以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る制御装置により制御される多種燃料エンジン10(以下、エンジン10という)が搭載された車両1の概略図である。この車両1は、所謂レンジエクステンダーEV車両(シリーズハイブリッド車両であるとも言える)であって、エンジン10と、該エンジン10により駆動されて発電する発電機20と、この発電機20によって発電された電力が蓄電(充電)される高電圧・大容量のバッテリ30と、エンジン10に駆動されることによる発電機20の発電電力及びバッテリ30の蓄電電力(放電電力)の両方又はバッテリ30の放電電力のみで駆動される駆動モータ40とを備えている。本実施形態では、発電機20は、モータの機能も有するモータジェネレータであり、モータとしての発電機20によりエンジン10を駆動して(クランキングして)、エンジン10を始動するようになされている。
発電機20とバッテリ30との間には、第1インバータ50が設けられ、バッテリ30と駆動モータ40との間には、第2インバータ51が設けられている。第1インバータ50と第2インバータ51とは互いに接続され、その接続ラインにバッテリ30が接続されている。発電機20の発電電力は、第1インバータ50を介してバッテリ30に供給されるとともに、第1及び第2インバータ50,51を介して駆動モータ40に供給される。バッテリ30からの放電電力は、第2インバータ51を介して駆動モータ40に供給される。
駆動モータ40は、基本的には、バッテリ30の放電電力で駆動され、車両1の乗員による車両1の加速要求時等のように、バッテリ30の放電電力のみでは駆動モータ40の出力が不足するときには、エンジン10が始動されて発電機20の発電電力も駆動モータ40に供給される。駆動モータ40の出力は、デファレンシャル装置60を介して、駆動輪61(ステアリングホイール62により操舵される左右の前輪)に伝達され、これにより、車両1が走行する。このことで、駆動モータ40は、車両駆動用のモータである。
また、駆動モータ40は、回生発電電力を発生可能なものであって、車両1の減速時に発電機として作動して、その発電した電力(回生発電電力)がバッテリ30に充電される。
バッテリ30の残存容量(SOC)が所定容量以下になると、エンジン10が始動されて発電機20の発電電力でもってバッテリ30が充電される。上記所定容量は、バッテリ30の充電が早急に必要な緊急性を要するレベルよりも多い容量であって、バッテリ30の残存容量として少なすぎずかつ多すぎない適切なレベルに維持できるような容量である。尚、バッテリ30は、車両1の外部の電源による外部充電も可能になされている。
エンジン10は、発電機20を駆動して発電させるために用いられる発電用エンジンである。エンジン10は、水素タンク70に貯留されている水素ガス、及び、CNGタンク71に貯留されている天然ガス(CNG)が、燃料としてそれぞれ供給可能に構成された多種燃料エンジンである。天然ガスは、第1燃料に相当し、水素ガスは、第2燃料に相当する。天然ガスは、水素ガスに対し、着火性が低くかつ単位体積当たりの発熱量が高い燃料である。上記第1燃料としては、天然ガスに限らず、例えばプロパンやブタンであってもよい。
図2に示すように、エンジン10は、ツインロータ式(2気筒)のロータリピストンエンジンであって、2つの繭状のロータハウジング11内(気筒内)に形成されるロータ収容室11aに、概略三角形状のロータ12がそれぞれ収容されて構成されている。2つのロータハウジング11は、3つのサイドハウジング(図示せず)の間に挟み込むようにして該サイドハウジングと一体化されてなり、各ロータハウジング11とその両側のサイドハウジングとで各ロータ収容室11aが形成される。尚、図2では、2つのロータハウジング11(2つの気筒)を展開した状態で図示しており、2つのロータハウジング11内の中央部にそれぞれ描いているエキセントリックシャフト13は、同じものである。
上記各ロータ12は、その三角形の各頂部に図示しないアペックスシールを有し、これらアペックスシールがロータハウジング11のトロコイド内周面に摺接しており、このことで、各ロータ12により各ロータ収容室11a(各気筒)内に3つの作動室(燃焼室に相当)が画成される。そして、各ロータ12は、該ロータ12の3つのアペックスシールが各々ロータハウジング11のトロコイド内周面に当接した状態でエキセントリックシャフト13の周りを自転しながら、該エキセントリックシャフト13の軸心の周りに公転するようになっている。ロータ12が1回転する間に、該ロータ12の各頂部間にそれぞれ形成された作動室が周方向に移動しながら、吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程を行い、これにより発生する回転力がロータ12を介して出力軸としてのエキセントリックシャフト13から出力される。
上記各ロータ収容室11aには、吸気行程にある作動室に開口する吸気開口に連通するように吸気通路14が接続されているとともに、排気行程にある作動室に開口する排気開口に連通するように排気通路15が接続されている。吸気通路14は、上流側では1つであるが、下流側では、2つの分岐路に分岐してそれぞれ上記各ロータ収容室11aに連通している。吸気通路14の上記分岐部よりも上流側(後述の排気ターボ過給機85のコンプレッサ85aよりも上流側)には、ステッピングモータ等のスロットル弁アクチュエータ90により駆動されて吸気通路14の断面積(弁開度)を調節するスロットル弁16が配設されている。このスロットル弁16により、各ロータ収容室11a(吸気行程にある作動室)内への吸気量が調節されることになる。本実施形態における後述のエンジン制御では、スロットル弁16は全開とされる。
吸気通路14の上記分岐部よりも下流側の各分岐路には、上記水素タンク70からの水素ガス、及び、上記CNGタンク71からの天然ガスを、吸気通路14内にそれぞれ噴射する水素用ポート噴射弁17A及びCNG用ポート噴射弁17Bが配設されている。これら水素用及びCNG用ポート噴射弁17A,17Bによりそれぞれ噴射された水素ガス及び天然ガスは、空気と混合された状態で、吸気行程にある作動室に供給される。
水素用及びCNG用ポート噴射弁17A,17Bは、エンジン10の極冷間時(エンジン冷間時の中でもエンジン10の冷却水(以下、エンジン冷却水という)の温度がかなり低くて、予め設定された設定温度よりも低いとき)における始動時に使用される。それ以外のときには、後述の水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bより燃料(水素ガス及び天然ガス)が作動室(燃焼室)内に直接噴射される。エンジン10の極冷間時における始動時においては、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bの燃料噴射開口が、燃料の燃焼により生じた水分の凍結により塞がれている可能性があるので、例外的に水素用及びCNG用ポート噴射弁17A,17Bより燃料を噴射する。尚、エンジン10の始動時及び運転時において、水素用及びCNG用ポート噴射弁17A,17Bのみにより燃料を噴射するか、又は、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bと水素用及びCNG用ポート噴射弁17A,17Bとにより燃料を噴射するようにすることも可能である。逆に、水素用及びCNG用ポート噴射弁17A,17Bをなくすことも可能である。以下の説明では、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bにより燃料(水素ガス及び天然ガス)を噴射するものとする。
上記排気通路15は、上流側では、各ロータ収容室11aにそれぞれ連通するように2つ設けられているが、下流側では、1つに合流されている。この排気通路15の該合流部よりも下流側には、排気ガスを浄化するための低温活性三元触媒81及びNOx吸蔵還元触媒82が配設されている。低温活性三元触媒81は、NOx吸蔵還元触媒82よりも触媒活性化温度が低い三元触媒であって、NOx吸蔵還元触媒82よりも上流側に配設されている。尚、図2において吸気通路14及び排気通路15に図示した矢印は、吸気及び排気の流れを示している。
上記NOx吸蔵還元触媒82は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の貴金属を含んだ担体に、バリウム(Ba)、カリウム(K)等のNOx吸蔵剤を担持させて構成されていて、エンジン10の排気ガス中のNOxをリーン空燃比雰囲気下で吸蔵するとともに、該吸蔵したNOxを、リッチ空燃比雰囲気下で放出して、該NOxを、排気ガス中のHCやCOと反応させて還元する機能を有する。
上記各ロータハウジング11(各気筒)には、水素タンク70からの水素ガスを、ロータ収容室11aの圧縮行程にある作動室(燃焼室)内に直接噴射する水素用直噴噴射弁18Aと、CNGタンク71からの天然ガスを、ロータ収容室11aの圧縮行程にある作動室(燃焼室)内に直接噴射するCNG用直噴噴射弁18Bとが設けられている。各ロータハウジング11において、CNG用直噴噴射弁18Bは、2つ設けられていて、これら2つのCNG用直噴噴射弁18Bが、ロータ12の幅方向(エキセントリックシャフト13が延びる方向)に並んでいる(図2では、紙面奥側のCNG用直噴噴射弁18Bが見えていない)。水素用直噴噴射弁18A、水素用ポート噴射弁17A及びCNG用ポート噴射弁17Bの数は全て1つである。本実施形態では、天然ガスは、常に2つのCNG用直噴噴射弁18Bから噴射される。水素ガス及び天然ガスは、後述の過給圧上昇制御時及び冷間制御時を除いて、略同じ体積比率(共に50%)でもって燃焼室内に噴射される。
本実施形態では、CNG用直噴噴射弁18Bが、第1燃料をエンジン10に供給するべく噴射する第1の燃料噴射弁に相当し、水素用直噴噴射弁18Aが、第2燃料をエンジン10に供給するべく噴射する第2の燃料噴射弁に相当する。
また、各ロータハウジング11には、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bよりそれぞれ噴射された水素ガス及び天然ガスの点火を行う2つの点火プラグ19が設けられている。これら両点火プラグ19は、圧縮トップ(TDC)の近傍で、リーディング側及びトレーリング側の順で点火されて、圧縮乃至膨張行程にある作動室内の混合気の点火を行う。
エンジン10には、該エンジン10の各ロータ収容室11aにおける吸気行程にある作動室(燃焼室)内への吸気の過給を行う排気ターボ過給機85が設けられている。この排気ターボ過給機85は、吸気通路14におけるスロットル弁16よりも下流側に配設されたコンプレッサ85aと、排気通路15における上記合流部よりも下流側でかつ低温活性三元触媒81よりも上流側に配設されたタービン85bとで構成されている。タービン85bが排気ガス流により回転し、このタービン85bの回転により、該タービン85bと連結されたコンプレッサ85aが作動して、吸気通路14に吸入された空気を圧縮する。この圧縮された空気は、吸気通路14におけるコンプレッサ85aよりも下流側に配設されたインタークーラ86によって冷却された後、上記各分岐路を介して各ロータ収容室11aにおける吸気行程にある作動室内に吸入される。尚、NOx吸蔵還元触媒82は、排気通路15におけるタービン85bの下流側に配設されることになる。
車両1には、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧を検出するバッテリ電流・電圧センサ101と、車両1の乗員によるアクセルペダルの踏み込み量(乗員の操作によるアクセル開度)を検出するアクセル開度センサ102と、車両1の車速を検出する車速センサ103と、エキセントリックシャフト13に設けられ、エキセントリックシャフト13の回転角度位置を検出する回転角センサ104と、排気通路15における低温活性三元触媒81とタービン85bとの間に配設され、エンジン10の排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ105(本実施形態では、リニアO2センサで構成されている)と、ロータハウジング11の内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)に臨んで該ウォータジャケット内を流れるエンジン冷却水の温度(エンジン水温)を検出するエンジン水温センサ106と、水素タンク70内の圧力(つまり水素タンク70内の水素ガス残量)及びCNGタンク71内の圧力(つまりCNGタンク71内の天然ガス残量)をそれぞれ検出するタンク圧力センサ107(水素タンク70とCNGタンク71とに別々に設けられている)と、吸気通路14内に吸入される吸気流量を検出するエアフローセンサ108と、吸気通路14におけるコンプレッサ85aよりも下流側の部分(吸気通路14の上記分岐部とインタークーラ86との間の部分)に配設され、吸入空気の圧力(つまり、排気ターボ過給機85による実過給圧)を検出する吸気圧センサ109と、エンジン10の作動制御や、第1及び第2インバータ50,51の作動制御(つまり発電機20及び駆動モータ40の作動制御)等を行うコントロールユニット100とが設けられている。上記回転角センサ104は、エンジン10の回転数を検出するエンジン回転数センサを兼ねている。吸気圧センサ109は、排気ターボ過給機85による実過給圧を検出する実過給圧検出手段を構成する。
コントロールユニット100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。コントロールユニット100には、バッテリ電流・電圧センサ101、アクセル開度センサ102、車速センサ103、回転角センサ104、空燃比センサ105、エンジン水温センサ106、タンク圧力センサ107、エアフローセンサ108、吸気圧センサ109等からの各種情報の信号が入力されるようになっている。
発電機20は、該発電機20による発電電圧及び発電電流の情報をコントロールユニット100に送信するようになっており、コントロールユニット100は、その情報を入力して該情報から発電機20による発電電力(発電量)を検出する。
駆動モータ40は、該駆動モータ40の回転数の情報や、駆動モータ40による回生発電電圧及び回生発電電流の情報をコントロールユニット100に送信するようになっており、コントロールユニット100は、その情報を入力して駆動モータ40の作動制御に用いる。
そして、コントロールユニット100は、上記入力信号に基づいて、スロットル弁アクチュエータ90、水素用ポート噴射弁17A、CNG用ポート噴射弁17B、水素用直噴噴射弁18A、CNG用直噴噴射弁18B、及び点火プラグ19に対して制御信号を出力してエンジン10を制御するとともに、第1及び第2インバータ50,51に対して制御信号を出力して発電機20及び駆動モータ40を制御する。コントロールユニット100は、水素用直噴噴射弁18A及びCNG用直噴噴射弁18B(第1及び第2の燃料噴射弁)の作動を含めて、エンジン10の作動を制御する制御手段を構成することになる。
コントロールユニット100は、第1及び第2インバータ50,51の制御により、エンジン10が停止した状態でバッテリ30からの放電電力のみでもって駆動モータ40を駆動する第1態様と、発電機20の発電電力でもってバッテリ30を充電しながら、バッテリ30からの放電電力でもって駆動モータ40を駆動する第2態様と、バッテリ30及び発電機20の両方からの電力でもって駆動モータ40を駆動する第3態様とに切換える。この第3態様には、発電機20の発電電力の全てが駆動モータ40に供給される場合と、発電機20の発電電力の一部が駆動モータ40に供給されながら、残りがバッテリ30に供給される場合とが含まれる。尚、第2態様の際、駆動モータ40の駆動を、発電機20の発電電力のみでもって行うようにしてもよい。
コントロールユニット100は、バッテリ電流・電圧センサ101により検出された、バッテリ30に出入りする電流及びバッテリ30の電圧に基づいて、バッテリ30の残存容量(SOC)を検出する。そして、コントロールユニット100は、バッテリ30のSOCが上記所定容量よりも高いときには、上記第1態様を選択し、バッテリ30のSOCが上記所定容量よりも高くても、車両1の所定以上の加速要求があったときのように、アクセル開度センサ102及び車速センサ103からの信号に基づく駆動モータ40の要求出力が大きい場合においては、上記第3態様を選択する。また、コントロールユニット100は、バッテリ30のSOCが上記所定容量以下であるときには、上記第2態様を選択する。このときも、駆動モータ40の要求出力が大きい場合においては、上記第3態様を選択する。尚、タンク圧力センサ107による水素タンク70内の水素ガス残量が、予め設定された第1設定値以下になった場合や、CNGタンク71内の天然ガス残量が、予め設定された第2設定値以下になった場合等においては、上記第1態様を選択する。
コントロールユニット100は、エンジン10が停止した状態にあるときにおいて、駆動モータ40の要求出力及びバッテリ30のSOCの値に基づいて、エンジン10の運転要求の有無(本実施形態では、発電要求の有無と同じことである)を確認し、エンジン10の運転要求(発電要求)が有るときには、モータとしての発電機20によりエンジン10をクランキングしてエンジン10を始動させ、その始動後に発電機20に発電を行わせるべくエンジン10を運転する。
コントロールユニット100は、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求がないときのエンジン10の運転時であるエンジン通常運転時(NOx吸蔵還元触媒82からのNOx放出時は除く)には、水素ガス及び天然ガスを略同じ体積比率でもってエンジン10の燃焼室内に噴射し、かつ、該燃焼室内の燃焼空燃比を、該エンジン10(燃焼室)からのNOx排出量が、例えば、天然ガスのみをそのリーン限界の燃焼空燃比でもって燃焼させたときのNOx排出量と略同じになるリーン空燃比にするべく、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bを制御する。
コントロールユニット100は、上記エンジン通常運転時には、基本的に、予め設定された設定回転数でもって定常運転し、この定常運転時のエンジン回転数(上記設定回転数)は、エンジン10の最高効率点を含む効率の良い領域(例えば1800rpm〜2200rpm)の値であり、本実施形態では、2000rpmとする。また、定常運転時のエンジン負荷は、所定負荷よりも大きい中負荷ないし高負荷である。車両1の所定以上の加速要求時(このとき、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があることになる)には、2000rpmよりも高いエンジン回転数であって、駆動モータ40の要求出力が大きいほど高い回転数にする。
ここで、図3に、水素ガス、天然ガス及びこれらの混合ガスA,B,Cについて、エンジン10(回転数2000rpm、スロットル弁16全開)で燃焼させたときの、空気過剰率λとエンジン10(燃焼室)からのNOx排出量との関係を示す。混合ガスAは、水素ガスと天然ガスとを略同じ体積比率(共に約50%)としたものであり、混合ガスBは、混合ガスAよりも水素ガスの体積比率を多くしたものであり、混合ガスCは、混合ガスBよりも水素ガスの体積比率を多くしたものである。また、図4に、図3の上記各ガスについて、エンジン10(回転数2000rpm、スロットル弁16全開)で燃焼させたときの、空気過剰率λとエンジン10の出力トルクとの関係、及び、空気過剰率λとエンジン10の熱効率との関係を示す。ここでは、天然ガスはCNG用直噴噴射弁18Bより噴射させ、水素ガスは水素用ポート噴射弁17Aより噴射させている。この場合、水素ガス及び天然ガスを水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bよりそれぞれ噴射させる場合と比べて、出力トルクの大きさ等は変わるものの、上記関係の傾向は大きくは変わらない。
図3及び図4より、天然ガスのリーン限界の燃焼空燃比(ここでは、空気過剰率λ)は、1.6であり、これよりも空気過剰率λを大きくしても、安定した点火を行うことができない。図3及び図4では、空気過剰率λが2.7までしかないが、水素ガスのリーン限界の空気過剰率λは約3である。尚、図3及び図4では、水素ガスについての、空気過剰率λが1.8よりも低い場合の結果は省略している。
図3より、空気過剰率λが同じであれば、天然ガスの方が水素ガスよりもNOx排出量が少なく、混合ガスA,B,Cにおいては、天然ガスの体積比率が大きい(水素ガスの体積比率が小さい)ほど、NOx排出量が少なくなることが分かる。すなわち、水素ガスや、混合ガスにおいて水素ガスの体積比率が大きい場合、NOx排出量は多くなる。しかし、水素ガスや、混合ガスにおいて水素ガスの体積比率が大きい場合、リーン限界の燃焼空燃比が高くなるので、燃焼室内の燃焼空燃比を高くすることで、NOx排出量を少なくすることができる。
そこで、本実施形態では、上記エンジン通常運転時(上記定常運転時)には、水素ガス及び天然ガスを略同じ体積比率(共に50%)でもって燃焼室内に噴射するとともに、燃焼室内の燃焼空燃比(空気過剰率λ)を、エンジン10からのNOx排出量が、例えば、天然ガスのみをそのリーン限界の燃焼空燃比(λ=1.6)でもって燃焼させたときのNOx排出量と略同じになるリーン空燃比にする。このリーン空燃比は、本実施形態では、図3の天然ガスのライン上のλ=1.6の点Q1を通る、横軸と平行なラインと、混合ガスAのラインとが交わる点Q2のλの値(つまりλ=1.9)となる。
ここで、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるときに、その過給圧が、予め設定された目標過給圧になるまでには時間がかかる。この目標過給圧は、エンジン10の始動直後においては、車両1の所定以上の加速要求がなければ、上記定常運転時の目標過給圧であり、該加速要求があれば、駆動モータ40の要求出力に応じた目標過給圧(上記定常運転時の目標過給圧よりも高い値)である。また、上記定常運転時に該加速要求があれば、目標過給圧は、定常運転時の目標過給圧から、駆動モータ40の要求出力に応じた目標過給圧になる。
そこで、本実施形態では、コントロールユニット100は、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるときに、上記エンジン通常運転時(上記定常運転時)に比べて、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bによるトータル噴射量に対するCNG用直噴噴射弁18Bによる噴射量の体積割合である天然ガス噴射割合を高くしかつ上記燃焼室内の燃焼空燃比(空気過剰率λ)を小さくするようにするべく、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bを制御する過給圧上昇制御を実行する。
本実施形態では、吸気圧センサ109により検出される圧力(排気ターボ過給機85による実過給圧)が上記目標過給圧に対して所定圧以上低いときに、上記排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるとして、上記過給圧上昇制御が実行される。エンジン10の始動直後において、上記定常運転のエンジン回転数に達するまでは、常に、上記実過給圧が上記目標過給圧に対して所定圧以上低く、このことから、エンジン10の始動直後は、車両1の所定以上の加速要求がなくても、常に上記過給圧上昇制御が実行される。一方、上記実過給圧が、上記目標過給圧以上になるか、又は、上記目標過給圧よりも低くても、上記実過給圧と上記目標過給圧との差が上記所定圧よりも小さくなったときには、上記エンジン通常運転(上記定常運転)がなされる。上記所定圧は、上記実過給圧のばらつき程度の値であって、上記差が上記所定圧よりも小さければ、上記実過給圧が上記目標過給圧に一致していると見做せるような値である。
上記エンジン通常運転時(上記定常運転)には、上記のように、天然ガス噴射割合が50%であり、空気過剰率λが1.9であり、このことから、上記エンジン通常運転時のNOx排出量は、図3において、混合ガスAのライン上のQ2点におけるNOx排出量となり、上記エンジン通常運転時のエンジン10の出力トルクは、図4において、混合ガスAのライン上のQ2′点における出力トルクとなり、上記エンジン通常運転時のエンジン10の熱効率は、図4において、混合ガスAのライン上のQ2″点における熱効率となる。
上記過給圧上昇制御では、上記エンジン通常運転時に比べて天然ガス噴射割合を高くしかつ空気過剰率λを小さくすることで、エンジン出力を上記エンジン通常運転時と同等又はそれ以上に高くするとともに、上記エンジン通常運転時よりも燃焼期間を長くして天然ガスの後燃えにより排気圧を上昇させる。また、エンジン10の熱効率を、上記エンジン通常運転時よりも低下させることが好ましく、これにより、排気損失が増大して排気圧を上昇させることができる。さらに、NOx排出量を出来る限り少なくしつつ、安定した燃焼を確保するために、空気過剰率λを、リーン限界の値よりも小さい適切な値にする。
具体的に、図3及び図4(混合ガスAよりも天然ガス噴射割合が高いガスのラインは、CNGのラインしかない)で説明するために、上記過給圧上昇制御において、天然ガス噴射割合を100%にしたとする。このとき、空気過剰率λを1.4にしたとすると、このときのNOx排出量は、図3において、CNGのライン上のQ3点におけるNOx排出量となり、エンジン10の出力トルクは、図4において、CNGのライン上のQ3′点における出力トルクとなり、上記エンジン通常運転時のエンジン10の熱効率は、図4において、CNGのライン上のQ3″点における熱効率となる。したがって、上記過給圧上昇制御時において、NOx排出量は上記エンジン通常運転時よりも多くなるものの、それほど多くはならず、出力トルクは上記エンジン通常運転時よりも高くなり、熱効率は上記エンジン通常運転時よりも低くなる。
本実施形態では、上記過給圧上昇制御において、図5及び図6に示すように、上記実過給圧(ここでは、上記目標過給圧に対して所定圧以上低い)と上記目標過給圧との差(以下、過給圧差という)が大きいほど、上記天然ガス噴射割合を高くしかつ空気過剰率λを小さくするとともに、NOx吸蔵還元触媒82のNOx吸蔵量が少ないほど、上記天然ガス噴射割合を高くしかつ空気過剰率λを小さくするように、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bを制御する。上記NOx吸蔵量は、エンジン10の運転履歴から計算することができ、コントロールユニット100が、エンジン10の運転中、その運転状態に基づいてNOx吸蔵量を積算していく。したがって、本実施形態では、コントロールユニット100が、NOx吸蔵還元触媒82のNOx吸蔵量を検出するNOx吸蔵量検出手段を構成することになる。
尚、コントロールユニット100は、上記NOx吸蔵量が所定量(これ以上吸蔵することができないレベルよりも僅かに小さい量)よりも多くなったときに、エンジン10を、NOx吸蔵還元触媒82からNOxを放出し還元するためのリッチ運転(例えば、空気過剰率λ=0.9)を行い、NOxの放出完了後(NOxの放出開始から、NOx吸蔵還元触媒82に吸蔵されているNOxの略全量が放出されるのに要する時間(例えば10s)が経過したとき)は、上記NOx吸蔵量を0にリセットする。
上記過給圧差が大きい場合には、NOx排出量の点で不利にはなるものの、その過給圧差を出来る限り早期に小さくすることが可能になる。また、NOx吸蔵還元触媒82のNOx吸蔵量が少ない場合には、NOx吸蔵還元触媒82がNOxを吸蔵する余力があるので、天然ガス噴射割合を高くしかつ空気過剰率λを小さくしても、エミッション性能の悪化を抑制することができる。一方、上記過給圧差が小さい場合には、エンジン効率(つまり燃費)を考慮した運転が可能になる。
上記過給圧上昇制御は、エンジン水温センサ106によるエンジン水温が所定温度以上であるときに有効である。すなわち、天然ガスの後燃えによる排気圧の上昇が可能になるのは、エンジン水温が上記所定温度以上であるときであり、エンジン水温が上記所定温度よりも低いときには、天然ガスが完全に後燃えしないで未燃のまま排出される可能性が高くなり、排気ターボ過給機85による過給圧の早期上昇効果が得られ難くなる。上記所定温度は、エンジン10の温間時の最低温度であり、エンジン水温が所定温度以上であるときとは、エンジン10の温間時であり、エンジン水温が上記所定温度よりも低いときとは、エンジン10の冷間時である。
そこで、本実施形態では、コントロールユニット100は、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるとき(上記実過給圧が上記目標過給圧に対して所定圧以上低いとき)において、エンジン水温センサ106によるエンジン水温が上記所定温度以上であるときに、上記過給圧上昇制御を実行する一方、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるときにおいて、エンジン水温センサ106によるエンジン水温が上記所定温度よりも低いときには、上記エンジン通常運転時に比べて、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bによるトータル噴射量に対する水素用直噴噴射弁18Aによる噴射量の体積割合である水素ガス噴射割合を高くしかつ上記燃焼室内の燃焼空燃比(空気過剰率λ)を小さくするようにするべく、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bを制御する冷間制御を実行する。
本実施形態では、上記冷間制御では、CNG用直噴噴射弁18Bによる噴射量を、上記エンジン通常運転時におけるCNG用直噴噴射弁18Bによる噴射量と同じにし、水素用直噴噴射弁18Aによる噴射量を、上記エンジン通常運転時における水素用直噴噴射弁18Aによる噴射量よりも多くする。これにより、上記エンジン通常運転時に比べて、水素ガス噴射割合が高くなりかつ空気過剰率λが小さくなる。上記冷間制御では、水素用直噴噴射弁18Aによる噴射量を、上記エンジン通常運転時における水素用直噴噴射弁18Aによる噴射量に対してどれだけ多くするかで、水素ガス噴射割合及び空気過剰率λを調整する。このように上記冷間制御でのCNG用直噴噴射弁18Bによる噴射量を、上記エンジン通常運転時におけるCNG用直噴噴射弁18Bによる噴射量と同じにすることで、エンジン出力の低下を抑制するようにしている。
また、上記冷間制御では、上記過給圧上昇制御と同様に、上記過給圧差が大きいほど、上記水素ガス噴射割合を高くしかつ空気過剰率λを小さくするとともに、NOx吸蔵還元触媒82のNOx吸蔵量が少ないほど、上記水素ガス噴射割合を高くしかつ空気過剰率λを小さくするように、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bを制御する。上記過給圧差及び上記NOx吸蔵量と上記水素ガス噴射割合との関係は、図5(縦軸を水素ガス噴射割合と見做す)と同様であり、上記過給圧差及び上記NOx吸蔵量と空気過剰率λとの関係は、図6と同様である。
また、上記冷間制御では、エンジン水温センサ106によるエンジン水温が低いほど、上記水素ガス噴射割合を高くしかつ空気過剰率λを小さくする。上記冷間制御での上記エンジン水温と空気過剰率λとの関係を図7に示す。
このように、エンジン水温が上記所定温度よりも低いときには、水素ガス噴射割合を高くすることで、冷間時であっても燃焼性が向上して、天然ガスが未燃のまま排出され難くなり、排気ターボ過給機85による過給圧を素早く上昇させることが可能になる。また、空気過剰率λを小さくすることで、エンジン出力を出来る限り高くすることができる。
上記コントロールユニット100によるエンジン10の制御動作について、図8のフローチャートに基づいて説明する。
最初のステップS1で、各種センサ等からの各種入力信号を読み込み、次のステップS2で、アクセル開度センサ102及び車速センサ103からの信号に基づき、駆動モータ40の要求出力を計算する。
次のステップS3では、上記駆動モータ40の要求出力とバッテリ30のSOCとに基づき、エンジン10の運転要求の有無を確認し、次のステップS4で、エンジン10の運転要求が有るか否かを判定する。
上記ステップS4の判定がNOであるときには、上記ステップS1に戻る一方、ステップS4の判定がYESであるときには、ステップS5に進んで、エンジン10を始動する。このとき、上記エンジン通常運転時と同様に、水素ガス及び天然ガスは、略同じ体積比率(共に50%)でもって燃焼室内に噴射されるとともに、空気過剰率λが1.9になるように噴射される。
次のステップS6では、目標過給圧から、吸気圧センサ109により検出される実過給圧を引いた値が、上記所定圧以上であるか否かを判定する。このステップS6の判定がNOであるときには、ステップS7に進んで、上記エンジン通常運転(上記定常運転)を行い、しかる後にステップS11に進む。
一方、上記ステップS6の判定がYESであるときには、ステップS8に進んで、エンジン水温センサ106により検出されるエンジン水温が所定温度Tw0以上であるか否かを判定する。このステップS8の判定がYESであるときには、ステップS9に進んで、上記過給圧上昇制御を実行し、しかる後にステップS11に進む。一方、ステップS8の判定がNOであるときには、ステップS10に進んで、上記冷間制御を実行し、しかる後にステップS11に進む。
上記ステップS11では、新たに各種入力信号を読み込んで新たにエンジン要求運転の有無を確認して、エンジン10の運転要求がなくなったか否かを判定する。このステップS11の判定がNOであるときには、上記ステップS6に戻る。一方、ステップS11の判定がYESであるときには、ステップS12に進んで、エンジン10を停止し、しかる後にリターンする。
したがって、本実施形態では、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるとき(上記実過給圧が上記目標過給圧に対して所定圧以上低いとき)において、エンジン水温センサ106によるエンジン水温が上記所定温度以上であるときには、上記エンジン通常運転時に比べて、天然ガス噴射割合を高くしかつ燃焼室内の燃焼空燃比(空気過剰率λ)を小さくするようにするべく、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bを制御する過給圧上昇制御を実行するようにしたことにより、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるときに、エンジン出力の低下を抑制しながら、排気ターボ過給機85による過給圧を素早く上昇させることが可能になる。
また、排気ターボ過給機85による過給圧の上昇要求があるとき(上記実過給圧が上記目標過給圧に対して所定圧以上低いとき)において、エンジン水温センサ106によるエンジン水温が上記所定温度よりも低いときには、上記エンジン通常運転時に比べて、水素ガス噴射割合を高くしかつ上記燃焼室内の燃焼空燃比(空気過剰率λ)を小さくするようにするべく、水素用及びCNG用直噴噴射弁18A,18Bを制御する冷間制御を実行するようにしたことにより、冷間時であっても燃焼性が向上して、天然ガスが未燃のまま排出されるようなことがなくなり、排気ターボ過給機85による過給圧を素早く上昇させることが可能になる。また、上記冷間制御におけるCNG用直噴噴射弁18Bによる噴射量を、上記エンジン通常運転時におけるCNG用直噴噴射弁18Bによる噴射量と同じにすることと、空気過剰率λを小さくすることとによって、水素ガス噴射割合を高くしても、エンジン出力を出来る限り高くすることができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態では、エンジン10を、シリーズハイブリッドシステムにおいて発電機20を駆動して発電させるために用いられる発電用エンジンとしたが、エンジン10を、車両1の駆動輪61を駆動するエンジン(パラレルハイブリッドシステムのエンジンを含む)とすることも可能である。
また、上記実施形態では、エンジン10をロータリピストンエンジンとしたが、往復動型エンジンとすることも可能である。
さらに、エンジン10の燃料である第1及び第2燃料は、第1燃料が、第2燃料に対し、着火性が低くかつ単位体積当たりの発熱量が高い燃料であれば、どのような燃料であってもよい(少なくとも一方が液体燃料であってもよい)。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。