本発明は、アミノアシルtRNAシンテターゼ(AARS)、およびAARS由来の特定のポリペプチドが、治療的関連性のある非標準的な生物学的活性を有するという発見に由来する。すなわち、1つの態様によれば、本発明は、非標準的な生物学的活性を少なくとも1つ有する単離AARSポリペプチドとともに、前記非標準的な活性を実質的に保持するその活性断片および変異体を提供する。
「非標準的な活性」とは、本明細書で使用する場合、広くは、本発明のAARSポリペプチドが有する活性のうち、tRNA分子へのアミノ酸付加物以外の活性を指す。本明細書に詳述されているように、特定の実施形態では、本発明のAARSポリペプチドが示す非標準的な生物学的活性としては、インビボ、エキソビボ、インビトロを問わず、急性炎症反応、慢性炎症反応、全身炎症反応、局所炎症反応、および細胞レベルの炎症反応を含む炎症反応の調節を挙げてよいが、これらに限らない。炎症反応調節活性の例としては、各種免疫細胞の成長、活性、または輸送の調節、および、各種サイトカインの産生または分泌の調節が挙げられるが、これらに限らない。したがって、本発明の実施形態は、炎症反応を増大または低下させ、それによって、炎症と関連する疾患または状態の治療および予防の際に治療上有効な活性を持たせることなどによって炎症を調節するAARSポリペプチド(そのトランケート体、スプライス変異体、タンパク質分解断片、および変異体を含む)を含む。
併行してAARSポリペプチドを用いることが、他の治療よりも有益な点としては例えば、従来型の治療とは異なる作用機序、炎症性シグナル伝達との相乗作用、高い効能、および脱免疫化分子を用いることと関連する有益性が挙げられる。他の有益点は、当業者には明らかであろう。
本発明の実施の際には、特に別段の定めのない限り、当該技術分野における分子生物学の従来の方法および組み換えDNA技法を用いることになり、これらの多くは、実例を示す目的で後述されている。これらの技法は文献に十分に説明されている。例えば、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd Edition,2000)、DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I&II(D.Glover,ed.)、Oligonucleotide Synthesis(N.Gait,ed.,1984)、Oligonucleotide Synthesis:Methods and Applications(P.Herdewijn,ed.,2004)、Nucleic Acid Hybridization(B.Hames&S.Higgins,eds.,1985)、Nucleic Acid Hybridization:Modern Applications(Buzdin and Lukyanov,eds.,2009)、Transcription and Translation(B.Hames&S.Higgins,eds.,1984)、Animal Cell Culture(R.Freshney,ed.,1986)、Freshney,R.I.(2005)Culture of Animal Cells,a Manual of Basic Technique,5th Ed.Hoboken NJ,John Wiley&Sons、B.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(3rd Edition 2010)、Farrell,R.,RNA Methodologies:A Laboratory Guide for Isolation and Characterization(3rd Edition 2005)を参照されたい。
本明細書で引用されているすべての文献、特許、および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
定義
別段の定めのない限り、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語の意味は、本発明の属する分野の通常の知識を有する物によって広く理解されている意味と同じである。本発明の実施および試験の際には、本明細書に記載されている方法および材料と類似または同等のいずれの方法および材料も使用することができるが、好ましい方法および材料について説明する。本発明の目的のために、下記の用語について以下で定義する。
「a」および「an」という冠詞は、本明細書では、冠詞の文法上の対象の1つまたは2つ以上(すなわち少なくとも1つ)を指す目的で使用する。例として、「an element」は、1つまたは2つ以上の要素を意味する。
「約」は、基準とする数量、レベル、値、数、頻度、比率、寸法、サイズ、量、重量、または長さと30%、25%、20%、25%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%ほど異なる数量、レベル、値、数、頻度、比率、寸法、サイズ、量、重量、または長さを意味する。
「生物学的に活性な断片」という用語は、基準のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の断片に適用する場合、基準配列の少なくとも約0.1%、0.5%、1%、2%、5%、10%、12%、14%、16%、18%、20%、22%、24%、26%、28%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、100%、110%、120%、150%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、1000%以上の活性を有する断片を指す。配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、および109〜115の代表的な基準のポリペプチド配列、または、配列番号4、7、9、11、13、15、17、19、および31の代表的な基準のヌクレオチド配列など、基準のアミノアシルtRNAトランスフェラーゼポリヌクレオチドまたはポリペプチドの炎症反応調節活性を含むか、またはコードする少なくとも約18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、120個、140個、160個、180個、200個、220個、240個、260個、280個、300個、320個、340個、360個、380個、400個、420個、440個、460個、480個、または500個超(これらの間のすべての整数を含む)の連続するヌクレオチドまたはアミノ酸残基の長さの生物学的に活性な断片が本発明の範囲内に含まれる。
生物学的に活性な断片としては、基準のAARS配列の天然スプライス変異体、およびAARSポリペプチドのタンパク質分解断片も挙げられる。
「タンパク質分解断片」またはタンパク質分解断片の配列は、様々な技法に従って同定または抽出することができる。例えば、本明細書で例示されているように、タンパク質分解断片は、AARSポリペプチドを所定のプロテアーゼとともにインキュベートするなどによってインビトロで同定することも、内因的に(すなわちインビボで)同定することもできる。特定の実施形態では、例えば1つ以上の所定のプロテアーゼを含むように変性させたか、AARSポリペプチドに作用することのできる1つ以上のプロテアーゼを天然の状態で含む所定の微生物または真核細胞内でAARSポリペプチドを組み換え発現させ、内因的に産生させたタンパク質分解断片を前記微生物または真核細胞から単離し、特徴付けることによって、内因性タンパク質分解断片を生成または同定することができる。このようなタンパク質分解断片の例としては、本明細書に記載されているQ1〜Q4、および表C−1に示されているタンパク質分解断片(それらの変異体も含む)が挙げられる。
特定の実施形態では、天然の内因性タンパク質分解断片は例えば、様々な細胞部分(例えば細胞質ゾル、膜、核)、および/または、様々な細胞型(RAWマクロファージ(例えばRAW264.7マクロファージ、実施例5参照)のようなマクロファージ、初代T細胞、JurkatsのようなT細胞株を含むT細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞などを例えば含む)の成長培地から生成または同定することができる。しかしながら、特定の実施形態では、生成された内因性タンパク質分解断片は、質量分析法のような技法、または同等の技法によって同定することができる。インビトロまたは内因的に同定したタンパク質分解断片を生成または同定したらシークエンシングして、組み換えによる産生のために発現ベクターにクローニングするか、または、合成的に産生させることができる。
代表的な生物学的に活性な断片は一般に、相互作用、例えば分子内相互作用または分子間相互作用に関与する。分子間相互作用は、特異的結合相互作用または酵素的相互作用であることができる。分子間相互作用は、AARSポリペプチドと、別のAARSポリペプチドなどの標的分子、または炎症のプロセス(例えばサイトカインの産生もしくは分泌、免疫細胞の移動または動員、自己抗原もしくは外来抗原に対する免疫細胞の応答、粘着)の調節に関わる標的分子との間の作用であることができる。AARSポリペプチドの生物学的に活性な断片としては、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、または109〜115のアミノ酸配列と十分な類似性または同一性を有するか、またはこれらのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を含むポリペプチド断片(これらの生物学的に活性な部分を含む)が挙げられ、あるいは、AARSポリペプチドの生物学的に活性な断片は、配列番号4、7、9、11、13、15、17、19、または31のヌクレオチド配列によってコードされるものである。
「コード配列」とは、遺伝子のポリペプチド産物のコードに寄与するいずれかの核酸配列を意味する。これに対し、「非コード配列」という用語は、遺伝子のポリペプチド産物のコードに寄与しないいずれかの核酸配列を指す。
本明細書全体を通じて、文脈によって別段の意味が求められない限り、「含む」という用語は、記載されている1つの工程もしくは要素、または、工程群もしくは要素群を含むが、他のいずれかの1つの工程もしくは要素、または、工程群もしくは要素群を排除しないことを示すと理解するものとする。
「〜からなる」とは、「〜からなる」という語句に続くものが含まれ、これらに限定されることを意味する。したがって、「〜からなる」という語句は、列挙した要素が必要または必須であり、かつ他の要素が存在することができないことを示す。「本質的に〜からなる」とは、この語句の後に列挙したいずれの要素も含み、かつ列挙した要素に関する開示内容において定められた活性または作用に干渉したり、または寄与したりしない他の要素に制限されることを意味する。したがって、「本質的に〜からなる」という語句は、列挙した要素は必要または必須であるが、他の要素が任意であり、他の要素が列挙した要素の活性または作用に重大な影響を及ぼすか否かに応じて、他の要素が存在しても存在しなくてもよいことを示す。
「相補的」および「相補性」という用語は、塩基対合則によって結び付けられるポリヌクレオチド(すなわちヌクレオチドの配列)を指す。例えば、「A−G−T」という配列は、「T−C−A」という配列と相補的である。相補性は、「部分的」であってもよく、この場合には、一部の核酸塩基のみが塩基対合則に従って適合する。あるいは、核酸の間に「完全」相補性または「全」相補性が存在してもよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリダイゼーションの効率性および強度に有意な影響を及ぼす。
「〜に相当する」または「〜への相当」とは、(a)基準のポリヌクレオチド配列の全部もしくは一部と実質的に同一であるか相補的であるヌクレオチド配列を有するか、ペプチドもしくはタンパク質中のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または(b)基準のペプチドまたはタンパク質中のアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を有するペプチドもしくはポリペプチドを意味する。
「誘導体」とは、当該技術分野において理解されているように、修飾によって、例えば、他の化学的部分とのコンジュゲーションまたは複合体化(例えばペグ化)によって、または翻訳後修飾技法によって塩基配列から派生させたポリペプチドを意味する。「誘導体」という用語には、機能的に同等の分子を提供する付加または欠失を含め、親配列に対してなされた変更もその範囲内に含まれる。
本明細書で使用する場合、「機能」および「機能的な」などの用語は、生物学的、酵素的、または治療的な機能を指す。
「遺伝子」とは、染色体上の特定の遺伝子座を占めるとともに、転写および/または翻訳調節配列および/またはコード領域および/または非翻訳配列(すなわち、イントロン、5’および3’非翻訳配列)からなる遺伝単位を意味する。
「相同性」とは、同一であるか、または保存的置換を構成するアミノ酸の数の比率を指す。相同性は、GAP(Deveraux et al.,1984,Nucleic Acids Research 12,387〜395(参照によって本明細書に組み込まれる))などの配列比較プログラムを用いて割り出してよい。この方法では、アラインメントへのギャップの挿入によって(このようなギャップは、例えば、GAPで用いられている比較アルゴリズムによって定めることができる)、本明細書で言及されている配列と類似または実質的に異なる長さの配列を比較することができる。
「宿主細胞」という用語には、本発明のいずれかの組み換えベクター(単一もしくは複数)または単離ポリヌクレオチドの入れ物であることができるか、または入れ物であった個別の細胞または細胞培養物が含まれる。宿主細胞には単一の宿主細胞の子孫が含まれ、この子孫は、自然の突然変異および/もしくは変化、偶発的な突然変異および/もしくは変化、または故意の突然変異および/もしくは変化によって、元の親細胞と(形態学または全DNA相補体において)必ずしも完全に同一でなくてよい。宿主細胞には、インビボまたはインビトロで本発明の組み換えベクターまたはポリヌクレオチドでトランスフェクションまたは感染させた細胞が含まれる。本発明の組み換えベクターを含む宿主細胞は組み換え宿主細胞である。
「単離」とは、本来の状態において通常伴う成分を実質的または本質的に含まない物質を意味する。例えば、「単離ポリヌクレオチド」には、本明細書で使用する場合、天然の状態において隣接する配列から精製されたポリヌクレオチド、例えば、通常はその断片に隣接する配列から除去されたDNA断片が含まれる。あるいは、「単離ペプチド」または「単離ポリペプチド」などには、本明細書で使用する場合、その天然の細胞環境およびその細胞の他の細胞成分との会合体からペプチド分子またはポリペプチド分子をインビトロで単離および/または精製したものが含まれ、すなわち、インビボ物質とはあまり関連しない。
「〜から得た」とは、例えばポリヌクレオチド抽出物またはポリペプチド抽出物などのサンプルが被検体の特定の供給源から単離されているか、この供給源に由来することを意味する。例えば、この抽出物は、被検体から直接単離した組織または生体液から得ることができる。
「オリゴヌクレオチド」という用語は、本明細書で使用する場合、ホスホジエステル結合(またはその関連する構造変異体もしくは合成類似体)を介して連結した複数のヌクレオチド残基(デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはその関連する構造変異体もしくは合成類似体)から構成されるポリマーを指す。したがって、「オリゴヌクレオチド」という用語は典型的には、ヌクレオチド残基およびその間の結合が天然に存在するヌクレオチドポリマーを指すが、この用語には、各種の類似体(ペプチド核酸(PNA)、ホスホルアミダート、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、2−O−メチルリボ核酸などが挙げられるが、これらに限らない)もその範囲内に含まれることが分かるであろう。オリゴヌクレオチド分子の正確なサイズは、特定の用途に応じて変化し得る。オリゴヌクレオチドの長さは典型的には多少短く、一般に約10〜30ヌクレオチド残基であるが、「オリゴヌクレオチド」という用語はいずれの長さの分子も指すことができるものの、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は典型的には、大きいオリゴヌクレオチドのために用いられる。
「機能可能に結合した」という用語は、本明細書で使用する場合、プロモーターの調節管理下に構造遺伝子を置き、その遺伝子の転写および任意に翻訳をコントロールすることを意味する。異種プロモーター/構造遺伝子の組み合わせの構造において、遺伝子配列またはプロモーターと、自然環境でコントロールされる遺伝子(すなわち、遺伝子配列またはプロモーターが由来する遺伝子)との間の距離とほぼ同一である遺伝子転写開始部位からの距離で、遺伝子配列またはプロモーターを配置することが一般に好ましい。当該技術分野において既知のように、機能を喪失することなく、この距離を多少変えることができる。同様に、そのコントール下で配置すべき異種遺伝子に対する調節配列因子の好ましい位置は、その自然環境でのその因子の位置づけ(すなわち、その因子が由来する遺伝子)によって定められる。
「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、本明細書で使用する場合、mRNA、RNA、cRNA、cDNA、またはDNAを示す。この用語は典型的には、少なくとも長さが10個の塩基のヌクレオチドのポリマー形態(リボヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドまたはいずれかのヌクレオチド型の修飾形態のうちのいずれか)を指す。この用語には、DNAの一本鎖形態および二本鎖形態が含まれる。
「ポリヌクレオチド変異体」および「変異体」などの用語は、本明細書において後で定義するストリンジェントな条件下で、基準のAARS配列とハイブリダイズする基準のAARSポリヌクレオチド配列またはポリヌクレオチドと実質的な配列同一性を示すポリヌクレオチドを指す。またこれらの用語には、少なくとも1つのヌクレオチドの付加、欠失、または置換によって基準のポリヌクレオチドと区別されるポリヌクレオチドも含まれる。したがって、「ポリヌクレオチド変異体」および「変異体」という用語には、1つ以上のヌクレオチドが付加、欠失、または異なるヌクレオチドで置換されたポリヌクレオチドが含まれる。これに関しては、突然変異、付加、欠失、および置換を含む一定の変更を基準のポリヌクレオチドに行っても、変更したポリヌクレオチドが、基準のポリヌクレオチドの生物学的機能または活性を保持することができることは当該技術分野において十分に理解されている。ポリヌクレオチド変異体には例えば、配列番号4、7、9、11、13、15、17、19、もしくは31に示されている配列、またはAARSポリペプチドの生物学的に活性な断片をコードするその一部と少なくとも50%(ならびに、少なくとも51%〜少なくとも99%、およびその間の全ての整数の比率)の配列同一性を有するポリヌクレオチドが含まれる。「ポリヌクレオチド変異体」および「変異体」という用語には、天然の対立遺伝子変異体も含まれる。
「ポリペプチド」、「ポリペプチド断片」、「ペプチド」、および「タンパク質」は本明細書において、アミノ酸残基のポリマー、ならびに、その変異体および合成類似体を指す目的で、同義的に使用する。したがって、これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が、対応する天然のアミノ酸の化学的類似体などの非天然の合成アミノ酸であるアミノ酸ポリマーと、天然のアミノ酸ポリマーとに適用する。
「アミノアシルtRNAシンテターゼ」(AARS)という用語は広くは、天然型または野生型において、特定のアミノ酸またはその前駆体の親和性のある同系統のtRNAのすべてへのエステル結合を触媒して、アミノアシル−tRNAを形成できる酵素を指す。この「標準的な」活性では、アミノアシルtRNAシンテターゼは、2つの工程による反応を触媒する。最初は、アミノアシル−アデニレートを形成することによって、それぞれのアミノ酸を活性化し(この際、ピロホスフェートを置換することによって、アミノ酸のカルボキシルがATPのα−ホスフェートに結合する)、続いて、正しいtRNAが結合すると、アミノアシル−アデニレートのアミノアシル基が、tRNAの2’または3’末端のOHに移動する。
クラスIのアミノアシルtRNAシンテターゼは典型的には、高度に保存された2つの配列モチーフを有する。これらの酵素は、アデノシンヌクレオチドの2’−OHでアミノアシル化し、通常は単量体または二量体である。クラスIIのアミノアシルtRNAシンテターゼは典型的には、高度に保存された3つの配列モチーフを有する。これらの酵素は、同じアデノシンの3’−OHでアミノアシル化し、通常は二量体または四量体である。クラスIIの酵素の活性部位は主に、αヘリックスを側面に有する7本鎖の逆平行βシートで構成されている。フェニルアラニン−tRNAシンテターゼはクラスIIであるが、2’−OHでアミノアシル化する。
AARSポリペプチドとしては、チロシルtRNAシンテターゼ(YRS)、トリプトファニルtRNAシンテターゼ(WRS)、グルタミニルtRNAシンテターゼ(QRS)、グリシルtRNAシンテターゼ(GlyRS)、ヒスチジルtRNAシンテターゼ、セリルtRNAシンテターゼ、フェニルアラニルtRNAシンテターゼ、アラニルtRNAシンテターゼ、アスパラギニルtRNAシンテターゼ(AsnRS)、アスパルチルtRNAシンテターゼ(AspRS)、システイニルtRNAシンテターゼ(CysRS)、グルタミルtRNAシンテターゼ、プロリルtRNAシンテターゼ(ProRS)、アルギニルtRNAシンテターゼ、イソロイシルtRNAシンテターゼ、ロイシルtRNAシンテターゼ、リシルtRNAシンテターゼ、トレオニルtRNAシンテターゼ、メチオニルtRNAシンテターゼ、およびバリルtRNAシンテターゼが挙げられる。これらのAARSポリペプチドの完全長野生型配列は当該技術分野において既知である。AARSポリペプチドの意味の中には、AIMP−1(すなわちp43)、AIMP−2(すなわちp38)、およびAIMP−3(すなわちp18)を含むアミノアシルtRNAシンテターゼ相互作用多機能タンパク質(AIMP)も含まれる。
「ポリペプチド」、「ポリペプチド断片」、「トランケートポリペプチド」、または「その変異体」という用語には、ヒトまたはマウスAARSポリペプチドのアミノ酸配列のような基準のAARS配列と少なくとも50%(ならびに、少なくとも51%〜少なくとも99%、およびこれらの間のすべての整数の比率)の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド(その生物学的に活性な断片を含む)、例えば、基準配列の少なくとも約10個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、120個、140個、160個、180個、200個、220個、240個、260個、280個、300個、350個、400個、450個、500個、550個、600個、650個、または700個超(これらの間のすべての整数を含む)の連続するアミノ酸を有する断片が包まれるが、これらに限らない。これらの用語には、ある属または種から他の属または種へと存在および発生し得るAARSポリペプチドの天然の対立遺伝子変異体がさらに包まれる。例示的な基準配列としては、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、および109〜115のうちのいずれか1つに示されているものが挙げられる。
AARSプリペプチドには、そのトランケート体、断片、および/または変異体を含め、基準のAARSポリペプチドの特定の生物学的活性(例えば被検体内またはインビトロでの炎症反応調節活性)の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、200%、300%、400%、500%、600%、700%、800%、900%、または1000%超を示すポリペプチドが包まれる。単なる実例として、AARSに関連する非標準的な生物学的活性は例えば、顆粒球などの免疫細胞が肺を含む炎症部位に移動するのを低減するAARSポリペプチドの能力を測定することによって、または、AARSポリペプチドが、特定の抗原(自己抗原か外来抗原かは問わない)に対する免疫細胞の応答に及ぼす作用を測定することによって定量化してよい。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、好中球のような免疫細胞の抗原に対する感作を減じ、それによって、これらの細胞の炎症部位への動員を低減する。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、免疫細胞の炎症反応を調節するか、または、各種の炎症分子などのレベルもしくは活性を調節する。免疫細胞をアッセイするのに好適なインビトロモデルは本明細書に記載されており(実施例1参照)、当該技術分野において既知である。基準のAARSポリペプチドよりも生物学的活性が実質的に低いAARSポリペプチド(そのトランケート体および/または変異体を含む)は、生物学的に活性な基準のAARSポリペプチド(すなわち非標準的な活性を有する)の比活性度の約25%、10%、5%、または1%未満を示すものである。
ポリペプチド「変異体」という用語は、少なくとも1つのアミノ酸残基の付加、欠失、または置換によって基準のポリペプチドと区別されるポリペプチドを指す。特定の実施形態では、ポリペプチド変異体は、保存的または非保存的であり得る1つ以上の置換基によって、基準のポリペプチドと区別される。特定の実施形態では、ポリペプチド変異体は保存的置換基を含み、これに関しては、ポリペプチドの活性の性質を変化させることなく、いくつかのアミノ酸を広範な類似の特性を有する他のアミノ酸に変化させてよいことは、当該技術分野において十分に理解されている。また、ポリペプチド変異体には、1つ以上のアミノ酸が付加または欠失されているか、異なるアミノ酸残基で置換されているポリペプチドも含まれる。
本発明は、本明細書に記載の方法において、完全長AARSポリペプチドの変異体(例えば、Y341A置換基を有する完全長YRSポリペプチド)、完全長AARSポリペプチドのトランケート断片、スプライス変異体、タンパク質分解断片(内因性タンパク質分解断片を含む)、およびこれらの断片の変異体、ならびに、これらの関連する生物学的に活性な断片を用いることを意図している。AARSポリペプチドの生物学的に活性な断片としては、(推定)完全長AARSポリペプチド配列のアミノ酸配列(配列番号1など)もしくはその一部、または、配列番号2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、もしくは109〜115のポリペプチドと十分類似しているか、またはこれに由来するアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられる。
典型的には、生物学的に活性な断片は、AARSポリペプチドの少なくとも1つの活性を有するドメインまたはモチーフを含み、各種の活性ドメインのうちの1つ以上(いくつかのケースではすべて)を含んでよく、炎症反応調節活性を有する断片を含む。いくつかのケースでは、AARSポリペプチドの生物学的に活性な断片は、特定のトランケート断片に固有の生物学的活性(例えば、サイトカインの分泌を調節する活性、免疫細胞の移動を調節する活性)を有し、完全長AARSポリペプチドがその活性を持たなくてもよいようになっている。特定のケースでは、生物学的活性は、他の完全長AARSポリペプチド配列から生物学的に活性なAARSポリペプチド断片を分離することによって、または、完全長AARS野生型ポリペプチド配列の特定の残基(例えばYRSポリペプチドのY341A)を変更し、生物学的に活性なドメインをアンマスクすることによって明らかにしてよい。トランケートAARSポリペプチドの生物学的に活性な断片は、例えば、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、もしくは109〜115のうちのいずれか1つに示されているアミノ酸配列、または、各種のヒトAARSポリペプチドの既知のアミノ酸配列の10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、110個、120個、130個、140個、150個、160個、170個、180個、190個、200個、220個、240個、260個、280個、300個、320個、340個、360個、380個、400個、450個、500個、550個、600個、650個、700個、または750個超(これらの間のすべての整数を含む)の連続するアミノ酸、または連続しないアミノ酸(例えばスプライス変異体は連続しない場合がある)であるポリペプチド断片であることができる。特定の実施形態では、生物学的に活性な断片は、炎症反応を調節する配列、ドメイン、またはモチーフを含む。好適には、生物学的に活性な断片は、その由来元である生物学的に活性(すなわち非標準的な生物学的活性)なポリペプチドの活性の約1%、10%、25%、または50%以上の活性を有する。
「配列同一性」という用語、または、例えば、「〜と50%同一である配列」を含むという表現は、本明細書で使用する場合、配列が、ヌクレオチドベースまたはアミノ酸ベースで、比較ウィンドウにわたって同一である程度を指す。したがって、「配列同一率」は、比較ウィンドウにわたって、2つの最適にアラインメントした配列を比較し、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、I)、または同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、Cys、およびMet)が両方の配列に存在する位置の数を割り出して、適合した位置の数を求め、適合した位置の数を比較ウィンドウ中の位置の総数(すなわちウィンドウサイズ)で除し、その結果に100を乗じて配列同一率を求めることによって計算することができる。
2つ以上のポリヌクレオチドまたはポリペプチド間の配列の関係を説明するのに用いる用語としては、「基準配列」、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一率」、および「実質的同一性」が挙げられる。「基準配列」は少なくとも12個であるが、頻繁には15〜18個、頻繁には少なくとも25個のモノマー単位(ヌクレオチドおよびアミノ酸残基を含む)の長さである。2つのポリヌクレオチドはそれぞれ、(1)その2つのポリヌクレオチド間で類似する配列(すなわち、完全なポリヌクレオチド配列の一部のみ)と、(2)その2つのポリヌクレオチド間で異なる配列を含み得るので、2つ(または2つ超)のポリヌクレオチド間の配列比較は典型的には、「比較ウィンドウ」にわたる2つのポリヌクレオチド配列を比較して、配列が類似する局所的領域を同定および比較することによって行う。「比較ウィンドウ」は、少なくとも6個の連続する位置、通常は約50〜約100個、より通常には約100〜約150個の概念的セグメントを指し、このセグメントで、2つの配列を最適にアラインメントした後に、配列を同数の連続する位置の基準配列と比較する。比較ウィンドウは、2つの配列の最適なアラインメントのために、基準配列(付加または欠失を含まない)と比較した場合、約20%以下の付加または欠失(すなわちギャップ)を含み得る。比較ウィンドウをアラインメントするための配列の最適なアラインメントは、アルゴリズム(575 Science Drive Madison,WI,USAのGenetics Computer GroupのWisconsin Genetics Software Package Release 7.0中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)をコンピュータによって実行することによって、または、目視と、選択される種々の方法のうちのいずれかによって作成した最良のアラインメント(すなわち、比較ウィンドウにわたって最高の相同率が得られる)によって行ってよい。例えば、Altschul et al.,1997,Nucl.Acids Res.25:3389によって開示されているように、BLASTプログラムファミリーを参照にしてもよい。配列解析の詳細な考察は、Unit 19.3 of Ausubel et al.,“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley&Sons Inc,1994−1998,Chapter 15で見ることができる。
本明細書で使用する場合、「被検体」には、本発明のAARSポリペプチド、エキソビボまたはインビトロでAARSポリペプチドによって処理した細胞(例えば幹細胞)のうちのいずれか、またはこれら両方で治療することができる症状を示すか、症状を示すリスクのあるいずれかの動物が含まれる。好適な被検体(患者)としては、実験動物(マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットなど)、家畜、および飼育動物またはペット(ネコまたはイヌなど)が挙げられる。非ヒト霊長類、好ましくはヒトの患者が含まれる。特定の実施形態は、炎症反応の増大もしくは病的な炎症反応、または不十分な炎症反応を示すか、または示すリスクのある被検体を含む。
アミノアシルtRNAシンテターゼポリペプチドの「有効濃度」とは、インビトロまたはエキソビボでの細胞内か、組織内か、被検体内かを問わず、コントロールのポリペプチドまたは非ポリペプチドと比較して、所望の方法で炎症反応または炎症を調節できる量を指す。炎症反応調節活性の一例としては、顆粒球(例えば好中球、好酸球)またはリンパ球などの免疫細胞の肺などの所定の組織への移動の低減が挙げられる。別の例としては、免疫細胞の抗原に対する感作の減少が挙げられる。炎症反応調節活性のさらなる例としては、サイトカイン産生の調節が挙げられる。他の例は、本明細書に記載の説明と、当該技術分野における了解事項から明らかであろう。
「免疫細胞」としては、B細胞、キラーT細胞(すなわちCD8+T細胞)、ヘルパーT細胞(すなわちTh1およびTh2細胞を含むCD4+T細胞)、ナチュラルキラー細胞、およびγδT細胞などのリンパ球、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、肥満細胞、好酸球、ならびに好塩基球を含め、脊椎動物の免疫系のあらゆる細胞が挙げられる。
「巨核球」とは一般に、正常な血液凝固に必要な栓球(すなわち、血小板)産生を担う骨髄細胞を指す。巨核球は典型的には、骨髄細胞10,000個あたり1個を占める。巨核球は、骨髄中の多能性造血幹細胞前駆細胞に由来する。トロンボポエチン(TPO)は、巨核球産生の一次シグナルである。すなわち、TPOは、骨髄中の前駆細胞の最終巨核球表現型への分化を誘導するのに十分であるが、絶対に必要というわけではない。巨核球分化のための他の分子シグナルとしては、GM−CSF、IL−3、IL−6、IL−11、ケモカイン(SDF−1、FGF−4)、およびエリスロポエチンが挙げられる。
巨核球は、CFU−Me(多能性造血幹細胞または血球芽細胞)→巨核芽球→前巨核球→巨核球という系譜によって発達すると考えられている。巨核芽球の段階で、細胞はその分裂能力を喪失するが、依然としてそのDNAを複製して発達し続け、倍数体になることができる。成熟すると、巨核球は、血小板すなわち栓球の産生プロセスを開始する。トロンボポエチンは、巨核球を誘導して、小さな原血小板プロセス、すなわち、放出前に血小板を保存するための細胞質内膜を形成させる一因となる。放出の際、これらの各原血小板プロセスにより、2000〜5000個の新たな血小板を産生することができる。全体的には、新たに放出された血小板の約2/3が循環血液中に残り、約1/3が脾臓によって隔離されることになる。血小板の放出後、残った細胞核は典型的には、骨髄障壁を通過して血液に到達し、肺胞マクロファージによって肺内で消費される。巨核球減少は、骨髄中の巨核球不足である。
「赤血球」とは、ヘム基を含む複合金属タンパク質であるヘモグロビン(その鉄原子は一時的に、肺の酸素分子(O2)に結合する)から主になる赤血球細胞を指す。赤血球は、赤血球生成と呼ばれるプロセスによって産生され、このプロセスでは、赤血球は単分化能幹細胞から発生し、網赤血球を経て約7日で赤血球に成熟し、寿命は、合わせて約100〜120日である。「赤血球増加症」は、赤血球の過剰によって特徴付けられる疾患であり、血液粘性の向上によって、多くの症状が現れることがある。「貧血」は、赤血球数が少ないこと、または、赤血球もしくはヘモグロビンに何らかの異常があることが原因で、血液の酸素運搬能力が低くなることによって特徴付けられる疾患である。
「顆粒球」とは、細胞質に顆粒が存在することによって特徴付けられる白血球を指す。顆粒球は、核の形が変化するので、多形核白血球(PMNまたはPML)とも称される。顆粒球の例としては、好中球、好酸球、および好塩基球が挙げられる。
「好中球」または好中球性顆粒球とは一般に、ヒトにおける豊富な白血球型を指し、好塩基球および好酸球とともに多形核細胞ファミリー(PMN)の一部をなす。好中球は、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)の組織学的または細胞学的調製物に対する独特の染色特性に従って容易に同定することができる。好中球は通常、血流中に存在するが、主に感染または癌に起因する炎症の開始期(すなわち急性期)の間に、炎症部位の方に移動する第1の炎症細胞群のうちの1つである。典型的には、好中球はまず血管を介して移動し、次いで、炎症部位で生じる化学的シグナル(例えば、インターロイキン−8(IL−8)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、およびC5a)に続いて間質組織を介して移動する。「好中球減少症」とは好中球数の減少が存在することを指し、先天性(遺伝性)障害に起因する場合もあれば、再生不良性貧血または特定の種類の白血病の場合のような他の状態によって発症する場合もある。「好中球増加症」とは、好中球数が異常に高いことを指す。
「好酸球」とは、細胞質中にサイズが均一で粗くて丸い顆粒を有する白血球を指し、典型的には二葉(二分葉)の核を有する。好酸球の細胞質顆粒は、エオシン染料で赤く染まる。好酸球は通常、末梢血白血球の約1%〜約3%を構成する(1立方メートル当たり約350〜650個)。血中の好酸球数は、アレルギー反応、および蠕虫などの寄生虫感染中に正常範囲を超えて上昇することが多い。「好酸球減少症」とは、顆粒球減少症の1つの形態を指し、好酸球の数が予想よりも少ない形態である。「好酸球増加症」とは、血中の好酸球数が異常に高いことを指す。例えば、好酸球増加症は、軽度(好酸球が1立方メートル当たり約1500個未満)、中度(1立方メートル当たり約1500〜約5000個)、または重度(1立方メートル当たり約5000個超)に分類することができる。原発性好酸球増加症では、好酸球産生量の増加は典型的には、好酸球性白血病などにおける造血幹細胞の異常を原因とする。続発性好酸球増加症では、好酸球産生量の増加は典型的には、サイトカインによって促される反応プロセスを原因とする。
好塩基球とは、細胞質中にサイズが均一で粗い青みがかった黒色の顆粒を有する白血球を指し、典型的には二葉(二分葉)の核を有する。好塩基球の細胞質顆粒は塩基性染料で染まる。好塩基球は通常、末梢血白血球の約0.5%〜3%を構成する。好塩基球は、ヒスタミンおよびセロトニンなどの化学物質を保持および放出する。好塩基球は、外来粒子を貪食することができ、ヘパリン、セロトニン、およびヒスタミンの産生、保持、および放出も行う。ヘパリンおよびヒスタミンなどの炎症性化学物質の放出は、ぜん息およびアレルギーと関連していることが多い。好塩基球は、骨髄中で幹細胞によって持続的に産生される。「好塩基球減少症」とは好塩基球数の減少(例えば血液1リットル当たり約0.01×109個未満)を指し、「好塩基球増加症」とは好塩基球数の増加(例えば血液1リットル当たり約1010個超)を指す。
「リンパ球」とは一般に、脊椎動物の免疫系の白血球を指し、B細胞、T細胞(例えばヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞、γδT細胞)、およびナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。一般に、かつ例示目的に限れば、B細胞は抗体を産生および分泌し、Tヘルパー細胞は、他の免疫細胞を調節するサイトカインと成長因子を放出し、細胞障害性T細胞(CTL)は、ウイルスに感染した細胞、腫瘍細胞、同種移植片を溶解させ、NK細胞は、ウイルスに感染した細胞と腫瘍細胞を溶解させる。「リンパ球減少症」は、血中のリンパ球レベルが異常に低いことによって特徴付けられる。正常なリンパ球総数は典型的には、成人で約1000〜4800個/μL、2歳未満の幼児で約3000〜9500個/μLである。6歳では、正常なリンパ球総数の下限は約1500個/μLである。リンパ球減少症は、成人で<1000個/μL、2歳未満の幼児で<3000個/μLというリンパ球総数によって特徴付けられることが多い。リンパ球減少症の具体例としては、Tリンパ球減少症(T細胞が非常に少なくなる(例えばCD4+T細胞数が約300個/μL未満になる)が、他のリンパ球の数は正常であることが多い)、Bリンパ球減少症(B細胞数が非常に少なくなるが、他のリンパ球の数は正常であることが多い)、およびNKリンパ球減少症(ナチュラルキラー細胞数が非常に少なくなるが、他のリンパ球の数は正常であることが多い)が挙げられる。
「リンパ球増加症」とは、リンパ球数が異常に高いことを指し、リンパ球総数が正常よりも40%多いことによって特徴付けられることが多い。成人では、絶対リンパ球増加症は典型的には、絶対リンパ球数が1マイクロリットル当たり4000個を超えるときに存在し、幼児では1マイクロリットル当たり7000個を超えるときに、乳児では1マイクロリットル当たり9000個を超えるときに存在する。相対リンパ球増加症は、白血球におけるリンパ球の比率が高くなったとき(40%超)、かつ、リンパ球数(ALC)が正常であるとき(1マイクロリットル当たり約4000個未満)に発症し得る。
「調節する」という用語には、典型的には統計的または生理学的に有意な量で「増大させる」または「刺激する」、および、「減少させる」または「低減する」が含まれる。
「増強する」もしくは「増強」、「増大させる」もしくは「増大」、または「刺激する」もしくは「刺激」という用語は一般に、1つ以上の作用剤または組成物が細胞内で、AARSポリペプチドを含まない場合、またはコントロール分子/組成物の場合のいずれかによって引き起こされる応答よりも高い生理学的応答(すなわち下流作用)を生み出すか、または引き起こす能力を指す。測定可能な生理学的応答としては、当該分野における理解から明らかであり、かつ本明細書に記載のものの中でも特に、細胞の成長、増殖、粘着、または移動の増大を挙げてよい。当該技術分野において既知の方法の中でも特に、インビトロでのコロニー形成アッセイは、本発明で提供される作用剤に対する細胞応答を測定するための代表的な方法の1つである。測定可能な生理学的応答としては、例えば体温によって測定されるような炎症変化などの臨床応答、発赤、腫れ、またはその他の臨床的炎症指標も挙げてよい。「増大」または「増強」量は典型的には「統計学的に有意な」量であり、この量としては、AARSポリペプチドを含まない場合(作用剤が存在しない場合)またはコントロール組成物の場合によって得られる量の1.1倍、1.2倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、または30倍超(例えば500倍、1000倍)(これらの間かつ1を超えるすべての整数および小数点が含まれる。)例えば、1.5、1.6、1.7.1.8など)の増加を挙げてよい。
「低減する」という用語は一般に、診断分野の常法に従って測定した場合に、本発明の1つ以上のAARSポリペプチドが、関連する生理学的応答または細胞応答(本明細書に記載されている疾患または状態の症状など)を「低下させる」能力に関するものである場合がある。例としては、顆粒球などの免疫細胞の肺への移動の低下、および、肺の炎症の低下が挙げられる。測定可能な生理学的応答としては、例えば体温によって測定されるような炎症、発赤、腫れ、またはその他の臨床的炎症指標の低下を挙げてよい。関連する生理学的応答または細胞応答(インビボまたはインビトロ)は当業者には明らかであろう。応答の「低下」は、AARSポリペプチドを含まない場合またはコントロール組成物の場合によって生み出される応答との比較において、統計的に有意であってよく、この低下としては例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%(これらの間のすべての整数を含む)の低下を挙げてよい。
「移動」とは、細胞移動、すなわち、本明細書に記載されているように、かつ当該技術分野において既知のとおり、常法のインビトロアッセイに従って測定することができるプロセスを指す(例えば実施例8を参照されたい)。移動は、ある組織から別の組織へ(例えば骨髄から末梢血液へ、もしくは末梢血液から肺組織へ)、または、ある組織内の部位から、その同じ組織内の別の部位への細胞の移動のようなインビボの移動も指す。インビボの移動(例えば化学走化)は、感染、または組織の損傷/炎症に応答して生じることが多い。
「分化」とは、特殊性の低い(例えば多能性、全能性、多分化能性などの)細胞が、特殊性の高まった細胞型になるプロセスを指す。
本明細書で使用する場合、「治療」または「治療する」には、炎症の調節と関連する疾患もしくは状態の症状もしくは病状、または、炎症の調節から恩恵を受ける場合のある他の一次治療の結果(例えば感染、アレルギー)に対するいずれかの望ましい作用が含まれ、治療している疾患または状態の1つ以上の測定可能な指標が最小限変化または改善することが含まれる場合もある。「治療」または「治療する」は、疾患もしくは状態、またはその関連する症状の完全な根絶または治癒を必ずしも示さない。この治療を受けている被検体は、霊長類、特にヒトと、ウマ、ウシ、ブタ、およびヒツジなどのその他の哺乳類と、一般的な家禽およびペットとを含め、治療を必要としているいずれかの動物である。また、「予防的」治療も含まれ、予防的治療は、関連する疾患もしくは状態を発現させるリスク、または、関連する疾患もしくは状態と関連する症状を発現させるリスクを低減する。臨床的改善の代表的な指標としては、AARSポリペプチドの投与後か、エキソビボもしくはインビトロでAARSポリペプチドによって処理した細胞の投与後か、またはこれらの両方かに関わらず、体温の変化、免疫細胞数の変化、および細菌数の変化が挙げられるが、これらに限らない。
「ベクター」とは、ポリヌクレオチド分子、好ましくは、例えば、ポリヌクレオチドを挿入またはクローニングできるプラスミド、バクテリオファージ、酵母、またはウイルスに由来するDNA分子を意味する。ベクターは好ましくは、1つ以上の固有の制限部位を含み、所定の宿主細胞(標的細胞もしくは標的組織、または、その前駆細胞もしくは前駆組織を含む)中で自己複製することができるか、クローニングされる配列を複製可能なように、所定の宿主のゲノムに組み込むことができる。したがって、ベクターは、自己複製ベクター、すなわち、染色体外体として存在するベクターであることができ、その複製は、染色体複製から独立している(例えば、線状または閉環状プラスミド、染色体外要素、ミニ染色体、または人工染色体)。ベクターは、自己複製を確実にするためのいずれかの手段を含むことができる。あるいは、ベクターは、宿主細胞に組み込まれる場合、ゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるベクターであることができる。ベクター系は、単一のベクターまたはプラスミド、宿主細胞のゲノムに導入される全DNAを共に含む2個以上のベクターまたはプラスミド、またはトランスポゾンを含むことができる。ベクターの選択は典型的には、ベクターと、そのベクターが導入される宿主細胞との適合性に左右されることになる。本発明のケースでは、ベクターは好ましくは、細菌細胞内で機能可能に機能するベクターである。このベクターは、好適な形質転換体の選択の際に利用できる抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーも含むことができる。
「野生型」および「天然の」という用語は、天然の供給源から単離したときの遺伝子または遺伝子産物の特徴を有する遺伝子または遺伝子産物を指す目的で同義的に用いる。野生型の遺伝子または遺伝子産物(例えばポリペプチド)とは、母集団内で最も頻繁に観察されるので、その遺伝子の「正常」または「野生型」形態と任意に定められるものである。
アミノアシル−tRNAポリペプチドおよびその変異体
本発明は部分的には、アミノアシルtRNAシンテターゼポリペプチド(そのトランケート体および変異体を含む)がインビボおよびエキソビボ(またはインビトロ)の両方で、炎症反応を調節するという観察結果に関する。したがって、本発明のポリペプチドは、完全長アミノアシルtRNAシンテターゼポリペプチドに加えて、アミノアシルtRNAシンテターゼポリペプチドのいずれかの生物学的に活性な断片、または、その変異体もしくは修飾体を含み、このポリペプチドは、被検者内、インビトロ、またはエキソビボのいずれかで炎症反応を調節できる。
アミノアシルtRNAシンテターゼは典型的には、同種のアミノ酸によるtRNA分子のアミノアシル化を触媒する。アミノアシルtRNAシンテターゼは、tRNAに含まれるヌクレオチドトリプレットとアミノ酸を結合させる中心的役割から、進化の際に出現した最初のタンパク質の1つと考えられている。
上記のように、アミノアシルtRNAシンテターゼの例としては、チロシルtRNAシンテターゼ(YRS)、トリプトファニルtRNAシンテターゼ(WRS)、グルタミニルtRNAシンテターゼ(QRS)、グリシルtRNAシンテターゼ(GlyRS)、ヒスチジルtRNAシンテターゼ(HisRS)、セリルtRNAシンテターゼ(SRS)、フェニルアラニルtRNAシンテターゼ(PheRS)、アラニルtRNAシンテターゼ(AlaRS)、アスパラギニルtRNAシンテターゼ(AsnRS)、アスパルチルtRNAシンテターゼ(AspRS)、システイニルtRNAシンテターゼ(CysRS)、グルタミルtRNAシンテターゼ(ERS)、プロリルtRNAシンテターゼ(ProRS)、アルギニルtRNAシンテターゼ(RRS)、イソロイシルtRNAシンテターゼ(IRS)、ロイシルtRNAシンテターゼ(LRS)、リシルtRNAシンテターゼ(KRS)、トレオニルtRNAシンテターゼ(TRS)、メチオニルtRNAシンテターゼ(MRS)、およびバリルtRNAシンテターゼ(VRS)が挙げられる。
チロシルtRNAシンテターゼ(YRS)は、クラスI tRNAシンテターゼファミリーに属し、活性部位に、高度に保存された配列モチーフを2つ(HIGHおよびKMSKS)有する。クラスI tRNAシンテターゼは、アデノシンヌクレオチドの2’−OHでアミノアシル化を行い、通常は単量体(サブユニットが1つ)または二量体(サブユニットが2つ)である。
ヒトチロシルtRNAシンテターゼは、1)活性化E・Tyr−AMP中間体の形成を担うと共に、細菌、古細菌、および真核生物の間で保存されているアミノ末端ロスマンフォールドドメイン、2)細菌および真核生物の間で保存されていないtRNAアンチコドン認識ドメイン、および3)ヒトチロシルtRNAシンテターゼに固有のものであり、その一次構造が、推定ヒトサイトカイン内皮単球活性化タンパク質IIと49%同一であり、カエノラブディティス・エレガンス由来のメチオニルtRNAシンテターゼのカルボキシル末端ドメインと50%同一であり、サッカロミセス・セレビシエ由来のArc1pのカルボキシル末端ドメインと43%同一であるカルボキシル末端ドメインという3つのドメインから構成されている。
ヒトチロシルtRNAシンテターゼの最初の2つのドメインは、S.セレビシエ由来のチロシルtRNAシンテターゼと52%同一であり、メタノコッカス・ヤナシ由来のチロシルtRNAシンテターゼと36%同一であり、バチルス・ステアロサーモファイラス由来のチロシルtRNAシンテターゼと16%同一である。B.ステアロサーモファイラスにおいてチロシル−アデニレート複合体の形成に関与することが知られている15個のアミノ酸のうちの9個は、すべての生物にわたって保存されているのに対して、tRNATyrの認識に関与するアミノ酸は保存されていない。大腸菌内で発現させた組み換えヒトおよびB.ステアロサーモファイラスチロシルtRNAシンテターゼの動態解析によって、ヒトチロシルtRNAシンテターゼが、ヒトtRNATyrをアミノアシル化するが、B.ステアロサーモファイラス tRNATyrをアミノアシル化せず、B.ステアロサーモファイラスチロシルtRNAシンテターゼが、B.ステアロサーモファイラス tRNATyrをアミノアシル化するが、ヒトtRNATyrをアミノアシル化しないことが示されている。ヒトチロシルtRNAシンテターゼのカルボキシル末端ドメインは、メチオニルtRNAシンテターゼのカルボキシル末端ドメインの遺伝子重複から生じたものであり、この酵素の活性部位にtRNAを誘導できると考えられている。
真核生物チロシルtRNAシンテターゼの生物学的断片は、タンパク質の合成を細胞シグナル伝達経路に結び付ける。これらの断片は、可変スプライシングもしくはタンパク質分解のいずれかによって自然に、または、人工的なタンパク質分解処理によって作製してよい。例えば、本発明で提供されるように、N末端断片のミニYRSは、インビボで炎症反応を調節することができる。加えて、完全長YRSポリペプチド配列の特定の突然変異によって、基準配列に炎症反応調節活性の増大がもたらされる(例えばY341A)。完全長YRSポリペプチド配列のトランケート型スプライス変異体の例としては、SP1〜SP5ポリペプチドが挙げられる。
ヒトチロシルtRNAシンテターゼの完全長アミノ酸配列は配列番号1に示されている。触媒ドメインとアンチコドン認識ドメインの両方を含むヒトミニYRS(すなわち配列番号3またはミニTry)の構造は、1.18Åの分解能まで報告されている。ヒトおよび細菌のこの酵素の触媒ドメインが重ね合わさっているのに対して、触媒ドメインと比べて、アンチコドン認識ドメインが空間的に配置されているのは、細菌のオルソログと比べると、ミニYRS独自のものである。いずれかの1つの理論によって束縛されたくないが、アンチコドン認識ドメインの独自の配向によって、断片のミニYRSが、各種の細胞シグナル伝達経路で活性が高くなる理由を説明することができる。
YRSポリペプチド変異体の具体例としては、R93Q置換基、I14L置換基、N17G置換基、L27I置換基、A85S置換基、およびV156L置換基、ならびにこれらの組み合わせから選択されるアミノ酸置換基を1つ以上有する完全長YRSポリペプチド、または、そのトランケート体もしくはスプライス変異体が挙げられる。YRSポリペプチド変異体の特定的な例としては、配列番号1の1〜364番のアミノ酸とR93Q置換基とを有するYRSポリペプチド、配列番号1の1〜353番のアミノ酸とI14L置換基とを有するYRSポリペプチド、配列番号1の1〜353番のアミノ酸とN17G置換基とを有するYRSポリペプチド、配列番号1の1〜353番のアミノ酸とL27I置換基とを有するYRSポリペプチド、配列番号1の1〜353番のアミノ酸とA85S置換基とを有するYRSポリペプチド、および配列番号1の1〜353番のアミノ酸とV156L置換基とを有するYRSポリペプチドが挙げられるが、これらに限らない。
生物学的に活性なYRS断片の特定的な例としては、配列番号1に示されているアミノ酸配列の1〜343番のアミノ酸、1〜344番のアミノ酸、1〜350番のアミノ酸、1〜353番のアミノ酸、または1〜364番のアミノ酸を含むか、または、これらからなるC末端トランケート型チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドに加えて、配列番号3および6のポリペプチドが挙げられるが、これらに限らない。生物学的に活性な断片の追加的な例としては、配列番号6、10、12、および14に示されているアミノ酸配列を含むか、またはこれらからなるN末端トランケート型チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドが挙げられるが、これらに限らない。上記およびその他のYRSポリペプチドは、本発明のAARSポリペプチドに含まれる。
ヒスチジルtRNAシンテターゼ(HRSまたはHisRS)は、クラスIIa tRNAシンテターゼファミリーに属するα2二量体である。HisRSの一次構造に関する編集物には、これらのホモ二量体酵素のサブユニットが、420〜550個のアミノ酸残基からなることが示されている。これは、ペプチド鎖のサイズが約300〜1100個のアミノ酸残基であるAARSの中でも、比較的短い鎖長を表している。配列番号28は、完全長HisRSタンパク質(NP_002100.2)のアミノ酸配列である。配列番号30はHRS−SV9スプライス変異体のアミノ酸配列であり、配列番号32はHRS−SV11スプライス変異体のアミノ酸配列である。
ヒスチジルtRNAシンテターゼポリペプチド、およびその変異体またはトランケート体の例としては、HisRSのWHEPドメイン、例えば、ヒト完全長HisRSタンパク質の3〜43番のアミノ酸残基を少なくとも含むHisRS断片、および、HisRSのアンチコドン結合ドメイン、例えば、完全長ヒトHisRSタンパク質の406〜501番のアミノ酸残基を少なくとも含むHisRS断片が挙げられる。さらなる例としては、ヒト完全長HisRSタンパク質の機能的なアミノアシル化ドメイン、例えば、54〜398番のアミノ酸残基を欠損しているHisRS断片、または、WHEPドメインおよびアンチコドン結合ドメインを少なくとも含むが、機能的なアミノアシル化ドメインを欠損しているHisRSスプライス変異体ポリペプチドが挙げられる。
特定の実施形態では、本発明のHisRSポリペプチドは、配列番号28、30、もしくは32に示されている配列を含むか、または、配列番号28、30、もしくは32に示されているポリペプチドの連続する断片もしくは不連続の断片(例えば、スプライス変異体は不連続である場合がある)である。実例的には、これらの断片は、目的の非標準的な生物学的活性を少なくとも1つを保持していれば、本質的にいずれの長さのものであってもよい。例えば、本明細書でさらに説明されているように、このような断片は、配列番号28、30、または32の少なくとも約5個、10個、15個、20個、25個、50個、75個、または80個以上の連続するアミノ酸残基を含んでよい。
本発明のさらなる実施形態では、HisRSポリペプチドは、配列番号28、30、または32に示されている配列の活性変異体(すなわち、目的の非標準的な生物学的活性を少なくとも1つ保持する変異体)を含む。特定の実施形態では、この活性変異体はその長さに沿って、配列番号28、30、または32に示されている配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、または99%の同一性を有するポリペプチドである。特定の実施形態では、本発明のHisRSポリペプチドは、完全長ヒトHisRSタンパク質の1〜48番の残基からなるポリペプチドではない。上記およびその他のHisRSポリペプチドは、本発明のAARSポリペプチドに含まれる。
トリプトファニルtRNAシンテターゼ(WRS)(トリプトファンtRNAリガーゼとも称される)は、クラスI tRNAシンテターゼファミリーに属する。トリプトファニルtRNAシンテターゼは、タンパク質合成に不可欠な機能である、トリプトファンによるtRNAtrpのアミノアシル化を触媒する。ヒトWRSは、N末端領域にキナーゼドメインを、C末端の近くにセリンリン酸化部位を有する。
ヒトトリプトファニルtRNAシンテターゼの2つの主要な形態はインビボで、mRNAの可変スプライシングを通じて産生され、完全長タンパク質(配列番号33)、およびその断片(ミニWRS(配列番号107)と表されることが多い)が生成される。IFN−γ感受性プロモーターにより産生される選択的スプライス変異体であるヒトT1−WRS(配列番号108)およびT2−WRS(配列番号34)も含まれ、後者は、WRSのN末端トランケート型断片である。さらには、N末端断片(F1、配列番号106)、および「Tolstrup」と称されるWRS断片(配列番号35)も含まれる。ヒトWRSの他のスプライス変異体は当該技術分野において既知である(例えば、Liu et al.,Nucleic Acids Research,32(2):719−27,2004(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
構造的には、完全長WRSは、標準的なジヌクレオチド結合フォールド、二量体界面、およびヘリカルドメインという3つの部分を含む。この酵素は、チロシルtRNAシンテターゼ(YRS)と十分な構造的相同性を有し、これらの2つの酵素は、配座異性体として説明できるほどである。その活性化アミノ酸、トリプトファニル−5’AMPと相互作用する構造要素は、チロシル−5’AMP複合体で見られるものとほぼ同じである。また、インドールを認識する側鎖も高度に保存されており、トリプトファンかチロシンかという選択を確実に行うためには、保存されたアスパラギン酸を含む「特異性決定」ヘリックスの再配向が必要となる。YRSではカルボキシ末端はディスオーダーしているので見られないが、WRSでは、カルボキシ末端は、二量体界面の一部を形成している(Doublie et al.,Structure.3:17−31,1995を参照されたい)。
ヒトT2−WRSの結晶構造は、2.5Åの分解能で報告されている。この変異体は、バチルス・ステアロサーモファイラスWRS(bWRS)との配列相同性が22%と非常に低いが、その全体構造は著しく似ている。T2−WRSとbWRSとの構造を比較すると、基質の結合およびtRNAの結合において重要な役割を果たす基質結合ポケット内および基質結合ポケットの入口の根本的な構造差が明らかになる。T2−WRSは、活性部位の開口が広く、bWRSの閉じたコンフォメーションと類似のコンパクトなコンフォメーションをとる。モデリング調査によって、tRNAは二量体酵素と結合し、そのアクセプターアームを介してヒトWRSの結合ポリペプチド1と、および、そのアンチコドンループを介してWRSのαヘリカルドメインと主に相互作用することが示されている。
完全長WRSポリペプチド(すなわち主なスプライス変異体)のアミノ酸配列は、配列番号33に示されている。各種のスプライス変異体または断片のアミノ酸配列は、配列番号34および35に示されている。したがって、WRSポリペプチドの上記およびその他の変異体または断片は、本発明のAARSポリペプチドに含まれる。
グルタミニルtRNAシンテターゼ(QRS)は、クラスI tRNAシンテターゼファミリーに属し、そのヒトタンパク質は、高分子タンパク質複合体を形成するいくつかの哺乳類アミノアシルtRNAシンテターゼのうちの1つである。QRSの真核生物特異的なN末端付加体は、多ARS複合体の他の成分の結合を安定させると思われ、したがって、そのC末端触媒ドメインは、QRSを多AARS複合体と結合させるのに必要である。
ヒトQRS酵素は、細菌の酵素および酵母の酵素のいずれとも異なっており、ヒトQRSのかなりの部分が、tRNAのチャージング以外の機能を果たすように進化したことが暗示されている。例えば、真核細胞QRS(EC6.1.1.18)のN末端領域内の少なくとも2つの異なる領域(パートIおよびパートII)に対応するものは大腸菌にはない。これらの領域が非特異的な形でRNAに結合して、tRNAと酵素との間の相互作用を高めると考えられているものの、これらの領域は酵素機能に必須な訳ではない(例えば、Wang et al.,J.Biol.Chem.274:16508−12を参照されたい)。さらに、ヒトおよびマウス細胞は、おそらく選択的開始コドンまたは選択的スプライシングが原因で、N末端領域のパート1に欠失を含むQRS変異体を少なくとも1つ発現させる。しかしながら、酵母に関する入手可能な配列データでは、酵母は、上記のようなQRS変異体を発現させないが、むしろ、N末端領域のパートIとパートIIの両方を含むQRSポリペプチドを発現させるのに過ぎないことが暗示されている。
QRSの分子の系統発生の研究では、QRSが、近縁酵素のグルタミルtRNAシンテターゼから比較的最近進化したことが暗示されている。証拠として、所定のグルタミニルtRNAシンテターゼ突然変異体は、グルタミン酸の認識が増強されている。例えば、活性部位に近い2つの残基Phe−90およびTyr−240の突然変異誘発によって、グルタミン酸認識はインビトロで3〜5倍上昇し、グルタミン酸によるtRNAglnのミスアシル化が生じる。
QRSは様々な複合体で、最も重要には、同種のtRNAglnによって結晶化されている。この酵素は、tRNAの凹面と広範に接触し、34〜36位のアンチコドンCUG、および、アミノアシルアクセプターの直前の、tRNAの5’末端と3’末端との間の塩基対と特異的に相互作用する。
特定のQRSポリペプチドは、抗アポトーシス活性を有する。例えば、ヒトQRSは、グルタミンに依存する形で、ファスライゲーションによって活性化されるアポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK1)と相互作用する。この相互作用は、これらの2つの酵素の触媒ドメインが関係しており、ファスリガンドによって解離される。また、この相互作用は、ASK1活性(インビトロキナーゼおよび転写アッセイによって測定)と、ASK1によって誘発される細胞死(グルタミン欠乏によって弱まる作用)の両方を阻害する。したがって、QRSとASK1との抗アポトーシス相互作用は、グルタミンの細胞内濃度によって増強され、ファスライゲーションによって低減される。この抗アポトーシス活性は、ヒトQRSのC末端の539個のアミノ酸にあると考えられている。
完全長QRSポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号25に示されている。QRSの変異体、トランケート体、または断片の特定の具体例としては、配列番号25の1〜183番のアミノ酸(QRS1またはQ1)、1〜220番のアミノ酸(QRS2またはQ2)、1〜249番のアミノ酸(QRS3またはQ3)、1〜200(QRS4またはQ4)、1〜(181〜293)番のアミノ酸、例えば、1〜180番、1〜181番、1〜182番、1〜183番、1〜184番、1〜185番、1〜186番、1〜187番、1〜188番、1〜189番、1〜190番、1〜191番、1〜192番、1〜193番、1〜194番、1〜195番、1〜196番、1〜197番、1〜198番、1〜199番、1〜200番などまでのアミノ酸を含むか、またはこれらから本質的になるQRSポリペプチドが挙げられる(表2参照)。配列番号36〜103および109〜115のペプチドも挙げられる。したがって、QRSポリペプチドの上記およびその他の変異体は、本発明のAARSポリペプチドに含まれる。
グリシルtRNAシンテターゼ(GlyRS)は、tRNAシンテターゼのクラスIIファミリーに属するα2二量体である(例えば、米国特許出願第12/492,925号(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。この遺伝子の約2462bpのcDNAは、685個のアミノ酸をコードする大規模なオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、M(r)の予測値は77,507Daである。ヒトGlyRSのタンパク質配列は、カイコガGlyRSと約60%の同一性を、S.セレビシエGlyRSと45%の同一性を有し、クラスII tRNAシンテターゼの特徴であるモチーフ2および3を含む。
完全長GlyRSポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号16に示されている。配列番号18〜24は、GlyRS断片の境界を割り出す際に解析した例示的なペプチド配列を表している。
GlyRSタンパク質分解断片の特定の例としては、配列番号16の57〜685番、214〜685番、239〜685番、311〜685番、439〜685番、511〜658番、214〜438番、367〜438番、214〜420番、214〜338番、85〜127番、1〜213番、1〜61番、85〜214番、333〜685番、128〜685番、265〜685番、483〜685番、または25〜56番のアミノ酸残基を含むか、これらから本質的になるか、またはこれらからなるポリペプチド(目的の非標準的な生物学的活性を少なくとも1つ実質的に保持するその生物学的に活性なトランケート体または変異体(例えば、前記断片と約80%、85%、90%、95%、98%の配列同一性を有する変異体)を含む)が挙げられる。特定の具体的な実施形態では、GlyRSポリペプチドは、NCBI # CR594947、U09587、および/またはU09510のうちのいずれか1つに示されているようなポリペプチドではない。したがって、GlyRSポリペプチドの上記およびその他の変異体は、本発明のAARSポリペプチドに含まれる。
非標準的な活性を有するAARSポリペプチドの追加的な例としては、完全長ヒトPheRSタンパク質配列とは異なる独自のアミノ酸配列をC末端に有するフェニルアラニルtRNAシンテターゼ(PheRS)スプライス変異体ポリペプチド(PheRS_SV1P)(配列番号104)(これらのPheRSポリペプチドの変異体および断片を含む)と、アスパルチルtRNAシンテターゼ(AspRS)ポリペプチド(配列番号105)(配列番号105の1〜154番、1〜174番、1〜31番、399〜425番、413〜476番、または397〜425番のアミノ酸残基から本質的になるその断片を含む)が挙げられる。
本発明の実施形態は、被検体の炎症を調節する目的で、AARSポリペプチド(そのトランケート型断片、スプライス変異体、タンパク質分解断片、および変異体、ならびに/または、修飾ポリペプチドを含む)を含む組成物を用いることを意図している。本明細書に記載されているとともに、当該技術分野において既知である炎症調節活性の中でも特に、顆粒球のような免疫細胞の肺への移動を低減するか、顆粒球のような免疫細胞の所与の抗原もしくは刺激原に対する感作を減じるか、またはこれらの両方を行うAARSポリペプチドが含まれる。本出願に含まれる変異体タンパク質は生物学的に活性であり、すなわち、基準のAARSポリペプチド配列(例えば、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、および32〜108、109〜115など)の炎症反応調節活性を依然として有している。このような変異体は、例えば遺伝的多型または人間による操作によって得ることができる。
基準のAARSポリペプチド断片の生物学的に活性な変異体は、デフォルトパラメーターを用いて、本明細書の別の箇所で説明されている配列アラインメントプログラムによって割り出した場合、基準のタンパク質のアミノ酸配列と少なくとも40%、50%、60%、70%、広くは少なくとも75%、80%、85%、通常は約90%〜95%以上、典型的には約98%以上の配列相同性または同一性を有することになる。基準のAARSポリペプチドの生物学的に活性な変異体は元のタンパク質と、広くは200個、100個、50個、または20個のアミノ酸残基分ほど、好適にはわずか1〜15個のアミノ酸残基分、わずか1〜10個、例えばわずか6〜10個、わずか5個、わずか4個、わずか3個、わずか2個、またはさらにはわずか1個のアミノ酸残基分異なっていてよい。いくつかの実施形態では、AARSポリペプチドは、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、または109〜115の基準の配列と、少なくとも1個であるが、15個未満、10個未満、または5個未満のアミノ酸残基分異なる。別の実施形態では、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、または109〜115の基準の配列と、少なくとも1個の残基分異なるが、残基の20%未満、15%未満、10%未満、または5%未満の残基が異なる。
AARSポリペプチドは、アミノ酸の置換、欠失、トランケート、および挿入を含む様々な方法で変更してよい。このような操作の方法は当該技術分野において一般的に知られている。例えば、例えば、トランケート型および/または変異体のAARSポリペプチドのアミノ酸配列変異体は、DNAの突然変異によって調製することができる。突然変異誘発およびヌクレオチド配列変更の方法は当該分野において周知である。例えば、Kunkel(1985,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.82:488−492)、Kunkel et al.,(1987,Methods in Enzymol,154:367−382)、米国特許第4,873,192号、Watson,J.D. et al.,(“Molecular Biology of the Gene”,Fourth Edition,Benjamin/Cummings,Menlo Park,Calif.,1987)およびその引用文献を参照されたい。目的のタンパク質の生物学的活性に影響を及ぼさない適切なアミノ酸置換に関する手引きは、Dayhoff et al.,(1978)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl.Biomed.Res.Found.,Washington,D.C.)のモデルで見ることができる。点突然変異またはトランケートによって作製したコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングする方法、および所定の特性を有する遺伝子産物のcDNAライブラリーをスクリーニングする方法は、当該技術分野において既知である。このような方法は、AARSポリペプチドのコンビナトリアル突然変異誘発によって作成した遺伝子ライブラリーの迅速なスクリーニングに適用可能である。再帰的アンサンブル突然変異誘発(REM)(ライブラリー中での機能的突然変異体の頻度を高める技法)をスクリーニングアッセイと組み合わせて用いて、AARSポリペプチド変異体を同定することができる(Arkin and Yourvan(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7811−7815、Delgrave et al.,(1993)Protein Engineering,6:327−331)。後でさらに詳細に論じるように、1つのアミノ酸を、類似の特性を有する別のアミノ酸と交換するなどの保存的置換が望ましい場合がある。
生物学的に活性なトランケート型および/または変異体のAARSポリペプチドは、基準のAARSアミノ酸配列(例えば、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、および109〜115)との比較において、その配列沿いの様々な位置に保存的アミノ酸置換基を含んでよい。「保存的アミノ酸置換基」とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換された置換基である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該技術分野において定義されており、一般には以下のようなサブクラス分けすることができる。
酸性残基:この残基は、生理学的pHでのHイオンの喪失によって負電荷を有し、その残基を含有するペプチドが生理学的pHで水性媒質中に存在する場合に、そのペプチドのコンフォメーションにおける表面の位置を探索するように、その残基は水溶液によって引きつけられる。酸性側鎖を有するアミノ酸としては、グルタミン酸およびアスパラギン酸が挙げられる。
塩基性残基:この残基は、生理学的pHまたは、その1もしくは2pH単位内のpHにおけるHイオンとの結合によって正電荷を有し(例えばヒスチジン)、その残基を含有するペプチドが生理学的pHで水性媒質中に存在する場合に、そのペプチドのコンフォメーションにおける表面の位置を探索するように、その残基は水溶液によって引きつけられる。塩基性側鎖を有するアミノ酸としては、アルギニン、リシン、およびヒスチジンが挙げられる。
荷電残基:この残基は、生理学的pHにおいて荷電しており、したがって、この残基としては、酸性または塩基性側鎖を有するアミノ酸(すなわちグルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、リシン、およびヒスチジン)が挙げられる。
疎水性残基:この残基は、生理学的pHにおいて荷電しておらず、その残基を含有するペプチドが水性媒質中に存在する場合に、そのペプチドのコンフォメーションにおける内部の位置を探索するように、その残基は水溶液に反発される。疎水性側鎖を有するアミノ酸としては、チロシン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニンおよびトリプトファンが挙げられる。
中性/極性残基:この残基は、生理学的pHにおいて荷電していないが、その残基を含有するペプチドが水性媒質中に存在する場合に、そのペプチドのコンフォメーションにおける内部の位置を探索するに足るほどには、水溶液に反発されない。中性/極性側鎖を有するアミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、システイン、ヒスチジン、セリン、およびトレオニンが挙げられる。
この説明は、「小型」のような特定のアミノ酸も特徴付ける。極性基を欠いていても、「小型」アミノ酸の側鎖は疎水性を付与するに足る大きさではないからである。プロリンを除き、「小型」アミノ酸は、少なくとも1つの極性基が側鎖上に存在するときには4つ以下の炭素を、存在しないときには3つ以下の炭素を有するアミノ酸である。小型側鎖を有するアミノ酸としては、グリシン、セリン、アラニンおよびトレオニンが挙げられる。遺伝子にコードされる第2級アミノ酸であるプロリンは、ペプチド鎖の二次コンフォメーションに及ぼす作用が知られていることから、特殊なケースである。プロリンの構造は、その側鎖がαアミノ基の窒素およびα炭素に結合している点で、他のすべての天然アミノ酸と異なる。いくつかのアミノ酸類似性マトリックスが当該技術分野において知られている(例えば、Dayhoff et al.,1978,A model of evolutionary change in proteinsに例えば開示されているようなPAM120マトリックスおよびPAM250マトリックスを参照されたい)。しかし、Matrices for determining distance relationships In M.O.Dayhoff,(ed.),Atlas of protein sequence and structure,Vol.5,pp.345−358,National Biomedical Research Foundation,Washington DC、およびGonnet et al.,の論文(Science,256:14430−1445,1992)は、グリシン、セリン、アラニン、およびトレオニンと同じ群にプロリンを含む。したがって、本発明の目的では、プロリンは「小型アミノ酸」として分類する。
極性または非極性としての分類に必要な引力または反発力の程度は任意であり、したがって、本発明が具体的に意図するアミノ酸は、極性または非極性として分類してある。具体的に命名していない大半のアミノ酸は、既知の挙動に基づいて分類することができる。
アミノ酸残基は、残基の側鎖置換基に関する自明の分類である環状または非環状、および芳香族または非芳香族として、ならびに、小型または大型として、さらにサブクラス分けすることができる。追加の極性置換基が存在する場合には、残基が、カルボキシル炭素を含めて合わせて4つ以下の炭素原子を含む場合、追加の極性置換基が存在しない場合には、3つ以下の炭素原子を含む場合に、その残基を小型とみなす。当然ながら、小型残基は必ず非芳香族である。アミノ酸残基は、その構造的特性に応じて、2つ以上のクラスに分類できる。天然タンパク質のアミノ酸について、このスキームによるサブクラス分類を表Aに示す。
保存的アミノ酸置換基には、側鎖に基づいた分類も含まれる。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンであり、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリンおよびトレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リシン、アルギニン、およびヒスチジンであり、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、システインおよびメチオニンである。例えば、ロイシンのイソロイシンもしくはバリンとの置換、アスパラギン酸のグルタミン酸との置換、トレオニンのセリンとの置換、またはアミノ酸の構造的に関連するアミノ酸との類似の置換は、得られる変異体ポリペプチドの特性に大きな影響を及ぼさないと予想することが妥当である。例えば、ロイシンのイソロイシンもしくはバリンとの置換、アスパラギン酸のグルタミン酸との置換、トレオニンのセリンとの置換、または、あるアミノ酸を構造的に関連するアミノ酸と同様に置換することによって、得られた変異体ポリペプチドの特性に大きな影響は及ぶことはないと予想することは理にかなっている。アミノ酸の変更によって、機能的なトランケート型および/または変異体AARSポリペプチドが得られるか否かは、本明細書に記載されているように、その活性アッセイすることによって容易に割り出すことができる(例えば、実施例1、2、10、および11を参照されたい)。保存的置換基は表Bに、代表的な置換基という見出しで示されている。本発明の範囲内に入るアミノ酸置換は一般に、(a)置換領域中のペプチド骨格の構造、(b)標的部位の分子の電荷もしくは疎水性、(c)側鎖の嵩、または、(d)生物学的機能の維持に及ぼすその影響の点で有意に異ならない置換基を選択することによって行う。置換基の導入後、その変異体の生物学的活性についてスクリーニングする。
あるいは、保存的置換を行うための類似のアミノ酸は、側鎖の同一性に基づいて3つのカテゴリーに分類することができる。Zubay,G.,Biochemistry,third edition,Wm.C.Brown Publishers(1993)に記載されているように、第1のグループには、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、リシン、ヒスチジン(いずれも荷電側鎖を有する)が含まれ、第2のグループには、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、グルタミン、アスパラギンが含まれ、第3のグループには、ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニンが含まれる。
したがって、トランケート型および/または変異体AARSポリペプチド中の予想される非必須アミノ酸残基は典型的には、同じ側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基に置換する。あるいは、飽和突然変異誘発などによって、AARSコード配列の全部または一部に沿って、突然変異をランダムに導入することができ、得られた突然変異体の親ポリペプチドの活性についてスクリーニングして、親ポリペプチドの活性を保持する突然変異体を同定することができる。コード配列の突然変異誘発後、コードされたペプチドを組み換え発現させ、そのペプチドの活性を割り出すことができる。「非必須」アミノ酸残基は、その活性の1つ以上を消失または実質的に変更させることなく、実施形態のポリペプチドの基準の配列から変更することができる残基である。好適には、配列の変更は、これらの活性の1つを実質的に消失させないものである。例えば、活性は、基準のAARSポリペプチドの少なくとも20%、40%、60%、70%、80%、100%、500%、または1000%超である。「必須」アミノ酸残基は、基準のAARSポリペプチドから変更したときに、基準の活性の20%未満しか存在しないような形で、親分子の活性が消失する残基である。例えば、このような必須アミノ酸残基としては、様々な供給源由来のAARSポリペプチドの活性結合部位(単一もしくは複数)またはモチーフ(単一もしくは複数)中に保存されている配列を含め、様々な種にわたってAARSポリペプチド中に保存されている残基が挙げられる。
したがって、本発明は、天然のAARSポリペプチド配列またはその生物学的に活性な断片の変異体も意図しており、この変異体は、1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失、または置換によって、天然の配列と区別される。一般に変異体は、基準のAARSポリペプチド配列、例えば、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、および109〜115に示されているような配列と少なくとも約30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の類似性または配列同一性を示すことになる。さらに、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、110個、120個、130個、140個、または150個以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換によって、天然の配列または親配列と異なるが、親または基準のAARSポリペプチド配列の特性を保持する配列を意図している。特定の実施形態では、そのトランケートAARSポリペプチドが、インビボ、インビトロ、またはエキソビボのいずれかで炎症反応を調節できるならば(例えば、好中球および好酸球を含む顆粒球のような免疫細胞の移動を低減できるならば)、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、または109〜115のAARSポリペプチドを含め、いずれかのAARSポリペプチドのC末端またはN末端領域は、約1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、110個、120個、130個、140個、150個、160個、170個、180個、190個、200個、250個、300個、350個、400個、450個、500個、550個、600個、650個、もしくは700個以上のアミノ酸、または、約10〜50個、20〜50個、50〜100個、100〜150個、150〜200個、200〜250個、250〜300個、300〜350個、350〜400個、400〜450個、450〜500個、500〜550個、550〜600個、600〜650個、650〜700個、もしくは700個超(これらの間のすべての整数および範囲(例えば、101、102、103、104、105)を含む)のアミノ酸をトランケートしてよい。
いくつかの実施形態では、変異体ポリペプチドは基準のAARS配列と、1個以上、50個、40個、30個、20個、15個、10個、8個、6個、5個、4個、3個、または2個未満のアミノ酸残基が異なる。別の実施形態では、変異体ポリペプチドは、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、または109〜115の対応する配列と、1%以上、20%、15%、10%、または5%未満の残基が異なる(この比較にアラインメントが必要な場合、類似性が最大になるように配列をアラインメントする必要がある。欠失、挿入、またはミスマッチから「ループ」アウトした配列を差異と見なす)。この差異は好適には、非必須残基または保存的置換基での差異または変化である。
特定の実施形態では、変異体ポリペプチドは、例えば配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、または109〜115に示されているようなAARSポリペプチドの対応する配列と少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または98%以上の配列同一性または類似性を有するアミノ酸配列を含むとともに、好中球または好酸球の肺への移動または動員を低減することなどによって、被検体の肺の炎症を低減する能力を有する。
配列間の配列類似性または配列同一性(これらの用語は、本明細書では同義的に用いる)の計算は、以下のようにして行う。2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一率を割り出す目的で、最適に比較できるように、それらの配列をアラインメントする(例えば、最適にアラインメントできるように、第1および第2のアミノ酸または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができ、比較する目的で、非相同配列を無視することができる)。特定の実施形態では、比較目的でアラインメントする基準配列の長さは、基準配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、60%、さらに好ましくは少なくとも70%、80%、90%、100%である。続いて、対応するアミノ酸の位置またはヌクレオチドの位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列中の位置が、第2の配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められている場合、その位置において、分子は同一である。
2つの配列間の同一率は、それらの配列が共有する同一の位置の数の関数であり、その際、2つの配列を最適にアラインメントするために導入する必要があるギャップの数、および各ギャップの長さを考慮する。
2つの配列間の配列の比較および同一率の割り出しは、数学アルゴリズムを用いて行うことができる。好ましい実施形態では、2つのアミノ酸配列間の同一率は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunsch,(1970,J.Mol.Biol.48:444−453)のアルゴリズムを用いて割り出し、Blossum62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、ギャップウェイト16、14、12、10、8、6、または4、およびレングスウェイト1、2、3、4、5、または6を用いる。さらに別の好ましい実施形態では、2つのヌクレオチド配列間の同一率は、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムを用いて割り出し、NWSgapdna.CMPマトリックス、ギャップウェイト40、50、60、70、または80、およびレングスウェイト1、2、3、4、5、または6を用いる。特に好ましいパラメーターセット(別段の定めのない限り、使用すべきパラメーター)は、ギャップペナルティが12、ギャップ伸長ペナルティが4、フレームシフトギャップペナルティが5であるBlossum62スコアリングマトリックスである。
2つのアミノ酸またはヌクレオチド配列間の同一率は、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE.Meyers and W.Miller(1989,Cabios,4:11−17)のアルゴリズムを用いて割り出すことができ、その際には、PAM120のウェイト残基テーブル、ギャップレングスペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いる。
本明細書に記載されている核酸配列およびタンパク質配列は、「クエリー配列」として用いて公開データベースを検索して、例えば、他のファミリーメンバーまたは関連配列を同定することができる。このような検索は、Altschul et al.,(1990,J.Mol.Biol,215:403−10)のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)を用いて行うことができる。NBLASTプログラム、スコア=100、ワードレングス=12を用いて、BLASTのヌクレオチド検索を行って、本発明の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を得ることができる。XBLASTプログラム、スコア=50、ワードレングス=3を用いて、BLASTのタンパク質検索を行って、本発明のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較目的でギャップ付きのアラインメントを得るためには、Altschul et al.,(1997,Necreic Acids Res,25:3389−3402)に記載されているように、Gapped BLASTを用いることができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを用いるときには、各プログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる。
AARSポリペプチドの変異体は、AARSポリペプチドの突然変異体のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。AARSタンパク質コード配列のライブラリーまたは断片、例えば、N末端、C末端、または内部断片を用いて、AARSポリペプチドの変異体をスクリーニングして、その後に選択するための多彩な断片集団を生成することができる。
点突然変異およびトランケートによって作製したコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングする方法、ならびに、所定の特性を有する遺伝子産物のcDNAライブラリーをスクリーニングする方法は、当該技術分野において既知である。このような方法は、AARSポリペプチドのコンビナトリアル突然変異誘発によって生成された遺伝子ライブラリーの迅速なスクリーニングに適用可能である。
AARSポリペプチドのタンパク質分解断片も含まれる。特定の実例的な実施形態では、AARSポリペプチドのタンパク質分解断片は、当該技術分野において既知および利用可能である技法に従って、様々なタンパク質分解酵素またはタンパク質分解化学物質を用いて作製してよい。タンパク質分解断片は、管理された条件下で、(本明細書に記載されているように、および、当該技術分野において既知のように)AARSポリペプチドを1種以上のプロテアーゼとともにインキュベートし、それによって作製された断片を単離および特徴付けするなどによって、インビトロで作製することができる。タンパク質分解断片は、所定の細胞(例えば細菌細胞、真核細胞)内でAARSポリペプチドを組み換え発現させ、それによって作製された内因性断片を単離および特徴付けするなどによって、インビボで、すなわち内因的に作製することもできる(例えば実施例10を参照されたい)。
プロテアーゼは通常、(i)触媒される反応、(ii)触媒部位の化学的性質、および(iii)その構造によって明らかになるような進化的関係という3つの主な基準に従って分類される。触媒のメカニズムによって分類した場合のプロテアーゼまたはプロテイナーゼの一般的な例としては、アスパラギン酸プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、および金属プロテアーゼが挙げられる。
大半のアスパラギン酸プロテアーゼはペプシンファミリーに属する。このファミリーには、ペプシンおよびキモシンのような消化酵素に加えて、リソソームカテプシンD、およびレニンのようなプロセシング酵素と、特定の真菌プロテアーゼ(例えばペニシロペプシン、リゾプスペプシン、エンドチアペプシン)が含まれる。アスパラギン酸プロテアーゼの第2のファミリーには、AIDSウイスル(HIV)由来のプロテアーゼ(レトロペプシンとも呼ばれる)のようなウイルスプロテイナーゼが含まれる。
セリンプロテアーゼには、2つの別個のファミリーがある。1つ目は、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼ、およびカリクレインのような哺乳類酵素を含むキモトリプシンファミリーであり、2つ目は、スブチリシンのような細菌酵素を含むスブチリシンファミリーである。これらの2つのファミリーの一般的な三次元構造は異なるが、これらの2つのファミリーは、同じ活性部位幾何学形状と、同じメカニズムによる触媒進行を有する。セリンプロテアーゼは、異なる基質特異性を示し、その相違は主に、様々な酵素サブ部位(基質残基と相互作用する部位)内のアミノ酸置換基に関連する。セリンプロテアーゼには、基質と広範に相互作用する部位を有するものもあれば、基質のP1残基に限られる特異性を有するものもある。
システインプロテアーゼファミリーには、パパイン、アクチニジン、およびブロメラインのような植物プロテアーゼ、いくつかの哺乳類リソソームカテプシン、細胞質ゾルのカルパイン(カルシウム依存性)に加えて、いくつかの寄生虫(例えば、トリパノソーマ、住血吸虫)プロテアーゼが含まれる。パパインが原型であり、パパインは、このファミリーのうち最も研究されているメンバーである。インターロイキン1β変換酵素のX線構造が最近解明されたことにより、システインプロテイナーゼの新たなフォールドタイプが明らかになった。
メタロプロテイナーゼは、細菌、真菌、および高等生物に見られる原始的なクラスのプロテアーゼの1つである。メタロプロテイナーゼの配列および3D構造は非常に様々であるが、酵素の大半は、触媒活性のある亜鉛原子を含む。場合によっては、タンパク質分解活性が喪失することなく、亜鉛が、コバルトまたはニッケルのような別の金属によって置換されている場合もある。細菌サーモリシンの特徴はかなり明らかになっており、その結晶構造によって、亜鉛に2つのヒスチジンと1つのグルタミン酸が結合することが示されている。多くのメタロプロテアーゼは、配列モチーフHEXXHを含み、このモチーフは、亜鉛に2つのヒスチジンリガンドを結合させる。第3のリガンドは、グルタミン酸(サーモリシン、ネプリライシン、アラニルアミノペプチダーゼ)、またはヒスチジン(アスタシン、セラリシン)のうちのいずれかである。
例示的なプロテアーゼとしては例えば、アクロモペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、アンクロド、アンギオテンシン変換酵素、ブロメライン、カルパイン、カルパインI、カルパインII、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼG、カルボキシペプチダーゼP、カルボキシペプチダーゼW、カルボキシペプチダーゼY、カスパーゼ1、カスパーゼ2、カスパーゼ3、カスパーゼ4、カスパーゼ5、カスパーゼ6、カスパーゼ7、カスパーゼ8、カスパーゼ9、カスパーゼ10、カスパーゼ11、カスパーゼ12、カスパーゼ13、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンG、カテプシンH、カテプシンL、キモパパイン、チマーゼ、キモトリプシン、クロストリパイン、コラゲナーゼ、補体C1r、補体C1s、補体因子D、補体因子I、ククミシン、ジペプチジルペプチダーゼIV、エラスターゼ(白血球)、エラスターゼ(膵臓)、エンドプロテイナーゼArg−C、エンドプロテイナーゼAsp−N、エンドプロテイナーゼGlu−C、エンドプロテイナーゼLys−C、エンテロキナーゼ、因子Xa、フィシン、フューリン、グランザイムA、グランザイムB、HIVプロテアーゼ、Iガーゼ、カリクレイン組織、ロイシンアミノペプチダーゼ(一般)、ロイシンアミノペプチダーゼ(細胞質ゾル)、ロイシンアミノペプチダーゼ(ミクロソーム)、マトリックスメタロプロテアーゼ、メチオニンアミノペプチダーゼ、ニュートラーゼ、パパイン、ペプシン、プラスミン、プロリダーゼ、プロナーゼE、前立腺特異抗原、ストレプトマイセス・グリセウス由来の好アルカリ性プロテアーゼ、アスペルギルス由来のプロテアーゼ、アスペルギルス・サイトイ由来のプロテアーゼ、アスペルギルス・ソーヤ由来のプロテアーゼ、プロテアーゼ(B.リケニフォルミス由来)(アルカリ性、すなわちアルカラーゼ)、バチルス・ポリミキサ由来のプロテアーゼ、バチルス属由来のプロテアーゼ、クモノスカビ属由来のプロテアーゼ、プロテアーゼS、プロテアソーム、アスペルギルス・オリザエ由来のプロテアーゼ、プロテイナーゼ3、プロテイナーゼA、プロテイナーゼK、プロテインC、ピログルタミン酸アミノペプチダーゼ、レニン、レニン、ストレプトキナーゼ、サブチリシン、サーモリシン、トロンビン、組織プラスミノゲン活性化因子、トリプシン、トリプターゼ、およびウロキナーゼが挙げられる。
表C〜Gは、AARSポリペプチドを様々なプロテアーゼとともにインキュベートすることによって、インビトロで作製できるタンパク質分解断片のタイプを示している。特定の実施形態では、示されているプロテアーゼが特定の切断部位のみを切断して、部分的な切断のみを行うように、インキュベート条件を管理することができ、その後、当該技術分野において既知の技法(例えばクロマトグラフィー)に従って、所望のタンパク質分解断片を単離する。当該技術分野における常法に従って、所望の断片の単離および特徴付け(例えばシークエンシング)を行ったら、所望に応じて、クローニング、および、組み換えによる産生または合成による産生を行うことができる。
したがって、プロテアーゼのいずれかの組み合わせ(例えばカスパーゼ1とヒドロキシルアミン)、または、個々の切断部位のいずれかの組み合わせを含め、本明細書のいずれかに列挙されているプロテアーゼに加えて、表C〜Gに示されている代表的なプロテアーゼによって作製できるいずれのタンパク質分解断片も、本発明のAARSポリペプチドに含まれる。また、切断部位の残基の位置はおおよそであってよい。単なる実例として、AARSタンパク質分解断片としては、ヨードソ安息香酸(表Cを参照)とのインキュベートによって切断または部分的に切断された、GlyRSの約1〜165番の残基、約166〜445番の残基、約166〜455番の残基、約166〜716番の残基、約445〜716番の残基、または約455〜716番の残基を挙げてよい。追加の実例として、AARSタンパク質分解断片としては、プロリンエンドペプチダーゼ(表Dを参照)によって切断または部分的に切断された、QRSの約1〜98番の残基、約1〜135番の残基、約98〜135番の残基、約1〜234番の残基、約98〜234番の残基、約1〜379番の残基、約234〜674番の残基、または約135〜737番の残基を挙げてよい。さらなる例示的な例として、AARSポリペプチドとしては、ヒドロキシルアミンによって切断または部分的に切断された、QRSの約1〜210番の残基、約1〜273番の残基、約1〜295番の残基、約210〜273番の残基、約210〜295番の残基、約273〜295番の残基を挙げてよい。本発明のAARSポリペプチドのいずれか、および表C〜Gのプロテアーゼのいずれか、または、本明細書に列挙されているか、もしくは当該技術分野において既知である他のプロテアーゼに、同様のパターンを適用することができる。
特定の実施形態は、内因性の天然AARSポリペプチド断片に由来するアミノ酸配列を含むか、これらから本質的になるか、またはこれらからなる単離AARSポリペプチドと、前記断片を含む医薬組成物と、それらの使用法に関する。特定の実施形態では、上記のとおり、天然の内因性タンパク質分解断片の配列は、例えば、様々な細胞画分(例えば、細胞質画分、膜画分、核画分)、ならびに/または、初代細胞および初代細胞株を含む様々な細胞型由来の馴化培地から生成または同定することができる。このような細胞型の例としては、単級、樹状細胞、マクロファージ(例えば、RAW264.7マクロファージ。実施例5参照)、好中球、好酸球、好塩基球、ならびに、リンパ球(JurkatT細胞のような初代T細胞および初代T細胞株を含むB細胞およびT細胞(例えば、CD4+ヘルパー細胞、およびCD8+キラー細胞)、ならびに、ナチュラルキラー細胞など)のような免疫細胞が挙げられるが、これらに限らない。
特定の実施形態では、内因性タンパク質分解断片は、質量分析法のような技法、または同等の技法によって同定することができる。単なる実例として、かつ限定することなく、特定の実施形態では、1D SDS−PAGEによって、様々な細胞型またはその画分由来のプロテオームを分離し、そのゲルレーンを一定の間隔でバンドに切り出してよく、その後、そのバンドは任意により、トリプシンのような適切なプロテアーゼで消化して、ペプチドを放出させてよく、続いて、1D逆相LC−MS/MSによって解析してよい。得られたプロテオミクスデータを統合して、いわゆるペプトグラフにしてよい。このペプトグラフは左のパネルで、垂直方向におけるSDS−PAGEの泳動結果(上が高分子量、下が低分子量)に対して、水平方向における所定のタンパク質の配列包括度(左がN末端、右がC末端方向)をプロットしたものである。続いて、特定のペプチド断片をシークエンシングまたはマッピングすることができる。表Hは、これらの代表的な技法に従ってRAWマクロファージから同定した例示的なマウスQRSポリペプチド断片一式を示している。表Iは、ヒトQRSポリペプチド断片の対応する一式を示している。表Jは、ヒトJurkat T細胞から同定した例示的なヒトQRSポリペプチド断片一式を示している。
したがって、特定の具体的な実施形態には、配列番号36〜103、または109〜115(上記の表H、I、およびJに示されている)のうちのいずれか1つ以上を含むか、これらから本質的になるか、またはこれらからなる単離QRSポリペプチドであって、肺の炎症を低減するなどによって炎症を調節する単離QRSポリペプチド(その変異体も含む)が含まれる。特定の実施形態では、これらの単離QRSポリペプチド断片は、完全長QRSポリペプチド中の位置によって特徴付けた場合、その断片を取り囲むC末端残基および/またはN末端残基のうちの1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個以上をさらに含んでよい。特定の実施形態では、これらの単離QRSポリペプチド断片は、そのC末端残基および/またはN末端残基のうちの1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、または20個未満を含むようにトランケートされていてよい。このようなQRSポリペプチド断片を含む医薬組成物と、前記ポリペプチドまたは組成物を用いて、治療を必要とする被検体を治療する方法も含まれる。
本発明は、炎症を調節する目的で、AARSキメラタンパク質または融合タンパク質を用いることも意図している。本明細書で使用する場合、AARS「キメラタンパク質」または「融合タンパク質」には、別のAARSポリペプチド(例えば、複数の断片を作製するのが目的)、非AARSポリペプチドのいずれか、またはこれらの両方に結合したAARSポリペプチドまたはポリペプチド断片が含まれる。「非AARSポリペプチド」とは、ARRSタンパク質と異なるとともに、同じ生物または異なる生物に由来するタンパク質に対応するアミノ酸配列を有する「異種ポリペプチド」を指す。融合タンパク質のAARSポリペプチドは、生物学的に活性なAARSアミノ酸配列の全部または一部に対応することができる。特定の実施形態では、AARS融合タンパク質には、AARSタンパク質の生物学的に活性な部分が少なくとも1つ(または2つ)含まれる。融合タンパク質を形成するポリペプチドは、C末端をC末端に、N末端をN末端に、またはN末端をC末端に連結することもできるが、典型的にはC末端をN末端に連結させる。融合タンパク質のポリペプチドは、いずれの順序であることもできる。
本質的にいずれかの所望の目的のために、融合パートナーを設計し、含めてよい。ただし、融合パートナーが、ポリペプチドの炎症調節活性に悪影響を及ぼさないことを条件とする。例えば、1つの実施形態では、融合パートナーは、元の組み換えタンパク質よりも高い収量でタンパク質を発現させるのを補助する配列(発現エンハンサー)を含んでよい。タンパク質の溶解性を向上させるように、または、タンパク質を所望の細胞内区画にターゲティングさせることができるように、他の融合パートナーを選択してもよい。
融合タンパク質は、リガンドに対する親和性が高い部分を含むことができる。例えば、融合タンパク質は、AARS配列がGST配列のC末端に融合されているGST−AARS融合タンパク質であることができる。別の例として、AARSポリペプチドは、そのC末端で、L−E−H−H−H−H−H−H(配列番号5)というタグのような8個のアミノ酸のタグに融合してよい。特定の具体的な実施形態では、YRSポリペプチドの1〜364番のアミノ酸が、そのC末端で、365−L−E−H−H−H−H−H−H−372(配列番号5)のタグに融合されている。このような融合タンパク質は、AARSポリペプチドの精製および/または同定を容易にすることができる。あるいは、融合タンパク質は、そのN末端に異種シグナル配列を含むAARSタンパク質であることができる。特定の宿主細胞では、異種シグナル配列を用いることを通じて、AARSタンパク質の発現および/または分泌を増大させることができる。
より一般的には、Fc断片のような異種配列への融合を用いて、AARSポリペプチドの望ましくない特徴を除去したり、または、所望の特徴(例えば、薬物動態学的特性)を向上させたりしてよい。例えば、異種配列への融合によって、AARSポリペプチドの化学的安定性を増大させたり、免疫原性を減少させたり、インビボでのターゲティングを向上させたり、および/または、循環血液中での半減期を延長させたりしてよい。
また、異種配列への融合を用いて、AARSポリペプチドによって肺の炎症を低減できるのみならず、異種ポリペプチドによって他の経路を改変(すなわち、刺激または阻害)することもできる二官能性タンパク質のような二官能性融合タンパク質を作製してもよい。このような経路の例としては、自然免疫もしくは適応免疫活性化経路のような様々な免疫系関連経路、または、血管新生もしくは造血のような細胞成長調節経路が挙げられるが、これらに限らない。特定の態様では、異種ポリペプチドは、AARSポリペプチドと相乗的に作用して、被検体の炎症関連経路を調節できる。二官能性融合タンパク質を作製するのに用いてよい異種ポリペプチドの例としては、トロンボポエチン、サイトカイン(例えばIL−11)、ケモカイン、および様々な造血成長因子、ならびに、これらの生物学的に活性な断片および/または変異体が挙げられるが、これらに限らない。
融合タンパク質は一般に、標準的な技法を用いて調製してよい。例えば、所望の融合体のポリペプチド成分をコードするDNA配列を別々にアセンブルし、適切な発現ベクターにライゲーションしてよい。ペプチドリンカーを用いて、または用いないで、1つのポリペプチド成分をコードするDNA配列の3’末端を、第2のポリペプチド成分をコードするDNA配列の5’末端にライゲーションして、それらの配列のリーディングフレームが同相にくるようにする。これによって、両方の成分ポリペプチドの生物学的活性を保持する単一の融合タンパク質に翻訳されるようになる。
ペプチドリンカー配列を用いて、各ポリペプチドが所望に応じて、その二次構造および三次構造に折り畳まれるようにするのに十分な距離で、第1および第2のポリペプチド成分を分離してよい。このようなペプチドリンカー配列は、当該技術分野において周知の標準的な技法を用いて融合タンパク質に組み込む。特定のペプチドリンカー配列は、(1)フレキシブルな拡張コンフォメーションをとり得る、(2)第1および第2のポリペプチド上の機能エピトープと相互作用できる二次構造をとれない、ならびに、(3)ポリペプチド機能エピトープと反応し得る疎水性残基または荷電残基がないという要因に基づいて選択してよい。好ましいペプチドリンカー配列は、Gly、Asn、およびSer残基を含む。ThrおよびAlaのような他の中性付近のアミノ酸も、リンカー配列中で用いてもよい。リンカーとして有用に用いてよいアミノ酸配列としては、Maratea et al.,Gene 40:39 46(1985)、Murphy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:8258 8262(1986)、米国特許第4,935,233号、および米国特許第4,751,180号に開示されているものが挙げられる。リンカー配列は一般に、1〜約50個のアミノ酸の長さであってよい。機能ドメインを分離して、立体的干渉を防止するのに用いることができる非必須N末端アミノ酸領域を第1および第2のポリペプチドが有する場合には、リンカー配列は不要である。
ライゲーションしたDNA配列は、好適な転写要素または翻訳調節要素に機能可能に結合させてよい。DNAの発現を担う調節要素は典型的には、第1のポリペプチドをコードするDNA配列の5’側に位置する。同様に、翻訳および転写終結シグナルを終結させるのに必要な終止コドンは、第2のポリペプチドをコードするDNA配列の3’側に存在する。
一般に、ポリペプチドおよび融合ポリペプチド(ならびにそれらをコードするポリヌクレオチド)は、単離する。「単離」ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、その元の環境から取り外したものである。例えば、天然のタンパク質が、天然の系において共存する物質の一部または全部から分離されている場合、その天然のタンパク質は単離されている。好ましくは、このようなポリペプチドの純度は、少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、最も好ましくは少なくとも約99%である。例えば、自然環境の一部ではないベクターにポリヌクレオチドがクローニングされている場合、そのポリヌクレオチドは単離されているとみなす。
また、特定の実施形態には、AARSポリペプチドの二量体も包まれる。二量体としては例えば、2つの同一のAARSポリペプチドによるホモ二量体、2つの異なるAARSポリペプチド(例えば、完全長YRSポリペプチドとトランケートYRSポリペプチド、トランケートYRSポリペプチドとトランケートWRSポリペプチド)によるヘテロ二量体、および/または、AARSポリペプチドと異種ポリペプチドによるヘテロ二量体を挙げてよい。本明細書に記載されているように、AARSポリペプチドと異種ポリペプチドによるヘテロ二量体のような特定のヘテロ二量体は、二官能性であってよい。また、1つ以上の置換、トランケート、欠失、付加、化学修飾、またはこれらの変更の組み合わせが原因であるかを問わず、第2のAARSポリペプチドと実質的に二量体にならない単離AARSポリペプチドの単量体も含め、AARSポリペプチドの単量体も含まれる。特定の実施形態では、単量体のAARSポリペプチドは、炎症反応調節活性を含む生物学的活性を有し、二量体または多量体のAARSポリペプチド複合体は、これらの活性を有さない。
本発明の特定の実施形態は、本明細書に記載されているように、AARSポリペプチドの所望の特徴を向上させる修飾を含め、修飾したAARSポリペプチドの利用も意図している。発明のAARSポリペプチドの修飾としては、1つ以上の構成アミノ酸の化学的および/または酵素的誘導体化が挙げられ、これには、側鎖修飾、骨格修飾、N末端修飾、およびC末端修飾(アセチル化、ヒドロキシル化、メチル化、アミド化、炭水化物または脂質部分および捕因子の結合を含む)などが含まれる。例示的修飾としては、AARSポリペプチドのペグ化も挙げられる(例えば、Veronese and Harris,Advanced Drug Delivery Reviews 54:453−456,2002(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
特定の態様では、化学選択的ライゲーション技術を用いて、部位特異的な形および制御した形でポリマーを結合させるなどによって、本発明のトランケートAARSポリペプチドを修飾してよい。このような技術は典型的には、化学的手段または組み換え手段のいずれかによってタンパク質骨格に化学選択的アンカーを組み込み、その後、相補的リンカーを保有するポリマーで修飾することに依存する。その結果、アセンブリプロセスと、得られたタンパク質−ポリマーコンジュゲートの共有結合構造を制御することができ、それによって、効能および薬物動態学的特性のような薬物特性を合理的に最適化可能になる(例えば、Kochendoerfer,Current Opinion in Chemical Biology 9:555−560,2005を参照されたい)。
本発明のトランケート型および/または変異体AARSポリペプチドは、当業者に既知のいずれかの好適な手順(組み換え技法など)によって調製してよい。例えば、AARSポリペプチドは、(a)トランケートAARSポリペプチドをコードするとともに、調節要素に機能可能に結合されているポリヌクレオチド配列を含むコンストラクトを調節する工程と、(b)このコンストラクトを宿主細胞に導入する工程と、(c)この宿主細胞を培養して、トランケートAARSポリペプチドを発現させる工程と、(d)宿主細胞から、トランケート型および/または変異体AARSポリペプチドを単離する工程とを含む手順によって調製してよい。実例的な例では、ヌクレオチド配列は、配列番号1、2、3、6、8、10、12、または14に示されているか、もしくはそれに由来するポリペプチド配列の少なくとも1つの生物学的に活性な部分、または、その生物学的に活性な変異体もしくは断片をコードする。組み換えAARSポリペプチドは好都合なことに、例えばSambrook et al.,(1989、前出)(具体的には16項および17項)、Ausubel et al.,(1994、前出)(具体的には10章および16章)、ならびに、Coligan et al.,Current Protocols in Protein Science(John Wiley&Sons,Inc.1995−1997)(具体的には1章、5章、および6章)に記載されているような標準的なプロトコールを用いて調製することができる。
組み換えによる製法に加えて、本発明のポリペプチドおよびその断片は、固相法を用いる直接的なペプチド合成法(Merrifield,J.Am.Chem.Soc.85:2149−2154(1963))によって作製してよい。タンパク質合成は、手動法または自動法を用いて行ってよい。自動合成は、例えばApplied Biosystems 431Aというペプチド合成装置(Perkin Elmer)を用いて行ってよい。あるいは、様々な断片は、個別に化学合成し、化学的方法を用いて組み合わせて、所望の分子を作製してよい。
ポリヌクレオチド組成物
本発明は、本発明のアミノアシルtRNAシンテターゼポリペプチド(そのトランケート体および/または変異体を含む)をコードする単離ポリヌクレオチドと、このようなポリヌクレオチドを含む組成物も提供する。
本明細書で使用する場合、「DNA」、「ポリヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、特定の種の全ゲノムDNAから単離されたDNA分子を指す。したがって、ポリペプチドをコードするDNAセグメントは、1つ以上のコード配列を含むが、そのDNAセグメントが得られる種の全ゲノムDNAから実質的に単離または精製されるDNAセグメントを指す。「DNAセグメント」および「ポリヌクレオチド」という用語には、DNAセグメントと、DNAセグメントよりも小さい断片が含まれ、組み換えベクター(例えば、プラスミド、コスミド、ファージミド、ファージ、ウイルスなどを含む)も含まれる。
当業者であれば分かるように、本発明のポリヌクレオチド配列としては、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドなどを発現させるか、または、発現させるように適合できるゲノム配列、ゲノム外配列、およびプラスミドコード配列、ならびに、遺伝子工学により作られた、より小さい遺伝子セグメントを挙げることができる。このようなセグメントは、自然に単離させても、人の手によって合成的に改変してもよい。
当業者であれば分かるように、ポリヌクレオチドは、一本鎖分子(コードまたはアンチセンス分子)であっても、二本鎖分子であっても、DNA(ゲノムDNA、cDNA、または合成DNA)分子またはRNA分子であってもよい。さらなるコード配列または非コード配列が本発明のポリヌクレオチド内に存在していてもよく(必ずしも必要ではない)、ポリヌクレオチドは、他の分子および/または支持材料に結合していてもよい(必ずしも必要ではない)。
ポリヌクレオチドは、天然配列(すなわち、アミノアシルtRNAシンテターゼまたはその一部をコードする内因性配列)を含んでも、天然配列の変異体または生物学的に機能的な同等物を含んでもよい。ポリヌクレオチド変異体は、後でさらに説明するように、好ましくは、コードされたポリペプチドの炎症反応調節活性が、未修飾ポリペプチドよりも実質的に低下しないように、1つ以上の置換、付加、欠失、および/または挿入を含んでよい。コードされたポリペプチドの炎症反応調節活性に対する影響は一般に、本明細書に記載されているように評価してよい。
さらなる実施形態では、本発明は、アミノアシルtRNAシンテターゼと同一であるか、または相補的である配列の様々な長さの連続するストレッチを含む単離ポリヌクレオチドであって、本明細書に記載されているようなトランケート型アミノアシルtRNAシンテターゼをコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。
本出願のAARSポリペプチドをコードする代表的なヌクレオチド配列には、配列番号4、7、9、11、13、15、17、19、および31のポリヌクレオチド配列のようなコード配列と、AARS遺伝子の完全長または実質的に完全長のヌクレオチド配列の一部、または、その転写物もしくはそれらの転写物のDNAコピーが含まれる。
AARSヌクレオチド配列の一部は、配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、および109〜115のポリペプチド、または、これらの配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、または98%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含め、基準のポリペプチドの生物学的活性を保持するポリペプチドの一部またはセグメントをコードしてよい。AARSポリペプチドの生物学的に活性な断片をコードするAARSヌクレオチド配列の一部は、少なくとも約20個、21個、22個、23個、24個、25個、30個、40個、50個、60個、70個、80個、90個、100個、120個、150個、300個、または400個の連続するアミノ酸残基、または完全長AARSポリペプチドに存在するほぼすべての数のアミノ酸までをコードしてよい。本文脈および本明細書で用いられるすべての他の文脈において、「間の長さ」が、示した値の間のいずれかの長さ(101個、102個、103個など、151個、152個、153個など、201個、202個、203個など)を意味することは容易に分かるであろう。
本発明のポリヌクレオチドは、それ自体のコード配列の長さにかかわらず、他のDNA配列(プロモーター、ポリアデニル化シグナル、追加の制限酵素部位、多重クローニング部位、他のコードセグメントなど)と組み合わせて、その全長が大幅に変わるようにしてよい。したがって、ほとんどすべての長さのポリヌクレオチド断片を用いてよいことが意図されており、その全長は、意図する組み換えDNAプロコールでの調製のしやすさおよび使いやすさによって限定されるのが好ましい。
本発明は、AARSヌクレオチド配列の変異体も意図している。核酸変異体は、対立遺伝子変異体(同じ遺伝子座)、ホモログ(異なる遺伝子座)、およびオルソログ(異なる生物)のような天然のものであることも、非天然のものであることもできる。上記のような天然の変異体は、周知の分子生物学技法、例えば、当該技術分野において既知のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、およびハイブリダイゼーション技法を用いて同定することができる。非天然の変異体は、ポリヌクレオチド、細胞、または生物に適用される突然変異誘発技法を含む突然変異誘発技法によって作製することができる。この変異体は、ヌクレオチドの置換、欠失、逆位、および挿入を含むことができる。コード領域と非コード領域のいずれかまたは両方で変異させることができる。変異は、保存的アミノ酸置換基と非保存的アミノ酸置換基の両方をもたらすことができる(コードされた産物と比較した場合)。ヌクレオチド配列に関しては、保存的変異体には、遺伝暗号の縮重のために、基準のAARSポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号1、2、3、6、8、10、12、14、16、25、28、30、32〜108、または109〜115に示されている配列など)をコードする配列が含まれる。変異体ヌクレオチド配列には、合成的に誘導したヌクレオチド配列、例えば、部位特異的変異誘発を用いることによって生成された配列であるが、依然としてAARSポリペプチドをコードする配列なども含まれる。一般に、特定のAARSヌクレオチド配列の変異体は、デフォルトパラメーターを用いて本明細書の他の部分に記載されている配列アラインメントプログラムによって割り出した場合、特定のヌクレオチド配列と少なくとも約30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、一般には少なくとも約75%、80%、85%、望ましくは約90%〜95%以上、より好適には約98%以上の配列同一性を有することになる。
AARSヌクレオチド配列を用いて、他の生物、特に他の生物または微生物由来の対応する配列および対立遺伝子を単離することができる。当該技術分野においては、核酸配列のハイブリダイゼーションに関する方法を容易に利用可能である。周知の技法に従って、本明細書に示されているコード配列との配列同一性に基づき、他の生物由来のコード配列を単離してよい。これらの技法では、所定の生物由来のクローニングされたゲノムDNAフラグメントまたはcDNAフラグメントの集団(すなわち、ゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリー)に存在する他のAARSコード配列と選択的にハイブリダイズするプローブとして、既知のコード配列の全部または一部を使用する。
したがって、本発明は、下記のストリンジェントな条件下で、基準のAARSヌクレオチド配列またはその補体とハイブリダイズするポリヌクレオチドも意図している。本明細書で使用する場合、「低いストリンジェントな条件、中度のストリンジェントな条件、高いストリンジェントな条件、または非常に高いストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を説明するものである。ハイブリダイゼーション反応を行う手引きは、Ausubel et al.,(1998,前出),Sections 6.3.1−6.3.6に見ることができる。水性および非水性の方法はこの参照文献に記載されており、いずれかを用いることができる。本発明における低いストリンジェントな条件の基準としては、少なくとも約1% v/v〜少なくとも約15% v/vのホルムアミドと、少なくとも約1M〜少なくとも約2Mの塩で42℃にてハイブリダイズし、少なくとも約1M〜少なくとも約2Mの塩で42℃にて洗浄する条件が挙げられ、この条件が含まれる。低いストリンジェントな条件としては、1%ウシ血清アルブミン(BSA)、1mM EDTA、0.5M NaHPO4(pH7.2)、7%SDSで65℃にてハイブリダイズし、(i)2×SSC、0.1%SDS、または(ii)0.5%BSA、1mM EDTA、40mM NaHPO4(pH7.2)、5%SDSで室温にて洗浄する条件を挙げてよい。低いストリンジェントな条件の1つの実施形態としては、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)で約45℃にてハイブリダイズし、その後、0.2×SSC、0.1%SDSで少なくとも50℃にて2回洗浄する条件が挙げられる(低いストリンジェントな条件では、洗浄温度は55℃まで上昇させることができる)。中度のストリンジェントな条件としては、少なくとも約16% v/v〜少なくとも約30% v/vのホルムアミドと、少なくとも約0.5M〜少なくとも約0.9Mの塩で42℃にてハイブリダイズし、少なくとも約0.1M〜少なくとも約0.2Mの塩で55℃にて洗浄する条件が挙げられ、この条件が含まれる。中度のストリンジェントな条件としては、1%ウシ血清アルブミン(BSA)、1mM EDTA、0.5M NaHPO4(pH7.2)、7%SDSで65℃にてハイブリダイズし、(i)2×SSC、0.1%SDS、または(ii)0.5%BSA、1mM EDTA、40mM NaHPO4(pH7.2)、5%SDSで60〜65℃にて洗浄する条件も挙げてよい。中度のストリンジェントな条件の1つの実施形態としては、6×SSCで約45℃にてハイブリダイズし、その後、0.2×SSC、0.1%SDSで60℃にて1回以上洗浄する条件が挙げられる。高いストリンジェントな条件としては、少なくとも約31% v/v〜少なくとも約50% v/vのホルムアミドと、約0.01M〜約0.15Mの塩で42℃にてハイブリダイズし、約0.01M〜約0.02Mの塩で55℃にて洗浄する条件が挙げられ、この条件が含まれる。高いストリンジェントな条件としては、1%BSA、1mM EDTA、0.5M NaHPO4(pH7.2)、7%SDSで65℃にてハイブリダイズし、(i)0.2×SSC、0.1%SDS、または(ii)0.5%BSA、1mM EDTA、40mM NaHPO4(pH7.2)、1%SDSで、65℃を超える温度にて洗浄する条件も挙げてよい。高いストリンジェントな条件の1つの実施形態としては、6×SSCで約45℃にてハイブリダイズし、その後、0.2×SSC、0.1%SDSで65℃にて1回以上洗浄する条件が挙げられる。
特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、非常に高いストリンジェントな条件下で、開示されているヌクレオチド配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされる。非常に高いストリンジェントな条件の1つの実施形態としては、0.5Mリン酸ナトリウム、7%SDSで65℃にてハイブリダイズし、その後、0.2×SSC、1%SDSで65℃にて1回以上洗浄する条件が挙げられる。
他のストリンジェントな条件は当該技術分野において周知であり、当業者であれば、様々な要因を操作してハイブリダイゼーションの特異性を最適化できることを認識するであろう。最終洗浄のストリンジェンシーの最適化は、高度なハイブリダイゼーションを確実にする役割を果たすことができる。詳細な例については、Ausubel et al.,前出の2.10.1〜2.10.16頁およびSambrook et al.,(1989、前出)の1.101項〜第1.104項を参照されたい。
ストリンジェントな洗浄は典型的には約42℃〜68℃の温度で行うが、当業者であれば、他の温度がストリンジェントな条件に適する場合もあることが分かるであろう。最大のハイブリッド速度は典型的には、DNA−DNAハイブリッドを形成する際のTmよりも約20℃〜25℃低い温度で得られる。Tmは融点、すなわち、2つの相補的ポリヌクレオチド配列が解離する温度であることは当該技術分野において周知である。Tmを推定する方法は当該技術分野において周知である(Ausubel et al.,前出の2.10.8頁を参照されたい)。
一般に、DNAの完全にマッチした二本鎖のTmは、Tm=81.5+16.6(log10M)+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−(600/長さ)(式中、MはNa+の濃度であり(好ましくは0.01モル〜0.4モルの範囲)、%G+Cは、総塩基数の比率としてのグアノシン塩基とシトシン塩基との和であり(30%G+Cと75%G+Cとの間の範囲内)、%ホルムアミドは、ホルムアミドの体積%濃度であり、長さは、DNA二本鎖中の塩基対の数である)という式による近似値として予測してよい。二本鎖DNAのTmは、ランダムにミスマッチした塩基対数が1%増加するごとに約1℃低下する。洗浄は一般に、高いストリンジェンシーではTm−15℃で、または、中度のストリンジェンシーではTm−30℃で行う。
ハイブリダイゼーション手順の一例では、固定化DNAを含む膜(例えば、ニトロセルロース膜またはナイロン膜)を42℃で、標識プローブを含むハイブリダイゼーション緩衝液(50%脱イオンホルムアミド、5×SSC、5×デンハート液(0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、および0.1%ウシ血清アルブミン)、0.1%SDS、ならびに200mg/mL変性サケ精子DNA)中にてオーバーナイトでハイブリダイズする。続いて、この膜に対して、2回連続して中度のストリンジェントな洗浄(すなわち、2×SSC、0.1%SDSで45℃にて15分間洗浄してから、2×SSC、0.1%SDSで15分間、50℃にて洗浄する)を行い、その後、2回連続して、より高いストリンジェントな洗浄(すなわち、0.2×SSC、0.1%SDSで12分間、55℃にて洗浄してから、0.2×SSCおよび0.1%SDS溶液で12分間、65〜68℃にて洗浄する)を行う。
ポリヌクレオチドおよびその融合物は、当該技術分野において既知かつ利用可能な、十分に確立された様々な技法のいずれかを用いて調製、操作、および/または発現させてよい。例えば、本発明のポリペプチド、または、その融合タンパク質もしくは機能的等価物をコードするポリヌクレオチド配列を組み換えDNA分子中で用いて、適切な宿主細胞中で、トランケート型および/または変異体アミノアシルtRNAシンテターゼポリペプチドを発現させてよい。遺伝暗号の固有の縮重により、実質的に同一であるか、または機能的に等価であるアミノ酸配列をコードする他のDNA配列を作製してよく、これらの配列を用いて、所与のポリペプチドをクローニングおよび発現させてよい。
当業者であれば分かるように、場合によっては、非天然のコドンを有するポリペプチドコードヌクレオチド配列を作製するのが有益であり得る。例えば、特定の原核生物宿主または真核生物宿主に好ましいコドンは、タンパク質発現速度を向上させるように、または、所望の特性(天然の配列から生成された転写物よりも長い半減期など)を有する組み換えRNA転写物が産生されるように選択することができる。
さらに、様々な理由で、ポリペプチドコード配列を変更する目的で(遺伝子産物のクローニング、プロセシング、発現、および/または活性を改変する変更が挙げられるが、これらに限らない)、当該技術分野において一般的に知られている方法を用いて、本発明のポリヌクレオチド配列を工学技術によって作製することができる。
所望のポリペプチドを発現させる目的で、適切な発現ベクター、すなわち、挿入されるコード配列の転写および翻訳に必要な要素を含むベクターに、ポリペプチドまたは機能的等価物をコードするヌクレオチド配列を挿入してよい。当業者に周知の方法を用いて、目的のポリペプチドをコードする配列、ならびに、適切な転写および翻訳制御要素を含む発現ベクターを構築してよい。これらの方法としては、インビトロの組み換えDNA技法、合成技法、およびインビボの遺伝子組み換えが挙げられる。このような技法は、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(1989)、およびAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(1989)に記載されている。
様々な発現ベクター/宿主系が知られており、それらの発現ベクター/宿主系を用いて、ポリヌクレオチド配列を含有および発現させてよい。このようなものとしては、組み換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌のような微生物、酵母発現ベクターで形質転換した酵母、ウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系、ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、タバコモザイクウイルス(TMV))、もしくは細菌発現ベクター(例えば、TiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換した植物細胞系、あるいは動物細胞系が挙げられるが、これらに限らない。
発現ベクター内に存在する「制御要素」または「調節配列」は、宿主細胞タンパク質と相互作用して転写および翻訳を実行するベクターの非翻訳領域(エンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域)である。このような要素の強度と特異性は様々であってよい。用いるベクター系および宿主に応じて、好適な転写および翻訳要素(構成的プロモーターおよび誘導プロモーターを含む)をいずれの数用いてもよい。例えば、細菌系でクローニングする場合、ファージミドpBLUESCRIPT(カリフォルニア州ラホヤのStratagene)、またはプラスミドPSPORT1(メリーランド州ゲイサーズバーグのGibco BRL)のハイブリッドlacZプロモーターなどのような誘導プロモーターを用いてよい。哺乳類細胞系では、哺乳類遺伝子または哺乳類ウイルス由来のプロモーターが一般に好ましい。ポリペプチドをコードする配列の複数のコピーを含む細胞株を生成する必要がある場合、有益なことに、SV40またはEBVベースのベクターを適切な選択マーカーとともに用いてよい。
細菌系では、発現させたポリペプチドの意図する用途に応じて、多数の発現ベクターを選択してよい。例えば、大量に必要とする場合、容易に精製される融合タンパク質を高レベルに発現させるベクターを用いてよい。このようなベクターとしては、多機能性大腸菌クローニングおよび発現ベクター(ハイブリッドタンパク質が産生されるように、アミノ末端Met配列およびそれに続くβ−ガラクトシダーゼの7個の残基とインフレームで、目的のポリペプチドをコードする配列をベクターにライゲーションできるBLUESCRIPT(Stratagene)など)、pINベクター(Van Heeke&Schuster,J.Biol.Chem.264:5503 5509(1989))などが挙げられるが、これらに限らない。pGEXベクター(ウィスコンシン州マディソンのPromega)を用いて、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として、外来ポリペプチドを発現させてもよい。一般に、このような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン−アガロースビーズに吸着させてから、遊離グルタチオンの存在下で溶離させることによって、溶解細胞から容易に精製することができる。このような系で作製したタンパク質は、ヘパリン、トロンビン、または第XA因子プロテアーゼ切断部位を含むように設計して、クローニングした目的のポリペプチドを任意にGST部分から放出させることができるようにしてよい。
酵母サッカロミセス・セレビシエでは、構成的プロモーターまたは誘導プロモーター(α因子、アルコールオキシダーゼ、およびPGHなど)を含む多数のベクターを用いてよい。レビューについては、Ausubel et al.(前出)、およびGrant et al.,Methods Enzymol.153:516−544(1987)を参照されたい。
植物発現ベクターを用いる場合、多数のプロモーターのうちのいずれかによって、ポリペプチドをコードする配列を発現させてよい。例えば、CaMVの35Sおよび19Sプロモーターのようなウイルスプロモーターを単独で用いても、TMV由来のΩリーダー配列と組み合わせて用いてもよい(Takamatsu,EMBO J.6:307−311(1987))。あるいは、RUBISCOの小サブユニットまたは熱ショックプロモーターのような植物プロモーターを用いてよい(Coruzzi et al.,EMBO J.3:1671−1680(1984)、Broglie et al.,Science 224:838−843(1984)、およびWinter et al.,Results Probl.Cell Differ.17:85−105(1991))。これらのコンストラクトは、直接的なDNA形質転換、または病原体媒介性トランスフェクションによって、植物細胞に導入することができる。このような技法は、多数の一般的に入手可能なレビューに記載されている(例えば、Hobbs in McGraw Hill,Yearbook of Science and Technology,pp.191−196(1992)を参照されたい)。
昆虫系を用いて、目的のポリペプチドを発現させてもよい。例えば、ある昆虫系では、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルス(AcNPV)をベクターとして用いて、スポドプテラ・フルギペルダ細胞またはトリコプルシア幼虫内で外来遺伝子を発現させる。ポリペプチドをコードする配列をウイルスの非必須領域(ポリヘドリン遺伝子など)にクローニングし、ポリヘドリンプロモーターの制御下に置いてよい。ポリペプチドコード配列をうまく挿入することによって、ポリヘドリン遺伝子を不活化し、コートタンパク質のない組み換えウイルスを産生させることになる。続いて、この組み換えウイルスを用いて、例えば、目的のポリペプチドを発現させることができるS.フルギペルダ細胞またはトリコプルシア幼虫に感染させてよい(Engelhard et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91:3224−3227(1994))。
哺乳類宿主細胞では、多数のウイルスベースの発現系が一般的に入手可能である。例えば、アデノウイルスを発現ベクターとして使用する場合、後期プロモーターおよび三分節リーダー配列からなるアデノウイルス転写/翻訳複合体に、目的のポリペプチドをコードする配列をライゲーションしてよい。ウイルスゲノムの非必須のE1またはE3領域への挿入を用いて、感染させた宿主細胞中でポリペプチドを発現できる生存ウイルスを得てよい(Logan&Shenk,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81:3655−3659(1984))。さらに、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサーまたは即時型/初期サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/プロモーター領域のような転写エンハンサーを用いて、哺乳類宿主細胞中での発現を増大させてよい。
特異的開始シグナルを用いて、目的のポリペプチドをコードする配列をより効率的に翻訳してよい。このようなシグナルは、ATG開始コドンと隣接配列を含む。ポリペプチドをコードする配列、その開始コドン、および上流配列を適切な発現ベクターに挿入するケースでは、さらなる転写または翻訳制御シグナルは必要ない場合がある。しかし、コード配列またはその一部のみを挿入するケースでは、ATG開始コドンを含む外因性翻訳制御シグナルを提供すべきである。さらに、この開始コドンは、インサート全体が翻訳されるように、正確なリーディングフレーム中に存在すべきである。外因性翻訳要素と開始コドンは、様々な起源(天然および合成の両方)のものであってよい。発現効率は、文献(Scharf. et al.,Results Probl.Cell Differ.20:125−162(1994))に記載されているエンハンサーのように、使用する特定の細胞系に適したエンハンサーを含めることによって高めてよい。
加えて、宿主細胞株は、挿入された配列の発現を調節するか、または、発現タンパク質を所望の形でプロセシングする能力について選択しよい。このようなポリペプチドの修飾としては、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、およびアシル化が挙げられるが、これらに限らない。また、タンパク質の「プレプロ」体を切断する翻訳後プロセシングを用いて、正確な挿入、フォールディング、および/または機能を促してよい。特定の細胞機構、および翻訳後活性についての特徴的な機構を有する別の宿主細胞(CHO、Hela、MDCK、HEK293、およびW138など)は、外来タンパク質が正確に修飾およびプロセシングされるように選択してよい。
長期間、組み換えタンパク質が高収率で産生されるように、安定的な発現が一般には好ましい。例えば、同じベクターまたは別個のベクター上に、ウイルス複製開始点および/または内因性発現要素と、選択可能なマーカー遺伝子とを含むことができる発現ベクターを用いて、目的のポリヌクレオチドを安定的に発現させる細胞株を形質転換してよい。ベクターの導入後、細胞を富栄養培地中で1〜2日間成長させてから、選択培地に交換してよい。選択可能なマーカーの目的は、選択に対する耐性を付与することであり、その存在によって、導入された配列をうまく発現させる細胞を成長および回収できるようになる。その細胞型に適した組織培養技法を用いて、安定的に形質転換した細胞の耐性クローンを増殖させてよい。
いずれかの数の選択系を用いて、形質転換した細胞株を回収してよい。このような選択系としては、tk細胞中で用いることができる単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wigler et al.,Cell 11:223−232(1977))、およびaprt細胞中で用いることができるアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.,Cell 22:817−823(1990))遺伝子が挙げられるが、これらに限らない。また、選択の根拠として、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr(Wigler et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.77:3567−70(1980))、抗生物質耐性(例えば、アミノグリコシド、ネオマイシン、およびG−418に対する耐性を付与するnpt(Colbere−Garapin et al.,J.Mol.Biol.150:1−14(1981))、または除草剤耐性(例えば、クロルスルフロンに対する耐性を付与するals、またはホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を付与するpat(Murry,前出))を用いることができる。さらなる選択遺伝子が説明されており、例えば、trpB(細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用できるようにする)、またはhisD(細胞がヒスチジンの代わりのヒスチノールを利用できるようにする)(Hartman&Mulligan,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:8047−51(1988))が説明されている。アントシアニン、β−グルクロニダーゼおよびその基質GUS、ならびに、ルシフェラーゼおよびその基質ルシフェリンなどのマーカーとともに、可視マーカーを用いることが支持されており、形質転換体を同定する目的のみならず、特異的ベクター系に起因する一時的または安定的なタンパク質の発現の量を定める目的でも広く用いられている(Rhodes et al.,Methods Mol.Biol.55:121−131(1995))。
ポリヌクレオチドにコードされた産物に対して特異的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体のいずれかを用いて、その産物の発現を検出および測定するための様々なプロトコールが当該技術分野において知られている。例としては、固相酵素免疫検定法(ELISA)、放射免疫検定法(RIA)、および蛍光活性化細胞分離法(FACS)が挙げられる。これらおよびその他のアッセイは特に、Hampton et al.,Serological Methods,a Laboratory Manual(1990)、およびMaddox et al.,J.Exp.Med.158:1211−1216(1983)に説明されている。
多種多様な標識およびコンジュゲート技法が当業者に知られており、それらの技法を様々な核酸アッセイおよびアミノ酸アッセイで用いてよい。ポリヌクレオチドに関連する配列を検出するための標識ハイブリダイゼーションまたはPCRプローブを作製する手段としては、オリゴ標識、ニックトランスレーション、末端標識、または標識したヌクレオチドを用いるPCR増幅が挙げられる。あるいは、mRNAプローブの作製のために、配列またはそのいずれかの部分をベクターにクローニングしてもよい。このようなベクターは当該技術分野において既知であるとともに市販されており、このようなベクターを用いて、T7、T3、またはSP6のような適切なRNAポリメラーゼ、および標識したヌクレオチドを付加することによって、インビトロでRNAプローブを合成してよい。これらの手順は、様々な市販のキットを用いて行ってよい。用いてよい好適なレポーター分子または標識としては、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、または発色剤、ならびに、基質、補因子、インヒビター、および磁性粒子などを挙げてよい。
細胞培養物からタンパク質を発現および回収するのに適した条件下で、目的のポリヌクレオチド配列で形質転換した宿主細胞を培養してよい。組み換え細胞が産生したタンパク質は、用いる配列および/またはベクターに応じて、細胞内に分泌させるか、または含めてよい。当業者であれば分かるように、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、原核細胞膜または真核細胞膜を通じて、コードされたポリペプチドを分泌させるシグナル配列を含むように設計してよい。他の組み換え構築体を用いて、可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に、目的のポリペプチドをコードする配列をつなぎ合わせてもよい。
抗体組成物、その断片、および他の結合剤
別の態様によれば、本発明はさらに、本明細書中に開示されているポリペプチド、または、その一部、変異体、もしくは誘導体に対する免疫学的結合性を示す結合剤(抗体およびその抗原結合断片など)と、これらの使用法を提供する。好ましくは、このような結合剤は、本発明のAARSポリペプチドによって媒介される非標準的な活性の1つ以上を調節するか、または、被検体から得た生物サンプルのようなサンプル中の所定のAARSポリペプチド(例えば、トランケート体、選択的スプライス変異体、突然変異体)の有無を検出するのに有効である。
例えば、特定の実施形態は、被検体中のAARSポリペプチドを同定または特徴付ける方法であって、被検体から生物サンプルを得る工程と、その生物サンプルを抗体またはその抗原結合断片と接触させる工程であって、その抗体または抗原結合断片が、本発明のAARSポリペプチドに特異的に結合する工程と、結合した抗体またはその抗原結合断片の有無を検出することによって、被検体中のAARSポリペプチドを同定または特徴付ける工程とを含む方法を意図している。特定の態様では、上記の抗体またはその抗原結合断片は、所定のAARS突然変異体または選択的スプライス変異体のような特定の変異体またはトランケート型AARSポリペプチドに特異的に結合するが、完全長野生型AARSポリペプチドのような他のAARSポリペプチドには特異的に結合しない。
抗体またはその抗原結合断片は、(例えばELISAアッセイで)ポリペプチドと検出可能なレベルで反応するとともに、同様の条件下で、無関係のポリペプチドとは検出可能な形で反応しない場合、本発明のポリペプチドに「特異的に結合する」、「免疫学的に結合する」、および/または「免疫学的に反応性を示す」という。
免疫学的結合とは一般に、本明細書の文脈内で使用する場合、免疫グロブリン分子と、その免疫グロブリンに特異的な抗原との間に生じるタイプの非共有相互作用を指す。免疫学的結合相互作用の強度、すなわち親和性は、その相互作用の解離定数(Kd)で表わすことができ、Kdが小さいほど、親和性が大きいことになる。所定のポリペプチドの免疫学的結合特性は、当該技術分野において周知の方法を用いて定量化できる。このような方法の1つは、抗原結合部位/抗原複合体の形成および解離の速度の測定を伴い、これらの速度は、複合体パートナーの濃度、相互作用の親和性、および両方向の速度に等しく影響を及ぼす幾何学的パラメーターに左右される。したがって、「オン速度定数」(Kon)および「オフ速度定数」(Koff)のいずれも、会合および解離の濃度および実際の速度を計算することによって割り出すことができる。Koff/Konの比率によって、親和性と無関係のすべてのパラメーターを取り除くことができ、したがって、この比率は解離定数Kdに等しい。一般には、Davies et al.,(1990)Annual Rev.Biochem.59:439−473を参照されたい。
抗体の「抗原結合部位」または「結合部分」とは、抗原結合に関与する免疫グロブリン分子の部分を指す。抗原結合部位は、重(「H」)鎖および軽(「L」)鎖からなるN末端可変(「V」)領域のアミノ酸残基によって形成されている。重鎖および軽鎖のV領域内の高度な多様性を示す3つの伸展部分を「超可変領域」といい、超可変領域は、超可変領域よりも保存性の高い隣接する伸展部分(「フレームワーク領域」または「FR」として知られている)の間に挟まれている。したがって、「FR」という用語は、免疫グロブリン中の超可変領域の間かつ超可変領域に隣接して天然に存在するアミノ酸配列を指す。抗体分子では、軽鎖の3つの超可変領域、および重鎖の3つの超可変領域は、三次元空間においてそれぞれに対して相対的に配置されており、抗原結合表面を形成している。この抗原結合表面は、結合した抗原の三次元表面と相補的であり、重鎖および軽鎖それぞれの3つの超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」という。
結合剤は、例えば、ペプチド成分を含むか、もしくは含まないリボゾーム、RNA分子、またはポリペプチドであってよい。好ましい実施形態では、結合剤は、抗体またはその抗原結合断片ある。抗体は、当業者にとって既知の様々な技法のいずれかによって調製してよい。例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照されたい。一般に抗体は、組み換え抗体を産生させるようにする目的で、本明細書に記載されているようなモノクローナル抗体の生成を含め、細胞培養技法によって、または、好適な細菌もしくは哺乳類宿主細胞に抗体遺伝子をトランスフェクションすることによって作製することができる。ある1つの技法では、まず、多種多様な哺乳類のいずれか(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、またはヤギ)に、ポリペプチドを含む免疫原を注射する。この工程では、本発明のポリペプチドは、修飾なしで免疫原としての機能を果たすことができる。あるいは、特に比較的短いポリペプチドでは、ウシ血清アルブミンまたはキーホールリンペットヘモシアニンのようなキャリアタンパク質にそのポリペプチドを結合させる場合、より高い免疫応答が誘発される場合がある。免疫原は、好ましくは1回以上の追加免疫を組み込んだ所定のスケジュールに従って動物宿主に注射し、その動物から周期的に採血する。続いて、例えば、好適な固体支持体に結合させたポリペプチドを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって、ポリペプチドに対して特異的なポリクローナル抗体を上記のような抗血清から精製してよい。
目的のポリペプチドに対して特異的なモノクローナル抗体は例えば、Kohler and Milstein,Eur.J.Immunol.6:511−519,1976の技法およびその改良型を使用して調製してよい。簡潔には、これらの方法は、所望の特異性(すなわち、目的のポリペプチドとの反応性)を有する抗体を産生できる不死化細胞株を調製することを含む。このような細胞株は、例えば、上記のように免疫した動物から得た脾臓細胞から産生させてよい。続いて、例えば、骨髄腫細胞融合パートナー(好ましくは、免疫動物と同系のもの)と融合することによって、この脾臓細胞を不死化する。様々な融合技法を用いてよい。例えば、脾臓細胞および骨髄腫細胞を非イオン性界面活性剤と数分間組み合わせてから、ハイブリッド細胞の成長を補助するが、骨髄腫細胞の成長は補助しない選択培地に、低密度で播いてよい。好ましい選択技法は、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)選択を用いるものである。十分な時間、通常約1〜2週間の経過後、ハイブリッドのコロニーが観察される。単一コロニーを選択し、その培養物上清のポリペプチドに対する結合活性を試験する。高い反応性と特異性を有するハイブリドーマが好ましい。
モノクローナル抗体は、成長しているハイブリドーマコロニーの上清から単離してよい。加えて、マウスのような好適な脊椎動物宿主の腹膜腔にハイブリドーマ細胞株を注射するなど、様々な技法を用いて収率を向上させてよい。続いて、腹水または血液からモノクローナル抗体を回収してよい。クロマトグラフィー、ゲルろ過、沈殿析出、および抽出のような従来の技法によって、夾雑物を抗体から除去してよい。本発明のポリペプチドは、例えばアフィニティークロマトグラフィー工程の精製プロセスで用いてよい。
当該技術分野では、抗体分子の免疫学的結合特性を示すことのできる抗原結合部位を含む治療上有用な分子が数多く知られている。タンパク質分解酵素のパパインは、IgG分子を選択的に切断していくつかの断片をもたらすが、そのうちの2つ(「F(ab)」断片)はそれぞれ、無傷の抗原結合部位を含む共有結合したヘテロ二量体を含む。酵素のペプシンはIgG分子を切断して、両方の抗原結合部位を含む「F(ab’)2」断片を含むいくつかの断片をもたらすことができる。「Fv」断片は、免疫グロブリン分子のIgM、稀なケースではIgGまたはIgAの選択的なタンパク質切断によって、作製することができる。しかし、Fv断片はより一般的には、当該技術分野において既知の組み換え技法を用いて得られる。Fv断片には、天然抗体分子の抗原認識および結合能力の大半を保持する抗原結合部位を含む非共有結合のVH::VLヘテロ二量体が含まれる。Inbar et al.,(1972)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 69:2659−2662、Hochman et al.,(1976)Biochem 15:2706−2710、およびEhrlich et al.,(1980)Biochem 19:4091−4096。
一本鎖Fv(「sFv」)ポリペプチドは、ペプチドコードリンカーによって連結されたVHおよびVLコード遺伝子を含む遺伝子融合体から発現される、共有結合したVH::VLヘテロ二量体である。Huston et al.,(1988)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 85(16):5879−5883。天然には凝集しているが、化学的に分離させた抗体V領域由来のポリペプチド軽鎖および重鎖を、抗原結合部位の構造と実質的に類似する三次元構造に折り畳まれるsFv分子に変換するために、化学的構造を識別するための方法が数多く説明されている。例えば、Hustonらの米国特許第5,091,513号および同第5,132,405号、ならびに、Ladnerらの米国特許第4,946,778号を参照されたい。
上記の各分子は、重鎖および軽鎖のCDRセットを含み、CDRはそれぞれ、重鎖および軽鎖のFRセットの間に挟まれており、FRは、CDRを支持し、相互に対するCDRの空間的関係を定めている。本明細書で使用する場合、「CDRセット」という用語は、重鎖または軽鎖のV領域の3つの超可変領域を指す。これらの領域は、重鎖または軽鎖のN末端から見て、それぞれ「CDR1」、「CDR2」、および「CDR3」という。したがって、抗原結合部位は、重鎖および軽鎖の各V領域のCDRセットを含む6個のCDRを含む。単一のCDR(例えば、CDR1、CDR2、またはCDR3)を含むポリペプチドは、本明細書では「分子認識単位」という。数多くの抗原−抗体複合体の結晶学的解析によって、CDRのアミノ酸残基が、結合した抗体と広範に接触し、この抗原との広範な接触の大半が、重鎖CDR3との接触であることが示されている。したがって、分子認識単位は主に、抗原結合部位の特異性に関与する。
本明細書で使用する倍亜、「FRセット」という用語は、重鎖または軽鎖のV領域のCDRセットのCDRを組み立てる4つの側面のアミノ酸配列を指す。いくつかのFR残基は、結合した抗原と接触する場合があるが、FRは主に、V領域を折り畳んで、抗原結合部位、特に、CDRに直接隣接するFR残基にするのに関与する。FR内では、特定のアミノ残基および特定の構造的特徴が非常に高度に保存されている。この関連で、すべてのV領域配列は、約90個のアミノ酸残基からなる内部のジスルフィドループを含む。V領域が折り畳まれて結合部位になると、CDRは、抗原結合表面を形成する突出したループモチーフとして提示される。一般に、正確なCDRアミノ酸配列にかかわらず、CDRループが折り畳まれて特定の「標準的」構造になる形状に影響を及ぼすFRの保存構造領域が存在すると認識されている。さらに、特定のFR残基は、抗体の重鎖および軽鎖の相互作用を安定化させる非共有結合のドメイン間接触に関与することが知られている。
げっ歯類V領域と、その関連するCDRで、ヒト定常ドメインに融合したCDRとを有するキメラ抗体(Winter et al.,(1991)Nature 349:293−299、Lobuglio et al.,(1989)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86:4220−4224、Shaw et al.,(1987)J Immunol.138:4534−4538、およびBrown et al.,(1987)Cancer Res.47:3577−3583)、適切なヒト抗体定常ドメインと融合する前に、ヒト支持FRに移植したげっ歯類CDR(Riechmann et al.,(1988)Nature 332:323−327、Verhoeyen et al.,(1988)Science 239:1534−1536、およびJones et al.,(1986)Nature 321:522−525)、ならびに、組み換えベニアリングしたげっ歯類FRによって支持されているげっ歯類CDR(1992年12月23日に公開された欧州特許第519,596号)を含め、非ヒト免疫グロブリン由来の抗原結合部位を含む数多くの「ヒト化」抗体分子が説明されている。これらの「ヒト化」分子は、ヒトレシピエントの部分の治療上の適用の期間および有効性を制限するげっ歯類抗ヒト抗体分子に対する不要な免疫学的応答を最小限にするように設計されている。
本明細書で使用する場合、「ベニアリングFR」および「組み換えベニアリングFR」という用語は、実質的にすべての天然FRポリペプチドのフォールディング構造を保持する抗原結合部位を含む異種分子を得る目的で、例えば、げっ歯類の重鎖または軽鎖のV領域由来のFR残基をヒトFR残基と選択的に置換することを指す。ベニアリング技法は、抗原結合部位のリガンド結合特性が主に、抗原結合表面内の重鎖および軽鎖のCDRセットの構造と相対的配置によって決まるという了解事項に基づいている。Davies et al.,(1990)Ann.Rev.Biochem.59:439−473。したがって、抗原結合特異性をヒト化抗体のみで保存することができ、その際、そのCDR構造、CDR間の相互作用、およびCDRと残りのV領域ドメインとの相互作用を慎重に維持させる。ベニアリング技法を用いることによって、免疫系に暴露されやすい外部の(例えば溶媒に露出する)FR残基をヒト残基と選択的に置換して、免疫原性が低いか、または、実質的に非免疫原性のベニアリング表面のいずれかを含むハイブリッド分子をもたらす。
本発明の別の実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、1つ以上の目的の薬剤にカップリングさせてよい。例えば、治療薬を好適なモノクローナル抗体に直接または間接的に(例えばリンカー基を介して)カップリング(例えば共有結合)させてよい。薬剤と抗体との直接反応は、それぞれが他方と反応することができる置換基を保有するときに可能である。例えば、薬剤または抗体の求核基(アミノ基またはスルフヒドリル基など)は、他方のカルボニル含有基(無水物もしくは酸ハロゲン化物など)、または良好な脱離基(例えばハロゲン化物)を含むアルキル基と反応できる場合がある。
あるいは、リンカー基を介して治療薬と抗体とをカップリングさせることが望ましい場合もある。リンカー基は、結合能への干渉を回避する目的で、抗体を薬剤から遠ざけるスペーサーとして機能することができる。リンカー基は、薬剤または抗体の置換基の化学反応性を向上させ、それによって、カップリング効率を向上させる働きもできる。化学反応性の向上によって、薬剤または薬剤の官能基が利用しやすくなる場合もあり、化学反応性が向上しなければ、これらは利用しやすくならないことになる。
様々な二官能性または多官能性試薬(ホモ官能性およびヘテロ官能性の両方)(イリノイ州ロックフォードのPierce Chemical Co.のカタログに記載されている試薬など)をリンカー基として用いてよいことは当業者には明らかであろう。カップリングは、例えば、アミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、または酸化炭水化物残基を介して行ってよい。このような方法論について説明している文献は数多く存在する(例えばRodwellらの米国特許第4,671,958号)。
治療薬が、本発明の免疫コンジュゲートの抗体部分から遊離している場合の方が効力がある場合には、細胞へのインターナリゼーション中またはインターナリゼーション後に切断可能なリンカー基を用いるのが望ましい場合もある。多種多様な切断可能なリンカー基が説明されている。これらのリンカー基から薬剤を細胞内に放出させる仕組みとしては、ジスルフィド結合の還元による切断(例えばSpitlerの米国特許第4,489,710号)、感光性結合への照射による切断(例えばSenterらの米国特許第4,625,014号)、誘導体化アミノ酸側鎖の加水分解による切断(例えば、Kohnらの米国特許第4,638,045号)、血清補体媒介性加水分解による切断(例えばRodwellらの米国特許第4,671,958号)、および、酸触媒加水分解(例えばBlattlerらの米国特許第4,569,789号)が挙げられる。
2つ以上の薬剤を抗体にカップリングするのが望ましい場合がある。1つの実施形態では、薬剤の複数の分子を1つの抗体分子にカップリングする。別の実施形態では、2つ以上の型の薬剤を1つの抗体にカップリングしてよい。特定的な実施形態にかかわらず、様々な方法で、2つ以上の薬剤を有する免疫コンジュゲートを調製してよい。例えば、2つ以上の薬剤を抗体分子に直接カップリングしてもよいし、複数の付着部位をもたらすリンカーを用いることもできる。
炎症反応の調節および使用法
本発明の実施形態は、アミノアシルtRNAシンテターゼ(AARS)ポリペプチド、およびその変異体が、インビトロおよびインビボの両方で、様々な有用な形で炎症を調節するという発見に関する。例えば特定の実施形態では、本発明のAARSポリペプチドは、数ある機構の中でも特に、免疫細胞の所定の組織への移動または浸潤を低減したり、抗炎症性サイトカインの産生を増大させたり、または、炎症性サイトカインの産生を減少させたりするなどして、炎症反応を低減する。特定の実施形態では、本発明のAARSポリペプチドは、数ある機構の中でも特に、免疫細胞の所定の組織への移動または浸潤を増大させたり、炎症性サイトカインの産生を増大させたり、または、抗炎症性サイトカインの産生を減少させたりするなどして、炎症反応を増大または刺激する。
「炎症」とは一般に、病原体、損傷細胞(例えば創傷)および刺激原のような有害な刺激に対する、組織の生物学的反応を指す。「炎症反応」という用語は、炎症を起こしたり調節したりする特別な仕組みを指し、単なる例示として、本明細書に記載されているとともに、当該技術分野において既知である仕組みの中でも特に、免疫細胞の活性化および移動、サイトカインの産生、血管拡張(キニンの放出、フィブリン溶解、および凝固を含む)が挙げられる。理想的には、炎症は、有害な刺激を除去することと、罹患した1つ以上の組織を治癒するプロセスを開始させることの両方が目的の身体による保護機能である。炎症がなければ、創傷と感染が治癒されることはなく、組織の破壊が進み、生命を脅かす状況が生まれる。一方、過剰炎症または慢性炎症は、本明細書に記載されているとともに、当該技術分野において既知である疾患の中でも特に、枯草熱、アテローム硬化症、関節リウマチのような様々な疾患と関連している場合がある。
本発明のAARSポリペプチドは、急性炎症、慢性炎症、またはこれらの両方を調節できる。特定の実施形態は、急性炎症または急性炎症反応を増大させることに関し、特定の実施形態は、慢性炎症または慢性炎症反応を増大させることに関する。被検体の必要性に応じて、特定の実施形態は、急性炎症または急性炎症反応を低減することに関し、特定の実施形態は、慢性炎症または慢性炎症反応を低減することに関する。
急性炎症は、有害と思われる刺激に対する身体の初期反応に関し、血漿と白血球が血液から損傷組織に移動することの増大を伴う。急性炎症は短期的なプロセスであり、典型的には数分または数時間以内に開始され、有害な刺激が除去されると終了する。急性炎症は、発赤、熱感の増大、腫れ、疼痛、および機能喪失のうちのいずれか1つ以上によって特徴付けてよい。発赤と熱感は主に、体中心温度の血流の炎症部位への増大を原因とし、腫れは流体貯留を原因とし、疼痛は典型的には、神経終末を刺激する化学物質の放出を原因とし、機能喪失には複数の原因がある。
急性炎症反応は主に、在住マクロファージ、樹状細胞、組織球、クップファー細胞、および肥満細胞のような局所免疫細胞によって開始される。感染、熱傷、またはその他の損傷の開始時にこれらの細胞が活性化し、血管作用性アミンおよびエイコサノイドなど、炎症の臨床的兆候を担う炎症性メディエーターを放出する。血管拡張と、その結果生じる血流の増大によって、発赤と熱感の増大が生じる。血管の透過性の向上によって、血漿タンパク質および流体が当該組織に滲出または漏出し、腫れを発生させる。ブラジキニンなどの放出された特定のメディエーターは、疼痛に対する感受性を増大させるとともに、血管を変化させて、好中球のような白血球が移動または管外遊出できるようにする(典型的には、局所免疫細胞によって作られる走化性勾配に沿って移動する)。
また、急性炎症反応には、予め形成された血漿タンパク質からなる無細胞の生化学的カスケード系も1つ以上含まれ、このカスケード系は並行して、免疫反応を開始および賦活する働きをする。これらの系としては、細菌によって主に活性化される補体系と、特定の感染、熱傷、またはその他の外傷を原因とするタイプの組織損傷のような壊死によって主に活性化される凝固系およびフィブリン溶解系が挙げられる。したがって、AARSポリペプチドを用いて、炎症反応、または、個々の急性炎症反応のうちのいずれか1つ以上を調節してよい。
慢性炎症、持続性炎症反応、および遅延型炎症反応は、炎症部位に存在する細胞型の進行性変化によって特徴付けられ、慢性炎症、持続性炎症反応、および遅延型炎症反応によって、炎症プロセスに由来する組織が同時またはほぼ同時に破壊および治癒されることが多い。細胞レベルでは、慢性炎症反応には、単球、マクロファージ、リンパ球、プラスマ細胞、および線維芽細胞のような様々な免疫細胞が関係するが、顆粒球によって主に媒介される急性炎症とは対照的に、慢性炎症は、単球およびリンパ球のような単核細胞によって主に媒介される。慢性炎症には、IFNγおよびその他のサイトカインのような様々な炎症性メディエーター、成長因子、反応性酸素種、ならびに加水分解酵素も関係する。慢性炎症は、何カ月または何年もの間継続する場合があるとともに、望ましくない組織の破壊および線維症に至る場合がある。
慢性炎症の臨床的兆候は、疾患、炎症性病変、原因、および解剖学的な罹患部の持続時間に左右される(例えばKumar et al.,Robbins Basic Pathology−8th Ed.,2009 Elsevier,London、Miller,LM,Patholody Lecture Notes,Atlantic Veterinary College,Charlottetown,PEI,Canadaを参照されたい)。慢性炎症は、例えば、本明細書に記載されているとともに、当該技術分野において既知である病態または疾患の中でも特に、アレルギー、アルツハイマー病、貧血、大動脈弁狭窄、関節リウマチおよび変形性関節症のような関節炎、癌、うっ血性心不全、線維筋痛症、線維症、心臓発作、腎不全、狼瘡、膵炎、脳卒中、外科合併症、炎症性肺疾患、炎症性腸疾患、アテローム硬化症、乾癬を含む様々な病態または疾患と関連している。したがって、AARSポリペプチドを用いて、慢性炎症を治療もしくは管理するか、個々の慢性炎症反応のうちのいずれか1つ以上を調節するか、または、慢性炎症と関連するいずれかの1つ以上の疾患もしくは状態を治療してよい。
AARSポリペプチドは、組織細胞数の増加によって特徴付けられる炎症プロセスである増殖性炎症も調節できる。このような炎症には、乾癬、脂漏症、または湿疹のような皮膚の状態を含めることができ、このような炎症は、癌および異常成長の観点から、特に、より効率的な分子法に基づき証拠を集めて、低グレードの慢性炎症についても記録することを踏まえて考えることもできる。
特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、炎症に関わる様々な細胞の活性化、炎症分子の分泌(例えばサイトカインもしくはキニンの分泌)、増殖、活性、移動、または粘着を調節するなどによって、細胞レベルで炎症反応を調節できる。このような細胞の例としては免疫細胞と血管細胞が挙げられる。免疫細胞としては例えば、好中球、好酸球、および好塩基球のような顆粒球、マクロファージ/単球、B細胞、キラーT細胞(すなわちCD8+T細胞)、ヘルパーT細胞(すなわち、Th1およびTh2細胞を含むCD4+T細胞)、ナチュラルキラー細胞、およびγδT細胞のようなリンパ球、樹状細胞、ならびに肥満細胞が挙げられる。血管細胞の例としては、平滑筋細胞、内皮細胞、および線維芽細胞が挙げられる。好中球媒介性、マクロファージ媒介性、およびリンパ球媒介性炎症状態を含め、1つ以上の免疫細胞または血管細胞と関連する炎症状態を調節する方法も含まれる。
特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、血漿由来の炎症分子および細胞由来の炎症分子を含む炎症分子のレベルまたは活性を調節できる。炎症性分子および抗炎症性分子が含まれる。血漿由来の炎症分子の例としては、補体系、キニン系、凝固系、およびフィブリン溶解系のうちのいずれか1つ以上のタンパク質または分子が挙げられるが、これらに限らない。補体系のメンバーの例としては、1分子のC1qと2分子のC1rと2分子のC1sいう約6個の分子を含む分子複合体として血清中に存在するC1、C2(aおよびb)、C3(aおよびB)、C4(aおよびb)、C5、ならびに、C5a、C5b、C6、C7、C8、およびC9の細胞膜傷害複合体が挙げられる。キニン系の例としては、ブラジキニン、カリジン、カリクレイン、カルボキシペプチターゼ、アンギオテンシン変換酵素、および中性エンドペプチダーゼが挙げられる。
細胞由来の炎症分子の例としては、リソソーム果粒に含まれる酵素、血管作用性アミン、エイコサノイド、サイトカイン、急性期タンパク質、および一酸化窒素のような可溶性気体が挙げられるが、これらに限らない。血管作用性アミンは少なくとも1つのアミノ基を含み、血管を標的とし、血管の透過性を変化させたり、または血管拡張を起こしたりする。血管作用性アミンの例としては、ヒスタミンおよびセロトニンが挙げられる。エイコサノイドとは、炭素数20の必須脂肪酸の酸化によって作られるシグナル伝達分子を指し、エイコサノイドとしては、プロスタグランジン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、およびロイコトリエンが挙げられる。
サイトカインとは、免疫細胞によって分泌される様々な物質を指し、サイトカインとしては、ポリペプチドおよび糖タンパク質が挙げられる。典型的には、サイトカインは、オートクラインサイトカイン(そのサイトカインを分泌する細胞と同じ型の細胞に作用する)、または、パラクリンサイトカイン(そのサイトカインを分泌する細胞と異なる型の細胞への作用に限定される)のいずれかに分類される。サイトカインの例、サイトカインを産生する細胞の例、サイトカインの標的細胞の例、および代表的な活性は、下記の表JおよびKに記載されている。
特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、TNF−α、MIP−1b、IL−12(p40)、KC、MIP−2、またはIL−10のうちのいずれか1つ以上のレベルを向上させる。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、単球、リンパ球、またはこれらの両方を含む末梢血単核細胞(PBMC)によるTNF−αおよびIL−10のうちの少なくとも1つの分泌を増大させる。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、活性化T細胞のようなリンパ球によるIL−2の分泌を増大させる。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、PBMCのような免疫細胞によるTNF−αの分泌を低下させ、特定の実施形態では、上記およびその他の細胞によるリポ多糖誘発性のTNF−αの分泌を低下させる。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、PBMCのような免疫細胞によるIL−12の分泌を低下させ、特定の実施形態では、上記およびその他の細胞によるリポ多糖誘発性のIL−12の分泌を低下させる。
各サイトカインは典型的には、対応するサイトカイン受容体を有する。サイトカイン受容体のクラスの例としては、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリー受容体(免疫グロブリン(抗体)、細胞接着分子、およびさらには一部のサイトカインと構造的相同性を有するIL−1受容体タイプなど)、造血成長因子ファミリー受容体(IL−2受容体ファミリー、GM−CSF、IL−3、およびIL−5の受容体など)、インターフェロン(タイプ2)ファミリー受容体(IFNβおよびγの受容体を含む)が挙げられるが、これらに限らない。さらなる例としては、システインに富む共通の細胞外結合ドメインを有するとともに、CD40、CD27、およびCD30のようないくつかの他の非サイトカインリガンドと相互作用する腫瘍壊死因子(TNF)(タイプ3)ファミリー受容体、Gタンパク質共役受容体、ならびに、CXCR4およびCCR5のようなケモカイン受容体を含む7本の膜貫通ヘリックスファミリー受容体、さらには、IL−8、MIP−1、およびRANTESの受容体が挙げられる。したがって、特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、1つ以上の所定のサイトカイン(表JおよびKに示されているサイトカインなど)のレベルもしくは活性、1つ以上の所定のサイトカイン受容体のレベルもしくは活性、サイトカインとその受容体との相互作用、または、これらのいずれかの組み合わせを調節できる。
AARSポリペプチドは、急性期タンパク質のレベルまたは活性も調節できる。急性期タンパク質の例としては、C反応性タンパク質、血清アミロイドA、血清アミロイドP、およびバソプレッシンが挙げられる。特定の場合では、急性期タンパク質の発現によって、アミロイドーシス、熱、血圧上昇、低発汗、倦怠感、食欲喪失、および傾眠を含む一連の望ましくない全身的作用が生じることがある。したがって、AARSポリペプチドは、急性期タンパク質のレベルもしくは活性、その全身的作用、またはこれらの両方を調節できる。
特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、局所炎症、全身性炎症、またはこれらの両方を調節する。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、局所炎症または局所炎症反応を低減または維持(すなわち、さらなる炎症の増大を予防)できる。特定の実施形態では、被検体の必要性に応じて、AARSポリペプチドは、局所炎症または局所炎症反応を増大できる。特定の実施形態では、AARSポリペプチドは、全身性炎症または全身性炎症反応を低減または維持(すなわち、さらなる炎症の増大を予防)できる。特定の実施形態では、被検体の必要性に応じて、AARSポリペプチドは、全身性炎症または全身性炎症反応を増大できる。
特定の実施形態では、炎症または炎症反応の調節は、1つ以上の組織または器官と関連していることがある。このような組織または気管の非限定的な例としては、皮膚(例えば真皮、表皮、皮下層)、毛包、神経系(例えば脳、脊髄、末梢神経)、聴覚系・平衡器官(例えば内耳、中耳、外耳)、呼吸系(例えば鼻、気管、肺)、胃食道組織、胃腸系(例えば口、食道、胃、小腸、大腸、直腸)、脈管系(例えば心臓、血管、および動脈)、肝臓、胆嚢、リンパ/免疫系(例えばリンパ節、リンパ濾胞、脾臓、胸腺、骨髄)、泌尿生殖系(例えば腎臓、尿管、膀胱、尿道、膀胱頸、ファローピウス管、卵巣、子宮、陰門、前立腺、尿道球腺、精巣上体、前立腺、精嚢、精巣)、筋骨格系(例えば骨格筋、平滑筋、骨組織、軟骨、腱、靱帯)、脂肪組織、乳房、および内分泌系(例えば視床下部、下垂体、甲状腺、膵臓、副腎)が挙げられる。したがって、上記の組織または器官の炎症と関連する状態または疾患を治療するなどの目的で、AARSポリペプチドを用いて、上記の組織または器官のいずれかと関連する炎症を調節してよい。
上記のとおり、特定の実施形態は、AARSポリペプチドを用いて、特定の組織または器官と関連する炎症または炎症反応を低減または管理(すなわち炎症のさらなる増大を予防)できる。皮膚の真皮層、表皮層、および皮下層と関連する炎症、完全、および癌を含め、皮膚と関連する炎症反応または状態が含まれる。皮膚と関連する炎症状態の例としては、乾癬、刺激性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎(湿疹)、アレルギー性接触皮膚炎、熱誘発性皮膚炎、薬物誘発性皮膚炎、異汗性皮膚炎、じんま疹、自己免疫性皮膚炎、黒色腫などの皮膚癌、および水疱性皮膚炎のような皮膚炎が挙げられるが、これらに限らない。細菌感染、ウイルス感染、寄生虫感染、多形性紅斑、結節性紅斑、環状肉芽腫、ウルシ皮膚炎、および中毒性表皮壊死症も挙げられる。
特定の実施形態は、中枢神経系の脳および脊髄、末梢神経系、ならびに髄膜と関連する炎症、感染、および癌を含め、神経系と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。実験および臨床における神経変性疾患において、補体、接着分子、シクロオキシゲナーゼ酵素、およびその産物、ならびにサイトカインを含む炎症性メディエーターの発現が増加し、実験動物での介入研究によって、これらの因子のうちのいくつかが、ニューロン損傷に直接寄与していることが暗示されている。例えば、インターロイキン−1(IL−1)のような特有のサイトカインは、脳卒中および頭部損傷のような急性神経変性に深く関わっていた。
神経系と関連する炎症状態の例としては、髄膜炎(すなわち、脳および脊髄を覆う保護膜の炎症)、脊髄炎、脳脊髄炎(例えば筋痛性脳脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎、多発性硬化症、自己免疫性脳脊髄炎)、クモ膜炎(すなわち、中枢神経系の神経を取り囲み保護する膜の1つであるクモ膜の炎症)、肉芽腫、薬物誘発性炎症または髄膜炎、アルツハイマー病などの神経変性疾患、脳卒中、HIV認知症、ウイルス性脳炎および細菌性脳炎などの脳炎、寄生虫感染、炎症性脱髄障害、および、CNSのCD8+T細胞媒介性自己免疫疾患などの自己免疫傷害が挙げられるが、これらに限らない。さらなる例としては、パーキンソン病、重症筋無力症、運動神経障害、ギラン・バレー症候群、自己免疫性神経障害、ランバート・イートン無筋力症症候群、腫瘍随伴性神経系疾患、腫瘍随伴性小脳萎縮、非腫瘍随伴性スティッフマン症候群、進行性小脳萎縮、ラスムッセン脳炎、筋萎縮性側索硬化症、シドナム舞踏病、ジル・ド・ラ・ツレット症候群、自己免疫性多発性内分泌症、免疫異常性ニューロパシー、後天性神経性筋強直症、先天性多発性視神経炎、およびスティッフマン症候群が挙げられる。
上記のとおり、神経系の感染と関連する炎症も含まれる。神経系の炎症と関連する細菌感染の具体例としては、B群連鎖球菌(例えばサブタイプIII)および肺炎連鎖球菌(例えば血清型6、9、14、18、23)のような連鎖球菌感染、大腸菌(例えばK1抗原を有する大腸菌)、リステリア菌(例えば血清型IVb)、髄膜炎菌のようなナイセリア感染、ブドウ球菌感染、ヘモフィルスインフルエンザタイプBのようなヘモフィルス感染、クレブシエラ属、およびヒト結核菌が挙げられるが、これらに限らない。主に頭蓋の外傷(鼻腔に細菌が入り、髄膜腔に至る可能性がある)に関するか、または、脳室シャントもしくはそれに関連する器具(例えば心室外のドレイン、オマヤレザバー)が埋設された患者におけるブドウ球菌およびシュードモナス属、ならびに、その他のグラム陰性バチルス属による感染も含まれる。神経系の炎症と関連するウイルス感染の具体例としては、エンテロウイルス、1型および2型単純ヘルペスウイルス、ヒトTリンパ好性ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ムンプスウイスル、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびリンパ球脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)が挙げられるが、これらに限らない。髄膜炎は、梅毒トレポネーマおよびライム病ボレリアのようなスピロヘータ、マラリア(例えば大脳マラリア)のような寄生虫、クリプトコックス・ネオフォルマンスのような真菌、ならびに、フォーラーネグレリアのようなアメーバによる感染に起因する場合もある。
髄膜炎、またはその他の形態の神経系炎症は、癌の髄膜への転移(悪性髄膜炎)、非ステロイド性抗炎症薬、抗生物質、および静注免疫グロブリンのような特定の薬物、サルコイドーシス(または神経サルコイドーシス)、全身性エリテマトーデスのような結合組織障害、ならびに、ベーチェット病のような特定の形態の脈管炎(血管壁の炎症状態)と関連している場合もある。類表皮嚢胞および類皮嚢腫は、刺激物をくも膜下腔中に放出することによって、髄膜炎を発症させる場合がある。したがって、AARSポリペプチドを用いて、上記の状態のうちのいずれか1つ以上を治療または管理できる。
特定の実施形態は、内耳、中耳、および外耳のような聴覚系・平衡器官と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。聴覚系・平衡器官と関連する炎症状態の例としては、外耳炎(例えば耳感染)、中耳炎(通常空気で満たされている腔に流体が蓄積する場合がある)、およびこれらに関連する伝音難聴、迷路炎、内耳感染または炎症(いずれもめまいおよび聴力損失を引き起こす)、前庭神経の感染である前庭ニューロン炎(一般にはウイルス感染。めまい感を引き起こす)、ならびに、蝸牛神経の感染である蝸牛ニューロン炎(一般にはウイルス感染。突発性難聴を引き起こすがめまいは引き起こさない)が挙げられるが、これらに限らない。聴力損失により人工内耳を埋め込まれた患者は、肺炎球菌髄膜炎、およびそれに関連する炎症を発症するリスクが高くなる。
特定の実施形態は、鼻、気管、および肺と関連する炎症、感染、および癌を含め、呼吸系と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。呼吸系と関連する炎症状態の例としては、アトピー性ぜん息、非アトピー性ぜん息、アレルギー性ぜん息、アトピー性IgE媒介性気管支ぜん息、気管支ぜん息、本態性ぜん息、真性ぜん息、病態生理学傷害を原因とする内因性ぜん息、環境因子を原因とする外因性ぜん息、原因が未知または不明の本態性ぜん息、非アトピー性ぜん息、気管支炎性ぜん息、気腫性ぜん息、運動誘発性ぜん息、アレルゲン誘発性ぜん息、冷気誘発性ぜん息、職業性ぜん息、細菌感染、真菌感染、原虫感染、またはウイルス感染を原因とする感染性ぜん息、非アレルギー性ぜん息、初期ぜん息、乳児喘鳴症候群および気管支炎、慢性または急性気管支収縮、慢性気管支炎、末梢気道閉塞、ならびに、気腫が挙げられるが、これらに限らない。さらなる例としては、慢性好酸球性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような閉塞性または炎症性気道疾患が挙げられ、COPDとしては、慢性気管支炎、肺気腫、または、COPDと関連するか、または関連しない呼吸困難が挙げられ、COPDは、不可逆性進行性気道閉塞、および成人呼吸促進症候群(ARDS)によって特徴付けられる。
肺の炎症と関連する状態のさらなる例としては、他の薬物療法に起因する気道過敏性の憎悪、肺高血圧症と関連する気道疾患、急性気管支炎、急性喉頭気管性気管支炎、アラキジン酸性気管支炎、カタル性気管支炎、クループ性気管支炎、乾性気管支炎、感染性ぜん息性気管支炎、増殖性気管支炎、ブドウ球菌または連鎖球菌性気管支炎、および小胞性気管支炎のような気管支炎、急性肺損傷、ならびに、円柱状気管支拡張症、小嚢性気管支拡張症、紡錘状気管支拡張症、細気管支拡張症、嚢状気管支拡張症、乾性気管支拡張症、および濾胞状気管支拡張症のような気管支拡張症に関する状態が挙げられる。
とりわけCOPDとは、気道を遮断し、罹患者の正常な呼吸を次第に困難にする肺疾患群を指す。気腫および慢性気管支炎は、COPD疾患群の2大状態であるが、COPDは、当該技術分野において既知の状態の中でも特に慢性ぜん息性気管支炎を原因とする損傷を指すこともできる。大半のケースでは、気道への損傷は最終的には、肺における酸素と二酸化炭素の交換を妨げる。標準的な治療は主に、症状を制御するとともに、さらなる損傷を最小限に抑えることに焦点を当てている。
気腫はCOPDの1つの側面を表すものである。気腫は、肺胞の脆弱な壁内で炎症を引き起こし、これによって、肺胞の壁および弾性線維の一部が破壊され、呼息時に小気道を虚脱させるとともに、肺から空気が出にくくなる場合もある。気腫の兆候および症状としては例えば、息切れ(特に労作時)、喘鳴、および胸苦しさが挙げられる。
慢性気管支炎はCOPDの別の側面を表すものである。慢性気管支炎は、持続的な咳によって特徴付けられ、気管支の炎症および狭搾を引き起こす。この状態は粘液の産生も増大させ、これによってさらに、狭搾した気管支を詰まらせることがある。慢性気管支炎は主に喫煙で発症し、典型的には、咳が少なくとも3カ月持続するとともに、それが2年以上連続して認められるものとして定義されている。慢性気管支炎の兆候および症状としては例えば、特に喫煙が原因で朝起きるとまず痰が出ること、黄色の痰が出る慢性的な咳、後期における息切れ、および頻繁な呼吸器感染が挙げられる。
上記のとおり、COPDとは主に、上記の2つの慢性的な肺の状態に起因する肺の閉塞を指す。しかし、COPD罹患者の多くは、これらの2つの状態を両方とも有する。
慢性ぜん息性気管支炎はCOPDの別の側面を表すものである。慢性ぜん息性気管支炎は通常、ぜん息(気管支痙攣)を併発した慢性気管支炎として特徴付けられる。炎症性および感染分泌物が気道の平滑筋を刺激すると、ぜん息を発症する場合がある。症状は、慢性気管支炎の症状と似ているが、症状としては、間欠的、またさらには日常的な喘鳴エピソードも挙げられる。
特定の実施形態では、COPDは本源的には、たばこの煙およびその他の刺激原を原因とする。大半のケースでは、COPDに至る肺損傷は、長期的な喫煙を原因とする。しかし、葉巻の煙、副流煙、パイプの煙、大気汚染、および特定の職業的な煙霧を含む他の刺激原がCOPDを引き起こす場合もある。胃酸が食道に逆流すると発症する胃食道逆流性疾患(GERD)は、COPDを悪化させることがあるのみならず、患者によっては、COPDを発症させる場合さえある。まれなケースでは、COPDは、α−1−アンチトリプシンと呼ばれるタンパク質レベルの低下を引き起こす遺伝的傷害に起因する。したがって、COPDの危険因子としては、たばこの煙への曝露、粉塵および化学物質への職業的曝露(化学物質の煙霧、蒸気、および粉塵への長期的曝露によって肺が刺激され、かつ炎症を起こす)、胃食道逆流性疾患(胃酸逆流の重症形態で、胃酸およびその他の胃内容物が食道に逆流する)、加齢(COPDは年月を追ってゆっくりと進展するので、大半の患者は、症状が現れたときの年齢が少なくとも40歳である)、ならびに、遺伝的特質(α−1−アンチトリプシン欠損症として知られるまれな遺伝的傷害は、COPDのいくつかの症例の原因である)が挙げられる。
特定の実施形態では、COPDは自己免疫成分も有する。例えば、重症の気腫を罹患した患者の肺および末梢血液T細胞は、インビトロでエラスチンペプチドによって刺激されると、Th1サイトカインおよびケモカインをを分泌し、これらの患者は、コントロールよりも抗エラスチン抗体が増大していた(Goswami et al.,The Journal of Immunology.178:130.41,2007を参照されたい)。また、COPDを罹患した患者では、肺上皮に対するアビディティ、および細胞毒性を媒介する潜在能力を有するIgG自己抗体が認められる(Feghali−Bostwick et al.,Am J Respir Crit Care Med.177:156−63,2008を参照されたい)。自己反応性免疫反応は、例えば、エラスチンのような自己抗原に対する自己反応性反応を含め、この疾患の病因において重要で、COPDに関与する場合があるので、AARSポリペプチドを用いて、免疫細胞の自己抗原に対する感作を減じると、肺の炎症が低減される場合がある。
上記のとおり、特定の実施形態は、AARSポリペプチドを用いて、免疫細胞の所定の抗原(肺の炎症に関連する自己抗原および外来抗原、刺激原、アレルゲン、または感染物質を含む)に対する感作を減じることに関する。AARSポリペプチドは、免疫細胞の所定の抗原に対する感作を減じることによって、それらの免疫細胞の肺への移動または動員を低減し、それによって、炎症を低減できる。免疫細胞の例としては、リンパ球、単球、マクロファージ、樹状細胞、ならびに、好中球、好酸球、および好塩基球のような顆粒球が挙げられる。抗原の例としては、たばこの煙のような煙、大気汚染、溶接による煙霧のような煙霧、シリカ粉塵、および炭鉱や金鉱で見られるような職場粉塵を含む粉塵、カドミウムおよびイソシアネートのような化学物質が挙げられるが、これらに限らない。リポポ多糖(LPS)(感受性のある患者のCOPDを憎悪させる場合がある)を含め、既知のアレルゲン、および、細菌またはウイルス抗原のような感染物質も挙げられる。
本明細書に記載されている他の自己抗原に加え、自己抗原の例としては、受容体リガンド、化学誘引物質、およびシグナル伝達分子が挙げられるが、これらに限らない。特定の実施形態では、CXCR−2受容体を介する抗原または自己抗原シグナルに対する反応。いずれか1つの理論に束縛されたくないが、特定のAARSポリペプチドは、CXCR2受容体などの推定受容体を好中球の表面に結合させ、その結果、その受容体を脱感作できる(すなわち、その受容体はインターナリゼーションし、細胞表面に存在しなくなる)。上記および同様のケースでは、上記により、IL−8のようなCXCR−2リガンドに反応しない循環好中球の集団が存在する。IL−8はCOPDにおいて、たばこの煙により産生されるので、例えば、特定の好中球のIL−8のようなCXCR−2リガンドに対する感作を減じると、好中球の肺への移動が低減され、それによって、COPDと関連する炎症、特にたばこの煙を原因とする炎症が低減される。
COPDの合併症または関連する症状としては、当該技術分野において既知の疾患の中でも特に、呼吸器感染、高血圧、心臓障害(例えば心臓発作、不整脈、肺性心)、肺癌(慢性気管支炎を罹患した喫煙者は、慢性気管支炎を有さない喫煙者よりも、肺癌を罹患するリスクが高い)、肺炎、気胸症、およびうつ病のリスクの増大を挙げてよい。さらなる例としては、粘液を産生するとともに、血液が混じる場合のある咳、疲労、頻回の呼吸器感染、頭痛、軽い運動によって悪化する息切れ(呼吸困難)、身体の両側に影響を及ぼす足首、足、または脚の腫れ、および喘鳴が挙げられる。AARSポリペプチドを用いて、COPDまたは炎症に関連するその他の肺の状態と関連する合併症または症状を低減または管理できる。
COPDを罹患した被検体は、当該技術分野において既知の常的な診断技法に従って同定してよい。例えば、肺活量測定のような肺機能試験によって、肺がどの程度の空気を保持できるか、および、その人がどの程度速く肺から空気を吐き出せるかを測定する。肺活量測定は、症状が現れる前にCOPDを検出することができ、肺活量測定を用いて、疾患の進行を追跡するとともに、治療をモニタリングすることもできる。加えて、胸部X線によって、COPDの主因の1つである気腫が見えるとともに、他の肺の問題点または心不全が除外される場合もある。加えて、動脈血ガス分析によって、肺がどの程度効率的に酸素を血中に運ぶとともに、二酸化酸素を除去するか測定して、COPDの適応症を示す。痰の検査、すなわち痰の細胞の分析は、特定の肺の問題の原因を同定するとともに、特定の肺癌を除外する助けとなることができる。また、コンピュータ連動断層撮影(CT)スキャンは、内部器官の高精度画像を生成し、気腫、すなわちCOPDの検出を助けることができる。
本発明の他の態様同様に、COPDを罹患した(またはCOPDに罹患するリスクを有する)被検体に投与するAARSポリペプチドの量は、総体的健康状態、年齢、性別、体重、および薬物耐性、ならびに、AARSポリペプチドに対する反応の程度、重症度、タイプなど、その被検体の特徴によって決まることになる。例えば、循環好中球のような免疫細胞の脱感作では、典型的には頻度(1日当たり、1週間当たり、1カ月当たりなどの投与回数)を定めた形で、複数回投与(1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回など)を行ってよい。
併用療法も含まれる。例えば、肺の炎症またはCOPDの他の治療法と組み合わせて、1種以上のAARSポリペプチドを用いることができる。このような治療法の例としては、たばこまたはその他の肺刺激原への曝露を止めるかまたは減らすなどのライフスタイルの変更、肺のリハビリテーション、気管支拡張薬(例えばイプラトロピウム、チオトロピウム、サルメテロール、フォルモテロール)、コルチコステロイドのようなステロイド、抗生物質、定量吸入器(MDI)およびドライパウダー式吸入器、噴霧器の使用、α−1−アンチトリプシン欠損症向けの遺伝子置換療法、酸素療法、ならびに、手術(肺嚢胞切除術、気腫肺減量術、および肺移植を含む)が挙げられるが、これらに限らない。
特定の実施形態は、口、食道、胃、小腸、大腸、および直腸と関連する炎症、感染、および癌を含め、胃腸系と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。「胃腸の炎症」とは、本明細書で使用する場合、胃腸管の粘膜層の炎症を指し、急性および慢性の炎症状態を含む。急性炎症は一般に、短期の発症、および好中球の浸潤または流入によって特徴付けられる。慢性炎症は一般に、比較的長期の発症、および単核細胞の浸潤または流入によって特徴付けられる。慢性炎症は典型的には、自然寛解および自然発生の期間によっても特徴付けることができる。「胃腸管の粘膜層」は、腸(小腸および大腸を含む)、直腸、胃の内壁、口腔などの粘膜を含むことを意図している。
「慢性胃炎症」とは、比較的長期の発症によって特徴付けられる、胃腸管の粘膜の炎症を指し、長期にわたり(例えば数日、数週間、数カ月、または数年、および、患者が亡くなるまで)持続し、単核細胞の浸潤または流入と関連している場合が多く、さらには、自然寛解および自然発生の期間と関連していることもある。このような慢性炎症を有する「慢性胃炎症状態」(「慢性胃炎症疾患」ともいう)としては、炎症性腸疾患(IBD)、環境障害(例えば、化学療法、放射線療法などのような治療レジメンと関連する胃炎症)によって誘発される大腸炎、慢性肉芽腫症のような状態における大腸炎(例えばSchappi et al.,Arch Dis Child.84:147−151,2001を参照されたい)、セリアック病、セリアックスプルー(すなわち、グルテンとして知られるタンパク質の摂取に応答して、腸の内層が炎症する遺伝性疾患)、食物アレルギー、胃炎、感染性胃炎または腸炎(例えばヘリコバクターピロリ感染性慢性活動性胃炎)、および、感染物質を原因とするその他の形態の胃炎症、ならびに、他の類似の状態が挙げられるが、これらに限らない。
本明細書で使用する場合、「炎症性腸疾患」または「IBD」とは、腸の全部または一部の炎症によって特徴付けられる様々な疾患のいずれかを指す。炎症性腸疾患の例としては、クローン病および潰瘍性大腸炎が挙げられるが、これらに限らない。IBDという用語には、偽膜性大腸炎、出血性大腸炎、溶血性尿毒症症候群大腸炎、コラーゲン蓄積大腸炎、虚血性大腸炎、放射線大腸炎、薬物および化学物質誘発性大腸炎、空置大腸炎、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、過敏性結腸症候群、クローン病、ならびに、活動性、難治性、および瘻孔形成を含め、クローン病のすべてのサブタイプが含まれる。したがって、AARSポリペプチドを用いて、上記の状態のうちのいずれか1つ以上を治療または管理できる。
特定の実施形態は、脈管系と関連する炎症反応および状態、または、血管および心臓と関連する炎症のような脈管炎症を低減することに関する。脈管系と関連する炎症状態の例としては、心筋炎、心膜炎、閉塞性疾患、アテローム硬化症、心筋梗塞、血栓症、ヴェーゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、川崎病、抗因子VIII自己免疫疾患、懐死性小血管炎、顕微鏡的多発血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、pauci−immune型巣状壊死性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎、抗リン脂質症候群、抗体誘発性心不全、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血、シャーガス病における心臓自己免疫、および抗ヘルパーTリンパ球自己免疫が挙げられるが、これらに限らない。心内膜炎(血管を通じて細菌の小集団が拡散することによる心臓弁の感染)、静脈炎もしくは脈管炎(1つ以上の静脈の炎症)、および血栓静脈炎(血栓に関連する静脈炎症)も挙げられる。血栓静脈炎は、様々な場所で繰り返し起きる場合があり、その場合、移行性血栓静脈炎または逍遥性静脈炎と呼ばれる。静脈炎は、細菌感染、刺激性または発疱性溶液などの化学物質への曝露、カニューレを挿入中に静脈中に移動させるなどの皮膚穿刺による身体外傷、セレブレックス、オランザピン、抗うつ薬などの投薬、およびアルコール乱用のような様々な原因と関連する場合がある。特定の実施形態は、急性リウマチ熱、先天性トキソプラスマ症、エンテロウイルス胎内感染、ライム病、およびリウマチ熱のうちのいずれか1つ以上を原因とする心炎を治療または管理することにも関する場合がある。
特定の実施形態は、急性および慢性肝炎、ならびに、急性および慢性胆嚢を含め、肝臓または胆嚢と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。肝臓または胆嚢と関連する炎症状態の例としては、自己免疫性肝炎、ウイルス性肝炎(例えばA型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、単核細胞症、風疹、エプスタイン・バーウイルス、およびサイトメガロウイルス)、ならびに、重症細菌感染、アメーバ感染、投薬(例えばアゴメラチン、アロプリノール、アミトリプチリン、アミオダロン、アザチオプリン、パラセタモール、ハロタン、イブプロフェン、インドメタシン、イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、ケトコナゾール、ロラタジン、メトトレキセート、メチルドーパ、ミノサイクリン、ニフェジピン、ニトロフラントイン、フェニトイン、バルプロ酸、トログリタゾン、ジドブジン)、毒素(例えばアルコール、真菌毒素)、および代謝障害(例えばウィルソン病、身体の銅代謝障害、ヘモクロマトーシス、身体の鉄代謝障害、非アルコール性脂肪性肝炎、α1−アンチトリプシン欠損症)のような他の原因の肝炎が挙げられるが、これらに限らない。さらなる例としては、非アルコール性脂肪肝疾患、原発性胆汁性肝硬変のような肝硬変、閉塞性黄疸、虚血性肝炎、および胆嚢疾患が挙げられる。
特定の実施形態は、リンパ/免疫系と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。リンパ/免疫系と関連する炎症状態の例としては、シャーガス病のような自己免疫疾患、慢性閉塞性肺障害(COPD)、クローン病、皮膚筋炎、I型糖尿病、子宮内膜症、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本病、汗腺膿瘍、川崎病、IgA腎症、特発性血小板減少性紫斑病、間質性膀胱炎、エリテマトーデス、混合結合組織病、限局性強皮症、重症筋無力症、ナルコレプシー、神経性筋強直症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、乾癬、乾癬性関節炎、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、関節リウマチ、統合失調症、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、側頭動脈炎、潰瘍性大腸炎、白斑、およびヴェーゲナー肉芽腫症に加えて、自己免疫性溶血性貧血および様々なリンパ節症が挙げられるが、これらに限らない。
移植片拒絶、慢性移植片拒絶、亜急性移植片拒絶、超急性移植片拒絶、急性移植片拒絶、および移植片対宿主病など、免疫に関連する状態で、移植片、組織、細胞、または器官の移植と関連する状態も挙げられる。特定の実施形態では、移植片のドナーに、組織の除去前または除去中に、AARSポリペプチドを投与することができる。特定の実施形態では、移植片のレシピエントに、移植療法の前、最中、および/または後にAARSポリペプチドを投与して、炎症に関連する移植療法合併症を低減することができる。移植療法の例としては、当該技術分野において既知のものの中でも特に、骨髄、幹細胞、末梢血、肝臓、肺、心臓、皮膚、および腎臓が挙げられる。さらなる例としては、ぜん息、じんま疹、花粉アレルギー、チリダニアレルギー、毒物アレルギー、化粧品アレルギー、ラテックスアレルギー、化学物質アレルギー、薬物アレルギー、虫刺されアレルギー、動物鱗屑アレルギー、イラクサアレルギー、ツタウルシアレルギー、および食物アレルギーのようなアレルギーと関連する炎症状態が挙げられる。
特定の実施形態は、泌尿生殖系と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。泌尿生殖系と関連する炎症状態の例としては、尿管、膀胱、尿道、膀胱頸、ファローピウス管、卵巣、子宮、陰門、前立腺、尿道球腺、精巣上体、前立腺、精嚢、精巣、または腎臓の炎症、感染、または癌が挙げられるが、これらに限らない。自己免疫性間質性腎炎、腎膿瘍(腎内または腎外)、急性前立腺炎、血尿、尿道炎(例えばクラミジアおよびその他の性感染症)、骨盤腹膜炎(PID)、および前立腺膿瘍も挙げられる。糸球体腎炎、ループス腎炎、腎症、痛風、毒または化学物質(例えばエーテル、硫酸タリウム)、特定の薬剤(例えばピロキシカム、カンジル、フェルデンジェル、フェンサイド、ピロックス)、ヘルマン症候群、黄熱、免疫複合体病、腸チフス、尿道狭窄、腎結核、および膿痂疹後腎炎のうちの1つ以上と関連する腎炎も挙げられる。
特定の実施形態は、筋骨格系と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。筋骨格系と関連する炎症状態の例としては、関節リウマチおよび乾癬性関節炎のような関節炎、強直性脊椎炎、自己免疫性筋炎、原発性シェーグレン症候群、平滑筋自己免疫疾患、筋炎、多発筋炎、腱炎、靭帯炎症、軟骨炎症、関節炎症、髄膜炎症、手根管症候群、慢性筋肉炎症、ならびに、骨粗しょう症および変形性関節症と関連する骨炎症を含む骨炎症が挙げられるが、これらに限らない。ティーツェ症候群、胸肋関節、胸鎖関節、または肋骨肋軟骨連結の良性疼痛性非化膿性限局性腫脹、肋軟骨炎、胸骨筋症候群、剣状突起痛、突発性胸鎖亜脱臼、胸肋鎖骨過形成症、線維筋痛症、肩腱炎または滑液包炎、痛風関節炎、リウマチ性多筋痛、エリテマトーデス、骨棘、および圧力骨折のような骨折も挙げられる。
特定の実施形態は、内分泌系と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。内分泌系と関連する炎症状態の例としては、視床下部、下垂体、甲状、膵臓、または副腎と関連する炎症、感染、または癌、膵疾患のような腺疾患、I型糖尿病のような糖尿病、甲状腺疾患、グレーブス病、甲状腺炎、突発性自己免疫性甲状腺炎、橋本甲状腺炎、特発性粘液水腫、卵巣自己免疫、自己免疫性抗精子不妊症、自己免疫性前立腺炎、およびI型自己免疫性多腺症候群が挙げられるが、これらに限らない。
特定の実施形態は、免疫および炎症を含む生理学的および病理学的プロセスの調節に積極的に関与する脂肪組織と関連する炎症反応および状態を低減することに関する。マクロファージは脂肪組織の成分であり、その活性に積極的に関与する。さらに、リンパ球と脂肪細胞との相互作用によって、免疫を調節することができる。脂肪組織は、アディポカイン、レプチン、アディポネクチン、レジスチン、およびビスファチン、ならびに、TNF−α、IL−6、単球化学誘導タンパク質1などのようなサイトカインおよびケモカインを含む様々な炎症性および抗炎症性因子を産生および放出する。脂肪組織によって産生される炎症性分子は、インスリン抵抗性の発現、肥満と関連する心臓血管疾患のリスクの増大に積極的に関与するものとされている。これに対して、レプチンレベルの低下は、栄養不良患者のT細胞応答性の低下を原因とする感染に対する感受性を増大させる素因を与える場合がある。様々な炎症状態において、アディポカインレベルの変化が観察されている(例えば、Fantuzzi,J Allergy Clin Immunol.115:911−19,2005、およびBerg et al.,Circulation Reseach.96:939,2005を参照されたい)。
AARSポリペプチドを用いて、過敏症と関連する炎症も治療または管理することもできる。このような状態の例としては、I型過敏症、II型過敏症、III型過敏症、IV型過敏症、即時型過敏症、抗体媒介性過敏症、免疫複合体媒介性過敏症、Tリンパ球媒介性過敏症、および遅延型過敏症が挙げられる。
AARSポリペプチドを用いて、自己炎症状態も治療または管理することができる。自己炎症状態の例としては、家族性地中海熱、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、高IgD症候群(HIDS)、マックル・ウェルズ症候群、家族性寒冷自己炎症性症候群、および新生児期発症多臓器性炎症性疾患のようなCIAS1関連疾患、PAPA症候群(無菌性関節炎、壊疽性膿皮症、ざ瘡)、ならびに、ブラウ症候群が挙げられる。
AARSポリペプチドを用いて、様々な癌と関連する炎症を治療または管理することもできる。このような癌の例としては、前立腺癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、肺癌、卵巣癌、精巣癌、胃癌、膀胱癌、膵癌、肝癌、腎癌、脳腫瘍、黒色腫、非黒色腫皮膚癌、骨肉種、リンパ腫、白血病、甲状腺癌、子宮内膜癌、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、神経芽腫、多形グリア芽腫、および非ホジキンリンパ腫が挙げられるが、これらに限らない。
上記のとおり、特定の実施形態は、全身性炎症を低減または管理する目的などで、AARSポリペプチドを用いて、全身性炎症を調節してよい。特定の実施形態では、全身性炎症は、様々な潜在的原因を有する全身炎症状態である全身性炎症反応症候群(SIRS)と関連するものであってよい。SIRSは、常的な診断技法に従って特徴付けるか、または同定してよい。1つの非限定例として、SIRSは、(i)36℃未満または38℃超の体温、(ii)毎分90回超の心拍数、(iii)毎分20呼吸超の頻呼吸(高呼吸速度)、または4.3kPa(32mmHg)未満の動脈血二酸化炭素分圧、および(iv)4000細胞/mm3(4×109細胞/L)未満、もしくは12,000細胞/mm3(12×109細胞/L)超の白血球細胞数、または、10%超の未熟好中球(杆状)の存在のうちの2つ以上の存在によって同定してよい。
SIRSは大まかには、感染性または非感染性のいずれかに分類される。最も一般的には、感染性SIRSは、既知または疑わしい感染と併発する全身炎症状態であるセプシス(菌血症、ウイルス血症、寄生虫血症、およびトキシックショック症候群を含む)と関連している。セプシスは、多種多様な感染物質と関連している場合があり、そのような物質としては、ストレプトコッカス・アガラクティエ、大腸菌、インフルエンザ菌、リステリア菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、クレブシエラ属の種、緑膿菌、エンテロバクター属の種、S.アガラクティエ、セラチア属の種、アシネトバクター属の種、肺炎連鎖球菌、サルモネラ属の種、および髄膜炎菌のような細菌、風疹、サイトメガロウイルス、単純疱疹、および水痘ウイルスのようなウイルス、マラリア感染(例えば熱帯熱マラリア原虫)、トリパノソーマ症、およびフィラリア症における寄生虫のような寄生虫、ならびに、カンジダ属の種、アスペルギルス属の種、ヒストプラスマ属の種、クリプトコックス・ネオフォルマンス、コクシジオイデス・イミティス、ブラストミセス・デルマチチジス、およびニューモシスティス・カリニのような真菌が挙げられるが、これらに限らない。特定の実施形態では、肺の感染(例えば肺炎)、膀胱の感染、腎臓の感染(例えば尿路感染症)、皮膚の感染(例えば蜂巣炎)、腹部の感染(例えば虫垂炎)、およびその他の区域の感染(例えば髄膜炎)は、セプシスに波及し、かつセプシスを発症させることがある。AARSポリペプチドを用いて、セプシスの罹患にかかわらず、上記の感染物質のうちのいずれかと関連する炎症を調節してよい。
非感染性SIRSは、外傷、熱傷、膵炎、虚血、出血、外科合併症、副腎不全、肺塞栓症、大動脈瘤、心タンポナーデ、アナフィラキシー、薬物過剰摂取などと関連している場合がある。SIRSは、本明細書に記載されている器官または器官系を含め、1つ以上の器官または器官系の不全を合併する場合が多い。具体例としては、急性肺損傷、急性腎損傷、ショック、および多臓器不全症候群などが挙げられる。典型的には、SIRSは、根本的な問題に対象を絞ること(例えば、血液量減少に対しては十分な補液、膵炎に対してはIVF/NPO、アナフィラキシーに対してはエピネフリン/ステロイド/ベネドリル)によって治療する。特定の場合においては、セレン、グルタミン、およびエイコサペンタエン酸が、SIRSの症状を改善させる効果があることが示されており、ビタミンEのような抗酸化物質も有用である場合がある。したがって、AARSポリペプチドを単独で、または他の療法と併せて用いて、SIRSおよびSIRSの合併症を治療または管理できる。
全身性炎症は、「サイトカインストーム」とも関連する場合がある。このサイトカインストームは、サイトカインと免疫細胞との間の正のフィードバックループを原因とする危険な免疫反応であり、様々なサイトカインのレベルを大幅に上昇させる。特定の場合においては、サイトカインストーム(高サイトカイン血症)には、サイトカイン、無酸素ラジカル、凝固因子)のような多数の既知の炎症性メディエーターの全身放出が含まれる。TNF−α、IL−1、およびIL−6のような炎症性サイトカイン、ならびに、IL−10およびIL−1受容体アンタゴニストのような抗炎症性サイトカインのレベルの上昇が含まれる。サイトカインストームは、移植片対宿主病(GVHD)、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、セプシス、トリインフルエンザ、痘瘡、およびSIRSを含む数多くの炎症性および非炎症性疾患で起こることがある。サイトカインストームは、特定の薬剤によって誘発される場合もある。治療としては、T細胞反応を低減するOX40IG、ACE阻害薬、アンギオテンシンII受容体遮断薬、コルチコステロイド、ゲムフィブロジル、フリーラジカルスカベンジャー、およびTNF−α遮断薬が挙げられる。したがって、AARSポリペプチドを単独で、または他の療法と併せて用いて、サイトカインストームを治療または管理できる。
特定の実施形態は、AARSポリペプチドを用いて、肉芽腫炎症、線維素炎症、化膿炎症、漿液炎症、または潰瘍炎症のうちのいずれか1つ以上を低減してよい。肉芽腫炎症は、結核菌、らい菌、および梅毒菌のような感染物質に対する応答に典型的には起因する肉芽腫の形成によって特徴付けられる。線維素炎症は、血管透過性の大幅な上昇(これにより、フィブリンが血管を貫通できるようになる)に起因する。癌細胞など、適当な凝固促進性刺激が存在する場合、線維性滲出液が沈積する。このプロセスは漿膜腔でよく見られ、漿膜腔では、漿膜間で線維性滲出液が瘢痕に変化することがあり、漿膜の機能が制限される。化膿炎症は、好中球、死細胞、および流体からなる大量の膿の形成に起因する。ブドウ球菌のような化膿菌による感染は、この種の炎症の特徴である。周囲組織で包まれた、膿の大きな限局性集積は、膿瘍と呼ばれる。漿液炎症は、一般には漿膜の中皮細胞によって産生されるが、血漿に由来する場合もある非粘着性漿液からなる大量の滲出液によって特徴付けられる。このタイプの炎症の例としては皮膚疱疹が挙げられる。典型的には上皮付近で起こる潰瘍炎症は、その表面由来の組織を壊死喪失させ、それによって、組織の下層を露出させる。その後の上皮の陥凹は潰瘍として知られている。
肉体的損傷または創傷の治療にも、AARSポリペプチドを用いてよい。例としては、擦過傷、挫傷、切創、刺創、裂傷、衝撃による創傷、振とう、挫傷、熱傷、凍傷、化学熱傷、日焼け、壊疽、壊死、乾燥、放射線熱傷、放射能熱傷、気道熱傷、筋断裂、肉離れ、腱断裂、腱損傷、靭帯損傷、靭帯断裂、過伸展、軟骨断裂、骨折、圧迫神経、潰瘍、および射創、またはその他の外傷が挙げられる。
AARSポリペプチドを用いて、特発性炎症、すなわち病因が未知の炎症も治療または管理できる。併用療法も含まれ、その場合には、当該技術分野において広く利用可能であるとともに既知である療法を含め、本明細書に記載されている炎症性疾患または炎症状態のいずれかに対する1種以上の他の療法と併せて、1種以上のAARSポリペプチドを投与または使用する。併用療法の例としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、免疫選択性抗炎症性誘導体(ImSAID)、およびステロイド(例えばコルチコステロイド)のような標準的な抗炎症薬、抗生物質および抗ウイルス薬のような抗感染薬、抗酸化物質、サイトカイン、化学療法薬の使用、ならびに、その他の抗癌療法および免疫抑制療法が挙げられる。
鑑別診断を行う目的、さらには、例えば、一般に認められた臨床基準に従って改善度を判断することによって、治療の過程で治療上有効な投与量が投与されたか判断するなど、治療をモニタリングする目的などで、炎症状態およびその他の状態の兆候および症状を評価する基準は、当業者には明らかであるとともに、例えば、Berkow et al.,eds.,The Merck Manual,16th edition,Merck and Co.,Rahway,N.J.,1992、Goodman et al.,eds.,Goodman and Gilman‘s The Pharmacological Basis of Therapeutics,10th edition,Pergamon Press,Inc.,Elmsford,N.Y.,(2001)、Avery’s Drug Treatment:Principles and Practice of Clinical Pharmacology and Therapeutics,3rd edition,ADIS Press,Ltd.,Williams and Wilkins,Baltimore,MD.(1987)、Ebadi,Pharmacology,Little,Brown and Co.,Boston,(1985)、Osolci al.,eds.,Remington‘s Pharmaceutical Sciences,18th edition,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1990)、Katzung,Basic and Clinical Pharmacology,Appleton and Lange,Norwalk,CT(1992)の教示内容によって例示されている。
特定の実施形態は、AARSポリペプチドを用いて、炎症を増大させてよい。例えば、被検体の必要性に応じて、特定の実施形態は、急性炎症もしくは急性炎症反応、または、これらの両方を増大させてよい。特定の実施形態は、慢性炎症もしくは慢性炎症反応、または、これらの両方を増大させてよい。特定の実施形態は、急性炎症と慢性炎症の両方を増大させてよい。特定の実施形態は、局所炎症もしくは全身炎症、またはこれらの両方を増大させてよい。
特定の実施形態では、AARSポリペプチドを用いて、原発性免疫不全および続発性免疫不全を含め、身体が十分な免疫反応を開始させることができない免疫不全を治療または管理できる。原発性免疫不全の例としては、T細胞B細胞複合型免疫不全を含むT細胞およびB細胞免疫不全のような様々な常染色体劣性およびX連鎖遺伝性状態、抗体欠損症、明確に定義済みの症候群、免疫異常疾患、食細胞障害、自然免疫障害、および補体欠損症が挙げられる。
T細胞およびB細胞免疫不全の例としては、γc欠損症、JAK3欠損症、インターロイキン7受容体鎖α欠損症、CD45欠損症、CD3δ/CD3δ欠損症のようなT−/B+欠損症、および、RAG1/2欠損症、DCLRE1C欠損症、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症、細網異形成症のようなT−/B−欠損症が挙げられる。さらなる例としては、オーメン症候群、DNAリガーゼIV型欠損症、CD40リガンド欠損症、CD40欠損症、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)欠損症、クラスII MHC欠損症、CD3γ欠損症、CD8欠損症、ZAP−70欠損症、TAP−1/2欠損症、および翼状らせん欠損症が挙げられる。
抗体欠損症の例としては、X連鎖無ガンマグロブリン血症(btk欠損症、ブルトン無ガンマグロブリン血症)、μ−重鎖欠損症、l−5欠損症、Igα欠損症、BLNK欠損症、免疫不全を伴う胸腺腫、分類不能型免疫不全(CVID)、ICOS欠損症、CD19欠損症、TACI(TNFRSF13B)欠損症、およびBAFF受容体欠損症が挙げられる。さらなる例としては、AID欠損症、UNG欠損症、重鎖欠失、κ鎖欠損症、単離IgGサブクラス欠損症、IgA・IgGサブクラス欠損症、選択的免疫グロブリンA欠損症、および一過性乳児低ガンマグロブリン血症(THI)が挙げられる。
「明確に定義済みの症候群」の例としては、ヴィスコット・オールドリッチ症候群、毛細管拡張性運動失調、運動失調様症候群、ナイミーヘン症候群、ブルーム症候群、ディ・ジョージ症候群、軟骨毛髪形成不全およびシムケ症候群のような免疫不全性骨異形成症、シムケ症候群、2型ヘルマンスキー・パドラック症候群、高IgE症候群、慢性粘膜皮膚カンジダ症が挙げられる。
免疫異常疾患の例としては、チェディアック・東症候群および2型グリセリ症候群のように色素脱失または白皮症を伴う免疫不全、パーフォリン欠損症、MUNC13D欠損症、およびシンタクシン11欠損症のような家族性血球貪食性リンパ組織球症、X連鎖リンパ増殖症候群、1a型(CD96欠損)、1b型(ファスリガンド欠損)、2a型(CASP10欠損)、および2b型(CASP8欠損)のようなリンパ球増殖性症候群、カンジダ症および外胚葉性ジストロフィを伴う自己免疫性多発性内分泌症、ならびに、免疫異常・多内分泌腺症・消化管障害・X連鎖症候群が挙げられる。さらに、骨髄に影響を及ぼす疾患が、白血球減少症のような白血球の異常または減少をもたらす場合もある。白血球減少症は、ウイルス感染、リケッチア感染、一部の原生動物への感染、結核を含む特定の感染および疾患、ならびに特定の癌によって誘発されることがある。
食細胞障害の例としては、ELA2欠損症(例えば脊髄形成異常症を伴う)、GFI1欠損症(T/Bリンパ球減少症を伴う)、またはG−CSFR欠損症(G−CSF−非応答性)のような重症先天性好中球減少症、コストマン症候群、周期性好中球減少症、X連鎖好中球減少症/脊髄形成異常症、1、2、および3型白血球接着不全、RAC2欠損症、β−アクチン欠損症、限局型若年性歯周炎、パピヨン・ルフェーブル症候群、特異顆粒欠損症、シュバッハマン・ダイアモンド症候群、慢性肉芽腫性疾患(X連鎖および常染色体型を含む)、好中球グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、IL−12およびIL−23β1鎖欠損症、IL−12p40欠損症、インターフェロンγ受容体1欠損症、インターフェロンγ受容体2欠損症、ならびにSTAT1欠損症が挙げられる。
自然免疫欠損症の例としては、NEMO欠損症およびIKBA欠損症のような無汗性外胚葉形成異常症、IRAK−4欠損症、WHIM症候群(いぼ、低ガンマグロブリン血症、感染症、ミエロカテキシス)、ならびにゆうぜい状表皮発育異常症が挙げられる。補体欠損症と代表的な関連状態の例としては、C1q欠損症(例えば狼瘡様症候群、リウマチ様疾患、感染)、C1r欠損症、C4欠損症、C2欠損症(例えば狼瘡様症候群、脈管炎、多発筋炎、化膿性感染)、C3欠損症(例えば再発性化膿性感染)、C5欠損症(例えばナイセリア感染)、C6欠損症、C7欠損症(例えば脈管炎)、C8aおよびC8b欠損症、C9欠損症(例えばナイセリア感染)、C1−阻害因子欠損症(例えば遺伝性血管浮腫)、因子I欠損症(化膿性感染)、因子H欠損症(例えば溶血性尿毒症症候群、膜性増殖性糸球体腎炎)、因子D欠損症(例えばナイセリア感染)、プロパージン欠損症(例えばナイセリア感染)、MBP欠損症(例えば化膿性感染)、およびMASP2欠損症が挙げられる。
原発性免疫不全は、当該技術分野における常法に従って診断することができる。代表的な診断テストとしては、血中の様々な種類の単核細胞(例えば、リンパ球、CD19+、CD20+、およびCD21+リンパ球のような様々なBリンパ球群、ナチュラルキラー細胞、ならびにCD15+に対して陽性の単球を含むリンパ球および単球)の計数、活性化マーカー(例えばHLA−DR、CD25、CD80)の存在の測定、遅延型過敏症、マイトジェンおよび同属異系細胞に対する細胞応答、細胞によるサイトカイン産生に関する皮膚テストのようなT細胞の機能に関するテスト、定期予防接種および一般的な後天性感染に対する抗体を同定すること、およびIgGサブクラスを定量することなどによるB細胞の機能に関するテスト、ならびに、ニトロブルーテトラゾリウムクロリドの減少を測定し、化学走性および殺菌活性をアッセイすることなどによる食細胞の機能に関するテストが挙げられるが、これらに限らない。したがって、本明細書に記載されているとともに、当該技術分野において既知のように、AARSポリペプチドを用いて、原発性免疫不全を有する被検体の急性炎症または急性炎症反応を刺激または保持できる。
続発性免疫不全の原因の例としては、栄養失調、加齢、および投薬(例えば化学療法、疾患修飾性抗リウマチ薬、器官移植後の免疫抑制薬、糖質コルチコイド)が挙げられる。さらなる原因としては、骨髄および血球の癌(例えば白血病、リンパ腫、多発骨髄種)を含む様々な癌、ならびに、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を原因とする後天性免疫不全症候群(AIDS)のような特定の慢性感染が挙げられる。本明細書に記載されているとともに、当該技術分野において既知のように、AARSポリペプチドを用いて、免疫不全を有する被検体の急性炎症または急性炎症反応を刺激または保持できる。また、本明細書に記載されているとともに、当該技術分野において既知のように、AARSポリペプチドを用いて、続発性免疫不全を有する被検体の慢性炎症または慢性炎症反応も刺激または保持できる。
特定の実施形態では、例えば、治療上関連する細胞活性(細胞代謝、細胞分化、細胞増殖、細胞死、細胞動員、細胞移動、遺伝子転写、mRNA翻訳、細胞インピーダンス、サイトカイン産生などが挙げられるが、これらに限らない)を調節する方法であって、本明細書に記載されているようなAARS組成物と細胞を接触させることを含む方法を提供する。特定の実施形態では、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)またはその組成物は、自己免疫障害に関連する抗原、およびリポ多糖(LPS)のような外来抗原を含む免疫刺激抗原に対する細胞のサイトカイン反応を調節する。特定の実施形態では、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)またはその組成物は、上記のような免疫刺激抗原に対する細胞のサイトカイン反応を阻害する。特定の実施形態では、その細胞は末梢血単核細胞(PBMC)である。
特定の特定的な実施形態では、インビボまたはインビトロのいずれかで、PBMCのような哺乳類細胞中におけるTNF−αの産生または分泌を阻害する目的で、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)またはその組成物を提供する。特定の特定的な実施形態では、インビボまたはインビトロのいずれかで、PBMCのような哺乳類細胞中におけるIL−12の産生または分泌を阻害する目的で、QRSポリペプチドまたはその組成物を提供する。特定の実施形態では、QRSポリペプチドは、自己免疫障害に関連する抗原、およびリポ多糖(LPS)のような外来抗原を含む免疫刺激抗原に対する細胞のTNF−αまたはIL−12に基づく分泌反応を阻害する。したがって、上記のような活性の1つ以上の調節により恩恵を受けると思われるいずれかの細胞または組織または被検体を本質的に治療する際に、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)を用いてよい。
例えば腫瘍性疾患、免疫系疾患(例えば自己免疫疾患および炎症)、感染性疾患、代謝疾患、ニューロン/神経系疾患、筋/心臓血管疾患、異常造血と関連する疾患、異常血管新生と関連する疾患、異常細胞生存と関連する疾患などの治療または予防に関連する状況を含む数多くの治療的状況のいずれかにおいても、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)および組成物を用いてもよい。
例えば、特定の実例的な実施形態では、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)と本発明の組成物を用いて、例えば内皮細胞の増殖および/またはシグナル伝達の調節を介して、血管新生を調節してよい。内皮細胞の増殖および/または細胞シグナル伝達は、適切な細胞株(例えばヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC−L)およびヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC))を用いるとともに、適切なアッセイ(例えば内皮細胞移動アッセイ、内皮細胞増殖アッセイ、管形成アッセイ、マトリゲルプラグアッセイなど)を用いてモニタリングしてよく、これらの多くは、当該技術分野において既知かつ利用可能である。
したがって、関連する実施形態では、血管新生の調節による恩恵を受けると思われる本質的にいずれかの細胞または組織または被検体の治療の際に、本発明の組成物を用いてよい。例えば、いくつかの実施形態では、血管新生(例えば血管新生状態)をきたしているか、またはきたしやすい細胞または組織または被検体と、本発明の好適な組成物を接触させて、血管新生状態を阻害してよい。別の実施形態では、アンギオスタチン活性に干渉し、および/または、血管新生を促す目的で、血管新生(例えば血管新生状態)が不十分であるか、または不十分になりやすい細胞または組織と、本発明の適切な組成物を接触させてよい。
血管新生状態の実例的な例としては、加齢性黄斑変性(AMD)、癌(固形癌および血液癌の両方)、発育異常(器官発生)、糖尿病性失明、子宮内膜症、眼血管新生、乾癬、関節リウマチ(RA)、および皮膚変色(例えば血管腫、火炎状母斑、または単純母斑)が挙げられるが、これらに限らない。抗血管新生状態の例としては、心臓血管疾患、再狭窄、虚血組織の再灌流または心不全後の組織損傷、慢性炎症、および創傷治癒が挙げられるが、これらに限らない。
本発明の組成物は、自己免疫および/または炎症疾患、状態、および障害を直接的または間接的のいずれかで媒介する細胞を調節することによって、抗炎症性または炎症性の適応症を治療する免疫調節薬としても有用である場合もある。本発明の組成物の免疫調節薬としての有用性は、例えば移動アッセイ(例えば白血球もしくはリンパ球を用いるもの)、サイトカイン産生アッセイ(例えばTNF−α、IL−12)、または細胞生存能アッセイ(例えばB細胞、T細胞、単球、もしくはNK細胞を用いるもの)を含め、当該技術分野において既知かつ利用可能な数多くの技法のいずれかを用いてモニタリングできる。
本発明に従って治療してよい例示的な免疫系疾患、障害、または状態としては、原発性免疫不全、免疫媒介性血小板減少症、川崎病、骨髄移植(例えば成人または小児が最近骨髄移植を受けた状態)、慢性B細胞リンパ性白血病、HIV感染(例えば、成人または小児のHIV感染)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、輸血後紫斑などが挙げられるが、これらに限らない。
加えて、さらなる疾患、障害、および状態としては、ギラン・バレー症候群、貧血(例えば、バルボウイルスB19と関連する貧血、感染(例えば反復感染)のリスクの高い安定多発性骨髄腫患者、自己免疫性溶血性貧血(例えば温式自己免疫性溶血性貧血)、血小板減少症(例えば新生児血小板減少症)、および免疫媒介性好中球減少症)、移植(例えばサイトメガロウイルス(CMV)陽性器官のCMV陰性レシピエント)、低ガンマグロブリン血症(例えば、感染または罹患の危険因子を有する低ガンマグロブリン血症新生児)、てんかん(例えば難治性てんかん)、全身性脈管炎症候群、重症筋無力症(例えば重症筋無力症における代償障害)、皮膚筋炎、ならびに多発筋炎が挙げられる。
さらなる自己免疫疾患、障害、および状態としては、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性新生児血小板減少症、特発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性血球減少症、溶血性貧血、抗リン脂質症候群、皮膚炎、アレルギー性脳脊髄炎、心筋炎、再発性多発性軟骨炎、リウマチ性心疾患、糸球体腎炎(例えばIgA腎症)、多発性硬化症、神経炎、ブドウ膜炎眼炎、多発性内分泌腺症、紫斑病(例えばヘーノホ・シェーンライン紫斑病)、ライター病、スティッフマン症候群、自己免疫性肺炎症、ギラン・バレー症候群、インスリン依存性糖尿病、および自己免疫性炎症性眼疾患が挙げられるが、これらに限らない。
さらなる自己免疫疾患、障害、または状態としては、自己免疫性甲状腺炎、例えば細胞媒介性体液性甲状腺細胞毒性によって特徴付けられる橋本甲状腺炎および甲状腺炎を含む甲状腺低下症、SLE(例えば、循環性および局所生成性免疫複合体によって特徴付けられる場合が多い)、グッドパスチャー症候群(例えば、抗基底膜抗体によって特徴づけられる場合が多い)、天疱瘡(例えば、表皮棘融解性抗体によって特徴付けられる場合が多い)、例えばグレーブス病のような受容体自己免疫(例えば、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する抗体によって特徴付けられる場合が多い、重症筋無力症(例えば、アセチルコリン受容体抗体によって特徴付けられる場合が多い)、インスリン抵抗性(例えば、インスリン受容体抗体によって特徴づけられる場合が多い)、自己免疫性溶血性貧血(例えば、抗体感作赤血球の食作用によって特徴付けられる場合が多い)、および自己免疫性血小板減少性紫斑病(例えば、抗体感作血小板の食作用によって特徴付けられる場合が多い)が挙げられるが、これらに限らない。
さらなる自己免疫疾患、障害、または状態としては、関節リウマチ(例えば、関節内の免疫複合体によって特徴付けられる場合が多い)、抗コラーゲン抗体を伴う強皮症(例えば、核小体抗体および他の核抗体によって特徴付けられる場合が多い)、混合結合組織疾患(例えば、抽出核抗原、例えばリボ核タンパク質に対する抗体によって特徴付けられる場合が多い)、多発筋炎/皮膚筋炎(例えば、非ヒストン性抗核抗体によって特徴付けられる場合が多い)、悪性貧血(例えば、抗壁細胞抗体、抗ミクロソーム抗体、および抗内因子抗体によって特徴付けられる場合が多い)、特発性アディソン病(例えば、体液性細胞媒介性副腎細胞毒性によって特徴付けられる場合が多い)、不妊症(例えば、抗精子抗体によって特徴付けられる場合が多い)、原発性糸球体腎炎およびIgA腎症のような糸球体腎炎(例えば、糸球体基底膜抗体または免疫複合体によって特徴付けられる場合が多い)、水疱性類天疱瘡(例えば、基底膜中のIgGおよび補体によって特徴付けられる場合が多い)、シェーグレン症候群(例えば、複数の組織抗体および/または特異的な非ヒストン抗核抗体(SS−B)によって特徴付けられる場合が多い)、真性糖尿病(例えば、細胞媒介性かつ体液性島細胞抗体によって特徴付けられる場合が多い)、ならびに、喘息または嚢胞性線維症を伴うアドレナリン作動薬耐性を含むアドレナリン作動薬耐性(例えば、βアドレナリン作動薬受容体抗体によって特徴付けられる場合が多い)が挙げられるが、これらに限らない。
さらなる自己免疫疾患、障害、または状態としては、慢性活動性肝炎(例えば、平滑筋抗体によって特徴付けられる場合が多い)、原発性胆汁性肝硬変(例えば、抗ミトコンドリア抗体によって特徴付けられる場合が多い)、他の内分泌腺不全(例えば一部のケースでは、特異的組織抗体によって特徴付けられる)、白斑(例えば、抗色素細胞抗体によって特徴付けられる場合が多い)、脈管炎(例えば、血管壁中の免疫グロブリンおよび補体、ならびに/または低血清補体によって特徴付けられる場合が多い)、心筋梗塞後状態(例えば、抗心筋抗体によって特徴付けられる場合が多い)、心臓切開症候群(例えば、抗心筋抗体によって特徴付けられる場合が多い)、じんま疹(例えば、IgEに対するIgGおよびIgM抗体によって特徴付けられる場合が多い)、アトピー皮膚炎(例えば、IgEに対するIgGおよびIgM抗体によって特徴付けられる場合が多い)、ぜん息(例えば、IgEに対するIgGおよびIgM抗体によって特徴付けられる場合が多い)、炎症性ミオパシー、ならびに、その他の肉芽腫性変性萎縮性障害が挙げられるが、これらに限らない。
別の実施形態では、細胞の増殖および/または生存を調節するために、したがって、細胞の増殖および/または生存の異常によって特徴付けられる疾患、障害、または状態を治療または予防する目的で、本発明のAARSポリペプチド(例えばRQSポリペプチド)および組成物を用いてよい。例えば、特定の実施形態では、QRS組成物を用いて、アポトーシスを調節するか、および/または、アポトーシス異常と関連する疾患もしくは状態を治療してよい。アポトーシスは、プログラム細胞死として知られる細胞シグナル伝達カスケードを説明するために用いられる用語である。アポトーシスを誘発する分子(例えば、癌)、およびアポトーシスを阻害する分子(すなわち、脳卒中、心筋梗塞、敗血症など)に対して、様々な治療適応が存在する。アポトーシスは、当該技術分野において既知かつ利用可能である多数の利用可能な技法のいずれかによってモニタリングすることができ、この技法としては、例えば、DNAの断片化、膜の非対称性の変化、アポトーシスカスパーゼの活性化ならびに/またはチトクロムCおよびAIFの放出を測定するアッセイが挙げられる。
細胞生存の延長またはアポトーシスの阻害と関連する実例的な疾患としては、癌(濾胞性リンパ腫、癌腫、およびホルモン依存性腫瘍(結腸癌、心臓腫瘍、膵癌、黒色腫、網膜芽腫、グリア芽腫、肺癌、腸癌、精巣癌、胃癌、神経芽腫、粘液腫、筋腫、リンパ腫、内皮腫、骨芽細胞腫、骨巨細胞腫、骨肉腫、軟骨肉腫、腺腫、乳癌、前立腺癌、カポージ肉腫、および卵巣癌などが挙げられるが、これらに限らない))、自己免疫障害(多発性硬化症、シェーグレン症候群、グレーブス病、橋本甲状腺炎、自己免疫性糖尿病、胆汁性肝硬変、ベーチェット病、クローン病、多発筋炎、全身性エリテマトーデス、免疫関連糸球体腎炎、自己免疫性胃炎、自己免疫性血小板減少性紫斑病、および関節リウマチなど)、ウイルス感染(ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、およびアデノウイルスなど)、炎症、移植片対宿主病(急性および/または慢性)、急性移植片拒絶、ならびに慢性移植片拒絶が挙げられるが、これらに限らない。
細胞生存の延長と関連するさらなる実例的な疾患または状態としては、白血病(白血病(例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、および赤白血病を含む)、ならびに、慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病および慢性リンパ球性白血病)を含む)のような悪性疾患および関連障害、髄異形成症候群、真性赤血球増加症、リンパ腫(例えば、ホジキン病および非ホジキン病)、多発骨髄腫、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、H鎖病、および固形腫瘍(線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑液腫瘍、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、肺癌、腎細胞癌、ヘパトーム、胆管癌、絨毛癌、セミノーマ、胎生期癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、および網膜芽腫のような肉腫および癌腫が挙げられるが、これらに限らない)の進行および/または転移が挙げられるが、これらに限らない。
アポトーシスの増大と関連する実例的な疾患としては、AIDS(HIV誘発性腎症およびHIV脳炎など)、神経変性障害(アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮側索硬化症、色素性網膜炎、小脳変性および脳腫瘍、または従前の関連疾患など)、自己免疫障害(多発性硬化症、シェーグレン症候群、グレーブス病、橋本甲状腺炎、自己免疫性糖尿病、胆汁性肝硬変、ベーチェット病、クローン病、多発筋炎、全身性エリテマトーデス、免疫関連糸球体腎炎、自己免疫性胃炎、血小板減少性紫斑病、および関節リウマチなど)、脊髄形成異常症候群(再生不良性貧血など)、移植片対宿主病(急性および/または慢性)、虚血性傷害(心筋梗塞、脳卒中、および再灌流傷害を原因とするものなど)、肝臓損傷または疾患(例えば、肝炎関連肝臓損傷、肝硬変、虚血/再灌流傷害、胆汁うっ滞(胆管損傷)および肝臓癌)、毒素誘発性肝疾患(アルコールを原因とするものなど)、敗血症性ショック、潰瘍性大腸炎、悪液質、ならびに食欲不振が挙げられるが、これらに限らない。
さらなる実施形態では、本発明の組成物は、ニューロン/神経系の疾患または障害の治療の際に有用である場合があり、その実例的な例としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンチントン舞踏病、交代性片麻痺、筋萎縮側索硬化症、運動失調、脳性麻痺、慢性疲労性症候群、慢性疼痛症候群、先天性神経系異常、脳神経疾患、せん妄、認知症、脱髄疾患、自律神経障害、てんかん、頭痛、ハンチントン病、水頭症、髄膜炎、運動障害、筋疾患、神経系新生物、神経皮膚症候群、神経変性疾患、神経毒性症候群、眼球運動障害、末梢神経系障害、下垂体障害、脳空洞症、レット症候群、睡眠障害、脊髄障害、脳卒中、シデナム舞踏病、ツレット症候群、神経系の外傷および損傷などが挙げられる。
さらに、追加的な実施形態は、副腎脳白質ジストロフィ、クラッベ病(球様細胞白質萎縮症)、異染性白質萎縮症、アレクサンダー病、カナバン病(海綿状白質萎縮症)、ペリツェウス・メルツバッハー病、コケーン症候群、ハーラー病、ロウ症候群、リー病、ウィルソン病、ハレルフォルデン・スパッツ病、テイ・サックス病などのような代謝障害の治療の際に本発明の組成物を用いることに関する。代謝プロセスの調節における本発明の組成物の有用性は、当該技術分野において既知かつ利用可能な様々な技法のいずれかを用いてモニタリングしてよく、この技法としては、例えば、脂肪細胞の脂質生成または脂肪細胞の脂肪分解を測定するアッセイが挙げられる。
本発明のさらに具体的な実施形態では、本発明のAARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)および組成物を用いて、例えば細胞シグナル伝達タンパク質(例えばAkt)を介して細胞シグナル伝達を調節してよい。細胞シグナル伝達は、数多くの周知のアッセイのうちのいずれかを用いてモニタリングしてよい。例えば、一般的な細胞シグナル伝達イベントの誘発は、様々な標的タンパク質のリン酸化パターンの変化を通じてモニタリングすることができる。したがって、QRSポリペプチドでの細胞の処理に応答する細胞シグナル伝達活性を検出することは、明確な生物学的作用の指標としての役割を果たす。このアッセイで用いる標的タンパク質は、主要な細胞シグナル伝達カスケードの重要な構成要素を含むように選択してよく、それによって、細胞シグナル伝達の景観とその治療上の関連性についての幅広い概観が得られる。一般に、このようなアッセイは、QRSポリペプチドで細胞を処理してから、標的タンパク質のリン酸化(活性化)型を特異的に検出する抗体で免疫検出することを含む。
治療上関連する細胞シグナル伝達イベントをモニタリングするのに用いる実例的な標的タンパク質としては、p38 MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼ。細胞性のストレスおよび炎症性サイトカインにより活性化され、細胞分化およびアポトーシスに関与する)、SAPK/JNK(ストレス活性化プロテインキナーゼ/Jun−アミノ末端キナーゼ。細胞ストレスおよび炎症性サイトカインによって活性化される)、Erk1/2、p44/42 MAPK(マイトジェン活性化プロテインキナーゼErk1およびErk2。多種多様な細胞外シグナルによって活性化され、細胞の成長および分化の調節に関与する)、ならびに、Akt(インスリンおよび様々な成長因子または生存因子によって活性化され、アポトーシスの阻害、グリコーゲン合成の調節、細胞周期調節、および細胞成長に関与する)を挙げてよいが、これらに限らない。リン酸化によって媒介される細胞シグナル伝達の変化の一般的な指標として、チロシン残基の一般的なリン酸化もモニタリングしてよい。
当然ながら、本発明の組成物が調節する細胞イベントまたは細胞活性をモニタリングするために、細胞接着分子(例えば、カドヘリン、インテグリン、クラウディン、カテニン、セレクチンなど)、および/またはイオンチャネルタンパク質のような他のクラスのタンパク質もアッセイしてもよいことは分かるであろう。
本発明の別の具体的な実施形態では、本発明のAARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)および組成物を用いて、細胞、例えば白血球によるサイトカインの産生を調節してよい。サイトカインの産生は、当該技術分野において既知の数多くのアッセイ(すなわちRT−PCR、ELISA、ELISpot、フローサイトメトリーなど)のうちのいずれかを用いてモニタリングしてよい。一般に、このようなアッセイは、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)で細胞を処理してから、サイトカインmRNAまたはポリペプチドを検出して、サイトカイン産生量の変化を測定することを含む。したがって、AARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)による細胞の処理に応答してサイトカイン産生量が増加および/または減少するのを検出することは、明確な生物学的作用の指標としての役割を果たす。本発明のQRSポリペプチドは、サイトカインの産生を調節することによって、免疫反応または炎症反応を誘発、促進、および/または阻害できる。例えば、本発明のAARSポリペプチド(例えばQRSポリペプチド)および組成物を用いて、被検体のサイトカインプロファイル(すなわちタイプ1対タイプ2)を変化させてよい。QRS組成物の生物学的作用をモニタリングする目的で測定してよい実例的なサイトカインとしては、IL−1α、IL−1β、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−10、IL−12、IL−15、IL−18、IL−23、TGF−β、TNF−α、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、RANTES、MIP−1α、MIP−1β、MCP−1、GM−CSF、G−CSFなどが挙げられるが、これらに限らない。
一般には、治療有効量のポリペプチドを被検体または患者に投与する。特定的な実施形態では、投与するポリペプチドの量は典型的には、患者の体重1kg当たり約0.1μg〜約0.1mg〜約50mgの範囲となる。疾患の種類および重症度に応じて、体重1kg当たり約0.1μg〜約0.1mg〜約50mg(例えば1回当たり約0.1〜15mg/kg)のポリペプチドが、例えば1回以上の個別投与または持続注入によって患者に投与する際の初期量候補であることができる。例えば投与レジメンは、約4mg/kgの初期負荷量を投与してから、週に1回、約2mg/kgの維持量、すなわち、初期負荷量の半量でポリペプチドを投与することを含んでよい。ただし、他の投与レジメンも有用である場合がある。典型的な1日の投与量は、上記の要因に応じて、約0.1μg/kg〜約1μg/kg〜100mg/kg以上の範囲となる。数日間以上にわたる反復投与では、状態に応じて、疾患の症状が所望どおりに抑制されるまで治療を持続する。上記およびその他の療法(例えばエキソビボ療法)の経過は、従来の方法およびアッセイによって、ならびに、医師またはその他の当業者にとって既知の基準に基づき、容易にモニタリングすることができる。
製剤および医薬組成物
本発明の組成物は、製薬学的に許容可能または生理学的に許容可能な溶液中に配合したアミノアシルtRNAシンテターゼポリペプチド(そのトランケート体および/または変異体を含む)であって、単独でまたは1つ以上の他の治療様式と組み合わせて、細胞または動物に投与するためのものを含む。本発明の組成物は所望に応じて、他の薬剤(例えば、他のタンパク質もしくはポリペプチド、または、製薬学的に活性な様々な薬剤など)とも組み合わせて投与してよいことも分かるであろう。その追加の薬剤が、炎症反応調節活性、または実現するのが望ましい他の作用に悪影響を及ぼさないならば、本発明の組成物中に含めてもよい他の成分に対する制限は事実上ない。
本発明の医薬組成物では、製薬学的に許容可能な賦形剤および担体溶液の配合は当業者に周知であり、様々な治療レジメン(例えば、経口、非経口、静脈内、鼻腔内、および筋肉内投与および製剤を含む)で、本明細書に記載されている特定の組成物を用いる際に適した投与および治療レジメンの作成も同様である。
特定の用途では、本明細書に開示されている医薬組成物は、経口投与を介して被検体に送達してよい。したがって、これらの組成物は、不活性賦形剤または同化可能な食用担体とともに配合しても、硬ゼラチンカプセルまたは軟ゼラチンカプセルに封入しても、圧縮して錠剤にしても、食品とともに直接組み込んでもよい。
特定の環境では、例えば米国特許第5,543,158号、米国特許第5,641,515号、および米国特許第5,399,363号(それぞれ、その全体が参照により、本明細書に具体的に組み込まれる)に記載されているように、本明細書に開示されている医薬組成物は、非経口送達、静脈内送達、筋肉内送達、または、さらには腹腔内送達するのが望ましいであろう。ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と好適に混合した水中で、遊離塩基または薬理学的に許容可能な塩としての活性化合物の溶液を調製してよい。また、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中、ならびに油中で、分散体を調製してもよい。これらの調製物は、通常の保存および使用条件下で、微生物の成長を防止するための防腐剤を含む。
注射用途に適した医薬形態としては、滅菌水溶液または分散液、および、滅菌注射液または分散液を即時調製するための滅菌粉末が挙げられる(米国特許第5,466,468号(その全体は参照により、本明細書に具体的に組み込まれる))。いずれのケースでも、医薬形態は無菌である必要があり、注射しやすい程度の流動性を有する必要がある。医薬形態は、製造条件および保存条件下で安定的である必要があり、細菌および真菌のような微生物の汚染作用から保護する形で保存する必要がある。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、ならびに/または植物油を含む溶媒または分散媒であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングを用いること、分散液の場合、必要な粒径を保持させること、および界面活性剤を用いることによって保持させてよい。微生物作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チロメサールなどによって容易化することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含めるのが好ましいであろう。組成物中で吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを用いることによって、注射用組成物を持続的に吸収させることができる。
水溶液で非経口投与する際には、例えば、必要に応じてその溶液に好適な形で緩衝液を加え、その希釈液はまず、十分な生理食塩水またはグルコースで等張化する必要がある。これらの特定的な水溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与に特に適している。これに関連して、用いることができる滅菌水媒体は、本開示を考慮すれば、当業者には既知であろう。例えば、1回投与量を1mlの等張NaCl溶液に溶解させ、1000mlの皮下注入用流体に添加するか、または、推奨注入部位に注射してよい(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,15th Edition,pp.1035−1038 and 1570−1580を参照されたい)。治療する被検体の状態に応じて、投与量を多少変えることが必要になる。いずれにしても、投与の責任を負う者が、個々の被検体に適した用量を決定する。さらに、ヒトに投与する際には、調製物は、FDAのOffice of Biologicsの基準によって求められる無菌性、発熱性、ならびに、一般的な安全性および純度の基準を満たす必要がある。
滅菌注射液は必要に応じて、上に列挙した様々な他の成分とともに、活性化合物を必要な量で適切な溶媒中に組み込んでから、ろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、基剤の分散媒、および上に列挙した成分由来の他の必要な成分を含む滅菌ビヒクルに、様々な滅菌活性成分を組み込むことによって分散液を調製する。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分といずれかの追加的な所望の成分とからなる粉末が、事前に濾過滅菌したその溶液から得られる真空乾燥技法および凍結乾燥技法である。
本明細書に開示されている組成物は、天然の形態または塩形態で調合してよい。製薬学的に許容可能な塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基を用いて形成させたもの)、および、例えば塩酸またはリン酸のような無機酸、または、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸を用いて形成させた酸付加塩が挙げられる。遊離カルボキシル基を用いて形成させた塩も、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄のような無機塩基、および、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、およびプロカインなどのような有機塩基から誘導することができる。調合の際、溶液は、投与製剤と適合する様式、かつ治療有効量で投与することになる。製剤は、注射液、薬物放出カプセルなどのような様々な剤形で容易に投与する。
本明細書で使用する場合、「担体」には、ありとあらゆる溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、賦形剤、抗菌剤、抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝液、担体液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。製薬学的に活性な物質用のこのような媒質および作用剤を用いることは、当該技術分野において周知である。いずれかの従来の媒質または作用剤が活性成分と不適合である場合を除き、医薬組成物中で媒質または作用剤を用いることが意図されている。補助的な活性成分を医薬組成物に組み込むこともできる。
「製薬学的に許容可能な」という語句は、ヒトに投与した場合に、アレルギー反応または類似の有害な反応を引き起こさない分子体および組成物を指す。活性成分としてタンパク質を含む水性組成物の調製は、当該技術分野において十分に理解されている。典型的には、このような組成物は、溶液または懸濁液のいずれかの注射液として調製し、注射前に液体によって溶液または懸濁液にするのに適した固体形態でも調製することができる。調製物は、乳化することもできる。
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、鼻腔内噴霧、吸入、および/または他のエアゾール送達ビヒクルによって送達してよい。遺伝子、ポリヌクレオチド、およびペプチド組成物を鼻エアゾールスプレーによって肺に直接送達する方法は、例えば、米国特許第5,756,353号および米国特許第5,804,212号(それぞれ、その全体が参照により、本明細書に具体的に組み込まれる)に記載されている。同様に、鼻腔内微粒子樹脂(Takenaga et al,,1998)、およびリゾホスファチジル−グリセロール化合物(米国特許第5,725,871号(参照により、その全体が本明細書に具体的に組み込まれる))を用いて薬物を送達することも、製薬学分野において周知である。同様に、ポリテトラフルオロエチレン支持マトリックスの形態での薬物の経粘膜送達は、米国特許第5,780,045号(参照により、その全体が本明細書に具体的に組み込まれる)に記載されている。
局所製剤も含まれる。局所製剤の例としては、クリーム、軟膏、パスタ剤、ローション剤、およびゲルが挙げられる。
特定の実施形態では、送達は、本発明の組成物を好適な宿主細胞に導入するためのリポソーム、ナノカプセル、微粒子、ミクロスフィア、脂質粒子、小胞などを用いて行ってよい。具体的には、本発明の組成物は、脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェア、またはナノ粒子などに封入された形で送達されるように調合してよい。既知かつ従来の技法を用いて、このような送達ビヒクルを調合および使用することができる。
本明細書で引用されているすべての文献、特許出願、および発行済み特許は参照により、個々の各文献、特許出願、または発行済み特許が参照により組み込まれることが具体的かつ個々に記されているかのように、本明細書に組み込まれる。
例示および例として、かつ明確に理解する目的で、上記の発明について多少詳しく説明してきたが、当業者であれば、本発明の教示を踏まえれば、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明に特定の変更および修正を行ってよいことは容易に分かるであろう。限定としてではなく、単なる例示として、下記の実施例を提供する。当業者であれば、本質的に同様の成果を上げるように変更または修正できる重要ではない様々なパラメーターを容易に認識するであろう。
実施例1
アミノアシルtRNAシンテターゼは、リポ多糖(LPS)チャレンジ後、好中球の肺への移動および浸潤を低減する。
好中球の循環系からの肺への移動は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)に関係している(例えば、R.A.Stockley,Chest 121:151S−155S,2002を参照されたい)。CXCR−2の発現は、好中球の移動の一因となることがある(例えば、Rios−Santos et al.,American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
175:490−497,2007を参照されたい)。チロシルtRNAシンテターゼ(YRS)ポリペプチドとヒスチジルtRNAシンテターゼ(HisRS)ポリペプチドを用いて、好中球媒介性障害を治療できるか割り出すために、雄のC57BL/6マウスに麻酔し、200μg/mlのリポ多糖(LPS、Sigma−Aldrichカタログ#L2880)を50μl、鼻腔内注射し、LPS投与の約8時間後に殺処分した。マウスは、LPSへの曝露前に、YRSポリペプチド、HisRSポリペプチド、またはコントロールで処理した。気管カテーテルを挿入し、1mlの氷冷塩類溶液で肺を5回洗い流すことによって、気管支肺胞洗浄(BAL)サンプルを回収した。その後の細胞の染色および計数に備えて、洗浄流体を回収した。
図1Aに示されているように、好中球は典型的には、健常な未処置の動物から回収したBAL流体には存在しない。LPSの鼻腔内投与によって、循環好中球が肺に浸潤し、BALサンプル中の好中球が著しく増加した(図1AのLPSグループ)。デキサメタゾン(この実験のポジティブコントロールとして用いた合成コルチコステロイド)で事前に腹腔内処理を行ったところ、LPSチャレンジ後、好中球が肺に移動する能力が低下した(図1AのDexグループ)。同様に、LPS投与の7〜8時間前および1.5時間前に2回、YRSシンテターゼポリペプチドとHisRSシンテターゼポリペプチドをそれぞれ静脈内投与したところ、BALサンプル中の好中球が大幅に減少した。YRSについての結果は図1に示されている(図1AのY341Aグループ、図1BのミニYRSグループ)。完全長HisRSポリペプチドは、好中球に対して同様の作用を及ぼしたとともに(図2A)、好酸球の肺への移動も低下させることができた(図2B)。同様の結果は、トリプトファニルtRNAシンテターゼ(WRS)ポリペプチドでも見られる。
実施例2
チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドは、CXCR−2受容体でトランスフェクションした293細胞株およびCHO細胞株の移動を刺激する。
チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドに応答して、CXCR−2発現細胞が移動するのを測定することによって、チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドのCXCR−2シグナル伝達に対する作用をテストした。10%の熱不活化FBS、1%のペニシリン−ストレプトマイシン、および800μg/mlのジェネティシン(すべて、カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogenから購入)を添加したDMEM培地中に、293/CXCR−2細胞を維持した。0.1%のBSAを含むDMEM培地を移動緩衝液として用いた。移動アッセイの前に、細胞を30分間、移動緩衝液中で血清飢餓状態にし、200gで5分間、遠心分離し、最終密度が1×106細胞/mlとなるように、移動緩衝液に再懸濁した。100μlを6.5mmのトランスウェルフィルターインサート(マサチューセッツ州ケンブリッジのCostar)に加え、コントロールのケモカイン、チロシルtRNAシンテターゼポリペプチド、または緩衝液のみを含む600μlの移動緩衝液をプレートの下室に加えた。細胞を4時間にわたって移動させ、上室(トランスウェルフィルターインサート)に残った細胞をコットンスワブで除去した。続いて、500μlの細胞解離緩衝液(カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen)および12μg/mlのカルセインAM(カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen)を含む新たな24ウェルプレートに、フィルターインサートを移した。1時間、37℃でインキュベート後、細胞を回収し、100μlのPBSに再懸濁し、384ウェルの透明なGreiner製プレートに移し、プレートリーダーの蛍光によって計数した。
10%の熱不活化FBS、1%のペニシリン−ストレプトマイシン−グルタミン、および800μg/mlのジェネティシンを添加したF12倍地中に、CHO−K1/CXCR−2細胞を維持した。0.5%のBSAを含むF12培地を移動緩衝液として用いた。移動の前に、細胞を30分間、移動緩衝液中で血清飢餓状態にし、細胞解離緩衝液を用いて回収し、200gで5分間、スピンダウンし、最終密度が1×106細胞/mlとなるように、移動緩衝液に再懸濁した。100μlを6.5mmのトランスウェルフィルターインサートに加え、コントロールのケモカイン、チロシルtRNAシンテターゼポリペプチド、または緩衝液のみを含む600μlの移動緩衝液をプレートの下室に加えた。細胞を3時間にわたって移動させ、上室(トランスウェルフィルターインサート)に残った細胞をコットンスワブで除去した。続いて、500μlのPBSおよび12μg/mlのカルセインAMを含む新たな24ウェルプレートに、フィルターインサートを移した。30分、37℃でインキュベート後、再度、500μlのフェノールレッド不含トリプシンを含む新たな24ウェルプレートにフィルターを移した。2〜5分間インキュベート後、分離した細胞を回収し、100μlのPBSに再懸濁し、384ウェルの透明なGreiner製プレートに移し、プレートリーダーの蛍光によって計数した。
図3は、チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドが、CXCR−2でトランスフェクションした細胞の移動を誘発する能力を示している。
実施例3
チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドは、多形核(PMN)細胞の移動を刺激する。
YRSポリペプチドのPMN細胞の移動に対する作用を試験するために、Rosettesep(登録商標)Human Granulocyte Enrichment Kit(ブリティッシュコロンビア州バンクーバーのStemCell Technologies)をメーカーの指示に従って用いて、新鮮なヒト末梢血からヒト顆粒球細胞を精製した。0.5%のFBSを添加した無血清RPMI培地を移動緩衝液として用いた。4×107個の細胞を1mlの移動緩衝液に再懸濁させ、1mg/mlのカルセインAM溶液(カリフォルニア州カールズバッドのInvitrogen)8μlとともに、30分間インキュベートした。細胞を回収し、200gで5分間、ブレーキオフにてスピンダウンし、移動緩衝液で1回洗浄し、最終密度が1×107/mlになるように、同じ緩衝液に再懸濁させた。
100μを6.5mmのトランスウェルフィルターインサート(マサチューセッツ州ケンブリッジのCostar)に加え、コントロールのケモカイン、チロシルtRNAシンテターゼポリペプチド、または緩衝液のみを含む600μlの移動緩衝液をプレートの下室に加えた。細胞をインキュベーター内で45分間にわたって移動させ、下室に移動した細胞を回収し、100μlのPBSに再懸濁させ、384ウェルの透明のGreiner製プレートに移し、プレートリーダーの蛍光によって計数した。
図4は、ケモカインを用いた場合に典型的に観察される釣鐘移動曲線を示している。チロシルtRNAシンテターゼポリペプチドは、低いpM濃度および高いμM濃度の両方でPMNの二相性の移動を誘発した。
実施例4
アスパルチルtRNAシンテターゼポリペプチドD1は、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両方の分泌を誘発する。
完全長AspRSのD1断片(1〜154番の残基)と炎症との間の考え得る関連性を証明するために、組み換えタンパク質を健常なマウスに静脈内注射し、血流に分泌される炎症性サイトカイン(炎症性と抗炎症性の両方)の変化(ビヒクルコントロールとの比較)を観察した。注射の2時間後、および6時間後に血清を回収し、TNF−αおよびIL−10のレベルをELISAによって測定した。
注射の2時間後にD1を調べたところ、炎症性サイトカイン(TNF−α、MIP−1b、IL−12(p40)、KC、MIP−2)、および、抗炎症性サイトカインであるIL−10の両方の分泌が増大していることが観察された(図5Aおよび5B)。注射の6時間後のD1では、炎症性サイトカインは検出できなかったが、抗炎症性のIL−10の血清中のレベルは増大し続けていた(図5AおよびBを参照されたい)。
これらの結果を確認するために、ヒトドナーから単離した、単球とリンパ球との混合体を意味する末梢血単核細胞(PBMC)をインビトロでD1タンパク質(および完全長AspRSタンパク質)に曝露し、その培地において、処理に応答してTNF−αまたはIL−10のいずれかが分泌されることについて試験した。インビボで観察された作用と同様に、D1で処理することによって、混合細胞集団からTNF−αが分泌されたとともに(処理の4時間後)、IL−10も分泌された(処理の24時間後)(図5CおよびDを参照されたい)。
実施例5
スプライス変異体HRS−SV9およびHRS−SV11は、活性化T細胞におけるIL−2の分泌を増大させる。
抗原提示細胞(APC)によって抗原が提示Sされると、活性化T細胞の最も初期の検出可能な反応は、IL−2のようなサイトカインの分泌である。オートクラインの分泌を通じて、IL−2はT細胞の増殖を促し、それによって、抗原を排除するのに必要な細胞を生成させる。したがって、IL−2分泌調節因子は、Tリンパ球媒介性免疫反応に対する免疫調節薬としての役割を果たす。
白血病Jurkat T細胞(ATCC No:TIB−152)は、活性化の指標としてIL−2の発現と放出を利用して、T細胞の活性を調査する目的で広く用いられている。T細胞の活性化のために、ホルボールエステル(PMA)とイオノマイシン(IOM)によってJurkat T細胞を刺激した。IL−2の培地への分泌をELISAによって評価した。予想どおり、PMAおよびイオノマイシンによって刺激したJurkat T細胞は、用量依存的にIL−2を放出した。
図6に示されているように、HRS−SV9およびHRS−SV11は、PMAおよびIOMの両方を適用したところ、IL−2の分泌を有意に上昇させた。すなわち、HRS−SV9およびHRS−SV11のいずれも、免疫調節活性を示した。
実施例6
スプライス変異体HRS−SV9は、PBMCにおけるTNF−αの分泌を刺激する。
末梢血単核細胞(PBMC)をヒト血液から単離した。10%のFBSを含むRPMI培地にこの細胞を再懸濁して、1×106細胞/mLにした。100万個の細胞を24時間、6.25nm、12.5nm、25nm、50nm、100nm、および250nmのHRS−SV9で処理した。また、PBMCは、1EU/mLのリポ多糖(LPS)、PBS、または100nmのネガティブコントロールタンパク質1もしくは2によっても処理した。24時間後、2000×gで10分間遠心分離することによって細胞上清を回収し、TNF−α ELISAアッセイ(R&D Systems、カタログ番号DAT00C)で評価した。
図7に示されているように、HRS−SV9はPBMCを刺激して、容量依存的にTNF−αを分泌させた。これに対し、PBSまたはネガティブコントロールタンパク質で処理した細胞は、最小限のTNF−αしか分泌しなかったか、TNF−αを分泌しなかった(PBS、Neg Ctrl.1、およびNeg.Ctrl.2)。既知のTNF−α分泌誘発因子であるLPSでは、1EU/mlにおいて陽性シグナルが認められた。最小限の量のLPSしかHRS−SV9タンパク質に存在していなかったが(250nMにおいて約0.11EU/mL)、HRS−SV9で観察されたTNF−αシグナルは、LPSに起因すると思われるシグナルよりも強い。すなわち、この実施例の結果によって、HRS−SV9が、TNF−α分泌調節因子としての役割を果たすことが示されている。
実施例7
内因性ヒトグルタミニルtRNAシンテターゼ(QRS)断片の生成と同定
完全長組み換えヒトQRS(配列番号25)を発現させ、ニッケルIMACクロマトグラフィーを用いて大腸菌から精製した。精製プロセスを通じて内因性タンパク質分解断片を生成してから、LC/MS/MSを用いて特徴付けを行った。いずれか1つの理論によって束縛されたくないが、これらの断片は、自然のタンパク質分解プロセスを通じてヒト細胞で作られる断片を示していると考えられる。
ヒトQRSでタンパク質分解が生じる残基を同定するために、4〜12%のMOPSで泳動するSDS−PAGEによって、QRSを分離し、その断片を含むゲルスライスを切除し、インゲルトリプシン消化後、LC/MS/MS解析を行った。このプロセスによって、この完全長タンパク質の部分のうち、QRS断片が生成された部分と、内因性のタンパク質分解切断に起因し得る非トリプシン切断部位の両方を同定することができた。同定されたタンパク質断片のいずれも、QRSのN末端部分を表していた。下記の表1および図8(A〜C)を参照されたい。
上記の表1に示されている、LC/MS/MSによって同定した断片とぴったり適合するQRS断片を過剰発現および精製のために、大腸菌タンパク質発現ベクターにクローニングした。ニッケルIMACクロマトグラフィーを用いてタンパク質を精製し、Sartobind Qという膜(Sartorius)を用いて、夾雑物を除去した。図9を参照されたい。
実施例8
QRSのN末端タンパク質分解断片は、PBMCからLPS誘発性TNF−αが分泌されるのを阻害する。
QRSポリペプチドのTNF−αの分泌に対する作用を測定するために、健常なドナーから得たヒト血液から末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、QRSポリペプチドで処理した。10%のFBSを含むRPMI培地にこの細胞を再懸濁して、1×106細胞/mLにした。100万個の細胞を30分間、63nM、125nM、250nM、および500nM(Q3については463nMの用量応答性の各Q断片で前処理した。30分後、リポ多糖(LPS、0.5EU/mL)を前処理済みおよび未処理細胞に加えた。24時間後、2000×gで10分間遠心分離することによって細胞上清を回収し、TNF−α ELISA(R&D Systems、カタログ番号DAT00C)で、キットの説明に従って評価した。
図10に示されているように、4つのすべてのQRS断片による前処理によって、0.5EU/mlのLPSによる刺激後、PBMCから放出されるTNF−αの量が抑制された。
実施例9
QRSのN末端タンパク質分解断片は、4時間後および24時間後の時点に、PBMCからLPS誘発性TNF−αが分泌されるのを阻害する。
より長期におけるQRSポリペプチドのTNF−αの分泌に対する作用を測定するために、健常なドナーから得たヒト血液から末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、QRSポリペプチドで処理した。10%のFBSを含むRPMI培地にこの細胞を再懸濁して、1×106細胞/mLにした。100万個の細胞を30分間、500nMのQ4で前処理した。30分後、リポ多糖(LPS、0.5EU/mL)を、Q4で前処理した細胞と未処理の細胞に加えた。4時間後および24時間後に、2000×gで10分間遠心分離することによって細胞上清を回収し、TNF−α ELISA(R&D Systems、カタログ番号DAT00C)で、キットの説明に従って評価した。
図11に示されているように、Q4断片による前処理によって、0.5EU/mlのLPSによる刺激後、4〜24時間後であっても、PBMCから放出されるTNF−αの量が抑制された。
実施例10
QRSのN末端タンパク質分解断片は、PBMCからLPS誘発性IL−12(p40)が分泌されるのを阻害する。
QRSポリペプチドのIL−12の分泌に対する作用を測定するために、健常なドナーから得たヒト血液から末梢血単核細胞(PBMC)を単離し、QRSポリペプチドで処理した。10%のFBSを含むRPMI培地にこの細胞を再懸濁して、1×106細胞/mLにした。100万個の細胞を30分間、500nMのQ4で前処理した。30分後、リポ多糖(LPS、0.5EU/mL)を、Q4で前処理した細胞と未処理の細胞に加えた。インキュベーションから24時間後、細胞上清を回収し、液体窒素中で急速凍結した。IL−12(p40)のレベルを検出する多重サイトカイン解析のために、サンプルを凍結状態でMD Biosciences(ミネソタ州セントポール)に送付した。
図12に示されているように、QRSのQ4断片による前処理によって、LPSによる刺激後、PBMCから放出されるIL−12(p40)の量が抑制された。
実施例11
ヒスチジルtRNAシンテターゼ、アスパルチルtRNAシンテターゼ、およびp43ポリペプチドは、THP−1の移動を低減する。
10%の熱不活化FBS(Invitrogen、カタログNo.10082147)および0.05mMの2−メルカプトエタノールを添加したRPMI−1640培地(ATCCカタログNo.30−2001)中で、THP−1細胞(ATCCカタログNo.TIB−202)を培養した。細胞密度は、≦1×106細胞/mlに維持した。移動は、24ウェルプレート中のCorning Transwell Permeable Supports(直径6.5mm、ポアサイズ8.0μm、Fisher ScienticicカタログNo.07−200−150)で行った。
移動アッセイの前に、300gで10分間、遠心分離することによって細胞を回収し、PBSで洗浄し、所望の濃度のヒスチジルtRNAシンテターゼ(HisRS)、アスパルチルtRNAシンテターゼ(AspRS)、p43ポリペプチド、またはコントロールとしてのPBSを添加した移動培地(RPMI−1640培地、0.1%BSA)に、6×106細胞/mlの密度で再懸濁した。この細胞を6μg/mlのカルセインAM(Invitrogen、カタログNo.C3099)で蛍光標識し、37℃の5%CO2組織培養用インキュベーター内に45分間置いた。続いて、100μlの細胞(6×105個の細胞を含む)を移動ユニットの上室に加え、化学誘引物質CCL−5もしくはCCL−23(R&D Systems、カタログNo.278−RN−010(CCL−5)および131−M1−025(CCL−23))または緩衝液のみ(ネガティブコントロールとして)を含む600μlの移動培地をそれぞれの下室に加え、37℃の5%CO2インキュベーター内で細胞を2時間移動させた。
下室に移動した細胞を回収し、100μlのPBSに再懸濁し、384ウェルの透明なGreiner製プレートに入れ、蛍光(485/538/530)をプレートリーダーで定量した。結果は図13A〜図13Cに示されている。図13Aは、HisRsがTHP−1のCCL−23への移動を阻害する作用を示しており、図13Bは、AspRSがTHP−1のCCL−23への移動を阻害する作用を示しており、図13Cは、p43ポリペプチドがTHP−1のCCL−5への移動を阻害する作用を示している。
実施例12
マクロファージ中の内因性QRS断片のLC/MS/MSによる同定
非標準的な活性を有する内因性タンパク質分解QRS断片を同定するために、マクロファージ(RAW264.7)細胞株を無血清DMEM培地で、15×106細胞/フラスコの濃度にて処理した。48時間後、培地と細胞ペレットを回収して処理した。分泌された細胞質ゾルのプロテオーム画分由来の200μgのタンパク質をSDS−PAGEによって分離し、質量分析法による解析のためにゲルスライスを調製した。
Ultimate3000 μLCシステム(Dionex)を備えたイオントラップ質量分析計LTQ XL(ThermoFisher)によって、インゲル消化物を解析した。まず、サンプルをPepTrap(michrom)に10分間、0.1%ギ酸中の5%アセトニトリルとともに、Dionexのオートサンプラーを用いて充填した。続いて、10cmのC18樹脂を含む100μm(内径)の溶融シリカキャピラリーカラム(michrom)を用いて、このサンプルの解析を行った。0.45μl/分の流速で、0.1%ギ酸中の5〜33.5%アセトニトリルの線状勾配を用いて、110分以内に、このカラムから質量分析計にペプチドを溶出させた。
1フルMSスキャン後に、イオンが多い上位7つの7回のMS/MSスキャンを行うように、データ依存スキャンモードでLTQにかけた。動的排除は、リピートカウントを1、リピート期間を20秒、排除リストサイズを300、排除期間を60秒にすることによって可能にした。
LC−MS/MS解析後、マウスIPIデータベースの標的/デコイ連結型変異体を用いて、生データをBioWorks3.3.1(SEQUEST)で検索した。SEQUESTデータをフィルタリングし、DTASelectでソートした。フィルタリングしたプロテオームデータを整理して、Scripps Research InstituteのBenjamin Cravatt教授の研究室で設計されたPROTOMAPスクリプトを用いて、ペプトグラフにした(Dix et al.,Cell.134:679−691、2008(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。
図14は、QRSポリペプチド配列の説明とともに、細胞質ゾル画分(青)および馴化培地画分(赤)のタンパク質のトポグラフィーおよび移動解析プラットフォーム(PROTOMAP)を示しており、(紫)は、細胞質ゾル画分と馴化培地画分の両方でペプチドが見られたことを示している。図15A〜15Dは、図14のPROTOMAPに対応するペプチド断片を示している。これらの図では、(青、イタリック体)は、細胞質ゾルで検出されたペプチドに相当し、(赤、下線付き)は、馴化培地で検出されたペプチドに相当し、(紫、下線付きイタリック体)は、両方のサンプルで検出されたペプチドに相当する。図15Aは、バンド6(完全長QRS)のペプチド断片を示しており、図15Bは、バンド9(C末端RQS断片)のペプチド断片を示しており、図15C〜Dは、バンド19および20(N末端QRS断片)のペプチドを示している。
述べたように、上記の開示内容は、説明的、実例的、および代表的なものであり、以下に続く添付の特許請求の範囲によって定められる範囲を限定するものとして解釈すべきではない。