従来、多結晶シリコン(poly−Si)等の半導体薄膜は薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)や太陽電池に広く利用されている。とりわけ、poly−SiTFTは、キャリア移動度が高いうえ、ガラス基板のような透明の絶縁基板上に作製できるという特徴を活かして、例えば、液晶表示装置、液晶プロジェクタや有機EL表示装置などの画素回路を構成するスイッチング素子として、或いは液晶駆動用ドライバの回路素子として広く用いられている。
ガラス基板上に高性能なTFTを作製する方法としては、一般に「高温プロセス」と呼ばれる製造方法がある。TFTの製造プロセスの中でも、工程中の最高温度が1000℃程度の高温を用いるプロセスを一般的に「高温プロセス」と呼んでいる。高温プロセスの特徴は、シリコンの固相成長により比較的良質の多結晶シリコンを成膜することができる点、シリコンの熱酸化により良質のゲート絶縁層を得ることができる点、及び清浄な多結晶シリコンとゲート絶縁層との界面を形成できる点である。高温プロセスではこれらの特徴により、高移動度でしかも信頼性の高い高性能TFTを安定的に製造することができる。
他方、高温プロセスは固相成長によりシリコン膜の結晶化を行うプロセスであるために、600℃程度の温度で48時間程度の長時間の熱処理を必要とする。これは大変長時間の工程であり、工程のスループットを高めるためには必然的に熱処理炉を多数必要とし、低コスト化が難しいという点が課題である。加えて、耐熱性の高い絶縁性基板として石英ガラスを使わざるを得ないため基板のコストが高く、大面積化には向かないとされている。
一方、工程中の最高温度を下げ、安価な大面積のガラス基板上にpoly−SiTFTを作製するための技術が「低温プロセス」と呼ばれる技術である。TFTの製造プロセスの中でも、最高温度が概ね600℃以下の温度環境下において比較的安価な耐熱性のガラス基板上にpoly−SiTFTを製造するプロセスは、一般に「低温プロセス」と呼ばれている。低温プロセスでは、発振時間が極短時間のパルスレーザーを用いてシリコン膜の結晶化を行うレーザー結晶化技術が広く使われている。レーザー結晶化とは、基板上のシリコン薄膜に高出力のパルスレーザー光を照射することによって瞬時に溶融させ、これが凝固する過程で結晶化する性質を利用する技術である。
しかしながら、このレーザー結晶化技術には幾つかの大きな課題がある。一つは、レーザー結晶化技術によって形成したポリシリコン膜の内部に局在する多量の捕獲準位である。この捕獲準位の存在により、電圧の印加によって本来能動層を移動するはずのキャリアが捕獲され、電気伝導に寄与できず、TFTの移動度の低下、閾値電圧の増大といった悪影響を及ぼす。更に、レーザー出力の制限によって、ガラス基板のサイズが制限されるといった課題もある。レーザー結晶化工程のスループットを向上させるためには、一回で結晶化できる面積を増やす必要がある。しかしながら、現状のレーザー出力には制限があるため、第7世代(1800mm×2100mm)といった大型基板にこの結晶化技術を採用する場合には、基板一枚を結晶化するために長時間を要する。
また、レーザー結晶化技術は一般的にライン状に成形されたレーザーが用いられ、これを走査させることによって結晶化を行なう。このラインビームは、レーザー出力に制限があるため基板の幅よりも短く、基板全面を結晶化するためには、レーザーを数回に分けて走査する必要がある。これによって基板内にはラインビームの継ぎ目の領域が発生し、二回走査されてしまう領域ができる。この領域は一回の走査で結晶化した領域とは結晶性が大きく異なる。そのため両者の素子特性は大きく異なり、デバイスのバラツキの大きな要因となる。最後に、レーザー結晶化装置は装置構成が複雑であり且つ、消耗部品のコストが高いため、装置コストおよびランニングコストが高いという課題がある。これによって、レーザー結晶化装置によって結晶化したポリシリコン膜を使用したTFTは製造コストが高い素子になってしまう。
このような基板サイズの制限、装置コストが高いといった課題を克服するため、「熱プラズマジェット結晶化法」と呼ばれる結晶化技術が研究されている(例えば、非特許文献1を参照)。本技術を以下に簡単に説明する。タングステン(W)陰極と水冷した銅(Cu)陽極を対向させ、DC電圧を印加すると両極間にアーク放電が発生する。この電極間に大気圧下でアルゴンガスを流すことによって、銅陽極に空いた噴出孔から熱プラズマが噴出する。熱プラズマとは、熱平衡プラズマであり、イオン、電子、中性原子などの温度がほぼ等しく、それらの温度が10000K程度を有する超高温の熱源である。このことから、熱プラズマは被熱物体を容易に高温に加熱することが可能であり、a−Si膜を堆積した基板が超高温の熱プラズマ前面を高速走査することによってa−Si膜を結晶化することができる。
このように装置構成が極めて単純であり、且つ大気圧下での結晶化プロセスであるため、装置を密閉チャンバ等の高価な部材で覆う必要が無く、装置コストが極めて安くなることが期待できる。また結晶化に必要なユーティリティは、アルゴンガスと電力と冷却水であるため、ランニングコストも安い結晶化技術である。
図10は、この熱プラズマを用いた半導体膜の結晶化方法を説明するための模式図である。
同図において、熱プラズマ発生装置31は、陰極32と、この陰極32と所定距離だけ離間して対向配置される陽極33とを備え構成される。陰極32は、例えばタングステン等の導電体からなる。陽極33は、例えば銅などの導電体からなる。また、陽極33は、中空に形成され、この中空部分に水を通して冷却可能に構成されている。また、陽極33には噴出孔(ノズル)34が設けられている。陰極32と陽極33の間に直流(DC)電圧を印加すると両極間にアーク放電が発生する。この状態において、陰極32と陽極33の間に大気圧下でアルゴンガス等のガスを流すことによって、上記の噴出孔34から熱プラズマ35を噴出させることができる。ここで「熱プラズマ」とは、熱平衡プラズマであり、イオン、電子、中性原子などの温度がほぼ等しく、それらの温度が10000K程度を有する超高温の熱源である。
このような熱プラズマを半導体膜の結晶化のための熱処理に利用することができる。具体的には、基板36上に半導体膜37(例えば、アモルファスシリコン膜)を形成しておき、当該半導体膜37に熱プラズマ(熱プラズマジェット)35を当てる。このとき、熱プラズマ35は、半導体膜37の表面と平行な第1軸(図示の例では左右方向)に沿って相対的に移動させながら半導体膜37に当てられる。すなわち、熱プラズマ35は第1軸方向に走査しながら半導体膜37に当てられる。ここで「相対的に移動させる」とは、半導体膜37(及びこれを支持する基板36)と熱プラズマ35とを相対的に移動させることを言い、一方のみを移動させる場合と両者をともに移動させる場合のいずれも含まれる。このような熱プラズマ35の走査により、半導体膜37が熱プラズマ35の有する高温によって加熱され、結晶化された半導体膜38(本例ではポリシリコン膜)が得られる(例えば、特許文献1を参照)。
図11は、最表面からの深さと温度の関係を示す概念図である。同図に示すように、熱プラズマ35を高速で移動させることにより、表面近傍のみを高温で処理することができる。熱プラズマ35が通り過ぎた後、加熱された領域は速やかに冷却されるので、表面近傍はごく短時間だけ高温になる。
このような熱プラズマは、点状領域に発生させるのが一般的である。熱プラズマは、陰極32からの熱電子放出によって維持されており、プラズマ密度の高い位置では熱電子放出がより盛んになるため、正のフィードバックがかかり、ますますプラズマ密度が高くなる。つまり、アーク放電は陰極の1点に集中して生じることとなり、熱プラズマは点状領域に発生する。
半導体膜の結晶化など、平板状の基材を一様に処理したい場合には、点状の熱プラズマを基材全体に渡って走査する必要があるが、走査回数を減らしてより短時間で処理できるプロセスを構築するには、熱プラズマの照射領域を広くすることが有効である。このため、長尺の熱プラズマを発生させ、一方向にのみ走査する技術が検討されている(例えば、特許文献2〜14を参照)。また、本件発明者らによって、環状の長尺チャンバを用いることにより、安定して長尺の誘導結合型の大気圧プラズマトーチを生成する技術が開示されている(例えば、非特許文献2を参照)。これらは長尺の誘導結合型の大気圧プラズマトーチであるが、従来から円筒状のものが、熱処理、粉体合成、薄膜形成、溶射などに利用されている。
誘導結合型プラズマトーチにおいては、プラズマの着火に工夫を要する。そこで、従来から種々の着火方法が検討されてきた。円筒チャンバの内部を真空にしてプラズマが起きやすい状態で着火させるもの(例えば、特許文献15を参照)、着火用のコイルを熱プラズマ発生用コイルとは別に設けるもの(例えば、特許文献16を参照)、着火用の金属棒を用いるもの(例えば、特許文献17を参照)が開示されている。
なお、誘導結合型プラズマトーチにおいて、円筒状の被処理物を回転させながら熱プラズマを照射するもの(例えば、特許文献18を参照)が開示されているが、着火については何ら記載されていない。また、熱プラズマの下流のテール部を被処理物に照射するものであって、熱プラズマの高温部を直接被処理物に曝露するものではない。
また、回転する円筒状の電極を用いるもの(例えば、特許文献19を参照)が開示されているが、これは容量結合型の低温プラズマであり、誘導結合型プラズマトーチとは全く異なるものである。
以下、本発明の実施の形態におけるプラズマ処理装置について図面を用いて説明する。
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図1〜図5を参照して説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態1におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、誘導結合型プラズマトーチユニットTの長尺方向に垂直な面で切った断面図である。図1(b)は、誘導結合型プラズマトーチユニットの長尺方向に平行で、かつ、基材に垂直な面で切った断面図である。図1(a)は図1(b)の破線で切った断面図、図1(b)は図1(a)の破線で切った断面図、また、図2は、図1に示した誘導結合型プラズマトーチユニットの組立構成図であり、各部品(一部)の斜視図を並べたものである。
図1及び図2において、基材1上に薄膜2が形成されている。誘導結合型プラズマトーチユニットTにおいて、導体製のコイル3が誘電体製の第一セラミックスブロック4及び第二セラミックスブロック5の近傍に配置される。コイル3は、断面が円形の銅管を、断面が直方体の銅ブロックに接着したものである。第一セラミックスブロック4、第二セラミックスブロック5及び基材1の表面をなす薄膜2によって囲まれた空間により、誘電体製の長尺チャンバ7が画定される。
長尺チャンバ7は、基材1がなす面に垂直な面に沿って設けられている。また、コイル3の中心軸は、基材1に平行で、かつ、長尺チャンバ7を含む平面に垂直な向きになるよう構成される。すなわち、コイル3の一巻きが構成する面は基材がなす面に垂直な面に沿って、かつ、長尺チャンバ7を含む平面に沿って設けられている。また、コイル3は、第一セラミックスブロック4の外側、第二セラミックスブロック5の外側に各一つずつ配置され、かつ、長尺チャンバ7から離れた位置で直列に接続され、高周波電力を印加した際に長尺チャンバに発生させる高周波電磁界の向きが互いに等しくなるようになっている。
コイル3は、これら二つのうちのどちらか一方だけでも機能しうるが、本実施の形態のように、長尺チャンバ7を挟んで二つを設けた方が、長尺チャンバ7内に発生する電磁界の強度を強めることができるという利点がある。
誘導結合型プラズマトーチユニットTは、全体が接地された導体製のシールド部材(図示しない)で囲われ、高周波の漏洩(ノイズ)が効果的に防止できるとともに、好ましくない異常放電などを効果的に防止できる。
長尺チャンバ7は、第一セラミックスブロック4の一つの平面と、第二セラミックスブロック5に設けた溝に囲まれている。また、これらの誘電体部材としての2つの誘電体ブロックは貼り合わされている。つまり、長尺チャンバ7は、開口部8以外が誘電体で囲まれる構成である。
また、長尺チャンバ7は環状である。ここでいう環状とは、一続きの閉じたヒモ状をなす形状を意味し、円形に限定されるものではない。本実施の形態においては、長方形(2つの長辺をなす直線部と、その両端に2つの短辺をなす直線が連結されてなる、一続きの閉じたヒモ状の形状)の長尺チャンバ7を例示している。長尺チャンバ7に発生したプラズマPは、長尺チャンバ7における長尺で線状の開口部8において、基材1の表面をなす薄膜2に接触する。
また、長尺チャンバ7の長手方向と開口部8の長手方向とは平行に配置されている。
第二セラミックスブロック5の内部にプラズマガスマニホールド9が設けられている。プラズマガス供給配管10よりプラズマガスマニホールド9に供給されたガスは、第二セラミックスブロック5に設けられたガス導入部としてのプラズマガス供給穴11(貫通穴)を介して、長尺チャンバ7に導入される。このような構成により、長手方向に均一なガス流れを簡単に実現できる。プラズマガス供給配管10へ導入するガスの流量は、その上流にマスフローコントローラなどの流量制御装置を備えることにより制御される。
プラズマガス供給穴11は、長尺のスリットであるが、丸い穴状のものを長手方向に複数設けたものであってもよい。
基材1は、トレーとしての基材ホルダ12上に載置される。基材ホルダ12には、基材1の外形とほぼ相似形でわずかに小さい貫通穴と、基材1の外形とほぼ相似形でわずかに大きい座グリ部とが設けられ、基材1をこの座グリ部に載せることで、基材ホルダ12の誘導結合型プラズマトーチユニットTに対向する側の面の座グリ部よりも外側の部分と、基材1の表面とがほぼ同一面を構成するよう、座グリ部の深さは基材1の厚さとほぼ等しく構成される。
このような構成とすることで、基材ホルダ12を誘導結合型プラズマトーチユニットTに対して相対的に移動させたとき、基材ホルダ12の位置にかかわらず、プラズマを発生させる空間たる環状チャンバ7の形状がほぼ一定となる。つまり、移動にともなうプラズマの揺動を抑えることができる。
コイル3内の銅管の内部は冷媒流路となっている。また、その外側に接着された銅ブロックは、接着剤(図示しない)によって第一セラミックスブロック4または第二セラミックスブロック5に接着されている。このように、コイル3の断面を直方体とすることで、第一セラミックスブロック4または第二セラミックスブロック5との間の接着剤をできるだけ薄くすることができるので、良好な熱伝導が確保される。したがって、コイル3を構成する銅管に水などの冷媒を流すことで、コイル3、第一セラミックスブロック4及び第二セラミックスブロック5の冷却が可能である。
長方形の線状の開口部8が設けられ、基材1(或いは、基材1上の薄膜2)は、開口部8と対向して配置されている。事前に、長尺チャンバ内にガスを供給しつつ、開口部8からガスを噴出させながら、図示していない高周波電源よりコイル3に例えば13.56MHzの高周波電力を供給することにより、長尺チャンバ7にプラズマPを発生させておき、その後、基材1を誘導結合型プラズマトーチユニットTの近傍に移動させ、開口部8付近のプラズマを基材1の表面をなす薄膜2に曝露することにより、基材1上の薄膜2をプラズマ処理することができる。
開口部8の長手方向に対して垂直な向きに、長尺チャンバ7と基材1とを相対的に移動させることで、基材1を処理する。つまり、図1(a)の左右方向へ、図1(b)の紙面に垂直な方向へ、誘導結合型プラズマトーチユニットTまたは基材1を動かす。
長尺チャンバ7内に供給するガスとして種々のものが使用可能だが、プラズマの安定性、着火性、プラズマに暴露される部材の寿命などを考えると、不活性ガス主体であることが望ましい。なかでも、Arガスが典型的に用いられる。Arのみでプラズマを生成させた場合、プラズマは相当高温となる(10,000K以上)。
プラズマ発生の条件としては、走査速度=50〜3000mm/s、プラズマガス総流量=1〜100SLM、Ar+H2ガス中のH2濃度=0〜10%、高周波電力=0.5〜50kW程度の値が適切である。ただし、これらの諸量のうち、ガス流量及び電力は、開口部8の長さ100mm当たりの値である。ガス流量や電力などのパラメータは、開口部8の長さに比例した量を投入することが適切と考えられるためである。
このように、開口部8の長手方向と、基材1とが平行に配置されたまま、開口部8の長手方向とは垂直な向きに、長尺チャンバと基材1とを相対的に移動するので、図1(b)に示すように、生成すべきプラズマの長さと、基材1の処理長さがほぼ等しくなるように構成することが可能となる。
また、プラズマPにおいて温度、電子密度、活性粒子密度の高い部分を基材1の表面に曝露させるので、高速な処理、或いは、高温処理が可能となる。
図3は、図1〜図2に示した誘導結合型プラズマトーチユニットを搭載したプラズマ処理装置の構成を示す斜視図である。図3において、誘導結合型プラズマトーチユニットTに対向して、基材1を保持する基材載置部としてのローラー13が複数設けられ、ローラー13の上を、基材ホルダ12とその上に搭載された基材1とが、誘導結合型プラズマトーチユニットTと、これに対向して設けられた対向部としての対向回転体14との間を通過することで、プラズマ処理が行われる。複数あるローラー13の全てまたはいくつかを回転駆動することで、基材ホルダ12の搬送が実現できる。対向回転体14は、誘導結合型プラズマトーチユニットTに対して常に対向して配置されている。
対向回転体14は、長尺チャンバの長手方向に平行な軸を中心として回転可能な円筒である。つまり、対向回転体14の長尺チャンバと対向した面が、長尺チャンバの長手方向に垂直な向きに運動可能に構成されている。
図4は、基材ホルダ12が誘導結合型プラズマトーチユニットTの真下にない状態における、誘導結合型プラズマトーチユニットTと対向回転体14が対向している部分を拡大した断面図である。
図4において、対向回転体14を回転運動させながら、誘導結合型プラズマトーチユニットT内の長尺チャンバ7内にガス供給穴11よりArまたはAr+H2ガスを供給しつつ、開口部8から対向回転体14に向けてガスを噴出させながら、図示していない高周波電源より13.56MHzの高周波電力を、コイル3に供給することにより、長尺チャンバ7内に高周波電磁界を発生させることでプラズマPを発生させ、開口部8付近のプラズマを対向回転体14に曝露する。
つまり、第一セラミックスブロック4、第二セラミックスブロック5及び対向回転体14の表面によって囲まれた空間により、誘電体製の長尺チャンバ7が画定された状態で、プラズマを安定的に着火させる。このとき、開口部8の下方が広く開放されていると、プラズマを発生させる空間たる環状チャンバ7の形状が画定されず、安定した着火を行うことができない。
このように、基材1から離れたところでプラズマの着火を行うことで、基材1に対する着火ステップに伴う不安定なプラズマ照射を避けるとともに、着火後に十分な加速時間を経て移動速度が一定に達した後に基材1にプラズマ照射することができるので、基材1の端から端までを均一に処理することができる。
また、対向回転体14が回転している状態でプラズマを発生させるので、対向回転体14の一部が長時間に渡って加熱されることで溶融したり損傷・破損したりすることを避けることができる。これは、対向回転体14の表面における低温部が、次々に開口部8近傍のプラズマ照射部に移動してくる一方、対向回転体14の表面におけるプラズマ照射によって加熱された高温部が、次々に開口部8近傍のプラズマ照射部から離れていき、速やかに冷却されるからである。
対向回転体14の表面温度は、開口部8近傍でプラズマ照射された瞬間が最も高く、その後徐々に低下して再び開口部8近傍に戻ってくる直前に最も低くなる。その温度水準は、移動熱容量、放熱性や、主に供給する高周波電力の大きさによって決まるプラズマ照射の強度に依存する。必要に応じて、対向回転体14の内部に冷却水などの冷媒を流すことで、温度水準をより低温に保つことも可能である。
或いは、回転速度を速めることで、対向回転体14の表面温度が最も高くなるときの温度を低くすることができる。或いは、誘導結合型プラズマトーチユニットTから離れた部分に気体または液体を吹き付けて冷却を促進してもよい。
図5は、基材1を搭載した基材ホルダ12が、図の左側から誘導結合型プラズマトーチユニットTと対向回転体14が対向している部分に近づいていく様子を、(a)〜(e)の順に並べた断面図である。基材ホルダ12の端部は斜面15を構成している。誘導結合型プラズマトーチユニットTと、その開口部8に対向する部分(図5(a)〜(b)における対向回転体14)との距離が急激に変化すると、プラズマPが不安定になったり、場合によっては失火或いは容量結合モード(低密度プラズマ状態)にモード変化を起こすことがある。これを避けるためには、図5(c)に示すように、斜面15にプラズマPを照射するタイミングで誘導結合型プラズマトーチユニットTを徐々に上昇させ、誘導結合型プラズマトーチユニットTと、その開口部8に対向する部分(図5(c)における斜面15)との距離を一定に保つことが有効である。
ここでは、誘導結合型プラズマトーチユニットTを徐々に上昇させる場合を例示したが、対向回転体14を徐々に下降させてもよい。誘導結合型プラズマトーチユニットTには、ガス、高周波電力、冷却水など多数の配管、配線を接続する必要があるので、対向回転体14を下降させる方が簡単な装置構成となる。いずれにせよ、長尺チャンバ7と対向回転体14との距離が可変であるように構成する。また、斜面15は平面(断面が直線)である必要はなく、曲面(断面が曲線)であってもよい。
同様に、基材ホルダ12が誘導結合型プラズマトーチユニットTと対向回転体14が対向している部分を通り過ぎるタイミングにおいても、図示しない基材ホルダ12の左側の端部をも斜面としておくとともに、誘導結合型プラズマトーチユニットTを徐々に下降させるか、または、対向回転体14を徐々に上昇させることで、誘導結合型プラズマトーチユニットTと、その開口部8に対向する部分との距離を一定に保つことができる。
なお、基材ホルダ12などのトレーを用いず、ローラー13上で直に基材1を搬送することも可能である。この場合も、長尺チャンバ7と対向回転体14との距離が可変であることは、プラズマの変動抑制に有効である。また、太陽電池基板などのように極めて薄い(200μm未満)基材1であれば、長尺チャンバ7と対向回転体14との距離を可変にする必要がない場合もあり得る。
また、ローラー13を用いず、ロボット、リニアスライダなど他の搬送機構を利用してもよい。
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について、図6を参照して説明する。
図6は本発明の実施の形態2におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、誘導結合型プラズマトーチユニットTの長尺方向に垂直な面で切った断面図ある。図6(a)は誘導結合型プラズマトーチユニットTの着火シーケンスまたは準備段階を示し、図6(b)はプラズマ処理中の段階を示し、図6(c)は準備段階またはプラズマ処理が完了した後の失火シーケンスを示す。
本実施の形態においては、実施の形態1において用いたような、基材1の進行方向に対して誘導結合型プラズマトーチユニットTとの位置関係が固定された対向回転体を用いるのではなく、トレーとしての基材ホルダ12とともに搬送される第1移動回転体16及び第2移動回転体17を備える。第1移動回転体16及び第2移動回転体17は、その上面の高さが、基材ホルダ12の上面及び基材1の上面と一致するように配置されており、また、長尺チャンバ7の長手方向に平行な軸を中心として回転可能な円筒である。つまり、第1移動回転体16及び第2移動回転体17の長尺チャンバ7と対向した面が、長尺チャンバ7の長手方向に垂直な向きに運動可能に構成されている。
図6(a)に示すように、第1移動回転体16を回転させながらプラズマの着火を行うことで、基材1に対する着火ステップに伴う不安定なプラズマ照射を避けるとともに、着火後に十分な加速時間を経て移動速度が一定に達した後に基材1にプラズマ照射することができるので、基材1の端から端までを均一に処理することができる。
図6(a)は着火シーケンスではなく、準備段階を示すものと考えることもできる。図の右から左へと搬送されプラズマ処理を終えた基材1を、次に処理すべき未処理の基材1と交換するタイミングにおいて、プラズマを停止させることなくこれを行いたい場合がある。このような場合は、第1移動回転体16を回転させながらプラズマを維持しておくことができる。
一方、図6(c)に示すように、第2移動回転体17を回転させながらプラズマの失火を行うことで、不安定なプラズマ状態を経ずに安全に失火シーケンスを行うことができる。
同様に、図6(c)は失火シーケンスではなく、準備段階を示すものと考えることもできる。図の左から右へと搬送されプラズマ処理を終えた基材1を、次に処理すべき未処理の基材1と交換するタイミングにおいて、プラズマを停止させることなくこれを行いたい場合がある。このような場合は、第2移動回転体17を回転させながらプラズマを維持しておくことができる。
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3について、図7を参照して説明する。
図7は本発明の実施の形態3におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、基材1を搭載した基材ホルダ12と、第1移動回転体16及び第2移動回転体17の断面図である。
図7において、基材ホルダ12の両端部を、第1移動回転体16及び第2移動回転体17と半径がほぼ等しい半円形状に構成している。
このような構成により、誘導結合型プラズマトーチユニットTの開口部8が、第1移動転体16または第2移動回転体17から基材ホルダ12の間を通過する際の、誘導結合型プラズマトーチユニットTの開口部8とそれに対向する部分との距離の変化を小さくすることが可能となるので、プラズマPが不安定になったり、場合によっては失火或いは容量結合モード(低密度プラズマ状態)にモード変化を起こすことを効果的に抑制できる。
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4について、図8を参照して説明する。
図8は本発明の実施の形態4におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、基材1を搭載した基材ホルダ12と、第1移動回転体16及び第2移動回転体17の断面図である。
図8において、基材ホルダ12の両端部のうちの上部を、第1移動回転体16及び第2移動回転体17と半径がほぼ等しい半円形状に構成している。
このような構成によっても、誘導結合型プラズマトーチユニットTの開口部8が、第1移動転体16または第2移動回転体17から基材ホルダ12の間を通過する際の、誘導結合型プラズマトーチユニットTの開口部8とそれに対向する部分との距離の変化を小さくすることが可能となるので、プラズマPが不安定になったり、場合によっては失火或いは容量結合モード(低密度プラズマ状態)にモード変化を起こすことを効果的に抑制できる。
(実施の形態5)
以下、本発明の実施の形態5について、図9を参照して説明する。
図9は本発明の実施の形態5におけるプラズマ処理装置の構成を示すもので、誘導結合型プラズマトーチユニットTの長尺方向に垂直な面で切った断面図である。図9(a)は誘導結合型プラズマトーチユニットTの着火シーケンスまたは準備段階を示し、図9(b)はプラズマ処理中の段階を示し、図9(c)は準備段階またはプラズマ処理が完了した後の失火シーケンスを示す。
本実施の形態においては、実施の形態1〜4において用いたような回転体を用いるのではなく、トレーとしての基材ホルダ12とともに搬送される第1スライド板18及び第2スライド板19を備える。第1スライド板18及び第2スライド板19は、その上面の高さが、基材ホルダ12の上面及び基材1の上面と一致するように配置されており、また、長尺チャンバ7の長手方向に垂直な方向に往復運動可能な平板である。つまり、第1スライド板18及び第2スライド板19の長尺チャンバ7と対向した面が、長尺チャンバ7の長手方向に垂直な向きに運動可能に構成されている。
図9(a)に示すように、第1スライド板18を往復運動させながらプラズマの着火を行うことで、基材1に対する着火ステップに伴う不安定なプラズマ照射を避けるとともに、着火後に十分な加速時間を経て移動速度が一定に達した後に基材1にプラズマ照射することができるので、基材1の端から端までを均一に処理することができる。
図9(a)は着火シーケンスではなく、準備段階を示すものと考えることもできる。図の右から左へと搬送されプラズマ処理を終えた基材1を、次に処理すべき未処理の基材1と交換するタイミングにおいて、プラズマを停止させることなくこれを行いたい場合がある。このような場合は、第1スライド板18を往復運動させながらプラズマを維持しておくことができる。
一方、図9(c)に示すように、第2スライド板19を往復運動させながらプラズマの失火を行うことで、不安定なプラズマ状態を経ずに安全に失火シーケンスを行うことができる。
同様に、図9(c)は失火シーケンスではなく、準備段階を示すものと考えることもできる。図の左から右へと搬送されプラズマ処理を終えた基材1を、次に処理すべき未処理の基材1と交換するタイミングにおいて、プラズマを停止させることなくこれを行いたい場合がある。このような場合は、第2スライド板19を往復運動させながらプラズマを維持しておくことができる。
このような構成によれば、往復運動の向きが変わる際に第1スライド板18及び第2スライド板19の速度がゼロとなる瞬間があるので、回転体を用いる場合に比べて、第1スライド板18及び第2スライド板19がダメージを受ける可能性があるものの、誘導結合型プラズマトーチユニットTの開口部8が、第1スライド板18または第2スライド板19から基材ホルダ12の間を通過する際の隙間を最小にできる。そのため、誘導結合型プラズマトーチユニットTの開口部8とそれに対向する部分との距離の変化を小さくすることが可能となり、プラズマPが不安定になったり、場合によっては失火或いは容量結合モード(低密度プラズマ状態)にモード変化を起こすことをさらに効果的に抑制できる。
なお、第1スライド板18及び第2スライド板19はその上面(誘導結合型プラズマトーチユニットTに対向することになる面)が平面であればよく、逆の面が平面である必要はない。
以上述べたプラズマ処理装置及び方法は、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。
例えば、固定された誘導結合型プラズマトーチユニットTに対して、基材ホルダ12を走査するものを例示したが、誘導結合型プラズマトーチユニットTを、固定された基材載置台に対して走査してもよい。
また、回転体やスライド板の材質については述べなかったが、少なくともその表面は、絶縁材料から構成されていることが好ましい。このような構成により、プラズマと回転体またはスライド板との間でアーク放電が起きることを効果的に抑制できる。回転体またはスライド板の少なくとも表面を絶縁材料から構成するに際して、回転体またはスライド板全体を石英、セラミックスなどの絶縁体で構成してもよいし、ステンレス、アルミニウムなどの金属(導体)に、溶射、CVD、塗工などにより絶縁皮膜を形成したものを用いてもよい。
また、本発明の種々の構成によって、基材1の表面近傍を高温処理することが可能となる。例えば、従来例で詳しく述べたTFT用半導体膜の結晶化や太陽電池用半導体膜の改質に適用可能であることは勿論、プラズマディスプレイパネルの保護層の清浄化や脱ガス低減、シリカ微粒子の集合体からなる誘電体層の表面平坦化や脱ガス低減、種々の電子デバイスのリフロー、固体不純物源を用いたプラズマドーピングなど、様々な表面処理に適用できる。また、太陽電池の製造方法としては、シリコンインゴットを粉砕して得られる粉末を基材上に塗布し、これにプラズマを照射して溶融させ多結晶シリコン膜を得る方法にも適用可能である。
また、説明においては簡単のため「熱プラズマ」という言葉を用いているが、熱プラズマと低温プラズマの区分けは厳密には難しく、また、例えば、田中康規「熱プラズマにおける非平衡性」プラズマ核融合学会誌、Vol.82、No.8(2006)pp.479−483において解説されているように、熱的平衡性のみでプラズマの種類を区分することも困難である。本発明は、基材を熱処理することを一つの目的としており、熱プラズマ、熱平衡プラズマ、高温プラズマなどの用語にとらわれず、高温のプラズマを照射する技術に関するものに適用可能である。
また、基材の表面近傍をごく短時間だけ均一に高温熱処理する場合について詳しく例示したが、反応ガスによるプラズマまたはプラズマと反応ガス流を同時に基材へ照射して基材を低温プラズマ処理する場合においても、本発明は適用できる。プラズマガスに反応ガスを混ぜることにより、反応ガスによるプラズマを基材へ照射し、エッチングやCVDが実現できる。
或いは、プラズマガスとしては希ガスまたは希ガスに少量のH2ガスを加えたガスを用いつつ、シールドガスとして反応ガスを含むガスをプラズマガスの周辺に供給することによって、プラズマと反応ガス流を同時に基材へ照射し、エッチング、CVD、ドーピングなどのプラズマ処理を実現することもできる。
プラズマガスとしてアルゴンを主成分とするガスを用いると、実施例で詳しく例示したように、熱プラズマが発生する。一方、プラズマガスとしてヘリウムを主成分とするガスを用いると、比較的低温のプラズマを発生させることができる。このような方法で、基材をあまり加熱することなく、エッチングや成膜などの処理が可能となる。エッチングに用いる反応ガスとしては、ハロゲン含有ガス、例えば、CxFy(x、yは自然数)、SF6などがあり、シリコンやシリコン化合物などをエッチングすることができる。反応ガスとしてO2を用いれば、有機物の除去、レジストアッシングなどが可能となる。
CVDに用いる反応ガスとしては、モノシラン、ジシランなどがあり、シリコンやシリコン化合物の成膜が可能となる。或いは、TEOS(Tetraethoxysilane)に代表されるシリコンを含有した有機ガスとO2の混合ガスを用いれば、シリコン酸化膜を成膜することができる。
その他、撥水性・親水性を改質する表面処理など、種々の低温プラズマ処理が可能である。本発明の構成は誘導結合型であるため、単位体積あたり高いパワー密度を投入してもアーク放電に移行しにくいため、より高密度なプラズマが発生可能であり、その結果、速い反応速度が得られ、基材の所望の被処理領域全体を短時間で効率よく処理することが可能となる。