JP6309381B2 - 質量分析装置および質量分析方法 - Google Patents
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Description
一方、質量分析法を用いた場合、原子の重さを基準に識別するため、原理的には放射性Csを検出することが可能である。質量分析法においては種々のイオン化方法が存在するが、レーザ光を用いた共鳴イオン化法は特定の元素を選択的にイオン化できることが知られている。これを共鳴イオン化質量分析法(RIMS)という(例えば、非特許文献1を参照)。しかしながら、この方法は試料を加熱脱離させたガスの分析であり、微小視野(ミクロな視野)でのイメージングとは直結しない技術である。
また、質量分析法の一種であるイオンビームを用いた二次イオン質量分析法(SIMS)では、細く絞ったイオンビームを走査しながら、試料表面由来の二次イオン強度を記録することにより、微小視野での元素のイメージングが可能となっている(例えば、非特許文献2を参照)。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、質量分析時における放射性セシウムとバリウムなどの他の元素との干渉を抑制し、放射性セシウムの分離検出および分布可視化を実現することができる質量分析装置および質量分析方法を提供することを目的とする。
<1> 放射性セシウムを含む試料が配置される試料台と、前記試料台に配置された試料にイオンビームを照射し、試料から放射性セシウムを放出させるイオンビーム源と、放射性セシウムを共鳴イオン化させる波長を有し、かつ、バリウムのイオン化が生じないレーザ強度である、パルス化されたレーザ光を、放出された放射性セシウムに照射し、放射性セシウムをイオン化させるレーザ光源と、イオン化された放射性セシウムを質量分析する分析部と、を備える質量分析装置。
<6> 前記質量分析装置は、前記イオンビーム源からのイオンビームを試料に照射することにより放出される二次イオンを試料台側に押し戻すメッシュ電極を備え、試料から放射性セシウムを放出させる工程の後、かつ、放射性セシウムをイオン化させる工程の前に、前記メッシュ電極に電圧を印加することにより、前記イオンビーム源からのイオンビームを試料に照射することにより放出された二次イオンを試料台側に押し戻す工程を含む<5>に記載の質量分析方法。
以下、本発明の一実施形態に係る質量分析装置100について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る質量分析装置100の構成を示す概略図である。
図1に示すとおり、質量分析装置100は、放射性セシウムを含む試料が配置される試料台10と、試料台10に配置された試料にイオンビームを照射し、試料から放射性セシウムを放出させるイオンビーム源20と、放射性セシウムを共鳴イオン化させる波長を有し、かつ、バリウムのイオン化が生じないレーザ強度である、パルス化されたレーザ光を、放出された放射性セシウムに照射し、放射性セシウムをイオン化させるレーザ光源40と、イオン化された放射性セシウムを質量分析する分析部60と、を備える。
試料台10には分析対象となる試料が配置される。試料台10は、イオンビームの照射位置を調整するため、ターゲットとなる試料の位置を適宜調整可能なマニピュレータを有していることが好ましい。
また、試料中に含まれる放射性セシウムの分離検出を行なう際は、質量分析装置100の内部を真空状態にすることが好ましい。
イオンビーム源20は、試料台10に配置された試料にイオンビームを照射することにより、放射性セシウムを放出させるためのビーム源である。イオンビーム源20としては、イオンビームを試料に照射したときに試料から放射性セシウムを放出させることができれば特に限定されず、例えば、集束イオンビーム(FIB)装置など、一般に入手可能な装置を用いることができる。イオンビームを試料に照射する際は、例えば、液体金属のガリウムイオン源からイオンビームを取り出し、集束させた上で、ナノスケールの精度で試料にパルス状に照射させてもよい。イオンビーム源20により試料台10に配置される試料にイオンビームを照射すると、試料から放射性セシウムを含む粒子や二次イオンが放出される。
本実施形態に係る質量分析装置100は、試料台10と分析部60との間に配置されたメッシュ電極30を備える。メッシュ電極30は、イオンビーム源20からのイオンビームを試料に照射することにより放出された二次イオンを試料台側に押し戻すために用いられる電極である。二次イオンを静電的に押し戻すため、メッシュ電極30には二次イオンの電荷と同極の高電圧が印加される。また、メッシュ電極30の電位は、二次イオンを試料台10側に押し出し可能な電位、または後述するようなイオン化された放射性セシウムを分析部60に引き込み可能な電位に切り替えることが可能である。具体的には、高電圧源31がメッシュ電極30に接続されており、正負のパルス電圧を所定のタイミングで印加することが可能となっている。さらに、制御部50により、パルス電圧を印加するタイミングが制御されている。
に対する開口部の割合)が高いことが好ましい。開口率が高いほど、イオン化された放射性セシウム(ポストイオン)が効率よくメッシュ電極30を通過できる。例えば、70%〜90%の開口率のメッシュ電極を用いることが好ましい。また、メッシュ電極30のメッシュを細かく、かつ細くして開口率を上げることが好ましい。これにより、メッシュが粗くなることに起因して生じる電界の歪みを抑制できる。
また、メッシュ電極30は、レーザ光源40から照射されるレーザ光が、試料台10とメッシュ電極30との間を通ることができる位置に配置されることが好ましく、例えば、試料台10とメッシュ電極30との間の距離は、2mm〜5mmであることが好ましい。なお、この距離は、分析部60の位置、質量分析装置100の大きさに応じて適宜変更してもよい。
レーザ光源40は、放射性セシウムを共鳴イオン化させる波長を有し、かつ、バリウムのイオン化が生じないレーザ強度である、パルス化されたレーザ光を、放出される放射性セシウムに照射することで、放射性セシウムをイオン化させるために用いられる光源である。図1に示すように、試料台10とメッシュ電極30との間をレーザ光源40から照射されるレーザ光が通ることができる位置に、レーザ光源40が配置されることが好ましい。また、レーザ光源40は、試料台10とメッシュ電極30との間で試料台10の表面に平行にレーザ光を照射可能なものであることが好ましい。
また、レーザ光源40として、二台以上の波長可変レーザを使用してもよい。二台以上の波長可変レーザを用いることにより、より選択的な放射性セシウムの共鳴準位への励起および放射性セシウムの共鳴イオン化が可能となり、放射性セシウム以外の他の元素がイオン化することによる検出感度の低下を好適に抑制することができる。そのため、レーザ光源としては、三台の波長可変レーザを用いて、例えば、852.1nm、621.3nm、1024nmといった波長のレーザ光を照射してイオン化(3色3光子共鳴イオン化)してもよい。
分析部60は、イオン化された放射性セシウムを質量分析するためのものである。分析部60としては、例えばセクター磁場型質量分析装置、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)、四重極型質量分析装置(QMS)等、種々の装置が適用可能である。分析部60には、例えば分析部60の先端、即ち、メッシュ電極30側に、イオン化された放射性セシウムを分析部60(ポストイオン)に引き込むための引き込み電極61が設けられる。そして、この引き込み電極61は、イオン化された放射性セシウムを分析部60に引き込み可能な電位に設定されればよい。
制御部50は、質量分析装置100が備える各構成の制御を行なうものであり、具体的には、イオンビーム源20から照射されるイオンビームの照射タイミング制御、メッシュ電極30および引き込み電極61の電圧印加制御、ならびにレーザ光源40から照射されるレーザ光の照射タイミング制御を行なうものである。次に、制御部50による各構成の制御方法について説明する。
なお、イオンビーム源20からイオンビームを試料に照射する前に、二次イオンを押し出し可能な電位にメッシュ電極30を設定してもよく、イオンビームの照射と同時、あるいは、イオンビームの照射の直後に、二次イオンを押し出し可能な電位にメッシュ電極30を設定してもよい。
本実施形態に係る質量分析装置100を用いた質量分析方法についても、本発明の範囲に含まれる。以下、質量分析方法について説明する。
まず、試料台10に放射性セシウムを含む試料を配置する。
(共鳴イオン化の確認)
Csに対する共鳴イオン化の効果を示す実験結果について、図2を用いて説明する。図2は、レーザ波長と133Csおよび138Baのイオン検出数との関係を示すグラフである。本実験では、安定同位体である133Csおよび138Baを試料として用い、レーザ光の波長を掃引しながら各々のイオン検出数をプロットし、グラフ化した。133Csは459.3nmに共鳴準位が存在するため、この波長においてイオン検出数が大幅に増大している。これに対し、138Baでは、この波長においてイオン検出数の増大は見られない。よって、459.3nmのレーザ光にて粒子をイオン化した場合、133Csを選択的に検出できることがわかる。なお、459.3nm以外の波長域にて検出されている133Csは波長に依存しない非共鳴イオン化による信号であり、レーザ光の照射密度を適宜減らすことにより、この信号の量は減少させることができる。
本実験では、安定同位体である133Cs、137Ba、138Baなどを混合した試薬を測定試料としてRIMS測定を行なった。まず、測定試料に対して加速電圧30kV、ビーム電流約10nAの照射条件でイオンビームを照射した。なお、観察視野は100μm×100μmとした。次に、メッシュ電極30に電圧を印加して二次イオンを試料台10側に押し戻した後、イオンビームを照射することにより放出された粒子に対して、波長が459.3nmであり、レーザ強度が1mJ/pulseであるパルス化されたレーザ光を照射し、133Csを選択的にイオン化させた。イオン化させた133Csを分析部60に引き込み、質量分析を行なった。結果は図3、4のとおりであり、図4中、横軸は質量電荷比(m/z)であり、縦軸は検出強度であり、図4は、図3中の四角で示す部分のスペクトルを表わしている。
本実験では、上記と同じ測定試料を用いてSIMS測定を行なった。まず、測定試料に対して、加速電圧30kV、ビーム電流約10nAの照射条件でイオンビームを照射した。イオンビームを照射することにより放出された二次イオン(イオン化された133Cs、137Baなどを含む)を分析部60に引き込み、質量分析を行なった。
20 イオンビーム源
30 メッシュ電極
31 高電圧源
40 レーザ光源
50 制御部
60 分析部
61 引き込み電極
100 質量分析装置
Claims (6)
- 放射性セシウムを含む試料が配置される試料台と、
前記試料台に配置された試料にイオンビームを照射し、試料から放射性セシウムを放出させるイオンビーム源と、
放射性セシウムを共鳴イオン化させる波長を有し、かつ、バリウムのイオン化が生じないレーザ強度である、パルス化されたレーザ光を、放出された放射性セシウムに照射し、放射性セシウムをイオン化させるレーザ光源と、
イオン化された放射性セシウムを質量分析する分析部と、
を備える質量分析装置。 - 前記レーザ強度は、1mJ/pulse以下である請求項1に記載の質量分析装置。
- 前記試料台と前記分析部との間に配置され、前記イオンビーム源からのイオンビームを試料に照射することにより放出された二次イオンを前記試料台側に押し戻すメッシュ電極を備える請求項1又は請求項2に記載の質量分析装置。
- 前記分析部は、イオン化された放射性セシウムを前記分析部に引き込むための引き込み電極を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の質量分析装置。
- 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の質量分析装置を用いた質量分析方法であって、
前記試料台に放射性セシウムを含む試料を配置する工程と、
前記試料台に配置された試料にイオンビームを照射し、試料から放射性セシウムを放出させる工程と、
放射性セシウムを共鳴イオン化させる波長を有し、かつ、バリウムのイオン化が生じないレーザ強度である、パルス化されたレーザ光を、放出された放射性セシウムに照射し、放射性セシウムをイオン化させる工程と、
イオン化された放射性セシウムを質量分析する工程と、
を含む質量分析方法。 - 前記質量分析装置は、前記イオンビーム源からのイオンビームを試料に照射することにより放出される二次イオンを試料台側に押し戻すメッシュ電極を備え、
試料から放射性セシウムを放出させる工程の後、かつ、放射性セシウムをイオン化させる工程の前に、前記メッシュ電極に電圧を印加することにより、前記イオンビーム源からのイオンビームを試料に照射することにより放出された二次イオンを試料台側に押し戻す工程を含む請求項5に記載の質量分析方法。
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