以下、本発明の実施の形態1について、詳細に説明する。実施の形態1は、細胞におけるサバイビン遺伝子の発現量とその分布、サバイビンプロモーター活性の程度および形態に関する情報を得る方法に係る。
対象におけるサバイビン遺伝子の発現は、対象が特定の状態、例えば、癌であるときに高い。また、サバイビンタンパク質の分布は、それが存在する組織や細胞の状態に応じて変化する。
従って、サバイビン遺伝子の発現の程度とサバイビンタンパク質の分布との情報から、特定の細胞または組織がどのような状態にあるのか、特定の細胞にあるのか否かを判定することが可能である。1つの実施形態は、この原理を利用するサバイビンについての細胞解析方法である。
例えば、特定の試料、例えば、組織または細胞において、例えば、サバイビン遺伝子が高発現している場合に、その試料が癌化した試料、即ち、癌組織または癌細胞であると判定することが可能である。更なる1つの実施形態は、この原理を利用する癌の解析方法である。
或いは、癌細胞を被検物質に曝す前後で、サバイビン遺伝子の発現とサバイビンタンパク質の分布がどのように変化するのかを指標として、被検物質が特定の作用、例えば、抗癌作用を有するか否かを評価することが可能である。もう1つの実施形態は、この原理を利用する薬効スクリーニング方法である。
ベクターを利用して、サバイビン遺伝子の発現とサバイビンタンパク質の分布の情報を得ることが可能である。
細胞解析方法は、次の工程を含んでよい;
(1)サバイビンプロモーターと、その下流に機能的に連結された発光タンパク質をコードする遺伝子とを含む第1のベクター、およびプロモーターと、その下流に機能的に連結されたサバイビン遺伝子と、その下流に機能的に連結された蛍光タンパク質をコードする遺伝子とを含む発現ベクターである第2のベクターとを準備すること、
(2)採取および/または培養された細胞に前記第1のベクターと第2のベクターとを導入すること、
(3)(2)の前記細胞を薬剤に曝すこと、
(4)前記細胞が、前記薬剤に曝される前後に亘る期間内の少なくとも2つの時点で、明視野の観察、蛍光強度の測定および発光強度の測定をそれぞれ行うこと、および
(5)(4)の結果から、前記細胞に関する情報を得ること。
実施形態において使用されるベクターは、第1のベクターと第2のベクターが使用される。第1のベクターと第2のベクターについて、図1(1)および(2)を参照しながら説明する。
図1(1)に示される第1のベクター1は、サバイビン遺伝子のプロモーター活性の程度を測定するためのベクターである。第1のベクター1は、サバイビンプロモーター2と、その下流に機能的に連結された第1のレポーター遺伝子3とを含む。ここで、「機能的に連結された」とは、サバイビンプロモーター2の制御下において、レポーター遺伝子3が正常に発現されるように、サバイビンプロモーター2の下流に第1のレポーター遺伝子3が結合されていることをいう。
サバイビンプロモーター2は、それ自身公知の何れのサバイビンプロモーターであってよく、好ましくは、使用される試料に依存して選択された種類のサバイビンプロモーターであってよい。例えば、ヒトの細胞および組織について解析を行う場合では、ヒト由来のサバイビンプロモーターを使用することが好ましい。ヒトサバイビンプロモーターの配列を表1に配列番号1として示す。
サバイビンプロモーターとして使用される配列番号1で示されるヒトサバイビンプロモーターは、サバイビンプロモーターとしての機能を維持している限り、1個〜数個の塩基が欠失、置換および/または付与されていてもよい。他の公知のサバイビンプロモーターについても、同様に何れか公知のプロモーター配列について、それ独自のサバイビンプロモーター活性が維持されている限り、1個〜数個の塩基の欠失、置換および/または付与がなされていてもよい。
第1のレポーター遺伝子3は、何れか公知の発光タンパク質をコードする遺伝子であってよい。第1のレポーター遺伝子3の例は、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、Renillaルシフェラーゼ遺伝子、エクオリン遺伝子、オベリン遺伝子、コメツキムシルシフェラーゼ遺伝子、ヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子)および蛍光タンパク質遺伝子(例えば、BFP遺伝子、CFP遺伝子、GFP遺伝子、YFP遺伝子、RFP遺伝子)などであってよく、好ましくはルシフェラーゼである。
第1のベクターは、更に、neo遺伝子、β−gal遺伝子、cat遺伝子、およびhyg遺伝子などの更なる遺伝子を含んでもよい。また更に、第1のレポーター遺伝子3の下流にポリAなどの転写終結遺伝子を含んでもよい。第1のベクターとして、発光タンパク質をコードする遺伝子を含む市販のベクターを利用してもよい。例えば、そのような市販のベクターの発光タンパク質をコードする遺伝子の上流にサバイビンプロモーターを組み込めばよい。そのような組み込みは、例えば、制限酵素による切断と、リガーゼによる連結などの遺伝子工学的手法を利用してよい。或いは、遺伝子工学的手法により、サバイビンプロモーター2と、その下流に機能的に連結された第1のレポーター遺伝子3とを含む配列からなるポリヌクレオチドから第1のベクターを製造してもよい。第1のベクターの製造は、それ自身公知の技術を利用して行ってよい。
第1のベクターは、プラスミドベクターであっても、ウイルスベクターであってもよいが、プラスミドベクターが好ましい。
図1(2)に示される第2のベクター4は、発現ベクターであり、サバイビンタンパク質の分布を示すためのベクターである。第2のベクター4は、強力なプロモーターと、その下流に機能的に連結されたサバイビン遺伝子と、その下流に機能的に連結された第2のレポータータンパク質をコードする遺伝子とを含む。ここで、「機能的に連結された」とは、目的とする遺伝子が目的とする機能、即ち、サバイビン遺伝子を発現すること、または第2のレポータータンパク質を発現することができるように結合していることをいう。
強力なプロモーターは、その下流に連結された遺伝子が強制的に読まれるように制御するプロモーターである。強力なプロモーターは、一般的に発現ベクターにおいて使用されるそれ自身公知のプロモーターであればよい。強力なプロモーターの例は、サイトメガロウイルスプロモーター、Simian vacuolating virus 40(SV40)プロモーターおよびrespiratory syncytial virus(RSV)プロモーターであればよい。
サバイビン遺伝子は、それ自身公知の何れかのサバイビン遺伝子であればよく、例えば、ヒト、チンパンジー、マーモセット、ゼノパス、ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、線虫およびマウスのサバイビン遺伝子であればよい。好ましくは、使用される試料に依存して選択された種類のサバイビン遺伝子であってよい。例えば、ヒトの細胞および組織について解析を行う場合では、ヒト由来のサバイビン遺伝子を使用することが好ましい。ヒトサバイビン遺伝子の配列を表2に配列番号2として示す。
サバイビン遺伝子として使用される配列番号2で示されるヒトサバイビン遺伝子は、サバイビン遺伝子としての機能、および発現されるサバイビンタンパク質としての活性が維持している限り、1個〜数個の塩基が欠失、置換および/または付与されていてもよい。他の公知のサバイビン遺伝子についても、同様に何れか公知の配列について、それ独自のサバイビン遺伝子としての機能、および発現されるサバイビンタンパク質としての活性が維持している限り、1個〜数個の塩基の欠失、置換および/または付与がなされていてもよい。
第2のレポータータンパク質をコードする遺伝子は、蛍光タンパク質をコードする遺伝子であればよく、好ましくは、第1のレポータータンパク質として使用する発光タンパク質、並びに発光タンパク質の基質などの発光関連物質から蛍光を生じる可能性のある励起および蛍光スペクトルよりも、長波長側に励起波長を有する蛍光タンパク質が好ましい。具体的には、例えば、第1のレポータータンパク質としてルシフェラーゼを用いる場合、その基質としてルシフェリンが使用される。ルシフェリンは、それ自体が、短波長によって蛍光を発する。従って、ルシフェリンから蛍光が生じることのない波長の蛍光タンパク質を第2のレポータータンパク質を選択することが望ましい。好ましい蛍光タンパク質の例は、黄色蛍光タンパク質(YFP)、Enhanced yellow fluorescent protein(EYFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、Venus、PhiYFP、YsYello、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、DsRed、AsRed、mCherry、HcRed、mPlumおよびmStrawberryなどであってよい。好ましい蛍光タンパク質をコードする遺伝子の配列の1例として、EYFPの配列を表3に示す。
第2のベクターは、更に、neo遺伝子、β−gal遺伝子、cat遺伝子、およびhyg遺伝子などの更なる遺伝子を含んでもよい。また更に、第2のベクターは、第2のレポーター遺伝子の下流にポリAなどの転写終結遺伝子を含んでもよい。第2のベクターとして、強力なプロモーターおよび/または蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む市販のベクターを利用してもよい。例えば、そのような市販のベクターにおいて、強力なプロモーターの下流であり、且つ蛍光タンパク質をコードする遺伝子の上流に対して、サバイビン遺伝子を組み込めばよい。そのような組み込みは、例えば、制限酵素による切断と、リガーゼによる連結などの遺伝子工学的手法を利用してよい。或いは、遺伝子工学的手法により、強力なプロモーターと、その下流に機能的に連結されたサバイビン遺伝子と、その下流に機能的に連結された第2のレポータータンパク質をコードする遺伝子とを含む配列からなるポリヌクレオチドから第2のベクターを製造してもよい。第2のベクターの製造は、それ自身公知の技術を利用して行ってもよい。
第2のベクターは、プラスミドベクターであっても、ウイルスベクターであってもよいが、プラスミドベクターが好ましい。
第1のベクターと第2のベクターとの試料への導入は、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法およびマイクロインジェクション法などにより行えばよい。
試料に導入された第1のベクターと第2のベクターは、互いに独立して機能する。第1のベクターは、試料中の環境に依存したサバイビンプロモーターの活性に従って、第1のレポータータンパク質を発現する。第2のベクターは、強いプロモーターにより強制的にサバイビンと蛍光タンパク質との融合タンパク質を発現する。発現された融合タンパク質は、試料中の環境に依存して試料において分布する。
「試料」は、細胞および/または組織であってよい。組織は、生体から採取された組織であってよく、生体から採取され、培養された組織であってもよく、生体から採取または採取および培養された組織から切り出された切片であってもよい。細胞は、生体から採取された細胞であっても、生体から採取され、単離された細胞であっても、培養された細胞であっても、生体から採取された後に培養された細胞であっても、継代培養された細胞であってもよい。細胞は、生体から採取された組織を酵素より消化することにより準備してもよい。また試料は生物個体、胚、卵であってもよい。
試料に対して第1のベクターと第2のベクターを導入した後に、試料に含まれる特定の細胞について、その形態を明視野で観察し、且つ第1のベクターに基づく発光シグナルと、第2のベクターに基づく蛍光シグナルとを順次測定する。この際に、これらの形態観察と発光および蛍光シグナルの測定は、試料に含まれる特定の細胞について行う。このような形態観察と、発光および蛍光シグナルの測定は、共通する興味領域(Region of Interest、ROI)を指定することにより、同じ対象、例えば、同じ細胞について明視野観察、発光シグナルの測定および蛍光シグナルの測定を行える観察装置または観察システムを利用して行うことが可能である。そのような観察装置および観察システムにより撮像された画像について、明視野観察、発光強度の測定および蛍光強度の測定を行ってもよい。
そのような観察システムの1例として、実施の形態2について図2〜図4を参照して説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
図2に示すように、発現量測定装置1000は、細胞1020と、細胞1020を収納した容器1030(具体的にはシャーレ、スライドガラス、マイクロプレート、ゲル支持体、微粒子担体など)と、容器1030を配置するステージ1040と、発光画像撮像ユニット1060と、蛍光画像撮像ユニット1080と、情報通信端末1100と、で構成されている。また、発現量測定装置1000において、発光画像撮像ユニット1060に含まれる対物レンズ1060aと蛍光画像撮像ユニット1080に含まれる対物レンズ1080aとは、図示の如く、細胞1020、容器1030およびステージ1040を挟んで上下の対向する位置に配置される。なお、発光画像撮像ユニット1060および蛍光画像撮像ユニット1080の配置を入れ替えてもよい。
細胞1020は、サバイビンプロモーターと組み合わせて発光タンパク質(具体的には例えばルシフェラーゼ)を発現する発光関連遺伝子、サバイビン遺伝子と組み合わせて蛍光タンパク質(具体的には例えばYFP)を発現する蛍光関連遺伝子を導入した生きたものである。ここで、本明細書において発光とは、生物発光および化学発光を含む概念である。
なお、細胞1020は、発光関連遺伝子と蛍光関連遺伝子とを融合した融合遺伝子を導入した生きたものでもよい。具体的には、細胞1020は、発光関連遺伝子と蛍光関連遺伝子とを融合したベクターを導入した生きたものでもよい。換言すると、細胞1020に対し解析対象であるサバイビンプロモーターまたはサバイビン遺伝子とそれぞれ組み合わせた発光関連遺伝子または蛍光関連遺伝子との組を複数導入してもよい。これにより、細胞1020に導入したサバイビンプロモーター活性とサバイビン遺伝子発現量を一緒に測定し、さらにそれらに加えて、細胞の形態を明視野で観察する。即ち、蛍光でサバイビン遺伝子の発現量を測定し、発光でサバイビンプロモーターの活性の程度を測定し、明視野で細胞の形態を観察する。具体的には、細胞1020は、第1のベクターを導入すると共に、第2のベクターを導入した生きたものでもよい。
発光画像撮像ユニット1060は、具体的には正立型の発光顕微鏡であり、細胞1020の発光画像を撮像する。発光画像撮像ユニット1060は、図示の如く、対物レンズ1060aと、ダイクロイックミラー1060bと、CCDカメラ1060cと、で構成されている。対物レンズ1060aは、具体的には、(開口数/倍率)2の値が0.01以上のものである。ダイクロイックミラー1060bは、細胞1020から発せられた発光を色別に分離し、2色の発光を用いて発光強度を色別に測定する場合に用いる。CCDカメラ1060cは、対物レンズ1060aを介して当該CCDカメラ1060cのチップ面に投影された細胞1020の発光画像および明視野画像を撮る。また、CCDカメラ1060cは、情報通信端末1100と有線または無線で通信可能に接続される。ここで、細胞1020が撮像範囲中に複数存在する場合、CCDカメラ1060cは、撮像範囲中に含まれる複数の細胞1020の発光画像および明視野画像を撮像してもよい。なお、図2では、ダイクロイックミラー1060bで分離した2つの発光に対応する発光画像を2台のCCDカメラ1060cで別々に撮像する場合の一例を示しており、1つの発光を用いる場合には、発光画像撮像ユニット1060は、対物レンズ1060aおよび1台のCCDカメラ1060cで構成されてもよい。
蛍光画像撮像ユニット1080は、具体的には倒立型の蛍光顕微鏡であり、細胞1020の蛍光画像を撮像する。蛍光画像撮像ユニット1080は、図示の如く、対物レンズ1080aと、ダイクロイックミラー1080bと、キセノンランプ1080cと、CCDカメラ1080dと、で構成されている。CCDカメラ1080dは、対物レンズ1080aを介して当該CCDカメラ1080dのチップ面に投影された細胞1020の蛍光画像および明視野画像を撮る。また、CCDカメラ1080dは、情報通信端末1100と有線または無線で通信可能に接続される。ここで、細胞1020が撮像範囲中に複数存在する場合、CCDカメラ1080dは、撮像範囲中に含まれる複数の細胞1020の蛍光画像および明視野画像を撮像してもよい。ダイクロイックミラー1080bは、細胞102からの蛍光を透過するとともに、キセノンランプ1080cから照射された励起光が細胞1020へ照射されるように励起光の方向を変える。キセノンランプ1080cは励起光を照射する。
ここで、発光画像撮像ユニット1060および蛍光画像撮像ユニット1080は、具体的には、それぞれ倒立型の発光顕微鏡および倒立型の蛍光顕微鏡でもよく、ステージ1040は回転するものでもよい。
情報通信端末1100は、具体的にはパーソナルコンピュータである。そして、情報通信端末1100は、図3に示すように、大別して、制御部1120と、システムの時刻を計時するクロック発生部1140と、記憶部1160と、通信インターフェース部1180と、入出力インターフェース部1200と、入力部1220と、出力部1240と、で構成されており、これら各部はバスを介して接続されている。
記憶部1160は、ストレージ手段であり、具体的には、RAMやROMなどのメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスクなどを用いることができる。そして、記憶部1160は制御部1120の各部の処理により得られたデータなどを記憶する。
通信インターフェース部1180は、情報通信端末1100と、CCDカメラ1060cおよびCCDカメラ1080dと、の間における通信を媒介する。すなわち、通信インターフェース部1180は他の端末と有線または無線の通信回線を介してデータを通信する機能を有する。
入出力インターフェース部1200は、入力部1220や出力部1240に接続する。ここで、出力部1240には、モニター(家庭用テレビを含む)の他、スピーカやプリンタを用いることができる(なお、以下で、出力部1240をモニターとして記載する場合がある)。また、入力部1220には、キーボードやマウスやマイクの他、マウスと協働してポインティングデバイス機能を実現するモニターを用いることができる。
制御部1120は、OS(Operating System)などの制御プログラムや各種の処理手順などを規定したプログラムや所要データを格納するための内部メモリを有し、これらのプログラムに基づいて種々の処理を実行する。そして、制御部1020は、大別して、蛍光画像撮像指示部1120aと、発光画像撮像指示部1120bと、蛍光画像取得部1120cと、発光画像取得部1120dと、判定部1120eと、蛍光測定部1120fと、発光測定部1120gと、選択部1120h、発現量測定部1120iと、明視野画像撮像指示部1120jと、明視野画像取得部1120kと、形態同定部1120lで構成されている。
蛍光画像撮像指示部1120aは、通信インターフェース部1160を介して、CCDカメラ1080dへ蛍光画像の撮像を指示する。発光画像撮像指示部1120bは、通信インターフェース部1160を介して、CCDカメラ1060cへ発光画像の撮像を指示する。蛍光画像取得部1120cは、CCDカメラ1080dで撮像した蛍光画像を、通信インターフェース部1160を介して取得する。発光画像取得部1120dは、CCDカメラ1060cで撮像した発光画像を、通信インターフェース部1160を介して取得する。明視野画像指示部1120jは、通信インターフェース部1160を介して、CCDカメラ1060cおよび/またはCCDカメラ1080dへの明視野画像の撮像を指示する。明視野画像取得部1120kは、CCDカメラ1060cおよび/またはCCDカメラ1080dで撮像した明視野画像を通信インターフェース部1160を介して取得する。同一視野内の1つの細胞、または複数の細胞、または互いに異なる細胞を、予め設定された時間および間隔に応じたタイミングで撮像したタイムラプス映像または1画像上に同時に画像再生することにより、時間軸に沿った動画(またはコマ送り)ないし1画像表示をしてもよい。
判定部1120eは、蛍光画像および/または発光画像に基づいて、各遺伝子が導入されているか否かを細胞1020ごとに判定する。蛍光測定部1120fは、CCDカメラ1080dで撮像した蛍光画像に基づいて、各細胞1020から発せられた蛍光の蛍光強度をそれぞれ測定する。発光測定部1120gは、CCDカメラ1060cで撮像した発光画像に基づいて、各細胞1020から発せられた発光強度をそれぞれ測定する。
形態同定部1120hは、明視野画像取得部1120kで得られた明視野画像に含まれる1つの細胞または複数の細胞のそれぞれについて、予め設定した特徴点、即ち、細胞の輪郭の形状、核の輪郭の形状を判定し、それに基づいて、予め設定された特定の特徴点を有すると同定する。形態同定部1120hの同定の結果に基づいて、選択部1120hは、経時的に測定すべき細胞を選択する。ここで、特徴点の判定は、1つの細胞または複数の細胞について、複数の時間点で測定された特徴点の変化の有無により行われてもよい。即ち、特徴点の同定は、少なくとも2つの時間点において、細胞の輪郭および/または核の輪郭に変化があるか否かを判定することにより行われてもよい。
発現量測定部1120jは、選択部1120iで選択した細胞1020を対象として、蛍光測定部1120fで測定した蛍光強度に基づいて解析対象のサバイビン遺伝子の発現量を測定し、発光測定部1120gで測定した発光強度に基づいて解析対象のサバイビンプロモーター活性の程度を測定する。なお、発現量測定部1120jは、複数の細胞1020または選択部1120iで選択した細胞1020を対象として、蛍光測定部1120fで測定した蛍光強度に基づいて解析対象のサバイビン遺伝子の発現量を測定すると共に、CCDカメラ1080dで撮像した蛍光画像に基づいて解析対象の遺伝子の細胞1020内における発現部位を同定してもよい。
以上の構成において、発現量測定装置1000で行われる処理の一例を、図4を参照して説明する。なお、以下では、第1のベクターおよび第2のベクターを複数の細胞1020に導入し、導入した複数の細胞1020のうち特定の細胞1020を対象として、発光画像における発光強度でサバイビンプロモーター活性の程度を経時的に測定し、蛍光画像における蛍光強度および分布でサバイビンタンパク質の分布を経時的に測定し、且つ明視野画像における観察により形態を同定する場合の処理の1例について説明する。
まず、情報通信端末1100は、蛍光画像撮像指示部1120aの処理で通信インターフェース部1160を介してCCDカメラ1080dへ蛍光画像の撮像を指示し、発光画像撮像指示部1120bの処理で通信インターフェース部1160を介してCCDカメラ1060cへ発光画像の撮像を指示し、明視野画像撮像指示部1120jの処理で通信インターフェース部1160を介してCCDカメラ1080dへ明視野画像の撮像を指示する(ステップSB−1)。つぎに、CCDカメラ1080dは、撮像範囲中に存在する複数の細胞1020の蛍光画像を撮像し(ステップSB−2)、当該蛍光画像を情報通信端末1100へ送信する(ステップSB−3)。一方、CCDカメラ1060cは、撮像範囲中に存在する複数の細胞1020の発光画像を撮像し(ステップSB−4)、当該発光画像を情報通信端末1100へ送信する(ステップSB−5)。更に、CCDカメラ1080dまたはCCDカメラ1060cは、撮像範囲中に存在する複数の細胞1020の明視野画像を撮像し(ステップSB−6)、当該明視野画像を情報通信端末1100へ送信する(ステップSB−7)。なお、蛍光画像の撮像指示および発光画像の撮像指示および明視野画像の撮像指示は、異なる時刻または時間間隔で行ってもよい。例えば、サバイビンプロモーターの活性の程度を測定するために用いる発光画像の撮像、サバイビン遺伝子の発現量を測定するために用いる蛍光画像の撮像、および細胞の形態を同定するための明視野画像の撮像は、それぞれ数秒おき、数分おきまたは数時間おきに行ってもよい。また、励起光は蛍光画像を撮像する時のみ細胞1020へ照射する。
つぎに、情報通信端末1100は、(a)蛍光画像取得部1120cの処理で通信インターフェース部1160を介して蛍光画像を取得し、(b)発光画像取得部1120dの処理で通信インターフェース部1160を介して発光画像を取得し、(c)明視野画像取得部1120kの処理で通信インターフェース部1160を介して明視野画像を取得し、(d)制御部1120の処理でクロック発生部1140から時刻を取得し、(e)取得した蛍光画像と発光画像と明視野画像と時刻とを対応付けて記憶部1160の所定の記憶領域に記憶する(ステップSB−8)。
つぎに、情報通信端末1100は、判定部1120eの処理で、蛍光画像および/または発光画像に基づいて、ベクターが導入されているか否かを細胞1020ごとに判定する(ステップSB−9)。つぎに、ベクターが導入されている細胞1020が少なくとも1つ存在した場合(ステップSB−10:Yes)、情報通信端末1100は、蛍光測定部1120fの処理で蛍光画像に基づいて各細胞1020から発せられた蛍光の蛍光強度をそれぞれ測定すると共に、発光測定部1120gの処理で発光画像に基づいて各細胞1020から発せられた発光の発光強度をそれぞれ測定する(ステップSB−11)。
つぎに、情報通信端末1100は、形態同定部1120lの処理で、明視野画像に基づいて、形態に関する特徴点を細胞1020ごとに判定することで、細胞の形態を細胞1020ごとに同定する(ステップSB−12)。なお、蛍光関連遺伝子を含む第2のベクターを細胞1020に導入し、それにより得られた蛍光強度に基づいて細胞形態の特徴点を細胞1020ごとに判定することで、細胞の形態を細胞1020ごとに同定してもよい。また、形態の特徴点の判定は、所定の部位、具体的には核、細胞膜、細胞質などの明視野画像および/または蛍光画像における時間点での位置データについて、明視野画像および/または蛍光画像と時刻とを対応付けて記憶部1160の所定の記憶領域に記憶し、更なる時間点での対応する位置データと比較することにより行ってもよい。
つぎに、情報通信端末1100は、選択部1120hの処理で、ステップSB−12で形態が同定された細胞1020の中から測定対象の細胞1020を選択する(ステップSB−13)。つぎに、情報通信端末1100は、発現量測定部1120jの処理で、ステップSB−13で選択した細胞1020を対象として、蛍光強度に基づいて解析対象の遺伝子の発現量を測定すると共に、蛍光画像に基づいて解析対象のサバイビン遺伝子の細胞1020内における発現部位を同定する(ステップSB−14)。なお、ステップSB−12において蛍光強度または蛍光画像を用いる場合、ステップSB−14では、蛍光強度に基づいて解析対象のサバイビン遺伝子の発現量を測定し、発光強度に基づいてサバイビンプロモーターの活性の程度を測定してもよい。
そして、情報通信端末1100は、制御部1120の処理で、上述したステップSB−1〜ステップSB−14までの処理を例えば予め設定した時間間隔で所定の回数繰り返し実行し、所定の回数終了した場合(ステップSB−15:Yes)には処理を終了する。
ここで、発光画像、蛍光画像および明視野画像の撮像および取得だけを繰り返し実行し、解析の時点で、発光強度の測定、蛍光強度の測定、蛍光の分布、形態の同定、細胞1020の選択、発現量の測定、活性の程度の測定を行ってもよい。つまり、解析に必要な元データである発光画像、蛍光画像および明視野画像だけをまとめて取得し、その後、解析の時点で、発光強度の測定、蛍光強度の測定、蛍光の分布、形態の同定、細胞1020の選択、発現量の測定、活性の程度の測定を行ってもよい。具体的には、発光画像、蛍光画像および明視野の取得後に、解析の時点で、細胞1020の選択、発現量の測定、発現されたサバイビン遺伝子の分布の測定、形態の同定を行ってもよい。また、発光画像、蛍光画像および明視野画像の取得を行った後、解析の時点で、形態の同定、細胞1020の選択を行ってもよい。また、発光画像、蛍光画像および明視野画像の取得後に、解析の時点で、細胞1020の選択を行ってもよい。
また、蛍光画像を取得した後、測定対象の細胞1020を選択し、そして発光画像を取得してもよい。
以上、詳細に説明したように、発現量測定装置1000によれば、発光関連遺伝子と蛍光関連遺伝子と解析対象のサバイビン遺伝子とサバイビンプロモーターを導入した生きた細胞1020を対象として、細胞1020から発せられた発光の発光強度を測定し、細胞1020から発せられた蛍光の蛍光強度を測定し、測定した発光強度または測定した蛍光強度に基づいて解析対象の遺伝子の発現量を測定する、測定した細胞の形態の同定にあたって、細胞は、発光関連遺伝子、蛍光関連遺伝子および解析対象のサバイビン遺伝子およびサバイビンプロモーターを同定された細胞を用いて行う。このような方法により、1つの細胞について、サバイビン遺伝子の発現量および発現の分布の状態、サバイビンプロモーターの活性の程度、並びに形態情報を簡便且つ正確に得ることが可能であり、また、得られた複数の情報に基づいて、総合的に細胞解析を行うことが可能となる。
また、発現量測定装置1000によれば、細胞1020が撮像範囲中に複数存在する場合、複数の細胞1020の蛍光画像を撮像し、複数の細胞1020の発光画像を撮像し、撮像した発光画像に基づいて、各細胞1020から発せられた発光の発光強度をそれぞれ測定し、撮像した蛍光画像に基づいて、各細胞1020から発せられた蛍光の蛍光強度をそれぞれ測定し、更に各細胞1020の形態を明視野画像に基づいて特徴点として測定し、測定した発光強度および/または測定した蛍光強度および/または形態に関する特徴点の情報に基づいて、解析対象のサバイビン遺伝子の発現量、サバイビンプロモーターの活性の程度、形態同定若しくは形態の変化を細胞1020ごとに測定し、細胞1020ごとに細胞解析を行う。これにより、複数の細胞1020を対象として、解析対象のサバイビン遺伝子の発現量、サバイビンプロモーター活性の程度および形態同定若しくは形態変化の同定を細胞1020ごとに測定若しくは評価することができる。
また、発現量測定装置1000によれば、発現量の測定において、選択された細胞1020を対象として、測定した蛍光強度に基づいて解析対象のサバイビン遺伝子の発現量を測定すると共に、撮像した蛍光画像に基づいて解析対象のサバイビン遺伝子の細胞1020内における発現部位を同定し、且つ発光画像に基づいてサバイビンプロモーターの活性の程度を測定しながら、更に、明視野画像に基づいて細胞形態の判定および/または細胞形態の変化を、それぞれ時間軸に沿って細胞ごとに測定することが可能である。これにより、解析対象のサバイビン遺伝子とサバイビンプロモーター活性の程度および細胞形態の状態および/または変化を評価することができるだけでなく、サバイビン遺伝子の細胞1020内における発現部位を得ることができる。
また、発現量測定装置1000を利用すれば、具体的には、抗がん剤およびそのリード化合物の評価を行うことができる。特に、抗がん剤がサバイビン遺伝子の発現および/または発現部位、並びにサバイビンプロモーター活性の程度、並びに細胞の形態に影響を与えるか否か、或いは、どの程度の影響を与えることが可能であるかを判定および/またはモニターすることが可能であり、更に、そのリード化合物がサバイビン遺伝子の転写活性に影響を与えるかどうかを同時にモニターすることができる。また、発現量測定装置1000を利用すれば、具体的には、サバイビン遺伝子について、発光測定によるサバイビンププロモーター活性の程度および明視野による細胞1020の形態の状態および/または変化をモニターしながら、蛍光検出にて発現時期・局在性を同定することで、被検物質の有用性を総合的に評価することができる。
以下、添付図面を参照して、本発明にかかる測定装置としての顕微鏡ユニットおよび顕微鏡装置の好適な実施の形態3を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付している。
まず、本発明の実施の形態3にかかる顕微鏡装置について説明する。図5は、この実施の形態3にかかる顕微鏡装置の構成を示す模式図である。図5に示すように、この実施の形態にかかる顕微鏡装置100aは、蛍光観察を行う蛍光顕微鏡ユニット101と、生物発光観察を行う生物発光観察ユニット102aと、発光標識および蛍光標識が付与された標本Sを保持する保持手段としての保持部7と、各顕微鏡ユニット101,102aによって撮像した標本Sの標本像などを表示するモニター209と、顕微鏡装置100aの全体の処理および動作を制御する制御装置PC201と、を備える。蛍光顕微鏡ユニット101と生物発光顕微鏡ユニット102aとは、互いに隣接して配置される。
蛍光顕微鏡ユニット101は、蛍光対物レンズとしての対物レンズ201および蛍光結像レンズとしての結像レンズ202を有する高倍率の蛍光結像光学系と、この蛍光結像光学系によって結像される標本Sの標本像である蛍光標本像を撮像する蛍光撮像手段としての撮像装置203と、標本Sを励起する励起光を発する励起光源204と、励起光源204からの励起光を集光するレンズ205と、蛍光ユニットとしての蛍光キューブ206と、を備える。
対物レンズ201は、標本側に大きなNAを有し、標本Sに付与された蛍光標識の各点から発せられる蛍光をほぼ平行光束に変換する。結像レンズ202は、対物レンズ201によってほぼ平行光束に変換された蛍光を集光して標本Sの標本像である蛍光標本像を結像する。蛍光結像光学系は、蛍光標本像を40倍以上の高倍率で結像する。撮像装置203は、CCD、CMOSなどの固体撮像素子を有し、この固体撮像素子の撮像面上に結像される蛍光標本像を撮像し、画像データを生成して制御装置PC201に出力する。
蛍光キューブ206は、標本Sを励起するための励起光を選択的に透過させる励起光透過フィルターとしての励起フィルター206aと、この励起光によって励起された標本Sから発せられる蛍光を選択的に透過させる蛍光透過フィルターとしての吸収フィルター206bと、励起光を反射して蛍光を透過させるダイクロイックミラー206cとを一体に備える。励起フィルター206aは、励起光源204から発せられる各種波長の光の中から所定の波長域の励起光を抽出するバンドパスフィルターであり、吸収フィルター206bは、所定のカットオフ波長を有するロングウェーブパスフィルターである。なお、吸収フィルター206bは、所定の波長範囲の蛍光を抽出するバンドパスフィルターでもよい。バンドパスフィルターは、標本Sから発せられる生物発光と蛍光の波長が近い場合に有効である。
励起光源204は、水銀ランプ、キセノンランプ、レーザーなどによって実現され、励起光照射手段としての励起光源4およびレンズ205は、励起光源204からの励起光を、励起光フィルター206aを介し、ダイクロイックミラー206cによって反射させ標本Sに照射する。なお、励起光源204は、制御装置PC201からの指示をもとに点灯および消灯を行う。
生物発光顕微鏡ユニット102aは、生物発光対物レンズとしての対物レンズ211および生物発光結像レンズとしての結像レンズ212を有する低倍率の生物発光結像光学系と、この生物発光結像光学系によって結像される標本Sの標本像である生物発光標本像を撮像する生物発光撮像手段としての撮像装置213と、を備える。
対物レンズ211は、標本側に大きなNAを有し、標本Sに付与された発光標識の各点から自己発光によって発せられる生物発光をほぼ平行光束に変換する。結像レンズ212は、対物レンズ211によってほぼ平行光束に変換された生物発光を集光して標本Sの標本像である生物発光標本像を結像する。生物発光結像光学系は、蛍光結像光学系の結像倍率よりも低い結像倍率で生物発光標本像を結像する。このとき、生物発光結像光学系は、標本側のNAをNAo、結像倍率をβとして、(NAo/β)2≧0.01を満足することが望ましい。
撮像装置213は、CCD、CMOSなどの固体撮像素子を有し、この固体撮像素子の撮像面上に結像される生物発光標本像を撮像し、画像データを生成して制御装置PC201に出力する。なお、撮像装置213が有する固体撮像素子は、高感度のモノクロームCCDであって0℃程度の冷却CCDを用いるとよい。
保持部207は、標本Sを直接載置するプレパラート、スライドガラス、マイクロプレート、ゲル支持体、微粒子担体、インキュベーターなどの保持部材207aと、この保持部材207aとともに標本Sを2次元的に移動させる可動ステージ207bとを有する。可動ステージ207bは、制御装置PC201からの指示をもとに、ステージ駆動部208によって駆動される。
制御装置PC201は、CPUを備えたコンピュータなどの処理装置によって実現され、撮像装置203,213、励起光源204、ステージ駆動部208およびモニター209を電気的に接続し、これらの各構成部位の動作を制御する。制御装置PC201は、特に、撮像切換制御手段として、撮像装置213によって撮像される生物発光標本像の像特性をもとに、生物発光顕微鏡ユニット102aによる生物発光標本像の撮像と、蛍光顕微鏡ユニット101による蛍光標本像の撮像とを切り換える撮像切換処理の制御を行う。
ここで、制御装置PC201が制御する撮像切換処理について説明する。図6は、撮像切換処理の処理手順を示すフローチャートである。図6に示すように、制御装置PC201は、可動ステージ207bによって生物発光結像光学系の視野内に移動された標本Sの生物発光標本像を撮像装置213によって撮像する(ステップS101)。この撮像結果をもとに、制御装置PC201は、生物発光標本像の像特性としての像強度があらかじめ設定したしきい値より大きい領域が生物発光標本像内にあるか否かを判断する(ステップS103)。像強度がしきい値より大きい領域がないと判断された場合(ステップS103:No)、制御装置PC201は、ステップS101からの処理を繰り返す。
一方、像強度がしきい値より大きい領域があると判断された場合(ステップS103:Yes)、制御装置PC201は、ステップS101で撮像した生物発光標本像を記録し(ステップS105)、可動ステージ207bによって蛍光結像光学系の視野内に標本Sを移動する(ステップS107)。そして、制御装置PC201は、生物発光標本像の像強度がしきい値より大きい領域に対応する蛍光標本像を撮像装置203によって撮像して記録し(ステップS109)、撮像切換処理を終了する。なお、標本Sの経過観察を行う場合、制御装置PC201は、ステップS109の後、可動ステージ207bによって標本Sを再び生物発光結像光学系の視野内に移動し、ステップS101からの処理を繰り返すように制御するとよい。また、ステップS109での撮像は、タイムラプス撮像または1画像の撮像のどちらでもよい。また、同一視野内の異なる細胞を、予め設定されたタイミングで撮像したタイムラプス映像または1画像上に同時に画像再生することにより、時間軸に沿った動画(またはコマ送り)ないし1画像表示をしてもよい。
制御装置PC201は、ステップS105およびS109では、撮像した生物発光標本像および蛍光標本像を自装置内に備えるRAMなどの記憶部に記憶する。また、制御装置PC201は、ステップS101およびS109では、撮像した生物発光標本像および蛍光標本像をモニター209に逐次表示するようにしてもよい。さらに、制御装置PC201は、ステップS101〜S105の間、すなわち、生物発光顕微鏡ユニット102によって標本Sの生物発光観察を行っている間、励起光源204を消灯し、ステップS109で標本Sの蛍光観察を行う場合、励起光源204を点灯するように制御を行うとよい。あるいは、励起光源204から蛍光ユニッ20ト6までの光路上にシャッターなどの遮光装置を設け、制御装置PC201は、未照射手段として、励起光源204を点灯および消灯する替わりに、遮光装置を開閉することによって励起光の照射を制御するようにしてもよい。
なお、制御装置PC201は、ステップS103では、生物発光標本像内の部分的な領域の像強度をもとに蛍光観察への切り換えを判断するようにしたが、生物発光標本像の全体の像強度をもとに切り換えを判断するようにしてもよい。また、制御装置PC201は、これらの像強度を、たとえば、所定時点から現時点までの累積の像強度として取得してもよく、あるいは現時点の瞬間的な像強度として取得してもよい。なお、生物発光標本像の全体の像強度を取得する場合には、撮像装置213に替えてフォトマルチプライヤーなどの高感度の受光素子を用いてもよい。
以上説明したように、この実施の形態3にかかる顕微鏡装置によれば、蛍光観察用の蛍光顕微鏡ユニット101と生物発光観察用の生物発光顕微鏡ユニット102aとを隣接して備えるとともに、蛍光結像光学系および生物発光結像光学系の各視野内に標本Sを移動させる可動ステージ207bとを備えるため、適宜に蛍光観察と生物発光観察とを切り換えることができ、また、生物発光標本像の像特性としての像強度に応じて、生物発光観察から蛍光観察へ即時に切り換えることができる。
なお、生物発光結像光学系は、対物レンズ211および結像レンズ212によって標本像を結像する無限遠補正光学系として説明したが、対物レンズのみによって標本像を結像する有限補正光学系としてもよい。
また、上述した撮像切換処理では、生物発光標本像の像強度などの像特性をもとに生物発光観察から蛍光観察に切り換えるようにしたが、蛍光観察で標本Sに照射する励起光強度や標本Sから発光される蛍光強度が弱く、励起光および蛍光によって標本Sに与えるダメージが小さい場合などには、蛍光標本像の像強度などの像特性をもとに蛍光観察から生物発光観察に切り換えるようにしてもよい。
図7は、実施の形態4にかかる顕微鏡装置の構成を示す模式図である。図7に示すように、この実施の形態4にかかる顕微鏡装置600は、実施の形態3にかかる顕微鏡装置100aに加えて、透過照明を行う照明手段としての透過照明ユニット103aと、この透過照明ユニット103aが有するシャッター243等を駆動させる照明駆動部246と、制御装置PC201に替わる制御装置PC206と、を備える。その他の構成は、実施の形態3と同じであり、同一の構成部分には同一符号を付している。
透過照明ユニット103aは、透過照明用の白色光を発するハロゲンランプ等の白色光源244と、白色光の照射および未照射を切り換えるシャッター243と、白色光源244からの白色光を標本S上に集光させる照明レンズ系245とを備え、標本Sに対して、蛍光顕微鏡ユニット101と反対側に配置されている。照明レンズ系245は、コレクタレンズ245aおよびコンデンサーレンズ245bを有し、標本Sに対してクリティカル照明を行う。なお、照明レンズ系245は、標本Sに対してケーラー照明を行うようにしてもよい。
照明駆動部246は、制御装置PC206からの指示をもとに、シャッター243および蛍光照明ユニット104aを駆動する。ここで、蛍光照明ユニット104aは、筐体226によって一体に保持された励起光源204、レンズ205および蛍光キューブ206を有する。照明駆動部246は、シャッター243を開閉して標本Sに対する白色光の照射および未照射を切り換えるとともに、蛍光キューブ206を対物レンズ201と結像レンズ202との間の光路上に挿脱するように蛍光照明ユニット104aを移動させる。
制御装置PC206は、制御装置PC201と同様に撮像装置203,213、励起光源204およびステージ駆動部8の動作を制御するのに加えて、照明駆動部246の動作を制御する。制御装置PC206は、蛍光観察から透過照明による観察に切り換える場合、蛍光キューブ206を対物レンズ201と結像レンズ202との間から取り除くように蛍光照明ユニット104aを移動させ、励起光源204を消灯し、シャッター243を開いて透過照明させる。透過照明による観察から蛍光観察に切り換える場合、制御装置PC206は、シャッター243を閉じ、蛍光キューブ206が対物レンズ201と結像レンズ202との間に配置されるように蛍光照明ユニット104aを移動させ、励起光源204を点灯する。
また、生物発光観察から透過照明による観察に切り換える場合、制御装置PC206は、蛍光観察から透過照明による観察に切り換える場合の制御に加えて、ステージ駆動部208によって可動ステージ207bを駆動し、標本Sを蛍光結像光学系の視野内に移動させる制御を行う。なお、制御装置PC206は、シャッター243を開閉する替わりに、白色光源244を点灯および消灯するようにしてもよい。
なお、透過照明ユニット103aは、明視野観察用の照明を行うように示したが、明視野観察用に限らず、暗視野観察用、微分干渉観察用または位相差観察用の照明を行うようにしてもよい。また、これらの各種観察用の照明を切り換え可能に備えてもよい。なお、微分干渉観察用の照明を行う場合、透過照明ユニット103aは、コンデンサーレンズ245bの光源側に偏光子および偏光分離プリズムを備え、蛍光結像光学系には、対物レンズ1の瞳側に偏光合成プリズムおよび検光子を配設するとよい。また、位相差観察用の照明を行う場合、透過照明ユニット103aは、コンデンサーレンズ245bの光源側にリングスリットを備え、蛍光結像光学系には、対物レンズ201の略瞳位置に位相板を配設するか、対物レンズ201を位相板を有する対物レンズに切り換えるようにするとよい。さらに、暗視野観察用の照明を行う場合、透過照明ユニット103aは、コンデンサーレンズ245bの光源側にリングスリット等を備えるようにするとよい。
また、透過照明ユニット103aは、高倍率で透過照明による観察を行うために蛍光結像光学系に対応させて配置するように示したが、低倍率で観察を行えるように生物発光結像光学系に対応させて配置してもよい。あるいは、これらの結像光学系の両方に対応させて配置してもよく、各結像光学系に対して適宜配置を切り換えられるようにしてもよい。
ところで、顕微鏡装置600では、顕微鏡装置100aの構成に透過照明ユニット103a、照明駆動部246をさらに備えるように示したが、これに限定されず、たとえば、顕微鏡装置の各構成に、透過照明ユニット103aと、照明駆動部246もしくは照明駆動部247とをさらに備えるようにしてもよい。
例えば、顕微鏡装置200の構成には、透過照明ユニット103a、照明駆動部246がさらに備えられていてもよい。その場合、例えば、制御装置PC7は、制御装置PC2と同様に撮像装置203,213、励起光源204、回転駆動装置214およびステージ駆動部218を制御するとともに、制御装置PC206と同様に照明駆動部246によって透過照明ユニット103aおよび蛍光照明ユニット104aを制御する。
すなわち、制御装置PC209は、蛍光観察または生物発光観察から透過照明による観察に切り換える場合、ミラー234および蛍光キューブ206を対物レンズ201と結像レンズ202との間から取り除くように蛍光照明ユニット105を移動させ、シャッター233を閉じて励起光を未照射とし、シャッター243を開いて透過照明させる。透過照明による観察から蛍光観察または生物発光に切り換える場合、制御装置PC209は、シャッター243を閉じ、蛍光キューブ206またはミラー234が対物レンズ201と結像レンズ202との間に配置されるように蛍光照明ユニット105またはミラー234を移動させる。蛍光観察を行う場合には、さらにシャッター233を開いて標本Sに蛍光を照射させる。
このように、この実施の形態4にかかる顕微鏡装置600によれば、蛍光結像光学系および生物発光結像光学系の少なくとも一方に対応し、標本Sに対して透過照明を行う透過照明ユニットを備えるようにしているため、蛍光観察および生物発光観察ばかりでなく各種の透過照明による観察を行うことができ、標本Sを多角的に観察することができる。
なお、上述した顕微鏡装置100a,600は、それぞれ正立型の顕微鏡装置として示したが、倒立型の顕微鏡装置としてもよい。また、上述した顕微鏡装置は、例えば、各種反応(例えば薬物刺激や光照射など)の検査や治療などに好適に用いることができる。
以上、実施の形態について詳細に説明したが、本発明において、発光とは、化学反応により光を発生し得ることをいい、特に生物発光および化学発光を好適な例として含む用語である。これに対し、蛍光とは励起光により光を発生し得ることをいう。ここで、生物発光による光エネルギーにより励起されるBRET(生物発光共鳴エネルギー転移)は、基質溶液との化学反応が支配的要因であるので、本発明では発光に含めるものである。サンプルから発生する光は、特に生きた細胞に危害が少ない約400nm〜約900nmの間の波長を持つ電磁放射線をいう。発光するサンプルの撮像は、極めて低レベルの光(通常は単一光子事象)を検出し、画像の構築が可能になるまで光子放射を積分できる光検出器の使用を必要とする。そのような高感度光検出器の例には、単一光子事象を増幅した後、検出系に固有の背景ノイズに対して単一光子を検出できるカメラまたはカメラ群で、例えばCCDのような撮像素子群を具備するCCDカメラを例示できる。一般に、高感度を得るために、CCDカメラを液体窒素などで冷却する場合がある。高い開口数(NA)とくに、開口数(NA)/投影倍率(β)の2乗で表される光学的条件が0.01以上である対物レンズを用いる場合には、冷却温度をマイナス5℃〜マイナス20℃、好ましくはマイナス5℃〜常温でも画像化できると本発明者らによって確認された。さらに、検討を進めた結果、上記光学的条件(NA/β)の2乗が0.071以上である場合に、5分以内、場合によっては1分程度で視認可能で且つ解析可能な細胞画像を提供できることを突き止めた。一般に生きたサンプルは形状ないし発光部位の変化の為に、30分を越える撮像時間では鮮明な発光画像を得ることは困難な場合が多い。従って、本発明では、短時間、特に30分以内、好ましくは1分〜10分の間で1つの発光画像を取得し、撮像時間が速い蛍光測定との連携に有利な方法と装置を提供する。
例えば関連する態様として、選択した生物適合成分の分布および/または局在に対するある処置の効果を記録するために、蛍光シグナルの局在および/または発光シグナルの強度を経時的に追跡したい場合は、光子放射の測定または撮像を選択した時間間隔で反復することにより、一連の画像を構築することができる。間隔は数分程度の短いものであってもよいし、数日または数週間程度に長いものであってもよい。発光画像または蛍光(または透過光)発光の重ね合せ画像は、画面表示、印刷された紙、グラフィック加工されたイメージ等の様々な形式で表現できる。
他の関連する態様として、本発明は、発光性タンパク質をコードする遺伝子を誘導性プロモーターの制御下に含む構築物でトランスジェニックまたはキメラにした動物におけるプロモーター誘導事象の存在を検出した後にプロモーター誘導事象の活性度をモニタリングする方法を包含する。プロモーター誘導事象には、そのプロモーターを直接活性化する物質の投与、内因性プロモーター活性化因子の産生を刺激する物質の投与(例えばRNAウイルス感染によるインターフェロン産生の剌激)、内因性プロモーター活性化因子の産生をもたらす状態に置くこと(例えば熱ショックまたはストレス)などがある。
またもう1つの態様として、本発明は、病原体による感染の重篤化を抑制するのに有効な治療用化合物を同定する方法をも包含する。この方法では、病原体と蛍光成分と発光成分の複合体を対照動物と実験動物、若しくはそれらの培養された組織(ないし細胞)に投与し、その実験動物を治療用化合物候補で処置する。そして、上述の方法によって測定対象であるサンプル内の蛍光シグナルの局在を確認した後に、局内が確認されたサンプルのみから発光シグナル(生物発光または化学発光)、並びに明視野画像を連続的に測定する。こうすることによって、その化合物の治療上の有効性をモニタリングできる。
さらなる別な態様として、本発明は、様々な不透明度を持つ媒質を通して局在化したサンプルを蛍光シグナルによって選んだ後で、局在が確認されたサンプルのみから連続的に発光測定する方法を包含する。この方法では、発光シグナルを、その媒質を透過した光子を積分して画像を作成することもできるが、局在が確認されたサンプルのみを媒質(例えば、臓器組織)から外科的に取り出して、取り出したサンプルを適宜の培養環境下で発光測定するように方法の改良を行なうことができる。限定された外科手術(例えばバイオプシー)は、元となる生物(例えば、哺乳類、とくにヒト)への身体的負担を最小限にし、必要なサンプルのみを安定した検査環境下に移して、種々の見込み有る薬剤に対する応答、治療後の経過管理、予防医学的試験を長期に実行できるという利点を有する。
或いは、そのような観察装置または観察システムは、例えば、特開2009−148255および国際公開WO2006−106882に開示されている手段を使用してもよく、例えば、LUMINOVIEW LV200(オリンパス社製)などの明視野、蛍光観察および発光観察を行うことが可能な観察システムを使用してもよく、或いは、公知の何れかの観察装置または観察システムを使用してもよい。そのような観察装置は、位相差観察が可能であることが好ましい。
明視野での観察、発光シグナルの測定および蛍光シグナルの測定は、何れの順番で行われてもよく、例えば、明視野での観察、発光シグナルの測定および蛍光シグナルの測定の順番であっても、発光シグナルの測定、蛍光シグナルの測定および明視野での観察の順番であって、発光シグナルの測定、明視野での観察および蛍光シグナルの測定の順番であっても、他の任意の順番であってもよい。また、同じ観察または測定を連続して複数回行ってもよい。
明視野での観察は、例えば、1msec〜1000msec、好ましくは、10msec〜200msecの露出であってよい。蛍光シグナルの測定は、例えば、100msec〜10sec、好ましくは100msec〜1secの露出であってよい。発光シグナルの測定は、例えば、1sec〜60min、好ましくは1sec〜10minの露出であってもよい。
明視野での観察、蛍光および発光シグナルの測定の後に、試料を薬剤に曝す。この薬剤による試料中の細胞の形態変化、サバイビンプロモーター活性の程度の変化およびサバイビンタンパク質の分布の変化を観察する。この観察は、経時的に行うことが好ましい。
蛍光シグナルの測定は、例えば、蛍光強度および/または蛍光量を測定することにより行われてよい。発光シグナルの測定は、例えば、発光強度および/または発光量を測定することにより行われてよい。
試料の薬剤への暴露前の時点で得られた観察の結果と、暴露後の特定の時点で得られた観察の結果とを比較することにより、薬剤により生じる試料における変化を観察することが可能である。
細胞解析を行う際の薬剤の例は、スタウロスポリン、マイトマイシン、シスプラチン、アクチノマイシンD、5−フルオロウラシル、パクリタキセル、エトポシド、イマチニブおよびYM−155であるが、これに限定されるものではなく、実施者が所望に応じて薬剤を選択してよい。
また、既に既知の薬剤を用いて、対象から採取された細胞について解析を行うことにより、その細胞の特性を判定することが可能である。例えば、特定の抗癌剤を薬剤として使用することにより、当該抗癌剤が対象の癌に有効であるか、否かを判定されてもよい。
或いは、例えば、特定の薬剤が、試料である癌細胞に対して有効であるか否かを判定することにより、試料の由来する対象における癌の転移率および/または予後を判定してもよい。このような癌の転移率および/または予後を判定することにより、癌を解析してもよい。
また、試料として特定の状態であることが既知の細胞株を使用してもよい。例えば、癌細胞株を用いて、上記の細胞解析方法を行うことにより、被検物質の抗癌作用についてスクリーニングすることが可能である。そのようなスクリーニング方法は、前述の細胞解析方法において使用される試薬に代えて、被検物質を用いればよい。
例えば、被検物質の抗癌作用をスクリーニングするために使用される細胞の例は、HeLa細胞、Ca Ski細胞、TC−1細胞およびHT1080細胞などであってよいが、これらに限定されるものではない。
実施形態によれば、形態変化、サバイビンタンパク質の局在化の状態およびサバイビンプロモーター活性の程度に関する情報を1つの細胞について得ることが可能である。それらの情報に基づいて細胞解析を行うことにより、総合的に細胞を解析することが可能となる。また、それらの情報に基づいて薬効を評価することにより、総合的に被検物質の薬効をスクリーニングすることが可能となる。
[例]
例1
[HeLa細胞におけるサバイビンタンパク質の動態の蛍光イメージングおよび発光イメージングを用いたサバイビンプロモーター活性の検出]
例1では、2つのベクターを用いて蛍光イメージングと発光イメージングを行った。第1のベクターは、サバイビンプロモーター制御下でルシフェラーゼを発現するベクターを使用した。第2のベクターは、サバイビンとEnhanced yellow fluorescent protein (EYFP)の融合タンパク質を発現するベクターを使用した。これらのベクターを1つの細胞にトランスフェクトした。その後、同一の生細胞におけるサバイビンタンパク質の細胞内動態とサバイビンプロモーター活性を長時間に渡って追跡した。
例1における実験の手順について、以下に説明する。pcDNA3.1(+) (Invitrogen社製)のMCSにBamHI, NheIでサバイビンタンパク質をコードする遺伝子(配列番号2)を、NheI , EcoRIでEYFP遺伝子(配列番号3)を挿入し、サバイビン−EYFPの融合タンパク質発現ベクター(Suv−EYFP)を作製した。
例1ではサバイビンタンパク質の動態を検出するためのタグとして、YFPを用いた。ルシフェリン−ルシフェラーゼ反応の発光基質であるD−ルシフェリンの励起および蛍光スペクトルを示す図8から分かるように、YFP励起より短波長の励起波長を有する蛍光蛋白質をタグとして使用した場合、蛍光観察に際してD−ルシフェリンが励起され、D−ルシフェリン由来の蛍光がバックグラウンドノイズとして検出される可能性がある。従って、D−ルシフェリンより長波長側に励起波長を有する蛍光蛋白質(YFP, RFPなど)が蛍光と発光の同時イメージングに好適であると考えた。
サバイビンプロモーターの活性をモニターするレポーターとして、サバイビンプロモーター領域(配列番号1)をpGL4.14(luc2/Hygro)(Promega社製)のMCSにBglII, HindIIIで挿入し、サバイビンプロモーター::luc2発現ベクター(pSuv::luc2)を作製した。
φ35mm−ガラスボトムディッシュに播いたHeLa細胞に、FuGene試薬(Promega社製)を使用してSuv−EYFPおよびpSuv::luc2ベクターを導入した。24時間培養した後、10%のFBSを含むD−MEM培地に培地を交換し、最終濃度500μMでD−ルシフェリン(Promega社製)を加えて1時間静置した。ディッシュをLUMINOVIEW LV200(オリンパス社製)にセットした後、明視野画像、蛍光画像および発光画像の撮影を行った。撮像中のHeLa細胞は5% CO2雰囲気下のインキュベーター内に静置され、観察時の対物レンズの倍率は100倍、CCDカメラはImagEM(浜松ホトニクス社製)、Binningは1x1、露出時間は200msec(明視野観察)、1sec(蛍光観察)、9分(発光観察)であった。明視野像は位相差観察法で取得した。蛍光観察時の励起フィルターはBP490−500HQ、分光フィルターはBP515−560HQを使用した。発光観察時に分光フィルターは使用しなかった。観察の結果得られた薬剤刺激前の位相差画像、蛍光画像および発光画像をそれぞれ図9、図10および図11に示す。図9では、刺激前では、HeLa細胞が楕円形の細胞膜とその中に含まれる核を有していることが明確に観察された。また、焦点の合っていない細胞については、その表面に反射している光により円形として示されていた。図10に示すように、刺激前の蛍光画像では、細胞質内に均一に広がって分布する蛍光シグナルが観察され、細胞の輪郭がはっきりとしており、核は黒く示されていた。図11に示すように、細胞の内部は全体的に、細胞内以外の部分に比べて明るく示されていた。図12に示される細胞内部は、焦点のあった細胞のある部分以外に比べて、全体的に均一にぼんやりと明るく示された。
薬剤刺激後の画像取得を行った後、明視野画像、蛍光画像および発光画像のタイムラプス撮影を行った。タイプラプス撮影は、アポトーシスを誘発する薬剤であるスタウロスポリン(Staurosporin、STS)を最終濃度1uMで添加した後に開始した。1uM STS添加後のHeLa細胞を5% CO2雰囲気下のインキュベーター内に静置して観察を行った。タイムラプス観察時の対物レンズの倍率は100倍、CCDカメラはImagEM(浜松ホトニクス社製)、Binningは1x1、露出時間は200msec(明視野観察)、1sec(蛍光観察)、9分(発光観察)、インターバル時間は10分、総撮像時間は10時間であった。明視野像は位相差観察法で取得した。タイムラプス観察時の蛍光観察時の励起フィルターはBP490−500HQ、分光フィルターはBP515−560HQを使用した。発光観察時に分光フィルターは使用しなかった。このような明視野撮像、蛍光撮像および発光撮像についてのタイムラプス観察時の撮像のタイミングを模式的に図12に示す。タイムラプス観察の結果得られた薬剤刺激後の位相差画像、蛍光画像および発光画像をそれぞれ図13、図14および図15に示す。図13に示すように、STS刺激後の細胞では、核が収縮し、細胞膜からのブレブと思われる突起が多く観察された。図14に示すように、細胞の輪郭はぼんやりとし、核および骨格にまでからも蛍光シグナルが観察された。また、図14に示すように、刺激後の細胞内の明るさは、刺激前に比較してより明るくなった。
得られた発光画像に対して興味領域(Region of Interest、ROI)を指定した(図11および図15)。指定したROIの発光強度をタイムラプス観察の結果得られた各々の発光画像に基づいて測定し、その発光強度の計時変化をグラフで表示した(図16)。
図9および図13に示すように、薬剤刺激後にHeLa細胞の急速な収縮が観察された。図10に示すように、薬剤刺激前にはHeLa細胞においてサバイビンタンパク質は細胞質に局在しており、核内にはほとんど存在していないことが示されている。しかしながら、図14に示すように、薬剤刺激後にはサバイビンタンパク質の局在が変化し、細胞質以外の部分にもサバイビンタンパク質が移行した。図11および図15に示すように、薬剤刺激後30分でサバイビンプロモーター活性が急激に上昇する様子が観察された。図16のグラフから、サバイビンプロモーター活性の上昇は、薬剤刺激後30分経過時点と1時間20分経過時点でピークを迎え、その後急速に減衰していることが分かった。これらの結果から、薬剤STSは、HeLa細胞の収縮、細胞内サバイビンタンパク質の非局在化およびサバイビンプロモーター活性の一時的な上昇作用を有することが示唆された。
以上の実験結果より、LUMINOVIEWを用いた明視野、蛍光および発光イメージングを行うことで、同一細胞における形態変化とサバイビンタンパク質の局在とサバイビンプロモーター活性を経時的かつ定量的に捉えることができた。その結果、薬剤が細胞に及ぼす作用の詳細な解析が可能であることが示された。サバイビンはアポトーシスの抑制と細胞分裂の調整機能を有するタンパク質であり、正常組織ではほとんど観察されず、胎児の組織と多くのヒト癌において高発現することが報告されている。また、サバイビンが核と細胞質のいずれに局在するかで、癌の予後評価が異なることが知られている。これらの報告からサバイビンタンパク質の発現量とその局在部位は癌マーカー並びに癌の予後マーカーとして有望であると考えられている。サバイビンプロモーター活性と局在部位をシングルセルレベルで検出可能である本手法は、サバイビンをターゲットとした被検物質の薬効スクリーニングや癌の予後評価において特に有用であると考えられる。