JP5710148B2 - 幹細胞の未分化維持剤及び増殖促進剤 - Google Patents

幹細胞の未分化維持剤及び増殖促進剤 Download PDF

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Description

本発明は、キク科に属するファニスラマ(学名:Calea urticifolia)の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、幹細胞に対して特異的な未分化維持及び/又は増殖促進剤に関する。また、本発明は、キク科に属するファニスラマの抽出物を含有する培養液を用いることで、移植時に生着率が極めて高い幹細胞を調製する方法及び/又は調製された幹細胞に関する。
脊椎動物、特に哺乳動物の組織は、傷害もしくは疾患、又は加齢などに伴い細胞・臓器の損傷が起こった場合、再生系が働き、細胞・臓器の損傷を回復しようとする。この作用に、当該組織に備わる幹細胞が大きな役割を果たしている。幹細胞は、あらゆる細胞に分化する多能性を有しており、この性質により損傷部の細胞・組織を再生することで回復に導くと考えられている。このような幹細胞を応用した、次世代の医療である再生医療に期待が集まっている。
哺乳動物における幹細胞研究で最も進んでいる組織は骨髄である。骨髄には生体の造血幹細胞が存在しており、すべての血液細胞の再生の源であることが明らかにされた。さらに骨髄には、造血幹細胞とは別に、その他の臓器(例えば、骨、軟骨、筋肉、脂肪など)へ分化可能な幹細胞が存在していることが報告されている(非特許文献1参照)。
さらに、近年、骨髄以外にも、肝臓、膵臓、脂肪など、あらゆる臓器・組織に幹細胞が存在することが明らかにされ、各臓器・組織の再生および恒常性維持を司っていることがわかってきた(非特許文献2〜5参照)。このような各組織に存在する幹細胞は可塑性に優れており、今まで自己複製が不可能であった臓器や組織の根本的な再生にも利用できる可能性がある。また、近年では、胚性幹細胞(ES細胞)や遺伝子導入により人工的に調製された幹細胞(人工多能性幹細胞:iPS細胞)などの技術も進歩しており、様々な幹細胞が再生医療に活用できると期待されている(特許文献1〜2参照)。
Pittenger M. F., et al., Science,1999,284,143−147 Goodell M. F., et al., Nat. Med., 1997,3,1337−1345 Zulewski H., et al., Diabetes, 2001,50,521−533 Suzuki A., et al., Hepatology, 2000,32,1230−1239 Zuk P. A., et al., Tissue Engineering, 2001,7,211−228 特許第4183742号公報 特許第4411363号公報
このような中、これら幹細胞の能力(多能性)を細胞移植治療や組織工学(再生医療や再生美容)の分野において上手く活用するために、治療に用いる幹細胞を調製するための増殖技術や培養技術などの開発が進められている(非特許文献6〜7参照)。
馬渕 洋等,日本再生医療学会誌,2007,6,263−268 北川 全等,日本再生医療学会誌,2008,7,14−18
特に、幹細胞を生体外で増殖させる場合、幹細胞の能力である多能性を維持した状態、すなわち、未分化な状態を維持させたまま増殖させることが極めて重要である。また、この未分化な状態を保ちつつ、治療に必要な数になるまで幹細胞を増殖させる必要がある。もし、この増殖時に幹細胞の未分化状態が維持できず分化が進んでしまった場合、最終的に調製された幹細胞の能力(多能性)は失われていることになり、目的の治療効果(臓器、組織の再生など)を発揮されにくい。
また、幹細胞は様々な細胞へ分化する能力を備えていることから、幹細胞の増殖時に分化が進行した場合、幹細胞以外の細胞も混入し増殖してしまう可能性がある。この場合、最終的に調製された幹細胞には、幹細胞以外の細胞が含まれることになり、目的の治療効果(臓器、組織の再生など)を発揮されにくい。
以上より、今後、再生医療に幹細胞を用いることを考えた場合、幹細胞の未分化状態を維持させたまま移植に必要な数まで増殖させ、また、移植時には組織への生着率が高い幹細胞を調製する技術が必要である。これには、幹細胞の未分化状態を維持するとともに、幹細胞のみを特異的に増殖させ、かつ移植時に組織への生着が高い幹細胞を調製する技術が必要である。
現在までに、幹細胞の未分化状態を維持させたまま増殖させる技術について、幾つか報告があるが、未だ発展途上である。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や造血幹細胞は、支持細胞(ストローマ細胞、もしくはフィーダー細胞)と共培養することで未分化を維持することができる(非特許文献8〜10、特許文献3参照)。しかし、最近になってフィーダー細胞由来の内在性ウイルスによる異種動物間の感染例が報告されており(非特許文献11参照)、医療用途を目的とした幹細胞の培養には適していない。
Thomson J. A. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1995,92,7844−7848 Thomson J. A. et al., Science, 1998,282,1145−1147 Reubinoff B. E. et al., NatureBiotech, 2000,18,399−404 特開2004−24089号公報 Van der Laan LucJ. W. et al., Nature, 2000,407,90−94
その他の方法に、サイトカインを複雑に組合せることによって幹細胞の未分化状態を維持させる方法がある。例えば、マウスES細胞は、LIF(白血病抑制因子(Leukemia Inhibitory Factor))を培地に添加することによって、未分化性が維持される(非特許文献12、特許文献4参照)。その他、初期作用性サイトカイントロンボポイエチン(TPO)、インターロイキン6(IL−6)、FLT−3リガンド、および幹細胞因子(SCF)の存在下で、未分化性を維持させることが胚性幹細胞、体性幹細胞などで報告されている(特許文献5、非特許文献13参照)。
Smith A.G. et al., Dev.Biol,1987,121,1−9 特表2002−525042号公報 特許第3573354号公報 Madlambayan G.J. et al., J.Hematother.Stem Cell Res.,2001,10,481−492
さらに近年では、人工的に幹細胞を調製する技術やそれを増殖させるための技術として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)などを添加する方法などが発明されている(特許文献6参照)。また、幹細胞を純化する技術として、特殊な培養液(bFGF含有)を用いることで幹細胞の未分化状態を維持させつつ増殖させる方法が発明されている(特許文献7参照)。いずれもbFGFなどの増殖因子やサイトカインを添加することで、幹細胞の未分化状態を維持させつつ増殖を促進する技術が開発されている。しかし、このような技術で使用されている増殖因子やサイトカインなどは、極めて高価であり、製造メーカーやロット間での品質や効能の違いなどの問題があり使用は難しい。加えて、これまで汎用されているLIFなどの未分化維持に効果を示す成分は、極めて特定の細胞系統に限定的であり、特に霊長類のES細胞や体性幹細胞においては、LIFの添加のみでは未分化状態を維持することができないことが明らかにされている(非特許文献9参照)。
特許第4411362号公報 特表2010−500047号公報
このように、これまでの技術では、特に幹細胞の未分状態を維持する効果が不十分であり、幹細胞の増殖は可能ではあるが、同時に幹細胞から分化した細胞や初期段階に混入した幹細胞以外の細胞も増殖してしまい、最終的に調製された幹細胞には幹細胞以外の細胞が混在する状態になってしまう。
すなわち、現在までに報告されている幹細胞の未分化状態の維持及び増殖技術は、いずれも移植用の幹細胞を調製し、実際に移植した場合に満足いく効果を望めるものは少なく、開発途上の技術であると考えられている。また、これまでの技術は、煩雑な操作を必要としたり、幹細胞の未分化状態の維持効果が低いことから、最終的には幹細胞以外の細胞の増殖を招き、これを移植する際には、幹細胞以外の細胞を移植することになるため、幹細胞の組織への生着率が極めて低下する。故に、今後の再生医療において、治療に用いる幹細胞を調製する場合、幹細胞の未分化状態を維持させる技術と、かつこの未分化状態を維持させたまま、幹細胞のみを必要な数まで増殖させる技術の開発が望まれている。これには、幹細胞に対して選択的に未分化維持と増殖促進効果を示す成分や培養技術の開発が必要である。また、これらの技術により調製された幹細胞を、生体組織に効率よく生着させる必要がある。つまり、安全かつ簡便で効率的に、幹細胞特異的に未分化状態を維持させたまま増殖させ、その他の細胞に対しては増殖効果を示さず、かつ移植時の生体組織への生着率の高い幹細胞の調製技術が求められていた。
かかる状況に鑑み、本発明は、上記のような従来技術における問題点を解決し、哺乳動物の幹細胞に対して未分化状態を維持させたまま、幹細胞に対して特異的な増殖促進効果を示す幹細胞の未分化維持及び/又は増殖促進剤を開発し、かつ、移植時に生体組織への生着率の高い幹細胞とその調製技術を提供することにある。
本発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討を行った結果、キク科に属するファニスラマの抽出物に、幹細胞に対して特異的な未分化維持効果と増殖促進効果を見出し、さらに、該抽出物を含有した培養液を用いて調製した移植用の幹細胞を、実際に移植した際に組織への生着率が極めて向上することを明らかにし、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、以下のとおりである。
(1)キク科に属するファニスラマの抽出物を含有することを特徴とする、幹細胞の未分化維持剤。
(2)キク科に属するファニスラマの抽出物を含有することを特徴とする、幹細胞の増殖促進剤。
(3)キク科に属するファニスラマの抽出物を含有する培地を用いて培養することを特徴とする、幹細胞の調製方法。
(4)(3)に記載の幹細胞の調製方法を用いて調製した幹細胞。
(5)キク科に属するファニスラマの抽出物を含有することを特徴とする、幹細胞培養用途の培地。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、キク科に属するファニスラマの抽出物を用いることで、幹細胞の未分化状態を維持させたまま幹細胞のみを特異的に増殖させ、さらに、移植時における幹細胞の組織への生着率の向上をもたらすことが可能な幹細胞に対して特異的な未分化維持及び/又は増殖促進剤と該抽出物を含有する培養液を用いることで組織への生着率が極めて高い幹細胞とその調製方法を提供する。
本発明に用いるファニスラマ(学名:Calea urticifolia)は、主に中南米に生息するキク科の植物である。特にエルサルバドルでは伝承的な民間薬として用いられている。
本発明に用いるファニスラマの抽出物とは、ファニスラマ植物体の全部あるいは一部から抽出したものを言う。その抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出したものであっても良いし、常温抽出したものであっても良い。本発明のファニスラマ抽出物は、ファニスラマ植物体の全部あるいは任意の部位から抽出して得ることができるが、特に全草から抽出されたものが好ましい。
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコールが良く、特に好ましくは、水、エタノールが良い。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良い。また、抽出法は特に限定されないが、加熱による抽出が好ましい。さらに上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加してpH調整して用いてもよい。
ファニスラマの抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、稀釈、濾過等の処理及び活性炭等による脱色、脱臭処理をして用いても良い。特に、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いることが好ましい。
ファニスラマの抽出物を溶液の状態で用いる場合の成分含有量は特に限定されないが、乾燥物として0.00001〜10重量%であることが好ましく、0.0001〜1重量%含まれる濃度で使用することが最も好ましい。0.00001重量%未満であると本発明の効果が十分に発揮されにくい場合があり、10重量%を超える場合は不経済である。
また、本発明の幹細胞に対して特異的な未分化維持効果や増殖促進効果を示す抽出物や、これにより調製された幹細胞、またその調製方法などは、細胞培養用添加剤、研究用試薬、医療用試薬、細胞移植剤をはじめとし、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品等への配合や応用が可能である。
本発明の幹細胞としては、本発明の目的に沿うものであれば、胚性の幹細胞(ES細胞)、もしくは、骨髄、血液、皮膚、脂肪、脳、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する、体性の幹細胞、さらには遺伝子導入などにより人工的に調製された幹細胞、また、当該細胞の初代培養細胞、継代培養細胞、凍結細胞いずれであってもよい。好ましくは、骨髄、血液、皮膚、脂肪組織由来の幹細胞に対してより効果を発揮する。また、哺乳動物における、幹細胞の分化の方向性、および、分化の過程等について同等の特性を持っていれば、全ての哺乳動物に応用が可能である。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物の幹細胞に対して効果を発揮することができる。
本発明の幹細胞を培養する培地、または同時に用いる添加剤としては、例えば以下のものを使用できるが、限定されるものではない。
具体的には、細胞の生存に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、例えば、Dulbeco’s Modified Eagle Medium(D−MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbeco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F−12(D−MEM/F−12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)に、増殖因子として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、白血球遊走阻止因子(LIF)の少なくともいずれか1種を添加した培地が用いられ、好ましくは、これら増殖因子の全てが含有されたものである。また、必要に応じて、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27−サプリメント、N2−サプリメント、ITS−サプリメント、抗生物質などが含有されてもよい。
また、上記以外には、1〜20%の含有率で血清が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
市販品としては、インビトロジェン製の間葉系幹細胞基礎培地や、三光純薬製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、Sigma社製のハンクス液(Hank’s balanced salt solution)などを用いることができる。
幹細胞の培養に用いられる培養器は、幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルなどが挙げられる。
培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞外基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ−L−リジン、ポリ−D−リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
培養条件としては、適宜設定できる。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30〜40℃、好ましくは約37℃が良い。COガス濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約2〜5%が良い。
本発明のファニスラマの抽出物は、幹細胞に対して極めて高い未分化状態の維持効果を示した。さらに、増殖促進効果に関しては、幹細胞以外の細胞に対しては増殖促進効果を示さず、幹細胞のみに対する極めて特異的な増殖促進効果を見出した。また、このファニスラマの抽出物を用いて調製した幹細胞を生体組織へ移植した場合、従来の方法に比べて組織への生着率が著しく向上した。以上より、本発明は、組織の再生治療、再生美容に役立つものであり、組織の再生の分野において大きく貢献できるものである。
以下、次に本発明を詳細に説明するため、具体的かつ詳細な実施例を挙げるが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
まず、実施例として本発明に用いるファニスラマの抽出物の製造例および幹細胞の未分化状態の維持効果を示す実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下に、ファニスラマを用いた溶媒抽出物の製造例を示す。
製造例1 ファニスラマの熱水抽出物
ファニスラマの全草の乾燥物25gに精製水500mLを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してファニスラマの熱水抽出物を4.9g得た。
製造例2 ファニスラマの50%エタノール抽出物
ファニスラマの全草の乾燥物25gに50(v/v)%エタノール水溶液500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ファニスラマの50%エタノール抽出物を4.5g得た。
製造例3 ファニスラマのエタノール抽出物
ファニスラマの全草の乾燥物25gにエタノール500mLを加え、常温で3日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ファニスラマのエタノール抽出物を0.7g得た。
以下に、実施例1で示した製造例1〜3のファニスラマの抽出物を用いた、幹細胞の未分化状態維持効果及び細胞増殖促進効果の実験例とその結果を示す。
実験例1 幹細胞に対する未分化状態維持効果の評価
Dulbecco’s Modified Eagle Medium培養液(Gibco社製)に、ウシ胎児血清(FBS、15%、Sigma社製)、ヌクレオシド液(100倍希釈、大日本製薬社製)、非必須アミノ酸液(100倍希釈、大日本製薬社製)、β2−メルカプトエタノール液(100倍希釈、大日本製薬社製)、L−グルタミン液(100倍希釈、大日本製薬社製)、ペニシリン(100unit/mL、Sigma社製)とストレプトマイシン(100μg/mL、Sigma社製)を加えて調製した培地を用いて、マウス胚性幹細胞(マウスES細胞:コスモバイオ社製)を、6cmディッシュに1×10個播種し、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)を最終濃度が0.001%になるように添加し、3日間培養を続けた。次に細胞をPBS(−)にて3回洗浄した後、ラバーポリスマンにて集め、血球計数板にて細胞数をカウントした後、CelLytic(Sigma社製)にてタンパク質を抽出し、未分化状態の測定を豊岡らの報告に従って行った(文献:豊岡 やよい,Molecular Medicine臨時増刊号 再生医学,2003,106−115)。すなわち、幹細胞の未分化状態を示しているオクタマーバインディングプロテイン3/4タンパク質(Oct3/4タンパク質)の発現量を指標に、培養開始時に播種した幹細胞(1×10個)が発現していたOct3/4タンパク質の量を100%未分化状態とし、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)を添加して3日間培養した後のOct3/4タンパク質の量をウエスタンブロッティング法にて定量解析し、培養開始時と3日間培養後のOct3/4タンパク質の量を比較することで、未分化状態の維持効果について評価した。なお、これまでに幹細胞の未分化維持効果を示す物質として報告されている塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(特表2010−500047号公報)を陽性対照として用いて同様な評価を行った。
具体的な評価方法としては、ウエスタンブロッティング法にて培養開始時の幹細胞の単一細胞数(1×10個)に発現しているOct3/4タンパク質量(Aとする)を測定し開始時の未分化状態(100%)とする。さらにファニスラマの抽出物(製造例1〜3)を添加して3日間培養した後の単一細胞数(1×10個)に発現しているOct3/4タンパク質量(Bとする)を測定し、培養3日後の未分化状態(%)を次の式より算出した。培養3日後の未分化状態(%)の算出式=B/A×100(%)。この3日後の未分化状態(%)を指標に、未分化状態の維持効果について評価した。
これらの試験結果を表1に示した。その結果、陽性対照物質(bFGF)と比較して、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)全てにおいて顕著な幹細胞の未分化状態維持効果が認められた。以上より、ファニスラマの抽出物の極めて優れた幹細胞の未分化状態維持効果を明らかにした。なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、体性の幹細胞や遺伝子導入により人工的に調製した幹細胞についても同様な試験を行ったところ、顕著な幹細胞の未分化状態維持効果を認めた。
Figure 0005710148
実験例2 幹細胞に対する特異的な細胞増殖促進効果の評価
生体組織は、大きく外胚葉、中胚葉、内胚葉の組織に分類され、これら組織を構成する細胞は、約200種類程度存在すると考えられていることから、その中でも代表として、外胚葉組織の細胞である角化細胞(DSファーマバイオメディカル社製)、中胚葉組織の細胞である線維芽細胞(DSファーマバイオメディカル社製)、内胚葉組織の細胞である肝臓細胞(HEPG2)とヒト体性幹細胞を用いて、これら細胞に対するファニスラマの抽出物(製造例1〜3)の細胞特異的な増殖促進効果について評価を行った。すなわち、これら細胞の中で、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)が特異的に幹細胞のみに対して増殖促進効果を示すかについて評価した。具体的には、これら細胞を、それぞれを6cmディッシュに1×10個播種し、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)を最終濃度が0.001%になるように添加し、3日間培養を続けた。次に細胞をPBS(−)にて3回洗浄した後、それぞれの細胞をラバーポリスマンにて集め、細胞数をカウントした。
それぞれの細胞に対して抽出物未添加時の総細胞数をコントロール(100%)とした場合の、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)添加時のそれぞれの細胞数の増減(%)を算出し、各細胞に対する細胞増殖促進効果の評価を行った。なお、これまでに幹細胞の増殖促進効果を示す物質として報告されている塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(特表2010−500047号公報)を陽性対照として用いて同様な評価を行った。
これらの試験結果を表2に示した。その結果、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)は、幹細胞のみに対して顕著な細胞増殖促進効果を示した。この効果は、線維芽細胞、角化細胞や肝臓細胞に対しては見られず、幹細胞に対して特異的なものであった。また、これまで幹細胞増殖促進物質として使用されているbFGFは、幹細胞以外に角化細胞、線維芽細胞や肝臓細胞に対しても有意な増殖効果を示した。以上より、ファニスラマの抽出物は、極めて優れた幹細胞に対する特異的な増殖促進効果を示した。なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、胚性幹細胞(ES細胞)や遺伝子導入により人工的に調製した幹細胞についても同様な試験を行ったところ、幹細胞に対して顕著かつ特異的な増殖促進効果を認めた。
Figure 0005710148
組織への移植用として、従来の技術により調製した幹細胞とファニスラマの抽出物を添加して調製した幹細胞を用いて、実際に移植を行い、移植後のそれぞれの生着率(%)を比較した。
実験例4 移植用の幹細胞の調製
ヒト体性幹細胞(DSファーマバイオメディカル社製)を6cmディッシュに1×10個播種し、ファニスラマの抽出物(製造例1〜3)を最終濃度が0.01%になるように添加し、3日間培養を続けた。次に、それぞれの細胞をPBS(−)にて3回洗浄した後、無菌的にラバーポリスマンにて回収し、遠沈後、5%FBS添加ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)に分散し、移植用の幹細胞として用いた。その後、以下の方法にて、皮膚移植を行い、生着率(%)について測定した。
実験例5 幹細胞の移植および生着率(%)の測定
実験例4で調製した幹細胞を、改めて1×10個サンプリングし、細胞の数を揃えた後、注射筒にてヌードマウスの皮下に移植し、移植後の生着率(%)を測定した。具体的な生着率(%)の測定法としては、移植用にサンプリングした1×10個の幹細胞を、予めCell Tracker(モレキュラープローブ社製)にて蛍光標識し、その時点の蛍光強度を測定し、移植細胞の総蛍光強度(100%)とした。この細胞を、注射筒を用いて、ヌードマウス(雄性、4週齢)の皮下に移植した。移植部位をマジックにてマーキングし、移植3日後、7日後に移植部位を摘出し、酵素処理により細胞を分散させ、得られた細胞の総蛍光強度を測定し、移植時の総蛍光強度(100%)と比較することで、生着率(%)を算出した。すなわち、生着した幹細胞が多いほど、最初に移植した蛍光強度と同等の蛍光強度が検出され、逆に、生着しなかった場合は、移植部位から蛍光強度が検出されないこととなる。
これらの試験結果を表3に示した。その結果、移植3日後、7日後ともに、従来の方法により調製した幹細胞に比べてファニスラマの抽出物(製造例1〜3)を用いて調製した幹細胞を移植した場合において極めて高い生着率を示した。
Figure 0005710148
以上の結果より、従来の方法で調製した幹細胞よりもファニスラマの抽出物を用いて移植用の幹細胞を調製することで、幹細胞の組織への生着率を顕著に向上させることを確認した。なお、本実験例で用いた幹細胞以外にも、胚性幹細胞(ES細胞)や遺伝子導入により人工的に調製した幹細胞についても同様な試験を行ったところ、幹細胞移植における有意な生着率の向上効果を認めた。
本発明の、ファニスラマの抽出物を幹細胞に用いることで、幹細胞の未分化状態を維持させたまま幹細胞のみを増殖促進させることが可能になり、さらに、この技術を用いることで、移植時に極めて生着率の高い幹細胞を簡便に調製することが可能となった。
本発明の活用例として、再生医療、再生美容への応用が期待される。例えば、本発明を利用することで、再生医療、再生美容に用いる移植用の幹細胞を調製する場合に、幹細胞の未分化状態を維持しつつ移植に必要な数の幹細胞を選択的かつ効率的に増殖させることが可能である。さらに本発明技術により調製された幹細胞は、移植時に組織への高い生着率を示す性質を備えており、再生医療、再生美容において極めて有用な幹細胞の調製が可能になる。また、移植以外の用途として移植後または組織に存在する幹細胞に対して、本発明のファニスラマの抽出物を、組織に対して直接的に注入または経口投与、塗布、貼付などにより導入させることにより、幹細胞特異的な未分化状態の維持効果及び増殖促進効果を見出すことが可能である。
すなわち、本発明は、再生医療、再生美容における、幹細胞に対して特異的な未分化維持剤及び/又は増殖促進剤としての応用性と、かつ該抽出物を用いることで組織への生着率の高い幹細胞の調製方法を可能にする技術である。

Claims (4)

  1. キク科に属するファニスラマ(学名:Calea urticifolia)の全草の抽出物であって、水、エタノールから一種又は二種選択される溶媒による抽出物を含有することを特徴とする、幹細胞の未分化維持剤。
  2. キク科に属するファニスラマ(学名:Calea urticifolia)の全草の抽出物であって、水、エタノールから一種又は二種選択される溶媒による抽出物を含有することを特徴とする、幹細胞の増殖促進剤。
  3. キク科に属するファニスラマ(学名:Calea urticifolia)の全草の抽出物であって、水、エタノールから一種又は二種選択される溶媒による抽出物を含有する培地を用いて培養することを特徴とする、幹細胞の調製方法。
  4. キク科に属するファニスラマ(学名:Calea urticifolia)の全草の抽出物であって、水、エタノールから一種又は二種選択される溶媒による抽出物を含有することを特徴とする、幹細胞培養用途の培地。
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