図1は、本発明の実施例に係る建設機械の構成例を示す側面図である。図1において、建設機械としてのショベル1は、クローラ式の下部走行体2の上に、旋回機構を介して、上部旋回体3をX軸周りに旋回自在に搭載している。
また、上部旋回体3は、前方中央部に掘削アタッチメントを備える。掘削アタッチメントは、ブーム4、アーム5、及びバケット6を含み、且つ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9を含む。
図2は、図1のショベルに搭載される油圧システムの構成例を示す回路図である。なお、図2は、高圧油圧ラインを実線で示し、パイロットラインを破線で示し、電気信号ラインを点線で示す。
油圧ポンプ10L、10Rは、エンジン、電動モータ等の駆動源によって駆動される可変容量型ポンプである。本実施例では、油圧ポンプ10Lは、制御弁11L〜15Lを連通するセンターバイパス管路30Lを通じて作動油タンク22まで作動油を循環させる。また、油圧ポンプ10Lは、センターバイパス管路30Lに平行に伸びるパラレル管路31Lを通じて制御弁11L〜15Lに作動油を供給可能である。同様に、油圧ポンプ10Rは、制御弁11R〜15Rを連通するセンターバイパス管路30Rを通じて作動油タンク22まで作動油を循環させる。また、油圧ポンプ10Rは、センターバイパス管路30Rに平行して伸びるパラレル管路31Rを通じて制御弁11R〜15Rに作動油を供給可能である。なお、以下では、油圧ポンプ10L及び油圧ポンプ10Rは、集合的に「油圧ポンプ10」として参照される場合もある。左右一対で構成される他の構成要素についても同様である。
制御弁11Lは、操作装置としての左側走行レバー26Lが操作された場合に、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を油圧アクチュエータとしての左側走行用油圧モータ42Lに供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁11Rは、走行直進弁としてのスプール弁である。本実施例では、走行直進弁11Rは、4ポート2位置のスプール弁であり、第1弁位置11R1及び第2弁位置11R2を有する。また、走行直進弁11Rは、パイロットポート11Rpと、パイロットポート11Rpで受けるパイロット圧による力に対向する力を発生させるバネ11Rsとを有する。なお、走行直進弁11Rの詳細については後述する。
制御弁12Lは、油圧ポンプ10が吐出する作動油をオプションの油圧アクチュエータ(図示せず。)に供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁12Rは、操作装置としての右側走行レバー26Rが操作された場合に、油圧ポンプ10が吐出する作動油を油圧アクチュエータとしての右側走行用油圧モータ42Rに供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁13Lは、操作装置としての旋回操作レバー(図示せず。)が操作された場合に、油圧ポンプ10が吐出する作動油を油圧アクチュエータとしての旋回用油圧モータ44に供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁13Rは、操作装置としてのバケット操作レバー(図示せず。)が操作された場合に、油圧ポンプ10が吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。
制御弁14L、14Rは、操作装置としてのブーム操作レバー(図示せず。)が操作された場合に、油圧ポンプ10が吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。なお、制御弁14Lは、ブーム操作レバーが所定のレバー操作量以上でブーム上げ方向に操作された場合に、作動油を追加的にブームシリンダ7に供給する。
制御弁15L、15Rは、操作装置としてのアーム操作レバー26Aが操作された場合に、油圧ポンプ10が吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給するために作動油の流れを切り替えるスプール弁である。なお、制御弁15Rは、アーム操作レバー26Aが所定のレバー操作量以上で操作された場合に、作動油を追加的にアームシリンダ8に供給する。
センターバイパス管路30L、30Rはそれぞれ、最も下流にある制御弁15L、15Rと作動油タンク22との間にネガティブコントロール絞り20L、20Rを備える。なお、以下では、ネガティブコントロールを「ネガコン」と略称する。ネガコン絞り20L、20Rは、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油の流れを制限することにより、ネガコン絞り20L、20Rの上流でネガコン圧を発生させる。
圧力センサS1、S2は、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生したネガコン圧を検出し、検出した値を電気的なネガコン圧信号としてコントローラ54に対して出力する。
圧力センサS3、S4は、走行負荷圧検出部の一例であり、油圧ポンプ10L、10Rの吐出圧を検出し、検出した値を電気的な吐出圧信号としてコントローラ54に対して出力する。
圧力センサS5、S6、S7は、左側走行レバー26L、右側走行レバー26R、アーム操作レバー26Aが生成するパイロット圧を検出し、検出した値を電気的なパイロット圧信号としてコントローラ54に対して出力する。なお、図示は省略するが、旋回操作レバー、ブーム操作レバー、バケット操作レバー等が生成するパイロット圧も同様に、対応する圧力センサによって検出され、各圧力センサは、検出した値を電気的なパイロット圧信号としてコントローラ54に対して出力する。
コントローラ54は、油圧システムを制御する機能要素であり、例えば、CPU、RAM、ROM、NVRAM等を備えたコンピュータである。本実施例では、コントローラ54は、圧力センサS5〜S7等の操作内容検出部の出力に基づいて各種操作装置の操作内容(例えば、レバー操作の有無、レバー操作方向、レバー操作量等である。)を電気的に検出する。なお、操作内容検出部は、各種操作レバーの傾きを検出する傾きセンサ等、圧力センサ以外のセンサで構成されてもよい。
そして、コントローラ54は、各種操作装置の操作内容に応じて電磁弁55等を動作させる各種機能要素に対応するプログラムをCPUに実行させる。
電磁弁55は、コントローラ54が出力する指令に応じて動作する弁である。本実施例では、電磁弁55は、コントローラ54が出力する電流指令に応じて走行直進弁11Rのパイロットポート11Rpに作用する走行直進パイロット圧を調整する電磁減圧弁である。本実施例では、電磁弁55は、固定容量型ポンプであるコントロールポンプ52が吐出する作動油を利用して走行直進パイロット圧を調整する。
ポンプレギュレータ40L、40Rは、油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を制御する機構である。本実施例では、ポンプレギュレータ40L、40Rは、コントローラ54が生成する指令に応じて油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を制御する。
例えば、ショベル1における油圧アクチュエータが何れも操作されていない状態では、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油は、センターバイパス管路30L、30Rを通ってネガコン絞り20L、20Rに至り、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧を増大させる。この場合、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン圧信号に基づいてコントローラ54が生成する指令に応じて油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を低減させる。その結果、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油がセンターバイパス管路30L、30Rを通過する際の圧力損失(ポンピングロス)が抑制される。
一方、何れかの油圧アクチュエータが操作された場合、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油は、その油圧アクチュエータに対応する制御弁を介してその油圧アクチュエータに流れ込む。そのため、ネガコン絞り20L、20Rに至る量は減少或いは消滅し、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧は低下する。この場合、ポンプレギュレータ40L、40Rは、油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を増大させ、各油圧アクチュエータに十分な作動油を循環させ、各アクチュエータの駆動を確かなものとする。
また、油圧ポンプ10L、10Rの吐出圧が、吐出量に応じて決まる所定値を上回った場合、ポンプレギュレータ40L、40Rは、吐出圧信号に基づいてコントローラ54が生成する指令に応じて油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を低減させる。油圧ポンプ10L、10Rの吸収馬力が駆動源としてのエンジンの出力馬力を上回るのを防止するためである。
なお、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン絞り20L、20Rの上流のネガコン圧、油圧ポンプ10Lの吐出圧、及び油圧ポンプ10Rの吐出圧を利用して、油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を油圧的に制御してもよい。
次に、図3を参照し、走行直進弁11Rの詳細について説明する。なお、図3は、走行直進弁11Rの詳細図である。具体的には、図3(A)は、図2の油圧システムにおける走行直進弁11Rの拡大図である。また、図3(B)は、走行直進弁11Rのパイロットポート11Rpに作用する走行直進パイロット圧と走行直進弁11Rのストロークとの関係を示す図である。また、図3(C)は、走行直進弁11Rにおける4つの流路F1〜F4のそれぞれの開口面積と走行直進弁11Rのストロークとの関係を示す図である。
図3(A)に示すように、走行直進弁11Rは、4ポート2位置のスプール弁であり、第1弁位置11R1及び第2弁位置11R2を有する。具体的には、第1弁位置11R1は、油圧ポンプ10Lとパラレル管路31Lとを連通する流路F1と、油圧ポンプ10Rと制御弁12Rとを連通する流路F2と有する。また、第2弁位置11R2は、油圧ポンプ10Rとパラレル管路31Lとを連通する流路F3と、油圧ポンプ10Lと制御弁12Rとを連通する流路F4とを有する。
また、走行直進弁11Rは、パイロットポート11Rpと、パイロットポート11Rpで受ける走行直進パイロット圧によるパイロット力に対向するバネ力を発生させるバネ11Rsとを有する。具体的には、走行直進パイロット圧が増大してパイロット力がバネ力を上回ると、走行直進弁11Rは第1弁位置11R1から第2弁位置11R2に向かって移動(ストローク)する。また、第2弁位置11R2側に移動するほどバネ11Rsが圧縮されてバネ力が大きくなり、パイロット力とバネ力とが釣り合ったところで走行直進弁11Rはその移動(ストローク)を停止させる。また、走行直進パイロット圧が低下してパイロット力がバネ力を下回ると、走行直進弁11Rは第1弁位置11R1に向かって移動(ストローク)する。また、第1弁位置11R1側に移動(ストローク)するほどバネ11Rsが伸張されてバネ力が小さくなり、パイロット力とバネ力とが釣り合ったところで走行直進弁11Rはその移動(ストローク)を停止させる。
図3(B)は、上述の関係を示す図であり、走行直進弁11Rのストローク量が最小ストローク量Kminであることは、走行直進弁11Rが第1弁位置11R1にある状態に対応し、最大ストローク量Kmaxであることは、走行直進弁11Rが第2弁位置11R2にある状態に対応する。なお、本実施例では最小ストローク量Kminはゼロ[mm]である。また、パイロットポート11Rpに作用する走行直進パイロット圧が最小走行直進パイロット圧PVminのときに走行直進弁11Rが第1弁位置11R1にあり、最大走行直進パイロット圧PVmaxのときに走行直進弁11Rが第2弁位置11R2にあることを表す。
また、図3(C)は、走行直進弁11Rのストローク量の変化に応じて流路F1〜F4のそれぞれの開口面積が変化することを示す。具体的には、走行直進弁11Rが最小ストローク量Kminの場合に流路F1及び流路F2が開口しており、流路F3及び流路F4が閉口している状態を示す。また、走行直進弁11Rのストローク量が値K1に達すると流路F3が開口し、値K2に達すると流路F3が開口することを示す。また、走行直進弁11Rのストローク量が値K3に達すると流路F1が閉口し、値K4に達すると流路F2が閉口することを示す。
この構成により、コントローラ54は、下部走行体2の直進性を高めるべく油圧ポンプ10Lから左側走行用油圧モータ42L及び右側走行用油圧モータ42Rの双方に独占的に作動油が供給されるように走行直進弁11Rを第2弁位置11R2に切り替えることができる。具体的には、左側走行用油圧モータ42L及び右側走行用油圧モータ42Rと他の何れかの油圧アクチュエータとが同時に操作された場合、すなわち走行操作と上物操作との複合操作が行われた場合、コントローラ54は、電磁弁55に電流指令を出力する。そして、コントローラ54は、走行直進弁11Rを第2弁位置11R2に設定し、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油が左側走行用油圧モータ42L及び右側走行用油圧モータ42Rの双方に供給され、他の油圧アクチュエータには供給されないようにする。なお、走行操作が行われていない場合、或いは、走行操作が単独で行われている場合には、コントローラ54は電磁弁55に対して電流指令を出力しない。そのため、走行直進弁11Rは第1弁位置11R1となり、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を右側走行用油圧モータ42Rに流入させることはなく、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油を右側走行用油圧モータ42Rに流入させる。
なお、「走行操作」は、左側走行用油圧モータ42L及び右側走行用油圧モータ42Rの同時操作を意味する。また、本実施例では、「走行操作」は、左側走行レバー26L及び右側走行レバー26Rが同時にフルレバー操作された場合を意味する。また、「フルレバー操作」は、所定の操作量以上で行われるレバー操作を意味し、所定の操作量は例えば80%以上の操作量である。なお、操作量100%は操作レバーを最大限傾斜させたときの操作量に対応し、操作量0%は操作レバーを中立にしたとき(操作レバーを操作していないとき)の操作量に対応する。また、「上物操作」は、左側走行用油圧モータ42L及び右側走行用油圧モータ42R以外の他の油圧アクチュエータの操作を意味する。また、このときの「他の油圧アクチュエータ」を上物アクチュエータと称し、上物アクチュエータの負荷圧を上物負荷圧と称し、走行用油圧モータ42の負荷圧を走行負荷圧と称する。
図4及び図5は、図2に対応する油圧システムの回路図である。また、図4は走行操作が単独で行われている場合の油圧システムの状態を示す。なお、図4の太実線は走行用油圧モータ42に流入する作動油の流れを表す。また、図5は走行操作とアーム閉じ操作との複合操作が行われている場合の油圧システムの状態を示す。なお、図5の太実線は走行用油圧モータ42に流入する作動油の流れを表し、太点線はアームシリンダ8に流入する作動油の流れを表す。
また、走行直進弁11Rは、図3(C)に示すように、ストローク量が値K2以上で且つ値K3未満の場合、すなわち第1弁位置11R1と第2弁位置11R2との中間である中間弁位置にある場合、流路F1〜F4の全てを少なくとも部分的に開口する。そして、走行直進弁11Rは、油圧ポンプ10L及び油圧ポンプ10Rのそれぞれと制御弁12R及びパラレル管路31Lのそれぞれとを連通する。そのため、走行操作と上物操作の複合操作が行われた場合に走行直進弁11Rが中間弁位置にあると、油圧ポンプ10L及び油圧ポンプ10Rのそれぞれが吐出する作動油は負荷圧が低い制御弁のところに流れる。したがって、走行負荷圧より上物負荷圧が低い場合、油圧ポンプ10L及び油圧ポンプ10Rのそれぞれが吐出する作動油のほとんどは上物アクチュエータに流入する。その結果、走行用油圧モータ42に十分な作動油を供給できず、ショベルを減速させ、或いは停止させるおそれがある。
そこで、コントローラ54は、走行負荷圧が上物負荷圧より大きい場合であっても十分な作動油が走行用油圧モータ42に供給されるよう、走行負荷の大きさに応じて走行直進弁11Rの第1弁位置11R1と第2弁位置11R2との間の切り替わり速度を変化させる。
図6は、コントローラ54が走行負荷の大きさに応じて走行直進弁11Rの弁位置間の切り替わり速度であるストローク速度を変化させる処理(以下、「ストローク速度調整処理」)の一例を示すフローチャートである。本実施例では、コントローラ54は、ショベル稼働中に所定制御周期で繰り返しこのストローク速度調整処理を実行する。
最初に、コントローラ54は、ショベルが走行中であるか否かを判定する(ステップST1)。本実施例では、コントローラ54は、圧力センサS5、S6が検出する左側走行レバー26L、右側走行レバー26Rのパイロット圧に基づいてショベルが走行中であるか否かを判定する。なお、コントローラ54は、左側走行用油圧モータ42L及び右側走行用油圧モータ42Rの回転速度等の他の検出値に基づいてショベルが走行中であるか否かを判定してもよい。また、コントローラ54は、左側走行レバー26L及び右側走行レバー26Rの双方が同じ方向にフルレバー操作された場合に限り走行中であると判定してもよい。
ショベルが走行中でないと判定した場合(ステップST1のNO)、コントローラ54は、走行直進弁11Rを第1弁位置11R1に設定する(ステップST2)。
一方で、ショベルが走行中であると判定した場合(ステップST1のYES)、コントローラ54は、走行操作と上物操作の複合操作が行われたか否かを判定する(ステップST3)。具体的には、コントローラ54は、圧力センサが検出する上物アクチュエータ用操作レバーのパイロット圧に基づいて上物操作が行われたか否かを判定する。本実施例では、コントローラ54は、圧力センサS7が検出するアーム操作レバーのアームパイロット圧に基づいてアーム操作が行われたか否かを判定する。
走行操作と上物操作の複合操作が行われていないと判定した場合(ステップST3のNO)、コントローラ54は、走行直進弁11Rを第1弁位置11R1に設定する(ステップST2)。
一方で、走行操作と上物操作の複合操作が行われたと判定した場合(ステップST3のYES)、コントローラ54は、走行負荷圧が所定値TH1未満であるか否かを判定する(ステップST4)。本実施例では、コントローラ54は、圧力センサS3が検出する油圧ポンプ10Lの吐出圧、及び、圧力センサS4が検出する油圧ポンプ10Rの吐出圧の少なくとも1つに基づいて走行負荷圧が所定値TH1未満であるか否かを判定する。なお、コントローラ54は、左側走行用油圧モータ42Lの負荷圧(左側走行用油圧モータ42Lの供給側ポートにおける作動油の圧力)、又は、右側走行用油圧モータ42Rの負荷圧を図示しない圧力センサで直接的に検出し、その検出値に基づいて走行負荷圧が所定値TH1未満であるか否かを判定してもよい。また、コントローラ54は、油圧ポンプ10Lの吐出圧、油圧ポンプ10Rの吐出圧、左側走行用油圧モータ42Lの負荷圧、及び右側走行用油圧モータ42Rの負荷圧の少なくとも1つに基づいて走行負荷圧が所定値TH1未満であるか否かを判定してもよい。
走行負荷圧が所定値TH1未満であると判定した場合(ステップST4のYES)、コントローラ54は、低負荷時ストローク速度で走行直進弁11Rを移動(ストローク)させる(ステップST5)。具体的には、コントローラ54は、電磁弁55に電流指令を出力して走行直進弁11Rのパイロットポート11Rpに作用する走行直進パイロット圧を増大させる。この場合、コントローラ54は、上物アクチュエータ用操作レバーの上物パイロット圧に所定の低負荷時固定圧力ゲインGLを乗じた走行直進パイロット圧をパイロットポート11Rpに作用させる。所定の低負荷時固定圧力ゲインGLは、例えば、パイロットポート11Rpに適用可能な最大走行直進パイロット圧PVmaxを上物アクチュエータ用操作レバーが生成可能な最大上物パイロット圧PAmaxで除した値である。低負荷時ストローク速度は、上述のようにして導き出される走行直進パイロット圧によって決まる走行直進弁11Rのストローク速度である。
また、走行負荷圧が所定値TH1以上であると判定した場合(ステップST4のYES)、コントローラ54は、走行負荷圧が所定値TH2(>TH1)以上であるか否かを判定する(ステップST6)。
走行負荷圧が所定値TH2以上であると判定した場合(ステップST6のYES)、コントローラ54は、高負荷時ストローク速度で走行直進弁11Rを移動(ストローク)させる(ステップST7)。具体的には、コントローラ54は、電磁弁55に電流指令を出力し、低負荷時ストローク速度で走行直進弁11Rを移動(ストローク)させるときの走行直進パイロット圧よりも高い圧力値まで走行直進パイロット圧を増大させる。この場合、コントローラ54は、上物パイロット圧に所定の高負荷時固定圧力ゲインGHを乗じた走行直進パイロット圧をパイロットポート11Rpに作用させる。所定の高負荷時固定圧力ゲインGHは、例えば、最大走行直進パイロット圧PVmaxを所定の上物パイロット圧PA1で除した値である。なお、所定の上物パイロット圧PA1は、最大上物パイロット圧PAmaxより低い圧力値である。また、高負荷時ストローク速度は、所定の上物パイロット圧PA1が低いほど大きい。また、高負荷時ストローク速度は、上述のようにして導き出される走行直進パイロット圧によって決まる走行直進弁11Rのストローク速度である。
走行負荷圧が所定値TH2未満であると判定した場合(ステップST6のNO)、コントローラ54は、中負荷時ストローク速度で走行直進弁11Rを移動させる(ステップST8)。具体的には、コントローラ54は、電磁弁55に電流指令を出力し、低負荷時ストローク速度で走行直進弁11Rを移動させるときの走行直進パイロット圧よりも高く、且つ高負荷時ストローク速度で走行直進弁11Rを移動させるときの走行直進パイロット圧よりも低い圧力値まで走行直進パイロット圧を増大させる。この場合、コントローラ54は、上物パイロット圧に所定の可変圧力ゲインを乗じた走行直進パイロット圧をパイロットポート11Rpに作用させる。所定の可変圧力ゲインは、例えば、現在の走行負荷圧から導かれる値であり、低負荷時固定圧力ゲインGLより大きく高負荷時固定圧力ゲインGHより小さい。本実施例では、所定の可変圧力ゲインは、走行負荷圧が所定値TH1のときの低負荷時固定圧力ゲインGLから走行負荷圧が所定値TH2のときの高負荷時固定圧力ゲインGHまでの間で走行負荷圧に比例して増大する。また、中負荷時ストローク速度は、上述のようにして導き出される走行直進パイロット圧によって決まる走行直進弁11Rのストローク速度である。
次に、図7を参照し、走行操作とアーム閉じ操作の複合操作が行われる場合の各種パラメータの関係について説明する。具体的には、図7(A)は走行直進パイロット圧と上物パイロット圧としてのアームパイロット圧との関係を示し、図7(B)は走行直進弁11Rのストローク量とアームパイロット圧との関係を示す。また、図7(C)は圧力ゲインと走行負荷圧との関係を示し、図7(D)は走行直進弁11Rのストローク量を最大ストローク量Kmaxにするために必要なアームパイロット圧と走行負荷圧との関係を示す。なお、図7の破線は走行負荷圧が低負荷(TH1未満)のときの推移を示し、一点鎖線は中負荷(TH1以上TH2未満)のときの推移を示し、実線は高負荷(TH2以上)のときの推移を示す。
図7(A)に示すように、走行直進パイロット圧は、低負荷の場合、アームパイロット圧に低負荷時固定圧力ゲインGLを乗じた値として導き出される(破線参照。)。そして、アームパイロット圧が最小アームパイロット圧PAminのときに最小走行直進パイロット圧PVminとなり、アームパイロット圧が上昇するにつれて上昇し、アームパイロット圧が最大アームパイロット圧PAmaxのときに最大走行直進パイロット圧PVmaxとなる。また、走行直進パイロット圧は、高負荷の場合、アームパイロット圧に高負荷時固定圧力ゲインGHを乗じた値として導き出される(実線参照。)。そして、アームパイロット圧が最小アームパイロット圧PAminのときに最小走行直進パイロット圧PVminとなり、アームパイロット圧が上昇するにつれて上昇し、アームパイロット圧が所定の圧力値PA1以上のときに最大走行直進パイロット圧PVmaxとなる。また、走行直進パイロット圧は、中負荷の場合、アームパイロット圧に所定の可変圧力ゲインを乗じた値として導き出される(一点鎖線参照。)。そして、アームパイロット圧が最小アームパイロット圧PAminのときに最小走行直進パイロット圧PVminとなり、アームパイロット圧が上昇するにつれて上昇し、アームパイロット圧が走行負荷圧に応じて決まる所定のアームパイロット圧PA2(PA1<PA2<PAmax)以上のときに最大走行直進パイロット圧PVmaxとなる。なお、図7(A)の双方向矢印は、一点鎖線で示す推移の傾きである可変圧力ゲインが走行負荷圧に応じて変化することを表す。
また、図7(B)に示すように、走行直進弁11Rのストローク量は、アームパイロット圧との関係において走行直進パイロット圧と同じ傾向を示す。具体的には、低負荷の場合、アームパイロット圧が最小アームパイロット圧PAminのときに最小ストローク量Kminとなり、アームパイロット圧が上昇するにつれて増大し、アームパイロット圧が最大アームパイロット圧PAmaxのときに最大ストローク量Kmaxとなる。また、高負荷の場合、アームパイロット圧が最小アームパイロット圧PAminのときに最小ストローク量Kminとなり、アームパイロット圧が上昇するにつれて増大し、アームパイロット圧が所定の圧力値PA1以上のときに最大ストローク量Kmaxとなる。また、中負荷の場合、アームパイロット圧が最小アームパイロット圧PAminのときに最小ストローク量Kminとなり、アームパイロット圧が上昇するにつれて増大し、アームパイロット圧が走行負荷圧に応じて決まる所定のアームパイロット圧PA2(PA1<PA2<PAmax)以上のときに最大ストローク量Kmaxとなる。なお、図7(B)の双方向矢印は、図7(A)のときと同様、一点鎖線で示す推移の傾きが走行負荷圧に応じて変化することを表す。
また、図7(C)に示すように、圧力ゲインは、低負荷の場合、すなわち走行負荷圧がTH1未満の場合に低負荷時固定圧力ゲインGLで一定となる。なお、本実施例では、低負荷時固定圧力ゲインGLは、最大走行直進パイロット圧PVmaxを最大アームパイロット圧PAmaxで除した値である。また、圧力ゲインは、高負荷の場合、すなわち走行負荷圧がTH2以上の場合に高負荷時固定圧力ゲインGHで一定となる。なお、本実施例では、高負荷時固定圧力ゲインGHは、最大走行直進パイロット圧PVmaxを所定のアームパイロット圧PA1で除した値である。また、圧力ゲインは、中負荷の場合、すなわち走行負荷圧がTH1以上TH2未満の場合、走行負荷圧が上昇するにつれて、低負荷時固定圧力ゲインGLから高負荷時固定圧力ゲインGHまで増大する。
また、図7(D)に示すように、走行直進弁11Rのストローク量を最大ストローク量Kmaxとするために、すなわち、走行直進弁11Rを第2弁位置11R2にするために必要とされるアームパイロット圧(以下、「最大ストローク時アームパイロット圧」とする。)は、低負荷の場合、すなわち走行負荷圧がTH1未満の場合、最大アームパイロット圧PAmaxとされる。一方で、高負荷の場合、すなわち走行負荷圧がTH2以上の場合、最大ストローク時アームパイロット圧は、最大アームパイロット圧PAmax未満である所定のアームパイロット圧PA1とされる。また、中負荷の場合、すなわち走行負荷圧がTH1以上TH2未満の場合、最大ストローク時アームパイロット圧は、走行負荷圧が上昇するにつれて、最大アームパイロット圧PAmaxから所定のアームパイロット圧PA1まで低下する。したがって、図7(D)の関係は、走行負荷圧が高いほど、アーム操作レバー26Aの操作量が小さいときに走行直進弁11Rが第2弁位置11R2になることを表す。
図8は、コントローラ54が走行直進弁11Rの切り替わり速度を増大させる典型的な状況を示す図である。具体的には、図8は、ショベル1が下部走行体2による推進力(走行力)で斜面を登ろうとする際に掘削アタッチメントの先端を斜面の上に当ててショベル1を引き上げる力を得ようとしている状況を示す。この状況では、走行負荷圧が上物負荷圧より高いため、走行直進弁11Rの切り替わり速度が遅いと、油圧ポンプ10L及び油圧ポンプ10Rのそれぞれが吐出する作動油のほとんどが上物アクチュエータに流入してしまう。そして、作動油のほとんどが上物アクチュエータに流入してしまうと走行用油圧モータ42の回転が減速し或いは停止して走行力が著しく低下してしまう。その結果、掘削アタッチメントの動きは斜面を登ろうとするショベル1の動きをかえって妨げてしまう。しかしながら、コントローラ54は、走行負荷圧が高いほど走行直進弁11Rの第1弁位置11R1から第2弁位置11R2への切り替わり速度を大きくする。そのため、コントローラ54は、油圧ポンプ10L及び油圧ポンプ10Rのそれぞれが吐出する作動油のほとんどが上物アクチュエータに流入してしまうのを防止する。具体的には、コントローラ54は、走行直進弁11Rをより早期に第2弁位置11R2にし、掘削アタッチメントが動かされた場合であっても、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油が左側走行用油圧モータ42L及び右側走行用油圧モータ42Rの双方に供給されるようにする。その結果、掘削アタッチメントが動かされた場合であっても走行用油圧モータ42を所望の速度で回転させて走行力が著しく低下するのを防止し、斜面を登ろうとするショベル1の動きを適切に継続させることができる。
以上の構成により、コントローラ54は、走行負荷の大きさに応じて走行直進弁11Rの弁位置間の切り替わり速度を変化させることができる。そのため、走行操作を含む複合操作が行われた場合であっても走行負荷の大きさにかかわらずショベルを適切に走行させることができる。
また、コントローラ54は、例えば、走行直進弁11Rのパイロットポート11Rpに作用するパイロット圧を調整可能な電磁弁55を制御して走行直進弁11Rの弁位置間の切り替わり速度を変化させる。そのため、コントローラ54は、簡易な構成により走行直進パイロット圧を調整できる。
また、コントローラ54は、例えば、走行負荷圧が所定値TH1以上の場合、走行負荷が大きいほど、走行直進弁11Rの弁位置間の切り替わり速度を増大させる。具体的には、コントローラ54は、走行操作と上物アクチュエータの操作とを含む複合操作が行われた場合に、上物アクチュエータの操作の大きさに応じて走行直進弁11Rに作用するパイロット圧の大きさを決定し、且つ、走行負荷の大きさに応じて、上物アクチュエータの操作の大きさに対する走行直進パイロット圧の大きさの比を変化させる。例えば、コントローラ54は、上物パイロット圧に応じて走行直進パイロット圧の大きさを決定し、且つ、走行負荷の大きさに応じて、上物パイロット圧に対する走行直進パイロット圧の比である圧力ゲインを変化させる。そのため、コントローラ54は、走行直進弁11Rが中間弁位置にある場合であっても、油圧ポンプ10L及び油圧ポンプ10Rのそれぞれが吐出する作動油のほとんどが上物アクチュエータに流入してしまうのを防止できる。また、走行直進弁11Rの弁位置間の切り替わり速度を走行負荷圧の増大に応じて徐々に増大させるため、走行用油圧モータ42に供給される作動油の流量の急減に起因するショックの発生を防止できる。
また、走行負荷の大きさは、例えば、油圧ポンプ10Lの吐出圧、油圧ポンプ10Rの吐出圧、左側走行用油圧モータ42Lの負荷圧、及び右側走行用油圧モータ42Rの負荷圧のうちの少なくとも1つに基づいて検出される。そのため、コントローラ54は、簡易且つ正確にショベルの走行負荷を把握できる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
例えば、上述の実施例では、走行直進弁11Rは、パイロット圧駆動の油圧式スプール弁であるが電磁弁であってもよい。電磁弁の場合、コントローラ54は、例えば、走行負荷の大きさに応じて電磁式走行直進弁に対する電流指令の大きさを変化させて電磁式走行直進弁の切り替わり速度を調整する。
また、上述の実施例では、走行負荷圧が中負荷のときに、所定の可変圧力ゲインは、低負荷時固定圧力ゲインGLから高負荷時固定圧力ゲインGHまでの間で走行負荷圧に比例して増大する。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、所定の可変圧力ゲインは、低負荷時固定圧力ゲインGLから高負荷時固定圧力ゲインGHまで非線形的に増大してもよい。