JP6292640B2 - 臓器保存液 - Google Patents
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Description
(1)塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、及びD−グルコースの配合物を含有する臓器保存液。
(2)配合物が、さらにグリシンを含むことを特徴とする上記(1)記載の臓器保存液。
(3)配合物が、さらにL−システインを含むことを特徴とする上記(2)記載の臓器保存液。
(4)配合物が、さらに鉄化合物を含むことを特徴とする上記(3)記載の臓器保存液。
(5)配合物におけるL−アスコルビン酸濃度が0.2〜0.3mMであり、L−アスコルビン酸リン酸エステル濃度が0.4〜0.5mMであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の臓器保存液。
(6)配合物におけるリン酸水素二ナトリウム濃度が35〜50mMであり、リン酸二水素ナトリウム濃度が12〜18mMであることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか記載の臓器保存液。
(7)浸透圧が326〜363mOsm/kgになるまでD−グルコースが配合されていることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか記載の臓器保存液。
(8)配合物におけるグリシン濃度が5〜15mMであることを特徴とする上記(2)〜(7)のいずれか記載の臓器保存液。
(9)配合物におけるL−システイン濃度が0.5〜0.7mMであることを特徴とする上記(3)〜(8)のいずれか記載の臓器保存液。
(10)鉄化合物が、硫酸第一鉄であることを特徴とする上記(4)〜(9)のいずれか記載の臓器保存液。
(11)上記(1)〜(10)のいずれか記載の臓器保存液を用いて臓器を保存する方法。
新規に調製された3種類の臓器保存液(保存液(a)〜保存液(c))を検討対象とした。蒸留水に添加・溶解した成分の詳細を以下の表1に示す。これらの保存液に、従来品の保存液において規定されている最大阻血許容時間を超えて、移植用臓器を浸漬した場合に、移植後に臓器の機能が維持できるか否かについて検討した。具体的には、上記3種類の保存液に浸漬したドナーマウスの心臓が、同系統マウスに移植された場合に、移植後再拍動を開始するまでの時間を指標とした。周知の現行品としてユーロコリンズ液(EC液)、ヒスチジン−トリプトファン−ケトグルタル酸液(HTK液)、ウィスコンシン大学液(University of Wisconsin:UW液)の保存液3種類を比較検討のため用いた。これら3種類の現行品の成分の詳細を以下の表2に示す。
移植する心臓を提供するドナーマウス、及びドナーマウスから摘出した心臓を移植するレシピエントマウスとして、C57BL/6NCrSlc((H2−Kb)系統のマウス(雄、6〜10週齢)を用いた。マウス異所性心臓移植の手術の手順は、Wuら(European Heart Journal (2011) 32, 509-516)の記載を参考としたが、以下に概要を示す。
上記各保存液に24時間浸漬後の摘出心臓について、異所性心臓移植をした各マウス個体について、移植された心臓の拍動が開始されるまでの時間を測定した。これ以降拍動が開始されたか否かは触診により判断する。結果を図1に示す。
図1より明らかなとおり、UW液の再拍動開始時間は240秒程度で、現行品3種類のうち再拍動開始時間が最短であった一方で、保存液(c)の再拍動開始時間は100秒程度であり、UW液の半分以下の時間に短縮された。また、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム・12水和物、リン酸二水素ナトリウム・2水和物、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩n水和物、L−システイン塩酸塩1水和物、グリシン、D(+)−グルコースを含む保存液(c)からL−システイン塩酸塩1水和物を除いた保存液(b)はUW液と同等程度の再拍動開始時間であった。保存液(c)から、L−システイン塩酸塩1水和物並びにグリシンを除いた保存液(a)もEC液よりも再拍動開始時間が短縮した。したがって、保存液(a)〜(c)のいずれの保存液に移植臓器を浸漬した場合であっても、現行品である、HTK液、EC液、UW液の3種類を用いる場合と比較して、再拍動開始時間が短縮したことが確認され、臓器の血流が止まってから臓器を移植した後、血流が再開できるまでの時間である臓器の最大阻血許容時間が現行品を用いて保存を行う場合よりも長くなることが示唆された。
各保存液への浸漬時間を48時間とし、比較検討のため現行品のHTK液、EC液を用いた他は、上記実施例1(マウス異所性心臓移植1)の手順にしたがい、マウス異所性心臓移植を行った。異所性心臓移植をした各マウス個体について、移植された心臓の拍動が開始されるまでの時間を測定した。結果を図2に示す。
図2より明らかなとおり、HTK液、EC液ともに再拍動開始時間は1500秒以上であった一方で、保存液(a)の再拍動開始時間は500秒程度であり、保存液(b)の再拍動開始時間は1250秒程度であり、保存液(c)の再拍動開始時間は600秒程度であった。したがって、保存液(a)〜(c)のいずれも現行品と比較して、高い再拍動開始時間短縮効果を示した。しかしながら、浸漬時間を48時間とした場合、レシピエントマウスの死亡率は高くなった。
上記保存液(c)に硫酸鉄(II)を添加した保存液(d)を鉄添加シリーズ保存液として、さらに調製し検討を続けた。各保存液の成分の詳細を以下の表3に示す。
図3からも明らかなとおり、現行品のUW液の再拍動開始時間は230秒程度であった一方で、保存液(d)3の再拍動開始時間は12秒、保存液(d)6の再拍動開始時間は約144秒であり、現行品UW液と比較して、有意に再拍動開始時間短縮効果を示した。とりわけ保存液(d)3は、上記実施例1における保存液(c)よりもさらに高い再拍動開始時間短縮効果を示した。
上記のように、24時間冷保存液に浸漬した後に心臓を移植し、その後心臓が生着しているかを心臓が拍動しているかどうかを触診することで判断し、拍動が停止していることを確認した日を心臓脱落日とした。すなわち、上記異所性心臓移植をしたマウス個体について、移植心臓が拍動停止するまでの時間について計測した。図4からわかるように、保存液(d)3及び保存液(d)6は、UW液と同様に、心臓の生着を確認することができた。
鉄添加シリーズ保存液として、保存液(d)3、保存液(d)6、保存液(d)7を用い、比較検討のため現行品のUW液を用い、各保存液への浸漬時間を48時間とした他は、上記マウス異所性心臓移植1の手順にしたがい、マウス異所性心臓移植を行った。異所性心臓移植をした各マウス個体について、移植心臓の拍動が開始されるまでの時間を測定した。結果を図5に示す。
UW液において、移植心臓の再拍動が開始された個体はなかった。各保存液における再拍動開始時間は、保存液(d)3が260秒程度、保存液(d)6が90秒程度、保存液(d)7が820秒程度でいずれも移植心臓の再拍動が起こった。
UW液に浸漬した摘出心臓を移植したマウスは、再拍動がなかった;
保存液(d)3に浸漬した摘出心臓を移植したマウス(n=5)では、長期拍動マウスがあった。より詳細には、初日(0日)に2匹、1日目に1匹、2日目に1匹の移植心臓が拍動停止したが、60日経過時点で移植心臓が拍動を続ける個体が1匹あった;
保存液(d)6に浸漬した摘出心臓を移植したマウス(n=1)では、長期拍動マウスがあった。より詳細には、60日経過時点で移植心臓が拍動を続ける個体が1匹あった;
保存液(d)7に浸漬した摘出心臓を移植したマウス(n=6)では、長期拍動マウスがあった。より詳細には、7日目に1匹の移植心臓が拍動停止したが、30日経過時点で移植心臓が拍動を続ける個体が5匹あった;
これ以降、HTKをコントロールとして、上記保存液(c)について、さらに検討した。
保存液として、保存液(c)又はHTK液を用い、ドナーマウスからの摘出心臓が24時間又は48時間保存液に浸漬されたことの他は、上記実施例1(マウス異所性心臓移植1)の手順で、マウス異所性心臓移植の手術を完了し、異所性心臓移植を行ったマウスを調製した。
異所性心臓移植をした各マウス個体について、移植された心臓の拍動が開始されるまでの時間を測定した。なお、すべての再拍動は30分以内に計測した。再灌流後30分経っても拍動を開始しない場合、1800秒とカウントした。結果を図7(a)(b)に示す。
図7からも明らかなとおり、摘出心臓の保存液への浸漬時間が24時間(図7(a)参照)及び48時間(図7(b)参照)のいずれの場合でも、摘出心臓をHTK液に浸漬したよりも、摘出心臓を保存液(c)に浸漬した方が、レシピエントマウスに移植された心臓の再拍動を開始するまでの時間が短かった。浸漬時間が24時間の場合、保存液(c)に浸漬した移植心臓の再拍動開始時間(約100秒)は、HTK液に浸漬した移植心臓の再拍動開始時間(約300秒)の約3分の1であり、浸漬時間が48時間の場合、保存液(c)に浸漬した移植心臓の再拍動開始時間(約600秒)は、HTK液に浸漬した移植心臓の再拍動開始時間(約1500秒)の約5分の2であった。
上記実施例5(マウス異所性心臓移植5)と同様の手順で、手術を完了し、異所性心臓移植を行ったマウスを調製した。
以下の各マウスについて、検討を行った。
(1)保存液(c)に24時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス (c−24hr−POH24);
(2)保存液(c)に48時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス (c−48hr−POH24);
(3)HTK液に24時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス (HTK−24hr−POH24);
(4)HTK液に48時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス (HTK−48hr−POH24);
(以下、上記4種類のマウスをまとめて「(1)〜(4)のマウス」ということがある。)
さらに、以下のマウスをコントロールとして調製した。
(5)摘出心臓を保存液に浸漬せずに移植し手術完了から24時間経過したマウス (Fresh);
(6)移植手術をしていないマウス(Naive);
図8からも明らかなとおり、血清中のLDHの産生量については、c−48hr−POH24が、HTK−48hr−POH24よりも有意に少なかった(図8(a)参照)。また、血清中のCPKの産生量についても、c−48hr−POH24は、HTK−48hr−POH24よりも少なかった(図8(b)参照)。c−24hr−POH24と、HTK−24hr−POH24とでは、血清中のLDHの産生量やCPKの産生量に差は生じなかった。以上の結果より、保存液に48時間浸漬した場合には、保存液(c)に浸漬した心臓を異所移植したマウスにおいては、HTK液に浸漬した心臓を異所移植したマウスよりも、血清中のLDHの産生が有意に抑制され、また、血清中のCPKの産生も抑えられることが確認された。
上記(1)〜(4)のマウス、及び、摘出心臓を保存液に浸漬せずに移植し手術完了から24時間経過したマウス(fresh)の各マウスについて、移植した心臓がいつまで生着するかを確認した。移植心臓の拍動を触診により確認し、拍動が停止していたら機能停止により臓器が脱落した(生着しなかった)とみなした。最初の2週間は毎日触診確認し、その後2.5か月は週に2回触診確認した。結果を図9に示す。
図9から明らかなとおり、保存液(c)に24時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス(c−24hr(n=4))は術後60日目において100%生着していたのに対し、HTKに24時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス(HTK−24hr(n=7))の生着率は50%強にとどまった。また、保存液(c)に48時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス(c−48hr(n=4))は60日後でも50%が生着していたのに対し、HTK液に48時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス(HTK−48hr(n=0))は初日(0日)にすべての移植心臓が脱落した。以上の結果より、浸漬時間が24時間及び48時間のいずれにおいても、保存液(c)に浸漬された心臓の方が、HTK液に浸漬された心臓よりも、長期生着率が高いことが確認された。
上記実施例1(マウス異所性心臓移植1)の手順にしたがって調製された摘出心臓について、ATP量上昇効果についての検討を行った。
1)保存液(c)に24時間浸漬された摘出心臓(移植せず)
(c−24hr−w/o OPE);
2)保存液(c)に48時間浸漬された摘出心臓(移植せず)
(c−48hr−w/o OPE);
3)HTK液に24時間浸漬された摘出心臓(移植せず)
(HTK−24hr−w/o OPE);
4)HTK液に48時間浸漬された摘出心臓(移植せず)
(HTK−48hr−w/o OPE);
5)保存液(c)に48時間浸漬された摘出心臓をマウスに移植し、移植手術完了から24時間経過した移植心臓 (c−48hr−POH24);
6)HTK液に48時間浸漬された摘出心臓をマウスに移植し、移植手術完了から24時間経過した移植心臓 (HTK−48hr−POH24);
7)摘出心臓を保存液に浸漬せずに移植し、移植手術完了から24時間経過した移植心臓 (fresh);
8)切除したばかりの心臓であって、移植していないマウスの心臓 (naive);
図10から明らかなとおり、c−24hr−w/o OPEから抽出されたATP量は、HTK−24hr−w/o OPEから抽出されたATP量よりも少なかった。一方、c−48hr−w/o OPEから抽出されたATP量と、HTK−48hr−w/o OPEから抽出されたATP量とにおいて、有意な差はなかった。c−48hr−POH24から抽出されたATP量は、HTK−48hr−POH24から抽出されたATP量よりも多かった。したがって、摘出後48時間保存液に浸漬された後移植された心臓においては、保存液(c)に浸漬した心臓から抽出されたATP量は、HTKに浸漬した心臓から抽出されたATP量よりも多かった。
上記実施例5(マウス異所性心臓移植5)と同様の手順で、手術を完了し、異所性心臓移植を行ったマウスを調製した。保存液(a)に24時間浸漬された後レシピエントマウスに移植して1時間経過したマウス(c−24hr−POH1、n=2)の心臓と、HTK液に24時間浸漬された後レシピエントマウスに移植して1時間経過したマウス(HTK−24hr−POH1、n=2)の心臓について、壊死部分抑制効果についての検討を行った。組織の健康な部分のみを赤く染色するTTC(2,3,5-triphenyltetrazolium chloride(Cat:0765; AMRESCO社製))染色を行い、染色されず白いままである壊死部分の表面積を比較した。コントロールとして、切除したばかりの心臓で移植していない心臓(naive、n=2)を用いた。三分割した心臓内部を撮影(EOS、Canon株式会社製)した写真を図11(a)〜(c)に示す。
図11から明らかなとおり、c−24hr−POH1の心臓(図11(c))は、HTK−24hr−POH1の心臓(図11(b))と比較して、壊死していることを示す白い部分が少なく、保存液(c)に摘出心臓を浸漬する方がHTK液に摘出心臓を浸漬するよりも、移植心臓の壊死を防ぐことが確認された。
上記実施例5(マウス異所性心臓移植5)の手順にしたがって調製された摘出心臓について、組織染色による観察を行った。摘出心臓を保存液に浸漬せずに移植し、移植手術完了から24時間経過した移植心臓(fresh)と、HTK液に24時間又は48時間浸漬された後レシピエントマウスに移植して24時間経過したマウス(HTK−24hr−POH24又はHTK−48hr−POH24)の心臓と、保存液(c)に24時間又は48時間浸漬された後レシピエントマウスに移植して24時間経過したマウス(c−24hr−POH24又はc−48hr−POH24)の心臓について、固定切片を作製し、核を青に、細胞質を赤紫に染色する手法である、H/E(ヘマトキシリン/エオシン)染色を行い、心筋の様子を×200にて顕微鏡観察により比較した。筋細胞損傷を染色した結果を図12(下段の写真)左(Myocyte lesion;a-e)に、血管周囲の浮腫を染色した結果を図12(下段の写真)右(Perivascular edema;a'-e')に示す。また、図12(上段のグラフ)に、血管周囲領域に対する血管周囲浮腫領域の割合を示す。
図12(下段の写真)から明らかなとおり、c−24hr−POH24やc−48hr−POH24の心臓は、HTK−24hr−POH24又はHTK−48hr−POH24の心臓と比較して、心筋線維間の浮腫、心筋線維の断裂、壊死心筋細胞核の消失、好中球の浸潤等の点で、心筋の損傷、血管周囲の浮腫ともに軽減されていることが確認された。また、図12(上段のグラフ)から、c−24hr−POH24やc−48hr−POH24の心臓においては、HTK−24hr−POH24又はHTK−48hr−POH24の心臓と比較して、血管周囲領域に対する血管周囲浮腫領域の割合が大幅に低下していることがわかる。
上記(1)〜(4)のマウスの移植された心臓について、各心臓の固定切片を作製し、抗CD68抗体(clone: FA-11, BioLegend社製)を用いて酵素抗体法により、青紫に染色し、CD68陽性であるマクロファージの分布を×200で顕微鏡観察し、組織に集積しているマクロファージの数を比較した。マクロファージが組織に集積していることは、その組織が炎症を起こしていることを示唆する。コントロールとして、切除したばかりの心臓で移植していない心臓(naive)と、摘出心臓を保存液に浸漬せずに移植して24時間経過したマウスの心臓(fresh)を用いた。結果を図13に示す。
図13から明らかなとおり、c−24hr−POH24の心臓は、HTK−24hr−POH24の心臓よりも、また、c−48hr−POH24の心臓は、HTK−48hr−POH24の心臓よりも、CD68陽性であるマクロファージの青紫への染色部分の密度が小さく、心臓へのマクロファージの集積が少なかった。したがって、摘出心臓が浸漬された時間が24時間及び48時間いずれの場合も、摘出心臓を浸漬する保存液として保存液(c)を用いる方が、HTK液を用いるよりも組織における炎症が抑えられることが確認された。
上記(1)〜(4)の各マウスの移植された心臓について、各心臓の固定切片を作製し、細胞死抑制効果についての検討を行った。アポトーシスをおこした細胞を青紫に染色するTUNEL(Terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labelling)染色をCardioTACS in situ Apoptosis Detectionキット(Trevigen社 Cat.4827-30-K)を用いて行ったのち、×100、×200にて顕微鏡観察し、TUNEL陽性細胞の数を比較した。また、任意の9HPF/sample(≧3匹/group)中の染色されたアポトーシス細胞の数を数え、全細胞中における割合を計算し比較した。コントロールとして、切除したばかりの心臓で移植していない心臓(naive)と、摘出心臓を保存液に浸漬せずに移植して24時間経過したマウスの心臓(fresh)を用いた。結果を図14と、図15のグラフに示す。
図14から明らかなとおり、c−24hr−POH24の心臓(図14(d)参照)とHTK−24hr−POHの心臓(図14(c)参照)とにおいては、青紫色の量に有意差はなかったが、HTK−48hr−POH24の心臓(図14(e)参照)は、c−48hr−POH24の心臓(図14(f)参照)よりも有意に青紫色が多かった。また、図15から明らかなとおり、アポトーシスを起こした細胞の割合は、HTK−48hr−POH24の心臓においては、c−48hr−POH24の心臓やfreshの心臓と比べて有意に多かった。したがって、摘出心臓の浸漬時間が48時間である場合は、保存液として保存液(c)を用いる方が、HTK液を用いるよりもアポトーシスが有意に抑制されることが確認された。
上記保存液(c)又はHTK液に24時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス(c−24hr−POH24又はHTK−24hr−POH24)の各心臓について、心臓の固定切片を作製し、DNA損傷抑制効果についての検討を行った。核を褐色に染める抗8−OHdG抗体で酵素抗体法(MOG-100P、Japan Institute for Control of Aging、NIKKEN SEIL Co.)にて染色し、同時に核を青く染めるヘマトキシリンによっても染色した。この切片を×100、×200で顕微鏡観察し、8−OHdG養成細胞の数を比較した。なお、8−OHdGはDNA損傷マーカーであり、活性酸素による細胞の損傷の程度を示す。コントロールとして、切除したばかりの心臓(naive)と、切除してすぐ移植し24時間経過した心臓(fresh-POH24)を用いた。また、任意の9HPF/sample(≧3匹/group)中の染色された8−OHdG陽性細胞の数を数え、全細胞中の割合を計算した。結果を図16の染色図と図17のグラフに示す。
図16より明らかなとおり、c−24hr−POH24の心臓(図16(d)参照)が、HTK−24hr−POH24の心臓(図16(c)参照)よりも褐色に染色された8−OHdG陽性細胞の数が少ないことから、DNA損傷が抑制されており、また、図17から明らかなとおり、HTK−24hr−POH24は、c−24hr−POH24やfresh−POH24と比較して、染色された8−OHdG陽性細胞数が有意に多く、摘出心臓の浸漬時間が24時間である場合は、保存液として保存液(c)を用いる方が、HTK液を用いるよりも活性酸素によるDNA傷害が有意に抑制されることが確認された。なお、摘出心臓の浸漬時間が48時間である場合のデータは、心筋の組織破壊によりバックグラウンドが高くなり陽性細胞のカウントができなかったためデータは示していない。
上記保存液(c)又はHTK液に48時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス(c−48hr−POH24又はHTK−48hr−POH24)について、各々のマウスから採血し、血清を抽出し、DNA損傷抑制効果についての検討を行った。各々のマウスから採血し、血清を抽出した。血清中の8−OHdG量についてHighly Sensitive ELISAキット for 8−OHdG (KOG-HS10/E, Japan Institute for Control of Aging, NIKKEN SEIL Co.社製)を用い比較した。コントロールとして、移植手術をしていないマウス(Naive)と、摘出してすぐ移植し24時間経過したマウス(Fresh)を用いた。結果を図18に示す。
図18から明らかなとおり、摘出心臓の浸漬時間が48時間である場合は、保存液として保存液(c)を用いる方が、HTK液を用いるよりもDNA傷害が有意に抑制されていることが確認された。
上記保存液(c)又はHTK液に48時間浸漬された摘出心臓が移植され手術完了から24時間経過したマウス(c−48hr−POH24又はHTK−48hr−POH24)の移植された心臓について、組織を破砕後total RNAを抽出し、PrimeScript(登録商標)RT reagent Kit(タカラバイオ社製)にてcDNAを逆転写し、Premix Ex TaqTM(タカラバイオ社製)を用いて、定量的RT−PCRにより炎症・酸化ストレスに関連した遺伝子群の発現を比較した。
無処置群として、切除したばかりの心臓(naive)と、切除してすぐ移植し24時間経過したマウスの心臓(fresh)を用いた。結果を図19に示す。図19において、IL−6については左からNaive(n=5),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=5),c−48hr−POH24(n=4);HO−1はNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=4),c−48hr−POH24(n=5);iNOSについては左からNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=4),c−48hr−POH24(n=5);CD11bについては左からNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=4),c−48hr−POH24(n=4);Nrf2については左からNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=3),c−48hr−POH24(n=5);NF−kBについては左からNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=3),c−48hr−POH24(n=5);TNF−αについては左からNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=3),c−48hr−POH24(n=5);Arg−1はNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=3),c−48hr−POH24(n=5);HIF−1αについては左からNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=3),c−48hr−POH24(n=5);TGF−βについては左からNaive(n=6),Fresh(n=3),HTK−48hr−POH24(n=3),c−48hr−POH24(n=5)である。
c−48hr−POH24の心臓がHTK−48hr−POH24の心臓よりも有意に低い値を示した項目は、IL−6:炎症性サイトカイン遺伝子、HO−1:抗酸化タンパクの遺伝子、iNOS:抗酸化タンパクの遺伝子、CD11b:損傷部位に集積するマクロファージのマーカー遺伝子であり、他方、c−48hr−POH24の心臓がHTK−48hr−POH24の心臓よりも有意に高い値を示した項目は、Nrf2、NF−kB、HIF−1α:細胞のストレス応答に関与する転写因子、TGF−β:炎症抑制性サイトカイン遺伝子であり、保存液として保存液(c)を用いる方が、炎症が抑えられることが示唆された。
Claims (11)
- 塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、及びD−グルコースの配合物を含有し、血清アルブミン及び血清のいずれも含有しない臓器保存液。
- 配合物が、さらにグリシンを含むことを特徴とする請求項1記載の臓器保存液。
- 配合物におけるグリシン濃度が5〜15mMであることを特徴とする請求項2記載の臓器保存液。
- 配合物が、さらにL−システインを含むことを特徴とする請求項2又は3記載の臓器保存液。
- 配合物におけるL−システイン濃度が0.5〜0.7mMであることを特徴とする請求項4記載の臓器保存液。
- 配合物が、さらに鉄化合物を含むことを特徴とする請求項4又は5記載の臓器保存液。
- 鉄化合物が、硫酸第一鉄であることを特徴とする請求項6記載の臓器保存液。
- 配合物におけるL−アスコルビン酸濃度が0.2〜0.3mMであり、L−アスコルビン酸リン酸エステル濃度が0.4〜0.5mMであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の臓器保存液。
- 配合物におけるリン酸水素二ナトリウム濃度が35〜50mMであり、リン酸二水素ナトリウム濃度が12〜18mMであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の臓器保存液。
- 浸透圧が326〜363mOsm/kgになるまでD−グルコースが配合されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の臓器保存液。
- 請求項1〜10のいずれか記載の臓器保存液を用いて臓器を保存する方法。
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