以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。各図において、同一の部分または対応する部分には、同一符号を付してある。
まず、実施形態の構成および構造を、図1および図2を参照しながら説明する。
図1は、パワーウインドウ制御装置1およびパワーウインドウ制御システム100の構成を示した図である。パワーウインドウ制御システム100は、自動車に搭載され、パワーウインドウ制御装置1とその他の構成要素6〜8、10〜15を含んでいる。
パワーウインドウ制御装置1は、モータ12を駆動して、PW(パワーウインドウ)開閉機構13を作動させ、車両のドア9(図2参照)に設けられた窓10の窓ガラス11を開閉動作させる。
図2は、窓10の構造の一例を示した図である。窓10は、たとえば車両の運転席のドア9に設けられている。窓10には、窓ガラス11が上下動可能に嵌め込まれている。たとえば、雨水や塵埃などが窓ガラス11とドア9の隙間からドア9の内部や車室内に入り込むのを防止するため、図2(a)に示すように、窓10の窓枠の上部と側部には、ランチャンネル16が取り付けられている。また、窓10の窓枠の下部には、ベルトラインモール17が取り付けられている。ランチャンネル16とベルトラインモール17は、ゴムなどの弾性材料で形成されていて、ウェザーストリップとも呼ばれている。
窓10の窓枠の側部にあるランチャンネル16は、窓10より下方のドア9の内部まで伸びている。この側部のランチャンネル16の縦方向の長さは、窓ガラス11の縦方向の寸法より大きくなっている。ランチャンネル16とベルトラインモール17は、本発明の「窓用部材」の一例である。
図2(a)のA−A断面を図2(b)に示し、図2(a)のB−B断面を図2(c)に示し、図2(a)のC−C断面を図2(d)に示している。
図2(b)に示すように、窓10の一方の側部にあるランチャンネル16のリップ部16bは、窓ガラス11の一方の側端部に外側と内側からそれぞれ密着する。窓10の他方の側部や上部にあるランチャンネル16のリップ部16bも同様に、窓ガラス11の他方の側端部や上部に外側と内側からそれぞれ密着する(図示省略)。
このため、窓ガラス11が開閉動作(上下動)する際に、窓ガラス11の両側端部や上部が、ランチャンネル16のリップ部16bに対して摺動する。窓ガラス11が密着し続けることで、ランチャンネル16のリップ部16bには開くような癖がつく。また、図2(c)に示すように、窓ガラス11が離間し続けることで、ランチャンネル16のリップ部16bには閉じるような癖がつく。
図2(d)に示すように、ベルトラインモール17は、ドア9の外側面と内側面に2個1対で設けられている。この1対のベルトラインモール17のリップ部17bは、窓ガラス11の外側面と内側面にそれぞれ密着する。このため、窓ガラス11が開閉動作する際に、窓ガラス11が1対のベルトラインモール17のリップ部17bに対して摺動する。窓ガラス11が密着し続けることで、1対のベルトラインモール17のリップ部17bには開くような癖がつく。
図1に示すように、パワーウインドウ制御装置1には、制御部2、PW操作部3、モータ駆動部4、およびメモリ5が備わっている。
制御部2は、マイクロコンピュータから成り、窓ガラス11の開閉動作を制御する。制御部2には、記憶部2a、モータ制御部2b、位置検出部2c、回転速度検出部2d、変化量算出部2e、挟み込み判定部2f、車両状態判定部2g、有効性判定部2h、比較値算出部2i、劣化判定部2j、および劣化出力部2kが設けられている。
PW操作部3は、窓ガラス11の開閉動作を操作するためのスイッチから成り、車内に設けられている。PW操作部3でマニュアル開閉操作やオート開閉操作が行われると、その操作に応じた信号がPW操作部3から出力される。制御部2は、PW操作部3から出力される信号に基づいて、PW操作部3の操作状態を検出する。
モータ12は、直流モータから成る。モータ駆動部4は、モータ12を正転または逆転で駆動する回路から成る。モータ制御部2bは、PW操作部3の操作状態や窓ガラス11の開閉状態に応じて、モータ駆動部4を動作させて、モータ12の駆動をPWM(パルス幅変調)で制御する。あるいは、PWMの代わりに、単に通電することによってモータ12を駆動してもよい。モータ12が正転または逆転することで、PW開閉機構13が作動して、窓ガラス11が下降または上昇し、窓10が開閉される。
パルス発生器14は、たとえばロータリエンコーダから成り、モータ12の回転状態に応じたパルス信号を制御部2に出力する。
位置検出部2cは、パルス発生器14から出力されたパルス信号を検出し、該パルス信号に基づいて窓ガラス11の開閉位置を検出する。具体的には、位置検出部2cは、たとえばパルス発生器14から出力されるパルス信号の立ち上がりなどの数を数えて、その計数値から窓ガラス11の開閉位置を判断する。
回転速度検出部2dは、パルス発生器14から出力されたパルス信号を検出し、該パルス信号に基づいてモータ12の回転速度を検出する。変化量算出部2eは、回転速度検出部2dにより検出したモータ12の回転速度の変化量を算出する。回転速度検出部2dで検出されたモータ12の回転速度と、変化量算出部2eで算出されたモータ12の回転速度の変化量は、記憶部2aに随時記憶される。回転速度検出部2dは、本発明の「物理量検出部」の一例である。
挟み込み判定部2fは、窓ガラス11の閉動作中に、変化量算出部2eが算出したモータ12の回転速度の変化量と、所定の挟み込み閾値とを比較し、該比較結果に基づいて、窓10への異物の挟み込みの有無を判定する。挟み込み閾値は、記憶部2aに記憶されている。
車両状態判定部2gは、車両に設けられた車速センサ6、ドアセンサ7、および外気温センサ8からの出力に基づいて、車両の状態を判定する。車速センサ6は、車両の走行速度を検出する。ドアセンサ7は、ドア9の開閉状態を検出する。外気温センサ8は、車両の外気温を検出する。
車両状態判定部2gは、車速センサ6からの出力に基づいて、車両が走行中であるか停車中であるかを判定する。また、車両状態判定部2gは、ドアセンサ7からの出力に基づいて、ドア9が開いているか閉じているかを判定する。さらに、車両状態判定部2gは、外気温センサ8からの出力に基づいて、車両の外気温が所定の常温範囲にあるか否かを判定する。
車両の走行中に窓ガラス11を開閉動作させると、車両の振動により、モータ12の回転速度は変動する。特に、車両が凹凸のある悪路を走行すると、車両の振動が大きくなり、モータ12の回転速度は大きく変動する。また、窓ガラス11の開閉動作中にドア9を開閉すると、ドア9の衝撃により、モータ12の回転速度は変動する。また、車両の外気温が所定の常温範囲より低下すると、図2に示したランチャンネル16やベルトラインモール17(以下、「窓用部材16、17」と表記)が硬化して、窓ガラス11との摺動抵抗が高くなり、モータ12の回転速度は変動する。
また、窓用部材16、17が経年劣化すると、窓ガラス11との摺動抵抗が高くなり、モータ12の回転速度は変動する。経年劣化した窓用部材16、17を使用し続けると、窓ガラス11の開閉動作に支障を来たすとともに、窓10への異物の挟み込みを誤判定するおそれがある。
そこで、窓用部材16、17の経年劣化を検出するため、窓10を閉め切るように窓ガラス11が全閉動作したときに、回転速度検出部2dで検出したモータ12の回転速度が、他の一時的な外乱の影響を受けていない有効なデータであるか否かを、有効性判定部2hで判定する。
比較値算出部2iは、有効性判定部2hで有効なデータであると判定された、モータ12の回転速度の変化量に基づいて、後述する変化量比較値を算出する。劣化判定部2jは、比較値算出部2iで算出された変化量比較値と所定の劣化閾値とを比較して、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定する。劣化閾値は、記憶部2aに記憶されている。
劣化出力部2kは、劣化判定部2jで窓用部材16、17の経年劣化が有ると判定されたときに、該判定結果を示す情報をメモリ5と報知部15へ出力する。メモリ5は、たとえば不揮発性のメモリなどから成り、窓用部材16、17の経年劣化が有ることを示す情報を記録する。報知部15は、たとえばブザーやLEDなどから成り、窓用部材16、17の経年劣化が有ることを音や光により報知する。
このため、車両のユーザや保守員は、メモリ5の記憶内容や報知部15の状態により、窓用部材16、17が経年劣化したか否かを認識することができる。そして、窓用部材16、17が経年劣化していることを認識すると、窓用部材16、17を交換するなどの対策を速やかに講じることができる。
次に、パワーウインドウ制御装置1の動作を、図3〜図8を参照しながら説明する。また適宜、図1も参照する。
図3は、窓ガラス11を全閉動作させる場合の、パワーウインドウ制御装置1の動作を示したフローチャートである。ユーザがPW操作部3でオート閉操作を行うと、制御部2は窓10のオート閉操作が有ったと判断する(図3のステップS1)。そして、車両状態判定部2gが、車速センサ6、ドアセンサ7、および外気温センサ8からの出力に基づいて、車両の状態を監視する(図3のステップS2)。この監視結果は、車両状態判定部2gにより随時記憶部2aに記憶される。また、モータ制御部2bが、モータ駆動部4を作動させて、モータ12を閉方向へ回転駆動し、窓ガラス11を自動で全閉動作させる(図3のステップS3)。
図5は、外乱の影響を受けずに窓ガラス11が全閉動作した場合の、モータ12の回転速度の変化の一例を示した図である。モータ12の起動直後や、窓ガラス11が全閉位置近傍まで閉動作したときは、モータ12の回転速度が不安定に変動するため、窓10への異物の挟み込みや窓用部材16、17の経年劣化を誤判定するおそれがある。そこで、モータ12の起動後しばらくしてから、窓ガラス11が全閉位置近傍に到るまでの間(図5に示す判定領域)に、挟み込みの判定や経年劣化の判定を行う。
そのために、制御部2は、モータ12を起動してから所定時間が経過したか否かを監視する(図3のステップS4)。そして、所定時間が経過すると、制御部2は、モータ12の起動直後の状態を脱したと判断する(図3のステップS4:YES)。
他の例として、たとえば、モータ12の起動後に、モータ12の回転速度の変化量が所定値以下に収束したときに、制御部2が、モータ12の起動直後の状態を脱したと判断してもよい。
モータ12の起動直後の状態を脱すると、モータ12の回転速度が安定するため、制御部2は、位置検出部2cにより窓ガラス11の開閉位置を検出する(図3のステップS5)。そして、制御部2は、その検出した開閉位置が全閉位置近傍であるか否かを判定する(図3のステップS6)。なお、全閉位置近傍とは、たとえば、窓ガラス11と窓枠上部に異物が挟み込まれないくらい全閉位置に近い領域のことである(図2(a)参照)。
制御部2が、窓ガラス11の開閉位置が全閉位置近傍でないことを確認すると(図3のステップS6:NO)、回転速度検出部2dがモータ12の回転速度Vを検出して、該回転速度Vを記憶部2aに随時記憶させる(図3のステップS7)。また、変化量算出部2eがモータ12の回転速度Vの変化量ΔVを算出して、該変化量ΔVを記憶部2aに随時記憶させる(図3のステップS8)。
窓ガラス11の全閉動作中に外乱が作用しないときは、モータ12の回転速度Vは、図5(a)に示すように変化する。モータ12の起動直後と全閉位置近傍以外の判定領域では、モータ12の回転速度Vはほぼ一定で推移し、図5(b)に示すように、回転速度Vの変化量ΔVは、ほぼ0付近で推移する。
図6は、窓用部材16、17が経年劣化した状態で窓ガラス11が全閉動作した場合の、モータ12の回転速度の変化の一例を示した図である。窓用部材16、17が経年劣化して、窓ガラス11との摺動抵抗が判定領域で部分的に高くなると、図6(a)に示すように、モータ12の回転速度Vは判定領域において上下に変動し、図6(b)および(c)に示すように、回転速度Vの変化量ΔVも上下に変動する。このモータ12の回転速度Vや変化量ΔVの変動は、窓用部材16、17が交換されるなどの対策が講じられない限り、以降の窓ガラス11の全閉動作時に継続して生じる。
窓ガラス11の全閉動作中に、判定領域で車両の走行による振動や、ドア9の開閉による衝撃などの一時的な外乱が作用した場合は、モータ12の回転速度Vは上下に変動し、回転速度Vの変化量ΔVも上下に変動する(図示省略)。また、窓ガラス11の全閉動作中に、窓10に異物が挟み込まれた場合は、モータ12の回転速度Vが低下し、回転速度Vの変化量ΔVが増大する(図示省略)。しかし、これらのようなモータ12の回転速度Vや変化量ΔVの変動は、一時的に生じるものであり、以降の窓ガラス11の全閉動作時に継続して生じることはない。
図5および図6に示すように、モータ12の回転速度Vは、所定のサンプリング間隔(P1、P2、・・・・Pm)で検出される。回転速度Vの変化量ΔVは、今回の回転速度Vnと1回前の回転速度Vn−1の差分(ΔV=Vn−1−Vn)としてもよいし、今回の回転速度VnとX(2以上の整数)回前の回転速度Vn−xの差分(ΔV=Vn−x−Vn)としてもよい。図6(a)および(b)に示すように、変化量ΔVを算出する回転速度Vのデータ間隔を狭くすると(間隔1)、変化量ΔVが小さくなる。また、図6(a)および(c)に示すように、変化量ΔVを算出する回転速度Vのデータ間隔を適切に広げると(間隔2)、変化量ΔVが大きくなって、回転速度Vの変動傾向を顕著に表すことができる。
図3のステップS8の後、挟み込み判定部2fが、挟み込み閾値Vzを記憶部2aから読み出して(図3のステップS9)、該挟み込み閾値Vzと変化量算出部2eで算出した回転速度Vの変化量ΔVとを比較する。
このとき、窓10に異物が挟み込まれると、モータ12の回転速度Vの変化量ΔVが挟み込み閾値Vzより大きくなるので(図3のステップS10:YES)、挟み込み判定部2fは、窓10への異物の挟み込みが有ったと判断する(図3のステップS12)。すると、モータ制御部2bが、モータ駆動部4によりモータ12を反転駆動(開方向へ回転駆動)して、窓ガラス11を所定量開動作させる(図3のステップS13)。これにより、窓10に挟み込まれた異物が解放される。
このように、窓10への異物の挟み込みが検出されて、窓ガラス11の全閉動作が中断された場合、制御部2は、記憶部2aに記憶された直近のモータ12の回転速度Vや変化量ΔVのデータを消去して(図3のステップS14)、終了する。
一方、窓10に異物が挟み込まれなければ、モータ12の回転速度Vの変化量ΔVが挟み込み閾値Vz以下になり(図3のステップS10:NO)、挟み込み判定部2fは、窓10への異物の挟み込みが無いと判断する(図3のステップS11)。すると、制御部2は、再び位置検出部2cにより窓ガラス11の開閉位置を検出する(図3のステップS5)。
窓ガラス11が閉動作して、全閉位置近傍に窓ガラス11の上端が入ると、制御部2は、位置検出部2cにより検出した窓ガラス11の開閉位置が、全閉位置近傍にあることを確認し(図3のステップS6:YES)、窓ガラス11が全閉位置に到達するのを待つ。
そして、位置検出部2cにより検出した窓ガラス11の開閉位置が、全閉位置に到達すると(図3のステップS15:YES)、モータ制御部2bが、モータ駆動部4によりモータ12の駆動を停止して、窓ガラス11の全閉動作を停止させる(図3のステップS16)。
次に、制御部2は、窓用部材16、17の経年劣化を判定する劣化判定処理を実行する(図3のステップS17)。
図4は、劣化判定処理の詳細を示したフローチャートである。まず制御部2は、所定の劣化判定条件が成立したか否かを確認する(図4のステップS18)。ここで、制御部2は、車両状態判定部2gにより監視して記憶部2aに記憶した車両状態を参照する。そして、直近の窓ガラス11の全閉動作中に、車両が走行中であったこと、ドア9が開状態であったこと、または車両の外気温が所定の常温範囲より低下していたこと、のいずれかを確認すると、制御部2は、劣化判定条件が不成立であったと判断する(図4のステップS18:NO)。この場合、制御部2は、記憶部2aに記憶された直近のモータ12の回転速度Vや変化量ΔVのデータを消去して(図4のステップS20)、処理を終了する。
対して、直近の窓ガラス11の全閉動作中に、車両が停車中であり、かつドア9が閉状態であり、かつ車両の外気温が所定の常温範囲にあることを確認すると、制御部2は、劣化判定条件が成立したと判断する(図4のステップS18:YES)。この場合、次に有効性判定部2hが、直近の窓ガラス11の全閉動作中に回転速度検出部2dにより検出した、直近のモータ12の回転速度Vのデータが有効であるか否かを判定する(図4のステップS19)。
たとえば、雨水などで窓ガラス11が濡れたときは、窓用部材16、17に対する窓ガラス11の摺動抵抗が低くなる。しかし、窓ガラス11が半渇き状態になると、窓用部材16、17に対する窓ガラス11の摺動抵抗が高くなる。その後、窓ガラス11が乾くと、窓用部材16、17に対する窓ガラス11の摺動抵抗がまた低くなる。
窓ガラス11が半渇き状態のときに、窓ガラス11を全閉動作させると、図7に実線で示すように、モータ12の回転速度Vは判定領域で周期的に変動する。このような周期的な外乱の影響を受けた回転速度Vのデータに基づいて、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定すると、誤判定するおそれがあるので、該不安定な回転速度Vのデータを経年劣化の判定対象から除外する必要がある。そのために、有効性判定部2hが、直近のモータ12の回転速度Vのデータが有効であるか否かを判定する。
図7を参照して、モータ12の回転速度Vの有効性の判断の一例を説明する。図7(a)の実線は、窓ガラス11が半渇き状態で全閉動作した場合の、直近のモータ12の回転速度Vの変化の一例を示している。まず、有効性判定部2hは、窓ガラス11が過去にL回(Lは2以上の整数)全閉動作したときのモータ12の回転速度Vを記憶部2aから読み出して、窓ガラス11の位置毎にモータ12の回転速度Vの平均値Vaveを算出する。このとき扱うデータに、直近のモータ12の回転速度Vは含まない。図7(a)の一点鎖線は、有効性判定部2hが算出したモータ12の過去L回分の回転速度Vの平均値Vaveの変化の一例を示している。
次に、有効性判定部2hは、図7の実線で示す直近のモータ12の回転速度Vと、図7に一点鎖線で示す過去L回分のモータ12の回転速度Vの平均値Vaveとを窓ガラス11の位置毎に比較する。そして、有効性判定部2hは、平均値Vaveを上回る直近の回転速度Vと平均値Vaveとの差分の和Aと、平均値Vaveを下回る直近の回転速度Vと平均値Vaveとの差分の和Bとをそれぞれ算出する(図7(b)参照)。
和Aと和Bのいずれもが所定値C以上で、かつ和Aと和Bの差が所定値D以下の場合は、平均値Vaveを中心とした周期的な外乱が大きい。このため、有効性判定部2hは、直近の回転速度Vのデータが一時的な外乱の影響を受けた無効なデータであると判定する(図4のステップS19:NO)。
対して、和Aと和Bの少なくとも一方が所定値C未満の場合、または和Aと和Bの差が所定値D未満の場合は、平均値Vaveを中心とした周期的な外乱が小さい。このため、有効性判定部2hは、直近の回転速度Vのデータが一時的な外乱の影響を受けていない有効なデータであると判定する(図4のステップS19:YES)。
図8は、モータ12の回転速度Vの有効性の判断の他の例を説明するための図である。図8の実線は、窓ガラス11が半渇き状態で全閉動作した場合の、モータ12の回転速度Vの変化の一例を示している。図8の一点鎖線は、有効性判定部2hが算出したモータ12の過去L回分の回転速度Vの平均値Vaveの変化の一例を示している。過去L回分の回転速度Vの平均値Vaveを算出した後、有効性判定部2hは、平均値Vaveに所定値αを加算して、上閾値Vave+αを算出し、平均値Vaveから所定値βを減算して、下閾値Vave−βを算出する。
直近の回転速度Vが上閾値Vave+αより大きい場合は、または直近の回転速度Vが下閾値Vave−βより小さい場合、平均値Vaveを中心とした周期的な外乱が大きい。このため、有効性判定部2hは、直近の回転速度Vのデータが一時的な外乱の影響を受けた無効なデータであると判定する(図4のステップS19:NO)。
対して、直近の回転速度Vが上閾値Vave+α以下で、かつ下閾値Vave−β以上である場合は、平均値Vaveを中心とした周期的な外乱が小さい。このため、有効性判定部2hは、直近の回転速度Vのデータが一時的な外乱の影響を受けていない有効なデータであると判定する(図4のステップS19:YES)。
直近の回転速度Vのデータが無効なデータであると判定した場合(図4のステップS19:NO)、制御部2は、直近の回転速度Vと変化量ΔVのデータを記憶部2aから消去して(図4のステップS20)、処理を終了する。
一方、直近の回転速度Vのデータが有効なデータであると判定した場合(図4のステップS19:YES)、制御部2は、直近の回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVaveを算出して、記憶部2aに記憶する(図4のステップS21)。
次に、比較値算出部2iが、記憶部2aを参照して、窓ガラス11が過去にN回(Nは2以上の整数)全閉動作したときの回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVaveに基づいて、変化量比較値ΔVave’を算出する(図4のステップS22)。このとき、たとえば過去N回分の回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVaveの平均値を、変化量比較値ΔVave’とする。また、過去N回分の回転速度Vの変化量ΔVには、直近(最新)の回転速度Vの変化量ΔVを含んでもよいし、含まなくてもよい。
変化量比較値ΔVave’が算出されると、劣化判定部2jが、所定の劣化閾値Vxを記憶部2aから読み出して(図4のステップS23)、該劣化閾値Vxと変化量比較値ΔVave’とを比較する。そして、変化量比較値ΔVave’が劣化閾値Vx以下であれば(図4のステップS24:NO)、劣化判定部2jは、窓用部材16、17の経年劣化が無いと判定し(図4のステップS25)、処理を終了する。
一方、変化量比較値ΔVave’が劣化閾値Vxより大きければ(図4のステップS24:YES)、劣化判定部2jは、窓用部材16、17の経年劣化が有ると判定する(図4のステップS26)。すると、劣化出力部2kが、窓用部材16、17が経年劣化していることを示した情報を、メモリ5に記録する(図4のステップS27)。また、劣化出力部2kは、窓用部材16、17が経年劣化していることを示した情報を、報知部15に出力する(図4のステップS28)。報知部15は、窓用部材16、17が経年劣化していることを示した情報を受信すると、窓用部材16、17の経年劣化を視覚的または聴覚的に報知する。この後、図4および図3の処理が終了する。
上記実施形態によると、窓ガラス11が過去にN回(複数回)全閉動作をしたときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVに基づいて変化量比較値ΔVave’を算出し、該変化量比較値ΔVave’と所定の劣化閾値Vxとを比較して、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定している。このため、窓ガラス11が正常に全閉動作するときとは異なるモータ12の回転速度Vの変化が、一時的な外乱による場合は、窓用部材16、17の経年劣化が有ったと誤判定するのを防止することができる。そして、窓ガラス11が正常に全閉動作するときとは異なるモータ12の回転速度Vの変化が、連続的な窓用部材16、17の経年劣化による場合は、窓用部材16、17の経年劣化が有ったと精度良く判定することができる。
また、上記実施形態では、窓ガラス11の全閉動作中に、車両が停車中で、かつドア9が閉状態で、かつ外気温が所定の常温範囲にある場合にのみ、劣化判定条件が成立する。そして、モータ12の回転速度Vの変化量ΔVが記憶部2aに記憶され、変化量比較値ΔVave’が算出され、窓用部材16、17の経年劣化の判定が行われる。このため、窓ガラス11の全閉動作中に、一時的な外乱である車両の走行による振動やドア9の閉動作による衝撃により、モータ12の回転速度Vが変動しても、該回転速度Vの変化量ΔVが窓用部材16、17の経年劣化の判定のために使用されず、該経年劣化の誤判定を防止することができる。また、一時的な外乱である外気温の低下により、窓用部材16、17が硬化して、窓ガラス11との摺動抵抗が高くなり、窓ガラス11の全閉動作中にモータ12の回転速度Vが変動することがある。然るに、この場合も、モータ12の回転速度Vの変化量ΔVが窓用部材16、17の経年劣化の判定のために使用されず、該経年劣化の誤判定を防止することができる。
また、上記実施形態では、窓ガラス11が過去にN回全閉動作したときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVave’を変化量比較値としている。そして、その変化量比較値ΔVave’を所定の劣化閾値Vxと比較して、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定している。このため、他の一時的な外乱が変化量比較値に及ぼす影響度合いを軽減し、窓用部材16、17の経年劣化の有無をより精度良く判定することができる。
また、窓ガラス11が一旦濡れた後の半渇き状態では、一時的に窓ガラス11と窓用部材16、17との摺動抵抗が高くなり、窓ガラス11の全閉動作中のモータ12の回転速度Vが変動することがある。然るに、上記実施形態では、それより過去に窓ガラス11が全閉動作をしたときから、さらにN回全閉動作をしたときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVに基づいて、変化量比較値ΔVave’を算出し、該変化量比較値ΔVave’ と所定の劣化閾値Vxとを比較している。このため、窓ガラス11の半渇き状態という一時的外乱の作用状態でも、この影響を受けず、窓用部材16、17の経年劣化の有無を精度良く判定することができる。
また、上記実施形態では、窓ガラス11が全閉動作したときに検出した直近のモータ12の回転速度Vと、窓ガラス11が過去にL回全閉動作をしたときのモータ12の回転速度Vとに基づいて、直近の回転速度Vが一時的な外乱の影響を受けていない有効なデータであるか否かを判定している。そして、直近の回転速度Vが有効なデータであると判定された場合に、該回転速度Vの変化量ΔVを、経年劣化の判定用データとして記憶部2aに記憶している。さらに、記憶部2aに記憶された過去の変化量ΔVのデータに基づいて変化量比較値を算出して、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定している。つまり、一時的な外乱が作用していない有効なモータ12の回転速度Vのデータを使用して、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定しているので、該判定をより精度良く行うことができる。
さらに、上記実施形態では、窓用部材16、17の経年劣化が有ると判定したときに、該判定結果を示す情報を劣化出力部2kによりメモリ5に記録したり、報知部15に出力したりしている。このため、たとえば車両の保守作業時に、メモリ5の記録内容を確認することで、窓用部材16、17が経年劣化したことをユーザが認識することができる。また、報知部15からの報知により、窓用部材16、17が経年劣化したことをユーザが認識することができる。
本発明は、上述した以外にも種々の実施形態を採用することができる。たとえば、以上の実施形態では、図4に示したように、変化量比較値として、窓ガラス11が過去にN回全閉動作をしたときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVave’を算出した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば図9または図10に示すように、過去N回分の回転速度Vの変化量ΔVの最小値または最大値を、変化量比較値として算出してもよい。図9および図10は、それぞれ劣化判定処理の他の例を示したフローチャートである。
図9の例では、直近のモータ12の回転速度Vのデータが有効なデータであると判定した(図9のステップS19:YES)後、制御部2が、直近の回転速度Vの変化量ΔVの最小値ΔVminを算出して、記憶部2aに記憶する(図9のステップS21a)。次に、比較値算出部2iが、窓ガラス11が過去にN回全閉動作したときの回転速度Vの変化量ΔVの最小値ΔVminに基づいて、変化量比較値を算出する(図9のステップS22a)。ここでは、たとえば過去N回分の変化量ΔVの最小値ΔVminの最小値ΔVmin’を変化量比較値とする。
そして、劣化判定部2jが、記憶部2aから所定の劣化閾値Vyを読み出して(図9のステップS23a)、該劣化閾値Vyと変化量比較値ΔVmin’とを比較する。ここで、変化量比較値ΔVmin’が劣化閾値Vy以下であれば(図9のステップS24a:NO)、劣化判定部2jは、窓用部材16、17の経年劣化が無いと判定する(図9のステップS25)。また、変化量比較値ΔVmin’が劣化閾値Vyより大きければ(図9のステップS24a:YES)、劣化判定部2jは、窓用部材16、17の経年劣化が有ると判定する(図9のステップS26)。
このように、窓ガラス11が過去にN回全閉動作したときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVの最小値ΔVmin’を変化量比較値とすることで、他の外乱の影響を最も受けていない変化量比較値ΔVmin’を劣化閾値Vyと比較して、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定することができる。
図10の例では、直近のモータ12の回転速度Vのデータが有効なデータであると判定した(図10のステップS19:YES)後、制御部2が、直近の回転速度Vの変化量ΔVの最大値ΔVmaxを算出して、記憶部2aに記憶する(図10のステップS21b)。次に、比較値算出部2iが、窓ガラス11が過去にN回全閉動作したときの回転速度Vの変化量ΔVの最大値ΔVmaxに基づいて、変化量比較値を算出する(図10のステップS22b)。ここでは、たとえば過去N回分の変化量ΔVの最大値ΔVmaxの最大値ΔVmax’を変化量比較値とする。
そして、劣化判定部2jが、記憶部2aから所定の劣化閾値Vwを読み出して(図10のステップS23b)、該劣化閾値Vwと変化量比較値ΔVmax’とを比較する。ここで、変化量比較値ΔVmax’が劣化閾値Vw以下であれば(図10のステップS24b:NO)、劣化判定部2jは、窓用部材16、17の経年劣化が無いと判定する(図10のステップS25)。また、変化量比較値ΔVmax’が劣化閾値Vwより大きければ(図10のステップS24b:YES)、劣化判定部2jは、窓用部材16、17の経年劣化が有ると判定する(図10のステップS26)。
このように、窓ガラス11が過去にN回全閉動作したときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVの最大値ΔVmax’を変化量比較値とし、この変化量比較値ΔVmax’と劣化閾値Vwとを比較することにより、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定することができる。
また、他の例として、窓ガラス11が過去にN回全閉動作したときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVaveのうち、最小の平均値または最大の平均値を変化量比較値としてもよい。そして、その変化量比較値と所定の劣化閾値とを比較することにより、窓用部材の経年劣化の有無を判定してもよい。
また、他の例として、たとえば図11に示すように、窓ガラス11が直近の全閉動作時よりM回(Mは2以上の整数)前に全閉動作したときから、さらに過去にN回全閉動作したときのモータ12の回転速度Vの変化量ΔVに基づいて、変化量比較値ΔVave”を算出してもよい(図11のステップ22c)。詳しくは、直近の全閉動作時の回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVaveを含まず、それよりさらに過去の複数(N回分)の回転速度Vの変化量ΔVの平均値ΔVaveの平均値を、変化量比較値ΔVave”としている。他の例として、このように直近の回転速度Vの変化量ΔVを考慮せず、それよりさらに過去の複数の回転速度Vの変化量ΔVの最大値または最小値を、変化量比較値としてもよい。
図11の例では、変化量比較値ΔVave”を算出した後、記憶部2aから所定の劣化閾値Vx”を読み出して(図11のステップS23c)、該劣化閾値Vx”と変化量比較値ΔVave”とを比較する。そして、変化量比較値ΔVave”が劣化閾値Vx”以下であれば(図11のステップS24c:NO)、窓用部材16、17の経年劣化が無いと判定する(図11のステップS25)。また、変化量比較値ΔVave”が劣化閾値Vx”より大きければ(図11のステップS24c:YES)、窓用部材16、17の経年劣化が有ると判定する(図11のステップS26)。
このように、直近の回転速度Vの変化量ΔVを考慮せず、それよりさらに過去のN回分の回転速度Vの変化量ΔVに基づいて、変化量比較値を算出することで、該変化量比較値と劣化閾値との比較結果から、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定することができる。そして、窓ガラス11が一旦濡れた後に半渇き状態になるなどの、一時的な外乱が変化量比較値に及ぼす影響度合いを一層軽減し、窓用部材16、17の経年劣化の有無をより精度良く判定することができる。
また、以上の実施形態では、劣化出力部2kが、窓用部材16、17が経年劣化していることを示した情報を、メモリ5に記録したり、報知部15に出力したりした例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、車両の保守時または検査時に、劣化出力部2kから検査装置(図示省略)に対して、窓用部材が経年劣化していることを示した情報を出力してもよい。
また、以上の実施形態では、PW操作部3のオート閉操作を受けて、窓ガラス11を自動で全閉動作した後、劣化判定処理を実行した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、PW操作部3のマニュアル閉操作を受けて、窓ガラス11が全閉動作した後にも、劣化判定処理を実行してもよい。
また、以上の実施形態では、モータ12の駆動状態を表す物理量として、モータ12の回転速度を検出した例を示したが、本発明はこれのみに限定するものではない。これ以外に、たとえば、モータ12に流れる電流を、本発明の物理量として検出してもよい。
その場合、図12に示す他の実施形態のように、たとえばモータ駆動部4に、モータ12に流れるモータ電流を検出する電流検出部4aを設ければよい。電流検出部4aは、たとえばシャント抵抗とCRローパスフィルタを含んだ回路から成り、本発明の「物理量検出手段」の一例である。
電流検出部4aで検出されたモータ電流は、制御部2に出力される。そして、制御部2において、変化量算出部2e’によりモータ電流の変化量が検出される。また、挟み込み判定部2f’により、モータ電流の変化量と所定の挟み込み閾値とが比較されて、該比較結果により挟み込みの有無が判定される。位置検出部2c’は、モータ電流に含まれるリップルを抽出し、該リップルに基づいて窓ガラス11の開閉位置を検出する。有効性判定部2h’は、窓ガラス11が全閉動作したときに、電流検出部4aで検出した直近のモータ電流と、窓ガラス11が過去にL回全閉動作をしたときのモータ電流とに基づいて、直近のモータ電流が一時的な外乱の影響を受けていない有効なデータであるか否かを判定する。比較値算出部2i’は、窓ガラス11が過去にN回全閉動作したときのモータ電流の変化量に基づいて、変化量比較値を算出する。劣化判定部2j’は、比較値算出部2i’により算出された変化量比較値と所定の劣化閾値とを比較して、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定する。
上記以外にも、たとえばモータ12の駆動状態に応じたパルス信号の周波数、モータ電流に含まれるリップルの周波数、またはモータ12にかかる負荷などのような、他の物理量を検出してもよい。そして、検出した物理量に基づいて、窓用部材16、17の経年劣化の有無を判定すればよい。
さらに、以上の実施形態では、車両の運転席のドア9に設けられた窓10の開閉を制御するパワーウインドウ制御装置1に本発明を適用した例を挙げたが、これに限るものではない。これ以外の、車両の他の窓の開閉を制御するパワーウインドウ制御装置に対しても、本発明を適用することは可能である。