.5mol/L塩酸150mLを加えて、マグネティック・スターラーで2時間室温で撹拌した。その後、容量50mLのディスポトレー5枚の上で60℃で加熱し、更に100℃のオーブンで10時間加熱して完全に残存塩化水素と水とメタノールを蒸発させた。得られた板状固形分を300mLのビーカー中で精製水50mLに溶解し、100mLのアセトンを撹拌しながら投入してデカンテーションにより沈殿物を回収、更に回収物にメタノール100mLを加えて洗浄する工程を5回実施し、最後にアセトン100mLで回収物を洗浄したものを減圧乾燥することで化合物D’を3.667g得た。
化合物D’は、FT−IR、NMR、XRDによる分析結果から非特許文献1の同定結果と一致しており、ラダー状ポリ(3−アミノプロピル)シルセスキオキサン塩酸塩であることを確認した。
GPC測定では、数平均分子量Mnは3200、重量平均分子量Mwは5760、分子量分布Mw/Mnは1.80であった。
次に20mLの窒素導入管付の2つ口フラスコにマグネティック・スターラーを取り付け、フラスコ中に上記ラダー状ポリ(3−アミノプロピル)シルセスキオキサン塩酸塩を0.147gと精製水3mLを入れて1時間撹拌して完全に溶解したのち、N,N’−ジメチルホルムアミド2mLを投入して更に30分撹拌して内容物が均一な溶液になるのを確認した。つづいてトリエチルアミン0.507gとベンゾイルクロリド0.563gを投入し、10分間室温で撹拌し続けた。バイアル内容液は当初白濁していたが、しばらくすると発熱が収まり、1.0mol/L塩酸6mLを入れると白色の沈殿物が発生した。吸引ろ過で沈殿物を回収し、更に水洗浄、ジエチルエーテル洗浄を交互に2回繰り返して減圧乾燥して化合物Dを0.160g得た。
収率は74.4%で外観は白色粉末であり、FT−IR、NMRによる分析結果からポリ〔3−(ベンズアミド)プロピル〕シルセスキオキサンであることを確認した。
GPC測定では、数平均分子量Mnは25600、重量平均分子量Mwは63900、分子量分布Mw/Mnは2.50であった。
図1に、合成例1で得た化合物Aと、合成例4で得た化合物Dとの分子量分布の比較図として、GPC曲線を示す(実施例1:化合物A、比較例1:化合物D)。
使用したGPCは、東ソー製HLC−8220GPC、カラムはShodex GF−7MHQを2本、展開液は10mMol/L LiBr添加N,N’−ジメチルホルムアミドであり、ポリスチレン(PSt)を用いて検量線を作成した。
これに対し、化合物Dは低分子量成分を一切含んでいないため、ラダー状構造をとるものと考えられる。
合成例1〜4で得た化合物A〜Dの耐熱性を、TG−DTA(熱重量測定−示差熱分析)を用いて比較した。具体的には、N2ガス流通下で測定を行い、昇温速度10℃/分で50℃〜450℃まで重量変化を追跡した。重量減少が1%、3%、5%となる各温度を測定したところ、表1のようになった。
化合物Aと化合物DとのTGA(熱重量)曲線の比較を、図2に示す(実施例5:化合物A、比較例3:化合物D)。
図2では、側鎖の疎水基含有アミド構造が全く同じでありながら、主鎖骨格の違いによって耐熱性が異なることが示唆された。いずれの化合物も400℃付近で大きな重量減少が確認されることから、側鎖の熱分解は主骨格に寄らず400℃付近で進行していると考えられるが、比較例3のラダー構造のみ有する化合物Dは150〜200℃付近の温度領域で有意な重量減少が確認されるのに対し、実施例5の籠型構造を含む化合物Aでは400℃付近まで大きな重量変化はなかった。
実施例6〜7、比較例4〜6
化合物A、化合物D及び第4級アンモニウム塩3種をそれぞれ用いて、モンモリロナイトのアルコールへの分散検討を行った。
具体的には、20mLのガラス製バイアルに表2に示す組成で秤量したのちにバイアルをウォーターバスに固定して30℃以下に保持し、超音波ホモジナイザー(機種名「VCX−750」、SONIC社製)を用いてマイクロチップをバイアル内容液に浸漬した状態で分散処理を行った。処理条件は、出力150W、処理時間30分とした。
分散状態は、処理液を目視で確認した。結果を表2に示す。
モンモリロナイト:製品名「クニピアF」、クニミネ工業社製
PGM:1−メトキシ−2−プロパノール:製品名「MFG」、日本乳化剤社製
実施例6、比較例4、6で各々得た組成物E、G、Iから、分散処理後にメンブレンフィルターで分散体(固形分)のみを濾取し、X線回折測定を行った(実施例8:組成物E、比較例7:組成物G、比較例8:組成物I)。
X線回折に用いた機種は、リガク社製の粉末X線回折装置「RINT−TTR III」であり、2θ=4〜12度を観測して、モンモリロナイトの層間距離を表す(001)面に由来するピークの位置を調べた。図3に、各XRDパターンを示す。
これに対し、化合物Dを用いた比較例7では、比較例8とXRDパターンがほぼ同等であり、インターカレーションが進行しなかったことが示唆された。化合物Dは、化合物Aよりも分子量が大きいために層間に侵入するのが難しいのではと考えられ、良好な分散体調製には分子量や分子構造が大きく影響することが伺える。
これらの結果から、籠状構造のポリシロキサン骨格を有し、かつ側鎖に疎水基含有アミド構造を有する籠状ポリシロキサン化合物は、層状無機化合物を分散する性能に特に優れることが分かった。
Claims (6)
- 籠状構造のポリシロキサン骨格を有し、かつ側鎖に疎水基含有アミド構造を有し、
該疎水基含有アミド構造は、−N(H)−C(=O)−R(Rは、炭素数1〜30の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数3〜30の飽和脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基である疎水基を表す。)で表される基を含む
ことを特徴とする籠状ポリシロキサン化合物。 - 請求項1に記載の籠状ポリシロキサン化合物と、ラダー状構造のポリシロキサン骨格を有し、かつ側鎖に疎水基含有アミド構造を有するラダー状ポリシロキサン化合物とを含むことを特徴とするポリシロキサン混合物。
- 層状無機化合物と、請求項1に記載の籠状ポリシロキサン化合物、又は、請求項2に記載のポリシロキサン混合物とを含むことを特徴とするポリシロキサン含有無機組成物。
- 前記層状無機化合物は、層状シリケートを含むことを特徴とする請求項3に記載のポリシロキサン含有無機組成物。
- 請求項1に記載の籠状ポリシロキサン化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物と疎水性酸塩化物との反応工程と、加水分解・縮合工程とを含むことを特徴とする籠状ポリシロキサン化合物の製造方法。 - 前記疎水性酸塩化物は、R−C(=O)−Cl(Rは、炭素数1〜30の飽和脂肪族炭化水素基、炭素数3〜30の飽和脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基である疎水基を表す。)で表される疎水性カルボン酸塩化物であることを特徴とする請求項5に記載の籠状ポリシロキサン化合物の製造方法。
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