JP6242512B2 - 電動機用制御装置及び産業用機械装置 - Google Patents

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Description

本発明は、架台に取り付けられた電動機を制御するための電動機用制御装置及び産業用機械装置に関する。
電動機の制御に用いられる電動機用制御装置は、電子部品実装機、半導体製造装置、工作機械、ファクトリーオートメーション及びロボット分野といった産業用機械装置で多用されている。電動機用制御装置は、任意に設定される位置決め指令及び制御対象の数理モデルを基に、動作指令信号を演算するフィードフォワード制御器及び動作指令信号から電動機の回転角度又は位置信号を減算して求まる偏差信号を抑制するフィードバック制御器を備えるものがある。このような電動機用制御装置は、電動機に取り付けられたロボットハンドのような作業機械を含む可動部を、高速かつ高精度に位置決め動作させることができる。
電動機を設置する産業用機械装置の機構は架台又は機台と称されるが、架台又は機台の剛性が低い場合は、電動機の駆動反力にともなう架台の振動が、電動機に取り付けられた可動部の位置決め性能を低下させる要因になる。このため、電動機用制御装置は、指令フィルタ又はプレフィルタとも称される制振補償器を備える場合がある(特許文献1)。制振補償器は、架台又は機台の固有振動数及び減衰係数に基づいて動作指令信号を操作し、架台又は機台の振動の発生を抑制しながら電動機を駆動する。
架台又は機台の固有振動数は、産業用機械装置全体の設置環境又は制御対象の姿勢によって変動する。このため、制振補償器が設定する制御パラメータの真値が位置決め箇所によって変動し、制振効果が十分に得られない可能性がある。そこで、パラメータの真値の変動に対するロバスト性の低下を補うため、非特許文献1に記載される機台加速度フィードバックが提案されている。機台加速度フィードバックは、架台又は機台に加速度センサを設置し、加速度センサの検出信号に対して任意に設定した周波数帯域の信号を通過させるバンドパス特性のフィルタ処理及び比例ゲインによる調整を施した後に、電動機の駆動力としてフィードバックするものである。
また、定盤と見なせる除振装置に搭載された直線型電動機を有するXYステージ型の位置決め装置にあっては、特許文献2に記載される定盤加速度フィードバックが提案されている。定盤加速度フィードバックは、XYステージにより駆動される可動部の質量及び電力増幅器のゲインを考慮して、除振装置に設置された加速度センサからの信号に対しローパス特性又はバンドパス特性を有するフィルタ処理及び比例ゲインによる調整を施した信号を、電動機の駆動力としてフィードバックするものである。
特開2010−207011号公報 特開平5−189050号公報
土本祐也、関健太、岩崎誠、リニアモータ駆動テーブル装置における機台加速度信号を用いたロバスト制振制御、電気学会産業計測制御研究会、IIC-11-111、(2011)、pp. 91-96.(p.91右段4行目から右段15行目)
ところで、産業用機械装置は、電動機で駆動される可動部を架台に対して宙吊りにする構造を採用する場合がある。このような構造を有する産業用機械装置では、電動機位置の振動振幅よりも、機械端相対位置の振動振幅を低減することが求められる。電動機位置は、可動部の一端に接続された電動機の可動子と、架台に搭載された電動機の固定子との間の相対位置である。機械端相対位置は、可動部に装着された作業機械が作業対象物に作用する部分と作業対象物との間の相対位置である。
これらの振動振幅の低減手段として、制振補償器を採用する場合は、フィードフォワード制御器で演算される動作指令信号から架台の固有振動数成分を取り除くようにノッチフィルタを挿入する。このようにすると、電動機用制御装置は、架台の絶対振動の発生、すなわち、電動機位置及び機械端相対位置の両者の振動振幅を同時に低減しながら電動機を駆動できる。しかし、産業用機械装置の設置環境又は制御対象の姿勢によって架台の固有振動数は変動する。このため、制振補償器に設定される制御パラメータの真値が変動することに対するロバスト性が低くなり、位置決め箇所によっては電動機位置及び機械端相対位置の振動振幅を低減できない可能性がある。
機台加速度フィードバック又は定盤加速度フィードバックを採用する場合は、制振補償器に比べ制御対象の姿勢変動に対するロバスト性を向上させることができる。特許文献2の補償器は、電動機位置の振動振幅は低減できる。しかし、架台がロッキングモードで振動する場合、特許文献2の補償器は、機械端相対位置の振動を低減する効果は少なくなる可能性がある。ロッキングモードで振動する場合は、電動機の固定子を設置する箇所と作業対象物を設置する箇所とで架台の振動特性が異なる。
本発明は、電動機の可動部に連結された作業機械の作業対象物と、作業機械の作業対象物に作用する部分との間の相対位置の振動振幅を低減できる電動機用制御装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電動機用制御装置は、電動機の可動子の位置を決定するための位置指令信号及び電動機の固定子と可動子との間の相対位置である電動機位置の情報である電動機位置信号に基づき、固定子に機械的に連結された作業対象物と、可動子に機械的に連結された作業機械の作業対象物に作用する部分との間の相対位置である機械端相対位置を制御する。本発明に係る電動機用制御装置は、偏差抑制補償部と、加速度抽出部と、加速度補償部と、機械端補正部と、加算部と、を含む。偏差抑制補償部は、位置指令信号と電動機位置信号に基づく信号との差分が0になるように電動機を駆動する偏差抑制信号を出力する。加速度抽出部は、電動機の固定子が設置される架台の振動の情報である架台振動信号から、架台の固有振動数における加速度成分を架台加速度信号として出力する。加速度補償部は、架台加速度信号に比例ゲインを乗じて得られる比例補償信号を出力する。機械端補正部は、外部から入力される機械端調整パラメータの変更に応じて、比例補償信号の少なくとも振幅を変更して得られた機械端補正信号を出力して、電動機位置の振動振幅を増大させることにより機械端相対位置の振動振幅を低減させる。加算部は、偏差抑制信号に機械端補正信号を加算した信号を電動機の駆動信号として出力する。
本発明によれば、電動機の可動部に連結された作業機械の作業対象物と、作業機械の作業対象物に作用する部分との間の相対位置の振動振幅を低減できる電動機用制御装置を提供することができる。
実施の形態1に係る電動機用制御装置を備えた産業用機械装置を示す斜視図 実施の形態1に係る電動機用制御装置の構成を示す図 実施の形態1に係る電動機用制御装置の偏差抑制補償器の構成を示す図 実施の形態2に係る電動機用制御装置の構成を示す図 実施の形態3に係る電動機用制御装置の構成を示す図 実施の形態4に係る電動機用制御装置の構成を示す図 実施の形態5に係る電動機用制御装置の構成を示す図
以下に、本発明の実施の形態に係る電動機用制御装置及び産業用機械装置を、図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電動機用制御装置を備えた産業用機械装置を示す斜視図である。産業用機械装置100は、電動機2と、電動機2を保持する架台4と、電動機2の可動部3に取り付けられる作業機械3cと、電動機2を制御する電動機用制御装置1と、を含む。電動機2は、一方向に延びる直線状の固定子2aと、固定子2aが延びる方向、すなわち固定子2aの長手方向に沿って移動する可動子2bとを備える。実施の形態1において、電動機2は、リニアモータである。電動機2はリニアモータには限定されず、環状のステーターと、ステーターの内側で回転するローターとを備えた回転電機であってもよい。
可動子2bには、可動部3が連結されている。可動部3は、作業機械3cを備える。実施の形態1において、作業機械3cはロボットハンドであるがこれに限定されず、工具であってもよい。可動部3は、電動機端3aで可動子2bと連結されている。電動機2が動作すると、可動部3は、可動子2bとともに固定子2aの長手方向に沿って移動する。作業機械3cがロボットハンドである場合は、作業機械3cは機械端3bで部品を把持し、部品を基板等の作業対象物5に配置する作業を行う。作業機械3cが工具である場合は、作業機械3cは金属素材の加工対象である作業対象物5を加工する作業を行う。このように作業対象物5は、部品を配置する基板及び工具による加工対象であるがこれらに限定されない。機械端3bは、作業機械3cが作業対象物5に対して作用する部分である。
架台4は、複数のレベリングボルト4aにより支持されている。架台4は、架台上部4b、架台下部4c及びフレーム4dを備える。架台上部4bは、棒状の構造体である。架台上部4bは、上面4buに電動機2の固定子2aが取り付けられる。固定子2aの上に、可動子2bが配置される。架台下部4cには、一対のフレーム4dが取り付けられる。一対のフレーム4d,4dは、架台上部4bの両端部を支持する。このような構造により、架台下部4cは、一対のフレーム4d,4dを介して架台上部4bを支持する。
架台上部4bは、可動部3に貫通している。このような構造により、架台4は、可動部3が備える作業機械3cを宙吊りにした状態で支持する。作業機械3cは、架台4に宙吊りにされた状態で作業することができる。電動機2の固定子2aが機械的に連結された架台下部4cには、作業対象物5が固定される。つまり、作業対象物5は、架台下部4cを介して電動機2の固定子2aと機械的に連結される。作業対象物5は、ワークともいう。作業対象物5は、作業機械3cが把持した部品が配置される基板、又は工具である作業機械3cで加工される加工対象である。電動機用制御装置1は、産業用機械装置100が備える電動機2の動作を制御する。次に、電動機用制御装置1について説明する。
図2は、実施の形態1に係る電動機用制御装置の構成を示す図である。電動機用制御装置1は、電動機2の可動子2bの位置を決定するための位置指令信号及び電動機2の固定子2aと可動子2bとの間の相対位置である電動機位置の情報である電動機位置信号に基づき、固定子2aに機械的に連結された作業対象物5と、可動子2bに機械的に連結された作業機械3cの作業対象物5に作用する部分である機械端3bとの間の相対位置である機械端相対位置を制御する制御装置である。
電動機用制御装置1は、偏差抑制補償器1aと、加速度抽出器1dと、加速度補償器1eと、機械端補正器1fと、加算器1gと、を含む。偏差抑制補償器1aは、位置指令信号と電動機位置信号との差分が0になるように電動機2を駆動する偏差抑制信号を出力する偏差抑制補償部である。加速度抽出器1dは、電動機2の固定子2aが設置される架台4の振動の情報である架台振動信号から、架台4の固有振動数における加速度成分を架台加速度信号として出力する加速度抽出部である。加速度補償器1eは、架台加速度信号に比例ゲインを乗じて得られる比例補償信号を出力する加速度補償部である。機械端補正器1fは、比例補償信号の振幅及び位相を変更して得られた機械端補正信号を出力して、電動機位置の振動振幅を増大させることにより機械端相対位置の振動振幅を低減させる機械端補正部である。加算器1gは、偏差抑制信号に機械端補正信号を加算した信号を電動機2の駆動信号として出力する加算部である。
位置指令信号は、電動機2の固定子2aの位置を指令する信号である。実施の形態1において、位置指令信号は、図1に示される産業用機械100を制御するための制御装置6によって生成される。制御装置6は、電動機2が備えられる装置を制御する装置である。実施の形態1において、制御装置6は、PLC(Programmable Logic Controller)であるが、これに限定されない。位置指令信号が電動機用制御装置1に入力されると、偏差抑制補償器1aは、入力された位置指令信号及び電動機位置信号に基づき、位置指令信号と電動機位置信号との差分、すなわち偏差である位置偏差信号を0に近付けるように演算した偏差抑制信号を生成する。位置偏差信号は、位置指令信号から電動機位置信号を減算してもよいし、電動機位置信号から位置指令信号を減算してもよい。偏差抑制補償器1aは、生成した偏差抑制信号を、加算器1gに出力する。電動機位置信号は、電動機2の可動子2bと固定子2aとの相対位置である電動機位置の情報である。電動機位置信号は、位置検出器1bが検出する。実施の形態1において、位置検出器1bは、エンコーダが用いられるがこれに限定されるものではない。
振動検出器1cは、架台4に取り付けられる。実施の形態1において、振動検出器1cは加速度センサであるが、これに限定はされない。振動検出器1cは、振動する架台4の運動を検出して、架台振動信号を出力する。加速度抽出器1dは、架台4の固有周波数における加速度成分を抽出することによって得られた架台加速度信号を出力する。加速度補償器1eは、架台加速度信号に可動部3の慣性に対応した比例ゲインを乗じて、比例補償信号を出力する。
機械端補正器1fは、加速度補償器1eから比例補償信号が入力される。機械端補正器1fは、機械端補正器1fの伝達関数が、機械端調整パラメータによって定められる特性になるように、比例補償信号の振幅及び位相を変更して機械端補正信号を生成し、加算器1gに出力する。機械端調整パラメータは、電動機用制御装置1の外部から入力される一つの数値であり、作業機械3cの機械端3bの位置を調整するために用いられる。実施の形態1において、機械端調整パラメータは機械端補正器1fの外部、実施の形態1では電動機用制御装置1の外部で求められて機械端補正器1fに入力されるが、電動機用制御装置1の内部で生成されてもよい。
実施の形態1では、機械端調整パラメータを変更するための入力装置7から、機械端調整パラメータが機械端補正器1fに入力される。実施の形態1において、入力装置7は、プロセッサ7Pと記憶装置7Mと入力部7Iとを備えるコンピューターである。実施の形態1において、入力部7Iは、入力キーであるが、これに限定されない。機械端調整パラメータが変更される場合、産業用機械装置100のオペレータは、入力部7Iを用いて変更対象の機械端調整パラメータ及び変更後の値を入力装置7に与える。プロセッサ7Pは、機械端補正器1fに設定されている機械端調整パラメータのうち、変更対象の機械端調整パラメータの値を、入力部7Iによって与えられた値に変更する。
入力装置7の記憶装置7Mは、異なる複数の機械端調整パラメータを記憶することができる。この場合、入力装置7のプロセッサ7Pは、記憶装置7Mから機械端調整パラメータを読み出して機械端補正器1fに与え、機械端補正器1fに設定されている機械端調整パラメータを変更してもよい。
機械端補正信号は、電動機位置の振動振幅を増大させることにより機械端相対位置の振動振幅を低減させる。加算器1gは、偏差抑制補償器1aが出力した偏差抑制信号と機械端補正器1fが出力した機械端補正信号とを加算して電動機2の駆動信号を生成し、電動機2に出力する。
図3は、実施の形態1に係る電動機用制御装置の偏差抑制補償器の構成を示す図である。図3中のsは、ラプラス演算子である。偏差抑制補償器1aは、位置補償器1a1と、減算器1a2と、微分器1a3と、速度補償器1a4と、減算器1a5と、を備える。位置補償器1a1は、減算器1a2から出力される位置偏差信号が入力される。位置補償器1a1は、入力された位置偏差信号に位置比例ゲインkを乗じた速度指令信号を生成して、減算器1a5に出力する。減算器1a2は、図2に示される位置検出器1bが検出した電動機位置信号を位置指令信号から減算して、位置偏差信号を求める。
微分器1a3は、入力された電動機位置信号を微分演算することにより電動機速度信号を生成し、減算器1a5に出力する。速度補償器1a4は、減算器1a5から出力される速度偏差信号に、速度比例ゲインkvpによる比例演算及び速度積分ゲインkviによる積分演算を施して、速度偏差信号の定常偏差を抑制するための偏差抑制信号を生成して、出力する。減算器1a5は、微分器1a3から出力された電動機速度信号を、位置補償器1a1から出力された速度指令信号から減算して速度偏差信号を生成し、速度補償器1a4に出力する。
電動機用制御装置1の偏差抑制補償器1aは、位置偏差信号が0になるように、電動機2を駆動するための偏差抑制信号を演算して出力する。電動機2の可動子2bの位置決め制御をするために入力される位置指令信号の変化が急峻で、かつ電動機2の固定子2aを設置する架台4の剛性が低い場合は、電動機2の可動子2bに取り付けられた可動部3の駆動反力が架台4へ伝達する。その結果、架台4は、可動部3の駆動軸方向、すなわち電動機2の可動子2bが移動する方向と平行な方向に振動する。可動子2bが移動する方向は、電動機2の固定子2aの長手方向である。
架台4が振動すると、架台4に設置された電動機2の固定子2a及び作業対象物5が振動する。このため、固定子2aと可動子2bとの間の相対位置である電動機位置及び作業機械3cの機械端3bと作業対象物5との間の相対位置である機械端相対位置も振動する。電動機用制御装置1は、架台上部4bに設置された振動検出器1cにより検出された架台上部4bの振動、すなわち固定子2aの振動の情報である架台振動信号を取得する。電動機用制御装置1は、架台4の固有振動数における加速度成分を加速度抽出器1dにより抽出し、さらに加速度補償器1eで可動部3の慣性に相当する比例ゲインを乗じることで比例補償信号を得る。
実施の形態1において、機械端補正器1fは、加速度補償器1eから出力された比例補償信号の振幅及び位相を変更して比例補償信号を補正する。仮に、機械端補正器1fの伝達関数が1である場合、機械端補正器1fは比例補償信号の振幅又は位相を変更しない。このため、機械端補正器1fは、振動する固定子2aの動きに可動部3が追従するように電動機2を駆動する比例補償信号を、そのまま偏差抑制信号に加算する。その結果、電動機用制御装置1は、固定子2aと可動子2bとの間の相対位置である電動機位置の振動振幅を低減、好ましくは0にすることができる。
図1に示される架台下部4cの振動特性が架台上部4bに対して異なる場合がある。一例としては、架台4が、レベリングボルト4aを中心に回転するロッキングモードで振動する場合が上げられる。架台下部4cの振動特性が架台上部4bに対して異なる場合、固定子2aと可動子2bとの間の相対位置である電動機位置の振動振幅を0にしても、機械端3bと作業対象物5との間の相対位置である機械端相対位置の振動振幅は0にならない。
電動機用制御装置1は、機械端相対位置の振動振幅を抑制するために、電動機用制御装置1の外部から入力される一つの数値である機械端調整パラメータを用いて電動機位置の振動振幅を増大させると同時に、機械端相対位置の振動振幅を低減する。そのために、機械端補正器1fは、機械端調整パラメータに応じて、比例補償信号の振幅及び位相を変更して、比例補償信号を補正する。なぜならば、電動機位置の振動振幅を0にしても機械端相対位置の振動振幅が残存する場合は、残存している機械端相対位置の振動を低減するために可動部3がさらに動作するよう、電動機2を駆動させる必要があるためである。残存している機械端相対位置の振動の分は、機械端相対位置の振動振幅を抑制するために必要な、作業機械3cの機械端3bの位置の補正量である。
仮に、機械端補正器1fの伝達関数を1として、加速度補償器1eで設定される比例ゲインを可動部3の慣性に相当する分よりも増大させる、すなわち比例補償信号の位相を変化させず振幅のみを増大させたとする。すると、偏差抑制償器1aは、機械端補正器1fの出力となる機械端補正信号で可動部3が駆動されることにより発生する位置偏差信号を抑制するように、偏差抑制信号を生成する。このため、電動機用制御装置1は、機械端相対位置の振動振幅を0にすることはできない。
そこで、電動機用制御装置1の機械端補正器1fは、電動機位置の振動振幅を0にした状態から可動部3がさらに動作するように電動機2を駆動させる。このために、機械端調整パラメータを変更する。具体的には機械端調整パラメータを増大又は減少させて、比例補償信号の振幅とともに位相を変更する。このようにすることで、電動機用制御装置1は、電動機位置の振動振幅を増大させ、機械端相対位置の振動振幅を低減する駆動信号を生成することができる。
より具体的な駆動信号を生成する方法として、機械端補正器1fは、電動機位置での動作が架台4の動作と同期する、すなわち同じ位相で振動するように機械端補正信号を生成する。このようにすることで、機械端相対位置の振動振幅を低減できる。機械端補正器1fは、電動機位置信号の二階微分値が、架台4の加速度信号に同期して動くよう、機械端補正信号を計算する。
実施の形態1において、機械端補正器1fは、機械端補正器1fの伝達関数が、電動機用制御装置1から出力される産業用機械装置100の駆動信号から電動機位置信号までの閉ループ伝達特性の逆特性に機械端調整パラメータを乗じて、さらに1を加算した特性となるように構成される。このようにすることで、機械端補正器1fは、電動機位置信号の二階微分値が、架台4の加速度、具体的には加速度信号に同期して動くよう、比例補償信号の振幅と位相とを変更して機械端補正信号を求め、電動機位置の振動振幅を増大させる。また、電動機用制御装置1は、図2に示される入力装置7からの機械端調整パラメータにより電動機位置信号の振幅を調整できる。このため、電動機用制御装置1は、機械端調整パラメータが適切に設定されることで、機械端相対位置の振動を低減、好ましくは0にすることもできる。
閉ループ伝達特性の逆特性は、偏差抑制補償器1aの伝達特性を設定する偏差抑制パラメータを利用することで算出できる。実施の形態1において、偏差抑制パラメータは、図3に示される位置比例ゲインk、速度比例ゲインkvp及び速度積分ゲインkviであるが、これらに限定されるものではない。また、機械端補正器1fは、これらのうち少なくとも1つを用いて比例補償信号の振幅及び位相を変更する量を求める。
実施の形態1において、機械端調整パラメータは、図1に示される産業用機械装置100の特性に基づいて実験又はシミュレーションによって予め求められる。このため、機械端補正器1fの伝達特性を予め予想することができる場合がある。この場合、比例補償信号の振幅及び位相を変更する量を予め見積もることができるので、機械端補正器1fとして、前述したような閉ループ伝達特性の逆特性を用いた計算でなく、位相進み補償器又は位相遅れ補償器を用いることができる。
電動機2を備えた産業用機械装置100は、可動子2bの位置によって架台4の固有振動数が異なる場合もある。このような場合には、機械端調整パラメータは、電動機2の異なる運転条件、すなわち、異なる複数の可動子2bの位置毎に実験又はシミュレーションによって予め求められる。機械端調整パラメータは、電動機用制御装置1の外部の入力装置7が備える記憶装置又は電動機用制御装置1が備える記憶装置に、可動子2bの位置に対応して記憶させればよい。
比例補償信号の振幅及び位相を変更する量の最適値は、産業用機械装置100の特性に基づいて実験又はシミュレーションによって予め求めることができる。産業用機械装置100のオペレータが、入力装置7を用いて機械端補正器1fの機械端調整パラメータを変更し、実際に電動機2を駆動することを繰り返せば、機械端補正器1fが生成する比例補償信号の振幅及び位相を、前述した最適値に近づけることができる。
産業用機械装置100の架台4の剛性が低い場合に、架台4に設置された電動機2の駆動反力により架台4の振動が発生しても、電動機用制御装置1は、機械端補正器1fが生成した比例補償信号の振幅と位相とを変更した機械端補正信号と、偏差抑制補償器1aが生成した偏差抑制信号とを加算した駆動信号により、電動機2を駆動する。この駆動信号は、電動機位置の振動を発生させ、かつ機械端相対位置の振動振幅を低減するので、電動機用制御装置1は、作業機械3cが作業対象物5に作用する部分である機械端3bを、高速かつ高精度に位置決めすることができる。
架台加速度信号の検出を簡略にするため、振動検出器1cには加速度センサが用いられることが好ましいがこれに限定されない。振動検出器1cは、加速度センサの他にも速度センサ又は変位センサであってもよい。振動検出器1cが速度センサ又は変位センサである場合、振動検出器1cの出力信号に微分演算を行うことで、架台加速度信号がえられる。
振動検出器1cが加速度センサである場合、加速度抽出器1dには、中心周波数が架台4の固有振動数に設定されたバンドパスフィルタを用いる。このようにすることで、加速度抽出器1dは、振動検出器1cから出力された架台振動信号に重畳するオフセット及び高周波ノイズを低減できる。さらに、バンドパスフィルタの信号通過帯域を拡大することで、電動機用制御装置1は、床振動のような外乱及び制御対象の姿勢変動に対するロバスト性を向上できる。
機械端補正器1fには、比例ゲインによる比例補償器とバンドパスフィルタとを備えた制御器が用いられてもよい。機械端補正器1fにバンドパスフィルタを用いることにより、機械端補正器1fは、比例補償信号の振幅及び位相を変更すると同時に、比例補償信号に重畳するオフセット及び高周波ノイズを低減できるので好ましい。
実施の形態1において、電動機用制御装置1が備える偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、機械端補正器1f及び加算器1gは、それぞれの機能を実行する処理回路により実現されるがこれに限定されるものではない。電動機用制御装置1の偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、機械端補正器1f及び加算器1gの各機能は、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現されてもよい。また、複数のプロセッサ及び複数のメモリが連系して、電動機用制御装置1の機能を実現してもよい。
実施の形態1で開示した事項は、以下の実施の形態においても適用できる。
実施の形態2.
図4は、実施の形態2に係る電動機用制御装置の構成を示す図である。実施の形態2に係る電動機用制御装置1Aは、実施の形態1に係る電動機用制御装置1に、フィードフォワード補償部であるフィードフォワード補償器1k及び制振補償部である制振補償器1lを追加したものである。電動機用制御装置1Aの他の部分は、実施の形態1に係る電動機用制御装置1と同様であるので、同様の部分については必要に応じて説明を省略する。次においては、電動機用制御装置1Aが、図1に示される産業用機械装置100の電動機2を制御する場合について説明する。
フィードフォワード補償器1kは、位置指令信号xにローパス特性を付与してモデル位置信号p、モデル速度信号v及びモデル駆動力信号τを生成して、制振補償器1lに出力する。位置指令信号xからモデル位置信号p、モデル速度信号v及びモデル駆動力信号τまでの伝達関数は、それぞれ式(1)、式(2)及び式(3)である。式(3)中のMは可動部の慣性である。
Figure 0006242512
Figure 0006242512
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ローパス特性を示すF(s)は係数fからfを用いて、式(4)で表現できる。
Figure 0006242512
制振補償器1lは、フィードフォワード補償器1kから出力されるモデル位置信号p及びモデル速度信号vに対して図1に示される架台4の反共振周波数を中心とするノッチ特性Fn1を付与し、モデル駆動力信号τには架台4の共振周波数を中心とするノッチ特性Fn2を付与して、位置参照信号pref、速度参照信号vref及び駆動力参照信号τrefを生成して出力する。ノッチ特性Fn1の伝達関数は式(5)で表現され、ノッチ特性Fn2の伝達関数は式(6)で表現される。Ωp1とΩz1とは架台振動特性の共振周波数と反共振周波数であり、ζp1とζz1とはノッチ特性Fn1とFn2の減衰係数である。架台4の反共振周波数は、架台4の機械インピーダンスが極大値をとるときの周波数であり、架台4の共振周波数は、架台4の機械インピーダンスが極小値をとるときの周波数である。
Figure 0006242512
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制振補償器1lは、フィードフォワード補償器1kから出力されるモデル位置信号p及びモデル速度信号vに対しては、架台振動特性の反共振周波数を中心とするノッチ特性Fn1を付与する。制振補償器1lは、モデル駆動力信号τに対しては、共振周波数を中心とするノッチ特性Fn2を付与する。これらの処理により、制振補償器1lは、位置参照信号pref、速度参照信号vref及び駆動力参照信号τrefを生成して出力する。
制振補償器1lから出力される位置参照信号prefは、偏差抑制補償器1aの減算器1a2に与えられ、速度参照信号vrefは偏差抑制補償器1aの減算器1a5に与えられる。駆動力参照信号τrefは、加算器1gに与えられる。加算器1gは、偏差抑制補償器1aが出力した偏差抑制信号と機械端補正器1fが出力した機械端補正信号と駆動力参照信号τrefを加算して電動機2の駆動信号を生成し、電動機2に出力する。
減算器1a2は、位置参照信号prefから位置検出器1bが検出した電動機位置信号を減算して、位置偏差信号を求める。減算器1a5は、位置補償器1a1から出力された速度指令信号と速度参照信号vrefとを加算し、さらに微分器1a3から出力された電動機速度信号を減算して速度偏差信号を生成し、速度補償器1a4に出力する。このように、偏差抑制補償器1aは、位置参照信号pref及び速度参照信号vrefから偏差抑制信号を生成して出力する。
フィードフォワード補償器1kは、ローパス特性を決める係数fからfが制御対象の特性に応じて設定されることで、制御対象の機械特性を踏まえたモデル位置信号p、モデル速度信号v及びモデル駆動力信号τを出力する。このため、フィードフォワード補償器1kを備える電動機用制御装置1Aは、位置指令信号xに対する電動機2の可動子2bの位置決め制御における応答性を向上させることができる。制振補償器1lは、モデル位置信号p、モデル速度信号v及びモデル駆動力信号τから、図1に示される架台4の固有振動数成分を取り除く。このため、制振補償器1lを備える電動機用制御装置1Aは、架台4の固有振動の発生を抑制ながら可動子2bを駆動することができる。
図1に示される産業用機械装置100は、電動機2の可動子2bの位置に応じて機械系全体の重心位置が変化する。このため、電動機用制御装置1Aが産業用機械装置100の電動機2を制御する場合、制振補償器1lの設定パラメータである共振周波数Ωp1及び反共振周波数Ωz1の真値は一定に定まらず、これらの設定パラメータが変動することに対するロバスト性が低下することに起因して架台4の振動が発生する可能性がある。
架台4が振動すれば、架台4に設置された電動機2の固定子2a及び架台下部4cに載置される作業対象物5が振動する。このため、固定子2aと可動子2bとの間の相対位置である電動機位置及び機械端3bと作業対象物5との間の相対位置である機械端相対位置が振動する。制振補償器1lは、フィードフォワード補償器1kの出力に基づいて電動機2を駆動するための信号を演算するので、床振動のような外乱に起因する架台4の振動を抑制できない。
電動機用制御装置1Aが備える機械端補正器1fは、架台4に設置された振動検出器1cの出力信号、すなわち架台振動信号を用いて電動機2の駆動信号を求める。電動機用制御装置1Aは、加速度抽出器1dの信号抽出帯域を広く取ることにより、制振補償器1lの設定パラメータが変動することに対するロバスト性が低下したり、床振動のような外乱に起因して架台4が振動したりする場合でも、機械端相対位置の振動を抑制できる。
このように、電動機用制御装置1Aは、位置決め制御の応答性を高めるフィードフォワード補償器1kと、架台4の振動の発生を抑制するようフィードフォワード補償器1kの出力信号を生成する制振補償器1lとを備える。このため、電動機用制御装置1Aは、機械端相対位置の振動を抑制する制御系において、床振動のような外乱及び姿勢変動に対するロバスト性を向上できる。
実施の形態2において、電動機用制御装置1Aが備える偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、機械端補正器1f、加算器1g、フィードフォワード補償器1k及び制振補償器1lは、それぞれの機能を実行する処理回路により実現されるがこれに限定されるものではない。電動機用制御装置1Aが備える偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、機械端補正器1f、加算器1g、フィードフォワード補償器1k及び制振補償器1lの各機能は、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現されてもよい。また、複数のプロセッサ及び複数のメモリが連系して、電動機用制御装置1Aの機能を実現してもよい。
実施の形態1において、機械端補正器1fは、比例補償信号の振幅及び位相を変更して得られた機械端補正信号を出力して、電動機位置の振動振幅を増大させることにより機械端相対位置の振動振幅を低減させた。実施の形態2において、機械端補正器1fは、外部から入力される機械端調整パラメータの変更に応じて、比例補償信号の振幅を変更して得られた機械端補正信号を出力して、電動機位置の振動振幅を増大させることにより機械端相対位置の振動振幅を低減させる。すなわち、機械端補正器1fは、比例補償信号の少なくとも振幅を変更して得られた機械端補正信号を出力して、電動機位置の振動振幅を増大させることにより機械端相対位置の振動振幅を低減させる。実施の形態2で開示した事項は、以下の実施の形態においても適用できる。
実施の形態3.
図5は、実施の形態3に係る電動機用制御装置の構成を示す図である。実施の形態3に係る電動機用制御装置1Bは、比例補償器1h、積分補償器1i、減算器1j及び偏差抑制補償器1aへ入力される信号が、実施の形態1に係る電動機用制御装置1とは異なる。電動機用制御装置1Bの他の部分は、実施の形態1に係る電動機用制御装置1と同様であるので、同様の部分については必要に応じて説明を省略する。次においては、電動機用制御装置1Bが、図1に示される産業用機械装置100の電動機2を制御する場合について説明する。
電動機用制御装置1Bは、加速度抽出器1dと、加速度補償器1eと、比例補償器1hと、積分補償器1iと、減算器1jと、偏差抑制補償器1aと、加算器1gと、を含む。加速度抽出器1dは加速度抽出部である。比例補償器1hは、第1のゲインkにより指定した特性になるよう加速度補償器1eからの比例補償信号の振幅を変更した機械端補正信号を出力する比例補償部である。積分補償器1iは、第2のゲインk及び二階の積分部である積分器1i2により比例補償信号に比例演算及び二階の積分演算を実行し、結果を出力する積分補償部である。減算器1jは、電動機位置信号から積分補償器1iの出力信号を減算して位置補正信号を出力する減算部である。偏差抑制補償器1aは、位置指令信号と位置補正信号との差分が0になるように電動機2を駆動する偏差抑制信号を出力する偏差抑制補償部である。加算器1gは、偏差抑制信号に機械端補正信号を加算した信号を電動機2の駆動信号として出力する加算部である。
比例補償器1hは、加速度補償器1eが出力する比例補償信号を入力として、機械端調整パラメータで変更される第1のゲインkにより、比例補償信号の振幅を変更した信号を機械端補正信号として出力する。積分補償器1iは、調整ゲイン1i1と積分器1i2とを備える。積分補償器1iは、加速度補償器1eが出力する比例補償信号を入力として、機械端調整パラメータで変更される第2のゲインkによる比例演算を行い、比例演算の結果に対して二階の積分演算を行う。このように、機械端調整パラメータは、比例補償器1hの第1のゲインkと調整ゲイン1i1の第2のゲインkとを変更する。減算器1jは、電動機位置信号から積分補償器1iの出力信号を減算して、位置補正信号を偏差抑制補償器1aに出力する。
偏差抑制補償器1aは、位置指令信号から位置補正信号を減算することで位置偏差信号を生成する。偏差抑制補償器1aは、位置補正信号から位置指令信号を減算して、位置偏差信号を生成してもよい。偏差抑制補償器1aは、位置偏差信号を抑制するように、具体的には0にするように予め設定された偏差抑制パラメータを用いて演算した信号を、偏差抑制信号として加算器1gに出力する。
電動機用制御装置1Bは、図1に示される産業用機械装置100の架台4がロッキングモードで振動することを想定している。電動機用制御装置1Bは、振動検出器として加速度センサを架台上部4bに設置して、作業機械3cの機械端3bと作業対象物5との間の相対位置である機械端相対位置の振動振幅を低減する。
図1に示される産業用機械装置100において、架台上部4b及び架台下部4cが同一の固有振動数で減衰振動をするとき、架台上部4bの振動xの時間波形は式(7)で、架台下部4cの振動xsの時間波形は式(8)で表現できる。式(7)中のCは式(9)で、式(8)中のCは式(10)で表される。
Figure 0006242512
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tは経過時間、Cは架台上部4bの振動振幅、Cは架台下部4cの振動振幅、Aは架台上部4bの最大振動振幅、Aは架台下部4cの最大振動振幅、ωは架台4の固有振動数、ζは架台上部4bにおける架台振動の減衰係数、ζは架台下部4cにおける架台振動の減衰係数、φは架台上部4bの初期位相角度、φは架台下4cの初期位相角度である。架台4がロッキングモードで振動する場合は、架台上部4bと架台下部4cとが同相で、かつ両者の減衰係数ζ及びζが等しいとみなせる。このとき式(7)から式(10)ではφ=φ、かつζ=ζとなり、架台上部4bから架台下部4cへの振動の伝達率k(=x/x)は式(11)で表現される。以下において、架台上部4bから架台下部4cへの振動の伝達率kを、適宜振動伝達率kと称する。
Figure 0006242512
式(11)から、振動伝達率kは、架台上部4bの最大振動振幅Aと架台下部4cの最大振動振幅Aとの比で求まる。実施の形態3において、比例補償器1hは、第1のゲインkを、式(11)で求められる振動伝達率kの値になるように、機械端調整パラメータで変更する。これは、架台上部4bに設置した振動検出器1cにより架台下部4cに設置された作業対象物5の振動加速度を推定し、作業対象物5が振動する分だけ可動部3を駆動させる駆動信号を得るためである。
しかし、このようにして得られた駆動信号は、可動部3が架台下部4cに設置される作業対象物5に追従するように電動機2を駆動するための信号であり、可動部3が架台上部4bに追従するよう電動機2を駆動するための信号ではない。このため、電動機2の位置検出器1bによって検出された電動機位置信号には振動が生じる。仮に、調整ゲイン1i1の第2のゲインkを0とすれば、偏差抑制補償器1aは、電動機位置信号に生じた振動を抑制するように電動機2を駆動するので、比例補償器1hと偏差抑制補償器1aとの作用が干渉する。
そこで、積分補償器1iは、この干渉を補正するように、機械端調整パラメータで変更される第2のゲインkを比例補償信号に設定する。実施の形態3において、機械端調整パラメータは、前述したように振動伝達率kの値に設定されるため、第2のゲインkの値は振動伝達率kから1を減算した値を、加速度補償器1eに設定する可動部3の慣性で除算した値に設定する。このようにすることで、外部から入力される一つの数値である機械端調整パラメータにより、比例補償器1hと調整ゲイン1i1との両者の値を同時に設定することができる。
次に、積分補償器1iは、第2のゲインkが乗算された比例補償信号に対して、二階の積分器1i2を用いて、加速度から位置の次元まで積分演算することにより得られた信号を、減算器1jに出力する。そして、減算器1jは、積分補償器1iが求めた信号を電動機位置信号から減算し、得られた信号を位置補正信号として偏差抑制補償器1aに入力する。このような処理により、比例補償器1hと偏差抑制補償器1aとの作用の干渉がなくなり、電動機用制御装置1Bは、電動機位置の振動を増大させることによって、電動機位置信号の二階微分値が架台の加速度と同期して発生する駆動信号を生成することができる。その結果、電動機用制御装置1Bで駆動される産業用機械装置100は、機械端相対位置の振動振幅を低減、好ましくは0にすることができる。
このように、電動機用制御装置1Bは、電動機用制御装置1Bの外部から入力される一つの数値である機械端調整パラメータの増大又は減少により、比例補償器1hの第1のゲインk及び調整ゲイン1i1の第2のゲインkを増大又は減少させる。このような処理により、電動機用制御装置1Bは、電動機位置の振動振幅を増大させると同時に、機械端相対位置の振動振幅を低減させる。
架台4がロッキングモードで振動し、かつ振動検出器1cが架台上部4bに設置される場合、電動機用制御装置1Bは、振動伝達率kを第1のゲインkとして設定し、第1のゲインkを用いて比例補償信号の比例演算を行う。振動伝達率kは、架台上部4bの最大振動振幅Aと架台下部4cの最大振動振幅Aとの比である。さらに、電動機用制御装置1Bは、比例補正信号に対して積分補償器1iによる演算を行った信号で電動機位置を補正する。このような処理により、電動機用制御装置1Bは、電動機位置の振動を発生させることにより、機械端相対位置の振動振幅を0にする駆動指令を生成することができる。なお、振動検出器1cが架台下部4cに設置される場合は、比例補償器1hの第1のゲインkを1に設定すればよい。
実施の形態3において、電動機用制御装置1Bが備える偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、比例補償器1h、加算器1g、積分補償器1i及び減算器1jは、それぞれの機能を実行する処理回路により実現されるがこれに限定されるものではない。電動機用制御装置1Bが備える偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、比例補償器1h、加算器1g、積分補償器1i及び減算器1jの各機能は、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現されてもよい。また、複数のプロセッサ及び複数のメモリが連系して、電動機用制御装置1Bの機能を実現してもよい。
実施の形態3で開示した事項は、以下の実施の形態においても適用できる。
実施の形態4.
図6は、実施の形態4に係る電動機用制御装置の構成を示す図である。実施の形態4に係る電動機用制御装置1Cは、実施の形態3に係る電動機用制御装置1Bに、実施の形態2のフィードフォワード補償器1k及び制振補償器1lを追加したものである。電動機用制御装置1Cの他の部分は、実施の形態3に係る電動機用制御装置1Bと同様であるので、同様の部分については必要に応じて説明を省略する。次においては、電動機用制御装置1Cが、図1に示される産業用機械装置100の電動機2を制御する場合について説明する。
フィードフォワード補償器1k及び制振補償器1lについては実施の形態2で説明した通りである。制振補償器1lから出力される位置参照信号prefは、偏差抑制補償器1aの減算器1a2に与えられ、速度参照信号vrefは偏差抑制補償器1aの減算器1a5に与えられる。駆動力参照信号τrefは、加算器1gに与えられる。加算器1gは、偏差抑制補償器1aが出力した偏差抑制信号と比例補償器1hが出力した機械端補正信号と駆動力参照信号τrefとを加算して電動機2の駆動信号を生成し、電動機2に出力する。
偏差抑制補償器1aの減算器1a2は、減算器1jから出力された位置補正信号を位置参照信号prefから減算して、位置偏差信号を求める。偏差抑制補償器1aの微分器1a3は、減算器1jから入力された位置補正信号を微分演算することにより電動機速度信号を生成し、減算器1a5に出力する。減算器1a5は、位置補償器1a1から出力された速度指令信号と速度参照信号vrefとを加算し、さらに微分器1a3からの電動機速度信号を減算して速度偏差信号を生成し、速度補償器1a4に出力する。電動機用制御装置1Cの加算器1gは、偏差抑制補償器1aが出力した偏差抑制信号と、比例補償器1hが出力した機械端補正信号と、駆動力参照信号τrefとを加算して、電動機2の駆動信号を生成し、電動機2に出力する。
電動機用制御装置1Cが備える比例補償器1hは、架台4に設置された振動検出器1cの出力信号、すなわち架台振動信号を用いて電動機2の駆動信号を求める。電動機用制御装置1Cは、加速度抽出器1dの信号抽出帯域を広く取ることにより、制振補償器1lの設定パラメータが変動することに対するロバスト性が低下したり、床振動のような外乱に起因して架台4が振動したりする場合でも、機械端相対位置の振動を抑制できる。
このように、電動機用制御装置1Cは、比例補償器1hと、積分補償器1iと、位置決め制御の応答性を高めるフィードフォワード補償器1kと、架台4の振動の発生を抑制するようフィードフォワード補償器1kの出力信号を生成する制振補償器1lとを備える。このため、電動機用制御装置1Cは、機械端相対位置の振動を抑制する制御系において、床振動のような外乱及び姿勢変動に対するロバスト性を向上できる。
実施の形態4において、電動機用制御装置1Cが備える偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、比例補償器1h、加算器1g、積分補償器1i、減算器1j、フィードフォワード補償器1k及び制振補償器1lは、それぞれの機能を実行する処理回路により実現されるがこれに限定されるものではない。電動機用制御装置1Cが備える偏差抑制補償器1a、加速度抽出器1d、加速度補償器1e、比例補償器1h、加算器1g、積分補償器1i、減算器1j、フィードフォワード補償器1k及び制振補償器1lの各機能は、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを実行することにより実現されてもよい。また、複数のプロセッサ及び複数のメモリが連系して、電動機用制御装置1Cの機能を実現してもよい。
実施の形態4で開示した事項は、以下の実施の形態においても適用できる。
実施の形態5.
図7は、実施の形態5に係る電動機用制御装置の構成を示す図である。実施の形態5に係る電動機用制御装置1Dは、積分補償器1i、偏差抑制補償器1aの減算器1a5、減算器1j、そして入力装置7から入力される機械端調整パラメータの数が、実施の形態4に係る電動機用制御装置1Cとは異なる。電動機用制御装置1Dの他の部分は、実施の形態4に係る電動機用制御装置1Cと同様であるので、同様の部分については必要に応じて説明を省略する。次においては、電動機用制御装置1Dが、図1に示される産業用機械装置100の電動機2を制御する場合について説明する。
電動機用制御装置1Dの積分補償器1idは、一階の積分部である積分器1i3と、一階の積分部である積分器1i4と、積分器1i3の出力に対し比例演算を実行する調整ゲイン1i5と、積分器1i4の出力に対し比例演算を実行する調整ゲイン1i6とで構成される。
電動機用制御装置1Dの積分補償器1idは、積分器1i3と調整ゲイン1i5の速度ゲインkとにより、加速度補償器1eの出力である比例補償信号に対し一階の積分演算及び比例演算を実行する。積分補償器1idは、演算結果を積分補償器1idの第1の出力である一階積分補償信号として出力し、積分器1i3と積分器1i4と調整ゲイン1i6の変位ゲインkとにより、比例補償信号に対し二階の積分演算及び比例演算を実行する。積分補償器1idは、演算結果を積分補償器1idの第2の出力である二階積分補償信号として出力する。
電動機用制御装置1Dの偏差抑制補償器1aの減算器1a5は、電動機用制御装置1Dの位置補償器1a1から出力された速度指令信号と、制振補償器1lから出力された速度参照信号vrefと、積分補償器1idの第1の出力である一階積分補償信号とを加算し、さらに微分器1a3からの電動機速度信号を減算して速度偏差信号を生成して、速度補償器1a4に出力する。
電動機用制御装置1Dの減算器1jは、位置検出器1bによって検出された電動機2の可動子と固定子との相対位置である電動機相対位置信号から積分補償器1idの第2の出力である二階積分補償信号を減算した信号を、位置補正信号として出力する。
実施の形態5における入力装置7は、産業用機械装置100のオペレータが入力部7Iを用いて変更する第1の機械端調整パラメータpと、第2の機械端調整パラメータpと、第3の機械端調整パラメータpとを電動機用制御装置1Dへ出力する。そして、電動機用制御装置1Dは、第1の機械端調整パラメータpで第1のゲインkを増大又は減少させ、第2の機械端調整パラメータpで速度ゲインkを増大又は減少させ、第3の機械端調整パラメータpで変位ゲインkを増大又は減少させる。
電動機用制御装置1Dの加速度補償器1eから出力される比例補償信号は、加速度抽出器1dの出力である架台加速度信号に対して比例ゲインによる比例演算を実行した結果であるので、架台の加速度に比例する。よって、第1の機械端調整パラメータpで変更される第1のゲインkは、架台の加速度に比例する比例補償信号に対して比例補償を行う作用をもつ。
積分器1i3は、加速度補償器1eから出力される比例補償信号に対して一階の積分演算を実行するので、積分器1i3の出力は架台の速度に比例する。よって、第2の機械端調整パラメータpで変更される速度ゲインkは、架台の速度に比例する積分器1i3の出力に対して比例補償を行う作用をもつ。
積分器1i4は積分器1i3の出力に対し一階の積分演算を実行するので、積分器1i4の出力は架台の変位に比例する。よって、第3の機械端調整パラメータpで変更される変位ゲインkは、架台の変位に比例する積分器1iの出力に対して比例補償を行う作用をもつ。
このように、電動機用制御装置1Dは、第1の機械端調整パラメータpで変更される第1のゲインkと、第2の機械端調整パラメータpで変更される速度ゲインkと、第3の機械端調整パラメータpで変更される変位ゲインkとを有する。第1のゲインkと速度ゲインkと変位ゲインkとの作用は架台振動の加速度、速度及び変位の物理量に対して明確に区別できる。このため、電動機用制御装置1Dは、第1から第3までの機械端調整パラメータp1、2、を独立に微調整することで、電動機位置の振動振幅を増大させて機械端相対位置の振動振幅を低減する精度を改善できる。
例えば、架台4が傾斜面に設置される場合、可動部3の位置決め場所が異なる場合、又は架台4が設置された部屋の室温が異なる場合等において、駆動反力及び外乱を受けて発生する架台振動の減衰率が異なる場合がある。そのような場合は、主に架台の速度に比例する第2の機械端調整パラメータpを微調整し、機械端相対位置の振動振幅を低減する精度を改善すればよい。
以上の実施の形態1から実施の形態5に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
1,1A,1B,1C,1D 電動機用制御装置、1a 偏差抑制補償器、1a1 位置補償器、1a2 減算器、1a3 微分器、1a4 速度補償器、1a5 減算器、1b 位置検出器、1c 振動検出器、1d 加速度抽出器、1e 加速度補償器、1f 機械端補正器、1g 加算器、1h 比例補償器、1i,1id 積分補償器、1i1,1i5,1i6 調整ゲイン、1i2,1i3,1i4 積分器、1j 減算器、1k フィードフォワード補償器、1l 制振補償器、2 電動機、2a 固定子、2b 可動子、3 可動部、3a 電動機端、3b 機械端、3c 作業機械、4 架台、4a レベリングボルト、4b 架台上部、4bu 上面、4c 架台下部、4d フレーム、5 作業対象物、6 制御装置、7 入力装置、100 産業用機械装置、Fn1,Fn2 ノッチ特性、k 第1のゲイン、k 第2のゲイン、k 変位ゲイン、k 速度ゲイン、p,p,p 機械端調整パラメータ、p モデル位置信号、pref 位置参照信号、v モデル速度信号、vref 速度参照信号、x 位置指令信号、τ モデル駆動力信号、τref 駆動力参照信号、Ωp1 共振周波数、Ωz1 反共振周波数。

Claims (10)

  1. 電動機の可動子の位置を決定するための位置指令信号及び前記電動機の固定子と前記可動子との間の相対位置である電動機位置の情報である電動機位置信号に基づき、前記固定子に機械的に連結された作業対象物と、前記可動子に機械的に連結された作業機械の前記作業対象物に作用する部分との間の相対位置である機械端相対位置を制御する制御装置であり、
    前記位置指令信号と前記電動機位置信号に基づく信号との差分が0になるように前記電動機を駆動する偏差抑制信号を出力する偏差抑制補償部と、
    前記電動機の固定子が設置される架台の振動の情報である架台振動信号から、前記架台の固有振動数における加速度成分を架台加速度信号として出力する加速度抽出部と、
    前記架台加速度信号に比例ゲインを乗じて得られる比例補償信号を出力する加速度補償部と、
    外部から入力される機械端調整パラメータの変更に応じて、前記比例補償信号の少なくとも振幅を変更して得られた機械端補正信号を出力して、前記電動機位置の振動振幅を増大させることにより前記機械端相対位置の振動振幅を低減させる機械端補正部と、
    前記偏差抑制信号に前記機械端補正信号を加算した信号を前記電動機の駆動信号として出力する加算部と、を含む
    ことを特徴とする電動機用制御装置。
  2. 前記偏差抑制補償部は、
    前記位置指令信号と前記電動機位置信号との差分が0になるように前記電動機を駆動する偏差抑制信号を出力し、
    前記機械端補正部は、
    前記比例補償信号の振幅及び位相を変更して前記機械端補正信号を得る
    ことを特徴とする請求項1に記載の電動機用制御装置。
  3. 前記機械端補正部は、
    前記偏差抑制補償部が前記偏差抑制信号を求める際に用いられる偏差抑制パラメータを用いて前記機械端補正信号を求める
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動機用制御装置。
  4. 前記機械端補正部は、
    第1のゲインにより指定した特性になるよう前記比例補償信号の振幅を変更した機械端補正信号を出力する比例補償部と、
    第2のゲイン及び二階の積分部により前記比例補償信号に比例演算及び二階の積分演算を実行し、結果を出力する積分補償部と、
    前記電動機位置信号から前記積分補償部の出力信号を減算して位置補正信号を出力する減算部と、を備え、
    前記偏差抑制補償部は、
    前記位置指令信号と前記位置補正信号との差分が0になるように前記電動機を駆動する偏差抑制信号を出力する
    ことを特徴とする請求項1に記載の電動機用制御装置。
  5. 前記機械端補正部は、
    前記機械端補正部の外部から入力される一つの数値である機械端調整パラメータの増大又は減少により前記電動機位置の振動振幅を増大させると同時に、前記機械端相対位置の振動振幅を低減させる
    ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電動機用制御装置。
  6. 前記機械端補正部は、
    前記電動機位置の二階微分値が前記架台の加速度と同期して発生するよう前記機械端補正信号を求める
    ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電動機用制御装置。
  7. 前記位置指令信号にローパス特性を付与してモデル位置信号、モデル速度信号及びモデル駆動力信号を出力するフィードフォワード補償部と、
    前記フィードフォワード補償部から出力される前記モデル位置信号及び前記モデル速度信号には前記架台の反共振周波数を中心とするノッチ特性を付与し、前記モデル駆動力信号には前記架台の共振周波数を中心とするノッチ特性を付与して、位置参照信号、速度参照信号及び駆動力参照信号を出力する制振補償部と、を備え、
    前記偏差抑制補償部は、前記位置参照信号、前記速度参照信号及び前記電動機位置信号から前記偏差抑制信号を生成して出力し、
    前記加算部は、前記偏差抑制信号と前記機械端補正信号と前記駆動力参照信号とを加算した信号を前記電動機の駆動信号として出力する
    ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電動機用制御装置。
  8. 前記架台に取り付けられた加速度センサを有し、
    前記加速度センサが前記架台振動信号を出力すること
    を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電動機用制御装置。
  9. 前記加速度抽出部は、
    中心周波数を前記架台の固有振動数としたバンドパスフィルタであること
    を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電動機用制御装置。
  10. 電動機と、
    前記電動機を保持する架台と、
    前記電動機の可動部に取り付けられる作業機械と、
    前記電動機を制御する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の電動機用制御装置と、
    を含むことを特徴とする産業用機械装置。
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