次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに図1から図5を参照して、本実施形態のエンジン100の基本的な構成について説明する。エンジン100は、ディーゼルエンジンであり、トラクタ等の農業機械及びスキッドステアローダ等の建設機械等に搭載される。
図1及び図2に示すように、エンジン100の下部には、オイルパン1が配置されている。オイルパン1は、エンジンオイルを貯めておくための容器状の部品である。オイルパン1の上側には、シリンダブロック2が配置されている。シリンダブロック2の内部には、ピストン及びクランクシャフト等が配置される。シリンダブロック2の上側には、シリンダヘッド3が配置されている。シリンダヘッド3には、燃焼室へ燃料を噴射するインジェクタ等が取り付けられる。
シリンダブロック2の側面には、冷却ファン4が配置されている。冷却ファン4は、多数の羽根を有しており、これらを回転させることで風を発生させることができる。また、冷却ファン4に対面する位置には、ラジエータ5が配置されている。ラジエータ5は、冷却水を循環させるための循環経路を有している。冷却ファン4は、ラジエータ5に風を当てることで、冷却水を冷却することができる。なお、図4のブロック図に示すように、エンジン100は、冷却水の温度を検出してECU(Engine Control Unit)80へ出力する冷却水温度センサ81を備える。
ECU80は、CPU等から構成される演算部と、ROM及びRAM等から構成される記憶部と、を備える。演算部は、センサ群の様々なセンサからの情報に基づいて、アクチュエータ群の様々なアクチュエータに制御指令を送り、エンジン100を動作させるための各種のパラメータ(例えば、燃料噴射量や、空気吸入量や、排気ガス還元量等)を制御する。記憶部は、各種プログラムを記憶するとともに、エンジン100の制御に関して予め設定された複数の制御情報を記憶している。
シリンダブロック2の側面のうち、冷却ファン4の反対側の側面には、フライホイールハウジング6が配置されている。フライホイールハウジング6の内部には、フライホイールが配置されている。エンジン100の動力は、フライホイールから取り出される。
図1から図3に示すように、エンジン100は、吸気系の部材として、吸入部11と、過給機12と、吸気管接続部13と、吸気スロットル(吸気絞り装置)14と、吸気マニホールド15と、を備える。
吸入部11は、後述のエアクリーナを介して、外部から気体を吸入する。なお、図4に示すように、エンジン100は、大気圧を検出してECU80へ出力する大気圧センサ82を備える。
過給機12は、図3に示すように、タービンホイール12a及びコンプレッサホイール12bを備える。タービンホイール12aは、排気ガスを利用して回転するように構成されている。コンプレッサホイール12bは、タービンホイール12aと同じシャフト12cに接続されており、タービンホイール12aの回転に伴って回転する。このようにコンプレッサホイール12bが回転することにより、空気を圧縮して強制的に吸気を行うことができる。
過給機12によって吸入された気体は、図略の吸気管、図2に示す吸気管接続部13、図3に示す吸気スロットル14を介して、吸気マニホールド15に供給される。吸気スロットル14は、スロットルバルブを備えている。吸気スロットル14は、スロットルバルブの開度を調整することで、吸気マニホールド15(ひいては燃焼室)に供給される気体の量を変化させることができる。スロットルバルブの開度は、ECU80によって制御される。
吸気マニホールド15は、供給された気体をシリンダ数に応じた数(本実施形態では4つ)に分けて燃焼室へ供給する。また、吸気マニホールド15には、図3に示すように、吸気温度センサ84が取り付けられている。吸気温度センサ84は、吸気マニホールド15内の気体の温度を検出してECU80へ出力する。
図2に示すように、吸気マニホールド15の下方にはコモンレール22が配置されている。コモンレール22は、燃料ポンプ21から供給された燃料を高圧で蓄え、シリンダヘッドに配置されたインジェクタ23(燃料噴射装置、図3を参照)へ供給する。
インジェクタ23は、所定のタイミングで燃焼室に燃料を噴射する。インジェクタ23は、図5に示すように上死点(TDC)の近傍でメイン噴射を行うように構成されている。また、インジェクタ23は、このメイン噴射の直前に騒音低減のためのプレ噴射を行ったり、プレ噴射の更に前のタイミングでNOx低減及び騒音低減のためのパイロット噴射を行ったりすることができる。また、インジェクタ23は、メイン噴射の直後にPMの低減及び排気ガスの浄化促進及び温度上昇を目的としたアフター噴射を行ったり、アフター噴射の更に後のタイミングで温度上昇等を目的としたポスト噴射を行ったりすることができる。なお、インジェクタ23は、インジェクタ電磁弁24(図4を参照)を備える。インジェクタ電磁弁24は、ECU80の指示に応じたタイミングで開閉することにより、燃焼室に燃料を噴射する。
燃焼室に噴射された燃料が燃焼することにより、ピストンを上下に駆動させて、クランクシャフトを回転させることができる。なお、エンジン100は、エンジン回転数(回転速度、所定時間あたりの回転数)を検出するエンジン回転数検出センサ83を備える。エンジン回転数検出センサ83は、検出したエンジン回転数をECU80へ出力する。
また、図1から図3に示すように、エンジン100は、排気マニホールド31と、EGR装置32と、排気ガス浄化装置40と、を備える。
排気マニホールド31は、複数の燃焼室で発生した排気ガスをまとめて過給機12のタービンホイール12aへ供給する。また、排気マニホールド31には、排気温度センサ85が取り付けられている。排気温度センサ85は、排気マニホールド31内の気体の温度を検出してECU80へ出力する。排気マニホールド31を通過した気体は、一部がEGR装置32へ供給されるとともに、残りが排気ガス浄化装置40へ供給される。
EGR装置32は、EGRクーラ33と、EGR管34と、EGRバルブ35と、を備えている。EGRクーラ33は、吸気系へ還流される排気ガスを冷却する。EGR管34は、EGRクーラ33が冷却した排気ガスを吸気系へ還流する。また、EGR装置32は、EGRバルブ35の開度を調整することで、吸気マニホールド15に供給される排気ガスの量を変化させることができる。EGRバルブ35のバルブ開度は、ECU80によって制御される。
排気ガス浄化装置40は、DPF装置50と、SCR装置60と、を備える。エンジン100は、排気ガス浄化装置40の支持及び固定を行う部材として、支持台41と、ケース固定体42と、ケース締結バンド43と、を備える。
支持台41は、シリンダヘッド3の上部に配置され、縁が下方に折り曲げられた矩形状の部材である。ケース固定体42は、支持台41の上部に配置され、DPF装置50及びSCR装置60の下方に接触する。ケース締結バンド43は、ケース固定体42に取り付け可能に構成された可撓性を有する部材である。ケース固定体42及びケース締結バンド43でDPF装置50及びSCR装置60を挟み込むことで、DPF装置50及びSCR装置60が固定される。
DPF装置50は、排気ガスに含まれる粒子状物質(particulate matter、PM)を除去する。DPF装置50は、DPFケース51と、酸化触媒52と、フィルタ53と、を備える。
DPFケース51は、略円筒状の中空の部材であり、内部に酸化触媒52及びフィルタ53が配置される。酸化触媒52は、白金等で構成されており、排気ガスに含まれる未燃燃料、一酸化炭素、一酸化窒素等を酸化(燃焼)するための触媒である。フィルタ53は、例えばフォールフロー型のフィルタとして構成されており、酸化触媒52で処理された排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集する。
また、DPFケース51には、酸化触媒温度センサ86と、フィルタ温度センサ87と、差圧センサ88と、が取り付けられている。酸化触媒温度センサ86は、DPFケース51の入口近傍(酸化触媒52の排気上流側)の温度を検出してECU80へ出力する。フィルタ温度センサ87は、酸化触媒52及びフィルタ53の間(フィルタ53の上流側)の温度を検出してECU80へ出力する。差圧センサ88は、フィルタ53の上流側(酸化触媒52の下流側)と、フィルタ53の下流側の圧力差を検出してECU80へ出力する。
DPF装置50を通過した排気ガスは、DPF出口管44、尿素混合管45、及びSCR入口管46を経由して、SCR装置60へ送られる。DPF出口管44は、DPF装置50の下流側の端部と接続されている。DPF出口管44には、排気ガスのNOx濃度を検出する上流NOxセンサ89が取り付けられている。上流NOxセンサ89は、検出したNOx濃度をECU80へ出力する。
尿素混合管45は、DPF出口管44と略直角をなすように接続されている。尿素混合管45の長手方向は、DPF装置50及びSCR装置60の長手方向と平行である。尿素混合管45の上流側の端部近傍には、尿素水噴射部47が取り付けられている。尿素水噴射部47は、尿素水を噴射する尿素水噴射ノズル47aと、尿素水噴射ノズル47aに尿素水を供給する尿素水噴射管47bと、を備える。尿素混合管45に尿素水を噴射することで、尿素が加水分解してアンモニアが発生する。
なお、尿素水噴射部47は、DCU(Dosing Control Unit)95によって、尿素水の噴射の有無及び噴射量が制御されている。DCU95は、例えば排気ガスの温度が、尿素がアンモニアに加水分解する温度を経過したときに、尿素水の噴射を開始する(詳細は後述)。以下では、ECU80及びDCU95をまとめて制御部98と称することがある。
SCR装置60は、SCR入口管46を介して導入された排気ガスに含まれるNOxを除去する。SCR装置60は、SCRケース61と、SCR触媒62と、アンモニア酸化触媒63と、を備える。
SCRケース61は、略円筒状の中空の部材であり、内部にSCR触媒62及びアンモニア酸化触媒63が配置される。SCR触媒62は、アンモニアを吸着するゼオライト又はセラミック等の素材で構成されている。尿素水噴射部47が尿素水を噴射することで生成されたアンモニアはSCR触媒62に吸着する。排気ガスに含まれるNOxは、アンモニアを吸着したSCR触媒62に触れることで還元され、窒素と水に変化する。
アンモニア酸化触媒63は、SCR触媒62から脱離したりSCR触媒62に吸着されなかったアンモニアが外部に放出されることを防止する触媒である。アンモニア酸化触媒63は、アンモニアを酸化させる白金等の酸化触媒であり、アンモニアを酸化させて窒素、一酸化酸素、水等に変化させる。この酸化反応は比較的高温(例えば180℃以上)でないと生じにくい。排気ガスは、アンモニア酸化触媒63を通過した後に所定の排気管を通った後に外部へ放出される。以上のように尿素水噴射部47及びSCR触媒62を備えることで、排気ガスに含まれるNOxを除去することができる。
また、SCR触媒62の上流側には、SCR触媒温度入口センサ(排気ガス温度検出部)90が取り付けられている。SCR触媒入口温度センサ90は、SCR触媒62の直ぐ上流の温度(以下、SCR触媒入口温度)を検出してECU80へ出力する。SCR触媒入口温度は、SCR触媒62へ供給される排気ガスの温度を検出するために用いられている。なお、ECU80は、SCR触媒入口温度、SCR触媒62の触媒容積、及び排気ガス流量(質量流量)等に基づいて、SCR触媒62の温度を推定している(以下、SCR触媒推定温度)。なお、排気ガスの質量流量はエンジンの運転状態等に基づいて演算によって求められる。
また、アンモニア酸化触媒63の下流側には、下流NOxセンサ91が取り付けられている。下流NOxセンサ91は、検出したNOx濃度をECU80へ出力する。
次に、通常モードとSCRヒーティングモードについて説明する。初めに、図6を参照して通常モードとSCRヒーティングモードで行われる処理の違いについて説明する。
SCR触媒温度が低い場合、SCR触媒62が排気ガス中のNOxを十分に除去できないことが知られている。そのため、本実施形態のエンジン100は、通常モードに加え、SCR触媒温度を効果的に上昇させるSCRヒーティングモードを有している。SCRヒーティングモードとは、インジェクタ23、吸気スロットル14等を制御することで、排気ガスの温度(ひいてはSCR触媒温度)を上昇させるモードである。
図6には、各モードで具体的に行われる処理が記載されている。通常モードでは、プレ噴射とメイン噴射が行われる。一方、SCRヒーティングモードでは、プレ噴射及びメイン噴射に加え、リタード制御(メイン噴射の噴射時期を遅らせる制御)、アフター噴射、及びポスト噴射が行われ、更に、吸気スロットル14を制御して外気の吸入量を低減させる処理が行われる。
リタード制御、アフター噴射、及びポスト噴射を行うことで、エンジン100の出力に直接寄与しないエネルギーが増えるため、排気ガスの温度を上昇させることができる。なお、リタード制御を行う場合、燃焼室での燃焼が不安定となる可能性がある。
しかし、ポスト噴射は、メイン噴射から少し遅れたタイミングで燃料を噴射するため、メイン噴射の燃焼に影響を与えにくいので、排気ガスの温度を適切に上昇させることができる。更に、SCR装置60がシリンダブロック2から離れた位置に配置されていたとしても、SCR触媒温度を効果的に上昇させることができる。
また、吸気スロットル14を制御して外気の吸入量を低減させることで、排気ガスの熱容量を下げることができるので、SCR触媒の温度をより早く上昇させることができる。なお、図6に示す表は一例であり、SCRヒーティングモードにおいて通常モードよりも排気ガスを昇温させることができるのであれば、それぞれのモードで行う処理を適宜変更することができる。
また、本実施形態では、各処理のパラメータ(具体的には、リタード制御のリタード量、アフター噴射及びポスト噴射の噴射時期及び噴射量、吸気スロットルの絞り量)は、原則として一定である。これにより、噴射量やリタード量を状況に応じて変更する構成と比較して、SCRヒーティングモード中の処理量を低減することができる。
更に、本実施形態では、通常モードとSCRヒーティングモードを明確に切り分けているので、例えばSCR触媒のヒーティングが不要な場合でもリタード量を算出する構成と比較して、処理を簡単にすることができる。
次に、図7及び図8を参照して、SCR触媒推定温度に基づいて、通常モードとSCRヒーティングモードとの切替えを行う処理について説明する。
SCRヒーティングモードを用いることで、SCR触媒温度を効果的に上昇させることができるので、NOxの排出量を低減することができる。しかし、SCRヒーティングモードでは、排気ガスの温度を上昇させるために燃料を消費するため、燃料消費量が増加してしまう。従って、通常モードとSCRヒーティングモードとを適切なタイミングで切り替えることが好ましい。
従って、本実施形態では、SCR触媒推定温度に基づいて、通常モードとSCRヒーティングモードとを切り替える。なお、SCR触媒推定温度に代えて、SCR触媒入口温度を用いても良い。また、SCR触媒62の下流に温度センサを設けてその温度センサの検出値を用いても良いし、上流及び下流に温度センサを設けてそれらの検出値の平均値等を用いても良い。
ここで、通常モードからSCRヒーティングモードへのモード切替温度と、SCRヒーティングモードから通常モードへのモード切替温度と、が同じである場合、モード切替温度の近傍で温度が上下した場合は、モードが頻繁に切り替わってしまう。
そのため、本実施形態では、図7に示すように、通常モードからSCRヒーティングモードへのモード切替温度は200℃(+β)とし、SCRヒーティングモードから通常モードへのモード切替温度は、それより高い240℃(+β)とした。なお、(+β)が示す内容については後述する。
ECU80は、通常モード中である場合(図8のS101でYesの場合)、SCR触媒温度が200℃(+β)以下であれば(S102でYesの場合)、SCRヒーティングモードへ移行する(S103)。一方、ECU80は、SCRヒーティングモード中である場合(S101でNoの場合)、SCR触媒温度が240℃(+β)以上であれば(S204でYesの場合)、通常モードへ移行する(S105)。
これにより、SCR触媒62を適切に機能させることができるので、排気ガス中のNOxを十分に除去することができる。
次に、図9を参照して、尿素水の噴射の可否を判定するためにDCU95が行う制御について説明する。
ここで、エンジン100が寒冷地や高地等の外気温度が低い環境で用いられる場合、尿素混合管45及びSCR入口管46等の温度も低下する。この場合、噴射された尿素水が尿素混合管45又はSCR入口管46に触れることで、尿素又はその化合物の固体付着物が生成されて堆積する。また、アンモニア酸化触媒63は、温度が低い場合にアンモニアを十分に酸化できないため、酸化されなかったアンモニアが外部に排出されることがある。しかし、尿素水を噴射する頻度が低下すると、NOxの除去量が減少してしまう。
以上を考慮して、本実施形態の制御部98は、適切なタイミングで尿素水の噴射を開始又は停止する制御を行う。なお、この制御は、制御部98(ECU80及びDCU95)で行われるが、ECU80が単独で行っても良いし、DCU95が単独で行っても良い。
初めに、制御部98は、SCR触媒入口温度及び環境値(外気温度及び大気圧)を取得する(S201)。SCR触媒入口温度は、SCR触媒62の直ぐ上流側の排気ガスの温度であり、SCR触媒入口温度センサ90によって検出される。なお、SCR触媒入口温度センサ90よりも上流又は下流の排気経路に配置された別の温度センサを用いても良い。外気温度は、吸気温度センサ84によって検出される。なお、外気温度は、吸気温度センサ84よりも上流(例えばコンプレッサホイール12bよりも上流)の吸気経路に配置された別の温度センサを用いても良い。また、外気温度に連動する温度を検出しても良い。例えば、冷却水温度又は尿素水温度は外気温度に連動していると考えられる。大気圧は、大気圧センサ82によって検出される。
次に、制御部98は、ステップS201で取得した外気温度を、排気ガスの熱流束に基づいて補正する(S202)。熱流束は、排気ガスの温度と質量流量に基づいて算出される。この処理は、外気温度が排気ガスの温度に与える影響を考慮して外気温度を補正するものである。例えば、排気ガスの熱流束が大きい場合(単位時間あたりに通過する熱量が大きい場合)、排気ガスは外気温度に影響されにくくなる。この場合、制御部98は、検出された外気温度よりも高い値に補正する。具体的には、制御部98は、排気ガスの熱流束及び外気温度に基づいて、所定の値を求めるテーブル又はマップを予め記憶しており、このテーブル等に基づいて、外気温度の補正量を出力する。
次に、制御部98は、補正した外気温度及び他の環境値(大気圧)に基づいて、第1尿素水噴射判定温度の補正量αを求める(S203)。第1尿素水噴射判定温度とは、排気ガスの温度と比較するための温度であり、尿素水を噴射可能か否かを判定するための閾値としての温度である。なお、大気圧が低い場合(つまり高地の場合)、NOxの排出に関する規制が緩くなり、NOxの排出量の規制値が増加することがある。この場合、尿素水の噴射頻度を低くすることができる。また、標高が高くなるほど外気温度が低くなるので、大気圧に基づいて外気温度を推定することもできる。制御部98は、補正した外気温度及び他の環境値(大気圧)に基づいて、例えばテーブル又はマップ等を用いて、補正量αを求める。
次に、制御部98は、第1判定処理を行う(S204)。第1判定処理は、SCR触媒入口温度が、補正後の第1尿素水噴射判定温度(具体的には、初期値(200℃)に補正量αを加えた温度)以上か否かを判定する処理である。
制御部98は、SCR触媒入口温度が補正後の第1尿素水噴射判定温度より小さい場合、尿素水を噴射不可と判定する(S205)。これにより、尿素混合管45等の内表面に固体堆積物が生じることを防止できる。本実施形態では外気温度が低い場合には、排気ガスの温度が初期値よりも高くならないと尿素水を噴射可能と判定しない。そのため、外気温度が低い場合であっても固体堆積物が生じることを確実に防止できる。
制御部98は、SCR触媒入口温度が補正後の第1尿素水噴射判定温度以上である場合、SCR触媒推定温度を算出又は読み出す(S206)。なお、SCR触媒推定温度は、上述のように、SCR触媒入口温度、SCR触媒62の触媒容積、及び排気ガス流量等に基づいて推定することができる。
次に、制御部98は、第2判定処理を行う。第2判定処理は、SCR触媒推定温度が、第2尿素水噴射判定温度以上か否かを判定する(S207)。なお、第2尿素水噴射判定温度は、SCR触媒推定温度と比較するための温度であり、尿素水を噴射可能か否かを判定するための閾値としての温度である。第2尿素水噴射判定温度は、第1尿素水噴射判定温度の初期値と一致していても良いし異なっていても良い。また、第2尿素水噴射判定温度を環境値に応じて補正しても良い。
制御部98は、SCR触媒推定温度が第2尿素水噴射判定温度より小さい場合、尿素水を噴射不可と判定する(S205)。一方。制御部98は、SCR触媒推定温度が第2尿素水噴射判定温度以上である場合、尿素水を噴射可能と判定する(S208)。
これにより、SCR触媒温度が所定以上のときにのみ尿素水が噴射されるため、SCR触媒62でアンモニアが十分に消費されることとなり、新たに供給されたアンモニアをSCR触媒62に吸着させることができる。従って、アンモニアが外部に排出されることを防止できる。また、SCR触媒温度が所定以上であるため、その下流のアンモニア酸化触媒63も高温となり、アンモニアを酸化させる反応が発生し易くなる。そのため、アンモニアが外部に排出されることをより確実に防止できる。
制御部98は、第1判定処理及び第2判定処理の両方で尿素水を噴射可能と判定した場合であって、その他の条件を満たしたときに、尿素水の噴射を尿素水噴射部47へ指示する。また、制御部98は、尿素水の噴射の可否を判定する処理を随時行い、第1判定処理及び第2判定処理の少なくとも一方で尿素水を噴射不可と判定した場合、尿素水の噴射の停止を尿素水噴射部47へ指示する。
ここで、本実施形態では、通常モードとSCRヒーティングモードを切り替えるために、SCR触媒推定温度に2つのモード切替温度(200℃及び240℃、図8)を設けている。そのため、SCR触媒推定温度は、この2つのモード切替温度の間となるように制御される。ここで、第1尿素水噴射判定温度を補正により上昇させた場合(例えば200℃から220℃にした場合)、尿素水の噴射頻度が低下する。それを考慮し、本実施形態では、第1尿素水噴射判定温度を上昇させた場合、それに応じてモードを切り替えるための2つのモード切替温度を上昇させる(図8のS102及びS104に換算する補正量β)。なお、補正量βは、第1尿素水噴射判定温度の補正量αと同じ値であっても良いし、異なっていても良い。
次に、上記で説明したエンジン100を農業機械及び建設機械に適用した例について説明する。なお、以下の説明では、単に「左側」「右側」等というときは、車両が前進する方向に向かって左側及び右側を意味するものとする。
初めに、図10及び図11を参照して、上記のエンジン100を備えるトラクタ110について説明する。トラクタ110は、農業作業用の作業車両であり、ロータリ、ローダ、プラウ、ボックススクレーパー等の各種の作業機(アタッチメント)を必要に応じて装着し、作業機を用いた各種の作業を行うことができる。
トラクタ110は、車体111と、左右一対の前輪112と、左右一対の後輪113と、を備える。車体111の前部にはボンネット114が配置されており、当該ボンネット114の内部にはエンジン100が配置されている。
ボンネット114の内部であって、冷却ファン4の向かいにはラジエータ5が配置されている。また、ボンネット114の内部には、エアクリーナ122が配置されている。エアクリーナ122は、吸入された外気に含まれる塵等を除去する。
左右一対の後輪113の間には、ミッションケース115が配置されている。エンジン100の出力は、このミッションケース115内の変速装置によって変速されて、後輪113及び作業機へ伝達される。
ミッションケース115の後部には、ロワーリンク116、トップリンク117、及びPTO軸118が配置されている。また、ミッションケース115の上部には、作業機は、ロワーリンク116及びトップリンク117に連結され、PTO軸118によって駆動される。
ミッションケース115の上方であってボンネット114の後方には、オペレータが搭乗するためのキャビン119が配置されている。キャビン119の内部には、運転座席が設けられており、運転座席の近傍にはオペレータが操作するための多数の操作具が設けられている。
キャビン119の下方には、尿素水タンク120及び燃料タンク121が配置されている。尿素水タンク120は、尿素水噴射管47bによって尿素水噴射ノズル47aに接続されている。
次に、図12及び図13を参照して、上記のエンジン100を備えるコンバイン130について説明する。コンバイン130は、いわゆる自脱型コンバインとして構成されている。コンバイン130の機体131の下部には、機体131を走行させるためのクローラ部132が設けられている。また、コンバイン130は、稲、麦等の穀稈の株元を刈り取るための刈取部133を機体131の前方に備えている。
刈取部133は、複数の分草体と刈取刃を備えている。複数の分草体は、穀稈を刈り取るべき幅を規定したり、倒れた状態の穀稈をすくい上げたりするものである。分草体の間に差し込まれた穀稈は、その根元付近を刈取刃によって切断され、刈り取られる。
また、刈取部133は、図略の昇降機構を介して、コンバイン130の機体131に連結されている。この昇降機構は、刈取部133を上下に昇降駆動することが可能に構成されている。これにより、圃場の傾斜等に応じて刈取部133の高さを適切な高さに調整し、刈取りを適切に行うことができる。
刈取部133の後方であってコンバイン130の左側には、脱穀装置134が設けられている。脱穀装置134は、刈取部133で刈り取った穀稈を脱穀する。脱穀装置134の下方には選別装置135が設けられている。選別装置135は、脱穀装置134で脱穀された穀粒を選別して取り出す。
刈取部133の後方であってコンバイン130の右側には、グレンタンク136が設けられている。グレンタンク136は、選別装置135で選別された穀粒を貯留する。グレンタンク136に貯留された穀粒は、排出オーガ137によって外部に排出される。
グレンタンク136の前方には、オペレータが搭乗するためのキャビン138が配置されている。このキャビン138の内部には、運転座席が設けられており、運転座席の近傍にはオペレータが操作するための多数の操作具が設けられている。
キャビン138の下方には、エンジン100が配置されている。エンジン100の冷却ファン4の向かいにはラジエータ5が配置されている。また、キャビン138の後方には、プリクリーナ139が配置されている。プリクリーナ139から吸入された外気は、図略のエアクリーナを経由することで塵等が除去される。なお、エンジン100の近傍には、尿素水タンク140が配置される。
また、脱穀装置134及び選別装置135の後方には、排藁チェーン141が設けられている。排藁チェーン141は、穀稈から穀粒が取り除かれた藁屑を後方へ搬送する。排藁チェーン141によって搬送された排藁は、コンバイン130の後方に設けられた排藁カッタ装置142によって適宜の長さに切り刻まれ、機外へ排出される。
次に、図14及び図15を参照して、上記のエンジン100を備えるスキッドステアローダ150について説明する。スキッドステアローダ150は、後述するローダ装置151を装着し、ローダ作業を行うように構成されている。スキッドステアローダ150には、左右一対のクローラ部152が装着されている。クローラ部152の上方には、ボンネット153が配置されている。
ボンネット153の内部には、エンジン100が配置されている。また、ボンネット153の内部であって、エンジン100の冷却ファン4の向かいにはラジエータ5が配置されている。また、ボンネット153の内部であってエンジン100の前方には、尿素水タンク154が配置されている。
エンジン100の前方には、油圧ポンプ155と、トランスミッション装置156と、が配置されている。エンジン100の動力は、トランスミッション装置156を介して、クローラ部152に伝達される。
ボンネット153の前方には、オペレータが搭乗するキャビン157が配置されている。キャビン157の内部には運転座席が設けられており、運転座席の近傍にはオペレータが操作するための多数の操作具が設けられている。
また、ローダ装置151は、左右両側に配置されたローダポスト158と、各ローダポスト158の上部に回動可能に連結された左右一対のリフトアーム159と、リフトアーム159の先端部に回動可能に連結されたバケット160とを有している。
各ローダポスト158とリフトアーム159との間には、リフトアーム159を上下に回動させるためのリフトシリンダ161がそれぞれ設けられている。リフトアーム159とバケット160との間には、バケット160を上下に回動させるためのバケットシリンダ162が設けられている。オペレータが図略の操作具を操作することにより、油圧ポンプ155の油圧力が制御される。これにより、リフトシリンダ161又はバケットシリンダ162が伸縮して、リフトアーム159又はバケット160が回動する。オペレータは、このようにして土砂等の運搬作業を行うことができる。
以上に説明したように、本実施形態のエンジン100は、尿素水噴射部47と、SCR触媒62と、SCR触媒入口温度センサ90と、大気圧センサ82及び吸気温度センサ84と、制御部98と、を備える。尿素水噴射部47は、排気ガスが通過する経路(尿素混合管45)に尿素水を噴射する。SCR触媒62は、排気ガスが通過する経路に配置され、尿素水噴射部47が噴射した尿素から得られるアンモニアを取り込むことで、当該SCR触媒62を通過する排気ガスに含まれる窒素酸化物を除去する。SCR触媒入口温度センサ90は、排気ガスの温度を検出する。大気圧センサ82及び吸気温度センサ84は、外部の環境に関する値である環境値を検出する。制御部98は、SCR触媒入口温度センサ90が検出した排気ガスの温度と、大気圧センサ82及び吸気温度センサ84が検出した環境値と、に基づいて尿素水噴射部47による尿素水の噴射の可否を判定する第1判定処理を行う。
これにより、排気ガスの温度だけでなく環境値に基づいて尿素水の噴射の可否を判定することで、例えば寒冷地や高地であっても、固体堆積物が排気管に堆積することを防止できる。また、噴射された尿素水が堆積せずにSCR触媒に供給されるので、SCR触媒62のアンモニアの吸着量を適切に管理することができる。
また、本実施形態のエンジン100は、SCR触媒62よりも排気ガスの排出方向の下流側に配置され、アンモニアを酸化するアンモニア酸化触媒63を備える。制御部98は、SCR触媒温度を推定し、推定したSCR触媒温度に基づいて尿素水噴射部47による尿素水の噴射の可否を判定する第2判定処理を行う。
これにより、上記の第2判定処理を行うことで、アンモニアが外部に排出されることを防止できる。
また、本実施形態のエンジン100において、制御部98は、排気ガスが第1尿素水噴射判定温度を超えたときに尿素水が噴射可能と判定する。制御部98は、外気温度又は外気温度に連動する温度が低くなるほど、第1尿素水噴射判定温度が高くなるように補正する。
これにより、尿素混合管45の内側の表面の温度に直接的に影響を及ぼす外気温度に基づいて尿素水の噴射を開始する温度を決定できるので、固体堆積物が排気管に堆積することを一層確実に防止できる。
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
上記実施形態では、第1判定処理と第2判定処理の両方の条件を満たしたときに尿素水を噴射可能と判定するが、何れか一方の条件を満たしたときに尿素水を噴射可能と判定しても良い。
上記実施形態では、SCR触媒推定温度に基づいて通常モードとSCRヒーティングモードを切り替えるが、その他の条件として、大気圧、吸気温度、冷却水温度、エンジン運転状況、及びエンジンの始動完了からの経過時間等を用いることもできる。
上記実施形態では、DPF装置50及びSCR装置60がエンジン100の上部に位置しているが、DPF装置50及びSCR装置60の配置は任意であり、例えばシリンダブロック2から比較的離れた位置に配置されていても良い。また、本明細書では、仮にDPF装置50及びSCR装置60がシリンダブロック2から離れていても、それらを含めて「エンジン」に該当するものとする。
上記では、過給機を備えるディーゼルエンジンに本発明を適用する例を示したが、本発明は、自然吸気式のディーゼルエンジンにも適用することができる。