以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態のチューナブルフィルタは、第1の共振器と、第2の共振器と、電磁界摂動素子とを具備する。第2の共振器は、第1の共振器に電磁界結合される。電磁界摂動素子は、第2の共振器に電磁界結合され、第2の共振器に電磁的摂動を与え、第2の共振器の共振周波数を直接的に変化させる。第2の共振器の共振周波数の変化は、第1の共振器と前記第2の共振器との間の電磁界結合を介して、第1の共振器の共振周波数を変化させる。つまり電磁界摂動素子は、第2の共振器および第1の共振器と第2の共振器の間の電磁界結合を介して、第1の共振器の共振周波数を間接的に変化させる。また、第2の共振器の共振周波数は、フィルタの通過周波数帯域外にある。上記構成によって、電磁界摂動素子のQ値が低い場合でも、第1の共振器のQ値低下を抑制することができ、低い挿入損失や急峻なスカート特性を有するチューナブルフィルタを実現することができる。
また、本実施形態のチューナブルフィルタは、第1の共振器、第2の共振器及び電磁界摂動素子の組み合わせを複数有する。本実施形態において、チューナブルフィルタは、組み合わせを2組有し、それらは互いに電磁界結合されている。なお、実施形態においてチューナブルフィルタは、組み合わせを2組以上有していても良いし、組み合わせのうち任意の2組が電磁界結合されていても良い。上記構成のチューナブルフィルタにおいて、組み合わせの数はフィルタの段数と対応するために、組み合わせの段数が多いほど、フィルタのスカート特性を急峻にすることができる。
さらに本実施形態のチューナブルフィルタにおいて、電磁界摂動素子は可変容量素子である。可変容量素子としては例えばバラクタやバリキャップと呼ばれる、端子に加える印加電圧によって静電容量が変化するダイオードを用いることができる。なお、本実施形態では、ダイオード型のバリキャップを一例として示したが、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によって機械的に電極位置を変化させるタイプのバリキャップ等、外部からの制御によって静電容量を変化させることができるデバイスで代用することもできる。上記構成によって、電気的制御等の外部からの制御信号によって、フィルタの通過周波数帯域を高速に変化させることができるチューナブルフィルタを構成できる。
図1は、本実施形態に係るチューナブルフィルタを示す回路図である。図1において白抜き三角形は地導体への接地を示す。図1のチューナブルフィルタ回路は、2段のチェビシェフフィルタ特性を有する。このチューナブルフィルタは、結合部103aにより電磁界結合される2つの半波長共振器101a、102aと、半波長共振器102aに電磁界結合され、半波長共振器102aに電磁的摂動を与える電磁界摂動素子104aとを備える。電磁界摂動素子104aはバラクタやバリキャップなどと呼ばれる静電容量を可変できるダイオードである。半波長共振器102aと電磁界摂動素子104aの間の電磁界結合は両者の直接接続による結合である。また、このチューナブルフィルタは、結合部103bにより電磁界結合される2つの半波長共振器101b、102bと、半波長共振器102bに電磁界結合され、半波長共振器102bに電磁的摂動を与える電磁界摂動素子104bとを備える。電磁界摂動素子104bは104aと同様に可変容量ダイオードであり、半波長共振器102bと電磁界摂動素子104bとの電磁界結合は、半波長共振器102aと電磁界摂動素子104aと同様に、直接接続による結合である。上記の結合した2つの半波長共振器及び電磁界摂動素子の組み合わせが、通常のチェビシェフフィルタの1段分に相当する。また、それぞれチェビシェフフィルタ1段分に相当する2つの組み合わせが、チェビシェフフィルタを構成するために必要な所定の結合係数を実現する結合部105を介して電磁結合される。さらに、それぞれの組み合わせが、チェビシェフフィルタを構成するために必要な所定の外部回路と結合量(いわゆる外部Q)を実現する結合部106a及び106bを介して入力ポート107a及び出力ポート107bに接続される。上記構成により図1のチューナブルフィルタは2段のチェビシェフフィルタ特性を実現する。
ここで、本実施形態の電磁界摂動素子104a、104bの制御と、チューナブルフィルタの動作の関係を説明する。制御は可変容量素子である104a、104bへの印加電圧の変化によって、可変容量素子の静電容量を変化させることにより行う。可変容量素子104a、104bの静電容量の変化は、それぞれこれらの素子と接続された半波長共振器102a、102bの共振周波数を変化させる。半波長共振器102a、102bの共振周波数の変化は、結合部103a、103bを介してそれぞれ電磁界結合した半波長共振器101a、101bの共振周波数を変化させる。つまり、上記の2つ可変容量素子104a、104bは、それぞれ半波長共振器および電磁界結合部を介して、半波長共振器101a、101bの共振周波数を間接的に変化させる。半波長共振器101a、101bの共振周波数の変化は、フィルタの通過帯域の中心周波数を変化させる。このようにして、可変容量素子への印加電圧の制御により、チューナブルフィルタの通過周波数帯域を周波数軸上で高低させることが可能となる。
図2は、本実施形態に係るチューナブルフィルタの一例を示す図であり、図1に示す回路図を、マイクロストリップライン構造の平面フィルタにて具現化した一例である。
図2(a)に示すチューナブルフィルタのフィルタパターンは、下面にグランドプレーンの形成された誘電体基板207上に、導体材料を用いて形成される。上記フィルタパターンは、約10GHzで共振する2つの半波長共振器201a、201b、約19GHzで共振する2つの半波長共振器202a、202b、2つのバリキャップ203a、203b、2つの半波長共振器201a、201bを電磁界結合させるための線路205、入力線路206a、及び出力線路206bで構成される。ここで、図1の回路図と図2(a)のフィルタパターンとの対応関係は、101aと201aが、101bと201bが、102aと202aが、102bと202bが、104aと203aが、104bと203bが、107aと206aが、107bと206bがそれぞれ対応する。また、103aの結合は201aと202aとの間のギャップを介した結合、103bの結合は201bと202bとの間のギャップを介した結合、105の結合は205の線路及びギャップを介した結合、106aの外部回路との結合は206aと201aとの間のギャップを介した結合、106bの外部回路との結合は206bと201bとの間のギャップを介した結合によってそれぞれ実現される。上記それぞれの結合は、設計上のギャップ間隔の広狭によって結合係数の強弱が調整され、2段のチェビシェフフィルタ特性を実現するために適切な強さとなっている。また、図2(a)には図示していないが、2つのバリキャップ203a、203bは、それぞれ金ワイヤボンディングによって2つの半波長共振器202a、202bとそれぞれ接続される。また、バリキャップ203a、203bのグランド側は、誘電体基板207に設けられたビアを介して誘電体基板裏面の地導体に接地される。
さらに本実施形態のチューナブルフィルタにおいて、可変容量素子は、共振器の共振状態における電界最大点近傍に電磁界結合される。図2(a)において、2つのバリキャップ203a、203bの金ワイヤを介した半波長共振器上の接続位置は、半波長共振器202a、202bの端部である。半波長共振器の端部は、共振状態において半波長共振器の電界最大点であるため、容量性の電磁界摂動素子であるバリキャップを接続した場合に、周波数変化効果が最も大きい接続部位である。なお、2つのバリキャップ203a、203bの接続位置は、端部に限定されるものではなく、バリキャップによる周波数変化効果が得られれば、半波長共振器202a、202bのどの位置に接続してもよい。
上記チューナブルフィルタは、導体部である半波長共振器201a、201b、202a、202b、結合線路205、入力線路206a、出力線路206b及び誘電体基板207の下面のグランドプレーンの一部もしくは全部を超伝導材で構成してもよい。この場合には、チューナブルフィルタを、例えば120K以下といった極低温まで冷却することが好ましい。冷却方法の一例としては、図2(a)に示すように、チューナブルフィルタを真空容器208内に設置することで外部環境から断熱し、図2(b)に示すように、冷凍機のコールドプレート上に設置することで、極低温まで冷却する方法がある。もしくは、液体窒素や液体ヘリウム等の極低温液体を用いてチューナブルフィルタを冷却しても良い。導体部の一部もしくは全部を超伝導材料で構成したチューナブルフィルタを、超伝導材の転移温度以下で使用することにより、フィルタを構成する回路素子の導体損失を低減することが可能となり、低い挿入損失や急峻なスカート特性を有するチューナブルフィルタを実現することができる。
また、本実施形態のチューナブルフィルタは電磁界摂動素子を制御する制御手段をさらに具備していても良い。制御手段の一例は、図2(a)に示すように、バリキャップである電磁界摂動素子203a、203bに印加する電圧を、制御装置204により制御する方法である。このような制御装置により印加電圧を制御することにより、手動制御の場合に比べて高速かつ正確にチューナブルフィルタの通過周波数帯域をコントロールすることが可能となる。
図3は、図1に示すチューナブルフィルタの通過特性を示す図であり、図1に示す2つのバリキャップ104a、104bへの印加電圧を変え、その静電容量を変えることで、チューナブルフィルタの中心周波数を変化させた例である。図3のグラフの横軸は周波数(GHz)、縦軸はフィルタ通過量(dB)である。図3のフィルタの通過帯域幅は約20MHzであり、バリキャップを接続しない共振器単体のQ値は、101a、102a、101b、102bのどれも約60000である。
図3において、点線で示す通過特性は、バリキャップ104a、104bの静電容量が共に0.2pFの場合であり、このときチューナブルフィルタの中心周波数は10.0GHzである。また、実線で示す通過特性は、バリキャップ104a、104bの静電容量が共に0.8pFの場合であり、このときチューナブルフィルタの中心周波数は9.9GHzである。すなわち、この例において、バリキャップの静電容量を0.2pFから0.8pFに変化させる場合、チューナブルフィルタの中心周波数は−0.1GHz変化する。さらに、図3において、チューナブルフィルタの中心周波数が10.0GHzの場合にフィルタの挿入損失は0.09dBである。また、チューナブルフィルタの中心周波数が9.9GHzの場合、フィルタの挿入損失は0.2dBである。
ここで、上記図1に示す本実施形態のチューナブルフィルタと従来技術のチューナブルフィルタ比較するために、図4に示す回路図を用いる。図4は、共振周波数変化を意図する共振器に可変容量素子を直接接続する場合のチューナブルフィルタを示す回路図である。また、図4は図1と同様に、2段のチェビシェフフィルタ特性を有するチューナブルフィルタである。
図4の回路図においては、フィルタの通過周波数帯域を構成する2つの半波長共振器301a、301bに、2つのバリキャップ302a、302bがそれぞれ直接接続されている。このことが図1のチューナブルフィルタとの大きな違いであり、図1の回路図においては、フィルタの通過周波数帯域を構成する2つの半波長共振器101a、101bに、2つのバリキャップ104a、104bが、それぞれ電磁界結合部103a、103bと、共振周波数がフィルタの通過周波数帯域外にある半波長共振器102a、102bを介して、間接的に接続される。なお、図4のバリキャップ302a、302bの諸特性は、図1のバリキャップ104a、104bの諸特性と同一である。
また、図4において、2つの共振器301a、301bは、チェビシェフフィルタを構成するために必要な所定の結合係数を実現する結合部303を介して電磁界結合される。さらに、2つの共振器が、それぞれチェビシェフフィルタを構成するために必要な所定の外部回路と結合量(いわゆる外部Q)を実現する結合部304a、304bを介して入力ポート305a及び出力ポート305bに接続される。上記構成により図4のチューナブルフィルタは2段のチェビシェフフィルタ特性を有する。
図5は、図4に示すチューナブルフィルタの通過特性を示す図であり、図4に示す2つのバリキャップ302a、302bへの印加電圧を変え、その静電容量を変えることで、チューナブルフィルタの中心周波数を変化させた例である。図5のグラフの横軸は周波数(GHz)、縦軸はフィルタ通過量(dB)である。なお、フィルタの設計諸特性(共振周波数、外部Q、結合係数)は図3と同様である。また、バリキャップを接続しない共振器単体のQ値は、301a、301bともに、図3と同様に、約60000である。
図5において、点線で示す通過特性は、バリキャップ302a、302bの静電容量が共に0.8pFの場合であり、このときチューナブルフィルタの中心周波数は10.0GHzである。また、実線で示す通過特性は、バリキャップ302a、302bの静電容量が共に0.85pFの場合であり、このときチューナブルフィルタの中心周波数は9.9GHzである。すなわち、この例において、バリキャップの静電容量を0.8pFから0.85pFに変化させる場合、チューナブルフィルタの中心周波数は−0.1GHz変化する。さらに、図5において、チューナブルフィルタの中心周波数が10.0GHzの場合にフィルタの挿入損失は2.8dBである。また、チューナブルフィルタの中心周波数が9.9GHzの場合、フィルタの挿入損失は3.0dBである。
図3に通過特性を示した図1のチューナブルフィルタの挿入損失と、図5に通過特性を示した図4のチューナブルフィルタの挿入損失とを比較すると、図1に示す本実施形態のチューナブルフィルタは、図4に示す従来技術のチューナブルフィルタと比較して、フィルタの挿入損失を低減できることが明らかである。また図1のチューナブルフィルタは図4のチューナブルフィルタと比較して、フィルタの通過帯域の平坦性も改善しており、このために通過帯域端部近傍のスカート特性も急峻である。
図6は、図3に示すチューナブルフィルタの通過特性を広帯域で表示した図であり、この図により図1に示すバリキャップ104a、104bが接続される共振器102a、102bの共振周波数が確認できる。
図6において、点線で示す通過特性は、バリキャップ104a、104bの静電容量が共に0.2pFの場合であり、このときチューナブルフィルタの中心周波数は10.0GHzである。また、実線で示す通過特性は、バリキャップ104a、104bの静電容量が共に0.8pFの場合であり、このときチューナブルフィルタの中心周波数は9.9GHzである。フィルタの中心周波数が10.0GHzの場合、バリキャップ104a、104bが接続される共振器102a、102bの共振周波数は約14.6GHzであり、図6の点線プロット上で14.6GHz近傍に表れているピークがこれに対応する。また、フィルタの中心周波数が9.9GHzの場合、バリキャップ104a、104bが接続される共振器102a、102bの共振周波数は約11.7GHzであり、図6の実線プロット上で11.7GHz近傍に表れているピークがこれに対応する。つまり、共振器102a、102bの共振周波数は、どちらの場合においてもフィルタの通過周波数帯域外にある。このことが、バリキャップ104a、104bの損失が共振器102a、102bのQ値に影響を与えたとしても、フィルタの挿入損失には大きな影響を与えることがない理由である。すなわち、図1に示したように、フィルタの通過帯域を形成する共振器に対して、フィルタの通過帯域外にある共振器、およびそれらの間の電磁界結合を介して間接的にバリキャップを接続することにより、低い挿入損失や急峻なスカート特性を有するチューナブルフィルタを実現することができる。
なお、本実施形態において、別の共振器を介して間接的に電磁界摂動素子を結合した共振器のQ値は、直接的に電磁界摂動素子を結合した共振器のQ値より高い。これにより、前記電磁界摂動素子のQ値が低い場合でも、前記間接的に電磁界摂動素子を結合した共振器のQ値低下を抑制することができ、低い挿入損失や急峻なスカート特性を有するチューナブルフィルタを実現することができる。このことを、以下で図7および図8を用いて説明する。
図7は、図1に示す共振器の共振特性を示す図であり、図1に示すバリキャップ104a、104bを接続する共振器102a、102bと電磁結合することで間接的に共振周波数を変化させる共振器101a、101bの共振特性である。また、図8は、図4に示す共振器の共振特性を示す図であり、図4に示すバリキャップ302a、302bを接続して直接的に共振周波数を変化させる共振器301a、301bの共振特性である。図7及び図8のグラフの横軸は周波数(GHz)、縦軸は前述の共振器に入出力ポートを接続する場合の共振器通過量(dB)である。図7及び図8において、共振器の共振特性のピークが鋭いほどQ値は高い。ここで、図1及び図4に示す共振器単体のQ値はどの共振器も約60000であり、バリキャップ単体のQ値は約1600である。
まず、バリキャップ104a、104bを接続する共振器102a、102bと電磁界結合することで間接的に共振周波数を変化させる共振器101a、101bのQ値について説明する。図7に点線で示すように、バリキャップ104a、104bの静電容量が0.2pFであり、共振器101a、101bの共振周波数が10.0GHzの場合、Q値は38000程度である。また、図7の実線で示すように、バリキャップ104a、104bの静電容量が0.8pFであり、共振器101a、101bの共振周波数が9.9GHzの場合、Q値は12000程度である。
次に、バリキャップ302a、302bを接続して直接的に共振周波数を変化させる共振器301a、301bのQ値について説明する。図8の点線で示すように、バリキャップ302a、302bの静電容量が0.8pFであり、共振器301a、301bの共振周波数が10.0GHzの場合、Q値は1500程度である。また、図8の実線で示すように、バリキャップ302a、302bの静電容量が0.85pFであり、共振器301a、301bの共振周波数が9.9GHzの場合にも、Q値は1500程度である。
図7と図8を比較すると、前記間接的に共振周波数を変化させる共振器のQ値は、前記直接的に共振周波数を変化させる共振器のQ値に対して、共振周波数が10.0GHzの場合で25倍以上、共振周波数が9.9GHzの場合で8倍程度向上する。ここで、直接的に共振周波数を変化させる共振器のQ値が間接的に共振周波数を変化させる共振器のQ値よりも低下するのは、バリキャップを共振器に直接接続することにより、共振器単体のQ値がバリキャップのQ値によって制限されるためである。このため、共振器単体のQ値が高くとも、バリキャップと共振器との複合系のQ値は低下する。また、直接的に共振周波数を変化させる共振器において、バリキャップと共振器との複合系の共振周波数が変化するのは、バリキャップの静電容量変化によって複合系の静電容量が変化するためである。
一方、図7に示した間接的に共振周波数を変化させる共振器の場合において、バリキャップと2つの共振器との複合系(バリキャップ104aと共振器102aと共振器101aの組み合わせおよびバリキャップ104bと共振器102bと共振器101bの組み合わせ)の共振周波数が変化するのは、バリキャップ104a、104bの静電容量変化によって、バリキャップが接続された共振器102a、102bの共振周波数が変化し、これに伴い電磁界結合しているもう一つの共振器101a、101bの共振周波数も変化するためである。一般的に、異なる共振周波数(f1、f2、f1<f2)の2つの共振器が電磁結合する場合、結合後の周波数(f1’、f2’、f1’<f2’、)は、f1’<f1、f2<f2’となる。共振周波数を低周波側にシフトさせた場合、Q値が低下するのは、バリキャップが接続された共振器102a、102bの共振周波数が、バリキャップが接続されていない共振器101a、101bの共振周波数に近づいた影響である。
しかしながら、前述の通りバリキャップを接続する共振器と結合部を介して電磁結合することで間接的に共振周波数を変化させる方法は、バリキャップを接続して直接的に共振周波数を変化させる方法に対して、周波数シフト量が同じ場合には、Q値を向上させることが可能である。
以上のことから、フィルタを構成する共振器に対して、直接バリキャップを接続する場合に対して、フィルタを構成しない一方の共振器にバリキャップを接続し、その一方の共振器を介して電磁結合される他方の共振器の共振周波数を変化させて、間接的にフィルタの通過周波数帯域を変化させる本実施形態の 優位性は、明らかである。
(第2の実施形態)
本実施形態のチューナブルフィルタは、電磁界摂動素子が誘電体であり、誘電体が共振器の近傍に配置されること以外は、第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図9は、本実施形態に係るチューナブルフィルタにおける共振器及び電磁界摂動素子の配置を示す概略図であり、図9(a)が斜視図、図9(b)が正面図である。図9に示すように、電磁的摂動を与える共振器402の直上に、円柱状の誘電体403を配置し、共振器402と誘電体403との相対的な位置関係を変化させることによって、共振器402の共振周波数を変化させる。共振器402は、図2と同様に、誘電体基板401上に構築されるマイクロストリップライン共振器である。ここで、誘電体403の形状は円柱状であるが、この形状に限定されるものではなく、角柱、板状など共振器の共振周波数を変化させることができれば、どのような形状でも良い。
本実施形態においては、電磁界摂動素子として可変容量素子よりも損失が小さい誘電体を用いる。誘電体の損失は誘電正接の値で代表される。また、共振周波数の変化を大きくするために、誘電体の誘電率が高い方が好ましい。誘電率が高く、誘電正接が小さい誘電体の例としては、サファイア、アルミナ、MgO等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記構成により、電磁界摂動素子として可変容量素子を用いる場合に比べて、第1の実施形態の説明にて述べた電磁界摂動素子と共振器の複合系の損失をさらに低減することが可能であり、低い挿入損失や急峻なスカート特性を有するチューナブルフィルタを実現することができる。
また、共振器402と誘電体403との相対的な位置関係の変化は、誘電体を上下左右に動かすことで行うことが可能である。その手段としては、例えば、モータ、圧電素子、磁歪素子、及びネジ等、様々な方法がある。
さらに本実施形態のチューナブルフィルタにおいて、誘電体は、共振器の共振状態における電界最大点近傍に配置される。図9において、誘電体403を配置する位置は、例えば、共振器402の端部である。半波長共振器の端部は、共振状態において半波長共振器の電界最大点であるため、電界に影響を与える誘電体を配置した場合に、周波数変化効果が最も大きい接続部位である。なお、誘電体403を配置する位置は、誘電体による周波数変化効果が得られれば、どの位置に配置してもよい。
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態に係る8段疑似楕円関数型チューナブルフィルタを示す図である。図10に示す回路パターンは、マイクロストリップライン構造の平面フィルタであり、下面にグランドプレーンが形成された誘電体基板501の上面に導体材料を用いて構成される。
図10に示す8段疑似楕円関数型フィルタは、8つの1.5波長ヘアピン型共振器502、503、504、505、506、507、508、509、共振器502と共振器505とを結合する線路510、共振器503と共振器504とを結合させる線路511、共振器505と共振器506とを結合させる線路512、共振器506と共振器509とを結合させる線路513、共振器507と共振器508を結合させる線路514、入力線路515、出力線路516、電磁的摂動を与えられる1波長共振器517、518、519、520、共振器517、518、519、520の共振周波数をそれぞれ変化させるためのバリキャップ521、522、523、524で構成される。
また、ヘアピン共振器502と503、ヘアピン共振器504と505、ヘアピン共振器506と507、ヘアピン共振器508と509の間の結合は、共振器間に所定の間隙を設けるギャップ結合である。また、電磁的摂動を与えられる1波長共振器517とヘアピン共振器502及び505、電磁的摂動を与えられる1波長共振器518とヘアピン共振器503及び504、電磁的摂動を与えられる1波長共振器519とヘアピン共振器507及び508、電磁的摂動を与えられる1波長共振器520とヘアピン共振器506及び509の間もギャップ結合である。本実施形態では、1つの電磁的摂動を与えられる共振器によって2つのヘアピン共振器の周波数を間接的に変化させる。このように1つの電磁的摂動を与えられる共振器によって複数の直接電磁的摂動を与えられない共振器を制御すること、限られた基板スペースの中に多段のフィルタを構成する際には好適である。バリキャップ521、522、523、524は、電磁的摂動を与えられる1波長共振器の中央の電界最大点近傍にワイヤボンディングにより接続されている。また、バリキャップ521、522、523、524のグランド側は、銅のベースプレート526に直付けされている。
また、上記チューナブルフィルタは、回路パターンであるヘアピン共振器502、503、504、505、506、507、508、509、1波長共振器517、518、519、520、結合線路510、511、512、513、514、入力線路515、出力線路516の一部もしくは全部を超伝導材で形成してもよい。この場合には、チューナブルフィルタを、例えば120K以下といった極低温まで冷却することが好ましい。冷却方法の一例としては、図10に示すように、チューナブルフィルタを真空容器527内に設置することで外部環境から断熱し、図2(b)に示したような、冷凍機のコールドプレート上に設置することで、極低温まで冷却する方法がある。もしくは、液体窒素や液体ヘリウムなどの極低温液体を用いてチューナブルフィルタを冷却しても良い。導体部の一部もしくは全部を超伝導材料で構成したチューナブルフィルタを、超伝導材の転移温度以下で使用することにより、フィルタを構成する回路素子の導体損失を低減することが可能となり、低い挿入損失や急峻なスカート特性を有するチューナブルフィルタを実現することができる。
また、本実施形態のチューナブルフィルタは電磁界摂動素子を制御する制御手段をさらに具備していても良い。制御手段の一例は、図10に示すように、バリキャップである電磁界摂動素子521、522、523、524に印加する電圧を、制御装置525により制御する方法である。このような制御装置により印加電圧を制御することにより、手動制御の場合に比べて高速かつ正確にチューナブルフィルタの通過周波数帯域をコントロールすることが可能となる。
(第4の実施形態)
図11は、第4の実施形態に係る位相可変装置1を示すブロック図である。
第4の実施形態に係る位相可変装置1は、チューナブルフィルタ1−1の通過周波数帯域を調整することで、フィルタへの入力信号とフィルタからの出力信号との間の位相差を可変する装置である。位相可変装置1は、第1の実施形態に係るチューナブルフィルタ1−1を備える。なお、第4の実施形態に係る位相可変装置1は、第1の実施形態に係るチューナブルフィルタ1−1を備えるとしたが、上記第2または第3の実施形態に示すチューナブルフィルタを備えていてもよい。
図11に示す位相可変装置1は、チューナブルフィルタの通過周波数帯域の中心周波数fcをΔf可変し、それに伴いフィルタへの入力信号とフィルタからの出力信号との間の位相差をΔθ可変する装置である。本実施形態に示す位相可変装置1は、所望の信号が常にチューナブルフィルタ1−1の通過周波数帯域内に収まるようにフィルタの周波数帯域を広くとり、かつフィルタの通過周波数帯域内で所望の信号を通過させるようにフィルタの中心周波数をΔf変更する。これにより、位相可変装置1は、フィルタの中心周波数の変化量に応じて、チューナブルフィルタ1−1を通過した信号にΔθ位相差をつけることが可能である。
第4の実施形態において、位相可変の分解能は、周波数調整の分解能で設定できるため、従来の移相器より高精度に位相調整が可能となる。また、大きく位相を変えても振幅変化は、フィルタの通過周波数帯域内であれば変化しないため、振幅変動も小さく抑えられる。
さらに、第4の実施形態に係る位相可変装置1は、バンドパスフィルタ型の周波数特性を有しているため、同時に帯域制限をかけることが可能となる。これにより、フィルタ及び移相器が必要となる回路では、部品点数を削減することが可能となる。
ここで、信号の位相変化量を増やしたい場合、フィルタの段数を多段化すればよい。すなわち、同じ周波数帯域幅のフィルタでも段数を増やせば、少ない周波数変化でより多くの位相変化を生むことが可能となる。
但し、フィルタを多段化することで、損失が増大してしまう問題がある。そこで、位相可変装置1は、チューナブルフィルタ1−1として超伝導材で形成される超伝導フィルタを用いることができる。この超伝導フィルタを冷却装置等により、超伝導状態となるまで極低温に低却する。これにより、位相可変装置1は、超伝導材の低損失性を利用して、フィルタの多段化による損失増大を抑えることが可能となる。このため、位相可変装置1は、大きな位相変化を実現しつつ、低損失な位相可変装置を実現することが可能となる。
また、損失が大きい場合、フィルタの周波数帯域の端では、フィルタの肩の丸まりにより振幅が減衰する。このため、位相可変に使える周波数帯域が減少してしまう問題がある。この問題についても、位相可変装置1は、上記超伝導フィルタを適用することでフィルタの特性を改善することが可能となり、フィルタの周波数帯域内を最大限に使うことが可能となる。
(第5の実施形態)
図12は、第5の実施形態に係るアンテナ装置を示すブロック図である。第5の実施形態に係るアンテナ装置は、第4の実施形態に係る位相可変装置1を、送信部及び受信部の少なくともいずれかに用いるアンテナ装置である。図12では、例として、位相可変装置1を送信部及び受信部に用いるアンテナ装置を示す。なお、位相可変装置1は、後述する送信部の送信用位相可変装置13−1〜13−nおよび受信部の受信用位相可変装置19−1〜19−nにそれぞれ対応する。
図12に示すアンテナ装置は、送受信共用のアンテナ10−1〜10−n(nは、自然数)、送受切換装置11−1〜11−n、送信部、受信部及び冷却装置を備える。
送受切換装置11−1〜11−nは、送信部及び受信部をアンテナ10−1〜10−nへそれぞれ切換接続するためのものである。送受切換装置11−1〜11−nは、例えば、サーキュレータや同軸スイッチ等を用いる。
送信部は、アンテナ10−1〜10−nから空間へ放射する送信信号を出力する経路であり、分配器12、送信用位相可変装置13−1〜13−n、送信アンプ14−1〜14−n及び送信用帯域通過フィルタ15−1〜15−n(以降、送信フィルタ15−1〜15−nと総称)を備える。
分配器12は、送信信号生成器(図示せず)で生成された送信信号を入力し、入力した送信信号を複数の経路に分配する。
送信用位相可変装置13−1〜13−nは、分配器12で分配された送信信号を入力し、入力した送信信号に対して所望の位相制御を施す。この送信用位相可変装置13−1〜13−nに備えられるチューナブルフィルタは、超伝導材で形成してもよい。
送信アンプ14−1〜14−nは、送信用位相可変装置13−1〜13−nから出力される送信信号を入力し、入力した送信信号を所望の利得で電力増幅する。
送信フィルタ15−1〜15−nは、送信アンプ14−1〜14−nから出力される送信信号を入力し、入力した送信信号から所望の送信周波数帯域成分を通過させる。
受信部は、アンテナ10−1〜10−nで受信されるアンテナ受信信号を入力する経路であり、リミッタ16−1〜16−n、受信用帯域通過フィルタ17−1〜17−n(以降、受信フィルタ17−1〜17−nと総称)、低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)18−1〜18−n、受信用位相可変装置19−1〜19−n及び合成器20を備える。
リミッタ16−1〜16−nは、アンテナ受信信号を入力し、入力したアンテナ受信信号の信号レベルを制限し、後段の回路への過入力保護を行う。
受信フィルタ17−1〜17−nは、リミッタ16−1〜16−nから出力される受信信号を入力し、入力した受信信号から所望の受信周波数帯域成分を通過させる。この受信フィルタ17−1〜17−nは、超伝導材で構築してもよい。
低雑音増幅器18−1〜18−nは、受信フィルタ17−1〜17−nから出力される受信信号を入力し、入力した受信信号を低雑音で増幅する。
受信用位相可変装置19−1〜19−nは、低雑音増幅器18−1〜18−nから出力される受信信号を入力し、入力した受信信号に対して所望の位相制御を施す。この受信用位相可変装置19−1〜19−nに備えられるチューナブルフィルタは、超伝導材で構築してもよい。
合成器20は、受信用位相可変装置19−1〜19−nからそれぞれ出力される受信信号を合成し、受信ビームとして出力する。
上記アンテナ装置の構成において、以下にその処理動作を説明する。
まず、送信時は、送受切換装置11−1〜11−nを送信側に切り換える。これにより、送信信号生成器で生成された送信信号は、送信用位相可変装置13−1〜13−nで送信ビームの励振分布に応じた位相制御が施され、送信アンプ14−1〜14−nで信号増幅された後、送信フィルタ15−1〜15−nによって不要波成分が抑圧され、送受切換装置11−1〜11−nを介してアンテナ10−1〜10−nへ出力される。
また、受信時は、送受切換装置11−1〜11−nを受信側に切り換える。これにより、アンテナ10−1〜10−nにより受信されたアンテナ受信信号は、送受切換装置11−1〜11−nを介して受信部に入力され、リミッタ16−1〜16−nによって振幅制限され、受信フィルタ17−1〜17−nによって不要波成分が抑圧され、低雑音増幅器18−1〜18−nによって低雑音増幅され、受信用位相可変装置19−1〜19−nで受信ビームの指向特性に応じた位相制御が施されて出力され、合成器20で合成され、受信ビームとして出力される。
第5の実施形態において、位相変化による振幅変動の小さい送信用位相可変装置13−1〜13−nを用いることで、各系統の中で位相を設定するときに発生する信号レベル差が小さくできるため、合成時の信号調整が容易となる。
また、位相変化による振幅変動の小さい受信用位相可変装置19−1〜19−nを用いることで、各系統の中で位相を設定するときに発生する信号レベル差が小さくできるため、合成時の信号調整が容易となる。
また、図12に示すアンテナ装置の送信部及び受信部に超伝導材を用いたフィルタや低温にて動作させる回路素子を用いてもよい。
第5の実施形態において、アンテナ装置は、例えば、上記超伝導材を用いた送信フィルタ15−1〜15−n、送信用位相可変装置13−1〜13−nを有する送信部と、受信フィルタ17−1〜17−n及び受信用位相可変装置19−1〜19−nや、リミッタ16−1〜16−n及び低雑音増幅器18−1〜18−n等の低温にて動作させる回路素子を有する受信部とを備える。アンテナ装置は、この送信部及び受信部を極低温に冷却する冷却装置をさらに備える。この冷却装置は、真空容器21−1及び冷却部21−2を有する。
真空容器21−1は、内部を真空状態にすることで、収容物の断熱と保温を行う。この真空容器21−1は、極低温の効率的な維持を目的として超伝導材を配置した周囲を真空状態として断熱するための容器である。このため、少なくとも超伝導材を配置した周囲は気密構造とする。
冷却部21−2は、真空容器21−1に収容されるものを極低温に冷却する。
冷却装置は、真空容器21−1内に送信部及び受信部を収容し、冷却部21−2により極低温に冷却する。これにより、アンテナ装置は、送信時及び受信時の損失を低減することが可能となる。
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。