JP6783213B2 - 湿式摩擦材 - Google Patents
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Description
湿式油圧クラッチは、複数枚の湿式摩擦材と複数枚のセパレータプレートとを小さなクリアランスを介して交互に配置され、両者を圧接・離間することでトルク伝達・非伝達を行う構造となっている。また、クラッチ内には、この圧接・離間における湿式摩擦材の摩擦低減や摩擦に伴う摩擦熱を吸収する目的等から、潤滑油が供給されている。このクラッチは、非締結時には、湿式摩擦材とセパレータプレートとが離間されて相対回転されており、その際に引き摺りトルクと称されるトルクを生じることが知られている。
この様な引き摺りトルクは、クラッチの空転時に不要なエネルギーを消費してしまう。そのため、近年、急速に進展されている低燃費化対策として、引き摺りトルクの低減が望まれている。この引き摺りトルクの低減に関しては、下記特許文献1が知られている。
これに対して、上記特許文献1は、幅が内周側から外周側へ向かって狭窄された形状の油溝を有すること、更に、狭窄終了部の溝幅W2が0mmでもよいことの開示がある(特許文献1の[請求項2]、[0033]〜[0034]、[図3]参照)。そして、この溝幅W2が0mm以上である湿式摩擦材では、高回転時に、潤滑油が摩擦部材の表面へ確実に供給されて引き摺りトルク低減できるという記載がある。即ち、内周側から供給された潤滑油を、狭窄油溝を介して、外周側へ向かうことを促がす構成を有することで、引き摺りトルク低減を達する技術である。
しかしながら、前述のように、近年強く求められている低燃費化対策として、より多様な引き摺りトルク低減形態が求められている。
請求項1に記載の湿式摩擦材は、平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、前記コアプレートの主面にリング状に配置された摩擦部と、を有する湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、内周側から供給される潤滑油が、外周側へ抜け出ることを阻止する略円形に形成された内周壁を有することを要旨とする。
請求項2に記載の湿式摩擦材は、請求項1に記載の湿式摩擦材において、前記内周壁は、外周側へ貫通された開口部を有さないことを要旨とする。
請求項3に記載の湿式摩擦材は、請求項2に記載の湿式摩擦材において、前記摩擦部は、複数の摩擦部からなり、
前記内周壁は、前記複数の摩擦部が有する各々の内周壁が連接されてなることを要旨とする。
請求項4に記載の湿式摩擦材は、請求項3に記載の湿式摩擦材において、前記複数の摩擦部は、各々、前記内周壁を連接させるために側方へ突出された側凸部を有することを要旨とする。
請求項5に記載の湿式摩擦材は、請求項4に記載の湿式摩擦材において、前記複数の摩擦部は、各々、前記側凸部を、両側に1つずつ有することを要旨とする。
請求項6に記載の湿式摩擦材は、請求項4又は5に記載の湿式摩擦材において、前記側凸部の内周端と外周端との間の幅は、1.0mm以上であることを要旨とする。
請求項7に記載の湿式摩擦材は、請求項2乃至6のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材において、前記内周壁は、凹凸を有さない平坦な壁であることを要旨とする。
請求項8に記載の湿式摩擦材は、請求項2に記載の湿式摩擦材において、前記内周壁が、1つの摩擦部から形成されていることを要旨とする。
請求項9に記載の湿式摩擦材は、請求項8に記載の湿式摩擦材において、前記摩擦部は、内周端と外周端との間の幅が、他部より狭く形成された幅狭部を有することを要旨とする。
請求項10に記載の湿式摩擦材は、請求項9に記載の湿式摩擦材において、前記幅狭部の内周端と外周端との間の幅は、1.0mm以上であることを要旨とする。
請求項11に記載の湿式摩擦材は、請求項8乃至10のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材において、前記内周壁は、凹凸を有さない平坦な壁であることを要旨とする。
請求項12に記載の湿式摩擦材は、請求項1に記載の湿式摩擦材において、前記内周壁は、外周側へ貫通された複数の開口部を有し、
前記開口部の総開口面積の割合は、前記内周壁全体に対して10%以下であることを要旨とする。
請求項13に記載の湿式摩擦材は、請求項12に記載の湿式摩擦材において、前記複数の摩擦部は、各々、前記内周壁の面積割合を大きくするために側方へ突出された側凸部を有することを要旨とする。
請求項14に記載の湿式摩擦材は、請求項13に記載の湿式摩擦材において、前記複数の摩擦部は、各々、前記側凸部を、両側に1つずつ有することを要旨とする。
請求項15に記載の湿式摩擦材は、請求項13又は14に記載の湿式摩擦材において、前記側凸部の内周端と外周端との幅は、1.0mm以上であることを要旨とする。
請求項16に記載の湿式摩擦材は、請求項12乃至15のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材において、前記内周壁は、内周側へ向かって凹凸を有さない平坦な壁であることを要旨とする。
これにより、内周側の軸からの潤滑油の供給量が多い場合であっても、摩擦部のうちのいわゆるランド部(大きな摩擦面を有する部位)上に乗り上げる油量を減少させることができる。従って、潤滑油のランド部へ乗り上げに伴って生じる潤滑油の剪断抵抗を抑制でき、結果として、引き摺りトルクを低減できる。
本湿式摩擦材の内周壁が、外周側へ貫通された開口部を有さない場合には、内周側から供給される潤滑油が外周側へ抜け出ることを最も効果的に阻止することができる。これにより、摩擦部のランド部上に乗り上げる油量を減少させる効果を最も大きくすることができ、結果として、引き摺りトルクを特に効果的に低減できる。
本湿式摩擦材の内周壁が、外周側へ貫通された複数の開口部を有し、開口部の総開口面積の割合が、内周壁全体に対して10%以下である場合には、内周側から供給される潤滑油が外周側へ抜け出ることができる開口面積を小さくできる。これにより、潤滑油が外周側へ抜け出ることを阻止し、ランド部上に乗り上げる油量を減少させることができる。これにより、潤滑油のランド部へ乗り上げに伴って生じる潤滑油の剪断抵抗を抑制し、引き摺りトルクを低減できる。
本湿式摩擦材(1)は、平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心(P0)とするコアプレート(2)と、コアプレート(2)の主面(2a)にリング状に配置された摩擦部(3)と、を有する。更に、摩擦部(3)は、内周側(SI)から供給される潤滑油が、外周側(SO)へ抜け出ることを阻止する略円形に形成された内周壁(4)を有する。
この点、本発明者は、油溝として機能し得る溝を形成しない場合に、どのような現象を生じるかを検討した。その結果、全く意外なことに、大幅な引き摺りトルク低減が得ることを知見した。即ち、油溝を形成せずとも、つまり、摩擦面積を減少させずとも、全く異なる機序によって引き摺りトルク低減を達し得ることを知見し、前述の本発明を完成させるに至った。
摩擦部3のうちのいわゆるランド部3N1(大きな摩擦面を有する部位、図11参照)上に乗り上げる油量を減少させることができる。これにより、ランド部3N1へ乗り上げた潤滑油によって引き起こされる剪断抵抗を抑制できると考えられる。即ち、潤滑油がランド部3N1へ乗り上げることで引き起こされる引き摺りトルクを低減できる。
このうち、1つのみの摩擦部3を備えた湿式摩擦材1は、図4〜図5に例示される。即ち、図4〜図5に示す摩擦部3は、必要な形状が一体に形成された1つ摩擦部3からなる。
一方、複数の摩擦部3を備えた湿式摩擦材1は、図1〜図3及び図6〜図10等に例示される。即ち、図1〜図3及び図8〜図10に例示するように、複数の個別の摩擦部3が互いに接して配置され、全体として図4〜図5に示す摩擦部3と同じ形状とされた摩擦部3である。
〈1〉個別の内周壁4Nが連なって一体となった内周壁4(図1〜図3、図8〜図9、図12[1−1]、図13[2−1]、図14[3−1]参照)。
〈2〉一連且つ一体の内周壁4(図4、図5及び図10参照)。
〈3〉個別の内周壁4Nが隙間(油溝として機能されてない程度に小さな開口の間隙を意味する)を介して並んで形成された内周壁4(図6〜図7参照)。
本湿式摩擦材1において、コアプレート2の1つの主面2aに配置される個別の摩擦部3Nの数は限定されないが、通常、10以上100以下である。この数は、30以上90以下が好ましく、35以上70以下がより好ましく、40以上50以下が特に好ましい。
上述のうち、内周壁4が、上記〈1〉の形態である場合、即ち、個別の内周壁4Nが連なって一体となった内周壁4である場合、各個別の内周壁4Nは、各々、個別の摩擦部3Nによって形成されている。即ち、内周壁4は、個別の摩擦部3Nが各々有している個別の内周壁4Nの集合体として形成される。従って、〈1〉個別の内周壁4Nが連なって一体となった内周壁4を構成している場合、摩擦部3は、複数の摩擦部3N(セグメント3N)からなっており、内周壁4は、複数の摩擦部3Nが有する各々の内周壁4Nが連接されてなる。ここで、「連接」されるとは、個別の摩擦部3Nが各々有する個別の内周壁4Nが、互いに接して配置され、一連の内周壁4を形成していることを意味している(図1〜図3、図8〜図9、図12[1−2]、図13[2−1]、図14[3−1]等参照)。
即ち、これらの形態の湿式摩擦材1における内周壁4は、外周側SOへ貫通された開口部53を有さない形態となる。従って、個別の摩擦部3N同士の間隙として形成されて、内周側SIから外周側SOへ貫通された溝を、油溝とした場合、このような油溝を有さない形態となる。
〈1−1〉幅狭部(ランド部以外の狭幅化された領域)で連接された形態(図1〜図3、図8、図12[1−2]、図13[2−1]、図14[3−1]参照)
〈1−2〉ランド部で連接された形態(図9参照)
尚、本湿式摩擦材1において、摩擦部3及び摩擦部3Nを平面視する場合、当該摩擦部3及び3Nを時計文字盤における12時位置に配置した場合の平面視を想定するものとする(以下、同様である)。
尚、前述の通り、本湿式摩擦材1において、摩擦部3及び摩擦部3Nを平面視する場合、当該摩擦部3及び3Nを時計文字盤における12時位置に配置した場合の平面視を想定するものとする。従って、所定の摩擦部3Nに関する右左は、言及している摩擦部3Nを12時位置に配置した場合における左右を意味する(以下、同様である)。
更に、切欠部6を有する場合、切欠部6は、両隣りのランド部が、切欠部6の内周端63と接する位置に角部61を有することができる。角部61を有する場合には、内周壁4を乗り越えて、切欠部6に侵入した潤滑油を、ランド部3N1へ乗り上げることを促がすことができる。即ち、前述のように、ランド部3N1への潤滑油の乗り上げは、剪断抵抗を増大させるものの、摩擦部3の潤滑に要する最低限の油量は確保する必要がある。このような観点から、切欠部6に侵入された潤滑油を、単に外周側SOへ排出するだけでなく、その一部をランド部3N1へ積極的に乗り上げさせる場合には、角部61を備えることが好ましい。また、角部61は、切欠部6の両底端に備えることもできるが、例えば、湿式摩擦材1の回転方向が一定である場合には、回転方向に対して後側となる底端にのみ備えることができる。
尚、この間隔D61は、複数の切欠部6を有し、各切欠部6が、その内周端63と接する両側に角部61を各々有する他形態の湿式摩擦材1においても同様に適用できる。
上記〈1−2〉の形態においても、上記〈1−1〉の場合と同様に、内周壁4よりも外周側SOに配置された切欠部6を有することができる。更に、切欠部6を有する場合、切欠部6は、両隣りのランド部が、切欠部6の内周端63と接する位置に角部61を有することができることについても同様である。
内周壁4は、前述のように、〈2〉一連且つ一体の内周壁4とすることができる(図4、図5及び図10参照)。この場合、図4〜図5に示すように、摩擦部3は、一連且つ一体の摩擦部3とすることができる(内周壁4は、1つの摩擦部3から形成できる)。更に、図10に示すように、一連且つ一体の内周壁4を有する個別の摩擦部3N(図10中において符号36)と、各ランド部(3N1)を構成する個別の摩擦部3N(図10中において符号31〜35)と、を有し、これらの個別の摩擦部3Nが、互いに接続(接続部51を形成)されることによって、一連且つ一体の摩擦部3とすることができる(内周壁4は、1つの摩擦部3から形成できる)。上記〈2〉の形態の内周壁4は、外周側SOへ貫通された開口部53を有さない形態である。即ち、〈2〉の形態の湿式摩擦材1は、油溝を有さない。
また、〈2〉の形態においても、上記〈1〉の場合と同様に、内周壁4よりも外周側SOに配置された切欠部6を有することができる。更に、切欠部6を有する場合、切欠部6は、両隣りのランド部が、切欠部6の内周端63と接する位置に角部61を有することができることについても同様である。
幅狭部375を有する場合、幅狭部375の内周端375Iと外周端375Oとの間の幅D375(図4及び図5参照)は、D375≧1.0mmであることが好ましい。D375が1.0mm以上であることにより、内周壁4による内周側SIから供給される潤滑油が、外周側SOへ抜け出ることを阻止する効果をより確実に得ることができる。この幅は、更に、1.0mm≦D375≦10mmが好ましく、1.7mm≦D375≦9.0mmがより好ましく、2.3mm≦D375≦8.5mmが更に好ましく、3.0mm≦D375≦8.0mmが特に好ましい。これらの好ましい範囲では、より優れた上述の阻止効果を得ることができるとともに、摩擦部3としての耐久性を向上させることができる。
内周壁4は、前述のように、〈3〉個別の内周壁4Nが隙間を介して並んで形成された内周壁4とすることができる(図6〜図7参照)。
この形態では、内周壁4は、外周側SOへ貫通される複数の開口部53を有することになる。この場合、開口部53の総開口面積の割合R53は、内周壁4全体に対して、通常、10%以下である。この範囲では、離間して配置された個別の摩擦材3N同士の間隙として開口部53を有することによって、非連続な内周壁4となっていても、総開口面積の割合が小さいことによって、内周側SIから供給される潤滑油が、外周側SOへ抜け出ることを阻止することができるからである。この割合は、0.1%以上8%以下が好ましく、0.5%以上7%以下がより好ましく、0.7%以上6%以下が更に好ましく、1%以上5%以下が特に好ましい。
更に、角部61間の間隔D61は限定されないが、例えば、5.0mm≦D61≦20mmとすることができる。この範囲では、摩擦面積の低減を抑えつつ、切欠部6を備える効果を得ることができる。この間隔D61は、更に、6.0mm≦D61≦18mmとすることができ、7.0mm≦D61≦16mmとすることができ、8.0mm≦D61≦15mmとすることができる。
基材繊維としては、セルロース繊維(パルプ)、アクリル繊維、アラミド繊維等を利用できる他、各種の合成繊維、再生繊維、無機繊維、天然繊維等を利用できる。基材繊維の平均長は0.5〜5mmとすることができる。また、基材繊維の平均径は0.1〜6μmとすることができる。
[1]湿式摩擦材の調整
[実施例1]
実施例1の湿式摩擦材1(図12[1−1]参照)は、コアプレート2と、コアプレート2の主面2a(表側の主面2a及び裏側の主面2aの両面)に配設された各々同形状の個別の摩擦部3N(セグメント3N)と、を備える(表側の主面2a及び裏側の主面2aにおいて同じ構成である)。個別の摩擦部3Nの総数は、40個である。
この実施例1の湿式摩擦材1を構成する個別の摩擦部3Nは、各々、D371=5mmである側凸部37を有する。また、複数の切欠部6を有しており、各切欠部6は、その内周端63と接する両側に角部61を各々有しており、その間隔D61は、D61=10mmである。
また、各個別の摩擦部3Nは、パルプ及びアラミド繊維等の繊維基材と、カシューダスト等の摩擦調整剤と、珪藻土等の充填剤と、を抄造して得られた抄紙体に、熱可硬化性樹脂(樹脂結合剤)を含浸させて加熱硬化したものである。各個別の摩擦部3Nは、コアプレート2の表裏の両主面に加圧加熱により接合されて、摩擦部3を形成している。
また、コアプレート2の外径R1と、コアプレート2の内径R2(スプライン内歯8を除いたコアプレート2の内周によって規定される直径)との比R1/R2は1.08(R1=158mm、R2=144mm)とされている。
比較例1の湿式摩擦材1は、図12[1−2]に示す通り、摩擦部3(セグメント3)間に油溝が形成されるように離間して配置されている。この油溝は、ランド部の側壁が平行にされた位置において5mmである。即ち、内周壁4は、外周側SOへ貫通される複数の開口部を有し、開口部の総開口面積の割合Rは、内周壁4全体に対して、30%となっている。
比較例1の各摩擦部3の内周側端部を、円形の内周壁4が形成されるように塞いだ形態が、実施例1であるといえる。
実施例2の湿式摩擦材1(図13[2−1]参照)は、個別の摩擦部3Nの外周側形状が異なる。即ち、外周端に凹凸を有するとともに、外広がりの切欠部6を有している。この差異以外は、実施例1の湿式摩擦材1と同様である。切欠部6は、上述のように外広がりであるため、間隔D61は、D61=10mmである。その他、個別の摩擦部3Nの総数は、40個であり、D371=5mmである。
比較例1の湿式摩擦材1は、図13[2−2]に示す通り、摩擦部3(セグメント3)間に油溝が形成されるように離間して配置されている。この油溝は、ランド部間が最も狭い位置で5mmであり、最も広い位置で25mmである。また、内周壁4は、凹凸を有する形状に加工されている。
比較例2の各摩擦部3の内周側端部を、円形の内周壁4が形成されるように塞いだ形態が、実施例2であるといえる。
実施例3の湿式摩擦材1(図14[3−1]参照)は、個別の摩擦部3Nの外周側形状が異なり、外広がりの切欠部6を有していること以外、実施例1の湿式摩擦材1と同様である。切欠部6は、上述のように外広がりでありため、間隔D61は、D61=10mmである。その他、個別の摩擦部3Nの総数は、40個であり、D371=5mmである。
比較例1の湿式摩擦材1は、図14[3−2]に示す通り、摩擦部3(セグメント3)間に油溝が形成されるように離間して配置されている。この油溝は、ランド部間が最も狭い位置で5mmであり、最も広い位置で20mmである。また、摩擦部3が有する内周端縁は、その位置が異なるように加工されている。
比較例3の各摩擦部3の内周側端部を、円形の内周壁4が形成されるように塞いだ形態が、実施例3であるといえる。
上記[1]の実施例1−3及び比較例1−3の各湿式摩擦材を、各々4枚用いて、下記条件下でSAE摩擦試験機により、その回転数500−3000rpmの間で測定した。得られた結果を図15(図15は縦軸上側程、引き摺りトルクが大きいことを示す)にグラフにして示した。
自動変速機潤滑油(AutoAtic Transmission Fluid、「ATF」は出光興産株式会社の登録商標であるが、ここでは当該登録商標とは無関係に以下「ATF」と略す。)油温:40℃、ATF油量:100mL/分(軸心潤滑)、パッククリアランス:0.20mm/枚の環境下で、試験体の湿式摩擦材を4枚セットし、回転速度を500〜3000rpmまで変化させ、500rpm、1000rpm、1500rpm、2000rpm、2500rpm、3000rpmの6点において引き摺りトルク(N・m)を測定した。また、測定時間は15秒/各回転、繰返し回数は5回とした。
図15の結果から、実施例のいずれの湿式摩擦材においても、比較例に対して引き摺りトルクが低減されていることが分かる。即ち、比較例1の湿式摩擦材が有する油溝を塞いで、円形の内周壁4を形成した実施例1では、500〜3000rpmのすべての領域において優位な引き摺りトルク低減が認められた。また、比較例1の湿式摩擦材は、排出性を向上させるように機能される油溝を有しているにも関わらず、更に、実施例1では、引き摺りトルク低減が達せられていることから、本構成による引き摺りトルク低減は、油溝を有する従来の湿式摩擦材に対して適用しても、従来の機序と共存しながら、更に、引き摺りトルク低減できることが分かる。
一方、比較例2〜3の湿式摩擦材が有する油溝を塞いで、円形の内周壁4を形成した実施例2〜3では、500〜2500rpmのすべての領域において引き摺りトルク低減が認められるが、3000rpmではその効果がほとんど得られなくなっている。このことから、本構成による引き摺りトルク低減は、より相対回転数がより小さい範囲で優位に働くものと考えられる。
2;コアプレート、2a;主面、
3;摩擦部、セグメント、
3N、31、32、33、34、35、36;個別の摩擦部、
3N1;ランド部、
37;側凸部、371;側端面、371I;内周端、371O;外周端、
375;幅狭部、375I;内周端、375O;外周端、
381;側端面、
4;内周壁、
4N;個別の内周壁、
51;連接部(接続部)、
53;開口部、
6;切欠部、
61;角部、
63;内周端、
8;スプライン内歯、
SI;内周側、
SO;外周側。
Claims (18)
- 平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、前記コアプレートの主面にリング状に配置された摩擦部と、を有する湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、内周側と外周側との間で幅広化された複数のランド部と、内周側と外周側との間で幅狭化された複数の幅狭部と、を交互に有し、
前記幅狭部は、隣り合った2つの前記ランド部間において、前記摩擦部の外周側が全厚さにわたって切り欠かれた切欠部を有することによって幅狭化された部位であり、
前記ランド部の内周側の側壁と、前記幅狭部の内周側の側壁と、が一連となって、内周側から供給される潤滑油が、外周側へ抜け出ることを阻止する略円形の内周壁を形成していることを特徴とする湿式摩擦材。 - 両隣りの前記ランド部と、前記切欠部の内周端と、が接する位置に角部を有する請求項1に記載の湿式摩擦材。
- 1つの前記切欠部が有する2つの角部の間隔D 61 が5.0mm≦D 61 ≦20mmである請求項2に記載の湿式摩擦材。
- 前記内周壁は、外周側へ貫通された開口部を有さない請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。
- 前記摩擦部は、複数の摩擦部からなり、
前記内周壁は、前記複数の摩擦部が有する各々の内周壁が連接されてなる請求項1乃至4のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。 - 前記摩擦部は、複数の摩擦部からなり、
前記内周壁は、外周側へ貫通された複数の開口部を有し、
前記開口部の総開口面積の割合は、前記内周壁全体に対して10%以下である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。 - 前記複数の摩擦部は、各々、前記内周壁を前記幅狭部において連接させるために側方へ突出された側凸部を有する請求項5又は6に記載の湿式摩擦材。
- 前記複数の摩擦部は、各々、前記側凸部を、両側に1つずつ有する請求項7に記載の湿式摩擦材。
- 前記内周壁が、1つの摩擦部から形成されている請求項1に記載の湿式摩擦材。
- 前記幅狭部の内周端と外周端との間の幅は、1.0mm以上である請求項1乃至9のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。
- 前記内周壁は、内周側へ向かって凹凸を有さない平坦な壁である請求項1乃至10のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。
- 平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、前記コアプレートの主面にリング状に配置された摩擦部と、を有する湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、内周側から供給される潤滑油が、外周側へ抜け出ることを阻止する略円形に形成された内周壁を有し、
前記内周壁は、1つの摩擦部から形成され、外周側へ貫通された開口部を有さず、
前記摩擦部は、内周端と外周端との間の幅が、他部より狭く形成された幅狭部を有することを特徴とする湿式摩擦材。 - 前記幅狭部の内周端と外周端との間の幅は、1.0mm以上である請求項12に記載の湿式摩擦材。
- 前記内周壁は、凹凸を有さない平坦な壁である請求項12乃至13のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。
- 平板なリング形状をなし、そのリング形状の中心を回転中心とするコアプレートと、前記コアプレートの主面にリング状に配置された摩擦部と、を有する湿式摩擦材であって、
前記摩擦部は、内周側から供給される潤滑油が、外周側へ抜け出ることを阻止する略円形に形成された内周壁を有し、
前記摩擦部は、複数の摩擦部からなり、
前記内周壁は、外周側へ貫通された複数の開口部を有し、
前記開口部の総開口面積の割合は、前記内周壁全体に対して10%以下であり、
前記複数の摩擦部は、各々、前記内周壁の面積割合を大きくするために側方へ突出された側凸部を有することを特徴とする湿式摩擦材。 - 前記複数の摩擦部は、各々、前記側凸部を、両側に1つずつ有する請求項15に記載の湿式摩擦材。
- 前記側凸部の内周端と外周端との間の幅は、1.0mm以上である請求項15又は16に記載の湿式摩擦材。
- 前記内周壁は、内周側へ向かって凹凸を有さない平坦な壁である請求項15乃至17のうちのいずれかに記載の湿式摩擦材。
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