JP6299804B2 - 超伝導安定化材、超伝導線及び超伝導コイル - Google Patents
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Description
この超伝導線は、Nb−Ti、Nb3Snなどの超伝導体からなる複数の素線を、超伝導安定化材を介在させて束ねた多芯構造を有している。また、超伝導体と超伝導安定化材とを積層したテープ状の超伝導線も提供されている。さらに安定性と安全性を高めるために、純銅からなるチャンネル部材を備えた超伝導線も提供されている。
特許文献1においては、99.999%以上を有する銅材を温度650〜800℃、富不活性ガス雰囲気中で少なくとも30分以上加熱することにより、高い残留抵抗比(RRR)の銅材を得ることが記載されている。
特許文献2においては、特定の元素(Fe,P,Al,As,Sn及びS)の含有量を規定した不純物濃度が非常に低い高純度銅が提案されている。
また、特許文献3においては、酸素濃度の低い高純度銅にZrを微量添加したCu合金が提案されている。
ここで、特許文献1においては、99.999%以上の純度を有する純銅を用いて高い残留抵抗比(RRR)を有する純銅、又は銅合金を製造する方法を示しているが、99.999%以上の純銅を原料として用いることで、製造コストが大幅に上昇してしまうといった問題点があった。
また、特許文献2においては、特定の元素(Fe,P,Al,As,Sn及びS)の含有量を0.1ppm未満に限定しているが、これらの元素を0.1ppm未満にまで低減することは容易ではなく、やはり製造プロセスが複雑となるといった問題があった。
さらに、特許文献3においては、酸素及びZrの含有量を規定しているが、酸素及びZrの含有量を制御することは難しく、高い残留抵抗比(RRR)を有する銅合金を安定して製造することが困難であるといった問題があった。
さらに、最近では、従来にも増して高い残留抵抗比(RRR)を有する超伝導安定化材を備えた超伝導線が要求されている。
また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅を用いているので、過度に銅の高純度化を図る必要がなく、製造プロセスが簡易となり、製造コストを低減することができる。
なお、本発明において、上記の化合物は、MgS,MgSO4,MnS,TiS,YS,Y2SO2,ZrSのSの一部がTe,Seに置換されたものも含む。
不可避不純物の中でも、Fe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,Pといった特定不純物の元素は、残留抵抗比(RRR)を低下させる作用を有している。そこで、これらの元素の含有量を上述のように規定することで、確実に残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。
この場合、S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが上述の範囲内とされているので、銅中のS,Se,Teを、MgS,MgSO4,MnS,TiS,YS,Y2SO2,ZrSから選択される1種又は2種以上を含む化合物として確実に固定することができ、母相中にS,Se,Teが固溶することによる残留抵抗比(RRR)の低下を確実に抑制することができる。
この場合、残留抵抗比(RRR)が250以上と比較的高いことから、極低温での抵抗値が十分に低く、超伝導体の超伝導状態が破れた際に電流を十分に迂回させることができ、超伝導安定化材として特に優れている。
この構成の超伝導線においては、上述のように、高い残留抵抗比(RRR)を有する超伝導安定化材を備えているので、超伝導体の超伝導状態が破れた場合であっても、超伝導体を流れている電流を超伝導安定化材に確実に迂回させることができ、超伝導体全体に常伝導状態が伝播してしまうことを抑制できる。
この構成の超伝導コイルにおいては、上述のように、高い残留抵抗比(RRR)を有する超伝導安定化材を備えた超伝導線を用いているので、安定して使用することが可能となる。
図1に示すように、本実施形態における超伝導線10は、コア部11と、このコア部11の外周側に配置された複数のフィラメント12と、これら複数のフィラメント12の外周側に配置される外殻部13と、を備えている。
ここで、超伝導安定化材20は、図2に示すように、超伝導体からなる素線15の一部において超伝導状態が破れて常伝導領域Aが発生した場合に、超伝導体からなる素線15を流れる電流Iを一時的に迂回させるものである。
なお、上述のMgS,MgSO4,MnS,TiS,YS,Y2SO2,ZrSにおいては、Sの一部がTe,Seに置換されていてもよい。Te,Seは、Sに比べて含有量が少量であることから、Te、Seが単独でMg,Mn,Ti,Y,Zr等と化合物を形成することが少なく、上述の化合物のSの一部を置換した状態で化合物を形成することになる。
また、本実施形態である超伝導安定化材20においては、残留抵抗比(RRR)が250以上とされている。
銅に含まれる不可避不純物のうちS,Se,Teは、銅中に固溶することによって残留抵抗比(RRR)を大きく低下させる元素である。このため、残留抵抗比(RRR)を向上させるためには、これらS,Se,Teの影響を排除する必要がある。
ここで、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素は、S,Se,Teと反応性が高い元素であることから、S,Se,Teと化合物を生成することによって、これらS,Se,Teが銅中に固溶することを抑制することが可能となる。これにより、残留抵抗比(RRR)を十分に向上させることができる。
なお、S,Se,Teを確実に固定するためには、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素の含有量の下限を3.5質量ppm以上とすることが好ましく、4.0質量ppm以上とすることがさらに好ましい。一方、残留抵抗比(RRR)の低下を確実に抑制するためには、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素の含有量の上限を50質量ppm以下にすることが好ましく、20質量ppm以下とすることがさらに好ましく、さらには15質量ppm以下とすることが好ましい。
ガス成分(O,H,C,N,S)を除く不可避不純物については、その濃度を低くすることで残留抵抗比(RRR)が向上することになる。一方、不可避不純物の濃度を必要以上に低減しようとすると、製造プロセスが複雑となって製造コストが大幅に上昇してしまう。そこで、本実施形態では、ガス成分(O,H,C,N,S)を除く不可避不純物の濃度を総計で5質量ppm以上100質量ppm以下の範囲内に設定している。
ガス成分(O,H,C,N,S)を除く不可避不純物の濃度を総計で5質量ppm以上100質量ppm以下の範囲内とするために、原料としては、純度99〜99.999質量%の高純度銅や無酸素銅(C10100,C10200)を用いることができる。ただし、Oが高濃度にあると、Mg,Mn,Ti,Y,ZrがOと反応してしまうため、O濃度を20質量ppm以下とすることが好ましく、更に好ましくは10質量ppm以下である。より好ましくは5質量ppm以下である。
なお、製造コストの上昇を確実に抑制するためには、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含まない不可避不純物の下限を7質量ppm以上とすることが好ましく、10質量ppm以上とすることがさらに好ましい。また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを不可避不純物に加算した場合、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含む不可避不純物の濃度の総計は10質量ppm超えとすることが好ましく、更に好ましくは15質量ppm以上である。より好ましくは20質量ppm以上である。一方、残留抵抗比(RRR)を確実に向上させるためには、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含まない不可避不純物の上限を90質量ppm以下とすることが好ましく、80質量ppm以下とすることがさらに好ましい。また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含む不可避不純物の上限を110質量ppm以下とすることが好ましい。
上述のように、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素は、S,Se,Teといった元素と化合物を生成することにより、S,Se,Teといった元素が銅中に固溶することを抑制している。
よって、母相内部に、MgS,MgSO4,MnS,TiS,YS,Y2SO2,ZrSから選択される1種又は2種以上を含む化合物(Sの一部がTe、Seに置換されたものを含む)が存在することにより、S、Se、Teが固定され、残留抵抗比(RRR)を確実に向上させることが可能となる。
なお、本実施形態においては、S,Se,Teといった元素の含有量が十分に少ないことから、上述の化合物(粒径0.1μm以上)の個数密度の上限は0.1個/μm2以下となり、更に好ましくは0.09個/μm2以下である。より好ましくは0.08個/μm2以下である。
不可避不純物のうちFe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,Pといった特定不純物の元素は、残留抵抗比(RRR)を低下させる作用を有することから、これらの元素の含有量をそれぞれ規定することで、残留抵抗比(RRR)の低下を確実に抑制することが可能となる。そこで、本実施形態では、Feの含有量を10質量ppm以下、Niの含有量を10質量ppm以下、Asの含有量を5質量ppm以下、Agの含有量を50質量ppm以下、Snの含有量を4質量ppm以下、Sbの含有量を4質量ppm以下、Pbの含有量を6質量ppm以下、Biの含有量を2質量ppm以下、Pの含有量を3質量ppm以下に規定している。
上述のように、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素は、S,Se,Teといった元素と化合物を生成することになる。ここで、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xが0.5未満では、添加元素の含有量が不足し、S,Se,Teといった元素を十分に固定できなくなるおそれがある。一方、S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが100を超えると、S,Se,Teと反応しない余剰の添加元素が多く存在することになり、加工性が低下してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xを0.5以上100以下の範囲内に規定している。
なお、S,Se,Teといった元素を化合物として確実に固定するためには、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xの下限を0.75以上とすることが好ましく、1.0以上とすることがさらに好ましい。また、加工性の低下を確実に抑制するためには、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xの上限を75以下とすることが好ましく、50以下とすることがさらに好ましい。
本実施形態である超伝導安定化材20においては、残留抵抗比(RRR)が250以上とされていることから、極低温において、抵抗値が低く電流を良好に迂回させることが可能となる。残留抵抗比(RRR)は、280以上であることが好ましく、300以上であることがさらに好ましい。より好ましくは400以上である。
なお、連続鋳造圧延法(例えばSCR法)等によって、本実施形態で示した組成の荒引銅線を製造し、これを素材として本実施形態である超伝導安定化材20を製造してもよい。この場合、本実施形態である超伝導安定化材20の生産効率が向上し、製造コストを大幅に低減することが可能となる。ここでいう連続鋳造圧延法とは、例えばベルト・ホイール式連続鋳造機と連続圧延装置とを備えた連続鋳造圧延設備を用いて、銅荒引線を製造し、この銅荒引線を素材として引抜銅線を製造する工程のことである。
また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅を用いているので、過度に銅の高純度化を図る必要がなく、製造プロセスが簡易となり、製造コストを低減することができる。
特に、本実施形態では、粒径0.1μm以上の上述の化合物の個数密度が0.001個/μm2以上とされているので、S,Se,Teを確実に化合物として固定でき、残留抵抗比(RRR)を十分に向上させることができる。
そして、本実施形態である超伝導線10は、上述のように残留抵抗比(RRR)が高い超伝導安定化材20を備えているので、超伝導体からなる素線15において超伝導状態が破れた常伝導領域Aが発生した場合であっても電流を超伝導安定化材20に確実に迂回させることができ、安定して使用することができる。
例えば、超伝導線10を構成するコア部11及び外殻部13についても、本実施形態である超伝導安定化材20と同様の組成の銅材によって構成してもよい。
例えば図3に示すように、テープ状の基材113の上に超伝導体115及び超伝導安定化材120を積層配置した構造の超伝導線110であってもよい。
さらに、図4に示すように、複数のフィラメント12を束ねた後、純銅からなるチャンネル部材220に組み込んだ構造の超伝導線210であってもよい。
本実施例では、研究室実験として、純度99.9質量%以上99.9999質量%以下の高純度銅及びMg,Mn,Ti,Y,Zrの母合金を原料として用いて、表1記載の組成となるように調整した。また、Fe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,P及びその他の不純物については、純度99.9質量%以上のFe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,Pと純度99.99質量%の純銅とから各々の元素の母合金を作成し、その母合金を用いて調整した。
なお、本実施例では、溶解鋳造の過程において不純物元素の混入も認められた。
これらの評価用線材を用いて、以下の項目について評価した。
四端子法にて、293Kでの電気比抵抗(ρ293K)および液体ヘリウム温度(4.2K)での電気比抵抗(ρ4.2K)を測定し、RRR=ρ293K/ρ4.2Kを算出した。
残留抵抗比(RRR)を測定したサンプルを用いて、成分分析を以下のようにして実施した。ガス成分を除く元素について、10質量ppm未満の場合はグロー放電質量分析法、10質量ppm以上の場合は誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた。また、Sの分析には赤外線吸収法を用いた。Oの濃度は全て10質量ppm以下であった。なお、Oの分析は赤外線吸収法を用いた。
SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて粒子観察し、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を実施した。化合物の分散状態が特異ではない領域について20,000倍(観察視野:20μm2)で観察した。50視野(観察視野:1000μm2))の撮影を行った。金属間化合物の粒径については、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とした。そして、粒径0.1μm以上の化合物について、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて組成を分析し、Mg,Mn,Ti,Y,ZrとSを含む化合物であることを確認した。
さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子線回折を行い、MgS,MgSO4,MnS,TiS,YS,Y2SO2,ZrS化合物を同定した。これらの化合物の内MgS,MnS,YS,はNaCl型、TiSはNiAs型、MgSO4はCuSO4型、Y2SO2はCe2SO2型の結晶構造を有することを確認した。なお、表2の「化合物の有無」の欄においては、上述の観察の結果、MgS,MgSO4,MnS,TiS,YS,Y2SO2,ZrSの化合物が確認された場合を「○」、確認されなかった場合を「×」と表記した。
比較例2は、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素が518質量ppmと本発明の範囲を超えており、残留抵抗比(RRR)が30と低かった。
また、図5に示すように、Zrを添加した場合には、NaCl型の結晶構造を有するZrSを含む化合物が観察された。
さらに、図6に示すように、Mgを添加した場合には、NaCl型の結晶構造を有するMgSを含む化合物が観察された。
以上のことから、本発明によれば、製造プロセスが比較的簡単で廉価で製造でき、残留抵抗比(RRR)が十分に高い超伝導安定化材を提供できることが確認された。
20、120 超伝導安定化材
Claims (5)
- 超伝導線に用いられる超伝導安定化材であって、
Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素を合計で3質量ppm以上100質量ppm以下の範囲内で含有し、残部がCu及び不可避不純物とされるとともに、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く前記不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅材からなり、
母相内部に、MgS,MgSO4,MnS,TiS,YS,Y2SO2,ZrSから選択される1種又は2種以上を含む化合物が存在し、
前記不可避不純物であるFeの含有量が10質量ppm以下、Niの含有量が10質量ppm以下、Asの含有量が5質量ppm以下、Agの含有量が50質量ppm以下、Snの含有量が4質量ppm以下、Sbの含有量が4質量ppm以下、Pbの含有量が6質量ppm以下、Biの含有量が2質量ppm以下、Pの含有量が3質量ppm以下とされていることを特徴とする超伝導安定化材。 - S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と、Mg,Mn,Ti,Y,Zrから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが、0.5≦Y/X≦100の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の超伝導安定化材。
- 残留抵抗比(RRR)が250以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超伝導安定化材。
- 超伝導体を含む素線と、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の超伝導安定化材と、を備えていることを特徴とする超伝導線。
- 請求項4に記載の超伝導線が巻枠の周面に巻回されてなる巻線部を備えた構造を有することを特徴とする超伝導コイル。
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