JP3807987B2 - 高周波回路用のスイッチング回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、左右に1つずつ入出力用のポートを有し、左右を分ける対称面に対して回路全体が少なくとも論理的には左右対称な2ポート高周波回路から構成された高周波回路用のスイッチング回路に関する。
【0002】
尚、上記の2ポート高周波回路は、上記のスイッチングデバイスのスイッチング状態によりバンドパスフィルタとして作用するため、以下、本発明の「高周波回路用のスイッチング回路」を単に「バンドパスフィルタ」或いは「高周波回路」等と呼ぶ場合がある。
【0003】
【従来の技術】
2ポート高周波回路より構成された、比較的小型のバンドパスフィルタとしては、例えば、「MWE2000 Microwave Workshop Digest,pp.461-468(2000)『トリプレート・ストリップ線路フィルタ』」(以下、「文献1」と言う。)に記載されているものや、或いは「NEC技法 Vol.51 No.4/1998,pp.119-123『多層プリント基板を利用したマイクロ波衛星通信用フィルタ』」(以下、「文献2」と言う。)に記載されているもの等が一般に知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば上記文献1などの従来技術については、以下の問題点を挙げることができる。
(問題点1)
例えば上記の文献1の様に、LTCC(低温焼成セラミック)から形成されている基板を用いてフィルタを製造した場合、通常このフィルタは、更にボード上に実装しなければ使用できない。或いは、表面実装するための実装面積を基板上、又はボード上に確保する必要がある。
【0005】
(問題点2)
従来、LTCC基板を用いて実現されていたフィルタ回路を新たに有機基板を用いて作成しようとすると、有機基板では誘電率が低いためカップリングを構成する際の容量が小さくなってしまい、共振器間の強い結合が実現できない。
(問題点3)
有機基板を用いて多層基板を形成する場合、1層当りの厚みに対して±8%程度のバラツキを見込む必要がある。このため、LTCC基板対して有用であった回路を有機基板を用いて多層化すると、各個体間の回路特性に大きなバラツキが生じるので、安定した品質が期待できない。
【0006】
また、例えば上記文献2などの従来技術については、以下の問題点を挙げることができる。
(問題点4)
インターディジタル型のストリップ線路を用いてフィルタ回路を作成する場合、伝送信号の1/4波長の線路が複数必要となるため、伝送信号の周波数が数GHz程度の場合、フィルタ回路が大きくなってしまう。即ち、部品を1/4波長程度よりも更に小型化することが困難である。
【0007】
また、スイッチング回路の分野においては、上記の様な問題を排除したフィルタリング機能をも同時に兼ね備えた小型の高周波回路(スイッチ回路)が、未だ発明されていない。このため従来は、スイッチとフィルタとは各々独立した回路(デバイス)から構成せざるを得ず、したがって、両機能を兼ね備えた高周波回路を十分に小型化することは容易でなかった。
【0008】
本発明の課題は、上記の問題点1〜4を効果的に克服しつつ、更にこれらのフィルタ機能を有したまま、アイソレーション特性の優れたスイッチ機能をも果たす小型の機能デバイス(高周波回路用のスイッチング回路)を実現することであり、本発明の目的は、この様な高機能デバイスの実現により、従来よりも安定した品質で、且つより小さく構成することが容易なバンドパスフィルタ機能付きの「高周波回路用のスイッチング回路」を低コストで生産可能又は生産容易とすることである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、第1の手段は、左右に1つずつ入出力用のポートを有し、左右を分ける対称面に対して回路全体が少なくとも論理的には左右対称な2ポート高周波回路において、左右を分ける対称面に対して回路全体を少なくとも論理的には左右対称とし、左上回路A1と右上回路A2と下段回路B0とを設け、その左上回路A1には、左側に位置するポート1と、片側が接地されたキャパシタンスCaと、このキャパシタンスCaとポート1とを接続する線路Aとを設け、右上回路A2には、右側に位置するポート1′と、片側が接地されたキャパシタンスCaと、このキャパシタンスCaとポート1′とを接続する線路A′とを設け、下段回路B0には、左側に位置する接地回路B1と、右側に位置する接地回路B2と、中央に位置する接地回路B3と、「接地回路B1と接地回路B3とを接続する線路B」と、「接地回路B2と接地回路B3とを接続する線路B′」とを設け、更に、線路Aと線路Bの少なくとも各一部を互いに略平行に配線することにより、結合線路(カップリング・ライン)を構成し、接地回路B1及び接地回路B2は、それぞれ、抵抗とキャパシタンスCbとにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成することである。
【0010】
ただし、上記の左右の方向には、任意性が有るものとする。即ち、本発明のバンドパスフィルタ(2ポート高周波回路)を製造又は使用する者は、任意の方向を上記の左右の方向として選択することができる。
また、上記のポートは、線路で構成しても良い。したがって、例えば上記のポート1と、線路Aの結合線路を構成していない一部分とは必ずしも明確に区別が付く形態を採っていなくとも良い。即ち、上記のポートは論理的に存在していれば良く、必ずしも上記の線路Aと明確に区別し得る物理的な形態をしていなくとも良い。
【0011】
図1に、より具体的な例として、本発明のバンドパスフィルタの論理的な1構成例を示す。この高周波回路100は、左上回路A1と右上回路A2と下段回路B0の3つの回路から構成されている。また、下段回路B0は、左側に位置する接地回路B1と、右側に位置する接地回路B2と、中央に位置する接地回路B3と、「接地回路B1と接地回路B3とを接続する線路B」と、「接地回路B2と接地回路B3とを接続する線路B′」から構成されている。更に、左上回路A1は、左側に位置するポート1と、片側が接地されたキャパシタンスCaと、このポート1とキャパシタンスCaとを接続する線路Aから構成されている。また、本高周波回路100は、論理的に左右対称に構成されている。接地回路B3は、少なくとも論理的には本回路の左右を分ける対称面上に跨がるものであり、インダクタンスLの他にも、キャパシタンス等で構成可能である。
【0012】
更に、接地回路B1と接地回路B2は、それぞれ、抵抗とキャパシタンスCbとにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成されており、制御電圧VCTL にて自在にON/OFF設定される。このスイッチングデバイスは、例えばON状態の時に小さな抵抗値を示し、OFF状態(VCTL ≒0)の時に上記のキャパシタンスCbを示す様に構成されているもので良い。
以上の高周波回路100(図1)は、あくまでも単に1構成例を示すものに他ならないが、例えばこの様に1制御電圧VCTL にて自在にON/OFF設定可能な2ポートバンドパスフィルタを構成することにより、本発明を具体的に実施することが可能である。
【0013】
以下、本発明の手段をより詳しく説明する。
即ち、本発明の第2の手段は、上記の第1の手段において、接地回路B3にインダクタンスを持たせることである。
【0014】
また、本発明の第3の手段は、上記の第1の手段において、接地回路B3にキャパシタンスを持たせることである。
【0015】
また、第4の手段は、上記の第1乃至第3の何れか1つの手段において、接地回路B1及びB2のキャパシタンスCbを可変にすることである。
【0016】
また、第5の手段は、上記の第4の手段において、片側が接地されたキャパシタンスCaを可変にすることである。
【0017】
また、第6の手段は、上記の第1乃至第5の何れか1つの手段において、片側が接地されたキャパシタンスCaを抵抗とキャパシタンスCaとにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成することである。
【0018】
また、第7の手段は、上記の第1乃至第6の何れか1つの手段において、左上回路A1と右上回路A2とをキャパシタンスCcで接続することである。
【0019】
また、第8の手段は、上記の第7の手段において、キャパシタンスCcを可変にすることである。
【0020】
また、第9の手段は、上記の第1乃至第8の何れかの高周波回路用のスイッチング回路を直列に接続することにより、高周波回路用のスイッチング回路を構成することである。
【0021】
また、第10の手段は、上記の第1乃至第9の何れかの高周波回路用のスイッチング回路を並列に接続することにより、高周波回路用のスイッチング回路を構成することである。
【0022】
また、第11の手段は、上記の第1乃至第10の何れか1つの手段において、上層及び下層にグランドを有する3層構造のトリプレートストリップ線路の中層として、上記の高周波回路用のスイッチング回路を形成することである。
以上の本発明の手段により、前記の課題を効果的、或いは合理的に解決することができる。
【0023】
【発明の作用】
以下、本発明に係わる高周波回路の基本的な動作原理(作用)を次の6つの章(1.〜6.)に分けて説明する。ただし、第1章から第4章までは、主に、接地回路B1,B2の各スイッチングデバイスがキャパシタンスCbを示す場合に関する作用説明である。
1.対称2ポート回路理論による設計条件
2.本発明の着想
3.シミュレーションによる有効性の検証
4.試作品による有効性の検証
5.スイッチングデバイスの導入
6.応用理論
【0024】
1.対称2ポート回路理論による設計条件
図2は、本発明に係わる2ポート・バンドパスフィルタの理想的な位相条件を示すスミス・チャートである。ただし、ここで、[S]は高周波回路(2ポート・バンドパスフィルタ)のS行列で、[P]はこのS行列の固有ベクトルから成る行列である。また、λ1は偶励振での固有値を、λ2は奇励振での固有値をそれぞれ表している。
【0025】
S行列の第i行第k列の成分をSik(i=1,2;k=1,2)とすると、理想的には、次式(1)が成り立つことが望ましい。
【数1】
S11=S22=0,
|S12|=|S21|=1 …(1)
この関係は、所望の周波数を有する信号が、目的のフィルタ回路において反射されずに、且つ損失無く伝送される条件を示すものである。
【0026】
上記の式(1)を満たす理想的な条件としては、例えば、次式(2)に例示される4つの解が容易に思い付く。
【数2】
(λ1,λ2)=(1,−1),(−1,1),
(j,−j),(−j,j) …(2)
【0027】
〔4つの解の検討〕
〔1〕(λ1,λ2)=(1,−1)の場合
これは偶励振でオープン、奇励振でショートとなる場合である。即ち、この解は伝送線路を示すものであるので、フィルタ回路とはならない。
〔2〕(λ1,λ2)=(−1,1)の場合
これは偶励振でショート、奇励振でオープンとなる場合である。即ち、この解は1/2波長の線路に対応するものであるので、フィルタ回路とはならない。
【0028】
〔3〕(λ1,λ2)=(j,−j),(−j,j)の場合
この条件が、フィルタ回路として検討すべき設計条件である。実際の回路には損失が生じるため、実数成分が含まれる。従って、この条件は実際の回路では位相条件となる。以下、この位相条件を「位相条件1」と呼ぶ。
したがって、本発明の最初の課題は「この位相条件1を満たす、従来よりコンパクトな構造の高周波回路を見つけ出すことにより、小型化が容易で、安定した品質を確保し易いバンドパスフィルタを実現すること」と言うことができる。
【0029】
2.本発明の着想
異なるインピーダンス間をリアクタンス成分を利用して所望の周波数でマッチングする場合、所望の周波数では効率良く伝送し、その他の周波数では比較的伝送し難くなると言ったフィルタ特性が得られる。従って、測定系のインピーダンス(50Ω)から異なるインピーダンスに変換し、更にこれを戻す(即ち、逆へ再度変換し直す)形の対称2ポート回路を構成すれば、フィルタ特性が得られると考えた。
【0030】
例えば、片側か接地された1つのキャパシタンス(Cb)の他端が1つのポート(Port2)に直接接続されている場合、その接地点から見たそのポート(Port2)の反射波の周波数特性はスミス・チャートの最外周をオープン(R=∞)からショート(R= 0)に向かって下側から移動する。キャパシタ(Ca)に伝送線路を接続した場合、周波数特性はスミス・チャート上の最外周をオープンから移動する。しかし、信号を入力することはできない。
【0031】
そこで、図3の様に、カップリングライン(線路A)を加えると、ポート1から信号を入力することができる。また同時に、ポート2からの信号はポート1に僅かに伝送されるため、ポート2から見たインピーダンスはスミス・チャートの内側に入る様になる(図4)。
図4は、図3の回路の反射特性(即ち、ポート2における反射係数Sa)に関するシミュレーション結果を例示するスミス・チャートである。グラフは、入力信号が4GHz〜8GHzの場合を示している。また、その曲線上の略中央に位置しているマーカーm1(黒塗りの逆三角形の印)は、5.8GHzの信号に対する反射特性を示している。
以上の様にして、低インピーダンスを実現することができた。
【0032】
一方、対称回路が効率よく信号を伝送するのは、その対称面でコンジュゲート・マッチ(インピーダンス整合)した場合である。本発明において検討対象としている高周波回路は左右対称であるので、この条件は反射係数Saが実数であることを意味する。即ち、反射係数Saは、純抵抗のインピーダンスを示すべきである。
そこで、図5(a)に示す様に、フィルタ回路の対称面の近傍にインダクタンス成分を加えた。
【0033】
図6は、図5(a)の回路(フィルタ回路の左半分)における、反射特性(Sa)に対する効果を示すスミス・チャートである。この様に、インダクタンス成分の作用を利用して、反射係数Saをスミス・チャートの横軸(実数軸)上に移動させることにより、左右対称のフィルタ回路の対称面でコンジュゲート・マッチさせることができる。即ち、この様な手段により、伝送効率の高いバンドパスフィルタを構成することができる。
【0034】
尚、上述の図5、図6では、誘導性の反射の状態を示しているが、後述する様に容量性の反射(図18、図19)の場合にも、略同様の作用効果を得ることができる。即ち、図1の接地回路B3のインダクタンスをキャパシタンスに置き換た構成とすることも可能である。
【0035】
3.シミュレーションによる有効性の検証
図7は、前述の図5(a)の対称2ポート回路に、前述の「位相条件1」を課した回路(論理的な1構成例)を例示する回路図である。また、図9は、この図7の回路(高周波回路10)の偶励振に対応する回路(図8(a))に関するシミュレーション結果と、奇励振に対応する回路(図8(b))に関するシミュレーション結果をそれぞれ例示するスミス・チャートである。
【0036】
図9におけるマーカーm3(下方)は、偶励振時における回路(図8(a))の反射係数(λ1)を、マーカーm5(上方)は、奇励振時における回路(図8(b))の反射係数(λ2)をそれぞれ示している。ただし、シミュレーションした入力信号の周波数はそれぞれ5.8GHzとした。
この様に、偶励振時、奇励振時の反射係数の虚数成分は、それぞれ−j,jとなり、図7の対称2ポート回路が、位相条件1を満たすことが判った。
【0037】
以上の理論から、図7の対称2ポート回路(高周波回路10)によって、上記の条件を満足する左右対称なフィルタ回路(バンドパスフィルタ)が構成できることが判る。
【0038】
図7の諸変数D,Zm2,Zm3,Zm4等は、任意の手順で決定して良い。例えば、図中のインピーダンスZm2,Zm3を先に適当に与えてから、上記のインピーダンスZm4と結合長Dを求める場合、対称2ポート回路の固有値理論に従って、奇励振時の境界条件(Im(λ1)=−j)からDを解析的に求めることができる。そして、更にこの長さDと偶励振時の境界条件(Im(λ2)=j)からZm4を解析的に求めることができる。例えば、図1の高周波回路100では、Zm2=Ca,Zm3=Cbを先に適当に与えてから、その他の値を決定(最適化)することが可能である。ただし、先に与えたZm2,Zm3の値の組に対して、好適解又は実用的な解が存在しない場合も有り得るため注意を要する。
また、これらの諸定数D,Zm2,Zm3,Zm4等は、適当に調整しながら実験的に決定したり、或いはシミュレーションで決定したりしても良い。
【0039】
図10は、上記の高周波回路10に係わるシミュレーション結果を具体的に例示するグラフである。
例えば、図10に例示される以上のシミュレーション結果等からも、左右対称の2ポート高周波回路10(図7)は、バンドパスフィルタとしての良好な特性を示すことが判る。
【0040】
4.試作品による有効性の検証
図11は、本発明に係わるバンドパスフィルタ(高周波回路100)の論理的な構成を示す回路図である。即ち、本図11の高周波回路100は、図1のものと論理的な構成としては、同等のものである。
【0041】
図12は、このバンドパスフィルタ(高周波回路100)の物理的な構成を示す平面図である。図12(a)は有機基板の表面上に形成された金属パターンを示しており、入出力線路に連結されたポート1の表側が現れている。
また、図12(b)は有機基板の内部に形成された高周波回路100の本体部分であり、線路(金属パターン)のみから形成されている。Hはこの有機基板に内装された高周波回路100自身の高さ、Wはその左右の幅を示しており、本第1実施例の高周波回路100では、凡そH=3.4mm,W=12mmと成っている。
【0042】
図13は、高周波回路100に係わる実験結果を具体的に例示するグラフであり、図13(a)は伝送特性を示しており、横軸(実数軸)は周波数(4.0〜8.0GHz)、縦軸は前記式(1)のS21(dB)である。また、図13(b)は反射特性を示しており、横軸(実数軸)は周波数(4.0〜8.0GHz)、縦軸は前記式(1)のS11(dB)である。
これらの測定結果からも、本発明の動作原理の基礎となる本発明の基本的な作用と、前記のシミュレーションの正当性を確認することができる。
【0043】
5.スイッチングデバイスの導入
図1或いは図11のキャパシタンスCa,Cbをそれぞれ、抵抗とキャパシタンス(Ca,Cb)とにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成しても、これらのスイッチングデバイスの特性が上記の理論における各デバイス特性(キャパシタンスCa,Cb)と一致している場合には、上記の基本的な作用及び効果が得られることは自明である。例えば、上記の様なスイッチングデバイスとしては、トランジスタやバラクターダイオード等を使用することができる。例えば、スイッチング回路の要求仕様にも依るが、オン抵抗が数Ω、長さが数百μm程度のMESFET等が可用である。
【0044】
図14はその様な回路構成を例示する回路図であり、この高周波回路の特性を表す図15のマーカーm1で指示される山形のグラフは、図13(a)の山形のフィルタ特性と本質的に一致する。
一方、自身のOFF状態においてキャパシタンスCa,Cbを具現する上記のスイッチングデバイスを、制御電圧VCTL の変更によりON状態に変更すると、各デバイスは小さな抵抗値を示し、これらのスイッチングデバイスにより接続された各点はそれぞれショート(アース)される。このため、この時図14の高周波回路は、図15のマーカーm2で示した伝送特性を示す。この伝送特性は、前記と同様に所定のシミュレーションにより検証されたものであるが、本図15の検証結果より、上記の各スイッチングデバイスをON状態に変更した場合には、図14の高周波回路全体が、スイッチング回路のOFF状態として優れたアイソレーション特性を示すことが判る。
【0045】
例えば、図14のトランジスタがON状態に成った場合、ポート1から入力される信号は、図14の高周波回路が「低い抵抗に線路が接続された回路」の様に見えるので、その多くが反射される。また、結合線路(AとBとのカップリング)からB側に漏れた一部の信号は、抵抗やインダクタンスによりショートされるため、ポート2側には伝送されない。このため、高アイソレーション特性を有する優れたスイッチング回路を実現することができる。
【0046】
言い換えれば、本発明の「高周波回路用のスイッチング回路」は、上記の制御電圧VCTL により容易に制御することができるものであり、上記の各スイッチングデバイスをOFF状態(VCTL ≒0[v])にしたときに、所定のバンドパスフィルタとして作用し、上記の各スイッチングデバイスをON状態にしたときに、SPSTスイッチのOFF状態として作用する。
【0047】
尚、後から第1実施例と第2実施例とで比較参照する様に、上段側の回路(図1の左上回路A1,右上回路A2)のキャパシタンスCaを具現する素子にも、キャパシタンスCbと同様にスイッチングデバイスを導入した方が、スイッチング回路全体としての信号遮断時のアイソレーション特性が良い。
【0048】
6.応用理論
本第6章では、上記のスイッチングデバイスの導入に基づく本発明の「高周波回路用のスイッチング回路」(SPST/SPDT/SPTT/... )の特性改善手法に関する基本的な理論を開示する。
【0049】
(応用理論1)
図16はキャパシタンスCbを可変にした際の高周波回路(左半分)の構成例を示す回路図であり、図17はこの高周波回路の作用を示すスミス・チャートである。
前述の追加されたインダクタンス成分の作用によりスミス・チャートの横軸(実数軸)上に移動(変換)される点の周波数、即ち、この変換の対象となる点の周波数は、キャパシタンスCbの値に大きく依存する。例えば、図17ではマーカーm1(5.8GHz)が、前述のインダクタンスの作用によりスミス・チャートの横軸(実数軸)上に移動(変換)されるが、この位置に対応する周波数は、Cbの値を適当に変化させることにより変化する。
【0050】
即ち、この様な作用により、キャパシタンスCbを可変にすることで、スミス・チャートの横軸(実数軸)上に移動(変換)される点の周波数を選択的に変更することが可能となる。
例えば上記の様に、Caの値を固定した状態でCbの値を変化させた場合、シミュレーションによる検証の結果、1.5GHz〜2.7GHzの周波数帯域を対象(選択範囲)としたチューニングが、反射−18dB以下で実施できることが確認された。即ち、上記の様なリアクタンス成分に対する調整手段の導入により、フィルタ回路の透過周波数を広い周波数範囲内でチューニングすることが容易となる。
【0051】
(応用理論2)
図18は、接地回路B3をキャパシタで構成した際の高周波回路(左半分)の構成例を示す回路図であり、図19は、この高周波回路の作用を示すスミス・チャートである。
例えばこの様に、左右を分ける対象面近傍に配置する接地回路B3(図1)のリアクタンス成分をキャパシタで実現しても良い。図18の反射係数Sa′が誘導性になる場合に、接地回路B3を容量にすることで、反射係数Saを純抵抗にすることができる。この様な構成は、例えば、カップリング・ラインの結合長Dが長い場合等に有効である。
【0052】
より一般には、図1の下段回路B0のリアクタンス成分を以下の〔方式1〕や〔方式2〕の様に具現することが可能であり、これらのパラメータを用いて回路特性を好適或いは最適に調整した場合においても、上記と略同様の作用効果を得ることができる。
【0053】
〔方式1〕
接地回路B1及びB2に、キャパシタンスを持たせ、且つ、接地回路B3にインダクタンスを持たせる方式。この方式2は、前述の式(2)の(λ1,λ2)=(−j,j)成る解に対応する方式である。
〔方式2〕
接地回路B1、B2、及びB3に、キャパシタンスを持たせる方式。この方式2は、前述の式(2)の(λ1,λ2)=(j,−j)成る解に対応する方式である。
【0054】
(応用理論3)
本応用理論3では、フィルタの伝送特性を狭帯域化する応用理論について説明する。この技術は、前述の本発明の第7及び第8の手段(請求項7、8)に基づいたものである。伝送特性を狭帯域化することの目的は、勿論一般には、ノイズ等の不要な電波の除去であるが、例えばDSRC等の分野では、現在多数の種類のアプリケーションが検討・研究されており、使用する周波数帯域に対して非常に接近する別の周波数帯が他のアプリケーションによって使用されるケースが十分に考えられるため、今後この技術は、例えばこれらの通信処理の分野等で、非常に有用な手段になるものと期待できる。
【0055】
例えば上記の様な場合に、狭帯域化したい周波数帯の中心周波数をfn とし、その前後に接近する別の周波数帯の略中心の周波数をfn-1 、fn+1 とする。ただし、以下、これらの周波数には、次式(3)の関係があるものとする。
【数3】
fn-1 <fn <fn+1 …(3)
【0056】
この時、伝送したい(狭帯域化したい)所望の周波数fn では、理想的にはフィルタにより損失なく伝送され、反射されないことが望まれる。この理想的な条件は、前述の式(1)にて表現されるものであり、更に、図2の表現に従えば、この条件は一般に、次式(4)によって表現することができる。
【数4】
(λ1 +λ2 )/2=0,
(λ1 −λ2 )/2=exp(jθ2 ) …(4)
【0057】
しかし、実際の回路では、反射や損失が存在する。そこで、反射率をα(0<α<1)、透過率をβ(0<β<1)とすると、実際の回路における上記の理想的な条件は、次式(5)に書き換えられる。
【数5】
(λ1 +λ2 )/2=α・exp(jθ1 ),
(λ1 −λ2 )/2=β・exp(jθ2 ) …(5)
ただし、ここで、「β≒1≫α≒0」である。
【0058】
したがって、「β≒1≫α≒0」成る時、式(5)より次式(6)を得る。
【数6】
λ1 ≒β・exp(jθ2 ),
λ2 ≒−β・exp(jθ2 )=β・exp{j(θ2 ±π)} …(6)
即ち、偶励振での固有値λ1 と奇励振での固有値λ2 とは、互いに大きさが略同じ(β)で、位相が略180°ズレている必要がある。
即ち、この条件は、前述の「位相条件1」に一致する。
【0059】
一方、伝送したくない(抑圧したい)周波数fn-1 ,fn+1 では、次式(7)が成り立つことが望まれる。
【数7】
S11=S22=γ・exp(jθ3 ),
S12=S21=η・exp(jθ4 ) …(7)
ただし、ここで、「γ≒1,η≒0」である。
【0060】
偶励振での固有値λ1 と奇励振での固有値λ2 を用いて、式(7)を書き直せば、次式(8)を得る。
【数8】
(λ1 +λ2 )/2=γ・exp(jθ3 ),
(λ1 −λ2 )/2=η・exp(jθ4 ) …(8)
したがって、「γ≒1,η≒0」より、周波数fn-1 ,fn+1 に対してそれぞれ次式(9)が成り立てば、フィルタを透過させたい所望の周波数帯域(中心周波数fn )の前後に接近する別の周波数帯の伝送を抑制することができる。
【数9】
λ1 ≒γ・exp(jθ3 ),
λ2 ≒γ・exp(jθ3 ) …(9)
【0061】
ここで、θ3 は任意で良い。したがって、偶励振での固有値λ1 と奇励振での固有値λ2 とは、互いに大きさも位相も略一致していれば良い。即ち、接近する別の(前後の)周波数帯の伝送を抑制するための条件は、それらの周波数fn-1 ,fn+1 に対して、それぞれ次式(10)で与えられる。
【数10】
λ1 ≒λ2 …(10)
【0062】
我々は、所望の周波数fn に対して前述の「位相条件1」を成立させると同時に抑圧したい周波数fn-1 ,fn+1 に対して、それぞれ式(10)を満たすことが、前述の本発明の第7の手段により可能となることを発見した。即ち、本発明の第7の手段によれば、伝送すべき所望の周波数帯(中心周波数=fn )の前後に接近する別の周波数帯の略中心の周波数fn-1 、fn+1 (fn-1 <fn <fn+1 )の伝送を十分に抑圧することにより、伝送すべき所望の周波数帯の狭帯域化を効果的に実施することができることが判明した。
【0063】
図20は、本発明の第7の手段を用いたバンドパスフィルタ(後述の高周波回路300)の論理的な構成を示す回路図である。本バンドパスフィルタ300は、前述の図1の高周波回路100と殆ど同じものであり、高周波回路100との唯一の差異は、左上回路A1と右上回路A2とをキャパシタンスCcで接続した点にある。
【0064】
図21は、高周波回路300の(a)偶励振時に対応する論理的な回路構成を示す回路図と、(b)奇励振時に対応する論理的な回路構成を示す回路図である。本図21(a)の偶励振時の回路は、図8(a)の偶励振時と全く等価な回路となるが、本図21(b)の奇励振時の回路は、図8(b)の奇励振時の回路に対して、キャパシタンス2CcがキャパシタンスCaに並列に追加・接続された形になる。
【0065】
例えば、図20のカップリング線路A,Bの各線路幅を50μm、カップリング長を2420μm、両線路間の隙間の幅(ギャップ)を50μmとし、回路中央のキャパシタンスCcを0.03pFとし,接地回路B3のインダクタンスをL=0.094nHとし、かつ、その他のキャパシタンスをCa=Cb=0.5pFと設定した場合、この高周波回路300に関するシミュレーションの結果、透過させたい所望の周波数fn =5.9GHzに対しては、図9と略同等の反射特性(反射係数)を示すことが判った。即ち、この条件下では、前述の式(6)が満たされ、前述の「位相条件1」が成立する。
【0066】
また、抑圧したい周波数fn-1 =5.1GHzと、fn+1 =7.3GHzに対しては、この高周波回路300に関する同様のシミュレーションの結果、図9の反射係数の位相(電気角)が概ね150°〜175°となる位置で、上記の式(10)が略満たされることが判った。即ち、この高周波回路300においては、これらの周波数fn-1 、fn+1 の信号の透過が効果的に抑制される。
【0067】
図22、図23は、この様なバンドパスフィルタ(高周波回路300′)の物理的な構成をそれぞれより具体的に例示する平面図及び断面図である。この高周波回路300′は、前述の高周波回路100(図16)と酷似の構造を有するものであり、高周波回路100との主な差異は、左上回路A1と右上回路A2とをキャパシタンスCcで接続した点にある。図22では横長の楕円で囲んで図示する様に、そのキャパシタンスCcがカップリング線路で構成されている。
【0068】
尚、図22で示される平面回路は、図23の中段の層(上層及び下層にグランドを有する3層構造のトリプレートストリップ線路の中層)として形成したものである。
また、使用するメタルの種類としては、金(Au)が伝導率等の面で優れているが、銅、アルミニウム、またはこれらの合金、或いは、これらを多層構造化したメタル等を使用することができる。
【0069】
図22中のHは、比誘電率が3.4の有機基板に内装された上記の中層から成る高周波回路300′自身の幅、Wはその長さを示しており、本第3実施例の高周波回路300′では、凡そH=4.54mm,W=11.6mmと成っている。また、上記のカップリングにより生成されるキャパシタンスCcの値は、0.02pF〜0.03pFである。この値Ccはカップリング長等により、適当に調整することができる。
【0070】
図22では、キャパシタンスCcを構成するカップリング線路の各線路幅を100μm、両線路間の隙間の幅(ギャップ)を50μmとし、a2=2.50mm,a3=1.79mmと設定することによりショートスタブを利用した接地回路B3のインダクタンスを生成し、かつ、その他のキャパシタンスをCa=Cb=0.5pFに設定したプロトタイプの模式的な回路図を図示している。図中のカップリング長a1は、例えば410μm程度で良い。
また、カップリング線路A,B(図20)に対応する部位のカップリングの各線路幅を110μm、カップリング長を3490μm、両線路間の隙間の幅(ギャップ)を50μmとした。また、キャパシタンスCa,Cb(合計4箇所)の各カップリングのカップリング長は1300μmm、線路幅は300μmであり、ギャップは50μmとした。
【0071】
図24は、この高周波回路300′の電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示する伝送特性のグラフである。3つのグラフは、上記のキャパシタンスCcの値が、それぞれ以下の場合のものである。
i)Cc=0.00pF(カップリング無し)
ii)Cc=0.02pF
iii)Cc=0.03pF
これらのキャパシタンスCcの値は、図中のカップリング長a1などにより所望の値に調整することができる。
【0072】
この電磁界シミュレーションの結果より、次のことが判る。
(1)キャパシタンスCcを設けることにより、伝送特性が急峻になる。
(2)キャパシタンスCcの値をパラメータとして、最も抑圧したい周波数(fn-1 またはfn+1 )をチューニングすることができる。
(3)キャパシタンスCcの値を変えても、伝送周波数fn の値は殆ど変化しない。
【0073】
また、例えば上記の高周波回路300′の様に、キャパシタンスCcの値を0.02pF〜0.03pFとした場合、4.9GHz付近に減衰極(抑圧したい周波数帯の略中心fn-1 )が設置されるため、例えば5.8GHz帯を使用するETC等のDSRCアプリケーションを実現する上で非常に有用となる。接近する4.9GHzは、現在屋外LAN等のアプリケーション等が現在研究・開発されている周波数帯域であり、例えば、これらの屋外LANアプリケーションと、上記の所望のETCシステムとの混信を回避するために、図23の設定(Cc=0.02pF〜0.03pF)は都合がよい。
【0074】
図25は、上記の高周波回路300′において、更に、以下の設定条件下で電磁界シミュレーションを行った際の伝送特性のグラフである。
(a)
Ca=0.5pF
Cb=0.5pF
Cc=0.03pF
(b)
Ca=0.5pF
Cb=0.6pF
Cc=0.03pF
【0075】
例えば、この様に、上記の高周波回路300′においても、キャパシタンスCbの値を変えることにより、伝送したい所望の周波数帯域(中心周波数fn )を調整することが可能である。この様な調整(チューニング)は、電気容量が動的或いは電子的に制御可能な可変コンデンサーを用いてダイナミックに実施しても良い。
即ち、本発明の第7或いは第8の手段によれば、所望の周波数帯を効率よく伝送すると共に、その伝送特性が急峻なバンドパスフィルタを容易かつ低コストで構成可能なことが判る。
【0076】
(応用理論4)
本応用理論4では、受信機やチューナ等に有用な更に高機能の「高周波回路用のスイッチング回路」を構成する応用理論について説明する。
この技術は、前述の本発明の第9及び第10の手段(請求項9、10)に基づいたものである。即ち、上記のスイッチング回路を直列或いは並列に複数接続することにより、高周波回路用の各種のスイッチング回路を構成することが可能或いは容易となる。
【0077】
例えば、本発明の「高周波回路用のスイッチング回路」(SPST)を多数並列に接続し、各SPSTの透過周波数帯の中心周波数を適当に変えて(例:等間隔に増減させて)並べれば、このスイッチング回路では、個々のスイッチングデバイスをそれぞれ独立にON/OFF制御することもできるので、これによりSPDT,SPTT等のより高次のスイッチング回路や、或いは、多チャンネル選択制御が容易な小型の受信機等を比較的簡単に構成することができる。
【0078】
また、上記のスイッチング回路を直列に複数接続することにより、より急峻な透過特性を持つバンドパスフィルタを容易に構成することができる。また、この様に直列接続されるスイッチング回路(SPST)は、可変容量の導入等により、各々その中心周波数や帯域幅を動的に任意に設定・変更することも可能なので、「高周波回路用のスイッチング回路」(SPST)を直列に複数接続し、更に、これらのSPST回路を並列に複数接続する等の応用により、一枚のカードの中に受信チューナー(無線機)を構成することも可能となる。
これらの組み合わせ(直列接続/並列接続)を構成する際には、必要に応じて、アンプ(トランジスタ)やアイソレータ(バッファ)等を随所に挿入する等の周知の高周波回路技術を用いることが望ましい。
【0079】
【発明の効果】
以上の本発明の作用(1.〜6.)から、前記の本発明の手段を用いれば、上記の作用原理に基づいた以下の効果が得られることが判る。
ただし、以下の(効果1)〜(効果6)については、主に本発明の「高周波回路用のスイッチング回路」の所望のバンドパスフィルタとしての構成や作用・効果等に関するものであり、(効果7)以降は、主に高周波用のスイッチ回路としての特性(例えば、信号遮断時のアイソレーション特性)や、受信機等への有効性等に関するものである。
【0080】
(効果1)
前述のスミス・チャート(図4)等からも分かる様に、本発明は、2ポート高周波回路(目的のバンドパスフィルタ)の特性を低インピーダンスに移行させる働きと、反射係数をスミス・チャートの内側に入れる働きとを実現するものであるので、従来から多用されてきた1/4波長線路よりも短い線路から構成することができる。このため、本発明の手段によれば、バンドパスフィルタの小型化が容易となる。
【0081】
(効果2)
例えば図1に例示されるバンドパスフィルタ100の様に、本発明の手段によれば、線路(金属パターンなど)のみでフィルタ回路を形成することができる。これにより、バンドパスフィルタを多層基板中に内装することも容易となる。また、本発明のバンドパスフィルタは、実装基板そのものの中に内装できるので、ボード上に実装面積を確保する必要がなく、更に、本発明のバンドパスフィルタが内装された実装基板の上に他の部品を実装することも可能である。
したがって、本発明のバンドパスフィルタを利用すれば、製品の省スペース化や低価格化が容易となる。
【0082】
(効果3)
例えば図1に例示されるバンドパスフィルタ100の様に、本発明の手段によれば、単一層の1平面上にフィルタ回路を形成することができる。したがって、有機基板を用いてフィルタ回路を形成する場合でも、基板の厚みに対するバラツキを設計時に考慮する必要がなくなる。また、基板の厚みに対するバラツキが回路特性に影響しないので、各個体間の回路特性に大きなバラツキが生じることもなく、よって、量産した場合でも安定した品質が期待できる。
【0083】
(効果4)
キャパシタンスCbを変化させれば、例えば図12に図示したインダクタンス成分の作用で横軸(実数軸)上に変換される周波数を変化させることができる。この時、結合線路(線路Aと線路Bによるカップリング)の結合度が弱いと、キャパシタンスCbを変化させてもフィルタ回路の反射係数のS11成分はあまり変化しない。したがって、伝播信号の周波数を幅広い周波数範囲内でチューニングすることができる。このため、本発明のバンドパスフィルタは、ソフトウェア無線機やマルチモード機のフロントエンド部分に有用である。
【0084】
また、Cbを変化させることによって、反射係数(S11)が影響を受けて、反射量が低下する場合にも、Caを変化させることで、この反射量の低下を抑止することかできる。したがって、更にこのような調整手段を備えれば、上記のチューニング範囲を更に拡大することが可能または容易となる。
【0085】
(効果5)
また、上層及び下層にグランドを有する3層構造のトリプレートストリップ線路の中層に上記の2ポート高周波回路を形成すれば、このバンドパスフィルタはグランドに挟まれているため放射しないと言う利点を得ることができる。即ち、本発明は、この様な利点を有するバンドパスフィルタの設計を極めて容易にする回路構造を与えるものである。
【0086】
(効果6)
また、左上回路A1と右上回路A2とをキャパシタンスCcで接続することにより、伝送すべき所望の周波数帯(中心周波数=fn )の前後に接近する別の周波数帯の略中心の周波数fn-1 、fn+1 (fn-1 <fn <fn+1 )の伝送を十分に抑圧することができ、これにより、伝送すべき所望の周波数帯の狭帯域化を効果的に実施することができる。
【0087】
したがって、この様な狭帯域化技術によれば、ノイズ等の不要な電波の除去が容易に実施できる。また、接近する別の周波数帯が他のアプリケーションによって使用されるケースが十分に考えられるため、今後この技術は、例えばこれらの通信の分野等で、非常に有用な手段になるものと期待できる。
また、左上回路A1と右上回路A2との間に設ける上記のキャパシタンスCcを可変とすることにより、透過させるべき所望の周波数帯の帯域幅等を運用時に動的に調整(最適化)することも可能となる。
【0088】
(効果7)
例えば図14に例示する様に、図1或いは図11のキャパシタンスCa,Cbをそれぞれ、抵抗とキャパシタンス(Ca,Cb)とにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成することにより、上記の各スイッチングデバイスをON状態に変更した場合には、スイッチング回路のOFF状態(信号遮断状態)として優れたアイソレーション特性を示す(例:図15)。
したがって、本発明の「高周波回路用のスイッチング回路」は、例えばASK変調器等にも使用することができる。
【0089】
(効果8)
また、上記のスイッチング回路を直列或いは並列に複数接続することにより、高周波回路用の各種のスイッチング回路を構成すること、更には、小型の受信機やチューナ等に有用な更に高機能の「高周波回路用のスイッチング回路」を構成すること等が可能或いは容易となる。
或いは、また、SPST回路を直列或いは並列に複数接続する等の各種の応用により、一枚のカードの中に受信チューナー(無線機)を構成することも可能となる。
【0090】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
(第1実施例)
図26は、本第1実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路1000)の論理的な構成を示す回路図である。この高周波回路1000は、図1の高周波回路100に対して、以下の改良を加えたものである。
【0091】
(改良1)
左上回路A1と右上回路A2とをキャパシタンスCcで接続した。
これにより、スイッチング回路(高周波回路1000)のON状態時に透過させたい所望の周波数帯域の帯域幅を狭く急峻に制限することができる。
【0092】
(改良2)
左上回路A1と右上回路A2の各キャパシタンスCaをも、抵抗とキャパシタンスCaとにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成した。
これにより、スイッチング回路のOFF状態時(信号遮断時)のアイソレーション特性が大幅に向上する。
【0093】
図27は、この高周波回路1000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフである。本グラフから上記の作用・効果を確認することができる。
【0094】
(第2実施例)
図28は、本第2実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路2000)の論理的な構成を示す回路図である。即ち、この高周波回路2000は、図1の高周波回路100に対して、上記の(改良2)は省略し、(改良1)だけを実施したものである。
【0095】
図29は、この高周波回路2000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフである。
本グラフから、上記の(改良2)を省略した場合、スイッチング回路のOFF状態時(信号遮断時)のアイソレーション特性が大幅に劣化するものの、この様な構成においても、本発明の手段により、素子として十分可用なバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路が製造できることが判る。
【0096】
(第3実施例)
図30は、本第3実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路3000)の論理的な構成を示す回路図である。本高周波回路3000は、上記の第1実施例の高周波回路1000(SPST)を2つ並列に接続することにより、SPDT回路を構成したものである。
【0097】
図31は、この高周波回路3000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフである。このグラフは、高周波回路3000の上段側(ポート2側)を構成するSPSTの制御電圧VCTL をOFF状態にし、且つ、下段側(ポート3側)を構成するSPSTの制御電圧VCTL をON状態にした時の伝送特性(挿入損失とアイソレーション)を示している。ただし、各スイッチングデバイスのOFF状態におけるキャパシタンス(Ca,Cb)は、全て0.24pFとした。
本グラフから、本発明の手段により、挿入損失が小さく急峻なフィルタリング特性を有し、且つ、優れたアイソレーション特性を備えたSPDT回路(バンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路)が容易に構成できることが判る。
【0098】
(第4実施例)
図32は、本第4実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路4000)の論理的な構成を示す回路図である。本高周波回路4000は、上記の第3実施例の高周波回路3000(SPDT)の各スイッチングデバイスを可変容量のタイプのものに変更したものである。
【0099】
図33は、この高周波回路4000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフであり、各スイッチングデバイスのOFF状態におけるキャパシタンス(Ca,Cb)を全て0.36pFとした時の伝送特性(挿入損失とアイソレーション)を示している。本グラフを図31のグラフと比較すれば、高周波回路4000における各可変容量を、Ca=Cb=0.24pFから、Ca=Cb=0.36pFに変更することにより、バンドパスフィルタ機能付きのSPDT回路(高周波回路4000)の伝送中心周波数が5.8GHzから5.2GHzに変化することが判る。
【0100】
即ち、各スイッチングデバイスのOFF状態におけるキャパシタンス(Ca,Cb)を可変とすることにより、所望の伝送中心周波数を容易に調整(チューニング)することができることが判る。また、この様な調整(チューニング)は、スイッチングデバイスを動的に制御することにより実施可能である。
【0101】
したがって、本発明の各種のスイッチング回路を直列或いは並列に複数接続することにより、高周波回路用の高機能なスイッチング回路を構成すること、例えば、小型の受信機やチューナ等に有用な更に高機能の「高周波回路用のスイッチング回路」を構成すること等が可能或いは容易である。また、SPST回路を直列或いは並列に複数接続する等の各種の応用により、一枚のカードの中に受信チューナー(無線機)を構成することも十分に可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わるバンドパスフィルタの論理的な1構成例(高周波回路100)を示す回路図。
【図2】本発明に係わる2ポート・バンドパスフィルタの理想的な位相条件を示すスミス・チャート。
【図3】本発明の着想を説明する回路図。
【図4】図3の回路の反射特性(Sa)に関するシミュレーション結果を例示するスミス・チャート。
【図5】本発明の着想を説明する回路図。
【図6】図5の回路におけるインダクタンス成分の反射特性(Sa)に対する効果を示すスミス・チャート。
【図7】本発明に係わるバンドパスフィルタの論理的な1構成例(高周波回路10)を示す回路図。
【図8】図5の回路(a)に、「位相条件1」を課した回路図。
【図9】図8の回路(a),(b)に対するスミス・チャート。
【図10】高周波回路10に係わるシミュレーション結果を具体的に例示するグラフ。
【図11】本発明に係わるバンドパスフィルタ(高周波回路100)の論理的な構成を示す回路図。
【図12】本発明に係わるバンドパスフィルタ(高周波回路100)の物理的な構成を示す平面図。
【図13】高周波回路100に係わる実験結果を具体的に例示するグラフ。
【図14】抵抗とキャパシタンス(Ca/Cb)とにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスを導入した、本発明の「高周波回路用のスイッチング回路」の論理的構成を例示する回路図。
【図15】図14の「高周波回路用のスイッチング回路」のフィルタ特性(シミュレーション結果)を例示するグラフ。
【図16】キャパシタンスCbを可変にした際の高周波回路(左半分)の構成例を示す回路図。
【図17】キャパシタンスCbを可変にした際の高周波回路(左半分)の作用を示すスミス・チャート。
【図18】接地回路B3をキャパシタで構成した際の高周波回路(左半分)の構成例を示す回路図。
【図19】接地回路B3をキャパシタで構成した際の高周波回路(左半分)の作用を示すスミス・チャート。
【図20】本発明の応用理論3に係わるバンドパスフィルタ(高周波回路300)の論理的な構成を示す回路図。
【図21】高周波回路300の(a)偶励振時に対応する論理的な回路構成を示す回路図、及び、(b)奇励振時に対応する論理的な回路構成を示す回路図。
【図22】本発明の応用理論3に係わるバンドパスフィルタ(高周波回路300′)の物理的な構成を示す平面図。
【図23】本発明の応用理論3に係わるバンドパスフィルタ(高周波回路300′)の物理的な構成を示す断面図。
【図24】高周波回路300′に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフ。
【図25】高周波回路300′に対する1変形例に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフ。
【図26】本発明の第1実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路1000)の論理的な構成を示す回路図。
【図27】高周波回路1000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフ。
【図28】本発明の第2実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路2000)の論理的な構成を示す回路図。
【図29】高周波回路2000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフ。
【図30】本発明の第3実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路3000)の論理的な構成を示す回路図。
【図31】高周波回路3000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフ。
【図32】本発明の第4実施例のバンドパスフィルタ機能付きのスイッチング回路(高周波回路4000)の論理的な構成を示す回路図。
【図33】高周波回路4000に係わる電磁界シミュレーションの結果を具体的に例示するグラフ。
【符号の説明】
1000,
2000,
3000,
4000 … 高周波回路用のスイッチング回路
100,
300,
300′,
10 … バンドパスフィルタ(2ポート高周波回路)
1 … ポート(Port1)
2 … ポート(Port2)
[S],S … S行列(散乱行列、特性行列等とも呼ばれる)
[P],P … S行列の固有ベクトルから成る行列
Sik… S行列の第i行第k列の成分(i=1,2;k=1,2)
λn … S行列の固有値(n=1,2)
j … 虚数単位
A … ポート1とキャパシタンスCaとを接続する線路
A1 … 左上回路
A2 … 右上回路
B0 … 下段回路
B1 … 左側に位置する接地回路
B2 … 右側に位置する接地回路
B3 … 中央に位置する接地回路
B … 接地回路B1と接地回路B3とを接続する線路
B′ … 接地回路B2と接地回路B3とを接続する線路
Ca … キャパシタンス
Cb … キャパシタンス
Cc … キャパシタンス
Sa … ポート2の反射係数
Sa* … Saの複素共役
VCTL … スイッチングデバイスの制御電圧
Claims (11)
- 左右に1つずつ入出力用のポートを有し、左右を分ける対称面に対して回路全体が少なくとも論理的には左右対称な2ポート高周波回路であって、
左上回路A1と、右上回路A2と、下段回路B0とを有し、
前記左上回路A1は、
左側に位置するポート1と、
片側が接地されたキャパシタンスCaと、
このキャパシタンスCaに前記ポート1を接続する線路Aとを有し、
前記右上回路A2は、
右側に位置するポート1′と、
片側が接地されたキャパシタンスCaと、
このキャパシタンスCaに前記ポート1′を接続する線路A′とを有し、
前記下段回路B0は、
左側に位置する接地回路B1と、
右側に位置する接地回路B2と、
中央に位置する接地回路B3と、
前記接地回路B1に前記接地回路B3を接続する線路Bと、
前記接地回路B2に前記接地回路B3を接続する線路B′とを有し、
前記線路Aと前記線路Bは、
少なくとも各一部が互いに略平行に配線されることにより、結合線路を構成しており、
前記接地回路B1、及び前記接地回路B2は、それぞれ、
抵抗とキャパシタンスCbとにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成されている
ことを特徴とする高周波回路用のスイッチング回路。 - 前記接地回路B3は、インダクタンスを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波回路用のスイッチング回路。 - 前記接地回路B3は、キャパシタンスを有する
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波回路用のスイッチング回路。 - 前記接地回路B1及びB2のキャパシタンスCbを可変とした
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の高周波回路用のスイッチング回路。 - 片側が接地された前記キャパシタンスCaを可変とした
ことを特徴とする請求項4に記載の高周波回路用のスイッチング回路。 - 片側が接地された前記キャパシタンスCaは、
抵抗とキャパシタンスCaとにデバイス特性が相互切換可能なスイッチングデバイスから構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の高周波回路用のスイッチング回路。 - 前記左上回路A1と前記右上回路A2とをキャパシタンスCcで接続した
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の高周波回路用のスイッチング回路。 - 前記キャパシタンスCcを可変とした
ことを特徴とする請求項7に記載の高周波回路用のスイッチング回路。 - 請求項1乃至請求項8の何れかに記載の高周波回路用のスイッチング回路を直列に接続したことを特徴とする高周波回路用のスイッチング回路。
- 請求項1乃至請求項9の何れかに記載の高周波回路用のスイッチング回路を並列に接続したことを特徴とする高周波回路用のスイッチング回路。
- 上層及び下層にグランドを有する3層構造のトリプレートストリップ線路の中層として形成した
ことを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の高周波回路用のスイッチング回路。
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JP2002022689A JP3807987B2 (ja) | 2002-01-31 | 2002-01-31 | 高周波回路用のスイッチング回路 |
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