以下、本発明について、望ましい実施形態とともに詳述する。
本発明の海島複合繊維とは、組成の異なる2種類以上のポリマーが繊維軸に対して垂直方向の繊維断面を形成するものである。ここで、該複合繊維は、あるポリマーからなる島成分が他方のポリマーからなる海成分の中に点在する断面構造を有しているものである。
本発明の海島複合繊維は、島成分間距離Sと島成分径Rの比率が0.02≦S/R≦0.10、島成分間距離バラツキが1.0%から20.0%であることが重要であり、ここで言う島成分間距離Sと島成分径Rの比率は以下のように求めるものである。
すなわち、海島複合繊維からなるマルチフィラメントをエポキシ樹脂などの包埋剤にて包埋し、この横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で150本以上の島成分が観察できる倍率として画像を撮影する。1フィラメントで150本以上の島成分が配置されない場合は、数本フィラメントの繊維断面を撮影し、合計150本以上の島成分が観察されれば良い。この際、金属染色を施せば、島成分のコントラストをはっきりさせることができる。繊維断面が撮影された各画像から無作為に抽出した150本の島成分の島成分径を測定する。ここで言う島成分径とは、2次元的に撮影された画像から繊維軸に対して垂直方向の断面を切断面とし、この切断面に外接する真円の径のことを意味する。図1には本発明の要件の説明を明確にするため、歪んだ島成分の一例を示すが、島成分(図1中の2)に2点以上で最も多く外接する真円(図1中の1)の径がここで言う島成分径にあたる。また、島成分径の値に関しては、μm単位で小数点第2位まで測定し、四捨五入により小数点第1位まで求めるものである。また島成分径の測定と同様の手法で、島成分間の距離を測定する。島成分距離とは、図2中の3に示すように、近接する2つの島成分において、外接する真円間の最短距離を意味する。また、島成分間距離の値に関しては、μm単位で小数点第3位まで測定し、四捨五入により小数点第2位まで求めるものである。
こうして得られた島成分径Rと島成分間距離Sとの比率を算出する。また、島成分間距離バラツキとは島成分間距離の測定結果をもとに島成分間距離バラツキ(島成分間距離CV%)=(島成分間距離の標準偏差/島成分間距離の平均値)×100(%)として算出される値であり、小数点第2位以下は四捨五入するものである。
以上の操作を、同様に撮影した10画像について行い、10画像の評価結果の単純な数平均値を島成分径および島成分間距離として、その比率を算出する。また、島成分間距離バラツキについても同様に10画像の評価結果の数平均値とした。
本発明の島成分径Rと島成分間距離Sとの比率(S/R)は0.02≦S/R≦0.10にする必要がある。係る範囲であれば、複合流の断面形態において、海成分は極めて薄く、島成分が海島複合断面において、圧倒的な面積比率を有していることを意味している。このため、例えば、口金内の圧縮変形においても、島成分が海成分の制約を受けることなく変形されることに加えて、複合ポリマー流が紡糸工程等で応力が加わり、伸長変形する場合には、その応力が優先的に島成分へ付与される。このため、島成分の繊維構造は高度に配向されることとなり、高度な繊維構造が発現し、優れた力学特性を有することとなる。また、係る範囲であれば、海成分ポリマーは繊維断面において、微細に、かつ均質的に配置されていることを意味しており、島成分と海成分の界面での接触面積が増大することから、多様なポリマーの組み合わせであっても、界面剥離が抑制される。
この点従来技術の場合では、海成分が応力等を担うのに十分な厚みを持って配置されているため、島成分と海成分では、紡糸工程中の応力を按分することとなる。このため、島成分の繊維構造の配向が不十分なものとなり、あたかも未延伸繊維同等の低配向構造となる場合が多く、本来島成分ポリマーが有する特性を十分に発揮できない場合がある。
本発明で言うS/Rが0.02以上0.10以下であれば、繊維断面において、海成分が網目状に均一に配置されていることを意味しており、界面剥離を抑制する効果が十分に発揮される。さらに、比較的高い応力がかかる高次加工工程においても、繊維断面全体で応力を均等に担うことができるため、糸切れや繊維の割れ等が発生せず良好な工程通過性となる。以上のような観点を推し進めると、本発明の海島繊維においては、S/Rが0.02以上0.05以下であることが好ましく、特に0.04以上0.06以下の範囲においては、上記した力学的な特性を担保できるほかに、優れた均質性を持って島成分が緻密に配列された構造となり、より好ましい範囲として挙げることができる。
本発明の海島複合繊維では、上記した島成分径と海成分厚みの関係に加えて、この界面剥離抑制や応力分布の抑制という観点から、この海成分の網目状構造が海島複合断面において、均一であるほどより優れた効果を奏でる。このため、本発明の海島複合繊維の島成分間距離バラツキは1.0%から20.0%である必要がある。係る範囲であれば、海島複合繊維の断面において、実質的に海成分が均質に斑なく配置されていることを意味している。このため、本発明の海島複合繊維においては、紡糸工程を経て、延伸工程や仮より工程等の比較的高い応力に曝される場合においても、複合繊維の断面において、応力集中をすることなく全体で均質に応力を担うこととなる。このため、工程中の糸切れや糸割れ等が発生することなく、安定して高次加工を施すことが可能であり、操業性に優れたものとなる。また、本発明の海島複合繊維を繊維製品とした場合には、均一に複合繊維の外層を被覆した海成分に加えて、繊維断面に網目状構造として配置されている海成分が、繊維断面方向への繰り返しの圧縮・伸長変形を吸収できる。このため、海成分の剥がれ等が発生することなく、耐久性に優れたものとなる。また、耐久性という観点では、産業資材用途においては、耐薬品性が必要となる場合がある。例えば、耐磨耗性等を向上させるためには、比較的耐薬品性が低い屈曲性ポリマーを海成分に用いることが考えられるが、本発明の海島複合繊維においては、島成分距離Sと島成分Rとの比(S/R)が適正化され、島成分が緻密に配列されていることで、海成分として耐薬品性が低いポリマーを用いた場合でも、島成分間が極めて狭いために、外部からの薬剤の攻撃が複合繊維の内層に到達(浸透)することがない。このため、耐磨耗性等の力学特性に加えて、耐薬品性も両立することができるのである。この様な観点では、島成分および海成分は複合繊維の断面において、より緻密に、かつ均質に配置されていることが好適であり、本発明で言う島成分間距離バラツキは1.0%から15.0%であることが好ましい。
以上のような特性を有効利用すれば、例えば、ポリフェニレンサルファイドなどといった耐薬品性に優れたポリマーの耐磨耗性等を向上させるために、ポリエチレンテレフタレート等の半屈曲性ポリマーにて被覆するなどが可能となる。ポリフェニレンサルサイドを用いるような用途では、おのずと複合繊維としての耐薬品性が必要になるが、本発明の海島繊維の特徴が十分に発揮されることとなる。この場合には、ポリフェニレンサルファイド単独繊維同等の耐薬品性が必要になるため、複合断面において、海成分の配置がより均一であることが好適であり、本発明で言う島成分間距離バラツキは1.0%から10.0%であることがより好ましい。
ここで言う耐薬品性は、溶剤に対する減量率により評価することができ、海島複合繊維を編み機にて筒編みとし、このサンプルを98℃に加熱した5%の水酸化ナトリウム水溶液で、60分間処理した後、十分に水洗し、60℃の熱風乾燥機にて十分乾燥させたサンプルの処理前後の重量比から減量率を算出し、評価することができる。ここで言う耐薬品性が良好な範囲とは、この減量率が5%以下であることが好ましく範囲として挙げることができる。係る範囲であれば、上記した過酷な処理条件においても、複合繊維が実質的に溶剤で処理されないことを意味する。特に加熱雰囲気下で使用されるバグフィルター等の用途においては、より高度な耐薬品性が求められるため、ここで言う減量率は2%以下となることが好適であり、特に好ましい範囲として挙げることができる。
このような、本発明の海島複合繊維ならではの特性は、海成分の配置を考慮せず、島成分の繊維径等の均一性に着目した従来の海島複合繊維等では発見されなかった特性であり、従来技術を適宜調整した程度では到達できなかったものであることは言うまでもない。
本発明の特徴である島成分の均一かつ緻密な配列を形成し、更に本発明の目的である耐久性に優れた海島複合繊維を達成するには、島比率が重量比で85%から95%であることが好ましい。ここで言う島比率とは、海島複合繊維を構成するポリマーの総重量に対する島成分ポリマーの重量の比率を意味するものであり、島比率=(海島複合繊維の重量)/(島成分の重量)×100(%)で求めることができる。一般には、海島複合繊維の紡糸を行う際の総吐出量と島成分ポリマーの吐出量によって制御するものである。
紡糸口金から溶融吐出された海島複合繊維は紡糸ドラフト(紡糸速度/吐出線速度)や紡糸後の延伸工程中にその延伸倍率に応じた伸長変形を加えられ、この変形時の応力によって繊維構造が配向し、力学特性等を発現する。この際、本発明で言う島比率が85%以上になると、請求項1に記載される通り、海成分は薄く網目状に海島複合断面に配置されることとなる。このため、島成分が優先的に応力を担うこととなり、従来の複合繊維対比優れた力学特性を有する等の良好な繊維構造が形成される。よって、本発明の海島複合繊維では、複合繊維自体が良好な力学特性を有し、緻密配列された海島複合断面との相乗効果により、耐久性に優れる海島複合繊維となる。
この海島複合繊維の力学特性に着目すると、本発明で言う島比率は90%から95%であることがより好ましい範囲として挙げることができる。係る範囲であれば、島成分ポリマー単独繊維と同等の力学特性を有した海島複合繊維となる。本発明の海島複合繊維では、島比率を95%より大きくすることも可能であるが、複合繊維の最外層に配された海成分層が極めて薄く配置されることとなるため、例えば、急激な屈曲や鋭利な先端を有した物体との接触では、最外層の海成分が剥離し、部分的に繊維表面への島成分の露出が懸念されるため、本発明の島比率の実質的な上限は95%とする。
本発明の海島複合繊維では、島成分径は0.2μm以上10.0μm以下であることが好ましい。本発明の海島複合繊維は、その複合繊維の径が1.0μmから500.0μmの範囲が想定されることから、係る範囲の島成分径であれば、複合断面において、島成分が緻密配列された本発明の海島複合繊維となる。ここで言う島成分径は、上記した通りの評価方法において、繊維複合断面を観察した画像から島成分の外接円径を評価した値である。当然、その島成分径に関しては、最終用途で必要となる繊維の特性に合わせて調整するものであるが、島成分ポリマーと海成分ポリマーの界面での剥離を抑制するためには、島成分と海成分の接触面積が増大されていること、すなわち海島複合繊維1本の断面に存在する島成分の数が多いほど好適であり、高耐久性という観点では、島成分径が0.5μm以上5.0μm以下であることがより好ましい。
本発明の海島複合繊維は、単独繊維からなるモノフィラメントや複数の繊維が束状になったマルチフィラメントのいずれの形態も有することができる。この際、本発明の海島複合繊維は、高次加工性や表面積の増大による油剤や他の樹脂との密着性が高まるという点から、複合繊維の単糸繊度は1.0dtexから15.0dtexであることが好ましい。ここで言う単糸繊度とは、求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、もしくは、繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの単糸の重量を算出した値を意味する。ここで言う単糸繊度の値は、小数点第2位までを求めて、四捨五入により小終点第1位までを求めるものである。
本発明の海島複合繊維の単糸繊度は、上記した高次加工性を考慮して調整するものであるが、例えば、産業資材用途で使用する場合には、他の樹脂等に含浸させるなどして、被覆した状態で使用する場合が多い。この場合、複合繊維の繊度は小さいほど、他の樹脂とのこなれがよくなるため、単糸繊度を1.0dtexから5.0detexのマルチフィラメントとして使用することがより好ましい。また、モノフィラメントとして使用する場合には、織編とする際の加工性を考慮すると、4.0dtexから10.0dtexの範囲がより好ましい。この場合、力学特性にも優れ、かつ耐磨耗性等も良好なモノフィラメントになり、高機能なスクリーン紗用モノフィラメントとして使用することができる。
本発明の海島複合繊維は、強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましい。係る範囲であれば、衣料用途から産業資材用途まで幅広く適用することが可能となる。一方、強度の値は高いほど、糸切れ等に対する耐性が向上することを意味しており、産業資材用途でも、例えば、繊維軸方向に高い応力が加わるようなロープやタイヤコード等で使用するためには、5.0cN/dtex以上とすることがより好ましい。本発明の海島複合繊維の強度に関して、実施可能な上限値は20.0cN/dtexである。
また、高次加工や実使用時では繊維軸方向に瞬間的に(破断)強度に近い応力が加わる場合がある。このような場合、その繊維の靭性が低いと糸切れなどを起こし、繊維製品の品位が損なわれる場合がある。このため、繊維製品を構成する繊維には、強度と同様にある程度の伸度を有するほうが好適であり、本発明の海島複合繊維においては、伸度が1.0%以上700.0%以下であることが好ましい範囲として挙げることができる。この伸度の値は、製糸工程などにおける伸長変形の度合いを調整することで比較的自由に変更できるため、上記した強度とのバランスを鑑みて調整するものである。
更に、本発明の海島複合繊維においては、力学的な基本特性として、弾性率も高いことが好適である。すなわち、繊維の弾性率は、その値が高いほど、外力によって変形が加えられた際に塑性変形が起こりにくいことを意味しており、特に実使用時に繰り返し伸長変形が加えられる用途では、繊維製品のヘタリなどが抑制されることとなる。このため、本発明の海島複合繊維の弾性率は、50.0cN/dtex以上であることが好ましく、メッシュクロスとして繰り返し変形を与えるスクリーン紗のような用途においては、紗の張り張力等を高め、あるいは紗の緩みを予防する観点から、弾性率は100.0cN/dtex以上であることがより好ましい。また、近年このスクリーン紗等を利用した印刷技術は更に高精度化が進められており、より高精細な印刷適したスクリーン紗用のモノフィラメントとするためには、300.0cN/dtex以上とすることが特に好ましい。
ここで言う、強度とは、JIS L1013(1999年)に示される条件でモノフィラメントあるいはマルチフィラメントの応力−歪曲線を求め、破断時の荷重値を初期の繊度で割った値、伸度とは、破断時の伸長を初期試長で割った値であり、弾性率とは応力−歪曲線の初期立ち上がり部分を直線近似し、その傾きから求めた値である。この初期の繊度とは、上記した通り求めた繊維径、フィラメント数および密度から算出した値、もしくは、繊維の単位長さの重量を複数回測定した単純な平均値から、10000m当たりの重量を算出した値を意味する。ここで言う強度、伸度および弾性率の値は、小数点第2位までを測定し、四捨五入により小数点第1位までを求めるものである。
本発明の海島複合繊維を構成する島成分ポリマーおよび海成分ポリマーとしてはポリマーを構成する単位の異なる2種以上のポリマーが採用され、ポリエチレンテレフタレートあるいはその共重合体、ポリアリレート等の液晶ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリ乳酸、熱可塑性ポリウレタンなどの溶融成形可能なポリマーが好ましく用いられる。この中でも、ポリマーの融点は165℃以上であると耐熱性が良好で加工上および実使用上適用範囲が広くより好ましく、ポリエステルやポリアミド、ポリアリレート等の液晶ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートに代表される重縮合系ポリマーは融点も高く好適であり、島成分または/あるいは海成分に適用することで良好な特性を有した海島複合繊維を得ることができる。
特に、本発明の目的から好適なポリマーの組み合わせとしては、例えば、島成分をポリアリレート等の液晶ポリエステルとし、海成分をポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルとした場合は、そもそも相溶性が良いため、界面もより剥離しにくくなり、かつお互いのポリマーの特性を補足しあうことができるため、優れた効果を奏でる。すなわち、ポリアリレート等の液晶ポリエステルは、分子鎖が剛直であるため、口金内のせん断にて分子鎖が高度に配向し、優れた力学特性を発現する。一方で、この高度に配向した繊維構造のために、擦過等により、簡単にフィブリルを発生することに加えて、その繊維にしなやかさがないため、織編時の屈曲で簡単に折れ等を発生させるなど、耐久性に劣るものとなる場合が多かった。半屈曲性ポリマーであるポリエステルでは、繊維構造を高度に配向させるには限界があり、耐磨耗性等には優れるものの、達成される力学特性には限界があるものであった。島成分に液晶ポリエステル、海成分にポリエステルを配置した本発明の海島複合繊維では、実質的に力学特性を担う島成分は、液晶ポリエステルにより構成され、この島成分間を半屈曲性のポリエステルが網目状に張り巡らされた構造となる。このため、ポリエステルでは達成されない優れた力学特性を発現する一方で、外部からの応力はポリエステルが柔軟に吸収し、更に最外層にも保護層としてポリエステルが配置されるため、本発明の目的のひとつとする優れた力学特性を有しながらも、耐磨耗性等の耐久性が大幅に向上した高機能複合となるのである。
また、好ましいポリマーの組み合わせとして、島成分をポリエステル、海成分をポリフェニレンサルファイドとした場合がある。このようなポリマーの組み合わせでは、ポリフェニレンサルファイドの耐薬品性によって優れた耐薬品性を有した海島複合繊維となる。逆にポリエステルを海成分、ポリフェニレンサルファイドを島成分とした場合も好ましい例として挙げることができる。すなわち、紡糸工程や延伸工程での伸長変形において、ポリエステルがポリフェニレンサルファイドからなる島成分を被覆していることで、ポリフェニレンサルファイドの特徴である急激な変形挙動を緩和することができる。このため、ポリフェニレンサルファイドの急激な変形に起因したボイド形成を大幅に抑制することできるため、本発明の海島複合繊維においては、優れた力学特性の発現や高次加工通過性が良好になる。このため、本発明の海島複合繊維においては、液晶ポリエステルあるいは/またはポリフェニレンサルファイドが少なくとも一部を構成したものが特に好ましく、産業資材用途で求められる機能性を有した複合繊維となるのである。
本発明の海島複合繊維を構成する島成分あるいは海成分のポリマーについては、その目的に応じて、酸化チタン、シリカ、酸化バリウムなどの無機質、カーボンブラック、染料や顔料などの着色剤、難燃剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、あるいは紫外線吸収剤などの各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
以上のようなポリマーにより構成された本発明の海島複合繊維は、耐磨耗性に優れることをその目的のひとつとしている。この耐磨耗性とは、セラミック素材との擦過により評価することができ、ここで言う耐磨耗性とは、以下の方法で評価することができる。すなわち、直径4mmのセラミック棒ガイド(湯浅糸道工業社製棒ガイド:材質YM−99C、硬度1800)に接触角90°でかけた繊維の両端をストローク装置(東洋精機製作所社製摩擦抱合力試験機)に把持し、棒ガイドに0.88cN/dtexの応力を付与しつつ(繊維に0.62cN/dtexの応力がかかる方向に付与する)、ストローク長30mm、ストローク速度100回/分で繊維を擦過させ、ストローク回数1回毎に停止して、棒ガイド上の白粉または繊維表面のフィブリルの発生が確認されたストローク回数を測定し、5回の測定の単純平均値として求めるものである。
この耐磨耗性評価において、本発明の目的を満足するには、セラミック素材との擦過回数を10回以上としてもフィブリルが発生しないことが好ましい。この擦過回数が10回以上であれば、織編時の複合繊維の屈曲や糸ガイドや筬等との擦過においても、フィブリルが発生しにくいことを意味している。このため、本発明で言う良好な耐磨耗性を有していることとなり、高次加工工程においても、優れた工程通過性を有するようになる。
本発明の海島複合繊維をモノフィラメントとして活用し、メッシュクロス(紗)等に加工する場合には、単繊維が直接擦過などによる圧縮・伸長変形を受けることとなる。このため、本発明で言う耐磨耗性はより優れた特性とすることが好適であり、ここで言う擦過回数が20回以上であることがより好ましい範囲として挙げることができる。係る範囲であれば、複合繊維からのフィブリルの発生により、メッシュが目詰まり等を起こす等の欠陥の発生を大幅に抑制することができる。
本発明の海島複合繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布など多様な中間体として、様々な繊維製品とすることが可能である。ここで言う繊維製品は、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの一般衣料から、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、ワイピングクロスや健康用品などの生活用途や研磨布、フィルター、有害物質除去製品、電池用セパレーターなどの環境・産業資材用途などに使用することができる。
本発明の海島複合繊維は、従来の複合繊維にはない島成分が緻密に配列された構造により、優れた力学特性を有しつつも、耐久性に優れたものであり、優れた特性を有した本発明の海島複合繊維について、その製造方法の一例を以下に詳述する。
本発明の海島複合繊維は、2種類以上のポリマーを利用して、いわゆる海島複合紡糸を行うことにより製造するものである。ここで、この海島複合繊維を製糸する方法としては、溶融紡糸による海島複合紡糸が生産性を高めるという観点から好適である。当然、溶液紡糸などして、本発明の海島複合繊維を得ることも可能である。
本発明の海島複合紡糸を製糸する方法としては、繊維径および断面形状の制御に優れるという観点で、海島複合口金を用いる方法とすることが好ましい。本発明の海島複合繊維は、従来公知のパイプ型の海島複合口金を用いて製造してもよいが、パイプ型口金で島成分の断面形状を制御することは、その設計や口金自体の作製が非常に困難である。それは、本発明の海島複合紡糸を達成するためには、10-1g/min/holeから10−5g/min/holeオーダーと従来技術で用いられている条件よりも数桁低い極少的なポリマー流量を制御することが必要であり、特開2011−174215号公報に記載される海島複合口金を用いた方法が好適に用いられる。
本発明に用いる複合口金の一例について、図面(図3〜図5)を用いて更に詳述する。
図3は、本発明に用いる海島複合口金の一例を模式的に説明するための側面図、図4は分配プレートの平面図であり、それぞれが一つの吐出孔に関わる溝および孔として記載したものである。図5は本発明に用いる吐出プレートの側面図である。
図3に示した複合口金は、ポリマーA(島成分)およびポリマーB(海成分)といった2種類のポリマーを用いた例であり、上から計量プレート4、分配プレート5および吐出プレート6の大きく3種類の部材が積層された状態で紡糸パック内に組み込まれ、紡糸に供される。この口金部材では、計量プレート4が各吐出孔および海と島の両成分の分配孔当たりのポリマー量を計量して流入し、分配プレート5によって、単(海島複合)繊維の断面における海島複合断面および島成分の断面形状を制御、吐出プレート6によって、分配プレート5で形成された複合ポリマー流を圧縮して、吐出するという役割を担っている。複合口金の説明が錯綜するのを避けるために、図示されていないが、計量プレート4より上に積層する部材に関しては、紡糸機および紡糸パックに合わせて、流路を形成した部材を用いれば良い。ちなみに、計量プレート4を、既存の流路部材に合わせて設計することで、既存の紡糸パックおよびその部材がそのまま活用することができる。このため、特に該複合口金のために紡糸機を専有化する必要はない。
また、実際には流路−計量プレート間あるいは計量プレート4−分配プレート5間に複数枚の流路プレート(図示せず)を積層すると良い。これは、口金断面方向および単繊維の断面方向に効率よく、ポリマーが移送される流路を設け、分配プレート5に導入される構成とすることが目的である。吐出プレート6より吐出された複合ポリマー流は、従来の溶融紡糸法に従い、冷却固化後、油剤を付与され、規定の周速になったローラで引き取られて、海島複合繊維となる。
計量プレート4では、ポリマーAとポリマーBとが、計量プレートのポリマーA用計量孔およびポリマーB用計量孔に流入し、下端に穿設された孔絞りによって、計量された後、分配プレート5に流入される。ここで、ポリマーAおよびポリマーBは、各計量孔に具備する絞りによる圧力損失によって計量される。この絞りの設計の目安は、圧力損失が0.1MPa以上となることである。一方、この圧力損失が過剰になって、部材が歪むのを抑制するために、30.0MPa以下となる設計とすることが好ましい。この圧力損失は計量孔毎のポリマーの流入量および粘度によって決定される。例えば、温度280℃、歪速度1000s−1での粘度で、10〜200Pa・sのポリマーを用い、紡糸温度280〜290℃、計量孔毎の吐出量が0.1〜5.0g/minで溶融紡糸する場合には、計量孔の絞りは、孔径0.01〜1.00mm、L/D(吐出孔長/吐出孔径)0.1〜5.0であれば、計量性よく吐出することが可能である。
ポリマーの溶融粘度が上記粘度範囲より小さくなる場合や各孔の吐出量が低下する場合には、孔径を上記範囲の下限に近づくように縮小あるいは/または孔長を上記範囲の上限に近づくように延長すれば良い。逆に高粘度であったり、吐出量が増加する場合には、孔径および孔長をそれぞれ逆の操作を行えばよい。また、この計量プレート4を複数枚積層して、段階的にポリマー量を計量することが好ましく、2段階から10段階に分けて計量孔を設けることがより好ましい。
計量プレート4からから吐出されたポリマーは、分配プレート5の分配溝7に流入される。ここで、計量プレート4と分配プレート5との間には、計量プレートに穿設される計量孔と同数の溝を配置して、この溝長を下流に沿って断面方向に徐々に延長していくような流路を設け、分配プレートに流入する以前にポリマーAおよびポリマーBを断面方向に拡張しておくと、海島複合断面の安定性が向上するという点で好ましい。
分配プレート5では、計量プレート4から流入したポリマーを合流するための分配溝7(7−(a)(分配溝1)および7−(b)(分配溝2))とこの分配溝の下面にはポリマーを下流に流すための分配孔が穿設されている。この分配プレートは、複数枚積層されることで、一部で各ポリマーが個別に合流−分配が繰り返されることが好ましい。
このような構造を有した複合口金は、前述したようにポリマーの流れが常に安定化したものであり、島成分が規則正しく配列された海島構造を形成させることが可能となる。ここでポリマーAの分配孔(島数)は、理論的には2本からスペースの許す範囲で無限に作製することは可能である。但し、本発明の効果が有効になる範囲として、実質的には4〜10000島が好ましい範囲である。本発明の効果である耐摩耗性を向上するため、島成分と海成分の接触面積を高め、海成分と島成分の剥離を抑制する観点から、本発明においては、10〜10000島が更に好ましい範囲であり、島充填密度は、0.01〜20.00島/mm2の範囲であれば良い。この島充填密度という観点では、0.05〜20.00島/mm2が好ましい範囲である。ここで言う島充填密度とは、単位面積当たりの島数を表すものであり、この値が大きい程多島の海島複合繊維の製造が可能であることを示す。
この島充填密度は、1吐出孔から吐出される島数を吐出導入孔の面積で除することによって求めた値である。この島充填密度は各吐出孔によって変更することも可能である。
複合繊維の断面形態ならびに島成分の断面形状は、吐出プレート6直上の分配プレート5におけるポリマーAおよびポリマーBの分配孔の配置により制御することができる。ここで、この複合口金においては、海島複合断面において、ポリマーAとポリマーBの両者をドット(点)配置させ、海成分を直接配置することが本発明の海島複合繊維を得るためには、好適なことなのである。
本発明の海島複合繊維において、海成分からなる最外層を制御良く形成させるためには、最外層用海成分の分配孔を海島構造形成部分とは別に穿設しておき、この海成分用分配孔の数、配置および吐出量を海島複合断面の設計に応じて決定すれば良い。これは、例えば、図4に示すように、吐出プレート6直上の分配プレート5に、分配孔を底面に穿設した環状溝8を設置すると良い。この環状溝8は海島複合繊維で必要となる最外層厚みに応じて2環以上に設置することも可能である。但し、この環状溝を過剰に設置すると、海島部分の設計に制約を作り、その他の流路の設計を複雑にする場合があるため、実施的には、5環以内にすることが好適である。
分配プレート5によりポリマーAおよびポリマーBによって構成された複合ポリマー流は、吐出プレート6に流入される。ここで、吐出プレート6には、吐出導入孔9を設けることが好ましい。吐出導入孔9は、分配プレート5から吐出された複合ポリマー流を一定距離の間、吐出面に対して垂直に流すためのものである。これは、ポリマーAおよびポリマーBの流速差を緩和させるととともに、複合ポリマー流の断面方向での流速分布を低減させることを目的としている。この流速比の緩和がほぼ完了するという観点から、複合ポリマー流が縮小孔10に導入されるまでに10−1〜10秒(=吐出導入孔長/ポリマー流速)を目安として吐出導入孔を設計することが好ましい。係る範囲であれば、流速の分布は十分に緩和され、断面の安定性向上に効果を発揮する。
次に、複合ポリマー流は、所望の径を有した吐出孔に導入する間に縮小孔10によって、ポリマー流に沿って断面方向に縮小される。ここで、複合ポリマー流の中層の流線はほぼ直線状であるが、外層に近づくにつれ、大きく屈曲されることとなる。本発明の海島複合繊維を得るためには、ポリマーAおよびポリマーBを合わせると無数のポリマー流によって構成された複合ポリマー流の断面形態を崩さないまま、縮小させることが好ましい。このため、この縮小孔の孔壁の角度は、吐出面に対して、30°〜90°の範囲に設定することが好ましい。
前述したように導入孔長、縮小孔壁の角度を考慮することで、分配プレートで形成された断面形態を維持して、吐出孔11から紡糸線に吐出される。この吐出孔11は、複合ポリマー流の流量、すなわち吐出量を再度計量する点と紡糸線上のドラフト(=引取速度/吐出線速度)を制御する目的がある。吐出孔11の孔経および孔長は、ポリマーの粘度および吐出量を考慮して決定するのが好適である。本発明の海島複合繊維を製造する際には、吐出孔径は0.1〜2.0mm、L/D(吐出孔長/吐出孔径)は0.1〜5.0の範囲で選択することができる。
本発明の海島複合繊維の断面形態を達成するためには、前述した複合口金の設計に加えて、ポリマーAおよびポリマーBの粘度比(ポリマーA/ポリマーB)を0.1〜10.0とすることが好ましい。基本的には分配孔の配置によって、島成分の拡張範囲は制御されるものの、吐出プレートの縮小孔10によって、合流し、断面方向に縮小されるため、その時のポリマーAおよびポリマーBの溶融粘度比、すなわち、溶融時の剛性比が断面の形成に影響を与える場合がある。特に本発明の海島複合繊維においては、最外層厚みを設けた特殊な海島複合繊維であるため、縮小孔10の孔壁と複合ポリマー流とでせん断応力が高くなる場合がある。この場合、最外層の海成分がそのせん断応力により流速分布を生じ、ポリマーの組み合わせによっては、海島構造部分が複合繊維の中心部に配置されない場合がある。このため、ポリマーA/ポリマーB=0.5〜5.0とするのがより好ましい範囲である。
本発明に用いる海島複合繊維を紡糸する際の吐出量は、実用的な範囲として吐出孔当たり0.1g/min/hole〜40.0g/min/holeを挙げることができる。この際、吐出の安定性を確保できる吐出孔における圧力損失を考慮することが好ましい。ここで言う圧力損失は、0.1MPa〜40MPaを目安にポリマーの溶融粘度、吐出孔径、吐出孔長との関係から吐出量を係る範囲より決定することが好ましい。
吐出された海島複合ポリマー流は、冷却固化されて、油剤を付与されて周速が規定されたローラによって引き取られることにより、海島複合繊維となる。ここで、この引取速度は、吐出量および目的とする繊維径から決定すればよいが、本発明に用いる海島複合繊維を安定に製造するには、100〜7000m/minの範囲とすることが好ましい。この海島複合繊維は、高配向とし力学特性を向上させるという観点から、一旦巻き取られた後で延伸を行うことも良いし、一旦、巻き取ることなく、引き続き延伸を行うことも良い。
この延伸条件としては、例えば、一対以上のローラからなる延伸機において、一般に溶融紡糸可能な熱可塑性を示すポリマーからなる繊維であれば、ガラス転移温度以上融点以下温度に設定された第1ローラと結晶化温度相当とした第2ローラの周速比によって、繊維軸方向に無理なく引き伸ばされ、且つ熱セットされて巻き取られ、本発明の請求項1に記載される海島複合繊維を得ることができる。また、ガラス転移を示さないポリマーの場合には、複合繊維の動的粘弾性測定(tanδ)を行い、得られるtanδの高温側のピーク温度以上の温度を予備加熱温度として、選択すればよい。ここで、延伸倍率を高め、力学物性を向上させるという観点から、この延伸工程を多段で施すことも好適な手段である。
以上のように、本発明の海島複合繊維の製造方法を一般の溶融紡糸法に基づいて説明したが、メルトブロー法およびスパンボンド法でも製造可能であることは言うまでもなく、さらには、湿式および乾湿式などの溶液紡糸法などによって製造することも可能である。
以下実施例を挙げて、本発明の海島複合繊維について具体的に説明する。
実施例および比較例については、下記の評価を行った。
A.ポリマーの溶融粘度
チップ状のポリマーを真空乾燥機によって、水分率200ppm以下とし、東洋精機製キャピログラフ1Bによって、歪速度を段階的に変更して、溶融粘度を測定した。なお、測定温度は紡糸温度と同様にし、実施例あるいは比較例には、1216s−1の溶融粘度を記載している。ちなみに、加熱炉にサンプルを投入してから測定開始までを5分とし、窒素雰囲気下で測定を行った。
B.繊度
海島複合繊維の100mの重量を測定し、100倍することで繊度を算出した。これを10回繰り返し、その単純平均値の小数点第2位を四捨五入した値を繊度とした。
C.繊維の力学特性(弾性率)
海島複合繊維をJIS L1013(1999年)に示される条件でオリエンテック社製引張試験機 テンシロン UCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度100%/minの条件で応力−歪曲線を測定する。破断時の荷重を読みとり、その荷重を初期繊度で除することで破断強度を算出し、破断時の歪を読みとり、試料長で除した値を100倍することで、破断伸度を算出した。また、得られた応力−歪曲線の初期立ち上がり部分を直線近似し、その傾きから弾性率を求めた。いずれの値も、この操作を水準毎に5回繰り返し、得られた結果の単純平均値を求め、小数点第2位を四捨五入した値である。
D.島成分径
海島複合繊維をエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert−Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面をT(株)日立製作所製 H−7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)にて島成分が150本以上観察できる倍率で撮影した。この画像から無作為に選定した150本の島成分を抽出し、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて全ての島成分径を測定する。測定は、全て10ヶ所の各写真について行い、10ヶ所の平均値とし、μm単位で小数点第2位まで測定し、四捨五入により小数点第1位までを求めたものである。
E.島成分間距離、島成分間距離バラツキ
島成分の中心を島成分の外接円(図1中の1)の中心とした場合に、島成分間距離とは、図2中の3に示すように、近接する2つの島成分において外接する真円間の最短距離として定義される値である。この評価は、前述した島成分径と同様の方法で、海島複合繊維の断面を2次元的に撮影し、無作為に抽出した10箇所について、島成分間距離を測定した。島成分間距離バラツキは、島成分間距離の平均値および標準偏差から、島成分間距離バラツキ(島成分間距離CV%)=(島成分間距離の標準偏差/島成分の平均値)×100(%)として小数点以下は四捨五入算出する。以上の評価から得られた島成分間距離(S)と島成分径(R)との比率をS/Rとして算出した。
これら値を同様に撮影した10画像について評価し、10画像の結果の単純な数平均を島成分間距離バラツキとして評価した。ここで言う島成分間距離の値は、μm単位で小数点第3位まで測定し、四捨五入により小数点第2位までを求めた値であり、島成分間距離バラツキにおいては、小数点第2位を四捨五入した値とした。
F.耐磨耗性評価(ストローク回数)
直径4mmのセラミック棒ガイド(湯浅糸道工業社製棒ガイド:材質YM−99C、硬度1800)に接触角90°でかけた繊維の両端をストローク装置(東洋精機製作所社製摩擦抱合力試験機)に把持し、棒ガイドに0.88cN/dtexの応力を付与しつつ(繊維に0.62cN/dtexの応力がかかる方向に付与する)、ストローク長30mm、ストローク速度100回/分で繊維を擦過させ、ストローク回数1回毎に停止して、棒ガイド上の白粉または繊維表面のフィブリルの発生が確認されたストローク回数を測定し、5回の測定の平均値として求めた。ここで言うストローク回数とは小数点以下を四捨五入して求めたものであり、下記の4段階評価にて繊維の耐磨耗性を評価した。
耐磨耗性 ◎(優) : ストローク回数が20回以上
耐磨耗性 ○(良) : ストローク回数が10回以上20回未満
耐磨耗性 △(可) : ストローク回数が5回以上10回未満
耐磨耗性 ×(不可) : ストローク回数が5回未満。
G.耐薬品性評価(減量率)
複合繊維の筒編み試料を、5%の水酸化ナトリウム水溶液で、98℃、60分間処理した後、水洗し、60℃で十分乾燥させ、処理前後の重量から減量率を算出した。ここで言う減量率の値は、小数点第2位を四捨五入した値であり、下記の4段階評価により、耐薬品性を評価した。
耐薬品性 ◎(優) : 減量率が0.0%以上2.0%未満
耐薬品性 ○(良) : 減量率が2.0%以上5.0%未満
耐薬品性 △(可) : 減量率が5.0%以上7.0%未満
耐薬品性 ×(不可) : 減量率が7.0%以上。
実施例1
島成分として、液晶ポリエステル(LCP 溶融粘度:20Pa・s)と、海成分としてポリエチレンテレフタレート(PET 溶融粘度:150Pa・s)を330℃で別々に溶融計量し、図3に示した海島複合口金が組み込まれた紡糸パックに流入させて、海島複合流とし、溶融吐出した。実施例1で使用した海島複合口金に関して、吐出孔直上の分配プレートには、1つの吐出孔当たり1000の島成分用分配孔が穿設されており、図4の8に示される海成分用の環状溝には円周方向1°毎に分配孔が穿設されたものを使用した。また、吐出導入孔長は5mm、縮小孔の角度は60°、吐出孔径0.2mm、吐出孔長/吐出孔径は1.5のものである。
総吐出量は10g/min、島比率は90%に制御し、吐出された複合ポリマー流を冷却固化後油剤付与し、紡糸速度1000m/minで巻き取り、100dtex−15フィラメント(単糸繊度:6.7dtex)の本発明の海島複合繊維を採取した。
採取した海島複合繊維の断面を観察したところ、島成分径は0.7μm、島成分間距離は0.04μm島成分間距離(S)と島成分径(R)との比率S/Rは、0.05、島成分間距離バラツキは3.9%と非常に均質な島が緻密に配置されたものであった。
この繊維の力学特性は、強度6.1cN/dtex、伸度2.3%、弾性率387.0cN/dtexと優れた特性を有しており、耐磨耗性を評価においては、フィブリルの発生が確認されるまでのストローク回数が23回と優れた値であった(耐磨耗性評価:◎)。ちなみに、耐磨耗性評価を行った海島複合繊維の断面を観察したところ、繊維の最外層以外では、海成分と島成分の界面剥離は認められず、摩擦評価時の圧縮・伸長変形が網目状に配置された海成分(PET)が変形することにより、該変形を柔軟に吸収できたものと考察される。更に、該海島複合繊維の耐薬品性評価においても、優れた特性を示すことがわかった(減量率:1.3% 耐薬品性評価:優(◎))。この耐薬品性評価後サンプルの観察では、複合断面に割れ等が発生していないことが確認されており、LCPからなる島成分が緻密配列されていることにより、アルカリ水溶液が複合繊維の内層へ侵入できないものと考察された。結果を表1に示す。
実施例2、3
実施例1に記載される方法から、島比率を95%(実施例2)、85%(実施例3)と変更したこと以外は、全て実施例1に従い実施した。
これらの海島複合繊維は実施例1と同様に、海島複合断面の形成や糸切れ等の問題なく紡糸可能であった。いずれにおいても、本発明の海島複合繊維の特徴である島成分が緻密配列され、海成分が網目状に均一に配置されたものであり、実施例2においては、島比率を増加したことにより、実施例1と比較して力学特性および耐薬品性が向上し、実施例3では、耐磨耗性が向上するものであった。結果を表1に示す。
実施例4
吐出孔が30ホールある吐出プレートを使用し、1つの吐出孔当たり島成分用分配孔として3000孔が穿設された分配プレートを使用したこと以外は全て実施例1に従い実施した(総吐出量10g/min、島比率90%)。
実施例4においては、吐出孔を30孔、島数を3000孔/吐出孔に増加させたため、島成分径が0.3μmと非常に縮小化されたものであったが、島融着等起こすことがない精密な海島複合断面が形成されているものであった。結果を表2に示す。
実施例5
吐出孔当たり島成分用分配孔として500孔が穿設された分配プレートを使用したこと以外は全て実施例1に従い実施した(総吐出量10g/min、島比率90%)。
実施例5で採取した海島複合繊維においては、島数を減少させたため、実施例1と比較して島成分径および島成分間距離が拡大したものであったが、本発明の請求項1に記載する海島複合繊維が得られており、力学特性や耐久性に優れるものであった。結果を表2に示す。
実施例6
総吐出量を20g/minとし、吐出孔当たり島成分用分配孔として50孔が穿設された分配プレートを使用したこと以外は全て実施例1に従い実施した(島比率90%)。
実施例6で採取した海島複合繊維においては、総吐出量の増加および島数の減少により実施例5と比較して更に島成分径および島成分間距離が拡大したものであったが、実施例1および実施例5と同様に本発明の海島複合繊維となり、力学特性や耐久性に優れるものであった。結果を表2に示す。
実施例7
総吐出量を30g/minとし、吐出孔当り島成分用分配孔として20孔が穿設された分配プレートを使用したこと以外は全て実施例1に従い実施した(島比率90%)。
実施例7で採取した海島複合繊維においては、総吐出量の増加および島数の減少により実施例5と比較して更に島成分径および島成分間距離が拡大したものであったが、本発明の請求項1に記載する海島複合繊維が得られており、優れた力学特性を示し、耐久性も良好なものであった。結果を表2に示す。
実施例8〜10
吐出孔数を4孔とし、吐出孔当たり島成分用分配孔として500孔が穿設された分配プレートを用いて、総吐出量1g/min(実施例8)、3g/min(実施例9)、6g/min(実施例10)として海島複合流を溶融吐出した(島比率90%)。この溶融吐出したフィラメントについて、巻き取り段階で分割し、それぞれモノフィラメントとして巻き取った以外は全て実施例1に従い実施した。
実施例8から実施例10で採取したモノフィラメントにおいては、本発明の請求項1に記載される海島複合断面を有しており、優れた力学特性を有するものであった。モノフィラメントの場合、紡糸工程における応力を単繊維で担う必要があるため、一般にマルチフィラメントと比較して、糸切れ等が起こりやすい傾向にあるものの、実施例8から実施例10の水準については、12時間の巻き取り時間において、4ドラムの平均糸切れ回数が0.05回/時間と非常に少ないものであった。
また、マルチフィラメントと比較して繊維の移動が制約されるため、耐磨耗性も低下する傾向にあるが、本願発明の海島複合繊維では、耐磨耗性評価においても、優れた特性を有することがわかった(耐磨耗性評価:優〜良(◎〜○))。結果を表3に示す。
比較例1〜3
島比率を50%(比較例1)、70%(比較例2)、80%(比較例3)としたこと以外は全て実施例1に従い実施した。
比較例1から比較例3に関して、糸切れ等なく紡糸性には問題がなかったが、島成分(R)と島成分間距離(S)の関係において、いずれも0.10以上であり、本発明の請求項1に記載される島成分が緻密配列された構造ではないことがわかった。この場合、最外層に配置される海成分の厚みが増加することに起因したと考えられる比較的良好な耐磨耗性を有することが分かるものの、比較例1のサンプルでは磨耗試験後の断面観察から島成分と海成分の界面で剥離が生じていることが観察された。更に、海成分厚みが大きいため、島成分の繊維構造が高配向化されないため、力学特性は低い値となった。この海成分厚みが増加した影響は、特に耐薬品性に顕著に現れ、アルカリ水溶液で処理した場合に処理の初期段階で複合繊維にクラックが発生するなど、アルカリ水溶液が繊維内層に浸透している様子が観察された。このため、アルカリ水溶液処理後の減量率は大幅に高くなり、耐薬品性は低いものでることが分かった。結果を表4に示す。
比較例4,5
特開2001−192924号公報で記載される従来公知のパイプ型海島複合口金(1つの吐出孔当たり島数:1000)を使用したこと以外は、全て実施例1に記載される条件で紡糸を実施した(比較例4)。
比較例4では、島成分の溶融粘度が海成分の溶融粘度対比大幅に低いため、口金孔内で島成分(LCP)のポリマー流が乱れ、島融着を発生し、粗大な島成分が形成されるなど、本発明の請求孔1に記載される海島複合断面を達成することができなかった。ちなみに、複合繊維の表層には島成分が露出している部分が散見され、耐磨耗性などが非常に低いものであった。
比較例4の結果を踏まえて、島比率以外は比較例4の条件に従い、島比率を段階的に減少させながら、複合断面を確認していったところ、まだ一部で島融着は確認されるものの、島比率40%でようやく海島複合断面が形成されることがわかった(比較例5)。比較例5のサンプルにおいては、島成分径(R)と島成分間距離(S)の関係が増加し、かつこの島成分間距離バラツキが本発明の海島複合繊維と比較して大幅に増加する結果となったため、力学特性や耐磨耗性をはじめとする耐久性について、本発明の目的とは程遠いものとなった。結果を表5に示す。
比較例6,7
従来公知の芯鞘複合口金を使用して、実施例1で用いたLCP(溶融粘度:20Pa・s)を芯成分に、PET(溶融粘度:150Pa・s)を鞘成分に用いて、芯鞘比率を芯/鞘=90/10としたこと以外は、全て実施例1に従い実施し、芯鞘複合繊維の採取を試みた。
比較例6においては、鞘成分の比率が低すぎたため、口金孔内で芯成分が複合繊維の中心からずれてしまい、繊維表層に芯成分が大きく露出した繊維となった。また、芯成分の位置がずれたことにより、鞘成分の接着が弱い部分ができてしまうことに加えて、芯成分と鞘成分の接触面積が小さいため、紡糸工程の糸ガイド等との接触により、鞘成分が分離するなどの鞘割れの現象が見られた。
比較例6の結果を踏まえて、芯鞘比率以外は比較例6の条件に従い、芯成分の比率を低下させていった。結果、芯成分と鞘成分の粘度バランスが悪いため、依然芯成分の配置に偏りが生じるものの、芯/鞘比率=70/30の条件において、芯成分が鞘成分によって被覆された芯鞘複合繊維を採取することに成功した(比較例7)。
比較例7においては、PET成分からなる鞘成分の存在により、擦過によるフィブリル化の発生は、比較的抑制されたものであるものの、上記F項に記載される耐磨耗性評価において、セラミック棒ガイドとの摩擦回数8回のサンプルで既に芯成分と鞘成分の界面で剥離が生じていることが観察され、耐磨耗性としては可(△)と判断した。更に、芯比率を低下させたことにより、力学特性は低下するとともに、PETが表層に配置されていることにより、アルカリ処理によって鞘比率に相当する重量が減量するものであった(減量率:30% 耐薬品性評価:不可(×))。結果を表5に示す。
比較例8
吐出孔が15本の単成分紡糸用口金を使用し、実施例1で用いたLCP(溶融粘度:20Pa・s)を紡糸したこと以外は実施例1に従って実施し、LCPからなる単独繊維を紡糸した。
比較例8では、LCPを単独としたことにより、力学特性およびポリマー特性に起因した耐薬品性(減量率:0.1% 耐薬品性評価:優(◎))を有するものであったが、耐磨耗性に関しては、耐磨耗性評価開始直後にフィブリルが発生していることが確認されるなど、極めて低いものであった(耐磨耗性評価:不可(×))。結果を表5に示す。
実施例11〜13
島成分として、高分子量PET(溶融粘度:250Pa・s)と、海成分として低分子量PET(溶融粘度:100Pa・s)を紡糸温度295℃、吐出量15g/min、吐出孔直上の分配プレートには、3000孔/吐出孔(実施例11)、500孔/吐出孔(実施例12)、50孔/吐出孔(実施例13)の島成分用分配孔が穿設された分配プレートを使用し、紡糸速度1300m/minとしたこと以外は全て実施例9に従い、紡糸した。この紡糸して得られた未延伸のモノフィラメントについて、加熱ローラが設置された延伸機にて、ローラ温度90℃、140℃、230℃で延伸速度800m/minにて2段延伸(総延伸倍率4.6倍)した。
実施例11から実施例13のモノフィラメントにおいては、本発明の島成分が緻密に配列された海島複合断面を有しており、紡糸時の糸切れはなく、10錘の延伸機で6時間サンプリングをおこなったが、糸切れ錘は0錘と延伸性も優れたものであった。採取した海島複合繊維は力学特性が良好であり、耐磨耗性および耐薬品性も優れたものであった(耐磨耗性評価および耐薬品性:優〜良(◎〜○))。
結果を表6に示す。
実施例14
実施例11で使用した高分子量PET(溶融粘度:250Pa・s)を島成分、低分子量PET(溶融粘度:100Pa・s)を海成分として、実施例1で使用した海島複合口金を用いて、総吐出量20g/min、紡糸速度3000m/minで紡糸した。
実施例14においては、低分子量PETを使用し、紡糸速度3000m/minと高紡糸速度で巻き取ったにも関わらず、24時間の巻き取りにおいても、糸切れはなく、良好な紡糸性を有するものであった。採取した海島複合繊維は、島成分が緻密に配列された海島複合断面を有しており、良好な力学特性を示した。また、耐磨耗性が良好(耐磨耗性評価:良(○))であり、耐薬品性についても優れたものであった(耐薬品性評価:優(◎))。結果を表6に示す。
比較例9
特開2001−192924号公報で記載される従来公知のパイプ型海島複合口金(1つの吐出孔当たり島数:500)を使用したこと、海/島成分の複合比を15/85、延伸倍率4.0倍としたこと以外は全て実施例12に従って実施し、紡糸に関しては問題なかったものの、延伸工程では、糸切れが6時間のサンプリング中に4錘で見られた。
比較例9では島合流の発生および繊維表面への島成分の露出が観察され、まともな海島断面を形成していなかった。また、この海島複合断面の崩れは海成分と島成分の粘度バランスが悪いことに加えて、パック解体後のパイプ部分を観察するとパイプが歪んでいる部分が見られるなどの複合形態の形成部分悪化を要因として、経時的に悪化していくものであった。そのため、島成分間距離バラツキが大きく、不均一な断面であり、実施例12対比、耐摩耗性が低下したものであった。評価結果を表6に示す。
実施例15〜17
島成分をポリフェニレンサルファイド(PPS 溶融粘度:180Pa・s)、海成分を実施例1で用いたPET(溶融粘度:240Pa・s)とし、島比率85%(実施例15)、90%(実施例16)、95%(実施例17)、紡糸温度310℃、総吐出量20g/min、紡糸速度1300m/minとして、その他の条件は実施例1に従い未延伸の海島複合繊維を採取した。次いで、巻き取った未延伸繊維を90℃と100℃に加熱したローラ間で3.0倍延伸を行った(延伸速度:800m/min)。この延伸繊維の断面観察結果では、PPSからなる島成分にボイド等は観察されず、海成分にPETを配置したことにより、製糸工程での変形を緩和し、欠陥の発生が抑制された変形挙動になるものと考えられ、実施例15から実施例17の海島複合繊維は、10錘の延伸機で6時間サンプリングをおこなったが、糸切れ錘は0錘と延伸性も優れたものであった。
実施例15から実施例17で採取した海島複合繊維は、島成分が緻密に配列された海島複合断面を有しており、海成分部分にPETが存在しているにも関わらず、その海島断面に由来した良好な耐薬品性を有するものであった(耐薬品性評価:優(◎))。
評価結果を表7に示す。
実施例18
紡糸速度を3000m/minとし、延伸を行わなかったこと以外は全て実施例16に従い、PPSとPETからなる海島複合繊維を採取した。
結果、実施例18においては、実施例15から実施例17で見られたのと同様に巻き取り糸の島成分にはボイドの発生等は確認することができず、紡糸性に関しても、糸切れが確認されないなど、良好なものであった。採取した海島複合繊維は、力学特性が良好であり、耐磨耗性と耐薬品性に優れたものであった(耐磨耗性評価および耐薬品性評価:優(◎))。評価結果を表7に示す。
比較例10〜12
特開2001−192924号公報で記載される従来公知のパイプ型海島複合口金(1つの吐出孔当たり島数:1000)を使用したこと、海/島成分の複合比を15/85(比較例10)、10/90(比較例11)、5/95(比較例12)と段階的に変更したこと以外は全て実施例15に従って実施し、紡糸に関しては問題なかったものの、延伸工程では、いずれも海島界面の剥離に起因する糸切れが6時間のサンプリング中に2錘で見られた。
比較例10では部分的な島合流の発生、比較例11では島合流の発生、比較例12では島合流の発生および繊維表面への島成分の露出と、まともな海島断面を形成していなかった。そのため、島成分間距離バラツキが大きく、不均一な断面であり、実施例15に対比して、耐摩耗性が低下し、比較例10では耐磨耗性評価が良(○)であったものの、比較例11および比較例12は耐磨耗性が低いものであった。また、比較例10から比較例12はいずれも耐薬品性が著しく劣位となった。評価結果を表8に示す。
比較例13
吐出孔が15本の単成分紡糸用口金を使用し、実施例15で用いたPPS(溶融粘度:180Pa・s)を紡糸したこと以外は実施例15に従って実施し、PPSからなる単独繊維を紡糸した。
比較例13では、PPSを単独としたことにより、ポリマー特性に起因した耐薬品性(減量率:0.2% 耐薬品性評価:優(◎))を有するものであったが、耐磨耗性に関しては、フィブリル発生回数が本発明の海島複合繊維と比較して、低下するものであった(耐磨耗性評価:可(△))。なお、延伸検討においては、糸切れが6時間のサンプリング中に2錘で見られ、この糸切れした錘のサンプルを加えた計3錘のサンプルで繊維が白化していることが確認された。このサンプルの断面観察結果では、繊維の中心部でボイドが確認されることから、製糸工程の変形挙動によりボイドが発生したものと推定される。
結果を表8に示す。