JP6273191B2 - 溶接用ソリッドワイヤおよび溶接方法 - Google Patents

溶接用ソリッドワイヤおよび溶接方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材として極低温用の9%Ni鋼を溶接するのに適した溶接用ソリッドワイヤ、および上記溶接用ソリッドワイヤを用いた溶接方法に関する。
液体窒素の温度である−196℃程度の極低温下で使用される高張力鋼として、高い耐力と卓越した極低温靱性を有する9%Ni鋼が知られている。9%Ni鋼は、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)、液体窒素、液体酸素などの貯蔵タンクの素材として、或はその関連機器などの素材として広く用いられている。上記貯蔵タンクや関連機器の構造物は通常、溶接により製造されるため、母材として用いられる9%Ni鋼同士を溶接して形成される溶接継手の溶接金属、すなわち溶接接合部においても、母材と同程度の優れた極低温靱性が要求される。
9%Ni鋼同士の溶接技術については、これまでに種々検討されている。例えば、母材である9%Ni鋼と同じ成分か、或は上記母材に類似した成分を有する共金系溶接ワイヤを用いて上記母材同士を溶接すれば、極低温特性に優れた溶接金属が得られると考えられる。溶接方法として、シールドガスを用いるMIG溶接(Inert gas metal−arc welding)、TIG溶接(Inert gas tungsten−arc welding)などが挙げられ、TIG溶接に比べて溶接効率の高いMIG溶接の使用が推奨されるが、MIG溶接では、高い極低温靱性レベルを安定して確保できないという問題がある。そのため、9%Ni鋼の母材同士を、これと同一または類似の成分を有する共金系溶接ワイヤを用いて溶接するに当たっては、MIG溶接に比べて溶接効率が低いTIG溶接に限定され、溶接施工の作業性が著しく低下する。よって、共金系溶接ワイヤを適用した例は、これまで殆どなかった。
一方、上記共金系溶接ワイヤでなく、Ni量が60%と比較的高いNi基合金、例えばINCONEL(登録商標)を溶接ワイヤとして用い、溶接効率の高いMIG溶接により9%Ni鋼同士を溶接する方法が汎用されている。上記Ni基合金溶接ワイヤを用いた溶接継手は、−196℃の極低温下でも溶接ままで優れた靱性を示す反面、強度、特に0.2%耐力は、9%Ni鋼に比べて極めて低くなる。その結果、溶接母材として高耐力の9%Ni鋼を使用しているにも拘わらず、溶接継手の強度が低くなるため、設計応力もこれに応じて下げざるを得なくなる。具体的には、溶接継手での高い強度を確保するため、溶接構造物全体の板厚増加、重量増加、高価なNi基合金溶接ワイヤの増大などの不利益を招く。しかも、Ni基合金溶接ワイヤを用いる場合、多量のNi添加に伴う高温割れの問題がある他、母材である9%Ni鋼と溶接金属とは成分組成が大きく異なるため、溶接時の互いの熱膨張係数差による、熱疲労発生の問題も顕在化する。
よって、母材である9%Ni鋼は極低温用鋼として卓越した性能を有しているにもかかわらず、従来の共金系溶接ワイヤやINCONELなどのNi基合金に代表される溶接ワイヤを使用する限り、上述した種々の問題のため、9%Ni鋼による優れた性能が十分発揮されず、その適用範囲が著しく制限されている。
このような問題点に鑑み、9%Ni鋼と同一または類似の組成を有する共金系溶接ワイヤの改良技術が種々提案されている。例えば特許文献1には、殊に極低温用のNi鋼同士を、これとほぼ同程度のNiを含むNi鋼ワイヤを用いて強固に溶接し得る様に工夫された方法が記載されている。しかしながら、上記方法は、溶接施工の工程数が増えるという問題がある。また、上記方法は、溶接継手における最終溶接層のみの部分的な極低温靱性の改善に止まっている。そのため、溶接金属全体の極低温靱性向上に関しては、必ずしも有効な方法でない。
一方、本発明者らも上記問題に鑑み、特許文献2〜4の技術を提案している。上記特許文献2〜4ではいずれも、9%Ni鋼溶接ワイヤに0.005〜0.04%の希土類元素(REM:Rare Earth Metal)を添加しており、結晶粒成長を抑制するピン止め粒子として機能する微細なREM酸化物を溶接金属中に形成させることによって、溶接金属の極低温靱性および耐亀裂発生強度を向上させている。
特開昭53−118241号公報 特開2009−101414号公報 特開2010−172907号公報 特許第5244059号公報
上記特許文献2〜4によれば、平均して良好な極低温靱性が得られるが、MIG溶接で接合する際、融合不良に起因して靱性が低下する場合がある。そのため、極低温靱性にばらつきが生じ、安定性の点で改善の余地があった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、母材である9%Ni鋼同士を溶接したとき、ばらつきなく安定して良好な極低温靱性を示す溶接金属を形成することが可能な溶接用ソリッドワイヤ、および上記溶接用ソリッドワイヤを用いて溶接金属を形成する方法、並びに上記方法によって得られる上記極低温靱性に優れた溶接金属を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係る溶接用ソリッドワイヤは、質量%で、C:0%超0.10%以下、Si:0%超0.15%以下、Mn:0.1〜0.80%、Ni:8〜15%、Ti:0.015〜0.050%、REM:0%超0.005%以下、およびO:0%超0.0065%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物であり、下記(1)式を満たすところに要旨を有するものである。
10≦18×[Mn]+71×[REM]+206×[Ti]≦20・・・(1)
式中、[ ]は、それぞれ質量%で、各元素の含有量を表す。
本発明の好ましい実施形態において、上記溶接用ソリッドワイヤは、上記ソリッドワイヤの表面が銅めっき層で覆われており、上記ソリッドワイヤの総質量に対する上記銅めっき層の質量比率が0.1〜0.2%である。
本発明の好ましい実施形態において、上記溶接用ソリッドワイヤは、パルス電源を用いたガスシールドアーク溶接に使用される溶接用ソリッドワイヤであって、シールドガスが、炭酸ガスを0体積%以上2体積%以下で含むアルゴンガスである。
本発明は、溶接方法も含むものであって、該溶接方法は、上記溶接用ソリッドワイヤと、パルス電源とを用いて9%Ni鋼からなる鋼材同士をガスシールドアーク溶接して溶接金属を形成するところに特徴を有する。
本発明の好ましい実施形態において、上記溶接方法は、上記ガスシールドアーク溶接に用いられるシールドガスが、炭酸ガスを0体積%以上2体積%以下で含むアルゴンガスである。
本発明の溶接用ソリッドワイヤによれば、化学成分組成が適切に制御されているため、9%Ni鋼同士を溶接したとき、ばらつきなく安定して良好な極低温靱性を示す溶接金属を形成することができる。
図1は、実施例において、良好なビード形状を示す9%Ni鋼板同士の突合せ溶接継手例を模式的に示す説明図である。 図1は、実施例において、不良なビード形状を示す9%Ni鋼板同士の突合せ溶接継手例を模式的に示す説明図である。 図3は、溶接金属のシャルピー衝撃試験片の採取位置を示す概略説明図である。
本発明者らは、9%Ni鋼同士を溶接したとき、ばらつきなく安定して良好な極低温靱性を示す溶接金属を形成することができる溶接用ソリッドワイヤを提供するため、上記特許文献2〜4の技術をベースに検討を行った。その結果、REMを0.005%を超えて添加すると、溶接欠陥を生じて極低温靱性が不安定になり、特性のばらつきが生じることを新たに見出した。そこで、更に検討を行った結果、REMの上限を0.005%以下と、上記特許文献に比べて少なくすると共に、Tiを所定量含有させ、且つ、脱酸剤として添加される上記REMと上記Tiと、更にMnの量を式(1)に示すように適切に制御すれば所期の目的が達成されることを見出した。更に本発明の溶接用ソリッドワイヤを用いれば、9%Ni鋼板同士を、溶接効率の高いMIG溶接で溶接したとしても、9%Ni鋼の優れた特性(高い耐力と卓越した極低温靱性)を損なうことなしに上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明の溶接用ソリッドワイヤを構成する化学成分組成について、詳細に説明する。
C:0%超0.10%以下
Cは、少量でも溶接金属の引張強度(TS)を高める上で有効な元素である。そのため、0%を超える量を含有させる。C含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、より好ましくは0.02%以上である。一方、C含有量が過剰になると溶接金属の極低温靱性が著しく低下するため、C含有量の上限は0.10%以下とする。好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.06%以下である。
Si:0%超0.15%以下
Siは、溶接作業性の向上に有効に作用するため、0%を超える量を含有させる。Si含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、より好ましくは0.02%以上である。一方、Si含有量が過剰になると溶接金属の極低温靱性が著しく低下するため、Si含有量の上限は0.15%以下とする。好ましくは0.12%以下であり、より好ましくは0.10%以下である
Mn:0.1〜0.80%
Mnは、溶接作業性を改善すると共に、脱酸剤や硫黄捕捉剤として卓越した効果を発揮するため、重要な基本成分である。上記効果を有効に発揮させるため、Mn含有量の下限を0.1%以上とする。Mn含有量の好ましい下限は0.2%以上、より好ましくは0.3%以上である。しかしながら、Mn含有量が過剰になると、溶接金属中に安定な残留オーステナイトが生じ易くなり、後述するNiを過剰に含有させた場合と同様、溶接金属の極低温靱性が著しく損なわれる。そのため、Mn含有量の上限は0.80%以下とする。Mn含有量の好ましい上限は0.7%以下、より好ましくは0.6%以下である。
Ni:8〜15%
Niは、良好な極低温靱性を確保する上で重要な成分である。溶接金属に対して十分な極低温靱性を付与するため、Ni含有量の下限を8%以上とする。好ましい下限は9.0%以上、より好ましくは10.0%以上である。一方、Ni含有量が過剰になって15%を超えると、溶接金属の機械的強度が高くなり過ぎて、延性が極端に低下する。更に不安定な残留オーステナイトが生じ、極低温下でマルテンサイトに変態して極低温靱性の低下を招く。そのため、Ni含有量の上限を15%以下とする。好ましい上限は13.0%以下、より好ましくは12.0%以下である。
Ti:0.015〜0.050%
Tiは、微量添加により、溶接作業性を改善すると共に、脱酸剤として卓越した効果を発揮する。また、Tiは、後述するREMほど顕著な効果ではないが、REMと同様に微細な酸化物を形成するため、REMと共に含有させることによって、溶接金属の極低温靱性を向上させることができる。このような効果を有効に発揮させるため、Ti含有量の下限を0.015%以上とする。Ti含有量の好ましい下限は0.018%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。しかしながら、Ti含有量が過剰になると、溶接金属中に微細析出物であるTiCが生じやすくなり、極低温靱性が低下する。そのため、Ti含有量の上限を0.050%以下とする。好ましくは0.045%以下であり、より好ましくは0.040%以下である。
REM:0%超0.005%以下
REMは、脱酸剤として作用し、溶接金属中に含まれる微量の酸素と反応して微細なREM酸化物を形成する。このような微細なREM酸化物は、破壊起点として作用せず、むしろ、溶接凝固過程や凝固後の結晶粒成長を抑制するピン止め粒子として機能するため、溶接金属全体の強度や極低温靱性を高めるのに有効に作用する。そのため、REM含有量を0%超とする。REM含有量の好ましい下限は、0.002%以上である。一方、REMはアークを集中させる効果も有するため、溶接欠陥を生じて靱性不安定を招くことがある。本発明者らの検討結果によれば、REM含有量が0.005%を超えると、欠陥を助長する溶け込み不良が生じ易くなり、極低温靱性の平均値は良好であっても最小値が小さくなり、安定して高い極低温靱性が得られないことが判明した。上記観点から、REM含有量の上限を0.005%以下とする。REM含有量の好ましい上限は0.004%以下、より好ましくは0.003%以下である。なお、本発明におけるREMは、周期律表のLaからLuまでの15のランタノイド系列希土類元素を意味する。これらの元素は単独で添加しても良いし、二種類以上を併用しても良い。
O:0%超0.0065%以下
Oは、極低温靱性の向上に有用な上記微細REM酸化物を形成する上で必要な元素である。そのため、O含有量を0%超とする。O含有量の下限は、好ましくは0.0020%以上である。しかしながら、O含有量が過剰になると、粗大酸化物が形成されるようになり、極低温靱性に悪影響を及ぼすため、その上限を0.0065%以下とする。O含有量の好ましい上限は0.0060%以下、より好ましくは0.0050%以下である。
(1)式:10≦18×[Mn]+71×[REM]+206×[Ti]≦20
本発明では、上記成分を満足すると共に、脱酸作用を有するMn、REM、およびTiの含有量が上記(1)式を満足するように制御する。これにより、アークの安定性が改善すると共に、酸化物系介在物を適切に制御することが可能となる。更に上記(1)式を制御することにより、溶け込み形状に影響するREMの悪影響も回避することができ、極低温靱性の安定性が一層確保される。上記(1)式の値が10未満では、上記元素による脱酸作用が不十分であり、極低温靱性は平均値も最小値も低下する。そのため、上記(1)式の値の下限は10以上とする。上記(1)式の値の好ましい下限は10.5以上、より好ましくは11以上である。一方、上記(1)式の値が20を超えると、アークが不安定となり、溶接欠陥が生じ易くなって安定して高い極低温靱性が得られない。そのため、上記(1)式の値の上限は20以下とする。上記(1)式の値の好ましい上限は19以下、より好ましくは18以下である。
本発明の溶接用ソリッドワイヤの基本成分組成は上記の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物である。上記不可避的不純物として、例えば原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれるAl,Ca,Cr,Mg,P,S,B,N等が挙げられる。これらの元素は、極低温靱性を低下させる傾向にあるため、定法による製鋼工程の範囲内で、できるだけ低減することが好ましい。具体的には、例えばAlは約0.020%未満、Caは約0.002%未満、Crは約0.01%未満、Mgは約0.002%未満、Pは約0.015%未満、Sは約0.010%未満、Bは約0.002%未満、Nは約0.008%未満に制御することが好ましい。
本発明の溶接用ソリッドワイヤを製造する方法、上記ソリッドワイヤの送給方法、上記ソリッドワイヤの表面改質方法は特に限定されず、本発明の技術分野で通常用いられる方法を適宜採用することができる。例えば、前述した特許文献4に記載の方法を参照することができる。以下、その好ましい一例を記載するが、本発明はこれに限定されない。
本発明の溶接用ソリッドワイヤを製造する方法として、例えば、上記化学成分組成の共金系の鋼線材素線を、例えば、製品径である0.8〜1.6mmφの細径まで、ローラダイスや孔ダイス線引き装置を用いた公知の伸線工程で伸線する方法が挙げられる。
このようにして製造された溶接用ソリッドワイヤは、スプールに巻装、或はペールパックに充填された収納形態で搬送され、溶接に供される。このように収納された溶接用ソリッドワイヤは、9%Ni鋼による低温構造物の溶接施工現場にて、送給機の送給ローラによりスプール、或はペールパックから引き出される。その後、後続するフレキシブルなガイド管であるコンジットケーブルに内包されたライナー等を経由して、溶接位置にあるMIG溶接等のトーチ内の給電チップ部分まで送給される。このような一連の溶接用ソリッドワイヤの送給作業の際、送給条件によらず、一定速度で安定して本発明の溶接用ソリッドワイヤは供給される。
ワイヤの送給性をより安定に確保するため、本発明に係る溶接用ソリッドワイヤの表面に、銅めっき層を形成したり、潤滑剤、防錆油等を塗布することが好ましい。このような表面改質法によれば、送給ライナーからの送給抵抗を下げて、ワイヤの送給性を向上させる効果が得られる。更には伸線加工時の伸線性を大きく向上させ、通電性や防錆性などを向上させる効果もある。銅めっき層の形成方法、潤滑剤、防錆油等の種類、これらの塗布方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。
上記のうち、溶接用ソリッドワイヤの表面に銅めっき層を形成する場合には、めっき性と極低温靱性の両立という観点から、上記ソリッドワイヤの総質量に対する銅めっき層の質量比率が0.1〜0.2%であることが好ましい。上記質量比率が0.1%を下回ると、十分なめっき性が得られず、ワイヤの送給性を向上させることができなくなる場合がある。一方、0.2%を超えると、溶接金属中のCu濃度が上昇し、強度が過大となって極低温靱性が確保できなくなる場合がある。
但し、本発明は上記態様に限定する趣旨でなく、環境上の問題を配慮して、上述した銅めっき層、潤滑剤、防錆剤などを表面に施さない裸の溶接用ソリッドワイヤの適用も勿論可能である。
また、本発明の溶接用ソリッドワイヤは、単一構造であっても良いし積層構造を有していても良い。後者の積層構造として、例えば、公知の同軸複層ワイヤの構造を採用することができる。
以上、本発明の溶接用ソリッドワイヤについて説明した。
次に、本発明の溶接方法について説明する。本発明の溶接方法は、母材である9%Ni鋼同士を溶接するに当たり、上記溶接用ソリッドワイヤを用いたところに特徴があり、これにより、安定して高いレベルの極低温靱性を示す溶接金属が得られる。
本発明に用いられる母材は、上記のとおり9%Ni鋼材である。9%Ni鋼材の化学成分組成は、当該分野で通常用いられるものである。本発明では、上述したように溶接ソリッドワイヤ中の特にREM、Ti、Mnを制御しているため、母材である9%Ni鋼の上記成分についても、例えばREM:0%超0.005%以下、Ti:0%超0.05%以下、Mn:0%超1.5%以下の範囲にそれぞれ、制御することが好ましい。
特に本発明の溶接用ソリッドワイヤを用いれば、溶接効率の高いMIG溶接により、9%Ni鋼本来の特性を何ら阻害することなく、上記9%Ni鋼同士を溶接することができる点で有用である。その際、溶接電源として、定常の直流電源でなく、好ましくはパルス電源を用いてガスシールドアーク溶接を行うこと;更に好ましくは、シールドガスとして、炭酸ガスを2体積%以下の範囲で含むArガスを用いることが有用である。これにより、良好な溶け込み形状、すなわち良好なビード形状を確保することができる。このように本発明では、シールドガスとして、MIG溶接に通常用いられる純アルゴンガス(100%Ar)のみならず、Arガス中に炭酸ガスを2体積%以下の範囲で含む態様も包含する点で、通常のガスシールドアーク溶接とは相違する。
以下、本発明に係る溶接方法の好ましい実施形態について説明する。
本発明に用いられる溶接電源は特に限定されず、定常の溶接電源、パルス電源を用いることができる。但し、パルス電源を用いれば、溶滴移行がスプレー状になり易くなるため、後記する実施例に示すように良好なビード形状が得られる。パルス電源を使用する際の条件は特に限定されず、通常、用いられる方法を採用することができる。
また、ガスシールドアーク溶接に用いられるシールドガスは、Arガス中に炭酸ガスを、好ましくは2体積%以下の範囲で許容することもできる。この範囲内であれば、良好な極低温靱性は維持したまま、更に良好なビード形状が得られることも後記する実施例で確認している。炭酸ガス量の比率が2体積%を超えると、炭酸ガスに由来する酸素によって溶接金属中の酸素量が増加してしまい、溶接金属における良好な極低温靱性が確保できなくなる虞がある。より好ましくは1.8体積%以下、更に好ましくは1.5体積%以下である。
なお、ガスシールドアーク溶接を実施するに際しては、シールドガスを二重とし、アウターガスを純アルゴン雰囲気とし、インナーガスを上記のように炭酸ガスを、好ましくは2体積%以下の範囲で含むアルゴンガスとすることも有用である。このような構成を採用することによって、溶接時における大気混入が極力抑制され、より一層良好な極低温靱性を有する溶接金属が得られる。
上述した本発明の溶接方法によれば、高いレベルでばらつきがなく、安定して極低温靱性に優れた溶接金属が得られる。上記方法によって得られる溶接金属の化学成分組成は、基本的に溶接用ソリッドワイヤの化学成分組成と同じである。なお、上記溶接用ソリッドワイヤの表面に銅めっき層を有する場合は、更に上記銅めっき層の組成も溶接金属の組成に反映される。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1に示す化学成分組成を有する鋼線材を真空溶製により製造し、線引き加工によって製品径1.2mmの溶接用ソリッドワイヤを得た。このうち、一部の溶接用ソリッドワイヤについては、銅めっきを施した。なお、表1に記載のREMとして、質量%で、Ce:50%、およびLa:25%を含むミッシュメタルを用いた。
このようにして作製した溶接用ソリッドワイヤを用い、9%Ni鋼母材として表2に示す化学成分組成の鋼材に対して、下記の溶接条件および表3に記載の条件にてガスシールドアーク溶接を実施した。本実施例では、MIG溶接を行った。
(溶接条件)
母材(鋼材)の板厚:25mm
開先角度:60°(V形開先)
ルート間隔:4mm
溶接姿勢:下向き
シールドガス:アルゴン(Ar)ガス+0〜1.0体積%炭酸ガス
予熱/パス間温度:50〜125℃
積層方法:7層16パス
溶接電流:
(1)260〜280A(定常の直流電源、ワイヤプラス)
溶接電圧:23〜31V
溶接速度:24〜27cm/min
上記溶接電流は、溶接速度にあわせて、電流を変化させた。詳細には、溶接速度が24cm/minのとき溶接電流260Aとし、溶接速度が27cm/minのとき溶接電流280Aとなるように電流を変化させた。
(2)パルス電源、ワイヤプラス
ピーク電流:350A
ベース電流:70A
立上り開始〜ピーク定常期〜立上り終了の1ピーク間:5ミリ秒
溶接電圧は、シールドガス組成に応じて最適値を選択した。
このようにして得られた溶接金属のビート形状およびシャルピー衝撃吸収値を、以下のように評価した。
(ビード形状の評価)
ビード形状とは、溶接時の各パスによって形成される溶接金属を意味する。本実施例では、パスごとにグラインダ処理を実施せず、目視によって溶接金属のビード形状を観察した。
その結果、図1に示すように、良好なビード形状の溶接金属が得られた場合をビード形状が良好であり、「良」と評価した。具体的には、ビードの高さが低く、なだらかであり、ビードの側縁部と9%Ni鋼表面とがなだらかに連続的につながっているものである。これに対し、図2に示すように、良好なビード形状の溶接金属が得られなかった場合をビード形状が良好でなく、「不良」と評価した。具体的には、ビード形状が上向きに凸状に膨らんだ形状を有し、ビードの側縁部と9%Ni鋼表面とが不連続な変曲点(屈曲部)によってつながっているものである。
(極低温靱性の評価)
溶接金属の板厚中央部より、図3に示すように、溶接線方向に垂直にシャルピー衝撃試験片としてJIS Z 3111 4号Vノッチ試験片を各3本採取し、JIS Z 2242に則って、−196℃でのシャルピー衝撃試験を実施し、シャルピー衝撃吸収値(vE-196)を測定した。3本のシャルピー衝撃吸収値の平均値が100J以上の場合、極低温靱性に優れると評価した。
更に上記シャルピー衝撃試験の吸収エネルギーの最小値が100J以上の場合、極低温靱性の安定性に優れると評価した。
これらの結果を表3に併記する。
まず、極低温靱性に着目すると、以下のように考察することができる。表3の試験No.1〜15は、本発明で規定する要件を満足する表1のNo.A1〜A10の溶接用ソリッドワイヤを用いて溶接金属を形成した例であり、いずれも安定して極低温靱性に優れることが分かる。
これに対して、表3の試験No.16〜25は、本発明で規定するいずれかの要件を満足しない例であり、極低温靱性、その安定性の少なくとも一方が低下した。
詳細には試験No.16は、C含有量が過剰な表1のソリッドワイヤNo.B1を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性および安定性が低下した。
試験No.17は、Si含有量が過剰な表1のソリッドワイヤNo.B2を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性および安定性が低下した。
試験No.18は、Mn含有量が過剰な表1のソリッドワイヤNo.B3を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性および安定性が低下した。
試験No.19は、Ni含有量が少ない表1のソリッドワイヤNo.B4を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性および安定性が低下した。
試験No.20は、Ni含有量が過剰な表1のソリッドワイヤNo.B5を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性および安定性が低下した。
試験No.21は、REM含有量が過剰な表1のソリッドワイヤNo.B6を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性の安定性が低下した。
試験No.22は、Ti含有量が少ない表1のソリッドワイヤNo.B7を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性および安定性が低下した。
試験No.23は、Ti含有量が過剰な表1のソリッドワイヤNo.B8を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、低温靱性および安定性が低下した。
試験No.24は、O含有量が過剰であり、且つ、(1)式の値が低い表1のソリッドワイヤNo.B9を用いて溶接金属を形成した例である。O含有量が多いため極低温靱性が低下し、(1)式の値が低いため安定性が低下した。
試験No.25は、(1)式の値が大きい表1のソリッドワイヤNo.B10を用いて溶接金属を形成した例である。そのため、極低温靱性の安定性が低下した。
また、ビード形状に着目すると、インナーにおけるシールドガス中の炭酸ガス量を2体積%以下に制御した場合、定常の直流電源を用いた試験No.1〜3、13〜16、21、24に比べて、パルス溶接電源を用いた試験No.4〜12、17〜20、22、23、25では、良好なビード形状が得られた。
1a、1b 溶接継手
2a、2b 9%Ni鋼板
3、4 溶接金属
5 裏当て材

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C :0%超0.10%以下、
    Si:0%超0.15%以下、
    Mn:0.1〜0.80%、
    Ni:8〜15%、
    Ti:0.015〜0.050%、
    REM:0%超0.005%以下、および
    O :0%超0.0065%以下を含有し、
    残部が鉄および不可避的不純物であり、
    下記(1)式を満たすことを特徴とする溶接用ソリッドワイヤ。
    10≦18×[Mn]+71×[REM]+206×[Ti]≦20・・・(1)
    式中、[ ]は、それぞれ質量%で、各元素の含有量を表す。
  2. 前記ソリッドワイヤの表面が銅めっき層で覆われており、前記ソリッドワイヤの総質量に対する前記銅めっき層の質量比率が0.1〜0.2%である請求項1に記載の溶接用ソリッドワイヤ。
  3. パルス電源を用いたガスシールドアーク溶接に使用される溶接用ソリッドワイヤであって、シールドガスが、炭酸ガスを0体積%以上2体積%以下で含むアルゴンガスである請求項1または2に記載の溶接用ソリッドワイヤ。
  4. 請求項1または2に記載の溶接用ソリッドワイヤと、パルス電源とを用いて9%Ni鋼からなる鋼材同士をガスシールドアーク溶接して溶接金属を形成することを特徴とする溶接方法。
  5. 前記ガスシールドアーク溶接に用いられるシールドガスが、炭酸ガスを0体積%以上2体積%以下で含むアルゴンガスである請求項4に記載の溶接方法。
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