以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1の回路ブロック図は、回転電機制御装置1のシステム構成を模式的に示している。回転電機制御装置1が駆動制御する対象は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車等の車両の駆動力源となる回転電機80である。車両の駆動力源としての回転電機80は、複数相の交流(ここでは3相交流)により動作する回転電機であり、電動機としても発電機としても機能することができる。
特定の軌道上を走行する鉄道などとは異なり、自動車のような車両では、回転電機80を駆動するための電力源としてニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどの直流電源を搭載している。本実施形態では、回転電機80に電力を供給するための大電圧大容量の直流電源として、例えば電源電圧200〜400[V]の高圧バッテリ11(直流電源)が備えられている。回転電機80は、交流の回転電機であるから、高圧バッテリ11と回転電機80との間には、直流と多相交流(ここでは3相交流)との間で電力変換を行うインバータ10が備えられている。インバータ10の直流側の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の電圧は、以下“直流リンク電圧Vdc”と称する。高圧バッテリ11は、インバータ10を介して回転電機80に電力を供給可能であると共に、回転電機80が発電して得られた電力を蓄電可能である。
インバータ10と高圧バッテリ11との間には、インバータ10の直流側の正負両極間電圧(直流リンク電圧Vdc)を平滑化する平滑コンデンサ(直流リンクコンデンサ4)が備えられている。直流リンクコンデンサ4は、回転電機80の消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧Vdc)を安定化させる。直流リンクコンデンサ4と高圧バッテリ11との間には、直流リンクコンデンサ4から回転電機80までの回路と、高圧バッテリ11との電気的な接続を切り離すことが可能なコンタクタ9が備えられている。本実施形態において、このコンタクタ9は、車両の最も上位の制御装置の1つである車両ECU(Electronic Control Unit)90からの指令に基づいて開閉するメカニカルリレーであり、例えばシステムメインリレー(SMR:System Main Relay)と称される。コンタクタ9は、車両のイグニッションキー(IGキー)がオン状態(有効状態)の際にSMRの接点が閉じて導通状態(接続状態)となり、IGキーがオフ状態(非有効状態)の際にSMRの接点が開いて非導通状態(開放状態)となる。インバータ10は、高圧バッテリ11とコンタクタ9を介して接続されると共に回転電機80にも接続されている。コンタクタ9が接続状態において高圧バッテリ11とインバータ10(及び回転電機80)とが電気的に接続され、コンタクタ9が開放状態において高圧バッテリ11とインバータ10(及び回転電機80)との電気的接続が遮断される。
インバータ10は、直流リンク電圧Vdcを有する直流電力を複数相(nを自然数としてn相、ここでは3相)の交流電力に変換して回転電機80に供給すると共に、回転電機80が発電した交流電力を直流電力に変換して直流電源に供給する。インバータ10は、複数のスイッチング素子を有して構成される。スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC−MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC−SIT(SiC - Static Induction Transistor)などのパワー半導体素子を適用すると好適である。図1に示すように、本実施形態では、スイッチング素子としてIGBT3が用いられる。
例えば直流と多相交流(ここでは3相交流)との間で電力変換するインバータ10は、よく知られているように多相(ここでは3相)のそれぞれに対応する数のアーム3Aを有するブリッジ回路により構成される。つまり、図1に示すように、インバータ10の直流正極側(直流電源の正極側の正極電源ラインP)と直流負極側(直流電源の負極側の負極電源ラインN)との間に2つのIGBT3が直列に接続されて1つのアーム3Aが構成される。3相交流の場合には、この直列回路(1つのアーム3A)が3回線(3相)並列接続される。つまり、回転電機80のU相、V相、W相に対応するステータコイル8のそれぞれに一組の直列回路(アーム3A)が対応したブリッジ回路が構成される。
対となる各相のIGBT3による直列回路(アーム3A)の中間点、つまり、正極電源ラインPの側のIGBT3(上段側IGBT3H(上段側スイッチング素子))と負極電源ラインN側のIGBT3(下段側IGBT3L(下段側スイッチング素子))との接続点は、回転電機80の各相のステータコイル8にそれぞれ接続される。尚、各IGBT3には、負極“N”から正極“P”へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード(FWD)5が備えられている。
図1に示すように、インバータ10は、インバータ制御装置20により制御される。インバータ制御装置20は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。例えば、インバータ制御装置20は、車両ECU90等の他の制御装置等からCAN(Controller Area Network)などを介して要求信号として提供される回転電機80の目標トルクTMに基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ10を介して回転電機80を制御する。回転電機80の各相のステータコイル8を流れる実電流は電流センサ12により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。また、回転電機80のロータの各時点での磁極位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ13により検出され、インバータ制御装置20はその検出結果を取得する。インバータ制御装置20は、電流センサ12及び回転センサ13の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。インバータ制御装置20は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。電流フィードバック制御については、公知であるのでここでは詳細な説明は省略する。
車両には、高圧バッテリ11の他に、高圧バッテリ11よりも低電圧の電源である低圧バッテリ(不図示)も搭載されている。低圧バッテリの電源電圧は、例えば12〜24[V]である。低圧バッテリと高圧バッテリ11とは、互いに絶縁されており、互いにフローティングの関係にある。低圧バッテリは、インバータ制御装置20や車両ECU90の他、オーディオシステムや灯火装置、室内照明、計器類のイルミネーション、パワーウィンドウなどの電装品や、これらを制御する制御装置に電力を供給する。車両ECU90やインバータ制御装置20などの電源電圧は、例えば5[V]や3.3[V]である。
ところで、インバータ10を構成する各IGBT3の制御端子であるゲート端子は、ドライブ回路50を介してインバータ制御装置20に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。回転電機80を駆動するための高圧系回路と、マイクロコンピュータなどを中核とするインバータ制御装置20などの低圧系回路とは、動作電圧(回路の電源電圧)が大きく異なる。このため、このため、各IGBT3に対するゲート駆動信号(スイッチング制御信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継するドライブ回路50(制御信号駆動回路)が備えられている。低圧系回路のインバータ制御装置20により生成されたIGBT3のスイッチング制御信号は、ドライブ回路50を介して高圧回路系のゲート駆動信号としてインバータ10に供給される。ドライブ回路50は、例えばフォトカプラやトランスなどの絶縁素子やドライバICを利用して構成される。
本実施形態では、図2に例示するように、ドライブ回路50にドライバIC(51,52)を用いている。図2は、簡略化のため、インバータ10、インバータ制御装置20、ゲート回路30、ドライブ回路50については、交流1相分のアーム3Aに対応する部分を代表して例示している。ドライバIC(51,52)は、各IGBT3に対して1つずつ設けられている。上段側IGBT3Hに対して上段側ドライバIC51が設けられ、下段側IGBT3Lに対して下段側ドライバIC52が備えられている。ドライバIC(51,52)は、それぞれ、信号入力端子“IN”、信号出力端子“OUT”、イネーブル入力端子“EN”、アラーム出力端子“ALM(n_ALM)”を備えている。尚、アラーム出力端子はローアクティブの信号(通常はハイの状態で、意味のある出力をする際にローの状態となる信号)であり、図中ではネガティブを表す“バー”を付けて表記しているが、文中では、ネガティブを表す接頭語“n_”を付加して同様の意味を表すものとする。以下、ローアクティブの信号について同様である。
インバータ制御装置20から、後述するゲート回路30を経由して、ドライバIC(51,52)の“IN”端子にスイッチング制御信号“SH,SL”が入力される。スイッチング制御信号“SH”は上段側IGBT3Hを制御する信号であり、スイッチング制御信号“SL”は下段側IGBT3Lを制御する信号である。ドライバIC(51,52)に入力されたスイッチング制御信号“SH,SL”は、ドライバIC(51,52)からIGBT3のゲート端子を駆動するための駆動能力(電圧振幅や出力電流など)を付加されて“OUT”端子からゲート駆動信号“SHG,SLG”として出力される。ドライバIC(51,52)には、診断回路が内蔵されており、診断回路は、ゲート駆動電圧が低下している状態(ゲート駆動信号に必要な電圧振幅を付加できない状態)、アーム3Aに過電流が生じている状態、ドライバIC(51,52)の制御回路温度が上昇している状態、等を検出して警告信号(n_ALM)を生成して出力する。アーム3Aの過電流は、外部に設けた過電流測検出用のシャント抵抗等の端子間電圧が規定値を越えているか否かによって判定される。
“EN”端子への入力信号は、ドライバIC(51,52)の信号出力端子“OUT”に、信号入力端子“IN”に入力された信号と同じ信号レベルの信号を出力するか否かを切り替える信号(イネーブル信号)である。本実施形態では、このイネーブル信号がハイ状態の場合に、信号入力端子“IN”に入力された信号と同じ信号レベルのゲート駆動信号“SHG,SLG”が信号出力端子“OUT”から出力され、ロー状態の場合には非有効状態(本実施形態ではロー状態)に固定されたゲート駆動信号“SHG,SLG”が信号出力端子“OUT”から出力される。
また、本実施形態においては、図1に示すように、回転電機制御装置は、ゲート回路30及び過電圧保護装置40を備えている。ゲート回路30は、インバータ制御装置20とドライブ回路50との間に設けられている。ゲート回路30は、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを、インバータ制御装置20から出力される信号レベルに拘わらず固定可能な回路である。例えば、図2に示すように、ゲート回路30は、オフ固定マスク回路31としての2入力アンドゲート“33”、オン固定マスク回路32としての2入力オアゲート“34”を備えて構成されている。
過電圧保護装置40は、直流リンク電圧Vdcが予め規定された過電圧しきい値THov以上であることを検出した場合に、ゲート回路30を制御して、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを、アクティブショートサーキット制御を行う信号レベルに設定する回路である。アクティブショートサーキット制御とは、例えば、交流全相の上段側IGBT3H及び交流全相の下段側IGBT3Lの何れか一方のスイッチング素子を全てオフ状態とし、何れか他方のスイッチング素子を全てオン状態として、電流を還流させる制御である。過電圧保護装置40は、図2に示すように、過電圧判定回路41と、保持回路43と、遅延回路45とを備えて構成されている。各回路の詳細については、後述する。
尚、本実施形態においては、ゲート回路30は、ドライブ回路50へのイネーブル信号を生成するイネーブル信号生成回路39も備えている。本実施形態では、イネーブル信号生成回路39は、2入力アンドゲートによって構成される。このアンドゲートには、インバータ制御装置20を構成するCPU21のポート出力端子“PO2”から出力されるローアクティブのシャットダウン信号“n_SD”と、ドライブ回路50から出力されるローアクティブの警告信号“n_ALM”とが入力される。シャットダウン信号“n_SD”と警告信号“n_ALM”との少なくとも一方の信号がロー状態となると、イネーブル信号がロー状態となる。即ち、シャットダウン信号“n_SD”と警告信号“n_ALM”との少なくとも一方の信号がロー状態となると、ゲート駆動信号“SHG,SLG”は、ロー状態となり、インバータ10の全てのIGBT3がオフ状態に制御され、インバータ10はシャットダウン状態となる。
ところで、上述したように、コンタクタ9は、車両のイグニッションキー(IGキー)がオン状態(有効状態)の際に接続状態となり、IGキーがオフ状態(非有効状態)の際に開放状態となる。通常動作時には、IGキーの状態に応じてコンタクタ9の開閉状態も制御される。しかし、IGキーがオン状態の際に、車両の故障や衝突等によって、コンタクタ9が開放状態となる場合がある。例えば、コンタクタ9への電源供給が遮断された場合、コンタクタ9の駆動回路に異常が生じた場合、コンタクタ9が振動・衝撃やノイズ等によって機械的に故障した場合、コンタクタ9周辺の回路に断線が生じた場合、等にコンタクタ9が開放状態となる可能性がある。コンタクタ9が開放状態となると、高圧バッテリ11からインバータ10側への電力の供給は直ちに遮断される。同様に、回転電機80からインバータ10を介して高圧バッテリ11への電力の回生もコンタクタ9によって遮断される。
このため、コンタクタ9が開放状態となった場合には、インバータ10を構成するIGBT3を全てオフ状態とするシャットダウン制御が実施される場合がある。シャットダウン制御が実施された場合、ステータコイル8に蓄積された電力が、FWD5を介して直流リンクコンデンサ4を充電する。このため、直流リンクコンデンサ4の端子間電圧(直流リンク電圧Vdc)が短時間で上昇する可能性がある。直流リンク電圧Vdcの上昇に備えて直流リンクコンデンサ4を大容量化、高耐圧化すると、コンデンサの体格の増大につながる。また、インバータ10の高耐圧化も必要となる。その結果、回転電機制御装置1の小型化の妨げとなり、部品コスト、製造コスト、製品コストにも影響する。
このような観点より、コンタクタ9が開放状態となった場合に、いくつかのIGBT3をオン状態にして電流を還流させるアクティブショートサーキット制御(例えばゼロベクトルシーケンス制御)が実行される場合がある。電流(還流電流)の有するエネルギーは、IGBT3やステータコイル8などにおいて熱などによって消費される。アクティブショートサーキット制御では、ステータコイル8に蓄積された電力が消費されるまでIGBT3やステータコイル8を大きな還流電流が流れることになるが、直流リンク電圧Vdcの上昇は抑制できる。上述したように、アクティブショートサーキット制御は、例えば、交流全相の上段側IGBT3H及び交流全相の下段側IGBT3Lの何れか一方のスイッチング素子を全てオフ状態とし、何れか他方のスイッチング素子を全てオン状態とすることで実現される。
本実施形態においては、コンタクタ9が開放状態となった場合などで、直流リンク電圧Vdcが予め規定された過電圧しきい値THov以上となったことを過電圧保護装置40が判定する。そして、過電圧保護装置40は、直流リンク電圧Vdcが過電圧しきい値THov以上であることと判定した場合には、ゲート回路30を制御して、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを、アクティブショートサーキット制御を行う信号レベルに設定する回路である。具体的には、過電圧保護装置40は、交流全相の上段側IGBT3H及び交流全相の下段側IGBT3Lの何れか一方のIGBT3をオフ状態とするようにゲート回路30を制御し、その後予め規定された待機時間Tdを経過した後、何れか他方のIGBT3をオン状態とするようにゲート回路30を制御する。本実施形態では、過電圧保護装置40は、交流全相の上段側IGBT3Hをオフ状態とするようにゲート回路30を制御し、その後、待機時間Tdを経過した後、交流全相の下段側IGBT3Lをオン状態とするようにゲート回路30を制御する。
以下、図3のタイミングチャートも利用して説明する。図3に示すように、直流リンク電圧Vdcが過電圧しきい値THov以上となると、過電圧判定信号DOVが有効状態となる。上述したように、過電圧保護装置40は、インバータ10が過電圧状態であると判定して過電圧判定信号DOVの信号レベルを有効状態に設定して出力する過電圧判定回路41を備えている。図2に示すように、過電圧判定回路41は、高圧検出回路Q1、コンパレータQ2を備えている。例えば、抵抗器“R1,R2”によって構成された分圧回路と、高圧検出回路Q1とは、直流リンク電圧Vdcを過電圧保護装置40の電源電圧(制御回路系電源電圧)の範囲内(Vcc−グラウンド)の電圧に換算する。コンパレータQ2は、この換算された電圧値と、過電圧しきい値THovに対応する基準値とを比較して、当該電圧値が基準値以上の場合に過電圧判定信号DOVを出力する。抵抗器“R3”は、有効状態の過電圧判定信号DOVの信号レベルを制御回路系電源電圧“Vcc”に設定するためのプルアップ抵抗である。
過電圧の判定結果は、インバータ制御装置20の中核となるCPU21にも入力され、CPU21は当該判定結果に基づいて、例えばスイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルをローレベルにするような制御を行う。しかし、直流リンク電圧Vdcが過電圧しきい値THov以上となった期間が短いような場合には、上述した過電圧判定信号DOVの有効期間も短くなり、CPU21がその信号をフェッチする(取得する)ことができない可能性がある。このため、過電圧保護装置40には、過電圧判定信号DOVの有効状態が少なくとも予め規定された保持時間Th以上となるように、過電圧判定信号DOVを保持して、ローアクティブの過電圧状態報知信号n_OVとして出力する保持回路43が設けられている(図2及び図3参照)。保持回路43は、ダイオードD1、抵抗器“R4,R5,R6”、コンデンサ“C1”、トランジスタTr1を備えた、時定数回路や自己保持回路により構成されている。生成された過電圧状態報知信号n_OVは、過電圧保護装置40からゲート回路30に出力される。
尚、保持回路43による保持は、以下の2通りが可能である。第1のケースは、過電圧判定信号DOVが有効状態へ変化した時点から、保持時間Thを計測するケースである。この場合には、最低限、過電圧判定信号DOVは保持時間の間有効な信号となる。第2のケースは、過電圧判定信号DOVが無効状態へ変化した時点から保持時間Thを計測するケースである。この場合には、過電圧判定信号DOVは、一律、保持時間Thの分だけ延長される。図3に例示した本実施形態では、第2のケースを採用している。
さらに、本実施形態においては、過電圧保護装置40は、過電圧状態報知信号n_OVが有効状態である期間を待機時間Td分遅らせて遅延報知信号OVDとして出力する遅延回路45を備えている(図2及び図3参照)。遅延回路45は、抵抗器“R7”とコンデンサ“C2”とを備えた積分回路により構成されている。本実施形態では、過電圧状態報知信号n_OVを遅らせた後、信号レベルを反転させてハイアクティブの信号として出力するためのインバートゲート(ノットゲート)“Q3”も備えられている。生成されたハイアクティブの遅延報知信号OVDは、過電圧保護装置40からゲート回路30に出力される。
過電圧状態報知信号n_OVは、ゲート回路30のオフ固定マスク回路31を構成する2入力アンドゲート“33”の1つの入力端子に入力される。2入力アンドゲート“33”のもう1つの入力端子には、上段側スイッチング制御信号“SH”が入力されている。2入力アンドゲート“33”において、過電圧状態報知信号n_OVが入力される側の入力端子は、制御端子として機能する。2入力アンドゲート“33”は、過電圧状態報知信号n_OVがハイ状態(非有効状態)の場合には、上段側スイッチング制御信号“SH”の信号レベルと同様の信号レベルの信号“SHM”を出力端子から出力する。一方、2入力アンドゲート“33”は、過電圧状態報知信号n_OVがロー状態(有効状態)の場合には上段側スイッチング制御信号“SH”の信号レベルに拘わらず、信号レベルがロー状態の信号“SHM”を出力端子から出力する。過電圧状態報知信号n_OVは、ドライブ回路50のイネーブル信号を生成する回路(本実施形態では2入力アンドゲート“39”)には関与していないため、ドライブ回路50を経て、インバータ10の上段側IGBT3Hには、上記信号“SHM”と同様の信号レベルのゲート駆動信号“SHG”が与えられる。
遅延報知信号OVDは、ゲート回路30のオン固定マスク回路32を構成する2入力オアゲート“34”の1つの入力端子に入力される。2入力オアゲート“34”のもう1つの入力端子には、下段側スイッチング制御信号“SL”が入力されている。2入力オアゲート“34”において、遅延報知信号OVDが入力される側の入力端子は、制御端子として機能する。2入力オアゲート“34”は、遅延報知信号OVDがロー状態(非有効状態)の場合には、下段側スイッチング制御信号“SL”の信号レベルと同様の信号レベルの信号“SLM”を出力端子から出力する。一方、2入力オアゲート“34”は、遅延報知信号OVDがハイ状態(有効状態)の場合には下段側スイッチング制御信号“SL”の信号レベルに拘わらず、信号レベルがハイ状態の信号“SLM”を出力端子から出力する。遅延報知信号OVDは、ドライブ回路50のイネーブル信号を生成する回路(本実施形態では2入力アンドゲート“39”)には関与していないため、ドライブ回路50を経て、インバータ10の下段側IGBT3Lには、上記信号“SLM”と同様の信号レベルのゲート駆動信号“SLG”が与えられる。
図3に示すように、過電圧状態報知信号n_OVに対して遅延報知信号OVDは、待機時間Tdの分だけ遅れている。従って、本実施形態では、上段側IGBT3Hのゲート駆動信号“SHG”の方が、下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”に対して、待機時間Tdの分だけ先に、信号レベルがロー状態に固定された状態となる。この間、下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”は、インバータ制御装置20が生成するスイッチング制御信号“SL”に応じた信号レベルである。従って、この期間“Ph”は、例えば、ハーフアクティブショートサーキット制御期間や、アクティブショートサーキット制御準備期間と称することができる。
上述したように、この期間“Ph”の後、下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”の信号レベルはハイ状態に固定された状態となる。上段側IGBT3Hのゲート駆動信号“SHG”の信号レベルをロー状態に固定するタイミングと、下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”の信号レベルをハイ状態に固定するタイミングとが同時であると、インバータ10のアーム3Aを構成する上段側IGBT3Hと下段側IGBT3Lとが同時にオン状態となる可能性がある。待機時間Tdを設けることによって、上段側IGBT3Hと下段側IGBT3Lとが同時にオン状態とならない期間を確実に設けることができる。従って、待機時間Tdは、インバータ10の交流1相分のアーム3Aを構成するIGBT3が共にオフ状態となるように設けられる時間であるデッドタイム以上の時間に設定されていると好適である。
上段側IGBT3Hのゲート駆動信号“SHG”の信号レベルがロー状態に固定され、下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”の信号レベルがハイ状態に固定されている期間“Pasc”は、アクティブショートサーキット制御期間と称することができる。下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”の信号レベルが固定されている期間よりも先に上段側IGBT3Hのゲート駆動信号“SHG”の信号レベルが固定されている期間が終了する(ほぼ待機時間Tdの分早く終了する。)。しかし、過電圧状態報知信号n_OV及び遅延報知信号OVDは、インバータ制御装置20にもポート入力端子“PI1,PI2”を介して入力されている。インバータ制御装置20は、これらの信号に基づいて、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルをロー状態にするような制御を行っている。従って、下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”の信号レベルがハイ状態に固定されている期間に、上段側IGBT3Hのゲート駆動信号“SHG”の信号レベルがハイ状態となることはなく、アーム3Aの短絡は防止されている。
遅延報知信号OVDが非有効状態となると、下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”の信号レベルの固定も終了する。上述したように、既に、インバータ制御装置20によって、下段側スイッチング制御信号“SL”の信号レベルはローレベルに制御されている。従って、少なくとも、過電圧状態報知信号n_OV及び遅延報知信号OVDの有効期間終了後、インバータ制御装置20の応答時間Taが経過するまでの間は、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルはロー状態に保たれる。従って、通常のスイッチング制御信号“SH,SL”が出力されるまでの間、アーム3Aを構成するIGBT3が共にオン状態となるようなことはなく、アーム3Aの短絡は防止されている。下段側IGBT3Lのゲート駆動信号“SLG”の信号レベルの固定が終了し、両ゲート駆動信号“SHG,SLG”が共にロー状態となる期間“Pf”は、全オフ期間と称することができる。
つまり、過電圧保護装置40により過電圧状態であると判定された場合、ゲート回路30だけではなく、さらに、インバータ制御装置20も、インバータ10を構成する全てのIGBT3がオフ状態となるように、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを固定して出力する。その後、過電圧保護装置40により過電圧状態が解消したと判定された場合には、過電圧保護装置40は、インバータ制御装置20から出力されるスイッチング制御信号“SH,SL”がその信号レベルを維持するようにゲート回路30を制御する。そして、その後、インバータ制御装置20は、各IGBT3を個別にスイッチングするように通常の信号レベルでスイッチング制御信号“SH,SL”を出力する。
図3に示すように、本実施形態において、ハーフアクティブショートサーキット制御期間(アクティブショートサーキット制御準備期間)“Ph”、アクティブショートサーキット制御期間“Pacs”、全オフ期間“Pf”を総称して、過電圧保護制御期間Povpと称する。過電圧であることが判定された後、迅速且つ安全に通常制御期間Pnrmから、過電圧保護制御期間Povpに移行し、過電圧状態が解消した後も安全且つ速やかに通常制御期間Pnrmに復帰することができる。
尚、保持回路43における保持時間Thは、過電圧状態報知信号n_OVの信号レベルが変化した後、出力形態を変更してスイッチング制御信号“SH,SL”が出力されるまでの時間(インバータ制御装置20の応答時間Ta)よりも長い時間に設定されていると好適である。上述したように、過電圧状態であると判定されてインバータ制御装置20においてスイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを変更する場合には、ある程度の応答時間Taを要する。保持時間Thが、応答時間Taよりも長ければ、ゲート回路30によるスイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルの固定が終了する前に、インバータ制御装置20においてスイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを変更することができる。従って、ゲート回路30によるスイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルの固定が終了した際に、全てのIGBT3がオフ状態となるように、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを設定しておくことができる。その結果、アクティブショートサーキット制御を終了して通常制御に復帰する際に、アーム3Aを構成するIGBT3が共にオン状態となってアーム3Aが短絡するようなことを防止することができる。
図4から図6には、ゲート回路30と過電圧保護装置40の他の構成例を示している。これら他の形態の説明の前に、図7及び図8に示す比較例を用いて、上述した本実施形態の過電圧保護制御(アクティブショートサーキット制御)の利点について説明する。図7は、過電圧保護制御としてシャットダウン制御を行う場合のゲート回路30及び過電圧保護装置40の構成例を示している。
比較例のゲート回路30には、スイッチング制御信号“SH,SL”の信号レベルを、インバータ制御装置20から出力される信号レベルに拘わらず固定可能な回路は設けられていない。その代わりに、ドライブ回路50へのイネーブル信号を生成するイネーブル信号生成回路39が、3入力アンドゲートによって構成されている。このアンドゲートには、インバータ制御装置20のポート出力端子“PO2”から出力されるローアクティブのシャットダウン信号“n_SD”と、ドライブ回路50から出力されるローアクティブの警告信号“n_ALM”とに加えて、過電圧状態報知信号n_OVが入力されている。シャットダウン信号“n_SD”と警告信号“n_ALM”と過電圧状態報知信号n_OVとの少なくとも1つの信号がロー状態となると、イネーブル信号がロー状態となる。イネーブル信号がロー状態となると、ゲート駆動信号“SHG,SLG”は、ロー状態となり、インバータ10の全てのIGBT3がオフ状態に制御され、インバータ10はシャットダウン状態となる。つまり、過電圧状態報知信号n_OVにより、インバータ10はシャットダウン状態となる。過電圧状態報知信号n_OVにより、インバータ10がシャットダウン状態に制御されるので、過電圧保護装置40には、遅延回路45は備えられていない。
図8のタイミングチャートに示すように、この場合においても、過電圧であることが判定された後、迅速に通常制御期間Pnrmから、過電圧保護制御期間Povp(シャットダウン制御期間Psd)に移行することができる。過電圧状態報知信号n_OVをインバータ制御装置20がフェッチした後に、スイッチング制御信号“SH,SL”を全てロー状態にしてシャットダウン制御を行うよりも迅速に、ドライブ回路50のイネーブル機能を利用してシャットダウン制御が行われる。また、通常制御期間Pnrmからシャットダウン制御期間Psdに移行する際に、アーム3Aの短絡も心配しなくてよい。そして、過電圧状態が解消した後も安全且つ速やかに通常制御期間Pnrmに復帰することができる。
しかし、上述したように、シャットダウン制御が実施された場合、ステータコイル8に蓄積された電力が、FWD5を介して直流リンクコンデンサ4を充電する。直流リンクコンデンサ4の容量によっては、直流リンクコンデンサ4の端子間電圧(直流リンク電圧Vdc)が短時間で上昇する可能性がある。その結果、直流リンク電圧Vdcが、IGBT3や、直流リンクコンデンサ4などの破壊電圧Vedを越えてしまう可能性がある。アクティブショートサーキット制御では、そのような可能性を抑制することができる。また、図3と図8との比較から明らかなように、アクティブショートサーキット制御の場合でも、通常制御期間Pnrmから過電圧保護制御期間Povpへの移行は迅速であり、アーム3Aの短絡も防止されて安全性も確保されている。
上述したように、このようなアクティブショートサーキット制御を実現するためのゲート回路30及び過電圧保護装置40は、図2に例示した構成に限定されるものではない。他の構成例を図4から図6に示す。図4は、オフ固定マスク回路31及びオン固定マスク回路32を、アンドゲート“33”及びオアゲート“34”ではなく、トライステートバッファを用いて構成した例を示している。図4に示した構成例(第2構成例)では、オフ固定マスク回路31として、イネーブル端子がハイアクティブなハイアクティブ・トライステートバッファ“35”と、その出力端子をプルダウンする抵抗器“35d”とが用いられている。また、オン固定マスク回路32として、イネーブル端子がローアクティブなローアクティブ・トライステートバッファ“36” と、その出力端子をプルアップする抵抗器“36u”とが用いられている。
過電圧状態報知信号n_OVは、ハイアクティブ・トライステートバッファ“35”のイネーブル端子に入力される。トライステートバッファ“35”の入力端子には、上段側スイッチング制御信号“SH”が入力されている。トライステートバッファ“35”は、過電圧状態報知信号n_OVがハイ状態(非有効状態)の場合には、イネーブル端子に有効な信号が入力されていることになるので、上段側スイッチング制御信号“SH”の信号レベルと同様の信号レベルの信号“SHM”を出力端子から出力する。一方、トライステートバッファ“35”は、過電圧状態報知信号n_OVがロー状態(有効状態)の場合には、イネーブル端子に有効な信号が入力されていないことになるので、上段側スイッチング制御信号“SH”の信号レベルに拘わらず、出力端子をハイインピーダンス(Hi−Z)状態にする。これにより出力端子は、後段の回路と切り離された状態となるが、出力端子は、抵抗器“35d”によりプルダウンされているから、出力端子の信号“SHM”の信号レベルはロー状態となり、信号“SHM”が後段の回路に接続される。
遅延報知信号OVDは、ローアクティブ・トライステートバッファ“36”のイネーブル端子に入力される。トライステートバッファ“36”の入力端子には、下段側スイッチング制御信号“SL”が入力されている。トライステートバッファ“36”は、遅延報知信号OVDがロー状態(非有効状態)の場合には、イネーブル端子に有効な信号が入力されていることになるので、下段側スイッチング制御信号“SL”の信号レベルと同様の信号レベルの信号“SLM”を出力端子から出力する。一方、トライステートバッファ“36”は、遅延報知信号OVDがハイ状態(有効状態)の場合には、イネーブル端子に有効な信号が入力されていないことになるので、下段側スイッチング制御信号“SL”の信号レベルに拘わらず、出力端子をハイインピーダンス(Hi−Z)状態にする。出力端子は、抵抗器“36u”によりプルアップされているから、出力端子の信号“SLM”の信号レベルはハイ状態となる。
一般的に、アンドゲートやオアゲート、バッファなどの論理素子を回路として実現するICは、1つの半導体パッケージに、同一種の論理素子を複数個内蔵して構成されている。従って、論理回路(本実施形態ではゲート回路)を構成する論理素子の種類が少ない方が、ICの数を削減することができる場合が多い。図4に例示した第2構成例においては、ハイアクティブ・トライステートバッファ“35”とローアクティブ・トライステートバッファ“36”とを用いたが、これらは別のICによって実現されている。図5及び図6では、1種類のトライステートバッファを利用して、第2構成例と同様の機能を実現する例を示している。
図5に示した構成例(第3構成例)では、オフ固定マスク回路31として、イネーブル端子がハイアクティブなハイアクティブ・トライステートバッファ“35”と、その出力端子をプルダウンする抵抗器“35d”とが用いられている。また、オン固定マスク回路32として、イネーブル端子がハイアクティブなハイアクティブ・トライステートバッファ“38” と、その出力端子をプルアップする抵抗器“38u”とが用いられている。つまり、図5には、オフ固定マスク回路31及びオン固定マスク回路32の双方に、ハイアクティブ・トライステートバッファを用いる例を示している。
図4の第2構成例とは異なり、オン固定マスク回路32にハイアクティブ・トライステートバッファ“38”を用いているため、ハイアクティブの遅延報知信号OVDをローアクティブに変える必要がある。このため、過電圧保護装置40の遅延回路45の最終段のインバートゲート(ノットゲート)“Q3”が、ノンインバートゲート(バッファ)“Q4”に変更されている。このバッファ“Q4”は、遅延回路45が有する積分回路によって歪んだ波形を整形するために、省略しない方が好ましい。尚、このバッファ“Q4”は、イネーブル端子をプルアップすることによって、ハイアクティブ・トライステートバッファを用いて構成することができる。つまり、1種類のICを、ゲート回路30及び過電圧保護装置40のバッファに用いることができる。
図6に示した構成例(第4構成例)では、オフ固定マスク回路31として、イネーブル端子がローアクティブなローアクティブ・トライステートバッファ“37”と、その出力端子をプルダウンする抵抗器“37d”とが用いられている。また、オン固定マスク回路32として、イネーブル端子がローアクティブなローアクティブ・トライステートバッファ“36” と、その出力端子をプルアップする抵抗器“36u”とが用いられている。つまり、図6には、オフ固定マスク回路31及びオン固定マスク回路32の双方に、ローアクティブ・トライステートバッファを用いる例を示している。
図4の第2構成例及び図5の第3構成例とは異なり、オフ固定マスク回路31にローアクティブ・トライステートバッファ“37”を用いているため、ローアクティブの過電圧状態報知信号n_OVをハイアクティブの信号に変える必要がある。このため、過電圧保護装置40の保持回路43の出力段にインバートゲート(ノットゲート)“Q5”が追加されている。図6では、他の構成例との違いを明確にするため、ポジティブを表す接頭語を付加して“p_OV”との表記も併記している。第1構成例及び第2構成例における遅延報知信号OVDもハイアクティブであるから、同様に接頭語を付加すると、“p_OVD”と表記することができる。尚、保持回路43の出力段に設けたインバートゲート(ノットゲート)“Q5”は、遅延回路45の最終段のインバートゲート(ノットゲート)“Q3”と同一のICパッケージに内蔵された素子を利用すると好適である。つまり、1種類のICのインバートゲート(ノットゲート)を、過電圧保護装置40の2箇所の回路で用いることができる。
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記の説明においては、交流全相の上段側IGBT3Hをオフ状態とし、交流全相の下段側IGBT3Lをオン状態として、アクティブショートサーキット制御を行う形態を例示した。しかし、アクティブショートサーキット制御は、交流全相の上段側IGBT3H及び交流全相の下段側IGBT3Lの何れか一方のIGBT3をオフ状態とし、何れか他方のIGBT3をオン状態とすればよい。従って、交流全相の上段側IGBT3Hをオン状態とし、交流全相の下段側IGBT3Lをオフ状態として、アクティブショートサーキット制御を行ってもよい。
(2)図2及び図4から図6を参照した上記の説明においては、イネーブル信号生成回路39が2入力アンドゲートによって構成される例を示した。しかし、ブール代数から明らかなように、2入力アンドゲートは、ローアクティブの2入力ノアゲート(ローアクティブ入力、ローアクティブ出力の2入力オアゲート)と同一の論理素子である。従って、イネーブル信号生成回路39は、トライステートバッファを用いたワイヤードオア回路によって形成されてもよい。図示は省略するが、例えば、2つのローアクティブ・トライステートバッファの入力端子をそれぞれグラウンドに固定してロー状態とし、出力端子同士を接続(短絡)すると共に抵抗器を介してプルアップする。2つのローアクティブ・トライステートバッファのイネーブル端子には、それぞれ、シャットダウン信号“n_SD”と警告信号“n_ALM”とを接続する。
シャットダウン信号“n_SD”及び警告信号“n_ALM”が共にハイ状態の場合には、2つのローアクティブ・トライステートバッファの出力端子は共にHi−Z状態となるから、プルアップによりイネーブル信号“EN”はハイ状態となる。シャットダウン信号“n_SD”及び警告信号“n_ALM”の一方の信号がロー状態となると、イネーブル端子がロー状態となった方のローアクティブ・トライステートバッファの出力端子が、ロー状態となる。他方のローアクティブ・トライステートバッファの出力端子はHi−Z状態であり、後段の回路とは切り離されているから影響はない。ローアクティブ・トライステートバッファの出力端子側に接続されたプルアップ抵抗により、イネーブル端子がロー状態となったローアクティブ・トライステートバッファの出力端子と、電源とは短絡されることはなく、イネーブル信号“EN”はロー状態となる。シャットダウン信号“n_SD”及び警告信号“n_ALM”の双方の信号がロー状態となると、両トライステートバッファの出力端子が、ロー状態となる。2つのトライステートバッファの出力端子は短絡されているが、同一の信号レベルであるから、信号の衝突は生じない。このように、シャットダウン信号“n_SD”と警告信号“n_ALM”との少なくとも一方の信号がロー状態となると、イネーブル信号“EN”がロー状態となる。
例えば、図6に例示した構成において、イネーブル信号生成回路39を2つのローアクティブ・トライステートバッファにより構成すれば、ゲート回路30の全ての倫理素子をローアクティブ・トライステートバッファに統一することができる。この場合には、4つのローアクティブ・トライステートバッファを用いてゲート回路30を構成することができる。上述したように、一般的に、論理素子を回路として実現するICは、1つの半導体パッケージに、同一種の論理素子を複数個内蔵して構成されている。ローアクティブ・トライステートバッファが4個内蔵された論理ICを用いれば、1つの論理ICを用いてゲート回路30を構成することができる。
〔本発明の実施形態の概要〕
以下、上記において説明した、本発明の実施形態における回転電機制御装置(1)の概要について簡単に説明する。
本発明の実施形態における回転電機制御装置(1)の特徴的な構成は、
車両の駆動力源となる交流の回転電機(80)を駆動制御する回転電機制御装置であって、
直流電源(11)に接続されると共に前記回転電機(80)に接続されて直流と複数相の交流との間で電力変換を行うインバータ(10)と、
交流1相分のアーム(10A)が上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)との直列回路により構成された前記インバータ(10)の各スイッチング素子(3)を個別にスイッチング制御するパルス状のスイッチング制御信号(SH,SL)を生成して前記インバータ(10)を制御するインバータ制御装置(20)と、
それぞれの前記スイッチング制御信号(SH,SL)に、少なくとも前記スイッチング素子(3)を駆動するための駆動能力を付加して、それぞれ対応する前記スイッチング素子(3)へ中継するドライブ回路(50)と、を備え、
さらに、前記インバータ制御装置(20)と前記ドライブ回路(50)との間に設けられ、前記スイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを、前記インバータ制御装置(20)から出力される信号レベルに拘わらず固定可能なゲート回路(30)と、
前記インバータ(10)の直流側の電圧である直流リンク電圧(Vdc)が予め規定された過電圧しきい値(THov)以上であることを検出して前記インバータ(10)が過電圧状態であると判定した場合に、交流全相の前記上段側スイッチング素子(3H)及び交流全相の前記下段側スイッチング素子(3L)の何れか一方の前記スイッチング素子(3)をオフ状態とするように前記ゲート回路(30)を制御し、その後予め規定された待機時間(Td)を経過した後、何れか他方の前記スイッチング素子(3)をオン状態とするように前記ゲート回路(30)を制御する過電圧保護装置(40)と、を備え、前記過電圧保護装置(40)により前記過電圧状態であると判定された場合、さらに、前記インバータ制御装置(20)も、前記インバータ(10)を構成する全ての前記スイッチング素子(3)がオフ状態となるように、前記スイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを固定して出力する。その後、前記過電圧保護装置(40)により前記過電圧状態が解消したと判定された場合には、全ての前記スイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルが、前記スイッチング素子(3)がオフ状態となる信号レベルで前記インバータ制御装置(20)から出力されている状態で、前記過電圧保護装置(40)は、前記インバータ制御装置(20)から出力される前記スイッチング制御信号(SH,SL)がその信号レベルを維持するように前記ゲート回路(30)を制御する。その後、前記インバータ制御装置(20)は、各スイッチング素子(3)を個別にスイッチングするように通常の信号レベルで前記スイッチング制御信号(SH,SL)を出力する点にある。
この構成によれば、ゲート回路(30)においてスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを変更するので、過電圧状態であると判定されてインバータ制御装置(20)においてスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを変更する場合の応答時間(Ta)を要すること無く、迅速にインバータ(10)に対する保護制御を行うことができる。また、その際、単純に全てのスイッチング素子(3)をオフ状態とするようなシャットダウン制御ではなく、交流全相の上段側及び下段側の何れか一方のスイッチング素子(3)をオフ状態とし、他方のスイッチング素子(3)をオン状態とする、いわゆるアクティブショートサーキット制御が保護制御として実行される。シャットダウン制御では、例えばインバータ(10)の直流側に備えられる直流リンクコンデンサ(11)の容量によっては直流リンク電圧(Vdc)が急激に上昇する場合もある。しかし、アクティブショートサーキット制御では、シャットダウン制御に比べて直流リンク電圧(Vdc)の上昇は抑制され、インバータ(10)や直流リンクコンデンサ(11)等の耐圧も比較的抑制することができる。また、アクティブショートサーキット制御は、まず、交流全相の上段側及び下段側の何れか一方のスイッチング素子(3)をオフ状態とした状態で、待機時間(Td)を経過した後に他方のスイッチング素子(3)をオン状態とすることによって実現される。従って、アクティブショートサーキット制御への移行に際して、交流1相分のアーム(3A)の上段側及び下段側のスイッチング素子(3)が同時にオン状態となって短絡するような状態が回避される。このように、本構成によれば、インバータ(10)の直流リンク電圧(Vdc)が上昇して過電圧状態であることが検出された場合に、インバータ(10)の各アーム(3A)に短絡を生じさせること無く、迅速にインバータ(10)に対して保護制御を実行することができる。
上述したように、過電圧状態であると判定されてインバータ制御装置(20)においてスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを変更する場合には、ある程度の応答時間(Ta)を要する。しかし、マスク回路(30)によって先行してスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルが変更されていたとしても、通常制御への復帰に備えて、インバータ制御装置(20)においても、スイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを変更しておくと好適である。通常制御への復帰時に、アーム(3A)が短絡することを防止するためには、上下段共にスイッチング制御信号(SH,SL)がロー状態であることが好ましい。この構成によれば、アクティブショートサーキット制御の終了後、通常制御への復帰までの間、例えばインバータ制御装置(20)の応答時間(Ta)が経過するまでの間は、スイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルはロー状態に保たれる。従って、通常のスイッチング制御信号(SH,SL)が出力されるまでの間、アーム(3A)を構成するスイッチング素子(3)が共にオン状態となるようなことはなく、アーム(3A)の短絡は防止される。
ここで、好適な態様として、前記待機時間(Td)は、前記インバータ(10)の交流1相分のアーム(3A)を構成する前記スイッチング素子(3)が共にオフ状態となるように設けられる時間であるデッドタイム以上の時間に設定されていると好適である。
例えば、上段側スイッチング素子(3H)をオフ状態に固定するタイミングと、下段側スイッチング素子(3L)をオン状態に固定するタイミングとが同時であると、インバータ(10)のアーム(3A)を構成する上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)とが同時にオン状態となる可能性がある。待機時間(Td)を設けることによって、上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)とが同時にオン状態とならない期間を確実に設けることができる。このような期間は、少なくとも、デッドタイムの時間分確保されていれば充分である。従って、待機時間Tdは、デッドタイム以上の時間に設定されていると好適である。
また、好適な態様として、回転電機制御装置(1)の前記過電圧保護装置(40)は、前記インバータ(10)が過電圧状態であると判定して過電圧判定信号(DOV)の信号レベルを有効状態に設定して出力する過電圧判定回路(41)と、前記過電圧判定信号(DOV)の有効状態が少なくとも予め規定された保持時間(Th)以上となるように前記過電圧判定信号(DOV)を保持して過電圧状態報知信号(n_OV)として出力する保持回路(43)と、前記過電圧状態報知信号(n_OV)が有効状態である期間を前記待機時間(Td)分遅らせて遅延報知信号(OVD)として出力する遅延回路(45)と、を備え、前記ゲート回路(30)は、前記過電圧状態報知信号(n_OV)に基づいて、交流全相の前記上段側スイッチング素子(3H)及び交流全相の前記下段側スイッチング素子(3L)の何れか一方の前記スイッチング素子(3)がオフ状態に固定されるように構成されていると共に、前記遅延報知信号(OVD)に基づいて、何れか他方の前記スイッチング素子(3)がオン状態に固定されるように構成されている。
過電圧状態であると判定される期間が短いような場合には、過電圧判定信号(DOV)の有効期間も短くなり、インバータ制御装置(20)がその信号を取得することができない可能性がある。従って、過電圧判定信号(DOV)の有効状態が少なくとも保持時間(Th)以上となるように、過電圧判定信号(DOV)を保持して、過電圧状態報知信号(n_OV)が生成されるとよい。また、一方のスイッチング素子(3)がオフ状態に固定されるタイミングと、他方のスイッチング素子(3)がオン状態に固定されるタイミングとが同時であると、インバータ(10)のアーム(3A)を構成する上段側スイッチング素子(3H)と下段側スイッチング素子(3L)とが同時にオン状態となり短絡状態が生じる可能性がある。しかし、過電圧状態報知信号(n_OV)によって一方のスイッチング素子(3)をオフ状態に固定し、待機時間(Td)だけ遅らせた遅延報知信号OVDによって他方のスイッチング素子(3)をオン状態に固定すれば、アーム(3A)が短絡状態とならない期間を待機時間(Td)の分だけ確実に設けることができる。
また、好適な態様として、回転電機制御装置(1)の前記インバータ制御装置は、前記過電圧状態報知信号(n_OV)に基づいて前記スイッチング制御信号(SH,SL)の出力形態を変更するものであって、前記過電圧状態報知信号(n_OV)が無効状態から有効状態となった場合には、当該有効状態が継続する間、前記インバータ(10)を構成する全ての前記スイッチング素子(3)がオフ状態となるように、前記スイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを固定して出力し、前記過電圧状態報知信号(n_OV)が有効状態から無効状態となった場合には、各スイッチング素子(3)を個別にスイッチングするように通常の信号レベルで前記スイッチング制御信号(SH,SL)を出力するものであり、前記保持回路(43)における前記保持時間(Th)は、前記過電圧状態報知信号(n_OV)の信号レベルが変化した後、出力形態を変更して前記スイッチング制御信号(SH,SL)が出力されるまでの時間である、前記インバータ制御装置(20)の応答時間(Ta)よりも長い時間に設定されている。
上述したように、過電圧状態であると判定されてインバータ制御装置(20)においてスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを変更する場合には、ある程度の応答時間(Ta)を要する。保持時間(Th)が、応答時間(Ta)よりも長ければ、ゲート回路(30)によるスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルの固定が終了する前に、インバータ制御装置(20)においてスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを変更することができる。従って、ゲート回路(30)によるスイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルの固定が終了した際に、全てのスイッチング素子(3)がオフ状態となるように、スイッチング制御信号(SH,SL)の信号レベルを設定しておくことができる。その結果、アクティブショートサーキット制御を終了して通常制御に復帰する際に、アーム(3A)を構成するスイッチング素子(3)が共にオン状態となってアーム(3A)が短絡するようなことを防止することができる。