本発明のインキ又は塗料用バインダーに含有されるポリビニルアセタールは、アセタール化度が50〜85モル%、ビニルエステル単量体単位の含有量が0.1〜20モル%、粘度平均重合度が200〜1000であるポリビニルアセタールであって、230℃において3時間加熱された前記ポリビニルアセタールをGPC測定したときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)
(A−B)/A<0.50 (1)
を満たし、かつピークトップ分子量(B)における吸光度が0.50×10−3〜1.00×10−2となるものである。
ただし、前記GPC測定において、
移動相:20mmol/lトリフルオロ酢酸ナトリウム含有HFIP
試料濃度:1.00mg/ml
試料注入量:100μl
カラム:昭和電工株式会社製「GPC HFIP−806M」
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
吸光光度検出器のセル長:10mm
である。
本発明におけるGPC測定では、示差屈折率検出器及び吸光光度検出器を有し、これらの検出器による測定を同時に行うことができるGPC装置を使用する。吸光光度検出器には、波長280nmにおける吸光度を測定できるものを使用する。吸光光度検出器の検出部のセルには、セル長(光路長)が10mmのものを使用する。吸光光度検出器は、特定波長の紫外光の吸収を測定するものでもよいし、特定範囲の波長の紫外光の吸収を分光測定するものでもよい。測定に供されたポリビニルアセタールは、GPCカラムによって各分子量成分に分離される。示差屈折率検出器によるシグナル強度は、概ねポリビニルアセタールの濃度(mg/ml)に比例する。一方、吸光光度検出器により検出されるポリビニルアセタールは、所定の波長に吸収を有するもののみである。前記GPC測定により、ポリビニルアセタールの各分子量成分ごとの、濃度および所定の波長における吸光度を測定することができる。
前記GPC測定において測定されるポリビニルアセタールの溶解に用いる溶媒及び移動相として、20mmol/lの濃度でトリフルオロ酢酸ナトリウムを含有するHFIPを用いる。HFIPは、ポリビニルアセタール及びポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと略記する)を溶解させることができる。また、トリフルオロ酢酸ナトリウムを添加することにより、カラム充填剤へのポリビニルアセタールの吸着が防止される。前記GPC測定における流速は1ml/分、カラム温度は40℃とする。
前記GPC測定において、標品として単分散のPMMA(以下、標準PMMAと称する)を用いる。分子量の異なる数種類の標準PMMAを測定し、GPC溶出容量と標準PMMAの分子量から検量線を作成する。本発明においては、示差屈折率検出器による測定には当該検出器を用いて作成した検量線を使用し、吸光光度検出器による測定には当該検出器を用いて作成した検量線を使用する。これらの検量線を用いてGPC溶出容量から分子量に換算し、ピークトップ分子量(A)及びピークトップ分子量(B)を求める。
前記GPC測定の前に、ポリビニルアセタールを230℃において3時間加熱する。本発明においては、以下の方法でポリビニルアセタールを加熱する。加熱処理後の試料の色相の差異を吸光度の差異に明確に反映させるために、ポリビニルアセタールの粉末を圧力2MPa、230℃にて、3時間熱プレスすることにより、加熱されたポリビニルアセタール(フィルム)を得る。このときのフィルムの厚みは、600〜800μmであり、概ね760μmであることが好ましい。
加熱されたポリビニルアセタールを前述した溶媒に溶解させて測定試料を得る。測定試料のポリビニルアセタールの濃度は1.00mg/mlとし、注入量は100μlとする。但し、ポリビニルアセタールの粘度平均重合度が2400を超える場合、排除体積が増大するため、ポリビニルアセタールの濃度が1.00mg/mlでは再現性良く測定できない場合がある。その場合には、適宜希釈した試料(注入量100μl)を用いる。吸光度はポリビニルアセタールの濃度に比例する。したがって、希釈した試料の濃度と実測された吸光度を用いて、ポリビニルアセタール濃度が1.00mg/mlの場合の吸光度を求める。
図1は、本発明におけるポリビニルアセタールをGPC測定して得られた、分子量と示差屈折率検出器で測定された値との関係、及び分子量と吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定された吸光度との関係を示したグラフである。図1を用いて本発明におけるGPC測定についてさらに説明する。図1において、「RI」で示されるクロマトグラムは、溶出容量から換算したポリビニルアセタールの分子量(横軸)に対して、示差屈折率検出器で測定された値をプロットしたものである。本発明において当該クロマトグラム中のピークの位置における分子量をピークトップ分子量(A)とする。なお、クロマトグラム中に複数のピークが存在する場合には、ピーク高さが最も高いピークの位置における分子量をピークトップ分子量(A)とする。
図1において、「UV」で示されるクロマトグラムは、溶出容量から換算したポリビニルアセタールの分子量(横軸)に対して、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定された吸光度をプロットしたものである。本発明において当該クロマトグラム中のピークの位置における分子量をピークトップ分子量(B)とする。なお、クロマトグラム中に複数のピークが存在する場合には、ピーク高さが最も高いピークの位置における分子量をピークトップ分子量(B)とする。
前記ポリビニルアセタールは、上述した方法によりGPC測定されたときの、示差屈折率検出器で測定されるピークトップ分子量(A)と、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定されるピークトップ分子量(B)が下記式(1)を満たす。
(A−B)/A<0.50 (1)
ピークトップ分子量(A)は、ポリビニルアセタールの分子量の指標となる値である。一方、ピークトップ分子量(B)は、ポリビニルアセタール中に存在する、280nmに吸収を有する成分に由来する。通常、ピークトップ分子量(B)よりもピークトップ分子量(A)のほうが大きいため、(A−B)/Aは正の値になる。ピークトップ分子量(B)が大きくなれば、(A−B)/Aは小さくなり、ピークトップ分子量(B)が小さくなれば、(A−B)/Aは大きくなる。すなわち、(A−B)/Aが大きい場合には、ポリビニルアセタール中の低分子量成分に波長280nmの紫外線を吸収する成分が多いことを意味する。
(A−B)/Aが0.50以上の場合、上述の通り、低分子量成分に波長280nmの紫外線を吸収する成分が多くなる。この場合には、得られるインキ及び塗料における顔料の分散性が低下したり、得られるインキ及び塗料の保存安定性が低下することがある。(A−B)/Aは、好ましくは0.45未満であり、より好ましくは0.40未満である。
前記ポリビニルアセタールは、上述した方法によりGPC測定されたときの、ピークトップ分子量(B)における吸光度(測定波長280nm)が0.50×10−3〜1.00×10−2となる必要がある。前記吸光度が0.50×10−3未満の場合には、得られるインキ及び塗料における顔料の分散性が低下する。また、得られるインキ及び塗料の保存安定性も低下する。一方、前記吸光度が1.00×10−2を超える場合には、得られるインキ又は塗料を塗布して形成される塗膜の光沢度が低下する。前記吸光度は1.00×10−3〜8.00×10−3が好ましく、1.50×10−3〜6.50×10−3がより好ましい。
また、前記ポリビニルアセタールは、前記GPC測定における、示差屈折率検出器によって求められる、前記ポリビニルアセタールの数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが2.8〜12.0であることが好ましい。Mw及びMnは、前述したポリビニルアセタールの分子量に対して、示差屈折率検出器で測定された値をプロットして得たクロマトグラムから求められる。本発明におけるMw及びMnは、PMMA換算の値である。
一般にMnは低分子量成分の影響を強く受ける平均分子量であり、Mwは高分子量成分の影響を強く受ける平均分子量である。Mw/Mnは高分子の分子量分布の指標として一般的に用いられている。Mw/Mnが小さい場合は、低分子量成分の割合が小さい高分子であることを示し、Mw/Mnが大きい場合には、低分子量成分の割合が大きい高分子であることを示す。
したがって、本発明において、Mw/Mnが2.8未満の場合、ポリビニルアセタールにおいて、低分子量成分の割合が小さいことを示す。Mw/Mnが2.8未満の場合、インキにおける顔料の分散性が低下するおそれがある。Mw/Mnが2.9以上であることがより好ましく、3.1以上であることがさらに好ましい。一方、Mw/Mnが12.0を超える場合、ポリビニルアセタールにおいて、低分子量成分の割合が大きいことを示す。Mw/Mnが12.0を超える場合、得られるインキ及び塗料における顔料の分散性が低下したり、得られるインキ及び塗料の保存安定性が低下することがある。また得られるインキ又は塗料を塗布して形成される塗膜の光沢性が低下することがある。Mw/Mnが11.0以下であることがより好ましく、8.0以下であることがさらに好ましい。
本発明のインキ又は塗料用バインダーに含有されるポリビニルアセタールのアセタール化度は50〜85モル%であり、好ましくは55〜82モル%であり、より好ましくは60〜78モル%、さらに好ましくは65〜75モル%である。アセタール化度が50モル%未満である場合、得られるインキ及び塗料における顔料の分散性が低下したり、得られるインキ及び塗料の保存安定性が低下することがある。また得られるインキ又は塗料を塗布して形成される塗膜の光沢性が低下することがある。一方、アセタール化度が85モル%を超える場合には、アセタール化反応の効率が著しく低下する。また、ポリビニルアセタール中の水酸基(ビニルアルコール単量体単位)含有量が低下する。
なお、アセタール化度はポリビニルアセタールの原料PVAを構成する全単量体単位に対する、アセタール化されたビニルアルコール単量体単位の割合を表す。原料のPVA中のビニルアルコール単量体単位のうち、アセタール化されなかったものは、得られるポリビニルアセタール中において、ビニルアルコール単量体単位として残存する。
本発明のバインダーに含有されるポリビニルアセタールの粘度平均重合度は、JIS−K6726に準じて測定される原料のPVAの粘度平均重合度で表される。すなわち、PVAをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](l/g)から次式により求めることができる。PVAの粘度平均重合度と、それをアセタール化して得られるポリビニルアセタールの粘度平均重合度とは、実質的に同じである。
P=([η]×10000/8.29)(1/0.62)
前記ポリビニルアセタールの粘度平均重合度は200〜1000である。粘度平均重合度が200に満たない場合、原料のPVAを工業的に製造するのが困難である。粘度平均重合度は300以上が好ましい。一方、重合度が1000を超える場合には、溶液粘度が低く、かつ顔料含有率が高いインキ及び塗料を得るのが困難である。粘度平均重合度は500以下が好ましい。
前記ポリビニルアセタールのビニルエステル単量体単位の含有量は0.1〜20モル%であり、好ましくは0.3〜18モル%であり、より好ましくは0.5〜15モル%であり、更に好ましくは0.7〜13モル%である。ビニルエステル単量体単位の含有量が0.1モル%に満たない場合、ポリビニルアセタールを安定に製造することができない。一方、ビニルエステル単量体単位の含有量が20モル%を超える場合には、得られるインキ及び塗料における顔料の分散性が低下する。また、得られるインキ及び塗料の保存安定性も低下する。
前記ポリビニルアセタール中の、アセタール化された単量体単位、ビニルエステル単量体単位及びビニルアルコール単量体単位以外の単量体単位の含有量は、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
本発明のバインダーに含有されるポリビニルアセタールは、通常、PVAをアセタール化することにより製造する。
原料PVAのけん化度は80〜99.9モル%が好ましく、より好ましくは82〜99.7モル%であり、さらに好ましくは85〜99.5モル%であり、最も好ましくは87〜99.3モル%である。けん化度が80モル%に満たない場合、インキ及び塗料における顔料の分散性が低下するおそれがある。また、得られるインキ及び塗料の保存安定性も低下するおそれもある。一方、けん化度が99.9モル%を超える場合、PVAを安定に製造することができない場合がある。PVAのけん化度はJIS−K6726に準じて測定される。
原料PVAの製造に用いられるビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
また、原料PVAは、ビニルエステルを2−メルカプトエタノール、n−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で重合させ、得られるポリビニルエステルをけん化することによって製造することもできる。この方法により、チオール化合物に由来する官能基が末端に導入されたPVAが得られる。
ビニルエステルを重合する方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その方法の中でも、無溶媒で行う塊状重合法またはアルコールなどの溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。本発明の効果を高める点では、低級アルコールと共に重合する溶液重合法が好ましい。低級アルコールとしては、特に限定はされないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど炭素数3以下のアルコールが好ましく、通常、メタノールが用いられる。塊状重合法や溶液重合法で重合反応を行うにあたって、反応の方式は回分式および連続式のいずれの方式にても実施可能である。重合反応に使用される開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネート、パーオキシジカーボネートなどの有機過酸化物系開始剤など本発明の効果を損なわない範囲で公知の開始剤が挙げられるが、特に、60℃での半減期が10〜110分の有機過酸化物系開始剤が好ましく、中でもパーオキシジカーボネートを用いることが好ましい。重合反応を行う際の重合温度については特に制限はないが、5℃〜200℃の範囲が適当である。
ビニルエステルをラジカル重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、共重合可能な単量体を共重合させることができる。このような単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸またはその誘導体;アクリル酸またはその塩もしくはエステル類;メタクリル酸またはその塩もしくはエステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等のカチオン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリエトキシシラン等のシリル基を有する単量体などが挙げられる。これらのビニルエステルと共重合可能な単量体の使用量は、その使用される目的および用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で20モル%以下、好ましくは10モル%以下である。
上述の方法により得られたポリビニルエステルをアルコール溶媒中でけん化することによりPVAを得ることができる。
ポリビニルエステルのけん化反応の触媒としては通常アルカリ性物質が用いられ、その例として、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、およびナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。アルカリ性物質の使用量は、ポリビニルエステルのビニルエステル単量体単位を基準にしたモル比で0.002〜0.2の範囲内であることが好ましく、0.004〜0.1の範囲内であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加しても良いし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加しても良い。
けん化反応に用いることができる溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく用いられる。このとき、メタノールの含水率を好ましくは0.001〜1質量%、より好ましくは0.003〜0.9質量%、特に好ましくは0.005〜0.8質量%に調整する。
けん化反応は、好ましくは5〜80℃、より好ましくは20〜70℃の温度で行われる。けん化反応は、好ましくは5分間〜10時間、より好ましくは10分間〜5時間行う。けん化反応は、バッチ法および連続法のいずれの方式によっても行うことができる。けん化反応の終了後に、必要に応じて、残存する触媒を中和しても良い。使用可能な中和剤として、酢酸、乳酸などの有機酸、および酢酸メチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。
けん化反応時に添加したアルカリ金属を含有するアルカリ性物質は、通常、けん化反応の進行により生じる酢酸メチルなどのエステルにより中和されるか、反応後添加された酢酸などのカルボン酸により中和される。このとき、酢酸ナトリウムなどのカルボン酸のアルカリ金属塩が生じる。後述するように、本発明において、原料PVAがカルボン酸のアルカリ金属塩を、アルカリ金属の質量換算で0.5質量%以下含有することが好ましい。このようなPVAを得るために、けん化後、PVAを洗浄しても良い。
本発明において、GPC測定により求められる各値がそれぞれ上述した範囲に入るように調整する方法としては、例えば、以下の方法を用いて製造したPVAをポリビニルアセタールの原料として用いる方法が挙げられる。
A)原料ビニルエステルに含まれるラジカル重合禁止剤を予め取り除いたビニルエステルを重合に用いる。
B)原料ビニルエステル中に含まれる不純物の合計含有量が、好ましくは1〜1200ppm、より好ましくは3〜1100ppm、さらに好ましくは5〜1000ppmであるビニルエステルをラジカル重合に用いる。不純物としては、アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレインなどのアルデヒド;同アルデヒドが溶媒のアルコールによりアセタール化したアセトアルデヒドジメチルアセタール、クロトンアルデヒドジメチルアセタール、アクロレインジメチルアセタールなどのアセタール;アセトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステルなどが挙げられる。
C)アルコール溶媒中にて原料ビニルエステルをラジカル重合し、未反応ビニルエステルを回収再利用する一連の工程にて、アルコールや微量の水分によるモノマーの加アルコール分解や加水分解を抑制するために、有機酸、具体的にはグリコール酸、グリセリン酸、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸;マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、シュウ酸、グルタル酸などの多価カルボン酸などを添加し、分解により生じるアセトアルデヒドなどのアルデヒドの生成を極力抑制する。有機酸の添加量としては、原料ビニルエステルに対して、好ましくは1〜500ppm、より好ましくは3〜300ppm、さらに好ましくは5〜100ppmである。
D)重合に用いる溶媒として、不純物の合計含有量が、好ましくは1〜1200ppm、より好ましくは3〜1100ppm、さらに好ましくは5〜1000ppmであるものを用いる。溶媒中に含まれる不純物としては、原料ビニルエステル中に含まれる不純物として上述したものが挙げられる。
E)ビニルエステルをラジカル重合する際に、ビニルエステルに対する溶媒の比を高める。
F)ビニルエステルをラジカル重合する際に使用するラジカル重合開始剤として、有機過酸化物を用いる。有機過酸化物としては、アセチルパーオキシド、イソブチルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジアリルパーオキシジカーボネート、ジn−プロピルパーオキシジカーボネート、ジミリスチルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(メトキシイソプロピル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどが挙げられ、特に、60℃での半減期が10〜110分のパーオキシジカーボネートを用いることが好ましい。
G)ビニルエステルのラジカル重合後に、重合を抑制するために禁止剤を添加する場合、残存する未分解のラジカル重合開始剤に対して5モル当量以下の禁止剤を添加する。禁止剤の種類としては、分子量が1000以下の共役二重結合を有する化合物であって、ラジカルを安定化させて重合反応を阻害する化合物が挙げられる。具体的には、例えば、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン、2−t−ブチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、3−エチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1−メトキシ−1,3−ブタジエン、2−メトキシ−1,3−ブタジエン、1−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−エトキシ−1,3−ブタジエン、2−ニトロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、1−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合3個の共役構造よりなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合4個以上の共役構造よりなる共役ポリエンなどのポリエンが挙げられる。なお、1,3−ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いても良い。さらに、p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、2−フェニル−1−プロペン、2−フェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−2−ヘプテン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−2−ノネン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−3−ヘプテン、1,3,5−トリフェニル−1−ヘキセン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−2−ヘプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−3−ノネン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン等の芳香族系化合物が挙げられる。
H)残存するビニルエステルが極力除去されたポリビニルエステルのアルコール溶液をけん化反応に用いる。好ましくは残存モノマーの除去率99%以上、より好ましくは99.5%以上、更に好ましくは99.8%以上のものを用いる。
A)〜H)を適宜組み合わせて製造したPVAをアセタール化して本発明におけるポリビニルアセタールを得ることが好ましい。
PVAのアセタール化は、例えば次のような反応条件で行うことができるが、これに限定されない。80〜100℃に加熱してPVAを水に溶解させた後、10〜60分かけて徐々に冷却することにより、PVAの3〜40質量%水溶液を得る。温度が−10〜30℃まで低下したところで、前記水溶液にアルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、30〜300分間アセタール化反応を行う。その際、一定のアセタール化度に達したポリビニルアセタールが析出する。その後反応液を30〜300分かけて25〜80℃まで昇温し、その温度を10分〜24時間保持する(この温度を追い込み時反応温度とする)。次に反応溶液に、必要に応じてアルカリなどの中和剤を添加して酸触媒を中和し、水洗、乾燥することにより、ポリビニルアセタールが得られる。
一般的に、このような反応や処理の工程においてポリビニルアセタールからなる凝集粒子が生じ、粗粒子を形成しやすい。このような粗粒子が生じた場合には、バッチ間のばらつきの原因になるおそれがある。それに対して、上述した所定の方法を用いて製造したPVAを原料とした場合、従来品より粗粒子の生成が抑制される。
アセタール化反応に用いる酸触媒としては特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれでも使用可能である。例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも塩酸、硫酸、硝酸が好ましく用いられる。また一般には、硝酸を用いた場合は、アセタール化反応の反応速度が速くなり、生産性の向上が望める一方、得られるポリビニルアセタールの粒子が粗大になりやすく、バッチ間のばらつきが大きくなる傾向がある。それに対して、上述した所定の方法を用いて製造したPVAを原料とした場合、粗粒子の生成が抑制される。
本発明において、アセタール化反応に用いるアルデヒドは特に限定されないが、公知の炭素数1〜8のアルデヒドが好ましく、炭素数4〜6のアルデヒドがより好ましく、n−ブチルアルデヒドが特に好ましく用いられる。本発明においては、アルデヒドを2種類以上併用して得られるポリビニルアセタールを使用することもできる。
本発明のバインダーは、本発明の主旨に反しない限り、紫外線吸収剤、接着性改良剤、可塑剤、その他従来公知の添加剤を含んでいても良い。
前記紫外線吸収剤としては、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α’ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、4−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−1−(2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤、マロン酸[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−ジメチルエステル等のマロン酸エステル系紫外線吸収剤、2−エチル−2‘−エトキシ−オキサルアニリド等のシュウ酸アニリド系紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。紫外線吸収剤の添加量は、質量基準で10〜50,000ppmが好ましく、100〜10,000ppmがより好ましい。添加量が10ppmより少ないと十分な効果が発現しないことがあり、また50,000ppmより多くしても格段の効果は望めない。これら紫外線吸収剤は2種以上組み合わせて用いることもできる。
前記可塑剤は、本発明の効果を損なわず、なおかつポリビニルアセタールとの相溶性に問題がなければ特に制限はない。前記可塑剤としては、本発明の効果を損なわず、ポリビニルアセタールとの相溶性に問題がなければ特に制限はない。可塑剤として、両末端に水酸基を有するオリゴアルキレングリコールとカルボン酸とのモノまたはジエステル、ジカルボン酸とアルコールとのジエステルなどを用いることができる。これらは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。具体的には、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート等のトリまたはテトラエチレングリコールなどの両末端に水酸基を有するオリゴアルキレングリコールとカルボン酸とのモノまたはジエステル;ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジブチルアジペート等のジカルボン酸とアルコールとのジエステルが挙げられる。
本発明のバインダーに含有される前記ポリビニルアセタール以外の成分の含有量は、通常50質量%以下であり、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、当該成分を実質的に含まないことがさらに好ましい。本発明のバインダーに含有される前記ポリビニルアセタールの量は、通常50質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、当該バインダーが実質的に前記ポリビニルアセタールのみからなることがさらに好ましい。
本発明の好適な実施態様は、上記バインダー、顔料及び溶媒を含有するインキ又は塗料である。特に、本発明のバインダーは顔料の分散性に優れており、高固形分比率(高顔料比率)で調整可能である。上記バインダーを用いることにより、顔料を分散させたインキ又は塗料の保存安定性が向上する。前記インキ又は塗料を用いて形成される塗膜は光沢度が高い。また、前記インキは印刷適性に優れる。
前記インキ又は塗料における前記ポリビニルアセタールの含有量は、好ましくは1〜35質量%、さらに好ましくは5〜25質量%である。また、前記インキ又は塗料における顔料の含有量は、特に限定されないが、例えば、5〜25質量%である。前記インキ又は塗料における溶媒の含有量も特に限定されず、例えば、50〜90質量%である。
インキ又は塗料に含まれる顔料としては、従来から公知のあらゆる有機または無機顔料が適している。顔料は1種類を単独で用いることもできるほか、2種類の顔料を組み合わせて用いることもできる。また、用いられる溶媒としては、エチルアルコールなどのアルコール類や酢酸エチルなどのエステル類が挙げられる。
本発明のバインダーは、エクステンダー樹脂、助剤などと組み合わせて使用することもできる。
本発明のバインダーを含有するインキ及び塗料は、使用したポリビニルアセタールの粘度から予測される溶液の粘度よりも低い。本発明のバインダーを含有するインキ及び塗料は、従来公知のポリビニルアセタールを含むインキ及び塗料に比べて溶液の粘度が著しく低下するという効果を奏する。このことは、インキ又は塗料の粘度を調整する際に使用されるワニスまたは溶媒の量を低減できるということと、顔料の含有量を増加できるということを意味している。すなわち、本発明のバインダーを用いることにより、最適の粘度のままで着色の程度を高くしたり、あるいは着色の程度を変えずに粘度をより低くしたりするという、インキ又は塗料に必要とされていた性能を満たすことができる。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。「重合度」は「粘度平均重合度」を意味する。
[ポリ酢酸ビニルの合成]
PVAc−1
撹拌機、温度計、窒素導入チューブ、還流管を備え付けた6Lセパラブルフラスコに、あらかじめ脱酸素し、アセトアルデヒド(AA)を650ppm、アセトアルデヒドジメチルアセタール(DMA)を65ppm含有する酢酸ビニル(VAM)1055g;アセトアルデヒドジメチルアセタールを50ppm含有し、アセトアルデヒドの含有量が1ppm未満であるメタノール(MeOH)2445g;酢酸ビニル中の酒石酸の含有量が20ppmとなる量の酒石酸1%メタノール溶液を仕込んだ。前記フラスコ内に窒素を吹き込みながら、フラスコ内の温度を60℃に調整した。なお、還流管には−10℃のエチレングリコール/水溶液を循環させた。ジn−プロピルパーオキシジカーボネートの3.00質量%メタノール溶液を調製し、15.6mLを前記フラスコ内に添加し重合を開始した。ジn−プロピルパーオキシジカーボネートのメタノール溶液を17.5mL/時間の速度で重合終了まで逐次添加した。重合中、フラスコ内の温度を60℃に保った。重合開始から6時間後、重合液の固形分濃度が22.1%となった時点で、重合液中に未分解で残存するジn−プロピルパーオキシジカーボネートの3モル当量に相当する量のソルビン酸を含有するメタノールを1200g添加した後、重合液を冷却し重合を停止した。重合停止時の酢酸ビニルの重合率は75.0%であった。重合液を室温まで冷却した後、水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、酢酸ビニルおよびメタノールを留去し、ポリ酢酸ビニルを析出させた。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを3000g添加し、30℃で加温しつつポリ酢酸ビニルを溶解させた後、再び水流アスピレータを用いてフラスコ内を減圧することにより、酢酸ビニルおよびメタノールを留去してポリ酢酸ビニルを析出させた。ポリ酢酸ビニルをメタノールに溶解させた後、析出させる操作をさらに2回繰り返した。析出したポリ酢酸ビニルにメタノールを添加し、酢酸ビニルの除去率99.8%のポリ酢酸ビニル(PVAc−1)の40質量%のメタノール溶液を得た。
得られたPVAc−1のメタノール溶液の一部を用いて重合度を測定した。PVAc−1のメタノール溶液に、ポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が、0.1となるように水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液を添加した。ゲル化物が生成した時点でゲルを粉砕し、メタノールでソックスレー抽出を3日間行った。得られたポリビニルアルコールを乾燥し、粘度平均重合度測定に供した。重合度は300であった。
PVAc−2〜PVAc−7
表1に記載した条件に変更したこと以外は、PVAc−1と同様の方法により、ポリ酢酸ビニル(PVAc−2〜PVAc−7)を得た。なお、表1中の「ND」は1ppm未満を意味する。得られた各ポリ酢酸ビニルの重合度をPVAc−1と同様にして求めた。その結果を表1に示す。
[ポリビニルアルコールの合成]
PVA−1
PVAc−1の40質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が55質量%となり、かつポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.03となるようにメタノール、および水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。けん化反応の進行に伴ってゲル化物が生成した時点でゲルを粉砕し、粉砕後のゲルを40℃の容器に移し、けん化反応の開始から60分経過した時点で、メタノール/酢酸メチル/水(25/70/5質量比)の溶液に浸漬し、中和処理した。得られた膨潤ゲルを遠心分離し、膨潤ゲルの質量に対して、2.5倍の質量のメタノールを添加、浸漬し30分間放置した後、遠心分離する操作を4回繰り返し、60℃で1時間乾燥した後、100℃で2時間乾燥してPVA−1を得た。
PVA−1の重合度およびけん化度を、JIS−K6726に記載の方法により求めた。重合度は300、けん化度は98.9モル%であった。これらの物性データを表2にも示す。
PVA−1を灰化した後に、ジャーレルアッシュ社製ICP発光分析装置「IRIS AP」を用いて、得られた灰分中のナトリウム量を測定することによりPVA−1の酢酸ナトリウム含有量を求めた。酢酸ナトリウムの含有量は0.4%(ナトリウム換算で0.11%)であった。これらの物性データを表2にも示す。
PVA−2〜4、比較PVA−1〜7、9、10
表2〜5に示す条件に変更したこと以外はPVA−1と同様にして各PVAを合成した。得られたPVAの重合度、けん化度及び酢酸ナトリウムの含有量(ナトリウムの質量換算)をPVA−1と同様にして測定した。それらの結果を表2〜5に示す。
比較PVA−8
PVAc−1のポリ酢酸ビニルの55質量%のメタノール溶液に対して、総固形分濃度(けん化濃度)が40質量%となるように、メタノールおよびポリ酢酸ビニル中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.005となるように水酸化ナトリウムの8%メタノール溶液を撹拌下に加え、40℃でけん化反応を開始した。なお、この際の系内の水分率を1.2%となるよう蒸留水を添加してけん化反応を行った。水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してから1時間後、1%酢酸水を水酸化ナトリウムの0.8モル等量および多量の蒸留水を添加し、けん化反応を停止した。得られた溶液を乾燥機に移し、65℃で12時間乾燥した後、100℃で2時間乾燥して比較PVA−8を得た。
比較PVA−8の重合度、けん化度及び酢酸ナトリウムの含有量をPVA−1と同様にして測定した。重合度は300、けん化度は60.2モル%、酢酸ナトリウム含有量1.3%(ナトリウム換算で0.36%)であった。それらの結果を表4に示す。
実施例1
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた10リットルのガラス製容器に、イオン交換水8100g、PVA−1を660g仕込み(PVA濃度7.5%)、内容物を95℃に昇温してPVAを完全に溶解させた。次に内容物を120rpmで攪拌しながら、1℃まで約30分かけて徐々に冷却した後、前記容器にn−ブチルアルデヒド422gと20%の塩酸540mLを添加し、ブチラール化反応を120分間行った。その後60分かけて45℃まで昇温し、45℃にて120分間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和した。引き続き、イオン交換水で樹脂を再洗浄した後、乾燥してポリビニルブチラール(PVB−1)を得た。
(ポリビニルブチラールの組成)
ポリビニルブチラールのブチラール化度(アセタール化度)、酢酸ビニル単量体単位の含有量、及びビニルアルコール単量体単位の含有量はJIS K6728に従って測定した。得られたポリビニルブチラールのブチラール化度(アセタール化度)は68.1モル%、酢酸ビニル単量体単位の含有量は1.1モル%であり、ビニルアルコール単量体単位の含有量は30.8モル%であった。結果を表6にも示す。
[ポリビニルブチラールのGPC測定]
(測定装置)
VISCOTECH製「GPCmax」を用いてGPC測定を行った。示差屈折率検出器としてVISCOTECH製「TDA305」を用いた。紫外可視吸光光度検出器としてVISCOTECH製「UV Detector2600」を用いた。当該吸光光度検出器の検出用セルの光路長は10mmである。GPCカラムには昭和電工株式会社製「GPC HFIP−806M」を用いた。また、解析ソフトには、装置付属のOmniSEC(Version 4.7.0.406)を用いた。
(測定条件)
移動相には、20mmol/lトリフルオロ酢酸ナトリウム含有HFIPを用いた。移動相の流速は1.0ml/分とした。試料注入量は100μlとし、GPCカラム温度40℃にて測定した。
(検量線の作成)
標品として、Agilent Technologies製のポリメタクリル酸メチル(以下「PMMA」と略記する)(ピークトップ分子量:1944000、790000、467400、271400、144000、79250、35300、13300、7100、1960、1020、690)を測定し、示差屈折率検出器および吸光光度検出器のそれぞれについて、溶出容量をPMMA分子量に換算するための検量線を作成した。各検量線の作成には、前記解析ソフトを用いた。なお、本測定においてはポリメタクリル酸メチルの測定において、1944000と271400の両分子量の標準試料同士のピークが分離できる状態のカラムを用いた。
なお、本装置においては、示差屈折率検出器から得られるピーク強度はmV(ミリボルト)で、UV Detectorから得られるピーク強度は吸光度(abs unit:アブソーバンスユニット)で表される。
(試料の準備)
得られた粉末状のPVB−1を、圧力2MPa、230℃にて、3時間熱プレスすることにより、加熱されたポリビニルアセタール(フィルム)を得た。このときのフィルムの厚みは、760μmであった。
上述の方法により準備された試料を20mmol/lトリフルオロ酢酸ナトリウム含有HFIPに溶解し、PVB−1の1.00mg/ml溶液を調製した。当該溶液を0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、測定に用いた。
得られた試料を上記方法によりGPC測定した。溶出容量から換算したポリビニルアセタールの分子量(横軸)に対して、示差屈折率検出器で測定されたシグナル強度をプロットして得たクロマトグラムから求めたピークトップ分子量(A)は31500であった。溶出容量から換算したポリビニルアセタールの分子量(横軸)に対して、吸光光度検出器(測定波長280nm)で測定された吸光度をプロットして得たクロマトグラムから求めたピークトップ分子量(B)は28400であった。このときの分子量は、溶出容量から検量線を用いて換算されたもの(PMMA換算分子量)である。得られた値を下記式
(A−B)/A
に代入して得られた値は0.10であった。ピークトップ分子量(B)における吸光度(b)は3.44×10−3であった。示差屈折率検出器で測定された値をプロットして得たクロマトグラムから求めた数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnは3.4であった。これらの結果を表6にも示す。
(インキの製造)
ポリビニルブチラール(PVB−1)15部をエタノール85部に溶解し、これらの溶液の流出時間をDIN4mmカップ(DIN53211/23℃)で測定した後、流出時間が20秒になるように濃度を調節したポリビニルブチラール(PVB−1)のエタノール溶液400gを調製した。このエタノール溶液に顔料(Hostaperm Blue B 2G)100gを添加し、これらの混合物を均質化し、ガラスビーズを用いて30分間、冷却しながら練磨した後、篩を用いてガラスビーズを分離し、顔料分散液を調製した。この顔料分散液を用いて、フレキソ印刷によりポリエチレンテレフタレートフィルムに印刷し、80℃で30分間乾燥して、インキ厚み50μmの塗膜を得た。
(顔料分散液の保存安定性)
得られた顔料分散液の保存安定性を、顔料分散液の製造直後の粘度η0と製造後1ヶ月の粘度η1との比率によって評価した。評価基準は以下のとおりである。
評価A:0.95<η1/η0<1.05
評価B:0.85<η1/η0≦0.95 あるいは、1.05≦η1/η0<1.15
評価C:η1/η0≦0.85 あるいは、1.15≦η1/η0
顔料分散液の粘度は、回転レオメータ(TA INSTRUMENT社製;ARES G2)を用いて、以下の測定条件で測定した。
<測定条件>
FLOW SWEEPモード
shear rate:100(1/sec)
回転する円盤の直径:40mm
回転する円盤(上側):平板
回転する円盤(下側)のコーンアングル:0.02rad
Truncation gap:0.0262mm
(インキ塗布体の光沢度)
インキ塗布体の光沢度は、JIS−K7105に準拠し、入射角20°、受光角20°とした、20°グロス測定法で求めた。尚、光沢計は日本電色社製VGS−300Aを使用した。評価基準は以下のとおり。
評価A:60以上
評価B:55以上60未満
評価C:50以上55未満
比較例1〜3
原料PVAを表6に示すものに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラールを合成した。そして、実施例1と同様にしてインキの保存安定性とインキ塗布体の光沢度を評価した。結果を表6に示す。
本発明のバインダーを用いた場合(実施例1)、インキの保存安定性が向上した。また、本発明のバインダーを用いた場合(実施例1)、光沢度が良好な塗膜が得られた。一方、本発明で規定した条件を満たさないバインダーを用いた場合(比較例1〜3)、いずれかの性能が低下した。また、重合度が本発明で規定した下限より小さい場合(比較例3)、いずれの性能も不十分であった。
実施例2
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた10リットルのガラス製容器に、イオン交換水を8100g、PVA−2を660g仕込み(PVA濃度7.5%)、内容物を95℃に昇温してPVAを完全に溶解させた。次に120rpmで攪拌下、5℃まで約30分かけて徐々に冷却後、n−ブチルアルデヒド402gと20%の塩酸540mLを添加し、ブチラール化反応を120分間行った。その後60分かけて50℃まで昇温し、50℃にて120分間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和した。引き続き、イオン交換水で樹脂を再洗浄した後、乾燥してポリビニルブチラールを得た。
得られたポリビニルブチラールの組成を実施例1と同様にして測定した。得られたポリビニルブチラールのブチラール化度(アセタール化度)は68.5モル%、酢酸ビニル単量体単位の含有量は1.5モル%であり、ビニルアルコール単量体単位の含有量は30.0モル%であった。次に、得られたポリビニルアセタールの評価(GPC測定)、インキの保存安定性評価及びインキ塗布体の光沢度評価を実施例1と同様にして行った。結果を表7に示す。
比較例4および5
原料PVAを表7に示すものに変更したこと以外は、実施例2と同様にしてポリビニルブチラールを合成した。そして、得られたポリビニルアセタールの評価(GPC測定)、インキの保存安定性評価及びインキ塗布体の光沢度評価を実施例1と同様にして行った。結果を表7に示す。
本発明のバインダーを用いた場合(実施例2)、インキの保存安定性が向上した。また、本発明のバインダーを用いた場合(実施例2)、光沢度が良好な塗膜が得られた。一方、本発明で規定した条件を満たさないバインダーを用いた場合(比較例4および5)、いずれかの性能が低下した。
実施例3
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた10リットルのガラス製容器に、イオン交換水を8100g、PVA−3を660g仕込み(PVA濃度7.5%)、内容物を95℃に昇温して完全にPVAを溶解させた。次に内容物を120rpmで攪拌しながら、1℃まで約60分かけて徐々に冷却した後、前記容器にn−ブチルアルデヒド468gと20%の塩酸540mLを添加し、ブチラール化反応を90分間行った。その後30分かけて25℃まで昇温し、25℃にて180分間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和した。引き続き、イオン交換水で樹脂を再洗浄した後、乾燥してポリビニルブチラールを得た。
得られたポリビニルブチラールの組成を実施例1と同様にして測定した。ブチラール化度(アセタール化度)は73.2モル%、酢酸ビニル単量体単位の含有量は8.0モル%であり、ビニルアルコール単量体単位の含有量は18.8モル%であった。次に、得られたポリビニルアセタールの評価(GPC測定)、インキの保存安定性評価及びインキ塗布体の光沢度評価を実施例1と同様にして行った。評価結果を表8に示す。
比較例6〜8
原料PVAを表8に示すものに変更したこと以外は、実施例3と同様にしてポリビニルブチラールを合成した。そして、得られたポリビニルアセタールの評価(GPC測定)、インキの保存安定性評価及びインキ塗布体の光沢度評価を実施例1と同様にして行った。結果を表8に示す。
本発明のバインダーを用いた場合(実施例3)、インキの保存安定性が向上した。また、本発明のバインダーを用いた場合(実施例3)、光沢度が良好な塗膜が得られた。一方、本発明で規定した条件を満たさないインキ用バインダーを用いた場合(比較例6〜8)、いずれかの性能が低下した。
実施例4
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた10Lリットルのガラス製容器に、イオン交換水を8100g、PVA−4を660g仕込み(PVA濃度7.5%)、内容物を95℃に昇温してPVAを完全に溶解させた。次に内容物を120rpmで攪拌しながら、5℃まで約60分かけて徐々に冷却した後、前記容器にn−ブチルアルデヒド450gと20%の塩酸540mLを添加し、ブチラール化反応を90分間行った。その後30分かけて30℃まで昇温し、30℃にて180分間保持した後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和した。引き続き、イオン交換水で樹脂を再洗浄した後、乾燥してポリビニルブチラールを得た。
得られたポリビニルブチラールの組成を実施例1と同様にして測定した。ブチラール化度(アセタール化度)は74.3モル%、酢酸ビニル単量体単位の含有量は7.9モル%であり、ビニルアルコール単量体単位の含有量は17.8モル%であった。次に、得られたポリビニルアセタールの評価(GPC測定)、インキの保存安定性評価及びインキ塗布体の光沢度評価を実施例1と同様にして行った。結果を表9に示す。
比較例9および10
原料PVAを表9に示すものに変更したこと以外は、実施例4と同様にしてポリビニルブチラールを合成した。そして、得られたポリビニルアセタールの評価(GPC測定)、インキの保存安定性評価及びインキ塗布体の光沢度評価を実施例1と同様にして行った。結果を表9に示す。
表9には重合度500の部分けん化PVA(けん化度約88モル%)を原料にしたポリビニルアセタールを含有するバインダーの評価を示した。本発明のバインダーを用いた場合(実施例4)、インキの保存安定性が向上した。また、本発明のバインダーを用いた場合(実施例4)、光沢度が良好な塗膜が得られた。一方、本発明で規定した条件を満たさないインキ用バインダーを用いた場合(比較例9および10)、いずれかの性能が低下した。
以上の結果から示されるとおり、本発明のバインダーを用いるとインキの保存安定性が優れていた。また、光沢度が良好な塗膜が得られた。一方、本発明で規定した条件を満たさないバインダーを用いた場合、いずれかの性能が明らかに低下した。