JP6250524B2 - 湿式摩擦材 - Google Patents
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Description
湿式油圧クラッチは、複数枚の湿式摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを小さなクリアランスを介して交互に配置され、油圧を利用して両者を圧接・離間させることでトルク伝達・非伝達を行う構造となっている。また、クラッチ内には、この圧接・離間における湿式摩擦材の摩擦低減や摩擦に伴う摩擦熱を吸収する目的等から潤滑油が供給されている。このクラッチは、非締結時には、湿式摩擦材とセパレータプレートとが離間されて相対回転されるが、その際に引き摺りトルクと称されるトルクを生じることが知られている。
この様な引き摺りトルクは、クラッチの空転時に不要なエネルギーを消費してしまうことから、近年、急速に進展されている低燃費化対策として、引き摺りトルクの低減が課題となっている。引き摺りトルクの低減には様々なアプローチがあることが知られているが、例えば、摩擦部の形状工夫により引き摺りトルクを低減する方法が知られている。摩擦部の形状を工夫した技術としては、下記特許文献1が知られている。
このような摩擦部の採用によって、摩擦力を適切に設定でき、クラッチプレートの離脱を容易にするとともに、摩耗抑制によって寿命を伸ばすことができることが記載されているものの、引き摺りトルクについては言及がない。しかし、特許文献1に開示された図2−図6には、湿式摩擦材の内周側及び外周側の両方へ潤滑油が排出されることが示されており、その形状から考えれば、現在ではこの形状採用により引き摺りトルク低減効果を期待できるものと考えられる。
しかしながら、前述のように、近年、強く求められている低燃費化対策としては、不十分であり、更なる引き摺りトルク低減が望まれる。
請求項1に記載の湿式摩擦材は、平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分LBを想定した場合に、前記仮想線分LBのうちの一群の仮想線分LB1が、他群の仮想線分LB2より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記他群の仮想線分L B2 を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されていることを要旨とする。
請求項2に記載の湿式摩擦材は、請求項1に記載の湿式摩擦材において、前記一群の仮想線分LB1を有する摩擦部を第1群の摩擦部F1とし、前記他群の仮想線分LB2を有する摩擦部を第2群の摩擦部F2とした場合に、前記摩擦部F1と、これに隣り合う前記摩擦部F2との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F2の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F1から遠ざかるように傾斜されていることを要旨とする。
請求項3に記載の湿式摩擦材は、請求項1又は請求項2に記載の湿式摩擦材において、前記一群の仮想線分LB1を有する摩擦部を第1群の摩擦部F1とし、前記他群の仮想線分LB2を有する摩擦部を第2群の摩擦部F2とした場合に、前記摩擦部F1と、これに隣り合う前記摩擦部F2との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F1の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F2から遠ざかるように傾斜されていることを要旨とする。
請求項4に記載の湿式摩擦材は、請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材において、前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分LTを想定した場合に、前記仮想線分LTのうちの一群の仮想線分LT1が、他群の仮想線分LT2より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されていることを要旨とする。
請求項5に記載の湿式摩擦材は、請求項4に記載の湿式摩擦材において、前記一群の仮想線分LB1を有する摩擦部を第1群の摩擦部F1とし、前記他群の仮想線分LB2を有する摩擦部を第2群の摩擦部F2とした場合に、前記第1群の摩擦部F1のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分LT1を有するように形成されていることを要旨とする。
そして、各摩擦部3の内周縁3Bと回転中心Pとを最短に結ぶ、各摩擦部3の各々に内周縁3Bと回転中心Pとを最短に結ぶ、複数の摩擦部3の各々に対応した仮想線分LBを想定した場合に、仮想線分LBのうちの一群の仮想線分LB1が、他群の仮想線分LB2より長くなる(LB1>LB2)ように複数の摩擦部3が形成されている(図1−図15参照)。
従って、湿式摩擦材1が、図3に示すように、点線矢印の回転方向へ回転しているとした場合、領域X1を通過した潤滑油は、内周側へより長く形成された摩擦部F2の他端側縁3SLに沿って油溝4へ誘導され、太線矢印Z1に従って油溝4へと誘導され、誘導された潤滑油は油溝4に沿って外周側へ排出が促される。ここで、油溝4へと誘導される潤滑油の一部は摩擦部F2表面へ乗り上げた後、外周側へと排出される。このように、本発明の湿式摩擦材1では、仮想線分LBがLB1>LB2であることによって、摩擦部F1の内周縁3Bが外周側へシフトされ、それによって内周側から供給された潤滑油を油溝4へ効率よく誘導して、外周側への排出を促がすことで、引き摺りトルクを低減できる。
この構成を有する場合には、油溝4が内周側から外周側へ向かって広がるように形成されるため、仮想線分LBがLB1>LB2であることによって、油溝4へと誘導された潤滑油や、摩擦部F2の表面から油溝4へ流入された潤滑油を更に効率よく、湿式摩擦材1の外周側へ排出させることができる。その結果、更なる引き摺りトルク低減を達することができる。尚、一端側縁3SR及び/又は他端側縁3SLの傾斜は、これらの側縁3Sの全体の傾斜(図5参照)であってもよいし、側縁3Sの一部のみの傾斜(図6参照)であってもよい。
この構成を有する場合にも、油溝4へと誘導された潤滑油や、摩擦部F2の表面から油溝4へ流入された潤滑油を更に効率よく、湿式摩擦材1の外周側へ排出させることができる。
この構成を有する場合には、前述したLB1>LB2による作用に加えてLT1<LT2による作用を同時に得ることができる。
即ち、LB1>LB2による作用とは、図13においては、摩擦部F1の内周側にスペース(図13の領域X1)が形成されることにより、図13に示す方向に回転を与えたとき、領域X1を通過した潤滑油を、内周側へより長く形成された摩擦部F2の他端側縁3SLに沿って油溝4へ誘導(太線矢印Z1のように潤滑油を誘導)し、外周側へ排出を促す作用である。
更に、LT1<LT2による作用とは、図13においては、摩擦部F1の外周側にスペース(図13の領域X3参照)が形成されると同時に、摩擦部F1に隣り合った摩擦部F2の一端側縁3SR及び他端側縁3SLは、摩擦部F1の外周縁に対して外周側へ長く形成されることとなり、図13において点線矢印の回転方向へ湿式摩擦材1が回転すると、領域X3を通過した潤滑油の一部は、摩擦部F1の外周縁に対し外周側へ形成された摩擦部F2の他端側縁3SLに沿って油溝4へ誘導されて、太線矢印Z3に従って油溝4へと誘導され易くなる作用である。
これらの両方の作用を同時に得ることで、領域X1を通る潤滑油は太線矢印Z1のように油溝4へ誘導され、領域X3を通る潤滑油は太線矢印Z3のように油溝4へ誘導され、潤滑油は油溝4内でぶつかることになる。そして、このぶつかりによって、潤滑油を摩擦部F2上に積極的に流出させることができる。
この摩擦部F2上への潤滑油の流出は、湿式摩擦材1とセパレータプレートとの間への潤滑油の介在を促がし、両者間を潤滑油によって引き剥がし、引き摺りトルクを低減する効果を奏するため、湿式摩擦材1とセパレータプレートとの間に潤滑油が少なくなる状況で威力を発揮する。
また、上述のように、摩擦部F1又は摩擦部F2の外周側に部分的にスペースが形成されることで、湿式摩擦材1の外周部に外周縁3Tによる凹凸を形成でき、湿式摩擦材1の回転時に、凹部となる領域X3において潤滑油を流れ易くして、外周縁3Tと潤滑油との間に発生する引き摺りトルクを低減する効果も得ることができる。
更に、本湿式摩擦材は、これを平面視した場合(図1−図15参照)に、複数の摩擦部3は、回転中心Pから近い側に内周縁3Bを有し、回転中心Pから遠い側に外周縁3Tを有し、更に、内周縁3Bの一端と外周縁3Tの一端とを繋ぐ一端側縁3SRと、内周縁3Bの他端と外周縁3Tの他端とを繋ぐ他端側縁3SLとを有している。即ち、内周縁3B、外周縁3T、一端側縁3SR及び他端側縁3SLを有した四角形状又は略四角形状をなしている。
そして、内周縁3Bと回転中心Pとを最短に結ぶ、複数の摩擦部3の各々に対応した仮想線分LBを想定した場合に、仮想線分LBのうちの一群の仮想線分LB1が、他群の仮想線分LB2より長くなる(LB1>LB2)ように各摩擦部3が形成されている(図1−図15参照)。
また、コアプレート2は、どのような材料から形成されてもよく、例えば、S35C、S55C、SPCC、NCH780等を用いることができる。
更に、コアプレート2は、主面2aを有する。主面2aは、摩擦部3が配設される面である。主面2aは、コアプレート2の表面及び/又は裏面に備えられている。従って、摩擦部3は、コアプレート2の表面及び裏面のうちのいずれか1面のみに備えてもよく、両面に備えてもよい。
摩擦部3は、平面視した場合に、各々四角形状又は略四角形状をなしている。具体的には、図1のように各縁が接続される角部にR加工又は面取り加工がない場合は四角形状、図4のようにR加工又は面取り加工がなされている場合は略四角形状となる。
基材繊維としては、セルロース繊維(パルプ)、アクリル繊維、アラミド繊維等を利用できる他、各種の合成繊維、再生繊維、無機繊維、天然繊維等を利用できる。通常、この基材繊維は、平均長さ0.5〜5mm、平均径0.1〜6μmのものが用いられる。
充填材としては、摩擦調整剤としてのカシューダスト、固体潤滑剤としてのグラファイト及び/又は二硫化モリブデン、体質顔料としてのケイソウ土等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂及び/又はその変性樹脂を用いることができる。
以下では、本発明を実施の形態によって説明する。尚、各実施の形態に共通する説明は省略する。
[実施の形態1]
実施の形態1の湿式摩擦材1(図1−図3参照)は、コアプレート2と、コアプレート2の主面2a(表側の主面2a及び裏側の主面2aの両面)に配設された摩擦部3と、を備える。
コアプレート2は、NCH780製であり、その内周に歯車状に形成されたスプライン内歯8を有する。スプライン内歯8は、湿式摩擦材1に対して回転軸となるハブの外周に配置されたスプラインと噛み合うことができるように配設される。
また、コアプレート2の外径D1と、コアプレート2の内径D2(スプライン内歯8を除いたコアプレート2の内周によって規定される直径)との比D1/D2は1.02〜6とされている。この形状により、摩擦部3を配置する主面2aの面積を必要十分に確保できる。更に、コアプレート2の厚さは0.3〜14.5mmとされている。
内周縁3B及び外周縁3Tは、各々直線形状であってもよいが、図1に示すように、コアプレート2の内外周の円周に沿って緩やかにカーブした曲線であることが好ましい。このような曲線であることにより、潤滑油の流れをスムーズにすることができる。
更に、摩擦部3は、図4に示すように、各角部がR加工や面取り加工されていてもよい。
従って、図3に示す点線矢印の回転方向へ湿式摩擦材1が回転している場合、領域X1を通過した潤滑油は、内周側へより長く形成された摩擦部F2の他端側縁3SLに沿って油溝4へと誘導される(同様に、上記点線矢印と逆の回転方向へ湿式摩擦材1が回転している場合、領域X1を通過した潤滑油は、内周側へより長く形成された摩擦部F2の一端側縁3SRに沿って油溝4へと誘導される)。即ち、太線矢印Z1に示すように潤滑油を油溝4へ誘導し易くなり、潤滑油の外周側へ排出が促される。このように、内周側から供給された潤滑油を油溝4へより効率よく誘導し、外周側への排出を促がすことによって引き摺りトルクを低減できる。
尚、仮想線分LT1は、摩擦部F1の外周縁3Tと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分であり、仮想線分LT2は、摩擦部F2の外周縁3Tと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分である。
尚、この摩擦部F1(仮想線分LB1を有する第1群の摩擦部)と、摩擦部F2(仮想線分LB2を有する第2群の摩擦部)との配置は、上述のように交互の配置以外にも、例えば、図15に示すように、2つの摩擦部F1が1つの摩擦部F2を間に挟む形態に配置することができる。即ち、摩擦部F1、摩擦部F1、摩擦部F2、摩擦部F1、摩擦部F1、摩擦部F2の順に摩擦部3が各々配置されることとなる。このような配置では、油溝4の数の1/3において、摩擦部F1に隣り合った摩擦部F2の一端側縁3SR又は他端側縁3SLを内周側へ長く配置できることとなる。即ち、潤滑油の排出を促す油溝4の割合を、摩擦部F1と摩擦部F2とを交互に配置した形態に比べて減らすことができる。これによって、潤滑油の排出程度が過剰とならないように、コントロールすることができる。
実施の形態2の湿式摩擦材1(図8参照)は、摩擦部F1の内周縁3Bを、摩擦部F2の内周縁3Bよりも外周側へシフトさせている点では、実施の形態1と共通する。
しかしながら、実施の形態1では、摩擦部F1の高さを、摩擦部F2の高さより小さくすることで内周縁3Bを外周側へシフトさせているのに対し、実施の形態2に示す湿式摩擦材1では、摩擦部F1と摩擦部F2との形状を違えることなく、コアプレートの内外周の間への配する位置を変えることで摩擦部F1の内周縁3Bを摩擦部F2より外周側へシフトさせている点で相違する。
具体的には、実施の形態2の湿式摩擦材1(図8参照)では、摩擦部F1に対する仮想線分LT1(摩擦部F1の外周縁3Tと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分)を、摩擦部F2に対する仮想線分LT2(摩擦部F2の外周縁3Tと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分)より長く短くする(LT1>LT2)ように摩擦部3を形成することで、内周縁3Bを外周側へシフトさせている。そのため、摩擦部F1と摩擦部F2との形状を同じにすることができる。従って、実施の形態2では、LB1>LB2且つLT1>LT2となっている。
このように、LB1>LB2且つLT1>LT2とすることによって、摩擦部F2の外周側にスペースが形成されるこれにより、摩擦部F2の外周端3Tと潤滑油との流通領域が減少することで引き摺りトルクが低減する。そして、摩擦部F2に隣り合った摩擦部F1の一端側縁3SR及び他端側縁3SLは、摩擦部F2の外周縁に対して外周側へ長く形成されていることによって、摩擦部F2の外周側へのスペース領域(図13のX3参照)を流通した潤滑油を油溝4へ引き込みやすくなり、油溝4に引き込まれた潤滑油は摩擦部F2上に流入し摩擦部3とセパレータプレートとの離間効果を発揮しやすくなる。また、摩擦部F1の内周側にもスペースが形成され、このスペース領域(図13のX3参照)を流通する潤滑油は、内周側へより長く形成された摩擦部F2の他端側縁3SLに沿って油溝4へ誘導され、外周側へ排出が促される作用を得ることができる。ここで、外周側へのシフト距離は、摩擦部F1及び摩擦部F2のコアプレートへの配置位置によって決まり、実施の形態1と同様に0.5mm以上が好ましく、最大のシフト距離はコアプレートへの配置可能な距離である。
尚、実施の形態1と同様に、各角部にR加工又は面取り加工がされていてもよい。
実施の形態3の湿式摩擦材1(図5参照)は、実施の形態1の湿式摩擦材1(図1参照)に対して、摩擦部F2の一端側縁3SR及び他端側縁3SLが内周縁3Bから外周縁3Tに向かって連続して傾斜されている点で異なる。即ち、実施の形態3の湿式摩擦材1では、摩擦部F1とこれに隣り合った摩擦部F2と、の間に形成された油溝4が、内周側から外周側へ向かって(回転中心Pの側から遠心方向)広がるように、摩擦部F2の一端側縁3SR及び他端側縁3SLの少なくとも一部が傾斜されている(一端側縁3SRの外周縁3T側の一端及び他端側縁3SLの外周縁3T側の他端が、各々摩擦部F1から遠ざかるように傾斜されている)。
ここで、摩擦部F1と摩擦部F2とはLB1>LB2の構成によって、潤滑油は油溝4に誘導されて外周側へ効率よく排出される。この際、図7に示したように、回転方向に対し摩擦部F1の後部に位置する油溝4は、摩擦部F2の他端側縁3SLが傾斜されていることによって、外周側に向かって広がる形状となっている。これによって、摩擦部F1の内周縁3B側の領域X1を流通し油溝4へ誘導された潤滑油が外周側へより排出されやすくなる。このように湿式摩擦材1の内周側の潤滑油によって引き起こされる引き摺りトルクをより低減させることが可能となる。
このように、回転方向に対し摩擦部F2の後部の油溝4を広げることで、図7に示したように摩擦部F2の表面を流動して油溝4に流入した潤滑油は、容易に摩擦部F1の他端側縁3SLに沿って外側へ排出させることができ、潤滑油の循環がよくなるため効率よく摩擦部F2を冷却することができる。即ち、摩擦部F2は、その両方の側縁3Sが、傾斜された略台形状をなしていることが好ましい。
尚、本実施の形態3では、摩擦部F2の一端側縁3SR及び他端側縁3SLの双方を傾斜させているが、要求仕様によっては、摩擦部F2の一端側縁3SR及び他端側縁3SLのうちのいずれか一方のみを傾斜させることもできる。
即ち、実施の形態3と同様に、摩擦部F2の一端側縁3SRと内周縁3Bとの交点、若しくは、一端側縁3SRと内周縁3Bとの角がR加工又は面取り加工がされている場合は一端側縁3SRとR加工又は面取り加工との交点を通る延長線をLaとした場合に、摩擦部F2の一端側縁3SRの外周側の一部のみ(図6参照)が、延長線Laに対して、摩擦部F1の他端側縁3SLから遠ざかる方向へθaの角度をもって傾斜されている。角度θaは特に限定されないが、0゜<θa≦45゜が好ましく、5゜≦θa≦20゜がより好ましい。
また、実施の形態3と同様に、摩擦部F2の他端側縁3SLと内周縁3Bとの交点、若しくは、他端側縁3SLと内周縁3Bとの角がR加工又は面取り加工がされている場合は一端側縁3SLとR加工又は面取り加工との交点を通る延長線をLdとした場合に、摩擦部F2の他端側縁3SLの外周側の一部のみ(図6参照)が、延長線Ldに対して、摩擦部F1の一端側縁3SRから遠ざかる方向へθdの角度をもって傾斜されている。角度θdは特に限定されないが、0゜<θd≦45゜が好ましく、5゜≦θd≦20゜がより好ましい。
具体的には、摩擦部F2の一端側縁3SRは、その長さの中央から外周側の一部のみが傾斜させることができる。同様に、摩擦部F2の他端側縁3SLは、その長さの中央から外周側の一部のみが傾斜させることができる。
実施の形態4の湿式摩擦材1(図9参照)は、実施の形態3の湿式摩擦材1(図5参照)に対して、摩擦部F2の両側縁3S(一端側縁3SR及び他端側縁3SL)が傾斜されていることに加えて、摩擦部F1の両側縁3S両側縁3S(一端側縁3SR及び他端側縁3SL)も傾斜されている点で異なる。
この実施の形態4の湿式摩擦材1(図9参照)では、図9に示すように、コアプレート2の回転中心Pを通る延長線(直径の延長線)のうち、摩擦部F1の一端側縁3SRと内周縁3Bとの交点、若しくは、一端側縁3SRと内周縁3Bとの角がR加工又は面取り加工がされている場合は一端側縁3SRとR加工又は面取り加工との交点を通る延長線をLcとした場合に、摩擦部F1の一端側縁3SRは、延長線Lcに対して、摩擦部F2の他端側縁3SLから遠ざかる方向へθcの角度をもって傾斜されている。角度θcは特に限定されないが、0゜<θc≦45゜が好ましく、5゜≦θc≦20゜がより好ましい。
尚、本実施の形態4では、摩擦部F1の一端側縁3SR及び他端側縁3SLの双方を傾斜させているが、要求仕様によっては、摩擦部F1の一端側縁3SR及び他端側縁3SLのうちのいずれか一方のみを傾斜させることもできる。
また、実施の形態3の場合と同様に、摩擦部F1においても、一端側縁3SRの一部のみ、他端側縁3SLの一部のみ、を傾斜させて、台形と長方形とを組み合わせた略6角形状とすることができる。
実施の形態5の湿式摩擦材1(図11参照)は、2種の摩擦部F1と、1種の摩擦部F2と、を有する。これらの摩擦部に対して、前述と同様に、摩擦部F1の内周縁3Bと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分を「LB1」、摩擦部F1の外周縁3Tと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分を「LT1」、摩擦部F2の内周縁3Bと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分を「LB2」、摩擦部F2の外周縁3Tと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分を「LT2」とした場合、本実施の形態5の湿式摩擦材1は、LB1>LB2且つLT1≦LT2の相関を有する。
従って、上述の2種の摩擦部F11及び摩擦部F12と、1種の摩擦部F2とを備えた、実施の形態5の湿式摩擦材1は、LB11=LB12>LB2且つLT11<LT12=LT2の相関を有することとなる。
この相関によって、実施の形態5の湿式摩擦材1には、摩擦部3の内外周に各々凹部領域を形成できる。即ち、LB11=LB12>LB2の相関により領域X1である凹部(図13参照)が形成され、LT11<LT12=LT2の相関により領域X3である凹部(図13参照)が形成される。
その結果、内周側では、2つに1つの摩擦部の内周縁(摩擦部F11の内周縁3B)が外周側へシフトされ、1/2の周期で凹部(図13における領域X1)が形成される。一方、外周側では、4つに1つの摩擦部の外周縁(摩擦部F12の外周縁3T)が内周側へシフトされて、1/4の周期で凹部(図13における領域X3)が形成される。即ち、内周側と外周側とで異なる周期で凹部が形成される。本発明の湿式摩擦材1では、このように、凹部が出現する周期は、内周側に対して外周側が少ないことが好ましい。
尚、実施の形態5では、図12に示したように、各摩擦部Fの角部は、各々R加工又は面取り加工がされていてもよく、実施の形態4のように摩擦部F1及び摩擦部F2の一端側縁3SR、他端側縁3SLを傾斜させた形状とすることができる。このような傾斜を設けることで実施の形態4と同じ効果が得られる。
実施の形態6の湿式摩擦材1(図14参照)は、実施の形態2における各摩擦部の形状を変形した形態である。即ち、実施の形態2における各摩擦部Fの一端側縁3SR及び他端側縁3SLが傾斜されていない(図8参照)のに対し、実施の形態6における各摩擦部Fの一端側縁3SR及び他端側縁3SLは各々傾斜されている(図14参照)。各摩擦部Fの一端側縁3SR及び他端側縁3SLの傾斜の設け方及び効果は、実施の形態3及び実施の形態5において前述した通りである。尚、本実施の形態6では、各摩擦部Fの角部をR加工しているが、加工無しとすることもできる。
以下では、本発明を試験例によって説明する。
[1]湿式摩擦材
各々異なる構成を備えた実施例1−5、比較例1−2の各湿式摩擦材を調製した。
(1)実施例1
前述の実施の形態1(図1−図3参照)の形状を有する。コアプレート2は、NCH780製、板厚0.96mm、外径T1158mm、内径T2144mmの平板リング状である。このコアプレート2の表裏の両主面2aに、下記摩擦基材を加圧加熱により接合して摩擦部3を形成している。各摩擦部3の平面形状は、図1−図3に示す通りである(LB1>LB2、LT1=LT2、θ(θa〜θd)は全て0度)。摩擦部3のうち、摩擦部F1の径方向の幅(LT1−LB1)は3mmであり、摩擦部F2の径方向の幅(LT2−LB2)は4mmである。
尚、各摩擦基材は、パルプ及びアラミド繊維等の繊維基材と、カシューダスト等の摩擦調整剤と、珪藻土等の充填剤と、を抄造して得られた抄紙体に、熱可硬化性樹脂(樹脂結合剤)を含浸させて加熱硬化したものである。
前述の実施の形態4(図9参照)の形状を有する。コアプレート2(実施例1と同様)の表裏の両主面2aに、下記摩擦基材(実施例1と同様)を加圧加熱により接合して摩擦部3を形成している。各摩擦部3の平面形状は、図9に示す通りである(LB1>LB2、LT1=LT2、θa=10度、θb=10度、θc=10度、θd=10度)。摩擦部3のうち、摩擦部F1の径方向の幅(LT1−LB1)は3mmであり、摩擦部F2の径方向の幅(LT2−LB2)は4mmである。
前述の実施の形態2(図8参照)の形状を有する。コアプレート2(実施例1と同様)の表裏の両主面2aに、下記摩擦基材(実施例1と同様)を加圧加熱により接合して摩擦部3を形成している。各摩擦部3の平面形状は、図8に示す通りである(LB1>LB2、LT1>LT2、θ(θa〜θd)は全て0度)。摩擦部3のうち、摩擦部F1の径方向の幅(LT1−LB1)は3mmであり、摩擦部F2の径方向の幅(LT2−LB2)は3mmである。
前述の実施の形態6(図14参照)の形状を有する。コアプレート2(実施例1と同様)の表裏の両主面2aに、下記摩擦基材(実施例1と同様)を加圧加熱により接合して摩擦部3を形成している。各摩擦部3の平面形状は、図14に示す通りである(LB1>LB2、LT1>LT2、θa=10度、θb=10度、θc=10度、θd=10度)。摩擦部3のうち、摩擦部F1の径方向の幅(LT1−LB1)は3mmであり、摩擦部F2の径方向の幅(LT2−LB2)は3mmである。
前述の実施の形態5の変形例(図12参照)の形状を有する。コアプレート2(実施例1と同様)の表裏の両主面2aに、下記摩擦基材(実施例1と同様)を加圧加熱により接合して摩擦部3を形成している。各摩擦部3の平面形状は、図12に示す通りであり(LB11=LB12>LB2且つLT11<LT12=LT2、θa=10度、θb=10度、θc=10度、θd=10度)、2種の摩擦部F1と1種の摩擦部F2との3種の摩擦部3を備え、更に、2種の摩擦部F1は、摩擦部F11と摩擦部F12とを備える。摩擦部3のうち、摩擦部F11の径方向の幅(LT11−LB11)は2mmであり、摩擦部F12の径方向の幅(LT12−LB12)は3mmであり、摩擦部F2の径方向の幅(LT2−LB2)は4mmである。
図16に示す形状の摩擦部3を有する湿式摩擦材。コアプレート2(実施例1と同様)の表裏の両主面2aに、下記摩擦基材(実施例1と同様)を加圧加熱により接合して摩擦部3を形成している。各摩擦部3の平面形状は、図16に示す通りである(LB1=LB2、LT1=LT2、θa=45度、θb=45度、θc=45度、θd=45度)。摩擦部3のうち、摩擦部3の径方向の幅(LT1−LB1)は4mmである。
図17に示す形状の摩擦部3を有する湿式摩擦材。コアプレート2(実施例1と同様)の表裏の両主面2aに、下記摩擦基材(実施例1と同様)を加圧加熱により接合して摩擦部3を形成している。各摩擦部3の平面形状は、図17に示す通りである(LB1=LB2、LT1=LT2)。摩擦部3のうち、摩擦部3の径方向の幅(LT1−LB1)は4mmである。
上記[1]で得られた実施例1−5及び比較例1−2の湿式摩擦材1を、各々4枚用いて、下記条件下でSAE摩擦試験機により、その回転数500−3000rpmの間で測定した。得られた結果を図19(図19は縦軸上側程、引き摺りトルクが大きいことを示す)にグラフにして示した。
自動変速機潤滑油(Automatic Transmission Fluid、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標であるが、ここでは当該登録商標とは無関係に以下「ATF」と略す。)油温:40℃、ATF油量:1000mL/分(軸芯潤滑無し)、パッククリアランス:0.20mm/枚の環境下で、試験体の湿式摩擦材1を4枚セットし、回転速度を500〜3000rpmまで変化させ、500rpm、1000rpm、1500rpm、2000rpm、3000rpmの5点において引き摺りトルク(N・m)を測定した。また、測定時間は15秒/各回転、繰返し回数は5回とした。
図19の結果から、摩擦材の内周側にスペースを設けることにより、低回転から高回転まで幅広い範囲で引き摺りトルクを低減できることが分かる。即ち、比較例1と実施例2とを比較すると、摩擦部F1に対する仮想線分LB1が、摩擦部F2に対する仮想線分LB2よりも長くなるように摩擦部を形成した実施例2の湿式摩擦材1では、この相関を有さない比較例1に比べて、相対回転数500〜3000rpmの広い範囲で大幅な引き摺りトルクの低減を達していることが分かる。このことから、本発明の摩擦部F2に対し摩擦部F1の内周縁を外周側へシフトさせることによる潤滑油の排出性向上が引き摺りトルクの低減に大きく寄与していることが証明された。
また、実施例1(図1)と実施例2(図9)との比較から、油溝が内周側より外周側が広がるように、摩擦部3の一端側縁3SR及び他端側縁3SLが傾斜されていることが好ましいことが分かる。即ち、上記傾斜によって、相対回転数のほぼ全域、特に潤滑油量の多い低回転側(500〜1500rpm)において引き摺りトルクが顕著に低減されていることが分かる。この効果は、同様に、実施例3(図8)と実施例4(図14)との比較においても認められる。
ここで実施例2(図9)と実施例4(図14)とを比較すると略同じ効果が得られていることが分かる。従って、摩擦部3の外周縁に設けた領域X3より内周縁に設けた領域X1の効果が大きく寄与しているといえる。
2;コアプレート、2a;主面、
3;摩擦部、
3B;内周縁、
3T;外周縁、
3S;側端縁、
4;油溝、
8;スプライン内歯、
LB;内周縁3Bと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分、
LB1;より長いLB、
LB2;より短いLB、
F1;仮想線分LB1を有する摩擦部、
F2;仮想線分LB2を有する摩擦部、
LT;外周縁3Tと回転中心Pとを最短に結ぶ仮想線分、
LT1;摩擦部F1の仮想線分LT、
LT2;摩擦部F2の仮想線分LT、
P;回転中心。
Claims (5)
- 平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、
前記コアプレートにリング状に配置された複数の摩擦部と、前記複数の摩擦部間に油溝を備えた湿式摩擦材において、
本湿式摩擦材を平面視した場合に、前記複数の摩擦部は、前記回転中心から近い側に内周縁を有し、前記回転中心から遠い側に外周縁を有し、更に、前記内周縁の一端と前記外周縁の一端とを繋ぐ一端側縁と、前記内周縁の他端と前記外周縁の他端とを繋ぐ他端側縁とを有し、且つ、前記内周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分LBを想定した場合に、前記仮想線分LBのうちの一群の仮想線分LB1が、他群の仮想線分LB2より長くなるように前記複数の摩擦部が形成されており、
前記他群の仮想線分L B2 を有する摩擦部の内周縁が、前記コアプレートの内周縁よりも外周側に位置されていることを特徴とする湿式摩擦材。 - 前記一群の仮想線分LB1を有する摩擦部を第1群の摩擦部F1とし、前記他群の仮想線分LB2を有する摩擦部を第2群の摩擦部F2とした場合に、前記摩擦部F1と、これに隣り合う前記摩擦部F2との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F2の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F1から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材。
- 前記一群の仮想線分LB1を有する摩擦部を第1群の摩擦部F1とし、前記他群の仮想線分LB2を有する摩擦部を第2群の摩擦部F2とした場合に、前記摩擦部F1と、これに隣り合う前記摩擦部F2との間の前記油溝が、内周側より外周側が広がるように、前記摩擦部F1の前記一端側縁及び/又は前記他端側縁が前記摩擦部F2から遠ざかるように傾斜されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の湿式摩擦材。
- 前記複数の摩擦部の前記外周縁と前記回転中心とを最短に結ぶ、前記複数の摩擦部の各々に対応した仮想線分LTを想定した場合に、前記仮想線分LTのうちの一群の仮想線分LT1が、他群の仮想線分LT2より短くなるように前記複数の摩擦部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれか1項に記載の湿式摩擦材。
- 前記一群の仮想線分LB1を有する摩擦部を第1群の摩擦部F1とし、前記他群の仮想線分LB2を有する摩擦部を第2群の摩擦部F2とした場合に、前記第1群の摩擦部F1のうちの1以上の摩擦部が、前記仮想線分LT1を有するように形成されていることを特徴とする請求項4に記載の湿式摩擦材。
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