光通信における光信号波長変換や光変調、光計測、光加工、医療、生物工学などの応用のための紫外域−可視域−赤外域−テラヘルツ域にわたるコヒーレント光の発生と変調のために、多くの非線形光学デバイス及び電気光学デバイスの開発が進められている。
このような素子に用いられる非線形光学媒質および電気光学媒質としては種々の材料が研究開発されており、ニオブ酸リチウム(LN:LiNbO3)などの酸化物系化合物基板は2次非線形光学定数・電気光学定数が非常に高く有望な材料として知られている。このニオブ酸リチウムの高い非線形性を用いた光デバイスの一例として、周期的に分極反転されたニオブ酸リチウム(PPLN)が知られており、このPPLNによる第二高調波発生(SHG)・差周波発生(DFG)・和周波発生(SFG)を利用した波長変換素子が知られている。
例えば、2μmから5μmの中赤外の波長域には様々な環境ガスの基準振動などの強い吸収線が存在するため、小型の中赤外光源の開発が望まれている。このような中赤外域の光源には、技術的に成熟された1μm付近の励起光源と通信波長帯の信号光を用いることのできるDFGが有望だと考えられている。
また、0.5μm付近の可視光の波長域には、半導体レーザでは実現の難しい波長域が存在することから、1μm付近の励起光源を用いて、SHGやSFGにより、緑色光などの可視光の発生を行うことのできる波長変換技術が有望視されている。
さらに、DFGを用いた波長変換技術を用いると、光ファイバ通信で主に用いられている波長1.55μm帯の光を一括で別の波長帯に変換できることから、波長分割多重方式における光のルーティングや、光ルーティングにおける波長の衝突回避などへ適用が可能であり、波長変換装置は大容量通信光ネットワークを構築するキーデバイスの一つとして考えられている。
PPLNにおいて高効率を得るためには、光導波路型のデバイスが有効である。これは波長変換効率が非線形媒質を伝搬する光のパワー密度に比例するためであり、導波路構造を形成することで限られた範囲に光を閉じ込めることができるからである。このため非線形媒質を用いた種々の導波路が研究開発されている。主にこれまでは、Ti拡散導波路や、プロトン交換導波路と呼ばれる、拡散型の導波路を用いて検討がなされてきた。
しかしながら、上記の導波路は作製において結晶内に不純物を拡散することから、光損傷耐性や長期信頼性の観点から問題があった。例えば拡散型の導波路では、高強度の光を導波路に入射するとフォトリフラクティブ効果による結晶の損傷が発生してしまうため、導波路に入力できる光パワーに制限がある。
そこで近年では、結晶のバルクの特性をそのまま利用できることから、高光損傷耐性、長期信頼性、デバイス設計が容易等の特徴を持つリッジ型の光導波路が研究開発されている。二枚の基板を接合して形成された光学素子の一方の基板を薄膜化した後リッジ加工をすることにより、リッジ型の光導波路を形成することができる。
リッジ型の導波路を作製する方法としては、2枚の基板を接着剤を用いて接着し、一方の基板を薄膜化した後にリッジ加工をすることで、リッジ型導波路を作製することが知られている(例えば非特許文献1)。
しかしながら、基板同士を接着剤により貼合わせる方法は、接着材と基板の熱膨張係数が異なるために、温度が変化したときに薄膜に割れが生じるという問題があった。加えて、導波路中で発生する第二高調波光によって接着剤が劣化するために、動作中に導波路損失が増加し、波長変換の効率が劣化するという問題もあった。さらにまた、接着層の不均一性のために単結晶膜の膜厚が不均一となり、波長変換素子の位相整合波長がずれるという問題もあった。
一方で接着剤を用いずに、基板同士を強固に接合する技術として、直接接合法が知られている。直接接合法は、まず初めに化学薬品を用いて表面処理を行ったウエハ同士を重ね合わせることで、表面間引力により接合する方法である。接合は常温で行われるが、このときのウエハの接合強度は小さいため、接合強度を向上させるため高温での熱処理を行う。
接着剤等を用いずに基板同士を強固に接合することのできる直接接合の技術は、高光損傷耐性、長期信頼性、デバイス設計の容易性等の特徴以外にも、例えば上述したDFGによる中赤外域の光発生において、不純物の混入や接着剤等の吸収を回避できる点からも有望視されている。
直接接合法においては400℃程度の高温での熱処理を必要とするために、接合できるウエハ間には表面の平坦性が良いことに加え、熱膨張率が近いことも要求される。このため、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)とタンタル酸リチウム(LiTaO3)や、Mg、Zn、Sc、In、Fe等の添加物を付与したニオブ酸リチウム(LiNbO3)同士の同種材料基板による直接接合形成が検討されてきた。
しかし同種材料基板同士の接合の場合、基板間の屈折率差を大きくとることができない。このため光の閉じ込めが弱く、導波路の小型化が制限されてしまい、高効率な波長変換デバイスの実現が困難となる。これまでの熱拡散による直接接合型の導波路はコア層とクラッド層の屈折率差が0.5〜0.7%程度であり、小型の導波路でもコアサイズが5×5μm2のものまでしか実現されていない。コア層とクラッド層との屈折率差が少なくとも1%以上なければこれ以上の導波路の小型化は困難である。
この屈折率差を大きくとることが可能な直接接合型導波路の形成手段として、表面活性化常温接合法による異種基板同士を接合させる方法と、ガラス等の非晶質材料を接合層としてコア基板と下基板との間に形成し、アンダークラッドとして機能させる方法がある。
表面活性化常温接合法は接合プロセスを常温で行うことを可能にするものである。これは接合面を真空中で表面処理することにより,表面の原子を化学結合を形成しやすい活性な状態にする.このような処理を用いることにより,室温での接合,若しくは熱処理温度を大幅に下げることを可能にしている。この手法を用いることでシリコン(Si)基板とタンタル酸リチウム(LiTaO3)基板とを接合し、屈折率差の大きい接合基板を形成したことが報告されている。(非特許文献2)
しかしながら、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)及びタンタル酸リチウム(LiTaO3)の結晶基板はドライエッチング等の導波路作製プロセスを経ることで結晶中の酸素の抜けが発生し、欠陥が生じる。このような欠陥がある場合、光導波路の伝搬損失が増加し光損傷耐性も劣化してしまう。このため、導波路作製プロセスを経た後に、結晶から抜けた酸素を補完するためにアニール処理が必要となる。しかしながら上記の接合法によるSiを用いた接合基板の場合、熱膨張率の差が大きいため、このアニール処理の際に接合基板が破損されてしまうという問題がある。
一方で、非晶質を接合層として用いる方法は、コア基板と下基板よりも屈折率の小さな非晶質材料をアンダークラッドとして機能させることで、導波路の実効的な屈折率差を大きくとることを可能とするものである。通常の直接接合と同様に熱拡散を用いて接合をするため、上述したようなアニール処理時に基板が破損する問題は発生しない。
しかしながら、接合層として非晶質を用いる場合、接合層の膜厚の不均一性のためにコア層の膜厚が不均一となることに伴い、波長変換素子の位相整合波長も素子長全体にわたって不均一になってしまうという問題がある。さらに非晶質自体の屈折率の制御も困難であることから、位相整合波長の平均値自体も設計値からずれてしまうという問題もある。また、非晶質の場合接合面の表面分子の配列がランダムであり、結晶同士の直接接合に比べて実効的な結合手の単位面積当たりの数が少ないために接合強度が弱く、長期的信頼性に欠けるといった問題もある。加えて、接合層形成によりプロセス工程が多くなることから、プロセス毎の特性バラつきが多くなってしまう。
以上から、直接接合による波長変換素子用の導波路形成は熱処理が可能である構成が望ましく、また光学的特性が安定である結晶同士の接合形態が適しているといえる。そこでLNと直接接合及び熱処理が可能である結晶として水晶が考えられる。水晶は加工技術が確立されており、表面の平坦性の良いウエハが入手可能であることに加え、Z軸に垂直な面内方向の熱膨張係数は13.2×10−6であり、LNのZ軸に垂直な面内方向の熱膨張係数15.4×10−6と比べて非常に近い値をとる。このことからLNとの直接接合及び熱処理が十分可能な結晶である。
図1のような分極反転構造を施したZnドープニオブ酸リチウムからなる導波基板と、水晶からなるベース基板を用いてリッジ型導波路を形成した場合、比屈折率差が28%程度となり非常に大きい。このためコアへの光閉じ込めが非常に強くコアサイズを5μm2以下としても多モードでの導波が可能となる。
高効率な波長変換素子を実現するに当たっては、コア内の光のパワー密度を大きくすることに加え、原理的に光の相互作用長を長くとる必要がある。この際コアへ入射された光は光導波路の基底モードのみを励振することが望ましい。図1のような構造の場合1×1μm2程度のコアサイズで基底モードのみの状態となり、1μm2以上になると多モード状態となって信号光と励起光の光電界の重なりを良くすることが難しくなる。このように電界重なりが悪い場合、信号光と励起光の相互作用が減少し、非線形光学効果の効率が劣化してしまう。
従って、図1のような構造で高効率な波長変換素子を作製する場合、コアサイズを1×1μm2程度にする必要がある。しかしながら、そのような導波路サイズの素子は実際の作製精度を考慮すると現実的ではない。
PPLN導波路の位相整合条件は導波路コアサイズ毎の導波モードによって異なる。図2に1×1μm2を基本サイズとしたときのLNと水晶による導波路、及び従来の5×5μm2を基本サイズしたときのLN同種基板による導波路での、導波路幅を変化させた場合の位相整合条件を変化率の大きさを示す。図2において、破線aはLNと水晶による導波路のものを示し、実線bはLN同種基板による導波路のものを示す。図2の縦軸は非線形媒質内に入射する基本波光の波長、屈折率をλf、nfとし、第二高調波の波長、屈折率をλsh、nshとした場合に、式1で表される2つの光の伝搬定数の差の変化率を示しており、位相整合条件に対する導波路の作製トレランスを意味するものである。
従来の構造と比較して1×1μm2程度のコアサイズでは100倍程度作製トレランスが厳しくなることがわかる。これは導波路を伝搬する光の実効的な屈折率の変化が、コアサイズが小さくなるほど大きくなるためである。このため、1×1μm2程度の非常に小型な導波路を作製する場合に、作製過程で生じた導波路幅のバラつき等が、導波する光の実効屈折率に与える影響が大きくなってしまう。これにより、局所的な位相整合特性は合うものの、導波路長手方向に均一な整合特性を有する導波路を作製するのは困難となる。以上から、図1のようなコア層にLN、クラッド層に水晶を用いたリッジ型の導波路の場合、小型・短尺な素子作製は可能であるが、実効的な導波路長の長い素子を作製するのは難しく、高効率な素子の実現は難しい。
高効率な波長変換素子の実現には、基底モード伝搬条件と作製のトレランスを両立でき、実効的な非線形相互作用長を長くとれる導波路構造が望ましい。そのためには、単純なリッジ構造よりも光の閉じ込めの強さを緩和できるような構造が必要になる。
そこで、図3のようなコア層にLN、クラッド層に水晶を用いたリブ型の構造が考えられる。リブ構造の場合、スラブ部分の厚み(リブ高さ)を調整することで、光のコアへの閉じ込めの強さを緩和することが可能となる。これにより、リッジ型と比べて大きなコアサイズの導波路でもシングルモード伝搬が可能となる。例えば4×4μm2のコアサイズの場合、リブ高さを2.0μm以上にすることでシングルモード導波路となる。
しかしながら、リブ型の導波路構造においては、コアの厚みと幅に加えてリブ高さの精密な制御が必要になる。図4にコアサイズ4×4μm2、リブ高さ2μmとした場合のリブ型導波路の、コア幅・コア厚み・リブ高さの変化に対する作製トレランスを示す。図4から、コアサイズ4×4μm2、リブ高さ2μm近傍ではリブ高さの変化がコア幅・コア厚みの変化と同程度の作製トレランスを有することがわかる。このため、リブ高さの分布も導波路の位相整合条件を変化させる要因となってしまう。リブ構造の場合、コアの幅・厚みだけでなくリブ高さも加えた3つのパラメータの精密な制御が求められ、均一な位相整合特性を有する導波路を作製することは困難である。加えて、PPLN基板は分極の反転した領域とそうでない領域とでエッチングによるレート差がでることが知られている。従来のリッジ型構造の場合、導波路部分以外のPPLN基板はエッチングによって全て掘り落とすため、このレート差による導波モードへの影響は無かった。しかしながら、リブ構造の場合にはPPLN基板を完全には掘り落とさないため、スラブ部分にこのレート差による凹凸が残る。これにより、リブ高さが周期的に変化する導波路構造となるため、位相整合条件を均一に保つことができないため、実効的な非線形相互作用長の長い高効率な波長変換素子の作製は困難となる。従って、エッチングされたPPLN基板が残るようなリブ構造ではない手法で、基底モード伝搬条件と作製のトレランスを両立できる導波路構造が望まれる。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、光損傷耐性および長期信頼性を有するとともに、基底モード伝搬条件と作成のトレランスを両立しつつ実効的な非線形相互作用長を長く取ることによって長尺で高効率な非線形光学効果を実現できる波長変換素子を提供することにある。
上記の課題を解決するために、一実施形態に記載された発明は、リッジ構造を有し、周期分極反転構造を有する非線形光学結晶であるZnドープニオブ酸リチウムからなる導波路コアと、前記導波路コアに直接接合によって接合された、SiO2光学結晶からなるベース基板と、前記導波路コアを埋め込むように形成されたオーバークラッド層とを備え、前記導波路コアは、高さ4μm、幅4μmであり、前記オーバークラッド層の屈折率nが、波長1.56μmの光に対して2.10≦n≦2.13を満たし、前記オーバークラッド層は、その表面が平坦化されており、前記導波路コアを横方向に埋め込む部分での厚さxが、前記導波路コアの高さyに対してy≦x≦y+1.0μmを満たしていることを特徴とする波長変換素子である。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図5は、本実施形態の波長変換素子の構造概略を示す図である。本実施形態の波長変換素子は、周期分極反転構造を施した非線形光学結晶であるZnドープニオブ酸リチウム(LN)からなる導波路基板と、水晶(SiO2)からなるベース基板1とを熱拡散を用いた直接接合法により貼り合せ、さらにドライエッチングプロセスにより導波路基板をリッジ型の構造に加工してリッジ構造を有する導波路コア2を形成し、形成された導波路コア2の側面が露出しないように導波路コア2の側面を埋めるようにオーバークラッド層3を形成した埋め込み型の導波路を備えて構成される。オーバークラッド層3の屈折率nは、光の波長1.56μmに対して2.10≦n≦2.13を満たし、オーバークラッド層3の膜厚xが、導波路コア2の高さyに対してy≦x≦y+1.0μmを満たすように調整している。
上記構成の波長変換素子によれば、アニール処理が可能な直接接合法によるPPLN導波路を用いた波長変換素子において、LNと熱膨張率が近く、LNよりも屈折率が小さく、光学的特性が安定した結晶である水晶をクラッド層に用い、埋め込み型の構造をとることにより5×5μm2以下の任意のサイズで基底モードのみを伝搬させる十分な長さの導波路を形成することが可能となり、これにより従来と比べて高効率な素子を実現可能になる。すなわち、接着剤等を用いずに、1%以上の非屈折率差をとることが可能であり、非晶質ではなく結晶基板同士の接合により形成され、十分な接合の強度を得ることができ、高温中でのアニール処理が可能で、5×5μm2以下の導波路サイズで基底モード伝搬条件と作製トレランスを両立することができる。
本実施形態の波長変換素子は、導波路コアとしてLNを用い、水晶(SiO2)からなるベース基板1と熱拡散を用いた直接接合法により張り合わせることにより、十分な接合の強度を得ることができ、高光損傷耐性、長期信頼性を備えた構成とすることができる。さらに、導波路コアの構成材料LNとの屈折率差が比較的大きい水晶SiO2をベース基板として用いたリッジ型の導波路において、導波路コアの構成材料LNと屈折率が比較的近いTa2O5をオーバークラッド層として用いることで、光の導波路コアへの閉じ込めの強さを緩和する構造をとっている。これにより、オーバークラッド層がない場合と比べて大きなコアサイズの導波路でもシングルモード伝搬が可能であり、作製トレランスが緩和されるため、長尺で高効率な2次非線形光学効果を実現できる波長変換素子が得られる。このリッジ型導波路の埋め込み構造の場合、コア層のLN基板以外の部分を完全に掘り落としたリッジ型の導波路を形成した後にオーバークラッド層を形成するため、リブ型の導波路を用いた場合のような分極の向きによるエッチングレート差の問題は生じない。
本実施形態における導波路構造の特徴を以下で説明する。
本実施形態の波長変換素子では、まず導波路コア2の厚み以上のオーバークラッド層3を形成して横方向を完全に埋め込む形状とし、その後に研磨処理を施すことで、導波路コア2より高く積まれたオーバークラッド層3を導波路厚程度に調整し、横方向を埋め込む構造、すなわち導波路コア2の側面が露出しないようにオーバークラッド層を形成する。このような構造をとることで、オーバークラッド層の厚みを精密に制御する必要性を緩和している。ここで単純に、リッジ型導波路を作製後にオーバークラッド層を形成すると図6のような導波路形状になる。図6では、導波路コア2の両脇に形成されたオーバークラッド層3は導波路コア2の厚みよりも小さく形成されている。このような形状の場合、導波路コア2の横方向と縦方向ともにオーバークラッド層3の厚みの分布によって、位相整合条件に分布ができてしまう。この場合、リブ型導波路と同様に、導波路コア2の幅・厚みに加えてオーバークラッド層3の厚みの精密な制御が必要になるため、均一な位相整合特性をもつ長尺な導波路を作製するのは困難である。
オーバークラッド層3は、基底モード条件を満たすように屈折率が調整される必要がある。図7は、オーバークラッド層3の屈折率を変化させたときの導波路コア2の伝搬モードを計算した結果を示す図である。横方向を完全に埋め込む構造の場合、導波路コア2内に基底モードのみが伝搬する導波路コア2の基底モード伝搬条件をおよそ満足するためには、オーバークラッド層3の屈折率nは光の波長1.56μmに対して2.10≦n≦2.13を満たすよう調整される。
導波路コアの高さ以上に形成されたオーバークラッド層の導波路コア上部の厚み変化に対して基底モードのコア内への閉じ込めの様子を上記屈折率nの範囲内で計算したものが図8である。図8の縦軸は、計算された基底モードに対して、導波路コアの全方位が空気で囲まれた導波路を仮定した場合の基底モード(伝搬光が導波路コアに完全に閉じこもったモード)との重なり積分を表したものである。基底モード伝搬の条件を満たしたとしても、周期分極反転構造をもつ導波路コア内部へのモードの閉じ込めが悪い場合、波長変換の効率が劣化してしまうため、導波路コア内部への閉じこもりの強さは重要である。図8から、オーバークラッド層が導波路コア上部に全くない場合と比較して、コア上部に1.0μm以上積まれた場合にはモードの重なりが10%以上劣化してしまうことが判る。したがってオーバークラッド層はコアの上方1.0μm以内に収めることが望ましい。
上記のようなオーバークラッド層を用いることにより、基底モード伝搬条件と作製のトレランスとを両立でき、LNをコア層とし水晶をクラッド層とした導波路による高効率な波長変換素子が実現可能となる。
次に、図9、図10を用いて本実施形態の波長変換素子の作製方法を説明する。
図9は、ベース基板と導波路基板とを貼り合わせた薄膜基板を作成する工程を説明する図である。本実施形態においては、非線形光学媒質である第一の基板10は、ZカットZn添加LN基板である。第二の基板20としてZカット水晶基板を用いる。なお、非線形光学媒質として、LNの他に、LiTaO3、LiNb(x)Ta(1-x)O3(0≦x≦1)または、それらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している材料を用いることができる。
光導波路形成において第一の基板10にはあらかじめ1.5μm帯で位相整合条件が満たされるように、周期分極反転構造が作製されている。LiNbO3結晶等における分極反転格子作製技術については多くの研究がなされ、いくつかの方法が開発されているが、そのうち良好な結果が再現性よく得られる電界印加法により周期分極反転構造を作製した。結晶表面上にリソグラフィにより周期レジストパターンを形成し、これを利用して周期的な電極(金属薄膜電極、液体電極等)を形成して電圧パルスを印加することで周期分極反転構造を作製した。
第一の基板10のZ軸に垂直な面内方向の熱膨張係数は15.4×10−6であり、第二の基板20のZ軸に垂直な面内方向の熱膨張係数は13.2×10−6であり、非常に近い値となっている。また、第一の基板10の屈折率よりも第二の基板20の屈折率のほうが小さい。なお、第一及び第二の基板10、20は何れも、両面が光学研磨されてある3インチウエハである。第一の基板10の厚さは300μm、第二の基板20の厚さは500μmである。
用意した第一及び第二の基板10、20の表面を洗浄した後、これら二つの基板をマイクロパーティクルが極力存在しない清浄雰囲気中で重ね合わせる。そして、重ね合わせた第一及び第二の基板10、20を電気炉に入れ、400℃で熱処理することにより拡散接合を行う。接合された基板は、接合面にマイクロパーティクル等の挟み込みがなく、ボイドフリーであり、室温に戻したときにおいてもクラックなどは発生しない。
次に、研磨定盤の平坦度が管理された研磨装置を用いて、接着された基板の第一の基板10の厚さが4μmになるまで研磨加工を施す。研磨加工の後に、ポリッシング加工を行うことにより、鏡面の研磨表面を得ることができる。基板の平行度(最大高さと最小高さとの差)を光学的な平行度測定機を用いて測定したところ、3インチウエハの周辺部分を除き、ほぼ全体にわたってサブミクロンの平行度が得られ、薄膜基板30を作製することができる。この薄膜基板30は、接着剤を用いず、第一の基板10と第二の基板20とを熱処理による拡散接合によって直接貼り合わせることにより作製したため、3インチウエハの全面積にわたって均一な組成、膜厚を有する。
図10は、上記の薄膜基板を用いて波長変換素子を作製する工程を示す図である。図10(a)には、図9に示した方法により作製した、第一の基板10(ZカットZn添加LN基板)と第二の基板20(Zカット水晶基板)とが接合された薄膜基板30が示されている。フォトリソグラフィのプロセスにより、3インチウエハである薄膜基板30に平行に導波路コア40を複数個作製する。その後、ドライエッチング装置に基板をセットし、Arガスをエッチングガスとして薄膜基板30の第一の基板10の表面をエッチングすることにより、複数の導波路コア40を作製する(図10(b))。
導波路コア40は、高さ4μm、幅およそ4μmのリッジ型構造をドライエッチングにより形成することにより作製した。このとき、上述したエッチングレート差で生じる基板の凹凸の影響を回避するために、第一の基板10の厚みよりも深くエッチング加工を施し、導波路コア40の両脇の部分の第一の基板材料を完全に取り除くことが望ましい。この場合、第二の基板20との接合面が極めて細くなるため、それに耐えうるだけの十分な接合強度を必要とする。この点、本実施形態の直接接合法は、第一の基板10と第二の基板20が導波路30の直下の面のみで接合されているような構造においても剥離などが起きず、十分な接合強度を保つことができたため、図10(b)に示されるようなリッジ構造の導波路コア40の両脇を第二の基板20まで完全に落とす構造を作製することができた。本実施形態においては、光導波路の作製手段としてはドライエッチングプロセスを用いたが、ダイシングなどの機械加工の技術を用いてもよい。
これら導波路ごとに薄膜基板30を短冊状に切り出し、端面11と、端面11とを光学研磨することによって波長変換素子を切り出した(図10(c))。
その後、作製した直接接合リッジ導波路を覆うように、真空スパッタリング法によりSiO2を蒸着した。これにより透明な酸化物であるTa2O5が直接リッジ導波路に触れることが避けられ、伝搬損失の増大を防ぐことができる。SiO2の厚みは500nmとした。この厚みであれば、例えば4×4μm2程度の導波路コアのサイズに対して十分小さいため光閉じ込めに対する影響がないが、十分なバッファ層として機能させることができた。本実施例では、バッファ層にSiO2を用いたが、それ以外の酸化物材料を用いてもよい。
次に、再び真空スパッタリング法によりSiO2バッファ層の上に5μmの厚みのTa2O5を基板全面に蒸着した。これにより、リッジ構造を有する導波路コアを完全に埋め込む構造の導波路を形成することができた。
本実施形態ではスパッタリング法によりTa2O5を成膜したが、イオンアシスト蒸着など、他の方法を用いてもよい。表面の形状はコアの形状を反映して凹凸が存在する状態となっているが、研磨加工を施すことで表面形状を平坦化し、オーバークラッド層のコア上部の厚みを500nmに調整した。
3インチウエハから長さ50mmの波長変換素子を作製し、作製した波長変換素子に波長1.56μmの光を入射したときの出力光のモード形状を見たものが図11である。これにより基底モードでの伝搬が確認できた。また、波長1.56μmの光を入射することで波長0.78μmの第二高調波光が得られた。50mmの素子長での規格化変換効率は3000%/W、単位長さ当たりの規格化変換効率は120%/W・cm2であり、基底モード条件と作製トレランスを両立した導波路により高い効率を得ることができた。
以上のように、水晶をクラッド層(ベース基板)に用い、Ta2O5をオーバークラッド層に用いた埋め込み型導波路の構成をとることで、シングルモード条件と作製のトレランスを両立し、従来よりも高い規格化変換効率を有する波長変換素子を作製することができた。
本実施形態において、波長1.56μmにおける屈折率が2.10〜2.13の範囲内に入るようなオーバークラッド層としてTa2O5を用いたが、Ta2O5の代わりにNb2O5やTiO2等ほかの金属酸化物を用いてもよく、またこれらの積層としてもよい。
本実施形態では導波路コアのサイズは4×4μm2としたがこれに限定されず、任意のサイズでの設計が可能である。同様に、バッファ層の厚み、オーバークラッド層の厚みも、導波路コアに対する条件を満たす範囲で任意のサイズでの設計が可能である。