JP6240026B2 - 物性評価装置 - Google Patents

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Description

本発明は、対象物の物性を評価する物性評価装置に関するものである。
施工中のトンネル切羽における岩盤特性を評価する装置として、例えば、特許文献1に記載された物性評価装置が知られている。この物性評価装置は、棒体の先端に連結されたハンマーを対象物に衝突させると、ハンマーが後方へ移動しつつハンマーに設けられた加速度センサーにより加速度波形が取得される。加速度波形の取得後、後方に移動したハンマーは、付勢部により前方へ向かう付勢力が付与されて衝突前の位置に復帰する。
特開2013−15412号公報
ところで、特許文献1に記載されたような物性評価装置では、Hertzの弾性論に基づき加速度波形を入力条件として対象物の物性を評価する。このため、対象物へのハンマーの衝突により発生した加速度成分に、対象物への衝突以外の要因で発生する別の加速度成分が加速度波形に重畳されると(図4の(b)部参照)、物性の評価精度が低下するおそれがあった。
そこで、本発明は、Hertzの弾性論に基づいて、対象物の物性を精度良く評価できる物性評価装置を提供することを目的とする。
本発明の一側面は、対象物の物性を評価する物性評価装置であって、作業者が後端側を保持するための棒体と、加速度センサーと球面形状の打撃面とを有し、打撃面と対象物との衝突方向へ移動可能なように棒体の前端部へ連結されたハンマーと、ハンマーの打撃面が対象物に衝突したときに、加速度センサーから対象物の変形特性を演算するための加速度データを取得する加速度データ取得手段と、対象物へ打撃面が衝突する前にはハンマーに対して衝突方向に沿った付勢力を付与せず、対象物へ打撃面が衝突した後にはハンマーに対して衝突方向に沿った付勢力を付与する付勢部と、を備える。
この物性評価装置によれば、作業者は棒体の後端側を保持した状態で棒体の前端部を対象物に接近させ、棒体の前端部に連結されたハンマーを対象物の評価位置に衝突させる。この衝突により発生した加速度は、ハンマーに取り付けられた加速度センサー及び加速度データ取得手段により加速度波形として取得される。それから、この加速度波形をHertzの弾性論に適用し、対象物の評価位置における変形特性を得ることができる。また、ハンマーが対象物に衝突すると、ハンマーは衝突方向に沿って棒体の後端側へ移動する。このとき、ハンマーには衝突方向に沿って棒体の前端側へ向かう付勢力が付与される。その後、ハンマーを対象物から離間させると、ハンマーは当該付勢力により前方へ移動して初期位置に復帰する。ここで、精度の良い変形特性を得るためには、衝突により生じる加速度成分以外の加速度成分が加速度波形に重畳されることを抑制することが求められる。本発明の物性評価装置によれば、ハンマーが衝突方向に沿って移動可能であり、且つ、対象物へ打撃面が衝突する前には付勢部がハンマーに対して衝突方向に沿った付勢力を付与していない。このため、ハンマーが対象物に衝突した瞬間は、対象物からの反発によるハンマーの動きが許容された状態になり、衝突による加速度成分とは別の加速度成分が生じ難い。このような加速度成分の波形によれば、対象物の物性を精度良く評価できる。
また、付勢部は、棒体の内部に形成されたバネ収容部と、バネ収容部に収容されてハンマーの移動により圧縮される圧縮バネと、を有し、棒体の中心軸方向に沿ったバネ収容部の長さは、棒体の中心軸方向に沿った圧縮バネの長さよりも長くされてもよい。バネ収容部の長さが圧縮バネよりも長いので、バネの両端とバネ収容部との間に隙間を設けることが可能になる。また、バネの両端の何れか一方と、バネ収容部との間に隙間を設けることが可能になる。この隙間によれば、ハンマーが対象物に衝突した瞬間と、ハンマーが後方に移動して圧縮バネの圧縮が開始される時間との間に、所定の時間差が発生する。従って、対象物からの反発によるハンマーの動きが許容された状態を確実に確保できる。
また、ハンマーの軸線は、棒体の中心軸線と一致せず、加速度センサーは、ハンマーの軸線上に配置されていてもよい。ハンマーの軸線が棒体の中心軸線と一致していないので、ハンマーの軸線上に加速度センサーを容易に配置できる。そして、ハンマーの軸線上に加速度センサーが配置されているため、加速度波形を好適に取得することが可能になる。従って、対象物の物性を一層精度良く評価できる。
また、棒体の前端部とハンマーとの間に配置され、棒体の中心軸線とハンマーの軸線とのなす角度を調整可能な角度調整連結部を更に備えていてもよい。角度調整連結部によれば、棒体とハンマーとのなす角度を調整して、対象物の評価位置に対してハンマーを略垂直に衝突させることが可能になる。従って、対象物の評価位置が作業者の位置よりも高い位置又は低い位置であっても、対象物に対して好適な条件でハンマーを衝突させることが可能になる。従って、対象物における評価位置の範囲を拡大することが可能になり、より多くの評価位置における加速度波形を得ることができるため、対象物の物性を一層精度良く評価できる。
本発明によれば、対象物の物性を精度良く評価できる物性評価装置が提供される。
図1は、本発明の一形態に係る物性評価装置及びその使用形態を示す図である。 図2は、物性評価装置の打撃部の断面を示す図である。 図3は、打撃部の動作を示す図である。 図4は、加速度波形の例を示すグラフである。 図5は、本発明の変形例に係る物性評価装置及びその使用形態を示す図である。
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1に示すように、物性評価装置1は、トンネル90の切羽面91における岩盤92の変形係数を評価するものである。物性評価装置1は、直線状に延在する棒体2と、棒体2の前端部に取り付けられた打撃部3とを備えている。物性評価装置1は、更に、打撃部3で得られる加速度波形(加速度データ)を取得するとともに、当該加速度波形を解析して岩盤92の変形係数を算出するコンピュータ(加速度データ取得手段)4を備えている。コンピュータ4としては、所定の評価プログラムを格納した市販のパーソナルコンピュータを用いることができる。
棒体2の長さは、切羽からの安全を確保するため2m以上であることが好ましく、棒体2としては、例えば、ステンレス鋼といった金属製のパイプ等が用いられる。棒体2の一端部には、岩盤92の打撃ポイント92aを打撃する打撃部3が取り付けられている。作業者Aは、棒体2の他端部を保持して、物性評価装置1を使用する。以下、棒体2の延在方向を前後方向として、打撃部3が設けられた側の端部を「前端部」、作業者Aに保持される側の端部を「後端部」として、「前」、「後」の概念を含む語を位置関係の説明に用いるものとする。
次に、図2を参照し、打撃部3の構成について説明する。打撃部3は、ハンマー6と付勢部7とを有している。
ハンマー6は例えば直径5cm程度の金属製の球体であり、球面形状をなすハンマー6の前面が、打撃ポイント92aに衝突する打撃面6aを構成する。なお、後述するHertzの弾性論を適用する上では、ハンマー6全体を球形とすることは必須ではなく、少なくとも打撃面6aが球面形状をなすようにすればよい。また、ハンマー6が金属製であることも必須ではなく、ハンマー6の材料は、ゴム、木、プラスチック、セラミック等であってもよい。
ハンマー6の後面6bには、加速度センサー8が取り付けられている。より詳細には、加速度センサー8は、ハンマー6の重心Gを通る中心軸線A1上に配置されている。加速度センサー8は、打撃面6aと打撃ポイント92aとの衝突時に、衝突方向における加速度を計測する。すなわち、ハンマー6で打撃ポイント92aが打撃されたとき、加速度センサー8は、打撃面6aと岩盤92との衝突により発生する加速度波形を検知する。そして、検知された加速度波形は、加速度データとして、データケーブル8a等を介してコンピュータ4に送信される。
付勢部7は、主軸9と、主軸9の他端側を収容する付勢ケース11と、を有している。主軸9は、棒体2の前端側の内部から外部に亘って延在する円柱状の部材であり、主軸9の前端部にはハンマー6が固定されている。例えば、ハンマー6は、主軸9に対してねじ止めされている。
主軸9は、ハンマー6を棒体2に対して相対的に移動可能なように取り付けるものである。主軸9は、前端側に形成された太径部12と、棒体2内に収容された細径部13とを有している。細径部13は、太径部12よりも小さい直径とされ、細径部13と太径部12との境界には段付部14が形成されている。太径部12の先端には、ハンマー固定部16が設けられている。ハンマー6は、ハンマー6の中心軸線(軸線)A1が棒体2の中心軸線A2に対し、中心軸線A2と直交する方向にずれるように配置されている。ここでハンマー6の中心軸線A1とは、岩盤92に対してハンマー6が衝突する方向と平行であり、岩盤92と接触するハンマー6上の点とハンマー6の重心点とを通る仮想的な線である。すなわち、ハンマー6の中心軸線A1は、棒体2の中心軸線A2に対して略平行である。また、太径部12には、円周側面から突出する太径ストッパ12aが設けられている。太径ストッパ12aは、主軸9の後方への移動限界を規定するものであり、太径ストッパ12aが付勢ケース11の前端面に当接することにより主軸9の後方への移動が制限される。また、主軸9の段付部14にはフランジを有するスリーブ17が配置され、ピンにより主軸9の細径部13に対して固定されている。そして、スリーブ17には細径ストッパ14aが設けられている。細径ストッパ14aは、主軸9の前方への移動限界を規定するものである。細径ストッパ14aは、付勢ケース11の長溝13aに嵌められてこの溝内で移動可能とされている。
付勢ケース11は、筒状の形状を有し、棒体2内に挿入されている。付勢ケース11の円周面には複数のねじ穴11aが形成されている。これらねじ穴11aに対して、棒体2の外側からねじ18をねじ込むことにより、付勢ケース11は棒体2に対して固定される。
付勢ケース11は、バネケース19と、バネケース19の他端側にねじ込まれるソケット21とを有している。
バネケース19は、両端が開放された筒状形状を有している。バネケース19は、主軸9が挿通されるケース軸穴22を有している。このケース軸穴22は、主軸9の太径部12の軸径と略同等の内径を有する前穴部22aと、主軸9の細径部13の軸径よりも大きい内径を有する後穴部22bとを含んでいる。前穴部22aと後穴部22bとの内径を比較すると、後穴部22bの内径が前穴部22aの内径よりも大きい。
具体的には、前穴部22aにおいては、前穴部22aと主軸9とを相対的に動かし得るように前穴部22aの内径と主軸9の太径部12の軸径とが設定されている。換言すると、バネケース19において前穴部22aが設けられた部分は、主軸9の軸受けとして機能する。一方、後穴部22bにおいては、後穴部22bと主軸9との間に隙間が設けられている。従って、主軸9は、バネケース19に対して棒体2の中心軸線A2に沿った方向へ前後に摺動可能である。また、バネケース19には、バネケース19の長手方向に沿って延在し、細径ストッパ14aが嵌め込まれる長溝13aが形成されている。
ソケット21は、バネケース19の後穴部22bに形成されためねじにねじ込まれて、主軸9の細径部13の軸受けとして機能するものである。ソケット21は、おねじが形成されたソケット本体21aと、ソケット本体21aの後穴部22b内に配置された端面から突出した円柱状のソケット筒部21bとを有している。また、ソケット21には、バネケース19のケース軸穴22と連通するソケット軸穴23が形成されている。さらにソケット軸穴23は、ソケット軸穴23と主軸9の細径部13とを相対的に動かし得るようにソケット軸穴23の内径と主軸9の細径部13の軸径とが設定されている。従って、主軸9は、ソケット21に対して棒体2の中心軸線A2に沿った方向へ前後に摺動可能である。
要するに、主軸9に固定されたハンマー6は、付勢ケース11が固定されている棒体2に対して棒体2の中心軸線A2に沿った方向へ前後に摺動可能である。
バネケース19における後穴部22bの内周面と主軸9の円周側面との間には、圧縮コイルバネ(圧縮バネ)25が収納されている。この圧縮コイルバネ25は、棒体2の中心軸線A2に沿った方向において、スリーブ17のフランジとソケット21との間に配置されている。この圧縮コイルバネ25は、ハンマー6が岩盤92に対して衝突する方向、すなわち、ハンマー6を前方に付勢する付勢力を発生させるものである。圧縮コイルバネ25の前端はスリーブ17のフランジと対面し、圧縮コイルバネ25の後端はソケット21のソケット本体21aと対面する。そして、圧縮コイルバネ25の内径は、スリーブ17の本体外径よりも大きく、スリーブ17のフランジ外径よりも小さい。また、圧縮コイルバネ25の内径は、ソケット本体21aの外径よりも小さく、ソケット筒部21bの外径よりも大きい。
ここで、バネケース19、スリーブ17及びソケット21に囲まれた空間がバネ収容部20を形成している。また、バネ収容部20の長さは、スリーブ17とソケット21との間の距離L1である。より詳細には、バネ収容部20の長さは、圧縮コイルバネ25の前端が当接するスリーブ17のフランジ面と、圧縮コイルバネ25の後端が当接するソケット本体21aの端面との間の距離である。そして、主軸9が後方に移動すると主軸9に固定されたスリーブ17も後方に移動する。従って、バネ収容部20の長さであるスリーブ17とソケット21との間の距離L1は可変である。
そして、圧縮コイルバネ25の前端が当接するスリーブ17のフランジと、圧縮コイルバネ25の後端が当接するソケット21の端面との間の最大の距離L1は、圧縮コイルバネ25の自然長L2よりも長い。すなわち、長溝13aの前端に細径ストッパ14aが当接した状態では、スリーブ17と圧縮コイルバネ25の前端との間及び/又はソケット21と圧縮コイルバネ25の後端との間に隙間Sが生じている。従って、長溝13aの前端に細径ストッパ14aを当接させることにより、圧縮コイルバネ25の自然長L2よりも長い距離L1を確保することができる。一方、この長溝13aの後端に細径ストッパ14aが当接した状態では、スリーブ17とソケット21との間の距離L1は圧縮コイルバネ25の自然長L2よりも短くなる。従って、長溝13aの後端に細径ストッパ14aが当接するまで棒体2を岩盤92の方向へ突き当てることにより、圧縮コイルバネ25が確実を圧縮して付勢力を発生させることができる。
なお、付勢力の発生には、必ずしも長溝13aの後端に細径ストッパ14aが当接する必要はなく、バネ収容部20の長さである距離L1が圧縮コイルバネ25の自然長L2よりも短くなる程度に主軸9が後方に移動すればよい。
以上の構成に基づき、作業者Aは、図1に示されるように、棒体2の後端側を保持し、打撃ポイント92aを突く動作によって、ハンマー6で打撃ポイント92aを打撃することができる。そして、前述のとおり、打撃時の加速度波形が反映された加速度データが、データケーブル8a等を介して加速度センサー8からコンピュータ4に送信される。
コンピュータ4は、予め格納された所定の評価プログラムを実行することにより、上記加速度データ(加速度波形)に基づき、Hertzの弾性論を用いて、岩盤92の弾性係数を算出する。Hertzの弾性論によれば、球体を弾性体表面に衝突させたときの球体と弾性体平面との接触時間Tは、次式(1)で表される。
Figure 0006240026
但し、
:球体の弾性係数
μ:球体のポアソン比
R :球体の半径
M :球体の質量
:弾性体の弾性係数
μ:弾性体のポアソン比
:衝突速度
である。
特開2004−150946号公報では、以上のようなHertzの弾性論を、コンクリート構造物の剛性の測定に利用することが開示されている。本実施形態では、岩盤92の変形係数を測定する場合にHertzの弾性論を適用する。すなわち、本実施形態では、上記のHertzの弾性論において、上記球体にハンマー6を当てはめ、上記弾性体に岩盤92を当てはめる。この場合、式(1)において、E,μ,R,Mは既知である。また、岩盤92のポアソン比μとしては、一般的な岩盤のポアソン比として0.2の値を用いればよい。更に、T及びVは、加速度データで表される加速度波形から算出することができる。従って、加速度データが得られれば、式(1)に基づいて、未知量である岩盤92の弾性係数(変形係数)Eを算出することができる。
次に、物性評価装置1の動作について説明する。図3に示されるように、この説明ではトンネル90の岩盤92に物性評価装置1を衝突させたときの動作を説明する。
図3の(a)部に示されるように、初期状態では、物性評価装置1は、棒体2の後端部が作業者A(図1参照)に保持されて、ハンマー6が岩盤92から所定距離だけ離れた位置にある。このとき、ハンマー6は最も前方に突出した状態であり、細径ストッパ14aが長溝13aの前端に当接している。ハンマー6が最も前方に突出した状態では、スリーブ17とソケット21との間の距離L1が最も長い状態であり、この距離L1は圧縮コイルバネ25の自然長L2よりも長い。従って、圧縮コイルバネ25の後端とソケット21との間には隙間Sが形成されている。
続いて、作業者Aが物性評価装置1を岩盤92に向かって突き出すと、図3の(b)部に示されるように、ハンマー6が岩盤92に衝突する。ここで、所定質量を有するハンマー6が前方に向かって突き出されると、当初静止しているハンマー6には慣性力が作用して、ハンマー6がその場に居続けようとする。すなわち、突き出す方向に対して逆の方向に見かけ上の力が作用する。物性評価装置1では、前穴部22aと太径部12との摩擦力及びソケット21のソケット軸穴23と細径部13との摩擦力とにより、この力に対抗していると考えられる。従って、前穴部22aと太径部12との間、ソケット軸穴23と細径部13との間は、少なくとも0.1mm以上であればよい。
衝突後、ハンマー6が岩盤92に跳ね返されて後方に移動することもあるし、衝突した瞬間から更に作業者が棒体2を付き出す状態もあり得る。これらの場合、ハンマー6が固定された主軸9が、棒体2に固定された付勢ケース11に対して後方に移動する。主軸9が後方に移動すると、主軸9に固定されたスリーブ17も後方に移動するので、スリーブ17のフランジとソケット21との間の距離L1が縮まる。距離L1と圧縮コイルバネ25の自然長L2とが等しいとき。圧縮コイルバネ25の後端とソケット21とが接触して隙間Sがなくなる。
このように、ハンマー6が岩盤92に当接してから、ハンマー6及び主軸9が後方に移動を開始し、圧縮コイルバネ25の後端がソケット21に接触する(図3の(b)部の状態)までの間、ハンマー6には岩盤92に衝突した際に発生する加速度しか作用していない状態が維持される。従って、岩盤92へのハンマー6の衝突により発生した加速度成分とは別の加速度成分が加速度波形に重畳されることが抑制され、図4の(a)部に示されるような加速度波形が得られる。
続いて、図3の(c)部に示されるように、更にハンマー6が棒体2に対して後方に移動すると、スリーブ17とソケット21との間の距離L1が更に縮まり、圧縮コイルバネ25が圧縮される。圧縮コイルバネ25の圧縮が始まると、ハンマー6には前方に向かう付勢力Fが作用する。しかし、このタイミングでは、変形係数の算出に必要な加速度波形の取得は終了しているため、付勢力Fの影響が重畳されたとしても特に問題はない。
そして、作業者が棒体2を後方に移動させると、ハンマー6は圧縮コイルバネ25の付勢力Fにより前方に移動させられる。従って、図3の(a)部に示されるように、初期位置に復帰する。
上述した物性評価装置1では、作業者Aは棒体2の後端側を保持した状態で棒体2の前端部を評価位置に接近させ、棒体2の前端部に連結されたハンマー6を岩盤92の打撃ポイント92aに衝突させる。この衝突により発生した加速度は、ハンマー6に取り付けられた加速度センサー8及びコンピュータ4により加速度波形として取得される。それから、この加速度波形をHertzの弾性論に適用し、岩盤92の打撃ポイント92aにおける変形特性を得ることができる。また、ハンマー6が対象物に衝突すると、ハンマー6は衝突方向に沿って棒体の後端部側へ移動する。
このとき、ハンマー6には衝突方向に沿って棒体2の前端側へ向かう付勢力Fが付与される。その後、ハンマー6を岩盤92から離間させると、ハンマー6は当該付勢力Fにより前方へ移動して初期位置に復帰する。ここで、精度の良い変形特性を得るためには、衝突により生じる加速度成分以外の加速度成分が加速度波形に重畳されることを抑制することが求められる。物性評価装置1によれば、ハンマー6が衝突方向に沿って移動可能であり、且つ、岩盤92へ打撃面6aが衝突する前には付勢部7がハンマー6に対して衝突方向に沿った付勢力Fを付与していない。このため、ハンマー6が岩盤92に衝突した瞬間は、岩盤92からの反発によるハンマー6の動きが許容された状態になり、衝突による加速度成分とは別の加速度成分が生じ難い。このような加速度成分の波形によれば、岩盤92の変形特性を精度良く評価できる。
また、スリーブ17とソケット21との距離L1(バネ収容部20の長さ)が圧縮コイルバネ25の自然長L2よりも長いので、圧縮コイルバネ25の後端と、バネ収容部20をなすソケット21とのとの間に隙間Sを設けることが可能になる。この隙間Sによれば、ハンマー6が岩盤92に衝突した瞬間と、ハンマー6が後方に移動して圧縮コイルバネ25の圧縮が開始される時間との間に、所定の時間差が発生する。従って、岩盤92からの反発によるハンマー6の動きが許容された状態を確実に確保できる。
また、ハンマー6の中心軸線A1は、棒体2の中心軸線A2と一致していない。そして、加速度センサー8は、ハンマー6の中心軸線A1上に配置されている。ハンマー6の中心軸線A1が棒体2の中心軸線A2と一致していないので、ハンマー6の中心軸線A1上に加速度センサー8を容易に配置できる。そして、ハンマー6の中心軸線A1上に加速度センサー8が配置されているため、加速度波形を好適に取得することが可能になる。従って、岩盤92の変形係数を一層精度良く評価できる。
また、物性評価装置1では、付勢部7が、棒体2の内部に配置されている。この構成によれば、棒体2の中心軸線A2に直交する面への物性評価装置1の投影面積が小さくなる。すなわち、岩盤92に衝突させるときに、打撃ポイント92aの周囲に存在する岩盤などにぶつかることを低減し得る。従って、変形係数の取得に不要な加速度成分の発生を抑制し得るので、岩盤92の変形特性を精度良く評価できる。
また、打撃ポイント92aの周囲に存在する岩盤などにぶつかることが低減されることにより、物性評価装置1の破損が抑制される。このため、同一の物性評価装置1を特定の施工現場における岩盤92の評価に使用し続けることが可能になる。従って、トンネル90の施工において切羽ごとに装置のばらつきによる加速度データのばらつきが低減された加速度データを得ることが可能になる。
以上、本発明の一形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、図5に示されるように、変形例に係る物性評価装置1Aは、棒体2の前端部とハンマー6との間に配置され、棒体2の中心軸線A2とハンマー6の中心軸線A1とのなす角度Mを調整可能な角度調整連結部31を更に備えていてもよい。角度調整連結部31によれば、棒体2とハンマー6とのなす角度Mを調整して、岩盤92に対してハンマー6を略垂直に衝突させることが可能になる。従って、岩盤92における打撃ポイント92bが作業者Aの位置よりも高い位置又は低い位置であっても、岩盤92に対して好適な条件でハンマー6を衝突させることが可能になる。従って、岩盤92における打撃ポイント92bの範囲を拡大することが可能になり、より多くの評価位置における加速度波形を得ることができるため、岩盤92の変形特性を一層精度良く評価できる。
また、例えば、別の変形例に係る物性評価装置は、バネ収容部20の長さと圧縮コイルバネ25の長さとが同じであってもよい。この場合には、バネ定数が比較的小さい圧縮コイルバネ25が用いることが好ましい。
上記実施形態では、物性評価装置をトンネルの切羽の評価に適用する例を説明しているが、本発明の物性評価装置は、トンネルの側壁コンクリートの評価にも用いることができる。また、トンネル施工においては、発破や機械による掘削の後、切羽だけでなく切羽近傍の側壁部でも岩盤が剥き出しになる。この側壁部に露出した岩盤の評価にも、本発明の物性評価装置を適用することができる。ここで切羽近傍の側壁部とは、切羽よりも手前の側壁の部分であり、切羽から見てトンネル軸方向に所定距離以内である範囲を指す。上記所定距離は、例えば、0.5m〜2.0mである。上記のような、トンネル側壁コンクリートや側壁部の岩盤の評価においても、高い位置の打撃を必要とする場合があり、従来であれば、打撃ポイントに作業者の手が届かない場合には、トンネル内に足場を組んで作業しなければならず、手間と時間がかかっていた。ところが、本発明の物性評価装置によれば、作業者の手が届きにくい打撃ポイントを打撃し適切な加速度データが得られるので、作業効率の向上を図ることができる。
また、上記実施形態では、加速度データがデータケーブル8aを介して加速度センサー8からコンピュータ4に送信されるが、加速度センサー8からコンピュータ4に、無線通信によって加速度データを送信してもよい。この場合、データケーブル8aが省略され、作業者Aの行動範囲の制限が軽減される。
また、演算手段を備えたコンピュータ4に代えて、加速度データ(加速度波形)を保存・蓄積可能な電子記憶媒体を採用し、得られた加速度データを電子データとして電子記憶媒体に保存・蓄積していくこととしてもよい。なおこの場合、電子記憶媒体に蓄積された加速度データを、後でまとめてコンピュータでバッチ処理する運用が考えられる。一般的に電子記憶媒体は、演算機能を備えたコンピュータ4に比べて小型・軽量のものが多いので、電子記憶媒体を棒体2に取り付けることも可能である。小型・軽量の電子記憶媒体を採用することにより、作業者Aによる物性評価装置1の取り扱い負担が軽減される。電子記憶媒体としては、半導体メモリやハードディスク装置等を用いることができる。
以下、物性評価装置1の具体的な実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に示される寸法等に限定されるものではない。
実施例1では、最大長さが77mmであるバネ収容部に自然長が77mmである圧縮コイルバネを配置した物性評価装置を作成した。この圧縮コイルバネのバネ定数は、0.05kg/mmとした。実施例1の物性評価装置を利用して加速度波形を取得したところ、図4の(a)部に示されるような良好な加速度波形を取得できることが確認できた。
実施例2では、ハンマーを確実に初期位置に復帰可能な物性評価装置を作成した。この物性評価装置は、バネ収容部の最大長さを77mmに設定し、太径ストッパ及び細径ストッパの位置を調整し主軸の可動範囲を45mmに設定した。ここで、確実に付勢力を発生させ得る圧縮コイルバネの自然長を検討した。圧縮コイルバネが縮んだときに付勢力を確実に発生させるためは、バネ収容部の最小長さ(最大長さ−可動範囲=77mm−45mm=32mm)よりも長く設定する必要がある。そこで、20mm程度の余裕を見て実施例2の圧縮コイルバネの自然長を55mmに設定した。そして、実施例2の物性評価装置を利用して加速度波形を取得したところ、図4の(a)部に示されるような良好な加速度波形を取得できることが確認できた。また、ハンマーの位置が初期位置に復帰できることが確認できた。
実施例3では、変形係数の算出に必要な加速度波形に別の加速度波形が確実に重畳されないようにする物性評価装置を作成した。この実施例3では、ハンマーの速度、ハンマーと対象物との接触時間などを利用して、圧縮コイルバネとソケットとの間に形成すべき隙間長さ及び圧縮コイルバネの自然長を算出した。例えば、対象物との最大接触時間を30msecとしハンマーの速度を1m/secとすると、ハンマーは加速度波形の取得中にハンマーが後方に30mm移動すると予想される。そうすると、圧縮コイルバネの自然長は、47mmより小さい値(バネ収容部の最大長さ−ハンマーの移動距離=77mm−30mm=47mm)にすべきであることがわかった。
1,1A…物性評価装置、2…棒体、3…打撃部、4…コンピュータ(加速度データ取得手段)、6…ハンマー、6a…打撃面、7…付勢部、8…加速度センサー、9…主軸、11…付勢ケース、12…太径部、13…細径部、14…段付部、16…ハンマー固定部、17…スリーブ、19…バネケース、20…バネ収容部、21…ソケット、22…ケース軸穴、23…ソケット軸穴、31…角度調整連結部、90…トンネル、92…岩盤(対象物)、92a,92b…打撃ポイント、A…作業者、A1…ハンマーの中心軸線、A2…棒体の中心軸線、F…付勢力。

Claims (3)

  1. 対象物の物性を評価する物性評価装置であって、
    作業者が後端側を保持するための棒体と、
    加速度センサーと球面形状の打撃面とを有し、前記打撃面と前記対象物との衝突方向へ移動可能なように前記棒体の前端部へ連結されたハンマーと、
    前記ハンマーの打撃面が前記対象物に衝突したときに、前記加速度センサーから前記対象物の変形特性を演算するための加速度データを取得する加速度データ取得手段と、
    前記対象物へ前記打撃面が衝突する前には前記ハンマーに対して衝突方向に沿った付勢力を付与せず、前記対象物へ前記打撃面が衝突した後には前記ハンマーに対して衝突方向に沿った付勢力を付与する付勢部と、を備え
    前記付勢部は、前記棒体の内部に形成されたバネ収容部と、前記バネ収容部に収容されて前記ハンマーの移動により圧縮される圧縮バネと、を有し、
    前記棒体の中心軸線の方向に沿った前記バネ収容部の長さは、前記棒体の中心軸線の方向に沿った前記圧縮バネの長さよりも長い、物性評価装置。
  2. 前記ハンマーの軸線は、前記棒体の中心軸線と一致せず、
    前記加速度センサーは、前記ハンマーの軸線上に配置されている、請求項1に記載の物性評価装置。
  3. 前記棒体の前端部と前記ハンマーとの間に配置され、前記棒体の中心軸線と前記ハンマーの軸線とのなす角度を調整可能な角度調整連結部を更に備える、請求項1又は2に記載の物性評価装置。
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