JP6213830B2 - 樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体 - Google Patents

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Description

本発明は、高い導電性を有する樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体に関し、電気電子材料から高性能樹脂材料、特に、二次電池等の集電体に用いられる樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体に関する。
従来、樹脂の導電性を改善する方法として、優れた電気的特性を有するCNT(Carbon nanotube:カーボンナノチューブ)を樹脂に含有する方法が知られている。このような方法により得られた樹脂複合体は、ファイバー、フィルム、シート、部品形状等に成形及び加工することにより利用されている。
ところで、特許文献1及び2に開示されているように、CNTにイオン液体を含有することで、導電性を維持し、かつ、加工性を備えたゲル状組成物または機能性を備えた糸などの、CNTを基材としたCNT複合材料が開発されている。近年では、基材となる樹脂の導電性を向上させるために、基材となる樹脂に、CNT以外にもイオン液体を活用することが試みられている。
特許文献1には、CNTに対する重量比で100倍以上のイオン液体を使用することにより、導電性と加工性とを兼ね備えたCNTを基材としたゲル状組成物を得る方法が開示されている。特許文献2には、アスペクト比が1000以上、好ましくは10000以上のCNTを用い、CNTの重量に対して0.001〜2倍程度のイオン液体を用い、エチレンカーボネートなどの分散液にCNTとイオン液体とを混合させた後、この溶媒を揮発させることにより、導電性と機能性とを兼ね備えたCNTを基材とした糸を得る方法が開示されている。特許文献3には、フッ素ゴムなどのゴムを基材として、CNTとともに0質量%を超え40質量%以下のイオン性液体に含有することにより、伸長性と導電性を兼ね備えたCNT組成物を製造する方法が開示されている。また、分散性が良く、高導電性及び高い伸長率を得るために、好ましくは長さが1μm〜10cmのCNTを用いることが開示されている。特許文献4には、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)に対して、平均直径70nm、長さ50〜100μmのカーボンナノフィラー(例えば、単層CNT)の表面をイオン性化合物で処理した約0.01〜約30重量%の修飾カーボンナノフィラーと、イオン液体と、を含有することにより、引張特性(弾性率、伸び率及び引張強さ)や靱性を向上させる方法が開示されている。
特開2004−142972号公報 特開2010−168678号公報 国際公開第2009/102077号 特表2011−506645号公報
ここで、これらの方法では、樹脂の導電性がCNTの混合量に大きく影響される。CNTの混合量を多くすると、樹脂の導電性が大きくなるが、CNTが高価であるため、材料コスト、ひいては製造コストが高くなる。一方、CNTの混合量を少なくすると、樹脂の導電率が低くなるとともに、樹脂中にCNTが偏在して、部位による樹脂の特性のバラツキが発生してしまう。また、このような樹脂複合体の製造には、多くの化学的工程が要求される。このため、製造工程の管理が煩雑となり、製造コストが高くなる。
基材として樹脂でなくゴムを用いた場合では、所望の導電性が得られない虞がある。本発明者は、創意検討を重ねた結果、基材としてゴムでなく樹脂を用いた場合、0質量%を超え40質量%以下であるイオン液体と、その長さが1μm以上10cm以下であるCNTとを含有したとしても、所望の導電性が得られないことを見出した。
前記した課題に照らして、本発明は、基材となる樹脂に添加するCNTの量が少量であっても、高い導電性を有し、また、樹脂の特性を低下させることなく、部位による樹脂の特性のバラツキが生じることがない樹脂複合体を、簡易な工程で得ることができる樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体を提供することを目的とする。
本発明に係る樹脂複合体の製造方法の一態様によれば、前記樹脂複合体の製造方法は、基材となる樹脂と、その平均外径が1.5nm以上100nm未満、かつ、アスペクト比が50以上10000未満であるCNTと、イオン液体とを、前記樹脂の融点以上の温度で混合することを特徴とする。
このような場合、CNTの添加量が少なくても、高い導電性を有する樹脂複合体を得ることができる。また、基材となる樹脂の特性をその利用に対して問題となるような影響を及ぼすことなく、製造工程に要する時間が短縮される。その結果、高い導電性を有する樹脂複合体を得るとともに、製造コストが抑制される。
また、本発明は、別の側面で樹脂複合体である。本発明に係る樹脂複合体の一形態によれば、前記樹脂複合体は、その線形(平均外径)は100nm未満であり、かつ、そのアスペクト比が50以上10000未満であるCNTと、イオン液体と、を備えていることを特徴とする。
本発明によれば、基材となる樹脂に添加するCNTの量が少量であっても、高い導電性を有し、また、樹脂の特性をその利用に対して問題となるような影響を及ぼすことなく、部位による樹脂の特性のバラツキが抑えられた樹脂複合体を簡易な工程で得る樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体が提供される。
図1は、本発明に係る樹脂複合体の製造方法の一実施の形態を説明するためのフロー図である。
以下、本発明に係る樹脂複合体の一実施の形態について、詳細に説明する。本発明に係る樹脂複合体は、導電性を有し、高分子樹脂と、前記高分子樹脂に含有されるCNTと、前記高分子樹脂に浸透してCNTと導電性経路を形成するイオン液体と、を備えている。
高分子樹脂としては、後述するイオン液体が樹脂のマトリクス構造内に浸透できる高分子樹脂であれば用いることができる。前記高分子材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン(PB)、これらのランダム共重合体、これらのブロック共重合体又はそれらの組合せからなるオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)等のビニル樹脂;スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等のゴム系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)等のアクリル樹脂;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン−ジエン・スチレン樹脂(AES樹脂)等;及びそれらの混合物が挙げられる。これらのうち、その入手性、汎用性、製造工程でのハンドリング性等の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ポリプロピレン共重合体、これらのランダム共重合体、これらのブロック共重合体又はそれらの組合せからなるオレフィン樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂が好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。
イオン液体としては、幅広い温度領域にて良好な溶解状態を呈する塩であれば用いることができる。前記塩を構成するカチオンには、イミダゾール(C342)、ピリジン(C55N)、ピロリジン(C49N)、三級アミン、これらを四級化したイミダゾリウム系、ピリジウム系、ピロリジウム系、アンモニウム系等を用いることができる。前記塩を構成するアニオンには、ヘキサフルオロリン酸(HPF6)、テトラフルオロホウ酸(HBF4)、ビスイミド酸、トリフルオロ酢酸(C2HF32)等を用いることができる。これらのうち、イオン液体としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート(BMIBF4)が好ましい。1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートは、その工業的な入手性が容易であるとともに、部分的にマイナス電荷を帯びたCNTとの親和性が良好であるため、イオン液体中にCNTを高分散性させ、CNTとイオン液体との導電経路(以降、導電パスともいう)をより多く形成することができる。
イオン液体の前記樹脂に対する添加量は、樹脂を100重量%とした場合、0.15重量%以上40重量%以下の範囲内であることが好ましく、15重量%であることがより好ましい。0.15重量%以上40重量%以下の範囲内であれば、樹脂に対してCNTを分散させるとともに、樹脂複合体内でのCNT間の導電経路にイオン液体を多数且つ的確に介入させて樹脂複合体の導電性を向上させることができる。イオン液体の添加量が0.15重量%未満であると、樹脂に対してCNTが偏在する虞があり、CNT間の導電経路にイオン液体を十分に介入させることもできない。イオン液体の添加量が40重量%を超えると、樹脂とイオン液体との混合体の形状を保持することが難しくなり、その混錬又は成形を実施することが難しくなる。
CNTは、同軸管状構造を有し、単層構造又は多層構造のどちらでも用いることができる。また、CNTとともに、CNF(Carbon Nanofiber:カーボンナノファイバー)、GS(Graphene Sheet:グラフェンシート)又はGN(Graphite Nanoparticles:グラファイトナノ粒子)を用いることが好ましい。CNF、GS又はGNを用いた場合、CNTとCNF、GS又はGNとの導電経路を形成できるとともに、イオン液体と導電経路を形成するための表面積が大きくなるため、CNT(又はCNF、GS若しくはGN)とイオン液体との導電経路を多く形成することができる。
CNTの線径は、1.5nm以上100nm未満であることが好ましく、1.5nm以上65nm以下であることがより好ましい。なお、本明細書における「CNTの線径」とはCNTの平均外径をいう。CNTの線径が1.5nm未満である場合、撹拌又は混錬工程までの取り扱いが難しくなる。CNTの線径が100nmを超える場合、撹拌、混錬又は成形の際にCNTが破断する可能性が高くなり、且つ、その形状を保持することが難しくなる。
CNTのアスペクト比は、50以上10000未満が好ましく、67以上1000未満がより好ましく、67以上200以下がさらに好ましい。なお、本明細書における「アスペクト比」とは、線長と線径(平均外径)の比をいう。CNTのアスペクト比が50未満である場合、樹脂の部位による導電性のバラツキが生じやすくなる。CNTのアスペクト比が1000を超える場合、特に10000を超える場合、撹拌、混錬又は成形の際にCNTが破断する可能性が高くなり、その形状を保持することが難しくなり、且つ、樹脂に対して効果的に導電性を付与することが困難となる。
CNTの樹脂に対する添加量は、樹脂複合体が導電性を発現する範囲で添加することができるが、CNTの添加量は、樹脂を100重量%とした場合、0.5重量%以上約40重量%以下の範囲内であることが好ましく、1.0重量%以上約40重量%以下の範囲内がより好ましい。CNTの添加量が0.5重量%未満であると、樹脂の一部位にCNTが偏在する虞があり、その樹脂複合体の部位による導電性のバラツキが生じやすくなる。CNTの添加量が40重量%を超えると、混錬に要する時間が増加し、且つ、成形が困難となる。
以上の構成の樹脂複合体について、全体としての流れを説明することにより、本発明に係る樹脂複合体の製造方法の一実施の形態を説明する。なお、本実施の形態では、公知の攪拌機、混錬機及び成形機を用いることができる。このような成形機としては、例えばプレス成形機を用いることができる。
図1は、本発明に係る樹脂複合体の製造方法の一実施の形態を説明するためのフロー図を示している。図1に示すように、CNTとイオン液体を混合して、混合物を得る。続いて、得られた混合物を撹拌することにより混合体を得る(第一の工程:S1)。撹拌には、公知の撹拌装置を用いることができる。本工程により、撹拌によるCNT構造の破壊又は破断を防ぐとともに、高い分散性を有する混合体を得ることができる。また、イオン液体内にCNTが良好に分散されて、CNTとイオン液体との導電パスを確実に形成することができる。
本工程では、撹拌装置を用いずに、CNTにイオン液体を混ぜるだけで混合体を作製することができる。この場合でも、高い導電性を有する樹脂複合体を得ることができる。
本工程では、CNTに加えて、CNF、GS又はGNをイオン液体に加えて混合物を得ることができる。続いて、得られた混合物を撹拌することにより混合体を得る(第一の補助工程:S1’)。この場合、CNTとCNF、GS又はGNとの導電経路を形成できるとともに、イオン液体と導電経路を形成するための表面積が大きくなるため、CNT(又はCNF、GS若しくはGN)とイオン液体との導電経路を多く形成することができる。
前記混合体を、前記樹脂の融解温度以上で樹脂内に混錬することにより、樹脂複合体を得る(第二の工程:S2)。混錬条件は、樹脂により異なるが、温度が210℃、回転速度が30rpm、実施時間が15分以上30分以下である。この場合、混錬によるCNTの構造の破壊又は破断を防ぐことができる。
本工程では、第一の工程(S1)により混合体を作製せずに、樹脂に対して、CNT及びイオン液体を直接的に添加することにより、樹脂複合体を作製してもよい(第二の補助工程:S2’)。本実施の形態に用いる樹脂に対するCNTの添加量は極めて少量であるため、樹脂本来の特性はその利用に対して問題となるような影響を及ぼすことはない。これにより、第一の工程(S1)を省略して製造工程を削減し、製造コストを低減できる。
本工程では、第一の工程(S1)により混合体を作製せずに、樹脂に対して、CNT及びイオン液体に加えて、CNF、GS又はGNを直接的に添加することにより、樹脂複合体を作製することができる。この場合、CNTとCNF、GS又はGNとの導電経路を形成できるとともに、イオン液体と導電経路を形成するための表面積が大きくなるため、CNT(又はCNF、GS若しくはGN)とイオン液体との導電経路を多く形成することができる。
前記樹脂複合体に対して、プレス成形を行うことにより、樹脂複合体の成形体を得る(第三の工程:S3)。より具体的には、加熱により樹脂複合体を所定の粘度まで可塑化して、金型内にてプレスして、金型とともに冷却して固化することにより、成形体を得ることができる。プレス成形により成形体を形成することにより、ポリプロポリレン(PP)等の熱可塑性樹脂を扱う製造工程にて良好なハンドリング性を示し、且つ、製造コストを比較的低くすることができる。プレス成形の成形条件は、材料により異なるが、成形温度は180℃以上210℃以下であり、成形圧力は10MPaである。
このようにして製造された成形体は、更なる要求に応じて、ファイバー、フィルム、シート、部品形状等に加工される。このように加工された成形体(成形品)は、二次電池、上記形状を有する発熱体、静電除去シート、電子材料運搬用トレイ、プライマーレス静電塗装部品、センサ、アクチュエータ等へ利用することができる。これらのうち、前記成形体は、二次電池等の集電体に利用される。二次電池に使用されるセパレータや電極の表面に圧着、接着等に利用すると、電解液との親和性及びイオン導電性の向上を図ることができる。
CNTを基材としたCNT複合材料を樹脂に混合するという従来の方法(特に、特許文献1、2等の方法)では、CNTの混合量を多くすると導電性が大きくなり、CNTの混合量を少なくすると導電性が小さくなる。CNTの混合量が多い場合、樹脂にCNTが添加されるため、樹脂の特性が変化してしまう。高価なCNTの混合量が多くなるため、材料コストが高くなる。また、樹脂とCNTとを均質化するための混錬工程の時間が長くなり、製造コストが高くなる。CNTの混合量が少ない場合、樹脂の導電率が低くなる。また、樹脂中にCNTが偏在して、部位による樹脂の特性のバラツキが発生してしまう。これにより、機械的性質が低下する可能性が高くなる。このように、従来の方法(特に、特許文献1、2等の方法)には、難点があった。
これに対し、本実施の形態によれば、基材となる樹脂に、所定範囲の平均外径とアスペクト比を有するCNTを、100重量%の樹脂に対して1重量%と少量を添加することにより、高い導電性を有する樹脂複合体を得ることができる。これにより、樹脂に添加するCNTの添加量を少なくできる。その結果、樹脂の特性変化を最小限に抑えることができる。高価なCNTの添加量を削減できるため、材料コストの向上を抑制することができる。また、樹脂とCNTとを均質化するための混練の時間を削減できる。したがって、製造コストが低減される。
また、CNTとイオン液体とを樹脂中に分散させる際、例えば、撹拌工程又は混錬工程の際、CNTと親和性の高いイオン液体の存在により、樹脂中のCNTの分散性が向上させることができる。これにより、樹脂中にCNTが偏在することなく、少量のCNTを添加させた場合に、部位による樹脂の特性にバラツキを生じることを防ぐとともに、機械的性質の低下を防ぐことができる。CNT、イオン液体及び樹脂を混合して得られた樹脂複合体では、CNTと親和性の高いイオン液体が樹脂中に良好に分散されたCNT間に多数且つ的確に介在することにより、CNTとイオン液体との組合せによる導電パスが多数且つ的確に形成される。イオン液体による樹脂中でのCNTの分散性の向上及び樹脂中でのCNTとイオン液体との相互作用により、樹脂複合体の導電性を向上させることができる。
基材としてゴムを用い、CNTとともに0質量%を超え40質量%以下のイオン性液体に含有するという従来の方法(特に、特許文献3等の方法)では、製造工程にて弾性体であるゴムを溶解するために、例えば、メチルイソブチルケトン(MIBK)などの有機溶剤を用いる必要がある。さらに、基材として樹脂を用いた場合、0質量%を超え40質量%以下であるイオン液体と、その長さが1μm以上10cm以下であるCNTとを含有した場合、所望の導電性が得られない。このように、従来の方法(特に、特許文献3等の方法)には、難点があった。
これに対し、本実施の形態では、イオン液体と、所定範囲内の平均外径とアスペクト比を有するCNTとを加えることにより、樹脂複合体の表面抵抗率を低下させることができる。その結果、高い導電性を有する樹脂複合体を得ることができる。
修飾カーボンナノフィラーを用いる従来の方法(特に、特許文献4等の方法)では、多くの複雑な製造工程が要求される。例えば、70℃のデカリン(C1018)中で1時間音波処理をした後、洗浄し、その後、24時間真空乾燥を実施する物理的な処理;酸性混合物中で処理して酸化カーボンナノフィラーとした後、1時間音波処理し、ヘキサフルオロリン酸(HPF6)水溶液を攪拌しながら加えて、混合物を2層に分離する選択的物修飾な処理;及び化学的な処理(グラフト化)が必要となる。すなわち、工程管理が煩雑であり、製造コストが高くなる。このように、従来の方法(特に、特許文献4等の方法)には、難点があった。
これに対し、本実施の形態では、基材となる樹脂と、所定の平均外径とアスペクト比を有するCNTと、イオン液体とを混合するのみで、高い導電性を有して均質な樹脂複合体を得ることができる。すなわち、CNTとイオン液体との撹拌工程を省略することができる。これにより、樹脂複合体を得るための工程は混錬工程のみとすることができる。その結果、工程管理を容易にし、製造コストを低減することができる。
また、樹脂複合体がイオン液体を備えることによって、樹脂複合体又はその成形体の表面に粘調性を付与させることができる。これにより、前記樹脂複合体又はその成形体が他のものと接触させる場合、前記他のものとの密着性を向上することができる。
なお、本実施の形態では、成形方法としてプレス成形を例示したが、本発明はこれに限定されない。成形体の成形方法として、トランスファ成形、射出成形、押出成形、ブロー成形、カレンダ成形、真空成形、粉末成形、積層成形等を用いることができる。これにより、より多様な用途及び機能を要する部品等に対して対応することが可能となる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明に係る樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体は下記実施例によって制限されない。
実施例1〜5及び比較例2〜4の各例では、それぞれ、線径及び線長の異なるCNTを用いて、イオン液体を含むサンプルとイオン液体を含まないサンプルとの計2種のサンプルを作製した。比較例1では、CNTを用いずに、イオン液体を含むサンプルとイオン液体を含まないサンプルとの計2種のサンプルを作製した。なお、線径と線長に幅があるCNTについては、それらの平均外径及び平均長さを線径及び線長とした。イオン液体を含まない場合は、図1に示すS1とS2'においてイオン液体を添加しない方法であり、以下の実施例ではS1でイオン液体を含まず作製した。
<使用装置/使用条件>
所定量のCNTとイオン液体とを分取して撹拌するために、攪拌装置として自転・公転ミキサー(ARE−250:株式シンキー)を用いた。撹拌及び脱泡条件は、回転数を500rpmとし、回転時間を5分とした。CNT及びイオン液体の混合物を樹脂の融点以上の温度で混練するために、混錬機(東洋精機製作所製、AL150、ラボプラストミル)を用いた。混錬条件は、温度を210℃とし、実施時間を15〜30分間とし、回転速度を30rpmとした。また、所定の金型を使用してプレス法により成形体を作製するために、圧縮成形機(神藤金属工業所製、NF−37)を用いた。成形条件は、温度を180〜210℃とし、圧力を10MPaとした。
<評価方法>
例毎に所定の厚さを有するシート及びフィルムを作製し、その表面抵抗率を評価した。表面抵抗率の測定は、製抵抗率計(ハイレスタMCP−HT210、三菱油化エンジニアリング)を用いて、二探針プローブ(HAタイプ)により実施された。前記測定方法は、JIS−K6911に規定されている。表面抵抗の評価は、実施例1〜5及び比較例1〜4で作製された各サンプルの表面抵抗率を、等間隔を空けた6箇所で測定することにより実施した。
[実施例1]
予めCNTとイオン液体を攪拌装置で混合した混合体を、ペレット状のポリプロピレンとともに混練機で20分混練した。混合体の量は少量であるため、混練機には、初めにポリプロピレンを投入した後、混合体を投入して混錬した。その後、混練機から粘調な樹脂複合体を取り出し、200℃で1分間プレス成形し、冷却部に型と共に成形体を移して、100mm×80mm×3〜4mmのシート形状に成形することにより、イオン液体を含むサンプルを作製した。また、同様の方法でイオン液体を用いずCNTをペレット状のポリプロピレンとともに混練機で20分混練した。混合体の量は少量であるため、混練機には、初めにポリプロピレンを投入した後、混合体を投入して混錬した。その後、混練機から粘調な樹脂複合体を取り出し、200℃で1分間プレス成形し、冷却部に型と共に成形体を移して、100mm×80mm×3〜4mmのシート形状に成形することにより、イオン液体を含まないサンプルを作製した。本例では、線径65nm、アスペクト比100以上のCNTと1-ブチル-3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを使用し、ポリプロピレンに対して、CNTは1重量%、イオン液体は15重量%とした。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(A)」とした。
[実施例2]
本例では、線径40nm、アスペクト比200以上のCNTと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを使用し、ポリプロピレン100重量%に対してCNTは1重量%、イオン液体は15重量%とした。これらの材料より、実施例1と同様の作製方法を用いて、混合体及び成形体を作製した。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(B)」とした。
[実施例3]
本例では、線径1.5nm、アスペクト比67以上のCNTと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを使用し、ポリプロピレン100重量%に対してCNTは1重量%、イオン液体は15重量%とした。これらの材料より、実施例1と同様の作製方法を用いて、混合体及び成形体を作製した。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(C)」とした。
[実施例4]
線径10nm、且つ、アスペクト比100以上のCNTと、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを使用し、ポリプロピレン100重量%に対してCNTは1重量%、イオン液体は15重量%とした。これらの材料より、実施例1と同様の作製方法を用いて、混合体及び成形体を作製した。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(D)」とした。
[実施例5]
本例では、攪拌装置を使用せず、すなわち、撹拌工程を行わずにサンプルを作製した。より具体的には、CNTにイオン液体を混合した混合体を、ペレット状のポリプロピレンと混練機で20分混練した。混合体は添加物で少量のため、混練機には、はじめにポリプロピレンを投入し、その後混合体を投入した。その後、混練機から粘調な複合体を取り出し、200℃で1分間プレス成形し、冷却部に型と共に成形体を移し、100mm×80mm×3〜4mmのシート形状に成形した。線径10nm、且つ、アスペクト比100以上のCNTと、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを使用し、ポリプロピレン100重量%に対してCNTは1重量%、イオン液体は15重量%とした。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(A')」とした。
[比較例1]
本例では、CNTを使用せずにサンプルを作製した。より具体的には、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体とポリプロピレンのみを使用した。CNTの添加量は、ポリプロピレン100重量%に対してCNTは1重量%とした。なお、本例では、イオン液体を使用しないため混合体の作製工程は実施しなかった。これらの材料より、実施例1と同様の作製方法を用いて、成形体を作製した。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(無)」とした。
[比較例2]
本例では、線径150nm、アスペクト比100以上のCNTと1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを使用した。ポリプロピレン100重量%に対してCNTは1重量%とし、イオン液体は15重量%とした。これらの材料より、実施例1と同様の作製方法を用いて、成形体を作製した。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(E)」とした。
[比較例3]
本例では、線径150nm、アスペクト比40以上のCNT、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを用いた。ポリプロピレン100重量%に対して、CNTは1重量%とし、イオン液体は15重量%とした。これらの材料より、実施例1と同様の作製方法を用いて、成形体を作製した。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(F)」とした。
[比較例4]
本例では、線径100nm、アスペクト比40以上のCNT、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレートのイオン液体及びポリプロピレンを用いた。ポリプロピレン100重量%に対して、CNTは1重量%とし、イオン液体は15重量%とした。これらの材料より、実施例1と同様の作製方法を用いて、成形体を作製した。本例で作製されたサンプル名を「ポリプロピレンCNT(G)」とした。
実施例1〜5及び比較例1〜4にて作製したポリプロピレンCNT(A)〜ポリプロピレンCNT(G)の表面抵抗率を測定した結果を表1に示す。
Figure 0006213830
表1より、実施例1として作製したポリプロピレンCNT(A)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、ほとんどが測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えていた。一方、イオン液体がある場合、その表面抵抗率は、1.6×107Ω/□〜5.8×108Ω/□の範囲内であり、非常に低い値であった。すなわち、イオン液体がある場合、ポリプロピレンCNT(A)は、非常に優れた導電性を有し、且つ、成形体の部位によるバラツキも小さかった。
実施例2として作製したポリプロピレンCNT(B)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、ほとんどが、測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えていた。一方、イオン液体がある場合、その表面抵抗率は、3.4×1010Ω/□〜4.7×1011Ω/□の範囲内であり、非常に低い値であった。すなわち、イオン液体がある場合、ポリプロピレンCNT(B)は、非常に優れた導電性を有し、且つ、成形体の部位によるバラツキも小さかった。
実施例3として作製したポリプロピレンCNT(C)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、ほとんどが、測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えていた。一方、イオン液体がある場合、その表面抵抗率は、2.1×109Ω/□〜3.9×1010Ω/□の範囲内であり、非常に低い値であった。すなわち、イオン液体がある場合、ポリプロピレンCNT(C)は、非常に優れた導電性を有し、且つ、成形体の部位によるバラツキも小さかった。
実施例4として作製したポリプロピレンCNT(D)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、ほとんどが、測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えていた。一方、イオン液体がある場合、その表面抵抗率は、2.6×1010Ω/□〜1.8×1011Ω/□の範囲内であり、非常に低い値であった。すなわち、イオン液体がある場合、ポリプロピレンCNT(D)は、非常に優れた導電性を有し、且つ、成形体の部位によるバラツキも小さかった。
実施例5として作製したポリプロピレンCNT(A')では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、ほとんどが、測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えていた。一方、イオン液体がある場合、その表面抵抗率は、2.0×107Ω/□〜6.6×108Ω/□の範囲内であり、非常に低い値であった。すなわち、イオン液体がある場合、ポリプロピレンCNT(A')は、非常に優れた導電性を有し、且つ、成形体の部位によるバラツキも小さかった。
比較例1として作製したポリプロピレンCNT(無し)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、すべて測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を超えた。イオン液体がある場合、イオン液体の導電性により表面抵抗率が低い値を示す部位もあるが、9×1012Ω/□を超える部位もあり、成形体の部位による表面抵抗率のバラツキが大きかった。
比較例2として作製したポリプロピレンCNT(E)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、すべて測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えた。イオン液体がある場合でも、その表面抵抗率は、1.3×1011Ω/□〜5.3×1012Ω/□の範囲内であり、バラツキが大きく低い値を示さなかった。すなわち、CNTとイオン液体がある場合でも、ポリプロピレンCNT(E)は、顕著な導電性を示さなかった。
比較例3として作製したポリプロピレンCNT(F)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、すべて測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えた。イオン液体がある場合でも、その表面抵抗率は、1.3×1011Ω/□〜1.7×1012Ω/□の範囲内であり、バラツキが大きく低い値を示さなかった。すなわち、CNTとイオン液体がある場合でも、ポリプロピレンCNT(F)は、顕著な導電性を示さなかった。
比較例4として作製したポリプロピレンCNT(G)では、イオン液体がない場合、その表面抵抗率は、すべて測定器の測定限界値である9×1012Ω/□を越えた。イオン液体がある場合でも、その表面抵抗率は、9.8×1010Ω/□〜3.5×1012Ω/□の範囲内であり、バラツキが大きく低い値を示さなかった。すなわち、CNTとイオン液体がある場合でも、ポリプロピレンCNT(G)は、顕著な導電性を示さなかった。
実施例1〜5の結果より、CNTとイオン液体とを混合した場合、成形体は、部位によるバラツキの少ない、非常に優れた導電性を有することがわかった。この結果は、イオン液体が、樹脂に対するCNTの分散性及び導電パスの向上に寄与したためと考えられる。また、実施例1〜4及び実施例5の結果より、攪拌装置を使用せずに形成した成形体、すなわち、撹拌工程を行わずに形成した成形体でも、部位によるバラツキの少ない、非常に優れた導電性を有することがわかった。
実施例1〜5及び比較例1の結果より、樹脂にCNTを添加することにより、成形体の導電性が向上することがわかった。特に、100重量%樹脂に対して、1重量%のCNTを添加するだけで、成形体の導電性が著しく向上することがわかった。
実施例1〜5及び比較例2〜3の結果より、CNTの線径が1.5nm以上100nm未満であれば、成形体は、バラツキの少なく、優れた導電性を示すことがわかった。特に、CNTの線径が1.5nm以上65nm以下であれば、成形体は、部位によるバラツキの少ない、大変優れた導電性を示すことがわかった。
実施例1〜5及び比較例3〜4の結果より、CNTのアスペクト比が50以上であれば、成形体は、バラツキの少なく、優れた導電性を示すことがわかった。特に、CNTのアスペクト比が67以上であれば、成形体は、部位によるバラツキの少ない、大変優れた導電性を示すことがわかった。
実施例1〜5及び比較例1〜4の結果より、成形体は、イオン液体を含有して、CNTの平均外径が1.5nm以上100nm未満、かつ、アスペクト比が50以上であれば、特に、CNTの平均外径が1.5nm以上65nm以下、かつ、アスペクト比が67以上であれば、樹脂の部位によるバラツキの少ない、大変優れた導電性を示すことがわかった。
実施例1〜5及び比較例2〜4の結果より、CNTの平均長さは、成形体の導電性に寄与しないことがわかった。特に、CNTの平均長さが0.1μm以上15μm以下の範囲内で、CNTの平均長さが成形体の導電性に大きく寄与しないことがわかった。
本発明に係る樹脂複合体の製造方法及び樹脂複合体によれば、基材となる樹脂に添加するCNTの量が少量であっても、高い導電性を有して、かつ、樹脂の特性をその利用に対して問題となるような影響を及ぼすことなく、部位による樹脂の特性のバラツキを抑えられる樹脂複合体を、簡易な工程で得ることができる。
S1 第一の工程
S1’ 第一の補助工程
S2 第二の工程
S2’ 第二の補助工程
S3 第三の工程

Claims (2)

  1. 基材となる樹脂と、平均外径が1.5nm以上65nm以下、かつ、アスペクト比が67以上10000未満であり、100重量%の前記樹脂の重量に対して0.5〜40重量%のCNTと、イオン液体とを、前記基材となる樹脂の融点以上の温度で混合する樹脂複合体の製造方法であって、
    前記CNTと前記イオン液体とを撹拌せず混ぜるだけで混合体を作製し、混錬機を用いて前記混合体をペレット状の樹脂と混練することを特徴とする樹脂複合体の製造方法。
  2. カーボンナノファイバー、グラフェンシートまたはグラファイトナノ粒子を混合する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の樹脂複合体の製造方法。
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