JP6247472B2 - 幹細胞の未分化状態維持剤及び増殖促進剤 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば幹細胞の増殖促進剤及び未分化状態維持剤並びに幹細胞の増殖促進方法及び未分化状態維持方法に関する。
脊椎動物(特に哺乳動物)の組織は、傷害若しくは疾患、又は加齢等に伴い細胞・臓器の損傷が起こった場合、再生系が働き、細胞・臓器の損傷を回復しようとする。この作用に、当該組織に備わる幹細胞が大きな役割を果たしている。幹細胞は、あらゆる細胞・臓器に分化する多能性を有しており、この性質により細胞・組織の損傷部を補うことで回復に導くと考えられている。このような幹細胞を応用した、次世代の医療である再生医療に期待が集まっている。
哺乳動物における幹細胞研究で最も進んでいる組織は骨髄である。骨髄には生体の造血幹細胞が存在しており、全ての血液細胞再生の源であることが明らかにされた。さらに骨髄には、造血幹細胞とは別に、その他の臓器(例えば、骨、軟骨、筋肉、脂肪等)へ分化可能な幹細胞が包含されていることが報告されている(非特許文献1参照)。
さらに、近年、骨髄以外にも、肝臓、膵臓、脂肪等、あらゆる臓器・組織に幹細胞が存在することが明らかにされ、各臓器・組織の再生及び恒常性維持を司っていることがわかってきた(非特許文献2〜5参照)。また、各組織に存在する幹細胞は可塑性に優れており、今まで自己複製が不可能であった臓器や組織の再生にも利用できる可能性がある。
近年、これらの幹細胞の能力(多能性)を、臓器や組織の再生へ応用するため、細胞移植治療や組織工学(再生医療や再生美容)の分野において幹細胞を生体組織から分離した後に培養し増殖させる技術の開発が進められている(非特許文献6〜7)。
特に、幹細胞を生体外で培養する場合、幹細胞の能力である多能性を維持した状態、すなわち、未分化な状態を維持させたまま増殖させることが極めて重要である。もし、この培養時に幹細胞の未分化状態が維持できず分化誘導が進んでしまった場合、最終的に調製された幹細胞の能力(多能性)は失われていることになり、目的の効果(臓器、組織の再生等)を発揮できない。
以上より、幹細胞を細胞移植治療や組織工学(再生医療や再生美容)に利用し、臓器、組織の再生を望む場合、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま培養できなければならない。
現在までに、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま増殖させる技術について、幾つか報告があるが、未だ発展途上である。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や造血幹細胞は、支持細胞(ストローマ細胞、又はフィーダー細胞)と共培養することで未分化を維持することができる(特許文献1及び非特許文献8〜10参照)。しかしながら、最近になってフィーダー細胞由来の内在性ウイルスによる異種動物間の感染例が報告されており(非特許文献11参照)、支持細胞を使用した幹細胞の培養は、医療用途を目的とした幹細胞の培養には適していない。
その他の方法に、サイトカインを複雑に組合せることによって幹細胞の未分化状態を維持させる方法がある。例えば、マウスES細胞は、LIF(白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor))を培地に添加することによって、未分化性が維持される(特許文献2及び非特許文献12参照)。その他、初期作用性サイトカイントロンボポイエチン(TPO)、インターロイキン6(IL-6)、FLT-3リガンド、及び幹細胞因子(SCF)の存在下で、未分化性を維持させることが胚性幹細胞、体性幹細胞等で報告されている(特許文献3及び非特許文献13参照)。
しかしながら、サイトカインは、高価であり、採取原料や保存性等の問題があり、容易な使用は難しい。加えて、LIFの効果は極めて特定の細胞系統に限定的であり、特に霊長類のES細胞や体性幹細胞においては、LIFの添加のみでは未分化状態を維持することができないことが明らかにされている(非特許文献9参照)。
現在、報告されている幹細胞の未分化状態の維持方法はいずれも、煩雑な操作を必要とし、また未分化状態の維持効果が低い。従って、幹細胞を再生医療に利用するために、幹細胞を、未分化状態を維持したまま移植に足り得る数まで増殖させる技術が求められていた。つまり、安全且つ簡便で効率的に、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま増殖させることができる技術が求められていた。
特開2004-24089号公報 特表2002-525042号公報 特許第3573354号公報
Pittenger M.F.ら, Science,1999年, Vol. 284, pp. 143-147 Goodell M.A.ら, Nat. Med., 1997年, Vol. 3, pp. 1337-1345 Zulewski H.ら, Diabetes, 2001年, Vol. 50, pp. 521-533 Suzuki A.ら, Hepatology, 2000年, Vol. 32, pp. 1230-1239 Zuk P.A.ら, Tissue Engineering, 2001年, Vol. 7, pp. 211-228 馬渕 洋 他, 日本再生医療学会誌, 2007年, Vol. 6, pp. 263-268 北川 全 他, 日本再生医療学会誌, 2008年,Vol. 7, pp. 14-18 Thomson J.A.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1995年, Vol. 92, pp. 7844-7848 Thomson J.A.ら, Science, 1998年, Vol. 282, pp. 1145-1147 Reubinoff B.E.ら, Nature Biotech., 2000年, Vol. 18, pp. 399-404 van der Laan L.J.ら, Nature, 2000年, Vol. 407, pp. 90-94 Smith A.G.ら, Dev. Biol., 1987年, Vol. 121, pp. 1-9 Madlambayan G.J.ら, J. Hematother. Stem Cell Res., 2001年, Vol. 10, pp. 481-492
上述のように、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま増殖させることができる技術が求められている。
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、幹細胞を、未分化状態を維持させたまま、効率良く増殖させる方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、コロハ(Trigonella Foenum-graecum)の抽出物が、幹細胞に対する優れた未分化状態維持効果と増殖促進効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)コロハの抽出物を有効成分として含有する幹細胞の増殖促進剤。
(2)コロハの抽出物を有効成分として含有する幹細胞の未分化状態維持剤。
(3)幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法。
(4)幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の増殖促進方法。
(5)幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の未分化状態維持方法。
本発明によれば、幹細胞を、未分化状態を維持したまま、効率的に増殖させることができる。従って、本発明は、再生医療や再生美容の分野において大きく貢献できるものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤は、コロハの抽出物を有効成分として含有するものである。本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤によれば、幹細胞の未分化状態を維持させたまま、幹細胞増殖を促進でき、当該薬剤は、再生医療や再生美容等の組織再生の分野において有用な薬剤である。さらに、幹細胞の未分化状態維持又は増殖促進のための研究用試薬として、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤を使用することができる。
また、本発明は、幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養することで、幹細胞の未分化状態を維持させたまま、幹細胞増殖を促進する方法に関する。換言すれば、本発明に係る方法は、幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法、幹細胞の増殖促進方法又は幹細胞の未分化状態維持方法ということができる。
ここで、コロハ(胡芦巴、学名:Trigonella Foenum-graecum)は、別名フェヌグリークとも呼ばれ、南西アジア原産のマメ科の植物である。コロハの種子は、カレー等のスパイスとして幅広く用いられ、中国、西洋、インド、東南アジア等、世界の伝承的な民間薬として知られている。本発明に用いるコロハの抽出物とは、コロハの花、茎、葉、枝、根、種子等の植物体の一部又は全草から抽出したものである。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温や冷蔵抽出したものであっても良い。本発明のコロハ抽出物は、特に種子から抽出されたものが好ましい。種子については、種子そのままを用いても良く、種皮を用いたり、種皮や表層の一部を取り除いた胚乳を用いても良い。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温や冷蔵抽出したものであっても良いが、加熱抽出方法が好ましい。
抽出に使用する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコールが良く、特に好ましくは、水、エタノールが良い。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良い。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
上述の溶媒を用いて、コロハを溶媒抽出に供する。溶媒に対するコロハの割合は、例えば1〜50%(w/w)、好ましくは5〜20%(w/w)が挙げられる。例えば、コロハの乾燥物から得られた粉砕物に水を加え、95〜100℃における熱水抽出を行うことで、コロハの抽出物を得ることができる。あるいは、コロハの乾燥物から得られた粉砕物に低級アルコール(例えば、エタノール等)又は液状多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)を添加し、常温(例えば5〜35℃)で抽出を行うことで、コロハの抽出物を得ることができる。
溶媒抽出後、得られた溶媒相自体をコロハの抽出物とすることができる。あるいは、必要に応じて、得られた溶媒相を、濃縮、希釈、濾過、乾燥等の処理及び活性炭等による脱色、脱臭処理等に供して、得られた生成物をコロハの抽出物とすることができる。特に、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理に供し、得られた乾燥物をコロハの抽出物として用いることが好ましい。
このようにして得られたコロハの抽出物を本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤の有効成分とする。本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤は、細胞培養用添加剤、研究用試薬、医療用試薬、細胞移植剤をはじめとして、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等への配合や応用が可能である。
本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤におけるコロハの抽出物の配合量は、特に限定されないが、例えば、当該薬剤全量に対し、乾燥物に換算して0.00001〜10重量%であることが好ましく、0.0001〜1重量%とすることが最も好ましい。0.00001重量%未満であると効果が十分に発揮されにくい場合がある。
以上に説明する本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤を、ヒトを含めた動物の幹細胞に適用することで、幹細胞の増殖を促進し、また幹細胞の未分化状態を維持することができる。本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤を適用する幹細胞としては、本発明の目的に沿うものであれば特に限定されず、例えば胚性の幹細胞(ES細胞);骨髄、血液、皮膚、脂肪、脳、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する体性の幹細胞;遺伝子導入等により人工的に作製された幹細胞が挙げられる。また、幹細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞又は凍結細胞のいずれであってもよい。好ましくは、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤は、骨髄、血液、皮膚又は脂肪組織由来の幹細胞に対してより効果を発揮する。さらに、幹細胞の分化の方向性及び分化の過程等について同等の特性を持っていれば、全ての哺乳動物由来の幹細胞に応用が可能である。例えば、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤は、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物の幹細胞に対して効果を発揮することができる。
あるいは、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤を、非ヒトES細胞又は哺乳動物体性幹細胞に適用することができる。
一方、本発明に係る方法は、幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法、幹細胞の増殖促進方法又は幹細胞の未分化状態維持方法である。
本発明に係る方法において、幹細胞を培養する培地、また同時に用いる添加剤としては、限定されるものではないが、例えば以下のものが挙げられる。
具体的には、幹細胞を培養する培地としては、細胞の生存に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン等)を含む基本培地、例えば、Dulbecco's Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco's Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank's balanced salt solution)等が挙げられる。また、培地に、増殖因子として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及び/又は白血球遊走阻止因子(LIF)を添加してもよい。さらに、必要に応じて、培地は、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質等を含有してもよい。
また、上記以外には、1〜20%の含有率で血清が培地に含まれることが好ましい。しかしながら、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
市販品の培地としては、インビトロジェン製の間葉系幹細胞基礎培地や、三光純薬製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、Sigma社製のハンクス液(Hank's balanced salt solution)等を用いることができる。
幹細胞培養に使用される培地に対するコロハの抽出物の添加濃度は、上述の本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤におけるコロハの抽出物の配合量に準じて適宜決定することができるが、例えば1〜1000μg/mL、好ましくは10〜100μg/mLの濃度が挙げられる。また、幹細胞の培養期間中、コロハの抽出物を、定期的に培地に添加してもよい。
幹細胞の培養条件としては、例えば35〜38℃(好ましくは36〜37℃)が挙げられる。
幹細胞の未分化状態維持は、例えば、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又はコロハの抽出物非存在下で培養した幹細胞と比較して、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又はコロハの抽出物存在下で培養した該幹細胞において幹細胞未分化マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで培養開始時の発現レベルと同程度のレベルに有意に維持されているか否かを決定することで評価することができる。幹細胞未分化マーカー遺伝子としては、例えばNanog遺伝子(Cell Res. 2007 Jan; 17(1):42-9. Review. Nanog and transcriptional networks in embryonic stem cell pluripotency. Pan G, Thomson JA.)等が挙げられる。
幹細胞未分化マーカー遺伝子発現の評価方法では、培養後の幹細胞からmRNA又はタンパク質を抽出する。次いで、得られたmRNA又はタンパク質中の幹細胞未分化マーカー遺伝子発現量を、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又はコロハの抽出物非存在下で培養した幹細胞における当該遺伝子発現量と比較する。mRNAレベルでは、例えば幹細胞未分化マーカー遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT-PCR、定量PCRやノーザンブロッティングによって確認する方法が挙げられる。また、タンパク質レベルでは、例えば幹細胞未分化マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング等の免疫学的方法が挙げられる。
本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又はコロハの抽出物非存在下で培養した幹細胞に比べて、本発明に係る幹細胞の未分化状態維持剤又はコロハの抽出物存在下で培養した幹細胞において、有意に(例えば、1.5〜5倍、好ましくは3〜5倍)幹細胞未分化マーカー遺伝子の発現レベルが培養開始時の発現レベルと同等に(例えば、培養開始時の発現レベルと比較して60%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上の発現レベルで)維持されている場合に、幹細胞の未分化状態を維持できたと判定することができる。
また、幹細胞の増殖促進は、例えば、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又はコロハの抽出物非存在下で培養した幹細胞と比較して、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又はコロハの抽出物存在下で培養した該幹細胞の細胞数が有意に増加されているか否かを決定することで評価することができる。
本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又はコロハの抽出物非存在下で培養した幹細胞に比べて、本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又はコロハの抽出物存在下で培養した幹細胞の細胞数が有意に(例えば、1.1〜10倍、好ましくは1.4〜5倍)増加されている場合に、幹細胞の増殖を促進できたと判定することができる。
一方、上記に説明した本発明に係る幹細胞の増殖促進剤又は未分化状態維持剤あるいは本発明に係る方法に準じて、コロハの抽出物を、単独で、あるいは培地と別々に又は培地と混合し、幹細胞の未分化状態維持又は増殖促進のための試薬キットとして提供することもできる。当該キットは、必要に応じて取扱い説明書等を含むことができる。あるいは、コロハの抽出物を、培地と混合し、幹細胞の未分化状態維持又は増殖促進用培地として提供することもできる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕コロハの抽出物の製造例
以下に、コロハを用いた溶媒抽出物の製造例を示す。
1.製造例1 コロハ種子の熱水抽出物
コロハ種子の乾燥物25gを粉砕し、得られた粉砕物に精製水500mLを加え、95〜100℃において2時間の抽出を行った。次いで、得られた抽出液を濾過に供し、さらに得られた濾液を濃縮及び凍結乾燥に供することで、コロハ種子の熱水抽出物を5.8g得た。
2.製造例2 コロハ種子のエタノール抽出物
コロハ種子の乾燥物50gを粉砕し、得られた粉砕物にエタノール500mLを加え、常温において3日間の抽出を行った。次いで、得られた抽出液を濾過に供し、さらに得られた濾液を濃縮乾固に供することで、コロハ種子のエタノール抽出物を1.8g得た。
3.製造例3 コロハ種子胚乳の熱水抽出物
コロハ種子の種皮及び表層の一部を除いた乾燥物25gを粉砕し、得られた粉砕物に精製水500mLを加え、95〜100℃において2時間の抽出を行った。次いで、得られた抽出液を濾過に供し、さらに得られた濾液を濃縮及び凍結乾燥に供することで、コロハ種子胚乳の熱水抽出物を6.0g得た。
4.製造例4 コロハ全草の熱水抽出物
コロハ全草の乾燥物25gを粉砕し、得られた粉砕物に精製水500mLを加え、95〜100℃において2時間の抽出を行った。次いで、得られた抽出液を濾過に供し、さらに得られた濾液を濃縮及び凍結乾燥に供することで、コロハ全草の熱水抽出物を6.5g得た。
5.製造例5 コロハ全草のエタノール抽出物
コロハ全草の乾燥物25gを粉砕し、得られた粉砕物にエタノール500mLを加え、常温において3日間の抽出を行った。次いで、得られた抽出液を濾過に供し、さらに得られた濾液を濃縮乾固に供することで、コロハ全草のエタノール抽出物を2.5g得た。
〔実施例2〕コロハの抽出物の幹細胞に対する未分化状態維持効果及び増殖促進効果の評価
以下に、実施例1において製造した製造例1〜5のコロハの抽出物を用いた、幹細胞に対する未分化状態維持効果及び増殖促進効果の実験例とその結果を示す。
1.実験例1 幹細胞に対する未分化状態維持効果の評価
Dulbecco's Modified Eagle Medium培養液(Gibco社製)に、ウシ胎児血清(FBS、15%、Sigma社製)、ヌクレオシド液(100倍希釈、大日本製薬社製)、非必須アミノ酸液(100倍希釈、大日本製薬社製)、β2-メルカプトエタノール液(100倍希釈、大日本製薬社製)、L-グルタミン液(100倍希釈、大日本製薬社製)、ペニシリン(100unit/mL、Sigma社製)とストレプトマイシン(100μg/mL、Sigma社製)を加えて調製した培地を用いて、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞:コスモバイオ社製)を、ゼラチン(Sigma社製)でコートした6cmディッシュに5x105個播種し、各抽出物(製造例1〜5)を最終濃度が0.001%になるように培地に添加し、3日間培養を続けた。
培養3日後に、細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen)によって細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、Nanog(未分化マーカー: Cell Res. 2007 Jan; 17(1):42-9. Review. Nanog and transcriptional networks in embryonic stem cell pluripotency. Pan G, Thomson JA.)の遺伝子発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
Nanog(未分化マーカー)用プライマーセット:
ATGCCTGCAGTTTTTCATCC(配列番号1)
GAGGCAGGTCTTCAGAGGAA(配列番号2)
Gapdh(内部標準)用のプライマーセット:
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号3)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号4)
未分化状態維持効果は、培養開始時のマウスES細胞におけるNanog mRNAの発現量を内部標準であるGapdh mRNAの発現量に対する割合として算出したNanogの遺伝子相対発現量(Nanog遺伝子発現量/Gapdh遺伝子発現量)の値を100%未分化状態とし、これに対し、培養3日後のES細胞におけるNanogの遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。
これらの試験結果を以下の表1に示す。
Figure 0006247472
表1に示すように、コロハの抽出物(製造例1〜5)全てに、顕著な幹細胞の未分化状態維持効果が認められた。以上より、コロハの抽出物の極めて優れた幹細胞の未分化状態維持効果を明らかにした。なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、体性の幹細胞についても同様な試験を行ったところ、顕著な幹細胞の未分化状態維持効果が認められた。
2.実験例2 幹細胞に対する増殖促進効果の評価
ヒト幹細胞培養液(TOYOBO社製)を用いて培養したヒト体性幹細胞(DSファーマバイオメディカル社製)を、6cmディッシュに3x105個播種し、コロハの抽出物(製造例1〜5)を最終濃度が0.001%になるように添加し、3日間培養を続けた。
3日間の培養後、細胞をPBS(-)にて3回洗浄した後、ラバーポリスマンにて集め、それぞれの細胞数をカウントした。
抽出物未添加時の総細胞数をコントロールとし、コントロールを100(%)とした場合の、コロハの抽出物(製造例1〜5)添加時の細胞数の増減(%)を算出し、幹細胞増殖促進効果の評価を行った。
これらの試験結果を以下の表2に示す。
Figure 0006247472
表2に示すように、コロハの抽出物(製造例1〜5)全てに、顕著な幹細胞増殖促進効果が認められた。なお、上述のコントロールの値を100%とした場合、培養開始時のヒト体性幹細胞数は、25%であった。以上より、コロハの抽出物の極めて優れた幹細胞増殖促進効果を明らかにした。なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、胚性の幹細胞(ES細胞)についても同様な試験を行ったところ、顕著な幹細胞増殖促進効果が認められた。
以上に示すように、コロハの抽出物を幹細胞に適用することで、従来の技術に比べて、簡便且つ効率的に、未分化状態を維持させたまま幹細胞の増殖を促進させることが可能になった。
本発明の活用例として、再生医療や再生美容への応用が期待される。例えば、本発明を利用することで、再生医療や再生美容に用いる未分化状態の幹細胞を簡便に効率良く調製することが可能となる。さらに、幹細胞の移植後又は組織に存在する幹細胞に対して、本発明に係るコロハの抽出物を、直接的に注入するか又は経口投与、塗布、貼付等により適用することで、該幹細胞を、未分化状態を維持させたまま増殖させることが可能である。
すなわち、本発明は、再生医療や再生美容における、幹細胞の調製方法及び/又は幹細胞の未分化状態維持剤若しくは増殖促進剤としての利用が可能である。

Claims (8)

  1. コロハ(Trigonella Foenum-graecum)の抽出物を有効成分として含有する幹細胞の増殖促進剤。
  2. 前記抽出物が、熱水又はエタノール抽出物である、請求項1記載の幹細胞の増殖促進剤。
  3. コロハの抽出物を有効成分として含有する幹細胞の未分化状態維持剤。
  4. 前記抽出物が、熱水又はエタノール抽出物である、請求項3記載の幹細胞の未分化状態維持剤。
  5. 幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法。
  6. 幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の増殖促進方法。
  7. 幹細胞を、コロハの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、幹細胞の未分化状態維持方法。
  8. 前記抽出物が、熱水又はエタノール抽出物である、請求項5〜7のいずれか1項記載の方法。
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