JP6218559B2 - ゴム組成物 - Google Patents

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Description

本発明はゴム組成物に関する。
従来から、天然ゴムやスチレンブタジエンゴム等のゴム成分に対してシリカやカーボンブラック等のフィラーを配合することにより機械強度を向上させたゴム組成物が、耐摩耗性や機械強度を必要とするタイヤ用途に広く使用されている。またフィラーを配合したゴム組成物は、ゴムの混練時や圧延、押出時の粘度が高いため、加工性や流動性の改良を目的としプロセスオイル等が可塑剤として使用される。
しかし、前述のタイヤ用途等においては、製造時に適度な機械強度及び硬度などの物性を有していたとしても、長期間の使用によりゴムの性能が変化してしまう問題がある。これはゴムの内部から外部に可塑剤等が移行することにより生じるものである。
このような、可塑剤等の移行を抑制する一つの方法として、ゴム組成物にプロセスオイル等の従来の可塑剤にかえて液状ジエン系ゴムを用いる方法がある。このようにして作製されるゴム組成物及び架橋物は、ゴム組成物の加工性に優れるだけでなく、架橋後に該成分が移行してしまうことが抑制される点で優れたものである(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、液状ジエン系ゴムをゴム組成物に含有させた場合であっても、該ゴム組成物から得られる架橋物は、機械強度、耐摩耗性の物性が必ずしも十分ではない場合があり、また、加工性を改良しつつ、高硬度の硬化物を作製するためには更なる改善が望まれている。更に、ゴム組成物から得られる架橋物、特にタイヤ等においては、機械強度だけでなく、転がり抵抗性能の更なる改善が望まれている。加えて、官能基変性した液状ジエン系ゴムを用いた組成物を加工する際には、金型汚染の問題が発生する場合もあり、この点についても更なる改善が求められている。
特開2008−120895号公報
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、加工等する際に金型汚染が低減したゴム組成物、更に機械強度、耐摩耗性等に優れ、転がり抵抗性能が向上し、高硬度な架橋物を製造し得るゴム組成物、及び該組成物を少なくとも一部に用いたタイヤを提供する。
本発明者らが、鋭意検討を行った結果、特定の変性液状ジエン系ゴム等をゴム組成物に含有させることにより、加工等する際に金型汚染が低減するだけでなく、そのゴム組成物から得られる架橋物は、機械強度、耐摩耗性等に優れ、転がり抵抗性能が向上すること、更にその架橋物の硬度が高くなり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下〔1〕〜〔3〕に関する。
〔1〕固形ゴム(A)100質量部に対して、カーボンブラック及びシリカから選ばれる少なくとも1種のフィラー(B)20〜150質量部、及び変性液状ジエン系ゴム(C)0.1〜30質量部を含有するゴム組成物であり、前記変性液状ジエン系ゴム(C)が、下記(I)〜(III)の要件を満たすゴム組成物。
(I)変性液状ジエン系ゴム(C)の38℃で測定した溶融粘度が0.1〜3,000Pa・sの範囲にある。
(II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した際、最大ピーク分子量(Mt)が3,000〜120,000の範囲であり、得られるGPCクロマトグラムの重合体由来の全面積を100%として、分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体の割合が0〜20%である。
(III)変性液状ジエン系ゴム(C)が、変性化合物を液状ジエン系ゴム(C’)に付加して得られたものであり、変性化合物の付加反応率が40〜100mol%である。
〔2〕液状ジエン系ゴム(C’)に付加する変性化合物が無水マレイン酸である、〔1〕に記載のゴム組成物。
〔3〕〔1〕又は〔2〕に記載のゴム組成物を少なくとも一部に用いたタイヤ。
本発明によれば、加工等する際に金型汚染が低減するだけでなく、架橋した際に、機械強度、耐摩耗性等に優れ、転がり抵抗性能が向上し、更にその架橋物の硬度が高くなり得るゴム組成物が得られる。また、当該ゴム組成物は、例えばタイヤの少なくとも一部として有用であり、該組成物を用いたタイヤは前記の各種性能に優れる。
[固形ゴム(A)]
本発明のゴム組成物で用いる固形ゴム(A)とは、20℃において固形状で取り扱うことができるゴムをいい、固形ゴム(A)の100℃におけるムーニー粘度 ML1+4は通常20〜200の範囲にある。上記固形ゴム(A)としては、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(以下、「SBR」ともいう。)、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリル共重合体ゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、及びウレタンゴム等が挙げられる。これら固形ゴム(A)の中でも、天然ゴム、SBR、ブタジエンゴム、及びイソプレンゴムが好ましく、天然ゴム、及びSBRが更に好ましい。これら固形ゴム(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記固形ゴム(A)の数平均分子量(Mn)は、得られるゴム組成物及び架橋物における特性を十分に発揮させる観点から、80,000以上であることが好ましく、100,000〜3,000,000の範囲内であることがより好ましい。なお、本明細書における数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
上記天然ゴムとしては、例えばSMR、SIR、STR等のTSRやRSS等のタイヤ工業において一般的に用いられる天然ゴム、高純度天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、水酸基化天然ゴム、水素添加天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴムが挙げられる。中でも、品質のばらつきが少ない点、及び入手容易性の点から、SMR20、STR20やRSS#3が好ましい。これら天然ゴムは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
SBRとしては、タイヤ用途に用いられる一般的なものを使用できるが、具体的には、スチレン含量が0.1〜70質量%のものが好ましく、5〜50質量%のものがより好ましく、15〜35質量%のものが更に好ましい。また、ビニル含量が0.1〜60質量%のものが好ましく、0.1〜55質量%のものがより好ましい。
SBRの重量平均分子量(Mw)は、100,000〜2,500,000であることが好ましく、150,000〜2,000,000であることがより好ましく、200,000〜1,500,000であることが更に好ましい。上記の範囲である場合、加工性と機械強度を両立することができる。
なお、本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定から求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
本発明において使用するSBRの示差熱分析法により求めたガラス転移温度は、−95〜0℃であることが好ましく−95〜−5℃であることがより好ましい。ガラス転移温度を上記範囲にすることによって、粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。
本発明において用いることができるSBRは、スチレンとブタジエンとを共重合して得られる。SBRの製造方法について特に制限はなく、乳化重合法、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれも用いることができるが、これら製造方法の中でも、乳化重合法、溶液重合法が好ましい。
乳化重合スチレンブタジエンゴム(以下、E−SBRともいう。)は、公知又は公知に準ずる通常の乳化重合法により製造できる。例えば、所定量のスチレン及びブタジエン単量体を乳化剤の存在下に乳化分散し、ラジカル重合開始剤により乳化重合することにより得られる。
溶液重合スチレンブタジエンゴム(以下、S−SBRともいう。)は、通常の溶液重合法により製造でき、例えば、溶媒中でアニオン重合可能な活性金属を使用して、所望により極性化合物の存在下、スチレン及びブタジエンを重合する。
溶媒としては、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は通常、単量体濃度が1〜50質量%となる範囲で用いることが好ましい。
アニオン重合可能な活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。これら活性金属の中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。更にアルカリ金属の中でも、有機アルカリ金属化合物がより好ましく用いられる。
有機アルカリ金属化合物としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。中でも有機リチウム化合物が好ましく、有機モノリチウム化合物がより好ましい。有機アルカリ金属化合物の使用量は、要求されるS−SBRの分子量によって適宜決められる。
有機アルカリ金属化合物は、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミン等の第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミドとして使用することもできる。
極性化合物としては、アニオン重合において、反応を失活させず、ブタジエン部位のミクロ構造やスチレンの共重合体鎖中の分布を調整するために通常用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物等が挙げられる。
重合反応の温度は、通常−80〜150℃、好ましくは0〜100℃、更に好ましくは30〜90℃の範囲である。重合様式は、回分式あるいは連続式のいずれでもよい。また、スチレン及びブタジエンのランダム共重合性を向上させるため、重合系中のスチレン及びブタジエンの組成比が特定範囲になるように、反応液中にスチレン及びブタジエンを連続的あるいは断続的に供給することが好ましい。
重合反応は、重合停止剤としてメタノール、イソプロパノール等のアルコールを添加して停止できる。重合反応停止後の重合溶液は、直接乾燥やスチームストリッピング等により溶媒を分離して、目的のS−SBRを回収できる。なお、溶媒を除去する前に、予め重合溶液と伸展油とを混合し、油展ゴムとして回収してもよい。
上記SBRとしては、本発明の効果を損ねない範囲であれば、SBRに官能基が導入された変性SBRを用いてもよい。官能基としては、例えばアミノ基、アルコキシシリル基、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基等が挙げられる。
変性SBRの製造方法としては、例えば、重合停止剤を添加する前に、重合活性末端と反応し得る四塩化錫、テトラクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,4−トリレンジイソシアネート等のカップリング剤や、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、N−ビニルピロリドン等の重合末端変性剤、又は特開2011−132298号公報に記載のその他の変性剤を添加する方法が挙げられる。
この変性SBRにおいて、官能基が導入される重合体の位置については重合末端であってもよく、重合体鎖の側鎖であってもよい。
上記ブタジエンゴムとしては、例えば、四ハロゲン化チタン−トリアルキルアルミニウム系、ジエチルアルミニウムクロライド−コバルト系、トリアルキルアルミニウム−三弗化ホウ素−ニッケル系、ジエチルアルミニウムクロライド−ニッケル系等のチーグラー系触媒;トリエチルアルミニウム−有機酸ネオジム−ルイス酸系等のランタノイド系希土類金属触媒、又はS−SBRと同様に有機アルカリ金属化合物を用いて重合された、市販のブタジエンゴムを用いることができる。チーグラー系触媒により重合されたブタジエンゴムが、シス体含量が高く好ましい。また、ランタノイド系希土類金属触媒を用いて得られる超高シス体含量のブタジエンゴムを用いてもよい。
ブタジエンゴムのビニル含量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。ビニル含量が50質量%を超えると転がり抵抗性能が悪化する傾向にある。ビニル含量の下限は特に限定されない。またガラス転移温度はビニル含量によって変化するが、−40℃以下であることが好ましく、−50℃以下であることがより好ましい。
ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は90,000〜2,000,000であることが好ましく、150,000〜1,500,000であることがより好ましい。Mwが上記範囲にある場合、加工性と機械強度が良好となる。
上記ブタジエンゴムは、本発明の効果を損ねない範囲であれば、その一部が多官能型変性剤、例えば四塩化錫、四塩化珪素、エポキシ基を分子内に有するアルコキシシラン、又はアミノ基含有アルコキシシランのような変性剤を用いることにより分岐構造又は極性官能基を有していてもよい。
上記イソプレンゴムとしては、例えば、四ハロゲン化チタン−トリアルキルアルミニウム系、ジエチルアルミニウムクロライド−コバルト系、トリアルキルアルミニウム−三弗化ホウ素−ニッケル系、ジエチルアルミニウムクロライド−ニッケル系等のチーグラー系触媒;トリエチルアルミニウム−有機酸ネオジム−ルイス酸系等のランタノイド系希土類金属触媒、又はS−SBRと同様に有機アルカリ金属化合物を用いて重合された、市販のイソプレンゴムを用いることができる。チーグラー系触媒により重合されたイソプレンゴムが、シス体含量が高く好ましい。また、ランタノイド系希土類金属触媒を用いて得られる超高シス体含量のイソプレンゴムを用いてもよい。
イソプレンゴムのビニル含量は好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。ビニル含量が50質量%を超えると転がり抵抗性能が悪化する傾向にある。ビニル含量の下限は特に限定されない。またガラス転移温度はビニル含量によって変化するが、−20℃以下であることが好ましく、−30℃以下であることがより好ましい。
イソプレンゴムの重量平均分子量(Mw)は90,000〜2,000,000であることが好ましく、150,000〜1,500,000であることがより好ましい。Mwが上記範囲にある場合、加工性と機械強度が良好となる。
上記イソプレンゴムは、本発明の効果を損ねない範囲であれば、その一部が多官能型変性剤、例えば四塩化錫、四塩化珪素、エポキシ基を分子内に有するアルコキシシラン、又はアミノ基含有アルコキシシランのような変性剤を用いることにより分岐構造又は極性官能基を有していてもよい。
[フィラー(B)]
本発明のゴム組成物で用いるフィラー(B)はカーボンブラック及びシリカから選ばれる少なくとも1種のフィラーであり、機械強度の向上等の物性の改善などを目的として配合されるものである。
上記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックなどが挙げられる。架橋速度や機械強度向上の観点からは、これらカーボンブラックの中でも、ファーネスブラックが好ましい。これらカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記カーボンブラックの平均粒径としては、分散性、機械強度、硬度などを向上させる観点から、5〜100nmが好ましく、5〜80nmがより好ましく、5〜70nmが更に好ましい。
上記ファーネスブラックの市販品としては、例えば、三菱化学株式会社「ダイヤブラック」、東海カーボン株式会社製「シースト」などが挙げられる。アセチレンブラックの市販品としては、例えば、電気化学工業株式会社製「デンカブラック」などが挙げられる。ケッチェンブラックの市販品としては、例えば、ライオン株式会社製「ECP600JD」などが挙げられる。
上記カーボンブラックは、固形ゴム(A)への濡れ性、分散性などを向上させる観点から、硝酸、硫酸、塩酸又はこれらの混合酸等による酸処理や、空気存在下での熱処理による表面酸化処理を行ってもよい。また、本発明のゴム組成物及びこの組成物から得られる架橋物の機械強度向上の観点から、黒鉛化触媒の存在下に2,000〜3,000℃で熱処理を行ってもよい。なお、黒鉛化触媒としては、ホウ素、ホウ素酸化物(例えば、B22、B23、B43、B45等)、ホウ素オキソ酸(例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等)及びその塩、ホウ素炭化物(例えば、B4C、B6C等)、窒化ホウ素(BN)、その他のホウ素化合物が好適に用いられる。
上記カーボンブラックは、粉砕等により粒度を調整した後、用いることもできる。カーボンブラックの粉砕には、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル)や各種ボールミル(転動ミル、振動ミル、遊星ミル)、撹拌ミル(ビーズミル、アトライター、流通管型ミル、アニュラーミル)等が使用できる。
なお、カーボンブラックの平均粒径は、透過型電子顕微鏡により粒子の直径を測定してその平均値を算出することにより求めることができる。
上記シリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等を挙げることができる。これらシリカの中でも、加工性、機械強度及び耐摩耗性を一層向上させる観点から、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シリカの平均粒径は、加工性、転がり抵抗性能、機械強度、及び耐摩耗性を向上する観点から、0.5〜200nmが好ましく、5〜150nmがより好ましく、10〜100nmが更に好ましい。
なお、シリカの平均粒径は、透過型電子顕微鏡により粒子の直径を測定して、その平均値を算出することにより求めることができる。
本発明のゴム組成物において、固形ゴム(A)100質量部に対するフィラー(B)の含有量は、20〜150質量部であり、25〜130質量部が好ましく、25〜110質量部がより好ましい。フィラー(B)の含有量が前記範囲内であると、加工性、転がり抵抗性能、機械強度及び耐摩耗性が向上する。
これらフィラー(B)の中でも、得られるゴム組成物及びその架橋物の転がり抵抗性能向上等の観点からは、シリカがより好ましい。また、これらフィラー(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
[変性液状ジエン系ゴム(C)]
本発明のゴム組成物で用いる変性液状ジエン系ゴム(C)とは、液状の重合体であり、38℃で測定したその溶融粘度が0.1〜3000Pa・sの範囲にあり、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に変性化合物を付加することにより得られる物をいう。本発明のゴム組成物において変性液状ジエン系ゴム(C)は可塑剤として作用するが、このゴム組成物から得られる架橋物では、変性液状ジエン系ゴム(C)を用いることにより、架橋物内部から外部への移行性が低く、優れた低移行性能を示す架橋物を得ることができる。
変性液状ジエン系ゴムの原料となる上記未変性の液状ジエン系ゴム(C’)としては、共役ジエン(c1)を後述の方法で重合して得られる重合体が好ましい。
共役ジエン(c1)としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−ブタジエン、2−フェニル−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3,7−オクタトリエン、ミルセン、及びクロロプレンなどが挙げられる。これら共役ジエンの中でも、ブタジエン、及びイソプレンが好ましい。これら共役ジエンは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
未変性の液状ジエン系ゴム(C’)は、上記共役ジエン(c1)に加え、芳香族ビニル化合物(c2)を共重合したものであってもよい。芳香族ビニル化合物(c2)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−4−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4−メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。これら芳香族ビニル化合物の中では、スチレン、α−メチルスチレン、及び4−メチルスチレンが好ましい。
上記未変性の液状ジエン系ゴム(C’)における、共役ジエン(c1)及び芳香族ビニル化合物(c2)に由来する単位の合計に対する芳香族ビニル化合物(c2)単位の割合は、組成物の加工性、ならびに架橋物の転がり抵抗性能及び低移行性能を向上させる観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。
上記未変性の液状ジエン系ゴム(C’)は、例えば、乳化重合法、又は溶液重合法等により製造できる。
上記乳化重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、所定量の共役ジエンを含む単量体を乳化剤の存在下に乳化分散し、ラジカル重合開始剤により乳化重合する。
乳化剤としては、例えば炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩及びロジン酸塩などが挙げられる。長鎖脂肪酸塩としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸のカリウム塩又はナトリウム塩などが挙げられる。
分散剤としては通常、水が使用され、重合時の安定性が阻害されない範囲で、メタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウムのような過硫酸塩、有機過酸化物、過酸化水素等が挙げられる。
得られる未変性の液状ジエン系ゴム(C’)の分子量を調整するため、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、チオグリコール酸、ジテルペン、ターピノーレン、γ−テルピネン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
乳化重合の温度は、使用するラジカル重合開始剤の種類などにより適宜設定できるが、通常0〜100℃の範囲、好ましくは0〜60℃の範囲である。重合様式は、連続重合、回分重合のいずれでもよい。
重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、イソプロピルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン等のアミン化合物、ヒドロキノンやベンゾキノン等のキノン系化合物、亜硝酸ナトリウム等が挙げられる。
重合反応停止後、必要に応じて老化防止剤を添加してもよい。重合反応停止後、得られたラテックスから必要に応じて未反応単量体を除去し、次いで、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩を凝固剤とし、必要に応じて硝酸、硫酸等の酸を添加して凝固系のpHを所定の値に調整しながら、上記液状ジエン系ゴム(C’)を凝固させた後、分散溶媒を分離することによって重合体(C)を回収する。次いで水洗、及び脱水後、乾燥することで、上記液状ジエン系ゴム(C’)が得られる。なお、凝固の際に、必要に応じて予めラテックスと乳化分散液にした伸展油とを混合し、油展した未変性の液状ジエン系ゴム(C’)として回収してもよい。
上記溶液重合法としては、公知又は公知に準ずる方法を適用できる。例えば、溶媒中で、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒、アニオン重合可能な活性金属又は活性金属化合物を使用して、必要に応じて極性化合物の存在下で、共役ジエンを含む単量体を重合する。
溶媒としては、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などが挙げられる。
アニオン重合可能な活性金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属等が挙げられる。
アニオン重合可能な活性金属の中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属が好ましく、アルカリ金属がより好ましい。
アニオン重合可能な活性金属化合物としては、有機アルカリ金属化合物が好ましい。
有機アルカリ金属化合物としては、例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウム等の有機モノリチウム化合物;ジリチオメタン、ジリチオナフタレン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼン等の多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン等が挙げられる。これら有機アルカリ金属化合物の中でも有機リチウム化合物が好ましく、有機モノリチウム化合物がより好ましい。
有機アルカリ金属化合物の使用量は、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)及び変性液状ジエン系ゴム(C)の溶融粘度、分子量などに応じて適宜設定できるが、共役ジエンを含む全単量体100質量部に対して、通常0.01〜3質量部の量で使用される。
上記有機アルカリ金属化合物は、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジベンジルアミンなどの第2級アミンと反応させて、有機アルカリ金属アミドとして使用することもできる。
極性化合物は、アニオン重合において、通常、反応を失活させず、共役ジエン部位のミクロ構造を調整するため用いられる。極性化合物としては、例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物;テトラメチルエチレンジアミン、トリメチルアミン等の3級アミン;アルカリ金属アルコキシド、ホスフィン化合物などが挙げられる。極性化合物は、有機アルカリ金属化合物に対して、通常0.01〜1000モルの量で使用される。
溶液重合の温度は、通常−80〜150℃の範囲、好ましくは0〜100℃の範囲、より好ましくは10〜90℃の範囲である。重合様式は回分式あるいは連続式のいずれでもよい。
重合反応は、重合停止剤の添加により停止できる。重合停止剤としては、例えば、メタノール、イソプロパノール等のアルコールが挙げられる。得られた重合反応液をメタノール等の貧溶媒に注いで、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することにより上記未変性の液状ジエン系ゴム(C’)を単離できる。
上記未変性の液状ジエン系ゴム(C’)の製造方法としては、上記方法の中でも、溶液重合法が好ましい。
このようにして得られた未変性の液状ジエン系ゴム(C’)は、そのまま後述する官能基による変性が行われてもよいが、その液状ジエン系ゴム中に含まれる不飽和結合の少なくとも一部を水素添加した後に変性が行われてもよい。
上記未変性の液状ジエン系ゴム(C’)は種々の官能基により変性され、変性液状ジエン系ゴム(C)として用いられる。官能基としては、例えばアミノ基、アミド基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、アルコキシシリル基、水酸基、エポキシ基、エーテル基、カルボキシル基、カルボニル基、メルカプト基、イソシアネート基、ニトリル基、及び酸無水物基等が挙げられる。
変性液状ジエン系ゴム(C)の製造方法としては、例えば、重合停止剤を添加する前に、重合活性末端と反応し得る四塩化錫、ジブチル錫クロリド、テトラクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,4−トリレンジイソシアネート等のカップリング剤である変性化合物や、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、N−ビニルピロリドン、N−メチルピロリドン、4−ジメチルアミノベンジリデンアニリン、ジメチルイミダゾリジノン等の重合末端変性化合物、又は特開2011−132298号公報に記載のその他の変性化合物を添加し、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に付加する方法が挙げられる。
また、経済性等の観点から、単離後の未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸誘導体を変性化合物として付加するグラフト反応により製造された変性液状ジエン系ゴム(C)が本発明では好ましく用いられる。
上記不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
また、上記不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、イタコン酸エステル、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの不飽和カルボン酸エステル、マレイン酸アミド、フマル酸アミド、イタコン酸アミドなどの不飽和カルボン酸アミド、マレイン酸イミド、イタコン酸イミドなどの不飽和カルボン酸イミドなどが挙げられる。
これらの中でも、経済性、並びに本発明のゴム組成物及び架橋物としての特性を十分に発揮させる観点から、無水マレイン酸を変性化合物として、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に付加した無水マレイン酸変性液状ジエン系ゴムが好ましく、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン及び無水マレイン酸変性液状ポリイソプレンがより好ましく、無水マレイン酸変性液状ポリイソプレンが更に好ましい。
変性化合物を、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に付加させる方法は特に限定されず、例えば、液状ジエン系ゴム中に不飽和カルボン酸又はその誘導体、更に必要に応じてラジカル触媒を加えて、有機溶媒の存在下又は非存在下に加熱する方法を採用することができる。
上記方法で使用される有機溶媒としては、一般的には炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒が挙げられる。これら有機溶媒の中でも、n−ブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒が好ましい。
また、上記方法で使用されるラジカル触媒としては、ジ−s−ブチルペルオキシジカーボネート、t−アミルペルオキシピバレート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。これらラジカル触媒の中でも、アゾイソブチロニトリルが好ましい。
また、上記のように、無水不飽和カルボン酸を未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に付加して無水不飽和カルボン酸変性液状ジエン系ゴムを得た後に、更にその無水不飽和カルボン酸変性液状ジエン系ゴムと、アルコール、アンモニア、あるいはアミンなどを反応させて、不飽和カルボン酸エステル変性液状ジエン系ゴム、不飽和カルボン酸アミド変性液状ジエン系ゴム、あるいは不飽和カルボン酸イミド変性液状ジエン系ゴムを製造して、これを変性液状ジエン系ゴム(C)として用いてもよい。
変性液状ジエン系ゴム(C)の変性化合物の付加反応率は40〜100mol%であり、60〜100mol%であることが好ましく、80〜100mol%であることがより好ましく、90〜100mol%であることが更に好ましい。付加反応率が上記範囲にあると、得られる変性液状ジエン系ゴム(C)に、変性化合物又は変性化合物に由来する低分子化合物が残存することが少なくなるため、これら化合物に由来する悪影響、例えば無水マレイン酸などの酸性成分に由来する金型汚染などの悪影響をより抑制することができる。変性化合物の付加反応率は、例えば、不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸誘導体を変性化合物として用いた場合、変性反応後の試料において洗浄前後の酸価を比較すること等により、未反応の変性化合物の量を算出し、求めることができる。
特定の付加反応率にある変性液状ジエン系ゴム(C)を製造する手法としては、変性化合物を付加する反応を適切な反応温度において、充分な反応時間で反応させることが有効である。例えば、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に無水マレイン酸を付加させる反応における温度は100〜200℃が好ましく、120℃〜180℃がより好ましい。また反応時間は3〜200時間が好ましく、4〜100時間がより好ましく、5〜50時間が更に好ましい。
変性液状ジエン系ゴム(C)中に付加された変性化合物量に、厳密な意味での制限はないが、得られるゴム組成物及び架橋物における特性を十分に発揮させる観点から、未変性重合体100質量部に対して0.05〜40質量部の範囲が好ましく、0.1〜30質量部の範囲がより好ましく、0.1〜20質量部の範囲が更に好ましい。付加された変性化合物量が40質量部より多い場合には得られる架橋物の伸び、引張り強度が低下する傾向があり、0.05質量部より低い場合には得られる架橋物の耐摩耗性、転がり抵抗性能、硬度が低下する傾向がある。
なお、変性液状ジエン系ゴム(C)中に付加された変性化合物量は、変性化合物の付加反応率を基に算出することもできるし、赤外分光法、核磁気共鳴分光法等の各種分析機器を用いて求めることもできる。
この変性液状ジエン系ゴム(C)において、官能基が導入される位置については重合末端であってもよく、重合体鎖の側鎖であってもよい。また上記官能基は1種単独で含まれていてもよく2種以上含まれていてもよい。したがって、変性液状ジエン系ゴム(C)は、変性化合物1種により変性されたものであってもよく、また2種以上の変性化合物で変性されていてもよい。
上記変性液状ジエン系ゴム(C)の38℃で測定した溶融粘度は、0.1〜3,000Pa・sの範囲にあるが、好ましくは0.8〜2,000Pa・sの範囲、より好ましくは10〜1,000Pa・sの範囲にある。変性液状ジエン系ゴム(C)の溶融粘度が前記範囲内であると、得られるゴム組成物の混練が容易になると共に加工性が向上する。更に、ゴム組成物から得られる架橋物の低移行性能、及び転がり抵抗性能などが向上し、更に硬度を高くすることもできる。なお、本発明において液状ジエン系ゴム(C)の溶融粘度は、後述する実施例に記載した方法で求めた値である。
変性液状ジエン系ゴム(C)の最大ピーク分子量(Mt)は3,000〜120,000であり、9,000〜90,000が好ましく、15,000〜80,000がより好ましく、30,000〜70,000が更に好ましい。上記変性液状ジエン系ゴム(C)のMtが前記範囲内であると、本発明のゴム組成物の加工性が良好となり、また得られるゴム組成物中のフィラー(B)の分散性が向上するため、例えば、その架橋物からなるタイヤの転がり抵抗性能が良好となる。また、ゴム組成物から得られる架橋物では低移行性能が向上する。なお、本発明において液状ジエン系ゴム(C)のMtは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定から求めたポリスチレン換算の最大ピーク分子量である。
上記変性液状ジエン系ゴム(C)では、そのGPC測定により得られるGPCクロマトグラムの重合体由来の全面積を100%として、分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体の割合が0〜20%の範囲にあることに特徴がある。このような変性液状ジエン系ゴム(C)をゴム組成物に配合することにより、機械強度、耐摩耗性等に優れ、転がり抵抗性能が向上した架橋物を製造でき、またその架橋物を高硬度にすることも可能となる。その理由の詳細は明らかではないが、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)を変性する際に、上記分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体、典型的にはカップリング体等の副生成物に由来する高分子体が上記の割合を超えて存在すると、立体障害が大きくなるため、重合体中に付加された官能基の効果が小さくなるためではないかと推定される。
機械強度、転がり抵抗性能及び硬度の観点からは、分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体の割合は0〜15%の範囲であることが好ましく、0〜10%の範囲であることがより好ましい。なお、本発明において、分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体の割合は、後述する実施例に記載した条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定した際に得られるGPCクロマトグラムの重合体由来の全面積(GPCクロマトグラムとベースラインで囲まれる面積)を100%とした際の、当該領域にある重合体の面積比として求めた値である。
このような特定の分子量分布を有する変性液状ジエン系ゴム(C)を製造する手法としては、例えば、後述の変性化合物を付加する反応時における老化防止剤の添加を行いつつ、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)を精製し、変性化合物を付加する反応を阻害する成分を十分に除去することが挙げられる。精製する方法としては、水若しくは温水、又はメタノール、アセトンなどに代表される有機溶媒若しくは超臨界流体二酸化炭素による洗浄が好ましい。
また、特定の分子量分布にある変性液状ジエン系ゴム(C)を製造する手法としては、例えば、上記精製を行った後、変性化合物を付加する反応時における老化防止剤の添加が有効である。この時に用いる好ましい老化防止剤としては、例えば、2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(AO−40)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(AO−80)、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−6−メチルフェノール(Irganox 1520L)、2,4−ビス[(ドデシルチオ)メチル]−6−メチルフェノール(Irganox 1726)、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジt−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジt−ペンチルフェニルアクリレート(Sumilizer GS)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(Sumilizer GM)、6−t−ブチル−4−[3−(2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イルオキシ)プロピル]−2−メチルフェノール(Sumilizer GP)、亜りん酸トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)(Irgafos 168)、ジオクタデシル3,3’−ジチオビスプロピオネート、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(ノクラック6C)、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート(LA−77Y)、N,N−ジオクタデシルヒドロキシルアミン(Irgastab FS 042)、ビス(4−t−オクチルフェニル)アミン(Irganox 5057)などが挙げられる。上記老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
老化防止剤の添加量は、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)又は変性液状ジエン系ゴム(C)100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
更に、特定の分子量分布にある変性液状ジエン系ゴム(C)を製造する手法としては、変性化合物を付加する反応中の適切な温度管理も有効である。例えば、未変性の液状ジエン系ゴム(C’)に無水マレイン酸を付加させる反応における温度は100〜200℃が好ましく、120℃〜180℃がより好ましい。
これらの特定の分子量分布にある変性液状ジエン系ゴム(C)を製造する手法は、2つ以上を組み合わせて行ってもよく、3つとも行ってもよい。
変性液状ジエン系ゴム(C)の重量平均分子量(Mw)は2,000〜100,000が好ましく、8,000〜90,000がより好ましく、15,000〜80,000が更に好ましく、30,000〜70,000がより更に好ましい。上記変性液状ジエン系ゴム(C)のMwが前記範囲内であると、本発明のゴム組成物の加工性が良好となり、また得られるゴム組成物中のフィラー(B)の分散性が向上するため、例えば、その架橋物からなるタイヤの転がり抵抗性能が良好となる。また、ゴム組成物から得られる架橋物では低移行性能が向上する。本発明においては、Mwが異なる2種以上の変性液状ジエン系ゴム(C)を組み合わせて用いてもよい。
変性液状ジエン系ゴム(C)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.0〜8.0が好ましく、1.0〜5.0がより好ましく、1.0〜3.0が更に好ましい。Mw/Mnが前記範囲内であると、得られる重合体(B)の粘度のばらつきが小さく、より好ましい。
変性液状ジエン系ゴム(C)のガラス転移温度(Tg)は、共役ジエン(c1)に由来する単位のビニル含量、共役ジエン(c1)の種類、共役ジエン以外の単量体に由来する単位の含量などによって変化し得るが、−100〜10℃が好ましく、−100〜0℃がより好ましく、−100〜−5℃が更に好ましい。Tgが上記範囲であると、例えば、ゴム組成物から得られる架橋物からなるタイヤの転がり抵抗性能が良好となる。また粘度が高くなるのを抑えることができ取り扱いが容易になる。変性液状ジエン系ゴム(C)のビニル含量は99質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。また、上記変性液状ジエン系ゴム(C)は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のゴム組成物において、固形ゴム(A)100質量部に対する変性液状ジエン系ゴム(C)の含有量は、0.1〜30質量部であり、0.5〜30質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましく、2〜15質量部が更に好ましい。変性液状ジエン系ゴム(C)の含有量が上記範囲内であると、ゴム組成物の加工性、ゴム組成物の架橋物の機械強度、耐摩耗性、低移行性能、及び該組成物を用いたタイヤ等の転がり抵抗性能が良好となる。
[その他の成分]
本発明のゴム組成物は、そのゴムを架橋するために、更に架橋剤(D)を含有してもよい。架橋剤(D)としては、例えば、硫黄、硫黄化合物、酸素、有機過酸化物、フェノール樹脂、アミノ樹脂、キノン及びキノンジオキシム誘導体、ハロゲン化合物、アルデヒド化合物、アルコール化合物、エポキシ化合物、金属ハロゲン化物及び有機金属ハロゲン化物、及びシラン化合物などが挙げられる。硫黄化合物としては、例えば、モルホリンジスルフィド、及びアルキルフェノールジスルフィドなどが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジtert−ブチルパーオキサイド、及び1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。これら架橋剤(D)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記架橋剤(D)は、架橋物の力学物性の観点から、固形ゴム(A)100質量部に対し、通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは0.8〜5質量部含有される。
本発明のゴム組成物は、例えばゴムを架橋(加硫)するための架橋剤(D)として硫黄、硫黄化合物等が含まれている場合には、更に加硫促進剤(E)を含有してもよい。加硫促進剤(E)としては、例えば、グアニジン系化合物、スルフェンアミド系化合物、チアゾール系化合物、チウラム系化合物、チオウレア系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、アルデヒド−アミン系化合物、アルデヒド−アンモニア系化合物、イミダゾリン系化合物、及びキサンテート系化合物などが挙げられる。これら加硫促進剤(E)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記加硫促進剤(E)は、固形ゴム(A)100質量部に対し、通常0.1〜15質量部、好ましくは0.1〜10質量部含有される。
本発明のゴム組成物は、例えばゴムを架橋(加硫)するための架橋剤(D)として硫黄、硫黄化合物等が含まれている場合には、更に加硫助剤(F)を含有してもよい。加硫助剤(F)としては、例えば、ステアリン酸等の脂肪酸、亜鉛華等の金属酸化物、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩が挙げられる。これら加硫助剤(F)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記加硫助剤(F)は、固形ゴム(A)100質量部に対し、通常0.1〜15質量部、好ましくは1〜10質量部含有される。
本発明のゴム組成物では、フィラー(B)としてシリカを含有する場合は、シランカップリング剤を含有することが好ましい一態様である。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系化合物、メルカプト系化合物、ビニル系化合物、アミノ系化合物、グリシドキシ系化合物、ニトロ系化合物、クロロ系化合物等が挙げられる。
スルフィド系化合物としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどが挙げられる。
メルカプト系化合物としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、及び2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
ビニル系化合物としては、例えばビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
アミノ系化合物としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、及び3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
グリシドキシ系化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
ニトロ系化合物としては、例えば、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、及び3−ニトロプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
クロロ系化合物としては、例えば、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、及び2−クロロエチルトリエトキシシランなどが挙げられる。
これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらシランカップリング剤の中でも、添加効果が大きい観点及びコストの観点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、及び3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが好ましい。
上記シランカップリング剤は、シリカ100質量部に対して好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは0.5〜20質量部、更に好ましくは1〜15質量部含有される。シランカップリング剤の含有量が前記範囲内であると、分散性、カップリング効果、補強性、耐摩耗性が向上する。
本発明のゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、機械強度、耐熱性、又は耐候性等の物性の改善、硬度の調製、ゴムの増量などを目的とし、更に上記フィラー(B)以外のフィラー(B’)が含まれていてもよい。フィラー(B’)としては、例えば、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラス繊維、繊維状フィラー、ガラスバルーン等の無機フィラー、樹脂粒子、木粉、及びコルク粉等の有機フィラーなどが挙げられる。本発明のゴム組成物が上記フィラー(B’)を含有する場合、その含有量は、固形ゴム(A)100質量部に対して、0.1〜120質量部が好ましく、5〜90質量部がより好ましく、10〜80質量部が更に好ましい。
本発明のゴム組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、加工性、流動性等の改良を目的とし、必要に応じてシリコンオイル、アロマオイル、TDAE(Treated Distilled Aromatic Extracts)、MES(Mild Extracted Solvates)、RAE(Residual AromaticExtracts)、パラフィンオイル、ナフテンオイル等のプロセスオイル、脂肪族炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂、C9系樹脂、ロジン系樹脂、クマロン・インデン系樹脂、フェノール系樹脂等の樹脂成分を軟化剤として含有していてもよい。本発明のゴム組成物が上記プロセスオイルを軟化剤として含有する場合には、その含有量は、固形ゴム(A)100質量部に対して50質量部より少ないことが好ましい。
本発明のゴム組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、耐候性、耐熱性、耐酸化性等の向上を目的として、必要に応じて老化防止剤、ワックス、酸化防止剤、滑剤、光安定剤、スコーチ防止剤、加工助剤、顔料や色素等の着色剤、難燃剤、帯電防止剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、発泡剤、抗菌剤、防カビ剤、香料等の添加剤を含有してもよい。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、ラクトン系化合物、ヒドロキシル系化合物等が挙げられる。老化防止剤としては、例えば、アミン−ケトン系化合物、イミダゾール系化合物、アミン系化合物、フェノール系化合物、硫黄系化合物及びリン系化合物等が挙げられる。これら添加剤は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
[ゴム組成物の製造方法]
本発明のゴム組成物の製造方法は、上記各成分を均一に混合できれば特に限定されない。ゴム組成物の製造に用いる装置としては、例えば、ニーダールーダー、ブラベンダー、バンバリーミキサー、インターナルミキサー等の接線式又は噛合式の密閉式混練機、単軸押出機、二軸押出機、ミキシングロール、及びローラーなどが挙げられる。上記ゴム組成物を製造は、通常70〜270℃の温度範囲で行うことができる。
[架橋物]
本発明のゴム組成物を架橋することにより、架橋物を得ることができる。ゴム組成物の架橋条件は、その用途等に応じて適宜設定できる。例えば、硫黄又は硫黄化合物を架橋剤とし、ゴム組成物を金型により架橋(加硫)する場合には、架橋温度は通常120〜200℃、加圧条件は通常0.5〜2.0MPaとし、架橋(加硫)することができる。
架橋物中からの、変性液状ジエン系ゴム(C)の抽出率は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
なお、上記抽出率は、架橋物2gをトルエン400ml中に浸漬し、23℃で48時間後にトルエン中に抽出された変性液状ジエン系ゴム(C)の量から算出することができる。
本発明のゴム組成物及び本発明のゴム組成物により得られる架橋物は、タイヤの少なくとも一部として用いることもできる。このようにして得られるタイヤは、硬度、機械強度が良好であり、また優れた転がり抵抗性能を備える。更に、本発明のゴム組成物を少なくとも一部に用いたタイヤは、前記変性液状ジエン系ゴム(C)等の移行性が低いため、長期間使用した場合でも前記機械強度等の特性を維持することができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本実施例及び比較例において使用した各成分は以下のとおりである。
<固形ゴム(A)>
油展スチレンブタジエンゴム:JSR1723(JSR株式会社製)
(ゴム成分:100質量部、オイル成分:37.5質量部)
スチレンブタジエンゴム :JSR1500(JSR株式会社製)
<フィラー(B)>
シリカ:ULTRASIL7000GR(エボニック デグサ ジャパン製)
<変性液状ジエン系ゴム(C)>
後述の製造例1〜5で得られた変性液状ポリイソプレン
<架橋剤(D)>
硫黄(微粉硫黄200メッシュ、鶴見化学工業株式会社製)
<加硫促進剤(E)>
加硫促進剤(1):ノクセラーCZ−G (大内新興化学工業株式会社製)
加硫促進剤(2):ノクセラーD (大内新興化学工業株式会社製)
加硫促進剤(3):ノクセラーTBT−N(大内新興化学工業株式会社製)
<加硫助剤(F)>
ステアリン酸 :ルナックS−20(花王株式会社製)
亜鉛華 :酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製)
<任意成分>
TDAE :VivaTec500(H&R社製)
シランカップリング剤:Si−75(エボニック デグサ ジャパン製)
ノクラック6C(大内新興化学工業株式会社製)
ワックス :サンタイトS(精工化学株式会社製)
製造例1:変性液状ポリイソプレン(C−1)の製造
十分に乾燥した耐圧容器を窒素置換し、この耐圧容器に、ヘキサン600g、及びn−ブチルリチウム(17質量%ヘキサン溶液)44.9gを仕込み、70℃に昇温した後、撹拌条件下、重合温度を70℃となるように制御しながら、イソプレン2050gを加えて1時間重合した。その後、メタノールを添加して重合反応を停止させ、重合溶液(2695g)を得た。得られた重合反応液に水を添加して撹拌し、水で重合反応液を洗浄した。撹拌を終了し、重合溶液相と水相とが分離していることを確認した後、水を分離した。洗浄終了後の重合反応液を70℃で12時間乾燥することにより、未変性液状ポリイソプレン(C’−1)を得た。
続いて、窒素置換を行った容量1リットルのオートクレーブ中に、得られた未変性液状ポリイソプレン(C’−1)300gを仕込み、無水マレイン酸4.5gと2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)3.0gを添加し、160℃で20時間反応させて、無水マレイン酸変性液状ポリイソプレン(C−1)を得た。
なお、変性化合物の付加反応率は99mol%、変性液状ポリイソプレン(C−1)中に付加された変性化合物量は未変性液状ポリイソプレン(C’−1)100質量部に対し1.5質量部であった。得られた変性液状ポリイソプレン(C−1)の物性を表1に示す。
製造例2:変性液状ポリイソプレン(C−2)の製造
窒素置換を行った容量1リットルのオートクレーブ中に、製造例1と同様の手順で得られた未変性液状ポリイソプレン(C’−1)300gを仕込み、無水マレイン酸4.5gとBHT1.0gを添加し、160℃で20時間反応させて、無水マレイン酸変性液状ポリイソプレン(C−2)を得た。
なお、変性化合物の付加反応率は99mol%、変性液状ポリイソプレン(C−2)中に付加された変性化合物量は未変性液状ポリイソプレン(C’−1)100質量部に対し1.5質量部であった。得られた変性液状ポリイソプレン(C−2)の物性を表1に示す。
製造例3:変性液状ポリイソプレン(C−3)の製造
窒素置換を行った容量1リットルのオートクレーブ中に、製造例1と同様の手順で得られた未変性液状ポリイソプレン(C’−1)300gを仕込み、無水マレイン酸4.5gを添加し、160℃で20時間反応させて、無水マレイン酸変性液状ポリイソプレン(C−3)を得た。
なお、変性化合物の付加反応率は99mol%、変性液状ポリイソプレン(C−3)中に付加された変性化合物量は未変性液状ポリイソプレン(C’−1)100質量部に対し1.5質量部であった。得られた変性液状ポリイソプレン(C−3)の物性を表1に示す。
製造例4:変性液状ポリイソプレン(C−4)の製造
窒素置換を行った容量1リットルのオートクレーブ中に、製造例1と同様の手順で得られた未変性液状ポリイソプレン(C’−1)300gを仕込み、無水マレイン酸4.5gとBHT1.0gを添加し、160℃で150分間反応させて、無水マレイン酸変性液状ポリイソプレン(C−4)を得た。
なお、変性化合物の付加反応率は35mol%、変性液状ポリイソプレン(C−4)中に付加された変性化合物量は未変性液状ポリイソプレン(C’−1)100質量部に対し0.53質量部であった。得られた変性液状ポリイソプレン(C−4)の物性を表1に示す。
製造例5:変性液状ポリイソプレン(C−5)の製造
窒素置換を行った容量1リットルのオートクレーブ中に、製造例1と同様の手順で得られた未変性液状ポリイソプレン(C’−1)300gを仕込み、無水マレイン酸4.5gとBHT1.0gを添加し、160℃で30分間反応させて、無水マレイン酸変性液状ポリイソプレン(C−5)を得た。
なお、変性化合物の付加反応率は10mol%、変性液状ポリイソプレン(C−5)中に付加された変性化合物量は未変性液状ポリイソプレン(C’−1)100質量部に対し0.15質量部であった。得られた変性液状ポリイソプレン(C−5)の物性を表1に示す。
なお、変性液状ジエン系ゴム(C)等の各物性の測定方法及び算出方法は以下の通りである。
(重量平均分子量、最大ピーク分子量及び分子量分布の測定方法)
液状ジエン系ゴム(C)のMw、Mt及びMw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算分子量で求めた。測定装置及び条件は、以下の通りである。
・装置 :東ソー株式会社製GPC装置「GPC8020」
・分離カラム :東ソー株式会社製「TSKgelG4000HXL」
・検出器 :東ソー株式会社製「RI−8020」
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :1.0ml/分
・サンプル濃度:5mg/10ml
・カラム温度 :40℃
なお、分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体の割合は、上記条件によるGPC測定で得られたGPCクロマトグラムから、Mt×1.45以上の領域にある重合体の面積を求めて、重合体由来の全面積(GPCクロマトグラムとベースラインで囲まれる面積)を100%とした際の面積比として求めた。
(溶融粘度の測定方法)
変性液状ジエン系ゴム(C)の38℃における溶融粘度をブルックフィールド型粘度計(BROOKFIELD ENGINEERING LABS. INC.製)により測定した。
(ガラス転移温度の測定方法)
変性液状ジエン系ゴム(C)10mgをアルミパンに採取し、示差走査熱量測定(DSC)により10℃/分の昇温速度条件においてサーモグラムを測定し、DDSCのピークトップの値をガラス転移温度とした。
(付加反応率)
変性反応後の試料3gにトルエン180mL、エタノール20mLを加え溶解した後、0.1N水酸化カリウムのエタノール溶液で中和滴定し酸価を求めた。
酸価(mgKOH/g)=(A−B)×F×5.611/S
A:中和に要した0.1N水酸化カリウムのエタノール溶液滴下量(mL)
B:試料を含まないブランクでの0.1N水酸化カリウムのエタノール溶液滴下量(mL)
F:0.1N水酸化カリウムのエタノール溶液の力価
S:秤量した試料の質量(g)
また、変性反応後の試料をメタノールで4回洗浄(試料1gに対して5mL)して未反応の無水マレイン酸を除去した後、試料を80℃で12時間、減圧乾燥し、上記と同様の方法にて酸価を求めた。下記式に基づき変性化合物の付加反応率を算出した。
〔変性化合物の付加反応率〕=〔洗浄後の酸価〕/〔洗浄前の酸価〕×100
(付加された変性化合物量)
上記で求めた付加反応率から、下記式に従い、未変性の液状ジエン系ゴムに対して付加された変性化合物の量を算出した。
〔未変性の液状ジエン系ゴム(C’)100質量部に対し付加された変性化合物量〕=〔添加した無水マレイン酸の質量(g)〕×〔変性化合物の付加反応率(mol%)〕/〔未変性の液状ジエン系ゴム(C’)の質量(g)〕
Figure 0006218559
(実施例1〜2及び比較例1〜4)
表2に記載した配合割合(質量部)にしたがって、固形ゴム(A)、フィラー(B)、変性液状ジエン系ゴム(C)、TDAE、シランカップリング剤、加硫助剤(F)、ワックス及び老化防止剤を、それぞれ密閉式バンバリーミキサーに投入して開始温度75℃、樹脂温度が160℃となるように6分間混練した後、ミキサー外に取り出して室温まで冷却した。次いで、この混合物をミキシングロールに入れ、架橋剤(D)及び加硫促進剤(E)を加えて60℃で6分間混練することでゴム組成物を得た。得られたゴム組成物の金型汚染性を下記の方法により測定した。
また、得られたゴム組成物をプレス成形(160℃、35〜40分)して架橋物(加硫ゴム)シート(厚み2mm)を作製し、下記の方法に基づき、転がり抵抗性能、硬度、引張破断強度及び耐摩耗性を評価した。結果を表2に示す。
なお、各評価の測定方法は以下のとおりである。
(1)金型汚染性
実施例及び比較例で作成した未加硫のゴム組成物をプレス成形(160℃、35〜40分)して加硫ゴムシート(厚み2mm)を作製し、その加硫ゴムシートを取り出した後、更に同一の金型を用いて同様に未加硫のゴム組成物をプレス成形した。これを10回繰り返した後、金型表面を目視観察して金型汚染性を評価した。金型表面に変化が見られなかったものを○、金型表面に一部曇りが見られたものを△、金型表面に汚れが付着していたものを×とした。
(2)転がり抵抗性能
実施例及び比較例で作製した架橋物シートから縦40mm×横7mmの試験片を切り出し、GABO社製動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度60℃、周波数10Hz、静的歪み10%、動的歪み2%の条件でtanδを測定し、転がり抵抗の指標とした。各実施例及び比較例の数値は、比較例4の値を100とした際の相対値である。なお、数値が小さいほどゴム組成物の転がり抵抗性能が良好である。
(3)硬度
実施例及び比較例で作製した架橋物シートを用いて、JIS K6253に準拠して、タイプA硬度計により硬度を測定し、柔軟性の指標とした。各実施例及び比較例の数値は、比較例4の値を100とした際の相対値である。なお、数値が大きいほど、当該組成物をタイヤに用いた際のタイヤの変形が小さく、操縦安定性が向上する。
(4)引張破断強度
実施例及び比較例で作製した架橋物シートからJIS3に準じてダンベル状試験片を打ち抜き、インストロン社製引張試験機を用いて、JIS K 6251に準じて引張破断強度を測定した。各実施例及び比較例の数値は、比較例4の値を100とした際の相対値である。なお、数値が大きいほど、破断特性が良好である。
(5)耐摩耗性
JIS K 6264に準拠して、10N荷重下、摩耗距離40mでのDIN摩耗量を測定した。表2における各実施例及び比較例の数値は、DIN摩耗量の逆数において比較例4の値を100とした際の相対値である。なお、数値が大きいほど摩耗量が少なく耐摩耗性が良好である。
Figure 0006218559
表2より、本発明の構成要件を満たす実施例1及び2のゴム組成物は、特定の変性液状ジエン系ゴム(C)を含有しない比較例4のゴム組成物に比べ、高硬度で、機械強度、耐摩耗性及び転がり抵抗性能のいずれにも優れる架橋物が得られることが分かる。また、本発明の構成要件を満たす実施例1及び2のゴム組成物は、分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体の割合が本発明の範囲外である変性液状ジエン系ゴム(C)を用いた比較例1、付加反応率が本発明の範囲外である変性液状ジエン系ゴム(C)を用いた比較例2及び3のゴム組成物に比べ、金型汚染が少なく、高硬度で、優れた機械強度、耐摩耗性及び転がり抵抗性能を兼ね備えた架橋物が得られることが分かる。
(実施例3〜4及び比較例5〜7)
表3に記載した配合割合(質量部)にしたがって各成分を用いた以外は、実施例1と同様にしてゴム組成物を得た。得られたゴム組成物の金型汚染性を下記の方法により測定した。
また、得られたゴム組成物をプレス成形(145℃、25〜30分)して架橋物(加硫ゴム)シート(厚み2mm)を作製し、下記の方法に基づき、転がり抵抗性能及び硬度を評価した。結果を表3に示す。
なお、各評価の測定方法は以下のとおりである。
(1)金型汚染性
実施例及び比較例で作成した未加硫のゴム組成物をプレス成形(145℃、25〜30分)して加硫ゴムシート(厚み2mm)を作製し、その加硫ゴムシートを取り出した後、更に同一の金型を用いて同様に未加硫のゴム組成物をプレス成形した。これを10回繰り返した後、金型表面を目視観察して金型汚染性を評価した。金型表面に変化が見られなかったものを○、金型表面に一部曇りが見られたものを△、金型表面に汚れが付着していたものを×とした。
(2)転がり抵抗性能
実施例及び比較例で作製した架橋物シートから縦40mm×横7mmの試験片を切り出し、GABO社製動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度60℃、周波数10Hz、静的歪み10%、動的歪み2%の条件で、tanδを測定し、転がり抵抗の指標とした。各実施例及び比較例の数値は、比較例7の値を100とした際の相対値である。なお、数値が小さいほどゴム組成物の転がり抵抗性能が良好である。
(3)硬度
実施例及び比較例で作製した架橋物シートを用いて、JIS K6253に準拠して、タイプA硬度計により硬度を測定し、柔軟性の指標とした。各実施例及び比較例の数値は、比較例7の値を100とした際の相対値である。なお、数値が大きいほど、当該組成物をタイヤに用いた際のタイヤの変形が小さく、操縦安定性が向上する。
Figure 0006218559
表3より、本発明の構成要件を満たす実施例3及び4のゴム組成物は、付加反応率が本発明の範囲外である変性液状ジエン系ゴム(C)を用いた比較例5及び6、特定の変性液状ジエン系ゴム(C)を含有しない比較例7のゴム組成物に比べ、金型汚染が少なく、高硬度で、優れた転がり抵抗性能を兼ね備えた架橋物が得られることが分かる。また、変性液状ジエン系ゴム(C)の配合量を変化させてもこれらの効果を奏するゴム組成物及び架橋物が得られることが分かる。
本発明のゴム組成物は加工等する際に金型汚染が少ないだけでなく、架橋剤を加えるなどして架橋性のゴム組成物とした場合、機械強度、耐摩耗性等に優れ、高硬度の架橋物を与えることから、タイヤ用途、工業用ベルト、工業用ゴムホース等の工業用部材用途などに好適に用いることができる。特に、タイヤ用途等に架橋物を用いた場合には、転がり抵抗性能が向上するため有用である。

Claims (3)

  1. 固形ゴム(A)100質量部に対して、カーボンブラック及びシリカから選ばれる少なくとも1種のフィラー(B)20〜150質量部、及び変性液状ジエン系ゴム(C)0.1〜30質量部を含有するゴム組成物であり、前記変性液状ジエン系ゴム(C)が、下記(I)〜(III)の要件を満たすゴム組成物。
    (I)変性液状ジエン系ゴム(C)の38℃で測定した溶融粘度が0.1〜3,000Pa・sの範囲にある。
    (II)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した際、最大ピーク分子量(Mt)が3,000〜120,000の範囲であり、得られるGPCクロマトグラムの重合体由来の全面積を100%として、分子量がMt×1.45以上の領域にある重合体の割合が0〜20%である。
    (III)変性液状ジエン系ゴム(C)が、変性化合物を液状ジエン系ゴム(C’)に付加して得られたものであり、変性化合物の付加反応率が40〜100mol%である。
  2. 液状ジエン系ゴム(C’)に付加する変性化合物が無水マレイン酸である、請求項1に記載のゴム組成物。
  3. 請求項1又は2に記載のゴム組成物を少なくとも一部に用いたタイヤ。
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