以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、車両としての三輪車及び四輪車について説明する。
図2は本発明の第1の実施の形態における三輪車の側面図、図3は本発明の第1の実施の形態における三輪車の背面図、図4は本発明の第1の実施の形態における車輪移動機構の概念図である。
図において、10は三輪車、18は路面であり、前記三輪車10は、車体Bd、及び該車体Bdに対して回転自在に配設された三つの車輪12F、12L、12Rを備える。車輪12Fは、三輪車10の前後方向における一端側、本実施の形態においては、前端側に配設されて第1の車輪を構成し、車輪12L、12Rは、三輪車10の前後方向における他端側、本実施の形態においては、後端側に配設されて一対の第2の車輪を構成する。また、車輪12Fは、三輪車10の前端側において一つだけ配設されるので、後述されるトレッドが0であり、車輪12L、12Rは、三輪車10の後輪側において対で配設されるので、トレッドwr(図6)が車輪12Fより大きくされる。
前記車体Bdは、乗員である運転者が搭乗するための搭乗部11、該搭乗部11と車輪12Fとを連結する操舵軸としての前輪フォーク17、前記搭乗部11より後方に配設され、搭乗部11を支持する支持部20、前記搭乗部11より前方に配設され、運転者が三輪車10を操縦するための操縦装置41、前記支持部20の下方に配設され、所定の車輪、本実施の形態においては、車輪12L、12Rを三輪車10の前後方向に移動させる車輪移動機構43等を備える。
そして、前記支持部20、車輪移動機構43、車輪12L、12R等によって本体部61が、車輪12F、前輪フォーク17、操縦装置41等によって、三輪車10を操舵するための操舵部が構成される。
前記車輪12Fは、車体Bdの前端側における所定の位置、本実施の形態においては、三輪車10の幅方向における中央に、前記前輪フォーク17に対して回転自在に配設され、前輪として、かつ、操舵用の車輪(操舵輪)として機能する。
前記車輪12Fのハブに、車輪12Fに加わる荷重、すなわち、輪荷重fFを検出する前輪用の輪荷重検出部としての輪荷重センサ54が配設される。また、車輪12Fの車軸に、後述される車速検出部としての車速センサ75(図11)が配設され、該車速センサ75によって三輪車10の車速vが検出される。
そして、車輪12L、12Rは、車体Bdの後端側における所定の位置、本実施の形態においては、三輪車10の幅方向における左右の両端に、前記支持部20に対して回転自在に、かつ、三輪車10の前後方向において移動自在に配設され、後輪として、かつ、走行用の車輪(駆動輪)として機能する。そのために、前記車輪12L、12Rには、それぞれ、三輪車10を走行させるための走行用の駆動部としての駆動モータ51L、51Rが配設され、該駆動モータ51L、51Rを駆動することによって車輪12L、12Rが回転させられ、三輪車10の駆動力が発生させられて、三輪車10が路面18上を走行させられる。駆動モータ51L、51Rは、それぞれ車輪12L、12R内に収容され、インホイールモータを構成する。そして、前記車輪12L、12Rのハブに、車輪12L、12Rに加わる荷重、すなわち、輪荷重fL、fRを検出する後輪用の輪荷重検出部としての輪荷重センサ15L、15Rが配設される。なお、Lhは、車輪12L、12Rを基準位置に置いたときの、車輪12Fの車軸と各車輪12L、12Rの車軸との距離、すなわち、ホイールベースである。
本実施の形態においては、前記駆動モータ51L、51Rとして、速度制御、トルク制御等が可能なサーボモータが使用されるが、他の種類のモータを使用することができる。また、本実施の形態においては、車輪12L、12Rが駆動輪とされ、駆動モータ51L、51Rがそれぞれ車輪12L、12R内に収容されるようになっているが、車輪12Fを駆動輪として、駆動モータを車輪12Fに配設したり、各車輪12F、12L、12Rを駆動輪として、駆動モータを各車輪12F、12L、12Rに配設したりすることができる。
さらに、駆動モータを車体Bdにおける所定の箇所に配設し、駆動モータと車輪12L、12Rとを連結したり、駆動モータと車輪12Fとを連結したり、駆動モータと車輪12F、12L、12Rとを連結したりすることもできる。
前記搭乗部11は、運転者が着座するための部位である座席11a、該座席11aより前方に配設され、運転者の足を置くための部位である搭乗部本体としての、かつ、床部材としてのフットレスト11b、該フットレスト11bの前端から斜めに立ち上げて配設された前支持部としてのフロントアーム11c、及び前記座席11aの後端から上方に向けて立ち上げて配設された背もたれ部11dを備える。なお、本実施の形態において、三輪車10は一人乗り用とされ、搭乗部11に運転者だけが搭乗することができるようになっているが、搭乗部11を広くして運転者及び他の乗員を搭乗させたり、搭乗部11の後方の車輪12L、12Rの上に補助搭乗部を形成し、該補助搭乗部に他の乗員を搭乗させたりすることができる。
また、前記前輪フォーク17は、例えば、付勢部材としてのスプリングが内蔵されたテレスコピックタイプのフォークによって形成され、サスペンション装置(懸架装置)として機能する。
そして、前記操縦装置41は、三輪車10の進行方向を変えたり、三輪車10を旋回させたりするための第1の操作部としての、かつ、操舵部材としてのハンドルバー41a、速度メータ、インジケータ等の表示要素としての図示されないメータ類、始動スイッチ、ボタン等の操作要素としての図示されないスイッチ類等を備える。なお、前記ハンドルバー41aに代えて、第1の操作部としての、かつ、操舵部材としてのステアリングホイール、ジョグダイヤル、タッチパネル、押しボタン等を配設することができる。
また、前記フロントアーム11cの上端には、操舵軸支持部としての図示されないステムホルダが、上端を下端より後方に位置させ、傾斜させた状態で一体に形成され、前記ステムホルダによって前記ハンドルバー41a、前輪フォーク17、車輪12F等が揺動自在に支持される。したがって、運転者が前記ハンドルバー41aを操作して回動させると、前輪フォーク17及び車輪12Fは、前記ハンドルバー41aの回動に応じて所定の実舵角(スリップ角)δで回動させられ、三輪車10の進行方向を変える。
なお、前記ハンドルバー41aには、三輪車10を発進させたり、加速させたりするための第2の操作部としての、かつ、加速操作部材としての図示されないアクセルグリップ、及び三輪車10を減速(制動も含む。)させたり、停止させたりするための第3の操作部としての、かつ、第1の減速操作部材としての図示されないブレーキレバーが配設される。前記アクセルグリップに代えて、前記フットレスト11bに加速操作部材としてのアクセルペダルを配設することもできる。また、前記フットレスト11bには、三輪車10を減速させるための第4の操作部としての、かつ、第2の減速操作部材としての図示されないブレーキペダル等が配設される。
前記操縦装置41には、運転者による前記ハンドルバー41aの操作量、すなわち、操舵量としての操舵角を検出する操舵量検出部としての図示されない舵角センサ、車輪12Fと三輪車10の走行方向との成す角度、すなわち、前記実舵角δを検出する後述される実舵角検出部としての実舵角センサ76(図11)、運転者による前記アクセルグリップの操作量である加速操作量としてのアクセル操作値を検出する加速操作量検出部としての図示されないアクセルセンサ、運転者による前記ブレーキレバー及びブレーキペダルの操作量である減速操作量としてのブレーキ操作値を検出する減速操作量検出部としての図示されないブレーキセンサ等が配設される。なお、前記操舵角は、三輪車10に対して要求される要求旋回量を表す。
そして、三輪車10の所定の箇所に、後述される角速度検出部としての、かつ、ヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ78(図11)が配設され、該ヨーレートセンサ78はヨーレートγを検出する。該ヨーレートγは、三輪車10を旋回させたときの、車体Bdに対して鉛直方向に延びる軸線を回転中心として三輪車10が回転する回転角、すなわち、ヨー角の変化率であり、角速度で表される。なお、前記ヨーレートセンサ78は、例えば、ジャイロセンサから成り、三輪車10が停止しているときの、水平な地面に対して平行な方向の平面内での前記角速度を検出することができるように取り付けられる。
前記車輪移動機構43は、車体Bdにおける両縁の近傍において、車輪12L、12Rと隣接させて配設された車輪保持部材としてのレール52L、52R、該レール52L、52Rに対して摺動自在に、かつ、車体Bdに対して前後方向に移動自在に配設され、それぞれ車輪12L、12R及び駆動モータ51L、51Rを保持する摺動部材としてのスライダ55L、55R、車輪12L、12Rを前後方向に移動させるための車輪移動用の駆動部としての車輪移動モータ60L、60R、前記スライダ55L、55Rと車輪移動モータ60L、60Rの出力軸68とを連結する連結部材としての伸縮自在のリンク63L、63R等を備える。
該リンク63L、63Rは、前記出力軸68に取り付けられたシリンダ65、該シリンダ65内において移動自在に配設されたピストン66、ピストンロッド67、前記スライダ55L、55Rとピストンロッド67とを揺動自在に連結するピン69等を備える。なお、前記シリンダ65内は、ピストン66によってヘッド側の室とロッド側の室とに分割され、両室内に作動流体としての油が収容され、リンク63L、63Rの伸縮に伴って油が両室間を移動する。
図4に示される状態において、前記リンク63L、63Rは収縮させられていて、車輪12L、12Rは基準位置に置かれ、車輪移動モータ60L、60Rを正方向に駆動し、出力軸68を矢印A、A’方向に回転させると、リンク63L、63Rが伸長しながら回転させられ、スライダ55L、55Rがレール52L、52R上を前方に移動させられる。その結果、車輪12L、12Rが前進させられる。また、車輪移動モータ60L、60Rを逆方向に駆動し、出力軸68を矢印B、B’方向に回転させると、リンク63L、63Rが収縮しながら回転させられ、スライダ55L、55Rがレール52L、52R上を後方に移動させられる。その結果、車輪12L、12Rが後退させられ、基準位置に置かれる。
なお、本実施の形態においては、車輪移動モータ60L、60R側にシリンダ65が、スライダ55L、55R側にピストンロッド67が連結されるようになっているが、車輪移動モータ60L、60R側にピストンロッド67を、スライダ55L、55R側にシリンダ65を連結することができる。
また、本実施の形態においては、車輪移動モータ60L、60Rを駆動することによって車輪12L、12Rが移動させられるようになっているが、図示されない油圧回路によって前記シリンダ65内の両室に選択的に油を供給し、リンク63L、63Rを伸縮させ、車輪12L、12Rを移動させることができる。その場合、シリンダ65、ピストン66、ピストンロッド67等によって車輪移動用の駆動部が構成される。
ところで、前記構成の三輪車10は、四輪車と比べると、旋回安定性が低い。そこで、本実施の形態においては、三輪車10の旋回安定性が低くならないように、旋回時に、車輪12L、12Rのうちの所定の車輪が、三輪車10の重心点に向けて移動させられるようになっている。
図5は四輪車の限界加速度を説明するための参考図、図6は本発明の第1の実施の形態における三輪車の限界加速度を説明するための図である。
図5において、10’は四輪車、12FL、12FR、12RL、12RRは四輪車10’の車輪、Cg’は四輪車10’の重心点、wrは四輪車10’の車輪12RL、12RRの各車軸間の距離を表すトレッドであり、該トレッドは車輪12FL、12FRの各車軸間の距離と等しい。
また、図6において、10は三輪車、12F、12L、12Rは三輪車10の車輪、Cgは三輪車10の重心点、Lhは三輪車10の車輪12Fの車軸と車輪12L、12Rの車軸との距離、すなわち、ホイールベース、Lfは三輪車10の車輪12Fの車軸と重心点Cgとの距離、Lrは三輪車10の車輪12L、12Rの各車軸間と重心点Cgとの距離、wrは三輪車10の車輪12L、12Rの各車軸間の距離を表すトレッドである。
ところで、例えば、四輪車10’を旋回させるときに、四輪車10’に旋回中心から径方向外方に向けて遠心力が発生し、それに伴って、四輪車10’に、横方向、すなわち、旋回中心から径方向外方に向けて横加速度α’が加わる。このとき、車輪12FL、12FR、12RL、12RRのうちの旋回中心から離れた側の車輪、すなわち、旋回外輪を中心にして、重力加速度gと横加速度α’とが釣り合うと、四輪車10’を横転させることなく、安定させて旋回させることができる。
そして、四輪車10’を安定させて旋回させることができる最大の横加速度α’を限界加速度αmax’とし、路面18(図2)から重心点Cg’までの距離、すなわち、四輪車10’の重心点Cg’の高さをhcとしたとき、限界加速度αmax’は、
αmax’=(wr/2hc)・g ……(1)
になる。
また、同様に、例えば、三輪車10を旋回させるときに、三輪車10に旋回中心から径方向外方に向けて遠心力が発生し、それに伴って、三輪車10に、横方向、すなわち、旋回中心から径方向外方に向けて横加速度αが加わる。このとき、車輪12L、12Rのうちの旋回中心から離れた側の車輪、すなわち、旋回外輪を中心にして、重力加速度gと横加速度αとが釣り合うと、三輪車10を横転させることなく、安定させて旋回させることができる。
そして、三輪車10を安定させて旋回させることができる最大の横加速度αを限界加速度αmaxとし、路面18から重心点Cgまでの距離、すなわち、三輪車10の重心点Cgの高さをhcとしたとき、限界加速度αmaxは、
αmax=(wr/2hc)・(Lf/Lh)・g
=(wr/2hc)・(Lf/(Lf+Lr)・g ……(2)
になる。
すなわち、三輪車10の旋回に伴って三輪車10に加わる横加速度αが限界加速度αmaxより小さい場合は、旋回外輪を中心にして、重力加速度gと横加速度αとが釣り合うので、三輪車10を安定させて旋回させることができる。したがって、三輪車10の旋回安定性を高くすることができる。
ここで、前記式(2)において、距離Lrを小さくすると、限界加速度αmaxが大きくなることが分かる。例えば、旋回外輪を重心点Cgの位置まで前進させ、距離Lrを0にすると、限界加速度αmaxは、
αmax=(wr/2hc)・(Lf/Lf)・g
=(wr/2hc)・g ……(3)
になり、四輪車10’の限界加速度αmax’と等しくなり、三輪車10の旋回安定性を四輪車10’の旋回安定性と等しくすることができる。
そこで、本実施の形態においては、三輪車10の旋回時に、旋回外輪を重心点Cgに向けて所定の量だけ移動、本実施の形態においては、前進させることによって、三輪車10の旋回安定性を高くするようにしている。
次に、三輪車10の制御装置の動作について説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態における三輪車の制御ブロック図、図7は本発明の第1の実施の形態における三輪車の動作を示すフローチャート、図8は本発明の第1の実施の形態における移動量マップの例を示す図、図9は本発明の第1の実施の形態における車輪移動機構の動作を説明するための図である。
図において、71は三輪車10の全体の制御を行う制御部、72は第1の記憶装置としてのRAM、73は第2の記憶装置としてのROM、54は車輪12Fに加わる輪荷重fFを検出する輪荷重センサ、15Lは車輪12Lに加わる輪荷重fLを検出する輪荷重センサ、15Rは車輪12Rに加わる輪荷重fRを検出する輪荷重センサ、75は車速vを検出する車速センサである。
また、59は車輪移動モータ60L、60Rを駆動するためのインバータ装置等から成る駆動回路としてのモータ駆動部、70L、70Rは車輪移動モータ60L、60Rのロータの回転角度θL、θRを検出する回転角度検出部としてのレゾルバである。なお、レゾルバに代えてエンコーダを使用することができる。
前記制御部71は、後述される増加輪荷重ΔfL、ΔfRを算出する増加輪荷重算出部91、三輪車10が旋回しているかどうかを判断する旋回判定部92、三輪車10の重心点Cgの位置を算出する重心点位置算出部93、旋回外輪を移動させることが可能な最大の移動量、すなわち、最大移動量kmaxを算出する最大移動量算出部94、移動係数Cを算出する移動係数算出部95、旋回外輪の移動量を算出する移動量算出部96、リンク63L、63R(図4)の回転角度φL、φRを算出するリンク回転角度算出部97、及び車輪移動モータ60L、60Rを駆動し、リンク63L、63Rを回転角度φL、φRだけ回転させ、旋回外輪を前進させる車輪移動部98を備える。
次に、三輪車10の動作について説明する。
まず、増加輪荷重算出部91は、増加輪荷重算出処理を行い、輪荷重fL、fRを読み込むとともに、RAM72から基準輪荷重fsL、fsRを読み出し、車輪12L、12Rごとの輪荷重fL、fRの増加量、すなわち、増加輪荷重ΔfL、ΔfR
ΔfL=fL−fsL
ΔfR=fR−fsR
を算出する(ステップS1)。
なお、基準輪荷重fsL、fsRは、三輪車10が停止しているときに車輪12L、12Rに加わる荷重であり、あらかじめ増加輪荷重算出部91によって読み込まれ、RAM72に記録される。
ここで、三輪車10の停止時に、各車輪12L、12Rに加わる輪荷重fL、fRは等しい。これに対して、三輪車10を旋回させるときは、三輪車10に遠心力が発生し、三輪車10に横加速度αが加わり、その結果、車輪12L、12Rのうちの旋回外輪に加わる荷重は、旋回中心に近い側の車輪、すなわち、旋回内輪に加わる荷重より大きくなる。すなわち、三輪車10を左方に旋回させるときは、輪荷重fRが輪荷重fLより大きくなり、三輪車10を右方に旋回させるときは、輪荷重fLが輪荷重fRより大きくなる。
次に、前記旋回判定部92は、旋回判定処理を行い、増加輪荷重ΔfL、ΔfRの差の絶対値を増加輪荷重差ΔfLRとしたとき、該増加輪荷重差ΔfLR
ΔfLR=|ΔfL−ΔfR|
が閾値fth以上であるかどうかによって三輪車10が旋回しているかどうかを判断する(ステップS2)。前記旋回判定部92は、増加輪荷重差ΔfLRが閾値fth以上である場合、三輪車10が旋回していると判断し、増加輪荷重差ΔfLRが閾値fthより小さい場合、三輪車10が旋回していないと判断する。
また、旋回判定部92は、増加輪荷重ΔfL、ΔfRのうちのどちらの増加輪荷重が大きいかによって旋回方向を判定する。すなわち、前記旋回判定部92は、増加輪荷重ΔfLが増加輪荷重ΔfRより大きい場合、三輪車10が右方に旋回していると判断し、増加輪荷重ΔfRが増加輪荷重ΔfLより大きい場合、三輪車10が左方に旋回していると判断する。
ところで、三輪車10の旋回時における重心点Cgの位置が変化すると、それに応じて三輪車10の旋回安定性が変化する。そこで、前記重心点位置算出部93は、重心点位置算出処理を行い、重心点Cgの位置を算出する(ステップS3)。
この場合、重心点Cgの位置は、運転者によって前記アクセルグリップ、アクセルペダル等が操作され、三輪車10が加速されているかどうか、又は運転者によって前記ブレーキレバー、ブレーキペダル等が操作され、三輪車10が減速させられているかどうかによって表される三輪車10の前後方向の加速度、すなわち、前後加速度βによって三輪車10の前後方向に変化するだけでなく、運転者の姿勢及び体重、三輪車10に搭載された荷物の重量及び搭載位置等によっても三輪車10の前後方向に変化する。
そこで、前記重心点位置算出部93は、輪荷重fF、fL、fRを読み込み、輪荷重fFに基づいて三輪車10の前輪に加わる荷重、すなわち、前輪荷重ΣfA
ΣfA=fF
を算出し、輪荷重fL、fRに基づいて三輪車10の後輪に加わる荷重、すなわち、後輪荷重ΣfB
ΣfB=fL+fR
を算出する。
続いて、前記重心点位置算出部93は、前輪荷重ΣfA及び後輪荷重ΣfBに基づいて、重心点Cgの位置を算出する。そのために、前記重心点位置算出部93は、前記ROM73に配設された図示されない重心点位置マップを参照し、前輪荷重ΣfA及び後輪荷重ΣfBに対応する重心点Cgの位置を算出する。
次に、最大移動量算出部94は、旋回外輪を移動させることが可能な最大移動量kmaxを算出する(ステップS4)。この場合、前述されたように、前記式(2)において、旋回外輪を重心点Cgの位置まで前進させたときの限界加速度αmaxは、四輪車10’の限界加速度αmax’と等しくなる。そこで、前記最大移動量算出部94は、重心点Cgの位置を読み込み、三輪車10の車輪12L、12Rの各車軸間と重心点Cgとの距離Lrを最大移動量kmaxとして算出する。
なお、前記重心点位置算出部93は、前記距離Lh、前輪荷重ΣfA及び後輪荷重ΣfBに基づいて、重心点Cgの位置を、車輪12L、12Rの車軸間からの距離Lr
Lr=Lh・ΣfA/(ΣfA+ΣfB)
によって算出することができ、その場合、最大移動量算出部94は、最大移動量kmaxを
kmax=Lr
=Lh・ΣfA/(ΣfA+ΣfB)
にする。
続いて、前記移動係数算出部95は、移動係数算出処理を行い、増加輪荷重算出部91によって算出された増加輪荷重ΔfL、ΔfR、及び最大移動量算出部94によって算出された最大移動量kmaxを読み込み、移動係数C
C=ΔfL/kmax
C=ΔfR/kmax
を算出し(ステップS5)、前記RAM72に、前記移動係数Cに基づいて、図8に示されるような、重心点Cgの位置に応じた移動量マップを作成する。該移動量マップには、増加輪荷重ΔfL、ΔfRと旋回外輪の移動量kL、kRとが対応させて記録される。なお、最大移動量kmaxが大きいほど移動係数Cは小さくなり、最大移動量kmaxが小さいほど移動係数Cは大きくなる。
次に、前記移動量算出部96は、移動量算出処理を行い、輪荷重fL、fRに基づいて移動量kL、kRを算出する(ステップS6)。
すなわち、前記移動量算出部96は、三輪車10が左方に旋回している場合、増加輪荷重算出部91によって算出された増加荷重ΔfRを読み込み、前記移動量マップを参照し、旋回外輪である車輪12Rにおける増加輪荷重ΔfRに対応する移動量kRを読み出すことによって算出する。
そして、リンク回転角度算出部97は、リンク63Rが図4に示される基準位置に置かれているときのリンク63Rの長さsRをRAM72から読み出すとともに、前記移動量算出部96によって算出された移動量kRを読み込み、リンク63Rの回転角度φR
φR=tan- (kR/sR)
を算出する(ステップS7)。
続いて、前記車輪移動部98は、車輪移動処理を行い、リンク回転角度算出部97によって算出された回転角度φRを読み込み、モータ駆動部59に送る。該モータ駆動部59は、車輪移動モータ60Rを回転角度φRだけ矢印A’方向(図4)に駆動し、リンク63Rを回転させ、図9に示されるように、車輪12Rを重心点Cgに向けて移動量kRだけ前進させる(ステップS8)。なお、車輪移動モータ60Rの実際の回転角度はレゾルバ70Rによって検出され、制御部71に送られ、フィードバック制御が行われる。
また、前記移動量算出部96は、三輪車10が右方に旋回している場合、増加輪荷重算出部91によって算出された増加輪荷重ΔfLを読み込み、前記移動量マップを参照し、旋回外輪である車輪12Lにおける増加輪荷重ΔfLに対応する移動量kLを読み出すことによって算出する。
そして、前記リンク回転角度算出部97は、リンク63Lが図4に示される基準位置に置かれているときのリンク63Lの長さsLをRAM72から読み出すとともに、前記移動量算出部96によって算出された移動量kLを読み込み、リンク63Lの回転角度φL
φL=tan- (kL/sL)
を算出する(ステップS7)。
続いて、前記車輪移動部98は、リンク回転角度算出部97によって算出された回転角度φLを読み込み、モータ駆動部59に送る。該モータ駆動部59は、車輪移動モータ60Lを回転角度φLだけ矢印A方向に駆動し、リンク63Lを回転させ、車輪12Lを前進させる(ステップS8)。なお、車輪移動モータ60Lの実際の回転角度はレゾルバ70Lによって検出され、制御部71に送られ、フィードバック制御が行われる。
本実施の形態において、前記移動量算出部96は、増加輪荷重ΔfRに応じて移動量kLを、増加輪荷重ΔfLに応じて移動量kRを算出するようにしているが、輪荷重センサ15L、15Rによって検出された輪荷重fL、fRの差Δfに応じて移動量kL、kRを算出することができる。その場合、移動係数算出部95は、差Δf及び最大移動量kmaxを読み込み、移動係数C
C=Δf/kmax
を算出し、RAM72に、前記移動係数Cに基づいて、重心点Cgの位置に応じた移動量マップを作成する。該移動量マップには、輪荷重fL、fRの差Δfと旋回外輪の移動量kL、kRとが対応させて記録される。
このように、本実施の形態においては、輪荷重fL、fRに加わる輪荷重fL、fRが検出され、輪荷重fL、fRのうちの輪荷重が大きい方の車輪が、三輪車10の重心点Cgに向けて移動させられるので、旋回時等において限界加速度を大きくすることができる。したがって、三輪車10を安定させて走行させることができる。
なお、本実施の形態においては、前述されたように、三輪車10の旋回時に、旋回外輪に加わる輪荷重が大きくなったときに、旋回外輪を重心点Cgに向けて前進させ、旋回安定性が低くならないようにしているが、三輪車10を直進走行させているとき、すなわち、直進走行時も、路面18の窪みに車輪12L、12Rのうちのいずれか一方が落下したり、三輪車10の側方から横風を受けたり、路面18が三輪車10の左右に傾斜したりすると、三輪車10に、三輪車10の横方向、すなわち、窪みに落下した車輪側、横風の下流側、傾斜した路面18の低い側等に向けて横加速度が加わり、三輪車10の直進走行時の安定性(以下「走行安定性」という。)が低くなってしまう。
その場合、路面18の窪みに落下した車輪、横風の下流側の車輪、及び傾斜した路面18の低い側の車輪に加わる輪荷重が他方の車輪に加わる輪荷重より大きくなる。
そこで、三輪車10に加わる横加速度を表すベクトルの終点側の車輪、すなわち、輪荷重が大きい方の車輪を重心点Cgに向けて前進させることによって、三輪車10の走行安定性が低くならないようにすることが考えられる。
その場合、旋回安定性が低くならないようにする場合と同様に、増加輪荷重算出部91によって増加輪荷重ΔfL、ΔfRが算出され、重心点位置算出部93によって三輪車10の重心点Cgの位置が算出され、最大移動量算出部94によって、輪荷重が大きい方の車輪を移動させることが可能な最大移動量kmaxが算出され、移動係数算出部95によって移動係数Cが算出され、移動量算出部96によって輪荷重が大きい方の車輪の移動量が算出され、リンク回転角度算出部97によってリンク63L、63Rの回転角度φL、φRが算出され、車輪移動部98によって、車輪移動モータ60L、60Rが駆動され、リンク63L、63Rが回転角度φL、φRだけ回転させられ、輪荷重が大きい方の車輪が前進させられる。
したがって、路面18の窪みに車輪12L、12Rのうちのいずれか一方が落下したり、三輪車10の側方から横風を受けたり、路面18が三輪車10の左右に傾斜したりしても、三輪車10の走行安定性が低くなるのを防止することができる。
なお、本実施の形態においては、三輪車10の前端側に一つの車輪12Fが、三輪車10の後端側に二つの車輪12L、12Rが配設されるようになっているが、三輪車10の前端側に二つの車輪を、三輪車10の後端側に一つの車輪を配設することができる。
その場合、三輪車10の後端側に配設された一つの車輪は、三輪車10の前後方向における一端側に配設された第1の車輪を構成し、三輪車10の前端側に配設された二つの車輪は、三輪車10の前後方向における他端側に配設された一対の第2の車輪を構成する。また、三輪車10の後端側に配設された一つの車輪のトレッドは0であり、三輪車10の前端側に配設された二つの車輪のトレッドは0より大きい。
ところで、三輪車10において、車輪12L、12Rを中央の一つの車輪に置き換えて、三輪車10の運動を二輪モデルの平面運動に簡略化することができる。そこで、二輪モデルによって、旋回時に三輪車10に加わる横加速度αを算出し、横加速度αに応じて旋回外輪を前進させるようにした本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
図10は本発明の第2の実施の形態における二輪モデルを示す図、図11は本発明の第2の実施の形態における三輪車の制御ブロック図、図12は本発明の第2の実施の形態における三輪車の動作を示すフローチャート、図13は本発明の第2の実施の形態における移動量マップの例を示す図である。
図10において、12Bは車輪12L、12Rが置き換えられた一つの車輪(後輪)、Cgは重心点、δは実舵角、γはヨーレート、vは車速、zは横速度、Lfは三輪車10の車輪12Fの車軸と重心点Cgとの距離、Lhはホイールベース、Lrは三輪車10の車輪12Bの車軸と重心点Cgとの距離、αは横加速度である。
前記二輪モデルにおいて、横速度zの時間変化率をdz/dtとし、実舵角δの時間変化率をdδ/dtとし、車速vの時間変化率をdv/dtとすると、横加速度αは、
α=(dz/dt)+v・γ
≒(Lr/Lh)・v・(dδ/dt)+(v2 /Lh)・δ+(Lr/Lh)・(dv/dt)・δ ……(4)
になる。
また、図11において、71は三輪車10の全体の制御を行う制御部、72は第1の記憶装置としてのRAM、73は第2の記憶装置としてのROM、54は車輪12Fに加わる輪荷重fFを検出する前輪用の輪荷重検出部としての輪荷重センサ、15Lは車輪12Lに加わる輪荷重fLを検出する後輪用の輪荷重検出部としての輪荷重センサ、15Rは車輪12Rに加わる輪荷重fRを検出する後輪用の輪荷重検出部としての輪荷重センサ、75は車速vを検出する車速検出部としての車速センサ、76は実舵角δを検出する実舵角検出部としての実舵角センサ、78はヨーレートγを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサである。
前記制御部71は、前記横加速度αを取得、すなわち、算出する横加速度取得部としての横加速度算出部101、三輪車10が旋回しているかどうかを判断する旋回判定部92、三輪車10の重心点Cgの位置を算出する重心点位置算出部93、旋回外輪を移動させることが可能な最大の移動量、すなわち、最大移動量kmaxを算出する最大移動量算出部94、移動係数Cを算出する移動係数算出部95、旋回外輪の移動量を算出する移動量算出部96、連結部材としてのリンク63L、63R(図4)の回転角度φL、φRを算出するリンク回転角度算出部97、及び車輪移動用の駆動部としての車輪移動モータ60L、60Rを駆動し、リンク63L、63Rを回転角度φL、φRだけ回転させ、旋回外輪を前進させる車輪移動部98を備える。
次に、三輪車10の動作について説明する。
まず、横加速度算出部101は、横加速度取得処理としての横加速度算出処理を行い、横速度z、車速v、ヨーレートγ及び実舵角δを読み込み、横速度zの時間変化率dz/dt、実舵角δの時間変化率dδ/dt、及び車速vの時間変化率dv/dtを算出する。
続いて、前記横加速度算出部101は、ホイールベースLh、距離Lr、車速v、実舵角δ、及び時間変化率dδ/dt、dv/dtに基づいて、前記式(4)で横加速度αを算出する(ステップS11)。
本実施の形態において、横加速度αは前記横加速度算出部101によって算出されるようになっているが、三輪車10の所定の箇所に取り付けられた横加速度取得部としての、かつ、横加速度検出部としての横加速度センサによって横加速度を取得(検出)することができる。
次に、前記旋回判定部92は、実舵角δを読み込み、実舵角δが閾値δthより大きいかどうかによって三輪車10が旋回しているかどうかを判断するとともに、実舵角δのセンサ出力が正の値であるか、負の値であるかによって、三輪車10が左方に旋回しているか右方に旋回しているかを判断する(ステップS12)。
そして、前記重心点位置算出部93は、輪荷重fF、fL、fRを読み込み、輪荷重fFに基づいて三輪車10の前輪に加わる荷重、すなわち、前輪荷重ΣfA
ΣfA=fF
を算出し、輪荷重fL、fRに基づいて三輪車10の後輪に加わる荷重、すなわち、後輪荷重ΣfB
ΣfB=fL+fR
を算出する。
続いて、前記重心点位置算出部93は、前輪荷重ΣfA及び後輪荷重ΣfBに基づいて、重心点Cgの位置を算出する(ステップS13)。そのために、前記重心点位置算出部93は、前記ROM73に配設された重心点位置マップを参照し、前輪荷重ΣfA及び後輪荷重ΣfBに対応する重心点Cgの位置を算出する。
次に、最大移動量算出部94は、旋回外輪を移動させることが可能な最大移動量kmaxを算出する(ステップS14)。そのために、前記最大移動量算出部94は、重心点Cgの位置を読み込み、三輪車10の車輪12L、12Rの各車軸間と重心点Cgとの距離Lrを最大移動量kmaxとして算出する。
続いて、前記移動係数算出部95は、横加速度算出部101によって算出された横加速度α及び最大移動量算出部94によって算出された最大移動量kmaxを読み込み、移動係数C
C=α/kmax
を算出し(ステップS15)、前記RAM72に、前記移動係数Cに基づいて、図13に示されるような、重心点Cgの位置に応じた移動量マップを作成する。該移動量マップには、横加速度αと旋回外輪の移動量kL、kRとが対応させて記録される。なお、最大移動量kmaxが大きいほど移動係数Cは小さくなり、最大移動量kmaxが小さいほど移動係数Cは大きくなる。
次に、前記移動量算出部96は、三輪車10が左方に旋回している場合、横加速度算出部101によって算出された横加速度αを読み込み、前記移動量マップを参照し、旋回外輪である車輪12Rにおける横加速度αに対応する移動量kRを読み出すことによって算出する(ステップS16)。
そして、前記リンク回転角度算出部97は、リンク63Rが図4に示される基準位置に置かれているときのリンク63Rの長さsRをRAM72から読み出すとともに、前記移動量算出部96によって算出された移動量kRを読み込み、リンク63Rの回転角度φR
φR=tan- (kR/sR)
を算出する(ステップS17)。
続いて、前記車輪移動部98は、リンク回転角度算出部97によって算出された回転角度φRを読み込み、駆動回路としてのモータ駆動部59に送る。該モータ駆動部59は、車輪移動モータ60Rを回転角度φRだけ矢印A’方向(図4)に駆動し、リンク63Rを回転させ、図9に示されるように、車輪12Rを重心点Cgに向けて移動量kRだけ移動させ、前進させる(ステップS18)。
また、前記移動量算出部96は、三輪車10が右方に旋回している場合、横加速度αを読み込み、前記移動量マップを参照し、旋回外輪である車輪12Lにおける横加速度αに対応する移動量kLを読み出すことによって算出する(ステップS16)。
そして、前記リンク回転角度算出部97は、リンク63Lが図4に示される基準位置に置かれているときのリンク63Lの長さsLをRAM72から読み出すとともに、前記移動量算出部96によって算出された移動量kLを読み込み、リンク63Lの回転角度φL
φL=tan- (kL/sL)
を算出する(ステップS17)。
続いて、前記車輪移動部98は、リンク回転角度算出部97によって算出された回転角度φLを読み込み、モータ駆動部59に送る。該モータ駆動部59は、車輪移動モータ60Lを回転角度φLだけ矢印A方向に駆動し、リンク63Lを回転させ、車輪12Lを移動させ、前進させる(ステップS18)。
ところで、前記各実施の形態においては、例えば、旋回時に、旋回外輪を前進させることによって旋回安定性が低くならないようにしているが、旋回外輪を前進させると、見かけのホイールベースが、旋回外輪を基準位置に置いたときのホイールベースLhより小さくなるので、旋回半径が小さくなり、ステアリング特性がオーバステアになってしまう。
そこで、車輪12L、12Rのうちの一方の車輪を前進させる際に、他方の車輪を後退させるようにした本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1、第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
図14は本発明の第3の実施の形態における車輪移動機構の概念図、図15は本発明の第3の実施の形態における車輪移動機構の動作を説明するための図である。
図において、43は車輪移動機構であり、該車輪移動機構43は、車体Bdにおける両縁の近傍において、車輪12L、12Rと隣接させて配設された車輪保持部材としてのレール52L、52R、該レール52L、52Rに対して摺動自在に、かつ、車体Bdに対して前後方向に移動自在に配設され、それぞれ車輪12L、12R及び駆動モータ51L、51Rを保持する摺動部材としてのスライダ55L、55R、車輪12L、12Rを前後方向に移動させるための車輪移動用の駆動部としての車輪移動モータ60、前記スライダ55L、55Rと車輪移動モータ60の出力軸68とを連結する連結部材としての伸縮自在のリンク63L、63R等を備える。
該リンク63L、63Rは、前記出力軸68に取り付けられたシリンダ65、該シリンダ65内において移動自在に配設されたピストン66、ピストンロッド67、前記スライダ55L、55Rとピストンロッド67とを揺動自在に連結するピン69等を備える。なお、前記シリンダ65内は、ピストン66によってヘッド側の室とロッド側の室とに分割され、両室内に作動流体としての油が収容され、リンク63L、63Rの伸縮に伴って油が両室間を移動する。
図14に示される状態において、前記リンク63L、63Rは収縮させられていて、車輪12L、12Rは基準位置に置かれ、車輪移動モータ60を正方向に駆動し、出力軸68を矢印A方向に回転させると、リンク63L、63Rは伸長しながら回転させられ、スライダ55Rはレール52R上を前方に移動させられ、スライダ55Lはレール52L上を後方に移動させられる。その結果、図15に示されるように、車輪12Rが重心点Cgに向けて移動、本実施の形態においては、前進させられ、車輪12Lが逆方向に移動、本実施の形態においては、後退させられる。また、車輪移動モータ60を逆方向に駆動し、出力軸68を矢印B方向に回転させると、リンク63L、63Rは収縮しながら回転させられ、スライダ55Rはレール52R上を後方に、スライダ55Lはレール52L上を前方に移動させられる。その結果、車輪12Rは後方に、車輪12Lは前方に移動させられ、基準位置に置かれる。
このように、本実施の形態においては、車輪12L、12Rのうちの一方の車輪が前進させられるとともに、他方の車輪が後退させられるので、見かけのホイールベースが、車輪12L、12Rを基準位置に置いたときのホイールベースLhより小さくなることがない。したがって、旋回半径が小さくならず、ステアリング特性がオーバステアになることはない。
なお、本実施の形態において、車輪移動モータ60はレール52L、52R間の中央に配設され、リンク63L、63Rが基準位置に置かれているときのリンク63L、63Rの長さsL、sRが等しくされる。したがって、車輪12Rを前進させ、車輪12Lを後退させたときの、車輪12Rの移動量kRと車輪12Lの移動量kLとは等しい。
また、必要に応じて、車輪移動モータ60を、レール52L、52R間の中央からレール52L側、又はレール52R側に寄せて配設することができる。その場合、リンク63L、63Rが基準位置に置かれているときのリンク63L、63Rの長さsL、sRを異ならせることができるので、車輪12Rを前進させ、車輪12Lを後退させたときの、車輪12Rの移動量kRと車輪12Lの移動量kLとを異ならせることができる。
前記各実施の形態においては、前輪として一つの車輪12Fが、後輪として二つの車輪12L、12Rが配設されるようになっているが、前輪として二つの車輪を、後輪として一つの車輪を配設することができる。その場合、例えば、三輪車10の旋回時に、二つの車輪のうちの旋回外輪が重心点に向けて移動、この場合、後退させられる。
次に、前輪として二つの車輪を、後輪として二つの車輪を、互いにトレッドを異ならせて配設した四輪車について説明する。なお、第1〜第3の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
図16は本発明の第4の実施の形態における車輪移動機構の動作を説明するための図である。
図において、10’は四輪車、12FL、12FR、12RL、12RRは四輪車10’の車輪、Cg’は四輪車10’の重心点である。
前記車輪12FL、12FRは、四輪車10’の前端側における所定の位置、本実施の形態においては、四輪車10’の幅方向における中央に配設され、前輪として、かつ、操舵用の車輪として機能し、車輪12RL、12RRは、四輪車10’の後端側における所定の位置、本実施の形態においては、四輪車10’の幅方向における両縁に配設され、後輪として、かつ、走行用の車輪(駆動輪)として機能する。
この場合、12FL、12FRは、四輪車10’の前後方向における一端側に配設されて一対の第1の車輪を構成し、車輪12RL、12RRは、四輪車10’の前後方向における他端側に配設されて一対の第2の車輪を構成する。
そして、車輪12FL、12FRのトレッドwfと車輪12RL、12RRのトレッドwrとは異ならせられ、本実施の形態においては、トレッドwrがトレッドwfより大きくされる。
この場合、例えば、四輪車10’の旋回時に旋回外輪が前進させられる。なお、四輪車10’においても、旋回時に旋回外輪を前進させ、旋回内輪を後退させることができる。
また、本実施の形態においては、四輪車10’の前端側にトレッドwfが小さくされた車輪12FL、12FRが、四輪車10’の後端側にトレッドwrが大きくされた車輪12RL、12RRが配設されるようになっているが、四輪車10’の前端側にトレッドが大きくされた二つの車輪を、四輪車10’の後端側にトレッドが小さくされた二つの車輪を配設することができる。その場合、四輪車10’の後端側に配設された二つの車輪は、四輪車10’の前後方向における一端側に配設された一対の第1の車輪を構成し、四輪車10’の前端側に配設された二つの車輪は、四輪車10’の前後方向における他端側に配設された一対の第2の車輪を構成する。
次に、各スライダ55L、55Rに、それぞれ一対のリンクを配設するようにした本発明の第5の実施の形態について説明する。なお、第1〜第4の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
図17は本発明の第5の実施の形態における車輪移動機構の概念図である。
図において、43は車輪移動機構であり、該車輪移動機構43は、車体Bdにおける両縁の近傍において、車輪12L、12Rと隣接させて配設された車輪保持部材としてのレール52L、52R、該レール52L、52Rに対して摺動自在に、かつ、車体Bdに対して前後方向に移動自在に配設され、それぞれ、車輪12L、12R及び走行用の駆動部としての駆動モータ51L、51Rを保持する摺動部材としてのスライダ55L、55R、車輪12L、12Rを前後方向に移動させるための車輪移動用の駆動部としての一対の車輪移動モータ60、60’、前記スライダ55L、55Rと各車輪移動モータ60、60’の出力軸68、68’とを連結する連結部材としての伸縮自在のリンク63L、63R、63L’、63R’等を備える。
該リンク63L、63R、63L’、63R’は、いずれも、前記出力軸68、68’に取り付けられたシリンダ65、該シリンダ65内において移動自在に配設されたピストン66、ピストンロッド67、前記スライダ55L、55Rとピストンロッド67とを揺動自在に連結するピン69等を備える。
この場合、スライダ55Lにリンク63L、63L’が、スライダ55Rにリンク63R、63R’が連結されるので、車輪移動機構43を安定させて作動させることができる。
前記各実施の形態においては、車輪移動機構43に車輪移動モータ60L、60R、60、60’が配設され、車輪移動部98が、車輪移動モータ60L、60R、60、60’を駆動することによって所定の車輪を移動させるようになっているが、車輪移動モータ60L、60R、60、60’を使用することなく、駆動モータ51L、51Rのうちの一方の駆動モータの回転速度を他方の駆動モータの回転速度より高くしたり、低くしたりすることによって、対応する車輪を車体Bdに対して移動させることができる。また、駆動モータ51L、51Rと対応する車輪との間に係脱部材としてのクラッチを配設し、クラッチを係脱させることによって、対応する車輪を車体Bdに対して移動させることができる。
そして、前記各実施の形態においては、車輪移動機構43にリンク63L、63L’、63R、63R’が配設されるようになっているが、複数のリンクを配設することができる。
さらに、前記各実施の形態において、輪荷重fF、fL、fRは、それぞれ輪荷重センサ54、15L、15Rによって検出されるようになっているが、各車輪12F、12L、12Rに配設されたサスペンションのストロークを検出し、該各ストロークに基づいて輪荷重fF、fL、fRを検出することができる。その場合、サスペンションのストロークは、輪荷重検出部としてのサスペンションストロークセンサによって検出される。また、輪荷重fF、fL、fRはハンドルバー41a等の操舵部材の操舵に連動して変化するので、操舵部材の操舵状態に基づいて輪荷重fF、fL、fRを検出することもできる。その場合、操舵部材の操舵角を検出する前記舵角センサが輪荷重検出部として機能する。
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。