JP6249192B1 - 開放循環冷却水系の金属防食剤およびそれを用いる開放循環冷却水系の防食方法 - Google Patents
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Description
特に近年では、処理対象となる水系の安全性や作業環境の維持などの面から、安全性の高い水処理薬剤が望まれている。特に、食品工場のように安全性が重視される設備の冷却水系では、より安全性の高い水処理薬剤が望まれている。
また、特開昭50−93241号公報(特許文献3)には、鉄板、鋼板などの鉄系金属、アルミニウム板、錫メッキ板などの非鉄金属およびこれらの合金の防錆に効果的で、かつ非鉄金属やプラスチックス、ゴムなどの非金属に変色などの悪影響を与えることがない、浸漬やスプレーにより使用可能な防錆剤として、第1〜第3アミン類または第4アンモニウム塩のアミンと、ニコチン酸またはニコチン酸アミドとの併用が開示されている。
また、特許文献2と出願人同一でかつ発明者が重複する後願の特公昭56−27553号公報(特許文献4)および特公昭57−5437号公報(特許文献5)には、それぞれグルセロリン酸カルシウムの少量が添加混合されたプロピレングリコール水溶液からなる食品用冷却液およびソルビン酸カリウムの少量が添加混合されたプロピレングリコール水溶液からなる食品工業用冷却液組成物が開示され、塩化カルシウム共存下でプロピレングリコール水溶液をブライン(熱媒体)として使用した場合、ニコチン酸アミドやリン酸二ナトリウムなどの添加では腐食の抑制効果が認められないことが記載されている(特許文献4の第2頁左欄(第3欄)の第16〜20行および特許文献5の第2頁左欄(第3欄)の第31〜36行参照)。
そこで、本発明は、低添加量であっても優れた防食効果を発揮する安全性の高い水系の金属防食剤およびそれを用いた水系の防食方法を提供することを課題とする。
本発明において見出された事実は、上記の先行技術の特許文献4および5に、塩化カルシウム共存下のプロピレングリコール水溶液において、ニコチン酸アミドやリン酸二ナトリウムなどは腐食の抑制効果が認められないと記載されていることから鑑みると、意外である。
防食成分(イ)と防食成分(ロ)とを併用する本発明の水系の金属防食剤は、それぞれの防食成分を単独で使用する場合と比較して、その添加量を1/100〜1/10に低減しても同等またはそれ以上の優れた防食効果を発揮する。
(1)防食成分(イ)が、ピロリン酸、オルトリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸およびデカメタリン酸ならびにそれらのナトリウム塩およびカリウム塩から選択される。
(2)相乗的防食効果を奏する割合が、防食成分(イ)(PO4としての換算値)と防食成分(ロ)との重量比で1:0.04〜13である。
(3)防食成分(イ)がオルトリン酸、トリポリリン酸ナトリウムまたはヘキサメタリン酸ナトリウムであり、防食成分(ロ)がニコチン酸またはニコチン酸アミドであり、相乗的防食効果を奏する割合が防食成分(イ)(PO4としての換算値)と防食成分(ロ)との重量比で1:0.1〜13である。
(4)防食成分(イ)が、ピロリン酸、オルトリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸およびデカメタリン酸ならびにそれらのナトリウム塩およびカリウム塩から選択される。
(5)相乗的防食効果を奏する割合が、防食成分(イ)(PO4としての換算値)と前記防食成分(ロ)との重量比で1:0.04〜13である。
(6)有効防食濃度が、防食成分(イ)(PO4としての換算値)および前記防食成分(ロ)の添加量として、それぞれ0.5〜30mg/リットルおよび0.1〜45mg/リットルである。
本発明の水系の金属防食剤は、リン酸および重合リン酸ならびにそれらの塩から選択される少なくとも1種の防食成分(イ)と、ニコチン酸およびニコチン酸アミドから選択される少なくとも1種の防食成分(ロ)とを、相乗的防食効果を奏する割合で含有することを特徴とする。
本発明において用いられる防食成分(イ)は、リン酸および重合リン酸ならびにそれらの塩から選択される少なくとも1種である。
防食成分(イ)としては、例えば、メタリン酸、ピロリン酸、テトラリン酸、オルトリン酸(正リン酸)などのリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、デカメタリン酸などの重合リン酸、ならびにそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩などが挙げられ、本発明においては、これら防食成分(イ)の1種を単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
上記の中でも、防食成分(イ)は、ピロリン酸、オルトリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸およびデカメタリン酸ならびにそれらのナトリウム塩およびカリウム塩から選択されるのが好ましく、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、オルトリン酸は工業的に入手し易く、本発明において好適に用いられる。
本発明において用いられる防食成分(ロ)は、ニコチン酸およびニコチン酸アミドから選択される少なくとも1種である。
防食成分(ロ)としては、通常、工業用として市販されているニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物が挙げられ、防食成分(イ)との併用したときの防食効果の点でニコチン酸が特に好ましい。
本発明の水系の金属防食剤は、上記の防食成分(イ)と防食成分(ロ)とを、相乗的防食効果を奏する割合で含有する。
相乗的防食効果を奏する割合は、防食成分(イ)(PO4としての換算値)と防食成分(ロ)との重量比で1:0.04〜13である。
防食成分(ロ)が防食成分(イ)の換算重量1に対して0.04未満である場合、また13を超える場合には、相乗的な防食効果が発揮されないことがある。
より好ましい相乗的防食効果を奏する割合は、防食成分(イ)と防食成分(ロ)との重量比で1:0.1〜13であり、1:0.2〜4の割合がさらに好ましい。
本発明の水系の金属防食剤においては、通常、防食成分(イ)および防食成分(ロ)を水に溶解した液剤形態で製剤化して用いるのが適している。
一液製剤の場合、両成分の合計濃度は、溶解度やpHなどに左右され特に限定されるものではないが、通常1〜50重量%程度であり、製剤安定性や経済性の点で2〜20重量%程度が特に好ましい。
本発明の水系の金属防食剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の機能を有する薬剤を含有していてもよく、例えば、他の金属防食剤や殺菌剤などが挙げられる。
他の金属防食剤としては、例えば、コハク酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムなどのオキシカルボン酸塩、グルコースのような糖類などの公知の有機系金属防食剤;例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、アミノトリアゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール(TBZ)などの銅防食剤として使用される公知のアゾール化合物が挙げられる。
本発明においては、これら他の金属防食剤の1種を単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
本発明においては、これら殺菌・静菌剤の1種を単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
本発明の水系の金属防食剤の対象水系としては、各種工業における開放または閉鎖系の循環冷却水系が挙げられ、具体的には、蒸気製造装置、加熱系、化学反応プラント、冷却水系などの水誘導装置が挙げられ、本発明の効果が有効に発揮される点で開放循環冷却水系が好ましい。
本発明の水系の金属防食剤は、高温高圧状態の濃縮部の水と接触する金属類のみならず、低温状態の低濃縮部の水と接触する金属類の腐食を防止する。
水系は、塩素イオン、硫酸イオン、炭酸イオンなどの金属類の腐食促進因子や溶存酸素などの腐食因子、マグネシウム、カルシウムなどの硬度(スケール形成)成分を含み、例えば、開放循環冷却水系では、濃縮度にもよるが通常、炭酸カルシウム換算で40〜400mg/リットルのカルシウム硬度を含む。
本発明の水系の金属防食剤は、このような硬度成分を含む開放循環冷却水系に好適に用いられる。
本発明の水系の防食方法は、防食対象水系に、リン酸および重合リン酸ならびにそれらの塩から選択される少なくとも1種の防食成分(イ)と、ニコチン酸およびニコチン酸アミドから選択される少なくとも1種の防食成分(ロ)とを、相乗的防食効果を奏する割合でかつ有効防食濃度で、同時または別々に添加して、前記防食対象水系の水と接触する金属の腐食を防止することを特徴とする。
防食成分(イ)、防食成分(ロ)および両成分の配合割合は、上記(1)水系の金属防食剤に記載のとおりである。
有効防食濃度、すなわち本発明の水系の金属防食剤の対象水系への添加量は、対象水系の水質、防食面積などの条件により異なるため特に限定されないが、防食成分(イ)(PO4としての換算値)および防食成分(ロ)の添加量として、それぞれ0.5〜30mg/リットルおよび0.1〜45mg/リットルであるのが好ましい。
防食成分(イ)の添加量が0.5mg/リットル未満の場合には、相乗的な防食効果が発揮されないことがある。一方、防食成分(イ)の添加量が30mg/リットルを超える場合には、環境への負荷が懸念されることがある。
また、防食成分(ロ)の添加量が0.1mg/リットル未満の場合、45mg/リットルを超える場合には、相乗的な防食効果が発揮されないことがある。
より好ましい有効防食濃度は、防食成分(イ)および防食成分(ロ)の添加量として、それぞれ1〜24mg/リットルおよび0.2〜40mg/リットルであり、さらに好ましい有効防食濃度は、それぞれ2〜15mg/リットルおよび0.4〜40mg/リットルである
本発明の水系の防食方法においては、各防食成分を含有する一液製剤として対象水系に添加してもよく、各防食成分を含有する単一製剤として別々に添加してもよい。
[防食成分(イ)]
それぞれ市販の試薬を用いた。
トリポリリン酸ナトリウム
ヘキサメタリン酸ナトリウム
オルトリン酸
[防食成分(ロ)]
それぞれ市販の試薬を用いた。
ニコチン酸
ニコチン酸アミド
[水]
純水を用いた。
(製剤例1)
ニコチン酸 1重量部
トリポリリン酸ナトリウム 1重量部
水 98重量部
※防食成分(イ)(PO4換算値)と防食成分(ロ)との重量比1:1.3
ニコチン酸アミド 10重量部
トリポリリン酸ナトリウム 1重量部
水 89重量部
※防食成分(イ)(PO4換算値)と防食成分(ロ)との重量比1:13
(製剤例3)
ニコチン酸 10重量部
ヘキサメタリン酸ナトリウム 1重量部
水 89重量部
※防食成分(イ)(PO4換算値)と防食成分(ロ)との重量比1:10.8
ニコチン酸 0.5重量部
ヘキサメタリン酸ナトリウム 12.5重量部
水 87.0重量部
※防食成分(イ)(PO4換算値)と防食成分(ロ)との重量比1:0.043
(製剤例5)
ニコチン酸 4重量部
オルトリン酸 4重量部
水 92重量部
※防食成分(イ)(PO4換算値)と防食成分(ロ)との重量比1:1.03
図1に示す熱交換器を模した試験装置および試験水として下記の性状となるように予め調製しておいた合成水を用いて、金属防食剤の防食効果の確認試験を実施した。
容量約10リットルのSUS製の試験水ピットに試験水を入れ、表1に示す所定量の防食成分(イ)および防食成分(ロ)を添加し、メタケイ酸ナトリウムを用いて試験水のpHを8.3に調整した。試験水ピットは二重構造で、試験中には内容器と外容器との間に冷却水として約25℃の水道水を流通させた。
ポンプ(図1中のP)を用いて、試験水を試験水ピットの底部からテストカラムを経て試験水ピットの上部に循環させた。
軟鋼製のテストチューブ(機械構造用炭素鋼鋼管(JIS G3445)、製品名:STKM、形状:厚さ1.0mm×外径15.9mm×長さ100mm)を管方向に直立させ、その上下にポリプロピレン(PP)製のチューブを接続し、テストカラムで覆うように取り付けた。テストチューブの外側に試験水が下部から上部に、テストチューブの内部に熱源である温水が下部から上部に流通するよう取り付けた。
試験水を温度50℃、流速0.5m/sに、温水を温度50℃、流速0.58m/sに設定してそれぞれ流通させ、5日間試験をした。
試験終了後、テストチューブを取り出し、JIS K0100−1990に準拠して、テストチューブの腐食速度(1日当りの腐食減量、MDD、mg/day・dm2 )を測定した。
防食成分を添加しない系についても同様に試験し、ブランクとした。
また、防食成分(イ)および防食成分(ロ)のいずれか一方を添加した系についても同様に試験し、比較例とした。
MDD
◎:十分な防食性 22未満
○:腐食僅か 22以上75未満
△:腐食により金属の寿命低下 75以上215未満
×:腐食が激しく使用に耐えない 215以上
また、ブランクおよび比較例1のMDD値をそれぞれ100としたときの、他の試験例の値を算出した。
得られた結果を、防食成分(イ)および防食成分(ロ)ならびにそれらの添加量と共に表1に示す。
pH 8.3
Pアルカリ度(mg/リットル) 0
Mアルカリ度(mg/リットル) 150
カルシウム硬度(mg/リットル) 150
全硬度(mg/リットル) 180
塩素イオン(mg/リットル) 100
硫酸イオン(mg/リットル) 75
・金属防食剤を添加しない場合には、MDDが167.9になり、腐食により金属の寿命が低下する(ブランク)。
・防食成分(イ)として少量の重合リン酸塩(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を添加した場合には、金属防食剤を添加しない場合よりもMDDが345.4に増加し、防食効果が低下する(比較例1)。これは、重合リン酸塩により皮膜が形成された金属表面の一部のみが防食され、他の皮膜が形成されていない部分で腐食が進行するためと考えられる。
・防食効果が得られない少量の重合リン酸塩の添加に、さらに防食成分(ロ)として少量のニコチン酸を添加した場合には、MDDがブランクの1/2以下、比較例1の1/5以下に低下する(実施例1〜4)。
・防食成分(イ)と防食成分(ロ)との併用割合が相乗的防食効果を奏する割合から外れる場合には、優れた防食効果が得られない(比較例4〜6)。
・防食成分(イ)として重合リン酸塩(ヘキサメタリン酸ナトリウム)だけでなく、オルトリン酸を用いた場合でも、防食成分(ロ)との併用効果により、同等の優れた防食効果が得られる(実施例5)。
・防食成分(ロ)としてニコチン酸だけでなく、ニコチン酸アミドを用いた場合でも、防食成分(イ)の併用効果により、同等の優れた防食効果が得られる(実施例6)。
製剤例1〜3の金属防食剤を試験液に対して400mg/リットル、製剤例4の金属防食剤を試験液に対して80mg/リットル、製剤例5の金属防食剤を100mg/リットルとなるようにそれぞれ添加して試験したところ、テストピースのMDDはすべて評価「○」の結果が得られた。
Claims (4)
- ピロリン酸、オルトリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸およびデカメタリン酸ならびにそれらのナトリウム塩およびカリウム塩から選択される少なくとも1種の防食成分(イ)と、ニコチン酸およびニコチン酸アミドから選択される少なくとも1種の防食成分(ロ)とを、前記防食成分(イ)(PO 4 としての換算値)と前記防食成分(ロ)との重量比で1:0.04〜13である割合で含有することを特徴とする開放循環冷却水系の金属防食剤。
- 前記防食成分(イ)がオルトリン酸、トリポリリン酸ナトリウムまたはヘキサメタリン酸ナトリウムであり、前記防食成分(ロ)がニコチン酸またはニコチン酸アミドであり、前記防食成分(イ)(PO4としての換算値)と前記防食成分(ロ)との重量比が1:0.1〜13である請求項1に記載の開放循環冷却水系の金属防食剤。
- 防食対象である開放循環冷却水系に、ピロリン酸、オルトリン酸、トリポリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸およびデカメタリン酸ならびにそれらのナトリウム塩およびカリウム塩から選択される少なくとも1種の防食成分(イ)と、ニコチン酸およびニコチン酸アミドから選択される少なくとも1種の防食成分(ロ)とを、前記防食成分(イ)(PO 4 としての換算値)と前記防食成分(ロ)との重量比で1:0.04〜13である割合でかつ有効防食濃度で、同時または別々に添加して、前記防食対象である開放循環冷却水系の水と接触する金属の腐食を防止することを特徴とする開放循環冷却水系の防食方法。
- 前記有効防食濃度が、前記防食成分(イ)(PO4としての換算値)および前記防食成分(ロ)の添加量として、それぞれ0.5〜30mg/リットルおよび0.1〜45mg/リットルである請求項3に記載の開放循環冷却水系の防食方法。
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